00000010¥P3 00000020¥U噺本大系△第二巻 00000030¥T醒睡笑 00000040¥G 00000050¥Y 00000060L16元和九年序 00000070L17安楽庵策伝著 00000080L18大本八巻八冊 00000090L19東大南葵文庫蔵 00000100¥Y 00000110M1ころハいつ、/元和(けんわ)九/癸和(ミつのとのい)の/稔(とし)、天下/泰平(たいへい)/人民(にんミん)/豊楽(ほうらく)の/折(をり)か 00000120M2ら、/策伝某(さくでんそれかし)/小僧(こそう)の/時(とき)より、耳にふれておもしろくおかし 00000130M3かりつる事を、/反故(ほうく)の/端(はし)にとめ/置(をき)たり。/是年(せねん)七十にて、/誓= 00000140M4願寺(せい=くハんし)/乾(いぬい)のすミに/隠居(ゐんきよ)し、/安楽庵(あんらくあん)といふ。/柴(しは)の/扉(とほそ)の/明暮(あけくれ)、 00000150M5心をやすむるひま+、こしかたしるせし/筆(ふて)の/跡(あと)をミれハ、 00000160M6をのつから/睡(ねふり)をさましてわらふ。さるまゝにや、是を/醒睡(せいすい)= 00000170M7笑(せいすい=せう)と/名付(なつけ)、かたハらいたき/草紙(さうし)を、八/巻(くハん)となし(1オ)て/残(のこ) 00000180M8すのミ。(1ウ) 00000190¥P4 00000200¥Y1醒睡笑巻之一目録 00000210L3/謂被謂(いへハいはるゝ)/物(ものゝ)之/由来(ゆらい) 00000220L4落書 00000230L5ふはとのる 00000240L6/鈍副子(どんふす) 00000250L7/無智之(むちの)/僧(そう) 00000260L8/祝(いはゐ)/過(すく)るもいな物(2オ) 00000270¥T1醒睡笑巻之一 00000280¥T2謂被謂物之由来 00000290¥N1¥J 00000300¥X 00000310M5△そらことをいふ物を、などうそつきとハいひならハせ 00000320M6し。されはにや、うそといふ鳥、木のそらにとまりゐて/琴(こと) 00000330M7をひく/縁(ゑん)によせ、そらことをうそつきといふよし。 00000340¥N2¥J 00000350¥X 00000360M8△いつれもおなし事なるを、/常(つね)にたくをハ/風呂(ふろ)といひ、 00000370M9たてあけの戸なきを/柘榴(しやくろ)/風(ふ)呂とは、なんぞいふや。かゝ 00000380M10みいるとの心也。(3オ)〔1〕 00000390¥N3¥J 00000400¥X 00000410M11△かいさうの/類(たくひ)にお/期(こ)といふ/藻(も)あり。かのおごもよく/食(しよく) 00000420M12をすゝむる/功能(こうのう)あり。さてぞ/武家(ぶけ)の/台所(たいところ)に、/飯(めし)をはからひ 00000430M13もり、人にすゝむる/役者(やくしや)をおごとはいふならし。 00000440¥N4¥J 00000450¥X 00000460M14△よろつ物のむさき事をきたないとハいかに。北は水の 00000470M15方なり。水なければ万物きよからす。しかるあひた、水な 00000480M16いといふになそらへ、きたないといふかや。 00000490¥N5¥J 00000500¥X 00000510M17△/宗祇(そうき)/宗長(そうちやう)とつれたち、/浦(うら)の夕に立出あそ(3ウ)はれし 00000520M18に、漁人のあミに/藻(も)を引上たり。是はなにと名をいふぞと 00000530M19とハれたれハ、めとも申、も共申とこたふ。時に祇公、や 00000540¥P5 00000550L1れ、是ハよい前句やとて、 00000560L2△△めともいふなりもともいふなり 00000570L3宗長に、つけられよとありけれは、 00000580L4△△/引(ひき)つれて/野(の)かひのうしの帰るさに 00000590L5/妻(め)牛ハうんめとなき、/男(お)牛ハうんもとなくなる。/祇公(きこう)/感(かん)せ 00000600L6られたり。宗長の、一/句(く)/沙汰(さた)あれと所望にて、(4オ) 00000610L7△△よむいろはをしゆる指のしたをみよ 00000620L8ゆの下ハめなり、ひの下ハもなり。 00000630¥N6¥J 00000640¥X 00000650L9△随八百とハなにをいふ。聟かしうとのもとに行、いん 00000660L10きんに一礼ありて後、しうとのいふやう、今まてハ公界む 00000670L11き(の脱力)よし、此後ハ随をいだひてあそバれ候へと。聟きゝて肝 00000680L12をつぶし、京へ俄に随をかひにのほする。高声に随をかハ 00000690L13んとよぶ。利口なる者行合、亀の子をいきずい是なりとて、 00000700L14八百にうりたり。聟よろこひ座(4ウ)敷へ持て出、随を出 00000710L15しまいらするとて、あゆませたり。それより随八百とはい 00000720L16ふと。おかしや。〔2〕 00000730¥N7¥J 00000740¥X 00000750L17△餅をかちんとは、かちんのてぬくひにて、かミをつゝ 00000760L18ミゆふたる女房の、いつも禁中へもちをうりに参りつけた 00000770L19り。もちうりとあれハ、こと葉のさまいやし。いつものか 00000780M1ちんかまいりたるなと沙汰あれハよろし。 00000790¥N8¥J 00000800¥X 00000810M2△餅のちとな(ママ)かきやうなるを、しんかうといふ事、あか 00000820M3き小豆をうへにきする、あかつきと(5オ)いふゑんにてい 00000830M4ふとなり。 00000840¥N9¥J 00000850¥X 00000860M5△河内の国に/珍(ちん)といふあり。大和に/場(ば)といふあり。二人 00000870M6なから/兵法(ひようほう)の/上手(じやうす)なりしか、有時しあひせし。/双方(さうはう)/片足(かたあし) 00000880M7をおとしおとされ、すてに死にのそむ時、/金瘡(きんさう)の上手とて 00000890M8来る。あまりあハてふためき、其ぬし+の足をバとりち 00000900M9かへ、我がを人に、人のを我がにつきかへたり。さるまゝ、 00000910M10一人は足なかくなり、一人ハ足みしかくなり、腰をひきし 00000920M11より、今もかゝるありきの人を、ちん(5ウ)はとはいふよし。 00000930¥N10¥J 00000940¥X 00000950M12△いそがバまハれといふことは、物ことにあるへき遠慮 00000960M13也。宗長のよめる、 00000970M14△△武士のやはせの/ふねははや(わたりイちか)くとも 00000980M15△△△いそかはまはれせたのなかはし〔3〕 00000990¥N11¥J 00001000¥X 00001010M16△和州より出るほてんといふ瓜ハ、延暦寺伝教の弟子慈 00001020M17覚大師、天長十年四十にて身つかれ眼くらし。命久しかる 00001030M18ましき事をおもひわきまへ、叡山の北谷に草庵を(6オ)む 00001040M19すひ、三年つとめ行じておハりをまたれけれハ、ある夜、 00001050¥P6 00001060L1夢に天人来りたり。これ霊薬也とてあたふ。そのかたち瓜 00001070L2ににたり。半片を食す。その味蜜のことし。人ありてつく 00001080L3るやう、これほんてんわうの妙薬なりと。夢さめて口中に 00001090L4余味あり。しかうして後、やせたるかたち更にすくやかに、 00001100L5くらきまなしります+あきらかなり。その半片を土にま 00001110L6きけれは、まつたき瓜の生せし。いまの梵天これなり。(6 00001120L7ウ)元亨釈書に見えたり。 00001130¥N12¥J 00001140¥X 00001150L8△瓜の/糟(かす)つけを奈良つけといふ事ハ、かすかのあれはよ 00001160L19いといふゑむなり。 00001170¥N13¥J 00001180¥X 00001190L10△何事も/油断(ゆたん)の様に/取合(とりあひ)のをそきを、ぬかるといふなる。 00001200L11俊成卿の哥に、 00001210L12△△せき入る/苗代(なハしろ)水やこほるらん 00001220L13△△△ぬかりて道のかハくまもなし 00001230¥N14¥J 00001240¥X 00001250L14△なにゝても水に入たる物を、湯いりとハなにしにいふ 00001260L15ぞや。/沖(おき)なかでそこねたとの(7オ)ゑんにや。 00001270¥N15¥J 00001280¥X 00001290L1615△こぼれさいはひとはなにをいふ。昔女子三人一つ枕に 00001300L17いねたりし。姉夢見るやう、我が身の上へ富士の山がこ 00001310L18ろびかゝると見たとかたれは、人ありてあはせける、それ 00001320L19こそとみたるおのこをもたんずる/告夢(がうむ)なりといはひけれは、 00001330M1次のむすめいふ、あれほと大なる富士の山が、/姉(あね)こひとり 00001340M2の身の上ばかりへハころぶまし、両方にねたる者の上へも 00001350M3かゝりこそせめと、う(7ウ)れしけにていたりしが、はた 00001360M4して三人なから、目出度富貴の男をえたりし。これよりこ 00001370M5のことはゝありとなむ。 00001380¥N16¥J 00001390¥X 00001400M6△物を無用といふ詞のかハりに、よしにせよといふは、 00001410M7△△あし/垣(かき)も戸さしもよしやするかなる 00001420M8△△△清見かせきハ三ほの松バら 00001430M9此哥にて心得ぬへし。三/保(ほ)の松原の/面白(おもしろき)景を詠ゐハ、関 00001440M10にをよはす、えゆくまいほとに(8オ)清見か関はよしにせ 00001450M11よとよめり。〔4〕 00001460¥N17¥J 00001470¥X 00001480M12△/痩(やせ)法師の/酢(す)このミとは、やせの寺ハ昔より/禁(きん)酒にて、 00001490M13酒をいれす。僧の中に酒をこのミ、えこらへぬあり。/常(つね)に 00001500M14/土工李(とくり)をもちて行かよふ。/若(もし)人とふ事あれハ、すにて候と 00001510M15いふ。日を経すかよひしげし。又とふ時も同返事なるまゝ、 00001520M16/諺(ことハさ)にいひならハし、やせの法師ハすごのミや。 00001530¥N18¥J 00001540¥X 00001550M17△なべて上/臈(らう)かたには、さゝぢんといふを、禁中には、 00001560M18まちがねとかやもてあつかひ給ふ事、こ(8ウ)ぬかといふ 00001570M19ことはのえんにや。〔5〕 00001580¥P7 00001590¥N19¥J 00001600¥X 00001610L1△わらんべは風の子と、しるしらす、世にいふは何事ぞ。 00001620L2ふうふのあひたのなれバ也。〔6〕 00001630¥N20¥J 00001640¥X 00001650L3△山城の国伏見のつゞきに、法/性(しやう)寺といふ在所あり。 00001660L4人此処をハ何とて寺の名をよふそや。老たる男出合、さる 00001670L5事候、昔此地に庄屋有、かれやき米をすいて食、/終日(ひねもす)かミ 00001680L6くたびれ、ほうにふくミなからねいりたり、/鼠(ねすミ)にほひにた 00001690L7より、くひやぶり、大に口をあけけり、其朝地(9オ)下の 00001700L8者どもとふらひくる中に、/金瘡(きんそう)の上手あり、風を引てハあ 00001710L9しかりなむと、先/障子(しやうし)を/折(おり)て/疵(きす)の口にたてしより、ほう 00001720L10しやうじとハいふ也。 00001730¥N21¥J 00001740¥X 00001750L11△/昌叱(しやうしつ)のもとへ、やき米を三ふくろをくりけれは、 00001760L12△△いちはやきこめらうとものなすわきを 00001770L13△△△おく歯に入てかミふくろかな 00001780L4又はいかいに、 00001790L5△△△まハるたひにそこめをみせける 00001800L6△△さしてなきとがするうすに縄つけて(9ウ) 00001810¥N22¥J 00001820¥X 00001830L17△/鬼(おに)に/瘤をとられたといふ事なんそ。目の上に大なるこ 00001840L18ぶをもちたる禅門ありき。/修行(しゆぎやう)に出しか、有山中に/行暮(ゆきくれ)て 00001850L19宿なし。/古(ふるき)/辻堂(つじだう)にとまれり。夜すでに三/更(かう)にをよふ。人 00001860M1/音(をと)/数多(あまた)して、かのだうに来り酒ゑんをなす。禅門おそろし 00001870M2くおもひながら、せんかたなけれハ、心うきたるかほし、 00001880M3/円座(ゑんさ)を尻につけ、たちておとれり。明かたになり、天/狗(く)と 00001890M4もかへらんとする時いふ、禅/門(もん)うき/蔵主(さうす)にてよき/伽(とき)也、今 00001900M5度もかならす(10オ)きたれと。やくそくはかりハいつはり 00001910M6あらん、たゝしちにしくはあらしとて、目の上のこふを取 00001920M7てそ行ける。禅門たからをまうけたる心地し、故郷に帰る。 00001930M8見る人かんじ、/親類(しんるい)/歓喜(くハんき)する事はかりなし。 00001940¥N23¥J 00001950¥X 00001960M9△あさ/謡(うたひ)ハうたハぬ事とも、又朝うたひハびんぼうの相 00001970M10ともいひ/伝(つた)へたり。ミな/僻(ひか)事也。/本(ほん)説は、/麻(あさ)をまく時うた 00001980M11ひをうたふなといましむる。其故ハ麻はふしをきらふほど 00001990M12に。(10ウ) 00002000¥N24¥J 00002010¥X 00002020M13△へちまの皮ともおもハぬとハ、紀の国の山家に、大へ 00002030M14ち小へちとて、峯たかふ岸けハしく、つゝらおりなるつた 00002040M15ひ道、人馬の往来たやすからぬ/切所(せつしよ)あり。彼あたりにつか 00002050M16ふ馬ハ、/糠(ぬか)につけ/藁(わら)につけ、大豆なとハ申にをよハねは、 00002060M17実に/骨(ほね)計なる様なり。さるほとに、かしこの馬、皮を剥て 00002070M18も、せのあと/瘡(かき)の跡、/疵(きす)のミにて、何のやくにもたゝぬ物 00002080M19を、へち馬の皮ともおもはぬ事にいふならん。(11オ) 00002090¥P8 00002100¥N25¥J 00002110¥X 00002120L1△世間に下手なる者を/饂飩(うとん)くらひと云事ハ、けしからす 00002130L2うどんをすく者あり。さすがかうてハくいともなし。利口 00002140L3になき坊主にむかひ、そなたわが/髪(かミ)をそりてたび候へ、も 00002150L4しきられ候ハゝ/饂飩(うとん)をふるまハれよ、難なくそられたらバ 00002160L5我ふるまハんと、いひあハせ、そらるゝに、はやきらずに 00002170L6そりはてんとするつがいに、ふとたち、少きられんとしけ 00002180L7れハ、耳を一つおとされたり。腹をバたゝて/結句(けつく)よろこひ 00002190L8ぬるは、めつらしきうつけなるかな。(11ウ) 00002200¥N26¥J 00002210¥X 00002220L9△/七歩(しつほ)とぬるゝとハ何事そ。されハ尺迦/誕生(たんしやう)の時、阿/難= 00002230L10陀竜(なん=たりう)王ハ/湯(ゆ)を/吐(はき)、/難陀竜(なんたりう)王ハ水を吐、此うぶ湯にぬれなが 00002240L11ら、七歩を行せられしより/起(おこ)りたることばそかし。浄土の 00002250L12無量寿経に、/従右脇生現行七歩(じううけうしやうげんぎやうしちほ)といへり。しとゝぬるゝ 00002260L13も七歩と也。 00002270¥N27¥J 00002280¥X 00002290L14△鵜のまねする烏は大水をのむとハなんぞ。 00002300L15△△水に入ミちをハしらて山からす 00002310L16△△△鵜のまねまなふ浪のうへかな 00002320¥N28¥J 00002330¥X 00002340L17△豆腐を串にさして/焙(あぶ)るを、なと/田楽(てんかく)とハいふ。(12オ) 00002350L18されば田楽のすがた、下には白/袴(はかま)をき、其上に色ある物を 00002360L19うちかけ、/鷺足(さきあし)にのり、おとるすかた、豆腐の白に味噌を 00002370M1ぬりたてたるハ、かのまふていに似たるゆへ、田楽といふ 00002380M2にや。夢庵の哥に、 00002390M3△△たかあしをふミそこなへるめんぼくを 00002400M4△△△はひにまぶせる冬のでんかく 00002410¥N29¥J 00002420¥X 00002430M5△僧の米をもちよりて食するを、/打飯(たハん)とハいかでいふ。 00002440M6たとはだしあハせたる心なり。八人の炉打話、火の字の分 00002450M7字なり。(12ウ) 00002460¥N30¥J 00002470¥X 00002480M8△ある人、北野に篭て本地を祈けれは、 00002490M9△△かくらくのはつせのてらのほとけこそ 00002500M10△△△きたのゝ神とあらハれにけれ 00002510¥N31¥J 00002520¥X 00002530M11△/鰯(いハし)をハ上/臈(らう)かたのことばに、むらさきともてはやさる 00002540M12ゝ。むらさきの色ハあひにハましたといふえんとや。され 00002550M13ハ下主らしきいはしも、其人のすきなれハ鮎の魚にもまさ 00002560M14るよのふ。 00002570¥N32¥J 00002580¥X 00002590M15△/理(り)をハ/非(ひ)になし、/非(ひ)をハ理になし、顔をあかめ、興を 00002600M16さまし、むさと物ことによこさまにわめく者(13オ)を、な 00002610M17べて世の人、あれハいかいどろふミよといふ事、ハだしじ 00002620M18やとのえんごなり。雄長老、 00002630M19△△春雨の風にしたかふかいたうハ 00002640¥P9 00002650L1△△△しるくなれともはやかハきけり〔7〕 00002660¥N33¥J 00002670¥X 00002680L2△あハてふためき、前後を/忘(はう)したるを、とち目になつて 00002690L3たづねたハ、とちめになりてはしりありきたるハなといふ 00002700L4事、なむのゆへぞや。昔あるもの木から落て、目をつきや 00002710L5ぶりかなしめハ、人かれをあはれミ、物をとらする。さる 00002720L6ほどにハじ(13ウ)めよりも富貴になりぬ。うつけ是を見、 00002730L7うら山しき心出来、/態(わさと)山に行、無理に落たれハ、不思議 00002740L8に大なる岩にあたまのあたりうちわり、目の玉ぬけたり。 00002750L9さくりて見、肝をつふし、玉をたづねはひまハるに、折ふ 00002760L10し/橡(とち)一つ手にあたるを、玉とおもひ押入たる。ほんの玉に 00002770L11ハなかりしをいれたれバ、とちめになりたる事よ。あまり 00002780L12いたみかなしミなきゐけれハ、とちほどの涙をなかすとも 00002790L13いふよし。(14オ) 00002800¥N34¥J 00002810¥X 00002820L14△月次の連哥にて宗匠たる人、朝朗と云/詞(ことバ)をせられたれ 00002830L15は、句から面白と一座みなかんするを聞ゐて、/末座(ばつさ)より夕 00002840L16ぼらけと五文字を出すに、宗匠あらめつらしやといはれぬ。 00002850L17又其儀ならは/昼(ひる)ほらけとなをしけるを、宗匠それハ猶いな 00002860L18ことはぞとおつこめたるに、右の作者うく、これ+、 00002870L19△△我れハして人のほらけやきらふらん 00002880¥N35¥J 00002890¥X 00002900M1△/遣唐使(けんとうし)もろこしにある間に子あり。日本へ帰る時、/妻(つま) 00002910M2に、此子/乳母(にうも)はなれん程にハ/迎(むか)へ取(14ウ)へしと、ちきり 00002920M3て/帰朝(きちやう)しぬ。/遣唐使(けんとうし)のくることに/消息(せうそく)を/尋(たつぬ)れと、をとなし。 00002930M4母大に/恨(うらミ)/児(ちこ)のくひに簡をゆひつけ、えんあらハ親に/逢(あひ)な 00002940M5んと、海になけ入帰ぬ。父難波の浦を行。/沖(おき)よりうかびて 00002950M6物のミゆ。馬をひかへてミれハ、四/計(はかり)なる児なり。大なる 00002960M7魚の/背(せなか)にのれり。とらせ見けれハ札あり。我子にこそあり 00002970M8けれ。いひちきりし児をとハぬを、母か腹立て海になげ入 00002980M9しか、えんありて魚にのりきたるなめりと、/哀(あハれ)(15オ)/覚(おほえ)、 00002990M10いミしうかなしくてやしなふ。此よし書やりたれハ、母も 00003000M11きゝて、今ハなき物にとおもひけるに、/希有(けう)の事とてよろ 00003010M12こひける。此子おとなになり、手をよくかけり。魚にたす 00003020M13けられたるゆへ、名を魚養とそつけたる。七大寺の/額(がく)とも 00003030M14ハこれかミなかきたるなり。あなおもしろの由来や。 00003040¥N36¥J 00003050¥X 00003060M15△旦九郎といふ兄あり。/性鈍(せいどん)にて富り。田九郎とて弟あ 00003070M16り。性さかしくて/貧(まづ)しゝ。ある(15ウ)時弟釜をもとめ、庭 00003080M17にて湯をわかす。たきりゐける処へ兄来れり。其釜をぬき、 00003090M18出居の火もをかぬろにかけぬ。旦九郎見つけ、是ハ火もな 00003100M19ふてたきる事如何にとあれハ、弟、それこそ此比来り候、 00003110¥P10 00003120L1火もなくて湯のわく宝なれとかたるにぞ、兄きもをつふし 00003130L2て、金十枚にかふ。金をわたして後、あらひてかくるにわ 00003140L3かす。腹立しとへハ、其侭水を入給ハゝわき候ハん物、あ 00003150L4らハせ給ふたほどに、今からハ湯わくまじ(16オ)きとて帰 00003160L5りぬ。又ある時馬を一疋かふてつなく。其馬屋に金を二枚 00003170L6入て置けり。旦九郎来り、馬ハいつれよりととふ。弟申け 00003180L7る、是こそ世にためしなき名馬に候へ、三日に一度ハかな 00003190L8らす金を糞に仕候。又うそをつくとてしかる。馬のゐるあ 00003200L9たりを御見せ候へと、人をしてミするに、黄金あり。今ハ 00003210L10うたかひなし、われにくれよ、其価金子五十枚つかハさん 00003220L11とてもらひたり。馬屋の結構にしたるに、両ハつなにつな 00003230L12かせ、今や+と(16ウ)まつに其様子なし。大に嗔て、田 00003240L13九郎をよひ、はをぬくに、いや+板の上につなかれし故、 00003250L14心たかひてあり、此後は中+きとくあるましきとそ申た 00003260L15る。是よりうつけを旦九郎とハ云也。 00003270¥N37¥J 00003280¥X 00003290L16△娘ひとりに聟三人と云事ハ、昔富る人のむすめをもち 00003300L17たりしか、ある時舟あそひに出ぬ。如何したりけん、娘ふ 00003310L18なハたをふミはづし、水に落入ぬ。父母おとろき悲ミ、高 00003320L19札をうつやう、此娘をたすけたらんを必聟にせんと(17オ) 00003330M1あり。うらなひする者来り、いつくのほとに其姿ありと教 00003340M2る。又河たちの上手一人来り、我とりあけんといふて、即 00003350M3いたきあけたり。されとも息たえてなし。時に医者来り、 00003360M4薬をあたへ二度蘇ぬ。其後卜人云、我始娘のあり処を云て 00003370M5あれはこそ、とりあけたれ、聟にならん。又水連か云、我 00003380M6頂あけすんハ、なむとして蘇生すへき、我聟にならん。又 00003390M7くすしいへらく、我薬をあたへずんバ、争二度寿を保つへ 00003400M8き、我聟にならん(17ウ)とあらそひ、所の地頭に伺けれは、 00003410M9批判さうなく済ず。終にハ都にのほり、多賀の豊後守に義 00003420M10をうけけれハ、さる事あり、欲界に生をうくる者、凡三百 00003430M11六十種としるせる中に、人これか長たり、婚合の法、形を 00003440M12ましゆるにあり、しかる時ハ水練の者、娘に身をそへ膚を 00003450M13ふれたり、是をこそ尤聟にとるへけれと掟しぬ。 00003460¥N38¥J 00003470¥X 00003480M14△丹後国与謝郡に、あさもがハの明神と申神います。是 00003490M15ハ昔、浦島の翁の神になれると(18オ)なむ云つたへたる。 00003500¥N39¥J 00003510¥X 00003520M16△或人云、貫之か年比すミける家の跡ハ、万里小路より 00003530M17ハ北、とミの小路よりハ東の角也。 00003540¥N40¥J 00003550¥X 00003560M18△京にて乗物をかき、あるひハ庭にてはたらく男を、六 00003570M19尺とハなといふならん。さる事候、屋敷につけ家につけ、 00003580¥P11 00003590L1たゝみにつけ、一切竪横間をさたむるに、田舎のハ一間を 00003600L2六尺にとる法也。都のは間尺を六尺三寸にとつて、一間と 00003610L3する法なり。されハ亭主をバ都六尺三寸の間に(18ウ)とり、 00003620L4つかハるゝ男をは田舎六尺の間にとる。其故は主人たる人 00003630L5の心と下男の心と、物ことはらりとちかひて、まにあハぬ 00003640L6ゆへに、かの下人を六尺とハいふとなり。〔8〕 00003650¥N41¥J 00003660¥X 00003670L7△世話に鬼味噌と云ハなんそ。ある山寺に修行底なき僧、 00003680L8老年迄久住せしか、かれ円寂の後、看坊をすゆるに、一夜 00003690L9をあかしてミれハ跡なし。いくたりも右のことくなるまゝ、 00003700L10恐れて彼寺に住せんといふ者なし。有時行脚の(19オ)/比丘(びく) 00003710L11来るに、件の/旨(むね)を/語(かたり)きかする。即我居てミんといふ。あな 00003720L12いたハしや、又とられん事よとは思ひなから、寺をわたし 00003730L13ぬ。件の看坊しん+と/座(さ)す。三更の後、僧一人来れり。 00003740L14そちはたそ。我ハ此前住也と。汝世をさつてほどありと聞、 00003750L15如何なれハ/再来(さいらい)する。我汝をあハれミ、一/鉢(はつ)の飯をあたへ 00003760L16んためと。不思議や/亡(はう)魂の作法に/終(つゐ)にきかすといふ。彼/霊(りやう)、 00003770L17我ハ鬼にもなり、/畜生(ちくしやう)/乃至(ないし)/食物(しよくもつ)にも/神通無碍(じんづうむけ)(19ウ)なり 00003780L18とかたる。さらは湯つけを出し、/焼味噌(やきミそ)をそへてふるまハ 00003790L19れよ。やすき事と身を変じ、焼味噌となりしを、口へ入れ 00003800M1一/嘗(なめ)にしけり。其後は彼寺になにのたゝりもなけれは、/案(あん) 00003810M2の/外(ほか)/煩(わつらひ)なく住ぬ。此いはれにより、/音(をと)はおそろしさうに 00003820M3聞え、させる手/柄(から)も/奇特(きとく)もえせぬものを、あれは鬼味噌ぢ 00003830M4やと、一口にはいふよし。 00003840¥N42¥J 00003850¥X 00003860M5△/芋掘僧(いもほりぞう)とはいかなる/因縁(ゐんゑん)ありていふ/詞(ことハ)そや。(20オ) 00003870M6されハ/巨細(こさい)あり。たとへハいつれの仏地にても、一寺一院 00003880M7と相続するほとの所にハ、或は/山林(さんりん)、或は/田村(でんそん)△/分&(ぶん+)に/似= 00003890M8合(に=あひ)の/資糧(しらう)あり。又ハ/校割(かうかつ)の/霊宝(れいほう)/財禄(さいろく)あり。ミなこれ/供養(くやうし)三 00003900M9/宝(ほうを)、鳴法鐘、勤読誦大乗妙行、解第一議、為導六 00003910M10趣四生也。/爾(なんぢ)をハ四沙門の中、/纔汚道(わつかわたう)比丘にても計縁 00003920M11勝劣、師となり弟子となすへき法用なるを、末世のこの作 00003930M12法悉背之、/法器(ホウキ)をばさらにえらはす、唯我か/姪(ヲイ)我か 00003940M13(20ウ)/従子(いとこ)なといつて、其/類親(るいしん)をたつねいだし、寺院を 00003950M14他人に/誤(あやまり)ても/不譲(ゆつらさる)を法とする/侭(まゝ)、山の/芋(いも)ハつるをたゞし 00003960M15てこそほるなれハ、芋ほり僧といふならん。 00003970¥N43¥J 00003980¥X 00003990M16△娑婆で見た弥次郎かともいはぬとハなんぞ。いにしこ 00004000M17ろ、/佐渡(さと)の島に銀山出来、人多あつまりぬ。其時一人の 00004010M18/聖(ひしり)ありて、十/穀(こく)をたち、禁戒をまほり、六時/不退(ふたい)の/称名(せうミやう)た 00004020M19ゆむ事なく、いき仏とはこれならん、参れや/拝(おかめ)(21オ)やと 00004030¥P12 00004040L1て、昼夜のわかちなく、男女袖をつらぬる中に、弥二郎と 00004050L2いふ者、其道場をはなれす給仕しけり。彼聖年月を経て後、 00004060L3/頻(しきり)に入/定(ちやう)せんと/披露(ひろう)する。/各(をの+)/落涙(らくるい)し、/名残(なこり)をおしむ。来 00004070L4廿日をかきり、時を定、山の/原(ハら)に大なる/穴(あな)をほり、法衣を 00004080L5/着(ちやく)し入すまし、外より土をよせ、かたくうつミをハんぬ。 00004090L6/奇特成(きとくなる)/行状(きやうじやう)なりし。かたハらに沙汰するをきけハ、かね 00004100L7ほりを/頼(たのミ)、/過分(くわふん)に物をとらせ、ぬけ道をほりをき、其身ハ 00004110L821ウ)/恙(つゝか)なくおこなひうせたる、なといふ者もありけり。 00004120L9角て三年を過、彼聖を信仰せし弥次郎越後に渡り、さる所 00004130L10にて件の聖にあひぬ。うたかふへくもなし。すなはち近く 00004140L11より、そなたハそれてハなきか。聖、いやそちをハ夢にも 00004150L12しらぬ、我もさいふ者てもなしとあらそふ。/俗(そく)あらゝかに 00004160L13/証拠(せうこ)をひきしかる時、かの聖、けにも+よく思ひあはす 00004170L14れハ、娑婆てミた弥二郎かと申たりき。それより(22オ)此 00004180L15言葉はありといふ。(22ウ) 00004190¥T2落書 00004200¥N1¥J 00004210¥X 00004220L18△田中の/真宗(しんそう)とかや云者、ちいさき/茄子(なすひ)の茶入を所持し、 00004230L19けしからす秘蔵して出しけれは、 00004240M1△△二服さへいらぬ茶入の生茄子 00004250M2△△△あへてその身のかほよこしかな〔1〕 00004260¥N2¥J 00004270¥X 00004280M3△さやの宗久といふ者、初花の茶入を持てゐたりしに、 00004290M4ある人三/好(よし)松山殿を/頼(たのミ)て、其/威光(いくわう)をかり、見度よし/催(もよほ)しけ 00004300M5るに、(23オ) 00004310M6△△物しらぬ人のしわさか初はなに 00004320M7△△△松山風をふかせきぬるは 00004330¥N3¥J 00004340¥X 00004350M8△信長公、諸大名をよせ給ひ、馬ぞろへあそハし、おも 00004360M9ひ+の出立はなやかなりし風情にて、きらをみかき、あ 00004370M10たりをかゝやかせバ、いにしへもためしまれなる事と沙汰 00004380M11しあへり。即、/主上(しゆしやう)も/簾(れん)中より叡覧なされし。 00004390M12△△金銀をつかひすてたる馬そろへ 00004400M13△△△将棋に似たる王の見物(23ウ) 00004410¥N4¥J 00004420¥X 00004430M14△信長公、始て京都に/石垣(いしかき)の/普請(ふしん)おほせつけられ、毎日 00004440M15石をひく音/喧(かまびす)しかりけれハ、 00004450M16△△花よりもたこの京とそなりにけり 00004460M17△△△けふもいし+あすもいし+ 00004470¥N5¥J 00004480¥X 00004490M18△信長公、洛中に御普請の時、余国よりも都へ/方角(はうかく)ちか 00004500M19き故、江州の衆殊更/苦労(くらう)あれは、 00004510¥P13 00004520L1△△なまなれの鮓にも似たるあふミしう 00004530L2△△△いしをおもしと持ぬ日もなし(24オ) 00004540¥N6¥J 00004550¥X 00004560L3△摂津国/高槻(たかつき)の/城(しやう)主たりし/和田(わだ)といふ侍、信長公御前 00004570L4世に/越(こえ)て出/頭(とう)かほなり。 00004580L5△△信長のきてはやふるゝ京小袖 00004590L6△△△わたかさしてゝ見られさりけり〔2〕 00004600¥N7¥J 00004610¥X 00004620L7△山門より三井寺を打やふり、鐘を/叡山(ゑいさん)へ取し時、 00004630L8△△三井寺のちこははじろになりぬらん 00004640L9△△△つくへきかねを山へとられて〔3〕 00004650¥N8¥J 00004660¥X 00004670L10△美濃国にて土/岐(き)殿と/斎藤(さいとう)山城守取あひて、(24ウ)終に 00004680L11土岐殿かたまけになりし比、 00004690L12△△ときはれとのりだてもせぬよのばかま 00004700L13△△△ミのはやふれてひとのにぞなる 00004710¥N9¥J 00004720¥X 00004730L14△信長公の御前にて、直に理を御すましなされたりし公 00004740L15事あり。出頭人の馬/丞(せう)といふを頼、今一度対決のあるやう 00004750L16にと/馳走(ちそう)ぶりするを聞て、 00004760L17△△銭ぐつはハめられけるか馬丞 00004770L18△△△人畜生とこれをいふなり(25オ) 00004780¥N10¥J 00004790¥X 00004800L19△秀吉公の御時、ならかしといふ事あり。かしたる者も 00004810M1とを/失墜(しつつい)せしうへに、猶/放埓(はうらつ)のはたらき/罪科(さいくわ)かろからすと 00004820M2て、再黄金を出させ給へは、 00004830M3△△奈良かしや此天下殿二重とり 00004840M4△△△とにもかくにもねたれ人かな 00004850¥N11¥J 00004860¥X 00004870M5△摂津国蟻岡の城を信長公とりまきておはせしに、 00004880M6△△君にひくあらきの弓の筈ちかひ(25ウ) 00004890M7△△△いるもいられぬあり岡の城 00004900¥N12¥J 00004910¥X 00004920M8△越中の大守神保殿ハ、美濃の土岐殿の聟にてありし。 00004930M9其御台、我意にまかせて、よろつ作法みたりなりけれハ、 00004940M10△△神保か家ハやふれの窓障子 00004950M11△△△みのうすかミのハり異見かな〔4〕 00004960¥N13¥J 00004970¥X 00004980M12△江州六角さゝ木四郎と三好家ととりあひ、鴨川迄出ら 00004990M13るれとも、三好家つよくして、さゝ木しりそかれぬる時に、 00005000M14(26オ) 00005010M15△△世中をしらふ+といひけれと 00005020M16△△△鴨川まてもぜうていはなし 00005030¥N14¥J 00005040¥X 00005050M17△伊勢の桑名にて、法花宗門の中、一致勝劣の/浄((ママ))論出来、 00005060M18所をさし日を定、双方対談の上に、とやありけん、頭をく 00005070M19ハせ、くんづころんつ臈次なかりつるか、勝劣方の僧、一 00005080¥P14 00005090L1致方の坊主のふぐりをしたゝかにしめけれは、その痛堪か 00005100L2たきなと沙汰する刻、 00005110L3△△法門のその勝劣はしらねとも(26ウ) 00005120L4△△△きんをしむるハいつちめいわく 00005130¥N15¥J 00005140¥X 00005150L5△紀州根ころより普光院御所へ言上し、覚鑁の大師号を 00005160L6望、方兄千貫つミ奉らむとまて才覚ありつれとも、頻に高 00005170L7野山よりさゝへにて成就せさりしを、 00005180L8△△千貫てこきれとならぬ大師号 00005190L9△△△御所はねころにおほしめせとも 00005200¥N16¥J 00005210¥X 00005220L10△紀伊国にて湯の川といふ侍、諸大夫になられたれは、 00005230L11(27オ) 00005240L12△△ゆのかハかくないの少輔になるならハ 00005250L13△△△ミかんかうしは近衛関白 00005260¥N17¥J 00005270¥X 00005280L14△宗長ハ、江州にて進藤といふ武士の養子也。生得は駿 00005290L15河島田鍛治の子なりしゆへ、 00005300L16△△ひんぬきハ新藤こには似たれとも 00005310L17△△△よく+ミれハしまたかぢなり 00005320¥N18¥J 00005330¥X 00005340L18△山崎にて、上の殿へ下の殿の日記箱を取てをき、なに 00005350L19とこへともわたさす。後にハいさかひになる。宗鑑、(27ウ) 00005360M1△△しもの殿はつをはなつておこひあれ 00005370M2△△△かミなるはこの下らぬハなし 00005380¥M19¥J 00005390¥X 00005400M3△/甲斐(かい)国/武田(たけた)信虎公の/息女(そくぢよ)を、菊亭殿へ/契約(けいやく)ありしか、 00005410M4いまた聟入もなき先に、信虎公、/菊(きく)亭殿へおはしける時、 00005420M5△△むこいりをまたせぬさきのしうと入 00005430M6△△△きくていよりもたけた入道〔5〕 00005440¥N20¥J 00005450¥X 00005460M7△三井寺に一山相談の事ありて、幾度も鐘をつき/集会(しゆゑ)は 00005470M8あれとも、つゐに/落着(らくじやく)は(28オ)なかりし。 00005480M9△△山寺の春の談合来てミれは 00005490M10△△△よりあひのかねに腹やへるらん 00005500¥N21¥J 00005510¥X 00005520M11△諸行無常を、無常諸行と書たる卒都婆のわきに、 00005530M12△△無常とはいかなる人の諸行ぞや 00005540M13△△△そとははつかし内にたてをけ〔6〕 00005550¥N22¥J 00005560¥X 00005570M14△荒木摂津守/蟻岡(ありおか)の城を退出の跡に、ありつる女房達を 00005580M15みな+車にてひかれ、(28ウ)信長公より御成敗の砌、 00005590M16△△荒木殿国をは人にくれはどり 00005600M17△△△あやしやけふのハた物の音 00005610¥N23¥J 00005620¥X 00005630M18△いつの比かとよ、日吉大夫、山城のへたがつぼといふ 00005640M19所にて、勧進能ありつるに、うちつゝき雨ふりけるを、 00005650¥P15 00005660L1△△能はたゝ上手ときけと下手かつぼ 00005670L2△△△日吉といへと雨ハ降けり 00005680¥N24¥J 00005690¥X 00005700L3△奈良の春日山に、朽木のしたゝかなるがころ(29オ)ひ 00005710L4て、いくらともなくあり。それを禰宜衆の中より、しのひ 00005720L5+とるなどゝ沙汰しけるに、 00005730L6△△風ふけハをきつころひつ禰宜達の 00005740L7△△△夜半にやきミにひとり行らむ〔7〕 00005750¥N25¥J 00005760¥X 00005770L8△祇公、周防の山口へ下向ありつれハ、 00005780L9△△都よりあきなひそうぎくたりけり 00005790L10△△△言の葉めせといはぬはかりに 00005800¥N26¥J 00005810¥X 00005820L11△妙心寺の僧に金蔵主といふあり。賀茂の/競馬(けいは)を見物に 00005830L12行かへりに、印地のある所(29ウ)にて、まくるかたをひい 00005840L13きし、つよみ過、鑓につかれぬれハ、 00005850L14△△五月五日けいはかへりのきんそうす 00005860L15△△△鑓につかれてひしやとこそなれ 00005870¥N27¥J 00005880¥X 00005890L16△/大頭(たいかしら)勧進/舞(まい)のわきに/笠(かさ)屋、つれに/池淵(いけふち)といふ者なり 00005900L17しか、/折節(おりふし)わるう雨ふりし、 00005910L18△△雨ふらハかさやをきせよ大かしら 00005920L19△△△こゝもかしこもいけふちとなる 00005930¥N28¥J 00005940¥X 00005950M1△/慈眼視衆生(しげんししゆしやう)、/福聚海無量(ふくしゆかいむりやう)をは、二句の/偈(げ)(30オ)といふ 00005960M2也。比文をそとはに/皆(かい)無量と書たり。すなハちならへて此 00005970M3哥を、 00005980M4△△観音の福聚の海ハミなになる 00005990M5△△△誰もかけかしあらにくの偈や 00006000¥N29¥J 00006010¥X 00006020M6△美濃国/墨俣(すのまた)に/岸(きし)といふ侍あり。/幾(いく)春もかハらぬ色の袴 00006030M7きて出仕するを、 00006040M8△△われミても久しく成ぬすのまたの 00006050M9△△△岸かはかまは幾代きぬらん 00006060¥N30¥J 00006070¥X 00006080M10△大頭彦左衛門と弟子の黒助と、何事にや(30ウ)あひた 00006090M11あしくなり、中を/違(たか)ひたる時、 00006100M12△△まい+の師弟の中もこくすれハ 00006110M13△△△大夫も今ハないかしらなり 00006120¥N31¥J 00006130¥X 00006140M14△越中神保殿の内に寺嶋牛介といふ侍あり。越後の長尾 00006150M15と取合の時、牛介長尾へ心/替(かハり)するに、 00006160M16△△牛介こつていつかでてきをせハ 00006170M17△△△のちはうなめかたをれなるへし 00006180¥N32¥J 00006190¥X 00006200M18△京にて日吉大夫、能をするに、/浮舟(うきふね)の/始(ハしま)り(31オ)てよ 00006210M19り、こゝをせんどゝふりけれハ、なにものやらむ、哥をよ 00006220¥P16 00006230L1み、舞台へなげあけし、 00006240L2△△名は日よし能するたひに雨ふりて 00006250L3△△△芝居のうちにうきふねをこく 00006260¥N33¥J 00006270¥X 00006280L4△家康将軍に/対(たい)し、石田治部少輔心/替(かハり)仕、関か原陣に 00006290L5かけまけ、/捕(とらハれ)人となり、/頭(かうべ)をハねられし時、雄長老、 00006300L6△△大かきの陣のハりやうへたけにて 00006310L7△△△はやまくれたるしぶのせうかな(31ウ)〔8〕 00006320¥N34¥J 00006330¥X 00006340L8△天正十八/庚寅(かのへとら)三月朔日、大相国秀吉公、小田原北条 00006350L9左京大夫氏直/退治(たいち)のため、駿河に/長陣(なかぢん)ありし時、すそ野に 00006360L10て、曽我兄弟か乗し馬に、水より外かふ物なしといひける 00006370L11も、今身の上に覚ぬるとなけくをきゝて、/由己(ゆふこ)、 00006380L12△△/在陣(ざいちん)をするかのふしの山よりも 00006390L13△△△たかねにかうハ馬のまめかな 00006400¥N35¥J 00006410¥X 00006420L14△同三月廿九日、山中の城を/責(せめ)おとされたれは、其/勢(いきほい) 00006430L15に/恐(おそ)れ、/箱根(はこね)/足柄(あしから)の城をあけのき(32オ)けるに、 00006440L16△△山中をせむれハあくるはこね山 00006450L17△△△にくるもはやきあしからのてき 00006460¥N36¥J 00006470¥X 00006480L18△西陣といふハ/絹(きぬ)屋のあまたある所なるか、一とせ/黒舟(くろふね) 00006490L19わたらす、糸高価なる故、手前不如意なれハ/孝養(きやうやう)のいと 00006500M1なみも調かたし。さるにより、まつ/暫(しハし)ハ/月忌(くわつき)の/僧衆(そうしう)もお 00006510M2はするなと申あへる時、 00006520M3△△西陣にいかなるてきのあるやらむ(32ウ) 00006530M4△△△ときもあけけりはたもあけけり 00006540¥N37¥J 00006550¥X 00006560M5△上京に誓願寺のありし時、事の悪縁によりて炎上せし 00006570M6か、戒光寺の尺迦堂を先かりて、かりやにせよやとこほち 00006580M7とりて、弥陀を置たりし時、前の/山科(やましな)殿、 00006590M8△△釈迦むりに弥陀に御堂をとられけり 00006600M9△△△あなんむさうや何とかせうと 00006610¥N38¥J 00006620¥X 00006630M10△慶長十九年の冬、源将軍大坂の城へよせさせ給ふとき、 00006640M11日本六十余州の(33オ)軍兵一/騎(き)も不残出陣ある。本陣ハ天 00006650M12王寺の茶磨山にてありしを、何者や覧、 00006660M13△△大将はミなもとうちの茶うす山 00006670M14△△△ひきまハされぬものゝふそなき〔9〕 00006680¥N39¥J 00006690¥X 00006700M15△後柏原院の御宇に、松木殿天気にかなハせ給ひて、即 00006710M16儀同になさせ給ひけれは、 00006720M17△△/権門(けんもん)にひきまハされて目出やれ 00006730M18△△△松は茶磨のしんぎたう殿(33ウ) 00006740¥N40¥J 00006750¥X 00006760M19△駿河の今川殿を松の下の弟子にとり、鞠/稽古(けいこ)の時、雄 00006770¥P17 00006780L1長老、 00006790L2△△今がハでくゝりたてたるするか鞠 00006800L3△△△松の下ちかくよりてけられな 00006810¥N41¥J 00006820¥X 00006830L4△越前朝倉殿に子息十二人あり。金吾は十二番目なり。 00006840L5四番めを小太郎といひ、五番目を五郎と云。五人はりをひ 00006850L6かれしつよ弓也。或時兄弟よりあひ給ひ、双方の侍衆相撲 00006860L7をとるに、小太郎方/勝(かち)ぬ。小太郎弟(34オ)にむかひ、参り 00006870L8た+のと名乗られし。五郎無念に思ハれ、近&とより、 00006880L9一刀に小太郎を/切殺(きりころ)されし。小太郎女中、尼になりて後、 00006890L10いこんやまず。人数を催し、五郎のたちへをしよせ、終に 00006900L11国に置れさりし時、 00006910L12△△越前に物きれ二つ出来たり 00006920L13△△△あまくにたちに五郎入道 00006930¥N42¥J 00006940¥X 00006950L14△昔能登の大守/畠(ハたけ)山殿の時、/不慮(ふりよ)の取合出来、/合戦(かつせん)の 00006960L15ありつる。陣のはりやう、一(34ウ)番に松浪、二番に小嶋、 00006970L16三番に/梶(かち)と三段なりしか、先の松浪/敗軍(はいくん)し、次の小嶋討れ 00006980L17にけれハ、/先(さき)くつれたりとも、三段目の楫かすけたらんに 00006990L18ハ、大事有まひ物を沙汰せし時、 00007000L19△△/沖津舟(おきつふね)小しまかさきにしつミしは 00007010M1△△△松浪あらく梶よハきゆへ 00007020¥N43¥J 00007030¥X 00007040M2△美濃国/土岐(とき)の二郎ハ、斎藤山城守聟にてありしを、た 00007050M3はかりて/害(がい)しまいらせたれハ、(35オ) 00007060M4△△とき世とてむこをころすハミのをハり 00007070M5△△△むかしハをさ田今ハ山しろ 00007080¥N44¥J 00007090¥X 00007100M6△後陽成院御即位の日をうけたまハり、/聞者(きくもの)/市(いち)をなして 00007110M7まいりたるか、昼よりくれにをよひ、夜ふけても儀式はか 00007120M8りに過、時うつりけれハ、 00007130M9△△くるゝまてをしねやしたる御そくいひ 00007140M10△△△世ゝのつきめを/違(たかへ)しか為(35ウ) 00007150¥T2ふはとのる 00007160¥N1¥J 00007170¥X 00007180M13△/忿怒(ふんぬ)の前にハ、不動剣をひつさけて、降/魔(ま)の/儀(き)をしめ 00007190M14す事あり。されはにや、昔五山の僧に、/幸蔵主(かうさうす)とて兵法の 00007200M15道に達せし人あり。都にのほる達者、ミな一打二打うたぬ 00007210M16はなかりしに、或時奥山流の兵法者上洛しけり。/例(れい)のこと 00007220M17くしあひの日さだまりぬ。京中知もしらぬも、こと+く 00007230M18物見に出るに、幸蔵主は鑓、兵法者ハ太刀にてむかふ。鑓 00007240M19をさつと(36オ)ふりまハすを見て、其侭太刀をなげすて/問= 00007250¥P18 00007260L1訊(もん=じん)しけり。こハ何事そやととへハ、幸の鑓/先(さき)より/火焔(くわゑん)出た 00007270L2り、/活身(くわつしん)の/摩利支天(まりしてん)なり、たつとさに太刀をすつといひけ 00007280L3れハ、幸大に悦喜し、ミつからすゝめて、彼兵法者に弟子 00007290L4ともあまたひきつけたり。△△のせすまいた上手。 00007300¥N2¥J 00007310¥X 00007320L5△仁物らしき男、/朸(をうこ)の前後にたいを入になひ、たいはた 00007330L6いハとうりけるを、ある家のぬしよびいれて、けしからす 00007340L7さむき日也、まづちと(36ウ)火にもあたり、ちやをものミ 00007350L8ておとをりあれ、ちらと一目見しより、これはたゞならす、 00007360L9いにしへハさもありし御身なりしが、おもハずもよにおち 00007370L10ぶれて、かゝるわさをもし給ふにやと、涙をこぼし候ぬと 00007380L11いひけれは、しづかに火にあたり、茶なとのミて、たちさ 00007390L12まに大なるたいを一つ、亭かまへにさし出したり。こはな 00007400L13にとしたる事としんしやくしけれバ、いや、けふは心ざす 00007410L14せんその頼朝(37オ)の日なり。〔1〕 00007420¥N3¥J 00007430¥X 00007440L15△始は/鍛冶(かぢ)にてありつる者、/傍(かたハら)に/鞠(まり)をすいてけたり。て 00007450L16んねんと/器用(きよう)ありけれハ、人ミなほめそやすにより、家職 00007460L17をすてゝ飛鳥井殿に出入し、/葛袴(くつはかま)と沓をゆるされ、田舎へ 00007470L18下らむともよほす時、知音の者異見し、そちは生れつきい 00007480L19つくしく、自然と殿上人の/形(かたち)あり、とてもの事に其風を似 00007490M1せよといふに、同心し、五躰つけの跡をひた物し(37ウ) 00007500M2けり。すでに位らしき様になりすましたるとおもひ、ある 00007510M3ところに行たれは、人&かのあたまの/逸興(いつけう)を見つけ、不審 00007520M4しあへり。刀の/中心(なかご)にてやきたるゆへに、備前/長舟(おさふね)/祐定(すけさだ)作 00007530M5といふあとあり。さすが俄になをさむよしもなけれハ、又 00007540M6もとの鍛冶になりぬる事よ。 00007550¥N4¥J 00007560¥X 00007570M7△/卜都(ほくいち)/検校(けんきやう)/叡(ゑい)山にて大衆集会の砌、平家ありし。山法 00007580M8師をりのべ衣うすくして、/恥(はち)を(38オ)ハえこそかくさゞり 00007590M9けれとあるを、いかに心の涼しかるらんとなをしてかたり 00007600M10けり。其時大衆あつと感し、平家過て同音にほめつるを、 00007610M11大に慢し、山を下りたるか、思ひの外俄に日の暮ぬるまゝ、 00007620M12灯のあるをたより、宿をかりぬ。亭出てあいさつし、/即(すなハち) 00007630M13一句所望せし。あなどりて、あそここゝおとしかたりける 00007640M14時に亭主、 00007650M15△△うくひすの声はかりして一の谷(38ウ) 00007660M16△△△平家ハおちてきかれさりけり 00007670M17此哥を吟するまに、もとのことく天地あきらけし。是ハ此 00007680M18検校自慢の心より、天狗の所為也とそ。 00007690¥N5¥J 00007700¥X 00007710M19△足利にての事なるに、塩ハ+とよんて、いかにもい 00007720¥P19 00007730L1つくしくわかき商人来れり。こざかしき/学侶(かくりよ)一人出合いひ 00007740L2けるハ、たゝさへも道を二里三里とは、たやすく/歩行(ほかう)なり 00007750L3さうもなき、ゆうにそだちのすかたなるが、此をもき物を 00007760L4もちては、なにとしてありかれ候や、なと(39オ)かたり、 00007770L5時刻うつり、やう+かへらんとする時、/桝(ます)にしほをはか 00007780L6り、僧にあたへぬ。こはなんの故そととふ。しんハなきよ 00007790L7りといへり、われならて誰とハん、次信か日なり、こゝろ 00007800L8ざしに参らする。 00007810¥N6¥J 00007820¥X 00007830L9△/悴(かせ)侍の/妻(つま)あり。ふしきに/夫(おつと)にはなれぬ。日比かれがた 00007840L10のミし寺によせて、/追善(ついぜん)のいとなみをなせとも、しか+ 00007850L11の事もなかりし。七日にあたるけふ、いはいのまへに参り、 00007860L12/愁涙(しうるい)(39ウ)袖をしほりけるに、/住持(ちうし)出あひていはるゝやう、 00007870L13めいとハきりもなくハれかましや、あらゆる大名小名のつ 00007880L14きあひにて候に、二字をうけたる人の、はさミ箱を一つも 00007890L15たせぬほとなれは、みすぼらしく候と、たしかに経文に見 00007900L16えてありと、しめしけれハ、いたハしや、なりかわるから 00007910L17ふずとて、唯一つあるはさみはこをそほとこしける。 00007920¥N7¥J 00007930¥X 00007940L18△/壁(かへ)に耳ありといふ事をわすれ、そんてう(40オ)それは 00007950L19中+人てハないといひ出しけるか、うしろをミれは其仁 00007960M1ゐたり。肝をけして、唯いきほとけちやといふ。そしらる 00007970M2ゝ人、ほむるを聞てよろこひ、そのまゝ阿弥陀の印を結ひ 00007980M3たることよ。〔2〕 00007990¥N8¥J 00008000¥X 00008010M4△奉公人のはてとおほしきか宿をかり、四方山の事をか 00008020M5たりつくしけり。亭ほめて、いかさまたゝの人とは見え候 00008030M6ハす、もはや休給へ、夜着をまいらせんやといふ。いや、い 00008040M7かほどの(40ウ)野陣山陣をしつけ、せう+さむき事をハ 00008050M8しらす、無用といふて、きのまゝいねけるか、夜ふくるに 00008060M9したかひ、ひた物さむし。時に亭主+、是の鼠にハ足を 00008070M10あらハせたかととふ。いや、さやうの事ハなしとこたふ。 00008080M11それならハむしろを一二枚きせられよ、鼠がきた物をふま 00008090M12ハ、むさかろふすにと。 00008100M13△△身ひとつハ山の奥にもありぬへし 00008110M14△△△すまぬこゝろそをき所なき(41オ)〔3〕 00008120¥N9¥J 00008130¥X 00008140M15△十計なるむすめの/容顔(ようかん)/美麗(ひれい)なるに、女房達二三人打そ 00008150M16ひてゐけるを人ミつけ、是はこなたの御息女候や、さて 00008160M17+いつくしさはかりなき花のかたちハ、名に聞し/楊貴妃(やうきひ)、 00008170M18李夫人もかくこそありつらめなとほめけれは、親父是を聞 00008180M19ゐて、さればよ、此むすめハそのまゝ母のかほちやと。 00008190¥P20 00008200¥N10¥J 00008210¥X 00008220L1△ある人連哥の/席(せき)に句を出し、けしからす/慢(まん)したる顔を 00008230L2見つけ、脇からいき天神(41ウ)天神といふて/膝(ひざ)をつきけれ 00008240L3ハ、あまりなつかれそ、/社壇(しやだん)がゆるくにと申され事ハ。 00008250L4(42オ)〔4〕 00008260¥T2鈍副子 00008270¥N1¥J 00008280¥X 00008290L7△鈍なる弟子、斎に行、たんな、/汁菜(しるさい)をとゝのへてもて 00008300L8なせとも、あへて感する事もなし。坊主伝きいて、なんち 00008310L9うつけたり、/明眼論(ミやうけんろん)に云、一日師壇百劫結縁、一度赴請、 00008320L10師僧以其壇那如親子とも書れたり、人の/賞翫(しやうくハん)するを 00008330L11もしらす、むさとたまハる、/曲事(くせこと)そや、/膳(ぜん)にむかひ箸を手 00008340L12にもち、御/造作(ざうさ)なといひてくへとしなんせり。尤と同し、 00008350L13/明(あくる)(43オ)/朝(あさ)/斎(とき)に/行(ゆき)、/例(れい)のうつとりぞ、やきしほ計にてよし 00008360L14とて膳をすへけるに、をしへのことく弟子、箸をきつとも 00008370L15ち、いふやう、めしハ御造作に、お汁はかりかよふ御座あ 00008380L16らふ物をと。 00008390¥N2¥J 00008400¥X 00008410L17△小性ををきて、こゝろみに/始(はしめ)て茶をひかする。事の外 00008420L18あらし。是ハとしかりたる時、ちと座をしさり、それハま 00008430L19つあらひきて御座ると。扨&をのれハ日本に又ふたりとも 00008440M1あるまい(43ウ)うつけやとあれハ、又きつと手をつき、い 00008450M2や、日ほんもひろふ御座るほとに、おたつねならは、また 00008460M3も御座らふと。〔1〕 00008470¥N3¥J 00008480¥X 00008490M4△日本一の鈍なる弟子か、師のうハさをいふやう、坊主 00008500M5のいつもいろ+の事をいふてしからるゝ中に、近比聞え 00008510M6ぬ無理をミついはるゝ、一つはまつをのれをなんほうのし 00008520M7んくにて人にないたと仰ある、我か犬の子にてもあらハこ 00008530M8そ、しやうとく人の子にてあるを、人(44オ)にないたとは 00008540M9何事ぞや、二つは、いかほと気をつくして経ををしへしそ 00008550M10の恩をあだにおもふとのせつかん、これもいはるゝ処道理 00008560M11にてハあれとも、其ならひよみたる経を、一字もわれがお 00008570M12ほえハこそ、ミなわすれハてたるまゝ、少もおんとハ思は 00008580M13ぬなり、三つハ、寺屋敷資財雑具残なく、なんぢにとらす 00008590M14るはと仰あれとも、これ又少もおんとハおもハぬ、むつか 00008600M15しいに、取ておかへりあらふまてよ、さ(44ウ)あれハ三つ 00008610M16なから一つも坊主の道理ハないと。 00008620M17△△あたをさへ恩にてむくふいはれあり 00008630M18△△△おんを忘るゝ人は人かは 00008640¥N4¥J 00008650¥X 00008660M19有寺の/院主(ゐんしゆ)に知音の人ありて、門前まてをとつれられ 00008670¥P21 00008680L1けるを、弟子出て見つけ、そのまゝ方丈にゆき、ものゝ御 00008690L2出にて候といふ。院主大に腹をたて、ものとハたれか事そ、 00008700L3さてもうつけをつくすやつかな、いさわれ出てミんとて、 00008710L4窓よりそとのぞき、つく+見るに/顔(かほ)(45オ)はかりおほ 00008720L5え、つゐに名をハうち忘れ、弟子にむかひ、まことにもの 00008730L6ちやよといへり。 00008740¥N5¥J 00008750¥X 00008760L7△洛陽にて浄土宗の寺へ、ある尼公の参られ、一人の弟 00008770L8子をよび出し、十念をうけたきよしひろうしてたひ候へと 00008780L9ありしかは、こころへたるとて方丈に行、下京にてなにと 00008790L10いふ人のによにんの参りにてと申もあへぬに、長老はを出 00008800L11し、上臈とか女房とこそ申へけれ、によにんといふ事やあ 00008810L12ると大(45ウ)にしかられ、弟子の返答に、そなたハ我に阿 00008820L13弥陀経ををしへて、善男子善女人といへといふておゐて、今 00008830L14ハ又さういはぬとハ一事両様なる事をなと、さん+にか 00008840L15らかひておもてへ出ける時、尼公赤面し、せうしや、お/機嫌(きけん) 00008850L16のあしきをとする、下向せんやと申されたれハ、弟子いふ、 00008860L17いやくるしうも候ハす、ちとにうはうことのいていりで御 00008870L18座あると。〔7〕 00008880¥N6¥J 00008890¥X 00008900L19△三井寺にまつしき僧ありしか、寺内の(46オ)児に思ひ 00008910M1をよせ、せんかたなくあこかるれとも、いひよらんえにし 00008920M2さへまれにて過けるに、かのちごのこうけんの法師聞つけ、 00008930M3あはれミて、まづせめて児の/言葉(ことは)になりとかけたきまゝ、 00008940M4いつの日のいりあひのころ、つぼのうちなる梅のもとにき 00008950M5たりゐよ、今を春辺と花のかほはせ御覧せよかしなと、さ 00008960M6そひ出んする時、あれなる花の本のハなにものそやと児尋 00008970M7たまハゝ、梅法師で御さあると(46ウ)いへとをしゆる。せ 00008980M8つなきこゝろざしやとかんじ、行てゐけれハ、あんのごと 00008990M9くともなひ出て、あれなるハと児のとハれけれは、梅づけ 00009000M10て御座あると申たり。 00009010M11△△人ならは憂名やたゝむさよふけて△△△△△@比哥此条ニ△|心相違セリ・|ノケ申度候。@ 00009020M12△△△我手枕にかよふ梅がゝ 00009030¥N7¥J 00009040¥X 00009050M13△とぎやに、ある小/名(ミやう)の/刀(かたな)をあつらへ、程ふりて後宿を 00009060M14とひよられけれは、お目にかけんと持出たり。さつとぬき 00009070M15見る+、さてもあ(47オ)ら下手や、あたら一腰をすてた 00009080M16よと腹立し、小性にわたさる。亭主赤面しなから門送して、 00009090M17/彼袂(かのたもと)をひかへ、殿様は私をさん+におほせ候か、下手か 00009100M18これやうに大な家をもつ物で御ざるかや。 00009110¥N8¥J 00009120¥X 00009130M19△/悲体戒雷震(ひたいかいらいしん)といふ/観音経(くハんおんきやう)の文を、なにとしてもわす 00009140¥P22 00009150L1るれハ、師匠あまりの事に、弟子がひたいをつかまへて、 00009160L2こゝの事を思ひ出よとをしゆるに、又わすれて、をのかひ 00009170L3たいを(47ウ)とらへ、こゝかいらいしんとよみし事、申ふ 00009180L4りたるどんふうすや。 00009190¥N9¥J 00009200¥X 00009210L5△/病(やまひ)/愈(いゑ)て後よろこび事の振舞あり。酒もりのなかば、 00009220L6/台(だい)の物に/鶴(つる)のつくりたるを取あけ、鶴の舞を見はやなとは 00009230L7やされ、よきふりに舞おさめしを見、一/腑(ふ)ぬけたるおかた 00009240L8立て、床にたてたる矢をとり手にもち、やまひを見はやな 00009250L9とハやされ、又矢を一つとりそへ、二つの矢のねをつぎ合、 00009260L10羽のかたを左右へなし、(48オ)なかやまひを見ハやなと舞 00009270L11おさめぶりハ。〔2〕 00009280¥N10¥J 00009290¥X 00009300L12△うつけらしき坊主のかたへ、折ふしハ出入する/農(のう)人あ 00009310L13りし。道ゆきふりにあひあふ。ミれば不/浄(じやう)をになへり。件 00009320L14の出家、そちハほねをりや、今より後かまへて/田畠(たはたけ)に/糞(こやし)を 00009330L15せんとおもふなの、其代にわれが仁王経をよまふぞよ。 00009340¥N11¥J 00009350¥X 00009360L16△いはんかたなき鈍なる弟子あり。だんなのあつまりて、 00009370L17茶さけなどある座敷に、年さんたむのあるは常のならひ也。 00009380L18しかるに彼(48ウ)弟子、やゝもすれハ、いまだ三十の者を 00009390L19ハ四十と見そんじ、五十計の者をハ六十あまりと見そこな 00009400M1ふてわらハるゝを、坊主聞かね、さてうつけに薬かないと 00009410M2ハまことや、我も人も年のよりたきはなし、誰をもわかい 00009420M3といはんこそほいならめ、あなかしこ、そこつに人を年よ 00009430M4りといふなとをしへられ、あけの日彼弟子/使僧(しそう)に行、女房 00009440M5の子をいたきゐるを見つけ、此御子息ハいくつにてありや。 00009450M6是ハことしむまれ、かた子ておいり(49オ)あるとこたへけ 00009460M7り。弟子、さて、かたこにはわかう御座あるよと。 00009470¥N12¥J 00009480¥X 00009490M8△鈍なる男、兵庫の町をとをりけるに、黒犬の大なるが 00009500M9出て、したゝかにすねをくらひけり。あらかなしやといふ 00009510M10声聞つけ、犬の主をひちらしぬ。此男せんかたなく、/無心((ママ)) 00009520M11なる事におもひつゝけ、尼か崎まできたりしか、くろきゑ 00009530M12のこのあるを見つけ、ひた物けつふみけるを、主人出合、 00009540M13これハくせもの也、なにのとかにさやうには(49ウ)するぞ、 00009550M14うてたゝけと人あつまりたれハ、まつひら御免候へ、兵庫 00009560M15で足をくろ犬にくらハれたる、無念の腹をゐんとてけたと 00009570M16こそ。 00009580¥N13¥J 00009590¥X 00009600M17△/塔頭(たつちう)の僧、/途中(とちう)より客をつれたち帰る。小僧出て、爰 00009610M18なる縁には/虱(しらミ)が候といふ。坊主目をして、そのやうな事を 00009620M19たかくハいはぬ物そとしかられし。かさねて立より、虱と 00009630¥P23 00009640L1おもひしをしつかに見、坊主にむかひ、さゝやき、虱でハ 00009650L2おりない、わたかミのおちたで御ざつた。(50オ) 00009660L3△△しらミほと世をへつらハぬ物はなし 00009670L4△△△貧なるものになをもちかつく 00009680¥N14¥J 00009690¥X 00009700L5△石州銀山にての事ぞとよ。常によりあひぬる者一人入 00009710L6道し、法名を/芝恩(しをん)とつく。/友達(ともたち)鈍なる男ありて、つゐに芝 00009720L7恩といふ名をわすれ、お禅門+とよふ。禅門腹立し、し 00009730L8をんといふ草あり、見られた事ハなきか。いやまだ見ぬと。 00009740L9さらば見せんとてつれだち、ある人の/前栽(せんさい)へ行、しおんと 00009750L10しやがと花さきてありし(50ウ)を、これハしおん、これハ 00009760L11しやがといふとをしへ、此しおんの花の名をよくおほゆれ 00009770L12ハ、我かなと同しことそ、わすれ給ふなといひふくめてか 00009780L13へりぬ。件の男領掌しけるが、又二三日ありて後よりあひ 00009790L14し時、しおんをハうちわすれ、さてもしやか、おひさしい 00009800L15と申たり。〔3〕 00009810¥N15¥J 00009820¥X 00009830L16△/福(ふく)ハ/宿善(しゆくせん)の/果(くわ)なれは、鈍なる人にまゝたのしきあり。 00009840L17/境(さかい)にてさる町人家をたてしが、くらにも/居(ゐ)間にも/対面所(たいめんしよ)に 00009850L18も、唯九間/四方(よはう)のぬり(51オ)屋一つつくり、戸口を都合一 00009860L19つあけけり。見る人わらいさんだんする。知音の者/笑止(せうし)が 00009870M1りて、此大なる家に出入口一つあらんハ、むけに不覚のい 00009880M2たり也、火事といひなにハにつけ、せめてうらとおもてに 00009890M3二つなふてハかなハぬ事やといひけれは、彼亭主の返答に、 00009900M4せんない異見や、われハ一口さへあけまいとおもふた物。 00009910M5夢庵、 00009920M6△△△いか/ゝ((ママ))なる罪のいまむくふらん 00009930M7△△くちなしに咲こそ花もかなしけれ(51ウ) 00009940¥N16¥J 00009950¥X 00009960M8△小僧あり。小夜ふけて/長棹(なかさほ)をもち、庭をあなたこなた 00009970M9とふりまハる。坊主是を見付、それは何事をするそととふ。 00009980M10空の/星(ほし)がほしさに、うちをとさんとすれともおちぬと。扨 00009990M11&鈍なるやつや、それほと作がなうてなる物か、そこから 00010000M12ハ/棹(さほ)かとゞくまい、やねへあかれと。 00010010M13△お弟子ハとも候へ、師匠の指南ありかたし。 00010020M14△△星一つ見つけたる夜の嬉しさは 00010030M15△△△月にもまさる五月雨の空(52オ)〔8〕 00010040¥N17¥J 00010050¥X 00010060M16△始て/奉公(ほうこう)する者あり。お殿様、おわかうさま、おかみ 00010070M17さま、なにゝもおをつくる。主人かれにむかひ、むさとお 00010080M18の字をつけまい、聞にくし、とあり。其後/膳(ぜん)をすへ、/跪(ひさまつき)ゐ 00010090M19けるか、主の/鬚(ひげ)に/飯粒(いひつふ)つく。右の男、殿さまのとがいに、 00010100¥P24 00010110L1だいつぶかついたと。〔4〕 00010120¥N18¥J 00010130¥X 00010140L2△二番にかまへられたる聟殿、/舅(しうと)のかたへ始て行。似た 00010150L3るを友のをしへけるやう、/初対面(しよたいめん)に物をいはすハ、うつけ 00010160L4とこそおもふへけれ、相/構(かまへ)(52ウ)なにとぞ/時宜(しぎ)をてかせよ。 00010170L5心得たりと、うけこひつるが、一言の/挨拶(あいさつ)もなし。すてに 00010180L6座をたゝんとする時、聟殿がいひ出すやう、なにと舅殿ハ 00010190L7一/構(かい)ほとある鴫を御らんした事はおりないか。いや見たる 00010200L8事ハおりない。私も見まいらせぬと。 00010210L9△△いはぬハいふにまさるとやらん。 00010220¥N19¥J 00010230¥X 00010240L10△うつけめける亭主の/腰(こし)まハりへ、下すあやまちに水を 00010250L11こほしぬ。はたせすこれをしかる。其申様、しきに腹がい 00010260L12たひ、此水たゝみの(53オ)上なれはこそくるしからね、又 00010270L13此月が霜月なれはこそ大事なけれ、このこほれ物水なれハ 00010280L14こそあれ、若たゝみがわか身て、此月か/師走(しハす)て、此水か油 00010290L15ならは、そも+よい物か、しハす油ハかゝらぬ事といふ 00010300L16なるに。 00010310¥N20¥J 00010320¥X 00010330L17△旅人寒夜の物うさに、古だゝみを一でう所望してきせ 00010340L18られ、 00010350L19△△下にしき上にもきたる/((古脱))たゝみ 00010360M1△△△二条殿とや人の見るらん(53ウ) 00010370¥N21¥J 00010380¥X 00010390M2△大客のあらんよしを/舅(しうと)/聞(きゝ)つけ、俄に/造作(ざうさく)をする故、/材(さい) 00010400M3木をえらハす、節穴おほしとて/気(き)の/毒(とく)におもへり。彼/娘(むすめ)、 00010410M4/夫(おつと)にをしゆるやう、見舞にゆかれんにふしあなの事を申 00010420M5されハ、/短冊(たくじやく)や/色紙(しきし)にてハりたまへといはれよ。尤におも 00010430M6ひ、ゆく。案のことくの/時宜(しき)なりき。舅大によろこひ、此 00010440M7年月聟をうつけといひつるハうそやと。其後舅に腫物出来 00010450M8たり。又見舞に行、見参して、若薬をしり給/ハめ((ママ))(54オ)や、 00010460M9唯腫物の上に短冊色帋ををしたまへと。平家物語に書たる、 00010470M10/平基盛(たいらのもともり)公勢田山中に/麦漆(むきうるし)の/指南(しなん)と同し。 00010480¥N22¥J 00010490¥X 00010500M11△人くらひ犬のある処へハ、なにともゆかれぬなどかた 00010510M12るに、さる事あり、虎といふ字を手の内に書て見すれば、 00010520M13くらハぬとをしゆる。後犬を見、虎といふ字を書すまし、 00010530M14手をひろけ見せけるか、なにの/詮(せん)もなく、ほかとくふたり。 00010540M15かなしく思ひ、ある僧にかたりけれハ、/推(すい)したり、其犬ハ 00010550M16一円(54ウ)/蚊虻(もんもう)にあつた物よ。〔5〕 00010560¥N23¥J 00010570¥X 00010580M17△京にてくちわきしろき男、ちと出家をなぶり、りくつ 00010590M18につめてあそひたやとおもひつゝ、さかしき人にむかひと 00010600M19ふ。やすき事なり、をしへむ、なむち/沙門(しやもん)にあふた時、お僧 00010610¥P25 00010620L1ハいづくへといふへし、さためて風にまかせてといハれん 00010630L2ずる、其時、風なき時ハいかんといへ、やかて/閉口(へいこう)すへし。 00010640L3此をしへを得、ある朝東寺の門前にて出家に行あふ。お僧 00010650L4ハいつくへととふ。僧の返事に、たちうりの(55オ)/勘(かん)介か 00010660L5所へ斎に行、なにそ用ありや。男とつてにハくれ、あら、 00010670L6お僧ハ風にハおまかせないのと。〔10〕 00010680¥N24¥J 00010690¥X 00010700L7△越中に井見の庄殿といふ大名あり。世にすぐれたるう 00010710L8つけなりし。母儀常にくやミ/歎(なけき)給ひしか、ある時の見参 00010720L9に、/笑止(せうし)や、そなたを内の者あなとり、なに事もいひたき 00010730L10まゝにいふて、道なきさほうときく、ちと折ふしハはをも 00010740L11ぬき、折檻もあらハ、さほとまでハあるましき物をと/教訓(けうくん) 00010750L12あれハ、心得たりとうけごひ、是非とも(55ウ)に一はぬか 00010760L13ん物をとたくまれし。/去程(さるほと)に八/朔(さく)の礼とて、/諸侍(しよさふらひ)出仕あ 00010770L14る。/家郎(からう)の人申様、今日の御祝義千秋万歳、ことに天気能 00010780L15くといハふなかはに、彼大名、なにと御祝義てんきもよし 00010790L16と、さういひたきまゝにハいはせまひぞ。〔6〕 00010800¥N25¥J 00010810¥X 00010820L17△わかき男の聟入するといふに、知音の者/異見(いけん)し、かま 00010830L18へて時宜を出かせ。心得たるよしにて行しが、一円言のは 00010840L19なし。あまりほいなく思ひ、立さまに手をきつとつき、此 00010850M1/中柱(なかはしら)ハこなたの(56オ)て御座あるか、とれからまいりたる 00010860M2ぞ。〔9〕 00010870¥N26¥J 00010880¥X 00010890M3△田舎より/主従(しうじう)二人始て上洛し、京の町に逗留せし。休 00010900M4息の後見物に出る。下人にむかひ、都ハいつれも同様なる 00010910M5家作なり、よく+目しるしをせよとをしゆる。心得たり 00010920M6と領状せしが、/晩(はん)にのそミ宿をしらす。主腹をたてしかる。 00010930M7返事に、いや、門の柱に/唾(つはき)にて書付を、たしかに仕しか、/消(きえ) 00010940M8て見え候ハす、其上に猶念を入れ、屋ねの上に鳶の二つあり 00010950M9しを目付にしたりしが、(56ウ)それもいな事で見えぬと。 00010960¥N27¥J 00010970¥X 00010980M10△/不断光院(ふたんくわうゐん)の/住持(ちうし)、近衛殿へ参られし時、三方をゆる 00010990M11すとあれは、其後常に三方にて/斎(とき)非時を給ハれり。此由三 00011000M12/藐(ミやく)院殿聞召給ひ、 00011010M13△△かり初にゆるすといひし三方を 00011020M14△△△不断くハふは無益なりけり 00011030¥N28¥J 00011040¥X 00011050M15△/筆者(ひつしや)を/頼(たの)ミ伊勢物語を写させけるに、昔男と云を、か 00011060M16なにむし男とかき、かの字を落したり。主人見付、最初の 00011070M17三字の内をさへ(57オ)おとされたるやと腹立する時、彼か 00011080M18きて云、ひた物書ゆかバ、如何程も末にいや字の候ハんを、 00011090M19たしに仕候ハんと。(57ウ) 00011100¥P26 00011110¥T2無智之僧 00011120¥N1¥J 00011130¥X 00011140L3△幼少よりつゐに/経(きやう)にむかふたる事もなかりし/坊主(はうす)、千 00011150L4/部(ふ)の経に/座列(されつ)するあり。よく/案内(あんない)しりたる人、そとちかよ 00011160L5り、そちは何事をいふて、一/座(さ)の/役(やく)をはつとむるそや。さ 00011170L6れはとよ、一/首(しゆ)/哥(うた)をよみたるか、それを/吟(きん)じて理をすます 00011180L7ハ、われ/師匠(ししやう)に/習(なら)ひて/覚(おほ)えたる文、唯一つあり、いはゆる 00011190L8/阿耨多羅(あのくたら)三/藐(ミやく)三/菩提(ほたい)也、此外ハなし。(58オ)其哥ハととハ 00011200L9れてなむ、 00011210L10△△あのくたら三ミやく三ほたいこそ仏なれ 00011220L11△△△のこる文字ともおとなたてして 00011230L12△△恥といふ事をしらぬ、あのくたらよミや、やれ。 00011240¥N2¥J 00011250¥X 00011260L13△/大般若(たいはんにや)を/転読(てんどく)の/施主(せしゆ)あり。かたちはかりハ/出家(しゆつけ)の身、 00011270L14よむへきあてハなけれと、いかやうにも座をハり、ふせを 00011280L15得たき/望(のそミ)あるゆへ、法衣をまとひ/膝(ひさ)をくミ、人&大般若波 00011290L16羅密と/高声(かうしやう)によめは、経をひろけおなし調子にあけ、(58ウ) 00011300L17大たんな三蔵ほつしめか、ようない物をもてきてをゐて、 00011310L18人に難義をかくるハやといへとも、人はきかなんだけな。 00011320L19〔1〕 00011330¥N3¥J 00011340¥X 00011350M1△海辺の者、山家に聟をもち、いんしんに/蛸(たこ)と/辛螺(にし)と/蛤= 00011360M2蜊(はま=くり)と三色をもたせやりたり。其文をよむ者もなく、三いろ 00011370M3を見しりたるもなし。文をハ物しりの出家をたのミてきけ 00011380M4やとて、わさと遠路を行て見せけれは、うちうなつきてい 00011390M5ふやう、なにそいんしんの物はないかといふ(59オ)/こそ((ママ))、 00011400M6三いろまて候へとも、其物をも見しらぬまゝ、これへもち 00011410M7て参りたりといへは、一目ミむとて見れは、山/賎(かつ)よりも猶 00011420M8おとれり。されども口はかしこくて、文をひろけ、聟殿へ 00011430M9申、むすめのたいせつさに、/竜王(りうわう)のへのこ、ねこぎにして 00011440M10十ばかり、鬼のきくぶし三十計、手ころのつぶて百はかり、 00011450M11三いろともに山海の/珍物(ちんぶつ)とそよみける。 00011460M12△△△此ミの果ハなにとなるらむ(59ウ) 00011470M13△△海士の屋の軒より高き貝のから 00011480¥N4¥J 00011490¥X 00011500M14△人ありて/千部(せんぶ)の経を/執行(しゆきやう)せらる。/施物(せもつ)は米二石なり。 00011510M15志の沙門ハ兼日より/集会(しゆゑ)有へき旨触ありく。ある一村に本 00011520M16覚坊、法蔵坊とてあり。多寺の中に法蔵坊ハ法花八/軸(ぢく)をそ 00011530M17らに誦する/達者(たつしや)なり。本覚坊ハ/妙法(めうほう)の二字をもおほえす。 00011540M18此ふれまハりてより、本覚思ひたくむやう、二石の米をと 00011550M19りにかさんハ不覚なるべし、所詮法蔵坊をたのミ、我むか 00011560¥P27 00011570L1ふの/座(ざ)にな(60オ)をしをき、大衆まねをせんに子細あらし 00011580L2と出仕をとぐる。かくて導師経をはじめけれハ本覚よみけ 00011590L3ること葉、法蔵坊ハをれを見る、をれは又法蔵坊見るとよ 00011600L4むに、少も読経にたがハす。さりなから、経はやくちにな 00011610L5れバ、導師/磬(けい)をうちきると、本覚ひとり、法蔵坊といひけ 00011620L6り。なむそと返事あれハ、山/椒(せう)をまいるかと。 00011630¥N5¥J 00011640¥X 00011650L7△同千部/講読(かうとく)の/請(しやう)状まいりけるに、/一文(いちもん)/不知(ふち)の経たつ 00011660L8坊あり。つかふ小者を松若といふにむ(60ウ)かひて、此度 00011670L9の出仕、/生涯(しやうがい)の大事とおほゆるに、をのれねふりをとゝ 00011680L10め、我かうしろの方にきつとゐよ、もしよぶに返事/遅(をそ)くハ 00011690L11/曲(くせ)事ならんといひつけ、かくて大衆の席につらなり、読経 00011700L12すてにはしまり、/序品(しよほん)/第(たい)一とつくるから、彼経たつばう、 00011710L13松若+と、如何にもしつかにいふ。/連(れん)読少もちかハさり 00011720L14しが、経しどろよみの時、/例(れい)の/磬(けい)をひしとうちきる。彼坊 00011730L15が唯一人、松若とよみたり。松若、やつと返事するに、(61オ) 00011740L16お湯のまふと。〔2〕 00011750¥N6¥J 00011760¥X 00011770L17△/博奕(ばくち)にうちまけ/詮方(せんかた)なき者、冬の/暮(くれ)、/髪(かミ)をそりて法師 00011780L18となり、法花宗の寺に行、/座敷(さしき)の/掃除(さうじ)をも仕候ハんといふ 00011790L19時、経をはおほえたるやととハれ、中+の事とこたふ。 00011800M1さらハまつをきても見よとありけり。/其晩景(そのばんけい)、/檀那(たんな)のもと 00011810M2より使者来り、明日は/親(おや)の/年忌(ねんき)なる条、僧衆十人にて一部 00011820M3経をつとめ給へとなり。彼あたらし坊主、/終夜(よもすから)工夫する 00011830M4に、経を(61ウ)よむへきやうなし。我わかき時薬屋に奉公 00011840M5し、薬種の名をおほえたり、これにて筈をあハせんとおも 00011850M6ひ、/既(すて)に妙法蓮花経と始りける時、その侭彼人つくる。/桔= 00011860M7梗(き=ゝやう)・/人参(にんじん)・/続断(ぞくたん)・/白朮(びやくじゆつ)・/干姜(かんきやう)・/木香(もつかう)・/白■(ひやくし)・/黄連(わうれん)といひ 00011870M8けるを、薬屋の亭主/聴聞(てんもん)して、あら有かたや、われ+が 00011880M9うりかふ薬種は、ミな法花経の肝文にてあるよなと、彼坊 00011890M10主をひた物おかミしも。 00011900¥N7¥J 00011910¥X 00011920M11△/剃髪(ていはつ)/染衣(せんゑ)の/僧(そう)、/秘鍵(ひけん)をならふ。/真言(しんこん)ハ/不思議(ふしき)也、(62オ) 00011930M12/観誦(くハんしゆ)すれは除無明/((と脱カ))教へけるに、いやそれはかたことさ 00011940M13うなとうたかふ。大師の言葉これなり、そちは又なにとよ 00011950M14まんや。彼僧、我はたゝ勧進すれはもミをもらうてあらう 00011960M15と、なをしけり。(62ウ) 00011970¥T2祝過るもゐな物 00011980¥N1¥J 00011990¥X 00012000M18△けしからす物/毎(こと)にいはふ者ありて、与三郎といふ中間 00012010M19に、大晦日の/晩(はん)いひをしへけるは、今/宵(よひ)ハつねよりとく/宿(やと) 00012020¥P28 00012030L1にかへりやすミ、あすは早くおきて来り、門をたゝけ、内 00012040L2よりたそやととふ時、福の神にて候とこたへよ、すなハち 00012050L3戸をあけてよひいれんと、ねんころにいひふくめてのち、 00012060L4亭主ハ心にかけ、/鶏(にハとり)のなくと同やうにおきて、門にまちゐ 00012070L5けり。あんの(63オ)ことく戸をたゝく。たそ+ととふ。 00012080L6いや与三郎とこたふる。無興中+ながら門をあけてより、 00012090L7そこもと火をともし、わか水をくミ、かんをすゆれとも、 00012100L8亭主かほのさまあしくて、さらに物いはす。中間ふしんに 00012110L9おもひ、つく+思案しゐて、よひにをしへし福の神をう 00012120L10ちわすれ、やう+酒をのむころにおもひ出し、/仰天(きやうてん)し、 00012130L11膳をあげ、さしきをたちさまに、さらは福の神と御座ある、 00012140L12おいとま申まいらするといふた。(63ウ)〔1〕 00012150¥N2¥J 00012160¥X 00012170L13△和泉国に寺門といふ在所あり。一人の百姓、名をこの 00012180L14ミて、びんほうとつきたり。又一人は/夷(ゑひす)とつく。其所の/地頭(ちとう)、 00012190L15元日にもしひんほう礼始にや来らんといやかり、出ちかひ 00012200L16て氏神へ参りしが、下向する道にて夷に行あふたり。夷は 00012210L17どちへ。そなたより出て参ると。あら気かゝりやと帰りゐ 00012220L18たれは、又ひんほうに行逢へり。/貧乏(びんほう)はとちへ。殿へ参る 00012230L19と申つる事よ。/忌(いむ)といふ字ハをのか心とかきたり。(64オ) 00012240M1△△ひんほうの神も出雲に行ならハ 00012250M2△△△十月はかり物は思ハし 00012260¥N3¥J 00012270¥X 00012280M3△ある女房のもとにつかハるゝ下主の、名を/福(ふく)といふ有 00012290M4き。大としのゆふへ下主にむかひ、そちハよひから宿へゆ 00012300M5きてやすみ、あすハとくをききたり門をたゝけと、ひまを 00012310M6やりぬ。夜もふけすきて、/五更(こかう)にをよべともきたらす。さ 00012320M7れとも門をたゝくをとせり。すハやと思ひ、たれぞといふ 00012330M8に返事なし。あまりにたへかねて、福か、やれと(64ウ)い 00012340M9ひけれは、いや、よ二郎て御さる、なにしにふくであらふ、 00012350M10福はよひからよそへゐた物をとぞつふやきける。雄長老、 00012360M11△△鬼は内福をハそとへ出すとも 00012370M12△△△とし一つつゝよらせすもかな 00012380M13也足の判尤興あり。されともたとひ年ハ一二よらせ候とも、 00012390M14福をそとへ出さん事、いかゝと申へくや、一笑&&。〔2〕 00012400¥N4¥J 00012410¥X 00012420M15△貧/乏(ほう)神とわりなき知音の者ありしが、(65オ)ちと酒に 00012430M16ゑひて壁にもたれゐ、いねふりしけるみぎり、かたから物 00012440M17がなにともしれす、とうとおちけり。目をさまし手をあハ 00012450M18せ、やれ+嬉しい事や、此年月かたにゐたる貧ぼう殿か、 00012460M19けふといふけふおちて、我身をはなれたよと合点せしか、 00012470¥P29 00012480L1たれいふともしれす、あまりおほくよりあひ、そちかいね 00012490L2ふりするあひた油へうしをふむとて、とりはづし、ひとり 00012500L3おちにき、いまたハてはないぞといへり。なにと心にいハ 00012510L4ふても(65ウ)せうしや。雄長老、 00012520L5△△大なる柿うちハかな二三ほん 00012530L6△△△ひんほう神をあふきいなせん 00012540L7也足の判、柿団扇ハ貧神のつくといへは、二三本にてあふ 00012550L8く事いかゝ、弥/増(まし)に長すへくや。 00012560¥N5¥J 00012570¥X 00012580L9△ある者、正月二日の夜、夢におもひよらす我身に/癩瘡(らいさう) 00012590L10いてきたるていを見、目さめ、つく+あんするやう、か 00012600L11れをハ物よしといふなれハ、(66オ)仕合なにハに物よから 00012610L12ふハしかやと。その分にてよかりしを、なをうたてしき事 00012620L13におもひつゝけ、うらかたする人のもとに行、過にし夢を 00012630L14あハされよといへは、書物取出し算などをき、あけくに、 00012640L15過し夜の夢のやう、さだかにかたり給へといふ。さる事よ 00012650L16とありのまゝつけゝれは、/卜人(ほくぢん)つく+思案する躰にて、 00012660L17のち、たたやうじやうをめされよ、いき身しやほとに、ほ 00012670L18んはあるまいとはんしける。(66ウ) 00012680¥N6¥J 00012690¥X 00012700L19△商人の常に祈念を頼て行かよふ寺あり。四国のかたへ 00012710M1くたる朝、今日舟の出候まゝ、暇乞に参たる由いひけれは、 00012720M2院主の口上、とくより田舎への下向ときゝて、祈祷の旨ゆ 00012730M3るかせなし、今朝もとくからおき、/尊勝陀羅尼(そんせうたらに)をいかうよ 00012740M4みたるそなふ。 00012750¥N7¥J 00012760¥X 00012770M5△六十にをよふ僧ありしか、歳の暮に風を少ひきけれは、 00012780M6元日にてもあれ、たき火によせ、せなかをあふらんには過 00012790M7しと思案し、ひとりあ(67オ)る小僧にいひつけて、火をた 00012800M8かせけり。小僧、見られぬけふのせなかあふりや、正月と 00012810M9て、わかことき者ともの、たかひにあそひくるふ日なるに 00012820M10と、はらをたつ+薪をくへ、ひた物火をふきけれハ、坊 00012830M11主を、あたまよりきたる物にいたり、こと+くはひにま 00012840M12ふせり。老僧つく+見て気にかゝり、小僧に、いはふて 00012850M13はいかいの発句をせんとあれは、中+よからんといふ時、 00012860M14△△小僧めかふくとくわれにふきかけて(67ウ) 00012870M15小僧やかて、わきを仕らんとて、 00012880M16△△坊主をミれははひにこそなれ 00012890M17とつけたり。いらぬいハひことや。 00012900¥N8¥J 00012910¥X 00012920M18△有馬の湯に入ける者、/宿(やと)主とかたるついてに、/鶏(にハとり)ハは 00012930M19ねをとをはた+として、とつてかうとなくといふハ、ま 00012940¥P30 00012950L1ことかやといふ者ありしに、宿主、いやとよ、ありまの鶏 00012960L2ハ一向よそのとかハりて、元日の暁より歳のくれの夜あけ 00012970L3まて、はをとをかさ+として、かつけかうと(68オ)なく 00012980L4なりとぞ。身をおもふから、道なき事を。 00012990¥N9¥J 00013000¥X 00013010L5△しなのゝ国より出るなる、からむしとも又ハまおとも 00013020L6いふ麻を、せんとつくるところあり。其一村に行かゝり、 00013030L7商人一夜のとしをこゆるに、所のならひにや、元日に宿主 00013040L8のいふことば、あさましや、ことしハ子ともにをくれてと、 00013050L9二三度こそ申たれ。おもひ内にある事を、色外にいはふこ 00013060L10とばぞや。(68ウ) 00013070¥N10¥J 00013080¥X 00013090L11△行暮て旅人立寄、一夜の宿をかりし。亭主出合、物語 00013100L12のついてに、/客(きやく)ハ如何なる/芸能(けいのう)の候ぞ。ちと哥道を心得て 00013110L13ありと。さらハ/幸(さいわゐ)の仕合也、子をあまたもちたるに、い 00013120L14はふて、発句を沙汰あれかしと、のぞむ時、 00013130L15△△むす子たちかしらかたかれいしぼとけ〔3〕 00013140¥N11¥J 00013150¥X 00013160L16△/窮貧(きうひん)の者ありて、五つ六つなる子にむかひ、あす元日 00013170L17の明かたに、われ+銭を手にもち、目にあてゝゐる時、 00013180L18あれ、とゝの銭のなかから、めを(69オ)見出いて御座ある 00013190L19ハといへと、ねん比にをしへをき、あけの日、銭を目にあ 00013200M1て、むすこかかたを見れども、いとけなけれはわすれハて、 00013210M2夢にだもおもひ出さす。あまりたへかね、ゆびにて銭のま 00013220M3ねをし、しきりに、千代松よ、ゆふへからをしへたる事を 00013230M4いへといふ時、ちとかたちをおもひ出して、とゝのあなの 00013240M5なかから目見たいてやといふたる。そのとし秘所に行。 00013250¥N12¥J 00013260¥X 00013270M6△江州の坂本に侍あり。元日の夜、/湖(ミつうミ)をひきかた(69ウ) 00013280M7むけてのむと夢見る。目さめておもふ、水ハ方円の器にし 00013290M8たかふなれハ、おもふに思ふ事かなハんといふつけなるか 00013300M9やと。此心うらにてよかりし物を、わか身ハひえの山風に 00013310M10ふかれ、行道とをく土御門を尋、/占方(うらかた)の上手といふにたち 00013320M11よりぬれハ、/清明流(せいめいりう)のはかせ、まつ夢の相をおかたりあれ、 00013330M12其言句にたより吉凶を申さんと。件の様をありの/侭(まゝ)/なり時((ママ))、 00013340M13/支干(しかん)をかんがへ/調子(てうし)をはかり、/書籍(しよじやく)をまいつひらいつして、 00013350M14(70オ)あげくに、まつ案じても御覧ぜよ、/寒夜(かんや)にハ水を一 00013360M15口二口のむたにも、腹中にあたるハならひそかし、いはん 00013370M16や/湖水(こすい)をミなのむとあれは、よきに養生なされよ、/大略(たいりやく) 00013380M17腹を/煩(わつらひ)給ふ事あらんと申あへり。△△無興の。 00013390¥N13¥J 00013400¥X 00013410M18△和泉国に大鳥といふ在所あり。其庄屋か/惣領(さうりやう)の子六歳 00013420M19なり。こゆミに小矢をとゝのへもたせけるが、元日の朝、 00013430¥P31 00013440L1矢を一つはなし、俵にゐつけて、とゝよ+俵をゆふたと。 00013450L2親大によろこひ、さて+(70ウ)めてたや、ことしは尺の 00013460L3ほたけもなかくみのりて、おさむるたハらのかす+をい 00013470L4ハん事よといはひぬ。もはやこれにてをきもせて、いま一 00013480L5度矢をいて見せよと望み侍へり。むすこほめられ、心よげ 00013490L6に又いたりしか、今度ハ門の戸にあたれり。とゝよあれ見 00013500L7よ、戸をゆふたハとそをしへける。ゐたといふ事、わらハ 00013510L8べの詞にゆふたといふにや。 00013520¥N14¥J 00013530¥X 00013540L9△/商(あき)人、元日に/得方(ゑはう)より持きたる/若夷(わかゑひす)をむか(71オ)へん 00013550L10と思ひ、まちゐたれハ、あんのごとく歳徳の方よりうる者 00013560L11来れり。家の内へよひいれ、うけむといふに、折しも其朝 00013570L12小雨ふり、板にすりたるかミぬれけり。うりぬし一枚取て 00013580L13見て、是はめてたい、/懐(ふところ)へいれ、又取て見てハ懐へいれ、 00013590L14やうやくミなになる時分、ちとぬれたる一枚あるを、是ハ 00013600L15なまめでたう候、といふてわたしたり。うくる者とりて見、 00013610L16このゑひすハぬれて候ハ、といひけれハ、それよりそちで 00013620L17をあふりあれと。(71ウ) 00013630¥N15¥J 00013640¥X 00013650L18△春の始の朝より、千秋万歳とも又/鳥追(とりおい)ともいふかや、 00013660L19/家毎(いゑこと)をありきて/慶賀(けいが)をうたふに、千町万町の鳥追か参たと 00013670M1いふて、ある門の内へいらんとしけれハ、戸のわきに子を 00013680M2うみて人におそるゝ犬ありしか、/不図(ふと)むかうすねをしたゝ 00013690M3かくらひけるまゝ、あらたのしやといふを、いたさに、あ 00013700M4らかなしやと。 00013710¥N16¥J 00013720¥X 00013730M5△元三をいはひ、膳部とりあつめ、目出たいなどいろ 00013740M6+したゝめてすハりぬ。/盃(さかつき)あなたこなたと(72オ)めくる 00013750M7なかば、十はかりなる/惣領(さうりやう)、ふと座を立、親の汁に残れる 00013760M8鯛のかしらをとりて、手がいの犬をよひ、これハとゝのか 00013770M9しらぞ、くらへ、といふに、七つ八つなるむすめのハしり 00013780M10ゆき、母のくい残せる魚のほねをもちて出、これハかゝの 00013790M11ほねぞ、くらへといひし。△△無興の。〔6〕 00013800¥N17¥J 00013810¥X 00013820M12△こびたる禅門、山林に行暮て一宿せり。/亭坊(ていぼう)/向顔(かうがん)の後、 00013830M13其方ハいつれの道をか心にかけ給ふや、ととハれ、/打成一= 00013840M14片(たじやういつ=へん)、哥の道に嗜ありと。さあ(72ウ)らは、我か身/老衰(らうすい)せり。 00013850M15松/鶴(つる)の/齢(よハひ)によそへ、目出たふ発句を、とありしに、/暫(しハらく)/案(あん) 00013860M16して後、 00013870M17△△此寺の坊主を松につるすかな 00013880¥N18¥J 00013890¥X 00013900M18△町人のものいハひするあり。大晦日に/薪(たきゝ)をかひ、庭な 00013910M19る棚につませけるが、なにとやらんくづれさうなり。亭主 00013920¥P32 00013930L1あやうき事に思ひ、/下主(けす)にむかひて、もし五ケ日の内に、 00013940L2あれなる薪かくつれハ、くつるゝといふな、薪かめてたふ 00013950L3なるといへ、とをしへけるか、ハたして元三のかんをいハ 00013960L4ふ時、/崩(くづれ)かゝれ(73オ)り。下主、なふ与二郎、薪がめてた 00013970L5ふなるハとよぶ。与二郎ハしりきたり、まかせてをけ、よ 00013980L6二郎がをらふ間は、なにともあれ、めてたふハなすまい 00013990L7ぞと。〔4〕 00014000¥N19¥J 00014010¥X 00014020L8△大晦日に、六つになるむすこをちかつけ、元日の朝、 00014030L9わが此頭巾を手にもちたらハ、とゝのあれ、ともかうも頭 00014040L10巾をもたれハ、といへとをしへをきて、明朝頭巾を手にも 00014050L11ち、かぶりたきをこらへ、あちこちし見せけれハ、むすこ、 00014060L12てゝハともこもせうとおほせあつたか、ともかうもえおし 00014070L13やら(73ウ)ぬのと。 00014080¥N20¥J 00014090¥X 00014100L14△/陸奥(ミちのく)の者を中間に置たり。亭主大晦日に、/明天(ミやうてん)/早朝(さうてう)に 00014110L15ハ、何事をも/祝言(しうけん)計いふべし、あやまつて不/吉(きつ)の儀いはぬ 00014120L16やうに、とぞをしへける。件の男/手水(てうす)をつかひさし、餅ぶ 00014130L17んだしなされよ、やき申さうといふ。亭大に腹をたて、い 00014140L18ろりのきハにありし木をうちつけたり。中間かさねて、爰 00014150L19な旦那のなけきしなさるゝハの、(74オ) 00014160¥N21¥J 00014170¥X 00014180M1△人にすくれて物いハふ侍、今夜の夢に、/梟(ふくろう)か家の内へ 00014190M2飛入たると見たハとあれハ、/被官(ひくハん)の候て、それハ目出し、 00014200M3鬼ハそとへ、ふくろハ内へと申ならハして候ほとにといへ 00014210M4は、侍大に/悦喜(ゑつき)し、小袖を一重つかハしけり。如何にも/鈍(とん) 00014220M5なる/傍輩(はうばい)是を見、我れにも夢物語せられよかし、気にあふ 00014230M6やうにいふて、小袖をとらん物をとおもひゐつるか、/彼主(かのしゆ) 00014240M7人ある朝、又、此ゆふへわれかあたま落る+と夢見たハ 00014250M8とかたるに、彼鈍なる男(74ウ)ふと出て、それこそ目出き 00014260M9まさ夢+とそ申ける。〔5〕 00014270¥N22¥J 00014280¥X 00014290M10△尾州に米野与兵衛といふ武士あり。たゝ事ならす物い 00014300M11ミする人なりし。勢田大明神を/信仰(しんかう)し、折&参詣の度、先 00014310M12へ侍をはしらせ、右の方に不吉の物あれハ、右へむきて、 00014320M13たんほゝといふ。すなハち彼人/顔(かほ)を左にし行、左の方に不 00014330M14吉の物あれハ、左へむきて、たんほゝといふ。すなハち彼 00014340M15人かほを右になして行。奇妙の(75オ)仕合なりし。ある時 00014350M16の参りに、道に/雁(かり)のいきたるか、えたゝすしてゐたり。す 00014360M17なハち右の与兵衛、/急度(きつと)雁をつかまへ、是ハかりかね、い 00014370M18やな物、かしかねなれハよいが。又とりまハし、是ハがん 00014380M19すまぬ物、いま+し、唯もていて捨よといへる。おかし 00014390¥P33 00014400L1や。 00014410¥N23¥J 00014420¥X 00014430L2△/鍛(かぢ)冶屋の土佐といひて、西洞院にありし。物いハふ事 00014440L3人に過たり。年の暮に孫の七八なるを近つけ、元日に我か 00014450L4顔を見、日本のかな(75ウ)とこは、ミなちいのかなとこ/そ((ママ)) 00014460L5いへ、とねんころにをしへし。あくる朝、やれ松千代、昨 00014470L6日の事ハととふ時、日本のかなしみハ、ミなぢいのかなし 00014480L7ミやといへり。(76オ) 00014490¥Q1 00014500L11元和元年の比、安楽庵咄を所望いたし、承候へハ、別而お 00014510L12もしろく存るに付て、御書集候て、草子にいたし給候やう 00014520L13にと申候処、一両年過、八冊に調給候。紛失可仕かと存、 00014530L14奥に書付置也。 00014540L16△寛永五年 00014550L17△△△△三月十七日△△△△△△△重宗(76ウ) 00014560¥P34 00014570¥Y1醒睡笑巻之二目録 00014580L3名津/希(ケ)親方 00014590L4貴人之行跡 00014600L5/■(ウツトリ) 00014610L6/吝(シハ)太郎 00014620L7/賢達亭(カシコダテ)(1オ) 00014630¥T1醒睡笑巻之二 00014640¥T2名つけ親方 00014650¥N1¥J 00014660¥X 00014670M5△いろはをもしらぬこさかしき/俗(そく)あり。ある/東堂(とうたう)の座下 00014680M6にまいり、われ+年もなかばふけ、わか名にてもいかゝ 00014690M7に候、なにとそ左衛門か右衛門と、なをつきたきよし、望 00014700M8しかハ、東堂、大かたそちのつきたいとおもひよりたるを、 00014710M9いふてきかせよとあれは、さらハ/日本(につほん)左衛門とつきたきよ 00014720M10し申けり。東堂あざわらつて、さやうの(2オ)大なる名は 00014730M11めづらし過て、/愚(ぐ)僧まで人のほうへんせんずるハとあれは、 00014740M12くたんの男、いや、あまり大なる名とハ存候ハす、とう左 00014750M13衛門とつきたるさへ御座候は。〔1〕 00014760¥N2¥J 00014770¥X 00014780M14△豊前の国の大守、長岡越中守殿、京より壁ぬりの上手 00014790M15を一人つれて下向あり。過分に知行をも給りしかハ、仕合 00014800M16/比類(ひるい)なし。とてもの義に名字を下され、名をつき/替度旨(かへたきむね)/懇(ねんころ) 00014810M17に申けれは、心得たり、一段/望(のそミ)/神妙(しんへう)也、かくこそ(2ウ) 00014820M18あるへけれ、つけてやらんとて、/誉藁(すさハら)の朝臣/鏝次(こてつぐ)下地/壁(へい)右 00014830M19衛門と。△△△奇妙+。 00014840¥P35 00014850¥N3¥J 00014860¥X 00014870L1△人ありて沙門の家に入、ほつたいして後、/戒名(かいミやう)をつか 00014880L2ん事をこふ。/住持(ぢうじ)の僧とふ、なんぢが心にのぞめるいしゆ 00014890L3ハなきかや。たゝ私のねがひにハねうだうとつきたう御座 00014900L4ある。そもなにと云しさいそや。さん候、我か親は法華宗 00014910L5にて候、又母ハ浄土宗にてありし程に、ねう法蓮華経のね 00014920L6うの字と、なまひだうのたうの字をとり(3オ)あわせて、 00014930L7ねうだうと。 00014940¥N4¥J 00014950¥X 00014960L8△雄長老の小者に、鳥をさす上手あり。前大樹御/耳(ミゝ)にた 00014970L9ちし。内&尊意の旨、長老承及申され、辱儀なり、様子た 00014980L10ち聞罷出よ、名をハ松若といふなる、此まゝにてハいかゝ 00014990L11と/伺(うかゞ)ふ。さらは/伯耆(はうき)になれとありけれは、それはあまり分 00015000L12に過てと恐れたり。大事なし、幸柄さしはうきよ。 00015010¥N5¥J 00015020¥X 00015030L13△河内の国の内山のねきといふ所に、さのミ(3ウ)事も 00015040L14かゝで世を送る百姓ありしが、われとわか名を畠山の右兵 00015050L15衛/佐(すけ)とつき、まんじくすミ、いやをうの返答をうちけれは、 00015060L16人ミなおかしき者にいひなし、ほうへんハすれとも、たれ 00015070L17ありて、むやくとをしふる者もなかりしに、しんるいの者 00015080L18ども聞かね、あたりに物なとよミたる僧のありけるをたの 00015090L19ミ、右兵衛佐と引合、つね+出入をいたしけれは、/麻(あさ)に 00015100M1そふ/蓬(よもき)はためさるになをくなるいはれにや、僧の/教訓(けうくん)とあ 00015110M2れは(4オ)そむかず、たうとミあへり。よきみきりを見あ 00015120M3はせて、僧のいはれけるハ、そちの名を畠山右兵衛佐とい 00015130M4へは、なにとやらんいひにくがるほとに、下をうへになし 00015140M5て、山畠助兵衛といふてハいかゝあらふずと、なをしけれ 00015150M6は、ともかくも、あしきことハよものたまハしとて、かて 00015160M7んしけり。 00015170¥N6¥J 00015180¥X 00015190M8△かたのことく人のもてはやす侍ありしが、いろはより 00015200M9ほかにハ、かなかきの文をさへよむことなし。(4ウ)ある 00015210M10時、/地下(ぢけ)人参りて、我か名をかへたきよし望けれは、れい 00015220M11のいろはをかたハらにをきて、いひようへとつけうかや、 00015230M12いや、それならハろひようへとやつけん、いや、はひやう 00015240M13へ、にひやうへ、ほひやうへとつくれとも、いやたゝ、い 00015250M14ますこしながうて、はねたなをつきたふ御座ある、と申た 00015260M15れは、さらは、へとち左衛門とつけうずといへり。〔2〕 00015270¥N7¥J 00015280¥X 00015290M16△心うきたる侍のひくハんに、五十にあまる者有。名を 00015300M17弥十郎とそいひける。あるとき/主(しう)たる(5オ)人、彼弥十郎 00015310M18をよひ出し、そちハ年よりも/余(あまり)に名かわかいほどに、けふ 00015320M19からハ/馬丞(むまのぜう)になれや、とありしとき、ゑミをふくミ、いひ 00015330¥P36 00015340L1むとわらひけれは、きやつを馬丞とつけたれは、いさミて 00015350L2はや、いなゝいたよと。〔3〕 00015360¥N8¥J 00015370¥X 00015380L3△細川右馬丞殿へ、招月の参られたれは、七夕の馬とい 00015390L4ふ題を出して、 00015400L5△△七夕にかしつと見えて木幡山 00015410L6△△△けふはかちにてこゆる旅人(5ウ) 00015420¥N9¥J 00015430¥X 00015440L7△東西わきまへさるおとこ、年も六十にちかづきけれは、 00015450L8/棄恩入無為(きをんにうむゐ)の心さしをおもひより、ほたいをたのむ寺にま 00015460L9うて、しきりにほつたいの望をとげんとす。住持の僧、す 00015470L10なはちかミをそりて、名をば/法漸(ほうぜん)とつけたり。法とはのり、 00015480L11のりハそくいひのこと、ぜんとハやうやく、やうやくハか 00015490L12うやくのことゝ、道すからおほえ、家にかへれは、人ミな 00015500L13あつまり、法名をとふに、法漸とこたふ。法の字のよミハ、 00015510L14のりを忘れ(6オ)て、そくいひと、漸の字のよミハ、やう 00015520L15やくを忘れ、しハしくふうし、かうやくとこそ申けれ。 00015530¥N10¥J 00015540¥X 00015550L16△佐渡に本覚坊といふ山/伏(ぶし)あり。治部卿とて弟子をもち 00015560L17しが、ある年、名代と号し嶺入させけり。雲に/臥(ふし)岩を枕の 00015570L18難行事をハり、本国に帰りぬ。師の本覚対面の時、治部卿 00015580L19申けるやう、今度ハ先達憐愍をくハへられ、名を/替(かへ)、大/夫(ぶ) 00015590M1になされて候、とかたりけれは、なにと大夫となつた、曲 00015600M2事なり、われ(6ウ)さへ、さやうに大なる名をはつかぬに、 00015610M3中+のことや、さりなから、本山にてつきたる名をよハ 00015620M4ぬも又いかゝなる条、たゝ中ぶになれとそなをしける。 00015630M5〔4〕 00015640¥N11¥J 00015650¥X 00015660M6△いかにももんまうなる者の、さすか時+寺に出入す 00015670M7るあり。茶をもらひてのむたよりに、ずんぎりといふ字ハ 00015680M8なにと書まいらするそや。/直切(づんぎり)と書とをしふる。さらハか 00015690M9いてたまハれと所望し、/火燧袋(ひうちふくろ)にいれてもちぬ。/齢(よハひ)ふり 00015700M10(7オ)て、かしらをそり、ミつから名を/道(たう)ずんとよぶ。聞 00015710M11人ミな、めつらしや、つゐにきゝたることもないなといふ 00015720M12て、ずんの字ハととふ。直切のずんの字をさへしらいで、 00015730M13物かきたてハおやめあれと、けつくに。 00015740¥N12¥J 00015750¥X 00015760M14△禅門になりたる者にむかひ、名をハ/道見(たうけん)といふへし、 00015770M15人ありてよミをとハゝ、道ハミち、見ハミるとよむとこた 00015780M16へよ。かしこまりて候、ありがたし、みるといふ物ハ、そ 00015790M17のまゝひじきに(7ウ)にたる物の事て御さあるほとに、中 00015800M18+わすれは仕まいといひしに、ある人、そちか名ハ、道 00015810M19ハみちてあらうず、見ハととへは、見はひじき。〔5〕 00015820¥P37 00015830¥N13¥J 00015840¥X 00015850L1△ちとおとけたる禅門、法名をこふに、われらはうかと 00015860L2したよひこゑハいやて御座ある、二つなからはねた名をつ 00015870L3けてたまハれとのそむ。心得たりとて、/順欽(じゆんきん)とつけたり。 00015880L4順はめぐる、欽ハ/欽明天皇(きんめいてんわう)の欽の字ぞとをしへけれは、手 00015890L5をあハせて、それハ王様のおなの字なり、(8オ)又用明天 00015900L6皇と申も候かととふ。中+それも同帝王にてあるぞ。と 00015910L7つくとかてん仕たるとてかへりぬ。人、順欽の二字をとふ。 00015920L8順はめぐる也、欽ハ用明天皇の欽の字よ。△△すりちがふた。 00015930¥N14¥J 00015940¥X 00015950L9△年八旬にあまり、はしめて男子をまうけ、悦かきりな 00015960L10し。ある東堂のもとにつれ行、うどんげの花まち得たる心 00015970L11ち候、此子に名をつけてたひ候へかしと申けれは、やすき 00015980L12(8ウ)事とて、千代もとつけらる。老父なゝめならすにお 00015990L13もひ、やとにかへり、あたりの人をまねき、酒なともりな 00016000L14がしけり。其座の中に又東堂へ出入者ありて、千代もとつ 00016010L15けられし子細を、如何にととひし時、されはとよ、八十に 00016020L16あまりての子なれは、ぬしか子でハあるまい、たゝ人の子 00016030L17にてあらんと思ひ、さて、ちよもとはつけたよ、業平の哥 00016040L18に、 00016050L19△△世中にさらぬわかれのなくもかな(9オ) 00016060M1△△△ちよもといのる人の子のため 00016070M2とあるハと返事なり。 00016080¥N15¥J 00016090¥X 00016100M3△才智のたらざるをばかへり見ず、/高慢(かうまん)したる躰の者、 00016110M4和尚の/席(せき)に/詣(もうて)て、しきりに/斎名(さいミん)をこふとき、なんち何事そ、 00016120M5修行底の/徳功(とくこう)ありやとのたまへは、さん候、東坡山谷のや 00016130M6うにこそあるましく候へ、をよそ詩聯句の道にはくらから 00016140M7すと申。和尚、にくき心とやおほしけん、めてたふ候、さ 00016150M8らは東坡の坡と(9ウ)山谷の谷をとりあはせ、坡谷斎とよ 00016160M9バんとなん。 00016170¥N16¥J 00016180¥X 00016190M10△又東堂にむかひ、それかし若年より心にかけ、/碁(ご)/将棋(しやうぎ) 00016200M11連歌弓法の道を心得て候まゝ、その旨を工夫ありて、/斎名(さいミん) 00016210M12をあたへたまへとこふ。僧ほめて、人に一徳ある事まれな 00016220M13り、それならは唯、四徳斎といはん。△△いやな斎名の。 00016230¥N17¥J 00016240¥X 00016250M14△名字の/讃嘆(さんだん)する時、ある者のいふ、昔より今に公家に 00016260M15ハ草や木の名をつき給ふ事や。なにと。すゝき殿、松の木 00016270M16殿、竹の内殿、/薮(やぶ)殿、(10オ)/葉室(はむろ)殿、柳原殿なと。いやま 00016280M17たある。/誰(たれ)ぞととへは、とうざんせう殿とて。 00016290¥N18¥J 00016300¥X 00016310M18△傍より申けるハ、お公家衆ハ/鳥獣(とりけたもの)の名をこそつかせ 00016320M19給へ、まつ、烏丸殿、/鷲尾(わしのお)殿、鷹司殿、猪熊殿といひけれ 00016330¥P38 00016340L1は、又そはの者、またある。たれそや。/万里(まで)のこうじ殿の。 00016350¥N19¥J 00016360¥X 00016370L2△小性の名をかけがねとつけてよふ人あり。なんのゆへ 00016380L3ぞやとあるしに問ひけれは、唯の時は我まへにゐるやうな 00016390L4るが、少しなり共(10ウ)用のあるとなれは、はづすといふ 00016400L5心なりと。〔6〕 00016410¥N20¥J 00016420¥X 00016430L6△/相撲(すまふ)とりあり。雄長老のもとに出て、なにとそ名と名 00016440L7字をつけて給れと望しかハ、/荒磯(あらいそ)/浪助(なミのすけ)、ついでに名乗をこ 00016450L8ふ時、/堅苔(かたのり)と。(11オ) 00016460¥T2貴人之行跡 00016470¥N1¥J 00016480¥X 00016490L11△信長公に対し、公方御/謀叛(むほん)の時、/即(すなハち)御出馬ありて、上 00016500L12京/放火(はうくわ)なされし事ありし後、連一/検校(けんぎやう)御前に候て、今度 00016510L13御/陣洛(ちんらく)中のさハぎ、上下おちおそれたる事、/前代未聞(ぜんだいミもん)と申 00016520L14上けれは、さあらふずる、扨そのおそれたるやうすハと仰 00016530L15あれは、されは、上京に火かゝると見て、二条に候し者の 00016540L16妻、まづ我が子をさへつれてのけはすむとおもひ、(12オ) 00016550L17三つ四つなる子をせなかにおひ、ハしりふためき、四条の 00016560L18橋のもとまでにけきたり、あまりくるしく、ちと子をおろ 00016570L19してやすまんと思ひ、地のうへにたうどをいて見けれは、 00016580M1/石臼(いしうす)にてそ候ひける。〔1〕 00016590¥N2¥J 00016600¥X 00016610M2△/護明(ごめう)/僧正(そうしやう)の母上/幼少(ようせう)にてわかれ、つゐにあはぬをうら 00016620M3ミの歌となん、 00016630M4△△春雨のをやミもはてぬこハいかに 00016640M5△△△ふりすてられてぬるゝ袖かな(12ウ) 00016650¥N3¥J 00016660¥X 00016670M6△紹巴のかたへ、烏丸殿其外公家達の御入ありて、/樹木(しゆもく) 00016680M7なと御覧あれは、桃柿のもとに、人のなりをまね、弓と矢 00016690M8をもたせたるおほし。からす丸殿、あれハなにの用心そや。 00016700M9されは鳶のきてハ、なり物をあらす、おとしなりと申され 00016710M10たれは、烏丸殿、鳶かや、其次のものゝ用心てはないかと。 00016720M11時の興にはあいらしやと、人ミな申せし。 00016730¥N4¥J 00016740¥X 00016750M12△濃州のたいねんといふ人、/徹書記(てつしよき)/年頭(ねんとう)(13オ)の祝義に 00016760M13参られ、/土産(とさん)を懐よりとり出し上られつる。とりて見給ひ 00016770M14けれは、 00016780M15△△今年よりおしゝほしゝの二心 00016790M16△△△うすくなりせは国そおさまる 00016800M17千金の/携(たづさへ)にもまされりと、/褒美(はうび)ありし。尤奇なるかな。 00016810¥N5¥J 00016820¥X 00016830M18△大閤の御時、二徳といふ者、/別(べつ)して御気に入たり。あ 00016840M19る朝、/生鶴(なまつる)の/汁(しる)をくハせよとあれば、/愛宕(あたご)/精進(しやうじん)をいたす、 00016850¥P39 00016860L1下されましきと申(13ウ)上る。をのれかしゆつな、何事を 00016870L2いのると。私はたゞ大閤様の御/宿願(しゆくくハん)に候。何事をいのる 00016880L3ぞ。/臆病(おくひやう)にならせらるゝやうにまもらせられよと。臆病で 00016890L4よからん事ハ。されは、あまり命しらずに、/鉄炮(てつほう)のさきへ 00016900L5もかまハせ給ハねハ、若あたりてはてさせられてハ、私ハ 00016910L6なにとならふと存候てと、申上けれは、さもあらんとの御 00016920LM気色なりし。 00016930L8△△慈悲の目ににくしとおもふことはなし(14オ) 00016940L9△△△とかあるは猶あはれなりけり 00016950L10ともあれは、天下の主に似合たりとや申さん。 00016960¥N6¥J 00016970¥X 00016980L11△大名の、世にすぐれて物見なる大/鬚(ひげ)を/持(もち)たまへるあり。 00016990L12あまりにひげをまんじ、くるほとの者に、わかひげをハな 00017000L13にといふぞととひたまふ。たゞ世上に/殿様(とのさま)のおひげを見る 00017010L14者ことに、から物と申さぬ者ハ御座ないと申あへり。大名 00017020L15うちゑませたまひ、けに、たれも(14ウ)さいふよと、ひげ 00017030L16をなで+して、そこなる者こえよとまねかせたまひ、身 00017040L17ちかくよせさゝやきて、ミつからひげをとらへ、弓矢八幡 00017050L18そ、日本物ぢや。〔2〕 00017060¥N7¥J 00017070¥X 00017080L19△河内の国に/交野(かたの)といふ所あり。かた野の/御狩(ミかり)とかける、 00017090M1これ也。彼領主に大塚彦兵衛とかやいふて、あたりまて崇 00017100M2敬の人ありき。宗祇と/入魂(じゆつこん)他にことなり、卯月のはじめ 00017110M3つかた、祇公たちより給ひ、休息のほどありし。(15オ)い 00017120M4ろ+/風流(ふうりう)の物語に時うつりて、なにと祇公ハいまだ郭公 00017130M5のはつ音をハ聞給はぬや。いな、/夢(ゆめ)にだもをとつれずとあ 00017140M6り。大/塚(つか)、さらはわれ発句を仕、なかせんとて、 00017150M7△△なけやなけわか領内の郭公 00017160M8とあれは、祇公の脇に、 00017170M9△△孫子をつれてなけ時鳥 00017180M10第三をする人なし。/迚(とてもの)の事にさた候へとあれば、又祇公、 00017190M11(15ウ) 00017200M12△△とにかくに御意にしたかへ郭公 00017210M13時にあたり、人の心をやふらんハ興さめて見えぬへし。祇 00017220M14公のあいさついたされ候かな。 00017230¥N8¥J 00017240¥X 00017250M15△かたちことにやせくろミてわたらせたまふお大名有し 00017260M16が、/近習(きんじう)の侍にむかはせたまひ、/予(われ)がかほがさるににたと、 00017270M17人ミないふときいたか、まことかうそか。/信(しん(ママ))うけたまハり 00017280M18て、これハ/勿躰(もつたい)なき御諚に候、たれやの人さやうの事をは 00017290M19申あけけるぞ、世上にハたゝ猿かかほか殿様に(16オ)にた 00017300¥P40 00017310L1とこそ申候へ。大名聞給ひて、ゆゝしくも申たり、さこそ 00017320L2ハ侍らんすとて、いさゝかも/憤(いきとをり)なかりしハ、/下劣(けれつ)の申な 00017330L3らハす、大名は大耳なれや。 00017340¥N9¥J 00017350¥X 00017360L4△少年にまなびざれは/老後(らうご)にしらずといへり。貴人とあ 00017370L5るハおさなけれとも、我/意(こころ)にまかせ、そたておこなふ故、 00017380L6大/略(りやく)ハ文字/言句(ごんく)にうとき人まゝ有。しかるあひだ、さる大 00017390L7名の/直(ぢき)筆にて、連署をまハさるゝ事あり。わかき(16ウ)侍 00017400L8のもちありき、返書をあげながら、さて今度の御使に罷出 00017410L9てこそ/肝(きも)をつぶし候へ、/日比(ひころ)存しにかハり、あれやうにこ 00017420L10なたの殿に、人のおぢひろめくことハ御座ないと申けり。 00017430L11さてなにといふておそるゝぞととハれしかば、其義あり、 00017440L12こなたの文をひらきてハ、そのまゝ、あつ、こハいて+ 00017450L13と、さき+にてかんせられたほとにといへは、さそあら 00017460L14んとはかりなりしも、大名に似あひてあり。(17オ) 00017470¥N10¥J 00017480¥X 00017490L15△大相国御前に、二徳かしこまりぬ。いかなれはをのれ 00017500L16ハ、此ほと見えなんだそと御/諚(でう)ある。されは、九世の戸の 00017510L17/文珠(もんしゆ)より、参れといふ告により、/参詣(さんけい)仕たるよし申上る。 00017520L18なにと、文珠にあふたるかと御尋あり。中+御目にかゝ 00017530L19つてお言伝が御座ある。なにとあるそ、言上せよとあれは、 00017540M1二徳めに目かけてたもれ、とゝさまかゝさまと申けれは、 00017550M2そのまゝ落涙ありしと也。 00017560M3△△かくてこそ神ハ正直のかうべにやどらせ給ハんずれ。(17ウ) 00017570M4唯大人はうかとしたる躰にて、色+の事をいはせきゝ、 00017580M5其よきを/行(おこない)、あしきをすて給ハんが/肝要(かんよう)也。時の威にをそ 00017590M6れ、たま+も御気に入事計こそ申さんすれ、国のため人 00017600M7のためによき道ハ申さぬなり。大臣ハ重禄不■諌、 00017610M8小臣畏罪不敢言、下ノ情不上通、此患之大也 00017620M9と/后漢書(ごかんじよ)にあり。 00017630¥N11¥J 00017640¥X 00017650M10△雲ハミなはらひハてたる秋風を 00017660M11△△△松にのこして月を見るかな(18オ) 00017670M12といふ哥を/吟(ぎんじ)つゝ、大田/道寛(だうくハん)つねにいへるやう、/勝(かつ)て/甲(かふと)の 00017680M13/緒(を)をしめて候よ。 00017690¥N12¥J 00017700¥X 00017710M14△大名のもとへ客あり。振舞に/湯漬(ゆづけ)出たり。其/席(せき)へ又客 00017720M15あり。それにも/膳(ぜん)をすへたり。又客来あり。膳を出せとあ 00017730M16れとも、つゐに出かぬる時、物まかなふ者をよひ出し、何 00017740M17とて手間もいらぬ事のをそきや、湯を/得(ゑ)わかさぬかと、は 00017750M18をぬかるゝ時、手をつかねて、湯ハ御さるが、づけか御座 00017760M19ないと申たるにぞ、どつとわら(18ウ)ひになりにける。 00017770¥P41 00017780L1(19オ)〔3〕 00017790¥T2■ 00017800¥N1¥J 00017810¥X 00017820L4△腑のぬけたる仁に、ゑひをふるまひけるが、/赤(あかき)を見て、 00017830L5これハむまれつきか、又朱にてぬりたる物かととふ。/生得(しやうとく) 00017840L6ハいろがあをけれど、かまにていりてあかふなるといふを、 00017850L7がてんしゐけり。ある侍の馬にのりたる先へ、二間まなか 00017860L8柄の/朱鑓(しゆやり)二十本計もちたる中間とものはしるを見、手をう 00017870L9つて、さても世ハひろし、きとくなる事やと/感(かん)する。なに 00017880L10をそなたは(20オ)かんするやととひたれは、其事よ、いま 00017890L11の鑓の柄のいろハ火をたいて、むいたものぢやが、あれほ 00017900L12どなかい、なへがよふあつた事やと。 00017910L13△△△△三月尽を△△雄長老 00017920L14△△春の日は長/鑓(やり)なれと/篠(さゝ)の葉の 00017930L15△△△ひと夜はかりになれる石づき 00017940L16也/足(そく)の/判(はん)に、さゝの葉鑓石つきになれる、三月の名残よく 00017950L17いひつゝけられたり。作にをひてハ吉光にこそ。(20ウ)〔1〕 00017960¥N2¥J 00017970¥X 00017980L18△美濃国立政寺の老僧に、天/瑞(ずい)といふありき。始て京へ 00017990L19のぼらんと用意するを見、人しなんするやう、京はものゝ 00018000M1そらねをいふ処ぞ、たとへは一銭にうるへきをば十銭とい 00018010M2ふ、其心得をしたがよひとをしへたり。それていの事をは、 00018020M3ぬかるまいぞとうけごひ、やう+都にのほり、/祇園(きおん)あた 00018030M4りにて、ちと望にやおもひけん、/餅(もち)を出したる棚により、 00018040M5此餅いくらととふ。一つ一文といふ。天瑞ちく+(21オ) 00018050M6/合点(がつてん)し、一文ハそらねじや、たゝくハふ。△△夜るから起て 00018060M7ほねをおり、物のいりたるもちを、たゞまいらせう子細ハの。 00018070¥N3¥J 00018080¥X 00018090M8△座頭の、/出居(でい)にやどをかりていねたるを、うちわすれ、 00018100M9よびも出さす、つきたる餅のあたゝかなるを、家内の人ば 00018110M10かりくふ座敷へ、 00018120M11△もちつくと目にハさやかに見えねとも 00018130M12△△△杵の音にそおとろかれぬる 00018140¥N4¥J 00018150¥X 00018160M13△夜ふけ三更のおハり、奈良の都に火事出来す。ある家 00018170M14主いそき二/階(かい)にあかり、火もとを(21ウ)とふ。隣の者みな、 00018180M15橋本のかとより三間目よといふ。それハ我か/姉(あね)のもとなり 00018190M16と肝をつぶし、そのまゝハしるとおもひ、たうどおちて/腰(こし) 00018200M17をうちおりたり。日を/経(へ)わつらふを、人見まひたれば、か 00018210M18まへて此後に、なにとたいせつなる人の家がやくるとも、 00018220M19二階からすくにおハしりあるな、おつるにすふだ。 00018230¥P42 00018240L1△△△△△△△△△△最明寺時頼禅門 00018250L2△△をそるへし用心もせでくやむなよ(22オ) 00018260L3△△△火ことぬす人さてハのちの世 00018270¥N5¥J 00018280¥X 00018290L4△ある人風呂に入てゐけるが、俄にかほの色かハリ、あ 00018300L5らくるしや、ふな心があるといふて、/吐逆(ときやく)する。こハ何事 00018310L6そ、海はなし、船はなし、ゐな病やとふしんしけれは、さ 00018320L7れはよ、只今是へ入られたる大ひげの男、此ほとのりし船 00018330L8の船頭に、よくにたとおもふてあれは、そのまゝよふたと。 00018340¥N6¥J 00018350¥X 00018360L9△堺の正法寺に/恵雲(ゑうん)とて、けしからす犬に(22ウ)をそる 00018370L10ゝ坊主あり。/珠旭(しゆきよく)といふ寺僧とつれたち、/邏斎(ろさい)に出しが、 00018380L11/途中(とちう)にゑのこあるを見つけ、そのまゝにぐる。珠旭彼僧を 00018390L12とらへて、あれは犬でハない、ゑのこにてあるぞ、われと 00018400L13つれたちとをれといへは、いやとよ、子があれはおやかあ 00018410L14る物といふ+、にげてかへりごとハ。 00018420¥N7¥J 00018430¥X 00018440L15△藤五郎とてこさかしき者と、専十郎とてうつけと、とも 00018450L16に/田舎(いなか)の/者(もの)在京するに、/同宿(おなしやと)なり。二人つれたち、講堂の 00018460L17風呂にいらんとす。藤五郎(23オ)此ほと専十郎がうつけを 00018470L18おかしく見つけ、さいハひの事や、小風呂にてあたまをは 00018480L19らんとたくミかまへて、専十郎、京の/習(ならい)に、風呂に入者ハ 00018490M1かならすあたまをはるそ、腹をたつるを/田舎人(いなかびと)といふ、は 00018500M2られてもこらゆるが、都人そといひおしへ、小風呂にとも 00018510M3なひ入、おもふさま、目とはなのあひたをはりけり。専十 00018520M4郎いふ、藤五郎はやくハせたハと。さたするな+とて、 00018530M5又一つはりてけり。藤五郎又くハせたハと。(23ウ)専十郎 00018540M6おもふ、わればかりはられてかへらんハ本意なしとあんじ、 00018550M7老人のよほ+と入者をまちて、おづ+一つはりたれは、 00018560M8彼あひて大に腹をたち、いつくのうつけめぞ、是非はりか 00018570M9へさんとわめく時、専十郎いふやう、藤五郎、いかいゐな 00018580M10か者があるは、初心ものしやと。 00018590M11△△風呂たきのわか身はすゝに成ハてゝ 00018600M12△△△人の垢のミおとすものかな。(24オ)〔2〕 00018610¥N8¥J 00018620¥X 00018630M13△/下手(へた)なる長/談義(たんぎ)の席に、よハひ五十にあまる女房、か 00018640M14たひらをかづき、/聴衆(てうしゆ)ミな+たちさ/れ((ママ))、つゐに一人たゝ 00018650M15ず居たり。長老高座よりかんじてほめんとおもへる刻、彼 00018660M16女房、唯今目さめたるかほにて見あけ、昨日の長老のまた 00018670M17御座あるハと。△△うつとりがふたりある。 00018680¥N9¥J 00018690¥X 00018700M18△/利根(りこん)をよそにあつけたる亭主、なましゐにこ/便当(へんたう)にて、 00018710M19つかふ者のあまたあれとも、うつ(24ウ)とりにし、あさお 00018720¥P43 00018730L1きなとする者なし。有時中間の名をよふまてハなく、われ 00018740L2はねてゐなから、夜はほの+とあかさかやと、舞けれは、 00018750L3内の者きく+、まてしバし、まてしハし、夜はまたふか 00018760L4きぞ、しらむハ花の陰なりけりと。よい返答の。 00018770¥N10¥J 00018780¥X 00018790L5△有人/銭(ぜに)をうつむ時、かまへて人の目にハ/蛇(へび)に見えて、 00018800L6わか見る時計銭になれよといふを、内の者聞居て、銭をほ 00018810L7りてとりかへ、蛇をいれて(25オ)をきたり。件の亭主、後 00018820L8にほりて見れは、蛇有。やれ、をれじや、やれ、見忘れた 00018830L9かと、幾度もなのりつるこそ聞事なれ。〔3〕 00018840¥N11¥J 00018850¥X 00018860L10△今春禅風、毎朝の看経怠慢なし。ある朝/艮(うしとらの)方にむか 00018870L11ひ、手を合、数珠をもミ、そのもの++とはかりにて、 00018880L12神の名も仏の名も更に出さりしかハ、そはにある者、春日 00018890L13大明神かや。それ+其を、春日+と。是ハ/健忘(けんぼう)とて、 00018900L14/大智(たいち)の上にもある病也。あやまりにあらす。(25ウ)されと 00018910L15も時にあたりてハ、うつとりのやうにて此部に入。 00018920¥N12¥J 00018930¥X 00018940L16△ある長老の、高/座(ざ)にて/諷誦(ふじゆ)をよミをハり、/施主(せしゆ)の/高悦(かうえつ) 00018950L17といふ二字の内、一字よミを/忘(わすれ)、施主高+となんへんも 00018960L18いひて、あけくに、施主高よろこふといはれしも、/健忘(けんぼう)の 00018970L19病なるへし。 00018980¥N13¥J 00018990¥X 00019000M1△おり湯に入たる者いふ、此湯あつくてたまられす、か 00019010M2うの物をはやくもちきたれ。なんの用(26オ)にととへは、 00019020M3飯のゆのあつき時、かうの物にてまハせば、ぬるふなるほ 00019030M4どに。 00019040M5ほしいのかうの物といふ題にて、△△氏康 00019050M6△△義経の命にかハる次信は 00019060M7△△△今もほしいのかうのものかな 00019070¥N14¥J 00019080¥X 00019090M8△ちと利口になき廿あまりの/惣領(さうりやう)あり。父かれをさそひ、 00019100M9/外面(そとも)に出て/遊覧(いうらん)す。折ふし比は五月のすゑ、/沢辺(さハべ)に/真薦(まこも)し 00019110M10けりあひたるを見、親じや人、比ちまきの木に/実(ミ)ハいつな 00019120M11るやと。(26ウ) 00019130¥N15¥J 00019140¥X 00019150M12△男子一人あり。親の弔とて/神子(ミこ)を請し、口よする時に、 00019160M13神子、親人ハ/鮒(ふな)になり、水にあそぶぞ、心/安(やすく)おもへと。さ 00019170M14らはとて池をほり、ふなをたくさんにはなし、毎日食を/投(とうず|なくる)。 00019180M15あはれむ事年久し。/朋友(ほうゆう)よりあふ度に、汁にせよかしとす 00019190M16ゝむれとも、かつてゆるさず。かゝりしか、主人をうつけ 00019200M17と見なし、あるとき、をして鮒をとり、汁にするさへおか 00019210M18しきに、子にむかひ、まづ汁をすふて見よといふに、うけ 00019220M19(27オ)とり、あつたら親じや人に、しほがないと申ごとハ。 00019230¥P44 00019240L1〔4〕 00019250¥N16¥J 00019260¥X 00019270L2△うつけらしき友達とものよりあひ、をのれ+が妻の 00019280L3噂をかたる中に、一人いひけるハ、我か女房ハ手きいて、 00019290L4/所帯(しよたい)ようて、すかたいつくしく、/愛敬(あいきやう)有、いハんかたなく 00019300L5おほゆれとも、とかく心がたんりよにて、月+に一度二 00019310L6度、われをたゝくにくたひれた。又ひとりの男も、それ 00019320L7+、われが子もちもそしる事ハ/努(ゆめ)&ないが、ともすれは 00019330L8あたまを杖にてきするに、あきはてた。今一(27ウ)人がい 00019340L9ひけるハ、とかく女房にたゝかるゝハ、日本一のうつけ者 00019350L10じや、さて+そちともハほれ者やとわらふ時、先の二人、 00019360L11なにとそ、をんなにたゝかれぬ身のもちやうかあるかや。 00019370L12中+、/秘事(ひじ)がある、しりたる者があるまいといふて、あ 00019380L13けくに、はきものはかずににげたかよいと。 00019390¥N17¥J 00019400¥X 00019410L14△わきに出る太夫、がく屋にて目に仏をうしなひ、物を 00019420L15たつねまハる/風情(ふせい)あり。人ミなふしんし、なにが見えぬぞ、 00019430L16とも+たつね見んといへども、(28オ)いや、ちとものが 00019440L17と/秘(ひ)しよしていはす。あり+てのち、唯今爰におきたる 00019450L18ゑほしかないと。そちかあたまにきてゐるハとわらふ時に 00019460L19そさぐり見て、/実(まこと)にけんようもない所にあつたよ。 00019470¥N18¥J 00019480¥X 00019490M1△振舞の汁に、大に見事なる/笋(たけのこ)出たり。人ミな、大竹 00019500M2にならんものをむさとくひすてんハおしい/ひ((ママ))なと沙汰しけ 00019510M3れは、さるうつけ、いや竹ハ大事もない、大木になり、ひ 00019520M4き物につかふへき/松茸(まつたけ)をさへくふほどに。(28ウ) 00019530M5△△△落行河の末もしられす 00019540M6△△笋ハ本よりふしのあらハれて 00019550¥N19¥J 00019560¥X 00019570M7△蒲生飛騨殿/所労(しよらう)すてに一大事なるとて、人&あつまり、 00019580M8気をのミゐたりし中に、うつとり二人かしらをあはせ、さ 00019590M9ゝやきけるハ、せめて飛州のことぶき、三年つゝかなかれ 00019600M10かしと/歎(なけき)けるか、一人いふ、よき毒をとゝのへてあげたい 00019610M11事ぢや。それハなにとしたる分別ぞや。されはよ、たかい 00019620M12毒をのめば当座に死なす、三年(29オ)してしぬといふほど 00019630M13に。 00019640¥N20¥J 00019650¥X 00019660M14△京の町にて、人あまた二/階(かい)にあそびゐけるが、/目薬(めくすり)ハ 00019670M15+といふ声をきゝ、其/座(ざ)にありしうつとり、ふとたち、 00019680M16目ぐすし殿とよひよせ、一さしそれから申うけふと、うハ 00019690M17まふたしたまぶたを、我か手にてひらきまちけり。目くす 00019700M18し、それまてとゝく目ほうをもたぬ。時に手をあハせ、れ 00019710M19うじを申たと。 00019720¥P45 00019730¥N21¥J 00019740¥X 00019750L1△/亀(かめ)はいかほといくる物そ。万年いくるといふ。分(29ウ) 00019760L2別ありがほの人、亀の子をとらへて、今からかふて見ん物 00019770L3をといふ。かたハらの者あさわらつて、命は/槿(きん)花の露のこ 00019780L4とし、たとひ長/寿(じゆ)をたもつも百歳をいでず、万年の命をな 00019790L5んとして心ミんやといへは、けにもわるふ/思案(しあん)したよと。 00019800¥N22¥J 00019810¥X 00019820L6△道行ぶりに、むかふよりくる者を見れは、百八の数珠 00019830L7をくびにかけ、/高野笠(かうやかさ)の/様(やう)なるをきてあゆむ者あり。うつ 00019840L8けものこれを見/付(つけ)、手を(30オ)うつてかんずる。そなたが 00019850L9きたる笠ハ、/事(こと)の/外(ほか)大也、なにとしてそのじゆずをハ、う 00019860L10なじにかけられたととふ。いやこれハまづじゆすをくひに 00019870L11かけて、後に笠をきて候といふたれは、とかく物をばきか 00019880L12いでハと。 00019890¥N23¥J 00019900¥X 00019910L13△三好中納言殿へ、むかし/甲(かぶと)をもちて来り、ミせ参らせ 00019920L14たる事あり。是ハゐな物や、あまり甲の/鉢(はち)大なりなど/褒貶(はうへん) 00019930L15の時、ちとどんなる客人、手に取見て、扨&けつかうに御 00019940L16座ある、(30ウ)めしをかれてよからんと申。いらぬ物をな 00019950L17にゝせうそと仰あれは、唯/常住(ぢやうぢう)甲にさしられよと。 00019960¥N24¥J 00019970¥X 00019980L18△盗人にあひて、これハどちの方より、いかていの者の 00019990L19しはさぞ。いかさま内よりひきてありやと、種&さんだん 00020000M1ある所へ、こさかしき者ふと来りて、此盗人に入たる者こ 00020010M2そ、わかようしつた+といひけるまゝ、なに者ぞ、きか 00020020M3せてたべとあなかちにわひけれは、そとさゝやきていふや 00020030M4(31オ)う、此盗ハものがほしさにはいりたと。 00020040¥N25¥J 00020050¥X 00020060M5△さるかしこき人、数寄に/行(ゆき)、路地へ入たれは、植たる 00020070M6竹の先をつゝミたるがなんほんもあり。つく+見て、あ 00020080M7らきどくや+と感ずる。相客ふしんに思ひ、何事やらん 00020090M8ととふたれは、其事よ、あれほどながい竹のさきへ、かゝ 00020100M9るはしこのあつたかふしぎじや。 00020110¥N26¥J 00020120¥X 00020130M10△思ふとち四五人いさないて清水へまうてしか、茶屋に 00020140M11/腰(こし)かけなから、ひたもの餅をくふおり(31ウ)から、ひとり 00020150M12俄にいひ出しけるハ、やれ+ほうかすくミ、口のあかれ 00020160M13ぬやまひが出たハとて、かうべをさけ、/難義(なんき)なるさまなり 00020170M14しかは、人ミな肝をけし、こはいかなる事そとうかゝひ見 00020180M15けるに、あミがさをきなから、もちをくハんとせし故也。 00020190M16あミかさの緒をとき、ほうをさすりて、いかゝあるやとと 00020200M17ふに、彼男しハらく/思案(しあん)して、秘事ハまつげじやと。 00020210¥N27¥J 00020220¥X 00020230M18△十人計つれだちて、北野へ夜ぶかに参詣(32オ)しけり。 00020240M19廿五日のくんしゆなれは、をしをされ下向する道すがら、 00020250¥P46 00020260L1夜もほのかにあけぬ。/友達(ともだち)の中に、一人腰のまハりを見れ 00020270L2ハ、/脇指(わきさし)のさやバかりに刀をそへてさしたり。こハ何とし 00020280L3たぞといふに、きもをつぶし、さやをぬき、ふいて見つ、 00020290L4たゝいて見つすれともなし。あけくにいふ事ハ、おれなれ 00020300L5はこそさやをとられね。〔5〕 00020310¥N28¥J 00020320¥X 00020330L6△ちとたくらたのありしか、人にむかひて、われハ(32ウ) 00020340L7日本一の事をたくミだいたハといふ。何事をかととふ。さ 00020350L8ればよ、/臼(うす)にて米をつくを見るに、/勿論(もちろん)したへさがる/杵(きね)ハ 00020360L9やくにたつが、上へあがる杵がいたつらなり、/所詮(しよせん)上にも 00020370L10/臼(うす)をかいさまにつり、米をいれてつかハ、両ともに米しろ 00020380L11ミ、杵のあけさけそつになるまいと、思案したりといひは 00020390L12てぬに、さてつりさげたるうすに、米のいれやうハととへ 00020400L13は、まことに其思案ハせなんだに。(33オ)〔6〕 00020410¥N29¥J 00020420¥X 00020430L14△振舞の時、亭主出て、なにも無調法に候ゆへ、そさう 00020440L15にちんといたいたといふ時、あいさつの人/箸(はし)をとりなをし、 00020450L16まことにこれよりほか、ちんとさせられうやうハ御座ある 00020460L17まいと。 00020470¥N30¥J 00020480¥X 00020490L18△さかしからぬ者、いかゝしたりけん、とりはづして井 00020500L19にはまりし事あり。人こそり、はしなどさげ、はやくあか 00020510M1れといふに、我れハ一世の/面目(めんぼく)をうしなふた、あかりても 00020520M2人間ハなるまい、これからすぐに/高野(かうや)へのぼると。(33ウ) 00020530¥N31¥J 00020540¥X 00020550M3△石州に/板持(いたもち)といふ侍あり。かたのことくなる大名也。 00020560M4されともうつけ/比類(ひるい)なし。ある時/西浄(せいじやう)に行、やれ、へびが 00020570M5くひついたハと、高声にわめかるゝ。人ミなあハてゆけは、 00020580M6/木履(ぼくり)にて/陰嚢(へのこ)をふまへたり。△御一種も平等だらりと聞えて侍り。 00020590¥N32¥J 00020600¥X 00020610M7△件の板持、馬にのり、坂をのほりける時、/胸懸(むながい)ひたも 00020620M8のさかれは、/鞍(くら)と馬のかしらとの間大にのびたり。やれ/勿= 00020630M9恠(もつ=け)か出来ハとよばはる。/郎等(らうどう)とも、何事やと尋ぬれは、俄 00020640M10に馬の(34オ)くびがながふなつたハと。 00020650¥N33¥J 00020660¥X 00020670M11△同板持かたへ客あり。家のおとなの若狭守出合て、座 00020680M12敷に請じ、主人ハ他行に候ともてなし、よきにあひはから 00020690M13ふなかハ、ふと/障子(しやうし)をあけ、ミつから/頬(ほう)をたゝいて、若狭 00020700M14よ+、われハるすの分ぞと。 00020710M15△とらへてをかんやうもあるまい。〔7〕 00020720¥N34¥J 00020730¥X 00020740M16△都一条あたりにて、中間夜に入ねいり/居(ゐ)ける間に、ち 00020750M17やくと/長刀(なぎなた)をとりたり。目さめ肝をけし、殿を/呼出(よひいだ)しいふ 00020760M18やう、事の外盗人か(34ウ)はやる躰に候、刀の用心をめさ 00020770M19れよ。まつをのれがもちたる長刀を失ハぬやうにせよ。さ 00020780¥P47 00020790L1れば、其長刀をとくにとられて、それに/仰天(ぎやうてん)し、参りて申 00020800L2事よと。 00020810¥N35¥J 00020820¥X 00020830L3△ある者、/饂飩(うどん)の出たる席に、かたのことくたまハり、 00020840L4あげくにいふ、/方&(はう+)にて/実(ミ)ハかりを下さるれとも、/終(つい)に此 00020850L5花を見た事ハ御座ない、こなたにならでハあるまい、とて 00020860L6もの/思出(おもひで)に見参らせたいといふ。何事をいふそやととへば、 00020870L7(35オ)誰もしりて申ハ、うどんげのはなと。 00020880¥N36¥J 00020890¥X 00020900L8△/京(きやう)にて、盗人にあふたと興さめがほし、/隣家(となりのいゑ)の者あつ 00020910L9まり居たる処へ、/沼(ねま)の藤六立寄、なにかうせたととふ。/鍋(なべ) 00020920L10が見えぬといふに、其とりてハ我かしりたるといふ。扨& 00020930L11聞たやと立出けり。てまねきして亭主を/傍(かたハら)によびのけ、こ 00020940L12れハていど、公家がたの御内の者がとつたぞ。なにとて。 00020950L13昔からなべとり公家とてあるほどにと。(35ウ) 00020960¥N37¥J 00020970¥X 00020980L14△七月/風流(ふりう)を、/他郷(たがう)にかくる。太郎左衛門といふ、地下 00020990L15の年寄なれは、かれかもとにあつまり、ならしけり。/狂言(きやうげん) 00021000L16をする者、うつけたる/土民(とミん)に、此ゑほし、風流に入物ぞ、 00021010L17そちにわたすといひをしへ、即でゐにをきぬ。かくて一両 00021020L18日も過、風流をかくる。みち+も、ゑほしハあるかとと 00021030L19ふに、中+あるとこたふ。唯今狂言に出る時、ゑほしを 00021040M1こひけれは、太郎左衛門殿のでゐにあるとの返事ハ。(36オ) 00021050M2△△何も時の筈にあハぬを、太郎左衛門かてゐのゑほしとぞ。〔8〕 00021060¥N38¥J 00021070¥X 00021080M3△岩千代とて、十四五にて、うつけたる子あり。門より 00021090M4走来り、かゝよ+銭をひろふたといふ。母が、ようひろ 00021100M5ふた、其銭ハどこにあるぞ、いや、ひろひことハひろふた 00021110M6が、又おといたハ。 00021120M7△正躰なく身をもつものは、岩千代か/拾(ひろひ)銭とやいはん(36ウ) 00021130¥T2吝太郎 00021140¥N1¥J 00021150¥X 00021160M10△人ありて、無心の申事なれと、はれがましき処に出候 00021170M11条、貴所の/綾(あや)の小袖を、そとのま、おかしあれと文をやり 00021180M12たれば、返事に、やすきほとの御用なれど、それへ小袖を 00021190M13かしたらは、人のきゝて、われをあやかしといはん、又貴 00021200M14所をも、あやかりとや申さんなれは、/態(わざと)まいらせぬとこそ 00021210M15かきたりけれ。 00021220¥N2¥J 00021230¥X 00021240M16△和泉一国、/徳政(とくせい)のゆきて、貧なる者はくつ(37オ) 00021250M17ろぎたるといふを、△△△△一路 00021260M18△△/徳政(とくせい)をやりひつさげてつく+と 00021270M19△△△思へは物をかりの世間 00021280¥P48 00021290¥N3¥J 00021300¥X 00021310L1△すくれてしハき者の、たま+得たる客あり。何をが 00021320L2なとおもひても、/在郷(さいがう)の/風情(ふぜい)なれは、心計やなとゝいふ処 00021330L3へ、/豆腐(とうふ)ハ+とうりに来れり。亭主、たうふをかハん、 00021340L4さりなから/小豆(あづき)のたうふか。いや、いつもの大豆(まめ)のて候と。 00021350L5それならはかふまい、めつらしふあるまいほとにと。(37ウ) 00021360L6亭主の口上作意あるやうにて、とかくきたなし。人性欲 00021370L7平嗜欲害之と、/淮南子(ゑなんし)にも書たり。又蜷川新右衛門親 00021380L8当が哥に、 00021390L9△△紫の色よりもこき世中の 00021400L10△△△よくにハ恥をかきつはたかな〔1〕 00021410¥N4¥J 00021420¥X 00021430L11△家主朝食をくふ処へ、つねによりあふ人来りぬ。なに 00021440L12とめしハはや過たるかととふに、いまだし。あらおたのも 00021450L13しやとてかまハす。又人来る時、めしハくハれぬかととふ。 00021460L14はや過(38オ)たりといふ。あらおこゝろやすや。 00021470L15△△とかくくれまいじや。 00021480L16君子に三の/費(ついへ)あり。/飲食(ゐんしい)其中にあらず。/幼(いとけのふ)して学て、老 00021490L17て/忘(わするゝ)。是一つの費。君に/功(こう)あつて、/軽背(かろくそむく)。これ二つの 00021500L18費。久まじハつて、/中絶(ちうせつ)す。これ三つの費。 00021510¥N5¥J 00021520¥X 00021530L19△参河の国に、/宗恵(そうゑ)といふて/有徳(うとく)なる者あり。/生涯(しやうがい)のあ 00021540M1ひだ、いかなる煩あれとも、つゐに薬を一度のまず。年/至= 00021550M2極(し=ごく)し、すでにいまハ(38ウ)の時、知音の人、竹田の/牛黄= 00021560M3円(ごわう=ゑん)をあはせあたへんといふに、すこしも口をあかす。はを 00021570M4くひしバりゐたる。時に、こさかしく、此牛黄円、銭の出 00021580M5る薬にてなし。たゞぞ+といふてきかせたれは、くちを 00021590M6がハとあき、のミけりとなん。彼国の/左礼(され)ことばに、宗恵 00021600M7が牛黄円てたゝじやといひけるハ、これ故ぞや。 00021610¥N6¥J 00021620¥X 00021630M8△ある寺の住持、弟子にいひつけぬるやう、客あらんた 00021640M9びわすれされ、まつ/盃(さかづき)を出しては(39オ)愚僧が手の置処 00021650M10を見よ、/額(ひたい)にあらは上の酒、/胸(むね)をさすらは中の酒、/膝(ひざ)をた 00021660M11ゝかハ下の酒、此掟そむく事なかれとしめす。一度や二度 00021670M12こそあらめ、人皆後ハ見しりたりしに、させらぬたんな参 00021680M13詣する。例のことく酒を一つ申せやとて、ひさをたゝきし 00021690M14かバ、たんな手をつきて、とても御酒をたまハらは、ひた 00021700M15いをなてゝくたされいでと。 00021710¥N7¥J 00021720¥X 00021730M16△我が門に立出てあそひゐけれは、ふと知音の者(39ウ) 00021740M17のとをるに見参したり。やれめつらしや、立よりたまへと 00021750M18とむる。/嬉(うれ)しくもあひたり、ちといそく用のありて行、此 00021760M19度ハゆるしたまへといへとも、さりとは、たまの事也、ふ 00021770¥P49 00021780L1るまハずによられよやと、しきりにとゝめしかハ、さりか 00021790L2たくて立よりし。かくて、まてども+ちやをも出さず、 00021800L3日もくれかゝり、目もくらふなる程なれハ、客/腹立(ふくりう)し、人 00021810L4をうつけ者に仕なしたるハといふに、さればこそ、われハ 00021820L5始より、ふるまハず(40オ)によれといふたハとて、まハ 00021830L6とずとのあひだに、句を切たるぞおかしき。 00021840¥N8¥J 00021850¥X 00021860L7△客来るに亭出て、飯はあれども/麦飯(むきいひ)しやほどに、いや 00021870L8であらふずといふ。我れハ/生得(しやうとく)むき飯がすきじや、麦飯な 00021880L9らは三里もゆきてくハふといふ。さらはとてふるまひけり。 00021890L10又ある時件の人来る。そちハ麦飯ずきちやほとに、米の飯 00021900L11はあれとも出さぬといふ。いや、米の飯ならは五里ゆかふ 00021910L12とて、又くふた。(40ウ)〔2〕 00021920¥N9¥J 00021930¥X 00021940L13△美濃の国にて、ある侍の内に、/丹波(たんばの)/助太郎(すけたらう)とて大/欲心(よくしん) 00021950L14のいたつら者あり。誰にても目したなる人といへば、ねだ 00021960L15れて物をとる者也。ある時、在郷にて百姓、助太郎があり 00021970L16くを見付、/肝(きも)をけし、いかにもかくれんとしけるを、そこ 00021980L17なるハどこの者そととふ。たゝ、地下の百姓とこたふ。そ 00021990L18のまゝ助太郎、われに礼を百姓といふや、おもひもよらす、 00022000L19せめて二百せよとぞまとハれける。(41オ) 00022010¥N10¥J 00022020¥X 00022030M1△伊勢の桑名に/喜蔵庵(きさうあん)とて、いかにもしハい/坊主(ばうず)のあり 00022040M2し。たまさかに/賓客(ひんかく)の来たれり。/対面(たいめん)の後、/眠蔵(めんざう)に入てふた 00022050M3ゝびいでず。客/不思議(ふしき)におもひ、そこあたりたつぬるつゐ 00022060M4てに、めんざうを見られたれは、脇指をぬき、百つなきた 00022070M5る銭/縄(なは)の口にあてゝゐけり。こハ何事ぞととハれしかハ、 00022080M6されは候よ、此百銭の口をきらふか、さらずハ腹をきらふ 00022090M7か、其しあんを仕ると申あへり。(41ウ) 00022100¥N11¥J 00022110¥X 00022120M8△ある/芸(げい)者の親子、つれだちて貴人の前に/侍(はんべり)りしが、 00022130M9子にて候十四五歳なる者、大名の御座あるまハりにありし 00022140M10/脇指(わきさし)ののしつけを取て見、ひたものほめけれは、親がいひ 00022150M11けるやう、さやうにおこしの物なとをむさとほめぬものぞ 00022160M12よ、大名ハひよくと下さるゝ事がある物じやにと。〔3〕 00022170¥N12¥J 00022180¥X 00022190M13△若衆あり。/念者(ねんじや)にむかひて、今夜の夢に、/鶏(にハとり)のひよこ 00022200M14を一つ金にてつくり、われにたびたると見たとそかたられ 00022210M15ける。さて+、われも(42オ)たゞいまの夢に、其こと 00022220M16くなる物を参らせたれば、いやといふて、それよりやかて 00022230M17お返しありたと見たことよ。 00022240¥N13¥J 00022250¥X 00022260M18△雨ふる日のさひしさに、よしあるかたに尋行、/上戸(じやうご)の 00022270M19二人よりあひ、しゆ※はなしども、時すぐれと、さらに 00022280¥P50 00022290L1/盃(さかつき)の/噂(うハさ)もなけれは、客やうすを見きりいふ、貴所の酒で 00022300L2も我酒でもなふて、大酒がしてあそひたいのと。 00022310¥N14¥J 00022320¥X 00022330L3△ことさらちいさき/土工李(とくり)に、古酒を送るとて、(42ウ) 00022340L4△△天の原ふる酒見れはかすかなる 00022350L5△△△三かさものまはやがてつきかも 00022360¥N15¥J 00022370¥X 00022380L6△念者が若衆にむかひて、/真実(しんじつ)そなたをいとおしいとい 00022390L7ひけれは、若衆の言葉に、にの字をえいはて、いとしくは、 00022400L8ぜと、返答にさやうの事を/聞(きけ)バ恋かたと。 00022410¥N16¥J 00022420¥X 00022430L9△紀州/根来(ねごろ)に小谷の西原と云人、かたのごとく有徳なり 00022440L10し。中間をかんとする時、内の者にいひわたすやう、/給分(きうふん) 00022450L11をはいかほとねぎり(43オ)て/定(さため)よ、日に三度のくひ物ハほ 00022460L12しいほどくはせんと、かたく約束をはしながら、一向さハ 00022470L13なく、げぎやういかにもかんそに、ひもしさやるせなし。 00022480L14案に相違したるむね訴訟しけれは、されはこそ、始より食 00022490L15はほしい程と定めたハ、腹一はいくハせうとハいはなんだ 00022500L16と。いつれ身をもつ人の/工夫(くふう)ハ、そともくずかない。 00022510L17△△吉野川その水上をたつぬれは 00022520L18△△△桧原が雫愼の下露(43ウ) 00022530¥N17¥J 00022540¥X 00022550L19△/貧僧(ひんそう)ありて、/弟子(でし)まゝにすれは、/案(あん)の/外(ほか)おほく酒をと 00022560M1りよする。/所詮(しよせん)、今よりは銭廿にハゆひ二つあたまにあけ 00022570M2んと定けり。ある時/指(ゆび)二つ/鼻(はな)のわきにあてゝ見する。振舞 00022580M3過てとふ、いかなればけふの酒ハおほかりつると。けふの 00022590M4は廿にてなし、其故ハ、はなの中にしてゆび二つを両にあ 00022600M5てられたほとに、はなを十文にし卅がとりよせたるハの。 00022610¥N18¥J 00022620¥X 00022630M6△濃州の/岐阜(ぎふ)に不動院とて真言宗の(44オ)老僧あり。 00022640M7正月の菓子に、国の名物なる枝柿三つすへて出し、其分に 00022650M8て毎年/時宜(じき)調ぬるを、おとけ者よく見知て、あまりにしハ 00022660M9きはたらきをよく見、/例(れい)の菓子出ける時、あら/珍(めづら)しや、/賞= 00022670M10翫(しやう=くハん)申さんと一つならす二つ迄くひけり。院主ハ/苦&敷(にか+しき)事に 00022680M11おもハれ、あのていならはミなくハれん、さらば愚僧も相 00022690M12伴仕らふと、とりてくハれける心の内そおかしき。 00022700M13△△客退出ノ跡に、せめてもとをひいたと。(44ウ) 00022710¥N19¥J 00022720¥X 00022730M14△我らハ/増水(ぞうすい)/嫌(きらい)なりとつねにいふ者あり。晩かた増水半 00022740M15へ来る。ちと申さんずれと、おきらひなるまゝ是非なしと 00022750M16あれは、なにと此増水に/胡椒(こせう)ハいらぬか。いやいらぬ。そ 00022760M17れならハちとたべふと。〔4〕 00022770¥N20¥J 00022780¥X 00022790M18△有銭の家主あり。夏六月下旬の比、遊山/翫水(ぐハんすい)の帰りに、 00022800M19我か門の下を見れハ、黒犬のゆたかに/肥(こゑ)たるが、よねんも 00022810¥P51 00022820L1なく四足を伸ふしたるを見付、主人の語を聞ハ、けなりの 00022830L2(45オ)黒犬や、夏米を虫のくらふもしらいでと。(45ウ) 00022840¥T2賢たて 00022850¥N1¥J 00022860¥X 00022870L5△ぬからぬ顔したる男、大名のもとへ参る。何とて久見 00022880L6えなんだそ。手をついて、此一両月、/癲癇(てんかん)/気(け)に取紛、不参 00022890L7仕候と申上し。友達と座を出るに、そちハ/咳気(がいき)をこそわつ 00022900L8らひつれ、ありのまゝ申さ/ずし((ママ))、いらぬ病の名をいひつる 00022910L9事よ。いや咳気ハ初心に誰もしりたり、ちとこばして、て 00022920L10んかんといハひでハ。〔1〕 00022930¥N2¥J 00022940¥X 00022950L11△古道三、洛中歩行の折節、ある棚のかた(46オ)ハらに 00022960L12/青磁(せいじ)の/香炉(かうろ)おもハしきあり。立より見て、うつけたるふり 00022970L13に、此かうろんいくらととハれし。内より、なにとはねて 00022980L14も銀子弐枚と。〔2〕 00022990¥N3¥J 00023000¥X 00023010L15△和泉国に/塩穴(しハな)といふ侍あり。馬上より銭のおちたるあ 00023020L16りと見付、馬をとめ、中間に、あれなる物をとりて来れと。 00023030L17中間とりあけ、これハ柿のへたで御座あると。われも柿の 00023040L18へたとハ見たよ、されとも馬がおそるゝほどに、それにと 00023050L19らせた。(46ウ) 00023060¥N4¥J 00023070¥X 00023080M1△出家のさまかへて武士になりたるが、馬にのり/遊行(ゆぎやう)す 00023090M2る道に、なにやらんめつらしく、/赤漆(あかうるし)にてぬりたる物あり 00023100M3と見付、小性をまねき、とりよせけるに、小性わたしさま 00023110M4に、これは伊勢/海老(ゑび)にて候と申たるに、そち躰さへしりた 00023120M5るいせゑひを、我れがしらいでをらふか、これハ朱のさし 00023130M6やうのめつらしさに見るよと。 00023140M7△△△△△雄長老 00023150M8△△朱をませて漆ぬるての紅葉はも(47オ) 00023160M9△△△まつ秋風にまけてちるらん 00023170¥N5¥J 00023180¥X 00023190M10△日本第一の智者と/額(がく)を/打(うち)て、諸国/行脚(あんぎや)の僧あり。小喝 00023200M11食、かれにむかひ、土の上に一文字を書、此よみをこふ。 00023210M12種&によむ。/終(つゐ)にあたらす。喝食、土の上に一文字ハ王に 00023220M13てあり、汝/愚(ぐ)也と。 00023230M14△△しらぬをハ知らぬといはてみにくきハ 00023240M15△△△よくしりたるを忘れたるかほ 00023250¥N6¥J 00023260¥X 00023270M16△ある僧、小者を一人つれて/銭湯(せんたう)に行、/帯(おび)ときふためき 00023280M17て、頭巾かつきなから、小風呂に入ぬ。(47ウ)つねに何事 00023290M18も/利口(りこう)をいふがにくさに、小者も見ぬふりし、二風呂めに、 00023300M19づきんをとりたまハでといひけれは、さハがぬていにあた 00023310¥P52 00023320L1まをさぐりて、もはやとらふかなと。〔3〕 00023330¥N7¥J 00023340¥X 00023350L2△人の親の大事にわつらふ時、針立の上手とてよひ来る。 00023360L3針立すなハち/天突(てんとつ)の/穴(けつ)にはりさす。/息女(むすめ)あまたまハりにゐ 00023370L4て見る内に、/気色(きしよく)かハる。とゝの顔の色がかハりたるハと、 00023380L5はしばし/泣(なく)を見て、針立目を見出し、何事に(48オ)むさ 00023390L6となくまいといましめ、針をぬくと/同時(とうじ)に、さあなけとい 00023400L7ふ。わつとなくまぎれに出てにけたり。 00023410¥N8¥J 00023420¥X 00023430L8△/目医者(めいしや)あり。其身の目ハくさりてゐながら、めくすり 00023440L9ハ天下一也とじまんし、一度させばかすみはるゝ、二度さ 00023450L10せばまけもきるゝなと/広言(くハうけん)せしを、扨そなたの目ハ何とて 00023460L11なをらぬ。されは、わが薬妙なれはこそ、/頬先(はうさき)にてとゞめ 00023470L12たれ、さなくハ/頤(おとがい)まてもくさりなんと。(48ウ) 00023480¥N9¥J 00023490¥X 00023500L13△老父あり。唯さへかすむ目もとの、暮かたに二階より 00023510L14をりんとする。下にむすこの居けるを客人かとおもひ、ひ 00023520L15たものいんきんに/請(しやう)じけり。後に私で候と申せは、そちと 00023530L16ハ始よりわれも知たれと、我やうなるくかいしらすにハ、 00023540L17ちと仕/付(つけ)ををしへんとて、それにいふたよと。 00023550¥N10¥J 00023560¥X 00023570L18△花見の/興(けう)のかへるさも、たそかれ時になりぬ。道のほ 00023580L19とりに、人のたちたるすかたありけれは、あたまをさけ、 00023590M1てをあハせて礼をする。つれ(49オ)の者、あれハ/石塔(せきたう)な 00023600M2りといへは、彼人いふ、当世はあれていの人にも礼をした 00023610M3がよいと。〔4〕 00023620¥N11¥J 00023630¥X 00023640M4△ちからハさのミなふて、手のきいたるをたのミにし、 00023650M5相撲をすく男あり。又手をとる心はすこしもなくて、唯ち 00023660M6からのあるをうてにし、すまふをこのむ坊主あり。/双方(さうはう)/名(な) 00023670M7乗あひ、僧と/俗(ぞく)といくたびとれとも、力のつよきにより、 00023680M8手をやくにたてす、坊主かちとをしけれは、/俗(ぞく)/腹(はら)をたち、 00023690M9見物のおほき(49ウ)時、まけてのきさまに、高+と声 00023700M10をあけ、いかほどの坊主ともすまふとりたるか、あの入道 00023710M11ほどすしくさいやつにあふた事がないと、/悪口(あつこう)計にかちし 00023720M12おかしさよ。〔5〕 00023730¥N12¥J 00023740¥X 00023750M13△/秦(しんの)/始皇(しくわう)の代に、/天竺(てんぢく)より僧渡る。御門、是ハいかなる 00023760M14者ぞ。僧云、/尺迦牟尼(しやかむに)仏の弟子也、仏法を伝んため/渡(わた)れり 00023770M15と申せは、御門、其姿あやし、かみかふろにて、衣のていた 00023780M16かへり、仏とはなにものぞ、あやしきものや、返すへから 00023790M17す、人屋にこめ(50オ)よと/閇(とぢ)こめてをく。此僧、悪王に 00023800M18逢てかなしきめを見る。我本師釈迦/滅後(めつご)なりとも見給らん、 00023810M19助給へと念するに、尺迦、丈六/紫磨(しま)金の光をはなち、空よ 00023820¥P53 00023830L1り来、/獄門(こくもん)を/踏破(ふミやぶつ)て、僧をとり去給ぬ。つゐてに多の/盗(ぬす)人 00023840L2/皆(ミな)/逃去(にげさり)ぬ。此由を申に、/帝(ミかど)おちおそり給けりとなん。其時 00023850L3わたらんとしける仏法、世くたりて/漢(かん)の代にわたりけると 00023860L4ぞ。是は始皇のかしこたてによつてなり。(50ウ) 00023870¥N13¥J 00023880¥X 00023890L5△秀次関白殿より、遊行上人へ/遣(つかハ)し給ふ、 00023900L6△△上人は霞の衣きりの数珠 00023910L7△△△あまげハなれぬそら念仏かな 00023920L8△返哥、 00023930L9△△水鳥は水に入ても羽もぬれす 00023940L10△△△うミの魚とてしほとしまはや 00023950L11秀吉大閤此由聞召て、秀次の御もてあつかい、更に詮なき 00023960L12作法やと御/噂(うハさ)ありしが、はたして、上人にハ一/宇(う)/建立(こんりう)あり 00023970L13て、つかハ(51オ)されし。今の/法国寺(ほうこくじ)是なり。 00023980L14△△名僧となのらすとても善知識 00023990L15△△△身をふくにこそ人は秋風 00024000¥N14¥J 00024010¥X 00024020L16△二条院、和哥/好(この)ませおハしましける時、/岡崎(をかさき)の三位、 00024030L17御侍の/哥読(うたよミ)にてさふらハれけるに、此聞えたかきによりて、 00024040L18/清輔(きよすけ)朝臣めされて/殿上(てんじやう)にさぶらひけり。いミしき面目也け 00024050L19るを、或時の/御会(ごくわい)に清輔、いつれの山とか、このもかのも 00024060M1といふ事をよまれたりけれは、(51ウ)三位これを難じてい 00024070M2はく、つくは山こそこのもかのもとはよめ、大かた、山こ 00024080M3とにいふへきにハあらすと難せられけれは、清輔申ていは 00024090M4く、つくは山迄は申へきならず、河なとにもよミ侍へきこ 00024100M5とそと、つふやきけれは、三位あざハらひて、/証歌(せうか)奉れと 00024110M6申されけるに、清輔のいハく、大井川の会に/躬恒(ミつね)が/序(じよ)かけ 00024120M7る時、大井川のこのもかのもとかける事、まさしく侍るも 00024130M8のをといひたり(52オ)けれは、諸人口を/閉(とぢ)て止にけり。 00024140M9あなかちに物をはなんすましき事也。 00024150¥N15¥J 00024160¥X 00024170M10△かわざうりをはきてありくもの、あやまちに足をけや 00024180M11ぶり、ことのほか、血のなかるゝを見て、/笑止(せうし)や、いかに 00024190M12といふものあれば、いやくるしからす、むかしより、かわ 00024200M13をにぬるちとある程に。さてよいさくやと、人+ほめけ 00024210M14れは、われもほめられんハやすき事也とたくミ、あしをや 00024220M15ぶり血をなかす。なにとして(52ウ)と人のとふ時、いや 00024230M16/是(これ)ハ大事なし、むかしも、いろはにほへととあるほどに。 00024240(53オ)〔6〕 00024250¥P54 00024260¥Q1 00024270L1元和元年の比、安楽庵咄を所望いたし、承候へは、別而お 00024280L2もしろく存るに付て、御書集候て、草子にいたし給候やう 00024290L3にと申候処、一両年過、八冊に調給候。紛失可仕かと存、 00024300L4奥に書付置也。 00024310L6△寛永五年 00024320L7△△△△三月十七日△△△△重宗(53ウ) 00024330¥P55 00024340¥Y1醒睡笑巻之三目録 00024350L3文字知顔 00024360L4不文字 00024370L5文之品& 00024380L6自堕落 00024390L7清僧(1オ) 00024400¥T1醒睡笑巻之三 00024410¥T2文字知顔 00024420¥N1¥J 00024430¥X 00024440M5△ある人、小性をかすなぎ+とよびてつかハるゝ。/客(きやく) 00024450M6不/審(しん)におもひ、其故を尋けれハ、さる事有、春長とかけり、 00024460M7かすハ春日のかす、なきは長刀のなぎよと。 00024470¥N2¥J 00024480¥X 00024490M8△元三に、/利(り)口なる人礼に来れり。/亭坊(ていぼう)/智徳(ちとく)なきゆへ、 00024500M9こびたる/顔(かほ)に/仕(し)なしたがり、/対面(たいめん)をとげ、祝義をのへ、な 00024510M10にと/煮餅(にべう)を(2オ)参らうか、やく/餅(べう)を参らふかととふ。客、 00024520M11たゝ煮餅を/給(たまわ)らんと。扨膳をすへ、/再進(さいしん)を出し、しいける 00024530M12時、客、いまだ/持餅(ちべう)が候と。無理に一つもりけれは、あら 00024540M13/咳病(がいびやう)やと。 00024550¥N3¥J 00024560¥X 00024570M14△振舞なかばに亭主、/塩打大豆(ゑんただいづ)+とよびけれハ、しほ 00024580M15うちまめをもちていでけり。又一度よぶ時、いやなしと申 00024590M16たれハ、/不及力(ふぎうりき)+とうなつきたり。/客(きやく)大に/感(かん)し、家に帰 00024600M17りて人を/請(しやう)じ、次第をわすれ、始に不及力を出せといふ。 00024610M18(2ウ)しほうちまめを出せり。かさねてこふに、もはやな 00024620M19いとこたふる。/塩打大豆(ゑんただいづ)+と。△△△あとをさきへ、いらぬ文 00024630¥P56 00024640L1字あつかひや。 00024650¥N4¥J 00024660¥X 00024670L2△笛のえハちゞみえか、すゑのゑか、いづれがよひとい 00024680L3ふに、されば/定家(ていか)のかなづかいにも、源氏なとにも、ちゞ 00024690L4ミえを書たるハ。いや、よこへがよひ。なにとて。/笛(ふへ)ハよ 00024700L5こにしてふくほどに。そばに/居(ゐ)たる禅門、うかへたるてい 00024710L6をし、げにも+、尺八の八もよこへじや。(3オ) 00024720¥N5¥J 00024730¥X 00024740L7△備後国に/久代(くしろ)とて如形の大名あり。/土生(はぶ)といふ侍を、 00024750L8芸州/元就(もとなり)へ歳暮の礼義に遣れし。対面あつて、出雲の国に 00024760L9雪はいかほとふりたるぞとあれば、彼土生手をつき、雲州 00024770L10の/雪(せつ)ハ/馬足(ばそく)不立にして、/恰(あたかも)/鉄(てつ)をのへたるがごとしと申上 00024780L11けり。大に気色/損(そん)じ、/自今(いまより)以後此者使に無益とぞ。唯、出 00024790L12雲ハ大雪にて、馬のかよひも御座ないと申さん物を。又彼 00024800L13/土生(はぶ)、在郷にすむ侍なれは、/過半(くわはん)/耕作(かうさく)(3ウ)などしけり。 00024810L14ある五月雨のはれまに、すきを杖につき、しづかにありく。 00024820L15百性行あひ、いづれへととひけれは、田水見行とこたふ。 00024830L16△△田の水を見にゆくといふたハまし。 00024840¥N6¥J 00024850¥X 00024860L17△医者にむかつて、/白朮(びやくじゆつ)とハなにを申や。をけらとい 00024870L18ふ草なりと。こひたる事におもひ、客をまうけたる/席(せき)に、 00024880L19中間かの草をゑんのはしに持出、白朮をほりて参りたとい 00024890M1ハせ、そこにをけらといふて、くすめり。近比/蚊虻(もんもう)なる人 00024900M2(4オ)感にたへ、帰りて中間にをしへおき、/態(わざと)人をよびふ 00024910M3るまいけるに、中間が打わすれ、をけらをほりて参りたと。 00024920M4亭主よふいふかほにて、そこに白朮せよと。 00024930¥N7¥J 00024940¥X 00024950M5△/作意(さくい)ある人の/犬(いぬ)あり。名を廿四とつけたり。廿四+ 00024960M6とよべばきたる。なにとしたる子細にやととふ。しろく候 00024970M7ハ、さて。けにも+とかんじ家に帰り、しろ犬をもとめ、 00024980M8廿四とよぶ。いか成心持そと尋られ、しろう候ハ。(4ウ) 00024990M9〔2〕 00025000¥N8¥J 00025010¥X 00025020M10△革細工のかたへ、侍のもとよりとて、/太刀(たち)に文をそへ 00025030M11持来る。ひらき見れハ、此日日/念(ねん)を入給り候へと有。つゐ 00025040M12によむ者なし。亭主わざと侍のもとへ行、/直(ちき)に尋けれバ、 00025050M13それこそ誰もしるへき文字よ、かしらの日ハついたちのた 00025060M14ち、次の日ハ二日のつか、太刀のつかをまきてくれよにて、 00025070M15すみたる物をとなり。 00025080¥N9¥J 00025090¥X 00025100M16△宗祇東国修行の道に、二間四面のきれいなる/堂(だう)あり。 00025110M17立寄/腰(こし)をかけられたれハ、/堂守(だうもり)の(5オ)いふ、/客僧(きやくそう)ハ上 00025120M18方の人候や。中+と。さらば/発句(ほつく)を一つせんずるに、付 00025130M19て見たまへと。 00025140¥P57 00025150L1△△新く作りたてたる地蔵堂かな 00025160L2△△△物まてもきがめきにけり 00025170L3と付られし。これハみじかいのと申時、祇公、そちのいや 00025180L4ことにある、かなをたされよと、ありつる。 00025190¥N10¥J 00025200¥X 00025210L5△/境(さかい)の中浜に、/道海(だうかい)とてとめる者あり。ちとはれかまし 00025220L6き客を/請(しやう)じ、朝食の膳を出し、/末座(はつざ)にきと手をつくね、い 00025230L7ひける事こそはら(5ウ)すぢなれ。/西宮(さいくう)に/人(にん)を/遣(つかわ)す、/大風(たいふう) 00025240L8/頻(しきり)に/吹(ふい)て、/新魚(しんきよ)/無也(むなり)、/塩魚(ゑんぎよ)/買来(ばいらい)/不及力(ふぎうりき)。△△唯、西の宮へ人 00025250L9をやりたれハ、大風かふいて、あたらしい魚がおりないと、いわひで。 00025260¥N11¥J 00025270¥X 00025280L10△坊主と弟子といひ談して、つね+/愚(ぐ)人をあいしらひ 00025290L11し。その風をあてことにし、ちくと文字のある客の時、弟 00025300L12子出てはゝからす、/水辺(すいへん)に/酉(とり)あり、山に山を重ねんやとハ、 00025310L13酒をいださうかといふた。師匠が返答に、/丿■夕夕(へつぼつせき+)、人が 00025320L14おほいに無用といふ。/賓客(ひんかく)/頓(とん)に/察(さつ)し、(6オ)/玄田牛一(げんでんぎういち)とハ 00025330L15/畜生(ちくしやう)めじやとて、座敷をたちたる仕合なり。 00025340¥N12¥J 00025350¥X 00025360L16△ある武/将(しやう)のうらがたに、/瘧(おこり)をわつらへる事有。侍を使 00025370L17として、医者のもとへ文までもなし、女共/瘧病(ぎやへい)にいたはり 00025380L18ぬる間、薬調合の義たのむといへ。畏候とてたちけるが、 00025390L19打わすれ、次にて、/瘧(おこり)の名ハベちになきかととふ。ぎやへ 00025400M1いと云ぞ。うなづき行。くすしにむかひ、きやていの薬を 00025410M2と申けり。おかしく思ひ、/腹(はら)ぎやていか、はらそう(6ウ) 00025420M3ぎやていか、しれぬといはるれは、さる事候、右の/脇(わき)ちと 00025430M4いたくて、後ふるい給ふ間、さためてはらぎやていにて候 00025440M5べし。心得たりとて、薬を/遣(つかわ)したれば、本腹してんげり。 00025450M6/医者(いしや)、武将にあふて、右の趣をかたりけるに、さたのかぎ 00025460M7り、そいつハ観音経を一部いふてあつたと。△始よりおこり 00025470M8といふがよからん。いらぬ御使のこびたるにて、/主(しう)殿まではぢをかゝれた。 00025480¥N13¥J 00025490¥X 00025500M9△美濃国うるまの大安寺に、般若坊とて狂哥に名を得た 00025510M10るありし。知音たる人のもと(7オ)より、此冬の暮行仕合 00025520M11なにとか、などいひ/送(おくり)たれハ、 00025530M12△△心経の摩河の下なる般若坊 00025540M13△△△ことし一切くやくなりけり 00025550¥N14¥J 00025560¥X 00025570M14△武士たる人の、殿とのといふが、/殿(との)の字の/声(こゑ)ハでんと 00025580M15おしゆる。又月といふ字の声ハぐわちとおしゆる。此二字 00025590M16をならひえて、いかさまはれかましき処にて、いひ出さん 00025600M17とたくまれけるが、有時屋形に座敷/能(のふ)のはじまりしを、物 00025610M18見のため、人おほくあつまりゐけり。其/砌(ミぎり)、彼武士/威儀(いぎ)を 00025620M19(7ウ)けたかくかいつくろひ、殿原よ+、それにゐる者 00025630¥P58 00025640L1ともを、ミなゑんから下へ/月(ぐわち)こかせよ。 00025650L2△△せんないたしなミさうな。〔3〕 00025660¥N15¥J 00025670¥X 00025680L3△金子と書へき処に、合子とかきたり。これハとふしん 00025690L4しあへれば、金といふ合の字を、時&ハせしむるとよむす 00025700L5べをさへ、えしらいてと、けつく/慢(まん)しごとは。 00025710¥N16¥J 00025720¥X 00025730L6△あへものの/菜(さい)をバ、なん時も本/皿(さら)にハもらす、/鉢(はち)にて 00025740L7も/重箱(ぢうばこ)にてももりいれて、ひきざいに(8オ)したがよいと、 00025750L8/庭訓(ていきん)にあるといふ。いづれの文にありや、つゐに見ぬ。か 00025760L9くれもない、あへてもつてハ、後日の恥辱をまねくといへ 00025770L10り。 00025780L11△△たんほゝのあへ物くふやしたつゞミ 00025790¥N17¥J 00025800¥X 00025810L12△脉とてハ/浮中沈(ふちうちん)をも/弁(べん)ぜす、七表八裏九道廿四の名を 00025820L13さへしらぬほどの医者あり。/脉(ミやく)をとりて/後(のち)、病者にとふ、 00025830L14胸ハいたむ心ありや。中+あり。さうてあらふ、脉にさ 00025840L15う候、扨足ハひゆる事ありや。いやあたゝかな。さうてあ 00025850L16らふ、(8ウ)脉にさうある、/頭痛(づつう)有や。いやなし。さうてあ 00025860L17らふ、脉にあふたと。此作法にてもおくすしさまてハある。 00025870L18△△病人となりて、薬を申うけんハこわ物ぢやの。〔4〕 00025880¥N18¥J 00025890¥X 00025900L19△/地蔵講(ちぞうかう)の/式目(しきもく)といふ/外題(げだい)を見、大/蔵(くら)といふ人ハ地くら 00025910M1講とよむ。/武蔵(むさし)ハ地さし講とよむ。又/傍(かたハら)にのそきゐたる 00025920M2/或泉坊(わくせんぼう)ハ、式目の式を/或目(わくもく)とよめり。聞事の。 00025930¥N19¥J 00025940¥X 00025950M3△武士たる人ある/神主(かんぬし)にむかひ、そちハ/神道(しんたう)を心得たる 00025960M4や。いな、/白張(しらはり)きたる迄に候。いたわしや、/本来(ほんらい)(9オ)/無= 00025970M5東西(む=とうざい)、何処お、なんほくといふ大事をもしらひでと笑ハれ 00025980M6けれは、/神主(かんぬし)、/私(わたくし)ハ仏哥・神哥・道哥を、ぶつかん・じん 00025990M7かん・道かんにて、理をすまし参らすると申時、/彼(かの)武士、 00026000M8それハふかい事、おもしろさうなと/感(かん)ぜられたるにて、す 00026010M9ふだ。(9ウ) 00026020¥T2不文字 00026030¥N1¥J 00026040¥X 00026050M12△朝倉の/山椒(さんせう)を一袋もたせ、侍のもとへ/音信(いんしん)に/遣(つかわ)しけり。 00026060M13折ふし彼侍、/途中(とちう)にて行あひ、文そへて上けれは、そちの 00026070M14見ることくなるまゝ、返事にをよはす。又一袋の御/重宝(てうほう)悦 00026080M15入候よし、使聞とゝけ、道の二三町も行しか、よく+お 00026090M16もへは、今のことはがすまぬ、今一度ことハらんと、/息(いき)を 00026100M17つきかねハしりもとりぬ。馬をとゞめ、とハせけるに、今 00026110M18の一袋ハ御重宝でハ御座ない、(10オ)朝倉と申山椒にて候 00026120M19と。△△△これなん不思義の御重宝。 00026130¥P59 00026140¥N2¥J 00026150¥X 00026160L1△/脾(ひ)胃の虚したる人にやありけん、/平胃散(へいゝさん)を調合し/腹(ぶく)せ 00026170L2ん事を望ミ、常にたのめる医師のもとへ、/比叡山(ひゑいさん)のほうを 00026180L3書て給れと、申送れる。医者やがてさとり、比叡山の方の 00026190L4義承候、王/城(しやう)より/艮(うしとら)にあたれりと返事しけり。 00026200¥N3¥J 00026210¥X 00026220L5△元日にかんをいはふ処へ、数ならぬ者礼に来る。亭主 00026230L6膳を出せといふに、そのまゝすへたり。亭うれしけに、/積= 00026240L7善(しやく=ぜん)の/余慶(よけい)じやなど、かんずるを(10ウ)聞、さてハかやうに 00026250L8下にはいも大根をもり、中に餅、上にたうふ、くゝたちを 00026260L9もるをハ、/積善(しやくぜん)のよけいといふ事よと、おほえてたち、件 00026270L10の者又去かたへ行。膳出たり。見れハ今度のハ、たうふと 00026280L11くゝたちを下にもり、中にもち、上にいも大根をもりたり。 00026290L12/箸(はし)をもちてほめけるハ、扨も此/余慶(よけい)の/積善(しやくぜん)ハ、一段あた 00026300L13ゝかに出来まいら/せ((ママ))よと申けり。〔1〕 00026310¥N4¥J 00026320¥X 00026330L14△同し様なる者三人ともなひて、貴人のもとに行、まつ 00026340L15上座の者、とく罷出候ハんを、我らの子持(11オ)か乳に/癰(よう) 00026350L16出来、なをりてハ平癒し、平癒してはなをり、正月より此 00026360L17三月まで、それにとりまきれ、参りをくれたるといひけれ 00026370L18ば、次に座したるが/膝(ひざ)をつき、爰な人ハ、お/前(まへ)てさやうの 00026380L19かたことを申物か、なをるとハへいゆう、へいゆうとはな 00026390M1をる事也、一つことばをくり返し、何事そや、さやうの/丈= 00026400M2尺(でう=しやく)、かさねてつかハしますなといふを、其次のもの聞て、 00026410M3さてもお身の丈尺ことばはなんぞ、大工やなどのうへにこ 00026420M4そいふことばならんめ。(11ウ)御身たちかかたことをいふ 00026430M5をきいて、おれかかほはそのまゝせきハんしたよと。〔2〕 00026440¥N5¥J 00026450¥X 00026460M6△人皆/歳末(さいまつ)の礼とて/持参(ぢさん)しゆく。たちさまに、/来春(らいしゆん)ハお 00026470M7ほしめすまゝの御しうき申さんといふを聞、蚊虻なる者口 00026480M8まねし、さき+にて、来/処(しよ)ハおほしめすまゝに御座らふ 00026490M9と申せし。〔3〕 00026500¥N6¥J 00026510¥X 00026520M10△三人行合て、一人がいふ、さて+昨日のなゆハ。又 00026530M11一人いふ、なゆでハない、じゆしんがほんじや。今一人が、 00026540M12なゆやらじゆしんやらしらぬが、世ハねつするか(12オ)と 00026550M13おもふた。〔4〕 00026560¥N7¥J 00026570¥X 00026580M14△手跡の/讃歎(さんだん)ある/席(せき)にて、口あればいふ事と、伏見院殿、 00026590M15又/後奈良院(こならのゐん)殿、/後柏原院(ごかしわばらのいん)殿のは/は((ママ))、ミな/勅筆(ちよひつ)/と((ママ))おほせ候 00026600M16が、近衛殿のをは、なにとて勅筆とは申さぬそ、ふしんな。 00026610M17△△△我身の恥をわれとあらハす 00026620M18△△犬桜さかでも春を送れかし 00026630¥N8¥J 00026640¥X 00026650M19△ある侍、/中務(なかづかさ)になられたといふ時、百性共祝義とて、 00026660¥P60 00026670L1/料足(れうそく)十疋づゝつなぎあつめ、礼に持出しが、(12ウ)又廿日 00026680L2ハかり後、訴訟のむねありて、中務に参る。門の/傍(かたハら)にな 00026690L3らびゐて聞けれハ、/客人(きやくじん)のわたり候が、小性をよひ出し、 00026700L4/中書(ちうしよ)ハ内に御入あるやととハれしを、百性目まぜし、さゝ 00026710L5やきいふ、中務が、ほともなきに中書になられたは、南無 00026720L6三宝、又百出いて、つくばハふずよと。 00026730¥N9¥J 00026740¥X 00026750L7△始て/奉公(ほうこう)に出る侍のありしが、奏者する人に、御名字 00026760L8ハととハれ、/礒貝(いそがい)とことふ。礒ハといへば、返事なし。さ 00026770L9ためて礒辺の礒なるべし、がいは(13オ)とたつぬれは、よ 00026780L10からふやうにと。しりがいがよからふといふ時、せめてむ 00026790L11ながひのがいにしてくたされよと。されば、/時頼(ときより)禅門も、 00026800L12△△よみかきのことさらいるは弓矢とり 00026810L13△△△急度注進急度回文 00026820¥N10¥J 00026830¥X 00026840L14△中間とものあつまりて、人の名、名字をさたしけるが、 00026850L15一人いふやう、おれか殿ハ、名を三度つかれたが、皆こし 00026860L16から下への事ばかりじや、始に次郎四郎、二番に次兵衛、 00026870L17三度めに/修理(しゆりの)/大夫(だいぶ)を、しりの大夫と(13ウ)うわさしたり。 00026880¥N11¥J 00026890¥X 00026900L18△奉公する人のとふやうハ、某がたのミたる殿を、下野 00026910L19といふ者もあり、/野州(やしう)といふやからも有、いつれがよいそ 00026920M1や。とちも大事なしと。大にがてんせしが、ある座敷に出 00026930M2て、しもつけの花のいけたるを見つけ、きつと手をつき、 00026940M3さて+この/野(や)州は、よういかりまいらせたよと。 00026950¥N12¥J 00026960¥X 00026970M4△/逸興(いつけう)参会の物がたりに、此家中のおとなハ伯耆・下野 00026980M5とて両人あり。されは伯耆なれば(14オ)伯州といふハ聞へ 00026990M6たか、下野を野州といふがちつともすまぬと。 00027000¥N13¥J 00027010¥X 00027020M7△物ハかゝねど利口な者に、てんひんとハ何とかくそや。 00027030M8継母と書とこたふ。それハ不都合なる事といふ。さればこ 00027040M9そ唐から本の文字ハあらふとまゝよ、まゝはゝとかくかよ 00027050M10ひ、なせになれば、くへとくハねと、たゝきたかる。 00027060M11△△△たゝいてはすりたゝいてはすり 00027070M12△△髪おしむうい子を/膝(ひざ)にたきのせて(14ウ)〔11〕 00027080¥N14¥J 00027090¥X 00027100M13△服部といふ侍に、文字をとふ。つゐに名字の/答(こたへ)やうを 00027110M14しらず。人をしへて、ふくべと書と。ふくへとハひようた 00027120M15んの事かや。中+。ある者、御名字のはつとりとハ。そ 00027130M16れこそひようたんとかき候。 00027140M17△△△△△△△△△△△△親当 00027150M18△△世の中に書へき物はかゝずして 00027160M19△△△事をかくなり恥をかくなり 00027170¥P61 00027180¥N15¥J 00027190¥X 00027200L1△いろはをもよまぬ者ありて、常に人の/酒飯(しゆはん)といふは何 00027210L2事そや。酒はさけとよむ、飯はめしと(15オ)よむそ。忝し 00027220L3と覚、ある振舞の座にて、今日のもてなしハ、/酒飯(しゆはん)ともに 00027230L4出来まいらせたとほむる。かれかそだちをよくしりたる者 00027240L5有。酒飯とハなんぞ。/酒(しゆ)はさけ、/飯(ハん)はめし。さてともにハ 00027250L6ととわれ、/椀(わん)折敷て御座あらふまでよと。 00027260¥N16¥J 00027270¥X 00027280L7△物かく/者(もの)をたのミ、文一つあつらへ、あて処をとへば、 00027290L8新のくと書てたまわれ。新六とこそかゝるれ、のくといふ 00027300L9字ハしらぬ。扨そなたハあさましや、/六日市(むいかいち)のむいの字を 00027310L10さへゑしらいでと。(15ウ)〔5〕 00027320¥N17¥J 00027330¥X 00027340L11△小豆餅のあたたかなるを、夜咄のもてなしにいだす。 00027350L12其席におく山の者ありし。中老ほどの人餅を見る+、と 00027360L13かく夜食ハおほくくふか/毒(どく)にてあるよしいふをきゝ、さて 00027370L14は餅の事ぞとおもひ、彼山賎在所にて、昼の雑掌に大豆の 00027380L15粉をそへ、餅をいだす時、かまへてミなおきゝあれ、さる 00027390L16人のいはれしが、此夜食ハおほくくふか/毒(どく)にて候と。 00027400¥N18¥J 00027410¥X 00027420L17△目ぐすしに出んとする人、銘をかくべきあても(16オ) 00027430L18なければ、つゝミ紙を/沢山(たくさん)に折て、人を頼ミ、みな+/紅= 00027440L19梅散(こう=ばいさん)とかゝせもつ。/風眼(ふうがん)にも、うハひにも、一つ/銘(めい)はかり 00027450M1うちし故、あなどりわらひけるまゝ、/旅宿(りよしゆく)にて銘をたのむ。 00027460M2いかゝかゝんととへば、/牛黄円(ごわうゑん)とのぞむ。目のくすりには 00027470M3いなものやといわれて、それならハ/木香丸(もつかうぐわん)と、しよまうし 00027480M4た。 00027490¥N19¥J 00027500¥X 00027510M5△山家に/信国(のぶくに)の脇指をもちたる者、銘をしらず。浄土宗 00027520M6の僧によ/め((ママ))せたれハ、しなけきとよむ。(16ウ)しなハ信濃 00027530M7のしな、けきハ/舎衛国(しやゑけき)のけきといひつる、あさましさよ。 00027540¥N20¥J 00027550¥X 00027560M8△侍めきたる者の、/主(しう)にむかひ、おかへのしる、おかべ 00027570M9のさいといふを、さやうのことばハ女房衆の上にいふ事そ 00027580M10としかられ、げにもと思ひゐけるが、ある時、主の上/臈(らう)に 00027590M11ともして、ふるまひより帰りたるに、主人、座敷の/始終(しゞう)を 00027600M12とハる。朝食の上に、はやしの候つるとかたる。/謡(うたひ)はなに 00027610M13+なとゝありしかハ、しかとハ存せす候、なにも(17オ) 00027620M14たうふごしに承りてあるほとにと。〔6〕 00027630¥N21¥J 00027640¥X 00027650M15△/月迫(けつぱく)になり、殿の台所とゝのひかたし。せんかたなさ 00027660M16に、家老の人たくミ出し、/有力(ゆうりよく)なる百性のもとへ行、そち 00027670M17ハ/貞心(ていしん)に事をさたする条、/重宝(てうほう)の者也、歳の暮の祝に名字 00027680M18を遣へき旨也、目出度事やといふ。いや、たゞ今の分にて 00027690M19御/許容(きよよう)あるやうに、御取成を頼むといへど、とかくいひな 00027700¥P62 00027710L1し、同心させけり。さりなから、それハ礼義いかほと入候 00027720L2ハんやと、たつぬる時、卅石ほとか(17ウ)よからふとあれ 00027730L3ハ、中+隔心のけしきなるまゝ、さらバ廿石にてもくる 00027740L4しかるましきになりぬ。扨名字ハ野&村といふべしと。さ 00027750L5らバ御礼申さんと、老父名代に惣領をつかハす。遠侍まて 00027760L6ハ伴せしか、彼家老が袖をひかへ、是非きハまる処十石に 00027770L7なされよ、よく/思案(しあん)仕るに、野&村とたまハりても、野& 00027780L8ハ/生得(しやうとく)家に伝ハる、村はかりこそくたさるれ、十石の外 00027790L9ハとゝのへまいとそ申ける。 00027800¥N22¥J 00027810¥X 00027820L10△昨日ハ一日、妙円寺といふ寺にあそひつるハと(18オ) 00027830L11かたる。つゐにきかぬ寺や。妙ハ妙法の妙にてあらふす、 00027840L12ゑんハ。ぬれゑんしや。いやとよ、書やうハ。蕨縄のまわ 00027850L13しかき。こゝな人は、字の事をとふにといへは、字ハすな 00027860L14地じやと。〔7〕 00027870¥N23¥J 00027880¥X 00027890L15△風呂をハいつくにあるもせんたうといふとハかり心得 00027900L16て、過しけるにや、ある大名の内風呂をたかせて、人&入 00027910L17けるなかば、なにと、ふろハたつやと尋給ふ時、くだんの 00027920L18がてんしや、いつれのせんたうへも入まいらせたが、これ 00027930L19やうによふたつせんたうハ(18ウ)おりないとそ申ける。 00027940¥N24¥J 00027950¥X 00027960M1△あなたこなた、年頭の礼にありきけるさき+にて、 00027970M2持参の扇を見てハていしゆのことはに、五明ハかたしけな 00027980M3やと礼あるをきゝ、さてはなにゝても、正月の持参ハみな 00027990M4五明といふ物やと/合点(かつてん)し、其身ハもとより、ぬしの上手な 00028000M5りけれは、上&の茶桶を持参するに、たもとより取出し、 00028010M6/奏者(そうしや)にむかひ、是ハ我らの五明て御座あると、もちゆくほ 00028020M7との処にていふ(19オ)たと。あたき殿の/発句(ほつく)に、 00028030M8△△ひらかぬは風のつほミのあふきかな 00028040M9△△△△△△△△△△三光院殿 00028050M10△△秋風を腰にさしたるあふきかな 00028060¥N25¥J 00028070¥X 00028080M11△/御札(ぎよさつ)のことくと文をよむ。かたハらにきく者とふ、御 00028090M12札のことくとハ、なにといふこゝろそや。人のもとへ文を 00028100M13やりたる其返事のことはそと、おしふる。しばらくうなつ 00028110M14きゐて、/大道(だいどう)をありくに、しる人はたとあふ。さてもおひ 00028120M15さしやと、ことばを(19ウ)かけたれハ、ぎよさつのことく 00028130M16と申けり。 00028140¥N26¥J 00028150¥X 00028160M17△人客を得て、菓子に蜜柑をもち出、これは庭前のにて 00028170M18候といふ。客とりて見、さて+/新(あたら)しや、/店(たな)なとにあらん 00028180M19ハ、いかてかやうには候べきと、大に感じけるを、おもし 00028190¥P63 00028200L1ろき/時宜(じぎ)とやきゝなしけん、今度客にふるまひのあげくに、 00028210L2/麩(ふ)をにしめて重に入、其/度(せき)へもち出、これハ庭前の麩て候 00028220L3と申たは。 00028230¥N27¥J 00028240¥X 00028250L5△八/景(けい)のうちに/遠寺(ゑんじ)の/晩鐘(ばんしやう)とは、村里とをき(20オ)山寺 00028260L6に入あひの鐘のこゑ、つく+きくもおもしろやなといふ 00028270L7を、こひたる事とおもひゐしか、ある時客に寺へ行、/夕陽(せきやう) 00028280L8西にかたふく比より碁をうち始、火をともせともたつ事を 00028290L9わすれたるに、初夜の鐘もはやとくなりぬるとハいハひて、 00028300L10もはやミなおたちあれかし、遠寺の晩鐘もとくなつたと。 00028310¥N28¥J 00028320¥X 00028330L11△/(鐘の次でに、)此四十年計以前、江州永原に/祈祷(きとう)/連歌(れんが)ありし。其日、 00028340L12京より永原へ行侍一人、道の/辺(ほとり)の(20ウ)石に腰かけやすむ 00028350L13砌、杖をつきたる白髪の老人、静にあゆミよりて、いろ 00028360L14+の事かたり、われハけさとくより先程まて、連哥の有 00028370L15りつるを聞てゐたり、面白句のありしよ、 00028380L16△△△おほろ+に鐘ひゝくなり 00028390L17△△老ぬれハ耳さへもとの我ならて 00028400L18是に心なくさミぬと立行給ふ。其けしき/常(つね)ならねは、侍も 00028410L19心ありけり。跡をしのひ送りけるが、つゐに見うしなひぬ。 00028420M1まがうべくもなき(21オ)北野の神ならんと沙太しあへりき。 00028430M2△△老ぬれハ人の教をはつねにて 00028440M3△△△われとは聞ぬ山ほとゝきす 00028450M4△△いつの日のいつの時にか聞はてん 00028460M5△△△我すむ山の入あひの鐘 00028470¥N29¥J 00028480¥X 00028490M6△人ありて作善をつとむる/毎(ことに)、僧と同しく大/俗(ぞく)/列座(れつざ)し、 00028500M7/斎(とき)をたまはるを、なに者のいひ出しけん、/鬚僧(ひげそう)とこれをよ 00028510M8ぶ。此ひげそうといふをおほえそこなふて、しかもこばか 00028520M9したがる(21ウ)者あり。堺にての事そとよ。ある禅門十徳 00028530M10の袖のながきをき、知人に行あひぬ。いつれへととふに、 00028540M11禅門、今朝ハひらのやへ/斎(とき)ありて、/会下僧(ゑげそう)にゆくハと。 00028550¥N30¥J 00028560¥X 00028570M12△ちとかなをもよむ人のいひけるハ、此ほとつれ+草 00028580M13をさい+見てあそふか、おもしろふ候よとありしかハ、 00028590M14其座にゐたる者のさしいで、かまへて、くちあたりよしと 00028600M15おもふて、おほく御まいるな、つれ+草のあへ物も、す 00028610M16ぐれ(22オ)はどくじやと、きいたに。〔8〕 00028620¥N31¥J 00028630¥X 00028640M17△のり物を/乗物(じやうぶつ)といふも、又魚をぎよぶつといふも、 00028650M18一つことにやおもひけめ、十人はかりつれたちて、振舞の 00028660M19かへるさに、くたんの者いひけるは、をの+はきよふつ 00028670¥P64 00028680L1しやほとに、さきへ御入あれ、われ+はかちにて候ほど 00028690L2に、しづかにまいらふずよと。 00028700¥N32¥J 00028710¥X 00028720L3△禅宗のだんなと、一向宗のたんなとよりあひ、かたり 00028730L4ゐ、なにといふ事に、お御堂の、/御(お)よりあひ(22ウ)の、お 00028740L5さんだんの、おつとめのと、なにゝもおの字をつけてハい 00028750L6ふぞやと、とひけれは、こちの宗旨はかり、おの字をいふ 00028760L7てもあるまいぞ、そちの家にも、おの字を付ていふハと。 00028770L8なに物につけたそと。おしやうさまといふハ、さて。 00028780¥N33¥J 00028790¥X 00028800L9△人あつまりゐ、かたるつゐで、/膏粱(かうりやう)の/美食(びしよく)とて、あま 00028810L10り活計も過れハ、脾胃の/虚損(きよそん)となる。されハ口之所嗜不 00028820L11可随也とも書たるハといふ時、膏粱の美食といふ物を見 00028830L12た事が(23オ)ない。肉食の事よ。それなら我らかとなり 00028840L13の亭主ハ、いかい/肉食(にくぢき)をする人じや。して、なにをくふそ 00028850L14や。毎日餅を七つ八つほとづゝくふ。 00028860¥N34¥J 00028870¥X 00028880L15△京都四条の河原にて、/将棋(せうぎ)の馬をひろひたる者あり。 00028890L16何ともしらで、主に見せたれば、是ハすごろくの/碁(ご)いしと 00028900L17いふ物也。 00028910¥N35¥J 00028920¥X 00028930L18△南無の二字ばかりを、いかゝしてかは見知たる、其余 00028940L19の文字はやミなる男、天神の名号の(23ウ)かゝれるを見、 00028950M1なむあみた仏とよミかぞへけれバ、文字あまれり。あげく 00028960M2にいふ、此念仏ハちとながいよ、/融通(ゆづう)念仏かしらぬと。 00028970M3△△△△△△△蓮生法師 00028980M4△△約束の念仏ハ申までぞかし 00028990M5△△△やらふやらじハ弥陀のハからひ 00029000M6△△極楽に剛のものとやおもふらん 00029010M7△△△にしにうしろを見せぬ熊谷 00029020¥N36¥J 00029030¥X 00029040M8△永玄といふ禅門あり。人来りて、そちの名の(24オ)永 00029050M9ハなかいてあらふ、玄ハくろげんかととふ。いや、しろげ 00029060M10んといひし。知音する者きゝつたへ、笑止におもひ、此後 00029070M11源をとハゞ、みなもとゝいへ。がつてん+。/案(あん)のことく 00029080M12源をとふ時、むなもとゝ答へつるこそ。〔9〕 00029090¥N37¥J 00029100¥X 00029110M13△/了有(りやうう)と名をつけて、了ハと人のとハゝ、みゝかき了と 00029120M14こたへよ。こう+おほえやすきよい字しやと迄ハほめつ 00029130M15るが、了ハととハれ、みゝかきて御ざるといひけり。(24ウ) 00029140M16〔10〕 00029150¥N38¥J 00029160¥X 00029170M17△一円不文字なる侍、小知行の代官になりて、わめきあ 00029180M18りく。ちと/卑墜涙(ひだるい(ママ))とおもふ折節、庄屋のもとに立よりたり。 00029190M19/麦飯(ばくはん)の候、出し候ハんかといふに、いや/嫌(きらい)に候とてたちぬ。 00029200¥P65 00029210L1そこもとありき、麦飯とはなにぞしらぬと語る。麦のめし 00029220L2の事と聞、さらは又行てくハんとおもひ、庄屋か家に入つ 00029230L3れば、人を出し、俄に下風の/起(おこ)り、/難義(なんぎ)さに、火にあてあ 00029240L4ぶる由いへバ、彼代官、其下風ならハあぶるまてもなし、 00029250L5(25オ)其まゝすへよ、くハんとそ申たる。 00029260¥N39¥J 00029270¥X 00029280L6△ある者のむすこ、百人一首を、本にむかひ、たうたう 00029290L7とよミけれハ、親にて候人、申されたる、やれ、しつかに 00029300L8よめ、それやうなる物ハ、かへりてんのならひがむつかし 00029310L9いに。 00029320¥N40¥J 00029330¥X 00029340L10△古田織部の数寄に出さるゝほとの物をば、其道をまな 00029350L11ぶもまなばぬも、/天然(てんねん)と賞翫し、もてあつかひしゆへ、中 00029360L12酒に座敷へ用られつる/盃(さかづき)までも、なべて人、織部盃とい 00029370L13ひ(25ウ)ふるゝ。さるまゝ、京に三八といふ者あり。扨は 00029380L14盃をハいつれもおりへといふ物そと、/合点(がつてん)しゐたり。ある 00029390L15とき三八か顔あかく、/機嫌(きげん)よさうなるを人見つけて、そち 00029400L16ハあらけなくゑひたる/躰(てい)ぞといへは、/道理(だうり)かな、今朝の振 00029410L17廻に、汁の椀のおりべで、つゝけさま三盃のみたるもの。 00029420¥N41¥J 00029430¥X 00029440L18△東寺のならびに遍照心院といふあり。つくりにハを、 00029450L19あまり人の見たがるがいやさに、番衆を(26オ)をかれたれ 00029460M1ば、/竹杖(たけづゑ)なともちいましむる。望のかた、そと見度とて立 00029470M2よれハ、いや+、庭へ行まひ、/殺生禁断(せつしやうきんだん)じやにと。 00029480¥N42¥J 00029490¥X 00029500M3△京より、いたらぬ者ともつれたち、石山でらに参り、 00029510M4/縁起(ゑんぎ)を所望してよませきゝ、抑此石山寺ハ前に/湖水(こすい)あり、 00029520M5うしろに山あり、峯に/塔(とう)あり、谷に塔あり、二王門あり、 00029530M6/既(すで)によみはてぬる時、一人か申けるハ、誰人の/建立(こんりう)とこそ 00029540M7存つるに、扨ハ/飛鳥井殿(あすかいどの)のたてさせ(26ウ)給ひて候よのう。 00029550M8其願主ハなにの/合点(がつてん)よりいふぞや。其事よ、縁起の次第か、 00029560M9いつれのことばにも、なにあり、かあり、あり+とよま 00029570M10れたほどに、さうかとおもふて。 00029580¥N43¥J 00029590¥X 00029600M11△そちの親の煩ハ何にてありつるそと、問れたれは、其 00029610M12事に候、我等か親のやまひを、京の大いん達に見せたれハ、 00029620M13にやくをとりて見、病ハやうかんじや、やいひの灸を、百 00029630M14やうにしたらよからふとて、ひたものすへたれハ、あげく 00029640M15(27オ)に、しきよく仕て候と。 00029650¥N44¥J 00029660¥X 00029670M16△こびたるかほのていしゆいふ、餅をやいてくいたひと。 00029680M17いくつやき参らせうととふたれば、昔よりさたまつてある 00029690M18事よ、心経にも、もちやけ六つくわうとこそ。 00029700¥N45¥J 00029710¥X 00029720M19△夏の振舞に、かんをしたる酒と冷酒と出し、いつれ 00029730¥P66 00029740L1をなりともと、/酌(しやく)するものいひけり。座上になをりゐたる 00029750L2宿老、いはれけるやう、今時こそ酒を/自然(しぜん)/冷(ひや)にて/呑(のむ)人あれ、 00029760L3昔ハ大名小名(27ウ)をしなへ、間をして呑ぬハなかりしと、 00029770L4まことらしくいひて、うけられるを、下座より、なむぞ 00029780L5書物に候やと尋ぬれハ、中+の事、/静(しづか)の/舞(まい)に、臣も君も 00029790L6此舞をかんせぬ人ハなかりけり。 00029800¥N46¥J 00029810¥X 00029820L7△ある男二三人つれだち、誓願寺にまいりけるが、げぢ 00029830L8んにあるかくの六字を見、せいぐわんじの額ならは、三字 00029840L9こそあらんめ、なんぞ三あまりたるはといふ。独が、あれ 00029850L10をゑよま(28オ)ぬか、せいぐわんしとのさまと、かきたる 00029860L11ハと申たるこそ、おかしけれ。 00029870¥N47¥J 00029880¥X 00029890L12△一宇の御堂/造立(ざうりう)すてに成就し、/棟札(むなふだ)をかゝんと法印出 00029900L13て筆をそめ、いはれけるハ、此おもてに、あらゆる仏/菩薩(ほさつ)、 00029910L14ならひに日本の神+をかきつくるはとあれハ、かの大工、 00029920L15わたくしをも諸神のうちへいれてあそばし候へといふ。法 00029930L16印大きにわらハせ給ひ、なにとてさやうにみちもなき事を 00029940L17いふぞ(28ウ)とたつねられし時、われも神の内なるまゝく 00029950L18るしからす。なにとして神にハなりたるやとたつねらるゝ 00029960L19に、大工かしこまり、わたくしこそ若狭のかミにて候ほど 00029970M1に。(29オ) 00029980¥T2文之品ゝ 00029990¥N1¥J 00030000¥X 00030010M4△/根来(ねごろ)にて、/岩室(いはむろ)の梅松とかや聞えし若衆に、きこつな 00030020M5き法師のおもひをよせながら、いひよらんたよりもなけれ 00030030M6ば、せゝりがきする人をかたらひ、文を一つかきてくれら 00030040M7れよ、ふんしやうの事ハわれこのまんとなり。ともかくも 00030050M8と筆をそめ、うかゞひゐけれハ、をれはそなたにほれたげ 00030060M9な、恋の心かかしらがいたいと。〔1〕 00030070¥N2¥J 00030080¥X 00030090M10△青蓮院殿へ出入する/筆匠(ふてゆい)あり。/尊鎮門跡(そんちんもんぜき)(30オ)に言上 00030100M11するやう、別して御中よき其なにがし殿へ、/挙(きよ)状を一通下 00030110M12されよかしと。御/領掌(れうじやう)計にうち過る。折&是を/望(のそ)めば、 00030120M13あまり/難去(さりかたき)まゝ、心得たりとて/遣(つかわ)し給ふ文躰、此筆/匠(ゆい)それ 00030130M14へ参候、ぬしハ上手と申候。△△さハらすしてすふだ。 00030140¥N3¥J 00030150¥X 00030160M15△侍たる人、右筆をよびて、此ほとは久不懸御目満足仕 00030170M16候とかけと。それは如何候半と筆をもちゐけるに、それな 00030180M17らハよくきこゆる(30ウ)やうに、此程は御めにかゝらす本 00030190M18望に存候。〔2〕 00030200¥N4¥J 00030210¥X 00030220M19△さる処にて、しやかのふミを見たハとかたる。聞人感 00030230¥P67 00030240L1じ、/声聞(しやうもん)/縁覚(ゑんかく)/羅漢(らかん)の内、誰&へのあて所そや。/耆婆(ぎば)か方 00030250L2へのふミ也。さてハ竹はしに/梵字(ぼんじ)か、文章いかにやととふ。 00030260L3其事よ、紙は日本一の播磨杉原に、/鳥飼(とりかい)様をもつて、いか 00030270L4にも墨をかふ+と、此程は久不懸御目候、四五日以前、 00030280L5霊鷲山(りやうしゆせん)の/麗(ふもと)にて風をひき、咳気散&に候、薬一二貼可給 00030290L6候、/賢(かしく)、(31オ)耆婆殿まいる、尺迦判。 00030300¥N5¥J 00030310¥X 00030320L7△かせ侍のもとより、知音の方へ文有。ひらき見れハ、 00030330L8筆だてに日の/字(じ)ありて、其したに、四五/斗(ト)たまハり候へと 00030340L9かきたり。何ともがつてんゆかぬとて、文を返しぬ。後に 00030350L10見/参(ざん)して、以前の文の内、なにやうのありつるそ、つゐに 00030360L11よミえすして、ほいなきよしかたられけれは、そなたハ/随= 00030370L12分(ずい=ぶん)の人にてあるか、七日のぬかといふ字さへ見しりあらぬ 00030380L13かと。(31ウ)〔3〕 00030390¥N6¥J 00030400¥X 00030410L14△祖父と祖母と何事をかいさかひけん、さうなく祖母を 00030420L15追出しけり。しかハあれと、老たるをあいするものなけれ 00030430L16は、日にそひて、互になつかしく思ふ折節、魚をうる商人 00030440L17来れり。祖父よろこひ、其里のそれとたつね、この文をと 00030450L18ゝけて給候へ、もし又返事のあらハ、たちよりてとりたび 00030460L19候へなど、いひふくめけるか、/姥(うば)文を見て、あめやさめと 00030470M1なき、久しくもあハぬに、文章のあかりたる事やとかんし、 00030480M2(32オ)返事とてたのミわたす。商人かへるさに祖父にわた 00030490M3してあれば、とちほとなる涙をながして、手をはなさず。商 00030500M4人あはれさに、文のやうを尋きく。祖父のかたよりハ、いは 00030510M5らに小石をつゝミそへ、つかハしぬ。むばかかたよりハ、 00030520M6其中へこぬかをつゝミそへて、かへしぬ。むばら恋しとあ 00030530M7るに、むバら恋しくハこぬかと、互にかよふむつましさ、 00030540M8よむもかくもおなし心なる、浜の/真砂(まさご)の数+や。(32ウ) 00030550M9△△年よれハは腰にあつさの弓をはり 00030560M10△△△しはのいる矢にしゝそすくなき 00030570M11荘子ニ△△寿者多辱 00030580M12△△ながかれとなに祈けん世の中の 00030590M13△△△うきめ見するハ命なりけり 00030600M14△△△おしまれぬ身の残るかなしさ 00030610M15△△あやにくに道ある人ハとゝまらで 00030620M16楽天ガ△△今朝向鏡看疑是逢別人 00030630M17△△ますかゝみむかひて見れハ我すかた(33オ) 00030640M18△△△しらぬ翁にあふ心ちする 00030650M19△△老にけり今年はかりと詠むれは 00030660¥P68 00030670L1△△△花よりさきにちる涙かな 00030680¥N7¥J 00030690¥X 00030700L2△とかく当世は、文章のみしかきがはやるといふを聞て、 00030710L3侍たる人のかたより、知音の僧へつかわしたるとなん。 00030720L4△△送進る十八本松茸、恐惶謹言、圭侍者へ、 00030730L5△△△△△△△△△△△△△△平井ノ伊賀入道。〔4〕 00030740¥N8¥J 00030750¥X 00030760L6△又、/商人(あきびと)の/遠島(ゑんたう)より/古郷(ふるさと)へたよりあるといふ(33ウ)時、 00030770L7妻のもとへ、文ならひにゐんしんをしけるが、 00030780L8△△/態(わさと)一/筆(ふて)、/針(はり)三本、/千松(せんまつ)なかすな、火の用心、かしく、 00030790L9とも書たり。 00030800¥N9¥J 00030810¥X 00030820L10△さもとらしき女房の、下主なとつれたるが、清水寺に 00030830L11まうで来て、舞台のこなたかなた立やすらひしが、順礼の 00030840L12やたてをさし、侍めけるあるを見つけ、下主をつかハし、 00030850L13たのミやう、ちかころハゞかりおほえ候へとも、人のくれ 00030860L14し文のかへり事をたれたのまん者もなし、(34オ)ひたすら 00030870L15にふちをえんとあれハ、とやかうの斟酌におよはす、かた 00030880L16ハらにいたりぬ。女房懐より料紙とりいたしわたし、い 00030890L17ろ+のふんを好む。彼順礼ハいろはをさへならハぬ者な 00030900L18りしか、今度西国物詣の楽書をせんまてに、筑後の国の住 00030910L19人柳川のなにかしと、これよりほかは一字もなし、くろミ 00030920M1すくるほと、帋一かさねに、書くときたる文のうち、いつ 00030930M2れも+、筑後の国の住人柳川のなにかしと、うハ(34ウ) 00030940M3がきともにこれなれは、恋のさめたる風流や。 00030950¥N10¥J 00030960¥X 00030970M4△/文盲(もんもう)なる人、ゆがけをかりにやるとて、帋をひろけ、 00030980M5手のひらに/墨(すミ)をつけ、ひたとをし、うてくびのかたにほそ 00030990M6きすぢをまハし書て、これをおかしあれといふて、もたせ 00031000M7つかハしたり。見るにうなづき、ゆかけをかせといふ事の 00031010M8返事せんといふまゝ、/皿(さら)と/椀(わん)のなりを書て、もとしけり。 00031020M9かりにやりたる/仁(じん)がつてんし、さらハぬといふ事の、/是非(ぜひ) 00031030M10におよ(35オ)はぬ。(35ウ)〔5〕 00031040¥T2自堕落 00031050¥N1¥J 00031060¥X 00031070M13△洛陽に、寿桂といふ坊主落堕し、/姪女(めい)なりける比丘尼 00031080M14を妻にもちて居けり。越方の/等閑(とうかん)なきに宿を尋をとつるゝ 00031090M15が、彼寿桂案の外隔心し、内へよばさりけれハ、腹立のあ 00031100M16まり、△△△△△△△△△△元理 00031110M17△△秘蔵して人に見せぬハめいのもの 00031120M18△△△あまくになれば身をもはなたず 00031130¥N2¥J 00031140¥X 00031150M19△△/世度卑(せとひ)なる出家あり。一人の弟子にいふ、(36オ)明日 00031160¥P69 00031170L1ハ吉野の花見にゆかん、先途程遠し、暁よりおきて、出立 00031180L2を用意せよ。心得たりと、夙におき、酒飯とゝのへ、戸を 00031190L3扣けれハ、坊主、いまた夜ふか也とておきす。さる程に、 00031200L4つね+弟子にかくし、いねさまにハ焼味噌と号して、 00031210L5/鶏(にわとり)の玉子をとゝのへ、肴に用て、酒をのむ事を心に無心 00031220L6に思ひゐけるが、その時こらへかね、夜がふかいかあさい 00031230L7かハしらぬ、やきミそがてゝハもはや三番ないた。(36ウ) 00031240¥N3¥J 00031250¥X 00031260L8△つねに人ミな、/干鮭(からざけ)ハ身をあたゝめてよき薬、などい 00031270L9ふを聞て、われも/養生(やうしよう)にくひたき事やとおもひ、老比丘、 00031280L10うつけたる中間にむかひ、薬にちといる事あり、からざけ 00031290L11といふ物をかふてきたれとて、代を三百わたしけり。すな 00031300L12ハちかいもとめて来りぬ。折節あしく、客のある座敷へ、 00031310L13くたんのうつけ、によつとさし出しけるに、老比丘せき面 00031320L14し、其からさけを、すくに泉水へはな(37オ)せと申され 00031330L15たり。 00031340¥N4¥J 00031350¥X 00031360L16△いもほり僧のありつるが、秋も/最中(もなか)の/月澄(つきすミ)に、百性出 00031370L17て田をもりゐたり。夜ふけ、物をとせぬみきり、笠をき、 00031380L18しろき帷子をはしおりたる男、さうけと小桶とをもちて来 00031390L19りぬ。百性、ふしんなる物におもひ、とがめけれは、彼男 00031400M1いふ、/俗(ぞく)人の/鰌(どぢやう)すくふに、なにのくせごとがあらふぞと。 00031410¥N5¥J 00031420¥X 00031430M2△板がへしをせんと、やねふき二三人やとひ出し、(37ウ) 00031440M3すでに板をまくりけるが、ふきし天井をのぞけバ、すりば 00031450M4ちになからほとなますのミゆる。お坊主、ほこりがするに、 00031460M5これなるなますをとり給へと。坊主きいて、それは門前の 00031470M6者が、昨日もてきて質においたが、またうけぬものしやよ 00031480M7と。〔1〕 00031490¥N6¥J 00031500¥X 00031510M8△ひそかにつかわす使の小者、ひさしくやまふにふしけ 00031520M9り。せんかたなくて、坊主みづから魚屋にゆく。いかにも 00031530M10夜ふけしつまりたる(38オ)に、門をたゝくをとせり。内 00031540M11より、たれ人そと高声にとかめければ、在家屋から魚かい 00031550M12にきた、戸をあけよと。〔2〕 00031560¥N7¥J 00031570¥X 00031580M13△/窮貧(きうひん)の沙門にて、年もまた至極せるが、しかと給仕の 00031590M14人もなけれハ、自身しろき手ぬくひにて頭をつゝミ、魚の 00031600M15店にのぞめり。折節なにも魚の類なく、唯/■(ゑい)といふ物大と 00031610M16小とぞありける。亭主、お出あれ、それに候、てふはんな 00031620M17りの魚ハ、いく+らにてあるそ。小は(38ウ)やすく大 00031630M18ハ高なるよし。/合点(がつてん)で候、小をバ其方のいふことくかハふ 00031640M19す、大なるをば/寄進(きしん)せられよと。 00031650¥P70 00031660¥N8¥J 00031670¥X 00031680L1△△/■(ゑそ)を/反古(ほうぐ)につゝミやき、飯にそへて食せんとする時、 00031690L2旦那来れり。坊主れうけんなく、膳をもちてたち、酒を出 00031700L3しふるまいぬ。其後種&/思案(しあん)し、ある時、反古に大こんを 00031710L4つゝミやきふるまひて、以前のにまぎらかさんとたくミ、 00031720L5件のたんなを/請待(しやうだい)す。/く((ママ))即/領(りやう)(39オ)/掌(しやう)し、時分に来りし 00031730L6か、かのやく躰を見、座敷へ/率爾(そつぢ)にいらすたゝすむ。/姥(うば)の 00031740L7あるが出ていふ、いや、あれは/■(ゑそ)てはおりない、大根じや 00031750L8に御座あれと。△△このまへのがいよ+■にすふだ。 00031760¥N9¥J 00031770¥X 00031780L9△あまりに/斎(とき)をくひ過して、/腹便&(はらべん+)と帰るさに、もちた 00031790L10る/数珠(じゆす)をおとしなから、うつむかんやうなきまゝに、足の 00031800L11ゆひにてはさミつゝ、じゆす御免あれと申せしも、ちとし 00031810L12たらくの/類(たぐひ)かや。(39ウ) 00031820¥N10¥J 00031830¥X 00031840L13△/僧俗(そうぞく)ともにましハり、/語(かた)りなくさむ座敷にて、ある坊 00031850L14主、/急(きう)に/咳(すわふき)をしけるが、/喉(のと)より/痰(たん)のかたまりたる様なる 00031860L15物をはきいたしたり。そはにゐたる男の取て見れば、/蛸(たこ)な 00031870L16り。是はゐな物が出たと、口をそろへていひければ、され 00031880L17は喝食の時くふてあつたが、今出た、つねに蛸はきえかぬ 00031890L18るといふが、誠じやよ。 00031900¥N11¥J 00031910¥X 00031920L19△都の寺え/檀那(だんな)朝とく参り、本尊を拝し、/茶堂(さだう)の/傍(かたはら)に 00031930M1候て/数珠(じゆず)をくり、仏名を/念(ねん)じ(40オ)ゐけるが、/炉(ろ)にかけ 00031940M2たる/釜(かま)の湯おびたゝしく/煮(にゑ)あがりて、/蓋(ふた)をたゝく。/釜(かま)とふ 00031950M3たとのあいたになにやらん見ゆる物あり。ふたをとりたれ 00031960M4ば/蛸(たこ)なり。これはなにぞ、/蛸(たこ)ではなきかやといふ時、坊主 00031970M5の返事、さる事も有べし、ゆふ/部(べ)/蛸薬師(たこやくし)の水をくミよせて、 00031980M6茶の湯をしかけさせたほどにと。 00031990¥N12¥J 00032000¥X 00032010M7△大名の家に奉公の/望(のぞミ)をかけたるが、漸調ひぬれバ、/奏= 00032020M8者(そう=しや)について出仕をとげし次而に、(40ウ)せがれを御目にか 00032030M9けたきむね申ふくむる。/即(すなハち)つれて礼義すミけり。時に主た 00032040M10る人、そちはちかき比の/落堕(らくだ)といふが、/成人(せいじん)の子はなにと、 00032050M11/養子(やうし)かととハれて、いや、喝食てのせがれと申あぐる。 00032060¥N13¥J 00032070¥X 00032080M12△学跡をものそきける程の沙門、/鰻(うなぎ)を板折敷のうらにを 00032090M13き、ながたなにてきる処へ、おもひもよらぬたんな参りた 00032100M14り。少も色をたがへす、/世界(せかい)みな不思義を/以(もつ)て/建立(こんりう)(41オ) 00032110M15す。されは連&、山のいもが/鰻(うなぎ)になると人のいふてあれど、 00032120M16さためて虚説ならんと/疑(うたがい)ひしが、これ御覧せよ、山のい 00032130M17もを汁にしくハんとおもひ、とりよせをきたれは、見るか 00032140M18うちにかやうになりて候は、何事ももの疑めさるゝな、こ 00032150M19れ御覧あれとぞ申されける。 00032160¥P71 00032170¥N14¥J 00032180¥X 00032190L1△あるひとり坊主、/烏賊(いか)をくろあへにしてたまわる処へ、 00032200L2ふと人来れり。口をぬくわん/料簡(れうけん)もなかりつるに、そなた 00032210L3の口ハなにとて(41ウ)くろいそや、かねをつけられたか 00032220L4ととふ。いや、あまりさむさに、只今もえさしを一口くふ 00032230L5たと。〔3〕 00032240¥N15¥J 00032250¥X 00032260L6△一日の/精進(しやうじん)を千日ともおもひ、こらへかぬる人はまゝ 00032270L7あり。さるあいた、ひとりの老人、他事なき知音のもとに 00032280L8/終日(ひめもす)物語し、暮におよむて座をたつ時、明日ハ我親の日な 00032290L9り、/無菜(ぶさい)の/斎(とき)を参らせんやと、亭のいひければ、手をあわ 00032300L10せ、まつひら御免あれ、私の親の日さへ/難義(なんぎ)するに、そな 00032310L11たの親の精進(42オ)までは、のふいやゝとそ申ける。 00032320¥N16¥J 00032330¥X 00032340L12△信心ふかき人、山寺にまうで、ある僧坊に宿をかり、 00032350L13本堂の観世音に/通夜(つや)しけるつゐで、老僧に対面し、此寺家 00032360L14に法師いかほと候や、中にも/勤行不退(ごんぎやうふたい)のかたやあるなど、 00032370L15委細に尋ければ、老僧の/返答(へんとう)に、此寺にたうとい者は/我(われ)親 00032380L16子、/隣(となり)の坊主の/聟(むこ)しうと。 00032390¥N17¥J 00032400¥X 00032410L17△天に目なしとおもひ、ぬたなますを/喰(くひ)ぬる(42ウ)処へ、 00032420L18たんな来り、見つけたれハ、ちと物よミたる僧にやありけ 00032430L19ん、よき砌の入堂なるかな、こゝに/歴劫不思議(りやつこうふしぎ)の法味あり、 00032440M1まつ天地のあひだに七十二候とて、時のうつるに/応(おふ)し、物 00032450M2のかハり行奇特を申さん、/田鼠(でんそ)化して/鶉(うづら)となり、/雀(すゞめ)/海中(かいちう)に 00032460M3入て蛤となり、/鳩(はと)/反(へん)して/鷹(たか)となるといふ事あるが、/愚(ぐ)僧か 00032470M4/菜(さい)にすハりたるあへもの、反してぬたなますと/眼前(がんぜん)になり 00032480M5たる、此奇特を御(43オ)覧せよと。〔5〕 00032490¥N18¥J 00032500¥X 00032510M6△ある僧/喉痺(こうひ)にてハなく、/喉(のど)をいためるあり。心やすき 00032520M7人の見舞、なにぞ物のたちて、くるしめるにやととハれけ 00032530M8るに、さのごとし。さらハかやうの事よくまじなふて、い 00032540M9やす/修行者(しゆぎやうじや)あり、かれをさそひきたらんと同道せり。時に 00032550M10なをす人、竹のおれかや、/魚(うを)の/骨(ほね)かや、其物により/観念(くわんねん)か 00032560M11ハれりと。僧/息(いき)の下より、竹でハあらふずれども、まじ 00032570M12(43ウ)なひハ魚の骨の心もちにて御沙汰候へと。 00032580¥N19¥J 00032590¥X 00032600M13△或/檀那(たんな)、寺に参り、しはらく/雑談(ざうたん)し、たちさまに、明 00032610M14日無菜の/斎(とき)を申さんといへは、/庫裡(くり)からめうが/楚忽(そこつ)に出て 00032620M15いひける、幸の事や、あすハお坊様の精進の日しや。 00032630M16△僧の方より旦那をよバんに、いふべき仁義でハおりないか。 00032640M17仁王経ニ、/比丘地立(びくちりう)、/白衣高座(びやくゑかうざ)△△白衣ハ俗也。 00032650M18△△世の末は墨の衣も武士の 00032660M19△△△/奴(やつこ)となれる法そかなしき(44オ) 00032670¥P72 00032680L1中峯和尚修行(ノ)記ニ、身着法衣思染俗麈 00032690L2△△墨染の衣に似たる心かと 00032700L3△△△とふ人あらバいかゞこたへん 00032710L4△△/遁世(とんせい)の/遁(とん)の一/字(ぢ)を書かへて 00032720L5△△△むかしハ/遁(のが)れ今ハむさぼる 00032730¥N20¥J 00032740¥X 00032750L6△坊主、いつも/鮎(あゆ)の名をかミそりとつけて、箱に入もと 00032760L7むるを、常の事なれば小者よくしりたり。ある時、彼僧河 00032770L8をわたるに、鮎のおほくありくを見て、小者跡より、御坊 00032780L9様、いつも(44ウ)秘蔵して、こなたの入物にあるかミそ 00032790L10りがありくに、足をきり給ふなといひけれバ、坊主、今ハ 00032800L11八月なり、かミそりがいかほどあると、さびようほとに、 00032810L12足ハきれまいそといへり。 00032820¥N21¥J 00032830¥X 00032840L13△昔よりやせの寺ハ/禁(きん)酒なり。寺中に酒を好む僧のたく 00032850L14ミて、経箱をさゝせ、/角(すミ)をとり、いかにも/結構(けつこう)にぬらせ、 00032860L15上に五/部(ぶ)の大/乗経(ぜうきやう)と書付、それをかよひにしけり。酒をと 00032870L16りてくるに、人それハととへば、是ハ五部の大乗経也、(45 00032880L17オ)京にいたゞかん事をねがふ旦那あり、其故に折&もち 00032890L18てゆきかよふとこたふ。あまり京かよひのしげけれバ、人 00032900L19あまねく/推(すい)してけり。ある時、内の者経箱をもちかへる/途(と) 00032910M1中にて、酒のにほひをきゝ、のミたさやるせなし。そと口 00032920M2をあけ給りぬ。そろ+寺にかへるに、それハなんぞ。つ 00032930M3ねのことく経にて候といふ。さらバちといたゞかんとて手 00032940M4にとり、ふりて見、まことにお経やらん、内に五ぶ+と 00032950M5(45ウ)いふ声がする。〔4〕 00032960¥N22¥J 00032970¥X 00032980M6△僧俗よりあひての物語に、今程は事の外/鮒(ふな)がやすきよ 00032990M7し、坊主のいはれけるを、俗いふ、きとくな事や、こちさ 00033000M8へしらぬとあてたれハ、いや、われハしらぬ、寺中のとり 00033010M9さたじやと。 00033020¥N23¥J 00033030¥X 00033040M10△ある出家、ふかくかくして/鱠(なます)をくひける処へ、ふと檀 00033050M11那来れり。/為方(せんかた)なさに、皿ともにあたまへうつふけ、手に 00033060M12てをさへたれハ、/頬(ほう)(46オ)からおとがいへ、汁のながる 00033070M13ゝを見つけ、こなたにハ/腫(しゆ)物ができまいらせたかととふ。 00033080M14おふといへばよかりしを、あまりに/肝(きも)をつぶし、いや、俄 00033090M15にぬたなますができて候といひけり。(46ウ) 00033100¥T2清僧 00033110¥N1¥J 00033120¥X 00033130M18△/人跡(しんせき)/絶(たへ)たる山中に一/宇(う)の堂あり。甍やふれてハ/霧(きり)/不断(ふたん) 00033140M19の/香(かう)をたく境界なれハ、世にあらん人の/昼(ひる)たにも立よるへ 00033150¥P73 00033160L1きよしもなきに、いかなる/不惜身命(ふしやくしんめう)の行者なれハ、此/仏閣(ぶつかく) 00033170L2にハすめると、あわれむ者もおほかりし。又悪性の者あり。 00033180L3うたがひおもふ、あれほどおそろしき処に、なんとしてひ 00033190L4とりはすまれん、唯女房のある(47オ)物よと、嵐/冷(すさま)しき 00033200L5冬の夜、立聞をしけり。彼僧/終夜(よもすがら)の語に、そなたがゐれは 00033210L6こそ此寒夜にもあたゝかなれ、いとをしの人やといひけり。 00033220L7/紛(まきれ)もなき夫婦にこそと、人あまた押入て見れは、なにもな 00033230L8し。坊主の愛せらるゝものハなにぞととふに、これなん我 00033240L9か/伽(とぎ)なりといつて、三升ほど入、大徳利をぞいだしつる。 00033250L10〔1〕 00033260¥N2¥J 00033270¥X 00033280L11△禅に/一路(いちろ)とて得法の僧ありし。和泉の/国(くに)(47ウ)大鳥 00033290L12の辺に草庵をむすひ、友もなく/星霜(せいさう)をおくらるゝ。財宝と 00033300L13てハ手どりとかやいふ、ちいさき釜に口のあるを/所持(しよぢ)し、 00033310L14朝夕の/煙(けふり)をたてられき。ある時たハふれて、 00033320L15△△手どりめよをのが小口のさし出て 00033330L16△△△/増水(ぞうすい)にたと人にかたるな 00033340L17△△身をかくす庵の軒の朽ぬれば 00033350L18△△△いきても苔の下にこそあれ 00033360L19△△月は見ん月にハ見えしなからへて(48オ) 00033370M1△△△うきよをめくる影もはづかし 00033380¥N3¥J 00033390¥X 00033400M2△百卅年あまりの跡かとよ。筑前国宰府の天神の/飛梅(とびむめ)、 00033410M3天火にやけてふたゝひ花さかず。こハそも浅ましき事やと、 00033420M4人皆涙をながし、しるもしらぬもあつまりて、思ひ+の 00033430M5短冊をつけ参らする中に、/権梗(ごんきやう)坊とて、/勇猛精進(ゆめうしやうしん)なる老僧 00033440M6のよめる哥こそ殊勝なれ。 00033450M7△△/天(あめ)をさへかけりし梅の根につかば(48ウ) 00033460M8△△△土よりもなと花のひらけぬ 00033470M9短冊を木の枝にむすひて、足をひかれけれは、すなはち/緑(ミどり) 00033480M10の色めきわたり、花さく春に帰りし事よ。人&/感(かん)に/堪(たゑ)て、 00033490M11かの沙門を、神とも仏とも手を合せし。梅ハ是我が/愛木(あいぼく)と 00033500M12/賞(しやう)ぜさせ給ひ、 00033510M13△△いつくにも梅たにあらバ我とせよ 00033520M14△△△たとひ社はありとなしとも 00033530M15△△梅あらは/賎(い)やしきしづかふせやにも(49オ) 00033540M16△△△われ立よらん悪魔しりぞけ〔2〕 00033550¥N4¥J 00033560¥X 00033570M17△さしもたつとき老僧のもとへ、松茸のさかりなるを人 00033580M18のおくりたり。とりはやしほめゐける処に、そこつ成小僧 00033590M19の出て、まつたけ一つ取あけ、これはそのまゝ、これの地 00033600¥P74 00033610L1蔵のあたまににたハと申けれは、老僧涙をなかし、衣を着 00033620L2し、地蔵のまへに参、今小僧めか申せし/狼藉(らうぜき)を、まつひら 00033630L3我に/対(たい)してゆるし給へと、かなしまれしは、(49ウ)おもひ 00033640L4やられてありがたや。 00033650¥N5¥J 00033660¥X 00033670L5△/栂尾(とがのを)の/明恵(ミやうゑ)上人は、春日大明神直に御言葉をかハし給 00033680L6ひしが、 00033690L7△△けかさじと思ふ御法のともすれば 00033700L8△△△世わたる橋となるがかなしき 00033710¥N6¥J 00033720¥X 00033730L9△大和国に/龍(りやう)門の/聖(ひじり)といふあり。聖としたしき男の、明 00033740L10暮/鹿(しか)をころすに、ともしといふ事をしける。くらき夜、ね 00033750L11らひかりに出たり。目をあはせたれば、鹿ありとて(50オ) 00033760L12をしまハし+するに、慥に目をあはせたり。ほぐしに引 00033770L13かけ、矢をはけいんとふりたて見るに、此鹿の目の間、例 00033780L14の目の色に変りければ、あやしと思ひ、弓を引さし、矢を 00033790L15はづして、火をとり見るに、鹿の目にはあらす。ちかくよ 00033800L16り見れは、身ハ一定の/革(かわ)なるが、静に火をふき見れハ、此 00033810L17聖の目うちたゝき、鹿の皮を引かつき、ふし給へり。こハ 00033820L18いかにといへば、ほろ+となきて、わ(50ウ)ぬしか/制(せい) 00033830L19する事をきかず、いたくしかをころす、我鹿にかわりてこ 00033840M1ろされなば、さり共少ハ留りなんと思へは、かくて、いら 00033850M2れんとしてゐる也。男ふしまろびなき、即やなくひみなう 00033860M3ちおりくだき、もととり切て、つかわれてぞゐける。 00033870¥N7¥J 00033880¥X 00033890M4△昔もろこしに/宝■(ほうし)和尚といふあり。道徳おハしけれハ、 00033900M5/帝(ミかど)彼姿を影にかき留んとて、絵師三人を/遣(つかわ)し給ふ。三人め 00033910M6ん+にうつす(51オ)へきよし、仰ふくめらる。和尚へ 00033920M7参り、かく宣旨を蒙りまうでたるよし申せは、しバしとい 00033930M8ひて、/法眼(ほうげん)の装束し出合給へるを、三人各書へき/絹(きぬ)をひろ 00033940M9け、既に筆をくたさんとするに、聖、しはらく、我まこと 00033950M10の形あり、それを見て写べしとあり。さうなくかゝす、御 00033960M11顔を見れバ、大/指(ゆび)の爪にて/額(ひたい)の皮をさしきりて、皮を左右 00033970M12へ引のけたるより、金色の/菩薩(ぼさつ)のかほをさしいだし(51ウ) 00033980M13たり。一人ハ十一面/観音(くわんおん)と見る。一人ハ聖観音と拝奉りつ 00033990M14る。見るまゝに写奉り、持参たれは、御門おとろき、別の 00034000M15つかいをたてゝとハせ給へは、かいけつやうにうせ給ふ。 00034010¥N8¥J 00034020¥X 00034030M16△天竺に一寺あり。住僧おほし。/達磨(だるま)和尚、僧どもの/行(おこな) 00034040M17ひを見給ふに、念仏するあり。/或(ある)房に八九十計なる僧、只 00034050M18二人/碁(ご)を打外は他事なし。達磨件の房を出、他の僧に/問(とふ)。 00034060M19/答(こたへて)云、此二人若より/囲碁(いき)の外する事(52オ)なし。/仍(よつて)寺僧 00034070¥P75 00034080L1いやしミ、/外道(げだう)のことく思へりと云。和尚聞て、定て様あ 00034090L2らんと思ひ、彼老僧の傍にて/碁(こ)打様を見れハ、一人ハ立、 00034100L3一人は居と見に、/忽然(こつぜん)として失ぬ。あやしく思程に、たて 00034110L4るハ帰り、ゐると見れハ又居たる僧失ぬ。されはこそと思 00034120L5ひ、囲碁の外他事なしと承る、其故を聞奉らんとの給ふに、 00034130L6答云、年来此事より外はなし、/但(たゝ)/黒(くろ)/勝(かつ)ときは我/煩悩(ぼんなう)勝ぬと 00034140L7かなしミ、/白(しろ)/勝(かつ)時ハ(52ウ)/菩提(ほたい)勝ぬと悦、打に随て煩悩 00034150L8の黒を失ひ、/忽(たちまち)に/証果(せうくわ)の身と成侍也ト云&。 00034160¥N9¥J 00034170¥X 00034180L9△山のはにさそハゞ入らん我もたゝ 00034190L10△△△うきよの空に秋の夜の月 00034200L11/解脱(げだつ)上人の、世に随へば望あるににたり、俗にそむけハ狂 00034210L12人のことし、あなうの世中や、一身いつれの処にかかくさ 00034220L13んと、かゝれしを、右の哥に引合て、衣の袖をしほりにき。 00034230L14(53オ)〔3〕 00034240¥Q1 00034250L18元和元年の比、安楽庵咄を所望いたし、承候へハ別而おも 00034260L19しろく存に付て、御書集候て、草子にいたし給候やうにと 00034270M1申候処ニ、一両年過、八冊に調給候。粉失可仕かと存、奥 00034280M2に書付置也。 00034290M4△寛永五年三月十七日△△重宗(53ウ) 00034300¥P76 00034310¥Y1醒睡笑巻之四目録 00034320L3聞た批判 00034330L4いやな批判 00034340L5そてない合点 00034350L6唯有(1オ) 00034360¥T1醒睡笑巻之四 00034370¥T2聞た批判 00034380¥N1¥J 00034390¥X 00034400M5△/貴賎(きせん)/袖(そて)をつらね、われも人もじゆずつまくる躰を見、 00034410M6/被官(ひくハん)たる者、やさしや、ひうがんとて、仏まいりをつかま 00034420M7つるよといふを、/主(しう)/聞(きゝ)つけ、ひうがんはかたことや、ひが 00034430M8んといへと。これハかゝる事、我等もはや五十にあまれと 00034440M9も、つゐにひうかんとこそ申ならハし候へ、/彼岸(ひがん)といふハ 00034450M10きかす。/主(しう)大に腹をたて、あひてにたらぬ事(2オ)なれど 00034460M11も、あまり、なむぢあらそふかにくき程に、/地頭(ちとう)に儀を得 00034470M12よやとて、彼ひはんを聞たれは、/双(さう)方に理あり、/彼岸(ひがん)ハ春 00034480M13と秋とにわかてり、秋は/収納(しゆなう)のいとなミ、月に/夜田(よだ)かるい 00034490M14そかハしさに、如何にも言葉みしかきを/要(よう)とし、ひがんと 00034500M15いふよし、春ハ四方の山/並(なミ)/打霞(うちかすミ)、/百囀(もゝさへつり)の鳥のいろ、花なら 00034510M16ねどもかうバしく、/隙(ひま)ありけにも/胡蝶(こてう)まひあそふ、いとゆ 00034520M17ふ折なれは、ひうかんこそよろしからめ、あなかしこ、あ 00034530M18らそふ事なかれ。(2ウ) 00034540¥N2¥J 00034550¥X 00034560M19△西三条逍遥院殿、御/養生(やうしやう)に/有馬(ありま)へ/湯治(たうぢ)ありし。其時哥 00034570¥P77 00034580L1の/点(てん)を望て参らせあくる。/兎(と)角よろしからねば、 00034590L2△△むかしよりきとくありまの湯ときけと 00034600L3△△△腰をれ哥はなをらざりけり〔1〕 00034610¥N3¥J 00034620¥X 00034630L4△市のたつ町のかしらに、小/宮(ミや)をたてて、ゑびすの作り 00034640L5たるあり。たちよるもの、あらいつくしのゑびすやとほむ 00034650L6るをきいて、あれをゑひすとハいはぬ物ぞや、きびすとい 00034660L7ふがほん(3オ)なりとからかふ。/町奉行(まちぶぎやう)へあけてすませと、 00034670L8双方出たりければ、どちも大事なし、木にてつくりたるハ 00034680L9なんどきもきびす、/帋(かミ)にかきたるハ、いつとてもゑひすと 00034690L10いふへし。 00034700¥N4¥J 00034710¥X 00034720L11△比/叡(ゑい)山にて、/北谷(きたたに)の児は、雪に過たる物やあらむと愛 00034730L12せられし。又南谷の児ハ、花にまされる詠やあらんと/興(けう)ぜ 00034740L13られし。かゝりしほとこそありけれ、後にハあなたこなた 00034750L14心なきに心をつけ、いさかひになり、花をはあしくいひち 00034760L15らし、(3ウ)雪をばいな物にいひけし、雪のかたよりハ、 00034770L16花をほむる/狼藉(らうぜき)のるいを、よせてうたんといふ。又花のか 00034780L17たよりは、雪をほむるうつけともを、たゝはたいてのけよ 00034790L18と、たがひにいかれる心たけく、山のさはき事の外なりし。 00034800L19西三条逍遥院殿つたへきこしめされ、わさと山に御のほり 00034810M1あり。雪にめてられしも理あり、 00034820M2△△花ならば咲ぬ梢もあるへきに 00034830M3△△△何にたとへん雪の明ほの(4オ) 00034840M4花に心をそめられしも、尤ゆへあり、 00034850M5△△雪ならは幾度袖をはらハまし 00034860M6△△△はなのふゝきの志賀の山/越(こえ) 00034870M7自今以後/勝劣(せうれつ)をあらそはす、中をなをりて、/同入和合(とうにうわがう)の床 00034880M8に/勤学(きんがく)あれと、しつめてこそ御帰りけれ。〔2〕 00034890¥N5¥J 00034900¥X 00034910M9△従一位の右太臣/征夷将軍(せいいしやうくん)/源家康(ミなもとのいゑやす)公、天下を治め給 00034920M10此御代に、/賢臣(けんしん)/義士(きし)/多(おほ)き中に板倉伊賀守、/京都(きやうと)の/所司代(しよしたい)と 00034930M11して/訟(うつたへ)をきゝ、理非(4ウ)を/決断(けつだん)せらるゝに、富貴の人とて 00034940M12も、へつらふ色もなく、貧賎の者とても、くたせる/躰(てい)なし。 00034950M13/然(しかる)間、上下/万民(はんミん)/裁許(さいきよ)を悦て、奇なるかな妙なるかなと、/讃= 00034960M14嘆(さん=だん)する人、ちまたにみてり。一/滴(てき)/舌上(ぜつしやう)に通して、/大海(たいかい)の塩 00034970M15味をしるとあれは、其金/語(ご)のはしをいふに、余ハしりぬへ 00034980M16きや。しかる時、/越後(ゑちご)にて山/伏(ふし)/宿(やと)をかりぬ。其節、国主の 00034990M17迎に亭も罷出るに、彼山伏のさしたる刀、こしらへといひ、 00035000M18つくりといひ、世にすぐ(5オ)れたる物なるを、かりて行。 00035010M19いまた宿に帰らさるあひだに、一/国(こく)/徳政(とくせい)の/札(ふた)たちけり。去 00035020¥P78 00035030L1/程(ほと)に/亭主(ていしゆ)かへりても、刀をかへす事なし。山伏こらへかね、 00035040L2しきりにこふ。宿主返事するやう、そちの刀かりたる処/実= 00035050L3正(じつ=しやう)なり、されとも、徳政の札立たる上ハ、此刀もなかれた 00035060L4るなり、さら+かへすましきといふ。出入になりけれハ、 00035070L5双方江戸に参り、/大相国(たいしやうこく)御前の沙汰になれり。其/砌(ミきり)、/板倉(いたくら) 00035080L6/伊賀(いが)守下向あり。御まへにはんべ(5ウ)られし。此/裁許(さいきよ)い 00035090L7かにと御/諚(ぢやう)あるに、/謹(つゝしん)て、/造(さう)作もなき儀と存候、/幸(さいわい)礼の 00035100L8上にて亭主がかりたる刀をなかし候ハゝ、又山臥かかりた 00035110L9る家をも、ミな山伏がに仕べき物なりと、申上られしかバ、 00035120L10大相国御/感(かん)/甚(はなハた)/かり((ママ))し。/当意即妙(たういそくめう)の下/知(ち)なるかな。以正理 00035130L11之薬、治訴訟之病、挑憲法之灯、照愁歎之闇とい 00035140L12ふ金言も、よそならす。 00035150L13△△△さすかをくかとおもふ重家 00035160L14△△一腰の刀ならてハしちもなし(6オ)〔3〕 00035170¥N6¥J 00035180¥X 00035190L15△大仏の前にて、わかき侍の小者二人つれたるか、茶屋 00035200L16により、ひた物餅をくひ、時宜なしにたゝんとする。亭主 00035210L17銭ハといふに、一銭のあてなし。いつくの人そ。我は/関(くハん)東 00035220L18の者なり、頼たる人の/使(つかひ)に京へのほる、今朝与風出たり、 00035230L19やかて返弁に及なん、此度ハかけられよと。亭主返答もせ 00035240M1す、あざわらつて、かくるとハ二文や五文の事候よ、十疋 00035250M2ハ過分也、銭なくハ/脇指(わきさし)を質にとらんと。侍、主の使に行 00035260M3者の、まる腰ハいな物(6ウ)なるへし、ゆるされよとわひ 00035270M4てもきかす。侍ほとの人、/料足(れうそく)なくハ、くふましきにてこ 00035280M5そあらんめ、とかくわやくなり、いさ板倉殿へゆけと、町 00035290M6の年寄をつれだち、所司代へ出る。茶屋、右の趣を申せ 00035300M7は、此事如何にと尋とハるゝに、侍もちんずへきやうなし。 00035310M8伊賀守、双方を聞て、詮する処、是ハ十疋の料足さへとれ 00035320M9は、茶屋もいひ分あるましきかととはる。中+別の子細 00035330M10候ハじと申時、さらは鳥目とらせよと、十疋を(7オ)つか 00035340M11ハしてぞかへされける。侍にハ、御/辺(へん)/関東(くハんとう)の人といふ、京 00035350M12伏見ハ/故郷(こきやう)にて/知音(ちいん)なとある所にかハり、かたとをりなれ 00035360M13は、後に返/弁(へん)せむなといひ、物の代をすまさす過る事ハな 00035370M14るましきそ、以来其心得あれと異見してぞもとされける。 00035380¥N7¥J 00035390¥X 00035400M15△山科の百性/薪(たきゝ)をこり、/負(おひ)たるまゝ山よりすくに/京(きやう)に出 00035410M16て/売(うる)。さるほとに彼薪の上にさして/置(おき)たる鎌をうちわすれ、 00035420M17宿に帰り/漸(やうやく)思出し、右の/薪(たきゝ)かふたる人のもとに行、件の 00035430M18(7ウ)よしをいひてけれは、主人/出合(いてあひ)、われハ薪をこそか 00035440M19ふたれ、/鎌(かま)をはかハす、何事をほれていふやらんと、一向 00035450¥P79 00035460L1とりあハねハ、/是非(せひ)なうて、所司代へ申けり。双方よひい 00035470L2たし、聞ての上に、伊賀守、先しハらくほとあらんに、/肩= 00035480L3衣(かた=きぬ)/袴(はかま)をぬき、ゆる+とゐよと気をくつろげ、ぬきたるを 00035490L4とりよせ、そともたせつかハし、此肩衣袴と、そちにある 00035500L5/鎌(かま)をかへておこせよとあれは、女房うたかひなくおもひ、 00035510L6わたせり。其ことくなる鎌を(8オ)五六てうましへ出し、 00035520L7百性に見分よとあれハ、是ぞ私のなれとてとりたり。其後 00035530L8鎌をかくしつる者に、過銭として三貫文いたさせ、以前の 00035540L9百姓に扶持ありし事よ。 00035550¥N8¥J 00035560¥X 00035570L10△慶長七年七月七日に、せなかにおひずりなといふ物を 00035580L11かけつる人足、やせくろミ、/竹杖(たけづへ)にすがり、京の町をとを 00035590L12れバ、見る人、あなおそろし、けにやらん、此比は地獄の 00035600L13釜のふたもあき、/罪(さい)人/聖霊(しやうりやう)となりくるなると聞か、さやう 00035610L14(8ウ)の者にやといひあへるに、此者ミせによりて、/瓜(ふり)を 00035620L15一ついかほとゝいへは、二文とこたふ。/腰(こし)に只一文あり、 00035630L16/盆(ぼん)の/結縁(けちゑん)とおほして給ハらんやと。其分にもせんとあり。 00035640L17即、瓜をとり、かしらよりかぶりくらひ、後はさミたる銭 00035650L18をミれは、おちて/縄(なわ)/計(ばかり)ぞ候ける。瓜の主へ、/慈悲(じひ)とおほし 00035660L19めしゆるし給へかしと/歎(なけ)くに、此人天然と/慳貪(けんどん)にて、沙汰 00035670M1の限、すりの類とおぼゆるなり、出させ給へと、町の人を 00035680M2/催(もよほ)し、やせたる男を(9オ)/追立(をつたて)、板倉殿坪の内に引すへ、 00035690M3右の様子/具(つぶさ)に/訟(うつたへ)申。人足もありのまゝ/言上(こんじやう)す。伊賀守聞 00035700M4給ひ、何れも事の実否を/糺明(きうめい)すへし、先此者を瓜/売(うり)に/預(あづ)く 00035710M5るに、二時の飯をそちあたへ、昼ハ町としてよきにばんす 00035720M6へし、ゆるかせならは我をうらむなとて、帰されけり。只 00035730M7一文の事にいらぬ儀をいふて、/造作(ざうさ)する物とハ思ひながら、 00035740M8一間なる所におしこめ、番をすへ、毎日の/食(めし)をぞあたへけ 00035750M9る。六日七日に及べと(9ウ)も、糺明なけれはこらへかね、 00035760M10をの+参て、御/糺明(きうめい)あれかしと申に、伊賀守、事の多さ 00035770M11に/忘(わす)れて候、今思案するに、時ハ/盂蘭盆(うらぼん)、/科(とが)ハ瓜一つ、/是(これ) 00035780M12ほどの/裁許(さいきよ)ハ/初(はしめ)にすべかりしかど、瓜売の/慳貪(けんどん)なる心ねが 00035790M13にくさに、のへつるぞ、/飢(うへ)に/望(のそミ)たる者を見てハ、まねきて 00035800M14もあたゆべきに、せんかたなき者をとらへきて、銭一文の 00035810M15事にくびをはねよとハなむそ、慈悲をせさすべきために、 00035820M16此中ハやしなハせたり、いそきその者ゆるしかへ(10オ)せ 00035830M17と下知あれば、其/席(せき)に有し人、ミな/頭(かうべ)をかたふけ、/感涙(かんるい)を 00035840M18なかさぬハなかりし。 00035850¥N9¥J 00035860¥X 00035870M19△下京にちと/有徳(うとく)なる者、男子を一人持たり。/彼(かの)二歳の 00035880¥P80 00035890L1/春(はる)、/母(はゝ)にはなれぬ。/継母(けいほ)にそハんをいたハりながら、さす 00035900L2が男やもめにて送らんよしもなけれは、かさねて/妻(つま)をもと 00035910L3め/置(おき)しが、/惣領(さうりやう)すてに六歳の春、父/病(やまひ)の/床(とこ)にふしぬ。かな 00035920L4ふまじき事を/得心(とくしん)し、兄にむかひ、我子/幼稚(ようち)なり、そちへ 00035930L5とり、/養育成人(やういくせいじん)の後、家をわ(10ウ)たしてくれられよとい 00035940L6ひをき、終にむなしくなれり。/遺言(ゆいこん)のことく、子をおぢの 00035950L7かたへよびとらんとするに、/継母(けいほ)いふ、我か/腹(ハら)を/出(いて)ぬ/計(はかり)に、 00035960L8いかほとしんくして、年月そたてたるそや、其上此後、又 00035970L9夫にそハんにもあらす、/髪(かミ)をそり、あの子をそたて、家を 00035980L10もりたてん物、中+そちへハやるまいといかり、双方伊 00035990L11賀守の前に出たり。いふ処いづれも理あり、それなる子爰 00036000L12へ/越(こえ)よとよび、/膝(ひさ)のもとになつけ、こたつ(11オ)にあたら 00036010L13せ、菓子などとりくハせ、心やすくおもふかほばせの折、 00036020L14そちハおちのもとにゐたいか、又母のところにゐたいかと 00036030L15とハせ給へは、おちのところにゐたいといふ。さらはもと 00036040L16の処へゆけとありし。おぢと/後家(ごけ)と子の手をとりうバひよ 00036050L17ふ。子ハなく+おちのひざに/居(ゐ)けり。伊賀守下知せられ 00036060L18けるハ、まつしはらくおちのかたにあづけよ、とかく子か 00036070L19/伯父(おち)になついたほとに、後ハともかくもあらんと、やハら 00036080M1かにいふて(11ウ)もどされし。 00036090¥N10¥J 00036100¥X 00036110M2△京にて/猫(ねこ)をうしなへる者あり。/厨子(づし)小路にいたり、身 00036120M3をやつし尋しが、ある所にて不思儀に見付、これハ我猫と 00036130M4いふ。亭主出て、そちがといふ/証拠(せうこ)ハ。又、汝かといふ証 00036140M5拠ハ。をしくほしくのあらそひなれは、/是非(ぜひ)/終(つゐ)にわかたす。 00036150M6板倉伊賀守、是非のあひて二人対座せさせ、件の猫を座敷 00036160M7の中にをき、もとの主も今の主も、手に/鰹(かつほ)を一ふしづゝも 00036170M8ちて(12オ)よべ、むまれてよりそだてなれたる方へこそ行 00036180M9へけれと。あんのごとく始うしなひし者の/膝(ひざ)の上へ、なく 00036190M10+行し事よ。 00036200¥N11¥J 00036210¥X 00036220M11△京矢田の町に、夫婦の人ありしか、/夫(おつと)さきに立。/妻(つま)/歎(なけき) 00036230M12にあけくれ、一周忌も過ぬ。/後家(ごけ)、/惣領(そうりやう)の子と其/妹(いもうと)をよひ、 00036240M13なき人の事かたり出し、涙をおさへつゝ、惣領にむかひて、 00036250M14御身ははや家をも/請取(うけとり)、/譲(ゆつり)をも取たれは、今この家と少も 00036260M15残れるものを、/妹(いもうと)の子に/聟(むこ)(12ウ)をとりて/渡(わた)せとの、/遺言(ゆいこん) 00036270M16なるよしいひければ、其子、我はさせる/譲(ゆつり)をもとらす、此 00036280M17家も/財宝(さいほう)もえこそやるましきと、座敷をけたてゝ立さりし 00036290M18後、/結句(けつく)家をうけとらんといふ使をたつるゆへに、老母/腹(ハら) 00036300M19をたて、やいてはすつると、やるましき物をとあれハ、町 00036310¥P81 00036320L1衆あつかひに入、さきに母のいひわたされたるすぢめに/教= 00036330L2訓(けう=くん)するも、とゝのハす。惣領/目安(めやす)を/認(したゝめ)所司代へ出にけり。 00036340L3伊賀守其/趣(おもむき)を/懇(ねんころ)に/尋(たつね)(13オ)とひて、/対決(たいけつ)に及まてもなく、 00036350L4大にいかりて、孝ハ百行の始なれは不孝百悪のもとひなる 00036360L5へし、たとひ母のいふ所/僻事(ひがこと)也とも、孝の道を存ぜは、/独(ひとり) 00036370L6ある老母に随ぬ事あらんや、/諺(ことハさ)にも、親物にくるハゝ子ハ 00036380L7はやすへしといひならハせり、其上是ハ母の理至極なり、 00036390L8/亡父(ぼうふ)か遺言をそむくといひ、老母の命にしたがはさる不孝 00036400L9不順の過と云、/旁(かた+)以/曲(くせ)事也、/汝(なんち)ごときの者を其/侭(まゝ)洛中にを 00036410L10かハ、又よの人にも(13ウ)/悪(あく)行あらん、早&京を出よ、延 00036420L11引せばはからふへき事ありとの下知にて、こと葉もなくう 00036430L12せ行ぬ。 00036440¥N12¥J 00036450¥X 00036460L13△/綾(あやの)小/路(ち)にて板かへしする日、家主の女房やねにあかり 00036470L14しが、いかゝ/踏(ふミ)はづして落たり。となりの女房其下にゐあ 00036480L15ハせ、あたまの上へころひかゝれば、くびの/骨(ほね)ちがひてし 00036490L16にけり。其女の/夫(おつと)、/理不尽(りふじん)に、/能(わさと)ころさんとておちたる物 00036500L17也、是非こらへましきといひ、所司代へ(14オ)出る。伊賀 00036510L18守殿、余儀なき存分なるまゝ、幸手本あり、右家ぬしの妻 00036520L19を、我かをんなの居/たし((ママ))処に置て、そちのやねにあかり、 00036530M1最前のごとく落かゝりて、にくしとおもふあいてのおんな 00036540M2をころせとあれは、こと葉もなく帰りつる事よ。 00036550¥N13¥J 00036560¥X 00036570M3△板倉伊賀守殿、/齢(よハひ)七旬にあまれは、/功名(こうめい)かなひとげて、 00036580M4身をしりぞき、嫡子/周防(すハうの)守殿次て、天下の所司代たりし。 00036590M5上京にある家主(14ウ)あひはてけるに、廿あまりの子あり。 00036600M6母ハ/継母(けいほ)、其/惣領(そうりやう)にハ家を渡すまし、我れに/跡(あと)をしれと、 00036610M7夫の遺言なりといふ。惣領は、眼前の親子たる我れをのけ、 00036620M8別に誰れか家をしるへきやといかり、所司代へ双方出けり。 00036630M9/互(たがひ)の/意趣(いしゆ)をいふ口上に、/妻(つま)の申様、後家と書てはなにとよ 00036640M10み参らすると。周防守のちの家とよむとあれは、其儀なら 00036650M11は我らのしらてかなはぬ事にこそと申時、まづ立て帰れ、 00036660M12/重(かさね)て(15オ)せんさくすまさむとなり。/宿(やと)に/戻(もどり)、/工事(くじ)かちた 00036670M13り、さらば/尼(あま)にならんと/類親(るいしん)いひ合せぬ。/再(ふたゝひ)/裁許(さいきよ)とて、又 00036680M14/決断(けつだん)の座に出たるに、そちハ/髪(かミ)をそりたるかとたつねらる。 00036690M15なか+、二度夫をもち、うき世の/望(のそミ)あらはこそとおもひ 00036700M16さだめ、出家のすかたにまかりなりて候と。其言下に/周防(すはう) 00036710M17守殿、さらは出家とハ家を出ると書たるまゝ、此/座敷(さしき)より 00036720M18すくに家をいてよと。〔4〕(15ウ) 00036730¥N14¥J 00036740¥X 00036750M19△刀のうりかひありし。もちぬしハ、二尺三寸にあまり 00036760¥P82 00036770L1たれは二尺五寸といふ。又かう人は、いや、五分や三分な 00036780L2かくとも二尺三寸といふてあらそひけるが、めきゝするう 00036790L3へにこそ、其ならひはあらんすれと、かちのもとにゆき、 00036800L4きゝてあれは、両方なからよく見られた、これハ二尺四寸 00036810L5といふ物ぢや。 00036820¥N15¥J 00036830¥X 00036840L6△河原の院ハ融の左大臣の家也。みちのくのしほかまの 00036850L7かたをつくりて、潮をくミよせ、塩を(16オ)やかせなと、 00036860L8様&おかしき事をつくし住給ける。おとゝうせ給ひて後、 00036870L9宇多院には奉りたる也。延喜の御門たひ+行幸有けり。 00036880L10院のすませ給夜半計に、そよめきて人の参るやうにおほさ 00036890L11れ、見させ給へは、ひの装束うるハしくしたる人の、太刀 00036900L12はき笏とりて、二間計のき、畏り居たり。あれはたそとと 00036910L13ハせたまへは、こゝのぬしに候翁なりと申。融のおとゝか 00036920L14と問はせたまへは、しかに候と(16ウ)申す。さはなむそと 00036930L15仰らるれハ、家なれは住候よ、おはしますか辱く、所せく 00036940L16候なり、如何仕へからんと申せば、それハおとゝの子孫の、 00036950L17我に得させたれは住にこそあれ、我をしとりてすむにハあ 00036960L18らす、礼もしらす、いかにかくはうらむるぞと、たかやか 00036970L19に仰られけれは、かいけつやうに失ぬ。唯の人ハ、そのお 00036980M1とゝの霊鬼に逢て、さやうにハいかていひてんやとそ、時 00036990M2の人感し奉りし。 00037000¥N16¥J 00037010¥X 00037020M3△京にて家をかふたる者、其家につきたる(17オ)/廊下(らうか)あ 00037030M4り。これをもこぼしとらんとす。/売主(うりぬし)、/念(ねん)もなし、我は家 00037040M5一つをこそうりたれ、らうかの事はおもひもよらすと、/牛= 00037050M6角(ご=かく)に理をいひつのりて、一向すむへき道もなけれは、/互(たがい)に 00037060M7公儀の沙汰となる。所司代多賀豊後守、/掟(おきて)して、/廊下(らうか)ハこ 00037070M8れ/通路(つうろ)のためなり、後につくれる家の方へつくへしと、下 00037080M9知せられたり。 00037090¥N17¥J 00037100¥X 00037110M10△春のころ、野あそびに人あまたさそひ出、このもかの 00037120M11もを見る折から、/胡蝶(こてふ)の三つつれて(17ウ)とぶを、てふな 00037130M12らば二つか四つこそあるべけれといふに、児のうちより、 00037140M13△△ひとつをも千鳥といへる名のあれは 00037150M14△△△三つをもてふといふへかりけり 00037160¥N18¥J 00037170¥X 00037180M15△平安城にて/質(しつ)に具足ををき、うけんとする時にミれば、 00037190M16/鼠(ねつミ)が/糸(いと)をくひたり。うけぬし難儀におもひ、いろ+理を 00037200M17いふてなげき、さらば利足をなりとも、すこしハゆるされ 00037210M18よとわびけるに、しちやさらにきかす。/剰(あまつさへ)/鼠(ねすミ)を一つころ 00037220M19して、(18オ)これが蔵にゐて、具足をくらふたる科人也、 00037230¥P83 00037240L1然間/成敗(せいばい)して候と、もたせつかハす。しちをき/口惜敷(くちおしき)事に 00037250L2存知、所司代へ罷出、始中終を/詳(つまびらか)に申けれは、多賀の豊 00037260L3後守下知せられけるやう、扨ハ鼠は/盜(ぬす)人也、盜人の/居(ゐ)たる 00037270L4家なる間、/闕所(けつしよ)せよやとて、/家財(かさい)をこと+くとり、しち 00037280L5をきに出されたり。△△ありかたき心の水晶也。 00037290L6/窮鼠(きうそ)/還(かへつて)嚼猫とあれは、にくむ処/狂惑(きやうあく|まげまとふ)なる/鼠(ねつミ)/根性(こんじやう)なるか 00037300L7な。(18ウ)〔5〕 00037310¥N19¥J 00037320¥X 00037330L8△九重の内、油の小路とをりに、何事やらん雑人あつま 00037340L9り、かまびすしく物あらがふていあり。沼の藤六行あハせ、 00037350L10立より様子を聞ゐたるに、一方ハ丹波より/荏(ゑこ)をもちて、/売(うり) 00037360L11にのほりたる商人也。一方は京の油やにて亭主なり。亭主 00037370L12ハゑをひてかハんといふ。丹波の者ハ昔よりひずにうりつ 00037380L13けたり。今更何事にひてハうるまいといふ。/口論(こうろん)はてず。 00037390L14時に藤六、近比さしいでなれとも、/洛(らく)外にてハともあれ角 00037400L15もあれ、(19オ)都の内ならば、中+ひてとる事ハなるま 00037410L16い、其子細ハ、いろはにゑひもせす/京(きやう)とさだまれり、ひず 00037420L17にかへと。 00037430¥N20¥J 00037440¥X 00037450L18△親子諍子か僻事と云題出たれは、徹書記、 00037460L19△△落葉かきに親子出ての諍ひは 00037470M1△△△ちゝりなりけりからさきの松 00037480¥N21¥J 00037490¥X 00037500M2△北野の神前にて祈祷連哥あり。 00037510M3△△△かくなる物か左遷の果 00037520M4△△この神のかへり北野に跡たれて(19ウ) 00037530M5此付句、執筆かきとむると同しく、/社頭(しやとう)/震動(しんとう)し/暫(しハらく)やまざ 00037540M6りつるハ、神も大に/納受(のうしゆ)したまふにやと、人皆感し申たる 00037550M7よし。〔6〕 00037560¥N22¥J 00037570¥X 00037580M8△/陰(いん)きはまつて/陽生(やうしやう)す。 00037590M9△△あたゝかになれとて寒き春の雨 00037600M10陽きはまつて陰生す。 00037610M11△△さむかれとあたゝかに降秋の雨 00037620M12△△蛬その親+はいかならん 00037630M13といふ句あり。紹巴の非言に、蛬の先祖御(20オ)尋詮なく 00037640M14候。 00037650¥N23¥J 00037660¥X 00037670M15△人ありて所司代に出申上けるは、我らの家へ常に参る 00037680M16/乞食(こつしき)の候、ゐさりにてあれは、ふひんに存、折節ハ庭のす 00037690M17ミにふせりなといたし候つるが、外より/盗(ぬす)人のいりたると 00037700M18も見えざるに、/飯(めし)を仕/釜(かま)の/失(うせ)候、/案(あん)するに、/彼(かの)ゐさりのと 00037710M19りたる物ならん、いかゝと申せは、多賀豊州聞て、其ゐさ 00037720¥P84 00037730L1りハいづくにゐるぞとたつね、さらはそちハかへれとて、 00037740L2もどされ(20ウ)たり。/後(のち)かのゐざりを、物とらせんとなり、 00037750L3参れやとよびよせ、ふびんのすかたなるに、あれにこゝな 00037760L4る釜をとらせよとて、うせたりしほどの釜をやりければ、 00037770L5かのゐざりよろこひ、あたまにかふりて帰る。さてハ/件(くたん)の 00037780L6/釜(かま)をぬすミたる事うたがひなしとて、下知せられける。 00037790¥N24¥J 00037800¥X 00037810L7△そちハ/生得(しやうとく)/貧乏(びんほう)なる躰を見をよひしが、今ハひきかへ 00037820L8て、けしからす/有徳(うとく)になりたるよし風聞するハ、/実(まこと)かとと 00037830L9ひけれバ、中+の(21オ)事や、われらごとき者をも、と 00037840L10める人の内にさたするかよ、/惣別(さうへつ)/無力(ぶりよく)にて人の物を計かり 00037850L11ゐたる身の、/当時(たうじ)わつかの/貯(たくハへ)あるをミて、大にいひなすよ 00037860L12なふ、是をおもふに、牛には大なる/角(つの)二つあれとも、見つ 00037870L13けたれは目にたてず、もし馬に角あれは、ちいさけれ共目 00037880L14にたてゝ、名をたかふいふ心、是なるへし。 00037890¥N25¥J 00037900¥X 00037910L15△/葛(くづ)かつら先へはゝすと跡へはへ 00037920L16紹巴の非言に、御国元のくつかつら御/折檻(せつかん)か。尤ニ候(21ウ) 00037930¥N26¥J 00037940¥X 00037950L17△そのかミ、大樹より仰付られ、彦坂九兵衛駿河の町奉 00037960L18行なりし時、薬院のとて、薬のつゝみ紙を馬につけ、くた 00037970L19りしが、馬、/田(た)へころび、帋をぬらせり。荷物にそひたる 00037980M1侍/腹立(ふくりう)して、おもふさま馬/追(おひ)を/扣(たゝき)たり。其上に町奉行へ出 00037990M2て、馬追に/弁(わきまへ)させられよとあれは、九兵衛聞て、尤也、さ 00038000M3りなから、弁させたらハ、又そちをも/扣(たヽき)かへさんするハい 00038010M4かに、たゝかずハ道理至極せん物をと申さるゝにぞ、たゝ 00038020M5かれんがいやさに、くちを(22オ)とちぬ。 00038030¥N27¥J 00038040¥X 00038050M6△京にて銀子卅貫目持たる者、/命(いのち)/終(をハる)時妻にむかひ、我か 00038060M7/先腹(さきハら)の/男子(なんし)六歳也、十五まてハそたて、十五にならは銀を 00038070M8五百めわたし、いつくへも/商(あきない)につかハすへし、残る銀ハ、 00038080M9そちまゝにせよと/遺言(ゆいごん)して、書物をし渡しぬ。彼子/既(すて)に十 00038090M10五になる時、右の後家銀子を五百目子にやり、いづくへも 00038100M11出よといふ。子、さりとも/難儀(なんき)なる旨、所司代板倉周防守 00038110M12へ申上る。母と子とを(22ウ)よひ出し、委細にいはせ聞 00038120M13給て、其町の年寄ともに、彼/親(おや)の/行跡(かうせき)ハとあれは、一同に 00038130M14申様、世に越たる/理知義者(りちぎしや)、又/才覚(さいかく)もあり、公義の御用を 00038140M15とゝのへ、町の重宝にて御座候へと。周防守殿、後家に問 00038150M16給ふ、其銀子ハもとのことく有や。中+あり。扨ハ/汝(なんぢ)が 00038160M17夫日本一の/思案(しあん)者なりしぞかし、其故ハ、人の/親(おや)として、 00038170M18子に物のおしからんや、女房にとらするといはすハ、銀を 00038180M19ミな遣すつべしと、工夫の上にていひ置たるなり、然間、 00038190¥P85 00038200L1後家に(23オ)とらするといひし卅貫目をハ、子にやるべし、 00038210L2子に遣すといふ五百目をハ、後家にわたし、それをもつて 00038220L3寺参の香花にあて、そちハ一円子に打かゝり、心の/侭(まゝ)に馳 00038230L4走せられ、安&と世を送、もし子かあひしらひあしく気に 00038240L5あハぬ事あらは、こちへしらせよ、/曲事(くせこと)に行ハんと下知あ 00038250L6りつれハ、聞者皆涙を流さぬはなかりき。角て座をたゝん 00038260L7とするに、件の親がいとこたる老人とて、書物を一通持て 00038270L8出、周防守へ/棒(さゝけ)て云、(23ウ)さためて一度ハ子と後家と出 00038280L9入あらん事疑ひなし、これを上て申せ、後家にいひ渡した 00038290L10るハ始の日付なり、そちへ書置ハ日付後也と申せし、今仰 00038300L11出さるゝ御下知を、謹て承らんため罷出たり、/親(おや)か存たり 00038310L12し心/底(てい)と、御/批判(ひはん)の趣すこしも/違(たが)ハすと、手を合、礼して 00038320L13/感(かん)したり。(27オ)〔7〕 00038330¥T2いやな批判 00038340¥N1¥J 00038350¥X 00038360L16△母の、むすめにむかひ、そちハはや年二十になれど、 00038370L17つゐにおをうむすへさへしらいでとしかりけるを、となり 00038380L18なる家主の女房居あはせて、それやうにあいたてなさうに 00038390L19物ハいはぬ物じや、これのお五ハことし/廿(はたち)にこそならるれ、 00038400M1ちゑもつく時分かあるものぞと、いひなためけれは、そな 00038410M2たよりわれがうミの母にてよくしりたり、あれハ二十にな 00038420M3るにすうだといふ。/廿(はたち)でこ(25オ)そあれと、いさかひハ 00038430M4てす。かゝるところへ、年至極の姥来り、何事をいふてか 00038440M5らかひ給ふそ、あのお五の年ならは、なにのまきれもない 00038450M6事がわれが処にある、とりてきて、りをすまさんといそき 00038460M7内にゆき、大なるふくへを一つとりて来れり。こは何物ぞ 00038470M8やととふ時、これでざつとすうだ。あのお五のむまれとし 00038480M9に、此ふくべがなりてあつたと。 00038490M10△うはか年代記にて、いよ+しれす。〔1〕 00038500¥N2¥J 00038510¥X 00038520M11△道ゆきぶりに、くちなハの竹にさしてあるを(25ウ)見、 00038530M12先なる者、いかいへべうがあるハと。次なるもの、いやこ 00038540M13れハへべうでハない、ぐつねふといふ物ぞと、互にあらそ 00038550M14ひしが、此上の山寺に物しりの出家ありときく、それに行 00038560M15て理をすまさんと、かしこにいたる。坊主見て、どちもわ 00038570M16るい、これハまむさうといふ物にすんだと。二人なから心 00038580M17にハすまねど、物しりの批判なれは、あまりにちがふまい 00038590M18と/合点(かつてん)す。 00038600¥N3¥J 00038610¥X 00038620M19△一生よみかきの/望(のそミ)もなく、唯富貴して世を(26オ)送 00038630¥P86 00038640L1る人あり。/名(な)を福右衛門とつき、惣領を市太郎、弟を市 00038650L2次郎とて、/貧者(ひんじや)あつまり、手をつかね、ひざをかゝめもて 00038660L3はやしけり。ある時、市次郎を/始(ハしめ)て見たる/((者脱カ))、これハとなた 00038670L4にて候やととふに、あれこそ市太郎殿の舎弟候よとかたる。 00038680L5されはかりそめ見たる躰、あにごより舎弟の/器量(きりやう)ハまして 00038690L6なとほめけり。其一座過て、市次郎親にむかひて、われに 00038700L7なにとも名がなくハ大事もないか、幸てゝの市次郎とつけ 00038710L8てをかれたるに、やゝもす(26ウ)れは、うつけ者が来てハ、 00038720L9市太郎の舎弟+といふ、たうどこれか/気(き)の/毒(どく)やと。福右 00038730L10衛門きゝて、さあらふする、それほどの事をはこらへよ、 00038740L11世中ハふしやうばかりぞ、われかまへでも福右衛門といふ 00038750L12名をハいはすして、ひようふつと、市太郎殿御/親父(しんぶ)とさへ 00038760L13いふほどに。〔2〕 00038770¥N4¥J 00038780¥X 00038790L14△山ふかくすむ者、二人つれだち国中に出けり。/振舞(ふるまい)の 00038800L15/膳部(ぜんぶ)に、にしのつほいりをすゆる。めづらしき物かなとて、 00038810L16ふたりなから、かのにしからを(27オ)/懐中(くわいちう)してかへりぬ。 00038820L17一人ハへふ/((く脱カ))りといふ物と、一人はまどひきといふ物とあら 00038830L18そひ、とうげの若太夫こそ、かゝる物をは見しらんずとて、 00038840L19さし出したれは、よく見しりたるかほに、/造作(ざうさ)もなく、へ 00038850M1ふぐりてもまとひきでもなし、にかハつけといふ物候よ。 00038860¥N5¥J 00038870¥X 00038880M2△何者ののぼりくたりにおとしたるやらん、信濃国の山 00038890M3道に/烏帽子(ゑほし)あり。ひろひきたり、かやうのすがたなる物世 00038900M4にためしなし、いかさま(27ウ)天人の/道具(たうぐ)か、山姥なとの 00038910M5たからかや、老たるもわかきもこれを見よや、おかめやと、 00038920M6かちはたしにてはしりあつまる中に一人、是は/禰宜(ねぎ)の/頭巾(づきん) 00038930M7といふ物ぞ。一人、いや是ハありけうがりのあたまかくし 00038940M8といへば、少もまことにせす、/唯奥(たゝおく)の山の刑部兵衛こそ、 00038950M9わかき時殿の夫にさゝれて京へのぼりし者なれは、かれに 00038960M10見せすハすむまいと、はる+もち行見せたれは、是こそ 00038970M11賀茂のまつりに能といふ事有しか、一番に出た(28オ)さん 00038980M12ばそうといふ物よ、これ+、されどもかほからしたへが 00038990M13うせたほどに、/必定(ひつでう)三ばさうのぬけからといふ物ぞと。 00039000¥N6¥J 00039010¥X 00039020M14△柘榴を見て、ひとりハさくろといふ。ひとりはじやく 00039030M15ろといふ。あらそひつゐにやます。あたりのものしりにと 00039040M16ひければ、二つなからかたことなり、にやくろといふがほ 00039050M17んの事。〔3〕 00039060¥N7¥J 00039070¥X 00039080M18△/山中(さん)に祝言の事あり。たこを/買(かい)につかハす。使其かた 00039090M19ちをとふに、/功者(こうしや)めきたる男、つるに(28ウ)いぼあり、い 00039100¥P87 00039110L1かに似たる物、わるふすれば見ちかゆるとをしへけり。/境(さかい) 00039120L2の/津(つ)に出て大道をたづぬるになし。あるよこ町にをしへの 00039130L3ことくなる物ありとて、ほんだハらをぞかひける。山に帰 00039140L4り彼功者に見せけれは、これハ/蛸(たい)てハない、いかぢや。い 00039150L5やたこにすふた。さらは殿に御目にかけ、理をすませとて 00039160L6見せ参らせたれは、蛸でもいかてもなし、からざけといふ 00039170L7物也。 00039180¥N8¥J 00039190¥X 00039200L8△人ありて、/昼(ひる)ハ振舞に行といふ。一人いふ、ふる(29オ) 00039210L9まひにてハなし、ふれまひがよしと。二人の論つゐには 00039220L10てず。折ふし回国の沙門あり。理はさう方ともにあきらけ 00039230L11し、/予(わか)/決(けつ)するいハれをきけ、/兼日(けんじつ)より人をまハし文をつか 00039240L12ハし、よぶやよばるゝをはふれまひといつて、其くらゐお 00039250L13もし、自然天然と行がゝりに、とりあへずふるまひふるま 00039260L14ハるゝをば、ふるまひとよんで、くらゐかろくよし。 00039270¥N9¥J 00039280¥X 00039290L15△始ハとミて世を過しける人、俄に落ぶれたれば、(29 00039300L16ウ)せんかたなく髪をそり、なにのあてことハなけれと田 00039310L17舎にくだり、/傘(からかさ)をさしかけられ、/位(くらゐ)たかなるふりをしてあ 00039320L18りく。人是を見、あれハなにとしたる家/高(たか)ぞや。ひとりか 00039330L19いふ、唯公家といふ人であらふまでよ。いや一とせわれも 00039340M1在京して公家たちのふりをも見たりしか、あれやうなるは 00039350M2ミぬと。ひとりがいふ、くけでなくハ、十げといふてあら 00039360M3ふずと。 00039370¥N10¥J 00039380¥X 00039390M4△山家にはれかましき/客(きやく)を/請(しやう)ずるとて、白鳥(30オ)をも 00039400M5とめにつかハす。/使(つかひ)鳥のすがたをとへば、たゞしろきとり 00039410M6なりとをしゆる。こゝろえて市に出、たづぬるになし。あ 00039420M7る/棚(たな)にしろきかいこのやうなる物あり。是をしり目にかけ、 00039430M8/白鳥(はくてう)かハふ+とよはハるまゝ、かしこき/亭(てい)にて、白鳥を 00039440M9うらんとよひ入、まんぢう廿を一貫にうりけり。取て帰り 00039450M10/庖丁人(はうてうにん)に見せたれハ、疑ひもなき白鳥なりと、きりてなか 00039460M11を見るに、大/概(がい)小豆の風味あり。/今年(ことし)あつきがたかい+ 00039470M12といふたハ/道(たう)(30ウ)りかな、いくらの白鳥か、此ことくく 00039480M13らふほどにと。 00039490¥N11¥J 00039500¥X 00039510M14△人のかよひもまれなる山中にて、/座頭(さとう)の/琵琶(ひわ)を負、岨 00039520M15のかけぢをつたふあり。薪をひろひゐたる/賎(しづ)の男、これを 00039530M16見付、むかふの谷に友達のゐけるを/高声(かうしやう)によひ、やい+ 00039540M17あの/杖(つゑ)つきむしの出たを見よ。あらめつらしや、つゐに一 00039550M18/期(ご)にミぬ虫やとよばハる時、此十年バかり/先(さき)に、あの虫が 00039560M19此道へ出てあつたが、その年そばがよかつた、ことしもさ 00039570¥P88 00039580L1てハ、そはかよからふずよと(31オ) 00039590¥N12¥J 00039600¥X 00039610L2△/鳶(とひ)ハ木にとまりゐて、/芦辺(あしへ)にすむ/鷺(さき)にむかひ、そちほ 00039620L3といろしろく、いつくしきすかたハなし、如何にも/そ((ママ))のい 00039630L4ひがそさうにて、いやしひハといふ。/鷺(さき)/腹(ハら)をたてゝ、そ 00039640L5ちハ鳥の中にても四十八/鷹(たか)の内に入て、/空(そら)をたちまふ風情 00039650L6のよさ、そしらんやうもなきが、物こしのくどさ、ながさ、 00039660L7きかれぬ、我ことく、こと葉すくなならは、よからん物を 00039670L8と、こなしこなされ、かくてハこらへられす、たそに批判を 00039680L9うけんと、をのれ+か土産を用意するに、(31ウ)とびは 00039690L10例のくさりたる鼠をもとめ、鷺ハかい+しくとびおとる 00039700L11どじやうをとゝのへ、鷲のすむなる峯にとぶ。二鳥の声を 00039710L12聞て、鷺ハいかさま/言便(ごんびん)みじかく、/当風(たうふう)にあへり、/鳶(とび)ハな 00039720L13にとや、ひいまてにてよからんものを、後の、りよ+か 00039730L14/長過(なかすき)てきかれぬ、古流なり、とかくまけよ+と。 00039740L15△これをや、草つとに国かたふくとも申つべし。 00039750¥N13¥J 00039760¥X 00039770L16△/道(ミち)の/傍(かたハら)に、はにふの小屋あり。かれにすむ者/夜半過(やはんすぎ)て、 00039780L17人しハふきをし、しつかに/通(とを)る(32オ)をとを/聞付(きゝつけ)女の声に 00039790L18て/内(うち)にいふ。なにものぞ、さて此ミちのわろきに、いまま 00039800L19ていねずして、うと+とありくハと。男の声にて、あれ 00039810M1やうに今時分ありくに、別の者があらふか、はくちうちか、 00039820M2/数寄者(すきしや)か、/連歌士(れんかし)か、三色の内てなくハ盗人てあらふまで 00039830M3よと。 00039840¥N14¥J 00039850¥X 00039860M4△風呂に入て聞ゐたれハ、一人吟するやう、山高きかゆ 00039870M5へにたつとからすと。一人耳をすまして、心かけたること 00039880M6や、庭訓をよまるゝといへは、一人、あ(32ウ)れは/庭訓(ていきん)で 00039890M7ハない、/式条(しきてう)といふ物しやと。〔4〕 00039900¥N15¥J 00039910¥X 00039920M8△ある者山ミちを/行(ゆき)、/不思儀(ふしぎ)に/白鳥(はくてう)をひろふたり。/更(さら)に 00039930M9/鳥(とり)の/名(な)をしらす。人にむかひ、かくとかたる。聞者、それ 00039940M10ハ/時鳥(ほとゝぎす)てあらふすといふ。いや大なる鳥也、中+小鳥て 00039950M11ハない。さりとも時鳥にすうだ、たゞとる山の時鳥とて、 00039960M12昔からある事よと。(33オ)〔5〕 00039970¥T2そでない合点 00039980¥N1¥J 00039990¥X 00040000M15△何のとりえもなき者あり。ほとちかに、さすかなる侍 00040010M16のすまれけるへ、/明暮(あけくれ)に/出入(しゆつにう)する。/武蔵鐙(むさしあふミ)の下の句の心や、 00040020M17とふもうるさき様なりしかハ、小性にいひをしへ、件の男 00040030M18来りたらハ、/長数珠(ながじゆず)といへとなり。/案(あん)のことく/暮(くれ)かたに来 00040040M19れり。小性出て、殿のいつも/噂(うハさ)を仰ある。なにとやと尋け 00040050¥P89 00040060L1れハ、そなたをハ長数珠しやとは、くるにくたひれたとい 00040070L2ふ事なるを、彼男(34オ)は、さか様に/得心(とくしん)し、さうてあら 00040080L3ふ、くるがをそいといふ事のと。 00040090L4△△人の上ゆふつけ鳥のしたり尾の 00040100L5△△△長物かたりこゝろあるへし〔1〕 00040110¥N2¥J 00040120¥X 00040130L6△無上の/果位(くハい)に、のほらせ給ふ尺迦たにも、二月十五の 00040140L7夜の雲に、かくれ給ひしありさまを、見てもしれとや寺 00040150L8+に、ことハりがほの/涅槃像(ねハんそう)、かくるたのミも後の世を、 00040160L9しるやしらすや参りける、なかにことさらかたくなゝる、 00040170L10う(34ウ)ばかうなづきいふやうハ、しやかもかはうな人や 00040180L11やれ、けふのねはんにおしにあつた。 00040190¥N3¥J 00040200¥X 00040210L12△山中にて/衣更着(きさらき)/中旬(ちうじゆん)に、/農夫(のうふ)二人つれたち出、一人ハ 00040220L13山の/北原(きたハら)、一人ハ/南原(ミなミハら)一町計をへたて、/畠(はた)をうちけるか、 00040230L14南原にいたち一つはしり出たり。見付しを/幸(さいわい)、やにハに/棒(ほう) 00040240L15をふりあけ、うちころさんとしけるを、北原より、やれひ 00040250L16かんしやにをけ、ひらに/彼岸(ひがん)そ、たすけよとよばはる。さ 00040260L17らバとてたすけしか、彼南原の男(35オ)さて+、つゐに 00040270L18ひかんといふ物を見なんたに、けふはじめて見たよ、ひか 00040280L19んかすかたハ其まゝのいたちじやと。〔2〕 00040290¥N4¥J 00040300¥X 00040310M1△折&/柳原(やなきハら)の道三へ出入の人あり。/病(ひやう)者にむかひ、/瀉(しや)す 00040320M2るか/結(けつ)するかと、とハるゝを聞ゐて、ある時其子細をとふ。 00040330M3/瀉(しや)するとハくたる也、/結(けつ)するとハくたらぬ也。これハこび 00040340M4たる事やとおもふ/砌(ミきり)、/類親(るいしん)の中なる/商人(あきひと)来りて、明朝/芸州(けいしう) 00040350M5へまかりくたるが、御用の儀ハ候ハぬやといふ時に、なに 00040360M6と(35ウ)芸州へ/瀉(しや)する、やがてけつせよと。〔3〕 00040370¥N5¥J 00040380¥X 00040390M7△/児(ちこ)に髪をゆひて参らする/侍従(じじう)、ある朝、われをはなに 00040400M8ほどふひんに思召やととふ。児櫛のはに水をつけ、その/雫(しつく) 00040410M9を/落(をと)し、此露ほとたいせつなるよしあれは、/曲(きよく)もなや、な 00040420M10むほう/奉公(ほうかう)いたすもいたつら事やと、ふかくうらみける時、 00040430M11△△露といふ心をしらぬはかなさよ 00040440M12△△△/消(きゆ)るはかりにおもふ我身を△△僧都源信 00040450M13△△人の身を露の命といひけるも(36オ) 00040460M14△△△つゐには野辺にをけハなりけり〔4〕 00040470¥N6¥J 00040480¥X 00040490M15△始て奉公をする人あり。主人ちかづけとふ、なにそ/芸(けい) 00040500M16があるかや。されは我等の兄にて候者、かたのごとく弓を 00040510M17仕候と。 00040520¥N7¥J 00040530¥X 00040540M18△奉公を仕らんといふ。なにも能はなきかや。/鞁(つゞミ)のどう 00040550M19をつかんといふ。それハ難波がゝりか、千草かゝりかとと 00040560¥P90 00040570L1ふに、されは、/私(わたくし)/箸(ハし)をけつりまいらするに、中はほそくて 00040580L2両の/端(はし)がふとふ御座るほとに、大/略(りやく)ハつゝミのとうをもつ 00040590L3かんやと、申(36ウ)されし。 00040600¥N8¥J 00040610¥X 00040620L4△能を見物せんとて、/芝居銭(しはゐせん)十文つかハし、/鼠戸(ねつミど)をハ入 00040630L5しかと、一円おもしろき心なかりしかハ、/退屈(たいくつ)して、そと 00040640L6へ出度よしをいふ。番する者口こハく、さらにゆるさず。 00040650L7さあらは、いかほとにても銭をやらんとわひたるに、百と 00040660L8りてぞゆるしける。彼男やう+/垣(かき)のそとに/出(いで)、/笠(かさ)をぬき 00040670L9てから、世上をなかめ、ふたつ三つあたまをふりて、あけ 00040680L10くに、百でハでものじやと。(37オ) 00040690¥N9¥J 00040700¥X 00040710L11△をろかなる女房の、/夫(おつと)にむかひ、さら+なき事をい 00040720L12ひつゝけ、ねたむ事あり。なにといひふくめてもきかす。 00040730L13せんかたなさに、其儀ならは大なるせいもんをたてんと、 00040740L14扇をもち、座をたゝく+、/下化(げけ)/衆生(しゆじやう)してこんりんさいに 00040750L15おつる法もあれ、さうではないとわめきけれは、ねうばう 00040760L16まことにおもひ、きもをつぶし、それやうにおそろしい事 00040770L17ハ、いはぬものじやと。 00040780¥N10¥J 00040790¥X 00040800L18△神+の/祭礼(さいれい)といふも、/仏閣(ふつかく)の/祈祷(きたう)といふも(37ウ)主 00040810L19のとふらひ、親の年忌、いつれか/祝言(しうげん)/無祝言(ふしうげん)、のむとくふ 00040820M1とにもれたるやあると、物語するをきいて、されはこそ天 00040830M2照太神も、ないくうげくうとたゝせられたと。それはなに 00040840M3たる子細そやととへば、ないもくふ、下もくふといふこと 00040850M4よと。それならは富貴の人のくふむねはなきかや。それこ 00040860M5そ/飯酒(めしさけ)はおんぞろかのけて、さいくうとたち給ふハ。 00040870M6△天平十三年、皇太神於内宮南大杉下、行基持念七日之 00040880M7夜、(38オ)神殿自開大声にて唱日、実相真如之日輪照生 00040890M8死之長夜、本有常住之月輪爍破煩悩之迷雲。〔5〕 00040900¥N11¥J 00040910¥X 00040920M9△月次の連歌の会に、 00040930M10△△かま鷺ハ山の途/中(なか)に飛おりて 00040940M11といふ句を出せり。/宗匠(そうせう)たる人、つゐにかま鷺のことはを 00040950M12きかずとあれは、本哥ありとも申ましく候や、 00040960M13△△うつり行雲に嵐の声すなり(38ウ) 00040970M14△△△ちるかまさきのかつらきの山 00040980¥N12¥J 00040990¥X 00041000M15△一句出したるに、執筆、舟か近い+といひけるを、 00041010M16とくと思案して、 00041020M17△△舟てなし中くりあけた木にのりて〔6〕 00041030¥N13¥J 00041040¥X 00041050M18△手負にハ有馬の湯ほと薬ハないと、人ミないふをきゝ 00041060M19たる/庖丁(ハうてう)人あり。さる所のふるまひに、/鴈(がん)の汁をするとて 00041070¥P91 00041080L1やとひけれは、亭主にもとハす、客人のいくたりあるにも 00041090L2かまはす、むさときりたるまゝ、やくにたゝす。(39オ)亭 00041100L3大に腹立しけれは、彼庖丁人、其儀ならは/別(へつ)の/鴈(がん)をきらし 00041110L4られよ、此きりたるハ手負なり、ありまの湯にいるれはな 00041120L5をる、大事ないと。 00041130¥N14¥J 00041140¥X 00041150L6△こしをひく人をミて、そなたの/足(あし)、いづれそ片足みじ 00041160L7かいかと、とふてあれは、いや、かたあし人のよりも、な 00041170L8かいといふた。△△これハなにとしたる返答ぞ。 00041180¥N15¥J 00041190¥X 00041200L9△ばくちうちが/夜半(よなか)/過(すぎ)に宿にかへり、女房をおこし、一 00041210L10世のあひだに、これほとうれしい事(39ウ)にあはぬと、よ 00041220L11ろこび、ふしまろひ、まんそくするまゝ、さてハ、こよひ 00041230L12はかりは、はくちにかちたる物よとおもひやり、いかはか 00041240L13りの仕合にやはんべるととふ。返事に、こよひも、はくち 00041250L14にまけ事はまけた、されども、此まへ五百目にかうてもち 00041260L15たる/脇指(わきさし)を、二貫めにしかけてやりたるまゝ、一貫五百め 00041270L16のまうけをしたハと。△△たゝ、しつつゐさうな。 00041280¥N16¥J 00041290¥X 00041300L17△日のあるあひたを昼といひ、日のいりて後(40オ)を夜 00041310L18といふは、いかさま子細あらんやとおもひ、われか/折角(せつかく)思 00041320L19案し、ていど、しあてたハとかたる。なにと工夫したぞ。 00041330M1たとへハ朝になれは、とくからおきて、山にゆく者もあり、 00041340M2/海(うミ)にうかふ者もあり、市にたつあり、奉公に出仕するあり、 00041350M3日のくるれは、いづれもミな我/宿(やと)+にかへりよるほどに、 00041360M4さてぞよるといふなるへし。又日ひんかしにかゝやけば、 00041370M5そめやハそめてかけ、ぬる者ハぬりてほし、き(40ウ)たな 00041380M6き物をもあらいてほすに、いつれものこらすひるほとに、 00041390M7さてなむひるとハいふ物よと。△△物しらずか、労■やミか。〔7〕 00041400¥N17¥J 00041410¥X 00041420M8盗人物をとりすまして、人なき所にあつまり、それ 00041430M9+に/資財(しざい)をわけどりにしけるが、唯今までありつる身の 00041440M10ぐひか見えぬ、いな事やといふ。一人つらをふり+、あ 00041450M11らふしんや、誰もこのうちに、ぬすミさうなる者はないに 00041460M12と。(41オ) 00041470¥N18¥J 00041480¥X 00041490M13△若輩なる者ども三人つれたち、長谷寺へ参りしに、/宿(やど) 00041500M14のげす、客にむかひ、行水をとるべきや、まつ/入堂(にうだう)をめさ 00041510M15れんやととふ。一人がかたハらに行、手まねきし、今下女 00041520M16の/入堂(にうだう)をめさるゝかといふたハ/合点(かつてん)ゆかす。つれが聞て、 00041530M17それこそわれがよくしりたる事よ、此/跡(あと)/高野(かうや)参りの時、男 00041540M18の/髪(かミ)をそりて坊主になりたるを、さてよき入道やとほめつ 00041550M19るが、いまも入道になる者ハないかといふにて(41ウ)あら 00041560¥P92 00041570L1ん。又一人出て、それならバとかく入道ハ、わかい者でい 00041580L2らぬといへ、むりになれとハいふまいぞとさゝやきけり。 00041590L3〔8〕 00041600¥N19¥J 00041610¥X 00041620L4△木/鎌(かま)をもちて山へこそゆけ 00041630L5といふ句を出せり。宗匠きがまは如何と申さるゝ。古哥の 00041640L6候、 00041650L7△△行やらて山路くらしつほとゝきす 00041660L8△△△今一声のきがまほしさに 00041670¥N20¥J 00041680¥X 00041690L9△なにへんともなき者ども三人つれたち、清(42オ)水へ 00041700L10参り、ミちにて/先(さき)に/行(ゆく)/男(おとこ)、あの清水の/観(くハん)音はなに観音とい 00041710L11ふ物ぞ、/奇特(きどく)に人のたつとむ事やと。次なる者が、さため 00041720L12て尺迦か薬師か/親類(しんるい)の観音であらふまてよと。跡なる男あ 00041730L13たまをふり、大に/感(かん)し、とかく物しりとつれだゝねは理が 00041740L14すまぬと。 00041750¥N21¥J 00041760¥X 00041770L15△中風を/煩(わづらふ)者あり。/医者(いしや)のもとに/行(ゆき)、/脉(ミやく)を見せけれは、 00041780L16/薬(くすり)計にてハ治しかたき証なり。/富市(ふじ)三里に灸をすへられよ 00041790L17といふに、いづれも、(42ウ)かさねて/談合(たんかう)候ハんと、いそ 00041800L18きやとにかへり、さて+うつけたるくすしの申されやう 00041810L19や、/富士(ふじ)ハ/聞(きゝ)及たる大山也、其ふじ三里か間に灸をせよと 00041820M1は、如何に病がなをるとても、そも+もくさがつゞく物 00041830M2かと。雄長老、 00041840M3△△灸すへて富士に煙はたやさねと 00041850M4△△△猶ちか+と足曳のやま〔9〕 00041860¥N22¥J 00041870¥X 00041880M5△/俊蔵主(しゆんざうす)といふ出家の子をもちたりしが、俊首座になり 00041890M6たる時、母の人にむかひ、いへる(43オ)やう、をれかむす 00041900M7こ坊主、始、俊上すといふてきゝよかつたに、ひた物銭を 00041910M8いれ、あげくに今ハ、一の俊すそになりことのと。 00041920¥N23¥J 00041930¥X 00041940M9△なにとて/芍薬(しやくやく)をハ哥によみたるなきぞと、不/審(しん)する者 00041950M10あれは、それこそよみたる哥あれ、 00041960M11△△難波津に芍薬のはな冬こもり 00041970M12△△△今をはるへと芍薬のはな 00041980¥N24¥J 00041990¥X 00042000M13△/猿牽(さるひき)めが/来(き)たハと、子とものいふをきゝ、/姥(うば)が出て、 00042010M14さうはわるういはぬ事ぞ、おさるまち(43ウ)とて、人のと 00042020M15りをかぎりにおまちあるハ、あの人のことでこそあらふす 00042030M16れ、もつたいなさうにと。 00042040¥N25¥J 00042050¥X 00042060M17△/主(しう)ハ馬上にあり。中間鑓をもち、たちなから小/便(べん)をす 00042070M18る。主見付しかりけれは、其返事に、人肥たるがゆへにた 00042080M19つとからす、手鑓をもつて、たつてしとすといふ。主きゝ、 00042090¥P93 00042100L1それやうに子細ある事ならは、せんかたなし、きとくなや 00042110L2つじやよと。 00042120¥N26¥J 00042130¥X 00042140L3△/児(ちご)のあそびに草合あり。一方より/繁縷(はこべ)(44オ)とて出さ 00042150L4るゝ。/侍従(じじう)わきから、せうしなるかほにて、いや、これハ 00042160L5はこくさとなをしたり。 00042170L6△児のハきゝにくからす。侍従殿のハめつらしすきた。 00042180¥N27¥J 00042190¥X 00042200L7△老ても/文(ぶん)を/好(この)む人あり。机によりかゝりゐられたれは、 00042210L8/文盲(もんもう)なる者来り見、こなたさまのそくさいにあるこそ/道理(たうり) 00042220L9にて候へ、昔から、机による人ハ/養生(やうしやう)の薬になり、/命(いのち)も長 00042230L10き物やと、うらやむ事限なし。そちハえならぬ/時宜(しき)をいふ、 00042240L11なんのいはれぞ。いや、めいハしよくにありと。(44ウ) 00042250¥N28¥J 00042260¥X 00042270L12△上手の/碁(こ)が、今朝めし過より八つさかりになるが、い 00042280L13まだ二番はてぬといふをきゝて、それハ/逆馬(さかむま)になつた物で 00042290L14あらふ、はてまいぞ。雄長老、 00042300L15△△王ゆへに歩をも馬をもたてをきて 00042310L16△△△かくきやうの外につかふ金銀 00042320L17美濃の国に/野瀬(のせ)といふごうち、いまはの時、 00042330L18△△碁なりせは/劫(こう)をたてゝもいくへきに 00042340L19△△△死ぬる道には手一つもなし 00042350¥N29¥J 00042360¥X 00042370M1△法花宗の寺につかハるゝ小者、/飯米(ハんまい)をかうて(45オ)来 00042380M2り、つきしろめ、/非時(ひじ)を/調(とゝのへ)て、/坊主(ほうす)には参らせす、をのれ 00042390M3ひとりくひけるか、物語するやう、此米を/持(もち)て来る/途中(とちう)に 00042400M4て、ある者念仏を申かけて候まゝ、/気味(きミ)かわろかりつれと、 00042410M5/是非(せひ)もなく飯にしたりと。坊主/聞(きゝ)もあへす、其米をはもち 00042420M6て堀へすてよ、又をのれハはやくくたしをのミて、念仏の 00042430M7/腹(はら)になきやうにせよと。をしへのことくくたしをのむ。明 00042440M8朝とふ、なにとくたりたるや。小者、中+はや、なむあ 00042450M9ミ(45ウ)だまではくだり、今一字くだりかねてや、/腹中(ふくちう)が 00042460M10ぶつ+といふと。 00042470¥N30¥J 00042480¥X 00042490M11△小文字ある出家、俄に連歌を/稽古(けいこ)せむと思ひ立、ふと 00042500M12都にのほり、心かくる人のもとに頼より、/先(まつ)/床(とこ)をミれば、 00042510M13/懐紙(くわいし)あり。あれハ連歌候や。中+。/賦何木連歌(ふすなにきれんか)とあるを、 00042520M14くはるハなむそもくれんがうたとよみ、理のすミたるとい 00042530M15ふかほつきも/奇特(きとく)の客とや申さむ。 00042540¥N31¥J 00042550¥X 00042560M16△宗長/杵(きね)の神へ/参詣(さんけい)の刻、(46オ) 00042570M17△△つくやうに守らせ給へ杵の神 00042580M18△△△米をハもたす連歌なりとも 00042590M19△△△ぐなり+と秋風そふく 00042600¥P94 00042610L1証哥の候や。中+とて、 00042620L2△△わか恋は松を時雨のそめかねて 00042630L3△△△真葛かハらに風さハくなり 00042640¥N32¥J 00042650¥X 00042660L4△/酢(す)をおほくすへバ/皺(しハ)かよる、大/毒(どく)なり、かまへてすを 00042670L5おまいるな。さうもあらふ、なにとしてしりたるぞ。/鼻(はな)の 00042680L6さきなる事をおしり(46ウ)あらぬか、我も人もちとづゝの 00042690L7めとこそおもへ、年のよりて見ぐるしふなるいハれに、一 00042700L8年中のきはまり月を、しハすとハいふならん。〔10〕 00042710¥N33¥J 00042720¥X 00042730L9△/神農(しんのう)といふハ百/草(さう)をなめ、もゝたひしゝて百たび/活(いくる)と 00042740L10やらん、人はミなくすしの上手とほむるか、我ハいさゝか、 00042750L11さもおもはぬ、たゝ下手にすうだと思ふ。さてそちハ神農 00042760L12の/療治(りやうち)をうけたるか。いや、推にもしりやすき事がある、 00042770L13目の上の/瘤(こぶ)をは誰もいやかる物にてあり、(47オ)ぬしが/額(ひたい) 00042780L14にある/角(つの)をさへ、えのけなんた物。 00042790¥N34¥J 00042800¥X 00042810L15△田舎のかせ侍、/長陣(なかぢん)の/慰(なくさミ)に/誹諧(はいかい)をしてあそハんといひ 00042820L16つゝ、 00042830L17△△人はらんばうをしてさへ送る世に 00042840L18とあれハ、さらはつけ申さむとて、 00042850L19△△われらハ/野(や)/兵糧(ひやうらう)たにもなし 00042860M1又ある人の句に、 00042870M2△△おもきかろきハ恋にこそあれ 00042880M3としけれバ、(47ウ) 00042890M4△△あさがらやかたぎの/手棒(てばう)鷹すへて 00042900¥N35¥J 00042910¥X 00042920M5△山家の者とて老たる/姥(うば)の、杖にすかり/京(きやう)に出たるを、 00042930M6ある者ゆきあひ、そちの年ハいくつぞ。百に一つたらぬと 00042940M7かたるにぞ、さて+めいしんやと、いくたひもほめゐけ 00042950M8るを、始より道つれしたる者、何事あれハかんにたゆる。 00042960M9されハよ、いきめいしんとハあれをやいふらんと。〔11〕 00042970¥N36¥J 00042980¥X 00042990M10△夜もいまたあけやらぬに、中間たる者戸をあけ、さて 00043000M11もおびたゝしく雪のふりたるハと(48オ)いふ声しけり。亭 00043010M12主聞つけ如何程ふりたるそととへば、さればふかさハ五寸 00043020M13ほとつもりて候、ハゞハしれぬと申たり。 00043030¥N37¥J 00043040¥X 00043050M14△ある僧、若衆のかたへ、 00043060M15△△君をのミ恋くらしつゝ手すさひに 00043070M16△△△前なる山のはなをこそつめ 00043080M17此/砌(ミきり)/聯句(れんく)を心得たる出家/居(ゐ)あはせ、/対(つい)のむねにて返哥し 00043090M18たりし、 00043100M19△△われ/虱(しらミ)たいあかしつゝ足もんぢやう(48ウ) 00043110¥P95 00043120L1△△△/後(うしろ)の薮の竹をこそきれ 00043130¥N38¥J 00043140¥X 00043150L2△ゆふべの/説経(せつきやう)に姥のなかれつるハ、なにのあハれをわ 00043160L3きまへてそと、とふてあれハ、なにも我聞わけたる事はな 00043170L4かりし、となりのかゝの、あめやさめとなかるゝほとに、 00043180L5定あしき事でハあるまいとおもふてないた。 00043190¥N39¥J 00043200¥X 00043210L6△人皆連歌をしならふとて、一/順(しゆん)の、/月次(つきなミ)の、などもて 00043220L7はやらかす。うら山し、我もちと/稽古(けいこ)せむとおもひたち、 00043230L8/宗匠(そうしやう)する人にむかひ、/大躰(たいてい)(49オ)一句のしたて如何なる心 00043240L9もちにて、工夫いたし候ハんや。されバよ、此道をまなバ 00043250L10んとすれは、いとふかく、もくづもよらぬ和哥のうらなれ 00043260L11ど、こと葉みじかうきゝたかく、心をふかふ、物あハれに、 00043270L12/花奢(きやしや)/風流(ふうりう)につくやうに、彼人きくと同、はや/合点(かつてん)参りて候、 00043280L13一句申さん、 00043290L14△△くびぎハや二季の/彼岸(ひかん)に/茶(ちや)/香(かう)/杵(きね) 00043300L15心はととハれ、されは、水をわたるに、くびきハにをよぶ 00043310L16はふかけれバなり、物のあはれハ二/季(き)(49ウ)の彼岸、花奢 00043320L17風流なるハ茶と香と、つくやうにハ/餅(もち)つくきね。〔12〕 00043330¥N40¥J 00043340¥X 00043350L18△十月五日は/達磨忌(たるまき)とて、/例年(れいねん)/禅家(ぜんけ)に/法事(ほうじ)あり。其つと 00043360L19めにあはせんと、/喝食(かつしき)をむかひに人をやりたり。御/親父(しんふ)ハ 00043370M1/庄屋(しやうや)なりしが、/迎(むかひ)の僧に出ていふやう、あすハそなたのだ 00043380M2るまきの、こなたハ又/麦(むき)まきなり、いそかハしくて人ひま 00043390M3なし、えやるまひとそ申ける。 00043400¥N41¥J 00043410¥X 00043420M4△山より里に出る者二人つれたち、ある河の(50オ)橋を 00043430M5わたるとて、/水底(ミなそこ)をありく魚を見、一人かいふ、あれハ口 00043440M6わきしろし、/鮎(あゆ)なりと。つれのいふ、鮎でハない、鮎なら 00043450M7は飯かつきてあらむ物を、あれハ/鯖(さハ)てあらふず。さきに鮎 00043460M8といひつる者、いや+鯖ならばおハれてをらふが、一つ 00043470M9ありくほとに中+鯖てハないと。是をおもふに、一人は 00043480M10鮎の/鮓(すし)/計(ハかり)を見付たり。一人ハさし/鯖(さハ)計を見付たれハなり。 00043490¥N42¥J 00043500¥X 00043510M11△昨日、日吉大夫墨田河をして、皆になかせ(50ウ)たハ 00043520M12とかたるを聞、つゐに能といふ物を見た事もなき者、あけ 00043530M13の日早朝に行しが、/翁(をきな)、せんざいふをしまひ、さんばさう 00043540M14の時、さめ+となく。見る人、是ハ何事にやと問に、あ 00043550M15の墨田河があはれさになくといひしハ。 00043560¥N43¥J 00043570¥X 00043580M16△連歌する人の小者、正月の/末(すへ)に/寄合(よりあひ)、おもふ事さんげ 00043590M17物語の/後(のち)、あさとくよりともし、夜更るまでつむる/辛労(しんろう)、 00043600M18いやにハあれと、さりながら今一/季(き)あさらふかしらぬ。(51オ) 00043610¥N44¥J 00043620¥X 00043630M19△/借銭(しやくせん)を/乞(こひ)に/幾度(いくたび)人を遣せども、なす事なし。さらばと 00043640¥P96 00043650L1て/直(ちき)に/行(ゆく)。これの亭主/道善(たうぜん)に/逢(あハ)むと云時、亭出て、道善は 00043660L2るすに候と云。いやそちハ道善でハなきか。扨こゝな人は、 00043670L3亭主の道善か直に逢て、るすと云を/まだ((ママ))かハるゝかやと。 00043680¥N45¥J 00043690¥X 00043700L4△馬をかうてひき来れは、見る者、ざうやくといふ。い 00043710L5やあまりのざうやくてもあるまい、/始(ハしめ)の/騎馬(きば)の子ぢや。件 00043720L6の男おかしかり、騎馬にて(51ウ)もあれ、荷馬にてもあれ、 00043730L7さうやくにはすふだと。 00043740¥N46¥J 00043750¥X 00043760L8△唐船(たうせん)の/謡(うたひ)に、身もかな二つとあるを、一人は、いもか 00043770L9な二つとおほゆる。一人は、身もかな二つとおほえ、いさ 00043780L10かひになり、此在所にてとハん人なし。寺に行、住持の僧 00043790L11にとハんとて、二人つれたち、かくといふに、彼僧本をよ 00043800L12むまてハなくて、一番うたひ給へ、きいてすまさむと、う 00043810L13たハせて後、一処にハ身もかなとあれとも、唯いもかな二 00043820L14つ(52オ)がよい。如何なれハと尋けれは、日本人も随喜せ 00043830L15りとあるほどに。 00043840¥N47¥J 00043850¥X 00043860L16△酒の出たるを一口のミて、扨&よき御すいで候とほむ 00043870L17る。人ミな笑ふ。腹立して、我か物をしらねば、かならす 00043880L18人の金言をえきかぬぞや、かやうによき酒をは、昔から御 00043890L19すいといふが本にてあるそよ。それハ誰にきかれたるそ。 00043900M1いや楊貴妃に、先天上の五すいとつくつたハ。(52ウ) 00043910¥T2唯有 00043920¥N1¥J 00043930¥X 00043940M4△伊勢の桑名に本願寺とてあり。一代の/住持(ちうぢ)/秀海(しうかい)長老ハ、 00043950M5七日以前より/死期(しこ)を/弁(べん)じ、春の時正法説の後、十念をさづ 00043960M6け、高座にありながら/合掌(がつしやう)して/命終(ミやうじう)す。秀海存日に、報/恩= 00043970M7寺(をん=じ)とて名ある侍の/屈請(くつしやう)せらるゝ其/刻(きさミ)、弟子/祐光(ゆうくハう)、師の長老 00043980M8にむかつて、振舞とあれば、何方も/崇敬(そうけう)のあまり/賞味(しやう)を専 00043990M9とす、しかハあれど、一言の/褒美(ハうび)もなけれハ、亭主気を 00044000M10(53オ)うしなふ風情まゝあり、明朝のもてなし/超(てう)過ならん、 00044010M11相かまへて、/失念(しつねん)なくほめられ候へとあれハ、/異義(いぎ)なくか 00044020M12つてんし、/即(すなハち)かの/殿(との)に/望(のそ)めり。/歴(れき)&と/座列(されつ)す。/幕(まく)をあけ/給= 00044030M13仕(きう=じ)/膳(せん)を持て出、きつとつくはいたれは、長老、報恩寺殿 00044040M14+とよひかけ、汁も菜も見もせいて、御/奔走(ほんそう)と申された 00044050M15り。弟子/祐光(ゆうくハう)にらみけれは、うなづいて、わすれぬさきに 00044060M16と。△△殊勝な。〔1〕 00044070¥N2¥J 00044080¥X 00044090M17△下総の国とかやきく。墨染の衣きて掛(53ウ)/絡(ら)をかけ 00044100M18たる/僧(そう)/行脚(あんぎや)す。又武士の馬上にて行にあふ。かの僧/愚鈍(くどん)な 00044110M19り。覚たる事とてハ、天下/泰平(たいへい)/国土安穏(こくとあんをん)、此一語の外ハし 00044120¥P97 00044130L1らす。さるまゝ彼侍をむつかしく思ひ、/掛絡(くわら)をはつしふと 00044140L2ころにいるゝ。即、馬より/飛(とび)おり、敵をミて/旗(ハた)を/巻(まく)ときい 00044150L3かん、とありし。言下に、天下泰平国土安穏と。/武士(ふし)/問訊(もんぢん) 00044160L4す。△△運ハ天にあり。もちあハせたる竹鑓にて、大敵を払つたハ。 00044170¥N3¥J 00044180¥X 00044190L5△長岡越中殿、伏見より雄長老のもとへ、/旗(ハた)(54オ)/棹(さほ)を 00044200L6もらいに使者のありし時、狂哥、 00044210L7△△呉竹のふし見にはあらてはる+と 00044220L8△△△京まて切にのほり棹かな 00044230¥N4¥J 00044240¥X 00044250L9△途中にひとりの姥やすらひ、物あハれさうになきゐた 00044260L10り。行あふたる者、何事のかなしみありて、そちハなみた 00044270L11にむせふぞやととひければ、されバとよ、あれへ行男をミ 00044280L12れは、かちんのかミしもを腰につけ、傘をうちかたげ、ふ 00044290L13ところにさゝらのやうなる(54ウ)物の見えたるハ、うたか 00044300L14ひもなき/説教(せつけう)とき也、あの人のむねの内に、いかほとあは 00044310L15れにしゆせうなる事のあらふすよと、おもひやられて/袂(たもと)を 00044320L16しほると。 00044330L17△△唯ありの人を見るこそ仏なれ 00044340L18△△△仏といふもたゝありの人 00044350L19△△いささらは泣てたむけん七夕に 00044360M1△△△涙より外身にもあらハや〔2〕 00044370¥N5¥J 00044380¥X 00044390M2△富士の/人穴(ひとあな)の/勧進(くハんしん)といふて、かど+を(55オ)ありく 00044400M3者有。不思儀や、人穴の上に/堂(たう)がたつか、又/常灯(しやうとう)をもとほ 00044410M4さむとの事やととふに、彼/聖(ひじり)、をのれが口をかはとあきて、 00044420M5此人穴のくハんしんなりと。〔3〕 00044430¥N6¥J 00044440¥X 00044450M6△長老/達(たち)四五人、休座の物語ほと過、あけくに、一/文(もん)は 00044460M7/無文(むもんの)師とて、/学(がく)/解(け)なきも/法輪(ほうりん)に/望(のそむ)ハ/常(つね)の/習(ならひ)也、誰か身の 00044470M8上もをのれとはしらず、くせがあらは/互(たがい)にいふてなをさん 00044480M9と、其/曲(くせ)+をいふ。中に一人ハそと/座(ざ)を/立(たち)て(55ウ)かへ 00044490M10り、うつけをつくし、われ+のはぢをあらハすなるへし 00044500M11と/自讃(じさん)し、弟子にむかひ、さはありながら、我にもなにそ 00044510M12/曲(くせ)があるといふかと、とハれけれは、いや、なにともくせ 00044520M13は別にない、唯/談義(だんき)の下手じやと申といへり。 00044530M14△弟子の口上正直なるかな。 00044540¥N7¥J 00044550¥X 00044560M15△学もすくなう、/療治(りやうぢ)も秀たる/覚(おほえ)なき医者の、田舎より 00044570M16/境(さかひ)の津に来り、日をかさねても、しか+/崇教(そうけう)する者なけ 00044580M17れは、/嗜(たしなミ)し(56オ)お/足(あし)もとほしくなり、すご+ともとの 00044590M18旧里に帰らんとおもふ暁、 00044600M19△△かりそめのすましき物ハやぶぐすし 00044610¥P98 00044620L1△△△/自然(じねん)/乞食(こじき)と成そ悲しき 00044630¥N8¥J 00044640¥X 00044650L2△宗祇/東(あづま)/修行(しゆきやう)の/道(ミち)にて、人なぞをかくる。 00044660L3△△ちやんきのもんき、なに 00044670L4祇公、富士の雪といへり。其心は、なにとしてもとけぬと 00044680L5なり。件のなぞをかけし人、見るが内にきえて跡なし。 00044690L6(56ウ) 00044700¥N9¥J 00044710¥X 00044720L7△夢庵、境の津におハしけるに、方&より年の内の立春、 00044730L8又元三の発句など、あまりのそミおほかりしかバ、内の者 00044740L9に、かまへて誰&より申来るとも、/所労(しよらう)の事ありといふて、 00044750L10取次へからすとかたく/制(せい)し、/休息(きうそく)有けるが、正月五日の朝 00044760L11とく、いまたいねておハせし所へ、内の者、そとうかゞひ 00044770L12けるやう、さるかたより、子日の/発句(ほつく)所望のよし申こされ 00044780L13候は如何。/兼(かねて)よりいひつけるをとてしからるゝ。いや、 00044790L14(57オ)祝義に/料足(れうそく)三貫参りたるかと申けるにそ、それなら 00044800L15バ、いておきて発句せんと。 00044810¥N10¥J 00044820¥X 00044830L16△本願寺の/門跡(もんせき)、ある冬境の津に下向ありし時、男女ミ 00044840L17な+/迎(むかひ)に参りぬ。門跡こしよりおりて、住吉大明神にむ 00044850L18かひ、手をあはせ/念誦(ねんじゆ)し給ふを見、ひとりのむは、やとに 00044860L19かへり、あの住吉といふお人ハなにとしたお人やら、本願 00044870M1寺さまさへ、おこしからおりて、おかませられたと。 00044880M2△△護念経の一心不乱聞得たり、決定の信。△(57ウ) 00044890M3西行、内宮のふしおがミにて、 00044900M4△△何事のおハしますとはしらねとも 00044910M5△△△忝さになミたこほるゝ 00044920¥N11¥J 00044930¥X 00044940M6△親である人、おきゝあれ、銭をせぬとハかたことや。 00044950M7もつともらしきいけむなれと、そちが銭をは、うらがぜぬ 00044960M8かいはする事をおもへ、たゞ。〔4〕 00044970¥N12¥J 00044980¥X 00044990M9△母にをく/(〔れ脱〕)たる者、/肖柏(せうはく)のもとに来れり。/愁傷(しうしやう)のほどを 00045000M10しハかりぬ。わつら/(〔ひ脱〕)ハなにゝてなどとハれける時、はじめ 00045010M11/血(ち)の道にて候を、医(58オ)/師(し)の見そこなハれ、風の療治を 00045020M12せられ、薬ちがひにて候つると申あえり。肖柏法印、おう 00045030M13+、いづれ一度ハたれも薬ちがひかあらふすと、 00045040M14△△△人を送りてかへる夕暮 00045050M15△△身はいつの煙のために残るらむ 00045060M16正観音経に、/毘舎利(ひしやり)/人民(にんミん)/平復(へいふく)/如本(によほん)と/説(とき)て、/現世(けんぜ)に五/種(しゆ)の/鬼= 00045070M17病(き=ひやう)を/除(のそき)給ひし阿弥陀なり。天/竺(ちく)、百/済(さい)、和朝に/伝来(つたへきたり)し善 00045080M18光寺の如来と拝したてまつる。彼/堂(たう)の/柱(はしら)に虫の/食(くふ)(58ウ)た 00045090M19りし哥、 00045100¥P99 00045110L1△△待侘て歎くと告よ皆人に 00045120L2△△△いつをいつとていそかさるらん〔5〕 00045130¥N13¥J 00045140¥X 00045150L3△/荘周(さうしう)が夢に蝶になりたるとやせむ、蝶か夢に荘周にな 00045160L4りたるとやせん、 00045170L5△△百年ハ花にやとりて過してき 00045180L6△△△この世ハ蝶の夢にありける 00045190¥N14¥J 00045200¥X 00045210L7△/親鸞(しんらん)聖人の/和讃(わさん)に、すなハち往生すと書給へる/詞(ことは)あり。 00045220L8しかるを参詣の中に、まつ(59オ)たきむはのありて、同行 00045230L9の人にむかひ、唯今の一句を/聴聞(てうもん)せられ候や、おすなもお 00045240L10ハちも御往生とのうへは、ましてわれらかわうしやうをや 00045250L11とて、かんるいをそなかしける。 00045260L12無量寿経ニ、若人無善本、不得聞此経と云、世尊の 00045270L13金語にあへり。 00045280¥N15¥J 00045290¥X 00045300L14△はれかましくなみ/居(ゐ)たる座敷にて、ひた物ねふる者あ 00045310L15り。そばに居たる人、/笑止(せうし)に/膝(ひさ)をつきおこしたれば、目を 00045320L16するかたてに、やれ(59ウ)+、談義の座敷かとおもふた 00045330L17よ。〔6〕 00045340¥N16¥J 00045350¥X 00045360L18△一人は兎も角も世を過かねす、一人ハ手前おとろへた 00045370L19ると、/旧友(きうゆう)両人出合、/貧(ひん)なる身の、しみ+ととぼしき物 00045380M1語にて、立たる跡より、 00045390M2△△ある時ハあるにまかせて過てゆけ 00045400M3△△△又なき時ハなきにまかせて 00045410M4とよみて送し返哥に、 00045420M5△△ある時はあるにまかせて過しかと 00045430M6△△△又無時ハえこそまかせね(60オ) 00045440M7△△我世諦あかる雲雀のごとくにて 00045450M8△△△さかる事こそ矢よりはやけれ〔7〕 00045460¥N17¥J 00045470¥X 00045480M9△普光院殿御影に、 00045490M10△△面影はうつすもやすしとに角に 00045500M11△△△命は筆もをよバざりけり 00045510M12△△年よらハ飯やハらかにそつとくへ 00045520M13△△△酒は過とも独ねをせよ△△夢庵 00045530M14△△憂事も嬉事も過ぬれハ 00045540M15△△△其時程ハ思ハさりけり 00045550M16△△捨果て身はなき物とおもへとも(60ウ) 00045560M17△△△雪のふる日はさむくこそあれ△△西行〔8〕 00045570¥N18¥J 00045580¥X 00045590M18△一休、住吉の松斎庵に居住の時、 00045600M19△△住吉と人はいへとも住にくし 00045610¥P100 00045620L1△△△銭さへあれバどこも住よし 00045630¥N19¥J 00045640¥X 00045650L2△客をえて/食(めし)の/用意(ようい)をしけるに、亭主はしりまハり、た 00045660L3まさかの/来臨(らいりん)なるに、いかなるめつらしき物もがなといふ。 00045670L4七つ八つなる子ありて、とゝ+、なんとに鳩かたんとあ 00045680L5るハ。 00045690¥N20¥J 00045700¥X 00045710L6△大名の前にて座頭のひた物ねふるを見(61オ)給ひ、何 00045720L7の子細にそれほと眠るそとあれハ、昔より、春ハ/蛙(かハづ)か目を 00045730L8かりると申/伝(つたへ)て候、それハよき目の事に候ハんや、我らの 00045740L9様なるあしき目をもかり候ハ、よく+蛙のより合に、目 00045750L10のはやる子細御座候やと申ける。 00045760¥N21¥J 00045770¥X 00045780L11△ある/庖丁(ハうてう)人のいひけるハ、/誰(たれ)もつねに山のいもより、 00045790L12ところハ一/倍(ばい)おもしろひ物とおほせある。我らハさやうに 00045800L13一向おもはぬ、其子細ハ、/野老(ところ)と/薯蕷(いも)とを/調(とゝのへ)て出すに、に 00045810L14がきところ(61ウ)はいつもかへる事あれと、わるふいはる 00045820L15ゝ薯蕷のうまきが、残りてかへりたるためしがない。 00045830¥N22¥J 00045840¥X 00045850L16△後京極摂政殿にはなれ給ひて/愁傷(しうしやう)のあまり、定家卿、 00045860L17△△きのふまて陰とたのミし桜はな 00045870L18△△△一夜の夢の春のやま風 00045880¥N23¥J 00045890¥X 00045900L19△宮つかへする侍あり。人まねして清水へ千度/詣(もふて)を二度 00045910M1したり。/後(のち)/傍輩(ハうはい)と双六をうち、まけていたくせめけれは、 00045920M2われ持たる(62オ)物なし、清水に二千度参りたるあり、そ 00045930M3れを渡さんといひけり。聞人笑けるを、勝たる侍、わたさ 00045940M4ばえんと、其日より/精進(しやうじん)し、三日といひける日、清水へ 00045950M5つれまいり、いふまゝに/文(ぶん)かき、御前にて師の僧よび、事 00045960M6のよし申させ、二千度参/其(それかし)に双六に打いれつと、書てと 00045970M7らせけれは、請取/悦(よろこひ)ふし/拝(おかミ)て出けり。まけ侍は思かけぬ 00045980M8事にとらへられ、人屋に居にけり。とりたる侍は徳つき、 00045990M9つかさに成て(62ウ)たのしくそありける。目に見えぬ物も 00046000M10誠をいたしとりけれは、仏あはれとおほしたりけるなむめ 00046010M11りとそ、人いひける。 00046020¥N24¥J 00046030¥X 00046040M12△山科の道づらに四の宮川原と云所、/袖(そで)くらべとて商人 00046050M13のあつまる宿の下すありけり。地蔵を一躰作り、開眼もせ 00046060M14す櫃に入、世の/営(いとなミ)に/粉(まきれ)、程へ忘れけるに、三四年過夢に、 00046070M15大路を過る者、声だかに人をよふ。何事ぞときけは、地蔵 00046080M16をよぶ。おくの方よりいらふる也。(63オ)明日天の/帝釈(たいしやく)の 00046090M17地蔵会し給ふに、参らせ給へといへは、小家の内より、参 00046100M18るへけれと、目も見えねば、いかてか参らんといふ声すな 00046110M19り。/打驚(うちおどろき)、何の/角(かく)ハ/夢(ゆめ)に見ゆると、おもひまハすにあや 00046120¥P101 00046130L1しく、夜あけ、おくをよく+みれは、をきたりし地蔵を 00046140L2思ひ出て、見出したりけり。これが見え給ふにこそと思ひ、 00046150L3いそき/開眼(かいげん)し奉りけりとなむ。 00046160L4△△仏にも実の慈悲ハましまさす(63ウ) 00046170L5△△△おもふ人をそおほしめさるゝ 00046180L6△△世中はいとけなき子のおもきらひ 00046190L7△△△見しがなきにそ音はなかれける 00046200L8△△竹馬を今ハ杖とも頼むかな 00046210L9△△△童あそひをおもひ出つゝ 00046220¥N25¥J 00046230¥X 00046240L10△或者、/恋慕(れんほ)したる/若衆(わかしう)の/東国(とうごく)に下るを、かなしミの/涙(なミた) 00046250L11とともに大津まて/送(おくり)、/泣&(なく+)しる/谷越(たにごえ)をのほる。清水の南に 00046260L12若松が池と云あり。其辺にのぞみ思ふ、命あれバぞかゝる 00046270L13(64オ)うき目にもあへ、不如身を/投(なげ)て死なんにハと、帯 00046280L14をとき、池に入、/頚(くひ)ぎハまでつかりたるが、思案かハり、 00046290L15/急(いそ)て/陸(くか)にあかり、 00046300L16△△君ゆへに身を投けんとは思へとも 00046310L17△△△底なる石に/額(ひたい)あふなし〔9〕 00046320¥N26¥J 00046330¥X 00046340L18△石山寺にて連哥/興行(こうきやう)の事ありし時、公家達の交りな 00046350L19れハ、少なをしたき言葉をも/恐(おそ)れていはす。ひざをたてと 00046360M1をしけるか、大にこりはてゝ、/宿(やと)にかへりてかくなむ、 00046370M2(64ウ) 00046380M3△△今よりは望もなしやこの御会 00046390M4△△△連歌も膝もむりやりにして 00046400M5△△敷島の道をたつねハすくにゆけ 00046410M6△△△入江小しまに舟よせすとも 00046420¥N27¥J 00046430¥X 00046440M7△夢窓国師住吉参詣の時、 00046450M8△△来てミれハ爰も火宅の内なるを 00046460M9△△△何すみよしと神はいふらん 00046470M10明神の返哥、 00046480M11△△松風の声の内なるかくれ家は(65オ) 00046490M12△△△むかしも今もすみよかりけり 00046500¥N28¥J 00046510¥X 00046520M13△京の町を/大根売(たいこんうり)の、大こかう+といふてとをりける 00046530M14/朝(あさ)、書をまなふ/僧(そう)の、三重韻を見て居たるが、彼大根うり 00046540M15をよひ入たる。大根をめすかととふに、いな、そちがうる物 00046550M16を大こといふ、大なるかたことなり、/元魂痕(げんこんこん)の/韻(ゐん)にいつて、 00046560M17/根(こん)にすふだ、/相構(あひかまへて)此/後(のち)は大こといふへからすとをしゆる。 00046570M18/商(あき)人、こゝな坊主ハなりふりも人がましきまゝ、大こを五 00046580M19十本も廿(65ウ)本もかハるゝかとおもふたれは、一向/銭(せに)も 00046590¥P102 00046600L1もたれぬげて、つきもない事を云ハるゝと、/散&(さん+)/悪口(あつこう)して 00046610L2出けり。(66オ) 00046620¥Q1 00046630L7元和元年の比、安楽庵咄を所望いたし、承候へハ別而おも 00046640L8しろく存るに付て、御書あつめ候て、草子にいたし給候や 00046650L9うにと申候処、一両年過、八冊に調給候。粉失可仕かと存、 00046660L10奥に書付置也。 00046670L12△寛永五年 00046680L13△△△三月十七日△△△△重宗(66ウ) 00046690¥P103 00046700¥Y1醒睡笑巻之五目録 00046710L3■心 00046720L4上戸 00046730L5人はそだち(1オ) 00046740¥T1醒睡笑巻之五 00046750¥T2■心 00046760¥N1¥J 00046770¥X 00046780M5△/夢菴(むあん)ハ常に牛に乗て/遊行(ゆぎやう)ありし。月しらけて/興(けう)ある夜、 00046790M6野に出らるゝに、牛芋畠へひき行。畠主腹立しわめきけれ 00046800M7ハ、こらへよ、哥をよみてそのことハりを/聞(きか)せんと、 00046810M8△△月も見すいもが子とものねいりたを 00046820M9△△△をこしにきたハいかゝあるへき 00046830¥N2¥J 00046840¥X 00046850M10△もとは都にすミて、子ども五人持しが、住/侘(わひ)て(2 00046860M11オ)/筑紫(つくし)にくだりし。或時/妻(つま)の方への文に、/絹(きぬ)十疋、/綿(わた)百 00046870M12/把(ば)まいらする、たゞし/偽(いつわり)なりとかきたり。その返事に、 00046880M13△△心さしあるかたよりのいつハりは 00046890M14△△△世のまことよりうれしかりけり 00046900M15となんいひやりける。女房のおもハく、ためしなふこそ。 00046910¥N3¥J 00046920¥X 00046930M16△昔語に、女院へある時おほきなる/杓子(しやくし)をあげける事 00046940M17ありし。御覧じ始なれば、なにとも御しりなく(2ウ)て、 00046950M18左右へ御尋あれども、おなじく存せずと申さるゝ。さらバ 00046960M19げすにとへとおほせある時、おはしたに右のむねを尋らる。 00046970¥P104 00046980L1聞/者(もの)おかしがりて、/名(な)を在たる者なしと申せば、女院の仰 00046990L2せあるやう、われはこれをすいした、おにのミゝかきであ 00047000L3らふずと。△△△△△△時頼禅門 00047010L4△△思へし人はすりこぎ身はしやくし 00047020L5△△△おもひあわぬハ我ゆがむなり〔1〕 00047030¥N4¥J 00047040¥X 00047050L6△細川幽斎公の/姉御前(あねごぜん)に、宮川殿とかや(3オ)いふて、 00047060L7/建仁寺(けんにんじ)の内、十如院といふにおハせし事ありき。長岡越中 00047070L8殿より、大津にて米を百石参らするよしの文を見たまひ、 00047080L9その返事に、 00047090L10△△御/普請(ふしん)のやくにもたゝぬ此/尼(あま)か 00047100L11△△△百の石をはいかでひくへき 00047110L12とありしを、げに/断(ことハり)やと、/即(すなわち)車にて送給ひし。〔2〕 00047120¥N5¥J 00047130¥X 00047140L13△さきの宮川殿子息/雄(ゆう)長老、/頭痛(つつう)のなおるときゝ、とつ 00047150L14かハへ湯治し給ひし時、おとづれとて(3ウ)人をつかハし 00047160L15給ふたよりに、 00047170L16△△御養生の湯入の心しつかなれや 00047180L17△△△とつかハとしてあがり給ひそ〔3〕 00047190¥N6¥J 00047200¥X 00047210L18△/夫(おつと)の心俄にかハり、/妻(つま)に隙をやるといふ。とかくこと 00047220L19ばはなく、出ていなんとする時、あたりになれしねうばう、 00047230M1あまたとぶらひきたり、とてもかなわぬ仕合なれば、身に 00047240M2そへん物をもなどしたゝめられぬぞや。いな、/殿(との)ほどおし 00047250M3き物のなにかあらん、殿ををきてゆくからハ、なにも身 00047260M4(4オ)にそへんとハおもハぬとかたるを、ひそかに聞、や 00047270M5るせなき心つき、ながき別迄にそひしことよ。 00047280¥N7¥J 00047290¥X 00047300M6△大名の/扶持(ふち)をうくる/座頭(ざとう)あり。茶をひかせ/羅(ら)れしが、 00047310M7/呑(のミ)て見給へばあらし。おほきに/機嫌(きげん)そこねしに、 00047320M8△△あらくとも我とかのをとおほすなよ 00047330M9△△△茶/磨(うす)に目なしひきてにもなし 00047340M10このことハりにて事すミぬ。〔4〕 00047350¥N8¥J 00047360¥X 00047370M11△/美濃(ミの)の国に/石谷(いしがい)といふ侍あり。斎藤山城守(4ウ)と同 00047380M12心にて/鷺(さき)山の城に/篭(こも)れり。よせてハ斎藤新九郎とりまき、 00047390M13やう+落城におよぶ/砌(ミぎり)、かの石谷文武に心がけの功ある 00047400M14をおしミ、矢文を/射(い)、使者をたて是非出られよ、/未練(ミれん)にハ 00047410M15なるまじき旨ことハり、返しに、 00047420M16△△いのちやはうきなにかへん世中に 00047430M17△△△なからへはつるならひありとも 00047440M18同時/妻女(さいちよ)のかたへ、 00047450M19△△なひくなよませの内なるをみなへし(5オ) 00047460¥P105 00047470L1△△△男山より風はふくとも 00047480L2二字/飜案(ほんあん)に返し、 00047490L3△△なひくまじませの内なるおミなへし 00047500L4△△△おとこ山より風はふくとも 00047510L5と書てつかハし、国の内花蔵院といふ/比丘尼(びくに)所に/走(はしり)入て、 00047520L6むなしきあとをとひしとなり。 00047530¥N9¥J 00047540¥X 00047550L7△/普光(ふくわう)院御所へ重宝の/剣(けん)を進上す。則/科(とが)人を召出し、き 00047560L8りて見んとひきすへたるを、あなたへなをしてきれとある。 00047570L9其時彼科人、しバらく(5ウ)またせられよ、存ずる旨を申 00047580L10さんと、 00047590L11△△あらひほすしづかつゞりのさほずくミ 00047600L12△△△ひきなをさねはきられさりけり 00047610L13是をきこしめされ、やさしきものの心やとて、命をゆるさ 00047620L14れけるとなん。〔5〕 00047630¥N10¥J 00047640¥X 00047650L15△備中の国高松の城守を、清水長左衛門/宗治(むねはる)といひし。 00047660L16先の大閤羽柴筑前守殿の時、大/軍(ぐん)をもつて水/責(せめ)にし給へは、 00047670L17諸勢の命を/乞(こひ)たすけ、小船に乗、河にうかひ、切腹の時、 00047680L18(6オ) 00047690L19△△おしまるゝ時散てこそ世/間(なか)の 00047700M1△△△花も花なれ色もいろなれ 00047710¥N11¥J 00047720¥X 00047730M2△伊勢より熊野へ参詣の武士あり。おとなしの天神とい 00047740M3ふあたりにて、一/本(き)の梅さき、ふかきにほひのもれくるを、 00047750M4供したる人/夫(ぶ)とりあへず、 00047760M5△△音なしに咲そ初ける梅の花 00047770M6△△△匂ハざりせばいかてしらまし 00047780M7といひけるを、主人聞つけ、馬上より、其/者(もの)のい(6ウ)に 00047790M8しへをとへは、 00047800M9△△花ならハおりても人のとふべきに 00047810M10△△△なりさがりたる身こそつらけれ 00047820M11とよみし。いよ+主人/感(かん)にたえ、やがて侍になし、身ち 00047830M12かふ/情(なさけ)をかけつるとなん。 00047840¥N12¥J 00047850¥X 00047860M13△和泉の堺に/宗椿(そうちん)とて手書のありし。源氏をうつす事廿 00047870M14三部、廿四部めの朝顔の巻にて、むなしくなりぬ。牡丹花、 00047880M15かれが心のほどをあハれミて、/追善(ついぜん)のため、(7オ) 00047890M16△△筆にそミ心にかけしちきりにや 00047900M17△△△折しもきえし朝顔の露 00047910¥N13¥J 00047920¥X 00047930M18△町屋の棚に/面(めん)をかけてをきたり。のぞミの人有て立よ 00047940M19り、それなる上臈面を見たきよしこひければ、のうれんの 00047950¥P106 00047960L1内より、いかにも色くろくたくましき男の、手にもちさし 00047970L2出しさまに、代ハ五百でおじやらしますといひけり。いや 00047980L3これはおどけ/者(もの)よとおもひ、それに候鬼の面を見たいとこ 00047990L4ふ。又さし出しさまに、おほき(7ウ)にほうをふくらかし、 00048000L5おそろしげなる声をして、八百とそいひたりける。その物 00048010L6+に心をなしたる、やさしき人の作分にやあらん。 00048020¥N14¥J 00048030¥X 00048040L7△/芸州(げいしう)に/大場(おほバ)といふ侍あり。兄弟の中/如何(いかゝ)の/子細(しさい)にや、 00048050L8/庶子(そし)家をつぎて、/惣領(そうりやう)ハ/筑紫(つくし)に行、/牢(ろう)人の後、大閤御所薩 00048060L9摩御/陣立(ぢんたち)あり。庶子のなにがしも御供し、宿札をもちて行。 00048070L10折節兄の家ともしらず打たり。宿とりを主人/伺(うかゝい)ミれバ、 00048080L11/件(くだん)の/弟(おとゝ)なりし。さすが昔の床しくて、(8オ) 00048090L12△△大ばをハ茶にさへきらふ物なるに 00048100L13△△△なにのえんとて宿をかるらん 00048110L14庶子よりの返哥、 00048120L15△△大ばをハ茶にさへきらふ物なれと 00048130L16△△△心くたけハ別義あらしな 00048140¥N15¥J 00048150¥X 00048160L17△住吉の花のさかりに、/少(せう)人を誘引したる/方(かた)へ、 00048170L18△△色もなき此一枝を送るなり 00048180L19△△△人の心の花の見たさに 00048190M1返哥、(8ウ) 00048200M2△△水ぐきをかきなかすへきかたもなし 00048210M3△△△人の言葉の花にせかれて 00048220¥N16¥J 00048230¥X 00048240M4△又いつの春やらん、住吉にて花のもとに、/顔(かほ)をつつミ 00048250M5まわして居たる人のもとへ、 00048260M6△△よしや君/霞(かすミ)の衣おほふとも 00048270M7△△△匂ひをもらせ花のかほバせ 00048280M8返し、 00048290M9△△匂ひをもいかて漏さん人しれず 00048300M10△△△身は埋木の花しさかねは(9オ) 00048310M11△△見る人に身をわくる花の匂ひかな△△宗祇 00048320M12△△待おしむほとや心の花さかり△△△△同 00048330¥N17¥J 00048340¥X 00048350M13△和泉の堺に森川といふ大鼓打あり。数寄を心におもし 00048360M14ろくおもひ、せんべいをちいさくわりて/菓子(くわし)に出し、わる 00048370M15茶をたてゝ、わびつゝも、客を送りていで、お礼なしで御 00048380M16座あるといふ。知音の者あり。/珠光(しゆくわう)、/紹鴎(じやうわう)などのいハれそ 00048390M17うなる/時宜(ちぎ)めきて、お礼なしとハなどいふぞ、唯、お出忝 00048400M18と計がよからふと/異見(いけん)し(9ウ)けれバ、さればよ、我も身 00048410M19ながら片/腹(ハら)いたく思へども、/浮世(うきよ)の数寄者たる人/結構(けつこう)に/会(くわい) 00048420¥P107 00048430L1をし、一軸花入/興(けう)をつくし、極上別義の/濃(こひ)茶うす茶、/式法(しきはう) 00048440L2過て門送りし、路地のくゞりに手ををさへ、お礼なしで御 00048450L3座あるといハるゝが、けなりさに、せめてくちまねしてあ 00048460L4そぶと。 00048470¥N18¥J 00048480¥X 00048490L5△久/相馴(あいなれ)し/夫婦(ふうふ)の中に、おもひよらずいさかふ事ありて、 00048500L6/妻(つま)にいとまをやりぬ。家をはなれんとする日、けしからず 00048510L7大雨ふりしかバ、あひ馴たる(10オ)わりなき友あつまり、 00048520L8いたハしやなどいふに、 00048530L9△△ふらハふれくもらハくもれてるとても 00048540L10△△△ぬらさでゆかん袖ならハこそ 00048550L11とよみしを、あわれと、えさりがたくて、とゞめけるこそ 00048560L12心あれ。これをたそとしつかにきけハ、和泉式部か、いに 00048570L13しへ丹後の国にての事とかやいふ。 00048580¥N19¥J 00048590¥X 00048600L14△牡丹花の、/児(ちこ)にて/机(つくへ)にかゝり、いかにもしとやかに手 00048610L15ならひし給ふを見つけ、ある人うしろより、 00048620L16△△△ものもいハひでものならふ人(10ウ) 00048630L17といひしに、筆をもちながら、 00048640L18△△くちなしの花のいろはやうつすらん〔6〕 00048650¥N20¥J 00048660¥X 00048670L19△丹後の国に/鉈(なた)の/庄(しやう)とてあり。かしこの百姓、同百姓に 00048680M1米をかしぬ。こへどもつゐになさず。狂哥をよむ。 00048690M2△△しやくせんを/乞(こ)へともくれぬ気のどくや 00048700M3△△△なま木に鉈の庄のものかな 00048710M4幽斎公御聞あり、其/風情(ふぜい)なる土民の上にハ何としていひけ 00048720M5るぞ、やさしやと感し給ひ、米(11オ)を三石つかハされし。 00048730M6忝とて御礼に参りぬ。其座にてなにとぞ申せとあれば、 00048740M7△△日本さえをよびなき身に三ごくを 00048750M8△△△まゝにせよとの御意そめてたき 00048760¥N21¥J 00048770¥X 00048780M9△江州坂本にある母のもとへ、年の暮の文に、/叡山(ゑいざん)より 00048790M10児の書てやりけるハ、小袖一/重(かさね)、料紙十帖、帯一筋参らす 00048800M11るとあり。使にとへばなし。重て見参の時、その旨趣を母 00048810M12とハれけれは、我がおとなしく寺のぬしにもなりたらハ、 00048820M13それ+(11ウ)を参らせたいと/こと候よ((ママ))。 00048830¥N22¥J 00048840¥X 00048850M14△/博奕(ばくち)の上/手(ず)二人、一度に/死(し)して/炎王宮(ゑんわうぐう)にいたる。/青鬼(あをおに) 00048860M15立て、/先(さき)にとをる者をとらへんとすれバ、私は/弁説(へんぜつ)なし、 00048870M16おとをし候へ、跡なるもの/口(くち)きいたり、なにも御尋候へと 00048880M17申にぞ、さらバ二番の男をとらへとハんとて、/赤(あか)鬼立より 00048890M18たりしを、彼バくちうち、鬼の/尻(しり)をそとしらぬふりしてつ 00048900M19めりけり。鬼かいふ、爰な人ハ/昼(ひる)なかにと。△△鬼も十八と 00048910¥P108 00048920L1△△いふ事あれハ、おくゆかしや。(12オ) 00048930¥N23¥J 00048940¥X 00048950L2△/教月(きやうくハち)坊、/例(れい)の/狂哥(きやうか)を持せ定家のもとへ、 00048960L3△△教月かしハすのはてのそら/印地(いんち) 00048970L4△△△年うちこさん石一つたべ 00048980L5よねを五斗参らせられし。 00048990L6△△/定家(さだいゑ)かちからの程を見せんとて 00049000L7△△△石ひきわけてなからこそやれ 00049010¥N24¥J 00049020¥X 00049030L8△/麁屋(そおく)の夕顔といふ題にて、△△夢庵 00049040L9△△/賎(しつ)屋とて思ひやつさし夕顔の 00049050L10△△△はなの葛に露の白玉(12ウ) 00049060¥N25¥J 00049070¥X 00049080L11△新/続(しよく)古今を/撰(せん)ぜらるゝ時、其哥人の数に入なん事を 00049090L12望ミ、三百首よミて上けれどもなし。又百首かさねて上参 00049100L13らする包紙に、 00049110L14△△かきすつるもくつなりともこのたひハ 00049120L15△△△かへらてとまれ和哥の浦浪 00049130L16此一首とまりてあり。彼/蜷川(になかハ)の新右衛門/親当(ちかまさ)、心ざしのほ 00049140L17とこそ。 00049150L18△△△いとはるゝ物のにくしとハ見ず 00049160L19△△うくひすの羽風に花の打散て(13オ) 00049170¥N26¥J 00049180¥X 00049190M1△/周防(すわう)の/大守(たいしゆ)/大内(おうち)殿の北の御方、在京の程、ある内にふ 00049200M2ミ二つのぼせり。/御台(ミだい)へのをバとりちがへて、おはなとい 00049210M3ふ女房たちへやり、お花のをは御台へあげまいらせし時の 00049220M4かへり事に、 00049230M5△△思ふかた二つありその浜千鳥 00049240M6△△△ふミちかへたる跡とこそみれ 00049250¥N27¥J 00049260¥X 00049270M7△鎌倉の中納言/為相(ためすけ)ハ定家の孫なりし。/相模(さがミ)の/唱名寺(しやうミやうじ)と 00049280M8いふ律家の寺あり。かしこの庭に山+にさきだち、いか 00049290M9にもはやく紅葉(13ウ)する楓の木の候に、短冊をつけらる。 00049300M10△△いかにしてこの一本のしぐれけん 00049310M11△△△山にさきたつ庭の紅葉ゝ△△為相 00049320M12其/翌年(よくねん)より、つねの色にかへり、紅葉をそとゞめける。 00049330M13△△△色には見せていふ事ハなし 00049340M14△△春秋を草木にうつす天津空△△兼載 00049350¥N28¥J 00049360¥X 00049370M15△/後栢原院(ごかしハハらのゐん)/崩御(ほうぎよ)なされし時、三条の桶屋か/娘(むすめ)、(14オ) 00049380M16△△をよひなき雲の上なる歎にも 00049390M17△△△天下とてぬるゝ袖かな 00049400¥N29¥J 00049410¥X 00049420M18△木こりの/斧(おの)を山/守(もり)にとられ、心うく思ひつゝ、/杖(つゑ)つき 00049430M19て/居(ゐ)ける。山/守(もり)見て、さるべきことを申せ、とらせんとい 00049440¥P109 00049450L1ひけれは、 00049460L2△△あしきだになきはわりなき世中に 00049470L3△△△よきをとられてわれいかにせん 00049480L4とよミたりけれは、山守返しせんとおもいて、う+とう 00049490L5めきけれ共、えせざりけり。さて(14ウ)斧を返しとらせて 00049500L6げれは、うれしと思けりとそ。 00049510¥N30¥J 00049520¥X 00049530L7△かくし/題(だい)をいミしく/興(けう)ぜさせ給ける御門の、ひちりき 00049540L8をよませられけるに、人+わろくよミたるに、木こる/童(わらハ) 00049550L9の/暁(あかつき)山へ行とていひける、このころ/篳篥(ひちりき)をよませさせ給 00049560L10たるを、人のえよミ給ハざんなる、童こそよミたれといひ 00049570L11けれハ、ぐして行童、あなをかし、かゝる事ないひそ、さ 00049580L12まにも/似(に)ず、いま+しといふに、など、かならすさまに 00049590L13にる事(15オ)かとて、 00049600L14△△めくりくる春+ごとに桜花 00049610L15△△△いくたひちりき人にとハゝや 00049620L16といひたりけるぞやさしき。〔7〕 00049630¥N31¥J 00049640¥X 00049650L17△越前守の時に、/高忠(たかたゝ)といひける侍の、/夜昼(よるひる)まめなるか、 00049660L18冬なれと/帷(かたひら)をなんきたりける。雪のふる日、哥をよめと 00049670L19ありけれハ、此侍何を題にて/仕(つかまつる)へきぞと申せハ、はだか 00049680M1なるよしをよめといふに、(15ウ) 00049690M2△はたかなる我身にかゝる白雪は 00049700M3△△△うちふるへともきえせさりけり 00049710M4とよミけれは、/感(かん)じ給ひて、きたる衣をぬぎてとらす。北 00049720M5ノ方もあハれかり、うす色の衣の、かうバしきをとらせけ 00049730M6り。 00049740¥N32¥J 00049750¥X 00049760M7△朝夕に木をこりて、親をやしなふ/孝養(きやうよう)の心、天にし 00049770M8られぬ。/梶(かぢ)もなき舟に乗、むかひの島に行に、朝には南の 00049780M9風吹、北の島に吹つけ、夕には又舟に木をこりゐたれハ、 00049790M10北の風吹て家に吹つけ(16オ)つ。かくのことくする程に、 00049800M11年比に成て大やけにきこしめし、大臣になし、めしつかハ 00049810M12るゝ。其名を/鄭(てい)/太尉(たいい)といひける。 00049820¥N33¥J 00049830¥X 00049840M13△事たらず世をわびてすむ人の妻あり。/天然(てんねん)と和哥に心 00049850M14そミ、たち居に此事のミなれバ、/夫(おつと)いふ、其風流ハかゝる 00049860M15まづしき身にさら+にあハず、ふたりがともにハしたな 00049870M16くてさへ、あやうかるべき/渡世(とせい)ぞかし、なんとしてそひハ 00049880M17はてまし、/別(へつ)にあくいろもなけれど、/唯(たゝ)哥をす(16ウ)ける 00049890M18にあきたり、いとまをつかハすといふ時、となりなる/農人(のうにん) 00049900M19の、稲をになひなから立より、亭主、さうないハしましそ、 00049910¥P110 00049920L1うらが処の子もちハ哥をもよます、夜からよるまてはたら 00049930L2きぬれども、ふべんさハこれにまさりたり、なにも皆前世 00049940L3のやくそくと見えてあり、女房衆、亭のいふことにとりあ 00049950L4わす、たゞよミたくハ哥よふで、その隙+にハたらきた 00049960L5まへといふに、彼妻、/夫(おつと)にはとりあわず、となりの男にむ 00049970L6かひて、(17オ) 00049980L7△△ほに出ていねとや人のおもふらん 00049990L8△△△はかなのわれや秋を見なから 00050000¥N34¥J 00050010¥X 00050020L9△/建仁寺(けんにんじ)の開山/千光(せんくわう)/祖師(そし)在唐の時、老母のうへをかな 00050030L10しミて読給ひし、唯此一首集に入ぬるとなん。 00050040L11△△もろこしのこすゑもさひし日本の 00050050L12△△△ハゝその紅葉ちりやしぬらん 00050060¥N35¥J 00050070¥X 00050080L13△頼朝公より/慈鎮(ぢちん)和尚へ、何にても用の事あらハ、文を 00050090L14委細に書こし給へとありつれと、終に便(17ウ)もなかりし 00050100L15ゆへ、此哥を送り参らせられしとなん、 00050110L16△△みちのくのいはてしのふハえそしらぬ 00050120L17△△△かきつくしてよつほのいしふミ 00050130¥N36¥J 00050140¥X 00050150L18△深草に、/薄墨(うすずミ)の桜共、墨染桜ともゆふは、児あり、/手= 00050160L19習(て=ならひ)硯の水に、白き桜の散落て、墨にそまりけれは、 00050170M1△△世中を花もうしとや思らん 00050180M2△△△白きすかたを墨染にして(18オ) 00050190M3と、此哥読て児死にけり。明の年のなき日にあたり、師の 00050200M4坊主、 00050210M5△△去年のけふ花ゆへうせし児のため 00050220M6△△△いまうちならす鐘の一声 00050230M7と詠し、/霊前(れいせん)に/備(そなへ)けれは、即返哥あり。 00050240M8△△花ゆへにとハるゝ事のうれしさよ 00050250M9△△△苔の下にも春は/来(き)にけり〔8〕 00050260¥N37¥J 00050270¥X 00050280M10△大内殿/在京(さいきやう)の時、京より/御台(ミだい)へ、 00050290M11△△なひくなよ手馴し庭の糸すゝき(18ウ) 00050300M12△△△いかなる風のたよりありとも 00050310M13大内殿御台の返哥、 00050320M14△△風もなしなひかぬ物を糸薄 00050330M15△△△君を思へはこゝろみたるゝ 00050340¥N38¥J 00050350¥X 00050360M16△左衛門尉蔵人/頼実(よりさね)ハ、いミじきすき者也。和哥に志ふ 00050370M17かくて、五年か命を奉らん、/秀哥(しうか)よまさせ給へと、住吉 00050380M18に祈申けり。其後年経て重き病をうけたりける時、祈とも 00050390M19死けれハ、家にありける女に、住吉の明神つき給て、/兼(かねて) 00050400¥P111 00050410L1(19オ)祈申せし事をハわすれたるか、 00050420L2△△木葉ちる宿は聞わく事そなき 00050430L3△△△時雨する夜もしくれせぬ夜も 00050440L4といへる秀哥よませしハ、/汝(なんぢ)か/信(しん)をいたして我に志、いの 00050450L5り申せし故也、されハ此たひハいかにもいくましきぞと被 00050460L6仰ける。 00050470¥X39¥J 00050480¥X 00050490L7△/光源院(くわうげんゐん)殿、京都四条道場に/陣(ぢん)を/取(とり)て御座ありし時、 00050500L8夜九つの大鞁をねほれ、七つの時打けり。公方より御使あ 00050510L9りて、番の僧を召。(19ウ)さためて/折鑑(せつかん)に及びなんとふる 00050520L10ふ+参けれハ、やうす御尋ありつるに、さん候、/深(ふかく)睡、 00050530L11目/覚(さめ)/仰天(ぎやうてん)仕ての故と、ありのまゝ申上けれハ、案の外御 00050540L12機嫌よくて、 00050550L13△△この寺の時の大鞁ハ礒の浪 00050560L14△△△おきしたいにそうつといふなる 00050570L15とあそバされ、僧にハ/方兄(はうひん)をあたへ給ひぬとなん。〔9〕 00050580¥N40¥J 00050590¥X 00050600L16△三条三光院殿十六歳の御時、禁中にて/懐旧(くわいきう)といふ題 00050610L17出たりつるに、何ともよミに(20オ)くしとあれは、一座ミ 00050620L18なおもしろき顔に見なし、誰も題をとりかえよまむといふ 00050630L19人なかりしに、 00050640M1△△程ちかき我昔さへ恋しきに 00050650M2△△△老はいかなる涙なるらむ〔10〕 00050660¥N41¥J 00050670¥X 00050680M3△宗長法師あるかたにとまり、/暁(あかつき)いそきかへるとて、下 00050690M4帯をわすれおかれしを、もたせて送りけれは、よミてつか 00050700M5ハす。 00050710M6△△おもひきやおとすたつなの浜風に(20ウ) 00050720M7△△△浪より高き名のたゝんとは 00050730¥N42¥J 00050740¥X 00050750M8△美濃の/岐阜(きふ)に、宗湖とて連哥の上手、家まどしかりし。 00050760M9堀池といふ福人のもとに質を/置(おき)、毎年うくる事なく過し、 00050770M10此冬の小袖をハ、なにとかせんとおもひつらね、 00050780M11△△倉の内にいかなる河のあるやらん 00050790M12△△△我かおくしちのなかれぬハなし 00050800M13是を送りあれバ、堀池、詩つくつて酒をかハれたる/盧山(ろさん)の 00050810M14遠公にも、心さまにたりといと(21オ)おしがり、しちにな 00050820M15にやらんそへて、もとしたるときく。(21ウ) 00050830¥T2上戸 00050840¥N1¥J 00050850¥X 00050860M18△雲静ニ、風条ヲナラサヌ日ヲ幸、一瓶ヲ携、東山ニ出 00050870M19ル俗アリ。又痩黒ミテ白髪タル抖■ノ僧、始ヨリ八坂ノ塔 00050880¥P112 00050890L1ニ休ヒシ。是モ霊山ノ方ヘ歩ム。二人道ヅレシ語行。清水 00050900L2奥ノ千手堂舞台ノ端ニテ、彼提物ヲ開キ飲テ、進僧。々 00050910L3曽テ不取合。 00050920L4俗云、生得酒嫌歟。又有子細否。 00050930L5僧曰、予元来悪客也。 00050940L6俗云、此霊地也、衆峯環リ峙テ、万水清流ル。林茂シテ、碧 00050950L7深ク、花奇ニシテ、紅酣。異木累葉、群草飛英。不是境 00050960L8待人乎。(22オ)惟時可惜酒不愛、対花啜茶、殺風景 00050970L9一哉。但願得美酒、朋友常共斟、柳文書。又花間 00050980L10置酒、清香発。李白詩、花間一壷酒、独酌無相親、 00050990L11今更思当。僧下戸、友伽無詮方。 00051000L12僧曰、我好処在餅。哀振舞人、飽満而慰。宴安鴆毒、不 00051010L13可思見物。 00051020L14俗云飢不撰糟糠、実哉。素問云、天食人以五気、地 00051030L15食人以五味。其気味無取相者、唯飽望足故。風 00051040L16味好那堪。把酒対西山、山谷愛。何無興麁抹 00051050L17食、噎餅。 00051060L18僧曰、心不同如面。(22ウ)貴賎好悪争一般。毎物愛則 00051070L19不知其悪。汝賎餅我所賞也。烹茶煮餅、坐僧房 00051080M1。又煮餅臥北窓、保此已徼幸、書儒者有候。人 00051090M2間万事酔如泥。謗酒貪着右流左止。 00051100M3俗云、従釈提桓因、賜■蒭種子、唯五道論之中初而已。 00051110M4酒徳軽誤無愛好者、却堪羨。愚也恒願清酒置 00051120M5不論。得濁醪一樽、霜朝雪夜、変寒為温、転憂為楽。去 00051130M6晋賈謐於金谷園聚廿四友、各作忘形友、結莫 00051140M7逆盟遊、良有以也。加之吟詩、作歌舞。如詩不成、罰依 00051150M8金谷酒数、以大盞三盃(23オ)続盛之。或酒宴席 00051160M9詩、不才身野詩難詠。可愧罸■金谷籌、作亦謂之乎。 00051170M10人無更少時、須惜。年不常春、酒莫空。小野篁 00051180M11作勢最有感哉。又昔人思寐夢吟詠歌。 00051190M12△△酒瓶爾我身遠入天涵波耶 00051200M13△△△醤色仁志骨和成共 00051210M14△△夜光玉登云共酒飲天 00051220M15△△△酔鳴詮爾豈如免耶裳 00051230M16角連。両友一人開瓊筵坐花、一人飛羽觴酔月。荘 00051240M17気空聞、天乙女歟立舞袖、鸚鵡盃思方指、飲戻鸚鵡 00051250M18返、栄期酒飯三楽不言。大徳自今已後、酒少充参。 00051260M19僧曰、汝対持戒勤修僧侶、頻勧(23ウ)飲酒、甚以奇恠 00051270¥P113 00051280L1也。酒是世尊大禁処、梵網十重禁者、以■酒戒第五 00051290L2波羅夷罪。況取手自飲、勧人与事罪過不軽。般舟讃 00051300L3云、唯知目前貪酒肉、不覚地獄尽抄名。愚夫顛倒而楽 00051310L4暫時沈酔、不期当来苦果者、此猶■燿宵行、矜照火。 00051320L5俗云、扨飲酒仏戒耶。一陣既敗忽如得後誥。珍重&&。 00051330L6猶飲。聴未曽有経説、末利夫人仏弟子。守戒法。或 00051340L7時波斯匿王遊獵大饑事。修迦羅云厨官斬。夫人聞之、 00051350L8酒饌調至王所。共飲王瞋歇、乞命、莫殺厨官。 00051360L9王明日見顔色憔悴。夫人何患(24オ)問。言、昨日饑火所 00051370L10逼、怒殺厨官。悔愁耳。夫人笑、其人猶在。王大歓 00051380L11喜、白仏、末利持五戒犯飲酒。其事云何。世尊曰、 00051390L12似此犯戒得大功徳無罪有也。然則飲過。飲修善。 00051400L13僧云、汝愚也。如文取義、三世諸仏怨、夫人不飲酒、厨 00051410L14官命忽滅。以飲助。見、悪全善而破持也。毘婆 00051420L15沙論以、有一■波索迦、禀性仁賢、受持五戒、専 00051430L16精不犯。後一時為渇所逼、見一器中有酒如水、 00051440L17遂取飲之、犯飲酒戒。時有隣鶏、入其舎盗殺而啗、 00051450L18復犯邪行戒。告官訊問、拒諱。復犯誑語戒。如是五 00051460L19戒皆由酒犯。一波(24ウ)起処万波随来哉。酒戒破四戒同 00051470M1滅。可思。十地論、瞻蔔華雖萎勝余諸花。故破戒諸比丘猶 00051480M2勝外道有。彼持戒者既落過況一生無戒而酒愛外観 00051490M3解於無一毫者歟。 00051500M4俗云、某若時、側耳傾心有聞。未曽有経云、祇陀太子 00051510M5自仏言、向受五戒、酒戒難持、畏脱得罪。今欲捨 00051520M6戒受十善法。仏言、飲酒時有何悪耶、答曰、国中豪 00051530M7族雖時&相率賚持酒食、共相娯楽、自余無悪、得 00051540M8酒念戒。不行悪也。仏言、若如汝者終身飲酒。有何 00051550M9悪哉。五戒中戒飲酒許、太平楽飲物也。又酒中那有 00051560M10失。酔則不驚鴎、東坡云ヘリ。然者(25オ)真俗共無過。 00051570M11僧云、汝寄安心者、奸致処也。因性好酒、弁義亦 00051580M12依怙。長阿含経飲酒説六失。中有悪名流布失。仏在 00051590M13世、隣国悪竜蜿、或時大雨或大旱、令悩乱人民。其国 00051600M14綸髪梵志詣仏所詳奏。即娑竭陀比丘云弟子遣、輙降伏 00051610M15悪竜。国民悦調美酒、酔失正路、田畔睡臥。蝦蟆小蛇比 00051620M16丘在腹上。仏与舎利弗通見、自今已後我弟子必不飲酒。 00051630M17制法従是起。梵網古迹、酒者迷乱起罪之本、昔是伏竜之 00051640M18勢、而今不禁蝦蟆、乃至四逆従此而生。又一切聖不飲 00051650M19酒者、以諸聖者具慙愧、故飲令失(25ウ)正念故云 00051660¥P114 00051670L1ゝ。聖者有耻、増世人分過酒トラカサレヌ有耶 00051680L2俗云、聞説、晋恵遠居廬山下、持律精苦、過中不受密 00051690L3湯、而作詩換酒飲陶彭沢。送客無貴賎、不過虎渓。 00051700L4盧山記、遠師送陶元亮陸脩静、不覚過虎渓。因相与大咲。 00051710L5今世伝三咲図。禅月作詩云、愛陶長官酔兀&、送陸道 00051720L6士行遅&。買酒過渓、皆破戒。斯何人、斯師如斯。羅 00051730L7什日、東方当有護法菩薩、■哉仁者、遠公誉。論曰、遠 00051740L8師有大功於釈氏、猶孔門之孟公焉云ゝ。既遠師一宗元祖、 00051750L9破飲酒而過虎渓。此事(26オ)鱠炙人口、寔古今絶勝 00051760L10也。 00051770L11僧云、汝比遠師止為類。色心倶天地雲泥、如遠公 00051780L12勤了傍飲、其二道之中、易学飲勤不奈何。廬山集、眼 00051790L13空四座麒麟■、心在百年鸚鵡盃。煩悩即菩■、有犯者生 00051800L14死即涅槃無火入者、是歟。成実論、酒是実罪耶。答罪。所 00051810L15以者何。飲酒為悩衆生、故而是罪因。若人飲酒則開不 00051820L16善之門、以能障定及諸善法、如植衆果云&。倶舎云、 00051830L17莫軽小悪、以為無殃。水滴雖微、漸盈大器、有、非異人作 00051840L18悪、異人受苦報、悪業所競、責帰一人也。 00051850L19俗云、去比法相比丘有聞。夫十波羅蜜行、前五波羅蜜 00051860M1(26ウ)福行、後五波羅蜜智行、第六恵波羅蜜根本智、根本 00051870M2智者無分別智也。僧不謂文字言句、認心他人思出迄止。 00051880M3李白一斗詩百篇、長安市上酒家眠。天子呼来不上船、 00051890M4自称臣是酒中仙。正李太白酔中、主上礼義亡却。此非無 00051900M5分別智境界乎。蘇子云、客喜笑洗盞更酌。黄子云、客至 00051910M6還須飲、逢朋起自斟。貴富賎貧得客興思。酒外以 00051920M7何尽愛耶。 00051930M8僧云、小智菩提妨哉。前云十波羅蜜根本智竟。初地入心 00051940M9断麁煩悩計也。以已下四波羅蜜後得智、細煩悩地&断、 00051950M10十(27オ)真如悟解、至十地薩■也。不弁此位、漫何伺 00051960M11理。沙弥戒経、飲酒有三十六失説。乃至此四身心散乱失 00051970M12出。不言而可知矣。唐太宗三鏡中、以人為鏡、可以明得 00051980M13失。最合頭狂哥アリ。 00051990M14△△酒和唯飲禰波須磨乃浦閑天 00052000M15△△△飲波明石能浪風楚立 00052010M16時&吟之不如免諸。 00052020M17俗云、身心散乱、可依人性。強不論。纔聞、文殊経云、 00052030M18不得飲酒、若合薬医士所説、多薬相和、少酒多薬 00052040M19得用云&。貴許。広大慈悲。以何衆生得入無上道(27 00052050¥P115 00052060L1ウ)善巧飲酒一盃今者已満足哉。又不見道。事林広記清 00052070L2談、昔儀狄造酒而美、進之於禹。二飲而甘之。酒可以 00052080L3供祭祀、可以奉賓客、皆礼之所不廃者。如詩所謂為 00052090L4酒為醴、以治百礼。又謂、我有旨酒、以燕楽嘉賓之心、 00052100L5皆是物也。去神前酒台盤、諸天献有三木。婦人愛呼 00052110L6九献、王侯将相者、以酒成治国之策。士農工商何不別、飯 00052120L7後必謂中酒飲之。傍人云、大過無益興行、不足寒。不 00052130L8酔不醒中酒。此砌、大酒老翁出来、飲酒為酔、唯乱 00052140L9酒。唐李太白将進酒云題、岑夫子、丹丘(28オ)生、与君 00052150L10歌一曲、請君為我聴、鐘鼎玉帛不足貴、但願長酔不 00052160L11願醒。是佳酒朋立。若無青州従事、督郵風味可足。 00052170L12故東坡、薄&酒勝茶湯、又李白、白酒初熟山中帰。可謂 00052180L13酔亦文章、醒亦文章。 00052190L14僧曰、文殊問経、偏為除疾苦、少酒赦之。徒飲徒興 00052200L15アラス。又事林広記引用、初著酒味、後知酒失聞。非 00052210L16一片。予暇之日、考見十八吏、至禹時儀狄作酒、禹飲 00052220L17之而甘是云、後世必有以酒亡国者。遂疏儀狄。如案桀 00052230L18末喜、紂姐己寵愛、一生酣飲而果失天下。此等皆待楽裏 00052240L19苦(28ウ)類也。又鬼問目連経、我受此身、常痴無知、 00052250M1何罪所致。答言、汝為人以酒施。今受業報、果在地獄。 00052260M2梅花一去無消息。亦有春風、喚得帰。去諸法実相、不生 00052270M3不滅、不&生不&滅、而行因縁、業亦不失、■之思之。 00052280M4俗云、昔尭帝累千觴、則其仁伝万古。孔子傾百■、則其 00052290M5徳隘四海。杜康造酒。魏武帝歌云、何以解憂、惟有杜康。 00052300M6酒汝向所謂失天下、亡身者酒也。此事如何。仏五時説 00052310M7畢、涅槃経遺穂説云、涅槃諄トモ云、誠哉此言。僧教化 00052320M8諦聴&&也。既未曽有経、制五戒云、若有飲酒悦心 00052330M9生善、飲不犯戒。(29オ)能忍仏不妄語、飲歌、不如眼前 00052340M10一酔。是非憂楽、都両忘見。鰥寡孤独者、稼穡之艱難、 00052350M11紡績之辛苦、得酒一盃、時人境倶忘、歓喜大咲而作掃愁 00052360M12箒。尋花入山、求月臨江、是何人。陸氏云、方我吸 00052370M13酒時、江山入胸中、三千世界在于爰、実人間極楽城乎。 00052380M14僧云、汝如猩々酔能言、狒&叨笑人。誦文不解理。 00052390M15生善者飲無過。汝生平修善有何事乎。釈氏要覧、律引 00052400M16云、酒有二種、一穀所成、二木酒、即草根果作者、人倶好 00052410M17飲之、犯卅六失。第一資財散失出。白居易三(29ウ)百人 00052420M18得扶助、纔室中糧不出卅人。余皆為詩酒費。中比武家 00052430M19悴者、飲超世。有時主伴腰脇指計也。刀如何人問、運 00052440¥P116 00052450L1在天、吾刀在質屋。闕事仕合哉。狂歌、 00052460L2△△住荒須上戸乃宿濃板屁 00052470L3△△△佐加毛利勝仁降時雨哉 00052480L4東坡招明月、到芳樽、酒材已遣門生致。無直身為人 00052490L5間行路難乎。 00052500L6俗云、福宿善果有、不可依才不才。震旦王■富有。又 00052510L7石季倫云有福者。二人共大酒。彼等長酒之余、春有百花、 00052520L8秋有月、夏有涼風、冬有雪。人間好時節撰風景之地、立 00052530L9柱掛戸帳。玉■紫糸布歩(30オ)障四十里張、季倫錦歩障五 00052540L10十里張。其中酒宴興尽。季倫住宅、椒蘭沈香類粉、壁塗。 00052550L11サルマゝ望門、薫渡。以蝋代薪、朝夕焼火。如是奢、 00052560L12比■倫、奢侈云ナレハ、飲貧不飲豊難云。玉屑、 00052570L13酌尽一杯酒、老夫顔亦紅。青醒様逢人空恥。無 00052580L14小無大、不好酒者非人、衰老霜供白、愁顔酒借紅、坡 00052590L15翁云ヘリ。非復三五少年日、把酒償春、頬生紅、山 00052600L16谷書。 00052610L17僧云、試金以火、試人以酒。古云、劉白堕飲賊酒、被 00052620L18擒、因名擒奸酒。故悪名伝万世。耻哉。四分律、飲酒 00052630L19挙(30ウ)十過失。中身壊命終、堕三悪道云&。愚人夏 00052640M1虫飛入火、智人秋鹿泣入山。無作空死、後必有悔。 00052650M2俗云、僧家号般若蕩、専用之何事。曇橘州蜀英也。性嗜 00052660M3酒、諸方謂之酒曇。或芭蕉泉禅師以杖荷大酒瓢、往来山 00052670M4中。馬祖、黄壁皆愛酒、而無一点執気。馬子才、請君 00052680M5酔我一斗酒、紅光入面春風和戯、蘇氏、酒以紅為 00052690M6貴誉、老年枯槁栄衛乏身、憎可飲物。功名富貴到頭 00052700M7如夢、因物興懐、何如対清風明月、飲酒自和。 00052710M8僧云、人無遠慮、必有近憂。歓楽極(31オ)兮哀晴多。諺今 00052720M9甘蔗後鼻蔗也。涅槃経云、酒為不善諸悪根本、若能除断、 00052730M10則遠衆罪云&。又正法念処経云、若人以酒与戒人、若 00052740M11寂静人、寂滅心人、禅定楽者、濁乱彼人、堕叫喚獄。 00052750M12俗云、随衆生欲、種々説法、不可限一隅。昔日聞、分別 00052760M13功徳論云、祇園有比丘、病経六年。優波梨往問所須、答、 00052770M14唯思酒。優波梨曰、待我問仏。遂至園問仏。有比丘、 00052780M15病思酒為薬。不審可否。仏言、我所制法、除病苦 00052790M16者。優波梨復徃。索酒令歓。病尋平復。重為説法、得 00052800M17羅漢果。仏讃優波梨、汝問此事、使比丘病(31ウ)■。又 00052810M18使得道云&。大聖尺迦令得以酒為薬、飲者剰得羅 00052820M19漢果、使優波梨得道。以此思、酒功甚莫大於焉。静 00052830¥P117 00052840L1案理、賎貧漁父行状、家&晒網、牽船、破笠鶉衣、矮 00052850L2屋茅店、行酒既酔事願、道逢麹車、口流涎。恐明朝 00052860L3雨天者、忽解簔衣。当思深切。淵明図、謝幼槃、田家 00052870L4酒熟夜扣門、頭上自有漉酒巾。老農時問桑麻長。提 00052880L5壷提■来相親、一樽径酔北窓臥、蕭然自謂羲皇上 00052890L6人、件晋陶酔漢、生涯米穀一石瓶入置、以為四時楽。又 00052900L7弾無弦之琴、消憂呼之為第一達磨。 00052910L8僧云、梵網古(32オ)迹、耽酒放逸、後必有悔。失自正念、 00052920L9違本心、故作不応作、言不応言、無悪不造云&。 00052930L10己迷利根、背聖賢義、孰若懐石入淵。 00052940L11俗云、学一篇、不兼二道、同片闇。如来蔵中酒之徳極夥、 00052950L12而不可勝計。上四王天有天漿、名日花酒。下須弥山北、 00052960L13巨海底有阿脩羅界。彼阿脩羅採四天下菓、■四大海、 00052970L14飲之猶不足、故飜阿脩羅、曰無酒。去尽乾坤一時変、 00052980L15作酔乾坤、則沙門無処措手足。李白意在酒、則所見 00052990L16無非酒。漢水皆葡萄、塁麹蘗、高台皆糟丘、白之胸襟亦 00053000L17大矣。又題邀月亭曰、挙(32ウ)酒勧明月、聴我歌 00053010L18声発、馬子才興酒、一曲対物乎。叫口荷肩、暁夜棹 00053020L19舟。道路雖別、好酒一般也。 00053030M1僧莞爾云、金言逆耳、行有理。仏子勝鬘末法中有持 00053040M2戒、如市中虎云&。梵網経、若自身手渡酒器飲酒 00053050M3者、五百世無手。何况自飲乎。麁茶淡飯飽即休。如何迷 00053060M4一且味、作舌根罪。樽前被勧酔、迷闇必矣。 00053070M5俗云、諸悪莫作、衆善奉行、七仏通戒也。其禁可有浅 00053080M6深。殺盗淫妄性戒過重。飲酒遮戒過軽。譬漢土法令因 00053090M7罪多少、如有笞枝徒流死五誅。重過上重過(33オ)可飲。 00053100M8酒軽罪万歳千秋。順風挙帆。五湖大浪如銀山、満船載 00053110M9酒、槌皷過、異曲同工哉。八月九月人苦長夜、臨酒 00053120M10宴者不覚漏声迭移。莫謂秋宵唯為一人長。子瞻云、 00053130M11洞簫声断月明中、惟憂月落酒盃空。又宜四時者酒也。春 00053140M12者花亭我酔送残春、夏者酌竹葉酒掃暑迎涼、秋者林間 00053150M13煖酒焼紅葉、冬者数盃温酎雪中春吟心懐、郭弘為漢帝 00053160M14寵愛、帝問云、欲封卿郡邑、何地好。弘好飲。対日、 00053170M15若封酒泉郡、実出望外。果封酒泉郡。郭弘上戸故望(33 00053180M16ウ)足、成酒泉郡主。宝禄千槌一手柄哉。下戸徳被寵 00053190M17謨有乎。 00053200M18僧云、卅六失第二、現多疾病過出。雖有十種嘉名、以過為 00053210M19毒。実云酒損、云内損之類也。曹表抄、酒是為用薬、何飲 00053220¥P118 00053230L1酔成病。心法酒性喜升、気必随之。痰欝上、溺渋於下、 00053240L2肺受賊邪。加之宝鑑四、此尽不得已而用之。豈可持 00053250L3頼此薬日&飲酒乎。酒助火、生痰、傷肺気。 00053260L4俗云、夫五温仮和合身従来病器也。六因七情猶在下戸、必 00053270L5酒不事。医家酒禦風寒冷気、同号寸風離。史記、塩食 00053280L6肴之将、酒百薬之長書。(34オ)諺酒塩云、是君臣正義保 00053290L7世謂歟。酒辛能散、苦能下、甘居中而緩、淡利溺速下。 00053300L8又薬剤君臣佐使各借酒力播功能。如是無情草木土石 00053310L9懐酒恵。有情而不慕酒者劣木石。欧陽脩貯一壷、 00053320L10酔号酔翁、張旭挙三盃、妄伝草聖。此砌相客参度。 00053330L11僧云、沙弥戒経第四過失、強飲酒者増長殺害説。夫飲酒 00053340L12有初中後、初人飲酒、中度酒飲酒、終酒飲人。所謂軽 00053350L13次重三也。酔則濫殺無罪。智論云、一切宝中命為第一。諸 00053360L14罪中殺生為第一。諸善中殺生戒為第一云&。涅槃(34ウ)経 00053370L15云、須為心師、莫心為師。終日沈酔凌難難、止酔狂 00053380L16皆在自己一心。々一法如春野馬。持心不禁酒淳 00053390L17可堅。 00053400L18俗云、一朝之忿忘其身、殺人被殺事時中夭云モ、皆前世 00053410L19酬也。雑集論、明業有過去現在未来三義。順生業、順現業、 00053420M1順後業、弁此因縁。先罪招禍、因果経、欲知過去因、 00053430M2見其現在果、欲知未来、果見其現在因。以不了此義、故 00053440M3沈論廿五有、六趣四生■&。分明哉、不昧。因果善悪倶宿 00053450M4報難遁。爾唯酒過負事無謂。布袋和尚者、弥勒之化身、 00053460M5常於市中飲酒。(35オ)楚屈大夫者以独醒被放遂、宋蘇大 00053470M6夫者以不飲為不能。僧独醒而不飲則放遂之徒耶、不能之 00053480M7徒耶。 00053490M8僧云、弟子某甲無別解別行、且執尺迦之指南、如星如月 00053500M9守焉、所以者何。論智則義無不達、語断則習気無余、智断 00053510M10具足、能利世間、為世尊重。故曰、世尊彼金口正法念経云、 00053520M11於仏所生痴、壊世出世事、焼解脱如火、所謂酒一法也 00053530M12云&。智覚禅師云、若不誡飲酒、永断智恵種。 00053540M13俗云、順僧指南、可飲酒、打飜烏有先生境界送。登七 00053550M14宝山、空手無益。(35ウ)入栴檀林採其葉何、斟佳酒 00053560M15飲数盃、如渡得船。及無清樽者、餔其糟、而■其■、 00053570M16勝余甘美。東坡、山城薄酒不堪飽、勧君且吸杯中月、 00053580M17天地中間有人、無不賞酒者。天若不愛酒、&星不在天、 00053590M18地若不愛酒、地応無酒泉、天地既愛酒、愛酒不耻天。 00053600M19李太白、不言乎。晋劉伯倫作酒徳頌、其辞云、枕麹籍 00053610¥P119 00053620L1糟、無思無慮、其楽陶&。唐白楽天、作酒功讃、酒徳 00053630L2頌次之。略云、吾嘗終日不食、終夜不寝、以思無益。不 00053640L3如且飲ト。云モ果、十徳衣禅門、踈忽罷出、拙者観(36 00053650L4オ)音参次而、人群集何事立寄、鎮性聞居、僧イツモノ 00053660L5長談義、在家酒■、足膝痺キレ、鼻ノモトハ物ホ 00053670L6シ棹ノ一節ヲ謡、声セネド頭ヲ皷ノ打ツ様ニ、目ノ舞振ノ 00053680L7ヲカシサヨ。私ハ非下戸、上戸ニテ無シ。狂哥ヲ申テ無事 00053690L8之媒トセンノミ。 00053700L9△△目出屋那下戸濃立多類倉毛南之 00053710L10△△△上戸能倉裳立和勢禰土毛 00053720L11僧欺キ咲テ、歌ノ内ニ有上戸贔屓、閇口セヨ。件ノ者、 00053730L12怕日場ニ指出タル事、越度ナル哉ト赤面シテ、錣係 00053740L13処、又霞苧一閑人出云、僧憤有道。自無筋事申。試ニ伺 00053750L14ハントテ、(36ウ) 00053760L15△△世中爾酒飲人和見天楚与幾 00053770L16△△△得飲奴人裳仁具之登和見須 00053780L17僧、止忿。俗略咲。互問訊、欲退。時俗、向沙門尋居 00053790L18処。僧、予正路山無欲坊也。汝何如何者。俗云、名 00053800L19字寐起、名楽兵衛。聞人咄笑ツテ立去ヌ。(37オ) 00053810¥N2¥J 00053820¥X 00053830M1△尊氏将軍五世の孫/義政(よしまさ)公の御時、洛中洛外酒を禁じ給 00053840M2ふ事あり。万阿弥とて/同朋(どうほう)のさふらひしが、いかゞして/呑(のミ) 00053850M3たるやらん、つらもどこも赤漆にてぬりたる風情なるが、 00053860M4御前に/跪(ひさまつき)たり。大樹御覧しつけられ、をのれハ酒をくら 00053870M5ふたつらぞやと仰あれハ、いやあまりさむきまゝ、罷出さ 00053880M6まに、たき火にあたりて御座ると。さあらばこゝへうせよ、 00053890M7かいて見んとあり。是非なふて参りたれハ、かくれかない、 00053900M8/熟(じゆく)し(38オ)くさいはと御諚の時、万阿弥、さやうなる義も 00053910M9御座候べし、柿の木をたき、火にあたり参らせたほどにと。 00053920¥N3¥J 00053930¥X 00053940M10△伊勢参の坂/向(むか)ひに出たる者、内にかへり、むねをなて、 00053950M11ひたいをとらへ、あらくるし+と、時すぐるまでかなし 00053960M12がるを、/利口(りこう)なるむすこあり、てゝハそれほとくるしいさ 00053970M13けを、よいころにのミもせてと申けれは、目を見いたし、 00053980M14をのれはこざかしくなにをしりかほに、此ゑいのさめん 00053990M15が(38ウ)くるしやといふてあそふよ。〔1〕 00054000¥N4¥J 00054010¥X 00054020M16△/乱舞(らんふ)時過る酒/盛(もり)に、正躰なく/呑酔(のミゑい)たるもの、/憖(なましひ)に家に 00054030M17帰らんと思ひ、たどる+あゆミけるが、ころしもしハす 00054040M18寒のまへ、雪も霜も白妙なる水堀のありしをわたりかゝり、 00054050M19ひたものふミまよひ、ふかき処に入ぬ。やう+くびぎハ 00054060¥P120 00054070L1ばかりなる水におぼれなから、ねふりゐたれば、氷身をと 00054080L2ぢてもしらず。やとにハ人皆帰りたるニ、なにとて遅ぞや 00054090L3と、あたりの/者(もの)までもよほし、(39オ)行て見れハ、堀のか 00054100L4たへに人のあたまのミゆる。立より氷をうちわり、/言(ことハ)をか 00054110L5けけれバ、件の客人、たそ、夜もあけぬに/門(かと)をたゝくは、 00054120L6いなやつといふ。 00054130¥N5¥J 00054140¥X 00054150L7△主君たる人の酒につよきあり。機嫌のよき時小姓に、 00054160L8われをば世上に/上戸(しやうご)といふか。いや、さやうには申さぬ。 00054170L9下戸といふかや。いや、其さたも御座ない。すいした+、 00054180L10中戸といふらふ。いや、さ申うハさもおりない。さて、なに 00054190L11と云そや。唯世上(39ウ)には、そこしらすしやと申と。〔2〕 00054200¥N6¥J 00054210¥X 00054220L12△年の内の立春に、目出たしとて、奉公の衆各出仕をと 00054230L13げけり。即/飯器(はんき)を盃に出し、これにて一つつゝのおとをり 00054240L14とさだむ。古老の人二盃うくる。それはなにとてと、とが 00054250L15められ、畏て候、 00054260L16△△年のうちに春はきにけり一とせを 00054270L17△△△去年とやいひわんことしとやいひわん 00054280L18と吟じて、時の興をぞもよほしける(40オ) 00054290¥N7¥J 00054300¥X 00054310L19△花のもとにかへらん事をわするゝも、かすミの内の酒 00054320M1ゆへや、たつミあがりの夕/雲雀(ひはり)、てうしちがひにうたひま 00054330M2ふ、あまの羽衣きにあへる、友どちなれバ盃の、かたふく 00054340M3かずも時うつり、ことさりかねて夜をふかし、あけの日も 00054350M4なをいねてゐる、これをいふかや二日ゑひと、七つ八つな 00054360M5るむすこあり。おやハなにとて身をしられぬ。せめて一日 00054370M6よハれかしと。親腹をたて、二日とゑひとのあひだ句をき 00054380M7り、ふつか、よいといふ事(40ウ)なるものを。 00054390¥N8¥J 00054400¥X 00054410M8△ふるまひの席にて、けふのていしゆハ/生得(しやうとく)/下戸(げこ)也、酒 00054420M9を三返のうへはしいぬぞ、油断するなと、おなじ心の友ミ 00054430M10な目まぜをせし。三返めに亭主出、いかほど参りたるぞと 00054440M11とふ時、態気にかけさせんとおもひ、はや四献とをりたる 00054450M12といふ。我等ハ稲荷を/信仰(しんがう)のものなり、めてたふ/銚(てう)子をと 00054460M13れやといふ。いなりを信したまハゞ、今一献とをされよ。 00054470M14なにとて。いなり/殿(どの)ハ四献&と(41オ)いはるゝほどに。〔3〕 00054480¥N9¥J 00054490¥X 00054500M15△上戸たる人のうへにハ、四返めの大事といふあり。伝 00054510M16へずんばしるべからず。祝言、無祝言、酒三返とをるハさ 00054520M17だまれる例也。又四返の/境目(さかいめ)をこせは、五返ハいふにをよ 00054530M18ハず。されバ座敷毎の/時宜(じぎ)に、はや三返とをりたる、銚子 00054540M19をとりたまへといふハよのつねそや。亭主/器用(きよう)にて、てう 00054550¥P121 00054560L1しを出す時、客ハ目をふさぎ、手をあわせ、いやはや正躰 00054570L2がおりない、中&にといひてかまハぬがよし。(41ウ)給仕 00054580L3大なる盃をとりてつぐべし。それもしらぬふりよし。大か 00054590L4た七八分もつきたらんと思ふ時分、これハ+といひ+ 00054600L5盃に手をかけよ。はやお手がかゝつたといふ。是非におよ 00054610L6バぬふりにうけとれば、とてもの事に十分につげといはん。 00054620L7これを四返めの大事、相伝とぞ。 00054630¥N10¥J 00054640¥X 00054650L8△酒にゑひて帰り、いねたるてい、敷居に肩を置、あた 00054660L9まを下にさげたり。才覚なる子が見つけ、さて/血(ち)がさがら 00054670L10ん物をとおもひ、枕をとりよせ、かしら(42オ)をあげ、よ 00054680L11きになをしをきたれバ、目をさまし、これはなにものゝし 00054690L12けるぞや、身の内大略ハゑふたれども、あたまがいまたゑ 00054700L13ハぬほどに、酒を能めぐらさんと、態まくらさがりにねて 00054710L14ゐるものをと、しかりけり。 00054720¥N11¥J 00054730¥X 00054740L15△朝食のうへに、初献にハかさにてとをし、二返にハ中 00054750L16の椀、三返には汁のわんにてもらせたり。四返めにははな 00054760L17やかに飯の椀にてつがせんと、たくみすまして、銚子を先 00054770L18に出し、跡より(42ウ)ていしゆ出て、時宜をいはんとおも 00054780L19ふ間、とくはや飯のわんにてこぼるゝばかりうけたれハ、 00054790M1亭主いわん事なきまゝ、さて、かよひ盃てよう御ざらふ物 00054800M2をと。〔4〕 00054810¥N12¥J 00054820¥X 00054830M3△きとしたる人のもとへまいる/度(たひ)、酒を給ハるに、如何 00054840M4にもかろく七分計つぐ/酌取(しやくとり)あり。/理(り)のすまぬ事に思ひたく 00054850M5み、ある時、/朽(くち)たる木をつゝみ、上にきやら弐両と書て、 00054860M6彼給仕に持参しける。あけて見、大に腹立し、にくい(43 00054870M7オ)やつかな。あいつに今度からせうやうがあるとたくミ、 00054880M8盃にこほるゝほどづゝもりけり。 00054890M9△にくまれてとくをしたるたくミ、あたらしゝ。 00054900¥N13¥J 00054910¥X 00054920M10△東堂へ参れバ必盃出ける。しやくをする小僧、つゐに 00054930M11酒を十分につぐ事なし。ある暮方、方丈にまいる。あんの 00054940M12ことく酒あり。例にならつて小僧六七分もりたり。/客(きやく)/遺恨(いこん) 00054950M13を散せんと盃をもちてたち、/燭台(しよくたい)のもとにさしあげ、ちり 00054960M14が御座あるげなと明鏡にうかがふ。東堂見(43ウ)給ひ、や 00054970M15れ、半分あるハとしからるゝ時、実にいつもかるう御座あ 00054980M16るがと。 00054990¥N14¥J 00055000¥X 00055010M17△薬さへすぐれは毒となるいわれあり。まして酒の/性(しやう)は 00055020M18/熱(ねつ)たり。そちのやうに大盃をもつて数をつくさハ、いかで 00055030M19か/脾胃(ひい)のそんせぬ事あらん。急度/誓文(せいもん)をし、盃をさだめよ 00055040¥P122 00055050L1と/教訓(きやうくん)すれば、さらハひやしる椀て、三盃つゝのまんと/誓(ちかい) 00055060L2せしが、三日も過さるに、飯後の酒出る。私にはひやをく 00055070L3たされよと所望す。則/冷(ひや)酒出しけれは、(44オ)汁の椀にて、 00055080L4うけ+三盃つゞけてのミたり。興さめかほし、人&あし 00055090L5くいふに、我れハ神文すこしもそむかず、ひやと汁との/句(く) 00055100L6を切、ひや、しるわんで三盃のまふと申たハ。 00055110¥N15¥J 00055120¥X 00055130L7△酒なかはに亭主出、此返をハ右てより候ハんといふ。 00055140L8ともかくもとて、/飯器(はんき)にうくる時、それは左てハおりない 00055150L9か。中&こなたからハ左、そなたからは右なり。亭主より 00055160L10のさしづなれば、客はおほせのまゝにうくると。(44ウ) 00055170¥N16¥J 00055180¥X 00055190L11△小/機嫌(きげん)のよき折節、さんげ物がたりをしけるが、ひとり 00055200L12いふやう、此五躰をつくる神にても仏にてもあれ、あつら 00055210L13へたい事があるハ。なにたる/望(のそミ)ぞや。さればよ、上&の酒 00055220L14をのむ時、しつかにかミくだき、吟味せんとたくめど、いか 00055230L15にも口へいれば、そのまゝのどへざうさもなくはしりこむ、 00055240L16あまりに残多し、/鶴頚(つるくび)のやうにつくりてもちたいと。〔5〕 00055250¥N17¥J 00055260¥X 00055270L17△酒をのむも時によりてたゝると、たゝらぬと(45オ)あ 00055280L18るといふハ、まことかと人のとふに、さる事も有へし、さ 00055290L19りなから/粥(かゆ)をくふて酒をのめば/酢(す)になるといふ、大なるう 00055300M1そ、/素麪(さうめん)をくふて酒をのまねば虫になるといふ、実の中の 00055310M2実とこそ。 00055320¥N18¥J 00055330¥X 00055340M3△なにとか思ひたちけん、一期酒のむまいと神文し、廿 00055350M4日計後、しきりにのまんといふ。女房、こは/勿躰(もつたい)なし、/天命(てんめい) 00055360M5をバいかゞと/教訓(けうくん)しけるに、いや神明は人の心を見ぬいて、 00055370M6何としたりと(45ウ)えこらへまい、やがてのミたからふ物 00055380M7をと、とくからしろしめされ、けつく大/慈(ぢ)大悲の御むねな 00055390M8れバ、一つのませたいとこそおほしめされんすれ。 00055400¥N19¥J 00055410¥X 00055420M9△神無月の/半(なかば)、木の葉のちるも時雨めきて、空さむげな 00055430M10る時しも、さかやの亭主立/体(やす)らひ、/門(かと)のほとりを見ゐたれ 00055440M11ハ、/廿(はたち)ばかりなる/下(げ)臈一人/走(はしり)来り、さかはやしのもとによ 00055450M12り、たゝ一重きたるもめん帯をとき、手に持、うへにけう 00055460M13か、したにけうか、下にけうか、上にけうかとひとりごと 00055470M14を(46オ)いひしが、わざくれ、したにきよやといふまゝ、 00055480M15内へいり、酒にかへ、よきかんにあつらへ、/腹(はら)一はいのミ、 00055490M16はだかにて出ゆきし。△△ゑひさめてハなにとあらふ。 00055500M17/裸(はだか)の/次(つゐて)に、/雄(ゆう)長老の裸でおハせし処へ、客来りけれは、私 00055510M18は母/者(ぢや)もの/手織(てをり)のまゝ罷居候とありし。此手織のたけはゞ 00055520M19こそ、大なる苦/労(らう)にて出来候へ。されは■利天にのほり、 00055530¥P123 00055540L1/安居(あんご)の法とて、/父母恩重経(ぶもおんちうきやう)を/説(とき)給ふ。母に(46ウ)十/恩(おん)ある 00055550L2中に、/回乾(くわいかん)/就湿(ぢゆしつ)の恩といふあり。 00055560L3△△子をはごくむは親の/憐(あわれミ) 00055570L4とある前句に、 00055580L5△△/狭莚(さむしろ)のぬれたる/方(かた)に身をよせて 00055590L6物の理しらずんバあるべからず。 00055600¥N20¥J 00055610¥X 00055620L7△山中山城方へ/紹巴(じやうハ)のおとづれられし時、振舞有て、ひ 00055630L8たもの諸白をしゐて、前に見えつる天目にてと有ける時、 00055640L9△△なら酒や此天目に二つ三つ(47オ) 00055650L10△△△のめと仰せあらはとにもかくにも 00055660¥N21¥J 00055670¥X 00055680L11△寺僧廿人ばかりある寺を一/堂(たう)/請用(しうよう)の時、住持/触(ふれ)をまハ 00055690L12し、方丈によせ、/衆僧(しゆそう)皆上戸也、明朝のざしきハれがまし、 00055700L13大/器(き)にてめい+ひかへば、事見くるしからん、びんほう 00055710L14/鬮(くぢ)をとらせ、せめて一人は下戸分にせんハいかん。尤と同 00055720L15じ、長老の/侍者(じしや)鬮をとりあたれり。酒ハ唯二返なる条、始 00055730L16より/汁器(じゆうき)と/衆義(しゆぎ)/相約(あいやく)せり。彼侍者ふと汁の椀を取上けるが、 00055740L17やれ我れハ下戸分やと(47ウ)/肝(きも)をつぶし、盃をうつむけ、 00055750L18いとぞこにてうけさまに、長老のかたを見けれは、目を見 00055760L19出さるゝ。あつといふて本のごとくもちなをし、たぶ+ 00055770M1とうけたり。帰山の後しからるゝ時、私ハ/兼日(けんぢつ)の法度のこ 00055780M2とく、小盃にと取上候へば、御目もと違候まゝ、扨は上戸 00055790M3なミに御ゆるし候やと存ぢて。〔6〕 00055800¥N22¥J 00055810¥X 00055820M4△酒といへば見るもいやとおもふ下戸ゐたり。亭主、は 00055830M5れなる客にても、三返の上銚子を出し(48オ)たるためしな 00055840M6し。其内証をしりたる故、衆中にふるまいのある時、亭出、 00055850M7中酒なんべんとをり候やとうかゞふ。三返とをりしを、ち 00055860M8と気にかけてか、返をかさねんとおもひ、ハや四返とをり 00055870M9て候と申人あり。亭、それハ一返過た、さらばお湯を参ら 00055880M10せよとぞいふたる。 00055890¥N23¥J 00055900¥X 00055910M11△飯後の酒三返とをりて亭主出、今度は中でうけさせら 00055920M12れよといふ+、さかなとりに立たる間に、上座の客人、 00055930M13四つめを左へなをしをきぬ。(48ウ)/銚子(てうし)をもちていでたる 00055940M14に、すなわち飯/器(き)をさし出しうくる。亭主、それハといへ 00055950M15ば、かさと汁とをゆびざし、なかでと仰候まゝ、/斟酌(しんしやく)なし 00055960M16にうけ参らすると。△△あいた客人とこなたハ申さん。 00055970¥N24¥J 00055980¥X 00055990M17△大名の気に入、あなたこなたと振舞にハづれず、供し 00056000M18ありく者あり。人、そなたハ浦山しやなどいひければ、其 00056010M19事なり、殿ゆへに/活計(くわつけい)はかたのごとくするが、されども上 00056020¥P124 00056030L1戸をきらひなるまゝ、下戸のまねするにくたびれたと。 00056040L2(49オ)〔7〕 00056050¥N25¥J 00056060¥X 00056070L3△/師走(しハす)の十日比、一条の/辻(つじ)に、大ざけにゑひ、/余念(よねん)もな 00056080L4くいねてゐる者あり。又其日鳥羽より用をとゝのへにのほ 00056090L5りたる男あり。これもちくとゑふたるが、かれを見付、そ 00056100L6ちの在所ハいつくととふに、/舌(した)まハらず、わけもなきこハ 00056110L7つきにて、あまがさきといふやうなり。/不便(ふびん)なるかなと車 00056120L8にのせ、鳥羽につれゆき、/便船(びんせん)をたつねのせてやりぬ。彼 00056130L9者を旅人のやどに舟よりあけをく。酔さめ、是ハ何事そ、 00056140L10我れハ京の(49ウ)六条にて、あまがさきやといふ者にてこ 00056150L11そ候へと、あきれたゝずむ。件の意趣をかたりきかするに 00056160L12ぞ/肝(きも)をつぶし、中&にて、/船賃(ふなちん)/旅篭(はたご)の/営(いとなミ)にだうふくを/沽却(こきやく) 00056170L13し、/恥(はつ)かしきさまにて宿に帰りつるも一笑。(50オ)〔8〕 00056180¥T2人はそだち 00056190¥N1¥J 00056200¥X 00056210L16△/東(あつま)の/奥(おく)より都にのぼりたる人あり。さる古寺に立寄、 00056220L17/院主(ゐんしゆ)に/参会(さんくわい)し、物語など時過けるまゝ、菓子持出て小性を 00056230L18よび、いかにもお茶をもミぢにたてよとありしを、客なに 00056240L19たる子細にやととふ。たゞ、こうようにといふ事也と。あ 00056250M1なおもしろのことの葉やとおほえつゝ、本国に帰り、態ち 00056260M2かづきの友をよび、ふるまい、かねてより小性にいひおし 00056270M3へ、お茶をもミぢにたて(51オ)申せとあり。人&さすがに 00056280M4此度上洛のしるしありとかんじ、事のおもむきをうかゞひ 00056290M5たれハ、こくよくたて申せといふ事だよと。 00056300M6△△あながちのその人のとがにハあらず、物毎たゝ国の風による。〔1〕 00056310¥N2¥J 00056320¥X 00056330M7△客を得たり。とりあへずふるまいに/源氏(げんじ)のお汁をせよ 00056340M8とこそいひつけけれ。めづらしき汁をくふべきやうにまち 00056350M9ゐたれバ、ゆふがほの汁也。こハなにのゆへに源氏の御汁 00056360M10とはいふぞや。源氏にハゆふがほのまきあれバなり。(51 00056370M11ウ)これこそやすきもてなしとあんじ、宿にかへりて後、 00056380M12ふと客を見かけ、めしを申せ、お汁にハ源氏をせよとあり。 00056390M13汁の出くるまでまちえず、なにものを源氏の御汁とハいふ 00056400M14ぞととハれ、ふくべの汁のことよ。 00056410M15△△夕/顔(かほ)の/棚(たな)の下なるゆふすゝミ 00056420M16△△△男ハてゝら/妻(め)はふた/め((ママ))して 00056430M17てゝらハ/膝(ひざ)だけあるきるものなり。ふた/め((ママ))とハゆぐのみし 00056440M18かきをいふとや。(52オ) 00056450¥N3¥J 00056460¥X 00056470M19△山中に殿あり。国なかにて、さもとらしき/武家(ぶけ)より/嫂(よめ) 00056480¥P125 00056490L1をよぶに、おつぼねの、中/居(い)の、おハしたのなどあり+ 00056500L2とともし、祝言の事すめり。二日三日たてども、/終(つゐ)に/行水(ぎやうすい) 00056510L3とも/風呂(ふろ)とも/沙汰(さた)せず。物まかなへる/形部(げうふ)左衛門といふを 00056520L4よび出し、御つほね、ちと御/洗足(せんそく)をお出しあれと申されし 00056530L5かば、形部、かしこまり候、其由申きけんとて/座(ざ)を立、年 00056540L6寄衆に、皆よられよ、つほねよりおほせられ/分(ぶん)候とふれた 00056550L7り。何事ぞとあつまり(52ウ)たる座にて、/別(へち)の事になし、 00056560L8お洗足といふ物を出せとなり、此返事いかゝせんと談合さ 00056570L9ま+なりしあげくに、一のおとないひけるやう、一/乱(らん)に 00056580L10うせたと申されよ。此義天下一の/思案(しあん)といつて、つほねへ、 00056590L11御洗足を出せと候へども、一乱にうせて御座ないと。つぼね 00056600L12きゝもあへず、あゝけうこつやと申されけり。形部けうこつ 00056610L13といふも聞しらねば、又むつかしき事やと思ひ、いや、けう 00056620L14こつもおせんそくと一度に(53オ)うせておりないと。〔2〕 00056630¥N4¥J 00056640¥X 00056650L15△人里とをき寺あり。手/習(なら)ふとて少人あつまりゐる。比 00056660L16ハ秋の始、たそかれ時のさびしきに、/雁金(かりかね)のわたる声きこ 00056670L17ゆ。ハしり出かぞへミれハ、かす六つそありける。哥よむ 00056680L18人の子息、 00056690L19△△空よりもむつかり声の聞ゆるは 00056700M1△△△雲の上にもなけきもやある 00056710M2其座の人&/感(かん)じあへり。又あけのひる、鴈五つつれてわた 00056720M3る。土民の子、昨日ほめれらし(53ウ)方をうらやミおもひ、 00056730M4△△空よりもごきかり声の聞ゆるは 00056740M5△△△雲の上にも汁事やある 00056750¥N5¥J 00056760¥X 00056770M6△小者をかたらひて若衆にもち、/懐(いだ)きていねたるに、/小= 00056780M7夜半(さ=よなか)の比、から+と/笑(わら)ふ。法師、なに事ぞ、今つきもな 00056790M8い時のわらひやといふ。されは我/木綿(もめん)/布子(ぬのこ)をしたてんと、 00056800M9うらおもてをはもちてあり。綿のいれんがなきを思ひいだ 00056810M10したれば、おかしいと申た。(54オ) 00056820¥N6¥J 00056830¥X 00056840M11△山中の者里に出て、振舞に/素麺(そうめん)あり。見始なれば名を 00056850M12しらず。給仕せんさんひんに汁をもちつぐ時、此お名はな 00056860M13にと申ぞととふに、せんさんびんとこたふ。其後ハ彼男、 00056870M14さうめんを見るたび、せんさんびんのもてなどいひけり。 00056880¥N7¥J 00056890¥X 00056900M15△とろゝ汁の出たるを、座敷に古人ありて、けふのこと 00056910M16づて汁ハいつにまさり、一しほ出来たるなどいひほむる。 00056920M17これはめつらしき言葉やと(54ウ)其子細をとふ。されはよ、 00056930M18此汁にては、いかほども飯がすゝむゆへ、いひやるとのゑ 00056940M19んに、ことづて汁といふならん。聞えたる/作意(さくい)やと感じ、 00056950¥P126 00056960L1やがてとろゝをとゝのへ、客をよぶに、ことづてをとハれ、 00056970L2おだいやるとぞ申ける。〔3〕 00056980¥N8¥J 00056990¥X 00057000L3△つの国の内/小妻(こづま)といふ処ハ、/海辺(かいへん)にて/漁人(ぎよじん)/多(おゝく)すめり。 00057010L4いづくよりとなく大鷹一もとそれて来り、畠にゐるをとら 00057020L5へ、宿に帰り、大なるかごに入てをきけり。廿はかりなる 00057030L6惣領の子が、(55オ)なにをがな鷹のゑどにせう、やれとい 00057040L7ふを親聞て、ゑどとハなんぞや、どこぞしらうとのやうに 00057050L8としかる。なにといふが/能(よき)ぞととふ。鷹のをはらうまいと 00057060L9いふがよい。 00057070¥N9¥J 00057080¥X 00057090L10△和泉の/境(さかい)車の町に、/商(あき)人/禅門(ぜんもん)になりたるありしが、貴 00057100L11人のさしたまへる刀/脇指(わきさし)にても、/上臈(しやうらう)若衆の小袖、おび、 00057110L12はかまにても、見るほどの物に代をさし、ねをつくる事、 00057120L13/天然(てんねん)かれがすき也き。時にあたり、あさましかりしかバ、 00057130L14(55ウ)/常(つね)に/崇敬(そうけう)せし/東堂(とうだう)あり。そちにをしへん大事あり、 00057140L15きかんや。中+と申時、/自今(じこん)/以後(いご)物のねをさすべからす 00057150L16とあれば、手ヲ合おがミ+、さても忝/御意(ぎよい)に候、唯今の 00057160L17御/言葉(ことばゝ)ハ百貫仕らふと存ずる。〔4〕 00057170¥N10¥J 00057180¥X 00057190L18△山の一院に/児(ちご)三人あり。一人ハ/公家(くげ)にておハせし。坊 00057200L19主、/年(とし)に二度物/思(おもふ)ふといふ題を出せり。 00057210M1△△はるは花あきは紅葉のちるをミて 00057220M2△△△年に二度物おもふかな(56オ) 00057230M3一人の小児ハ侍にてありし。よるは二度物思といふ題なり。 00057240M4△△/宵(よひ)ハ待あかつき人のかへるさに 00057250M5△△△夜ハ二度物思ふかな 00057260M6いまひとりの児ハ/中方(ちうハう)の子也。月に二度物思といふ題にて、 00057270MM△△大師講地蔵講にもよハれねハ 00057280M8△△△月に二たひ物思ふかな〔5〕 00057290¥N11¥J 00057300¥X 00057310M9△京にてある武士と見えたるが、人らしく馬に(56ウ)の 00057320M10りとをるに、坪の内より鞠をけいだしたれハ、中間肝をつ 00057330M11ぶし、/餓鬼(がつき)め、覚えたるそといふまゝ、鑓をなおしつかん 00057340M12としけり。主見て、やれ、誰が/扶持(ふち)人やらしらぬに、けが 00057350M13をするなと。 00057360¥N12¥J 00057370¥X 00057380M14△手ならふ小姓四五人あり。坊主、けふハ雨の内物さび 00057390M15しきに、中絶てといふ題にて、こしおれを案ぜよとあれは、 00057400M16哥道を心がくる人の子、 00057410M17△△梅ハ過桜ハをそし中絶て 00057420M18△△△花めつらしき二月のすゑ(57オ) 00057430M19喝食のありしが、 00057440¥P127 00057450L1△△/釈迦(しやか)ハ過/弥勒(ミろく)はをそし中絶て 00057460L2△△△聞そまれなる法の一声 00057470L3農夫の子、 00057480L4△△/早稲(わせ)ハ過/晩稲(おくて)はをそし中絶て 00057490L5△△△米めつらしき七月のころ 00057500¥N13¥J 00057510¥X 00057520L6△商人の子を寺に/置(おき)たれば、毎朝とく/机(つくへ)にかゝり、いで、 00057530L7みせださふやれといふ。師の坊主聞かね、寺林にゐるハな 00057540L8にの用そ、蓬生(57ウ)麻間ためざるになをしと、よき 00057550L9をまなび、あしきをなをさんためにあらすやと、つらを一 00057560L10つハりけり。ほうをかゝへ、あら、あさあふせがわるいよ、 00057570L11しかも米かミをくハせたハと。 00057580¥N14¥J 00057590¥X 00057600L12△/少(せう)人あつまりゐて、い文字ぐさりをかきけるに、/菊千= 00057610L13代(きくち=よ)丸、いかきとよみあはする。/後見(こうけん)の法師少納言いひなを 00057620L14し、いがきの事の、おもしろくかゝれたりと/感(かん)じけるに、 00057630L15菊千代、/爰(こゝ)な少納言殿ハ、/味噌(ミそ)こすいかきをさへえしらい 00057640L16で(58オ)と。△△うたてや、つらにひが。 00057650¥N15¥J 00057660¥X 00057670L17△住吉ときく松原に△△ときは文月七夕や 00057680L18あふせうれしき宮参△△をのつからなる手向草 00057690L19そめかたびらのいろこがれ△△花やかなりし少人たち 00057700M1やすらふかげも物ふかく△△しるもしらぬも浦の浪 00057710M2心をよせてたちきけハ△△あなあさましやくちなハを 00057720M3一つ見つけていひけるやう△△うなぎにしたらば五十せう 00057730M4かまほこならバ大板か△△五枚あらふとほどをさした 00057740M5(58ウ) 00057750¥N16¥J 00057760¥X 00057770M6△しやくをする者、酒をほかとこぼしたれハ、亭主、其 00057780M7給仕ハ此ほどのはいでにて候ゆへ、/聊爾(れうじ)を仕て候とあれば、 00057790M8かのしやく、ちくと手をつき、我らはいでゞハ御座ない、 00057800M9/伯父(おぢ)の馬にのりて参りたと申けり。 00057810¥N17¥J 00057820¥X 00057830M10△大和の/傍(かたハら)に/十市(とをち)殿とて大名ありしが、世におちぶれ、 00057840M11吉野のにじつかうにおハせしとき、あたりの者共をふるま 00057850M12ハんとふれらるゝやう、此いく+かに、たれ+女中と 00057860M13もにわたり候へ(59オ)となり。山がつのよりあひ、女中と 00057870M14ハ/御器(ごき)の事なるべし、/牢(らう)人にてましませバ、わんなどもあ 00057880M15るまじ、てんでにもちてゆけやといひつゝ、御器をわたし 00057890M16さまに、これは我等がはげ女中+と申てさし出した。 00057900M17△△二人静に、にしづかうといふ正字を弁ぜす、いろ+に書たるあり。 00057910M18△△彼滝の東にある村を/東川(うのがう)といひ、/西(にし)にある在所を/西川(にじつかう)といひ、如此書 00057920M19△△なり。〔6〕 00057930¥P128 00057940¥N18¥J 00057950¥X 00057960L1△堂前にふりたる松一木あり。老僧少人にたハふれ、あ 00057970L2の松は/男(を)松であらふか、/妻(め)松て(59ウ)あらふかしれぬよ。 00057980L3哥よみの子息出、/妻(め)松にてあらん、月のさハりになるほど 00057990L4に。土民の子、いや/男(を)松にうすだ、あれほど松ふぐりのあ 00058000L5るものを。 00058010L6△△△△天のはしたてにて△△雄長老 00058020L7△△橋立の松のふくりも入海の 00058030L8△△△波もてぬらす文珠しりかな〔7〕 00058040¥N19¥J 00058050¥X 00058060L9△あきんどのもちたる子を見て、これのむすこは、こと 00058070L10しいくつぞや。親のいひける、あれは(60オ)そらね十三と 00058080L11いふて、定のね十二ぢやと。 00058090¥N20¥J 00058100¥X 00058110L12△たそかれ時に、なにのをともしらず、ハた+となる。 00058120L13哥よむ人の子息ハ、たゝく/水鶏(くひな)の声にやあらん。侍の子息 00058130L14たりしハ、物の具の音ならんと。農人の子ハ、麦うつをと 00058140L15であらふずと。 00058150L16△△五月雨にかたつき麦をほしかねて 00058160L17△△△宇治の里人/宵(よひ)ねをそする〔8〕 00058170¥N21¥J 00058180¥X 00058190L18△山ふかくすむびんぼう人、くになかへ出けるが、折ふ 00058200L19し宿に客あり。/麺子(めんす)をふるまふに行あひ、(60ウ)人なミ 00058210M1+に膳をすハりても、更に合点ゆかねバくふへきやう/忙= 00058220M2然(はう=せん)たり。唯座上を見あハする計なりし。再進をもる人にむ 00058230M3かひ、此お名はなにと申ぞととふ。給仕我等か名をたつぬ 00058240M4るとおもひ、弥二郎とこたふ。すでに山にかへり、にたる 00058250M5友とぞかたりける。今度弥二郎といふ物をくふたハ。めつ 00058260M6らしき事やとうらやミて過しが、件の者ども二、三人つれ 00058270M7だち、ある市に出、さうめんをほして置たるを見つけ、あ 00058280M8れよ+、(61オ)なま弥二郎かあるハ、ゆで弥二郎にして 00058290M9くわせたひなと。 00058300¥N22¥J 00058310¥X 00058320M10△ぬしやのむすこ、手を書ならひて執筆をするあり。祈 00058330M11祷連歌よりもどりたるを、貴人のかたよりよび出し、会席 00058340M12なと/趣(おもむき)をたつねたまへるに、誰ハ十ぐ、それな八ぐとかた 00058350M13り、又其名はしらす、内あかの小袖きたる人、五ぐ出され 00058360M14てありつるうちを、三ぐハよしとてとめられ、二ぐハあし 00058370M15きとてもどされたと。(61ウ) 00058380¥N23¥J 00058390¥X 00058400M16△/質屋(しちや)の/娘(むすめ)/嫂(よめ)入し、夫婦のなかもよかりしが、かりそめ 00058410M17の事をも、九&のことばをはなさすつかふ。たまさかなる 00058420M18客のまへにても、とかく九&にて物をいふ。せんかたもな 00058430M19きはつかしさに、かのをんなをばさりてげり。妻家をわか 00058440¥P129 00058450L1れ行にも、猶おさなきよりいひまなびたれは、三四十二で 00058460L2よめいりし、四四十六で子をまうけ、四五廿にてさらるゝ 00058470L3よと。 00058480L4△△四四ならハ十六つれて行へきに(62オ) 00058490L5△△△九九にもるゝか独走るは 00058500L6△△あだはなは二九の十八さゝげかな 00058510¥N24¥J 00058520¥X 00058530L7△/聟(むこ)入して、よろこびの盃かずめくりたるに、/祖父(おほぢ)出合、 00058540L8/初対面(しよたいめん)の時、むこのいふやう、なにと下戸にて候やといひ 00058550L9けるに、しうと、親である人ハ、かたかすにもゑハれ参ら 00058560L10すると。 00058570¥N25¥J 00058580¥X 00058590L11△手ならふ子どもあまた候に、坊主ひるねの床より、雨 00058600L12ハふるかふらぬかととふ時、/田夫(てんぶ)のむすこ見ていふ、こぬ 00058610L13か雨がふり参らすると。坊主むくと(62ウ)おき、小雨とも 00058620L14きりあめともいハず、こぬか雨ハくせ事やと、立なから腹を 00058630L15一つふミけり。あらいたや、ミなしバらを、くはせられた。 00058640L16△△我ならて此ふる雨に誰かこん 00058650L17△△△たそとハ人をふりて待かは 00058660L18雨のつゐてに、/恵心(ゑしん)の/僧都(そうづ)、坂本にて/法談(ほうだん)ありつるに、一 00058670L19時かきくもり、大雨ふりしきり、かり屋の板間あらくもり、 00058680M1/聴衆(てうじゆ)立さハぎぬるを見給ひて、(63オ) 00058690M2△△昔より/伝(つたへ)てきくも今見るも 00058700M3△△△もり屋ハ法のさハりなりけり 00058710M4かく詠し給ふに、/虚空(こくう)に声ありて、 00058720M5△△もる雨にぬれても法をふかくきけ 00058730M6△△△雲も涙を惜まさりけり 00058740¥N26¥J 00058750¥X 00058760M7△山/家(が)に候むこが市に出、/用(よう)をとゝのへ、日のくれてよ 00058770M8り、しうとのもとにたちよる。しうと、まづせんそくを参 00058780M9らせよとあれバ、せんそくを夕めしの事とがてんし、此方 00058790M10にてはやとく、せんそくいたゐ(63オ)たと。さらバあんど 00058800M11うをまいらせよといふ。/是(これ)もあんどうをしらねば、くひも 00058810M12のの事やと思ひ、これはかゝるお/時宜(じぎ)、あんどうをたまハ 00058820M13るほとならハ、せんそくをこそたべうすれと。 00058830M14△△油つきあんどんげなる光哉△△春可〔9〕 00058840¥N27¥J 00058850¥X 00058860M15△やねふきいかゞしたりけん、ふミはづしておちたり。 00058870M16目をまハし、たちまちしぬる/気(き)しよくなるまゝ、人+ふ 00058880M17びんがり、あいすを酒にてあたゑんとよういすれは、かの 00058890M18ふきし、いきのしたよりいふやう、(64オ)酒はしやうとく 00058900M19/下戸(げこ)なり、一口ものとへいり候ハす、たゞ、めしでならハ、 00058910¥P130 00058920L1のミたふ御ざあると。 00058930¥N28¥J 00058940¥X 00058950L2△其身の分によりてハ、はぢかハしき人の、ある時てい 00058960L3しゆ七つ八つなるむすこをよんて、はながミをこひけるに、 00058970L4かれ、庭にゆき、わらを一すぢとりて来る。親、それがい 00058980L5る物かと目をしけれは、がてん+、客人はながミの事の、 00058990L6それならはなんどにあると。△△下主の文づかひや 00059000¥N29¥J 00059010¥X 00059020L7△堺にて故薬師院といふ/医者(いしや)あり。客に対し(64ウ)べく 00059030L8盃を出せり。院主/興(けう)をもよほし、此盃の名をミつからたハ 00059040L9ふれに夏菊とつけてこそ候へ、其故ハ、しもにをかれねば 00059050L10なりとかたられしを、其座にありし者、事の外にかんじ、 00059060L11他席にてはなすやう、へく盃を夏菊とは、げにもなり、し 00059070L12たにをかれぬ程に。 00059080¥N30¥J 00059090¥X 00059100L13△ある人、ときやに行てあそびゐたれは、亭主、彦二郎 00059110L14+とよふ。おつといふて出たるにむかい、おもひきや 00059120L15+といふ。心へ候とて、ちいさき/砥(といし)を(65オ)一つもちて 00059130L16きたる。こはめづらしのあいさつやとかんじ、其いしゆを 00059140L17尋ぬれは、 00059150L18△△おもひきやしぢのはしかきかきつめて 00059160L19△△△百夜もおなしまろねせんとは 00059170M1ともよめり。その言の葉のならいを、はし+かたりし時、 00059180M2聞たる人おもしろくおぼえ、内にかへり、客あるみぎり、 00059190M3小刀をもちゐて、つねにいひをしへたる小者、竹若よ、お 00059200M4もひきや+といひしかば、おつとこたへ、よこづちを一 00059210M5つもちて(65オ)出たり。これハととふに、此外になにもお 00059220M6もい木はおりないと。 00059230¥N31¥J 00059240¥X 00059250M7△/飯後(はんご)の湯出たるに、風味ことにかうバしく、大にすぐ 00059260M8るゝなどほめけるを、ねうばう聞つけ、うれしげに、のう 00059270M9れんのひまよりかほさし出し、お湯のかうばしきもことハ 00059280M10りや、たき物をくべたほどにと。座にゐたるミな+も耳 00059290M11にしミてそかんじける。中に一人うらやミかへり、/妻(つま)にか 00059300M12たれば、それしきの事をは(66オ)たれもいふべき物をとあ 00059310M13ざわらひぬ。ある時、知音をよびならべ、飯の湯を以前の 00059320M14やうにとゝのへ出し、人&、かうばしやとほめる時、ねう 00059330M15ばうはゞからす、お湯はかうばしからふ、/柴(しは)を三束くべた 00059340M16程にと。〔10〕 00059350¥N32¥J 00059360¥X 00059370M17△/腰(こし)もとにつかハるゝおさなきが、あやまちに硯箱をふ 00059380M18ミわりたり。おつとのきつくしからるゝとき、あるじ出て、 00059390M19やさしや、硯箱なればぞ、ふミかいたれとありしを、其座 00059400¥P131 00059410L1にきゝたるおとこ、(66ウ)かゝる花奢なる事やあらんと、 00059420L2わか/妻(つま)にかたるに、いつにても、それほどのことばのえん 00059430L3はあらん物をと、かろ+しげにいひつるが、わざとにて 00059440L4ハなくて、/天然(てんねん)のけがに、我か子硯箱をふミわりてげり。 00059450L5父にらミける時、女房、やさしや、硯箱なりやこそ、ふん 00059460L6ぎやあたれと。 00059470¥N33¥J 00059480¥X 00059490L7△しか+人中へ出たる事もなき十四五なる小性、給仕 00059500L8をするに、金作の/脇指(わきさし)さしたる人/計(はかり)へ、しげく茶をはこび 00059510L9て、余の方へ目も見か(67オ)けす。末座の人、かれが心を 00059520L10/推(すい)し、我か脇指を一二寸ぬき、そこな若衆、此/■(はゝき)にも茶を 00059530L11ちとのませあれと。〔11〕 00059540¥N34¥J 00059550¥X 00059560L12△犬をすき、/飼(かふ)者あり。名をよんで、/鳴子(なるこ)の露といふ。 00059570L13なにたる子細に、かくいふぞと、人のとふ事あれば、月に 00059580L14も/闇(やミ)にも、ほへかゝるまゝつけたり。/陸乃奥(ミちのく)の人ありてき 00059590L15ゝ、おもしろやと吟し、我犬を鳴子の露とよぶ。其故をと 00059600L16へば、よく人にほさかゝり申ハと。(67ウ) 00059610¥N35¥J 00059620¥X 00059630L17△山に児三人あり。師の坊、/難題(なんだい)を出し、哥よませける。 00059640L18小児には△△△/摺糊木(すりこぎ) 00059650L19△△宇治川の橋の柱のしけけれは 00059660M1△△△すりこきとをる槙の島舟 00059670M2中児にハ△△△/菜糂(なミそう)くらふ 00059680M3△△/湖(にほ|(ママ))の/海(うミ)なミそふ月の影ミれは 00059690M4△△△/今宵(こよい)そ秋の最中也ける 00059700M5大児にハ△△△藤花(68オ) 00059710M6△△あらこハや藤の花くふだうがめが 00059720M7△△△あこか尻をもくじりたがるは 00059730¥N36¥J 00059740¥X 00059750M8△下京にかう+風呂とてありし。此名ハなにの子細に 00059760M9よぶそやと/不審(ふしん)しけり。さる事有、ふかうにおよばぬとい 00059770M10ふ事なりとかたれは、おもしろき事におもひゐたりしが、 00059780M11さる処にて、この風呂のいハれいかゝなどいふを聞て、そ 00059790M12れこそしりたる者がない。ふくにおよばぬと申されし。 00059800M13(68ウ) 00059810¥N37¥J 00059820¥X 00059830M14△大名のもとに能あり。人あまた見物に行。内ハつまり、 00059840M15/高壁(たかへい)のそとに居て、はやしの音計きく。ひるの過に芝居へ 00059850M16くはる/饅頭(まんちう)の、外へおちたり。山ふかき/奥(おく)にすむ者ども見 00059860M17つけ、是はいな物や、唯今/生(むま)れたげで、あたゝかな、天人 00059870M18の玉子であらふす、さらばあたゝめて、かいをわらせうと 00059880M19て、/綿(わた)につゝミ/懐(ふところ)にもちありく。日をかさぬれば/青(あをく)なるま 00059890¥P132 00059900L1ま、天人の玉子でハない、むくりこくりが玉子(69オ)にて 00059910L2あらふず、かいをわらぬ先にころせと、かりまたにて、を 00059920L3それ+/射(い)きりたり。さればこそ申さぬか、中にくろちの 00059930L4かたまりが候ハ。 00059940¥N38¥J 00059950¥X 00059960L5△年の比八つ計なる小者、冬日の朝いかにも寒につかう 00059970L6まつるゆへん、なか+と下より上へひたもの云て通る。 00059980L7心ある人不審に思、今の者の行とまる処をつけてミせけれ 00059990L8ハ、鎌田屋徳庵宿に入て不出。 00060000¥N39¥J 00060010¥X 00060020L9△野人春のあたゝかなるにおもひたち、山家に(69ウ)行。 00060030L10道に桜の花/莟(つほミ)てありしを、老人杖にたすけられたるが、や 00060040L11すミゐたるにとふ。是はなにといふ木ぞや。桜の木といふ 00060050L12とをしゆるついで、ひものやにつかふなるかばとは、此木 00060060L13の/皮(かハ)ぞとよ、世にある人ハおもしろがりて、此木をもてあ 00060070L14そび、哥によミ、連哥にくふうめさるゝなり。哥とは何事 00060080L15ぞ。されバとよ、五文字七文字に言葉をつゞけ、卅一字に 00060090L16心のいろをあらハすなどゝ、ところまだら(70オ)いひきか 00060100L17せけれは、得こらへぬ物かたりやと、/領掌(りやうじやう)のふりにて別れ 00060110L18しが、五六日も過、山より里にかへる時、ミれは花ミな咲 00060120L19みだれたり。こゝこそ申ところよと、 00060130M1△△いきしなにつぼふだ花がきしなにハ 00060140M2△△△ゑじかつたりや桶とぢの花 00060150¥N40¥J 00060160¥X 00060170M3△関東より/会上(ゑげ)僧の上り、京にすまれしが、ある町人と 00060180M4/会合(くわいかう)す。振舞過て/碁(ご)始まれり。僧の俗にむかひ、いざ+ 00060190M5よつてごろじ(70ウ)らうと申さるゝ。/俗(そく)少も合点ゆかぬふ 00060200M6りなれハ、見らうといふ事だ。それも猶心得ぬていなれば、 00060210M7汝/愚(おろか)なるかな、目前の境界にてあるハと。(71オ) 00060220¥Q1 00060230M11元和元年の比、安楽庵咄を所望いたし、承候へハ別而おも 00060240M12しろく存るに付て、御書あつめ候て、草子にいたし給候や 00060250M13うにと申候処、一両年過、八冊に調給候。紛失可仕かと存、 00060260M14奥に書付置也。 00060270M16△寛永五年 00060280M17△△△△△三月十七日△△△重宗(71ウ) 00060290¥P133 00060300¥Y1醒睡笑巻之六目録 00060310L3児の噂 00060320L4若道不知 00060330L5恋のミち 00060340L6悋気 00060350L7詮ない秘密 00060360L8推ハちがふた 00060370L9うそつき(1オ) 00060380¥T1醒睡海巻之六 00060390¥T2児の噂 00060400¥N1¥J 00060410¥X 00060420M5△叡山/西塔(さいたう)に児達よりあひて、おもひ+の物かたり、 00060430M6時うつりしに、ひとりかいへるハ、この/若(にやく)道といふ事ハ、 00060440M7むかしたれかたくみ出したるそやと、さもうらめしさうに 00060450M8とハれけるを、此道は高野の大師/弘法(こうほう)といふ人、これの御 00060460M9影堂に/殊勝(しゆせう)かほしてゐらるゝ/坊主(はうす)の、唐まてありきまハり、 00060470M10かやうの/難義(なんき)を仕出されたるとかたる者(2オ)あり。中 00060480M11+にくやと思ひしが、ある朝院主も同宿も留守なりしに、 00060490M12小法師か児をよひて、此お仏/餉(しやう)をお大師へ参らせたまへと 00060500M13をしゆる時、彼児もちてゆき、かあ、これくふて、まつと 00060510M14なんそたくめと。 00060520¥N2¥J 00060530¥X 00060540M15△ふるまひの/菜(さい)に、/茗荷(めうか)のさしみありしを、人有て小児 00060550M16にむかひ、是をハいにしへよりいまにいたり、物よみおほ 00060560M17えむ事をたしなむほとの人はミな、どんごん草となづけ、 00060570M18物わすれするとてくはぬよし申たれは、児きいて、あこハ、 00060580M19それならく(2ウ)はふ、くふて、ひたるさわすれうと。 00060590¥P134 00060600L1[1] 00060610¥N3¥J 00060620L2△年の暮になれは、家内上下の/定器(でうぎ)ともを、/侍従(じじう)あつら 00060630L3へんといふをきいて、小児かたハらに侍従をまねき、いは 00060640L4れけるやう、あこがをバいかにも御器を木うすに、そこを 00060650L5くりてひろふあつらへてとたのまれけるに、いやそれハめ 00060660L6しをもりきりにする時よかるへし、此山のはいつれも+ 00060670L7/物相(もつさう)にて候へハ、うつハ物の大小にハよらす候と、つふさ 00060680L8にかたりけれハ、いやたゝわがいふことくあつらへたまへ。 00060690L9/自(し)(3オ)然、/粥(かゆ)といれぶつじ時があるハよのと。 00060700L10△△此児を代官にほしや。 00060710¥N4¥J 00060720¥X 00060730L11△尾州に/笠(かさ)寺の観音とて、人あまねくたうとめり。昔此 00060740L12寺に児あり。宗長参詣の砌、 00060750L13△△児ミむとさしてきたれハ笠寺の 00060760L14△△△へやのすみにそひつすへてをく 00060770L15児すたれの内より、 00060780L16△△ひつす/べ((ママ))てひるはをけども/瀟湘(せうしやう)の 00060790L17△△△夜の雨にはひらく笠寺(3ウ)[2] 00060800¥N5¥J 00060810¥X 00060820L18△三伏のあつき日に、坊主他行の事あり。夏の夜ハよひ 00060830L19なから明やすき月のふけても、いまたもとられねハ、児ミ 00060840M1なくたひれ、おひもとくやとかずにいねたる所へ、老僧か 00060850M2へり来て、さて+爰な子たちかなりハ、其まゝすしをし 00060860M3たやうなハと申されける時、児の内にかしこきかおきあハ 00060870M4せ、いかほとのすしもみたれと、これほとハらにいひのな 00060880M5いすしをハ見た事かないと。[3] 00060890¥N6¥J 00060900¥X 00060910M6△大児と小児とひたひをよせあハせ、おかしき(4オ)物 00060920M7かたりしてあそはれけるついで、大児くちすさひに、餅ハ 00060930M8くふ時さねかなふておもしろひ物じやと有しを、いや、た 00060940M9ゝわれハ餅にさねかあれかしと思ふよ、うへてをきてなら 00060950M10せてくひたい。 00060960¥N7¥J 00060970¥X 00060980M11△八月十五夜の月にむかひ、坊主あまたあつまり、児も 00060990M12ましハり詠ゐけるに、大児、あれほとの餅をかゝへて、そ 00061000M13ろ+くハゝおもしろからふのとさゝやきける時、小児、 00061010M14されは、大さはあれほどでもよひが、あつさをしらぬと。 00061020M15(4ウ) 00061030M16月を題にて、雄長老、 00061040M17△△円かりしなりもかくるや天人の 00061050M18△△△夜毎にかふるもち月のハて[4] 00061060¥N8¥J 00061070¥X 00061080M19△今朝とくから北谷へ大児のよはれておはしたるか、春 00061090¥P135 00061100L1の日のなかきも、あそふ時にハみしかくおほゆるハつねの 00061110L2ならひ、夢ハかりに事さり、夕/陽(やう)西に入あひのなる比、わ 00061120L3かすむ坊にかへり、おきてミつ、ねてミつ、くるしさうに 00061130L4いたハられけるを、小児ミかね、そなたの/煩(わつらひ)はこゝちいか 00061140L5ゝある(5オ)ととハれし。たゝ、けふのもてなしの餅をく 00061150L6ひ過して、むねのやくるかくるしいといはれしを、われも 00061160L7ちと、そのるいくわにあふて見たいよと。 00061170L8△△余義もないのそみてすよ[5] 00061180¥N9¥J 00061190¥X 00061200L9△叡山の児も三井寺の児も、里にくたりゐられけるか、 00061210L10おり+出あひ、他事なかりし。山にすむハ三井をなつか 00061220L11しく、三井にすむハ山をゆかしく思ひゐたりしか、ある時 00061230L12たかひにさんけ物語するハ、山ハ朝一合半、夕一合半のけ 00061240L13きやう也と。(5ウ)三井ハ朝一合、ひる一合、夕一合なれ 00061250L14ば、同し事そやといふに、叡山の児、三井のをうら山しと 00061260L15いふ。いかなれバ、汁と湯とが徳になるほどに。 00061270L16汁のつゐでに、/鰒(ふくたう)といふうををとるにハ、必其/時節(じせつ)/約束(やくそく)あ 00061280L17り。夜そと雨ふりて、明がたに北風の吹たる朝、たくさん 00061290L18にあかる物といふ。夢庵の/境(さかひ)に御入ありつる時、浜辺に出 00061300L19入する者あり。折をたがへす参らせける。かくありつるに 00061310M1をそなハれば、読てつかハし給ふ。(6オ) 00061320M2△△夜の雨けさは北風ふくたうの 00061330M3△△△汁のをとつれせぬそあやしき 00061340¥N10¥J 00061350¥X 00061360M4△児、里へくたる宵に侍従を頼み、帋につゝミたる物を 00061370M5わたし、是ハ我か秘蔵なりと。手本候や、いつくしき/絵(ゑ)な 00061380M6どかや。いや、/白箸(しらハし)なり。それハ世にたくさむなる物に候、 00061390M7なにとてさやうに/重宝(てうほう)めさるゝそ。子細あり、此はしをす 00061400M8わりたる日、つゝけて五度物をくふたれハ、/嘉例(かれい)のよきに 00061410M9あつくるよし。(6ウ) 00061420¥N11¥J 00061430¥X 00061440M10△坊主餅を一つもちて出、二つにわり、児三人の中にて、 00061450M11しうくをいふてくハれよとあれは、小児、此餅ハ三日月て、 00061460M12かたハれあるよといひ、やかてとりけり。次の児、はや月 00061470M13は山の端に入よといひ、とりてけり。大児にむかひ、そな 00061480M14たは心なにとあるや。其事よ、月入てあとなれは、我か胸 00061490M15ハやミのやうなと。〔6〕 00061500¥N12¥J 00061510¥X 00061520M16△振舞のありし時、あふをまれとや、児大に食を過し、 00061530M17おきてゐるまてもかなハす、ひらに(7オ)ふしてうなりゐ 00061540M18けるを三位見つけ、食/胸(むね)になつんでくるしむにハ大根をお 00061550M19ろし、其汁をのめバ、むねくつろぐといふ。ちこに其よし 00061560¥P136 00061570L1いひふくめけれハ、近比よからん、さりなから、なにたる 00061580L2/薬(くすり)にてもあれ、口へいれんやうハなし、おろしてなりとも、 00061590L3そのまゝなりと、むねの上にをくれうけんをしてたび候へ 00061600L4と。 00061610¥N13¥J 00061620¥X 00061630L5△児を請じて、うたふつまふつすれども、/隣寮(りんりやう)の坊主を 00061640L6かつてよバず。腹立千万にてゐけるに、(7ウ)誰人のとり 00061650L7ハつしてやらん、そこつの音しけり。夜もあけハ児もかへ 00061660L8らんとこそおもひしに、さハなくゆる+ととゞめ、朝食 00061670L9のあけくに又さゝめきあへり。にくしとおもふ心やありけ 00061680L10ん、/隣(となり)よりよひかけ、お座敷へ申度事の候、法花経ニ云、 00061690L11/簫笛琴箜篌鐃銅跋(せうちやくきんくごうねうどうばつ)ハ音あつて/香(か)なし、/栴檀香沈水香多摩= 00061700L12羅跋(せんたんかうぢんすいかうたま=らバつ)香/多伽羅(たから)香ハ香あつて音なし、昨夜のおならハ香あり 00061710L13音あり。一段殊勝+。(8オ) 00061720L14△△△まちかけれともしらすかほなる 00061730L15△△秋を穂にこむる夏野の村薄△△△俊也 00061740¥N14¥J 00061750¥X 00061760L16△貧&たる坊主の、眠蔵より餅の半分あるをもちて児に 00061770L17さし出す。請取さまに、 00061780L18△△十五夜のかたハれ月ハいまた見ぬ 00061790L19とありしに、師の坊、 00061800M1△△△雲にかくれてこれはかりなり〔7〕 00061810¥N15¥J 00061820¥X 00061830M2△ふと人の来りて児にむかひ、法印ハいづくにわたり候 00061840M3ぞと尋ぬれハ、/護摩堂(こまだう)にかきして(8ウ)御座るハ。かきと 00061850M4は何事ぞ。経陀羅尼をよみてといふ事よ。それをバかんき 00061860M5んとこそいふ物なれ。あこもそれほとのことハしりたれと、 00061870M6ひもしさに、かんともきんとも/はれら((ママ))ぬハ。 00061880M7△△ひたるさと寒さと恋とくらふれバ 00061890M8△△△はつかしなからひたるさそます〔8〕 00061900¥N16¥J 00061910¥X 00061920M9△有時宗長、笠寺に参られし。坊中にたちよれは、児の 00061930M10ありしが、ちらと木のそらにのぼるを見つけ、(9オ) 00061940M11△△さる児と見るよりはやく木にのほる 00061950M12やがて児、 00061960M13△△△いぬのやうなる法師きたれバ 00061970¥N17¥J 00061980¥X 00061990M14△比叡山北谷持法坊に、児あまたあり。/冬(ふゆ)の/夜(よ)、/豆腐(とうふ)一 00062000M15二てうをもとめ、田楽にする。老僧いひ出されけるハ、を 00062010M16の+しうくをいふてくふべしと。大児やかて、われハ仏 00062020M17のつぶりと申さむ。ミくしとりてのく。又ひとりハ、八日 00062030M18の仏とて、やくしとりたり。後(9ウ)に小児、屏風のかげ 00062040M19より出るをミれば、髪をはつとみだし、たすきをかけ、左 00062050¥P137 00062060L1右の手にて目口をひろげ、われハ鬼也、ミなくわふと、あ 00062070L2りたけとりたれは、詮方なさに、坊主ハふるきてぬくひを 00062080L3頭にかふり、手を指出し、乞食に参りた、一つあておもら 00062090L4かしあれと。△△老僧のはたらき三国一。〔9〕 00062100¥N18¥J 00062110¥X 00062120L5△児よりあひのさんげに、大児は、虱かなく物ならハ、 00062130L6いかはかり人中にてハづかしからふか、せめ(10オ)てなか 00062140L7ぬで恥をかくすと。小児ハ、いや、われは虱をなかせたい、 00062150L8其間也と、くハれいて、くつろがう。 00062160L9△△唯ひねれそれこそそれよたゝひねれ 00062170L10△△△すハふのうらにわたかミはなし 00062180¥N19¥J 00062190¥X 00062200L11△/帥(そつ)が児により+くときけれハ、ともいへかくもいへ、 00062210L12いやなり、/所詮(しよせん)昔そちが児てありしを、わかとひかけたる 00062220L13に、なびかなむたゆへ、今そちかいふになびかぬならん、 00062230L14むくひの程をおもへとそ。是非なうて過しつるに、ある時 00062240L15彼児、人なしとや(10ウ)おほしけん、ちらとミそをちとな 00062250L16めたるを、/帥(そつ)か見つけて、一首、 00062260L17△△むかし味噌児をなめたるむくひにや 00062270L18△△△今又児になめらるゝミそ 00062280¥N20¥J 00062290¥X 00062300L19△弘法大師入唐の時、僧来て問、如何なるか、是しやう 00062310M1じ一大事。大師答云、味噌よ+。 00062320¥N21¥J 00062330¥X 00062340M2△△報てふ事かろからしもの 00062350M3△△蚊遣たく煙に賎の先出て 00062360M4△△月かくす山又雪にうづもれて 00062370¥N22¥J 00062380¥X 00062390M5△山門北谷に児あり。悪瘡のいたハりに、根(11オ)本中 00062400M6/堂(たう)へ参/篭(ろう)す。七日/満(まん)すれとも、あへてしるしなし。うち/恨(うらミ) 00062410M7て、下向に短冊を/内陣(ないじん)へなけいれまいらせたり。 00062420M8△△南無/薬師(やくし)/衆病悉除(しゆびやうしつぢよ)の/願(くハん)ならハ 00062430M9△△△身より仏の名こそをしけれ 00062440M10即内に御声ありて、 00062450M11△△村雨のふるとは見えてはれにけり 00062460M12△△△そのミのかさをそこにぬきをけ 00062470M13本坊にかへれハ瘡ミなあとなし。(11ウ) 00062480¥N23¥J 00062490¥X 00062500M14△人ありてとふ、児の年はいくつになり給ふそ。年はく 00062510M15しがきといへり。九四の十三ハきこゆ、扨、がきは。其事 00062520M16よ、いつも物がくひたらで、このやうにやせてゐるほどに。 00062530¥N24¥J 00062540¥X 00062550M17△七旬にあまる老僧、児のあまたある中にて、同宿ども 00062560M18に、此十日も廿日も一/向(かう)/食事(しよくじ)がすゝまぬ事よ、ひとへに是 00062570M19ハ年のより、/困衰(こんすい)のしるしにやとかたられけれは、大児申 00062580¥P138 00062590L1されたるこそめづらかなれ。今年ハや十八になれと、ひだ 00062600L2るさハ(12オ)またやまぬと。 00062610¥N25¥J 00062620¥X 00062630L3△大児をたれ人の/賞翫(しやうくハん)しけるにや、けしからぬ/活計(くハつけい)のあ 00062640L4りつると見え、いねてゐなから、あらくるしや+といふ 00062650L5を、小児、なにとて色もよく、無病さうにハあるが、さほ 00062660L6どにくるしいかや。唯食過て身が/熱(ねつ)するといへるにそ、け 00062670L7なりや、そのやうな煩ならハ、われもちと/持病(ぢびやう)にもちたい 00062680L8よ。〔10〕 00062690¥N26¥J 00062700¥X 00062710L9△大児の小児にむかひて、けふの腹ハいかやうに候やと 00062720L10とハれける。返事に、腹ハ大/皷(こ)ちやと。さても(12ウ)よき 00062730L11事や、うら山しやとありけれバ、いや、どうにかわがつい 00062740L12て候よと。〔11〕 00062750¥N27¥J 00062760¥X 00062770L13△児たまさかの里くだり△△ころしも秋のなかバとて 00062780L14民のかまどはにきはへる△△/煙(けふり)たつ田のもみをひき 00062790L15米をしろめてつきうすや△△誰もしるこの餅のをと 00062800L16きねの神/垣(かき)へたてなく△△なみゐて是を賞翫す 00062810L17/笑止(せうし)ハ児の餅にむせ△△目口をハたけ/悶(もだ)ゆれバ 00062820L18父母ハ/歎(なけき)に/沈(しつミ)つゝ△△せんかた涙なりつるに 00062830L19山伏かけでとをりあふ△△たのミて/祈念(きねん)(13オ)するほどに 00062840M1/栗(くり)ほと餅が/喉(のと)よりも△△ひよつといつれバいろなをり 00062850M2心安さに児のいふ△△とても行者の/奇特(きとく)ならバ 00062860M3いのり出せし其餅を△△ま一度いのり入給へ 00062870¥N28¥J 00062880¥X 00062890M4△大児、 00062900M5△△大そらにはゝかるほとのもちもかな 00062910M6△△△いける一/期(こ)にかふりくらハん 00062920M7小児、 00062930M8△△大そらにはゝからすとももちもかな(13ウ) 00062940M9△△△月のせいにてほしのかずほど 00062950¥N29¥J 00062960¥X 00062970M10△児のとまりにきて、夜ハやう+ふけゆけど、菓子を 00062980M11さへ出すよしもなけれハ、枕を取あけ、口にあて+しけ 00062990M12るを、そはなる者、それハなにといふ事そや。わさといハ 00063000M13ふて、/歯(ハ)に物をあてそむると。 00063010M14平清盛公、大塔再興ありて参詣の時、つゝがなき歯を一つ 00063020M15手つからぬき、/奥院(をくのゐん)に篭給ひ、 00063030M16△△高野山おろす嵐のこはくとも(14オ) 00063040M17△△△此はゝ残せ後の世のため〔12〕 00063050¥N30¥J 00063060¥X 00063070M18△山寺に児や法師まじハり、いろ+の物語する次で、 00063080M19正月ある事ハ五月かならすあるとなれハ、万をいはひもつ 00063090¥P139 00063100L1ゝしミもせん物そと、かたる人ありしに、児、さてハ正月 00063110L2ある事ハ五月もあるよなふ、あこハさうハおもハぬ、正月 00063120L3ハもちをさい+見もしくひもしたが、五月のけふハ廿八 00063130L4日になれど、餅とては一つも見ぬほどに。〔13〕 00063140¥N31¥J 00063150¥X 00063160L5△三位か/物相(もつさう)と児の/物相(もつさう)と、同/飯台(ハんだい)にすへならべ(14ウ) 00063170L6てをきたれハ、よく+/徒然(とぜん)のあまりにや、三位が飯をも 00063180L7とりてくハれけり。後三位来り食せんとするになし。これ 00063190L8ハ不思議也、別にくふべき人はなきにとせんさくしける時、 00063200L9児のいへるやう、汁かとおもふてそへてくふたはと。〔14〕 00063210¥N32¥J 00063220¥X 00063230L10△児ハいくつぞと人のとふあれバ、年ハ十三になれと、 00063240L11/御器(こき)ははしめからのしやと。 00063250¥N33¥J 00063260¥X 00063270L12△/斎(とき)の/座敷(ざしき)にて、三位、児の膳にちかより、ほしもなく 00063280L13と、むりに飯をたくさんにおまい(15オ)れと、/指南(しなん)しけれ 00063290L14ハ、児/箸(ハし)をもちながら、ひた物なく。そばにゐる児、なに 00063300L15とてさやうに候やとたつねしかば、めしをしいてくへとい 00063310L16ふほどになくと。三位が心つけにてハなきかや。いや、/非= 00063320L17時(ひ=じ)をくれまいといふ事であらふすと。 00063330¥N34¥J 00063340¥X 00063350L18△児といねたるに、法師口をすふとて、いかゝありけん、 00063360L19/歯(ハ)を一つすひぬきたり。/肝(きも)をつふし、/暇(いとま)こひまてもなく、 00063370M1にげてかへり、しつかに火をとほし見れは、/麦飯(むきいひ)にてそ候 00063380M2ける。△△ぶたしなミなお児のありさまや。(15ウ) 00063390¥N35¥J 00063400¥X 00063410M3△大児と小児とのまへにて、小児の年ハいくつそや。あ 00063420M4こハミをづくしといふ。しほらしのこたへや、源氏によそ 00063430M5へ十四よの。さて大児ハいくつぞやととハれ、われハさゝ 00063440M6げちや。それハ何事そ。ことし十八なるといハれた。 00063450¥N36¥J 00063460¥X 00063470M7△児にかくして坊主餅をやき、二つにわけ、両の手にも 00063480M8ち食せんとする処へ、人の/足音(あしをと)するを聞、たゝみのへりを 00063490M9あげ、あハてゝ半分をかくすに、はや、児見つけたり。坊 00063500M10主/赤面(せきめん)しながら、(16オ)今程のありさまを、おもしろく哥 00063510M11によみたらハ、ふるまハんといふに、 00063520M12△△山寺のたゝみのへりハ雲なれや 00063530M13△△△かたハれ月の入をかくして 00063540¥N37¥J 00063550¥X 00063560M14△ひえの山へ侍の子と、/鍋(なへ)屋の子と/登(とう)山し、一つ寺に児 00063570M15となりて居たり。或時/煎豆(いりまめ)を/菓子(くハし)に出したるが、よくいり 00063580M16たるとなまいりなるとましりたりし。坊主、おもしろき出 00063590M17来様なり、是を一首宛/案(あん)ぜよとあるに、侍の子息、(16ウ) 00063600M18△△奥山にかりはの鹿はおほくして 00063610M19△△△いられたもありいられぬもあり 00063620¥P140 00063630L1鍋屋のむすこ、 00063640L2△△このほとはあつらへなべのおほくして 00063650L3△△△いられたもありいられぬもあり 00063660¥N38¥J 00063670¥X 00063680L4△三井の寺にて、/鶴千代(つるちよ)といふ児、三位にむき、となり 00063690L5の松若殿ハあのやうに、そこ+にて歌をよまるゝ、けな 00063700L6りや、如何様にもしなむをうけて、そとは此道をこゝろえ 00063710L7たき事やなど(17オ)かたれるを、しんせつにおもひ、さら 00063720L8ハ其時のゑんにより、いふてしほらしき句ををしへ申さん、 00063730L9まづ、あひたや恋しやと思ひ給ふ人にあふた折にハ、 00063740L10△△まちかねぬるに今そ嬉しき 00063750L11又花なと見て帰り給ハんときハ、 00063760L12△△いのちにかへておしきわかれち 00063770L13又かたりたやとおもふ人にわかるゝ時は、 00063780L14△△たゝいつまてもあかぬものかな 00063790L15鶴千代これをならひすましておほえゐたるが、(17ウ)正月 00063800L16の祝ひに、はれなる座敷へかんをすゆるに、人よりはやく 00063810L17/箸(ハし)を取あけゝる。三位にらめハ、 00063820L18△△まちかねぬるに今ぞ/嬉(うれ)しき 00063830L19といへり。又/芋(いも)をあしつけの上へおとし、はさみかぬるを 00063840M1見、三位にらめハ、 00063850M2△△いのちにかへておしき物かな 00063860M3又、膳にミな+/箸(ハし)ををきたるに、鶴千代計/遅(おそく)くをかるゝ 00063870M4を、三位にらめハ、 00063880M5△△たゝいつまてもあかぬ物かな(18オ) 00063890M6と。さても色をかへて、其折其時にあふやうにとこそ/指南(しなん) 00063900M7したりしを、かりそめ、すハりたる一膳の始中終につくさ 00063910M8れし。無興+。 00063920¥N39¥J 00063930¥X 00063940M9△ある座敷にて、児のとろゝ/汁(しる)の再進をひた物うけらる 00063950M10ゝ時、三位目をひき、にらミけれハ、児、あこにさのミ/科(とが) 00063960M11ハないぞや、唯とろゝをにらめ。〔15〕 00063970¥N40¥J 00063980¥X 00063990M12△老僧、小僧、児、若衆いひあハせて、/随(ずい)意/講(かう)のまハし 00064000M13はじまれり。ある席にて、児、汁/椀(わん)に酒をうけられたり。 00064010M14後見の法師目をきつと(18ウ)見出しけれは、/児(ちこ)、/顔(かほ)をおさ 00064020M15へ、南無三宝、随意講はやふれたよ。〔16〕 00064030¥N41¥J 00064040¥X 00064050M16△大児のいへるやう、あの三上山か/飯(めし)ならは何とあらふ 00064060M17のとありしに、小児/端的(たんてき)の返答に、水海かとろゝ汁ならハ 00064070M18ねらハれもせんやと。〔17〕 00064080¥N42¥J 00064090¥X 00064100M19△ある法師のもとより、二人おハしてあそバるる児のも 00064110¥P141 00064120L1とへ、/座禅大豆(さぜんまめ)を少をくりたりし事あり。大児嬉しげに手 00064130L2を出し、ハゞからすつかまんとしけるを、小児ちやくと手 00064140L3をとらへ、その(19オ)やうにふとくしんな/風情(ふせい)、/影(かげ)より人 00064150L4の見る目をもかへり見たまへとて、/箸(ハし)を二膳とりきたり、 00064160L5一膳をわたし、大児/役(やく)にそなたハ二つぶつゝおまいれ、我 00064170L6れハ小児役に一つふつゝ給ハらんといふ。はさむに、大児 00064180L7ハともすれハはさみはづし、小児の矢さきはづれす、ほし 00064190L8り+とあたりし事よ。 00064200¥N43¥J 00064210¥X 00064220L9△延暦寺にて下法師山へ行時、児にいふ、/昼(ひる)の/飯(めし)をハ/棚(たな) 00064230L10にをきたり、九つなりてあらハ、まいれとをしへぬ。/彼下= 00064240L11僧(かのけ=そう)、/案(あん)の外常よりはやく、/昼(ひる)(19ウ)/以前(いせん)にしまひてかへり 00064250L12ミれハ、児の飯なし。是ハ/不審(ふしん)やととふ。とくハやくふた 00064260L13と返事せらる。いまた九つはならす、いかてかと申せハ、 00064270L14いや、けさ五つ、さきに四つうちたれは、九つなつたほど 00064280L15に、それにくふたハと。〔18〕 00064290¥N44¥J 00064300¥X 00064310L16△大児と小児とふたりゐて、菓子に出たるくし/柿(かき)を/賞翫(しやうくハん) 00064320L17あるに、大児のハ/数(かす)すくなく、小児のハおほし。大児、同 00064330L18し様にくふ/柿(かき)の、そなたのはなにとてはかゞゆく、我れか 00064340L19ハいかなれハ数がすく(20オ)なきぞや。小児の返事に、そ 00064350M1なたのハ/欲(よく)かきれぬゆへに/遅(をそ)し、我ハ無/欲(よく)なる/侭(まゝ)はかゞゆ 00064360M2くとあり。大児/重(かさね)て、欲とハなんそ。小児をしへていへる 00064370M3やう、柿にハ/核(さね)といふくせ物ありて、きにげをせんとする、 00064380M4それにかまい、とかくする間、/費(ついへ)あり、其/欲(よく)をさへきらせ 00064390M5ハ、かならず物数をくふ徳あり。 00064400¥N45¥J 00064410¥X 00064420M6△ある時児、/茗荷(めうか)のあへ物をひた物食せらるゝ。中将見 00064430M7て、それハ/周梨盤特(しゆりハんどく)か塚より生じて/鈍根草(とんこんさう)といへは、/学問(がくもん) 00064440M8なと心かくる人のくふへき(20ウ)事にてはなしといましめ 00064450M9ける時、児、中+のことや、是ハ鈍になり、物をわする 00064460M10ゝ草よのふ、たたしうそであらふ、其子細ハ、三年跡にこ 00064470M11のことくあへたるミやうかをくふてあつたが、今にそのう 00064480M12まさをバわすれぬほどに、くふたかましよと。 00064490¥N46¥J 00064500¥X 00064510M13△山の大坊に猪の子の餅をつく。あまり人おほし。児た 00064520M14ちハねていらるゝあたまに、一つつゝをきてとをれと、三 00064530M15位が下知するを、小児聞つけ、そのまゝ居なをり、あたま 00064540M16をしたになし、/尻(しり)(21オ)を立てゐけり。餅くバる者そこつ 00064550M17にさぐり、二つ/置(をき)てとをりぬ。 00064560M18△△じきにせばしゝにやならん猪の子餅 00064570¥N47¥J 00064580¥X 00064590M19△児を請して、/夜衣(よき)にあたらしきかミの/衾(ふすま)を出しきせぬ 00064600¥P142 00064610L1るまゝ、児のよめる、 00064620L2△△おそろしや思ふ中をもさけつへし 00064630L3△△△夜のふすまのなるかミの音 00064640¥N48¥J 00064650¥X 00064660L4△貧&と世をふる僧の、思ひに/堪(たへ)かね、児を請じ、/大唐(たいとう) 00064670L5米の/飯(いひ)を出せり。是ハめつらしき物やなどゝ(21ウ)ほむる 00064680L6人もありけり。亭坊のいはるゝやう、せめての御/馳走(ちそう)に、 00064690L7米をそめさせたるとあれば、彼児/箸(はし)をもちなをし、さうか 00064700L8して大唐めしのやうなと。 00064710¥N49¥J 00064720¥X 00064730L9△まことわびしき親をもちたる児のありつるを、/小師(こじ)の 00064740L10坊あはれミて、是のお児ハおいとしやな、里か/無力(ふりよく)なれハ、 00064750L11ちともはれかましき事といふにハ、なにかかりめされぬ物 00064760L12ハない、おぬしの物とては唯一いろある、しじ計しやのと 00064770L13いひける(22オ)時、いや、それも人か見てハ、お児のしじ 00064780L14にハころ過た、そなたのでハあるまいといふほとに、あこ 00064790L15か物とおもはぬと。 00064800¥N50¥J 00064810¥X 00064820L16△/豆腐(とうふ)二三でうを田楽にせしか、人おほなり。いさむつ 00064830L17かしき三字はねたる事をいひてくハんと義せり。/雲林院(うんりんゐん)、 00064840L18/根元丹(こんけんたん)、せんさんびん、さま+いひつゝとりてミなにな 00064850L19るまゝ、小児たへかねて、/茶(ちや)うすんといひさまに、二つ三 00064860M1つとり事ハ。(22ウ) 00064870¥N51¥J 00064880¥X 00064890M2△児を/呼(よび)て、伽の人なとあつめ、振舞を出し、酒もりの 00064900M3後、余に酔いねふる間に、児ハかへりて見えす。夜明て彼 00064910M4亭坊より児へ、 00064920M5△△待宵の更行まゝのねふたさに 00064930M6△△△児のかへるさしりもせぬかな 00064940M7児より返歌、 00064950M8△△帰るさをしられぬ事の嬉しさよ 00064960M9△△△しりしられては物うかるへし 00064970¥N52¥J 00064980¥X 00064990M10△児の膳にかうの物のあるを、脇に居たる僧(23オ)とり 00065000M11てくふ。児、我か/秘蔵(ひさう)におもふて/置(おき)たるをといはるゝ時、 00065010M12彼坊主、一つハ御/膳(せん)に候と存ずれは、何とやなつかしさに、 00065020M13又ハつねのよりもよくなるか/面白(おもしろ)さにと申たり。児ハらを 00065030M14たて、なるかおもしろくハ、/鉄炮(てつほう)をくハれよと。(23ウ) 00065040M15〔19〕 00065050¥T2若道不知 00065060¥N1¥J 00065070¥X 00065080M18△久松といふ子を山寺にのほせをきたり。親見/舞(まひ)とて寺 00065090M19にいたり、一夜のほととまりたるに、久松によりそふ老僧 00065100¥P143 00065110L1もわかきも、すバり+といふもあり、あかすバりといふ 00065120L2人もあり。彼/親父(しんふ)、一/円(ゑん)此/道(ミち)にうとし。不/審(しん)はれぬまゝ、 00065130L3そとむすこにたつねけり。久松さかしく、此寺の習に、下 00065140L4戸をバすバりといふてせゝるとかたる。親聞、げにも+、 00065150L5下戸ハ酒にあふてから、くちが(24オ)すハるほどにとて、 00065160L6大に同心したり。ある時、/夫婦(ふうふ)つれだち寺に来る。ふるま 00065170L7いあり。酒のみぎり/後見(こうけん)の法師出、久松殿母義ハ、一つま 00065180L8いらぬやととひけれ、男のいふ、私ハ御/存知(そんち)のことくすバ 00065190L9りてハ御座ない、をんなともハ、一ゑんのあかすばりにて 00065200L10候と申た。 00065210L11△△よしくもれくもらハ月の名やたゝん 00065220L12△△△わか身ひとりの秋ならハこそ 00065230L13△△よしすバれすばらバ若衆なやたゝん(24ウ) 00065240L14△△△わか身ひとりのすきならハこそ 00065250¥N2¥J 00065260¥X 00065270L15△紀州根来の岩室に△△梅千代とかやいふ若衆 00065280L16かたちをませの内にかくせど△△其名は外にもれやすく 00065290L17そはのかけはしをよばぬも△△思ひを/志賀(しが)の/浦浪(うらなミ)に 00065300L18よせぬ人こそなかりけれ△△かゝる折しも情なや 00065310L19花に/嵐(あらし)のそふもげに△△これかや梅千代やまひづき 00065320M1一まづ里にくたりしを△△涙とゝもにとふ人あれハ 00065330M2かたかしらなる親出て△△いひぬる/時宜(しき)のうたてさよ 00065340M3これのむすこハこえ(25オ)だしに△△はれ物あれと大事な 00065350M4い△△御親父の時宜に恋かさめた。 00065360¥N3¥J 00065370¥X 00065380M5△幸菊といふひとり子を寺にのほせ、物ならはせけるか、 00065390M6久しくあはぬなつかしさに、親/雑賞(ざつしやう)をかまへ、師のもとに 00065400M7行。わかき坊主の幸菊にむかひ、/小穴(せうけつ)+といふ。又よの 00065410M8人も小穴とよぶ。そも/奇異(きい)のこと葉やと思ひ、ちかづけて 00065420M9とひけれバ、これも、此寺に下戸のからなを小穴といふと 00065430M10こたふ。さもあらんとがてんし、かさねて/夫婦(ふうふ)つれたち、 00065440M11寺に/参(まいり)しとき、(25ウ)女房に酒をしいぬれハ、よくしりた 00065450M12るかほに、彼/親(おや)いふ、我らハ一ゑんの小穴にて候、子もち 00065460M13ハちと/広穴(くハうけつ)なり、しいたまへと申た。 00065470¥N4¥J 00065480¥X 00065490M14△/若道(にやくたう)にハうと+しく、歌道にハたと+し。/文章(ふんしやう)に 00065500M15ハくらし。かくてもよき若衆に千松といへるあり。かれに 00065510M16うちほれ/執心(しうしん)あり。いかゞたよりて、いひよらんや、/昔(むかし)よ 00065520M17り哥ハ/鬼神(きじん)のおそろしき心をもやハらくる道とあれは、是 00065530M18なむしるべにと思ひたち、其道しりたる人に、卅一字のさ 00065540M19まを(26オ)とふ。それ哥にハ六/儀(き)あり、/風(ふう)、/賦(ふ)、/比(ひ)、/興(けう)、 00065550¥P144 00065560L1/雅(が)、/頌(しよう)これなり、言葉のえんハ、梅や桜の花によそへ、思 00065570L2ひの色をいひつらね、とまりには、らんの、けりの、かな 00065580L3のと、それ+にをく/習(なら)ひありとをしゆるに、/造作(さうさ)もなく 00065590L4/得心(とくしん)のふりにて、其暮によみてつかハしたる、 00065600L5△△梅のはな桜の花に/鶏頭花(けいとうけ) 00065610L6△△△千松恋しなるらんけりかな〔1〕 00065620¥N5¥J 00065630¥X 00065640L7△子を/置(をき)たれは、それにたより、親さい+寺に(26ウ) 00065650L8行。僧衆よりあひてハ、それかにやけ、これかにやけとか 00065660L9たるをきいて、むすこに、なにとやうなる物を、にやけと 00065670L10ハいふととふ。にやけとハ酒をいふと。宿に/帰(かへ)り/妻(つま)にむか 00065680L11ひ、とかく子たらんをハ人中にをかゐでハ物をしらぬぞよ、 00065690L12酒をにやけといふ事ををしへたハとかたる。今度むすこ里 00065700L13にくたり、長&ゐけれハ、寺より中間/迎(むかひ)に来る。かの家、 00065710L14/幸(さいわい)/酒屋(さかや)なり。母の見て、やれあの使にまつ、にやけのミ 00065720L15をなりとくハせよと。(27オ) 00065730¥N6¥J 00065740¥X 00065750L16△わかき僧一夜の宿をかりけるに、十一二歳なる少人、 00065760L17同/座敷(さしき)にいねたるか、何事やありけん、/亥(い)の時ばかりに、 00065770L18かゝよ+/尻(しり)に火がついたはと、しきりによばゝる。あら 00065780L19かなしやと、いそきふためき、火をもち来り見て、大事も 00065790M1ないぞ、お坊主様のせいがいつて、けしてたまハつたハ。 00065800M2△△人は唯十二三より十五六 00065810M3△△△さかり過れハ花に山風〔2〕 00065820¥N7¥J 00065830¥X 00065840M4△治部卿か児の手をとり、いろ+様&にことばを(27 00065850M5ウ)つくせど、ゆめはかりも領状せす。あけくに児の/利口(りこう) 00065860M6こそおかしけれ。われか/尻(しり)ハ守護不入なりと。時に治部卿、 00065870M7にくさのまゝの返答に、それほと/結構(けつかう)さうに、なのたまひ 00065880M8そ、/守護(しゆこ)不入のところから、さい+夫のでたを、われが 00065890M9よくきゝ参らせたぞと。(28オ)〔3〕 00065900¥T2恋のみち 00065910¥N1¥J 00065920¥X 00065930M11△/妻夫(さいふ)いさかふ事あり。女房心たけく、おつとをうたん 00065940M13と杖をあけけるに、おどろきつゝ/前裁(せんさい)にとひをりにげ、山 00065950M14/椒(せう)の木のもとにかくれぬるを、妻ゑんの上よりいふ、いか 00065960M15ほど/逃(にくる)処もかゝむ/所(ところ)もあらふすに、あのかんばうたをれが 00065970M16山/椒(せう)の木の/根(ね)にかゞみ事ハとしかられ、男ふるふ+、い 00065980M17や、山椒の木計でハおりない、山のいものつるの候に、と 00065990M18りついてゐ参らすると、申せし事のあハれさ(29オ)よ。 00066000M19△山升ハ腎にもくるしからす。/本草(ほんぞう)をよく見給へ。 00066010¥P145 00066020¥N2¥J 00066030¥X 00066040L1△僧の/落堕(らくだ)してゐけるを、よしみある人なつかしく、見 00066050L2参のために尋よる。こしかたをかたりつるが、でひたいに 00066060L3むかふばたかくそり、/鼻(はな)ハひらめにて、/頬(ほう)先とがりたる女 00066070L4房の、内そとありくあり。あれは下主にてぞあるらんと、 00066080L5くはしくとひけれは、あれこそわが/本妻(ほんさい)といふに驚、こハ 00066090L6なにの/因果(ゐんぐわ)に、あれていの者にハそふ事やとわらひたれば、 00066100L7なに事をいハるゝぞ、おちくちにハ目か見えなんだ。(29ウ) 00066110L8〔1〕 00066120¥N3¥J 00066130¥X 00066140L9△京の町を、/気力(きりよく)の/毒(どく)かはふ+といふてありく男のす 00066150L10かたを見れは、いかにもやせおとろへ、いろせう+と/労= 00066160L11■気(ろう=さいけ)なり。おかしきものにおもひ、ある処へ、薬をうらん 00066170L12とよび入、そなたの/風情(ふせい)にハ、ちがふたる/望(のそミ)なりととふ時、 00066180L13さる事有、我等はそなたの御覧するにまきれなし、それが 00066190L14しつれたるをんなどもの、気力あまりよく候まゝ、一ふく 00066200L15のませたふて、たつぬるとそ申ける。 00066210¥N4¥J 00066220¥X 00066230L16△老母老父と成人の男子、三人一処にあり。さ(30オ)ら 00066240L17でだに、いふせきはいりの小屋、春雨すさふ永日なれば、 00066250L18くらしかねたるつれ+に、老父むすこにむかひ、はいか 00066260L19いをしてあそバん物をといふに、男子もつともと/同(とう)し、発 00066270M1句をする。 00066280M2△△てゝじやものはゝじやな者にうちまよひ 00066290M3老父、さらバつけんと、 00066300M4△△△それにつけてそをのれてきける 00066310¥N5¥J 00066320¥X 00066330M5△亭主の心に、女房ハよくねいりたるやとおもひ、二/階(かい) 00066340M6に候/下主(げす)の本へ、そと/忍(しの)びたれは、/妻(つま)はよ(30ウ)くしりて、 00066350M7火をとほし、あとよりあかる。男きる物をかふり、/座敷(さしき)の 00066360M8すミにうつぶしになり、かゞミけるを、あまりのおかしさ 00066370M9に、女房、こゝななりハそのまゝ/鶉(うづら)のやうにといひしを、 00066380M10男ことばゝなくて、ちちくはいと。 00066390M11△づにはつれた鶉てあらふよ。〔2〕 00066400¥N6¥J 00066410¥X 00066420M12△こなたの宮法師殿、昨日花のもとの一ふしハ、何にく 00066430M13らべんやうもなや、耳をそばだてゝきく人ほめぬハなしと 00066440M14かたる。母上、宮法師ハなにとして、そのやうに/声(こゑ)はよく 00066450M15たつそやと、ひとり(31オ)ごとをいへり。親じや人ほそ声 00066460M16に、いまだそのみちがなさにといはれける時、そのかたが 00066470M17なうて声のよくハ、そなたが声ハ/伽陵頻(かれうびん)ほとたゝむ事よ。 00066480¥N7¥J 00066490¥X 00066500M18△時宗の寺に、長阿弥といふ喝食あり。やるせなくしう 00066510M19しんする者、いひよらんたよりもなきに、一首、我か代に 00066520¥P146 00066530L1よみてたべ、/送(おくり)たやとたのミけれバ、 00066540L2△△あちきなや長阿弥陀ふのけつちやうハ 00066550L3△△△往生よりものそみなりけり 00066560¥N8¥J 00066570¥X 00066580L4△赤根のうらに、島のおもての小袖きたる若衆をミて、 00066590L5(31ウ) 00066600L6△△ほの+とあかねの小袖ひつかさね 00066610L7△△△島かくれ行/尻(おいど)をしそおもふ 00066620L8△△恋するに仏となるときかませハ 00066630L9△△△われや浄土のあるしならまし 00066640¥N9¥J 00066650¥X 00066660L10△東にて、/都(ミやこ)のわかき/商(あき)人と、其/宿(やど)なる中/居(ゐ)の女房に/相= 00066670L11馴(あひ=なれ)、此/比(ごろ)むつましくたハふれ、男/紗微線(しやミせん)をひき、おもしろ 00066680L12く/興(けう)ぜしも、ほどなふかへる比になりぬ。女やるかたなく、 00066690L13/名残(なこり)を/惜(おしむ)あハれさに、なにをがなとて、一しゆのしやミせ 00066700L14んを(32オ)つかハし、立わかれんとするに、女、 00066710L15△△かたみとて緒つけ板をハさつくれて 00066720L16△△△けさいくへいかあちきなの身や〔3〕 00066730¥N10¥J 00066740¥X 00066750L17△七十にちかきうばあり。にあひたる者のかたへよめ入 00066760L18する。/孫(まこ)なるわらハ、/牛(うし)にのせてゆく道に、さハる/荷物(にもつ)あ 00066770L19るをミて、/彼孫(かのまご)、牛に声をかけ、のいてとをれといひけり。 00066780M1/姥(うバ)これをきゝ、そふてとをれといハんこそほいならめ、の 00066790M2いてハ不吉也、いや+、けふハゆくまいと、よめ入をや 00066800M3めけるも/興(けう)あり。(32ウ)〔4〕 00066810¥T2悋気 00066820M6△△ふたりねて見るとも船ハせばからし 00066830M7△△△夢をのせしとあらき波かな 00066840¥N1¥J 00066850¥X 00066860M8△夫婦もろしらがまてそひたりし、/祖父(おほち)先にたち、/朝(あした)一 00066870M9/片(へん)の雲とのぼる。/篠(さゝ)の一夜とて、もろこしの/帝(てい|ミかど)には、三千 00066880M10の/后(きさき)あり。夕になれハ/羊(ひつし)の/車(くるま)にめされ、かれが行とまる/局(つほね) 00066890M11の前におりさせ給ひ、/比翼(ひよく)/連理(れんり)のかたらひあり。されハ、 00066900M12羊は/篠(さゝ)をこのミて/食(しよく)す。わがもとにやとゞまらん(33オ)と、 00066910M13をの+/局(つほね)のまへに篠をうへぬハなし。竹葉羊車過別院、 00066920M14今宵空聴半夜鐘、と作りし詩ハ、此古事にてありけり。 00066930M15されハ、君恩をうくる事、わづか其篠の一夜をかぎりにて、 00066940M16二夜とあはぬ中だにも、/名残(なごり)ハ思ふ/習(ならひ)あり。まして老らく 00066950M17の/腰(こし)に/梓(あづさ)の弓をハるまでそひ馴し中なれは、ねて思ひおき 00066960M18てあこがれ、袖ハ涙にくち果て、つかのまもハやくをハり、 00066970M19一つハちすのえんをむすバん事をのミ、くどきバかりに/歎(なけき) 00066980¥P147 00066990L1けるを、となりの者(33ウ)おかしがりて、ふとむばがもと 00067000L2に行、此程ハ久しや、善光寺へ参り、/祖父(おほち)にあふて候ハ。 00067010L3さていかなるありさまやととふ。其事よ、三/途河(づかわ)の/姥(うは)とめ 00067020L4をとになり、やくたいもなき/浮世(うきよ)くるひやといふ。姥/怱(たちまち) 00067030L5にけしきかハり、/杖(つへ)を持て十王/堂(だう)にはしり、あらにくのむ 00067040L6ばが、人の男を取たるやと、木につくりたるかたちをさへ 00067050L7たゝきて、うらミ+てたゝきごとハ。 00067060¥N2¥J 00067070¥X 00067080L8△夜半の比、となりにいさかふ声しけり。なに事にやと、 00067090L9めをとながら/起(おき)て聞ゐたれハ、男の/徒(いたづら)なる(34オ)によりお 00067100L10こりたる、りんきいさかひの/修羅(しゆら)をたつるなり。聞ゐたる 00067110L11女房、なにの理も非もなく、夫のあたまをつゞけバりには 00067120L12りけり。夫、これハなんといふ/狂乱(きやうらん)そといへハ、此後もあ 00067130L13のとなりのいたづら男のやうに、身をもつなといふ事よと。 00067140L14△△迷惑の〔1〕 00067150¥N3¥J 00067160¥X 00067170L15△おかたの方より、/紅梅(こうはい)か使に参りたるよしいひあけけ 00067180L16るに、何事そ。いや、ちと物の/講(かう)をむすびたまふか、こな 00067190L17たへも人数に入たまハんかとの儀に候。(34ウ)けうこつや、 00067200L18これほといそかハしくいろ+なるに、なにの講そとあれ 00067210L19は、別の子細にあらす、/悋気講(りんきかう)をおかたの大/将(しやう)にて、たれ 00067220M1+むすはるゝとかたるにこそ、りんきかうならハ、われ 00067230M2もふたまへましらふそと。〔2〕 00067240¥N4¥J 00067250¥X 00067260M3△武士たる人、若衆と知音せられけるを、事の外にねた 00067270M4ミそねミ、ある時、上/臈(らう)こらへかね、おもてへかけ出、い 00067280M5はるゝやう、やれ、そこな若衆めよ、もはやそのまゝ、こ 00067290M6れの家主になれ、あすからおだい(35オ)かいをわたさうぞ 00067300M7と。 00067310¥N5¥J 00067320¥X 00067330M8△貧なる僧の打ほれて知音する若衆に、大名の執心せら 00067340M9れ、/定家(ていか)の/色紙(しきし)を出されたれハ、坊主もまけじとおもひ、 00067350M10弘法大師の/筆(ふで)といふなる心経をやりぬ。/重(かさね)て大名より、刀 00067360M11/脇指(わきぎし)を金つくりにして/送(おく)られしを見て、坊主のよめる、 00067370M12△△何事も人にまけしと思へとも 00067380M13△△△金刀に手をそつきける〔3〕 00067390¥N6¥J 00067400¥X 00067410M14△老人のもとへ、器のふたに紙をゝして、(35ウ) 00067420M15△△/若和布(わかめ)をやるそ、/慰(なくさミ)にせよ 00067430M16と書たれハ、返事に、 00067440M17△△わかめ得てふるめを内に置ならハ 00067450M18△△△ふためくるひと人や云ハまし(36オ)〔4〕 00067460¥P148 00067470¥T2詮ない秘密 00067480¥N1¥J 00067490¥X 00067500L3△/田夫(でんふ)/畠(ハたけ)をうつおりふし、/隣郷(りんがう)の百性とをりあハせ、こ 00067510L4れはなにをまくそといふに、/彼(かの)はたうち、こてまねきし、 00067520L5あ、/声(こゑ)かたかい、ひきう+といふ。さてハ世にまれなる 00067530L6物のたねをもうゆるにやとおもひ、心得たりとちかくより 00067540L7たれハ、如何にもをのれか/調子(てうし)をひきく、大豆をまく、/鳩(ハと) 00067550L8かきく程に。〔1〕 00067560¥N2¥J 00067570¥X 00067580L9△二郎大夫といふ百性、/夫婦(ふうふ)ともにつれ、河内の国/今田(こんだ) 00067590L10の/市(いち)にたつ。人おほくあつまりたる中(37オ)にて知人に行 00067600L11あふたり。さても二郎太夫はといふに、其まゝ/返答(へんたう)にをよ 00067610L12バすはしりより、そゝと物をいふてたまハれ。たそにかく 00067620L13るゝか。いや、むすこを内にねさせて来たか、/若(もし)声のたか 00067630L14きに目かさめうすらふと。〔2〕 00067640¥N3¥J 00067650¥X 00067660L15△市にて物をひらふといふ題にて、 00067670L16△△事出て打やうたちのつは市に 00067680L17△△△/拾(ひろ)ひ物こそ我命なれ 00067690¥N4¥J 00067700¥X 00067710L18△義経東国下向の時、一夜の宿をかられけり。/弁慶(へんけい)、 00067720L19(37ウ)あるしの女房に、子ハいくたり候そとゝへは、てゝ 00067730M1の子六人、母の子六人、あはせて九人候とこたへしを、何 00067740M2とも当座にあたらす、明の日も案するとて、弁慶道を七里 00067750M3あゆミをくれたるとなん。これハてゝに始の腹の子三人あ 00067760M4り。母にも始の夫の子三人あり。今夫妻の中に三人出来た 00067770M5り。てゝにわけてミれハ六人、母にわけてミれは六人、さ 00067780M6れとも、きハまりハ九人。△△子ハ九人あるといハいて。 00067790¥N5¥J 00067800¥X 00067810M7△/僧俗(そうぞく)よびあハせ、いんきんに/斎(とき)をしてんけり。(38オ) 00067820M8老僧、たんなにむかつて、今朝の/追善(ついぜん)ハ六/親(しん)の内誰人のた 00067830M9め候やととふ時、/妹聟(いもとむこ)の/舅(しうと)の日や。△唯親の日といハひて。〔3〕 00067840¥N6¥J 00067850¥X 00067860M10△はつかしき客あり。ふるまいなかはに、/酒(さけ)を取て来れ 00067870M11とありしかバ、千代といふ下主、/調子(てうし)だかに、かミさま、 00067880M12/銭(せに)五十か酒をか、百か酒をかととふ。興さめけれは、そと 00067890M13よびよせ、人のある処にて今のやうにハいはぬ物そとしか 00067900M14られしが、ある時、五つ六つなる/惣領(そうりやう)の子とりはづし、井 00067910M15にはまる。/件(くだん)(38ウ)の千代しづかにあゆミより、/耳(ミゝ)のもと 00067920M16に口をよせ、人のきかぬやうに、わかうさまの、/井戸(ゐど)へお 00067930M17ちあつたと。 00067940¥N7¥J 00067950¥X 00067960M18△我身を/謙(へりくだり)、なにはにつけ卑下する人、ある時馬の/庭乗(にハのり) 00067970M19しけるに、ふとくたくましく/足(あし)きいてなど人ミなほめけれ 00067980¥P149 00067990L1バ、いや、をの+御覧せらるゝかた腹ハ/肥(こへ)て候へとも、 00068000L2御目のまいらぬかげのかた腹ハ、一円やせて候と。 00068010L3△△曽我の十郎の馬なりと、片身さかふてハやせまいの。(39オ)〔4〕 00068020¥N8¥J 00068030¥X 00068040L4△一天に/雲(くも)/尽(つき)て、星まん+とかゝやく夜、あたりの/友(とも) 00068050L5をさそひ、/端居(はしゐ)してなくさむ。口すさひに、/明星(ミやうじやう)ほと大な 00068060L6るほしハ、はてしもなふあるはといふ。しても、われかや 00068070L7ねの上のハちいさいと。(39ウ)〔5〕 00068080¥T2推はちがふた 00068090¥N1¥J 00068100¥X 00068110L10△/洛陽(らくやう)に一/噌(そ)とて、名を得たる/笛吹(ふゑふき)あり。弟子の無器用 00068120L11なるに、名を秋風とつくる。彼弟子心に思ふやう、秋風は 00068130L12物にあふといふえん有。我が/笛(ふゑ)を/褒美(ほうび)してつけられけるこ 00068140L13そ忝けれと、/自慢(じまん)かぎりなきおりふし、/同学(とうがく)の者、一噌に 00068150L14とふ、秋風とハなんの故につけ給ふそや。別に我は所存な 00068160L15し、秋風はふくほとあしき物なり、かれが笛も吹ほとわる 00068170L16いほどにと。(40オ)〔1〕 00068180¥N2¥J 00068190¥X 00068200L17△ばくらうのもとにて馬をかう。/眼(まなこ)、/爪(つめ)、/髪(かミ)、/鞍下(くらした)、其 00068210L18外そろふたるとほむる時、川わたりハよきかととふ。中 00068220L19+の事、河ハ/鵜(う)じや。めてたしとてわめきもどりしか、 00068230M1十日計過、荷をつけ川をわたるに、中ほどにてたうどふし 00068240M2たり。かひぬし気をそこなひ、ばくらうがもとに来り、/存= 00068250M3分(そん=ふん)をいひけるに、されハこそ川は鵜じやと申たハ、鵜とい 00068260M4ふ鳥の、水をミていらぬやあらん。〔2〕 00068270¥N3¥J 00068280¥X 00068290M5△/久我縄手(こがなハて)を/葦毛(あしけ)馬、/鹿毛(かげ)、/河原毛(かハらげ)の三疋に(40ウ)荷を 00068300M6/負(をふ)せて行に、宗長/跡(あと)や/先(さきや)とあゆまれし。馬/追者(をふもの)のいひける 00068310M7は、お坊主、なにかしり給ひたる。歌道に心かくるよしあ 00068320M8れハ、其儀ならバ此馬三疋をおもしろく哥によまれよかし。 00068330M9△△雨ふれハ道あしけなる久我縄手 00068340M10△△△日影にさらハ末はかはらけ 00068350¥N4¥J 00068360¥X 00068370M11△一休、伊勢の/浅間(あさま)にしバらく住山ありし。/常(つね)ならぬ人 00068380M12の様に沙汰しあへり。山田の/宿老(しゆくらう)たる人、/親(おや)のこゝろざし 00068390M13をつとむる時、/斎(とき)を参(41オ)らせけるに、白衣にて渡らせ 00068400M14給ふ。見るから/驚(おとろ)き、これはいな者や、不思議の風情なる 00068410M15かなと、さゝやきぬるをきゝて、斎おはりに/硯(すゝり)と/紙(かミ)をこひ、 00068420M16△△きたりとよ心の内の/墨染(すミぞめ)を 00068430M17△△△世わたり衣うへにこそきね〔3〕 00068440¥N5¥J 00068450¥X 00068460M18△如何にもきつきしうとめのしゝたる時、よめなげき、 00068470M19/涙(なミた)をながす事かきりなし。さても/奇特(きどく)や、常ハ中もあしき 00068480¥P150 00068490L1よし聞つるにと、人&いひ/感(かん)じけれハ、されバとよ、此ま 00068500L2ゝにてしなれたらハ、いかばかり(41ウ)/嬉(うれ)しかるべきが、 00068510L3/若(もし)又もいきかへられたらハ、其時の心うさ、いかゝあらん 00068520L4やと、おもひやられてさへなくなりとぞ。 00068530¥N6¥J 00068540¥X 00068550L5△宗祇、有間の湯に入ておはしけるに、人&よりあひ、 00068560L6哥などよみあそびしが、/爰(こゝ)にゐらるゝ/旅(たび)の僧も、若おもひ 00068570L7よりたる事あらバ、いふても見給へと、/傍若無人(ばうじやくぶじん)のさほう 00068580L8なりし時、 00068590L9△△音に聞有馬の出湯ハ薬にて 00068600L10△△△こしをれ哥のあつまりそする(42オ)〔4〕 00068610¥N7¥J 00068620¥X 00068630L11△坊主、/同宿(とうじゆく)をつれて/羅斎(ろさい)に出し。/斎了(さいりやう|ときおハり)に/布施(ふせ)をつゝミ、 00068640L12/童子(どうじ)にもたせ、坊主の前に置。是ハ百文あり。/後(のち)に亭主廿 00068650L13疋つゝミけるを持て出、/同宿(とうじゆく)が前に置。坊主、あら不審や、 00068660L14前後失念にてこそあらめと、/帰寺(きじ)の上に同宿にむかひ、我 00068670L15がをそちへやり、手前のをハ此方へとらんといふ。同宿/難= 00068680L16儀(なん=き)なるふりをするに、いよ+ほしく思ひ、我が分をなけ 00068690L17出し、彼二百つゝミをとり、あけてミれは、らうそく二挺 00068700L18ありけり。(42ウ)〔5〕 00068710¥N8¥J 00068720¥X 00068730L19△京より連歌の上手とて、因州とつとりにくたり、/宗匠(そうせう) 00068740M1をせられしが、人の句を出せは、あなおもしろきとりあハ 00068750M2せや、さすがふるぐすねやと/感(かん)じけり。かくて三年の後帰 00068760M3洛せらる。/指南(しなん)をうけたる人&、はなむけに/門送(かとをくり)りし、/酒(さけ) 00068770M4の/盃(さかつき)めくるひまに、たもとをひかへ、此年月、ふるぐすねふ 00068780M5るくすねとありし言葉ハ、なんといふ事ぞやとたつぬるに、 00068790M6いや、たゞふるぐすねハつかぬ物なるまゝ、連歌のつかぬ 00068800M7句有を、我ハ申て候と。△日比の推量、かたそばてあつた。(43オ) 00068810¥N9¥J 00068820¥X 00068830M8△情ふかき児のもとへ、折+かよふ僧ありし。暮にを 00068840M9よび、そと来れり。児にこやかに、/夏衣(なつころも)よくこそとあれハ、 00068850M10その言葉をきくとひとしく、ふいとたちてゆく。児のかた 00068860M11より人をつかハし、まつ、かへられよとよひもとすに、僧 00068870M12/立(たち)かへりぬ。何とて、物もいはすいなれしや。夏衣と始て 00068880M13おほせられしまゝ、罷出候き。いかなれはととハる。され 00068890M14は新古今に、素性法師 00068900M15△△惜めどもとまらぬ春もある物を(43ウ) 00068910M16△△△いはぬに来たる夏ころもかな 00068920M17とも候、此趣存知あはせてなりと、なく+申されけれは、 00068930M18児聞て、中+の事や、 00068940M19△△夏衣ひとへにわれハおもへとも 00068950¥P151 00068960L1△△△人のこゝろにうらやあるらん 00068970L2といふ本哥にていひつる物をとあるにそ、僧/忝(かたしけ)なしとも。 00068980L3〔6〕 00068990¥N10¥J 00069000¥X 00069010L4△/毎物(ものことに)心かけある人、山寺に行、一夜二夜とまる事あり。 00069020L5少人の内、ミめさま世にすくれしを(44オ)古今とよぶ。客 00069030L6きゝ、是ハめつらしや、此名の心をあんするに、いにしへ 00069040L7もいまも若衆道にハあるまいといふ儀にや、いろ+心を 00069050L8つけあんしけるか、師の坊にむかひ、古今とハ如何なる/巨= 00069060L9細(こ=さい)ありてつけたまへるととふたれハ、しハらく其いはれを 00069070L10かくす。/籬(まかき)の内の梅か香ハ、つゝむに色もいやまさり、猶 00069080L11おくふかくおもひなし、/頻(しきり)に意趣を尋し時、院主の御坊さ 00069090L12ゝやきて、いはれけるこそうたてけれ。あの子か親ハ、け 00069100L13しからぬ大きんにてありつるか、あれは(44ウ)又ひきかへ、 00069110L14きんがいかにもちいさゝに、こきんとつけて候と。 00069120L15△△師匠の智恵、ちやつよりもあさや。〔7〕 00069130¥N11¥J 00069140¥X 00069150L16△和州に、くらが/峠(たうげ)といふ、彼山の/頂(いたゝき)に茶屋あり。/根来(ねころ) 00069160L17衆とて、少人を/誘引(いうゐん)し/参宮(さんくう)の時、茶屋の亭をあなどり、一 00069170L18向下輩にあひしらひしが、/遺根(いこん)にや思ひけん、 00069180L19△△山城の木幡の里の馬もかな 00069190M1△△△くらかたうけを君に任せむ 00069200M2△△△水と草とのさかひしられす(45オ) 00069210M3△△板たゝく馬屋の/長(をさ)の目ハ覚て 00069220¥N12¥J 00069230¥X 00069240M4△月次の会あり。宗長のおはしける其/席(せき)の末座に、弟子 00069250M5たる人句を出しぬ。さしあひなくとまりたるを、さてハけ 00069260M6ふの句、よく+出来けるよと得心し、宗長にむかつて手 00069270M7ををさへ、なにと聞え参らせたかと申たるに、中+聞え 00069280M8たとあり。/程(ほど)/経(へ)て又一句出し、其句もとまりたるまゝ、ち 00069290M9と/慢(まん)じ、又手をつき、なにと聞え参らせたかといふ時に、 00069300M10宗長、きこえた、そこから/爰(こゝまで)まてハきこえたと。(45ウ)〔8〕 00069310¥N13¥J 00069320¥X 00069330M11△/和泉(いつミ)の/境(さかい)に/森河(もりかハ)といふ大/皷(こ)打あり。又餅をもつかせて 00069340M12あきなふ。神事能の時、かく屋より大皷を持て橋かゝりに 00069350M13出たるを、人&見るとひとしく、あれこそかくれもない上 00069360M14手よと、/土民(とミん)のやうなる者どもゆびさす。扨は我大/皷(こ)ハよ 00069370M15く人のほむるそとおもひ、くすミゐたる処へ、又一人老た 00069380M16る百性の来り見、あれこそいかい餅の上手よと申た。 00069390¥N14¥J 00069400¥X 00069410M17△京より北国へよめいりしたる女房のありつるが、いか 00069420M18にも心こハき夫にそひかねて、母義のかたへの(46オ)たよ 00069430M19りに、 00069440¥P152 00069450L1△△打たのむ人の心のあらち山 00069460L2△△△越路くやしき旅にもあるかな 00069470¥N15¥J 00069480¥X 00069490L3△和泉の境市の町に/金城(きんいち)とて平家の下手有。正月はつ/参= 00069500L4会(さん=くハい)に出て、/祝義(しうき)を申さんやと/伺(うかゞ)ふ。尤よからんとあり。/琵= 00069510L5琶(び=は)を/調(しらべ)けるに、座敷しつまりたれハ、我平家を/真(しん)にかまへ、 00069520L6皆人よくきかるゝそと思ひ、長&とかたる。役人出て、も 00069530L7はや平家をおやめあれ、人ハ平家のはしまるとそのまゝ 00069540L8(46ウ)たちて、ひとりもないにと。 00069550¥N16¥J 00069560¥X 00069570L9△おどけ者、天王寺の石の鳥居を見、我ハ此鳥居を/造作(さうさ) 00069580L10もなくきりおとさんといふ。そばにある者、なにとしてき 00069590L11りをとさるゝ物ぞやとあらそふ時、件の男、鳥居の上にあ 00069600L12かり、かさきを馬のりにして居けり。はやくきりおとせと 00069610L13いふ時、則/腰(こし)より/錐(きり)をぬき出しておとしたり。とりてミれ 00069620L14ハ四つめぎりなり。これハととへハ、されハこそ、石の鳥 00069630L15居をきりおとさうといふたハと。(47オ) 00069640¥N17¥J 00069650¥X 00069660L16△文の上書に/平林(ひらハやし)とあり。とをる出家によませたれハ、 00069670L17/平林(へうりん)か、/平(へい)林か、/平(たいら)林か、/平(ひら)林、/一八十(いちハちじう)に/林(ほく+)か、それにて 00069680L18なくハ/平林(べうはやし)かと。これほとこまかによみてあれとも、/平林(ひらはやし) 00069690L19といふ名字ハよみあたらす。とかく推にはなにもならぬ。 00069700M1〔9〕 00069710¥N18¥J 00069720¥X 00069730M2△備前の国/岡山(おかやま)に、そこにべといふ魚あり。余国にまれ 00069740M3なり。大守/浮田(うきだ)直家より、芸州小早河/隆景(たかかけ)備中笠岡之城に 00069750M4おハしける時、彼魚を送らるゝ。隆景、侍に仰せ、夜中に 00069760M5備前より(47ウ)そこにべか/来(き)たほとに、家老の衆に今朝ふ 00069770M6るまふべきよし申せとあれは、かせ者まハりて、備前より 00069780M7今夜そこにべ殿お越にて候、今朝振舞あり、出仕あれとぞ 00069790M8申ける。をの+/慇懃(いんきん)に出立参らるゝに、/客(きやく)とてハなし。 00069800M9出たる/膳部(せんぶ)を見れは、そこにへの汁也。右の様子を申され 00069810M10て、大/笑(わらひ)有し也。〔10〕 00069820¥N19¥J 00069830¥X 00069840M11△/知音(ちゐん)の中に、小性の名を銭とつけて呼。其故ハつかひ 00069850M12よいといふ事ぞ。とくと聞てもとり、又つかふ小性を銭と 00069860M13つくる。/始(ハじめ)の人、なにとて一つなを(48オ)つけられけるそ 00069870M14や。そなたの銭にちかふて、つかひにくさにと。紫式部、 00069880M15△△銭なうて恋する人のおかしさよ 00069890M16△△△しぬるとあハしなにのたよりに 00069900M17右哥の心、しりたるかたへたづぬへし。面のことくにては 00069910M18なげな。 00069920¥N20¥J 00069930¥X 00069940M19△/庄官(しやうや)たる者、/堤(つゝミ)の/祈祷(きたう)とて発句をし、百韵/興行(こうぎやう)の後、 00069950¥P153 00069960L1宗養のもとに/遣(つかハ)し、/点(てん)をこひけれは、九十九句に点かゝり、 00069970L2発句計になし。扨ハいづれ(48ウ)も、かたのことく出来た 00069980L3る物よとおもひ、/態(わさと)出/(て)/立行(たちゆく)。尋きくに、いや、てんにハあ 00069990L4らす、一句にてもよしと思はぬより、ミなけしたるなり。 00070000L5発句はよきかや。されはとよ、今の発句きれ字なし、常な 00070010L6らハ沙汰の外なるべけれど、/塘(つゝミ)のために、せめてならんと、 00070020L7これ計に/棒(ほう)をあひせぬと申されし。 00070030¥N21¥J 00070040¥X 00070050L8△法談ハ過ても、終に座をたゝぬ男ありき。/道心者(たうしんしや)の/老(らう) 00070060L9したるが、あながちにかんじおもふ、一句の/聴聞(てうもん)をのぞむ 00070070L10人さへまれなるに、ありかたきこゝ(49オ)ろざしかな、よ 00070080L11び入て茶をも参らせんやと、かれにうかゞひたれバ、あま 00070090L12り/長談義(なかだんぎ)に、しびりがきれてたゝれぬはといふた。〔11〕 00070100¥N22¥J 00070110¥X 00070120L13△/若輩(じやくはい)なる僧、/若衆(わかしう)とふたりいねたるに、僧め/覚(さめ)て、我 00070130L14/腰(こし)のまハりひや+とする。さぐりミれは、なにやらんぬ 00070140L15れたる物なり。不思議におもひ、若衆の腰のまハりへ、そ 00070150L16とやりてをく。若衆又目さめ、腰のまはりひやめくハきと 00070160L17くやと、/彼物(かのもの)をそととり、坊主の腰のまハりへやりたり。 00070170L18坊主とり(49ウ)くすまぬ物におもひ、卒とおきて雪院へも 00070180L19ちゆきすてゝげり。かくて夜もあけ、下帯をたつぬるにな 00070190M1し。しづかに案しミれハ、昨日の晩、風呂に入、たづなを 00070200M2すゝぎしほり、袂に入もち/忘(わす)れたるを、なにそとおもひ気 00070210M3遣し、あけくにすてけるおかしさよ。 00070220M4△△あちこちやりたる互の心をハなにとおほしめすや。 00070230M5玄旨法印公、/南都(なんと)よりのほらせ給ふに、山城の/井手(いで)の/玉水(たまミづ) 00070240M6にて、人した/帯(おひ)を/垣(かき)にかけをき、水をあびける時、(50オ) 00070250M7△△山城の井手の下帯手にはつし 00070260M8△△△あらふへのこの玉河の水 00070270¥N23¥J 00070280¥X 00070290M9△/継母(まゝハゝ)にそへる子あり。彼子をなつけて人のとふ、なに 00070300M10と、今の母ハいたいけにはごくむ事有や。七つ八つなる子 00070310M11が返事に、われをやしなへるは/雀(すゝめ)子をかふやうにせらるゝ 00070320M12と。扨&きどくや、まゝ子をバにくむ物なるに、ためしす 00070330M13くなしと/感(かん)じけれハ、いや、物をいかにもちとづゝくれら 00070340M14るゝ、おほゝくふたらバ、/喉(のど)にろがてきうかとおもふてや 00070350M15ら。(50ウ) 00070360M16△△まゝ母のもりたるいひはふしの山 00070370M17△△△汁をかくれハうきしまがハら〔12〕 00070380¥N24¥J 00070390¥X 00070400M18△隣より五つ六つなるむすこ、元日に来り、小哥をうた 00070410M19ハふといふ。/夫婦(ふうふ)ながらよろこひあいし、目出たや、うた 00070420¥P154 00070430L1ふてきかせよと/所望(しよまう)しけれハ、とゝとかゝとはない中じや、 00070440L2銭が一文ない中じや。 00070450L3△△佗人はうき世の中にいけらしと 00070460L4△△△おもふことさへかなハさりけり 00070470L5△△ちかふたり天地夜昼下戸上戸(51オ) 00070480L6△△△雪すミ鈍智人の貧福 00070490L7△△△△貧法師 00070500L8△△△戸をさゝねとも盗人そこぬ 00070510L9△△△とふも憂世そよしやうらみし 00070520L10△△影清く夜わたる月に秋の空 00070530¥N25¥J 00070540¥X 00070550L11△/瓦(かハら)やく者の/近所(きんしよ)に、天下一のミめわろき/娘(むすめ)を持たる人 00070560L12有。彼娘廿四五にて死たり。/瓦焼(かハらやき)、彼/親(おや)のもとに行、大に 00070570L13なく。何事の愁に、さほとまてかなしふやととふ時、いな、 00070580L14此後、/鬼瓦(おにかハら)の手本がなふ(51ウ)なりて、ちからおといたと。 00070590¥N26¥J 00070600¥X 00070610L15△祖父か孫を愛して、額をさすりなで、ふびんのものや 00070620L16+といふ。母たちきゝをしけれハ、をのれハさて、いか 00070630L17ほどの/苦(く)をうけうすよなと。 00070640¥N27¥J 00070650¥X 00070660L18△境の津より作城といふ座頭、讃岐にわたる。比は霜月 00070670L19寒夜の旅なるに、広間に薄衣にていねん事をいたハり、/局= 00070680M1方(つほね=かた)より瀉酒を、かんをいかにもあつくし、十一二なる女房 00070690M2にもたせ遣し、是をふすまにきてねられよといへと、作城 00070700M3ハまことの(52オ)衾とおもひ、年よりぬれハ、起ふすもむ 00070710M4つかしさに、いねてゐながら、迚の事にきせてたまハれと 00070720M5申けれハ、応といふて、ちきに頭へかけことハ。 00070730M6△名人のよりあひにてハ候ハすや。 00070740M7△世の中に推はミなちかふむね、よくあへる心の哥にやあ 00070750M8らん、夢庵、 00070760M9△△さひしさの種とはしらて秋風を 00070770M10△△△植てくやしき荻の一もと 00070780M11△△淀川の楊枝か嶋にすむ千鳥(52ウ) 00070790M12△△△はしにてなとかはを/敲(たゝく)らん 00070800M13△△思ひしに替りて憂は冬篭 00070810M14△△△炭焼翁炭もおこさす 00070820¥N28¥J 00070830¥X 00070840M15△慈恵僧正ハ近江国人也。座主の時、受戒行へき定日例 00070850M16のことく催儲て、座主の出仕を相待処に、途中より俄に帰 00070860M17給へハ、供の者共、こハいかにと心得かたく、衆徒諸職も、 00070870M18是ほとの大事、日の定たる事を障もなきに延引せしめ給、 00070880M19然へからすとそしる事限なし。諸国の(53オ)沙弥等まて 00070890¥P155 00070900L1/悉(こと+く)参て受戒すべきと思ゐたるに、横川の下綱を使にて、 00070910L2今日の受戒ハ延引也、重ての催にと仰下しけれハ、何事に 00070920L3留行そととふ。使、全しらす、はやく申せと計の給ふそと 00070930L4いふ。をの+心えすおもひ退山しけり。かゝる程に未の 00070940L5時計に、大風吹て南門俄に/倒(たをれ)ぬ。其時人+、ミな打殺さ 00070950L6れなましと/感(かん)じつる。 00070960¥N29¥J 00070970¥X 00070980L7△旅の僧しハらく人のもとに逗留せしか、ふと出(53ウ) 00070990L8てゆかんとおもひたつ。折ふし、/宿(やと)の主他行の刻なれは、 00071000L9かりてつかひゐたる/金柄(きんつか)の小刀を、内の者に/慥(たしかに)わたす。主 00071010L10人帰るに、請取つる者、小刀ハ件の人とりていにしにや、 00071020L11なしといふ。不審におもひ、こゝかしこ見まハしぬるが、 00071030L12かたハらの/柱(ハしら)に/彼(かの)僧の手跡あり。よめは哥なり。小刀/慥(たしかに) 00071040L13をくといふ十の文字を、一首の哥に書置し。 00071050L14△△/こ(一)ゝにき/しか(△二|六△)ゝるうき世/かた(△三|七△)ひの身/に(|八) 00071060L15△△△/な(四)がき情/をた(△五|九△)のミてそゆ/く(|+)(54オ) 00071070¥N30¥J 00071080¥X 00071090L16△関役所の/難(なん)を/遁(のか)れんに、つくり山伏にしくはあらじと、 00071100L17信長公天下をしらせ給ハぬまてハ、皆其/相(さう)をまなべり。さ 00071110L18れハにや、ある者、都ハ見たし、関&をつくろハんやうハ 00071120L19なし。/兎角(とかく)此まねせんと出立、東よりのほりゐしが、駿河 00071130M1なる清見あたりにて、馬に乗たる山伏、/強力(がうりき)七八人つれ、 00071140M2ざゞめき下る躰を見付、南無三宝、先だちにてやあるらん、 00071150M3さなくとも、つねの事にてハなさうなり、とかめられてハは 00071160M4つなぞと思ひ、/横(よこ)みちへかくれ(54ウ)彼ときん/鈴懸(すヾかけ)をぬぎ、 00071170M5ふるふ+大路へ出ミれは、先の山伏一人もなし。是ハい 00071180M6な事やと思ひけるか、上よりくたる馬上の山伏ハ、むかふ 00071190M7よりのぼるこそ本の山伏よと見やり、我ハまさしき作り者 00071200M8なるに、とかめられてハいかゝせんと恐れ、遍り道し、い 00071210M9かめしき/道具(たうく)ともをハ、ぬぎてもたせつるこそおかしけれ。 00071220¥N31¥J 00071230¥X 00071240M10△誓願寺の木食楚仙、今ハの時にのそみ、田舎より、い 00071250M11にしへ月次の友なりし人、文をのぼせ、(55オ)此度死の/別(わかれ) 00071260M12となりなバ、/追善(ついぜん)に独吟の百/韵(いん)をつらね参らせんよしあり 00071270M13けれバ、返事まではなくて、 00071280M14△△我為のとふらひ連歌めさるなよ 00071290M15△△△そなたの口ハ輪廻めきたに 00071300¥N32¥J 00071310¥X 00071320M16△東堂のもとへ客僧来り、お茶を所望申さむと云に、東 00071330M17堂馬桶を出し、是にて茶をのまれよとあり。彼僧馬桶を三 00071340M18度礼して云、和尚様のお/定器(てうき)と見え参らせた、何かこれで 00071350M19(55ウ)でハと云てしさりぬ。 00071360¥P156 00071370¥N33¥J 00071380¥X 00071390L1△慈照院殿にめしつかハるゝ、明陶子・淵用白・干陽朱 00071400L2といふ三人あり。聞人不審し、さのミ芸能のあるともしれ 00071410L3す、其かたちも一/廉(かど)すくれたる躰なし、いかさま義政将軍 00071420L4の御意に入たる事のあるにや、きゝのこびたる名やと、さ 00071430L5ゝやきうハさしけり。ある時、万阿弥御前に/跪(ひさまつき)てさふら 00071440L6ひしか、いつより御気色/快(こゝろよ)げなるを見奉り、右三人の名 00071450L7の様子を/伺(うかゝひ)申たれバ、打ゑませ給ひ、別の/趣(おもむき)なし、/明陶(めいたう) 00071460L8(56オ)/子(し)ハ万事/才覚(さいかく)無比類者也、されとも/妻(め)に恐れにげま 00071470L9ハるときく、さてぞめいとうしとつけぬ、淵用白ハとるて 00071480L10はうがくもなき者なれとも、縁のすミ+/敷居(しきゐ)のあたり、 00071490L11/微塵(ミちん)もなきやうに/掃爾(さうち)をよくする故に、ゑんようはくとつ 00071500L12くる、かんようしゆ、これも十方手のあきたる無芸の者な 00071510L13り、されど酒の/間(かん)をする事を得たり、右曲・左曲・虎の/尾(を) 00071520L14などゝ、いげのたつやうを見て出すに、少も仕そこなハね 00071530L15バ、酒のかんをようするとつけたは(56ウ)とおほせられし。 00071540L16よのつね、古事のあるべきやうに、すいしたりしハ、ちか 00071550L17ふたりとて、人ミなわらひけり。 00071560¥N34¥J 00071570¥X 00071580L18△ある処に、禅門目の上に大なる瘤をもてり。かなしき 00071590L19なから、せんかたなく過こしけるに、人のかたるやう、そ 00071600M1この里にすむなる老人、山路をかよふとて道にて鬼に/行合(ゆきあひ)、 00071610M2/年比(としころ)うるさかりし目の上の/瘤(こふ)をとられ、一門/眷属(けんぞく)までよろ 00071620M3こびかきりなしといふをきゝ、あながちに(57オ)是をうら 00071630M4やミ、はる+と其人のもとをたづねあひ、ありしおもむ 00071640M5きをたつねきわめ、/瘤(こふ)をとられん望に、彼/辻堂(つじだう)に/行(ゆき)まちゐ 00071650M6けり。/案(あん)のごとく、何共しれぬ者とも、/夜更(よふけ)、/多(おほく)あつまり、 00071660M7どしめきのゝしり、/酒宴(しゆゑん)をはじむる時、禅門/円座(ゑんさ)を腰につ 00071670M8け、おどりけれハ、またきしなり、約束をちがへず来りた 00071680M9るが嬉しきに、以前の瘤をとらせよといふまゝ、ひしとう 00071690M10ち付たれは、おもひの外なる/災(わさハひ)をもとめ、瘤二つのぬしに 00071700M11なり(57ウ)て帰りぬ。 00071710¥N35¥J 00071720¥X 00071730M12△真言と天台と、二院ならびてあり。真言の寺の院主ハ 00071740M13/学解(がくけ)ある僧なり。天台の院主ハ/無学(むかく)なりき。真言の寺に/飼= 00071750M14犬(かふ=いぬ)の名を、天台とつけて/呼(よぶ)。天台の院に/飼(かふ)犬を、/真言(しんこん)とつ 00071760M15けたり。両寺の/意趣(いしゆ)はれかたし。ある/会合(くハいかう)の/席(せき)に、天台の 00071770M16院主、なにとてそれの犬を天台とハよはるゝや。いや、唯 00071780M17別の義なし、大の字に点をうてハ犬とよむ間、/点大(てんだい)といふ 00071790M18まてに候と。(58オ)真言の能化、そなたの犬を真言とハな 00071800M19とつけられたる。されハ、犬のありきを見るに、先/前足(まへあし)を 00071810¥P157 00071820L1はぬれハ/真(しん)といひ、あとの足をはぬれは言といふに似たり 00071830L2と。 00071840¥N36¥J 00071850¥X 00071860L3△ある侍のさし物に、ふへんものと書たり。家のおとな 00071870L4たる人ミつけ、是ハさし出たることはさうなととかめけれ 00071880L5は、いやとよ、私の心持かくれもなきふべんしやと、述懐 00071890L6の旨を書て候とそ申ける。(58ウ) 00071900¥T2うそつき 00071910¥N1¥J 00071920¥X 00071930L9△播州に、風の神とて宮あり。くだり舟の/船頭(せんどう)、/宿願(しゆくぐハん)し 00071940L10て順風をこふ。五日六日過れともふかず。其感応なき旨を 00071950L11社人に/理(ことハり)けれハ、/巫(かんなき)、さればよ、さるかたより、のほり 00071960L12風を所望あるまゝ、まづ其風をふかせらる。此次ハやがて 00071970L13其方望の風をふかすべしと。 00071980L14△あたら正直の神を、見事のうそつきにしないた。〔1〕 00071990¥N2¥J 00072000¥X 00072010L15△津の国兵庫の浦へ、/珍(めつら)しき大魚を引上たるに、其名を 00072020L16しりたる者なし。此浦に/物知(ものしり)の大夫と(59オ)いふあり。か 00072030L17れに見せてとへバ、これハほゝらほと云魚也、世に知者な 00072040L18しと。即、公方へ参らせんと、持せのほりけり。/物知(ものしり)の大 00072050L19夫をよびて、/名(な)をとハせ給へは、名をばくゝらくと申上る。 00072060M1以前聞たる者有て、此先のいふたるとちがふたととかむれ 00072070M2ハ、されハ、ぶゑんの時ハほゝらほ、今ハさかりたれはく 00072080M3ゝらくといふと申たり。 00072090M4△とかく/実(まこと)でなけれは、なにも都合せぬ事よ。 00072100¥N3¥J 00072110¥X 00072120M5△人の物語をきいて、よく/覚(おほえ)、洛中洛外しらぬ処もなき 00072130M6よしをいふものあり。さてそなたハ/嵯峨(さが)(59ウ)法輪寺を見 00072140M7られたるか。中+、いかい大ひげであつたと。〔2〕 00072150¥N4¥J 00072160¥X 00072170M8△/聟(むこ)あり。/舅(しうと)のかたへ見まふとて、ある町をとをりしが、 00072180M9/新(あたら)しき/鴈(かり)を棚に出し置たり。二百にてかい、矢をとをしも 00072190M10たせ/行(ゆく)。舅出あひ、鴈をミて、是ハととふに、我等の道に 00072200M11て仕たるとあれバ、大に/悦喜(ゑつき)し、一/簇(そく)ミなよせて/披露(ひろう)し、 00072210M12振舞わめきけり。聟かつにのり、今一度もたせ/参(まいら)せんと/家(いゑ) 00072220M13の子にしめしあハせ、我は先へゆかん、/跡(あと)より(60オ)/調(とゝのへ) 00072230M14来れといひすて、/先(まづ)/舅(しうと)にあふと同じく、いな仕合にて、又 00072240M15/鴈(かり)を仕て候といふ。舅いさみほこれり。彼内の者、/塩鯛(しほたい)に 00072250M16矢をつらぬき持来れる。して、今の矢ハあたらなんたか。 00072260M17されハ、/鴈(かり)にハはつれて、塩鯛にあたり参らせたと。〔3〕 00072270¥N5¥J 00072280¥X 00072290M18△両の手にてわをなし、一尺ばかりのまハりなるまねを 00072300M19し、これほど大なる/栗(くり)を見たといふ。そばからまつとへら 00072310¥P158 00072320L1せ+といへは、ひた物ちいさくしけるか、あげくに、そ 00072330L2のやうにちいさうせば、いがで(60ウ)手をつかふ物をと申 00072340L3けり。 00072350L4△△長からん角豆のはなハ短くて 00072360L5△△△みしかき栗の花のなかさよ〔4〕 00072370¥N6¥J 00072380¥X 00072390L6△/明暮(あけくれ)うそにくわをいひまハりたる者のかたへ、思ひよ 00072400L7らす客あり。つねに浅間しき小者二人つかふとて、一人の 00072410L8名をハ十人とつけ、ひとりの名をハ五人とつけ置たりしか、 00072420L9/客(きやく)の/聞(きく)やうに声を/高(たか)+と、やい+十人ハ山へ/薪(たきゝ)しにゆ 00072430L10け、五人は/薮(やぶ)の竹をきれと。(61オ) 00072440L11△△いふに似ぬこゝろの内のつたなさを 00072450L12△△△はつるおもひのなとなかるらむ 00072460L13△△月も日もさやかに照すかひそなき 00072470L14△△△この世の人のうハの空こと 00072480L15△△空にけふ人ははづへき時雨かな 00072490¥N7¥J 00072500¥X 00072510L16△俗も出家も/貴(たつとき)も/賎(いやしき)も、人ハ唯有へき様に振舞へし。 00072520L17其分に過たるハかへつて其恥多かるへし。 00072530L18△△△何となみたの袖にあまれる(61ウ) 00072540L19△△草も木も葉に随へる露の世に△△祇△公 00072550¥N8¥J 00072560¥X 00072570M1△七字の口伝、山門にハ、あるにまかせよ。三井寺にハ、 00072580M2あるへきやうに。安居院にハ、身のほとをしれ。いつれも 00072590M3同し心なり。 00072600M4東坡か三養、安分以養福、緩胃以養気、省 00072610M5費以養財。〔5〕 00072620¥N9¥J 00072630¥X 00072640M6△京辺土の事ならハ幾度も見たがやまいで、しらぬとい 00072650M7ふ処ハなし、世中の人のミたなといふハ、/白河(しらかわ)を/夜舟(よふね)にの 00072660M8りたるたくひならん、/某(それがし)か(62オ)やうに見/覚(おほへ)たる者ハある 00072670M9まいと思ふ。浦山しや、さて祇園と清水との間ハ、いかほ 00072680M10とのとをさそやと問時、扇に書たる絵をひろけ、それハ一 00072690M11寸ほとあらふまてよと。 00072700¥N10¥J 00072710¥X 00072720M12△神妙にもなき人、あつまりゐける中に、一人いふ、そ 00072730M13なたたちのうちに、かミなりのすしをくふた人かあるか。 00072740M14いやなし。さうあらふ、まれな物じやほとに。して、そち 00072750M15ハくふたか。中+くふた。味ハあまいか、すいかととふ 00072760M16に、ちと雲くさかつたと。(62ウ) 00072770M17△雲無心にして岫を出とあれハ、土くさいとせめていへかし。 00072780¥N11¥J 00072790¥X 00072800M18△伊勢の国をのそきたる事もなうて、いくたひも/参宮(さんくう)し 00072810M19たるよしはなす者あり。そちハ/細(さい)&伊勢へときくが、さこ 00072820¥P159 00072830L1そ/海老(ゑひ)を/沢山(たくさん)に見られつらふこそ。/宮(ミや)川で見た、色かあか 00072840L2ふて見事にあつた。海老ハ海にある物なり、/生得(しやうとく)色ハあを 00072850L3くくろし、いりて後こそあかけれ、宮川ハ河ではないか、 00072860L4うそさうな。いや、御身ハせばい事をおほせある、物ずき 00072870L5かありて、ゑひをいつて、河へはな(63オ)いたやら、おし 00072880L6りあつたかと。 00072890¥N12¥J 00072900¥X 00072910L7△信長公岐阜に御座の時、/沼(ぬま)の/藤(とう)六、/尾州(びしう)より、唯今参 00072920L8りて候と申上る。何事も尾張に/珍布(めつらしき)事ハなきかと御/諚(てう)ある 00072930L9に、されハ、/鵺(ぬゑ)を木にて/造(つく)りたるが御座候と申上る。うそ 00072940L10であらふす、さりなから/実(まこと)か、其/様子(やうす)をきかんと仰せの時、 00072950L11あたまハさるすべり、尾ハくちなし、なく声ぬての木にて 00072960L12と申たり。△△時にあたりてハ、きとくなるうそや。 00072970L13△△世の中はうそばかりにて過にけり(63ウ) 00072980L14△△△けふも又うそあすもうそ+ 00072990L15△△世中の人の心のすき※を 00073000L16△△△我に似ぬとて偏執なせそ 00073010¥N13¥J 00073020¥X 00073030L17△ちとうつけにて、しかもとめる人あり。/常(つね)に、ともす 00073040L18れハ腹なる事けしからす。是ハ何としたる病やと人毎にと 00073050L19ふ。口きゝて物しらぬ者云けるやう、昔、なる神が/味噌桶(ミそおけ) 00073060M1の中へ/落入(おちいり)、あがらんとすれハやハらかにて、足のふみど 00073070M2よハく、あがりえす、其侭死たるが、かうの物になりたり、 00073080M3めづ(64オ)らしやと/奔走(ほんそう)しくひけり、それを食たるほどの 00073090M4者の腹がなりやまざりつる、今も/不断(ふだん)そなたのごとく腹の 00073100M5なるハ、彼なるかみのかうの物くふたる子孫にすんだとか 00073110M6たりつれバ、/病者(びやうじや)大に満足し、さては我腹のなる事たゝな 00073120M7らず、家の面目也と/慢(まん)じくすミし。 00073130¥N14¥J 00073140¥X 00073150M8△山林に猿ともたハふれゐたり。十月末つかたにやあり 00073160M9けん、柿のじゆくしたる四つ五つ残りあるを、われくハん、 00073170M10たれくハんと、くらひてハおほし、(64ウ)柿はすくなし。 00073180M11所詮年老次第にくらハんといふ。老猿出て、われハ過去迦 00073190M12葉仏の時より、この山にすむと。又ひとつが出ていふ、そ 00073200M13れハ一かうちかい事や、そのころわれハ孫にはなれ歎にし 00073210M14つミてありつるハとある。 00073220M15教月坊にむかひ、そなたハ奇妙なる作者なれとも、あまり 00073230M16狂言にて証哥の名誉なし、いかゝといふ。言下に、 00073240M17△△教月に毛かむく+とはへよかし 00073250M18△△△さる哥よみと人にいはれん(65オ) 00073260M19△△いはさると見さるきかさる世にありて 00073270¥P160 00073280L1△△△おもはさるをハいまたミぬかな(65ウ) 00073290¥Q1 00073300L5元和元年の比、安楽庵咄所望いたし、承候得は、別而おも 00073310L6しろく存るに付て、御書集候て、草子にいたし給候やうに 00073320L7と申候処、一両年過、八冊に調給候。紛失可仕かと存、奥 00073330L8に書付置也。 00073340L10△寛永五年 00073350L11△△△△三月十七日△△△△重宗(66オ) 00073360¥P161 00073370¥Y1醒睡笑巻之七目録 00073380L3思の色を外にいふ 00073390L4いひ損ハなをらぬ 00073400L5似合たのぞみ 00073410L6廃忘 00073420L7謡 00073430L8舞(1オ) 00073440¥T1醒睡笑巻之七 00073450¥T2思の色を外にいふ 00073460¥N1¥J 00073470¥X 00073480M5△一村の庄屋たる者、/余郷(よのがう)に聟あり。かしこに惣領をま 00073490M6うけたる祝言とて、一在所皆行。其中に/若輩(しやくはい)あり。上座よ 00073500M7り出す/多少(たせう)を見合、我も/時宜(じぎ)をせんとおもひ、内より/代(だい)弐 00073510M8百つないで/懐(くわい)中せしが、百ハすくなし、二百ハおほしと 00073520M9/思案(しあん)するまに、はや手前へきそいたれバ、/礼式(れいしき)を手にもち 00073530M10いだしさまに、(2オ)目出たうとはいハず、御大儀で御座 00073540M11れども。〔1〕 00073550¥N2¥J 00073560¥X 00073570M12△/惣領(そうりやう)の廿にあまれど、つゐによめをむかふる/噂(うハさ)もなき 00073580M13あり。年の暮に、親たる人、彼をちをよびて、正月の小袖 00073590M14/去年(こぞ)のも気にあハずしてきぬといふ、今年のをハ/能(よく)ぬしに 00073600M15このませ染、小袖のもんになにをつけんととハせけれバ、 00073610M16返事を聞給へ。唯/造作(ざうさ)もなく、家の/端(はし)にひとりねする処を 00073620M17つけたらよからふ。(2ウ)〔2〕 00073630¥N3¥J 00073640¥X 00073650M18△/悴(かせ)侍の遠路を行時、しきりに飢たり。見れば、たゝ一 00073660M19人つれたる中間、こしに飯をつけてもてり。/石(いし)の/上(うへ)にたう 00073670¥P162 00073680L1どゐて、をのれか/腰(こし)にあるめしを、われにをそれよと。中 00073690L2間/是非(ぜひ)にをよハすさし出しさまに、これハおそれおしう御 00073700L3座あれどもと。 00073710L4△△恐れハやすめ字、おしいハ/定(ぢやう)であらふず。△雄長老 00073720L5△△桜さく遠山まての花見には 00073730L6△△△なか+し日そもてや中食(3オ) 00073740L7中間のつゐでに、/玄旨(げんし)法印の御内に、大ぼとけといふ中間 00073750L8あり。/暇(いとま)を/乞(こい)申、/髪(かミ)をそり、/衣(ころも)きてありくに、大坂の道に 00073760L9て馬上より見付給ひ、今のは大ほとけかや。中+とこた 00073770L10ふ。即、 00073780L11△△大ほとけあたまをそれバまた仏 00073790L12△△△是ぞ二仏の中間のはて 00073800¥N4¥J 00073810¥X 00073820L13△一/廉(かど)なる大名の、/東堂(とうだう)へ参られけるに、/対顔(たいがん)の時、さ 00073830L14し樽一/対(つい)、/昆布(こふ)五/束(そく)を台にすへてもちありく。あの/人躰(じんたい)に 00073840L15ハ/乏少(ほくせう)なる/時宜(じき)やと(3ウ)心におもハれたるが、是ハ御持 00073850L16参とて披露しける。やにはにふと、乏少とそ申されける。 00073860L17△△ことばはこゝろの使とあり。 00073870¥N5¥J 00073880¥X 00073890L18△当宗の寺へ、檀那のもとより、此者を/目代(めしろ)にして/庫裏(くり) 00073900L19に置つかハれ候へと、年五十計なる男をあてがへり。/理知= 00073910M1義(りち=ぎ)に/重宝(てうほう)なるが、朝暮高声に念仏す。坊主心うき事に思ひ、 00073920M2/教化(きやうけ)すれとも更に同心せず。しいていふ、汝経をいたゞき 00073930M3たらば、信心ふかき者と/披露(ひろう)し、(4オ)/給分(きうふん)の外に/合力(かうりよく)を 00073940M4得させんとすゝむる時、あらかじめ/領状(りやうしやう)しけり。かくて十 00073950M5月十三日、御/影供(ゑいく)に諸檀那ミなあつまれる/座敷(さしき)へかれをよ 00073960M6ひ出し、件の/趣(おもむき)をひろめ、/受法(しゆほう)さするに、彼男、其事なり、 00073970M7いろ+いやといへども、種&/教訓(きやうくん)のゆへ、経を/頂(いたゝき)て候、 00073980M8さりなから、いたゞきたる経をへちまともおもふにこそと。 00073990M9△ありがたいといふておらゐで、情のこハさはどちもまけまい。(4 00074000M10ウ)〔3〕 00074010¥N6¥J 00074020¥X 00074030M11△夫婦唯ふたりゐて、/餅(もち)をやきくハふとする処へ、おもひ 00074040M12もよらぬ者来りたり。よくこそわたり候やとよび入しが、女 00074050M13房のいひける、なふ、はやうおめしやれ、又人がこぬさきに。 00074060¥N7¥J 00074070¥X 00074080M14△男も女もましハりて、いろ+物かたりの有つるに、 00074090M15一人云、和泉の国には、なにともおかしき/名字(めうし)がある、/野= 00074100M16尻(の=じり)のやれ、/草部(くさべ)のやれと。又ひとりが、大和にも、へぐり 00074110M17だにのやれ、馬の/尻(しり)のやれといふて、腰よりしたのこと 00074120M18(5オ)バはかりなりとはなしけれは、四十計なる女房のさ 00074130M19しいで、それよりいまだきゝにくいがあると。なにぞとと 00074140¥P163 00074150L1ハれ、/生地(おゑぢ)殿とての。 00074160¥N8¥J 00074170¥X 00074180L2△江州/安土(あつち)に、/薄打(はくうち)十人計ミな当宗なり。いひあハせ、 00074190L3与兵衛といふなかの使を一人かゝへけり。これは/浄土(しやうど)宗な 00074200L4り。とても奉公せむとおもハゝ、/日蓮(にちれん)の/教門(けうもん)に入やと、頻 00074210L5にすゝむれども/合点(かつてん)せず。有時十人の中より、金子一/枚(まい)与 00074220L6兵衛につかハし、手前ならすハかさねて(5ウ)も合力せん 00074230L7ずる、ぜひ/受法(しゆほう)せよかしと。与兵衛力をよハす、大/乗妙典(ぜうめうでん) 00074240L8を/頂戴(ちやうだい)せり。をの+悦ひ、次てに女房をも宗旨になせ 00074250L9やとすゝめの時、彼与兵衛申つる事のおかしさよ。私こそ 00074260L10/貧宝(びんぼう)/故(ゆへ)/地獄(ぢごく)におち候とも、せめて女ともをはたすけたう御 00074270L11さあると。 00074280L12△△たつね入人はさま+かハれとも 00074290L13△△△同し桜を見よし野のおく 00074300L14にてあるものを。(6オ) 00074310¥N9¥J 00074320¥X 00074330L15△/雑談(ぞうたん)に心の奥の見ゆるかな 00074340L16△△△言の葉ことに気をつかふへし 00074350L17ともあれハ、/難波(なにハ)につけ、常の心をいふなる事、このおも 00074360L18て八句にて工夫あるべし。 00074370L19△△しどやミやけらこが/嶽(だけ)の木ゝの露△△△/済家(さいか) 00074380M1△△△いかなるかこれ秋の夜の月△△△△/曹洞(そうとう) 00074390M2△△行つくす/江南(こうなむ)/数日(すじつ)雁なきて△△△△△/儒者(しゆしや) 00074400M3△△△西よりきたる風の涼しさ△△△△△/浄土(じやうど) 00074410M4△△そこにこそくせ物仏ハ有物を△△△△/当宗(たうしう)(6ウ) 00074420M5△△△何なまふたととなへさるらん△△△/時宗(ちしう) 00074430M6△△金剛界胎蔵界の春の花△△△△△△△/真言(しんごん) 00074440M7△△△諸法実相へたてあらしな△△△△△/天台(てんだい)〔4〕 00074450¥N10¥J 00074460¥X 00074470M8△所の地頭と中のよき坊主あり。/振舞(ふるまい)によハれ、/種(しゆ)&食 00074480M9物の/咄(はなし)ありしに、/海月(くらげ)といふ物ハ/精進(しやうじん)めきたる物なる程に、 00074490M10出家にも参せたや、殿にいふて、これをハゆるしにせんな 00074500M11どかたる。年たけたる弟子きいて、/殿(との)へおほせあけらるゝ 00074510M12つゐてに、/生鯛(なまたい)の事をも(7オ)頼入と申たり。〔5〕 00074520¥N11¥J 00074530¥X 00074540M13△酒つくる亭主、/町(まち)屋は/空地(くうぢ)なし、いかにもひろき処に 00074550M14すミたや、すみたやと、明ても暮ても案じけるが、有時京 00074560M15の三十三間に参り、ねんごろに見物し、/堂(だう)の前にくだり、 00074570M16友だちにむかひて、別にのぞみハない、我は此/堂(どう)がほし/い((ママ)) 00074580M17ひは。何事にや。酒部屋にしたい。 00074590¥N12¥J 00074600¥X 00074610M18△当宗のだんな、帰依する寺の普請あるに(7ウ)行て、 00074620M19/小壁(こかべ)/下地(したぢ)をかきけるが、あやまちに/縄(なハ)きれ、高き処より落 00074630¥P164 00074640L1さまに、南無阿弥陀とさけぶ。/同行(どうきやう)の者のすくひたすけ、 00074650L2心地すこしいてきたる時、かりそめも/題目(たいもく)をば念ぜずして、 00074660L3いかゝなれバ、あさましく念仏をハ申つるやととふ。され 00074670L4ばよ、さきのおちさまにハ、ていとしぬると思ふてあつた 00074680L5ハと。 00074690¥N13¥J 00074700¥X 00074710L6△堺に、智永とて比丘尼あり。ある朝、松茸の物見なる 00074720L7を一折、人のもとより送りたる(8オ)が/勤行(こんぎやう)より帰り見て、 00074730L8めつらしやとよろこへり。下女の出て、そこにあれハ/蝿(はい)も 00074740L9せゝるに、とりてをきたまへといふ時、いま+しや、か 00074750L10んきんした手でとらふかなと。 00074760¥N14¥J 00074770¥X 00074780L11△老人あり。我かとしをかくして、いくつととへど、つ 00074790L12ゐにいはず。ある時、/子(ね)の年人ハ誰も/果報(くわほう)があると、いく 00074800L13たりもゆびをおりつゝ、そなたハなにのとしぞと。仕合よ 00074810L14き人数にゐるがうれしくや/侍(ハんへ)りけん、われも子のとしと 00074820L15(8ウ)かたるにぞ、/即(すなハち)くりて見、其年をいくつとさす。か 00074830L16の人だまされ、やすからず思ひゐけり。又/他席(たせき)に、なにの 00074840L17年ととふ時、/狼(おほかミ)の年とこたへたり。〔6〕 00074850¥N15¥J 00074860¥X 00074870L18△/天台(てんたい)、/禅宗(ぜんしう)、/時衆(ちしう)、僧三人座を同し、いざ、大なる哥 00074880L19ようであそバん。尤也。/然(しか)あらハ、時宗ハ哥道に心かけの 00074890M1家也、まつよみ給へといハれ、 00074900M2△△/唐土(たうど)より日本にひよつと/躍(をどり)てゝ 00074910M3△△△/須弥(しゆミ)のあたりを/遊行(ゆぎやう)する人(9オ) 00074920M4△△△△△又天台沙門 00074930M5△△/須弥山(しゆミせん)に/腰(こし)うちかけて大/空(ぞら)を 00074940M6△△△/笠(かさ)にきたれと/耳(みゝ)もかくれす 00074950M7△△△△△禅宗 00074960M8△△をしまわし/虚空(こくう)をくつとのミこめど 00074970M9△△△須弥の/中骨(なかほね)/喉(のど)にさハらず 00074980M10天台の云、汝が在所何くなれハ/虚空(こくう)をはのむぞ。時に禅、 00074990M11たそ+、腹の中にて物/言(いふ)ハ。 00075000¥N16¥J 00075010¥X 00075020M12△/招月(せうげつ)、供一人にて/天(あま)の/橋立(はしたて)を見物の時、/読(よめ)る。(9ウ) 00075030M13△△月の暮雪の朝のいかならん 00075040M14△△△たゝ見るさへに天の橋立 00075050M15とよまれしを、小者聞て、我らも狂哥を申さんやと、 00075060M16△△酒の暮飯の朝のいかならん 00075070M17△△△茶てミるさへに天の橋立 00075080¥N17¥J 00075090¥X 00075100M18△/妙吉(ミやうきち)/侍者(ししや)に、恋の哥よまんやと尋ぬる者ありき。中 00075110M19+と返事せらる。さらハとて逢不逢恋といふ題を出す 00075120¥P165 00075130L1に、 00075140L2△△我か恋は/達磨大師(たるまだいし)の/魏(ぎ)にかへる(10オ) 00075150L3△△△/梁(りやう)の/武帝(ぶてい)の秋の夕暮 00075160¥N18¥J 00075170¥X 00075180L4△連歌に身をやつし、心をそめ、/臥(ふす)にもおくるにも、此 00075190L5事のミなりつる人の/栖(すミか)なる軒の下に、夜/小便(せうへん)する/音(をと)しけり。 00075200L6彼/亭主(ていしゆ)とかめていへるやう、/夜分(やぶん)に/居所(きよしよ)へきたつて/水辺(すいへん)を 00075210L7くだすハ、/人倫(じんりん)か/生類(しやうるい)か、/植(うへ)物をもつて/打擲(ちやうちやく)せよ。 00075220¥N19¥J 00075230¥X 00075240L8△せゝり作事をする時、亭主、大工と物語する次で、大 00075250L9工のいへる、御亭ハいくつに候や。四十八(10ウ)になると 00075260L10あれハ、大工の云、もはや二つこそたらね、五十までよと 00075270L11おちつけたり。亭大に腹立し、/遺恨(いこん)に思ひ居けるが、/作料(さくりやう) 00075280L12を渡す時、米五斗つかハすへきといひしを、四斗八升やり 00075290L13ぬ。是は二升たらぬとあらためけるに、いや、四十八にな 00075300L14る年も五十になれバ、四斗八升も五斗にしてすませといへ 00075310L15り。(11オ)〔7〕 00075320¥T2いひ損ハなをらぬ 00075330¥N1¥J 00075340¥X 00075350L18△松永/霜台(そうたい)、和州信貴の城におハせし時ハ、菓子をすへ 00075360L19て出すに、染付にても/南蛮(なんバん)物にてもあれ、一/廉(かど)の鉢なけれ 00075370M1バ、座敷の/興(けう)すくなしともてはやす事あり。名ある侍のも 00075380M2とに霜台を請用し、珍敷鉢を出せり。大に/感(かん)じほめられけ 00075390M3るなかば、相伴の人、今日の振舞ハ、たゝ亭主の鉢ひらき 00075400M4にて候と申けるを、なにとやらん/言葉(ことば)のえんあし(12オ)し 00075410M5といふに、肝をつぶし、されバ、これの鉢をおひらきある 00075420M6で候と。〔1〕 00075430¥N2¥J 00075440¥X 00075450M7△惣別/茄子(なすび)のかるゝをば、百姓ミなまふといふ也。和泉 00075460M8にての事なるに、道のほとりに茄子をうふる者あり。へた 00075470M9らしき/舞&(まい+)のとをりあわせ、見れば、大なる/土工李(とくり)に/盃(さかつき)を 00075480M10そへてあり。ちとこれをなん望にやおもひけん、/畠(はたけ)へたち 00075490M11より、さらハ一ふしまハんといふ。百姓かどいであしゝと 00075500M12大に/腹立(ふくりう)しけれど、とかくいひより(12ウ)酒をのミのませ 00075510M13けるが、立て行さまに、さきの腹立ハ、たがひにねもはも 00075520M14おりないと。△△はなぬりをした。〔2〕 00075530¥N3¥J 00075540¥X 00075550M15△新く家を/造(つく)り、わたましして、/祝(よろこひ)/半(なかハ)に/座(ざ)頭一人きた 00075560M16りぬ。やう+酒も/数辺(すへん)めぐりけれバ、一句きかんとよび 00075570M17出し、名をはなにとかいふ。/比一(ひいち)と/答(こたふ)。屋わたりにひいち 00075580M18は/禁物(きんもつ)さうなといふをきゝて、いやくるしうも御座あるま 00075590M19い、人づけで候ほどにと。(13オ) 00075600¥P166 00075610¥N4¥J 00075620¥X 00075630L1△泉州/堺(さかい)の津より、るすんわたりの/商(あき)人、/住吉(すミよし)へ/社参(しやさん)し、 00075640L2/宿願(しゆくくハん)に船の/絵(ゑ)を/書(かき)、一の/神殿(しんでん)に/捧(さゝげ)、/神楽(かぐら)なと参らせ、よ 00075650L3ろこひの酒もりするに、順の舞とて/扇(あふき)をさしたれバ、其人 00075660L4うたふやう、せんかた/涙(なミだ)にふししつむ事ぞかなしきと。其 00075670L5助右衛門舟といふこそ、まぎれなくくつがへりたれ。 00075680L6△△船ならでわたす瀬あらハ七夕に 00075690L7△△△かさはや天のかハらげの駒(13ウ) 00075700¥N5¥J 00075710¥X 00075720L8△/祈祷(きたう)/連歌(れんが)の席にて、/宗匠(そうしやう)たる人、/末座(はつざ)の者にむかひ、 00075730L9おもひよりたる事あらハ、うかゞハれ候へ、庭の/木草(きくさ)、/空= 00075740L10行(そら=ゆく)/雲(くも)、/目前(もくせん)の/境界(きやうがい)、いつれかことの葉にもる類あらんやと、 00075750L11すゝめらるゝをたねとし、かゝりたる天神の/装束(しやうそく)をなかめ 00075760L12ゐたりしが、さらバ申てミむや、 00075770L13△△△/紫色(むらさきいろ)の/自在天神(じざいてんじん) 00075780L14と出したるを、執筆、神祇ちかしとて送返す。又なをし申 00075790L15さん、(14オ) 00075800L16△△△むらさき色の自在宝殿 00075810L17と。△△せめて始の句計ならハ、おためしかるべからん。 00075820¥N6¥J 00075830¥X 00075840L18△後世を大事とねがふ人、我がたのむ寺に入、/剃刀(かミそり)をい 00075850L19たゞき、法名をこふに、/教鸞(けうらん)とつけたり。手をあわせて、と 00075860M1もかくもまかせ参らする身には候へども、うちきく処、心 00075870M2みたれ/狂気(きやうき)したるやうにこそとりなし候ハめ。/同(おなじく)は名をか 00075880M3へてたび候へかし。さらバ、つけなをさんとて/鸞行(らんぎやう)とこそ。 00075890M4△△始のハ物くるハしきはかり。後のハはてた。(14ウ) 00075900¥N7¥J 00075910¥X 00075920M5△移徒の連歌に 00075930M6△△春の日は軒端につきてまハるらむ 00075940M7といふ句を出せり。宗匠、けせ+といハるゝ。/執筆(しゆひつ)、墨 00075950M8がくろふてけされぬといふ時、右の作者、なにとやうにも 00075960M9けせ、又つけう程に。〔3〕 00075970¥N8¥J 00075980¥X 00075990M10△時衆なりし老僧、東山よりかちにてあゆミ、京へ/斎(とき)に 00076000M11出けり。今朝は雨の後にて道もあしゝ、我馬を/迎(むかい)にやらん 00076010M12物をと/旦那(だんな)のいひけれバ、とびくるふ馬にはなにとしての 00076020M13り(15オ)候ハん、/比丘尼(ひくに)のやうな馬ならハこそ、のられも 00076030M14せめといひはてゝ、やれ、と思ひつれども。 00076040¥N9¥J 00076050¥X 00076060M15△禁中に御/能(のふ)あり。/狸(たぬき)の/腹鼓(はらつゝミ)を/狂言(けうけん)にする。狸か出ける 00076070M16を、/狩人(かりひと)、なんぢ、なに物ぞ。我れハ狸の王なりといふ。 00076080M17なにと、狸の王ちや。王ならは/射(い)ころいてくれふすと。 00076090M18△△あやまつて一字けがす。恐れてもいひなをさんやうなし。〔4〕 00076100¥N10¥J 00076110¥X 00076120M19△わたましの祝義につかハす使をよび、/主(しう)のをしへける 00076130¥P167 00076140L1ハ、かまへてつねの処に/行(ゆく)とハちがふ(15ウ)ぞ、一言にて 00076150L2も麁抹なる事申へからすとあり。畏て候とて行。主人/献&(こん+) 00076160L3をくむ。されどもつゐに/唖(おし)のよりあひたるごとくなれハ、 00076170L4あるじすまぬ事におもひ、貴所ハいかなる/子細(しさい)により、/無= 00076180L5言(む=ごん)の仕合ぞや、わめきさめくこそ目出けれといふ時、され 00076190L6ハとよ、さきから物かいひたふて、むねかやくるほとあつ 00076200L7たれど。〔5〕 00076210¥N11¥J 00076220¥X 00076230L8△越中には舞&に/瀾座(おほなみざ)・/連座(こなくざ)とて二方あり。さる人、大 00076240L9船を作りたる祝義とて、数多あ(16オ)つまり酒宴なかバ、 00076250L10舞&の出たりし。上座より、其方ハなにがゝりぞととふに、 00076260L11大なミ座とこたふ。舟のいハひに大なミハのといふ。いや 00076270L12/瀾座(おほなミざ)・/漣(こなミ)座とて、もとは一つにて候らひしが、此ころ二 00076280L13つにわれてとそ。 00076290¥N12¥J 00076300¥X 00076310L14△屋わたりの祝とて、人あつまり/並居(なミゐ)、/酒宴(しゆえん)興をつくせ 00076320L15は、時うつり暮にをよぶまゝ、客の中より、しかも調子だ 00076330L16かに、亭主、もはや火をだせ、火をだせといふ。なまゑひ 00076340L17なる(16ウ)者聞つけ、肝をつぶし、いや+、今のハ/自火(じくわ) 00076350L18で御ざるぞと。いやないひわけかな。 00076360¥N13¥J 00076370¥X 00076380L19△△葉をとそよ+荻の上風 00076390M1といふ句に、 00076400M2△△ませ垣の内には人の米かみて 00076410M3と出したり。てどまりが/指合(さしあひ)たとあれバ、 00076420M4△△ませかきの内にハ人のかミて米(17オ)〔6〕 00076430¥T2似合たのぞみ 00076440¥N1¥J 00076450¥X 00076460M7△かりそめの事にも物ごと/作勢(さくせい)ある人の、煩に/医者(いしや)を/請(しやう) 00076470M8じ/脈(ミやく)をとらせ、病はなにと申証にて候や。唯/内損(ないそん)と見えた 00076480M9る由返答せられけれハ、彼/病者(ひやうじや)、さて+くちおしの次 00076490M10第や、/外聞(くわいぶん)をうしなふたりと、くりことのやうにいひける 00076500M11を、/傍(かたハら)より、/生(しやう)をうけたる身に、/上(かミ)一人/下(しも)万民、誰とて 00076510M12のかるるあらん、きこえざるうらみやうやと/教訓(きやうくん)しける時、 00076520M13いや、病をのかれん(18オ)とにはあらず。せめて、わつら 00076530M14ひになりと、/癬(ぜにがさ)か/腹病(ふくびやう)をもやまひで、内損ハなんぞや。 00076540M15△△世中は徳して人にほめられて 00076550M16△△△損して人にわらハれぞする〔1〕 00076560¥N2¥J 00076570¥X 00076580M17△万に/鈍(どん)なりし男の、しかも/富貴(ふつき)なるか、男子を四人も 00076590M18ちたり。雨中のつれ+にあつまりゐ、をのれ+心にの 00076600M19そむ事を懺悔せよとあり。太郎いふ、われは日本の/岩石(かんぜき)を 00076610¥P168 00076620L1金銀にして、其中へはいりてゐたいと。次郎、我れハ(18 00076630L2ウ)日本の/海川(うミかわ)を硯の水になし、/文(ふミ)を書やるほとの威勢を 00076640L3したいと。三郎いふ、我ハ日本の草木を人になして/使(つかい)たき 00076650L4と。親聞もあへす、いづれも一/廉(かど)の/望(のぞミ)ともかなと、うれし 00076660L5けにわらひしを、/惣領(さうりやう)のいふやう、我ハ牛のへのこが四つ 00076670L6ほしい、三つは/弟(おとゝ)の三人にくわせ、一つはほめ給ふ/父(ちゝ)に参 00076680L7らせたけれども、それハ天のおそれあり、めいわくながら、 00076690L8我くふへきまでよ。△△我も人もたけにをよハぬ事を思ひ、せんな 00076700L9きのそみをするならん。(19オ) 00076710¥N3¥J 00076720¥X 00076730L10△熊野へ参詣する人あり。/岩(いは)のかけぢを、たごしとやら 00076740L11ん又あをだとやらんいふにのせて、かゝれたるが、/谷(たに)のふ 00076750L12かき事、千ひろもあらんを見やり、さても一足ふミそこな 00076760L13ふたらハ、/五躰(こたい)ハ/微塵(ミぢん)にならん物よといひけり。彼二人の 00076770L14かきたる者、こゝな人はいろ+のくどきことをいはるゝ、 00076780L15/若(もし)谷へおとしたらハ、けふのやとわれちんをそんにして、 00076790L16とるまいまでよ。 00076800L17/熊野(くまの)の/次(つい)でに、奥州より、なとりの老女とかや、世に(19 00076810L18ウ)聞えたる/有徳(うとく)の/婦(ふ)人ありて、けハしき道をしのぎつゝ、 00076820L19熊野へ/年(とし)参しけるが、ある時のまうでに、/権現(こんけん)/直(ぢき)に告させ 00076830M1給ひし。 00076840M2△△道遠し程もはるかにへだゝれり 00076850M3△△△おもひをこせよ我もわすれし 00076860¥N4¥J 00076870¥X 00076880M4△/武州(ぶしう)/岩筑(いはつき)の山/下(もと)に、毎朝鉢をひらく者、其/類(たぐひ)二三人/寄= 00076890M5合(より=あい)、様&物がたりしける中に、ひとりかいひけるハ、/今生(こんじやう) 00076900M6の/望(のそミ)、/唯(たゝ)/当城(たうしやう)の殿になりたいまてよ、誰が屋/形(かた)とも、なに 00076910M7の/宗旨(しうし)とも(20オ)いハせず、をつこミ+鉢がひらきたい 00076920M8と。 00076930M9鉢をひらくといふ次てに、一路/沙門(しやもん)、和泉にて鉢にいてら 00076940M10れし。心ある人、内より、 00076950M11△△なにをかなまいらせハやとおもへとも 00076960M12△△△達磨宗には一物もなし 00076970M13一路、 00076980M14△△本よりもたまハらさるを得たるこそ 00076990M15△△△本/来(らい)/空(くう)の妙理なりけれ 00077000¥N5¥J 00077010¥X 00077020M16△/瓦(かハら)おち/軒(のき)くづれ△△とひらハありし名のミにて(20ウ) 00077030M17/旧(きう)/苔(たい|こけ)道をあつくとぢ△△/藜蓼(れいてう△|あかざたで)ふかく茂りあひ 00077040M18枕にすたく虫の音も△△きけハ浮世にあき/果(はて)て 00077050M19時雨も雨もすぐにもる△△門の下にて身を過ぎし 00077060¥P169 00077070L1/貧(ひんなる)人のいふやうハ△△我がねがひはしろかねを 00077080L2いま一貫めほしやたゞ△△此屋ねふいてすみたやと 00077090¥N6¥J 00077100¥X 00077110L3△/数(す)人あつまりゐ、をのが心+の/望(のぞミ)をかたりつるに、 00077120L4ひとりがいふ、我はたゝ生れつきたる/両(りやう)眼の外に目を三つ 00077130L5ほしい、一つは/背(せなか)につけ、だしぬき・やミうちの用心かた 00077140L6+、/跡(あと)のかたを(21オ)/自由(じゆう)に見たい、一つは/膝頭(ひざがしら)につけ、 00077150L7/夜陰(やいん)の/歩行(ほかう)あやまちなからん、一つハ手のたけたかゆびの 00077160L8先につけ、/能(のふ)の時又ハ/風流(ふりう)、何にても見物の時、人のせい 00077170L9たけにかまハず、手をさしあけて見たいと。 00077180L10△△何事も心のまゝとねかふこそ 00077190L11△△△つくりやまふよ満足はせし 00077200L12天神廿五首の内に、 00077210L13△△/賎(しつ)のめか庭の木の葉にかきたえて(21ウ) 00077220L14△△△明日の薪にあらしをそ待〔2〕 00077230¥N7¥J 00077240¥X 00077250L15△山門に僧ありき。いとまづしくて、/鞍馬(くらま)に七日参りけ 00077260L16れど、夢も見す。ひた物参り、百日といふ夜、夢に、我ハ 00077270L17しらず、清水へ参れとあれは、清水へ百日参るに、又、我 00077280L18はえこそしらね、加/茂(も)へ申せとや。又加茂へ百日参りたれ 00077290L19ハ、夢に、和僧はかく参る、いとおしけれバ/御幣紙(ごへいがミ)・うち 00077300M1まきの米ほとの物、たしかにとらせんと/仰(おほせ)らるゝと見て、 00077310M2おどろき、あハれにかなし。かほ(22オ)との物何かせんと 00077320M3おもひなから、もとの坊に帰てゐたるに、しりたるかたよ 00077330M4り、物申さんといふ人あり。見れハ白き/長櫃(なかひつ)をになひて、 00077340M5ゑんにをきて帰ぬ。あやしく思ひ、使を尋るになし。あけ 00077350M6て見れは、しろき米と、よき紙とを、一長櫃入たり。見し 00077360M7夢のまゝなり。是/計(ばかり)はいと心うく思へどせんかたなく、此 00077370M8米を万につかふに、同じおほさにてつくる事なし。紙もお 00077380M9なしごとくつかへどうせず。心なかく(22ウ)望をかけて、 00077390M10物まうでハせん物よ。 00077400¥N8¥J 00077410¥X 00077420M11△/若(わか)き/侍(さふらひ)、一段の馬にのり、かけさせてとをるを、鉢ひ 00077430M12らきどもの見て、其中の宿老がいひける、今の馬は我がに 00077440M13したいぞ。なにゝせう。あれにのり、さつさとかけまハり 00077450M14て、はかゆきに鉢がひらきたいと。〔3〕 00077460¥N9¥J 00077470¥X 00077480M15△和泉の/堺(さかい)ハ、一町+に、御用心と名をよびて夜番す 00077490M16る者、一人/宛(つゝ)かならすあり。其/傍輩(はうばい)ども四五人あつまり、 00077500M17さんげの夜かたり、時/移(うつり)(23オ)けるに、/南中(ミなミなか)の町の夜番か 00077510M18申けるやう、我れハ金子を十枚もちたや、/乗物(のりもの)にのつて、 00077520M19御用心がよばりたいと。 00077530¥P170 00077540¥N10¥J 00077550¥X 00077560L1△都に候/乞食(こつじき)とも、/暑月(しよげつ)の夕すゞミ、木の/下(した)に頭をなら 00077570L2べ、今こん/盂蘭盆(うらぼん)を、そちどもはいつくにて送らんや、ち 00077580L3と処を/替(かへ)、堺の/津(つ)に行、/仕舞(しまい)をせんはいかにといふに、/尤(もつとも) 00077590L4と/同(どう)し、五六人づれにてくだり、爰にいたれハ其寺の乞食 00077600L5あり。かしこにおもむけバ、其ところに(23ウ)もらひつけ 00077610L6たる/乞食(こつじき)あり。/施餓鬼(せがき)につけ、/霊前(れいせん)の/供(ぐ)につけ、一/飯(はん)も京 00077620L7の乞食の/所得(しよとく)なし。すご+と京に帰りのほる。似たるを 00077630L8友の乞食/行合(ゆきあひ)、堺にてのやうすはなにとかととふ。其事よ、 00077640L9堺へくだつて、ざつと乞食になつたと。 00077650L10△△日比はわが身をなにと思ふたぞ。 00077660¥N11¥J 00077670¥X 00077680L11△/夜咄(よはなし)する衆の/中間(ちうげん)ども供して行に、比は霜月末つかた、 00077690L12身にきる物のうすくみじかけれは、/膚(はだへ)ハ風の/棲(すミか)となり、/糟= 00077700L13糠汁(そう=かうじる)さへ事たらね(24オ)ば、/腹中(ふくちう)のとほしさに/壁(かべ)のした道 00077710L14の/傍(かたハら)に、ちつことたゝずミ、/頭(かうべ)も足も/冷(ひえ)のぼり、三/更(かう)と 00077720L15過ぬれば、/食気(しよくけ)/漸(やう+)つきはて、/飢寒(きかん)の/愁(うれへ)やすからす。身の 00077730L16あたゝかにてこそ、ねふらん様もなけれは、せめてさんげ 00077740L17の物がたりをはしめ、声もおしまず申せしハ、我れが/望(のぞみ)ハ 00077750L18別にない、天下を十日もちたや、十日の内に、夜咄する者 00077760L19どもをミなとらへ、/成敗(せいばい)して見たいと。其/席(せき)の相客に、心 00077770M1ある人のさむ(24ウ)らいて、中だちし、此旨をさだかに聞 00077780M2つけ、寒者不貧尺玉而冀短褐、飢者不願 00077790M3千金而羨一餐とあり。彼者、述懐も理とぞ憐ミける。 00077800M4△△七夕の/下部(しもべ)にかすぞやれ/衾(ふすま) 00077810M5△△△天の川原の浪にぬらすな 00077820¥N12¥J 00077830¥X 00077840M6△連歌師のもとに奉公したりし小者、今度は町人かたに 00077850M7居けり。友たる者尋ぬる、今ハ/夙(つと)にをきず、/宵(よひ)よりいねて 00077860M8こゝろやすきかやといへは、そちがいふごとく也、さりな 00077870M9がら、今の(25オ)亭主も時ならずうかと空を/詠(ながめ)+するが、 00077880M10わるうしたらバ、あれも連歌しにならふかと思ふてあんず 00077890M11るよと。(25ウ)〔4〕 00077900¥T2廃忘 00077910¥N1¥J 00077920¥X 00077930M14△/是害(せがい)坊のおもてに、/上臈面(しやうらうめん)をかけて出たり。はしがゝ 00077940M15りへ見ゆるとおなじく、あれ+おかしやと/笑(わらい)しを、大夫 00077950M16聞ても今更かへらんやうなし。/舞台(ぶたい)にていひける事ハ、そ 00077960M17も+是はぜがい坊の内方にて候と。〔1〕 00077970¥N2¥J 00077980¥X 00077990M18△/神事(じんじ)能のありけるに、地下の庄屋のむすこにけいこを 00078000M19させ、大夫になし、/始(はしめ)て舞台へ出しける。/自然(しぜん)わするゝ事 00078010¥P171 00078020L1もありなめと、/論義(ろんぎ)(26オ)のかしら/書(がき)をかなに書たり。/兼= 00078030L2平(かね=ひら)の/御(ご)さいごハ、なにとかならせ給ふらんととふ時、ちら 00078040L3と手の内を見てあれバ、/汗(あせ)にながれ正躰なし。肝をつぶし、 00078050L4兼平の御さいごハ、むつちやとならせたまひけりと。 00078060¥N3¥J 00078070¥X 00078080L5△/真言(しんごん)宗の老僧、こざかしき/弟子(でし)あまたもたれけるあり。 00078090L6山寺の冬の/夕(ゆふへ)、ことに物すさまじくさびしかりつるに、/豆= 00078100L7腐(とう=ふ)たゞ一丁ならでなし。是を田楽にしなぐさまんに、むさ 00078110L8と(26ウ)くふては曲なし。さあらバ、一の字のつきたる祖 00078120L9師の名を、をの+いふて食すへきにきはめられたり。/嫡= 00078130L10弟(ちやく=てい)、/九曜曼陀羅(くようまんだら)の/元祖(くハんそ)一行阿/闍梨(しやり)ハたつとしと、一くしと 00078140L11りたり。次の弟子、ちくと人の知たる一山一/寧(ねい)といふあり 00078150L12と、二くしとりたり。/時衆(ぢしう)の/開山(かいさん)一/遍(へん)といふありと、一/峯= 00078160L13妙斎(ほう=ミやうさい)といふありと、/大山(たいさん)一/元(けん)のやれ、ひた物とりくい、も 00078170L14はや田楽一串残れり。/師匠(ししやう)終に/言句(こんく)出ず。是ハ無念也と 00078180L15(27オ)思ひ、手を指出し、がつきめ、/弘法(こうほう)大師といふてと 00078190L16られたり。△△弘法に一の字ハないの。十号の中に見えす。 00078200L17弘法のつゐでに、/位高(くらいたか)き/上臈(しやうらう)の、高野山は女人けつかいと 00078210L18聞なれハ、生をかへてならでハとおもひつゝけ給ひて、小 00078220L19袖を/施入(せにう)ある時、 00078230M1△△のほるへき便なけれバ高野山 00078240M2△△△かねてしきをく法の狭莚 00078250¥N4¥J 00078260¥X 00078270M3△小者の見めよきが、奉公せんとて来れり。坊主心をよ 00078280M4せ、常になれし若衆のねいるをう(27ウ)かゝひ、/忍(しの)びて/起(をき) 00078290M5出る。少人聞つけ、跡よりそと行。坊主足音に肝をつぶし、 00078300M6/壁(かべ)に大手をひろげ、足をまたげゐたり。若衆見て、何事に 00078310M7やととふ。蜘のまねしてあそぶと。〔2〕 00078320¥N5¥J 00078330¥X 00078340M8△/亭主(ていしゆ)の留/守(す)となれは、つねにかよひなれたる者あり。 00078350M9/兼(かねて)の約束ハ屋ねからしのび来れ、橋をかけをかん、亭主帰 00078360M10りたらバ、屋ねをありくは/猫(ねこ)であらふといふ時、/猫(ねこ)の鳴ま 00078370M11ねをせよと、しめしあわせてをきつるが、まことの折、 00078380M12(28オ)男聞つけ、屋ねをありくハ人のやうな。女房、いや、 00078390M13此ほど大なる猫がありくといふに、彼方肝をけし、にやう 00078400M14といふべきをうちわすれ、ほそ声になり、ねかうと申なり。 00078410M15〔3〕 00078420¥N6¥J 00078430¥X 00078440M16△若衆とふたりゐねてありし法師が、/暁(あかつき)雨のふる音を 00078450M17聞、なむ三宝、とめて朝食をふるまはずはなるまい。そら 00078460M18ねいりし、おきて帰るを、しらぬふりにせんこそよからめ 00078470M19と、思案しければ、若衆そとおきて行。もはや門の(28ウ) 00078480¥P172 00078490L1そとへ出ぬべきとおもひ、心もとなさにおきて見ければ、 00078500L2いまた門の内にやすらへるを見つけ、/仰天(きやうてん)し、立てゐなが 00078510L3ら目をふさぎ、たかいひきをかき事は。〔4〕 00078520¥N7¥J 00078530¥X 00078540L4△高野の/威(い)をかり、諸国をありく/聖(ひじり)の/若(じやく)輩なるが、一 00078550L5夜の宿をかりけるに、亭主ハるすにて、わかき女房の/徒(いたづら) 00078560L6さうなるあり。とかくいひより、此ゆふべあハんにさたま 00078570L7れり。然に女房の/指南(しなむ)するやう、そちハ二階にいね(29オ) 00078580L8よ。/鷄(にわとり)がなかねば、げすどもをいねさせぬ/法(ほう)也、とかたれ 00078590L9ば、聖、われは/幸(さいわい)鷄の鳴まね上手ぞと/契約(けいやく)し、/戌亥(いぬい)の/刻(こく) 00078600L10も/過(すぐ)るを/遅(をそ)しと、高野笠を手にもち、はた+としけり。 00078610L11女房、やれ鷄がはや鳴げなハといふ声をあいつに、そのま 00078620L12ゝ、やどうかと。 00078630L13高野ひじりのつゐてに、ある/公家(くげ)方へ、わかき女房/達(たち)をば、 00078640L14あそびにとてよび給ひつれとも、年ふりたるひとり残され 00078650L15けるに、/述懐(しゆつくわい)、(29ウ) 00078660L16△△わたくしは高野聖にあらねども 00078670L17△△△おいにおひたるゆへにめさずや 00078680¥N8¥J 00078690¥X 00078700L18△たうとげもなき出家の、檀那と一つ席によりあへる事 00078710L19あり。僧二声三声きやつきやと/喉(のと)をかすりけるに、/楚忽(そこつ)に 00078720M1魚の/骨(ほね)出たり。坊主其/骨(ほね)を手にとり、あらふしぎや、是ハ 00078730M2誰れがくふたる魚の骨てあらふぞと。 00078740¥N9¥J 00078750¥X 00078760M3△ある僧、/新(あたらしき)小刀の大なるをもちて、/鰹(かつを)をけつりゐけ 00078770M4る処へ、知音の人おもひよらず来(30オ)れり。あまりにと 00078780M5りみだし、小刀を/鰹(かつうを)と思ひ、いそぎてかくし、鰹を小刀と 00078790M6おもひ、さし出し、此比/関(せき)の小刀をもとめた、御覧ぜよと 00078800M7そ申ける。△△物のきれぬ小刀であらふの。〔5〕 00078810¥N10¥J 00078820¥X 00078830M8△我れが/秘蔵(ひさう)の/紫(むらさき)/小袖(こそで)が見えぬ、しかとそちがぬすみた 00078840M9るといふは。いやとらぬ。さりとては/証拠(せうこ)人ありと、つよ 00078850M10くいふ時、とりハせぬ、人の見ぬにもらふたと。〔6〕 00078860¥N11¥J 00078870¥X 00078880M11△わかき/座頭(ざとう)のよばひして、/垣(かき)へのぼりこえん(30ウ)と 00078890M12する処に、折節月のくまなき夜、ていしゆ見つけ、座頭は 00078900M13何事にといふ時、てんへのほりさうよと。 00078910¥N12¥J 00078920¥X 00078930M14△京にて、いつれやらん当宗の寺に、日念上人といふあ 00078940M15りし。其弟子のいふ、是ハ不審な、/念仏(ねんぶつ)の念の/字(じ)てハなき 00078950M16かと。いや+、/法然(ほうねん)の然てこそあれ、中+念仏の念て 00078960M17ハない。 00078970¥N13¥J 00078980¥X 00078990M18△京辺土にて、ある/東堂(とうだう)の/細工(さいく)に、蟹びしほをするとて、 00079000M19塩一二升を/用意(ようい)し、ふりかけ(31オ)ゐらるゝ処へ、ふと/檀= 00079010¥P173 00079020L1那(だん=な)来れり。さても、よくぞおはしましたる、内&人のはぐ 00079030L2ゝみのいろを見せ参らせたやとこそおもひ候つれ、其故は 00079040L3/愚僧(ぐそう)がしんせつのだんな、/尼崎(あまがさき)に有、/某(それがし)つかふ程は、しほ 00079050L4をつゞけてくれんとのけいやく也、されども道の程遠けれ 00079060L5ハ、人馬のありきハざうさなる条、いつも蟹におふせて送 00079070L6らるゝ、是御覧せよとぞ申されける。 00079080¥N14¥J 00079090¥X 00079100L7△月/次(なミ)の初心/講(かう)に入てはあれど、ふるう+(31ウ)の/風= 00079110L8情(ふ=ぜい)なれバ、/指南(しなん)する人あハれミ、一/順(じゆん)の句を/暦(こよミ)のうらに書 00079120L9てつかハし、なにとなうわきにをき、見ぬふりし、句を出 00079130L10すやうにいひふくめつる。うかがふまに、ハや句まハり、 00079140L11我手まへになりぬ。あはてゝ句を/忘(わす)/((れ脱))、暦のおもてを見つ 00079150L12ゝ、 00079160L13△△かのとひつじかまぬるによし 00079170¥N15¥J 00079180¥X 00079190L14△おどけもの、/縁(ゑん)を/行(ゆき)ちかふとて、小姓の口をすふ。わ 00079200L15きより、見たぞ+と/云時(いふとき)、あまり/肝(きも)(32オ)をつぶし、/旅(たび) 00079210L16しやに、ゆるせ+と申事ハ。(32ウ)〔7〕 00079220¥T2謡 00079230¥N1¥J 00079240¥X 00079250L19△あの月のゆくミちは、なにゝのりてありくなれバ、あ 00079260M1れほとあしがはやいぞよ。馬にのらるゝ。なにゝ書たるぞ。 00079270M2桜のこの馬にのる月の、しかもおもしろのはるびや、あら 00079280M3おもしろのはるびや。〔1〕 00079290¥N2¥J 00079300¥X 00079310M4△山/姥(むは)は/福分(ふくぶん)の人にてあると/聞(きく)が、/耕作(かうさく)ハせず、あきな 00079320M5ひのをともなし、なにとしたる事に、うとくなるぞと/不審(ふしん) 00079330M6する。/奇特(きどく)をいはるゝ、(33オ)こと/葉(ハ)にハいへと、目に見 00079340M7る者なし、其上、/不弁(ふへん)/分限(ぶんげん)をまで、いかにとしてしられた 00079350M8るぞ。かくれもない、山うはにつくりたるハ、/八木(はちぼく)たう 00079360M9+どしてと。〔2〕 00079370¥N3¥J 00079380¥X 00079390M10△信長公の御前に、/連一検校(れんいちけんぎやう)候ひつるとき、/傘持(かさもち)なに 00079400M11としたりけん、/笠袋(かさふくろ)をおとしたるを、曲事也とて/折檻(せつかん)ある 00079410M12に、連一申けるハ、物をおとすハ昔よりあるならひと、聞 00079420M13えて御座ある。なに物がいたぞと/仰(おほ)せの時、高砂に、/尾上(おのへ) 00079430M14の/鐘(かね)も(33ウ)おとすなりと。/即(すなハち)お/機嫌(きげん)なをりぬ。 00079440¥N4¥J 00079450¥X 00079460M15△信長公へ、/熊野(くまの)/新宮(しんぐう)方よりの使者、/寂静(しやくじやう)坊といふ参 00079470M16り、御咄ある/砌(みぎり)、連一出仕しけり。此座に新宮の使あり、 00079480M17なにゝても物語をせよと御諚有に、/追付(をつつけ)て連一、さて、熊 00079490M18野に一らと申在所の候や。いやなし。さてハ寂静はくまの 00079500M19ゝ人にてはあるまじ、くま野にゐる者の、やがて/隣(となり)の在所 00079510¥P174 00079520L1一らをさへ、しりたまハぬほとにとつむる。くま野ゝ事ハ 00079530L2をき(34オ)ぬ、/紀州(きしう)一国に一らといふ処なしと、色をそこ 00079540L3なひあらそふ時、二人静に、一/栄(ゑい)一らくまのあたりと候が、 00079550L4いな事やと申て、大/笑(わらい)になせり。〔3〕 00079560¥N5¥J 00079570¥X 00079580L5△日待の座敷にて、手拍子をうち、清経の、一門は気を 00079590L6うしなひ、ちからをおとひてとうたふに、小姓ちくと膝を 00079600L7つきけるに、/驚(おとろ)き、なにゆへぞととふ。其事よ、これの殿 00079610L8のらやくをわつらひ、さん+なるを、うらかたのかなし 00079620L9かりて、/祈(き)祷のために、日をまたせ給ふぞ、かしらをおと 00079630L10(34ウ)ひては、にか+しやとさゝやくに、其まゝ、心は 00079640L11真女の玉かづら、心は真女の玉かつらあと、らを長+と 00079650L12ひきて、長き/夢路(ゆめぢ)やさめぬらむと、なをしたるもおかしや。 00079660¥N6¥J 00079670¥X 00079680L13△尾張守といふ人のまへにて、ふと、伊勢やと/謡(うたい)出し、 00079690L14かほを見て、やれとおもひ、いせや、あのごりよのうみつ 00079700L15らにたつと、なをしことハの。 00079710¥N7¥J 00079720¥X 00079730L16△田村に、千の手には千の/矢(や)さきとつくりたるが、是は 00079740L17不審な、手には五百の矢さきならん(35オ)物を。それはそ 00079750L18なたのをそい、むかしも、あれを見よ、ふしぎやなといふ 00079760L19たハ。 00079770¥N8¥J 00079780¥X 00079790M1△/鵺(ぬえ)をうたハせ聞て、御/殿(てん)の大/床(ゆか)に/伺公(しかう)してハあしさう 00079800M2な、宵から行て居たほどに、ひえてしとをしてがよからふ、 00079810M3其/子細(しさい)ハ、ぬゑを/射(い)たりし後、/官(くわん)をたまふ時、既に/左少弁(させうべん) 00079820M4になされたるは。〔4〕 00079830¥N9¥J 00079840¥X 00079850M5△仏には/毛(け)があるか、なき物か。いや、ない、/無(む)げ/光仏(くわうぶつ) 00079860M6とあり。いや、ある、けぶつほさつといへり。/互(たがい)に(35ウ) 00079870M7ろんじて、/堂(たうの)坊主に判談をうけゝれハ、あるにあらす、 00079880M8なきにあらず。それハ何事ぞ。ゆやの/謡(うたひ)に、/末世(まつせ)一/代(だい)けう 00079890M9すのによらいとつくりたほどに。〔5〕 00079900¥N10¥J 00079910¥X 00079920M10△熊野侍は、盃をさす段には、必謡てさすが法なり。祝 00079930M11言の時、ある人、通盛の、うきなから心のすこしなくさむ 00079940M12ハ、げに/海辺(かいへん)のわざと、うたひたれは、さゝるゝ者、その 00079950M13まゝ脇指をねちまハし、親しや人のあなたにて聞るゝ(36 00079960M14オ)に、/海辺(かいへん)の事をうたふたるハ、我れを/馬鹿(ばか)にしたり、 00079970M15きくまいとて、くるひしかバ、ざしきの/興(けうも)さめぬ。 00079980¥N11¥J 00079990¥X 00080000M16△杜若の謡に、三河の国に/着(つき)にけりとあるは、作りそこ 00080010M17なひやといふて、わらふ者あり。何といふがよいぞ。にか 00080020M18ハの国につけにけりか本であるそと。雄長老、 00080030M19△△水でとくにかハのあやめ杜若 00080040¥P175 00080050L1△△△にたりやにたとにためきそする(36ウ) 00080060L2△△名にしおふその八橋を来てミれハ 00080070L3△△△田はかりありてかきつハゝなし 00080080L4△△やせにけり此花の名やがきつハた△△△長/願((ママ)) 00080090L5△△△のまんとすれハなつの沢水△△△△△宗長 00080100L6△△くちなハにをハれていつちかいるらん△宗鑑 00080110¥N12¥J 00080120¥X 00080130L7△/蚤(のミ)といふ物も一/廉(かと)のやつやら、謡につくつた。なにゝ 00080140L8ある。二人静に、あとをのミ/御芳野(ミよしの)のと。それならバ/虱(しらミ)を 00080150L9こそ猶ほめたハ。なにゝ。/実盛(さねもり)に、しらみあひたる池のお 00080160L10もにとあるハ。(37オ)〔6〕 00080170¥N13¥J 00080180¥X 00080190L11△/楊貴妃(やうきひ)をつくるほどの者が、/比翼(ひよく)の鳥ハなんぞや。目 00080200L12のまへにある事をしらいで、ひよこの鳥とこそよけれと。 00080210¥N14¥J 00080220¥X 00080230L13△/楊貴妃(やうきひ)を/玄宗(げんそう)の/后(きさき)といふは、えしらぬ者のいふ事よ、 00080240L14さうべつ、やうきひハ熱田から出られたといふがまこと也。 00080250L15長/恨(ごん)哥に、然と/楊(やう)/玄閻(げんえん)が/娘(むすめ)、玄宗の后とあるに。いや、そ 00080260L16れはむさとしたる事そ。幸、楊貴妃にぬしとさんげして、 00080270L17われもそのかミは、浄海のせせつたるがと(37ウ)いはれた 00080280L18もの。 00080290¥N15¥J 00080300¥X 00080310L19△三輪に、ある夜のむつごとに、御身いかなるゆへによ 00080320M1りとハ、作意もないつくりやうかな、さうじて理のすまぬ 00080330M2/文章(ふんしやう)や、たゞ、ある夜の六つ時に、御身いかなるうへにの 00080340M3りと、なをしたらバよからふと。△△作者めいわくの。〔7〕 00080350¥N16¥J 00080360¥X 00080370M4△宗/養(よう)といふ連歌師ハいたハしや、あめの魚をくふて、 00080380M5それがたゝりてしなれたよなどかたる。つゐに聞もをよバ 00080390M6ぬ、そちハなにとして、/其(その)/田(ゆい)(38オ)/緒(しよ)をはしりたるぞ。采 00080400M7女にかいたほどの事を、しらぬ者があらふか。なにとかい 00080410M8た。あめは/草葉(さうよふ)を打なりと。 00080420¥N17¥J 00080430¥X 00080440M9△/高雄(たかお)/神権寺(じんごじ)の文覚は、声のたかい人であつたといふが、 00080450M10あらぎやうをせられた奇特かよと。声のたかいといふ事を、 00080460M11今まてハきかず、書物にあるか。/勿論(もちろん)、/誓願寺(せいくわんし)に、虚空に 00080470M12ひゞくは、もんがくのこゑとつくつたは。〔8〕 00080480¥N18¥J 00080490¥X 00080500M13△あの/幽霊(ゆふれい)といふ者ハ、なにとて/足袋(たび)をほし(38ウ)かる 00080510M14そ、/実(まこと)や、/死出(しで)の山、/刀山剣樹(たうさんけんじゆ)の/嶮難(けんなん)にもいる物かや、/不= 00080520M15思義(ふ=しき)なる事かなと、ひとりごとにいふてかんする者あり。 00080530M16そなたハいつ/幽霊(ゆうれい)にあふて、たびをはきたるをば見たそと 00080540M17尋けれハ、いや、是ハ過つる夕くれに、あの松かけの/苔(こけ)の 00080550M18下、なきあととハれ参らせつる、松風村雨二人の女のゆう 00080560M19れい、これまて参りたりとあれは、彼兄弟の幽霊にはすん 00080570¥P176 00080580L1だぞとよ、其ふたりは僧にあふて、我か跡とひてたひ給へ 00080590L2と(39オ)こふたハ、さて。△△又/極楽(ごくらく)とハいへとも、足のひゆる 00080600L3処やらん、たび給へとハうたふたかやとも。 00080610¥N19¥J 00080620¥X 00080630L4△/備後(びんこ)と/出雲(いつも)ハならひの国なり。備後に/尺田(しやくた)といふ山家 00080640L5あり。彼在所のうば、出雲の/三沢(ミさハ)といふに神事能あるを見 00080650L6物に行、はしがゝりのわきにゐたり。高砂をする時、うば 00080660L7こそ当所の人なれ、しる事あらバ申さ/((せ脱))給へと、/急度(きつと)/件(くだん)のう 00080670L8ばかかたを見てあれハ、姥/驚(おとろ)き申けるやう、うらハしやく 00080680L9だのもので、なにもいわふ事ハ(39ウ)おじやらぬ。 00080690¥N20¥J 00080700¥X 00080710L10△津のくに兵/庫(ご)の浦にて、祭礼の能ありしに、舟弁慶の 00080720L11はてに、跡/白浪(しらなミ)といふを、やれ/不吉(ふきつ)やと思ひ出し、大夫声 00080730L12をあけて、跡くらやミとそなりにける。 00080740L13△△なをされぬハせめてよし。 00080750¥N21¥J 00080760¥X 00080770L14△田舎人の上洛し、宿主にむかひ、/某(それがし)が京のぼり一世の 00080780L15始に候、いづくをありき、なにを見ても/合点(かつてん)ゆかず候まゝ、 00080790L16いそかハしくともつれてありかれ、処+ををしへてたべ、 00080800L17/故郷(こきやう)に(40オ)かへり、みやけにせんなど懇にかたらひ、出 00080810L18る。まつ四条の/橋(はし)をとほるに、是こそ謡にうたふ四条の橋、 00080820L19あれに見ゆるは五条の橋の上候よ。さてもうれし、ゆやに 00080830M1あるめいしよを見たる事や、して+其/老若(らうにやく)/男女(なんによ)といふ 00080840M2処ハ、やがてこのあたりにてハ候ハぬか。京の/案内者(あんないしや)も一 00080850M3円ぶ/文字(もんじ)にありけれバ、/理(り)がすまいで返事するやう、其老 00080860M4若男女は三年あとの大/洪水(かうずい)に、ミなながれたと。(40ウ) 00080870M5△△渡り得てうき世の橋を詠れハ 00080880M6△△△さてもあやうく過し物かな〔9〕 00080890¥N22¥J 00080900¥X 00080910M7△正月廿五日/法然(ほうねん)の/御忌(きよき)を/拝(はい)せんと、人あまたいさなひ、 00080920M8知恩院へ参るに、目もあかぬ程、雪のふりしを、さてにく 00080930M9き雪やといふ者ありし時に、ひとりが、昔より上人の/霊前(れいせん) 00080940M10へそなへ物に、ふらではかなハぬとかいてをいた。/撰択= 00080950M11集(せんしやく=しう)ニあるか。いや、/難波(なにわ)に、雪はほうねんの/御調(ミつき)物と。 00080960¥N23¥J 00080970¥X 00080980M12△ゆやにむかひ、是は平の宗盛にて候と、/自慢(じまん)(41オ)し 00080990M13て申されけれと、ゆやは一向さほとにおもはなんだれはこ 00081000M14そ、いや、それハこしぢ、われハまだとこないたほとに。 00081010¥N24¥J 00081020¥X 00081030M15△津のくににて、ある侍の、/鶉狩(うつらかり)してあそバんと、小鷹 00081040M16すへさせ出られけるに、/万代(ハんたい)か池のあたりに人あつまり、 00081050M17大にいさかひする躰也。/加世者(かせもの)をつかハし、やうすを見せ 00081060M18けれハ、彼/使(つかい)たちかへり、道とをりの奉公人と、百/姓(しやう)のた 00081070M19ごになひと/口論(こうろん)仕候が、百性のかたが/道理(だうり)さうに見えて 00081080¥P177 00081090L1(41ウ)御座ある。なにと道理とハ。こえもち少もさはきた 00081100L2まハぬほとに。 00081110¥N25¥J 00081120¥X 00081130L3△いな者とものよりあひ、小野の小町は美人にて、/桃花(とうくわ) 00081140L4雨を/帯(をひ)たる風情ともほめ、哥の道世にすくれ、おふなのす 00081150L5がたになそらへ、よハ+とよみたるなとほめけるが、/勿= 00081160L6恠(もつ=け)な事ハ、気が短慮に、酒にゑふてハ人とからかひ、/垣壁(かきかべ) 00081170L7をも打やぶり、らつしがなかつた、/大疵(おゝきず)といふ。上戸とも 00081180L8下戸とも、短気ともしらざり(42オ)し、そちには誰が/語(かたり)て 00081190L9きかせたるそ。関寺小町を聞給へ、垣に/喧嘩(けんくわ)をかけ、戸に 00081200L10ハ/酔狂(すいきやう)をつらねつゝと。〔10〕 00081210¥N26¥J 00081220¥X 00081230L11△なにといふいはれに、昔ハ花になく鴬、水にすむ/蛙(かハつ)を 00081240L12/始(はしめ)、馬などまて哥をはよみたるぞ、人倫たる身をうけなが 00081250L13ら、五文字七文字のわかちさへしらぬハとなげく。やさし 00081260L14の心ハへや、さりながら、馬のよみたる哥はいまたきかす。 00081270L15(42ウ) 00081280L16△△世中にさらぬ別のなくもかな 00081290L17△△△千代もといのる人のこのため 00081300L18これこそ馬のよみたる/証哥(せうか)ざうよ。是ハ/業平(なりひら)のにてハなき 00081310L19か。念もない、ゆやに、そも此哥と申は、長岡にすみたま 00081320M1ふ/老馬(らうば)のよめるうたなりとこそ。〔11〕 00081330¥N27¥J 00081340¥X 00081350M2△三好中納言殿にて、大名衆に/振舞(ふるまい)あり。朝食過、酒二 00081360M3三返とをれとも、/終(つゐ)に/末座(ばつざ)にある/芸者(げいしや)に膳をすへず。其時 00081370M4申様、殿様/達(たち)(43オ)/飯(いひ)を参りて候へバ、早&我らごときの 00081380M5者にふるまひをたまハるハ、/古(いにしへ)より定れる/時宜(じぎ)て御さある 00081390M6と。其時宜をば更にきかぬと、中納言殿仰あれバ、楊貴妃 00081400M7に、君きこしめされつゝ、いそぎめしいたしと御座候ハ。 00081410¥N28¥J 00081420¥X 00081430M8△かたのごとくの下手大工、能を見物に行ける時、わき 00081440M9が出て、津のくに高砂の/浦(うら)をも一/見(けん)せばやと存候といひけ 00081450M10れバ、かの大工ひた物かんじゐるを、左右にある者ども、 00081460M11こゝな者ハ(43ウ)何事をうなづくやらんときけバ、/友達(ともだち)に 00081470M12むかひ、われハ高砂の浦を見て、ひろいと計おもひたるに、 00081480M13今の人は、一/間(けん)せばいといふたハおもしろい、なにゝも/余= 00081490M14分(よ=ふん)をおきてさげすむへき物也、これぞ/後学(こうがく)やとて、はたは 00081500M15/すかん((ママ))しごとは。△△妙なきゝやうや。 00081510¥N29¥J 00081520¥X 00081530M16△/蝋(らう)をつけたる馬二疋京へのほる。山中の/関(せき)にて、/役(やく)を 00081540M17せよといふ。いや、昔より惣じてらうをつけたる馬に、役 00081550M18をしたるためしなしと、(44オ)/互(たがひ)に/争論(しやうろん)なかばなる/砌(みぎり)、沼 00081560M19の藤六とをりあハせ、/双方(さうほう)の理非を/聞(きゝ)、向後ハともあれ、 00081570¥P178 00081580L1まづ此度は役をゆるせ、/幸(さいわい)、/関寺(せきてら)に、らうににハやくもな 00081590L2しとあるぞ。 00081600¥N30¥J 00081610¥X 00081620L3△昔は/番匠(ばんじやう)のもつ/釿(てうの)も物をいふたとあるが、今はきかぬ 00081630L4の。そのやうなるうそをバ、いつくにてきかれたぞ。高砂 00081640L5に、しかるにちやうのうがことばにもと、ありごとハある。 00081650¥N31¥J 00081660¥X 00081670L6△三五夜中の新月は△△/宵(よひ)よりくまなき空の色(44ウ) 00081680L7ねられん物かいさゆかんと△△なをざりならすうちとけて 00081690L8かたるやとにぞあつまりぬ△△亭しらかゆを/煮(に)て出せバ 00081700L9月/海上(かいしやう)にうかんでハと△△興をもよほしほめにけり 00081710L10しハし程ありすひ物に△△/鰻(うなぎ)/調味(うてミ)しすへたれば 00081720L11あひにあふたるもてなしや△△月海上にうかんては 00081730L12うなぎも浪をハしるかと△△申せし人のゆかしさよ 00081740¥N32¥J 00081750¥X 00081760L13△やうきひの能に、大夫がしるしの/簪(かんざし)をとかんとするに、 00081770L14/面(おもて)をゆふたるいとにむすぼれ、/終(つゐ)に(45オ)とけず。せんか 00081780L15たなけれバ、面ともにとりそへてわたす。わきが二いろを 00081790L16手にもち、しるしのかんさし面まてたまハりと、うたいご 00081800L17とは。△△大夫のすがほいかゝ候ハん。 00081810¥N33¥J 00081820¥X 00081830L18△京の丸山といふ処に、人あまたあそびける。ふるまい 00081840L19の/菜(さい)に/醤(ひしほ)出たり。風味ことに/勝絶(しやうぜつ)なり。このひしほといふ 00081850M1物をハ、/誰(たれ)がたくミに作りそめつるやといふ。これこそか 00081860M2くれもなひ、/融(とふる)の/大臣(おとゞ)より出来そめたる物よと。なにぞ 00081870M3(45ウ)文に書てあるか。中+、すなハち融に、/浦(うら)ハ其ま 00081880M4ゝひしほとなつてと。 00081890¥N34¥J 00081900¥X 00081910M5△奥州にみてぐらといふ武家あり。彼館にて能に/鉄輪(かなハ)を 00081920M6しかゝり、おそろしやみてぐらにといふを、ゆきあたり、 00081930M7/俄(にハか)になをし、おそろしや/胯(またぐら)に、三十番神おハしますと。 00081940M8△△あさましき神のゐところや。〔12〕 00081950¥N35¥J 00081960¥X 00081970M9△津のくに/海士(あまが)か/崎(さき)にて神事能あり。野の宮をする時、 00081980M10うらかれの草葉にあるゝをかゆると(46オ)て、たてがれの 00081990M11くさばにあるゝとうたひしも、うらめしき作分や。 00082000¥N36¥J 00082010¥X 00082020M12△銭をかしたる人の方へ、年のくれに使をつかハしこひ 00082030M13けれバ、返事に、三年四年/利分(りぶん)をなしたり、もはやそなた 00082040M14の物をばおはぬといふ。かしぬし大に腹立し、対顔して、 00082050M15本利共にすませと。いや、利分計にてすまされよ、/尺迦(しやか)の 00082060M16/時代(じだい)から本利ともになす事はない。それハなにとしたる存 00082070M17分そや。されは(46ウ)ゆやに、仏ももとハすてし世のと作 00082080M18り、もとなさねば、仏さへゆるされたハ、さて。 00082090¥N37¥J 00082100¥X 00082110M19△和泉の堺に、山/本(もと)/雅楽(うた)とて/小鞁(こつゞミ)の上手あり。/幽閑(ゆうかん)法印、 00082120¥P179 00082130L1/政所(まんところ)なりし時、能あり。法印/彼(かの)雅楽をまねき、そちハ三輪 00082140L2をうたれよ、三輪の山もととあるなれハ。言下に、かたし 00082150L3けなや、ことによみて見たれバ、うたなりと申せしハしほ 00082160L4らしや。〔13〕 00082170¥N38¥J 00082180¥X 00082190L5△/実盛(さねもり)/生国(せうこく)ハといふ。一/向(こう)すまぬ。なにといふが(47オ) 00082200L6よい。さねもり生得はが、本にてあると。 00082210¥N39¥J 00082220¥X 00082230L7△卒都婆小町に、/垢膩(くに)の垢づけると。これもわろい、く 00082240L8にゝそも、あかゞある物か、五躰の内にてもよくあかのあ 00082250L9る処ハうなじなるまゝ、くびのあかづけるがよいと。 00082260¥N40¥J 00082270¥X 00082280L10△千手重衡に、雪のふる枝のかれてだにと。これこそそ 00082290L11でもない事よ。よきのふるえとこそうたふへけれ。 00082300¥N41¥J 00082310¥X 00082320L12△信長公へ/客(きやく)あり。御/膳(ぜん)出つるに、是ハ一段そ〔47ウ)さ 00082330L13うなる/仕立(したて)やと仰らるゝ。折節/連一(れんいち)候て、昔より大名のこ 00082340L14しめす物ハ、そさうなるか本と聞えて、/兼平(かねひら)に、口惜の君 00082350L15の御振舞や候と申せしに、判官これをきこしめしと。 00082360¥N42¥J 00082370¥X 00082380L16△和泉の国/万代(もず)の八幡にて能あり。実盛をしけるが、あ 00082390L17つはれをのれは日本一の剛の者といふて、きつとかたハら 00082400L18を見る。同ならびに/国府(こを)の清水とて名所あり。又ならびの 00082410L19在所にくろどりといふあり。年ふけたる男、(48オ)我か事 00082420M1をいふかとおもひ、いや、おれハかうの者ては候ぬ、くろ 00082430M2どりの百姓じやと。 00082440¥N43¥J 00082450¥X 00082460M3△江口ハよき/謡(うたい)なれど、其さまをいやしうつくりてわろ 00082470M4い。江口の君の/幽霊(ゆうれい)まてハ大事ないか、こゑばかりしてう 00082480M5せにけりが、/農(のう)人のやうなと。 00082490¥N44¥J 00082500¥X 00082510M6△当世ハ/刀(かたな)/脇指(わきさし)/数寄(すき)道具につけ、なにもミなにせ物あ 00082520M7り。/手苦労(てくろう)物がはやるといふ物語出けれハ、今バかりでハ 00082530M8なし、むかしよりある事なり、人間の/噂(うハさ)はをきぬ、仏の上 00082540M9にさへ(48ウ)似せものがあつたれバこそ、/当麻(たへま)に、正身の 00082550M10弥陀如来、げに来迎と作りたるハと。 00082560¥N45¥J 00082570¥X 00082580M11△せいくわんじの阿弥陀ハ、いかなるミそきにてかつく 00082590M12りたるらんといふ人ありしに、/榧(かや)の木にてつくりたるハ。 00082600M13なにとしてしりたるぞ。かくれもない、誓願寺の謡に、春 00082610M14日の明神の御作とかや。 00082620¥N46¥J 00082630¥X 00082640M15△我れハこのほと/歯(は)がぬけたとてかなしめバ、歯のぬく 00082650M16るハ命の長からんしるしにてある(49オ)と書たるは。いか 00082660M17なる書物にあるぞ。/関寺(せきてら)小町に、おちても残りけるハ露の 00082670M18命也けりと。〔14〕 00082680¥N47¥J 00082690¥X 00082700M19△/宿老(しゆくらう)たる主人の前にて、関寺を所望せられ、いとゞし 00082710¥P180 00082720L1く老の身の、こハりゆくはてぞかなしき。 00082730¥N48¥J 00082740¥X 00082750L2△能登の/徳宥(とくゆう)といふ人のもとにて、/海士(あま)をうたふに、今 00082760L3此経の/徳祐(とくゆう)にてを、やれと思ひ、徳祐さまとなをし事ハ。 00082770¥N49¥J 00082780¥X 00082790L4△大閤/秀吉(ひてよし)公、/聚楽(じゆらく)にて能を御沙汰ある時、(49ウ)/本因(ほんいん) 00082800L5坊見物する/桟敷(さんじき)へ、/雄(ゆう)長老狂哥ををくられし。 00082810L6△△碁盤(ごばん)まて本因坊が能を見ハ 00082820L7△△△目ハ白黒くなりぬへきかな(50オ) 00082830¥T2舞 00082840¥N1¥J 00082850¥X 00082860L10△人あまた朝食によりあひぬ。中にひとり、夕の大酒に 00082870L11いまた/頭(かしら)がをもひとかたる。盃ハなににてかありつらん。 00082880L12だる盃でハなかりつるかとたつぬる。/奇特(きどく)や、さやうの名 00082890L13をも/始(はしめ)てきいた、五/度(と)入・七/度(と)入・/湯盃(とうさん)・/可盃(へくさかづき)・/芙蓉盃(ふようばい)・ 00082900L14/金杯(きんはい)・/銀盃(ぎんはい)・/鸚鵡盃(あふむはい)・/薬玉船(やくきよくせん)・七/宝(ほう)のやれ、びいどろの 00082910L15さかづき、ちよくなどゝいふこそあれといへハ、/判官(はうぐハん)殿 00082920L16/最後(さいご)に、高/館(だち)にて酒もりのありしとき、いで(51オ)たる盃 00082930L17にてある物を、えしらぬよなとわらふ。そちほと物しりハ 00082940L18あるまい、/吾妻鏡(あづまかゞミ)のやうなる書にあるかや。いや、高だち 00082950L19に、/亀井(かめい)がのうだる/盃(さかづき)を、/武蔵殿(むさしどの)へおもひざし、これよと。 00082960¥N2¥J 00082970¥X 00082980M1△烏帽子折をまふとて、/山路(さんろ)殿が吹物の名をバなにとい 00082990M2ふやらん、名をバなにといふやらむと、くり返しくり返し 00083000M3まへども、つゐに/横笛(よこぶえ)いでず。人ミな/笑止(しやうし)におもひ、むか 00083010M4ふより/扇(あふぎ)をよこたへ、ゆびををしつあげつ、/笛(ふえ)/吹(ふく)まね(51 00083020M5ウ)をし、をしへければ、ちく+うなづき、がつてんし 00083030M6たるかほにて、あけくに、ちやるゝらと申さうと。〔1〕 00083040¥N3¥J 00083050¥X 00083060M7△舞ハまいたし、/習(なら)ふ事ハならず。なましひにかな書を 00083070M8よむ者、ある/席(せき)にて/敦盛(あつもり)をまふに、/東国(とうごく)の/毛虫(けむし)にはあハん 00083080M9といへる/平(へい)家なしといふ。人ミなふしんし、源氏とこそま 00083090M10ふべけれ、けむしとは何の事そやととハれ、彼/返答(へんとう)に、/鑓(やり) 00083100M11のさやの事にてあらふ(52オ)までよと。 00083110¥N4¥J 00083120¥X 00083130M12△江州めかだの屋/形(かた)にて、/敦盛(あつもり)をまふとき、/近江源氏(あふミけんじ)の 00083140M13大/将(しやう)にといひしが、やれ、めかだハ/禁句(きんく)よと思ひ、これの 00083150M14めかだハよのめかだと。〔2〕 00083160¥N5¥J 00083170¥X 00083180M15△/和泉(いつミ)の/国(くに)に、/松浦肥前守(まつらひぜんのかミ)とて/武士(ぶし)あり。彼前にて/敦盛(あつもり) 00083190M16をまふに、/命(いのち)もしらぬといふとき、/肥州(ひしう)を見付、命もしら 00083200M17ぬ松浦さま。 00083210¥N6¥J 00083220¥X 00083230M18△/尺迦(しやか)ハ/大工(だいく)の子といふ、まことか。いや、/天竺(てんぢく)/浄飯(じやうぼん) 00083240M19大王の太子也、さうでハないと。さりとては、/信田(しだ)(52ウ) 00083250¥P181 00083260L1に、/悉達太子(しつだたいし)は、高位なるばんじやうのくらゐをふりすて 00083270L2たとあるは。 00083280¥N7¥J 00083290¥X 00083300L3△伊勢/海老(ゑび)をゆでゝあかふなるときいて、朱鑓のえをも 00083310L4ゆてた物ぞとかたる。海老ハ/実(まこと)也、鑓のえハ/朱塗(しゆぬり)にてぬり 00083320L5たる物なりとをしゆる。そちのがかたそばよ、鑓のえの二 00083330L6間三間あるをゆでたがめつらしからふ事ハ、それより大な 00083340L7る京/鎌倉(かまくら)をさへ、ゆでもしいりもしたハ。うつけには薬が 00083350L8ないとわらひし時、堀河/夜討(ようち)(53オ)に、かまくらをゆでゝ、 00083360L9廿日に都入とそ聞えける。 00083370¥N8¥J 00083380¥X 00083390L10△幸若の舞をきゝ、さて+おもしろのふしや、くどき 00083400L11や、中にもせめがおもしろきなどかんずる時、/惣(そう)じて此舞 00083410L12といふ物は、誰れか作りし事ぞ。こざかしきかほの人いふ、 00083420L13/無案内(ふあんない)や、/仁和寺(にんわじ)にてつくりたる也。つゐにきかぬ。/庭訓(ていきん) 00083430L14に、仁和寺のまいつくりと書たるハ。〔3〕 00083440¥N9¥J 00083450¥X 00083460L15△/景清(かけきよ)をまふに、/法性寺(ほつしやうじ)の八つの/大鼓(たいこ)を、だう+とぞ 00083470L16うつたりけると。聞人、八つならハつゞ(53ウ)けうちに/数(かす) 00083480L17を八つうたずし/((て脱カ))なと二つハうちし。八郎九郎大夫こたへ 00083490L18に、八文字にうちたれバ、八つにて御座候ハ。 00083500¥N10¥J 00083510¥X 00083520L19△ある舞&の/奥州(おうしう)に/下向(げかう)するありし。道にて/会下(ゑげ)の寺に 00083530M1とまる。/非時(ひぢ)過て、/大職冠(たいしよくハん)をまふ。よめ入/詰(つめ)の/半(なかバ)に、住寺 00083540M2の長老/落涙(らくるい)の/気色(きしよく)あり。/侍者(じしや)どもおもふ、なにのあわれし 00083550M3き事もなきに、ふしぎなる/愁傷(しうしやう)かなと。舞/過(すぎ)て/件(くだん)の旨をた 00083560M4つねけれバ、/愚僧(ぐそう)ハ舞に涙の(54オ)こほれたるにあらず、 00083570M5あれほど/下手(へた)でハ、はる+と下りたりとも、聞者あるま 00083580M6い、かつへしなうかとおもひ、ふびんさにないたよと。 00083590¥N11¥J 00083600¥X 00083610M7△/饅頭(まんぢう)を菓子にいだしてあれバ、これハ/小豆(あつき)/計(ばかり)入て/位(くらゐ) 00083620M8/高(たか)し、我らごとき者のたまはるハ、ありがたきとていたゞ 00083630M9く。又/沙糖(さとう)まんぢうハ/近来(きんらい)の/出来物(できもの)、なにのけいつもなし、 00083640M10よのつねの者ハうまさのまゝ、/奔走(ほんそう)におもふといひて、く 00083650M11すみたり。其方ハなにとして、そのわ(54ウ)かちをばしら 00083660M12れたるぞ。かくれもない、/満仲(まんちう)の/舞(まい)に、/貞純(さたずミ)の/親王(しんわう)の御子 00083670M13をバ、六/孫王(そんわう)と申、六孫王の御子をバ、たゞのまんちうと 00083680M14申奉ると。 00083690¥N12¥J 00083700¥X 00083710M15△堺にて/牡丹花(ぼたんくわ)のもとへ、くさりたる/饅頭(まんちう)を送けれバ、 00083720M16△△色くろくしかもかたふて人くハす 00083730M17△△△此饅頭を馬になさばや 00083740M18ある人のもとより、まんぢうを五つ送りたりしが、其席に 00083750M19人五人にあまりたれハ、/配当(はいとう)するに(55オ)すくなし。一首 00083760¥P182 00083770L1をよみて、饅頭を送れる人のかたへ、 00083780L2△△名を聞も六孫王のまんちうを 00083790L3△△△五つはくらひたらすこそあれ 00083800¥N13¥J 00083810¥X 00083820L4△いつミの堺、北の/庄(しやう)に、御坊といふて/本願寺(ほんぐわんじ)の/末寺(まつじ) 00083830L5あり。彼寺/建立(こんりう)/成就(じやうじゆ)し、平野といふ所より/大頭(だいがしら)のながれ、 00083840L6舞大夫をよび、堂の祝にまハする。/高館(たかたち)をはしめけるか、 00083850L7/破(やぶ)れた堂といふまへにて、あつとおもひ、やぶれただうが 00083860L8(55ウ)め、いはの/洞(ほら)と。 00083870L9△時にあたりての廃忘ハなにの上にもあらん。〔4〕 00083880¥N14¥J 00083890¥X 00083900L10△人&池の/辺(ほとり)にあそぶ/蛙(かハづ)を見付、/塊(つぶて)をうつ。/年(とし)ふけたる 00083910L11人、さやうのわろき手すさひをハせざれ、今こそ生れさが 00083920L12り、田の中、堀のハたにすめ、いにしへはあれも大名であ 00083930L13つた物を。こくうなる事をいふ。まきれもなし、/夜討(ようち)曽我 00083940L14に、さこそ/尊霊(そんりやう)/蛙(かハづ)殿とて、あたにもいはぬハ。 00083950¥N15¥J 00083960¥X 00083970L15△/殊勝(しゆせう)なる長老の、十/番切(ばんぎり)をまうを聞て、(56オ)/落涙(らくるい)と 00083980L16ゝまらず。/後(のち)、さて+十郎五郎の/兄弟(きやうだい)は、気のみじかひ 00083990L17人や、やれ、まちとこらへられたらバ、ころさずともかた 00084000L18きかしなふ物をと。 00084010¥N16¥J 00084020¥X 00084030L19△/大夫(たいふ)/舞台(ふたい)に出て/八島(やしま)をまふ。/去間(さるあいた)、/判(ほうと)と/計(ばかり)にて/官(くハん)をわ 00084040M1すれたり。/鼓打(つゝミうち)、あゝ/官(くわん)、やあ官とハやし、つゐに官をい 00084050M2ひやまず。大夫聞かね、あげくに/拍子(ひやうし)をふんて、せめにか 00084060M3ゝりあふ。其官は、ハう殿の跡に下らせ給ひけり。(56ウ) 00084070¥N17¥J 00084080¥X 00084090M4△/玉石(たまいし)とて/能登(のと)に舞&あり。/和田(わた)/酒盛(さかもり)一番ならではおぼ 00084100M5えず。/去程(さるほと)に新左衛門といふ侍のもとにてまふに、あれな 00084110M6るは和田殿と/計(はかり)いふて、是なるハ新左衛門を残したり。/主(しゆ) 00084120M7人とがめて、など、舞にある名をバおとひたるそと申さる。 00084130M8いや、其新左衛門ハとく死なれて候と。〔5〕 00084140¥N18¥J 00084150¥X 00084160M9△/磯辺(いそべ)の/庄司(しやうじ)といふ人の方にて、八島をまふに、庄司に 00084170M10はなれて三とせになるを、行あた(57オ)り、/屏風(ひやうぶ)にはなれ 00084180M11てと、まふたる。〔6〕 00084190¥N19¥J 00084200¥X 00084210M12△/堀河(ほりかハ)/夜討(ようち)をまふ時、/判官(はうぐハん)殿といふを聞て、其まゝなく 00084220M13ものあり。なんのあハれさになくやととハれ、其事候よ、 00084230M14高/館(だち)かとおもふてないたと。 00084240¥N20¥J 00084250¥X 00084260M15△一番に/満仲(まんちう)、二番にゆりわか大臣、三番にとがせかた 00084270M16ちをまひけり。とくより行て聞たる者の帰れバ、けふの舞 00084280M17ハなに+にてありしぞとたつぬれバ、されハよ、/満仲(まんちう)と 00084290M18いふ(57ウ)人、げんかいが島て/勧進帳(くハんちんちやう)をよまれたる所をま 00084300M19ふたが、おもしろかつたと。三番の舞を、/始(し)/中(ちう)/終(しゆ)と/合点(がつてん)し 00084310¥P183 00084320L1たるも、/言語道断(こんごだうだん)。 00084330¥N21¥J 00084340¥X 00084350L2△原殿といふ侍の前にて、高館をまふ。そこで/腹(はら)きれ亀 00084360L3井にゆきあたり、そこでせごきれ亀井。〔7〕 00084370¥N22¥J 00084380¥X 00084390L4△人ありていふやう、/判官(ハうくわん)殿と弁慶とハ何の/子細(しさい)ありて、 00084400L5中がよかりしぞ、不審がハれなむたに、けふ/八島(やしま)の舞を聞 00084410L6て、理がすんだ。な(58オ)にとすんだぞ。/弁慶(べんけい)ハ判官殿の 00084420L7わかしうてあつた物。なぜにととへハ、/紛(まぎれ)もない事よ、/判= 00084430L8官(はう=くハん)、/武蔵(むさし)をめされとかくさずに、まつさいしよに書たるは。 00084440L9(58ウ) 00084450¥Q1 00084460L13元和元年の比、安楽庵咄を所望いたし、承候へハ、別而お 00084470L14もしろく存るに付て、御書集候而、草子にいたし給候やう 00084480L15にと申候処、一両年過、八冊に調給。紛失可仕かと存、奥 00084490L16に書付置也。 00084500L18寛永五年 00084510L19△△△△三月十七日△△△△△重宗(59オ) 00084520¥P184 00084530¥Y1醒睡笑巻之八目録 00084540L3頓作 00084550L4平家 00084560L5かすり 00084570L6しうく 00084580L7茶の湯 00084590L8祝済た(1オ) 00084600¥T1醒睡笑巻之八 00084610¥T2頓作 00084620¥N1¥J 00084630¥X 00084640M5△/或大名(あるたいミやう)の/前(まへ)にて、/当時(たうじ)/能(のふ)の/上手(しやうづ)ハ/誰(たれ)にてあらんやと、 00084650M6をの+/讃嘆(さんだん)ある中に、/今春(こんはる)をほむる有、/金剛(こんがう)をほむる有、 00084660M7人&心&なりし時、こざかしき者の申けるやう、/私(わたくし)ハたゝ 00084670M8/春日(しゆんにち)/大夫(たゆふ)を天下一と/存(そん)すると。いかなれハさはいふそ。春 00084680M9日を上手とは我ら計の申にてハ御座ない、むかしから/神達(かミたち) 00084690M10もほめさせられた物、三/社(しや)の/託宣(たくせん)に(2オ)春日大/明(メイ)神とあ 00084700M11り。〔1〕 00084710¥N2¥J 00084720¥X 00084730M12△/尾州(ひしう)/熱田(あつた)大明神の/祭礼(さいれい)に、/貴賎(きせん)/参詣(さんけい)の袖をつらぬる。 00084740M13かしこも伊勢/両宮(りやうくう)のことく、禰宜あつまり、袂にむすぼゝ 00084750M14れ、銭をもろふ事かまびすしき/程(ほと)也。さるまゝ百/姓(しやう)あまた 00084760M15つれだち下向するに、さても熱田の禰宜ともハ人でないぞ 00084770M16といひつゝ、/急度(きつと)うしろを見れハ、/白張装束(しらハりしやうそく)に/烏帽子(ゑほし)きて、 00084780M17/金磨(きんミかき)の/扇(あふき)すへひろがりをもちたるあり。大におとろき、そ 00084790M18のまゝ(2ウ)たゝ/神(かミ)/半分(ハんふん)の人よと。〔2〕 00084800¥N3¥J 00084810¥X 00084820M19△/武州(ふしう)江/戸(と)/家康公(いゑやすこう)天下をしろしめされし始、/伏見(ふしミ)のある 00084830¥P185 00084840L1屋/形(かた)にて霜月末つかた、/来(らい)正月をバひかしにてやなされん、 00084850L2又都にて御越年やあらんなど/評定(ひやうじやう)ありしに、ある者の申や 00084860L3う、いや、御年をハ東にてあそハされ候と。誰にきゝたる 00084870L4ぞ。我らのよく/存知(そんし)て候、明年の/暦(こよミ)に、大将軍東にあり、 00084880L5しかも比方にむかつて大小/便(へん)せざれと、たつとひ書てあり。 00084890L6(3オ)〔3〕 00084900¥N4¥J 00084910¥X 00084920L7△大/閤(かう)御所をハ/豊国(とよくに)大明神といはひ、/吉田(よした)の/神主(かんぬし)に/知行(ちきやう) 00084930L8一万/石(こく)給ふたるよし、人のかたりたれは、宮川殿、中+ 00084940L9の事や、大閤御所ハ神におなりあり、吉田の神主ハ人にお 00084950L10なりあつたよの。〔4〕 00084960¥N5¥J 00084970¥X 00084980L11△/今(いま)の/武蔵(むさし)の江戸、/扶桑国(ふさうこく)の/最頂(さいちやう)たる御/城(しろ)の/始(ハしめ)ハ、/大田(おゝた) 00084990L12/美濃守(ミのゝかミ)ほつたいして、大田の/道寛(たうくわん)といひき。/名誉(めいよ)の/武将(ふしやう)、 00085000L13こしらへ/構(かまへ)けるを/聞及(きゝをよ)ハせ給ひ、/公方(くハう)より、そちの城廓の 00085010L14景気を写して見せよと、/仰(おほせ)つかハされけれ/((ハ脱カ))、(3ウ) 00085020L15△△わかいほハ松ハらつゝき海ちかく 00085030L16△△△ふしのたかねをのきはにて見る 00085040¥N6¥J 00085050¥X 00085060L17△/信長公(のふながこう)/濃州(じやうしう)/岐阜(ぎふ)に御/座(ざ)の時、/宮内卿(くないきやう)、三/位(ミ)、/侍従(ししゆう)、/武= 00085070L18藤(む=とう)四人に/碁(ご)をうたせおハしますに、/沼(ぬま)の藤六/罷出(まかりいて)、此/席(せき)ハ 00085080L19四句の/文(もん)にて候と申上る。ひとりハ/迷故(めいご)三/位(ミ)/殿(との)、二にハ/悟= 00085090M1故(こ=ご)/侍従殿(ししうとの)、三に/本来(ほんらい)/武藤(むとう)殿、四に/何処(かしよ)/宮内(くない)殿と/指(ゆび)をおりて、 00085100M2時に御/機嫌(きけん)なゝめならすありけん、四句の文とハ迷故三 00085110M3界城、悟故十方空、本来無東西、何処有南北。 00085120M4(4オ)此心を得たまハゝ、/生死岸頭(しやうしかんとう)/大自在(たいじざい)ならん。 00085130¥N7¥J 00085140¥X 00085150M5△信長公/堺(さかひ)の/津(つ)へ御/座(さ)なされし時、/蠣(かき)とつめたとこのわ 00085160M6たと三色を/進上(しんしやう)せし。其/座敷(さしき)に三条殿御いりありて、 00085170M7△△かきくれてふる白雪のつめたさを 00085180M8△△△此わたにてそ寒さ忘るゝ 00085190¥N8¥J 00085200¥X 00085210M9△丹波の国/大(おほ)の/原(ハら)にて、/洞家(たうか)の/僧(そう)、一/休(きう)に/向(むかひ)、如何なる 00085220M10か/是(これ)、/紫野(むらさきの)の/仏法(ふつほう)。/桔梗(ききやう)、/刈萱(かるかや)、/女郎花(をみなへし)、/紫苑(しおん)、/龍胆(りんたう)、/我= 00085230M11香(われ=もかう)。(4ウ)如何なるか是、紫野の/魔法(まうほう)。/愛宕嵐(あたこあらし)に/比叡(ひゑ)の山 00085240M12風、/奥(おく)ハ/鞍馬(くらま)の山/颪(おろし)。 00085250¥N9¥J 00085260¥X 00085270M13△/釈(しやく)の/頓(とん)阿、/桑門(そうもん)の/風情(ふせい)し、/内裏(たいり)見物の/折節(おりふし)、ある殿に 00085280M14て/座敷(さしき)より、/修行(しゆぎやう)の/僧(そう)ハいづくの人ぞ。東の者にて候とあ 00085290M15れバ、すなはち、 00085300M16△△△なにかあつまのはてのおもひ出 00085310M17とあるに、頓阿、 00085320M18△△都にてまつかたるへき富士の雪 00085330M19さらハ座敷へと、請せらるゝに、礼もなく座上(5オ)にな 00085340¥P186 00085350L1をられたりけれバ又、 00085360L2△△△いやしきものハうへを恐れず 00085370L3とあり。頓阿、言下に、 00085380L4△△水鳥の浮へは月の影ふみて〔5〕 00085390¥N10¥J 00085400¥X 00085410L5△/天龍寺(てんりうし)の/開山(かいさん)/夢窓国師(むさうこくし)ハ/超過福僧(ちやうくわふくそう)にてまします。/僧形(そうきやう) 00085420L6/如何(いか)にも/肩(かた)うすくすぼミたり。人拝顔をとけ/言上(ごんじやう)するやう、 00085430L7世間に/貧窮(ひんぐう)の/輩(ともがら)をハ、なべて肩のうすい者とも、又無力 00085440L8すれバ肩がすハふだとこそ申伝て候へ、夢窓の御肩(5ウ) 00085450L9興さめてうすくすぼミたれど、福分におハしますハいかん 00085460L10と。されバよ、/予(われ)が肩あまりにうすくすぼミて、ひんほう 00085470L11かミの居所がなさによとの給へり。〔6〕 00085480¥N11¥J 00085490¥X 00085500L12△/面(めん)とハなぜにいふぞや。おもてにかくるほどに。聞え 00085510L13たり、内に置時ハなにといふべき。それハめんざうといは 00085520L14ん。 00085530¥N12¥J 00085540¥X 00085550L15△一/休(きう)、住吉に/松斎庵(せうさいあん)といふ/少庵(せうあん)を/結(むす)ひておはせし時、 00085560L16なにものやらん、其名をかゝすして、短(6オ)冊を送る事 00085570L17あり。 00085580L18△△あたら人深山のおくにすませはや 00085590L19△△△こゝハうき世のさかひちかきに 00085600M1返哥、 00085610M2△△身をみともおもふ程こそうき世なれ 00085620M3△△△深山も市もおなしかくれ家 00085630¥N13¥J 00085640¥X 00085650M4△/大陰嚢(おほへのこ)をもちたる人あり。めつらしきさまに沙汰しけ 00085660M5れハ、見度事におもふ者おゝかりき。或時客いたり、連& 00085670M6/承(うけたまハり)候と所望し、是は(6ウ)常に人の申たるほどハなし 00085680M7といひければ/左右(さう)であらふす、/聞(き)いてハ/千金(せんきん)よりもをもく 00085690M8見てハ一/毛(もう)よりも/よろし((ママ))と候。 00085700¥N14¥J 00085710¥X 00085720M9△/宗長(そうちやう)/紫野(むらさきの)に/居住(きよちう)の時、/延暦寺(ゑんりやくし)なる/知音(ちいん)の/坊(はう)より人を 00085730M10出し、/誹諧(はいかい)の/発句(ほつく)/望(のそ)ミ候、此夕夜/咄(はなし)にたより、我人案じて 00085740M11あそバんといひ送りけれハ、 00085750M12△△/猿(さる)の/尻(しり)木からししらぬ紅葉かな 00085760M13使とりて出しを、又よひ戻し、児達もゐたま(7オ)はんや。 00085770M14中+といふに、猿のつらとなをされし。 00085780M15/沢庵(たくあん)、/境(さかひ)にて冬の/当座(たうざ)、 00085790M16△△猿の尻ぬらすや時雨松ふぐり 00085800¥N15¥J 00085810¥X 00085820M17△/僧(そう)の三人/来(く)るを見つけ、/途中(とちう)に/皮(かハ)をしき、此大河をハ 00085830M18何として渡られんや。一人ハ此河に/橋(ハし)あり、心安くわたら 00085840M19ふと。一人ハ、瀬をあさ+とわたらんと。一人ハひた川 00085850¥P187 00085860L1をわたるに、なんの/造作(ざうさ)があらふと。 00085870¥N16¥J 00085880¥X 00085890L2△/珍客(ちんきやく)ハ/若衆(わかしゆ)なりし。/座上(さしやう)にをき参らせて、/相伴(しやうはん)(7ウ) 00085900L3なと/歴&(れき+)たる/座敷(さしき)/半(なかハ)に、/初心(しよしん)の/座頭(ざとう)来れる。末座の人、か 00085910L4れにとふ、そちハ/占士(うらかた)の上手と聞、此座上に如何なる人の 00085920L5おハすぞや。されバ/児(ちご)か/若衆(わかしう)なるへし。扨も奇特をうらな 00085930L6ふたるが、ちとは目か見ゆる物かなど不/審(しん)ハれす。なんの 00085940L7/調子(てうし)を伺ひいふたるぞ。されば六曜の占の外ハ存せぬなり、 00085950L8其内に/草中螢(さうちうけい)か出てあり。しんぬ、螢ハ/尻(しり)に/光(ひかり)あるあひだ、 00085960L9さて申たるなめり。 00085970¥N17¥J 00085980¥X 00085990L10△/百合(ゆり)の花をいけたるを見給ひて、/幽斎(ゆうさい)法印、(8オ) 00086000L11△△床まてもゆりにあけたる花瓶かな 00086010¥N18¥J 00086020¥X 00086030L12△/独(ひとり)ハ/寒山(かんざん)、ひとりハ/拾得(じつとく)と、めい+に名をいふて出 00086040L13る狂言あり。しかるを二人つれたちたる先の者、是ハ寒山 00086050L14拾得と申者にて候と名乗しかバ、次の者いわん事なかりし 00086060L15に、我らもそのつれにて候と。△△せめての事をいふた。 00086070¥N19¥J 00086080¥X 00086090L16△/法花(ほつけ)の/沙門(しやもん)と/時宗(ぢしう)の/法師(ほうし)と/知音(ちいん)にて、とり+参会あ 00086100L17りしが、いかゞはしたりけん、法花の沙門、此比栗毛の馬 00086110L18をもとめたり。一段気に(8ウ)入て、時宗くりげと名をつ 00086120L19けたハ。何の子細に時宗ハ出たぞ。とかく此馬おとりたが 00086130M1る。すなハち時宗の法師、我も四五日已前に/葦毛(あしけ)の馬をか 00086140M2うたハ、名をハ法花葦毛とつけたよ。いかなれバ法花とハ 00086150M3いふ。とかく/彼馬(かのむま)、口がこハさに。 00086160¥N20¥J 00086170¥X 00086180M4△豊後にて、ふないの/城(しろ)を/廻国(くわいこく)の僧見物するに、十月の 00086190M5/末(すゑ)、/商(あき)人/門(もん)の外に/柑子(かうじ)をうるあり。/彼(かの)僧一つとりてくハん 00086200M6とする。是ハととがむれば、かうし門を出すとあり。これ 00086210M7は門外也、やれ/曲(くせ)事(9オ)やといつて、/扇(あふき)をもちうたんと 00086220M8する。こハそもいかに。僧ハたゝく/月下(けつか)の門といへり。 00086230¥N21¥J 00086240¥X 00086250M9△伊勢の/桑名(くわな)に/古諌(こかん)とて/医者(いしや)あり。/天然(てんねん)とかほくせあし 00086260M10ゝ。/濃州(しやうしう)/立政寺(りうしやうし)より/文叔(ふんしゆく)といふ/僧(そう)/下向(けかう)し、/毎座(まいざ)/対談(たいだん)し、/後(のち) 00086270M11/本山(ほんさん)に/帰(かへ)る時、人とふ、桑名にて古諌をバなにとか取沙汰 00086280M12する。されハ桑名はつらのやすい処やらん、古諌を百つらと 00086290M13いふ。美濃でならバやす+と三百ハせん物を。(9ウ)〔7〕 00086300¥N22¥J 00086310¥X 00086320M14△/青苦(あをのり)をいりまめにつけたる/菓子(くわし)、大/閤(かう)の御前へ出した 00086330M15れハ、/幽斎(ゆうさい)法印むかハせ給ひ、なにと+とありし時、 00086340M16△△君か代ハ千代にや千世にさゝれ石の 00086350M17△△△いはほと成てこけのむすまめ〔8〕 00086360¥N23¥J 00086370¥X 00086380M18△/濃州(しやうしう)/鏡島(かゝミしま)にて、/乙津寺(おつしんじ)、/梅(むめ)の寺といふ。/彼(かの)寺にて、 00086390M19△△香かしまばこと木もにほへ梅の花△△祇公 00086400¥P188 00086410L1此寺の一代に/蘭叔(らんしゆく)/和尚(おしやう)とてあり。酒もりの座にて、正雲と 00086420L2いふ僧に、一つのめとあり。/禁酒(きんしゆ)と(10オ)こたふ。何事に。 00086430L3/飲(おん)酒ハこれ/仏戒(ふつかい)なりと。して飯をもたつか。飯をいましめ 00086440L4の旨ありや。中+、いゝがい又はおだいがい/禁戒(きんかい)よ。 00086450L5△/和尚(おしやう)ハ/酒茶論(しゆちやろん)の作者なり〔9〕 00086460¥N24¥J 00086470¥X 00086480L6△/甲州(かうしう)と/越前(ゑちせん)と取あひの時、越前の太守の前にて朝粥す 00086490L7ハりぬ。末座より、一段の出来がいに候と申。其座におハ 00086500L8せし/東堂(とう※)、中+国にハあるまい、かいで候とありし。奇 00086510L9特なる作勢とこそ。〔10〕 00086520¥N25¥J 00086530¥X 00086540L10△/幽斎(ゆうさい)法印あるところへ立よらせ給ふに、/家老(からうの)人(10ウ) 00086550L11/立出(たちいて)/挨拶(あいさつ)仕。其座の脇に机に/手(て)習ふ/双紙(さうし)あり。取て御覧す 00086560L12れハ、それは我せがれの清書にて候と申たり。/扨&(さて+)/奇特(きとく)な 00086570L13とほめ給ひつれバ、御覧じ候かた、みなさやうに/仰(おほせ)候と、 00086580L14いひすてゝ奥へとをりたる跡に、 00086590L15△△なら坂や此手をほむるおやこゝろ 00086600L16△△△兎にも角にもうつけ人かな 00086610¥N26¥J 00086620¥X 00086630L17△山寺に人いたりて、さても+おもしろき/境地(きやうち)や候、 00086640L18大/略(りやく)八景も候/半(ハん)と申けれハ、/住持(しうち)の/返答(へんとう)(11オ)に、/当寺(たうし)は 00086650L19十/景(けい)の/古処(こしよ)也と。さ候へハ、/秦(しん)の/始(し)皇の地にもまさ/う((ママ))たり、 00086660M1八景の外にハいづれを/用(もちい)られ候ぞ。されハ/檀那(たんな)あり、麓に 00086670M2くたり/斎(とき)をはつて、こざけにも/酔(ゑい)て帰れバ活けいあり、さ 00086680M3もなし、/唯(たゝ)二/時(じ)/糟糠汁(そうかうしる)の風情なれハ、ことに貧けいあるか 00086690M4な。〔11〕 00086700¥N27¥J 00086710¥X 00086720M5△さる大名の/中間(ちうげん)に、/異名(いミやう)を/長棹(なかさほ)といふ者有。如何なる 00086730M6心もちにより、此名をハつけたるぞと、人&さげすミける 00086740M7に、ひとりの/作意(さくい)にハ、/唯(たゝ)、物(11ウ)のすぐなといふ事に 00086750M8てあらふすと。又別人は、唯、物ほしさうな人であらふと。 00086760M9△△後のがあふたげな 00086770¥N28¥J 00086780¥X 00086790M10△九/州(しう)に/木山(きやま)とて連哥の上手あり。八月十五夜に/紹巴(しやうハ)に 00086800M11て/発句(ほつく)をせんと、月もなしといへり。紹巴の、わるひ+、 00086810M12/名(めい)月に月もなしハと申されし。まつ、すゑを聞給へとて、 00086820M13△△月はなし日をそのまゝの今宵かな 00086830¥N29¥J 00086840¥X 00086850M14△/翠竹院(すいちくゐん)道三のもとへ、/脇指(わきさし)を持来りてうらんといふ時、 00086860M15此ねすんハいかほどそとありしに、/売(うり)(12オ)/主(ぬし)、三百八寸 00086870M16と/返答(へんとう)せしも。 00086880¥N30¥J 00086890¥X 00086900M17△京の/町(まち)にて、しだれ/柳(やなぎ)の物見なるをもちありく。人此 00086910M18柳を見付、ことハりもなくをしてとる。こハなんぞ、/狼藉(らうぜき) 00086920M19なり。しらすや、柳ハミどりといふ事を。/実(げに)/尤(もつとも)/道理(たうり)あり 00086930¥P189 00086940L1と、すなハち/奉(ぼう)をもつて、かれか/鼻(はな)をハりたり。大に血な 00086950L2かる。これハといかれバ、それこそ、はなハくれなゐよ。 00086960¥N31¥J 00086970¥X 00086980L3△ある人/紺屋(こうや)に来り、これの/亭主(ていしゆ)を上手といふハ/実(まこと)か、 00086990L4此きる物のかたに、/笛(ふえ)の/音(ね)をつけてくれよと(12ウ)いひす 00087000L5てゝ帰りぬ。しバらく/工夫(くふう)し、/上(かミ)に日のまる、/下(しも)に/鑓(やり)をつ 00087010L6け、後あつらへたるぬしにわたす。是ハといふに、/別(べち)に/子= 00087020L7細(し=さい)なし、笛の音ハひやり+とふくほどに。 00087030L8△△△何とミれとも先のちかさよ 00087040L9△△日をえらふ暦ハしハす廿日比△△元△理 00087050¥N32¥J 00087060¥X 00087070L10△/座敷(さしき)の興に物語をせんとする者あれバ、かたはらより、 00087080L11/苔(こけ)+といひて、ひやうしたる時に、/伴(くたん)の仁/腹立(ふくりう)し、此咄 00087090L12をそちどもにきけにてハなし、(13オ)我ハ物語をふくして 00087100L13あそぶよと。 00087110¥N33¥J 00087120¥X 00087130L14△/食(しよく)を/過(すご)す人にむかひ、/余飯(あまりめし)をおほく参るが/笑止(せうし)なよ、 00087140L15/臨時(りんじ)に/米(こめ)の入事なれバ、/第(たい)一/損(そん)也、さりとて/薬(くすり)なれバよし、 00087150L16大/毒(どく)にて、かれこれわろしと。それハ誰人の/指南(しなん)ぞ。/老尺= 00087160L17迦(らうしや=か)の/説(せつ)也、天上天下いゝがどくそんと。〔12〕 00087170¥N34¥J 00087180¥X 00087190L18△しうくずきなる者、/境(さかい)に/逗留(とうりう)せしが、/聚楽(しゆらく)にのほる。 00087200L19大名衆なぶりて、何事ぞめづらしき事ハなきか。こそ候つ 00087210M1れ、此比境の大道にて物(13ウ)をうるに、へうしにかゝり、 00087220M2はやされあるきたる者候。うそであらふ。いや、先へせり 00087230M3かうと、ふしにうたへは、あとから、たんほゝ+とうつ 00087240M4て候。 00087250¥N35¥J 00087260¥X 00087270M5△一目見るからむつかしさうなる者、紺屋に来り、此/布(ぬの) 00087280M6を染られよ、我がこのミあり、/肩(かた)にハ上&の/佳酒(よきさけ)を、腰に 00087290M7ハかたのごとく中なる酒を、すそには下の下くらはれぬ酒 00087300M8をつけてよかるべしと、いふてかへりぬ。其後日を/経(へ)、そ 00087310M9め物出来たるや。中+とてわたすを見れバ、上&の酒に 00087320M10ハ/麻(あさ)がら(14オ)を、中の酒にハ/烏(からす)を、下のげくらはれぬ酒 00087330M11には/洲浜(すハま)をつけれバ、彼男ねたれんや/((う脱カ))もなかりし。 00087340M12△△/染(そめ)屋に、ちんをたかうやりたい。 00087350M13△△夏の夜ハ酒のおりにもさもにたり 00087360M14△△△のミにくふしてかこそわるけれ 00087370M15△△此夏ハかなしとおもふこともなし 00087380M16△△△のミくふ事のふそくなければ 00087390¥N36¥J 00087400¥X 00087410M17△/尾州(びしう)/祐福寺(ゆうふくし)に/沢良(たくりやう)といふ長老、/所談(しよたん)の/砌(ミぎり)、こもそう一 00087420M18人来り/庭(にハ)にてきく。沢良、/縁(ゑん)にあがり(14ウ)てとあれバ、 00087430M19心得候と縁にあがり、/兎角(とかく)しくへき物なし。長老再、/普化= 00087440¥P190 00087450L1僧(こも=ぞう)とよぶ。やつとこたふ。其こもをしけ。〔13〕 00087460¥N37¥J 00087470¥X 00087480L2△山城の/醍醐(だいご)/寂静(じやくじやう)が/谷(たに)といふにて、 00087490L3△△散花の音聞ほとの深山かな△△△心敬 00087500L4△△散花ハ苔にをとして風もなし△△宗祇 00087510¥N38¥J 00087520¥X 00087530L5△/境(さかい)にて、/質(しち)屋に米を十/石(こく)入/置(をき)、/銭(せに)をもちて来てハ、そ 00087540L6の/代(だい)ほと米を取て行。度&の/注文(ちうもん)、かよひに/書付(かきつけ)かりぬし 00087550L7に遣す。/或時(あるとき)/銭(ぜに)をもた(15オ)す来り、一石唯わたして給ハ 00087560L8れといふ。質屋心安くおもひ、かよひにつけずして一石わ 00087570L9たしぬ。/月迫(げつはく)になり、/銭(ぜに)を/持(もち)来り、不残米をうけとらんと 00087580L10するに、質に置たる米一石なし。かりぬし/盗(ぬす)人をいひかけ、 00087590L11/結句(けつく)、もとの/置(をき)たる米にてなくハ請とるまいといふ。其時 00087600L12/亭主(ていしゆ)、まづ銭をミんとて、たゞものえり、一文もとるべき 00087610L13なしといふ。何事にやと/尋(たつぬ)れハ、我がかいた銭が一文もな 00087620L14い、もとの米でなくハとるまいとなり、我も(15ウ)もとの 00087630L15銭でなくハ取まいと。此/作意(さくい)/分明(ふんミやう)なるかな。是にてこそす 00087640L16ミたれ。 00087650¥N39¥J 00087660¥X 00087670L17△御/意(い)に入てつねにまいりつけたる人の、/関白(くハんハく)殿へいて 00087680L18んとする時、/小性衆(こしやうしう)、/今程(いまほと)/聚楽(しゆらく)の/法度(はつと)あり、しらすや、や 00087690L19くると死ぬると、此二字申事/禁制(きんぜい)也、/汝(なんぢ)たくミ、/殿(との)に二/字(じ) 00087700M1をいはする/様(やう)にせよ。/心(こゝろ)得たりと、すなハち出る。あんの 00087710M2ごとく何事やあると御/尋(たつね)あり。其儀にて候、三/条(でう)の/辻(つじ)に、 00087720M3/面白(おもしろく)物を/棚(たな)に出して/置(をき)参らせた。何ぞや。(16オ)/楠(くすのき)にて仕 00087730M4たる/風炉(ふろ)と/釜(かま)とを見て御座あると。うつけをいふやつかな、 00087740M5木釜をたかば、やけて/役(やく)にたつべきか。それはあ、御法度 00087750M6がやれた。 00087760¥N40¥J 00087770¥X 00087780M7△大/坂(さか)にて、/鳥屋町(とりやてう)を/逸興(いつけう)なる/男(おとこ)、/鴫(しぎ)といふ/鳥(とり)かハふ、 00087790M8鴫といふ鳥かハふといふてありく。/珍敷(めつらしき)/買(かい)てやとおもひ、 00087800M9よびよせ、/雲雀(ひばり)を、これこそ鴫也とて/売(うり)ぬ。山/家(が)に帰り見 00087810M10すれバ、中+鴫にハあらず、うつけたりとしかられ、又は 00087820M11る+大坂にもちゆき、もどさんといふ時、鳥/売(うり)、それハ 00087830M12物を(16ウ)しらぬ人の申事よ、鴫ハ一いろならす、二色な 00087840M13らず、/百(もゝ)しぎとて百色あるぞと。/実(まこと)におもひ又取て行たり。 00087850¥N41¥J 00087860¥X 00087870M14△/戯(たハむれ)に/僧(そう)、/盲目(もうもく)の/鼻(ハな)をつかまへ、/如何(いか)なるか是/仏(ふつ)法。 00087880M15すなハちいはく、世/尊(そん)/拈花(ねんけ)の時、はなをにぎる。 00087890M16△△糸桜見れは花さく柳かな△△宗祇 00087900¥N42¥J 00087910¥X 00087920M17△京のたちうりへ/悪党(あくたう)来り、/巻(まき)物ともを見、/終(つゐ)に、可 00087930M18然なしといへバ、女房/蔵(くら)へ行間に、まき物一つぬすミ、は 00087940M19さミ/箱(はこ)に入たり。さて後に出たる(17オ)よき内を、/銀(きん)一/枚(まい) 00087950¥P191 00087960L1に/乞(こひ)、やすしとてうらす。その間に女房かぞへ見れバなし。 00087970L2/隣家(りんか)にいひあハせ、盗人一二町帰りし時、人をはしらかし、 00087980L3今のをまけんに帰り給へと。すなはち帰る。銀をうけとり、 00087990L4まき物ハそれにあるに/つぐ((ママ))と/頻(しきり)にあらそふ。はさみ/箱(はこ)をあ 00088000L5けたれハあり。まき物をもとり返し、銀をも戻したり。 00088010L6△△事/無為(ぶい)なる作意や。 00088020¥N43¥J 00088030¥X 00088040L7△摂津国布引の滝にて、△△宗祇 00088050L8△△此比はたゝミをりつる/布曳(ぬのひき)を(17ウ) 00088060L9△△△けふ思ひたち見にきつるかな〔14〕 00088070¥N44¥J 00088080¥X 00088090L10△大閤御所、風呂に御入ありつるを、/蜂屋(ハちや)/伯耆守(はうきのかミ)、御/垢(あか) 00088100L11に参らんとて、ふかれけるやう、知行くれい+++ 00088110L12と、/拍子(ひやうし)にかゝり/興(けう)をつくされし。其/侭(まゝ)蜂屋をとらへ、是 00088120L13非ふかんとおほせある。様&/辞退(じたい)せらるゝを、無理にふか 00088130L14せ給ふやう、/奉公(ほうこう)せい+++と。作意のはやさ/短舌(たんせつ) 00088140L15に/伸(のへ)かたし。 00088150¥N45¥J 00088160¥X 00088170L16△孔子道を行給に、八はかりなる童あひぬ。孔子に向申 00088180L17やう、日の入所と洛陽といつれかとを(18オ)きと。孔子、 00088190L18日の入所ハ遠し、洛陽ハちかし。童、日の出入所は見ゆ、 00088200L19洛陽ハ見えす、されは日の入所ハちかし、洛陽ハ遠くおも 00088210M1ふと申ければ、かしこき童也と感し給ける。たゝ物にハあ 00088220M2らぬなりけりと、人沙汰せし。 00088230¥N46¥J 00088240¥X 00088250M3△京に/智玄(ちげん)といふなま物じりなる者あり。又/恵林(ゑりん)といふ 00088260M4/学者(かくしや)と/東寺(とうし)の門前にて/行合(ゆきあい)、智玄ハいづくととふに、/持(もち)た 00088270M5る/扇(あふき)をあけ、/爰(こゝ)へ行と/答(こた)へたる時、それハあて字也といへ 00088280M6るに/言(ことば)なし。(18ウ)扇をあけたるハ、一字をきり、/戸羽(とバ)へ 00088290M7といふ事なりし。/早(ハやく)/察(さつ)して、あて字なりと打たるひだち、 00088300M8奇妙&&。 00088310¥N47¥J 00088320¥X 00088330M9△/紫野(むらさきの)/明月橋(めいけつきやう)にて、/或俗(あるそく)、/和尚(おしやう)にむかひ、明月橋、月 00088340M10なき時いかん。和尚、/幸(さいはい)に有大燈之灯。 00088350¥N48¥J 00088360¥X 00088370M11△/雄長老(ゆうちやうらう)、霜月の/半(なかハ)、四条の/橋(はし)をわたらるゝ。/河上(かハかミ)に/法= 00088380M12師(ほう=し)一人、水につかりてゐたり。哀さに立より、国ハいづく 00088390M13そ。/下野(しもつけ)の者といふ。 00088400M14△△修行とて水に腰よりしもつけの(19オ) 00088410M15△△△なす野のハらハいかにくたらん 00088420¥N49¥J 00088430¥X 00088440M16△/法花宗(ほつけしう)の/寺(てら)に千/部(ぶ)の/経(きやう)ありける/半(なかハ)、いかにもそこつな 00088450M17る男参りて、声をあけ、ふ/斗(と)/念(ねん)仏を申ける。我と驚き、手 00088460M18をハたとうち、ま、今のやうに、/誓願寺(せいくわんし)にいつもいふ事よ 00088470M19と、なをしたり。 00088480¥P192 00088490¥N50¥J 00088500¥X 00088510L1△/名護(なご)屋/陣(ちん)にて、大/閤(かう)御所/具足(くそく)をめし、舟より海をのぞ 00088520L2かせ給ひ、我影のうつりたるを御覧して、(19ウ) 00088530L3△△海の中にも武者そありける 00088540L4と仰けれハ、すなはち紹巴、 00088550L5△△釣針にかゝりてあかる甲貝 00088560¥N51¥J 00088570¥X 00088580L6△新田秀忠将軍、江戸の御城にて、大名衆御振舞なさる 00088590L7ゝに、御鷹の鴈の汁を仰付られし。/再進(さいしん)しげかりつるを御 00088600L8覧ぜられ、たハふれに、 00088610L9△△ふるまひの汁やたび+かへる鴈 00088620L10同元和九年の春、 00088630L11△△山+の雪のあたまや春の雨(20オ) 00088640L12といふ前句に、 00088650L13△△にぎりこぶしを出すさわらひ 00088660L14又、 00088670L15△△高き物をそやすくうりかふ 00088680L16と云句に、 00088690L17△△ふしの山扇にかきて二三文 00088700L18又、 00088710L19△△今朝あけて雪をとりたす箱根哉 00088720M1同いつれの年の始にやらん、(20ウ) 00088730M2△△武蔵あふみふんはつてたつ霞哉 00088740¥N52¥J 00088750¥X 00088760M3△雪の日そとより人来り家に入。ミれば事の外くらし。 00088770M4あらくらや+といふ間に、/鉈(なた)か/足(あし)にあたれり。内&ほし 00088780M5かりつるにとおもひ、とりて/懐(ふところ)にいれぬ。座敷になをりゐ 00088790M6たれば、ひた物あかくなるまゝ、さても恥かしや、人の見 00088800M7つらんとかなしけれバ、とり出すへき様なくて、案じわづ 00088810M8らふ処へ、又人来りぬ。さきのごとく、あらくら+とい 00088820M9ふ時、すなハち取出し、是+なたをさへ/懐(ふところ)に(21オ)入る 00088830M10れは、あかるふなるにすんだとて、とり出しわたせり。 00088840¥N53¥J 00088850¥X 00088860M11△宗祇修行の時、山中にておもひよりなき人三人行むか 00088870M12ひ、一人いふ、 00088880M13△△一つある物三つに見えけり 00088890M14すなハち祇公、 00088900M15△△たくひなき小袖のゑりのほころひて 00088910M16又次の者いふ、 00088920M17△△二つある物四つに見えけり(21ウ) 00088930M18又宗祇、 00088940M19△△月と日と入江の水に影さして 00088950¥P193 00088960L1又ひとりがいふ、 00088970L2△△五つある物一つ見えけり 00088980L3又祇公、 00088990L4△△月にさす其ゆひはかりあらハして 00089000L5右三句ともに聞て後、三人いつちとも見えすうせにけり。 00089010L6〔15〕 00089020¥N54¥J 00089030¥X 00089040L7△/誕(たん)一/検校(けんきやう)、ある座敷にて物がたりのつゐて、/積(しやく)(22オ) 00089050L8にハとかく身をつかふよしときゝ、めのよき/茶磨(ちやうす)を、積の 00089060L9くすりにひかバやと望めるを、七尾検校受記一ゐあハせて、 00089070L10△△検校の目のよき茶磨もとむるは 00089080L11△△△手ひきにせんとおもふなりけり〔16〕 00089090¥N55¥J 00089100¥X 00089110L12△大/陰核(へのこ)もちたる/侍(さふらい)の、/馬(むま)にて渡りたれば、雄長老、 00089120L13△△のりくらのまへにあまれる大へのこ 00089130L14△△△金福輪とこれやいふらん(22ウ) 00089140¥N56¥J 00089150¥X 00089160L15△/虎狼(こらう)/野干(やかん)といふ四字をかけて置たり。/亭主(ていしゆ)一向不文字 00089170L16なるをしりたる人、是ハ何といふ事ぞ。其をしらぬほどの 00089180L17うつけがあらふか。とてもそちがしるまい、もしよめたら 00089190L18ハ我ふるまふべし、其方えよますハ、われをふるまへとか 00089200L19けづくにしたり。/亭(てい)尤とうけごひぬ。さらバ、虎ハなにと。 00089210M1とらよ。狼ハ。おゝかミよ。野ハ。きつねよ。干は。返答 00089220M2なし。亭まけてふるまひける。野干ハと一言にとふたらハ、 00089230M3/問(とふ)者のまけ(23オ)になるへきを、二字にわけたる/智恵(ちゑ)、/作= 00089240M4意(さく=い)有かな。 00089250¥N57¥J 00089260¥X 00089270M5△山中検校死去のみぎり、とし四十八と言を聞て、雄長 00089280M6老、 00089290M7△△南無阿弥陀四十八まてなからへて 00089300M8△△△今そおもむくしての山中 00089310¥N58¥J 00089320¥X 00089330M9△/西行法師(さいきやうほうし)/修行(しゆきやう)の/時(とき)、/津(つ)の/国(くに)七瀬の河にて、/麦粉(むきこ)をくふ 00089340M10とて、しきりにむせ/は((ママ))れけるを、馬上より侍の見つけ、 00089350M11△△此河ハ七瀬の河と聞物とを(23ウ) 00089360M12△△△お僧を見れハむせわたるかな 00089370M13時に西行の返哥、 00089380M14△△此河ハ七瀬の河と聞物を 00089390M15△△△めしたる馬ハやせわたるかな〔17〕 00089400M16卅三所の/札(ふた)をうつ/順礼(しゆんれい)、/江州(かうしう)/醒(さめが)井の水のもとにのぞみ、 00089410M17/麦粉(むきこ)を/食(しよく)せんと取出しをき、立まハる間に、/暴風(のわき)/吹(ふき)おろし、 00089420M18あとなくちらしけれハ、 00089430M19△△頼つる麦粉ハ風にさそハれて(24オ) 00089440¥P194 00089450L1△△△けふさめかほの水をこそのめ〔18〕 00089460¥N59¥J 00089470¥X 00089480L2△山/岡(おか)/道(たう)阿弥、/坂本(さかもと)より京にのぼる。/乗(のり)物八人にて、侍 00089490L3あまたつれ、いかめしく見えつるが、大/津(つ)にて、むかふよ 00089500L4り/座頭(さとう)一人来るに、ひしと行あたり、/棒(ほう)のさき、座頭の/顔(かほ) 00089510L5にあたり、/打破(うちやふり)/血(ち)/流(なが)るゝ。心得たりといふ侭、乗物にしか 00089520L6ととりつき、此内にゐるハいかなるやつぞ、是非出よ、ハ 00089530L7たさんとのゝしるに、/返事(へんし)もなく、/漸(やゝ)ありて乗物の内より、 00089540L8座頭+、頬ハいたむかととふに、腹立いやまし、(24ウ) 00089550L9散&悪口にをよぶ。其時、我ハ飛田検校也、中間あやまち 00089560L10したり、是非なしといふに、座頭すなハち声をひきくし、 00089570L11少もくるしからす、存ぜずして/狼籍(らうせき)申たると/詑(わび)けるに、そ 00089580L12ちの/学文(かくもん)所ハいつれぞ、それを頼てわびんとあれバ、ひら 00089590L13に御免あれと、/却(かへり)て手をすりけるとなん。 00089600¥N60¥J 00089610¥X 00089620L14△/近衛院(こんゑのゐんの)御/宇(う)、/頼政(よりまさ)への/難題(なんたい)。ひだりまきの藤、淵、き 00089630L15りびをけ、よりまさ、 00089640L16△△瀬はひたりまきの淵ぶちおちたきり(25オ) 00089650L17△△△ひをけさいかによりまさるらん 00089660¥N61¥J 00089670¥X 00089680L18△/旅(たひ)人、/在処(さいしよ)の/者(もの)に、/此川(このかハ)をハ/何(なに)とか/言(いふ)。あひそめ河と 00089690L19/答(こた)ふ。さらバこれを/染(そめ)てたべと、てぬくひを指出す。すな 00089700M1ハち/請取(うけとり)て水に入、ひろけわたす。何とも色ハないの。い 00089710M2や水色にそまりて候ハと。〔19〕 00089720¥N62¥J 00089730¥X 00089740M3△/東(とう)の/野州(やしう)/常縁(つねより)の/前(まへ)に、/宗祇(そうぎ)のゐたまひしを、いくつに 00089750M4ならるゝぞやと/尋(たつね)給へバ、とりあへず、入道ハ六十三にま 00089760M5かりなると申されし時に、(25ウ)野州、 00089770M6△△△紫竹の竹の齢なかさよ 00089780¥N63¥J 00089790¥X 00089800M7△/越前(ゑちせん)と/加(か)賀の一/向衆(かうしう)と/取合(とりあい)の時、/朝倉(あさくら)との、ある/会下= 00089810M8僧(ゑけ=そう)にむかひて、/敵(てき)も八/幡(まん)大/菩薩(ほさつ)、/味方(ミかた)も八幡大菩薩と/念(ねん)す 00089820M9る。/其(その)一念ハ一/般(ハン)、利生は如何にとあれバ、僧云、味方ハ 00089830M10/現世安穏(けんぜあんおん)、敵は/後生善処(こせうせんしよ)と/守(まも)らんとぞ/答(こた)へける。 00089840¥N64¥J 00089850¥X 00089860M11△/禅僧(せんそう)先にたちて河を/渡(わた)る。山/伏(ふし)又/跡(あと)よりわたるとて、 00089870M12/如何(いか)にお僧、いかひ/鑵子(くわんす)のといふ(26オ)たれバ、僧のいへ 00089880M13る、/河中(かハなか)てなくハ一/服(ふく)申さう物をと。 00089890¥N65¥J 00089900¥X 00089910M14△/木村(きむら)の/宗宜(そうき)とて、/吉野(よしの)の/代官(たいくわん)なりし。京都に家あり。 00089920M15/茶(ちや)の/湯(ゆ)にて三/藐院殿(ミやくゐんとの)を/請(しやう)し/奉(たてまつ)り、次へ御出ありし時、/少女(せうによ) 00089930M16かよひに出たり。そちが名ハなにといふぞととハせ給へバ、 00089940M17雪と申上る。/跡(あと)より又一人まかりいづる。その名をお/尋(たつね)あ 00089950M18れハ、/玉(たま)と申けるにぞ、すなハち当/座(ざ)をあそはされし。(26ウ) 00089960M19△△さきに出て友まつ雪のいろに又 00089970¥P195 00089980L1△△△おとらぬほとの玉霰かな 00089990¥N66¥J 00090000¥X 00090010L2△三藐院殿へ、/春可(しゆんか)/祇候(しかう)して/侍(ハんへ)りし。御/庭前(ていせん)の/桜(さくら)/漸(やうやく)ひ 00090020L3らくあり。一句/仕(つかまつ)れと/仰(おゝせ)あれハ、 00090030L4△△かすむめにとをすやはりの糸桜 00090040L5と申たれハ、さらハ我も、 00090050L6△△さかぬまをまつやしんくの糸桜 00090060¥N67¥J 00090070¥X 00090080L7△/広橋(ひろはし)/大納言殿(たいなこんとの)へ、春可参りてありしか、/壁(かべ)の/根(ね)に/菊(きく)一 00090090L8もと/咲(さき)てあり。見事やなどほめ(27オ)まいらする時、あれ 00090100L9ハ壁の/外(ほか)/菊畠(きくハたけ)なるゆへ、/伝(つた)ひて咲たるなり。今一句と仰あ 00090110L10れハ、 00090120L11△△壁に耳かくす/や(|ヒ)事をや菊の花 00090130L12と申にぞ、広橋殿、 00090140L13△△たそかれ時の秋の盗人 00090150¥N68¥J 00090160¥X 00090170L14△卯月十日、春可宇治に侍りしが、けふより茶をつミそ 00090180L15むるといふを聞て、 00090190L16△△手始ハいろはをゑらむ宇治茶かな 00090200¥N69¥J 00090210¥X 00090220L17△大/晦日(つこもり)の夜/半(ハん)/計(ばかり)に雨のふりし。/暁(あかつき)より、(27ウ)をやミ 00090230L18て/清((ママ))天になりしかハ、春可、 00090240L19△△去年ハ雨日本はれ也けふの春 00090250¥N70¥J 00090260¥X 00090270M1△/越後(ゑちこ)の/太守(たいしゆ)/為景公(ためかけかう)、/国(くに)の中/林泉(りんせんし)寺へ/年頭(ねんとう)の一礼とて、 00090280M2二月/趣(おもむか)せ給ふ。/住持(じうち)/迎(むかひ)に出られける。/折節(おりふし)/庭前(ていせん)の/白梅(はくばい)、長 00090290M3老の/衣上(ころものうへ)へ/散(ちり)かゝりたり。時に為景の一/問(もん)、/落花(らくくわ)の/端的(たんてき)。 00090300M4/和尚(おしやう)、/作麼生(そもさん)、/答(こたへて)、時節梅花不借春風。為景公云、時 00090310M5節に不借春風、和尚一/刀(たう)とて、/刃(やいば)をぬきかまへたまふ 00090320M6たれハ、和尚云、春風無手落花、(28オ)汝無手殺我。 00090330¥N71¥J 00090340¥X 00090350M7△為景公、/狩(かり)する/次(つい)て、/深(ミ)山の/巌穴(かんけつ)に/座禅(ざぜん)の/僧(そう)あり。/彼(か) 00090360M8れに/向(むか)ひ、われハ/弓箭(ゆミや)を/対(たい)して/来(きたる)さへ、物すさましき/処(ところ)也、 00090370M9なにとして、かゝる/峭壁(せうへき)にハ住するや。僧云、われ心かあ 00090380M10らうにこそさひしからめ、心なけれバさびしとも思ハぬと。 00090390M11時に為景公、/答(こたふ)る者ハたそ。僧云、/巌松(がんせう)/無心(むしん)風/来(きたりて)/吟(きんすと)。 00090400M12問へハこそ/答(こた)へたれ。 00090410¥N72¥J 00090420¥X 00090430M13△/細川幽斎(ほそかハゆうさい)法印、見つけのこうといふ/処(ところ)にて、/宿主(やとぬし)(28ウ) 00090440M14にむかひ、これより/富士(ふじ)ハ見えぬやと/尋(たつね)たまふ。されバ、 00090450M15時によりて見え候、あれへ出て御覧候へと申。すなハち、 00090460M16こだかき処へあがり見給へども、つゐに見えざりけれハ、 00090470M17△△方角もいさしら雲に目ぞくハる 00090480M18△△△ふしを見つけのこうのいらねバ 00090490¥N73¥J 00090500¥X 00090510M19△此/跡(あと)は大名にて/威勢(いせい)ありつる人なれと、たちまち/落人(おちうと) 00090520¥P196 00090530L1となり、宿かりそめの寒夜に身ハすくミ、かねのことく冷 00090540L2わたれバ、ふるだゝミ(29オ)をきていねられしか、狂哥、 00090550L3△△浅ましや世はさかさまに成にけり 00090560L4△△△人にしかるゝものにしかれて 00090570¥N74¥J 00090580¥X 00090590L5△幽斎法印の御内なる松井といふに、振舞を御沙汰ある 00090600L6時、たひ+人をつかハし給へど、/遅(をそ)し。れうりの者、/塩= 00090610L7鯛(しほ=たい)のやけ過て、如何とかなしめバ、いや、昔よりありし事 00090620L8よとて、 00090630L9△△こぬ人をまつ井の浦の夕食に 00090640L10△△△焼しほたいのミをこかしつゝ(29ウ) 00090650¥N75¥J 00090660¥X 00090670L11△まりこの里といふにて、中間、馬のくつをかハんとす。 00090680L12代をたかくいひけれバ、主人、馬上より、 00090690L13△△くつのねはまりこの里やたかからん 00090700L14△△△あすかひたまへ先にあり+ 00090710¥N76¥J 00090720¥X 00090730L15△/山崎宗鑑(やまさきそうかん)、/汁(しる)のまハしにあたりたる時、/江州(かうしう)の/兵主(ひやうす)殿 00090740L16へ送る、 00090750L17△△武士のいるやかふらの兵すなを 00090760L18△△△よつひきしめて十二束たべ 00090770L19兵主殿より返哥、(30オ) 00090780M1△△武士のいるやかふらの兵すなを 00090790M2△△△こひようなりとて八束そやる 00090800M3△△△弘法大師のなのミ残れり 00090810M4△△くうかいのお汁のわけハかふらにて 00090820¥N77¥J 00090830¥X 00090840M5△大風に/壁(へい)のおほひを吹おとされし時、目をかけらるゝ 00090850M6徳人のもとへ、俵をこひにつかハすとて、 00090860M7△△御無心ハ/蜈蚣(むかで)の/手程(てほと)申せとも 00090870M8△△△又此たひも俵十たべ(30ウ) 00090880¥N78¥J 00090890¥X 00090900M9△ある/出家(しゆつけ)、/旧友(きうゆう)のもとにとまり、/頭巾(つきん)をわすれて帰り 00090910M10たれハ、其ぬしのかたへ文をそへてもたせ送りつる。 00090920M11△△行平のゆかりにたくふお僧さま 00090930M12△△△御立烏帽子残し給ひつ 00090940M13返哥、 00090950M14△△立別れいなはやなんとおもひしに 00090960M15△△△形見の頭巾今かへりきぬ(31オ) 00090970¥T2平家 00090980¥N1¥J 00090990¥X 00091000M18△/小松(こまつ)の/内大臣(ないたいじん)/重盛公(しけもりかう)ハ/尺迦(しやか)の/弟(おとゝ)にてありし事よ。ちと 00091010M19もしらなんだとかたる。うそさうな、時代も二/千余歳(せんよさい)/違(ちか)ひ 00091020¥P197 00091030L1たる物を。しても、/医士問答(いしもんとう)といふ/平家(へいけ)に、重盛の/定業(じやうごう)、 00091040L2もし/医療(いりやう)にかゝハるへう候ハゝ、あに/尺尊(しやくそん)/入滅(にうめつ)あらんやと 00091050L3いハれた。 00091060L4△△△人をとゝめん言の葉ハなし 00091070L5△△仏だに遁れぬ道は別きて△△宗祇(32オ)〔1〕 00091080¥N2¥J 00091090¥X 00091100L6△一向不文なる者、平家をきかんと行、なにとして、あ 00091110L7の風情の耳に入事あらんやと、まことしからさりしが、か 00091120L8れきゝて帰りぬるまゝ、なにと平家をきかれたか。されバ、 00091130L9木平家は一段おもしろかりつるに、時&座頭のおめくで、 00091140L10くたびれたと。〔2〕 00091150¥N3¥J 00091160¥X 00091170L11△/土(と)井の/次郎(じらう)/実平(さねひら)ハ、大/手(て)の/木戸口(きとくち)に/主従(しうしう)五/騎(き)にてひか 00091180L12へたると、をしへけれハ、/弟子(でし)おもふ、ひかへ物こそあら 00091190L13め、五きはいな物や、せめてわんハ(32ウ)まさりなんと。 00091200L14はれかましき処にて、主従わんにてひかへたるとかたれり。 00091210L15〔3〕 00091220¥N4¥J 00091230¥X 00091240L16△/橋(はし)のゆきけたをさら++と/走(はし)りわたるを、やゝも 00091250L17すれハわするゝ。そちハ/鈍(どん)なり、/膳(ぜん)にすハる皿にておほへ 00091260L18よといはれ、ある時又、橋のゆきげたをちやつ++と 00091270L19ハしりわたると、かたりごとは。〔4〕 00091280¥N5¥J 00091290¥X 00091300M1いけづきを/佐(さ)&/木(き)にたぶ、さゝ木/畏(かしこまつ)て申けるハとい 00091310M2ふを、佐ゝ木をいけづきにたぶ、いけ(33オ)づき畏て申け 00091320M3るハといふて、いハん事なし。(33ウ)〔5〕 00091330¥T2かすり 00091340¥N1¥J 00091350¥X 00091360M6△正月二日の/朝(あさ)、/西(にし)よりハ/針売(はりうり)の/来(きた)り、/東(ひがし)よりハ/烏帽子(ゑぼし) 00091370M7売の/行(ゆき)、/途中(とちう)にてはたと行/合(あひ)、ゑぼし商人より、ハりの始 00091380M8の御よろこびと申たれハ、針売とりあへず、何事もゑぼし 00091390M9めすまゝにと。〔1〕 00091400¥N2¥J 00091410¥X 00091420M10△/正寿庵(しやうじゆあん)といふ/坊主(ばうす)のもとへ、はや/斎(とき)/出来(いでき)て候、とくわ 00091430M11たらせ/給(たま)へと/中間(ちうけん)を/使(つかい)につかハす。/彼使(かのつかひ)行て、/門(かど)より、し 00091440M12やうじわん+とよびけれバ、(34オ)坊主おかしき事にお 00091450M13もひ、いや、づす+とぞこたへける。 00091460¥N3¥J 00091470¥X 00091480M14△/武家(ぶけ)の/愁傷(しうしやう)ありときいて、/弔(とふらひ)につかハす/口上(こうじやう)に、御親 00091490M15父逝去の事、是非なし、/併(しかしなから)/生老病死(しやうらうびやうし)のならひ、いたつ 00091500M16て/歎(なけき)有まじく候といへ。/右(ミぎ)の/使(し)者生老病死を打わすれ、だ 00091510M17んずるべうしと申けれハ、されバ親にて候者、ひりや+ 00091520M18にふりよにはてゝ候と。△△当意即妙なるうけあひや。 00091530¥N4¥J 00091540¥X 00091550M19△山/芋(いも)をハ/薯蕷(ちよよ)といひ、ところを/野老(やらう)といふ。旅(34ウ) 00091560¥P198 00091570L1人山/路(ち)を/行(ゆき)、/樵(きこり)のやうなる/老者(らうしや)、/鍬(すき)にてつるのある物をほ 00091580L2るあり。旅人たハふれに、ところほるやらうといひかけけ 00091590L3れバ、いや、山のいもじよよと。 00091600L4△△いもほりのことば、こゝろぶかや。 00091610¥N5¥J 00091620¥X 00091630L5△/黄菊(くわうきく)/紫蘭(しらん)/咲(さき)ミだれたる/前裁(せんざい)あるときいて、すきの人 00091640L6&あつまりけれハ、/宿(やとの)の/主(ぬし)とりハやし、あたゝめ酒を二い 00091650L7ろかんなべにつぎ、/右(ミぎ)と/左(ひだり)とにもち出、なにとをの+ハ 00091660L8ふる酒をこしゆめすか、又にごり酒をしんじゆまいらせう 00091670L9かと。(35オ) 00091680¥N6¥J 00091690¥X 00091700L10△/江州(かうしう)/志賀(しが)の/浦(うら)に/姥(うは)あり。/天然(てんねん)/作意(さくい)、むまれつきて、か 00091710L11すり、しうくをいふに上手なり。かするをこのむ/盲者(もうしや)あり。 00091720L12/若狭(わかさ)の/小浜(をはま)より、はる+とかれがもとへあひに行、なに 00091730L13となふ宿をかりしが、/飯(いひ)の汁を一口すひ、此汁の/実(ミ)ハなに 00091740L14ぞととふ。/姥(うは)、それハくゝたちの汁候よ。人の/口(くち)きらふと 00091750L15て。いや、/去年(こぞ)八月から、なまいてをいたと。〔2〕 00091760¥N7¥J 00091770¥X 00091780L16△/鎮西(ちんぜい)より/天台山(てんたいさん)にのぼる/学侶(かくりよ)ありしが、ある時/疝気(せんき)を 00091790L17わづらふ。/西塔(さいとう)の/法師(ほうし)来りとぶ(35ウ)らふ次て、此/病(やまひ)をバ 00091800L18/生得(しやうとく)/築紫風(つくしかせ)といふ。それハ何とてととがむる。しもから 00091810L19ひえのほるほとにと。/客僧(きやくそう)、いや、/鎮西(ちんせい)にハ天台山とこそ 00091820M1申候へ。その/故(ゆへ)ハ。/唯(たゞ)ひえのやまひぢやと。 00091830¥N8¥J 00091840¥X 00091850M2△京に/積善院(しやくせんいん)といふあり。又/建仁寺(けんにんし)に/両足院(りやうそくゐん)といふあり。 00091860M3/或時(あるとき)、積善院、両足院へ/入来(しゆらい)の事有。/真俗(しんそく)の物がたり時過 00091870M4て/後(のち)、人の/果報(くわほう)/無(ふ)果報はせんかたなし、かりそめの寺の名 00091880M5さへ、我がすむかたをハ、くちすさひにも、しやくせんゐ 00091890M6んと(36オ)こそよべ、又そなたをバとりはつしても、れう 00091900M7そくゐんとよぶ、けなりや。 00091910¥N9¥J 00091920¥X 00091930M8△/遠州(えんしう)の内、かたハらに/古寺(ふるてら)あり。/鷹野(たかの)に出ける武士の 00091940M9候て、おもひよらす立よられたれハ、/住持(ぢうじ)とおぼしき/僧(そう)、 00091950M10手づから/堂(だう)のまへをすきす。なにのためぞやと/問(とひ)けるに、 00091960M11/菜園(さいゑん)也、其/節(せつ)をうかゞひ、/種(たね)をおろさんとすと。すなハち、 00091970M12侍のいへるハ、/道場(たうじやう)の/庭(にハ)になをまくさまんだの時、いかん 00091980M13とあれバ、/老僧(らうそう)/鍬(すき)のかしらををさへて、(36ウ)せんだばか 00091990M14りもできさせたまへと。 00092000¥N10¥J 00092010¥X 00092020M15△そなたハ/源氏(けんし)の/晩鐘(はんしやう)をきかれた事ハないか。いや、/貴= 00092030M16所(き=しよ)ハ/平家(へいけ)の/落鴈(らくがん)を見られたか。〔3〕 00092040¥N11¥J 00092050¥X 00092060M17△/護摩堂(こまだう)の/本尊(ほんぞん)/不動(ふどう)の/前(まへ)にそなへの/餅(もち)/有(あり)。人見て、あの 00092070M18不動の餅を、二つ三つこんがらとやいてくふたらよからふ 00092080M19な。/新発意(しんぼちい)出て、くいたくハくハしませ、たれぞ無用とせ 00092090¥P199 00092100L1いたかや。〔4〕 00092110¥N12¥J 00092120¥X 00092130L2△/会下(ゑげ)の/寺(てら)あり。/座頭(さとう)/両(りやう)人/客殿(きやくてん)にて/平家(へいけ)をかたる声、/方= 00092140L3丈(はう=じやう)に/聞(きこ)ゆる。/東堂(とうだう)手を/拍(うち)、/喝(かつ)食(37オ)をよひ、おもてに/琵= 00092150L4琶(ひ=わ)をしらぶる音せり、平家か、へいけか、聞て/越(こへ)よと。喝 00092160L5食/走戻(はしりもとり)て、べいけなり。つれべいけでさうと。 00092170¥N13¥J 00092180¥X 00092190L6△/会下僧(ゑけそう)に/斎(とき)をすゆる。/菜(さい)に/蕨(わらび)あり。/終(つゐ)に/服(ぶく)せす。施主、 00092200L7/如何(いか)なれバ蕨をバ/食(しよく)せられぬぞと。人の口やかう/ど((ママ))て。大 00092210L8事候まい、けしあへにしてさうほとに。 00092220L9△△△花を折かと人や見るらん 00092230L10△△躑躅咲木のした蕨手をあけて(37ウ)〔5〕 00092240¥N14¥J 00092250¥X 00092260L11△京の町にてちいさきあしだをうる/商(あき)人、こあしんだ、 00092270L12こあしんだといふて、さきにゆけバ、其跡から、/菜(な)をうる 00092280L13者のつゞきて、なかう+と。 00092290L14△△われかねににたひゞきかすまぬ。 00092300¥N15¥J 00092310¥X 00092320L15△座頭のびわおふて来るを見付、おどけ者か、なつとの 00092330L16/坊(ぼう)ハいつくよりいづくへのおとをりぞ。わらの中にねてか 00092340L17ら、糸ひきにゆくと。 00092350L18△△見たところうまさうなりや此茶のこ 00092360L19△△△名はから糸といふてくれなゐ(38オ)〔6〕 00092370¥N16¥J 00092380¥X 00092390M1△/宗長(そうちやう)の連哥の/座敷(さしき)に、/初心(しよしん)と見えし/座頭(さとう)一人ありつる 00092400M2か、/楚忽(そこつ)に一/句(く)申さんやと/伺(うかゝ)ひけれハ、宗長、連哥過ての 00092410M3事にせられよとありし。 00092420¥N17¥J 00092430¥X 00092440M4△利陽にてうくひすなをもち、ひとりの女房、鴬菜めせ 00092450M5+といふてうれバ、かわんとする人、そちハかたことを 00092460M6いふ、あをなめせとハなといわぬぞ。うくひすにあをとよ 00092470M7むこゑありやと。彼うりてかちにし事よ。 00092480M8△△鴬も笠きて出よ花の雨△△利休(38ウ) 00092490M9△△売にくる程をしとへは我園の 00092500M10△△△うくひすなとてねこそ高けれ△△雄長老 00092510¥N18¥J 00092520¥X 00092530M11△一/寺(し)の/崇教(そうけう)世に/越(こへ)ていつくしき/喝食(かつしき)ありつるが、おも 00092540M12ひもよらぬやまふにさそハれ、夕の/煙(けふり)となれり。かの/骨(ほね)を 00092550M13/東堂(とうとう)、我か前に/置(をき)、/衆中(しゆちう)の/僧(そう)にむかひ、/寒夜(かんや)に/焼残(たきのこ)す一/束(そく) 00092560M14の/柴(しは)といふ句をいたせり。終に大衆の語不出。時に東堂、 00092570M15この葉はかり残つたよ。 00092580¥N19¥J 00092590¥X 00092600M16△/喝食(かつしき)あり。/東堂(とうたう)に/膳(せん)をすゆる時、/和尚(おしやう)、あつハれ(39オ) 00092610M17月一/輪(りん)かな。喝食、ほしくもないのとて膳をとりぬ。〔7〕 00092620¥N20¥J 00092630¥X 00092640M18△よき/若衆(わかしう)をともなひきたる僧を見て、あつハれ/黒雲(くろくも)か 00092650M19な。△△あれがせうずよな。 00092660¥P200 00092670¥N21¥J 00092680¥X 00092690L1△/水上(すいしやう)の/兎(うさき)月に/驚(おとろく)事いかん。おづるも理あり、弓は 00092700L2り月のある時ハ。十五満月の時いかん。十分に引詰て見よ。 00092710L3射手如何に。桂/男(おとこ)。矢づかハ。十三やもあり、十五夜もあ 00092720L4り。 00092730L5△△△ひかぬにつよき弓のいきほひ 00092740L6△△けたものハ小田のかゝしにおとろきて△△宗養(39ウ) 00092750¥N22¥J 00092760¥X 00092770L7△あつはれまるい水かな。すミきつたの。〔8〕 00092780¥N23¥J 00092790¥X 00092800L8△/車(くるま)に/片輪(かたは)あるを見て、一人の/僧(そう)ハ、/戒行(かいきやう)かよいな、か 00092810L9たハがないほどに。一人の僧ハ、戒行がわるいな、かたは 00092820L10な程に。 00092830¥N24¥J 00092840¥X 00092850L11△大/善知識(せんちしき)を見て、あつハれ小/便所(へんしよ)かな、如何程の人か、 00092860L12しとしつらふ。 00092870¥N25¥J 00092880¥X 00092890L13△/石上(せきしやう)の/松(まつ)は/座禅(さぜん)の/僧(そう)に/似(に)たよ。ねいりもせす、うごか 00092900L14ぬ程に。〔9〕 00092910¥N26¥J 00092920¥X 00092930L15△漁人妬梅花。花見に船をかられふすよな。(40オ) 00092940¥N27¥J 00092950¥X 00092960L16△あづまことの、哥いみじう/好(この)ミよみけるか、/螢(ほたる)をミて、 00092970L17△△あなてるや虫のしや尻に火のつきて 00092980L18△△△こ人たまとも見えわたるかな 00092990L19吾妻人のやうによまんとて、まことハ貫之がよミたるもぞ。 00093000¥N28¥J 00093010¥X 00093020M1△/津(つ)の/国(くに)に/多田(ただ)といふ/在所(さいしよ)の候。/同(おなじ)/近里(きんり)に/役処(やくしよ)ありしに、 00093030M2/人足(にんそく)ふたりとをる。/関守(せきもり)のとがむれバ、/先(さき)に行もの、/是(これ)ハ 00093040M3たゞの夫にて候と。関守、さ(40ウ)あらバ/八島軍(ハしまいくさ)をかたれ。 00093050M4それは、つぎのぶにお尋あれと。△△天然か、たくミか。〔10〕 00093060¥N29¥J 00093070¥X 00093080M5△有馬の湯に三か月のさし入たれハ、月の湯治はなんの 00093090M6病そ。/道理(たうり)よ、/片輪(かたわ)なほとに。十五満月のときハ如何。片 00093100M7輪と片輪かよりあふたらば、重病でハないか。一/僧(そう)出て、 00093110M8いや、月に一度のやミをいやさんとて候よ。〔11〕 00093120¥N30¥J 00093130¥X 00093140M9△静にあゆミて/額(ひたい)をうつてすよ。ハしらでうつてすの。 00093150M10(41オ) 00093160¥N31¥J 00093170¥X 00093180M11△/或僧(あるそう)、/冬扇(ふゆあふき)を/持(もち)けれハ、/雪中(せつちう)の/扇(あふき)になんの/役(やく)かあらん。 00093190M12/僧(そう)/暫(しハらく)ありて、扇をつかひ、/当話(たうわ)につまり/汗(あせ)がひてさうよ。 00093200M13〔12〕 00093210¥N32¥J 00093220¥X 00093230M14見ぬ/恋(こひ)をする時、あつハれ/敵(てき)の/域(じやう)かな。せめて見たい。 00093240M15(41ウ) 00093250¥T2しうく 00093260¥N1¥J 00093270¥X 00093280M18△もと/同学(とうがく)たりし人のもとへ、/広韻(くわういん)をちとかしたまへと 00093290M19いひやりたれバ、此方にもいるとて、かさす。/後(のち)にあふた 00093300¥P201 00093310L1るに、/已前(いぜん)ハいる物をかされなんだと/恨(うらミ)けれハ、/光陰(くわういん)/惜(おしむ) 00093320L2べしとあり。かりぬし/遺恨(いこん)をふくミ、かさねて先のおしミ 00093330L3ての方へ、/明朝(ミやうちやう)/斎(とき)を申さんといひやりぬ。かならすゆか 00093340L4んよし返事なりき。/亭(てい)/暁(あかつき)より/起(おき)て、/朝食(あさめし)をいそぎ/用意(ようい)し、 00093350L5/内(うち)の/者(もの)にも/早&(さう+)くらハせ、/棚(たな)もと/其外(そのほか)/掃除(そうじ)を(42オ)きれい 00093360L6にしてをきたり。/伴(くたん)の/僧(そう)来り、まてどもさらに/飯(いひ)をくるゝ 00093370L7をとせず。何とて/膳(ぜん)ハ/遅(おそき)ぞ。とき人をまたずとあれバ、は 00093380L8やとく過たは。〔1〕 00093390¥N2¥J 00093400¥X 00093410L9△/若衆(わかしう)くるひをするといふて、/妻(つま)、いろに/出(いて)/腹立(ふくりう)す。/男(おとこ) 00093420L10たる者ハ若衆くるひをせよと/式目(しきもく)にのせられた、/神社(しんじや)をし 00093430L11りしとかけり。/女房(によほう)/即座(そくざ)に、/其式条(そのしきてう)のむねを/本(ほん)とせバ、そ 00093440L12ちのがいよ+とゞかぬなり、さいしをもつハらにすべし 00093450L13とあるに。(42ウ) 00093460¥N3¥J 00093470¥X 00093480L14△京にて/傍輩(ほうはい)の/中(ちう)間行合、そちハ/今(いま)/誰(たれ)のもとに/奉公(ほうこう)をす 00093490L15るぞ。三条のお/奈良屋(ならや)にゐるは。おの字をつけていふをに 00093500L16くミ、おならやハの、くさい事をいふ。それならバそちハ、 00093510L17なにとて我ゐどころをバとふたぞよ。 00093520¥N4¥J 00093530¥X 00093540L18△/宗祇(そうぎ)と/宗長(そうちやう)つれだち、三井寺を見物のとき、宗長のい 00093550L19へるやうハ、ちとぶさうぢなのとあれハ、祇公、それハよ 00093560M1い前句そうなとさふらひしに、すなハちとりなをして、宗 00093570M2長、(43オ) 00093580M3△△△掃除もたらぬ三井の古寺 00093590M4祇公又、 00093600M5△△坂くだりくしやはう+とハへしけり 00093610¥N5¥J 00093620¥X 00093630M6△/信長公(のふなかこう)/東寺(とうし)のあたりを過させ/給(たまふ)事あり。/馬上(ハしやう)にて、ひ 00093640M7た物御/眠(ねむり)ありつるを、/沼藤(ぬまのとう)六/驚(おとろ)かし申せハ、/爰(こゝ)ハどこぞ。 00093650M8/右(ミぎ)ハ六条、さきハたうぶくしと申たりつるに、あのしらか 00093660M9べかやと。〔2〕 00093670¥N6¥J 00093680¥X 00093690M10△百/姓(しやう)の/福力(ふくりき)なるあり。/惣領(そうりやう)の/子(こ)、/才智(さいち)あれハ/笛(ふゑ)を/稽古(けいこ) 00093700M11させけり。/明暮(あけくれ)、/謡(うたひ)の、/小鼓(こつゞミ)の、/大鼓(おゝつゞミ)のとて、/出入(いていり)のたゆ 00093710M12る事なし。/祖父(おほぢ)は/隠居(ゐんきよ)の身(43ウ)ながら、こハそも何事ぞ、 00093720M13/稼穡(かしよく)の/艱難(かんなん)をわすれ、/紡績(ほうせき)の/辛苦(しんく)を/無(む)になし、/我家(わかいゑ)の/諺(わさ)を 00093730M14バよそにミて、/身躰(しんたい)のハてんするをと、かなしひゐけり。 00093740M15かくて三年過る/冬(ふゆ)十月、/芸者(けいしや)あまたあつめ、おびたゝしき 00093750M16はやしを/興行(こうきやう)する。/座敷(さしき)へ/頻(しきり)に/祖父(おゝぢ)をよび出せハ/辞退(じたい)もか 00093760M17なハす出ぬ。/孫(まご)一/番(ばん)ふいて、どつとほめ、人ミな声をそろ 00093770M18へ、さて、祖父の/歓喜(くわんき)さこそなどとりはやしたるに、祖父、 00093780M19されバ人の/耳(ミゝ)にハ、/笛(ふゑ)のねのなにと入候哉、(44オ)われが 00093790¥P202 00093800L1耳にハ、田うらふ+とより/外(ほか)、/別(へち)の/音(ね)ハいらぬと。〔3〕 00093810¥N7¥J 00093820¥X 00093830L2/鼬(いたち)/眉目(ミめ)よし、ま一/度(と)こひ、/顔(かほ)見うと世/話(わ)にいふを、し 00093840L3うくずきなる人の/門(かと)にて、いかきみめよし、めすといふ。 00093850L4中+、かハうとよび入、あひしらひ、出て帰る時、いか 00093860L5きうりをまねき、ま一度こい、かご見うと。 00093870¥N8¥J 00093880¥X 00093890L6△/和泉(いづミ)の/境(さかひ)にて、これへ参る道に/鈍(どん)なる/男(おとこ)あり。何やら 00093900L7ん手に/持(もち)てゐたるを、/横道(わうたう)なるものとをりさまに、をつと 00093910L8り/逃(にけ)行。やれ/盗(ぬす)人よと、よバはれバ、(44ウ)/結句(けつく)、とりハ 00093920L9せぬ、かうたとあらがふ。/誰(たれ)もきハむる者なふて、とりて 00093930L10の物にぞなりける。かれを見るに、たちまち我物を/奪(うバゝ)れて 00093940L11も、ところに/正路(しやうろ)なる/地頭(ちとう)なくハ/浅間(あさま)しや、とられ/損(そん)にこ 00093950L12そならんすれとかたるに、とられてもとりても、かくれハ 00093960L13あるまいがととふ時、されバ右申せしハうそなり、/実(まこと)ハ/今= 00093970L14朝(け=さ)/鳶(とび)が/魚(うを)をくハへ来り、/宿院(しゆくゐ)の内にてくらハんとする/処(ところ)に、 00093980L15/松(まつ)の/上(うへ)より/鳥(からす)/飛(とび)おり、これをうバひとり、/木(き)の上にてくら 00093990L16ふ。/鳶(とび)は(45オ)ひいるぬす人とさけベハ、/烏(からす)ハかうた+ 00094000L17といふて、をのが徳にそなしたる。 00094010L18△△おかしけにて、こゝろふかし。 00094020L19烏ハ/鳥中(ちやうちう)の/曽参(そうしん)とあり。 00094030¥N9¥J 00094040¥X 00094050M1△/夏(なつ)の/天(てん)に/数日(すしつ)/雨(あめ)なうて、/民家(ミんか)/旱損(ひそん)を/歎(なけき)、/氏神(うぢかミ)の/社頭(しやとう)に 00094060M2/風流(ふうりう)をかけ、/雨(あめ)を/乞(こふ)に一/滴(てき)もふらす。いつもふるが/奇特(きどく)や 00094070M3など/沙汰(さた)しあへり。かたくななる/宿老(しゆくらう)うちうなづき、/今度(こんど) 00094080M4のおとりが、うらハ一/向(かう)/気(き)にあハなんだ、なにが/大皷(たいこ)をバ、 00094090M5てれつけ+、てつてれつけとうち、/鐘(かね)をハ、てん(45ウ) 00094100M6き+やとたゝいて、笛を、ひよりやひよりとふいた物、 00094110M7なにとしてふらふよ。〔4〕 00094120¥N10¥J 00094130¥X 00094140M8△/須弥(しゆミ)の四/州(しう)の内、天よりふり物、をの+かハれり。 00094150M9/北州(ほくしう)ハ/瑠璃(るり)の雨、/東州(とうしう)/西州(さいしう)ハ/瞻蔔花(せんふくけの)雨、/南州(なんしう)ハ/清涼雨(せいりやうう)。/勅(ちよく) 00094160M10によりて/和泉式部(いつミしきふ)/雨乞(あまごひ)、 00094170M11△△日のもとの名にあふとてや照すらん 00094180M12△△△ふらざらバ又あめか下かハ 00094190M13此哥にて空かきくもり、大雨ふりし。 00094200¥N11¥J 00094210¥X 00094220M14△京にて、さかしき/座頭(さとう)、/月忌(くわつき)の/座敷(さしき)へ/遅(をそ)く(46オ)/来(きた)り、 00094230M15/内(うち)をばとく出て候が、道にて/鐘(かね)のをと/仕(つかまつり)候/侭(まゝ)、立よりて 00094240M16候へバ、酒もり/談義(たんぎ)にあふて、さてそ/遅参(ちさん)いたし候といへ 00094250M17り。酒もり談義とハ何事ぞや。されバ、もハやたゝんとハ 00094260M18ねつくろひせしに、爰をバ/法然(ほうねん)の/尺(しやく)にて一つ申さんとあり。 00094270M19又たたんとすれハ、/善導(ぜんどう)の尺にてま一つ申さんと。〔5〕 00094280¥P203 00094290¥N12¥J 00094300¥X 00094310L1△/長岡(なかをか)/越中守殿(ゑつちうのかミとの)、/豊前(ぶぜん)の国ひるかの/神(かミ)へ/参詣(さんけい)あれハ、/神= 00094320L2主(かん=ぬし)悦喜不斜。/賞(しやう)じ申せし/座敷(さしき)にて、/大守(たいしゆ)のはをりを見、 00094330L3さてもめづらかなる(46ウ)/唐(から)物やとほめ参らせけれバ、す 00094340L4なハちぬぎてつかハし給ふ。其/当座(たうさ)の/興(けう)に、 00094350L5△△はれ物にあらぬ我身のとうぶくを 00094360L6△△△ひるかの禰宜にすハれこそすれ 00094370¥N13¥J 00094380¥X 00094390L7△ある年の春、/幽斎(ゆうさい)法印坂本の/寿斎(しゆさい)といふ/碁(ご)打をつれて、 00094400L8/吉野参詣(よしのさんけい)ありしが、かつての/明神(ミやうじん)の前にて、そちが/代(だい)にと 00094410L9て、 00094420L10△△参銭をはまのやうにはまかすとも 00094430L11△△△碁にハかつての神やたのまん(47オ) 00094440¥N14¥J 00094450¥X 00094460L12△/義政将軍(よしまさしやうくん)の御/前(まへ)に、/同朋(とうほう)/万(まん)阿弥/罷居(まかりい)たる時、作意を御 00094470L13覧ぜんとやおぼしめされけん、/尺八(しやくはち)をなげ出し、それ+ 00094480L14/車(くるま)がゆくと/仰(おゝせ)ければ、万阿弥いそぎ立、ちやくとをさへさ 00094490L15まに、うしなふてはなるまいと、とりて、/懐(ふところ)にいれしも。 00094500L16〔6〕 00094510¥N15¥J 00094520¥X 00094530L17△世中は、いつくにいかなるものが、/親類(しんるい)にあらんもし 00094540L18らぬなど、かたる次て、げにも/鵐(しとゝ)と/烏(からす)か/親子(おやこ)にてある事を、 00094550L19此程しりたるハといふ。これハ/以外(もつてのほか)なる/僻(ひが)事であらふと。 00094560M1いや、しかと/実(まこと)也、よそ(47ウ)まてもない、われが/直(ぢき)にき 00094570M2いた、此十日計さき、/庭(にハ)へ烏おりてあそびゐけれバ、鵐も 00094580M3きたり、又/堂鳩(どうはと)も/飛(とび)来る、三/鳥(ちやう)よりあひたるに、鵐、烏に 00094590M4むかひ、/父父(ちゝちゝ)といふ、烏/嬉(うれ)しげにて、/子(こ)か/子(こ)かとよふ、堂 00094600M5鳩/証拠(せうこ)にたちて、うう+とこたへたれバ、まぎれもなき 00094610M6/親子(をやこ)でハないか。 00094620M7△△世中の親に孝ある人ハたゝ 00094630M8△△△なにゝつけてもたのもしきかな〔7〕 00094640¥N16¥J 00094650¥X 00094660M9△/広橋(ひろはし)/大納言殿(たいなこんとの)/兼勝公(かねかつこう)へ、/相国寺(しやうこくじ)の/保長老(ほうちやうらう)よ(48オ)り/使= 00094670M10僧(し=そう)をもつて、/明日(ミやうにち)の/和漢(わかん)に/罷出度(まかりいてたく)候へ/共(とも)、/瘧気(おこりけ)の/故(ゆへ)、御免 00094680M11の/旨(むね)御/披露(ひろう)奉頼とありし時、/彼(かの)僧を呼給ひて、口上を 00094690M12御聞あり。それハ/仄(そく)のおこりか、/平(ひやう)のおこりかと。 00094700¥N17¥J 00094710¥X 00094720M13△宗牧へ、あるかたより/小角豆(さゝぎ)と/茄子(なすび)とを/送(をく)りたれバ、 00094730M14△△さゝき殿なすひの与一給ハりて 00094740M15△△△お使からと賞翫そする 00094750¥N18¥J 00094760¥X 00094770M16△/周桂(しゆけい)、/入(いり)江/殿(との)に/知音(ちゐん)の人ありて、/朝帰(あさかへり)の時、/宗牧(そうほく)(48ウ) 00094780M17/行合(ゆきあい)てよめる。 00094790M18△△かつき出る青苔いろの頭巾こそ 00094800M19△△△入江のあまのしわさなるらめ 00094810¥P204 00094820¥N19¥J 00094830¥X 00094840L1△/猪斎(ちよさい)へ/田舎(いなか)よりをとづれとて、よくいにんと、/苟香(うゐきやう)と 00094850L2を、のほする事ありし。/言伝(ことつて)られし人と文とハ京につきし 00094860L3かど、送れる二/種(しゆ)ハ大/坂(さか)に/忘(わす)れ/置(をき)たりとて、わたさゞりけ 00094870L4れバ、 00094880L5△△はる+とよくいなかより給ハれど 00094890L6△△△ういきやうとてやのぼらさるらん(49オ) 00094900¥N20¥J 00094910¥X 00094920L7△/旅(たび)人/敦賀(つるが)にて、一/夜(や)の/宿(やと)をかし/給(たま)へといふ。/亭(てい)のこた 00094930L8へに、/春歟(はるか)/秋冬(あきふゆ)ならハ/易(やすき)事なり、夏月にとまり事ハなるま 00094940L9い。如何なれバととふ。/爰(こゝ)ハ/処(ところ)をつるがとて、/鶴(つる)/程(ほど)の/蚊(か)あ 00094950L10りてくらふ物を。旅人いふ、それならハ宿かし給へ、/毛頭(もうとう) 00094960L11くるしからず、生得我すむかた山がなれハ、山/程(ほと)の/蚊(か)に、 00094970L12くハれつけた身しやと(49ウ)〔8〕 00094980¥T2茶の湯 00094990¥N1¥J 00095000¥X 00095010L15△/西行法師(さいぎやうほうし)、/伊勢(いせ)の/宇治(うぢ)にすミける時の哥、 00095020L16△△/爰(こゝ)も又都のたつミしかぞすむ 00095030L17△△△山こそかハれ名はうちの里 00095040¥N2¥J 00095050¥X 00095060L18△茶是釣睡釣とあり。又食を消するともいへり。 00095070L19△△我門に目さまし草のあるなへに 00095080M1△△△恋しき人ハ夢にたに見す 00095090M2などいふて人&ほめそやしのむ。/末座(まつざ)に百/姓(しやう)の(50オ)候て、 00095100M3それならハ我+ハ一/期(ご)茶をたち申さん、/終日(ひねもす)ほねおりて 00095110M4も、ゆふべとくとねふれバぞ、/辛労(しんらう)をもわすれ、又たま 00095120M5+ととぼしくてくふ食の、きえてハなんのゑきあらん、 00095130M6あらいやの茶やと/頭(かうべ)をふりたり。されハ憂喜依人と云題 00095140M7にて、 00095150M8△△ますらおか小田かへすとて待雨を 00095160M9△△△大宮人や花にいとハん 00095170M10とよめる。さまこそかハれ、心バへひとしかるべくや(50 00095180M11ウ)侍らん。世をおもしろくすむ人ハ茶を/愛(あい)し、/賎(しづ)の/男(を)ハ 00095190M12茶をいなと/狂言(きやうげん)せし、一/旦(たん)ハ/理(り)あり。 00095200M13△△何となく人にことばをかけ茶碗 00095210M14△△△をしのこひつゝ茶をものませよ 00095220M15△△花をのミまつらん人に山里の 00095230M16△△△雪まの草の春を見せハや 00095240M17/利休(りきう)ハわびの/本意(ほんい)とて、此哥を/常(つね)に/吟(ぎん)じ、心がくる友にむ 00095250M18かひてハ、かまへて/忘失(ぼうしつ)せざれとなん、(51オ) 00095260M19△△契りあれやしらぬ深山のふしくぬ木 00095270¥P205 00095280L1△△△友と成ぬる/閨(ねや)の/埋火(うづミび) 00095290L2是ハ夢庵の哥にてあり。古田織部、冬の夜のつれ+に吟 00095300L3ぜられし。〔1〕 00095310¥N3¥J 00095320¥X 00095330L4△/泉州(せんしう)かうの/滝炭(たきすミ)を/定家卿(ていかのきやう)の哥とや、 00095340L5△△泉なる横山炭のしろくして 00095350L6△△△とる手につかす飛事もなし 00095360L7又古哥に、 00095370L8△△いかにしていかにやけハか泉なる(51ウ) 00095380L9△△△横山炭の白く有らん 00095390L10△△わかばうめぬるくハ炭を置かへよ 00095400L11△△△くミたらんほど水をさすへし△△夢庵 00095410¥N4¥J 00095420¥X 00095430L12△/祇公(きこう)、/信濃路(しなのぢ)にて/山家(やまか)の/草庵(そうあん)に/立寄(たちより)、茶を/所望(しよもう)ありつ 00095440L13るに、/湯(ゆ)のぬるかりけれバ、 00095450L14△△△お茶のぬるきハ春のしるしか 00095460L15/即(すなハち)/亭坊(ていばう)、 00095470L16△△むめ過てわがとがのおの花ざかり 00095480¥N5¥J 00095490¥X 00095500L17△和泉の国/篠田(しのだ)の茶屋に、宗祇一夜とまり(52オ)給ひし 00095510L18事あり。茶屋の亭、今夜ハ冷て夜尿つかまつりてと申たれ 00095520L19ハ、 00095530M1△△我物とほしさのまゝにたてのミて 00095540M2△△△夜尿しの田の森の茶坊主 00095550¥N6¥J 00095560¥X 00095570M3△/古田織部助(ふるたおりべのすけ)に/数寄(すき)あり。こい/茶(ちや)たちて出けるに、/客(きやく)の 00095580M4いふ、此/茶士(ちやし)ハ/誰哉(たれや)覧ととふ。/上林(かんはやし)/春松(しゆんせう)か/雲切(くもきり)なるよし/返= 00095590M5答(へん=とう)あれバ、/彼客(かのきやく)、/今朝(けさ)の御茶/別(べつ)して/忝(かたしけなき)かな、/春宵(しゆんせう)一ふく 00095600M6/直千金(あたいせんきん)とあり。(52ウ)〔2〕 00095610¥N7¥J 00095620¥X 00095630M7△ある/寺(てら)の/住持(しうち)、/檀那(たんな)へ見まハれける。/土産(とさん)の/茶(ちや)有。/主(しゆ) 00095640M8人ありがたくおもひ、内に/請(しやう)じ、まづ茶を/進(しん)ぜよとたてゝ 00095650M9出る。/亭主(ていしゆ)一/口(くち)のミ、/是(これ)は/散&(さん+)の/苦茗(くめい)やとしかる時、/女房(にようばう)、 00095660M10それはお寺よりおもたせのおちやとことハるにぞ、亭主い 00095670M11はん事なく、今一口二口のミ、中+や、くださるゝほど 00095680M12よいと。〔3〕 00095690¥N8¥J 00095700¥X 00095710M13△/足利(あしかゝ)の/門前(もんせん)に/姥(うバ)あり。/往来(わうらい)の/出家(しゆつけ)に茶をほどこす。さ 00095720M14れバ/学侶(かくりよ)の、/智恵(ちゑ)を/察(さつ)せん(53オ)とたくミ、/僧(そう)/来(きた)つて茶を 00095730M15/所望(しよもう)すれハ、人のひいた茶ハおりないといへり。時に僧、 00095740M16/風(かせ)かひいたりとものまんといふ。姥大によろこんであたへ 00095750M17たり。〔4〕 00095760¥N9¥J 00095770¥X 00095780M18△時しも夏のあつき/比(ころ)、/民家(ミんか)にむばらあつまり、茶事し 00095790M19てゐけるが、れんじやくかけたる/商(あき)人のとをるを、あハれ 00095800¥P206 00095810L1ミ、立よりやすミ、茶をものまれよとよひたれバ、あら/嬉(うれ) 00095820L2しや、三/服(ふく)たべうといふ+たちよりし。いかほとなりと 00095830L3のましませ。商人、いや三服はそらね、/定(ちやう)ハ一服たべ(53 00095840L4ウ)うずと。 00095850¥N10¥J 00095860¥X 00095870L5△/法師(ほうし)、あまた/少(せう)人をともなひ、/清水(きよミづ)へまふでしが、ま 00095880L6づ茶屋によりやすらふ。其中にひとりの/若衆(わかしゆ)、/甘茶(あまちや)をのぞ 00095890L7ミ、おほくのむ。/指南(しなん)の法師おもふ、あまき物ハむしにた 00095900L8ゝると。又さきにてハくるしからず、今ハまつこらへられ 00095910L9よと/教訓(きやうくん)しけれバ、/爰(こゝ)な人はげうさんさうに、一斤のうで 00095920L10も銭廿こそすれと。 00095930¥N11¥J 00095940¥X 00095950L11△/如何(いか)にもまつたき/福(ふく)人あり。/茶(ちや)の/湯(ゆ)といふ(54オ)にハ、 00095960L12なにが入物ぞやと。/数寄(すき)にハ/第(たい)一の/嗜(たしなミ)、茶/壷(つほ)候よ。さあら 00095970L13ハ一つもとめたい。伊勢より/尋(たつね)出し、これは/藤(とう)四/郎(らう)とてよ 00095980L14き壷といふを、/代(だい)八/貫(くわん)にかひとり、福人/秘蔵(ひさう)し、名を/平家(へいけ) 00095990L15/法花経(ほけきやう)伊勢物語とつけたり。人其故事をとへバ、平家とハ 00096000L16/家(いゑ)がひらさに、法花経とハ八貫にかふ、壷の出処ハ伊勢物 00096010L17なり、/態(わざと)さしたる家にてなけれバ、もちありくたび、かた 00096020L18り+となるほどに。(54ウ)〔5〕 00096030¥N12¥J 00096040¥X 00096050L19△/古今万葉集(こきんまんようしゆう)といふ/壷(つほ)をもちてくすむ人あり。/聞者(きくもの)めづ 00096060M1らしがり、其心をきかんと/望(のぞ)めどもあへてかたらす。いは 00096070M2ぬに、ふかき心のほどゆかしく、いたく/執心(しうしん)し/尋(たつね)けるに、 00096080M3/彼(かの)壷ぬしいふ、/古(こ)ハ/古茶(こちや)、/今(こん)ハ/新(しん)茶、/万葉(まんよう)ハ/無上(むしやう)/別義(へちぎ)そゝ 00096090M4り、/集(しゆう)ハいつれをもあつめつむる/故(ゆへ)に、/其徳(そのとく)をもつて名と 00096100M5す。 00096110¥N13¥J 00096120¥X 00096130M6△山/家(か)に/居住(きよちう)の/貧僧(ひんそう)あり。たま+/客(きやく)を得たり。/物相(もつそう)一 00096140M7/飯(はん)をもてなし、茶をたてゝ出し、(55オ)これハ、といわら/壷(つほ) 00096150M8につめたり、/色香味(いろかあぢ)を/吟(ぎん)じ/給(たま)へ。客、おもひきや、かゝる 00096160M9/住居(ちうきよ)に/名壷(めいつほ)のあらんとハ。一/座(ざ)事をハり、/彼(かの)壷を見んとこ 00096170M10ふ。/僧(そう)/眠蔵(めんざう)より/持出(もちい)て、/是(これ)ハ/山賎(やまがつ)の/粉骨(ふんこつ)を/尽(つく)し作るところ、 00096180M11/始(はじめ)の/稲(いね)をわせといふ、其/疾藁(といわら)を/幾重(いくへ)もあみかけ、/焙炉(ほいろ)の/帋(かミ) 00096190M12につゝみ、/詰置(つめをき)候/侭(まゝ)、といわらつぼと/号(かう)するなり。 00096200¥N14¥J 00096210¥X 00096220M13△/歴&(れき+)の/衆(しゆ)三人ともなひ、/朝会(あさくわい)に/行(ゆき)、/昨夜(さくや)/鶏明(けいめい)まで酒に 00096230M14ふけり、いまだ人ごゝちもなかりし。(55ウ)会/漸(やうやく)過、/亭= 00096240M15主(てい=しゆ)茶をたつる時見れハ、三人ながら/眠(ねむり)入たり。されども/上= 00096250M16座(しやう=ざ)の人目をあき、/次(つき)の/膝(ひざ)をつめられ、これも目をさまし、 00096260M17又下/座(ざ)の膝をつくに、/彼(かの)心にハ茶の礼かとおもひ、まつお 00096270M18ミしやれとそこつにいふて、よく+見れバ、亭主いまだ 00096280M19茶をたてゐけり。面目な/き(サ)、御/推量(すいりやう)あれ。 00096290¥P207 00096300¥N15¥J 00096310¥X 00096320L1△/東堂(とうとう)のもとへ人来つてとふ、/茶堂(さとう)と申/者(もの)候、又/茶(ちや)堂と 00096330L2申者候、いつれが本にて候や。いづれもくるしからす、さ 00096340L3れども/茶(さ)堂ハ/唐韻(たうゐん)にてこび(56オ)たりとあれバ、/男(おとこ)/合点(かつてん)ゆ 00096350L4きたる/躰(てい)にてたちさりぬ。一/両月(りやうけつ)/過(すぎ)、/今度(こんど)は/惣領(そうりやう)の子十 00096360L5六七なるをつれ来り、此/松千代(まつちよ)に何とぞ/男名(おとこな)をつけてたび 00096370L6候へと申せバ、すなハち/左近(さこ)の太郎とつけらるゝ。/親(おや)あた 00096380L7まをふり/感(かん)じて後、左は/唐音(たういん)で御/座(さ)あるの、いや+我ら 00096390L8ごとき者のせがれに、唐音ハ過て候、/唯(たヾ)ちやこの太郎とお 00096400L9つけなされよと。〔6〕 00096410¥N16¥J 00096420¥X 00096430L10△大/相国(しやうこく)御/数寄(すき)ありし時、こい茶をひきうバひ(56ウ) 00096440L11御秘蔵の井土茶碗われけり。御気色かハる事なく、/幽斎(ゆうさい)の 00096450L12哥の、/出来(いてき)不出来によるへしと御/諚(ぢやう)あれハ、 00096460L13△△つゝゐつの五つにわれし井土茶碗 00096470L14△△△とがをハ我身おひにけらしな 00096480L15と詠し給へバ、此茶碗がわれすハなんであらふぞと、御感 00096490L16情ふかゝりき。 00096500¥N17¥J 00096510¥X 00096520L17△/雄長老(ゆうちやうらう)、ある寺に立より、/是(これ)に/数寄(すき)屋ハないか。いや 00096530L18なしとの返事なり。さらバ、わる茶(57オ)にてもたてゝ出 00096540L19されよと/所望(しよもう)ありて後、 00096550M1△△数寄屋あらぬお茶やむかしのお茶ならぬ 00096560M2△△△我身ひとりハうすのミにして 00096570¥N18¥J 00096580¥X 00096590M3△後陽成院の御時、御口切とて、御壷出たりつるを、雄 00096600M4長老、 00096610M5△△御前てハちやくと哥よむつほなれハ 00096620M6△△△口をハられて物もえいハす〔7〕 00096630¥N19¥J 00096640¥X 00096650M7△/慈照院殿(ちしやうゐんとの)、/愛(あひ)に/思召(おほしめさ)るゝ/壷(つほ)あり。/名(な)を/何(なに)とがなつけん 00096660M8と御工夫ある。比は寛正二年八月廿日、(57ウ)たれかある、 00096670M9今日ハ廿日かとお/尋(たつね)あれハ、/女房達(にようほうたち)のきゝもあへす、中 00096680M10+、けふ/初鴈(はつかり)をきゝまいらせたと申上られたり。あらお 00096690M11もしろの/返事(へんじ)やとて、能阿弥にむかハせ給ひ、 00096700M12△△たれもきけ名つくる壷のくちびらき 00096710M13△△△けふはつかりの声によそへて 00096720M14とおほせあれバ、能阿弥とりもあへず、 00096730M15△△初鴈の聞えあげける言のはよ 00096740M16△△△いやめつらしき/雲(くも)の上まて(58オ) 00096750M17此由来により、初鴈といふ壷ありとなん。(58ウ)〔8〕 00096760¥P208 00096770¥T2祝済た 00096780¥N1¥J 00096790¥X 00096800L3△/抑(そも+)、四十六/代(たい)/孝謙天皇(かうけんてんわう)の御/宇(う)、/天平勝宝(てんひやうせうほう)/元年(くわんねん)/己丑(つちのとのうし) 00096810L4の春、/始(ハしめ)て/奥州(おうしう)より/黄金(わうごん)を/献(けん)ず。/重宝(てうほう)参りたりとて、/大友= 00096820L5家持(おほとも=やかもち)に哥めされけれハ、 00096830L6△△皇の御代さかへんとあつまなる 00096840L7△△△みちのく山にこかね花さく 00096850L8と/祝(いわ)ひすまして、是より元和九年まで、八百六十五/歳(さい)なり。 00096860L9/和朝(わてう)の山&黄金/涌(わく)事、/弥(いや)/増(まさ)れり。(59オ)〔1〕 00096870¥N2¥J 00096880¥X 00096890L10△正月ハ三ケ日のくひ物をも、むかしよりいハひて/書(かき)た 00096900L11り。何にあるぞととふ。/暦(こよミ)に候。なにとある。元日ハかん 00096910L12日、二日ハもち日、三日ハくへ日。〔2〕 00096920¥N3¥J 00096930¥X 00096940L13△/左大臣(さだいしん)/信長公(のふなかこう)、あるとしの元日、あかつきざうにの御 00096950L14/膳(ぜん)すハりけるを御覧すれバ、/箸(ハし)かた+あり。これハなに 00096960L15ものゝしわざぞとて、大に御/気色(きしよく)かハれり。/大相国(たいしやうこく)いまだ 00096970L16/木下藤吉郎(きのしたとうきちらう)殿にて御座の時、お/機嫌(きげん)あしきハさることなが 00096980L17ら、/当(たう)年より/諸国(しよこく)をかたハしどりになさるへき/瑞相(ずいさう)(59ウ) 00096990L18なりとありけれバ、これにて御/腹立(ふくりう)やミぬ。あんのことく、 00097000L19そのとしより、くに+をしたがへたまひきとかや。 00097010¥N4¥J 00097020¥X 00097030M1△/同(おなじく)信長公へ、/諸大名(しよたいミやう)をの+元日の/出仕(しゆつし)ありつる/座敷(ざしき) 00097040M2にて、/仰(おゝせ)あるやう、こよひの夢に、いづく共なく、/出陣(しゆつぢん)の 00097050M3こゝちして、一しゆくよろひて、/馬(むま)にのるとおもひつれバ、 00097060M4のりたる馬の足四つながらおれて、あやうかりしていを見 00097070M5たハと御/諚(ぢやう)あるに、たれもうむの/返答(へんとう)なし。又藤吉郎殿 00097080M6(60オ)とりあへず、/千秋万歳(せんしうはんぜい)の御夢なるべし、そのゆへは、 00097090M7/合戦(かつせん)をなさるゝたび、いつもかちむしやの御な、一天にと 00097100M8らせたまふべき御つげとこそ/存(そんじ)候へとのたまひしが、まこ 00097110M9とに/戦(たゝかい)のあるとなれバ、かちたまはぬハなかりき。 00097120¥N5¥J 00097130¥X 00097140M10△/古道(こどう)三、/信長公(のふなかこう)へ/始(ハしめ)て御/礼(れい)に出らるゝ。/進上(しんじやう)に扇子二 00097150M11本もたせられし。御/前(ぜん)に候人、ミなあら/些少(しやせう)のいたりやと 00097160M12いふ/気色(きしよく)なりき。時の/奏者(そうしや)に、言上あれ、これハ目出たふ 00097170M13日本を御手の内に(60ウ)/握(にぎ)らせ給ふやうにと。〔3〕 00097180¥N6¥J 00097190¥X 00097200M14△元日いまだ夜ふかきうちに、よろづ物をうりかふ人、 00097210M15えびすをもとめ、むかふる事ハ/聖徳太子(しやうとくたいし)よりさたまれり。 00097220M16さるにより、町+をもちて、わかえひす+とよぶ。こ 00097230M17れをのそむ者、うけてよろこふ。かのえひすのはんぎをす 00097240M18るもの、いろ+人のたうとむほどのすがたをおこして、 00097250M19もちたりしが、しハすのいそがハしきにやとりまぎれけん、 00097260¥P209 00097270L1えびすとおもひて/持(もち)出けるか、三/途河(づかハ)の(61オ)むばをすり 00097280L2たるをとりちがへ、うりありきぬ。/明(あけ)がたに、うくるもの 00097290L3ゝ見付、これハいなすがたやといふを、うりぬしも見れバ 00097300L4むばなり。きもをけしながら、をくれぬかほしていふやう、 00097310L5これこそえびすのおふくろにて、ことさらにめでたしとい 00097320L6ハひけれバ、けにも+、わかゑひす殿も、おふ/具(く)ろかな 00097330L7うては、いかであらん、/福(ふく)のミなもとこれなりとよろこび 00097340L8て、いたゞきおさめけるとなん。〔4〕 00097350¥N7¥J 00097360¥X 00097370L9△/若狭(わかさ)の/太守(たいしゆ)/武田(たけた)殿、/無縁(むゑん)の/出家(しゆつけ)をかゝへをかれ、(61ウ) 00097380L10寺などたて/憐愍(れんミん)あさからす。されとも/其家(そのいゑ)の事をしる人/正= 00097390L11路(しや=うろ)ならず。なにを送らるゝも、あるひは/半分(ハんふん)、/或(あるひ)は三分一 00097400L12つかハし、/中(ちう)にて/残(のこ)す。/彼会下僧(かのゑけそう)もよくしりながら、さす 00097410L13が/国主(くにぬし)へ申あぐべきよしもなかりしに、ある年の暮、正月 00097420L14の/菓子(くわし)に/胡桃(くるミ)を千送れとあり。/然(しかる)を五百八十やりたり。僧 00097430L15不審に思ひ、一首の狂哥を参らする。 00097440L16△△下さるゝくるミの数も君か代も(62オ) 00097450L17△△△目出たかりけり五百八十 00097460L18大守/代官(たいくわん)をめし出し、くハしくせんさくあれハ、あやまる 00097470L19/処(ところ)/紛(まきれ)なかりつれども、/是(これハ)ハ/祝義(しうぎ)の哥をよまれし僧の心を 00097480M1/感(かん)する/条(てう)、/今度(こんと)の/科(とが)/計(ばかり)ハゆるすとありし。〔5〕 00097490¥N8¥J 00097500¥X 00097510M2△/商(あき)人のならひにて、正月ハ/蔵(くら)のくちにかならず/鯛(たい)をか 00097520M3くるれいあり。これをなん/伝(つた)へて、かけこたいといふ。あ 00097530M4るものゝくらに、目のぬけたる鯛をかけてをけり。/亭主(ていしゆ)元 00097540M5日の朝見つけ、大に/機嫌(きげん)を(62ウ)そこなふときに、こざか 00097550M6しき/中(なか)ゐの出て、ことし、こなたのお/仕合(しあハせ)ハ、/残(のこ)る事なし、 00097560M7何事もおめでたいといハふたり。 00097570¥N9¥J 00097580¥X 00097590M8△ある人、/福(ふく)をいのりのため、はつせのくハんおんに一 00097600M9七日さんろうしけるが、やうやく六日めの夜/半(ハん)ばかりに、 00097610M10/俄(にハか)に我かひだりのあしに、ハれ物のいできて、ひた物くさ 00097620M11りゆくを、こハそもいかんせんとかなしひ侍るうちに、/夢(ゆめ) 00097630M12なれば、さめてげり。あくるを/遅(をそ)しと/宿坊(しゆくぼう)にかへり、/右(ミぎ)の 00097640M13むねを(63オ)かたりけれハ、めでたき/大悲(たいひ)の/告夢(つげゆめ)なり、や 00097650M14がて、りしやうにおあしをくさるほど、もち/給(たま)ハんとぞ申 00097660M15ける。/嬉(うれ)しげにて、又こもりぬ。まんずる夜の/夢(ゆめ)に、/両(りやう)の 00097670M16/足(あし)に/物(もの)いてきて、/左(ひだり)も/右(ミぎ)もくさるとおもひおどろきぬれバ 00097680M17夢にてあり。/件(くだん)のむね、又宿坊にかたれハ、いよ+/福聚= 00097690M18海無量(ふくしゆ=かいむりやう)の/利生(りしやう)あらたに、れうそくをくさるほどもちたまハ 00097700M19んとぞいハひける。 00097710¥P210 00097720¥N10¥J 00097730¥X 00097740L1△物いはひする/商(あき)人ありて、はつ春の/朝毎(あさごと)、(63ウ)こぶ 00097750L2かちぐりなどくハしをいれてすはる、そめつけのはちあり。 00097760L3/宵(よひ)よりつまのとりいだし、/下主(げす)に渡し、きれいにすゝぎて 00097770L4あけよといふに、なにとかしけむ、とりおとしてうちわり 00097780L5ぬ。ねうバうきもをつぶしあへり。あけぬれバ、いつもの 00097790L6ちやのこいづるやと、亭主まてどもさらにいでず。そのま 00097800L7ゝ気しよくをそこなひ、ねうばうをしかるときに、げす、 00097810L8くだんのわれたる/鉢(ハち)をもちいで、ありのまゝにいひて(64 00097820L9オ)けり。ていしゆ、あんにかハり、きげんをなをし、珍 00097830L10&重&なるかな、ことし我あきなひハ八わりあらふすよと 00097840L11いわふたり。 00097850¥N11¥J 00097860¥X 00097870L12△/桶結(おけゆひ)のありしが、元日の/朝(あさ)ふとおきて、ねうはうのい 00097880L13ひけるやうハ、元三から大晦日まで、ようゆひ事をする人 00097890L14にハ、お身より外又ふたりともあるまいぞ。やがて/男(おとこ)、そ 00097900L15のゆひ事は、千あらふと万あらふと、ミなわかわるいから 00097910L16よといハふたれバ、其年そこ+の仕合、くれ+よかり 00097920L17き。(64ウ)〔6〕 00097930¥N12¥J 00097940¥X 00097950L18△/江州(かうしう)/甲賀(かうが)/大原(おほはら)の/庄(しやう)に、/菊田(きくた)の/玉木(たまき)と/言(いふ)者あり。正月の 00097960L19かんの/箸(ハし)に、/栗(くり)の木かた+、/柏(かし)の木かた+、四/角(かく)に/削(けつり) 00097970M1て、/親子(おやこ)三人/祝(いわふ)心ハ、九/里(り)四/方(ハう)にかしくふとの心也。 00097980¥N13¥J 00097990¥X 00098000M2△/氏康公(うちやすかう)の/城中(しやうちう)にて、/昼(ひる)/狐(きつね)の/鳴(なき)たる事ありき。/是(これ)ハよか 00098010M3らす、いむ事なるにといふを聞て、 00098020M4△△夏はきつねに鳴蝉のから衣 00098030M5△△△をのれ+か身の上にきよ 00098040¥N14¥J 00098050¥X 00098060M6△/京都(きやうと)六条道場に、/文閑(もんかん)といふ/連哥(れんか)の作(65オ)/者(しや)ありき。 00098070M7/其親(そのおや)の名を惣吉とよふ。ある時、彼惣吉火事にあへり。/其= 00098080M8砌(その=ミきり)、文閑、/雄長老(ゆうちやうらう)へ尋られたれハ、長老/出合(いてあハせ)、/文閑(もんかん)に火事 00098090M9の/噂(うハさ)をとふて後、 00098100M10△△御親父の貧乏の神をやきハらひ 00098110M11△△△惣吉事にやならんとすらん 00098120M12右の惣吉家やけてより/後(のち)、一/段(たん)/仕合(しあハせ)なをり、富貴也しも。 00098130¥N15¥J 00098140¥X 00098150M13△/夢(ゆめ)に/卒都婆(そとハ)を見ると思ひ、/覚(さめ)て/後(のち)/煩(わつ)ら(65ウ)ふ/事(こと)あり。 00098160M14/博士(はかせ)を/呼(よび)てうらなハせたれハ、卒都婆ハ木でしたる/塔(たう)なる 00098170M15あひた、/祈祷(きとう)をせられたらハ、/本復(ほんふく)せんと/祝(いわふ)たり。 00098180¥N16¥J 00098190¥X 00098200M16△江州かたたといふ/処(ところ)の/地頭(ちとう)へ、/毎年(まいねん)/大晦日(おゝつもこり)に/浦(うら)の百/姓(しやう) 00098210M17かならずふなを二つづゝあぐる/例(れい)あり。/或時(あるとき)一つあくる。 00098220M18主人/気色(きしよく)かハり/腹立(ふくりう)するに、元日/膳(ぜん)を出す/折(おり)、/女房(にようばう)したゝ 00098230M19めて/持(もち)出、今年ハ猶もふなをりせんと云まゝ、/彼鮒(かのふな)のどう 00098240¥P211 00098250L1ほねを二つに/折(おり)て参らせけり。(66オ) 00098260¥N17¥J 00098270¥X 00098280L2△/古相国(こしやうこく)/駿河(するか)の御/城(しろ)/出来(いてき)たるいわひに、三百/韻(いん)の連哥 00098290L3/興行(こうきやう)なされし時、/板倉(いたくら)六右衛門/入道(にうたう)/正佐(しやうさ)/巻頭(くわんどう)の/発句(ほつく)に、 00098300L4△△なみ木たゝ花ハつぎ+の盛かな 00098310L5とありけれハ、相国大に御感ありて、すなハち/其懐紙(そのくわいし)をも 00098320L6たせのぼせ、/玄旨(げんし)法印へ見せ参らせられしにも、称美不斜 00098330L7さふらひし。されバ右の発句、ことばの/縁(ゑん)にたかハす、御 00098340L8/子孫(しそん)/繁栄(はんゑい)のめでたさ、もつとも/祝(いわひ)すまいた。(66ウ)〔7〕 00098350¥Y 00098360L13此草紙ハ、いまた桜のみとりこの、年ハ十になり給ふとい 00098370L14ふ春、御父周防守殿の前にて、我かよむを如何にも神妙に 00098380L15きゝおハします風情、栴檀ハ二葉よりの感に堪てさふらひ 00098390L16きに、又かこひにて茶をたてゝ給ふたるしほらしさいふは 00098400L17かりなけれは、/生(おひ)たゝせたまひて、目出たふさかへ、すゑ 00098410L18はんゑいあるへきいろまても、床しく見及ひ、此書をかき 00098420L19てをくり侍るめり。 00098430M1△△△△△△△△△△△△△△前誓願 00098440M2△△△寛永五年三月十七日△△△△安楽老(67オ) 00098450M4△板倉侍従殿 00098460M5△△△△△△参(67ウ) 00098470¥Q1 00098480M8元和元年の比、安楽庵咄を所望いたし、承候へハ、別而お 00098490M9もしろく存ニ付て、御書集候て、草子にいたし給候やうに 00098500M10と申候処、一両年過八冊に調給候。紛失可仕かと存、奥に 00098510M11書付置也。 00098520M13△寛永五年 00098530M14△△△△三月十七日△△△△△重宗(68オ) 00098540¥P213 00098550¥U噺本大系△第二巻 00098560¥T理屈物語 00098570¥G 00098580¥Y 00098590L16寛文七年刊 00098600L17径山子序 00098610L18大本六巻六冊 00098620L19東洋岩崎文庫蔵 00098630¥Y理屈物語序 00098640M3有客問余曰何以称理屈也。余答曰理者正也、屈者 00098650M4曲也、言禦人以正理之口給、則人屈曲於其理、 00098660M5而不能言其余、此所謂理屈也、理屈者滑稽也、理 00098670M6屈之於人也、多在弁捷之人、如彼晏子之使楚、淳于 00098680M7■之諷斉、優孟之葬六畜類、則皆滑稽之人、而使 00098690M8弁理屈曲王者也、此(一オ)則理屈与滑稽所以無 00098700M9異也矣、蓋以此書之所載也、往々俳優之事而、 00098710M10無非滑稽之言然則称此書曰理屈物語不亦宜 00098720M11乎。客曰然。 00098730M12△△時 00098740M13△寛文七祀歳舎丁未三月之吉 00098750M14△△△△△△△△△径山子序(一ウ) 00098760¥P214 00098770¥Y理屈物語/後序(コウジヨ) 00098780L3/象(ザウ)の/牙(キバ)を見てハ、その/豕(イノコ)より/大(ヲゝイ)なることをしり、/狸(タヌキ)の/尾(ヲ)を 00098790L4見ては、その/豹(ヒヨウ)よりも/小(チヒサ)き事をしる。/故(カルカユヘ)に一を見てもつ 00098800L5て/百(モゝ)をしり、/此(コレ)を以て/彼(カレ)を/明(アカス)すへし。今この/理屈物語(リクツモノカタリ)もま 00098810L6たかくのことし。そのかミの/理人(リジン)/弁士(ベンシ)の/言語(ゲンギヨ)をもつて、/電= 00098820L7覧(デン=ラン)/流読(リウトク)するのミにあらす。/身(ミ)にもとつけておしはからは、 00098830L8けだし/童蒙(トウモウ)の/智台(チタイ)にのほる/楷梯(カヒテイ)ともなりなん(二オ)かし。 00098840L9よつて/和漢(ワカン)の/故事(コジ)を/綴輯(トツシウ)して、/各(ヲノ+)/題下(ダイカ)に/出所(シユツシヨ)をあらハし、 00098850L10その/拠(ヨントコロ)をしらしむる者也。/和(ワ)のことは/古老(コラウ)の/吻語(フンゴ)、/吾済(ワナミ) 00098860L11の/旧聞(キウフン)にまかせぬれは、/拠(ヨントコロ)をしるすへきにもあらす。ゆ 00098870L12へにこゝにもらしつ。つゐに六/巻(クハン)となして/童蒙(トウモウ)の/求(モト)めに/応(ヲウ) 00098880L13す。わか/童蒙(トウモウ)に/求(モトム)るにあらす。(二ウ) 00098890¥Y1/理屈物語(りくつものかたり)/巻之(くわんの)一△/目録(もくろく) 00098900M3一△/斉(せい)の/晏子(あんし)/楚国(そこく)へ/使(つかひ)にゆく事 00098910M4二△/老嫗(らうおう)/劉(りう)/道真(どうしん)にこたふる事 00098920M5三△もすその/焦(こげ)たるをおどろかぬ事 00098930M6四△/靴(くつ)を/銭(ぜに)九百に/買(かふ)事 00098940M7五△見もせず聞もせぬ事 00098950M8六△/酒(さけ)をのミて四/臓(ぞう)になりし事 00098960M9七△なに事もよしといふ事 00098970M10八△/歌(うた)をきゝて/曲(きよく)をしらぬ事 00098980M11九△/鳥巣(てうさう)/禅師(ぜんじ)の事 00098990M12十△/騎馬(きば)一/斤(きん)の事(三オ) 00099000M13十一△/楯(たて)と/矛(ほこ)とを/市(いち)にうる事 00099010M14十二△/■何(せんか)/釣(つり)をもつて/王(わう)をいさむる事 00099020M15十三△/片輪(かたわ)/車(くるま)の事 00099030M16十四△/鈴鐸(れいたく)ふしんの事 00099040M17十五△/耳(ミゝ)/大(おゝい)なれども/富貴(ふうき)にならざる事 00099050M18十六△/石(いし)に/漱(くちすゝ)ぎ/流(ながれ)に/枕(まくら)する事 00099060M19十七△/石学士(せきがくし)の事 00099070¥P215 00099080L1十八△/青砥(あをと)左衛門が事 00099090L2十九△/■飯(やうはん)/毳飯(せいはん)の事 00099100L3△△△△△△△△△△目録終(三ウ) 00099110¥T1/理屈物語(りくつものかたり)/巻之(くわんの)一 00099120¥N1¥J 00099130¥X一△/斉(せい)の/晏子(あんし)/楚国(そこく)へ/使(つかひ)に/行(ゆく)事△◇晏子春秋◇ 00099140M5もろこし/斉(せい)といふ国に、/晏子(あんし)といふものあり。そのたけひ 00099150M6きくして、きわめて見にくし。されども/智恵(ちゑ)人にすぐれ、 00099160M7/弁舌(べんぜつ)/利口(りこう)の/理屈(りくつ)ものなりしが、ある時/斉王(せいわう)のために、/楚国(そこく) 00099170M8へ/使(つかひ)にゆきけり。/楚(そ)人、/晏子(あんし)をはづかしめんがために、/小= 00099180M9門(せう=もん)を/大門(たいもん)のかたわらにつくりて、/晏子(あんし)を此門より入しめん 00099190M10とす。/晏子(あんし)門をいらずしていへるは、/狗国(く△こく|いぬぐに)へつかひにゆく 00099200M11ものハ/狗門(くもん)よりいる、今われ/楚国(そこく)へつかひに来れり、いづ 00099210M12くん(四オ)ぞ/狗門(くもん)よりいらんやといへり。そのゝち王とふ 00099220M13ていわく、/斉(せい)には/賢人(けんじん)ありやと。/晏子(あんし)こたへていわく、斉 00099230M14の国いづくんぞ/賢人(けんじん)なからんや、斉の国には、/賢(けん)なるもの 00099240M15をば/賢王(けんわう)につかひとし、/不肖(ふせう)なるものをば/不肖王(ふせうわう)につかひ 00099250M16とす、今われ不肖なり、かるがゆへに/楚国(そこく)へつかひに来れ 00099260M17りといへり。又そののち楚王わざと/左右(さゆふ)のものにいひつけ 00099270M18て/咎人(とがにん)をしばり、わがまへにおかしめて、左右のものにと 00099280M19ふての給ハく、此/咎人(とがにん)ハいづくの国の者なるぞと。左右こ 00099290¥P216 00099300L1たへていわく、斉の国のものなり、/盗(ぬすミ)(四ウ)をしたるゆへ、 00099310L2かくいましめ侍るといふ。楚王晏子にとふての給ハく、/斉= 00099320L3人(せい=ひと)ハよく/盗(ぬすミ)をするや。晏子こたへていわく、われうけ給ハ 00099330L4り侍るに、/橘(たちばな)といふ木は、/江北(こうほく)に/生(しやう)じてハ、これを/枳(き)と/云(いふ)、 00099340L5この/枳(き)は、/葉(は)よく橘に/似(に)たれども、その/実(ミ)のあぢわひ同じ 00099350L6からず、これいかなる事なれば、うゆる所の/土地(どち)ことなる 00099360L7ゆへなり、今この/咎(とが)人も/斉(せい)に/居(い)たる時ハ、ぬすミをする事 00099370L8あらじ、/楚(そ)に/居(い)たるゆへに、ぬすミをすることを得たり、 00099380L9しからば、かの/橘(たちはな)の/地(ち)によりて、あぢわひ同じからず、 00099390L10/国(くに)によりて名ちがひ(五オ)(五ウ・六オ挿画)たるに同じ、こ 00099400L11の/咎(とが)人も、/楚(そ)の/土地(どち)に/居(い)ずんバ、ぬすミをする事なからん 00099410L12とぞいへり。/楚王(そわう)/笑(わらひ)て、われ/晏子(あんし)をはづかしめんとほつし 00099420L13て、かへりて、わがやまひをとれりといひて、大にかんじ 00099430L14給へり。 00099440¥N2¥J 00099450¥X二△/老嫗(らうおう)/劉(りう)/道真(どうしん)に/答(こた)ふる事△◇蓑啓胡語林◇ 00099460L17もろこし/劉(りう)/道真(どうしん)といふ者あり。/乱(らん)にあふて/俄(にわか)にのがれさる 00099470L18時、/河(かわ)のほとりにゆき、ミづから舟をひきて/河(かわ)をこしける 00099480L19に、一人の/老嫗(らうおう|△△うば)ありて、/是(これ)も/櫓(ろ)をとりて舟をおしけるが、 00099490¥G 00099500¥P217 00099510L1/劉(りう)/道真(どうしん)この/老嫗(らうおう)を見て/嘲(あざけ)りていわく、(六ウ)なんぢ女の身 00099520L2として、いかんぞ/機(はた)をとゝのへ/杼(おさ)を/利(り)とはせずして、かへ 00099530L3つて/舟(ふね)の/櫓(ろ)をとるやといへば、/老嫗(らうおう)ことばの下より、こた 00099540L4へていわく、なんぢハまた、/大丈夫(だいでうふ)の身として、いかむぞ、 00099550L5/馬(むま)にまたがり/鞭(むち)をふるわずして、かへつて/船(ふね)をひくやとい 00099560L6へり。 00099570¥N3¥J 00099580¥X三△/裳(もすそ)の/焦(こげ)たるを/驚(おどろ)かぬ事△◇事文類聚◇ 00099590L9もろこしに、さる人あり。むまれつきゆたかにして、物ご 00099600L10とにさわがぬ人なりしが、/冬(ふゆ)の日のことなるに、/友(とも)だちと 00099610L11ともに/炉(ろ)にあたりて、はなし/居(い)ける時、なにとかしたりけ 00099620L12ん、(七オ)/友(とも)だちの/衣(ころも)の/裳(もそす)に/火(ひ)つきて、もへあがれり。さ 00099630L13れども友だち、これをゆめにもしらず。かの人ハとくにしり 00099640L14しかども、さらにいわずして、しばらくありて、友だちにむ 00099650L15かつていひけるハ、こゝに一つの/大事(だいじ)あり、われ/以前(いぜん)より 00099660L16これをミつけたれども、これをいわば/君(きミ)おどろきおそれ給 00099670L17ふべし、又いわずんばわれを/恨(うらミ)給ふべし、かつうハ又、君 00099680L18の身もあやうかるべし、しからば、これをいひてよからん 00099690L19か、又ハいわずしてよからんかといへり。友だちこれをき 00099700M1ゝて、それハなに事なるやらん、いひ給へといへば、かの 00099710M2(七ウ)人、こゑをしづかにしていへるハ、君が/衣(ころも)の/裳(すそ)に火 00099720M3つきてもへ侍るといふ。友だちおどろき、やがてもミけし、 00099730M4おゝきにいかりていわく、なんぢ火つきてもゆる事を、と 00099740M5くに見付なば、なんぞはやくわれにいわざるといへば、か 00099750M6の人しづかにこたへていわく、われはじめよりいふごとく、 00099760M7いわば君おどろきおそれ給ふべしと、いまそのことばにた 00099770M8がわず、あんのごとく、君おどろきおそれ給へり、われこ 00099780M9ゝにおいて、いひてよかるべきか、いわずしてよかるべき 00099790M10かといわずやといへり。(八オ) 00099800¥N4¥J 00099810¥X四△/靴(くつ)を/銭(ぜに)九百にかふ事△◇帰田録◇ 00099820M13もろこしに/馮道(ひやうどう)といふものと、/和凝(くわぎやう)といふ者とあり。同 00099830M14じくともに/中書(ちうしよ)の/官(くわん)になりて、/奉輩(ほうばい)なりしが、ある時/和凝(くわぎやう) 00099840M15/馮道(びやうどう)にとひけるハ、君の/靴(くつ)ハあたらしく/買(かい)もとめ給ふと 00099850M16見えたり、そのあたひいかばかりぞや、うけ給たくこそ侍 00099860M17れといへば、/馮道(ひやうとう)/左(ひだり)の/足(あし)をあげて、/銭(ぜに)九百に/買(かへ)りといへ 00099870M18り。/和凝(くわぎやう)/下人(げにん)をよひよせ、大にいかりていわく、わが此 00099880M19中もとめし/靴(くつ)を、いかなれば千八百には/買(かい)たるぞ、はなは 00099890¥P218 00099900L1だ/高直(かうぢき)なりと、さん※に/罵(のり)ければ、/馮道(ひやうとう)しづか(八ウ) 00099910L2にして、又/右(ミき)のあしをあげて、これも又九百なりといへば、 00099920L3/和凝(くわぎやう)大にわらひて、いかりし心もうせけるとなり。 00099930¥N5¥J 00099940¥X五△見もせず/聞(きゝ)もせぬ事 00099950L6むかし/高林(たかばやし)/親友(ちかとも)といふものゝところへ、つね+/出入(いていり)を 00099960L7する、/隼人之介(はやとのすけ)といふものあり。いまだとしわかしとい 00099970L8へども、/才智(さいち)人にすぐれて、いかやうのむつかしき事なり 00099980L9とても、あんじわきまへずといふ事なし。ある時/親友(ちかとも)この 00099990L10ものが/智恵(ちゑ)をためさんがために、/隼人之介(はやとのすけ)をめして、とふ 00100000L11ていわく、世のなかに見もせず(九オ)聞もせぬものハいか 00100010L12んといふ。/隼人之介(はやとのすけ)こたへていわく、いかさまにも此御へ 00100020L13んじハ、明日こそ申侍らんとて、まかりしりぞきける。さ 00100030L14て明日にもなりしかば、あんのごとく/隼人之介(はやとのすけ)/来(きた)り、まミへ 00100040L15ける。人&これを聞んとて、さしつどひ、/耳(ミゝ)をすましてま 00100050L16ちけるに、その時/親友(ちかとも)、きのふのふしむハいかゞととひ給 00100060L17へば、/隼人之介(はやとのすけ)こたへていわく、さきほどさる所より、此 00100070L18/文(ふみ)を/君(きミ)へとゞけべき由申候ほどに、さて、さしあげ申とて、 00100080L19/懐(ふところ)よりちいさき文一/通(つう)とり出し、わたしける。/親友(ちかとも)これ 00100090¥G 00100100M12をひらき見給ふに、/以前(いぜん)あづけ/置(おき)たる、/金(きん)五十両を(九ウ) 00100110M13(十十五オ挿画)御かへし候へとあり。親友大におどろき、不/審(しん) 00100120M14の事もよそになり、左右のものにとふていわく、/汝等(なんぢら)ハ此 00100130M15金の事をしるやといふに、左右のものミな+口をそろへ 00100140M16て、かやうの金の事ハ、聞たる事も見たる事もなしといふ。 00100150M17其時/隼人之介(はやとのすけ)、さては見たることもなく、聞たる事もなき 00100160M18の/不審(ふしん)は、ひらき侍るといふに、人&大にかんじける。 00100170¥P219 00100180¥N6¥J 00100190¥X六△/酒(さけ)をのミて/四臓(しぞう)になりし事△◇事文類聚◇ 00100200L3もろこしに/艾子(がいし)といふ人あり。/学徳(がくとく)も人にすぐれ、/弁舌(べんぜつ)も 00100210L4たぐひなかりしが、つねにさけをこのミてのめる事、/節(ほど)に 00100220L5すぎたり。/弟子(でし)ども(十十五オ)あひともによりあひ、/艾子(かいし)の 00100230L6/酒(さけ)にふけり給ふ事をうれひて、酒ハ人の身に大なる/毒(どく)なり 00100240L7といふしるしを以て、/艾子(がいし)をいさめ奉るべしとて、ある時 00100250L8艾子大に酒にゑひて、/吐逆(ときやく)しられけるに、/弟子(でし)ひそかに/豕(いのこ) 00100260L9の/腸(はらわた)を/吐逆(ときやく)の中にまじゑおきて、艾子をいさめていわく、 00100270L10およそ人ハ/五臓(ごぞう)をそなへたるがゆへに、よく/生(いく)る事を/得(ゑ)た 00100280L11り、一/臓(ぞう)なりともまつたからざる時ハ、生る事あたわず、 00100290L12いま/君(きミ)/吐逆(ときやく)をして、一臓を出し給ふ、しからばたゞ/四臓(しぞう)な 00100300L13るべし、なにを以てか/四臓(しぞう)にて君いき給ハんやといふ。艾 00100310L14子つら+見て/笑(わらひ)ていわく、/唐(とう)の/三臓(さんぞう)さへ長く/生(いき)たり、い 00100320L15わんや(十六オ)/我(われ)ハ四/臓(ぞう)なるをやとて、/猶(なを)もやまずのミけ 00100330L16ると也。 00100340¥N7¥J 00100350¥X七△何事も/好(よし)といふ事△◇後漢書◇ 00100360L19もろこし/後漢(ごかん)の/司馬(しば)/徽(き)といふ人ハ、/字(あざな)を/徳操(とくそう)といゑり。/頴= 00100370M1州(ゑい=じう)といふ所の人なり。この人つねに人の事をそしる事なく、 00100380M2人とかたる時にも人の/好悪(よしあし)をとふ事なし。たゞ/平生(へいぜい)なに事 00100390M3もよしとばかりいひて、さらによの事をいわず。/郷人(さとひと)あり 00100400M4て、/徽(き)の/安否(あんひ)をとふに、たゞよしとのミこたへける。ある 00100410M5人、/徽(き)にあひて、子をうしなひける由をいひて、なげきけ 00100420M6れば、/徽(き)こたへて、大によしといゑり。/徽(き)が/妻(つま)いさめてい 00100430M7わく、人/君(きミ)が/徳(とく)あるを以て、きたりて(十六ウ)子をうしな 00100440M8へる事をいひてなげき侍るに、君なんぞ人の子の/死(し)したる 00100450M9をきゝて、大によしとはの給ふぞやといふ。/徽(き)聞て、なん 00100460M10ぢがいふ/言(ことば)もまた、大によしとぞこたへける。 00100470¥N8¥J 00100480¥X八△/歌(うた)を聞て/曲(きよく)をしらぬ事△◇世説◇ 00100490M13もろこし/郭(くわく)/洗馬(せんば)といふ人あり。ある時/洛陽(らくやう)にゐたりて、/妓= 00100500M14女(ぎ=ぢよ)のうたへるうたをきゝてかへり、/石(せき)/季倫(きりん)といふ者にかた 00100510M15りけるハ、われ/洛陽(らくやう)にいたりて、哥をきゝ侍るが、さて 00100520M16+よきうたにてぞありしといふ。/石(せき)/季倫(きりん)がいわく、その 00100530M17うたの/曲(きよく)ハ、なにといふ/曲(きよく)にてありけるぞやととひければ、 00100540M18/郭(くわく)/洗馬(せんば)しら(十七オ)ずとこたへける。/石(せき)/季倫(きりん)わらひていわ 00100550M19く、なんぢ/曲(きよく)をもしらずして、よき哥なりといへるは、い 00100560¥P220 00100570L1づくにきゝ所ありてほむるぞやといへば、/郭(くわく)/洗馬(せんば)こたへて 00100580L2いわく、たとへば/西施(せいし)を見るがごとし、いにしゑの/西施(せいし)と 00100590L3いへる女ハ、きわめてかほよき女なりといふ事は、もとよ 00100600L4りかくれなし、今たちまち、その/西施(せいし)といふ女を見ば、こ 00100610L5れ/西施(せいし)なりといふ/名(な)をしらずとも、よき女なりといふ事を 00100620L6しるべし、いまわれ、うたをよしといへるも、またかくの 00100630L7ごとし、いづれの/曲(きよく)といふ/名(な)はしらざれども、/自然(しぜん)と、よ 00100640L8きうたといふ事をしれりといへり。(十七ウ) 00100650¥N9¥J 00100660¥X九△/鳥巣(てうさう)/禅師(ぜんじ)の事△◇五灯会元◇ 00100670L11もろこし/富陽(ふやう)といふ所に、/鳥巣(てうさう)/道林(とうりん)/禅師(ぜんじ)といふ/僧(そう)あり。/秦= 00100680L12望山(しん=ぼうさん)といふ山にいたりて、木の長き/枝(ゑた)の、しげりかゞミて 00100690L13/蓋(かさ)のごとくなるを見て、つゐにそのうへに/棲(すミ)給ふ。かるが 00100700L16ゆへに時の人、此僧を/鳥巣(てうさう)/禅師(ぜんじ)とぞいひける。/元和(げんわ)中に/白= 00100710L15居易(はく=きよい)といふ人、かの/秦望(しんほう)山にいたりて、/禅師(ぜんじ)を見てとふて 00100720L16いわく、禅師のすミ所は、はなはだあやうし、いかなれば、 00100730L17かくあやうきところには、すミ給ふやといへば、禅師こた 00100740L18へていわく、われハあやうき事すこしもなし、なんぢこそ 00100750L19かへつてあや(十八オ)うけれといふ。/白居易(はくきよい)がいわく、われ 00100760M1/位(くらい)たつとくして、一国をしづむるほどの/威勢(いせい)ありて、/居(きよ)を 00100770M2やすむずる身たり、なんのあやうき事かあらんやといふ。 00100780M3/禅師(せんじ)のいわく、なんぢがごときおろかなる者は、心の火あ 00100790M14ひまじわりて、なんぢが/性(せい)をやく、しからば本心つゐには 00100800M5くらくなりて、わざわひ身にたへず、とゞめんとおもふと 00100810M6も得べからず、しからば、これなんぢがあやうき事ハ、わ 00100820M7があやうきよりは、はなはだしからずやとゐへり。 00100830¥N10¥J 00100840¥X十△/騎馬(きば)/一斤(いつきん)の事 00100850M10むかし/関白(くわんぱく)/大閤(たいかう)/秀吉公(ひてよしこう)の御時、名あるさふらひ(十八ウ)(十 00100860M11九オ挿画)ありしが、大坂/落城(らくしやう)/以後(いご)、/浪人(らうにん)して、としうち 00100870M12より、わづかのていにて、とし月をぞおくりける。ある時、 00100880M13人とともに、むかし大坂/陣(ぢん)のありさまをはなすとて、/騎馬(きば) 00100890M14かしこにも一きん、こゝにも一きん有て、おびたゝしきあ 00100900M15りさまなりしなどかたりける。かたへなるもの、わらひて 00100910M16いわく、騎馬をば一騎とハいへど、一きんと申事ハうけ給 00100920M17ハり侍らず、一きんとはいかゞしたる事やらん、きかまほ 00100930M18しくこそ侍ると/嘲(あざけ)りける時に、かの/浪人(らうにん)こたへけるハ、騎 00100940M19馬を一きんと申に、なにかくるしかるべきと、なを、/我(が)を 00100950¥P221 00100960¥G 00100970L12はりていひければ、一座のもの、ミな声を(十九ウ)あげてわ 00100980L13らひあざけりける。されどもかの/浪人(らうにん)なをもさわがずいひ 00100990L14けるは、ミな+ハ物の/義理(ぎり)をもわきまへずして、いかで、 00101000L15わらひ給ふぞや、/騎馬(きば)を一きんといふ事ハ、/馬(むま)といふもの 00101010L16ハ、/足(あし)をはかりにかけるものなれば、いかで一きんと申ま 00101020L17じくやと、/理屈(りくつ)をいひければ、人ミなあへてこたふる事あ 00101030L18たわず。 00101040¥N11¥J 00101050¥X十一△/楯(たて)と/矛(ほこ)とを/市(いち)にうる事△◇韓非子◇ 00101060M3もろこしに、楯と矛とを市に出てうるものあり。あたひを 00101070M4たかくうらんとて、ミづから/楯(たて)のかたき事をほめて、なに 00101080M5たる/利矛(ときほこ)をもつてつきやぶる(二十オ)とも、此/楯(たて)のやぶるゝ 00101090M6といふ事あらじとぞいひける。さてまた/矛(ほこ)を/売(うる)ときは、ミ 00101100M7づから/矛(ほこ)のとき事をほめて、なにたるかたき楯のたぐひな 00101110M8りとも、此矛(ほこ)をもつてつきやぶらば、やぶれずといふ事な 00101120M9しといへり。ある人これを聞て、なんぢがさほどにかたき 00101130M10/矛(ほこ)をもつて、またなんぢがかたき/楯(たて)をやぶらばいかんとい 00101140M11ひしかば、かのもの口をとぢて、こたふる事あたわずと也。 00101150M12是よりして、/自(ミつから)いふ事の/相違(さうい)するを/矛楯(ほうじゆん)と云也。 00101160¥N12¥J 00101170¥X十二△/■何(せんか)/釣(つり)を以て/王(わう)をいさむる事△◇列子◇ 00101180M15もろこし■/何(か)といふものありしが、つねに/釣(つり)(二十ウ)をたる 00101190M16ゝ事をのミ、たのしミやくとせり。/繭(かいこ)のほそき糸を以て、 00101200M17つり/綸(を)とし、/芒(のぎ)をつりばりとし、/荊(おどろ)をつり/竿(さほ)とし、食つぶ 00101210M18をさきて/餌(ゑば)として、百/仭(じん)@八尺を△|仭といふ@のふかきふちの、はやきな 00101220M19がれのうちに、魚を/大車(たいしや)にみつるほど、つりあぐれども、 00101230¥P222 00101240L1さらに/綸(を)たへず。つりばりのびず。/竿(さほ)たわまず。/楚王(そわう)これ 00101250L2をきこしめして、ふしぎに思ひ、めしてそのゆへをたづね 00101260L3給ふに、/■何(せんか)こたへていわく、われつりばりをまなぶ事五 00101270L4年にして、はじめてその妙を得たり、われ/河(かわ)にのぞミて、 00101280L5/竿(さほ)をもつにあたりてハ、心に/雑事(ぞうじ)をおもわず、(廿一オ)たゞ 00101290L6魚のミに念ありて、つりばりをしづむるに/軽重(きやうぢう)なく、/綸(を) 00101300L7をおろすにゆがむ事なし、うを、わが/餌(ゑば)を見てハ方&より、 00101310L8あつまり来りて、餌をのミてうたがわず、よくよわきを以 00101320L9て、つよきをせいし、かるきを以て、おもきをいたす、い 00101330L10ま君の/政(まつりこと)もまたかくのごとし、まことによく君の政のつ 00101340L11りばり、たゞしく侍らば、天下の/民(たミ)ミな君の/餌(ゑば)にあつまり 00101350L12きたらん、しからば君の/政(まつりこと)をもつて、わがつりたるゝこ 00101360L13とを、わきまへしり給ふべし、しかるを、わがつりたるゝ 00101370L14事をしらずして、たづねとひたまふにて、君のまつりごと 00101380L15の、たゞし(廿一ウ)からさる事、おしはかられ侍るとぞ、 00101390L16いひし。 00101400¥N13¥J 00101410¥X十三△/片輪(かたわ)/車(くるま)の事 00101420L19むかし、/信長公(のふながこう)の御時、/原(はら)/一滴(いつてき)といふ、かくれもなき/利口(りかう) 00101430M1/理屈(りくつ)の者ありしが、なにとか、おもひけむ、奉公をやめ、 00101440M2/京都(きやうと)にのぼり、/山崎(やまざき)といふ所に、たよるかたありて、引 00101450M3こミ、/浪人(らうにん)して居けるが、ある時、用の事ありて、京への 00101460M4ぼるとて、/鳥羽(とば)/海道(かいどう)をとをりけるに、道ばたに、/車(くるま)の/片&(かた+) 00101470M5の/輪(わ)なきをすておけるを見て、二人して、これをあらそひ 00101480M6けるをきくに、一人のいわく、こゝにかたわものあり、と 00101490M7いふ。又一人のいわく、これハかたわになきもの(廿二オ)な 00101500M8り、といふ。たがひにこれを/論(ろん)じあひければ、一/滴(てき)たちよ 00101510M9りて、そのしさいをとふに、一人のいわく、およそ、/車(くるま) 00101520M10ハ/両方(りやうはう)に/輪(わ)あるものに、さだまれり、かつ、人として、 00101530M11/五躰(ごたい)たゞしからず、むまれつき/疵(きず)ある時ハ、/行住(ぎやうじう)/座臥(ざぐわ)ま 00101540M12つたからず、いま/此車(このくるま)、/輪(わ)かた+なる時ハ、/地(ち)をゆく事 00101550M13/全(まつた)からず、われこゝを以て/片輪(かたわ)ものといへりといふ。又一 00101560M14人のいわく、およそ/車(くるま)ハ両方に/輪(わ)あるにさだまれり、いま 00101570M15このくるま、かた+に輪なし、かるがゆへに/片輪(かたわ)になき 00101580M16ものといへり、といへば、一/滴(てき)きゝて、かやうの各&/理(り)あ 00101590M17るあらそひハ、/片輪(かたわ)らより、あつかふべきにあらず、と 00101600M18(廿二ウ)(廿三オ挿画)いへば、二人ともに/笑(わらひ)てさりぬ。 00101610¥P223 00101620¥G 00101630¥N14¥J 00101640¥X一四△/鈴鐸(れいたく)を/不審(ふしん)する事△◇事文類聚◇ 00101650L14もろこし/営丘(ゑいきう)といふ所に、うまれつきおろかにして、つね 00101660L15に物ごとに/不審(ふしん)をなして、/穿鑿(せんさく)する人あり。ある時、/艾= 00101670L16子(がい=し)といふ人のもとにゆきて、とふていわく、/大車(たいしや)の下と、 00101680L17又ハ/駱駝(むま)のくびすとに、おゝく/鈴鐸(れいたく|△すゝ△)をつけ侍るハ、いかな 00101690L18るゆへにか侍るやらん、われ、つねにこれをいぶかしくお 00101700L19もひ侍るなり、といへり。艾子こたへていわく、/車(くるま)と/駝(むま)ハ、 00101710M1おゝくハ/夜(よる)ゆくものなり、もしせばき道にて、/車(くるま)/駝(むま)にゆ 00101720M2きあふときは、にわかに/避(さけ)がたし、かるがゆへに、/鈴鐸(れいたく)の 00101730M3(廿三ウ)なるこゑをきゝて、前かたより、わきミちへよりて 00101740M4/避(さけ)しめんがために付るなり、といふ。/営丘(ゑいきう)の人のいわく、 00101750M5しからば/仏塔(ぶつたう)のうへにもまた、/鈴鐸(れいたく)をかけおく事あり、な 00101760M6んぞ/仏塔(ぶつたう)の上が、よるゆきて人をさけしむるといふ事あら 00101770M7んや、といへり。/艾子(がいし)がいわく、君/理(り)に/通(つう)ぜざるゆへ、こ 00101780M8の/不審(ふしん)あり、およそ/烏鵲(うじやく|からすかさゝき)のたぐひ、とびきたりて、たかく 00101790M9/巣(すくふ)て、/糞(ふん)のけがれミだれがわしきがゆへに、/塔(たう)のうへに/鈴= 00101800M10鐸(れい=たく)あるは、/烏鵲(うじやく)をおどろかさんがためなり、あに/車(くるま)/駝(むま)と同 00101810M11じくたくらべんや、といへり。/営丘(ゑいきう)の人のいわく、/鷹鷂(たか)の 00101820M12/尾(を)にもまた、ちいさき/鈴(すゝ)をつくる事あり、(廿四オ)いづくん 00101830M13ぞ/鷹鷂(たか)の/尾(を)に、/烏鵲(うしやく)のたかく/巣事(すくふ)あらんや、といへり。/艾(がい) 00101840M14子大にわらひていわく、あやしいかな、君が通ぜざる事、そ 00101850M15れ/鷹(たか)/隼(はやぶさ)ハ、鳥をうつ物なり、もし/林(はやし)のうちにいりて、/足(あし) 00101860M16につけたる/線(いと)、たま+木のゑだのために、まとわさるゝ 00101870M17時ハ、かの/鷹(たか)とぶことあたわずして、木にとまりて、つば 00101880M18さをふるふゆへに、付たる/鈴(すゞ)なるなり、かるがゆへに、そ 00101890M19の/鈴(すゞ)のこゑをしるべに、たつぬべきがために、つくるなり、 00101900¥P224 00101910L1いかんぞ/鷹(たか)の/尾(を)の/鈴(すゞ)ハ、/烏鵲(うじやく)の/巣(すく)ふ事をふせがんためなら 00101920L2んや、といふ。/営丘(ゑいきう)の人のいわく、われかつて/挽郎(はんらう)@/鈴(すゞ)をふり|て死たる@ 00101930L3@人を/引導(いんとう)す|るものなり@の/鈴(すゞ)をとつてうたふを見るに、(廿四ウ)いまゝでハ、 00101940L4その理をしらざりしが、さてハかの/挽郎(はんらう)もまた、木のゑだ 00101950L5のために、まとわされて、たづねもとむる時のたよりなら 00101960L6んために、/鈴(すゞ)をふるなるべし、しからば/挽郎(はんらう)のあしにも、 00101970L7/鷹(たか)のごとく、/皮(かわ)を/用(もちゆ)るか、/線(いと)をもちゆるか、これまた/不審(ふしん) 00101980L8に侍るといふ。/艾子(がいし)いかりて、こたへていわく、/挽郎(はんらう)ハす 00101990L9なわち、/死(しゝ)たるものゝ/導(ミちびき)なり、死たるもの/生(いき)て/居(い)る時、も 00102000L10のごとに/不審(ふしん)をする事をこのむゆへに、/挽郎(はんらう)/鈴(すゞ)をふりて、 00102010L11その/尸(しかばね)をたのしましむるなり、とこたゑて、まのあたり、 00102020L12はじしめけるとなり。 00102030¥N15¥J 00102040¥X十五△耳大なれども/富貴(ふうき)にならざる事△◇事文類聚◇ 00102050L15△△△△(廿五オ) 00102060L16もろこし、/徳宗(とくそう)の御代の時、/節度(せつと)の/官(くわん)に、/李(り)/忠臣(ちうしん)といふも 00102070L17のあり。きわめて/博学(はくがく)/弁智(べんち)あるものなりしが、ある時、/徳= 00102080L18宗(とく=そう)、/李(り)/忠臣(ちうしん)にとふての給ハく、われきく、/耳(ミゝ)の大なるもの 00102090L19ハ/富貴(ふうき)の/相(さう)なりといへり、いま、なんぢが/耳(ミゝ)/長大(ちやうだい)なり、 00102100M1なんぢかならず/富貴(ふうき)人なり、とのたまへば、/李(り)/忠臣(ちうしん)こたへ 00102110M2ていわく、われうけ給ハり侍るに、/驢(うさぎ)の/耳(ミゝ)は、はなはだ大 00102120M3なれども、其/身(ミ)いやしく、くらひひきし、/龍(りやう)ハ/耳(ミゝ)きわめて 00102130M4/小(すこしき)なれども、その/身(ミ)たつとくして、/四霊(しれい)のうち也、今わ 00102140M5が/耳(ミゝ)大なりといへども、これいましい/驢(うさぎ)の耳と同じとぞい 00102150M6へり。(廿五ウ) 00102160¥N16¥J 00102170¥X十六△/石(いし)に/漱(くちすゝ)ぎ/流(ながれ)に/枕(まくら)する事△◇晋書◇ 00102180M9もろこしに、/孫楚(そんそ)、/字(あざな)は/子荊(しけい)といふ人ハ、/大原(たいげん)/中都(ちうと)の人な 00102190M10り。/才智(さいち)/卓絶(たくぜつ)にして/群(ぐん)ならず。/官馮翅(くわんひやうよく)の/大守(たいしゆ)となれり。 00102200M11/孫楚(そんそ)はじめ/少(わか)かりし時、つねに/隠居(いんきよ)したくおもひて、/王済(わうせい) 00102210M12といふものに、かたりけるハ、われまさに/隠居(いんきよ)して、/石(いし)を 00102220M13/枕(まくら)とし、/流(ながれ)に/漱(くちすゝが)んとおもふ、といふ事を、あやまりて、 00102230M14いひそこなひ、/石(いし)に/漱(くちすゝ)ぎ/流(なかれ)に/枕(まくら)せんとおもふ、といへり。 00102240M15/王済(わうせい)がいわく、ながれハ枕とはなるべからず、石にてハ 00102250M16/漱(くちすゝく)事なるべからず、いかなればかくハの給ふぞ、とい 00102260M17へば、/孫楚(そんそ)がいわく、/流(ながれ)にまくらするゆへハ、わが/耳(ミゝ)を(廿六 00102270M18オ)あらわんがためなり、石に/漱(くちすゝ)ぐゆへハ、わが/歯(は)を/磨(とが) 00102280M19むがためなり、しからばなんぞ、かくいふとも、くるしか 00102290¥P225 00102300L1らざらんや、といひかへけるとなり。 00102310¥N17¥J 00102320¥X十七△/石(せき)/学士(がくし)の事△◇百家詩◇ 00102330L5もろこしに、/石(せき)/曼卿(まんきやう)といふ人あり。つねにたわふれごとを 00102340L6いふ人なり。ある時よそへ出る時に、/馬(むま)にのりしに、馬の 00102350L7口とるものあやまりて、/轡(くつわ)をとりおとしたりければ、馬こ 00102360L8れにおどろきて、かけいでけるゆへ、/石(せき)/曼卿(まんきやう)つゐに馬より 00102370¥G 00102380M1おちける。やう+人にたすけられ、/鞍(くら)にのぼりていゑる 00102390M2は、われハこれ、/石氏(いしうじ)の/学士(がくし)なり、かるがゆへに、馬より 00102400M3おちたれども(廿六ウ)(廿七オ挿画)わが身くだけやぶれず、 00102410M4もしわれ/瓦氏(かハらうじ)の/学士(がくし)ならば、さだめて/身(ミ)を/砕(くだ)きそこなふ 00102420M5べからんものを、といへり。 00102430¥N18¥J 00102440¥X十八△/青砥(あをと)左衛門が事 00102450M8むかし、/報光寺(ほうくわうじ)/最勝園寺(さいしやうをんじ)二代の/相州(さうしう)につかへて、/引付(ひきつけ)の 00102460M9/人数(にんじゆ)に/列(つら)なりける、/青砥(あをと)左衛門といふ者あり。ある時この 00102470M10/青砥(あをと)左衛門、/夜(よ)にいりて/出仕(しゆつし)しけるに、いつも/燧袋(ひうちふくろ)にいれ 00102480M11てもちたる/銭(ぜに)を、十文ばかりとりはづして、/滑川(なめりがわ)へぞ/落(おと)し 00102490M12ける。わづか/銭(ぜに)十文の事なれば、うちすてゝもとおるべき 00102500M13に、もつての外にあわてゝ、そのほとりの/町(まち)屋へ(廿七ウ) 00102510M14人をはしらかし、/銭(ぜに)五十文を以て/続松(たいまつ)を十/把(は)かいもとめて、 00102520M15すなわちこれをとぼして、つゐに十文の/銭(ぜに)をぞ、たづね得 00102530M16たり。のちに人これを聞て、十文の銭をもとめゑんがため 00102540M17に、五十にて/続松(たいまつ)をかいて、ともしけるハ、まことに/小利(しやうり) 00102550M18/大損(たいそん)かな、とわらひければ、/青砥(あをと)左衛門まゆをひそめて、 00102560M19いひけるは、さればこそ、われをかくそしるは、/世(よ)のつい 00102570¥P226 00102580L1ゑをしらず、/民(たミ)をめぐむ心なき人のいふ事也、おとしたる 00102590L2十文の銭を、たゞいまたづねもとめずんば、/滑(なめり)川のそこに 00102600L3ながれしつミて、ながくうせぬべし、それがしが/続松(たいまつ)をか 00102610L4わせたる(廿八オ)五十の銭ハ、/商人(あきんと)の/家(ゐへ)にとゞまりて、な 00102620L5がく/失(うす)べからず、わが/損(そん)は/商人(あきんど)の/利(り)なり、かれとわれと、 00102630L6なんのしやべつかある、かれこれ六十文の銭一文をもうし 00102640L7なわず、あに天下の利にあらずや、といへり。 00102650¥N19¥J 00102660¥X十九△/■飯(やうはん)/毳飯(せいはん)の事△◇事文類聚◇ 00102670L10もろこし、/郭震(くわくしん)といふものと/任介(じんかい)といふ者ハ、/友(とも)だちに 00102680L11して、/西蜀(せいしよく)のうちにても、/才(さい)人にすぐれたるものなり。あ 00102690L12る時、/郭震(くわくしん)、/文(ふミ)を/任介(じんかい)がかたへつかわして、明日/■飯(ようはん)を 00102700L13ふるまわんといひて、つかハしけるに、/任介(じんかい)此むねをさと 00102710L14らず。いさゝかふしんにおもひしかども、/約束(やくそく)のごとくゆ 00102720L15きけるに、すでに(廿八ウ)日中の時分に、/糲飯(れいはん△△△|あらきくいもの)を一/盃(はい)、/蘆蔔(だいこん) 00102730L16と/塩(しほ)と、おの+一/盤(はん)をそなへて、その外はさらに/食物(しよくもつ) 00102740L17もなかりける。/任介(じんかい)がいわく、きのふの文に、/■飯(やうはん)とあり 00102750L18しハ、なにの事にか侍るやらん、ととへば、/郭震(くわくしん)がいわ 00102760L19く、たゝいまの/膳部(ぜんぶ)の白き/飯(いひ)、白き/蘆■(だいこん)、白き/塩(しほ)、ミつなが 00102770M1ら、ミなしろければ、/■飯(やうはん)にあらずや、といふ。/任介(しんかい)つゐ 00102780M2にこれをくひて、しりぞきぬ。そのゝち/任介(しんかい)、この/返報(へんほう)を 00102790M3せんとやおもひけん。ある日、/文(ふミ)を/郭震(くわくしん)がかたへつかわし 00102800M4て、いわく、明日/毳飯(せいはん)をふるまふべし、/来(きた)りたまへかし、 00102810M5といふ。/郭震(くわくしん)また、/約束(やくそく)のごとくしてゆくに、ひるすぎに 00102820M6(廿九終オ)いたるまで、つゐに食物をいださず。/郭震(くわくしん)これを 00102830M7とふ。/任介(じんかい)がいわく、昨日すでに申しんじ侍るとをりなり、 00102840M8といふ。/郭震(くわくしん)きゝて、なにゝてか侍るぞや、ととへば、/任= 00102850M9介(じん=かい)こたへていわく、今日のふるまひには、/飯(いひ)も/毛(なし)、/蘆蔔(たいこん)も 00102860M10/毛(なし)、/塩(しほ)も/毛(なし)、しかれば、/毛(なき)ものミつなれば、昨日申おくりた 00102870M11るごとく、/毳飯(せいはん)にあらずや、といひて、つゐに/食(しよく)せしめず 00102880M12して、かへしけると也。 00102890¥Y1巻之一終(廿九終ウ) 00102900¥P227 00102910¥Y1/理屈物語(りくつものかたり)/巻(くわん)之二/目録(もくろく) 00102920L3一△/興(けふ)つきてかへる事 00102930L4二△/人間(にんげん)/万事(ばんじ)/塞翁(さいおう)が/馬(むま)の事 00102940L5三△/釣(つり)をたれて/魚(うを)をすつる事 00102950L6四△/子罕(しかん)/玉(たま)をうけざる事 00102960L7五△/簪(かんざし)を/失(うしなふ)てなく事 00102970L8六△/馬(むま)をうらざる事 00102980L9七△/文字(もじ)に付ての/才覚(さいかく)の事 00102990L10八△/秦■(しんひつ)天を/論(ろん)ずる事 00103000L11九△/斉(せい)の/貧者(ひんじや)の事 00103010L12十△/栄啓期(ゑいけいき)が三/楽(らく)の事(一オ) 00103020L13十一△/牛午(うしむま)の/差別(しやべつ)の事 00103030L14十二△/■雍(げきよう)ぬす人をさす事 00103040L15十三△/荘周(さうしう)/亀(かめ)をたとへに引事 00103050L16十四△/陳蕃(ちんはん)/室(しつ)を/掃除(さうぢ)せざる事 00103060L17十五△/前後(ぜんご)とひを/失(しつ)する事 00103070L18十六△/増賀(ぞうが)ひじりの事 00103080L19十七△/水利(すいり)を/好(この)む事 00103090M1十八△/楊氏(やううじ)をもつてたわふるゝ事 00103100M2十九△/艾子(かいし)/子(こ)をうしなふ事 00103110M3二十△/魚(うを)ぬすミ/夜(よ)をおかす事 00103120M4△△△△△△△△△△目録終(一ウ) 00103130¥P228 00103140¥T1/理屈物語(りくつものかたり)/巻(くわん)之二 00103150¥N1¥J 00103160¥X一△興つきてかへる事△◇晋書◇ 00103170L5もろこし/晋(しん)の国に、/王(わう)/徽之(きし)、/字(あざな)ハ/字猷(しゆふ)といふものあり。/才= 00103180L6智(さい=ち)人にすぐれて、きわめて理/屈(くつ)なるもの也。/常(つね)に/山陰(さんいん)とい 00103190L7ふ所に/陰居(いんきよ)して/居(い)けるが、ある夜大雪ふりて、はじめては 00103200L8れ、月の色もほがらかなりしに、/子猷(しゆふ)ひとり酒をくミ、/左= 00103210L9思(さ=し)といふ者がつくりし/招隠(でういん)の詩をゑいじて居けるに、たち 00103220L10まち、わがともだちの/戴逵(たいき)といふものにあひたく思へり。 00103230L11時に/戴逵(たいき)は/■渓(せんけい)といふ所にありしが、子猷が所よりハ、は 00103240L12るかにとをき/海(かい)上なり。されども子猷その夜に舟(二オ)に 00103250L13のりて、/戴逵(たいき)がもとへ心ざしてゆきしに、一夜をへて、つ 00103260L14ゐに戴逵が門前まてゆきつきたり。されども戴逵が門のう 00103270L15ちへいらず。戴逵にもあわずして、つゐに門前よりかへれ 00103280L16り。人そのゆへをとひけるに、子猷こたへていわく、われ 00103290L17はじめこゝまで来れるハ、/興(けう)に/乗(じやう)じて来れり、すでに門前 00103300L18までゆきつきぬれバ、はじめの興つきたり、しかれバわが 00103310L19来るハ興によつて也、興なくんバ来らじ、今興つきたれバ 00103320M1/来(きたら)ざる時と同じ、ゆへに、門へいらずしてかへれり、とい 00103330M2へり。 00103340¥N2¥J 00103350¥X二△/人間(にんげん)/万事(ばんじ)/塞翁(さいをう)が/馬(むま)の事△◇淮南子◇ 00103360M5もろこし/辺塞(へんさい)のほとりに、一人のおきなありしが、つ 00103370M6(二ウ)ねにひさうせる/馬(むま)あり。ある時いづくともなく、う 00103380M7せゆきけり。されどもかの/翁(おきな)、すこしもたづねもとむる事 00103390M8なく、さらにうれふるけしきもなし。あたりの人より合て、 00103400M9これハあしきことかなとて、とぶらひければ、翁がいわく、 00103410M10あしきとて、なんぞかならずしもあしからん、さだまれる 00103420M11事にあらず、といふ。そのゝち/数月(すけつ)ありて、かの馬、よき 00103430M12/駿馬(しゆんめ)をひきてかへれり。人ミなより合て、これハよき事か 00103440M13なといわひければ、翁がいわく、よしとて、なんぞかなら 00103450M14ずしもよからん、さだまれる事にあらず、といふ。この翁 00103460M15が子あり。つねに馬にのる事をこのめり。ある時この子、 00103470M16馬よりおちて/臂(ひぢ)をおり(三オ)(三ウ・四オ挿画)けるに、人& 00103480M17よりあひ、これハあしき事かなとて、とふらひけるに、翁 00103490M18がいわく、あしきとて、なんぞかならずしも悪ならん、さ 00103500M19だまれる事にあらず、といふて、さらにうれひず。そのゝ 00103510¥P229 00103520¥G 00103530M1ち一年して、/胡国(こ△こく△|ゑひすくに)大にミだれ、/兵乱(ひやうらん)おこりしに、としわか 00103540M2きものハ、ミな+/軍(いくさ)に出てたゝかひ、/死(しゝ)たりしが、この 00103550M3翁が子ハ/臂(ひぢ)おれたるゆへに軍にいでずして、つゐに/命(いのち)を 00103560M4/全(まつとう)する事を得たり。これ、あしきとてなんぞかならずし 00103570M5もあしからん、といへることばにかなひて、つゐに/命(いのち)を 00103580M6/全(まつとう)する所の/善(せん)を得たり。是を/人間(にんげん)/万事(ばんじ)/塞翁馬(さいをうがむま)、推枕 00103590M7軒頭聴雨眠と、/宋人(さうひと)/晦機師(くわいきし)といふ/僧(そう)の、/頌(じゆ)につくりしよ 00103600M8り、人(四ウ)つねに口すさミにしけるとなり。 00103610¥N3¥J 00103620¥X三△/釣(つり)をたれて/魚(うを)をすつる事△◇事文類聚◇ 00103630M12もろこし/魏王(ぎわう)、/夫人(ふじん)の/竜陽君(れうやうくん)とゝもに、舟にのりて、つり 00103640M13をたれ給ふに、/魚十(うをとを)あまりをつり得たり。ときに夫人の竜 00103650M14陽君、かの魚をミな水中へすて給ふ。魏王そのゆへをとひ 00103660M15給へば、竜陽君なミだをながし、こたへていわく、われは 00103670M16じめ魚をつり得たる時ハ、はなはだうれしかりしが、のち 00103680M17につり得る事おほくなりてより、はじめのうれしさを、う 00103690M18ちわすれて、すてん事を思ひ侍りしなり。そのごとく、い 00103700M19まわれ君につきしたがひて、くらゐたつとく、てうあひし 00103710¥P230 00103720L1らるゝといへ共、(五オ)天下のうちに、いくばくの/美人(びじん)お 00103730L2ゝからん、しからバのちには、そのおゝくの美人をあひし 00103740L3給ひて、はじめあひせられしわれハ、かへつてすてられん 00103750L4事、かの魚をつり得たるにおなじ、との給へば、/魏王(きわう)かん 00103760L5じて、/群臣(ぐんしん)に/命(めい)じて、あへて美人の事をいわせられざりし 00103770L6となり。 00103780¥N4¥J 00103790¥X四△/子罕(しかん)/玉(たま)をうけざる事△◇左伝◇ 00103800L9もろこし/宋(そう)の人、たぐひなき玉をもてり。よきたからなり 00103810L10とて、これを/子罕(しかん)といふ人にたてまつりけるに、子罕じた 00103820L11ひして、うけずしていわく、なんぢらがごときハ、かくの 00103830L12ごとくなる玉をもつて第一のたか(五ウ)らとす、わがごと 00103840L13きものハ、/貪(むさほ)らざるをもつて第一のたからとす、もしわが 00103850L14ごときものに、この/宝(たから)をあたへば、ミなうしなふべし、し 00103860L15からば、われにあたへて、うしなハせんよりハ、しかじ、 00103870L16たゞ、人にあたへて、たからをたもたしめんには、といひ 00103880L17て、つゐにうけす。 00103890¥N5¥J 00103900¥X五△/簪(かんざし)をうしなふてなく事△◇韓詩外伝◇ 00103910M3もろこし、/孔子(こうし)といへる/聖人(せいしん)、/少原(せうげん)といへる野に出て、あ 00103920M4そびゐし時、女の/沢(さわ)のほとりになくこゑあり。そのこゑき 00103930M5わめて、かなしひふかし。孔子ふしぎにおぼしめして、/弟= 00103940M6子(で=し)をつかハして、なにゆへにかくなくぞ、とたづねさせ給 00103950M7へば、かの女こたへて申けるハ、さきにわれ/薪(たきゝ)をかりし 00103960M8(六オ)時、わが/簪(かんざし)をうしなひ侍る、いかほどたづね侍れど 00103970M9も、つゐに見えず、このゆへになき侍る、といふ。孔子の 00103980M10ゝ給ハく、/薪(たきゝ)をかる時、簪をうしなひたる事、さのミかほ 00103990M11どまで、かなしき事にあらす、いかん、とゝひ給へは、女 00104000M12こたゑていわく、われ簪をうしなひたるをおしミて、かく 00104010M13なげくにあらず、わがかなしむゆへハ、かの簪ハ、われ久 00104020M14しく身をはなさずもち侍りて、そのふるきをわすれざるが 00104030M15ためなり、といへり。 00104040¥N6¥J 00104050¥X六△/馬(むま)を/売(うら)ざる事△◇世説◇ 00104060M18もろこし、/■良(ゆれう)といへる者あり。/的(てき)顱といへる馬をもて 00104070M19り。ときに/殷浩(いんかう)といふもの、■良にいひけるハ、この(六 00104080¥P231 00104090L1ウ)馬をもてる人ハ、かならす/災(わさわい)にあふときけり、さる 00104100L2あいだ、君はやくこの馬をよそへうり給ふへし、といふ。 00104110L3/■良(ゆれう)がいわく、われたとひ此馬をよそへうりて、わが身の 00104120L4わざわひをまぬかるゝとも、/他人(たにん)これをかひて、わざわひ 00104130L5にあわバ、これ/仁道(じんとう)にあらず、といひて、つゐにうらず。 00104140¥N7¥J 00104150¥X七△/文字(もじ)に付ての/才覚(さいかく)の事 00104160L8むかし、/小早川(こばやかわ)/隆景(たかかけ)といふ人の/御内(ミうち)に、めしつかハるゝ、 00104170¥G 00104180M1何それがしとやらんいへる下人あり。此もの文字につきて 00104190M2の/才智(さいち)ありて、いかやうのむつかしき事も、文字にあたり 00104200M3たる事なれバ、わきまへしらずといふ事(七オ)(七ウ挿画) 00104210M4なし。あるとき隆景、この者が/智恵(ちゑ)をためさんが為に、/庭(にわ) 00104220M5へおり、木にこしをかけ、/頭(かしら)に/草(くさ)の/葉(は)をいたゞきて、かの 00104230M6下人をよびよせ、それと名をさゝずして、たゞ、もちて来 00104240M7れ、とのミいひければ、かの下人やがてさとりて、/茶(ちや)をた 00104250M8てゝもち来れり。隆景大にかんじ給ひけると也。 00104260¥N8¥J 00104270¥X八△/秦■(しんひつ)/天(てん)を/論(ろん)ずる事△◇三国志蜀志◇ 00104280M11もろこし、/蜀(しよく)の/国(くに)に、/秦■(しんひつ)、/字(あざな)ハ/子勅(しちよく)といふものあり。/漢(かん) 00104290M12の/綿竹(めんちく)といふ所の人なり。わかふして/才学(さいかく)おほし。/張温(ちやうおん)と 00104300M13いふもの、秦■にとふていわく、君ハ道を/学(まな)び給ふなりや。 00104310M14■こたへていわく、およそ五/尺(しやく)の/童子(どうじ)も、(八オ)ミな道を 00104320M15/学(まな)ぶことをなす、なんぞかならずしも、われのミならんや。 00104330M16/温(おん)又とふていわく、天に/頭(かしら)ありや。■がいわく、/天(てん)の/頭(かしら)ハ 00104340M17/西方(さいはう)にあり、/詩経(しきやう)に、/乃(すなわ)ち/眷(かへり)見、/西(にし)に/顧(かえりミ)るとあるをもつ 00104350M18て、しり給ふべし、といふ。/温(おん)又とふていわく、天に/耳(ミゝ)あ 00104360M19りや。■がいわく、天ハ高きにゐて、ひきくにきく、/詩経(しきやう) 00104370¥P232 00104380L1に、/鶴(つる)/九皐(きうかう)になくこゑ天にきこゆとあり、天もし耳なくん 00104390L2ば、なにをもつてか聞んや、といへり。温またとふていわ 00104400L3く、天に足ありや。■がいわく、/詩経(しきやう)に、天/艱難(かんなん)に/歩(ほ)すと 00104410L4あり、天/足(あし)なくんば、なにをもつてか/歩(ほ)せんや、といへり。 00104420L5温又とふていわく、天に/姓(うじ)ありや。■がいわく、天ハ/劉姓(りううじ) 00104430L6なり、今/漢(かん)の/天(てん)(八ウ)/子(し)ハ劉姓なるをもつて、しり給ふべ 00104440L7し、天子ハ天の/子(こ)也、子の/姓(うじ)劉ならば、いかんぞ天の/姓(うじ)劉 00104450L8ならざらんや、と云。温またとふ、日ハ/東(ひがし)に/生(しやう)ずるや。■ 00104460L9がいわく、日ハ/東(ひんがし)に生ずるといへども、また/西(にし)に/没(ぼつ)す、と 00104470L10いへり。ひめもすとへども、つゐにそのとひに/屈(くつ)する事な 00104480L11かりき。 00104490¥N9¥J 00104500¥X九△/斉(せい)の/貧者(ひんじや)の事△◇列子◇ 00104510L14もろこし、/斉(せい)の/国(くに)に/貧者(ひんじや)あり。つねに/市(いち)にゆきて、人に物 00104520L15をこひもとめて、その日をわたりけるが、あまりたび※ 00104530L16ゆきて、こひもとめけるゆへ、のちにハ人にくミいとひて、 00104540L17食をあたふる者なかりければ、貧者いまハすべきやうなく 00104550L18て、/人(ひと)の/厩(むまや)のほとりに行て、馬ぐす(九オ)しにしたがひ、 00104560L19はたらきて、/食(しよく)をもらひてくひける。むかしの友どち、こ 00104570M1れを見て、わらひ、ゆびさしていわく、/馬医(むまくすし)のごとくなる、 00104580M2いやしきものにつきしたがひて、食するハ、まことに大な 00104590M3るはぢならずやといへば、かの貧者のいへるハ、天下のは 00104600M4ぢハ、人に食をこふほどなるはぢハなし、物をこふてくふ 00104610M5だに、はぢす、いかんぞ馬医をはぢんや、といへり。 00104620¥N10¥J 00104630¥X十△/栄啓期(ゑいけいき)が三/楽(らく)の事△◇家語◇ 00104640M8もろこし、/栄啓期(ゑいけいき)といふ人ハ。/■(せい)といふ/野(の)にゆきて、/鹿(しか)の 00104650M9/裘(かわころも)を着、/索(なわ)をおびとし、/琴(こと)をひきて、うたうたふて、つ 00104660M10ねにたのしミとせり。孔子ゆきて、とふての給ハく、(九ウ) 00104670M11/先生(せんせい)のたのしミとするところハなにぞやと。/栄啓期(ゑいけいき)こたへ 00104680M12ていわく、わがたのしミハ、はなはだ多し、されども/至極(しごく) 00104690M13のたのしミ三あり、天/万物(ばんぶつ)を/生(しやう)じて、/禽獣草木(きんじうさうもく△|とりけたものくさき)あり、われ 00104700M14そのなかにて人たる事を得たり、これひとつのたのしミ也、 00104710M15およそ人/男女(なんによ)の/別(わかち)ある中に、われ男たる事を得たり、是又 00104720M16ひとつのたのしミなり、人むまれて/■褓(きやうほ|むつき△)の中をまぬかれず、 00104730M17われいまとし九十五なり、これまた一つのたのしミなり、 00104740M18われあわせて三つのたのしミあり、世間のたのしミ、これ 00104750M19に過たる事なし、/貧(ひん)ハ人のつねたる道也、死ハ人のおハり 00104760¥P233 00104770L1也、しからバわれなんぞ此二つをうれゑんや。(十ノ十五オ) 00104780¥N11¥J 00104790¥X十一△/牛午(うしむま)の/差別(しやべつ)の事 00104800L4むかし、/源九郎義経(げんくらうよしつね)、/摂津(せつつ)の/国(くに)/難波(なにわ)の/里(さと)を通り給ふ時、/百= 00104810L5姓(ひやく=しやう)の家に、むまやより/午首(むまくび)を出して居ければ、/義経(よしつね)/弁慶(べんけい)を 00104820L6めして、この/牛(うし)を見けるにや、とおゝせければ、弁慶よく 00104830L7見れども、さらに/牛(うし)にてハなかりしかバ、これハ/午(むま)にてこ 00104840L8そ候へといへば、義経聞召れて、さればこそ/午(むま)の首を出し 00104850L9たるハ牛にあらずや、との給へば、弁慶げにもとかんしけ 00104860L10ると也。まことに/文字(もじ)のうへにておゝせられしを、弁慶さ 00104870L11とらざりけると也。 00104880¥N12¥J 00104890¥X十二△/■雍(げきよう)ぬす人をさす事△◇列子◇(十ノ十五ウ) 00104900L14もろこし、/晋(しん)の/国(くに)にぬす人おゝくして、国さわがしく、民 00104910L15くるしめり。こゝに/■雍(げきよう)といふものあり。よくぬす人のか 00104920L16たちを見しりて、これをさすに、千百に一人もたがふ事な 00104930L17し。/晋(しん)の/候(きミ)、/■雍(げきよう)を/用(もち)ひ、よろこびて、/趙(てう)/文子(ぶんし)といへるも 00104940L18のに、かたりていわく、われ/■雍(げきよう)一人を得て、一国のぬす 00104950L19人をこと+くとりつくせり、いづくんぞぬす人をとろふ 00104960M1るに、/数人(すにん)をもつてせんやといへり。文子がいわく、わが 00104970M2/君(きミ)/■雍(げきよう)一人をもちひ、かれがさしうかゞふをまちて、/盗(ぬすひと) 00104980M3をとらへつくさんとし給ハゞ、/数万年(すまんねん)があいだとらへ給ふ 00104990M4とも、さらにつくる/期(ご)あるべからず、かつ又/■雍(げきよう)も/命(めい)を/受(うけ) 00105000M5(十六オ)たるものなれば、死するといふ事あらざらんや、し 00105010M6からばかれ一人をもつて、いかんぞ一国のぬす人をとらへ 00105020M7つくす事あらんや、といへり。つゐにそのことばにたがわ 00105030M8ず、/群盗(ぐんとう)よりあひ、はかつていゑるハ、わがともがらのお 00105040M9ゝくうたれ死たるハ、ミなこれ/■雍(げきよう)ゆゑなれば、いざ■雍 00105050M10をころして、そのゝちなが+ぬすミをせんとて、ついに 00105060M11■雍をころしける。/晋(しん)の/候(きミ)おどろき、いそぎ文子をめして 00105070M12いわく、なんぢがいひたるにたがハず、■雍ついに盗のた 00105080M13めにころされて死せり、今よりのちハ、ぬす人をとらゑん 00105090M14こと、いかゞしてよかるらんととひ給へば、文子こ(十六ウ) 00105100M15(十七オ挿画)たゑていわく、■雍死せざるときハ、われハぬ 00105110M16す人をとらへん事をとひ給ハず、われまたその/理(り)をいへど 00105120M17も、もちひ給ハず、今■雍死せりとて、われにとひ給ふ、 00105130M18われいづくんぞ、これにこたへ侍らんやといふ。/晋(しん)の/候(きミ)な 00105140M19ミだをながし、ねがハくハ盗をとらへんことわりをしめし 00105150¥P234 00105160¥G 00105170L12給へ、となげき給へば、文子がいわく、君ぬす人のなきや 00105180L13うにと/治(おさ)め給ハずして、とかくぬす人をとらゆるやうにと 00105190L14のミを/本(もと)とし給ふ、これもとをわすれて、/末(すゑ)をとれるもの 00105200L15なり、かやうならばいつまでといふとも、ぬす人たゆる事 00105210L16あるべからず、たゞぬす人をうれゐ給ハゞ、ぬす人(十七ウ) 00105220L17なきやうにと/治(おさ)め給ふべしといふ。/晋(しん)の/候(きミ)のいわく、ぬす 00105230L18人なきやうにハ、いかゞしてかよかるべきや。文子がいわ 00105240L19く、/賢徳(けんとく)ある人を/位(くらゐ)にもちあげて、一国をうちまかせおき 00105250M1給ハゞ、上あきらかにして下これに/化(くわ)し、つゐにハたミは 00105260M2づる心ざしいで来りて、ぬすむべしといふとも、民あにぬ 00105270M3すまんや、といへり。 00105280¥N13¥J 00105290¥X十三△/荘周(さうしう)/亀(かめ)をたとへにひく事△◇事文類聚◇ 00105300M6もろこし、/荘子(そうじ)といふ人ハ、名を/周(しう)といへり。/蒙(もう)といふ所 00105310M7の人なりしが、/少(わかふ)して/老子(らうし)のミちをまなび、/梁(りやう)の/恵王(けいわう)の時、 00105320M8/蒙県(もうけん)の/漆園(しつゑん)の/奉行(ぶぎやう)となりしかども、/卑(ひ)(十八オ)/賎(せん)なりとて、 00105330M9うちすてゝつかへず。つねに/陰居(いんきよ)してのミぞ、くらしける。 00105340M10ある時、/楚(そ)の/威王(いわう)より/百金(ひやくきん)をおくりて、/荘周(そうしう)をめされける。 00105350M11/荘周(そうしう)/濮水(ぼくすい)のほとりに、つりをたれて居けるが、かの/楚王(そわう)よ 00105360M12りのつかひにこたへて、いひやりけるハ、/楚国(そこく)に/亀(かめ)あり、 00105370M13死してよりこのかた三千歳になれり、今このかめを/錦(にしき)につ 00105380M14ゝミ、/笥(はこ)にいれて、これを/宗廟(そうびやう)におさめおけり、此/亀(かめ)/死(し)し 00105390M15て、/錦(にしき)につゝまれ、宗廟におさめられんよりは、/生(いき)て/尾(を)を 00105400M16どろのうちにふらん事をこそ、ねがふべけれ、われもまた、 00105410M17/塗(どろ)のうちに/尾(を)をふらん事をねがふなり、とぞいひやりて、 00105420M18つゐにつかへず。(十八ウ) 00105430¥P235 00105440¥N14¥J 00105450¥X十四△/陳蕃(ちんはん)/室(しつ)を/掃除(さうぢ)せざる事△◇事文類聚◇ 00105460L3もろこしに/陳蕃(ちんはん)といふ人あり。わかゝりし時より、つねに 00105470L4/一室(いつしつ)に/閑居(かんきよ)して、/掃除(さうぢ)をもせざれば、/庭宇(にわのき)もあれはて、ま 00105480L5ことにあさましき、ていなりしに、ある時、/父(ちゝ)の/友(とも)/薛勤(せつきん)と 00105490L6いふもの来りて、此ていをうかゞひ見ていへるハ、/儒子(じゆし)な 00105500L7んぞ/室(しつ)をよく掃除して、/賓客(ひんかく)をあひしらわぬぞといへば、 00105510L8/陳蕃(ちんはん)がいわく、/大丈夫(たいぢやうぶ)たるものハ、世にゐて天下をこそよ 00105520L9くあきらかに掃除すべけれ、なんぞ/小(すこしき)なる一室なとをさう 00105530L10ぢする事をせんや、といへり。 00105540¥N15¥J 00105550¥X十五△/前後(ぜんご)/問(とい)を/失(しつ)する事△◇漢書◇(十九オ) 00105560L13もろこし/前漢(せんかん)の/丙吉(へいきつ)といふ人ハ、/字(あざな)を/少卿(しやうけい)といへり。もと 00105570L14/魯国(ろこく)の人にして、/宣帝(せんてい)につかへて、/丞相(しやうじやう)の/官(くわん)となれり。 00105580L15/丙吉(へいきつ)ある時よそゑゆきしに、/道(ミち)のかたわらに、人おゝくた 00105590L16ゝかい/死(し)して、道によこたわりてあり。されども丙吉此よ 00105600L17しをとハずして、すぎゆぎけり。またゆくさきのミちのほ 00105610L18とりに、人/牛(うし)をおふて、牛/喘(あへぎ)て/舌(した)をいだすを見て、/丙吉(へいきつ)/馬(むま) 00105620L19をとゞめて、人をして、牛を/逐(おふ)て来る事いくばく/里(り)ぞとと 00105630M1わしめける。左右ミなおもゑるハ、さきの道のかたわらに 00105640M2人の死たるハ、まことに/問(とハ)でかなわぬ事なり、しかるを丙 00105650M3吉これをとひ給ハず、今この牛ハ(十九ウ)とわずとも、くる 00105660M4しからざるをとゑり、これ/前後(ぜんご)といを/失(うし)なゑりといへり。 00105670M5そのゝち、人これをもつて、丙吉をそしりければ、丙吉き 00105680M6ゝていわく、人たゝかふて、あひともに死するハ、その/郡(こほり) 00105690M7の/奉行(ぶぎやう)これをあらため、せんさくをして、ころせるものを 00105700M8とらへ、いましむる例なれは、われとふべきにあらず、わ 00105710M9れは/宰相(さいしやう)なり、/宰相(さいしやう)ハ/小(ちいさ)き事をミづからせず、かるがゆゑ 00105720M10に、かほどの事を/道路(どうろ)において、とふべきにあらず、今/牛(うし)の 00105730M11/喘(あへぐ)を見てとひけるハ、牛ハ/暑気(しよき)はなはだしくして/熱(あつ)き時ハ、 00105740M12かならず/喘(あへ)ぐものなり、いままさに春にして、いまだ/少陽(せうやう) 00105750M13の時なれば、さのみ(二十オ)あつかるべきにあらず、しかる 00105760M14にかく/喘(あへぐ)ハ/時気(じき)の/節(せつ)をうしなへる也、しからばおそらくハ 00105770M15此牛死する事あるべし、/三公(さんこう)のくらひの者ハ、/陰陽(いんやう)を/調和(てうくわ△△△△|とゝのへやハらく) 00105780M16することをつかさどる、いまこの牛の/喘(あへく)ハ、陰陽調和せさ 00105790M17るゆへなり、しかれバわれあづかりしらでハ、かなわざる 00105800M18事なり、われこゝをもつて、牛をとふて人をとわさるなり、 00105810M19といへり。 00105820¥P236 00105830¥N16¥J 00105840¥X十六△/増賀(ぞうが)ひじりが事 00105850L3むかし、/増賀(そうが)ひじりといふ人あり。/平安城(へいあんじやう)の人にして、/諌= 00105860L4議太夫(かん=ぎたいふ)/橘(たちばな)の/恒平(つねひら)といふ人の子なり。十歳の時、/父母(ふほ)/叡山(ゑいさん) 00105870L5にのぼせて、/慈恵(じゑ)の弟子となせり。(二十ウ)(二一オ挿画)/増賀(そうが) 00105880L6むまれつき、いさきよくして/名聞(ミやうもん)をきらゑり。/師匠(ししやう)の/慈恵(しゑ)、 00105890L7/僧正(そうじやう)に/任(にん)ぜられて、/禁中(きんちう)へ/参内(さんだい)せられし時、/美麗(びれい)なる/車(くるま)に 00105900L8のりて、まことにそのてい/巍(ぎ)&しくミへければ、/弟子(でし)の/増= 00105910¥G 00105920M1賀(そう=が)これをミて、わが/師(し)の/法師(ほうし)の身として、/名聞(ミやうもん)ぐるしきを 00105930M2にくミ、これをはじしめんがために、/干鮭(からざけ)といふ/魚(うを)を/太刀(たち) 00105940M3にはき、やせたる/牝牛(めうし)にのりて、/僧正(そうじやう)のやかたぐち仕らん 00105950M4といふに、人&おどろき/興(きやう)をさまし、さま※にいさめけ 00105960M5れども、さらにもちいず。われこそ、おさなきよりの弟子 00105970M6なれば、たれかハけふのやかたぐち仕らんとて、なをいさ 00105980M7ミければ、見る(二十一ウ)人あやしミ、おとろかぬハなか 00105990M8りけり。かくて、名聞こそくるしけれ、かたゐの身ぞたの 00106000M9しかりけり、とうたひければ、僧正はづかしく思ひて、車 00106010M10の中より、これも/利生(りしやう)のためなり、とこたへられけると也。 00106020¥N17¥J 00106030¥X十七△/水利(すいり)をこのむ事△◇聞見録◇ 00106040M13もろこしに/王(わう)/荊公(けいこう)といふ人あり。つねに此/水(ミつ)を、かくきり 00106050M14ながせばよし、などいひて、水の/利(り)ある事をのミこのミて 00106060M15いひける。さるもの王荊公にいゑるハ、/梁山(りやうさん)の/湖(ミつうミ)八百里 00106070M16があいだの水を、わきミちへきりながして、ミなこと※ 00106080M17く/田地(てんぢ)となさば、その利/大(おゝい)ならんやといへば、/荊公(けいこう)大によ 00106090M18ろこびていゑるハ、なん(廿二オィ)ぢがはかりこと/尤(もつとも)よし、そ 00106100M19の八百里の水をいづくゑか、きりながしてよからんや、と 00106110¥P237 00106120L1あんじければ、その/座(ざ)に/劉(りう)/貢父(こうふ)といふものありて、このふ 00106130L2んべつのおろかなる事をおかしくおもひ、すゝミていへる 00106140L3ハ、その水をなかすにハ、よきはかりことこそ侍るなれ、 00106150L4その八百里の水のかたわらに、また/別(べつ)に八百里の/湖(ミつうミ)をほり 00106160L5て、それへ水をながし侍らばよかるまじくや、といひしか 00106170L6バ、/荊公(けいこう)わらひて、そのはかりことをやめけるとなり。 00106180¥N18¥J 00106190¥X十八△/楊氏(やううじ)をもつてたわふるゝ事 00106200L9もろこし、/楊氏(やううじ)の人の子、としわづか九歳にして(廿ニウ) 00106210L10/聡明(そうめい)/才学(さいかく)ありて、名その世にかくれなし。/孔(こう)/君平(くんへい)といふ人、 00106220L11その/父(ちゝ)/楊氏(やうし)のもとへたづねとふらひしに、折ふし/楊氏(やうし)家に 00106230L12ゐざりければ、その子をよび出して、たいめんしけるに、 00106240L13うちより/楊(やまもゝ)の/実(ミ)を/菓子(くわし)にいだせり。/君平(くんへい)この/楊(やまもゝ)をとりて、 00106250L14/楊氏(やうし)か子にしめしていわく、これハ是なんぢが家の/菓(このミ)なり 00106260L15といひて、たわれふければ、楊氏が子、こゑに/応(わう)じ、こた 00106270L16ゑけるハ、/孔雀(くじやく)といへども、いまだ/孔子(こうし)の家の鳥といふ事 00106280L17をきかずといへり。 00106290¥N19¥J 00106300¥X十九△/艾子(かいし)/子(こ)を/失(うしな)ふ事△◇事文類聚◇ 00106310M1もろこし、/艾子(かいし)といふ人ハ、/斉(せい)の/宣王(せんわう)の/臣下(しんか)也。ある時 00106320M2(廿三オ)、/艾子(かいし)うれふるいろあり。/宣王(せんわう)あやしミて、そのゆ 00106330M3へをとひ給へば、艾子こたへていわく、われ子を一人もち侍 00106340M4るに、/不幸(ふこう)にして、子やまひにふせり、君に申て、かへりて/看= 00106350M5病(かん=びやう)したく思ひ侍れども、われかへらバ、王のともに事をはか 00106360M6り給ふ者なからん事をおそる、われ/朝延(ちやうてい)におるといへども、 00106370M7心ハわが子に侍るなりといふ。/宣王(せんわう)のいわく、さる事あら 00106380M8ば、なんぞはやくいわざる、われ/良薬(りやうやく)をもてり、はやく此 00106390¥G 00106400¥P238 00106410L1くすりを/服(ぶく)せしめバ、そのまゝやまひいへぬべしとて、つ 00106420L2ゐにその良薬を給ふ。/艾子(かいし)よろこび/拝(はい)し、いそぎかへりて、 00106430L3わが子にのましむるに、のむとそのまゝにて死けり。(廿三ウ) 00106440L4(廿四オ挿画)/他日(たじつ)、/艾(かい)子またうれふるいろあり。/宣王(せんわう)あやし 00106450L5ミて、なにゆへにかうれふるやと、とひ給ふに、/艾子(かいし)/愁然(しうせん|うれふ△) 00106460L6として、こたへていわく、われやミぬる子、つゐにむなし 00106470L7くなり侍る、かるがゆへに、かくうれい侍るなりといふ。 00106480L8/宣王(せんわう)あわれミ給ひて、/艾子(かいし)に/黄金(わうこん)多く/給(たま)わりて、/葬(ほふふり)をたす 00106490L9け給ふ。/艾子(かいし)がいわく、よのつねならず、この/賜(たまもの)をもかた 00106500L10じけなくおもひ奉るべけれども、子をうしなひたるために 00106510L11たまわる/賜(たまもの)なれば、かたじけなしとするにたらず、しかれ 00106520L12ども、いまひとつもとめ得たきものこそ侍るなれといふ。 00106530L13/宣王(せんわう)/聞(きこ)し/召(めし)て、なになるらん、いかなるものなり共、/調(とゝの)へ 00106540L14(廿四ウ)得さすへしとあれば、/艾(かい)子がいわく、さのミふか 00106550L15きのぞミにも侍らず、たゞ/前日(せんしつ)/死(し)せし子を得る/薬(やく)方を、も 00106560L16とめ得たく侍るこそ、わがのぞミにて候へとぞいひし。 00106570¥N20¥J 00106580¥X廿△/魚(うを)をぬすミ夜をおかす事△◇晋書◇ 00106590L19もろこし/王承(わうせう)、/字(あざな)ハ/安期(あんき)といふ人あり。/汝南(ぢよなん)の/内史(だいし)/湛(たん)とい 00106600M1ふものが子也。かつて/東海(とうかい)の/太守(たいしゆ)となれり。/政(まつりこと)たゞしく、 00106610M2すなほにして、すこしもまがりよこしまなることなし。あ 00106620M3る時/下(した)/奉行(ぶぎやう)に、/池(いけ)の中の/魚(うを)をぬすむものあり。つゐに此も 00106630M4のをとらゑて、つミにおとしいれんといへるを、/王承(わうしやう)聞て、 00106640M5/文王(ぶんわう)の/囿(その)ハ、天下の/衆人(しゆしん)とともに、/禽獣(きんじう)をとりて、すこし 00106650M6も/禁制(きんせい)/法(はつ)(廿五オ)度なし、今われ池の魚ほどなる事に、なん 00106660M7のおしむ事かあらんやとて、つゐにそのとがをゆるせり。 00106670M8其のち、よるゆく事/法度(はつと)なるを、これをやぶりて、よるゆ 00106680M9くものあり。つゐにこの者をとらへて、とがにおとしける 00106690M10に、王承聞て、そのゆへを/咎人(とがにん)にとい給ふに、咎人こたゑ 00106700M11ていわく、われ今日/師(し)の/元(もと)にゆきて/書(しよ)をよミ侍しに、日の 00106710M12くるゝ事をおぼゑずして、かくおそくかへりて、つゐにこ 00106720M13の咎にあひ侍るなりといふ。/王承(わうしやう)がいわく、人をむちうつ 00106730M14て/威勢(いせい)の名をなすハ、/政(まつりこと)をもつて民を/化(くわ)するの本にあら 00106740M15ずとて、つゐに/奉行(ふぎやう)をそへて、此者を其家までおくりとゞ 00106750M16けて、かへし給ふとなり。 00106760¥Y1終(廿五ウ) 00106770¥P239 00106780¥Y1/理屈物語(りくつものかたり)/巻(くわん)之三△/目録(もくろく) 00106790L3一△/樊英(はんゑい)/順帝(じゆんてい)に/屈(くつ)せざる事 00106800L4二△/謝霊運(しやれいうん)まがれる/笠(かさ)をきる事 00106810L5三△/■(かたあし)の/履(くつ)をすてざる事 00106820L6四△/佐久間(さくま)/一無(いちむ)/兵法(へうはう)の事 00106830L7五△/猟(かり)をやめて/釣(つり)をする事 00106840L8六△/山河(さんか)を/祠(いの)りて/益(ゑき)なき事 00106850L9七△/園外狼(ゑんぐわいらう)の事 00106860L10八△/雪水(ゆきミつ)に/茶(ちや)を/烹(に)る事 00106870L11九△/漢(かん)の/高祖(かうそ)/狩(かり)をもつてたとへ給ふ事 00106880L12十△/都筑(つゝき)/兵部(ひやうふ)ぬす人をとらゆる事(一オ) 00106890L13十一△/千里(せんり)の馬をうけざる事 00106900L14十二△/弟子(でし)/辺詔(へんじやう)を/嘲(あざけ)る事 00106910L15十三△ぬす人の/食(しよく)をうけざる事 00106920L16十四△/命(めい)は天にある事 00106930L17十五△/河上翁(かしやうわう)/王臣(わうしん)とならざる事 00106940L18十六△/廉頗(れんは)/藺相如(りんしやうじよ)か事 00106950L19△△△△△△△△△△目録終(一ウ) 00106960¥T1/理屈物語/(りくつものかたり)/巻之(くわんの)三 00106970¥N1¥J 00106980¥X一△/樊英(はんゑい)/順帝(じゆんてい)に/屈(くつ)せざる事△◇事文類聚◇ 00106990M5もろこし/後漢(ごかん)の/樊英(はんゑい)といふ人ハ、/南陽(なんやう)といふ所の人なり。 00107000M6/順帝(じゆんてい)/樊英(はんゑい)が/賢(けん)なる事を/聞(きゝ)および給ひて、たび+/位(くらい)にあげ 00107010M7んとて、めしよばるれども、/樊英(はんゑい)かたく/辞退(じたい)して、つかゆ 00107020M8る事なし。あまりにたび+めさるゝゆへ、のちにハやむ 00107030M9ことを得ずして、つゐに出て/順帝(じゆんてい)にまミゑける。されども 00107040M10/順帝(じゆんてい)のおほせらるゝ事にても、わか/気(き)にあわぬ事なれば、 00107050M11さらにうけがふ事もなく、/腰(こし)ひざをかゞむる事もせず。た 00107060M12ゞわがまゝをのミいひて、す(二オ)こしも/屈(くつ)する事をせざ 00107070M13りしかバ、/順帝(じゆんてい)いかりて、/樊英(はんゑい)にむかつての給ハく、われ 00107080M14/位(くらい)なんぢよりたかく、なんぢハわが/民(たミ)なり、われなんぢを 00107090M15/生(いか)さんとも、またハなんぢをころさんとも、なんぢを/貴(たつと)く 00107100M16せむとも、なんぢをいやしくせんとも、なんぢを/富(とま)さむと 00107110M17も、なんぢをまづしくせんとも、ミなわがなすべきまゝな 00107120M18り、しかるになんぢ、われにむかつて/屈(くつ)せず、わがこと 00107130M19をもちいずして、かゑつてわれをあなどる事、いかなるゆ 00107140¥P240 00107150L1ゑぞとの給へは、/樊英(はんゑい)がいわく、われハ/命(めい)を/天(てん)にうけたり、 00107160L2/生(いき)てその/命(めい)をつくすハこれ天なり、/死(し)してその命を/得(ゑ)ざる 00107170L3も(二ウ)また天なり、しからば/君(きミ)いづくんぞ、われを/生(いか)し、 00107180L4われを/殺(ころ)す事をし給んや、われ/暴逆(ぼうぎやく)なる君を見ることは、 00107190L5/仇敵(あたかたき)を見るがごとし、かるがゆへに、そのごとくなる/君(きミ)の 00107200L6/朝廷(ぢやうてい)にたつて、くらひたかくあげ用ひらるゝとても、われ 00107210L7これを/貴(たつと)しと思ハず、たとひ、/布衣(ほい)のいやしきくらひたり 00107220L8といへども、/道(ミち)あきらかに、/政(まつりこと)たゞしき/君(きミ)の/国(くに)におらば、 00107230L9たのしむところハ/万乗(ばんじやう)のたつときにまされり、しからば、 00107240L10君いつくんぞわれをたつとくし、われをいやしくする事を 00107250L11し給ハんや、/礼(れい)にあらざる/栗(あわ)ハ、たとひ/万鐘(はんしやう)@六斗四升を|一鐘といふ@といふ 00107260L12とも、われこれをうけじ、/道(ミち)(三オ)をしりて心ざしある人 00107270L13のおくれるハ、たとひ/一箪(いつたん)の/食(しい)なりとも、われあにこれを 00107280L14いとわんや、しからハ/君(きミ)いづくんぞわれをとまし、われを 00107290L15/貧(まづ)しくする事をし給ハんやといへは、/順帝(じゆんてい)こたへ給ふ事あ 00107300L16たわす。 00107310¥N2¥J 00107320¥X二△/謝霊運(しやれいうん)まがれる/笠(かさ)をきる事△◇世説新語◇ 00107330L19もろこし/謝霊運(しやれいうん)といふ人ハ、/晋の(しん)/国(くにの)人にて、/車騎(しやき)/将軍玄(しやうぐんげん)と 00107340M1いふものが/孫(まご)なり。その/才(さい)/博学(はくがく)にして、つねに/曲(まがれる)/笠(かさ)をこ 00107350M2のミて、これをいたゞきて、よそゑゆきけるに、/孔(こう)/隠士(いんし)と 00107360M3いふもの/謝霊運(しやれいうん)にむかつていひけるハ、なんぢハ心ざし/高= 00107370M4遠(かう=ゑん)をこのミて(三ウ)(四オ挿画)/潔直(けつちよく)だてをするものなるが、 00107380M5いかなれば、まがれる/笠(かさ)をこのミてきるぞととひければ、 00107390M6/謝霊運(しやれいうん)がいわく、それ/影(かげ)をおそれざるものハ、おもひをわ 00107400M7するゝ事あたわず、わがこのかさをこのミてきるゆへハ、 00107410M8この/笠(かさ)のまがれる/影(かげ)を見て、わが心のまがれるをなをくせ 00107420¥G 00107430¥P241 00107440L1んがためなり、かるがゆへに、このミてきるなりとぞこた 00107450L2へし。 00107460¥N3¥J 00107470¥X三△/■(かたあし)の/履(くつ)をすてざる事△◇賈子◇ 00107480L5もろこし/楚(そ)の/昭王(せうわう)、/呉国(ごこく)とたゝかひ給ひしとき、/楚国(そこく)大に 00107490L6/軍(いくさ)にまけて、ミな+やぶれにげしに、/昭王(せうわう)もともににげ 00107500L7給ふが、/履(くつ)をかたしおとして、(四ウ)道をゆく事三十/歩(ほ)に 00107510L8して、思ひ出し、つゐにこれをとりにかへられけるニ、/左= 00107520L9右(さ=ゆふ)のものこれをあやしミて、/履(くつ)かたしほどなる事を、王の 00107530L10とりにかへられけるハ、まことに/吝(しわき)事かなとて、ミな+ 00107540L11あざけりそしりければ、/昭王(せうわう)のゝ給ハく、/楚国(そこく)まづしとい 00107550L12へども、あにひとつの/履(くつ)をおしまんや、わがこれをとりに 00107560L13かへりしハ、われ此くつとゝもに国を出て、またこの/履(くつ)と 00107570L14ゝもに国にかへらざらんや、われくつといへども、その/愛(あい) 00107580L15をわすれざるなりとの給へハ、左右のもの、けにもとぞか 00107590L16んじて、あざけりしことをはぢけると也。その/後(のち)ハ/楚国(そこく)の 00107600L17もの、やぶれ(五オ)たりといへども、あへてくつをすてざ 00107610L18りしと也。 00107620¥N4¥J 00107630¥X四△/佐久間(さくま)/一無(いちむ)/兵法(ひやうほう)の事 00107640M3むかし/筑前(ちくぜん)の/国(くに)に、/佐久間(さくま)/一無(いちむ)といふものあり。/兵法(ひやうほう)にた 00107650M4くミにして、一/家(か)の/流(りう)をたてゝ、その/名(な)を/無手勝流(むしゆしやうりう|なふしててかつ)/流(りう)とぞい 00107660M5ゑる。ある時、/用(よう)の事ありて、/東国(とうこく)ゑくだりしに、/江州(ごうしう)/矢= 00107670M6走(や=ばせ)のわたしにて、/舟(ふね)にのりしに、のりあひおゝくありしな 00107680M7かに、としのころ三十八九ばかりなる、ひげくろくたけた 00107690M8かき/男(おとこ)ありしが、/船中(せんちう)にてたゞひとり、/兵法(ひやうほう)の/自慢(じまん)をして、 00107700M9あたりに人もなげにいひければ、/一無(いちむ)これを/聞(きゝ)て、かの男 00107710M10がそばへ、つとよりていひ(五ウ)けるハ、さきほどよりう 00107720M11け給ハれば事のほか兵法自/慢(まん)と見へてこそ候へ、われも 00107730M12/若年(じやくねん)の比より、兵法をこのミて、かたのごとくはげミ候へ 00107740M13ども、其方のごとく人にかたんとはおもわず、たゞ、人に 00107750M14まけぬやうにとこそ、今までハおもひ侍るなりといへば、 00107760M15かの男はらをたて、御坊の兵法ハなに/流(りう)にやととへば、一 00107770M16無こたへていわく、わが/流(りう)ハ人にまけぬ/無手勝流(むしゆしやうりう)といふ流 00107780M17なりといへは、男きゝて、/無見勝流(むしゆせうりう)ならば、御坊の/飛(こし)の両 00107790M18/刀(とう)ハ、なにのためにかさゝるゝといへば、一無きゝて、こ 00107800M19れハ/以心伝心(いしんでんしん)の二/刀(とう)とて、/我慢(がまん)の/鋒(ほこさき)をきり、/悪念(あくねん)のきざし 00107810¥P242 00107820L1をたつ(六オ)なりといへば、男いよ+はらをたて、 00107830L2さらば御坊、/手(て)/無(なく)して/勝(かち)給ハゞ、/一勝負(ひとしやうぶ)いたさんとて、/船= 00107840L3頭(せん=どう)にむかつていひけるハ、此舟をいそぎ/陸(くが)へおしよせよ、 00107850L4/無手勝流(むしゆしやうりう)を一うちにして見せんといへば、一無がいわく、 00107860L5/陸(くが)ハ/往来(わうらい)のちまたなれば、見物もおゝくて、ことやかまし 00107870L6かるべきあいだ、たゞ、/辛崎(からさき)のむかふなる、はなれ島にて、 00107880L7われらが/無手勝流(むしゆしやうりう)を、御目にかけ申さんといへば、おの 00107890L8+げにもと/同心(どうしん)して、しきりに/舟(ふね)をおしよせさせて、か 00107900¥G 00107910M1の/島(しま)につくとひとしく、かのおとこ、/腰(こし)のかたなをするり 00107920M2とぬき、/岸(きし)のうへにとびあがり、御坊のまつかう二つにな 00107930M3さ(六ウ)(七オ挿画)む、いそぎあかり給へと、いさミのゝ 00107940M4しりまちければ、一無/聞(きゝ)て、こゝろへたりとて、もすそを 00107950M5たかくはさミあげ、/腰(こし)の/両刀(りやうとう)ハ/船頭(せんどう)にとらするなり、/無手= 00107960M6勝流(むしゆ=しやうりう)にこれハいらず、たゞその/水棹(ミさほ)をわれにかすべしとて、 00107970M7舟ばりにつゝたちて、水棹をつゝはり、むかふのきしへ 00107980M8ひらりとゝぶかと見ゑしが、さわなくて、舟を/沖(おき)へつき出 00107990M9/ず((ママ))。男これを見て、いかに御坊ハあがり給ハずやといへば、 00108000M10なにしにあがり申べき、/口(くち)おしく思ひなば、/水(ミつ)をおよぎ 00108010M11て/来(きた)るべし、一そくさづけて/引導(いんどう)せん、/無手勝流(むしゆしやうりう)ハこれな 00108020M12り、この/兵法(ひやうほう)をならひたくおもひなば、/来世(らいせい)に(七ウ)て、 00108030M13ながくおしゑて得さすべし、その/島(しま)にて万&/歳(ざい)をへよやと 00108040M14て、一度にどつとわらひて、/山田村(やまだむら)にぞつきにける。 00108050¥N5¥J 00108060¥X五△/猟(かり)をやめて/釣(つり)をする事△◇晋書◇ 00108070M17もろこし、/子荘(しさう)といふ人ハ、/字(あざな)ハ/祖休(そきう)といへり。わかき時 00108080M18より/猟釣(れうてう|かりつり)をこのミけるが、/長(ひとゝ)なりてハ/猟(かり)をやめて、たゞ釣 00108090M19をのミこのミける。ある人/子荘(しそう)にとひけるハ、/漁(すなとり)と/猟(かり)と 00108100¥P243 00108110L1は、ともに/生(いき)たるものを/害(かい)するミちなり、しかるに/猟(かり)をば 00108120L2すてゝ、/漁(すなとり)のミをやくとするは、いかなるいわれにかあ 00108130L3らんといふ。/子荘(しそう)がいわく、/猟(れう)ハ我よりこれをうちころす 00108140L4(9オ)ものなり。/釣(つり)ハ/餌(ゑは)をむさぼり/釣(つりばり)をのむゆへに、つゐ 00108150L5に/魚(うを)のいのちをとる、しかればつりハこれ/餌釣(ゑはつりはり)よりする 00108160L6もの也、かるがゆへにわれよりするものを/捨(すて)て、/餌釣(ゑはつりはり)よ 00108170L7りするものをたのしむ、しからバ魚を/害(かい)するハ、あにわが 00108180L8とがといふべきやといへり。 00108190¥N6¥J 00108200¥X六△/山河(さんか)を/祠(まつ)りて/益(ゑき)なき事△◇事文類聚◇ 00108210L11もろこし/斉(せい)の/景公(けいこう)の時、/天(てん)/大(おゝい)にひでりして、万民これをく 00108220L12るしむ事かぎりなし。/景公(けいこう)/群(ぐん)臣にとふての給ハく、天久し 00108230L13く雨ふらず、/民(たミ)うへくるしむ事かぎりなし、われ民の/年貢(ねんぐ) 00108240L14をうすくして、山/霊(れい)をまつりて雨をいのらんとおもふ、此 00108250L15義(八ウ)しかるべしやとあれば、/群臣(くんしん)いづれも、さしてこ 00108260L16たふる者もなかりしに、/晏子(あんし)すゝんで申けるハ、此義しか 00108270L17るべからず、かつまつるとも/益(ゑき)なかるべし、それ/山霊(|やまのかミ)は、 00108280L18石をもつて身とし、/茅(ちがや)をもつて/髪(かミ)とす、もし天久しく雨ふ 00108290L19らずんハ、/山霊(さんれい)のかミこげ、身もゆへし、しからば/山霊(さんれい)を 00108300M1いのらずとも、山霊なんぞひとり、雨のふる事をねがわざ 00108310M2らむや、これをまつるとも/益(ゑき)なかるべし。/景公(けいこう)のいわく、 00108320M3しからば/河伯(か△はく△|かわのかミ)をまつりて、雨をいのらばいかんとの給へば、 00108330M4/晏子(あんし)こたへていわく、それ/河伯(かはく)ハ水をもつて国とし、/魚鼈(ぎよべつ|うをかめ) 00108340M5をもつて民とす、(九オ)天ひさしく雨ふらずんバ、/百川(はくせん) 00108350M6こと※く水つきて、/河伯(かはく)の国民まさにほろふべし、しか 00108360M7らば河伯をいのらずとも、河伯なんぞひとり、雨のふる事 00108370M8をねがわざらんや、これをまつるとも/益(ゑき)なかるべしといふ。 00108380M9/景公(けいこう)のいわく、しからばいかゞしてよかるべきや。/晏子(あんし)が 00108390M10いわく、君/宮殿(きうでん)をさり、野に出て身をさらし、/山霊(さんれい)/河伯(かはく)と 00108400M11ゝもに雨をうれひ給ハゞ、さいわいにして雨ふるべし、な 00108410M12んぞ河伯山霊をいのりて雨ふらんやといへり。こゝにおひ 00108420M13て、/景公(けいこう)すなわち/野外(やぐわい)に出て、身をさらし給ふ事三日なり 00108430M14しかバ、天はたして大に雨ふ(九ウ)りけるとなり。 00108440¥N7¥J 00108450¥X七△/園外狼(ゑんぐわいらう)の事△◇凍水◇ 00108460M17もろこしに/石(せき)中立といふ人あり。/員外郎(ゐんぐわいらう)といふ官になりて、 00108470M18くらゐたつとかりしに、ある時、/友(とも)だちと、天子の/園(その)に/獅= 00108480M19子(し=し)の/飼(かい)てありしを見にゆきしに、この獅子を/守(まも)るもののい 00108490¥P244 00108500¥G 00108510L12わく、この獅子にハ毎日五/斤(きん)づゝの/肉(にく)を/餌食(ゑじき)にいたし侍る 00108520L13なりとはなしければ、友だちこれを聞て、われら位たかふ 00108530L14して、/肉(にく)を/食(しよく)する事おゝしといへども、この獅子にはおよ 00108540L15ばすといへば、/石(せき)/中立(ちうりう)がいわく、この獅子/園内(ゑんない)にすミて、 00108550L16われらこれに(十ノ十五オ)およばずハ、われらハ/園外(ゑんぐわい)の/狼(おゝかめ) 00108560L17と同じかるへし、しからバわれらハ/員外郎(ゐんぐわいらう)の官にはあらず 00108570L18して、/園外狼(ゑんぐわいらう)の/官(くわん)なり、/園外狼(ゑんくわいらう)の官として、いかんそ園内 00108580L19の獅子をのぞまんやとて、つゐにかくれり。 00108590¥N8¥J 00108600¥X八△/雪水(ゆきミづ)に/茶(ちや)を/烹(に)る事△◇事文類聚◇ 00108610M3もろこし、/陶穀(とうこく)といふ人あり。/党(たう)といふ人の家の/妓女(ぎちよ)をか 00108620M4ひ得て、てうあいしられける。ある時、大雪ふりけるに、 00108630M5/陶穀(とうこく)ミづから雪水をとりて、/団茶(だんちや)を/烹(に)て、/妓女(きぢよ)にいひける 00108640M6ハ、/党(たう)が給へハかやうのよき/茶(ちや)をのむ事ハしるまじといへ 00108650M7ば、妓女がいわく、かの/党(たう)ハもとより/貧賎(ひんせん)なる人なれば、い 00108660M8づ(十ノ十五ウ)(十六オ挿画)くんぞかやうのよき/茶(ちや)のたぐひを、 00108670M9てづからのむ事をしり侍らんや、たゞ、つね※/糸竹(しちく)/管絃(くわんげん) 00108680M10をことゝして、/羊羔(やうこう|ひつし△)の/酒(さけ)をのミてたのしむのミ、とこたへ 00108690M11ければ、/陶穀(とうこく)/黙然(もくぜん)として、そのことばにはぢけるとなり。 00108700¥N9¥J 00108710¥X九△/漢(かん)の/高祖(かうそ)/狩(かり)をもつてたとへ給事△◇漢書◇ 00108720M14もろこし/漢(かん)の/高祖(かうそ)、/楚(そ)の/項羽(かうう)とたゝかひ給ひし時、/高祖(かうそ)の 00108730M15/臣下(しんか)に/蕭何(しやうが)といふ人あり。/漢中(かんちう)に/常(つね)にるすをして、/太子(たいし)を 00108740M16まもりて、高祖の/陣(ぢん)へ/兵粮(ひやうらう)をつゞけ、高祖のたゝかいにま 00108750M17けんとし給ふときハ、いそぎ/漢中(かんちう)より/軍勢(ぐんぜい)をもよをして、 00108760M18つ(十六ウ)かハしける。そのゝち高祖、つゐに/楚(そ)をほろぼし、 00108770M19天下をとり給ひける時、/諸大将(しよだいしやう)おの+/功(こう)をろんじ、国を 00108780¥P245 00108790L1うけ、/奉禄(ほうろく)をとらんとあらそひけるに、高祖/蕭何(しやうが)が/功(こう)を第 00108800L2一とすべしとの給へば、/諸大将(しよだいしやう)ミな口をそろへて、/曹参(さうさん)こ 00108810L3そ/敵城(てきじやう)をせむればかち、/野戦(やせん)をする時ハかち、/毎度(まいどの)手がら 00108820L4あげてかぞふべからず、身には七十/余(よ)の/疵(きず)をかふゝれり、 00108830L5さるあいだ/曹参(さうさん)第一の功なるへしといふ。高祖のいわく、 00108840L6なんぢら/狩(かり)をするをしらずや、/禽獣(きんしう)のあとをとめ、たつね 00108850L7もとむるハ/狗(いぬ)なりといへども、/得(ゑ)ものをうるにいたりてハ、 00108860L8/狩人(かりひと)の/功(こう)なり、なんぢらが功ハ、たとへバ/狗(いぬ)のごと(十七オ) 00108870L9し、/蕭何(しやうが)が功ハ、たとへば/狩(かり)人のごとし、いかんぞ/狗(いぬ)をも 00108880L10つて狩人とひとしき功とせんやとの給へば、諸大将げにも 00108890L11とかんじて、つゐに/蕭何(しやうが)を功第一とし、/曹参(さうさん)を第二の功と 00108900L12し給ふ。 00108910¥N10¥J 00108920¥X十△/都筑(つゞき)/兵部(ひやうぶ)ぬす人をとらゆる事 00108930L15むかし都筑兵部といふ人、/奉行(ぶぎやう)におゝせ付られて、わづか 00108940L16の/在郷(ざいごう)をおさめられけるに、その/在所(ざいしよ)の者、/夏(なつ)のころなる 00108950L17に、あつくやおもひけん、川のほとりにゆき、/衣(ころも)をときて 00108960L18/水(ミつ)をあびけるに、ぬきすてゝおきける刀を、いづくよりか 00108970L19きたりけん、/馬(むま)にのりたる男一人きたりて、わが刀のあし 00108980M1くさびたると(十七ウ)さしかへて、馬にのりかけちらしてぞ、 00108990M2にげゆきける。在所のものこれを見て、おわへんとすれど 00109000M3も、せんかたなくて、つゐにかのかたなをもち、/郷(さと)の/奉行(ふぎやう) 00109010M4/兵部(ひやうぶ)の所にいたりて、しか+の/次第(したい)なりと、うつたへけ 00109020M5れば、兵部聞て、そのぬすミたるものハ、わかきものなる 00109030M6か、としよりたる者なるかととひ給ゑば、としわかきもの 00109040M7なりといふ。これこそやすき事なりとて、その/在所中(さいしよぢう)のと 00109050M8しよりたるものどもをのこらずめしよせ、/今日(けふ)なんどきに、 00109060M9むまにのりけるもの一人、川ばたをとおりしが、ぬす人に 00109070M10ころされたり、すなわち此刀をさし(十八オ)たるものなり、 00109080M11此うちにたれにても、しんるいとてハなきか、ふびんの 00109090M12事なりとて、いひきかせければ、一人の/老人(らうじん)出て、なミだ 00109100M13をながし、なく+いひけるハ、わが/子(こ)けふ此かたなをさ 00109110M14して、しふとのもとへゆきけるが、さてハぬす人にころさ 00109120M15れ侍りけるかとて、なげきかなしむ事かぎりなし。兵部す 00109130M16なわち此老人をとらへて、つゐにかのぬす人をもとめ得て、 00109140M17/獄門(ごくもん)にかけ、刀をとりかへして、かのとられし/在所(さいしよ)の者に 00109150M18あたへけるとなり 00109160¥P246 00109170¥N11¥J 00109180¥X十一△千/里(り)の/馬(むま)をうけざる事△◇漢書◇ 00109190L3もろこし、/孝文皇帝(かうぶんくわうてい)といふミかどありしとき、(十八ウ)(十九 00109200L4オ挿画)さる者一日に/千里(せんり)をかける/名馬(めいば)なりとて、/文帝(ぶんてい)ゑた 00109210L5てまつりければ、/文帝(ぶんてい)これをうけずしていわく、われ/他(た)に 00109220L6いづる時ハ、/前後左右(ぜんこさゆふ)につきしたがふ/輿車(よしや|こしくるま)/百官(ひやくくわん)おゝし、 00109230L7かるがゆへに一日に/五十里(ごじうり)ならでハゆく事なし、しかれば 00109240L8/前後左右(せんごさゆふ)のものをすておきて、われひとり千里の/馬(むま)にのり、 00109250¥G 00109260M1千里さきへはせゆきて、なにゝかせんやとて、すなわちそ 00109270M2のむまをかへし給ふ。 00109280¥N12¥J 00109290¥X十二△/弟子(でし)/辺韶(へんぜう)を/嘲(あさけ)る事△◇後漢書◇ 00109300M5もろこし、/後漢(ごかん)の/辺韶(へんぜう)、あさなハ/孝先(こうせん)といふ人は、/陳留(ちんりう)の 00109310M6/俊儀(しゆんぎ)といふところの人なり。つねに/弁舌(べんせつ)(十九ウ)/才智(さいち)あり。 00109320M7ある時、/書(しよ)をよむ日にあたりて、かりに/臥寝(ふしね)られければ、 00109330M8/弟子(でし)どもこれを見てあざけりていわく、/辺孝先(へんかうせん)ハ、/腹便(はらべん) 00109340M9+として、書をよむに、ものうさにねふられけるよとい 00109350M10ひしかバ、/辺韶(へんせう)いまたねいらずして、これをきゝて、こゑ 00109360M11に/応(わう)じてこたへけるハ、/辺(へん)をバ/姓(うじ)とし、/孝(こ)をあざなとす、 00109370M12はらのべん+たるハ/五経(ごきやう)をいるゝ/笥(はこ)なり、わがねふるハ 00109380M13/書(しよ)の/義理(ぎり)をあんずるなり、ねふるにはあらず、/寝(いね)てハいに 00109390M14しへの/周(しう)/公旦(こうたん)といへる/聖人(せいじん)と/夢(ゆめ)を/通(つふ)じ、/静(しづか)にしてハ/孔子(こうし)と 00109400M15/意(こゝろ)を同じふす、しかれば、わがかりに/臥寝(ふしね)るハ、書をよむ 00109410M16に物うき(二十オ)にあらず、なんぢらがごとく、/師(し)をそしり 00109420M17/嘲(あさけ)る事ハ、なにの/書典(しよてん)にか出たる事ぞやといひしかば、 00109430M18/初(はしめ)あさけりしもの、ミな大にはぢけるとなり。 00109440¥P247 00109450¥N13¥J 00109460¥X十三△ぬす人の/食(しよく)をうけざる事△◇列子◇ 00109470L3もろこし、/東方(とうばう)に/爰旌目(ゑんせいもく)といふ人あり。つねに/潔白(けつはく)にして 00109480L4/不義(ふぎ)をにくむ人なり。ある/時(とき)/他所(たしよ)へゆきけるが、ひごろた 00109490L5くわへもなかりけん、にわかに/餓(うへ)て、すでに/死(し)にいらんと 00109500L6す。/狐父(こふ)といふ所に/丘(きう)といふぬす人ありしか、/爰旌目(ゑんせいもく)がう 00109510L7へたるを見てあわれミ、/壷(つぼ)のうちにたくわへおきし/食物(しよくもつ)を 00109520L8出して、くわしめける。/爰旌目(ゑんせいもく)これを三たびくひて、(二十ウ) 00109530L9丘にむかつてとひけるハ、御身ハいかなる人なれば、かく 00109540L10われをあわれミ給ふぞやといふ。/丘(きう)がいわく、われは/狐父(こふ) 00109550L11の/丘(きう)といふものなりといふ。/爰旌目(ゑんせいもく)いかりていわく、なん 00109560L12ぢは/盗(ぬすびと)にあらずや、いかなればわれに/食(しよく)をあたへたるぞ 00109570L13や、われたとひうへ/死(し)すとも、なんぢかごとき/不義(ふぎ)なるぬ 00109580L14す人の/食(しよく)をくハじものをとて、/両(りやう)の/手(て)をちにつけて、くひ 00109590L15たる食をはかんとすれども、いでず。ついに/血(ち)をはきて/死(しに) 00109600L16けるとなり 00109610¥N14¥J 00109620¥X十四△/命(めい)は天にある事△◇漢書◇ 00109630L19もろこし/漢(かん)の/高祖(かうそ)、やまひはなはだしかりし(廿一オ)とき、 00109640M1御きさき/呂后(りよごう)、これをかなしミ給ひ、/良医(りやうい)をめして此やま 00109650M2ひをミせしめ給ふ。/医(い)/来(きた)りて見る。/高祖(かうそ)とふての給ハく、 00109660M3わが/疾(やまい)なんぢ/治(ぢ)すべきやいなや。/医(い)のいわく、/治(ぢ)し奉るへ 00109670M4し。/高祖(かうそ)/医(い)をあなとり、/罵(のつ)ていわく、わが/命(めい)天にあり、た 00109680M5とひ/扁鵲(へんじやく)といふとも、かぎりある/命(いのち)をのぶる事あたわじ、 00109690M6なんぢなんぞわが/死病(しびやう)を/治(ぢ)せんやとて、つゐに/疾(やまい)を/治(ぢ)せし 00109700M7め給ハざりし。 00109710¥N15¥J 00109720¥X十五△/河上翁(かしやうおう)/王臣(わうしん)とならざる事△◇神仙伝◇ 00109730M10もろこし、河上翁といふ人あり。/漢(かん)の/文帝(ぶんてい)のときの人なり。 00109740M11/草庵(そうあん)を/河上(かしやう)にむすびてすミける(廿一ウ)ゆへ、これを/河上翁(かしやうおう) 00109750M12といへり。/文帝(ぶんてい)/老子経(らうしきやう)をよミ給て、/義理(ぎり)の/通(つう)ぜさる所あり 00109760M13しかバ、人をもつてこれを/河上翁(かしやうおう)にとひにつかハし給へば、 00109770M14/翁(おう)がいわく、それ/老子経(らうしきやう)ハ道たつとく/徳(とく)たつとし、人をつ 00109780M15かハして、はるかにこれをとふべきにあらずとて、こたへ 00109790M16ざりければ、/文帝(ぶんてい)ミづからその/庵(いほり)に/行幸(ぎやうごう)ありて、とふての 00109800M17給ハく、/普天(ふてん)の/下(した)、/卒土(そつと)のうち、いづれか/王臣(わうしん)にあらずと 00109810M18いふことなし、しかるに/翁(おう)、われに/屈(くつ)せずして、こたへざ 00109820M19るハ、ミづからたかぶる人にあらずやとの給へば、/翁(おう)、/座(ざ) 00109830¥P248 00109840¥G 00109850L11をおどつて/冉&(ぜん+)としてそらにとびあがり、/地(ち)をさる事/数丈(すでう) 00109860L12にして、(廿二オ)(廿二ウ挿画)/文帝(ふんてい)にむかつていわく、われハ 00109870L13/上(かミ)/天(てん)にもいたらず、/中(なか)人にもいたらず、/下(しも)/地(ち)にもいたらず、 00109880L14しからバなんの/王臣(わうしん)といふ事かあらんやといへば、/文帝(ぶんてい)/車(くるま) 00109890L15を/下(お)りて/首(かうべ)を/地(ち)につけ、/拝(はい)し給へば、/文帝(ぶんてい)に/素書(そしよ)一/巻(くわん)をさ 00109900L16づけて、つゐにその所をうしなふて、ゆきがたなく、ミゑ 00109910L17ざりしとなり。 00109920¥N16¥J 00109930¥X/十七((ママ))△/廉頗(れんは)/藺相如(りんしやうぢよ)か事△◇史記◇ 00109940M3もろこし、/廉頗(れんは)と/藺相如(りんしやうぢよ)とは、ともに/趙(てう)といふ/国(くに)の/臣下(しんか)な 00109950M4り。/藺相如(りんしやうぢよ)/軍(いくさ)に/功(こう)あるゆへに、/上卿(しやうけい)の/位(くらい)にへあがりて、く 00109960M5らひ/廉頗(れんは)にまさりしかバ、/廉頗(れんは)おもひけるハ、われハ/本(もと)よ 00109970M6り/趙(てう)の/臣下(しんか)にして、(廿三オ)たび+の/軍(いくさ)に/功(こう)あり、/相如(しやうぢよ)ハ 00109980M7たゞ/口舌(こうぜつ)をもつての/苦労(くらう)ばかりにて、そのうへ、もといや 00109990M8しきもの也、しかるに/今(いま)くらひわが/上(かミ)に出たり、われかれ 00110000M9が/下(しも)たる事こそ口おしけれ、いかさまにも/相如(しやうぢよ)とさしちが 00110010M10へて、/死(し)せんものをとおもひけるに、/相如(しやうぢよ)はかねてこれを 00110020M11しりて、/病(やまい)ありといひて、つゐに/廉頗(れんは)に/出(いで)あわず。ある/時(とき) 00110030M12/相如(しやうぢよ)よそへ出るとて、/廉頗(れんは)にあひければ、やがて/車(くるま)をかへ 00110040M13してかくれける。/相如(しやうぢよ)が/舎人(しやじん)あひともにいさめていわく、 00110050M14われらが/父母(ふほ)をすて/来(きた)りて、/君(きミ)につかへ侍るハ、たゞ君の 00110060M15/高義(こうぎ)にましますをしたふてなり、しかるに今(廿三ウ)/君(きミ)/廉頗(れんは) 00110070M16と同じくらひにして、廉頗をおそれて、にげかくれ給ふ、 00110080M17まことにかやうの事ハつねていの人も、はづかしくおもふ 00110090M18事也、いわんや君におひてをや、しかるにこれをはぢ給ハ 00110100M19ず、われかやうの君につかへてなにかせん、たゞひまをう 00110110¥P249 00110120L1けてかへりさらんといひしかば、/相如(しやうぢよ)がいわく、なんぢら 00110130L2わがいふことをよく/聞(きく)へし、かの/強(つよ)き/秦(しん)の国より、この/趙(てう) 00110140L3をほろぼす事をせざるハ、/廉頗(れんは)とわれ両人があるゆへなり、 00110150L4今われ両人ともにたゝかひ/死(し)せば、つゐに/趙(てう)ハ/秦(しん)のために 00110160L5ほろぼさるべし。われかく/廉頗(れんは)を見てのがれかくるゝゆへ 00110170L6ハ、/国家(こくか)を/先(さき)に(廿四終オ)して、わたくしのあたをのちにす 00110180L7るゆへなり、さなくはなんぞ/廉頗(れんは)ほどなるものをおそれん 00110190L8やといへば、/舎人(しやにん)ミな+げにもとかんじける。/廉頗(れんは)もこ 00110200L9の/詞(ことは)を/聞(きゝ)て、わがあやまちをくひて、/相如(しやうぢよ)が門へいたり、 00110210L10ミづからころされん事をねがひけると也。されば人の/臣(しん)た 00110220L11る者ハ、/君(きミ)をたいせつに思ふ心ひたすらうちにせまりぬれ 00110230L12ば、/我身(わかミ)/死(し)して君の/為(ため)に/利(り)あるか、又ハ君の/高名(かうめう)ともなる 00110240L13べき事ならバ、死する事/節(せつ)にかなふへし。しからざるにミ 00110250L14だりに/私(わたくし)の/讐(あた)をもつて、君をかへり見ずして死する事ハ、 00110260L15/忠臣(ちうしん)の/先務(せんむ)にあらず。 00110270¥Y1三巻終(廿四終ウ) 00110280¥P250 00110290¥Y1理屈物語巻之四△目録 00110300L3一△/子(こ)を/失(うしなふ)てうれへざる事 00110310L4二△/朱雀院(しゆしやくゐん)/御綸言(ごりんげん)の事 00110320L5三△/樗櫟(ちよれき)ハ/役(やく)にたゝぬ木なる事 00110330L6四△/阮咸(げんかん)/犢鼻褌(とくびこん)をさらす事 00110340L7五△/蛇(じや)を/画(ゑかい)て/足(あし)をそゆる事 00110350L8六△/鷄(にわとり)をぬすめるを/諌(いさめ)る事 00110360L9七△/被裘公(ひきうこう)/遣(おち)たる金を/拾(ひろハ)ざる事 00110370L10八△/狙公(そこう)/狙(さる)をやしなふ事 00110380L11九△/銅(あかかね)くさき/三公(さんこう)の事 00110390L12十△三たび/所作(しよさ)をかゆる事(一オ) 00110400L13十一△/法師(ほうし)にならんとて/芸(げい)を/習(なら)ふ事 00110410L14十二△/馬(ば)/援((ママ)れう)/梁松(りやうしやう)を/拝(はい)せざる事 00110420L15十三△/晏子(あんし)/景公(けいこう)をわらふ事 00110430L16十四△/酒瓶(さかかめ)を/兄弟(きやうだい)にする事 00110440L17十五△/満奮(まんふん)風をおそるゝ事 00110450L18十六△/株(くいせ)をまもる事 00110460L19△△△△△△△△△目録終(一ウ) 00110470¥T1理屈/理((ママ))語巻之四 00110480¥N1¥J 00110490¥X一△/子(こ)を/失(うしなふ)てうれへさる事△◇列子◇ 00110500M5もろこし、/魏(ぎ)といふ/国(くに)に、/東門呉(とうもんご)といふものあり。とし四 00110510M6十にして、はじめて一人の子をもうけける。されども/老少(らうせう) 00110520M7/不定(ふでう)のならひとて、此子ほどなく/死(しに)にける。されども/東門= 00110530M8呉(とうもん=ご)ハこれをすこしもうれひかなしむ事なし。そのつま東門 00110540M9呉にとふていわく、/君(きミ)のつねにかの子をあいし、いとをし 00110550M10ミ給ふ事、天下にならびなし、しかるにいまこの子/死(しゝ)たれ 00110560M11ども、すこしもなげきかなしひ給ふ御けしき、ましまさぬ 00110570M12ハ、いかなる事にか侍るやらん、ひごろのあ(二オ)いしい 00110580M13とをしミ給ひけるハ、ミないつわりにてこそありつらめと 00110590M14とひければ、東門呉がいわく、われはじめ、子をもたざる 00110600M15時ハ子なき事をうれへず、すでに子ありたればこそ、これ 00110610M16をあいしたれ、子なくんばわれこれをあいする事あるまじ、 00110620M17いままたその子/死(しゝ)たり、しからばそのはじめ、子なきとき 00110630M18とおなじ、しからばわれなんぞこれをうれへんやといひて、 00110640M19つゐにうれへず。 00110650¥P251 00110660¥N2¥J 00110670¥X二△/朱雀院(しゆしやくゐん)/御綸言(ごりんげん)の事 00110680L3むかし、/朱雀院(しゆしやくいん)と申みかどの御時、/貞信公(ていしんこう)といへる/公卿(くきやう) 00110690L4おわします。ある時/禁中(きんちう)へ/参内(さんだい)ありて、さま(二ウ)※御 00110700L5物がたりありしつゐでに、/貞信公(ていしんこう)申あげられけるハ、いま 00110710L6君の御まつりごと万事ゆるくましますゆへ、/民(たミ)おこたり下 00110720L7おごり申よし、上下とりさた仕り侍るなり、さるあいだ、 00110730L8いますこしおしつめて、ばんじの/政(まつりごと)をとりおこなわせ給 00110740L9へかしと申されければ、みかどこのよし聞しめされて、貞 00110750L10信公におゝせ/出(いだ)されけるハ、そのかミ/照宣公(しやうせんこう)のいわれける 00110760L11とて、/先帝(せんてい)の/仰(おゝせ)られしハ、/世間(せけん)のまつりごとハ/琴(こと)の/柱(ことぢ)のご 00110770L12とし、/大絃(だいけん)/急(きう)なれば、/小絃(せうけん)はしらぶるにたえず、そのごと 00110780L13く、/朕(ちん)がまつりごと/急(きう)ならば、民いかゞせんやと仰せられ 00110790L14けるぞかし。/公(おゝやけ)の政は(三オ)(三ウ・四オ挿画)ゆるやかなる 00110800L15をもつてよしとす、/上(かミ)たるもの/急(きう)ならば下たるものくるし 00110810L16むべし、はけしきまつりごとは/兵乱(ひやうらん)のもとひなるものぞや 00110820L17とおゝせられければ、/貞信公(ていしんこう)も/公卿(くぎやう)/殿上人(てんしやうびと)もミな+/泪(なミた)を 00110830L18ながし、ありがたき御めぐミかなとて、ふかくかむし奉り 00110840L19けると也。 00110850¥G 00110860¥P252 00110870¥N3¥J 00110880¥X三△/樗櫟(ちよれき)ハ/役(やく)にたゝぬ木なる事△◇荘子◇ 00110890L3もろこしに/匠石(せうせき)といふ/番匠(ばんじやう)あり。ある時/弟子(でし)をひきつれ/斉(せい) 00110900L4の/国(くに)へゆきしに、/曲轅(きよくゑん)といふところに、/樗櫟(ちよれき)といふ木あり。 00110910L5はなはだ大なる木にして、その大さ/牛(うし)をかくすほどなり。 00110920L6人これを/囲(かこ)(四ウ)むに、百かこミほどありて、その/高(たか)き事 00110930L7山よりもぬきんでたり。この木のかたわれをもつて/舟(ふね)をつ 00110940L8くらば、舟十/艘(そう)をつくるべし。かやうに大なる木なりしか 00110950L9バ、人よりあつまりて、これを見る事あたかも/市(いち)のごとく 00110960L10なり。されども/匠石(しやうせき)ハこれをかへりみずして、その所をす 00110970L11ぎゆきける。弟子ともこれをあやしミて、/匠石(しやうせき)にとふてい 00110980L12わく、われ+/番匠(はんしやう)の/家(いゑ)にむまれ、/斧斤(をのまさかり)をとつて/君(きミ)にし 00110990L13たがひ、あまねくこの道にたづさわりぬれども、かほど大 00111000L14にして見事なる/材木(さいもく)をミたる事なし、しかるに君あへてか 00111010L15へり(五オ)みずしてすぎゆき給ふハ、いかなる事にか侍る 00111020L16やらん、いぶかしくこそ侍るといへば、/匠石(しやうせき)がいわく、な 00111030L17んぢらこの材木を大にして見事なりといふ事なかれ、此木 00111040L18は/散木(さんぼく)とてなにのやくにたゝざる木なり、舟につくるとき 00111050L19ハしずミ、/棺槨(くわんくわく)につくる時ハすミやかに/腐(くち)、/器(うつわもの)につくる 00111060M1時ハすミやかにやぶれ、/門戸(もんこ)につくる時ハひすあき、/樹(うへき)に 00111070M2うゆる時ハむしはむ、かくのごとくなるやくにたゝざる木 00111080M3なるゆへ、人これをきる事なし、かるがゆゑに、かくいの 00111090M4ちながふして大なりといへり。まことに番匠のうへだに、 00111100M5人の/師(し)たるものハ事を(五ウ)しる事つまびらかなり。いわ 00111110M6んやつねの師をや。かつ又人として道をまなばずして、ミ 00111120M7だりにとしのよりたるハ、/樗櫟(ちよれき)のいのちながきに同じかる 00111130M8べくぞ覚へ侍る。 00111140¥N4¥J 00111150¥X四△/阮咸(げんかん)/犢鼻褌(とくひこん)をさらす事△◇晋書◇ 00111160M11もろこし、/晋(しん)の/国(くに)に、/阮咸(げんかん)、あざなハ/仲容(ちうよう)といふ人あり。 00111170M12/陳留尉氏(ちんりううつじ)の人なり。むまれつき/活計(くわつけい)にして/礼義(れいぎ)にかゝわら 00111180M13ず、なに事もわか/気(き)まかせにして、人のいふ事をきかず。 00111190M14まことに/異風(いふう)なる人なりしが、つねに/叔父(をじ)の/阮籍(げんせき)といふ人 00111200M15とともに、/竹林(ちくりん)のあそびをなして、/竹林(ちくりん)の七/賢(けん)のうちなり。 00111210M16その世の人ミな(六オ)この/阮咸(げんかん)を/異風(いふう)ものなりとて、そし 00111220M17りあざけりける。/阮咸(げんかん)ハ/叔父(をじ)の/阮籍(げんせき)と/南方(なんはう)にすまひしける 00111230M18が、つねに家まづしし。また/阮咸(けんかん)が/親類(しんるい)ハ、ミな+/北方(ほくはう) 00111240M19にすミけるが、いづれも家とミさかへける。もろこしの/例(れい) 00111250¥P253 00111260L1にて、七月七日には人ミな/衣服(いふくを)、/庭(にわ)にさらして、/七夕(たなはた)をま 00111270L2つる事あり。かるがゆへに/阮咸(けんかん)が親類いづれも/富貴(ふうき)なる者 00111280L3どもなれば、いろ+のうるわしく/美麗(びれい)なる/衣服(いふく)をさらし 00111290L4て、/錦(にしき)の/色(いろ)日にかゝやき、まことにはなやかにこそ見へに 00111300L5ける。阮咸これを見て、われも家まづしといへども、いか 00111310L6んぞ七夕をまつらざらんやとて、/竿竹(さほだけ)のさきに/犢鼻褌(ふどし)をか 00111320L7け(六ウ)て、/庭(にわ)の中よりこれをあげて、われハ家まづしけ 00111330L8れば、/世俗(せぞく)のいやしき事をまぬかれずといひて、七夕をま 00111340L9つりけるとなり。 00111350¥N5¥J 00111360¥X五△/蛇(じや)を/画(ゑかき)て/足(あし)をそゆる事△◇史記◇ 00111370L12もろこし、ある人わがめしつかふあまたの下人のなかゑ、 00111380L13さかづきに/酒(さけ)を一はいいれて、これをのむべしとておくり 00111390L14ければ、あまたの下人この酒をうけて、ともによりあひい 00111400L15ひけるハ、この一はいの酒を/数人(すにん)してのまば、いかばかり 00111410L16すこしづゝのむとも、めん+へゆきわたりて、あまねふ 00111420L17する事なるべからす、また一人してのまば、かたうらミあ 00111430L18るべし、(七オ)(七ウ挿画)とかく/賭(かけ)づくにして、地に/蛇(しや)のか 00111440L19たちを/画(ゑかき)て、はやくかくものには、此酒をひとりしてのま 00111450M1すべしといひしかば、おの+しかるべしと/同心(とうしん)して、す 00111460M2でにその/儀(ぎ)にさだまりけるときに、そのうちに一人ありて、 00111470M3すでにはやく/書(かき)出して、かのさけをとりてのまむとす、あ 00111480M4まり心のうちにうれしくや思ひけん、/勝(かつ)にのつていゑるハ、 00111490M5いづれもいかほど/画(ゑかき)給ふとも、わが/絵(ゑ)にはおよぶまじ、い 00111500M6で+おの+にわが画たる/蛇(じや)に/足(あし)をそへて書て見せんと、 00111510M7ひとり/抗言(こうげん)いひちらして、つゐにかの/蛇(しや)に/足(あし)をかきそへけ 00111520M8る時に、そのかたわらより一人すゝミ出て、かのさけをう 00111530¥G 00111540¥P254 00111550L1ばひ(八オ)とり、やがて一/息(いき)にこそのミほしける。かの/蛇(しや) 00111560L2をゑかきたるもの大におどろき、いかなるいわれにか、わ 00111570L3か酒をとりてのミけるぞや、さたのかぎりなりといかりけ 00111580L4れば、酒をとりてのミたるものこたへけるハ、それ蛇ハも 00111590L5とよりあしあるものにあらず、しかるにいまこの蛇を見る 00111600L6に足あり、しからばこれ蛇にあらず、かるがゆへにわれこ 00111610L7れをとりてのミけるとぞこたへける。まことにわがことを 00111620L8/自慢(じまん)するものを、蛇を画て足をそゆるものといふ事、この 00111630L9/故事(こじ)よりおこれりとかや。 00111640¥N6¥J 00111650¥X六△/鷄(にわとり)をぬすめるを/諌(いさむ)る事△△◇事文類聚◇(八ウ) 00111660L12もろこし、/楽羊子(かくやうし)といふ人の/妻(つま)ハ、いづれの/氏(うじ)のむすめと 00111670L13いふ事をしらざりしかども、きわめて/賢女(けんぢよ)にして、/姑(しうとめ)につ 00111680L14かへ奉りて、ひたすらかう+をつくしける。かやうにか 00111690L15う+なるゆへか、家さのミまづしくもなかりける。ある 00111700L16ときとなりの家に/飼(かい)おきし/鷄(にわとり)、わが/垣(かき)のうちへとび/来(きた)りし 00111710L17かバ、/姑(しうとめ)やがてこれをとらへて、つゐにうちころして、こ 00111720L18れを/烹(に)てくいける。しうとめかのつまにもくひ給へといひ 00111730L19ければ、/妻(つま)くわずして、なミだをながしてなげきける。し 00111740M1うとめあやしミて、そのゆへをとひければ、妻こたへてい 00111750M2ひけるハ、わが家まづしくて、しうとめに(九オ)奉るへき 00111760M3/食(しよく)もなきゆへに、となりの/肉(にく)を/食(しよくせ)しめたてまつる事のかな 00111770M4しさに、かくなげき侍るなりといひしかば、しうとめこれ 00111780M5にはぢて、つゐにかのころしたる/肉(にく)のあまりを/捨(すて)てくわざ 00111790M6りしと也。 00111800¥N7¥J 00111810¥X七△/被裘公(ひきうこう)/遺(おち)たる/金(かね)を/拾(ひろわ)さる事△◇事文類聚◇ 00111820M9もろこし、/呉(ご)といふ/国(くに)に人あり。つねに/裘(かわごろも)を/被(き)てゐける 00111830M10ゆへ、その名を/被裘公(ひきうこう)とぞいゑり。/延陵(ゑんりやう)といふ所に/季子(きし)と 00111840M11いふ人あり。あるときよそへあそびに出られしに、道にて 00111850M12この/被裘公(ひきうこう)を見て、その躰の/貧(まづ)しくあさましきをあわれミ、 00111860M13わざと金を道ばたにおとしおきて、/被裘公(ひきうこう)をこゝろミられ 00111870M14け(九ウ)/□□((るにカ))、被裘公さらにこれをめがけずして、すぎゆ 00111880M15きける。/季子(きし)かの被裘公をよびかへして、金おちたる 00111890M16を、なんぢいかんぞこれをひろわざるやととひ給へば、被 00111900M17裘公/目(め)をいからし、手をうちはらひていわく、なんぢなん 00111910M18ぞわが身をたかぶり、われを見ていやしむるぞや、われハ 00111920M19/裘(かわころも)を/被(き)て/薪(たきゝ)をおふものなり、あにおちたる金をひろふも 00111930¥P255 00111940L1のならんやといひしかば、/季子(きし)大におどろき、その/姓名(うじな)を 00111950L2とひけれども、つゐにこたへすしてさりぬ。 00111960¥N8¥J 00111970¥X八△/狙公(そこう)/狙(さる)をやしなふ事△◇荘子◇ 00111980L5もろこしに/狙公(そこう)といふ人あり。つねに/狙(さる)をすきて、(十ノ十 00111990L6五オ)おほく/飼(かい)おきける。かるがゆへに/名(な)を/狙公(そこう)とぞいひ 00112000L7ける。あるとき狙公、おゝくの/狙(さる)に/杼(とち)をくばりくわすると 00112010L8き、とふていわく、なんぢらにこの/杼(とち)を、あしたには三つ、 00112020¥G 00112030M1ゆふべには四つづゝくわせんといひしかば、おゝくの/狙(さる)ミ 00112040M2なすくなしとて、目をいからし、/歯(は)をくひしばりていかり 00112050M3ければ、狙公がいわく、しからばあしたハ四つ、ゆふべに 00112060M4は三つづゝくわせんといひしかバ、おゝくのさる、ミな 00112070M5+よろこび、いさミけるとなり。まことにあさとゆふべ 00112080M6とのしなこそかわりぬれ、いづれにても一日にとちのかず 00112090M7七つにすぎす。しかるをのちにいひしをおゝきとおもへる 00112100M8狙(十ノ十五ウ)(十六オ挿画)の心のあさき事、これにてしられ 00112110M9侍る。狙のミならず人として、我身の/是非(ぜひ)をしらぬもまた 00112120M10かくのごとし。わが身の是非をしらずして、/狙公(そこる)が/狙(さる)をミ 00112130M11てわらふハ、まことの狙の/尻(しり)わらひにこそ。 00112140¥N9¥J 00112150¥X九△/銅(あかかね)くさき/三公(さんこう)の事△◇後漢書◇ 00112160M14もろこし/後漢(ごかん)の/崔烈(さいれつ)といふ人ハ、/■郡(たくぐん)の/安平(あんへい)といふ所の人 00112170M15なりしが、/北州(ほくしう)といふ所にて名をとり、人におもんぜられ、 00112180M16/九卿(きうけい)のくらゐをへたり。/漢(かん)の/霊帝(れいてい)のときに、/鴻都(こうと)/門(もん)をひら 00112190M17きて、/銭(せに)をとりて/官(くわん)をうりける事ありしが、/公卿(こうけい)より下ハ 00112200M18ミなそれ+の/位(くらい)によりて、あたひの/高下(こうげ)ありける。(十六 00112210M19ウ)かるがゆへに、とめるものハ/銭(せに)をさきへやりて、はや 00112220¥P256 00112230L1+官にそなわり、/貧(ひん)なるものハ官になりてのちに、銭を 00112240L2ため、/利足(りそく)をかけてやりける。あるひハ天子の御そばちか 00112250L3くめしつかわるゝ人にゑんある者は、ひそかに/内証(ないしやう)をもつ 00112260L4て、あたひやすくしてもらひて、官になるものもありける。 00112270L5かゝりけるに、/崔烈(さいれつ)も天子の/傅母(めのと)をたのミて、銭五百万を 00112280L6もつて、/司徒(しと)の官になりける。かつてわが子の/釣(てう)といふ者 00112290L7にとひけるハ、われくらゐ三公にのぼれり、世の人われを 00112300L8なにとか風聞するやといへば、子の/釣(てう)がいわく、君わかく 00112310L9まします時より、世の人/才智(さいち)人に(十七オ)すくれさせ給ふ 00112320L10とて、ほめあがめける、すでに/公卿(こうけい)の/ぐ((ママ))らひにのぼらせ給 00112330L11ふ時に、人ミな、つゐには三公の位とならせ給ふべきと、 00112340L12かねて申あへり、あんのごとくいま三公のくらひとならせ 00112350L13給ふ、されども、ひごろの人のおもひたるとハちがひたる 00112360L14ゆへ、人ミなのぞミをうしなひ侍るといふ。/崔烈(さいれつ)のいわく、 00112370L15それハいかなるいわれにか、ひごろののぞミをうしなひた 00112380L16るぞととふ。/釣(てう)がいわく、たゞ人、君の三公のくらひハ/銅(あかゞね) 00112390L17くさきとて、きらひ侍るなりといひて、まのあたりはぢし 00112400L18めけるとなり。 00112410¥N10¥J 00112420¥X十△三たひ/所作(しよさ)をかゆる事△◇郁離子◇(十七ウ) 00112430M3もろこし/鄭(てい)といふ国に、いやしくまづしきものありしが、 00112440M4日ごろにしつけたる/家職(かしよく)もなければ、いかゞして/渡世(とせい)すべ 00112450M5きすべをもしらざりける。かるがゆへにある人にしたがひ 00112460M6て、/盖(かさ)をはる事をならひけるが、三年があいだ/情(せい)をいだし 00112470M7つとめて、やう+ならひゑたり。しかるにこのとき天下 00112480M8大にひでりして/盖(かさ)をかふもの一人もなかりしかバ、三年が 00112490M9あいだの/工夫(くふう)ミなついゑとなりける。とかく此かさをして 00112500M10ハやくにたゝじとて、この/職(しよく)をすてゝ、いまのひでりして 00112510M11/水(ミつ)きれたるをくミあぐるためにとて、/桔槹(はねつるべ)をつくる事をな 00112520M12らひて、これも三年が(十八オ)あいだつとめて、やう+な 00112530M13らひゑたりしかバ、又天下大に雨ふりたるゆへ、この/桔槹(はねつるべ) 00112540M14をかふもの一人もなし。こゝにおひて又はじめの/盖(かさ)をはり 00112550M15てうらむとおもひけるに、つゐにその国ぬす人おこりて、 00112560M16民こと※く/道具(どうぐ)/衣服(いふく)をおさめ、ようじんをする事をおも 00112570M17としけるゆへ、あへて/笠(かさ)などをかふもの一人もなし。この 00112580M18ものあきれはてゝ、とかくかやうのぬす人おほきときハ、 00112590M19/太刀(たち)/長刀(なぎなた)のたぐひをならひゑて、うらばやとおもひしかど 00112600¥P257 00112610L1も、つゐにとしよりはてたれば、これをならふべき年月も 00112620L2なくて、一代いたづらにて身をおへけるとなり。(十八ウ) 00112630¥N11¥J 00112640¥X十一△/法師(ほうし)にならんとて/芸(げい)を/習(なら)ふ事 00112650L5むかしあるもの、わが子を/法師(ほうし)になして、/学問(がくもん)をさせ、/因= 00112660L6果(いん=ぐわ)の/道理(どうり)をもわきまへ、/一寺(いちじ)の/長老(ちやうらう)ともなり、/談義(だんき)/説法(せつほう)し 00112670L7て世をわたるたよりともせよといひければ、おしへのまゝ 00112680L8に法師にならんとて、つく※とたくミけるハ、われ法師 00112690¥G 00112700M1になりて/輿車(こしくるま)もたぬ人より、もしわれを/請(しやう)じよばるゝに、 00112710M2馬などをもつて、むかひにおこさるゝ時、ひごろのりなら 00112720M3わぬ事なれば、もゝじりにておちんも心うかるべしとて、 00112730M4まづ法師にならざるさきに、馬にのる事をならひける。さ 00112740M5てつぎに/斎(とき)/非事(ひじ)によばるゝ時、酒など(十九オ)(十九ウ挿画) 00112750M6をすゝむる事あらんに、法師の/無下(むげ)に/能(のふ)なきハ、/檀那(だんな)すさ 00112760M7まじくおもふべし、なにかわあひさつになるべき/芸(げい)をなら 00112770M8ひゑたきと思ふなかに、/小哥(こうた)をならひゑたりける。されど 00112780M9もこの馬にのる事も小うたをうたふ事も、わづかの月日に 00112790M10てハならひゑがたければ、/数年(すねん)をもつてならひけるが、ふ 00112800M11たつのわざやう+さかひにいりければ、いよ+よくし 00112810M12たくおもひて、ひたすらこの/芸(げい)をたしなミけるほどに、法 00112820M13師になりて/学問(がくもん)すべきひまなくて、つゐにとしよりけると 00112830M14かや。されば/右(ミぎ)のかさはりのためしなきにしもあらず、世 00112840M15上の人ミなかく(二十オ)のごとし。 00112850¥N12¥J 00112860¥X十二△/馬援(ばゑん)/梁松(りやうしやう)を拝せざる事△◇事文類聚◇ 00112870M18もろこし/後漢(ごかん)の/馬援(ばゑん)ハ、あざなを/文淵(ぶんゑん)といへり。/扶風茂陵(ふふもれう) 00112880M19といふところの人なり。/馬援(ばゑん)やまひある時、/梁松(りやうしやう)といふ人 00112890¥P258 00112900L1見まひにきたりて、/馬援(ばゑん)のふしてゐられたる/牀(ゆか)の下にて、 00112910L2/拝礼(はいれい)をなしけれども、馬援あへて/拝礼(はいれい)をしかやす事なし。 00112920L3さて梁松かへりさりてのち、あたりに侍るものとふていわ 00112930L4く、梁松ハ今/当代(とうだい)のみかどの/婿(むこ)にして、くらゐたつとし、 00112940L5かるがゆへに/公卿(こうけい)のくらゐの人といへども、ミな此人をあ 00112950L6がまへたつとばすといふ事なし、(二十ウ)しかるに君ひと 00112960L7りこれを拝礼し給ハざるハ、いかなる事にか侍るやらん、 00112970L8/不礼(ぶれい)なる事なりといひしかば、馬援がいわく、われハかの 00112980L9梁松が/父(ちゝ)の/友(とも)なり、かるがゆへに/長幼(ちやうよう)をもつて/論(ろん)ずる時ハ、 00112990L10われ梁松よりくらひたつとし、梁松もしわが友ならば、い 00113000L11かんぞこれを/拝礼(はいれい)せざらんや、いかんぞ梁松/当(とう)ミかどのむ 00113010L12ことして、くらひたつとしといひて、これにへつらひした 00113020L13がひて、その/長幼(ちやうよう)のつゐでをうしなわんやといへり。 00113030¥N13¥J 00113040¥X十三△/宴子(あんし)/景公(けいこう)をわらふ事△◇列子◇ 00113050L16もろこし/斉(せい)の/景公(けいこう)、/牛山(ぎうさん)にあそびて、/北(きた)の方わが(二十一オ) 00113060L17国をはるかに見おくりて、なミだをながしていわく、/美(び)な 00113070L18るかなわが/国(くに)、/民(たミ)かまどをにぎハし、/市(いち)にはともに/利(り)をあ 00113080L19らそひ、/野(の)にはいづくも/五穀(ここく)じゆくす、まことにかやうの 00113090M1ゆたかなる国をうちすてゝ、いつしか死せん事のかなしさ 00113100M2よ、/古(いにしへ)より死するといふ事のなきならひならば、われま 00113110M3たこゝをさりて、いづくにかゆかんやとの給へば、あたり 00113120M4にありあふ/群臣(くんしん)/口(くち)をそろへていひけるハ、われら君の/奉禄(ほうろく) 00113130M5をうけて、/食(しよく)ハあくまでくらゐ、/駑馬(どは)/稜車(れうしや)にのりてたのし 00113140M6ミをきわめ侍るゆへ、われらさへ死せん事をねがひ侍らず、 00113150M7しかるを、いわんや(二十一ウ)君におひてをやといひて、 00113160M8ミな+なミだをながしければ、/晏子(あんし)ハひとりかたわらに 00113170¥G 00113180¥P259 00113190L1わらふて/居(ゐ)けり。/景公(けいこう)これを見て、なミだを/雪(のご)ふて晏子に 00113200L2とふての給ハく、われ今日のあそびハ、いつもにかわりて 00113210L3かなしひふかし、/群臣(ぐんしん)ミなわれによりて、ともになミだを 00113220L4ながす、なんぢひとりわらふハなんぞや。晏子こたへてい 00113230L5わく、それ/賢者(けんちや)をして天下をまもらしめば、/太公(たいこう)/桓公(くわんこう)つね 00113240L6に守るべし、/勇者(ゆうしや)をして天下を/守(まも)らしめハ、/荘公(そうこう)/霊公(れいこう)つね 00113250L7に守るへし、此かずの君か、わが君のおゝせのごとく死せ 00113260L8ぬならひならば、ミな/生(いき)て居給ふべきゆへ、わが君(二十二 00113270L9オ)などハ/蓑笠(ミのかさ)をきて、田をたがやして居給ふべし、いづ 00113280L10くんぞこのあまたの/臣下(しんか)をゑて君となり給わんや、なんの 00113290L11いとまありてか死する事をかなしミ給ハんや、たがひに居、 00113300L12たがひに死するゆへにこそ、いまめぐり/来(きたり)て、わが君のく 00113310L13らひをたもち給ふ/期(ご)にいたれり、しかるを此ことわりをし 00113320L14らずして、これがためになミだをながしなき給ふハ、まこ 00113330L15とにおろかなる事にあらずや、かやうのおろかなる君を見 00113340L16て、これにこびへつらひて、ともになく、おろかなる臣下 00113350L17を見る、われこのゆへにわらひ侍るとそこたへし。(二十二 00113360L18ウ)(二十三オ挿画) 00113370¥N14¥J 00113380¥X十四△/酒瓶(さかかめ)を/兄弟(きやうたい)にする事△◇事文類聚◇ 00113390M3もろこし/後魏(ごぎ)の時、/元孚(げんぶ)といふ人あり。むまれつき/弁舌(べんぜつ)あ 00113400M4りて、せひひきく、かしらかぶろにして、つねに酒をこの 00113410M5ミてのミける。/周文帝(しうぶんてい)ひたすらこの/元孚(げんぶ)をてうあいし給ひ 00113420M6ける。ある時/御殿(ごてん)のうちに/酒瓶(さかかめ)を十あまりすへおき、おの 00113430M7+一/瓶(へい)に酒十/斛(こく)あまりづゝいれおき、/瓶(かめ)のうへに/帽子(ぼうし)を 00113440M8きせてたわふれに/元孚(げんぶ)をめして、これをミせ給へは、元孚 00113450M9このあまたの瓶を見て、よろこびいさミて、瓶にむかつて 00113460M10いゑるハ、いかにわが兄弟ども、なんぢらハ、はなはだ/無= 00113470M11礼(ふ=れい)なるものどもかな、なんぞいや(二十三ウ)しきなりとし 00113480M12て、この/天子(てんし)の/御殿(ごてん)へきたりてあるぞ、はやとく+わが 00113490M13家へかへるべしとて、あたりの人をよびよせ、このわが兄 00113500M14弟どもを、ミな+わが/宅(いへ)へつれてかへりて給ハれとて、 00113510M15かの/酒瓶(さかがめ)をミなもたせて、わが/宅(いへ)へやりければ、/周文帝(しうふんてい)手 00113520M16をうつて、大にわらひ給ふとなり。 00113530¥N15¥J 00113540¥X十五△/満奮(まんふん)風をおそるゝ事△◇世説◇ 00113550M19もろこし、/満奮(まんふん)といふ人ハ、つねに風をおそれきらふ人な 00113560¥P260 00113570L1りしが、あるとき/晋(しん)の/武帝(ふてい)の御前の/北窓(きたまと)に/座(ざ)して/居(ゐ)けるに、 00113580L2まへに/琉瑠(るり)をもつてつくりたる/屏風(べうぶ)のたてゝありけるが、 00113590L3そのいろうるハしく(二十四オ)かゝやきて、さもすさまじ 00113600L4くミへければ、/満奮(まんふん)これを見て、ことのほかさむさうなる 00113610L5けしきミへければ、/武帝(ふてい)これを御らんじて、いかなれバな 00113620L6んぢハ、さむさうなるけしきあるぞととひ給へば、満奮が 00113630L7いわく、/臣(しん)ハ/呉牛(ごきう)に/似(に)侍る也、むかし/呉(ご)といふ国に/牛(うし)あり、 00113640L8その国つねに/暑気(しよき)さかんなる国なるがゆへに、牛つねにこ 00113650L9れをくるしミて、月をミてもまたくだんの日いでたるあい 00113660L10だ、あつかるべきとおもひて、あわをかミ/喘(あへ)ぎくるしミ侍 00113670L11る也、われもいまその牛のごとく、この/屏風(へうぶ)のすさまじく 00113680L12かゝやきて、さむさうなるをミて、すわ、くだんの風がふ 00113690L13(二十四ウ)くとおもひて、おそれ侍る也とぞいひし。 00113700¥N16¥J 00113710¥X十六△/株(くいぜ)をまもる事△◇韓非子◇ 00113720L16もろこし/宋(さう)の国に、ある人田をたがやして/居(い)けるに、田の 00113730L17中に/株(くいせ)ありしが、/兎(うさぎ)いづくともなくはしり来りて、かの株 00113740L18にゆきあたりて、くびを/折(おり)て死けり。かの人よろこびやが 00113750L19て/兎(うさき)をとりにけり。そのゝちハかの人/耒(すき)をすて、田もたが 00113760M1やさずして、また兎が来りて、この株にゆきあたりて死す 00113770M2へきか、さあらは人にとられてハせんなしとて、ひたすら 00113780M3かの株をまもりゐけるとなり。/是(これ)よりして/愚(おろか)なるものを、 00113790M4/株(くひぜ)を/守(まも)るものとぞいふなり。 00113800¥Y1四巻終(二十五終オ) 00113810¥P261 00113820¥Y1理屈物語巻之五△目録 00113830L3一△/白髪(はくはつ)を/論(ろん)ずる事 00113840L4二△/支伯(しはく)/位(くらゐ)をうけざる事 00113850L5三△/劉伯倫(りうはくりん)/酒(さけ)をこのむ事 00113860L6四△天の/墜(おつ)るを/案(あん)する事 00113870L7五△/愚(おろか)なる人を/旅(たひ)の/道(ミち)づれにする事 00113880L8六△/伍子胥(ごししよ)/衣(ころも)をかゝげて/諌(いさむ)る事 00113890L9七△からくり/人形(にんきやう)を/穆王(ぼくわう)へ/献(けん)ずる事 00113900L10八△/衛(ゑい)の/君(きミ)/貧窮(ひんきう)をにぎわし給事 00113910L11九△/荘子(そうじ)つりたる/魚(うを)をすつる事 00113920L12十△/年(とし)よりて/智(ち)なきハむく/犬(いぬ)におとる事(一オ) 00113930L13十一△/孺子(じゆし)/呉王(ごわう)を/諌(いさむ)る事 00113940L14十二△/伯夷(はくい)/叔斉(しゆくせい)/兄弟(きやうたい)の事 00113950L15△△△△△△△△△目録終(一ウ) 00113960¥T1理屈物語巻之五 00113970¥N1¥J 00113980¥X一△/白髪(はくはつ)を/論(ろん)ずる事△◇世説◇ 00113990M5もろこし/顧悦(こゑつ)といふ人ハ、きわめて/才智(さいち)ある人なりしが、 00114000M6/簡文帝(かんぶんてい)と/同年(どうねん)なれども、/簡文帝(かんぶんてい)よりハはるかに/頭(かうべ)の/髪(かミ)も/白(しろ) 00114010M7くなりける。簡文帝これをそしりて、なんぢなにゆへにわ 00114020M8れにさきだちて、かうべしろきやととひ給へば、/顧悦(こゑつ)こた 00114030M9へていわく、それ/蒲柳(がまやなき)ハつね+/色(いろ)あをくうるわしといへ 00114040M10ども、秋きたれバたちまちかれしぼミて、ミなちりうせぬ、 00114050M11/松柏(まつかしハ)ハたとひ/秋(あき)きたりて、/霜(しも)しろくいたゞくといへども、 00114060M12かれしぼむことなく、いよ+そのいろうるわしくし(二オ) 00114070M13て、ゑだ/葉(は)もさかへ侍るなり、しかれば君のかうべハ/蒲柳(がまやなき) 00114080M14に同じ、わがかうべハ/松柏(まつかしハ)に同じきなり、といひしかば、 00114090M15/文帝(ぶんてい)こたへ給ふ事あたわずと也。 00114100¥N2¥J 00114110¥X二△/支伯(しはく)/位(くらい)をうけざる事△◇事文類聚◇ 00114120M18もろこし、/支伯(しはく)といふ人あり。きわめて/賢(けん)なる人なりしか 00114130M19バ、/舜(しゆん)天下をもつて/支伯(しはく)にゆづらんといひて、つかハされ 00114140¥P262 00114150L1しかバ、支伯がいわく、われハ世をのがれ、/静(しづか)なる/風景(ふうけい)を 00114160L2あひして、これをたのしむやまひあり、われこの/大病(たいびやう)をも 00114170L3ちたれば、いまだ天下をおさむるにひまなしといひやりて、 00114180L4ついにそのゆくゑをしらざりしとなり。(二ウ) 00114190¥N3¥J 00114200¥X三△/劉伯倫(りうはくりん)/酒(さけ)をこのむ事△◇晋書◇ 00114210L7もろこし、/晋(しん)の/劉伶(りうれい)ハ、あざなを/伯倫(はくりん)といゑり。/沛(はい)といふ 00114220L8所の人なりしが、つねにこゝろざしほしいまゝにして、/礼= 00114230L9儀(れい=ぎ)にかゝわらず、/胸中(けうちう)ひろくして、/天(てん)を/幕(まく)とし、/地(ち)を/席(むしろ)と 00114240L10するといへるなり。この人つねに、酒をこのミてのめるこ 00114250L11と、ほどにすぎたり。よそゑゆく時も、/鹿車(△ろくしや△|しかのくるま)にのり、くる 00114260L12まのかたわらに、一の/壷(つぼ)に/酒(さけ)をいれてたづさへあるき、ゆ 00114270L13くさきにてぞのミにける。又くるまのしりゑに下人を一人 00114280L14めしつれて、これに/鋤(すき)をもたせありきけるが、つね+い 00114290L15ひけるハ、われもし/道(ミち)のかたわらにて死せば、なん(三オ) 00114300L16ぢその/鋤(すき)をもつて、その/死(し)たる所に、われをうづむべしと 00114310L17ぞいへり。わが/形(かたち)をわすれたることかくのごとし。ある時 00114320L18酒をのミたくおもひて、/妻(つま)に酒をもち/来(きた)れといひ付ければ、 00114330L19/妻(つま)さけをすて/壷(つぼ)をうちわりて、なミだをながしてなげきい 00114340M1さめけるハ、きミが酒をこのミ給ふ事はなはだすぎたり、 00114350M2これながいきをし給ふべき/道(ミち)にあらず、さるあいだ酒をの 00114360M3む事をやめ給へと、くれ※くどきいさめければ、/伯倫(はくりん)げ 00114370M4にもとうけがひていゑるハ、われいかほどさけを/禁(きん)ずると 00114380M5も、つゐにはこのいましめをやぶるべし、さる間/鬼神(きしん)に申 00114390M6て、せいごんをたてゝ、かたく酒をいましむべし、/汝(なんぢ)(三ウ) 00114400M7(四オ挿画)/檀(だん)をかざりて酒さかなをとゝのへ、/鬼神(きしん)へそなへ 00114410M8/奉(たてまつ)るべしといひしかば、妻うれしくおもひ、やがて酒さ 00114420¥G 00114430¥P263 00114440L1かなをとゝのへ、/檀(だん)のうへにそなへければ、/伯倫(はくりん)檀のまへ 00114450L2にひざまづき、つゝしんて/祝(しゆく)していわく、天われを/生(うミ)てよ 00114460L3り、酒をのむをもつて天下にわが/名(な)をゑたる也、一たびに 00114470L4は酒/一斛(いちこく)づゝをのミ、二日ゑひをするときハ、また五/斗(と)づ 00114480L5ゝをのむ時ハそのまゝゑひをさます也、しかれバわが酒を 00114490L6のむ事は、いまさらこれをとゝむべからず、わがつまのい 00114500L7ふ事ハ、/鬼神(きしん)もこれをきゝ入給ふ事なかれと、いひもあへ 00114510L8ず、/檀(だん)のうへなる酒さかなを、やがてとりて(四ウ)ミづか 00114520L9らくひ、ミづからこれをのミほして、さらに鬼神へそなへ 00114530L10ずして、さけを禁ずる事もなく、又太にぞゑひにける。こ 00114540L11の人つねに酒にゑひて、人とともに/諠譁(けんくわ)/口論(こうろん)するときに、 00114550L12人/袂(たもと)をからげにぎり/拳(こぶし)をふりあげて、うたんとてとびかゝ 00114560L13れば、/伯倫(はくりん)すこしもさわがすして、われハ/鷄(にわとり)のほねのごと 00114570L14くやせたる身なれば、君のたつときにぎりこぶしをもつて、 00114580L15うち給ふとも、さらにうちがひもあるまじきといひしかば、 00114590L16さきの人もわらひてうつ事をせざりしと也。かやうの人な 00114600L17りしかども、つゐに/建威参軍(けんいさんぐん)といふ/官(くわん)になりて、/寿(いのちながふ)して 00114610L18(五オ)/死(しゝ)けるとなり。 00114620¥N4¥J 00114630¥X四△/天(てん)の/墜(おつ)るを/案(あん)ずる事△◇列子◇ 00114640M3もろこし/杞(き)といふ国に、きわめておろかなる人有しが、つ 00114650M4ねに、天もしくづれおちなば、いづくゑにげのがるゝとも 00114660M5かなわずして、つゐには天のために、わが身をうちひしが 00114670M6れん事のかなしさよとて、つね※これをなげきあんじて、 00114680M7/寝(いぬる)にも/食(しよく)するにも、さらにわが身を/安(やす)んぜず。こゝに又有 00114690M8人も、此事をあんじて、かのものと二人ともにこれをつね 00114700M9にあんじけるが、ひとりのものさとりていひけるハ、天と 00114710M10いふものハ、/陰気(いんき)のつもりのぼつて、/空(くう)(五ウ)/空(くう)としたる 00114720M11ものなれば、所もなく/形(かたち)もなし、しからばいかんぞくづれ 00114730M12おつる事あらんやといひしかば、ひとりのものこれをきゝ 00114740M13てわらひていわく、天もし/陰気(いんき)のつもりたるもののミなら 00114750M14ば、/日月星宿(じつけつせいしゆく)ハいかでおちざるぞや、日月星宿の天にかゝ 00114760M15りて、/昼夜(ちうや)にめぐれども、つゐにおつる事なければ、これ 00114770M16天ハところもあり、かたちもあると見えたりといへば、又 00114780M17一人のいわく、日月星宿もまた、陰気のうちのひかりある 00114790M18ものなれば、ともにこれも/気(き)なり、しからばいかんぞおつ 00114800M19る事あらんや、またたとひおちたりとも、日月星宿はいづ 00114810¥P264 00114820L1れ(六オ)もちいさきものなり、そのうへ天下ひろければ、 00114830L2いづくへおつべきやらんさだめなければ、うれふるにたら 00114840L3ずといへば、かのものもやがてさとりぬ。 00114850¥N5¥J 00114860¥X五△/愚(おろか)なる人を/旅(たび)の道づれにする事 00114870L6むかしおろかなるものと、かしこきものと、ともに/関東(くわんたう)ゑ 00114880L7くだるとて、/旅(たび)の道づれとなりぬ。かしこきものゝいわく、 00114890L8たびハたがひになに事も心をおかず、あひともに/用(よふ)をとゝ 00114900¥G 00114910M1のへあふこそよけれといへば、おろかなるものげにもと/同= 00114920M2心(とう=しん)して、道はるかに/行(ゆく)ほどに、たがひにくたびれければ、 00114930M3かしこき者のいわく、あまりくたびれ侍れば、いざ/馬(むま)をか 00114940M4りて(六ウ)(七オ挿画)たがひにのるべし、これよりさきの 00114950M5とまりまでハ、六里があいだなれば、同じく/駄賃(だちん)を出して、 00114960M6われ三里があいだ馬にのらば、君三里があいだ/徒(かち)にてあ 00114970M7るき給ふべし、君三里があいだ/徒(かち)にてあるき給ハゝ、われ 00114980M8三里があいだ馬にのるべし、かやうにすればたがひにかた 00114990M9うらミなく、まんめんにてよしといへば、おろかなるもの 00115000M10げにもと同心して、すでに馬をかりてのりゆく事三里なれ 00115010M11ども、かのかしこきもの馬よりおりず、/鞭(むち)うちたゝきての 00115020M12りゆきければ、おろかなるものいひけるハ、六里があいだ 00115030M13をたがひに/半分(はんぶん)づゝ/駄賃(だちん)を出しぬれば、(七ウ)三里があい 00115040M14だハわがのるべきはづなり、しかるにいかでのりゆき給ふ 00115050M15ぞ、はやく馬よりおり給へといへば、かしこきものいひけ 00115060M16るハ、なにしに馬よりおり申べき、はじめよりいゑるごと 00115070M17く、三里があいだわれ馬にのらば、君ハ三里があいだかち 00115080M18にてゆき給ふべし、君三里があいだかちにてありき給ハゞ、 00115090M19われ三里があいた馬にのるべしといわずや、しからば六里 00115100¥P265 00115110L1ながらミなわがのるべきけいやくなり、しかるをなにしに 00115120L2おりてゆくべきぞといへば、おろかなるものせんかたなく、 00115130L3ひとりかちにてあゆミける。さてそれよりも又つれたちて 00115140L4ゆくほどに、おろかなる(八オ)もの道すがら、われをあざ 00115150L5むく人なりとて、さん+はらをたてければ、かしこきも 00115160L6のゝいひけるは、しからば今よりハ、たがひに/無理(むり)をいわ 00115170L7ずして、たゞしくして道づれとなるべし、/道中(とうちう)にて君もし 00115180L8/銭(せに)あらば、あひともにつかふべし、われもし銭なくむば君 00115190L9の銭をつかわん、またゆくさきに/山道(やまミち)あらば、のぼるとき 00115200L10ハわがこしをおして給ハれ、下る時ハまた君の/肩(かた)をおして 00115210L11やるべしといへば、かのおろかなるものきゝて、これにて 00115220L12こそたがひにかたうらミなく、まんめんなれとて、大によ 00115230L13ろこびけると也。 00115240¥N6¥J 00115250¥X六△/伍子胥(ごししよ)/衣(ころも)をからげて/諌(いさむ)る事△◇呉越春秋◇(八ウ) 00115260L16もろこし/呉(ご)の国に、/伍子胥(ごししよ)といふものあり。/呉王(ごわう)の/臣下(しんか)に 00115270L17して、君に/忠(ちう)あるものなりしが、つねに呉王のあしき事あ 00115280L18れば、御いさめを申あげけれども、呉王さらにこれをきゝ 00115290L19いれ給ハず。/伍子胥(こししよ)いさめの用ひられざる事をなげきて、 00115300M1まい日/宮中(きうちう)より/出仕(しゆつし)をつとめてかへるとてハ、衣のすそを 00115310M2からげてぞかへりける。/群臣(ぐんしん)これをあやしミて、いかなる 00115320M3ゆへぞととひければ、伍子胥がいわく、われ君にたび+ 00115330M4いさめ申あぐるといへども、ついに用ひ給ハずして、たゝ 00115340M5明くれ/酒宴遊興(しゆゑんゆふけう)にふけり給ふ、まことにかやうならバ、つ 00115350M6ゐには天(九オ)下もほろび、/宮中(きうちう)も/虎(とら)ふす/野(の)べとあれはて 00115360M7ゝ、/草(くさ)ぼう+とおひしげり、おく/露霜(つゆしも)もふかゝるべし、 00115370M8しからばその露霜が、わが衣のすそをうるほすなるべし、 00115380M9かるがゆへに、かくからげてぞかへるなりといひし。 00115390¥N7¥J 00115400¥X七△からくり/人形(にんぎやう)を/穆王(ぼくわう)へ/献(けん)ずる事△◇列子◇ 00115410M12もろこし/周(しう)の/穆王(ぼくわう)と申みかど、/狩(かり)に出給ひければ道にて、 00115420M13よき/細工人(さいくにん)/偃師(ゑんし)といふ者なり、なににても御用を/仰(おゝせ)つけら 00115430M14れ候へとて、奉るものありしかバ、/穆王(ぼくわう)かの/細工(さいく)人/偃師(ゑんし)を 00115440M15めして、なんぢなにの/能(のふ)かあるぞやとたづねさせ給へば、 00115450M16偃師こたへけるハ、これハ(九ウ)よく人形をつくり侍る也、 00115460M17ねがわくハわれつくりて君に見せ侍らんとて、そのあくる 00115470M18日また来りて、/穆(ぼく)王にまミへける。穆王出て対面なされて、 00115480M19なんぢがつれて来るものハ、なに人そやとたづねさせ給へ 00115490¥P266 00115500L1ば、こたへていわく、これハわがつくりたる人形にて侍る 00115510L2といふ。王おどろきこれを見給ふに、あるひはあゆミ、あ 00115520L3るひハゆき、ゆるひハあふのき、あるひハうつむく事、ま 00115530L4ことの人にことならず。偃師この人形の/頤(おとがい)をうごかすとき 00115540L5ハ、うたうたふ事、/律(りつ)にかなひて、そのこゑまことに人よ 00115550L6りもさわやかなり、この人形の手をあぐれば、舞をまふ事 00115560L7/節(ふし)に(十五オ)(十十五ウ挿画)をふじて、/扇(あふき)の手じなこま 00115570L8やかなり、たゞそのうごきなすところ、たとひ/生(いき)たる人な 00115580¥G 00115590M1りとも、いかでかくのごとくならんや。穆王大におどろき、 00115600M2/是(これ)ハたゞまことの人なりとこそおもわれける。ある時穆王 00115610M3御きさきとともに、ならびてこの人形をミられけるに、す 00115620M4でに/芸(げい)もおわらんとするとき、この人形/目(め)まじをして、王 00115630M5の/左右(さゆふ)のきさきたちをまねきければ、穆王大にいかり給ひ 00115640M6て、やがて偃師をいましめて、/誅(ちう)せんとし給ひしかば、偃 00115650M7師かの人形をうちわつて、穆王に見せければ、ミな/革(かわ)と/木(き) 00115660M8を/膠(にかわ)/漆(うるし)をもつてつぎあわせて、そのうへを五色をもつ(十 00115670M9六オ)て/彩(いろとり)たる、まことの人形にてぞありしかバ、つゐに 00115680M10偃師がつミをゆるされけると也。 00115690¥N8¥J 00115700¥X八△/衛(ゑい)の/君(きミ)/貧窮(ひんきう)をにぎわし給ふ事△◇事文類聚◇ 00115710M13もろこし/衛(ゑい)の君、/冬(ふゆ)の日にあたりて、/裘(かわころも)を/着(き)、/茵(しとね)をかさ 00115720M14ねて/坐(ざ)し給ふが、ある時/外(ほか)に出給ひしに、道のかたわらに 00115730M15/薪(たきゞ)をおひ、こゑをあげてなくものありしかバ、衛の君とふ 00115740M16ての給ハく、なむぢなんのゆへにか、かくなくぞやと。/薪(たきゝ) 00115750M17をおふ者こたへけるハ、/雪(ゆき)ふり/寒(かん)はなはだしくして、/衣(ころも)う 00115760M18すし、かるがゆへにこのさむきにたえずして、なき侍ると 00115770M19いふ。こゝにおひて衛の君、おそるゝ(十六ウ)/気色(けしき)/顔色(がんしよく)に 00115780¥P267 00115790L1あらわれての給ハく、君として/民(たミ)のうれひをしらずんバ、 00115800L2/民(たミ)たれかわれをもつて君とあがまゑんや、いまかく/貧(まづ)しき 00115810L3民あるを、よそに見なして、あわれまずんバ、これ君たる 00115820L4ものゝ道にあらずとて、つゐに/府倉(くら)をひらき、おゝくの/金= 00115830L5銀(きん=ぎん)/米銭(へいせん)を、こと※くとり出して、まつしきたミにあたへ 00115840L6給ふとなり。 00115850¥N9¥J 00115860¥X九△/荘子(そうじ)つりたる/魚(うを)をすつる事△◇淮南子◇ 00115870L9もろこしに/荘子(そうじ)といふ人あり。この人のともに/恵子(けいし)といふ 00115880L10ものありしが、/梁(りやう)の君につかへて、おゝくの/奉禄(ほうろく)をもとり 00115890L11しかバ、その身の/富貴(ふうき)にし(十七オ)て、おゝくのものを/供(とも) 00115900L12として、/宋(さう)の/孟諸(もふしよ)といふ/沢(さわ)をとおりければ、おりふし/荘子(そうし) 00115910L13世をのがれて、この沢にひきこもり、つりをたれて/居(い)ける 00115920L14が、/友(とも)の/恵子(けいし)がかく/富貴(ふうき)の身となりても、なをのそむ心の 00115930L15大にふかきを見て、わがつりたる魚のあまたありしを、す 00115940L16こしばかりのこして、のこりをミなはなちすてて/恵子(けいし)に見 00115950L17せけるとなり。これハ魚も時にあたりて用るほかハ、たく 00115960L18わへをしていらぬものなり。官につかゆるも又かくのこと 00115970L19し。身富貴にして/栄花(ゑいくわ)にさかへば、その外をねがひて/益(ゑき)な 00115980M1きといふ事をしらしめんがためなり。 00115990¥N10¥J 00116000¥X十△/年(とし)よりて/智(ち)なきハむく/犬(いぬ)におとる事 00116010M4むかし/西大寺(さいだいし)の/静然(じやうねん)上人ハ、/智(ち)もなく/才(さい)もつたなくして、 00116020M5としより、/腰(こし)もかゞまり、/眉(まゆ)しろくして、まことに/徳(とく)たけた 00116030M6るありさまにて、/禁中(きんちう)へ/参内(さんだい)しられければ、/西園寺(さいおんじ)/内大臣= 00116040M7殿(ないだいじん=どの)これを見て、あなとうとのけしきやといひて、はなはた 00116050M8これを/信仰(しんがう)しられければ、/日野(ひの)/俊光卿(としミつきやう)の三男/権中納言(ごんちうなごん)/資朝= 00116060M9卿(すけとも=きやう)これをミて、この上人ハとしのよりたるのミにて、/智(ち)も 00116070M10/才(さい)もつたなく侍るなれば、さのミたふとむべき人にあらず 00116080M11といわれけり。さて/後日(ごにち)にむく犬のあさましく/老(おい)さらぼひ 00116090M12て、/毛(け)はげたるをひかせて、此犬の(十八オ)/気色(けしき)たうとく 00116100M13見へて候といひてつかハし給ひけるとなり。まことにとし 00116110M14たけ、よわひかたむきたる人なりとも、/才智(さいち)つたなく/文学(ぶんかく) 00116120M15あつからずんバ、むく犬のとしのよりたるに、さらにこと 00116130M16なる事あるべからず。たとひとしわかくくらひいやしくと 00116140M17も、才智人にすぐれ、文学いたりてふかき人ならば、いか 00116150M18でこれをたふとまさらんや。 00116160¥P268 00116170¥G 00116180¥N11¥J 00116190¥X十一△/孺子(じゆし)/呉王(ごわう)を/諌(いさむ)る事△◇説苑◇ 00116200L14もろこし/呉(ご)の/国(くに)より、/荊(けい)といふ国をうちほろぼさんとたく 00116210L15ミしに、/呉(ご)の国の/舎人(しやじん)/孺子(じゆし)、/呉王(ごわう)をいさめんとおもへども、 00116220L16いさめの用ひられざらん(十八ウ)(十九オ挿画)ことをなけき、 00116230L17いかにもしていさめんとおもひ、朝ごとに/園(その)に出て、なげ 00116240L18きかなしミけるに、呉王/孺子(じゆし)をめして、なにゆへにかかく 00116250L19かなしむぞやとたづね給へば、孺子がいわく、われ/園(その)に雀 00116260M1おゝくあつまり/居(い)申たるゆへ、これをとらんとおもひて/園(その) 00116270M2にゆき侍りければ、かのすゞめをとらんとおもへるところ 00116280M3にのミ心ありて、わが衣の、園の草/葉(は)の/露(つゆ)にうるほさるゝ 00116290M4事をおぼえ侍らず、かるがゆへに、この衣のうるほひたる 00116300M5をなげき侍なりといひしかば、呉王これをさとりて、その 00116310M6ゝちは/荊(けい)をうつ事をやめられしとなり。まことに(十九ウ) 00116320M7/雀(すゝめ)をとるをもつて/荊(けい)をうつにたとへ、衣のうるほふをもつ 00116330M8て、呉国のつゐにまけて、わざわひをとるべきにたとへけ 00116340M9る也。人の/臣(しん)たる者ハ、いろ+の/術(じゆつ)をもつて君をいさめ 00116350M10て、たゞしきに/帰(き)せしむべし。/一術(いちじゆつ)をもつて君をいさめ、 00116360M11そのいさめ用ひられずとて、ミだりに君をすつる事、これ 00116370M12/忠臣(ちうしん)の/所務(しよむ)にあらず。 00116380¥N12¥J 00116390¥X十二△/伯夷(はくい)/叔斉(しゆくせい)/兄弟(きやうだい)の事△◇史記◇ 00116400M15もろこし/孤竹(こちく)といふ所に、/兄弟(きやうだい)あり。/兄(あに)をバ/伯夷(はくい)といひ、 00116410M16/弟(おとゝ)をバ/叔斉(しゆくせい)といゑり。父いかゞおもひけん、弟の叔斉に/国(くに) 00116420M17をゆづらんといひおきて、むなしく(二十オ)なれり。時に 00116430M18叔斉おもひけるハ、いかに/父(ちゝ)の/命(めい)なりとても、弟として/親(おや) 00116440M19のあとをとるべきにあらずとて、兄の/伯夷(はくい)にゆづりける。 00116450¥P269 00116460L1伯夷ハまた/父(ちゝ)の/命(めい)そむきがたしとて、うけず。たがひに国 00116470L2をゆづりあひて、ともに国をにげさりける。/国人(くにたミ)その/中子(ちうし) 00116480L3を立て、父のあとをつがせける。その/後(のち)伯夷叔斉ハ、/周(しう)の 00116490L4国にゆきて、/武王(ぶわう)につかへけるが、/武王(ぶわう)/殷(いん)の/紂王(ちうわう)をうちほ 00116500L5ろぼし給ひける時、/臣(しん)として君をうつことわりあるべから 00116510L6ず、これ/不義(ふぎ)なりとていさめけれども用ひられず。左右の 00116520L7者きゝて、君にたいして/慮外(りよぐわい)なり、この両人を/殺(ころ)(二十ウ) 00116530L8さんといひしかども、/太公望(たいこうぼう)此ものハ/義人(ぎじん)なりとてゆるし 00116540L9ければ、そのゝちハかやうの不/義(き)なる国の/粟(あわ)を食(しよくせ)じとて、 00116550L10/首陽山(しゆやうざん)といふ山にかくれて、/薇(わらび)をとりてうへ/死(しに)しけるとな 00116560L11り。されば/孔子(こうし)も、/礼(れい)の用ハ/和(くわ)をたつとしとすとの給へ 00116570L12り。かつ又/孟(まう)子ハ/聖人(せいじん)に/権道(けんとう)ある事をとけり。今/武王(ぶわう)の/紂= 00116580L13王(ちう=わう)をうち給ひたるハ、天下をこのミむさぼりて討給ふにあ 00116590L14らず、天下の民すゝめたる故、やむ事を得給ハずして討給 00116600L15ふ。これ/聖人(せいじん)の権道也。しかるに/伯夷(はくい)/叔斉(しゆくせい)これをにくむハ 00116610L16権道をしらずといへども、/義(き)におひてハ又はなハだ正しか 00116620L17らずや。 00116630¥Y1終(廿一終オ) 00116640¥P270 00116650¥Y1/理屈物語(りくつものかたり)巻之六△目録 00116660L3一△/荘子(さうじ)/魚(うを)のたのしミを/知(しる)事 00116670L4二△/狗(いぬ)の/妖(ばけ)たるをあやしまぬ事 00116680L5三△/狐(きつね)/死(しゝ)たるまねをして殺さるゝ事 00116690L6四△/斉(せい)の/景公(けいこう)の/夢(ゆめ)を/占(うらな)ふ事 00116700L7五△/斉(せい)の/閔王(ひんわう)の/后(きさき)くびに/宿瘤(こぶ)ある事 00116710L8六△日なたを君に/献(けん)ずる事 00116720L9七△/餅(もち)をくわんとて/無言(むごん)をする事 00116730L10八△/原穀(げんこく)/祖父(おゝぢ)を山へすつる事 00116740L11九△/介子推(かいしすい)/綿上山(めんじやうざん)にてやけ死する事 00116750L12十△/剣(けん)を/水中(すいちう)へおとす事(一オ) 00116760L13十一△/桐葉(きりのは)をもつて/弟(おとゝ)を/封(ほう)ずる事 00116770L14△△△△△△△△△△目録終(一ウ) 00116780¥T1理屈物語巻之六 00116790¥N1¥J 00116800¥X一△/荘子(さうじ)/魚(うを)のたのしミをしる事△◇荘子◇ 00116810M5もろこし、/荘子(さうじ)、あざなハ/荘周(さうしう)といふ人、/友(とも)の/恵子(けいし)といふ 00116820M6/者(もの)とともに、/濠梁(かうりやう)といふ/所(ところ)にてあそびけるに、/荘子(さうじ)/魚(うを)の/水= 00116830M7上(すい=しやう)に出て、およぐ事ゆたかなるを見て、これこそ/魚(うを)のたの 00116840M8しミなれといひて/歎(たん)じけれバ、/恵子(けいし)これを/聞(きゝ)ていわく、な 00116850M9んぢは魚にもあらずして、いかんして魚のたのしミをしら 00116860M10むやといへば、荘子こたへていわく、なんぢはまたわれに 00116870M11もあらずして、いかんして魚のたのしミをしりたるやらん、 00116880M12しらざるやらん、(二オ)わが/胸中(けうちう)のことをしらんやといへ 00116890M13り。 00116900¥N2¥J 00116910¥X二△/狗(いぬ)のばけたるをあやしまぬ事△◇風俗通◇ 00116920M16もろこし/桂陽(けいやう)の/太守(たいしゆ)に、/李叔堅(りしゆくけん)といふ人あり。この人の/家(いゑ) 00116930M17に/畜(かい)おきし/狗(いぬ)ありしが、としよりけるゆへか、つねにばけ 00116940M18て、いろ+のふしぎ多かりけり。あるときにこの狗、う 00116950M19しろあしをたてゝ人のあゆむがことくにしてあるきければ、 00116960¥P271 00116970L1/家人(かじん)ミな+あやしミおそれて、これをころさんといひけ 00116980L2るに、/叔堅(しゆくけん)がいわく、/古(いにしへ)より/犬馬(けんば)ハ/君子(くんし)にたとへおきた 00116990L3り、この/狗(いぬ)も人のあるくをミて、このもしくおもひ、ある 00117000L4きならふものなるべし、しか(二ウ)るをいづくんぞあやし 00117010L5ミおそれて、これをころさむやといゑり。その/後(のち)/叔堅(しゆくけん)、/県(あがた) 00117020L6の/奉行(ぶぎやう)のもとへまミへにゆきけるが、かへりて/冠(かんふり)を/榻(しぢ)の 00117030L7うへに/懸(かけ)おかれければ、かの/狗(いぬ)やがてこの冠をとりて、わ 00117040L8がかしらにいたゞきてあるきければ、/家人(かじん)こと※くおど 00117050L9ろきあやしミけるに、/叔堅(しゆくけん)これを見て、さらにあやしまず 00117060L10していへるハ、この狗あやまりて/冠(かんふり)のかけたるそばをと 00117070L11をりけるゆへ、冠の/纓(ひも)くびにかゝりて、わざとかしらにい 00117080L12たゝきたるごとく見ゆるなるべし、しかるをなんぞこれを 00117090L13あやしまんやといへり。その/後(のち)又この/狗竃(いぬかまど)のまへに(三オ) 00117100L14ゐて/火(ひ)をたきければ、家人こと※くあやしミおそれけれ 00117110L15ば、/叔堅(しゆくけん)又いわく、/下女(げぢよ)/童僕(どうぼく)どもミな田へゆきて、/竃(かまど)のも 00117120L16とをたくものなし、かるがゆへに/狗(いぬ)これをたすけて火をた 00117130L17く也、さいわひに火の/用心(ようしん)もよし、しからばなんぞこれを 00117140L18あやしミおそれんやといひて、ついにあやしむけしきなし。 00117150L19/里中(さとぢう)のものミな、かほどあやしき狗なるを、いかでころさ 00117160M1ずいけおくぞやとて/罵(のり)けれども、/叔堅(しゆくけん)さらにころす事なし。 00117170M2そのゝち/数日(すじつ)ありて、かの狗にわかに/死(しに)にける。されども 00117180M3ついにすこしも/別義(べつぎ)なかりしとなり。こゝにおいて叔堅の 00117190M4(三ウ)(四オ挿画)/賢(けん)なる事おのづからあらわれたり。され 00117200M5ば古にいわく、/恠(あやしき)を見てあやしまざれば、そのあやしミ 00117210M6おのづからやぶるゝといへり。今この叔堅の狗もまたかく 00117220M7のごとし。世の人物の/奇恠(きくわい)を見てハ、ミだりにこれがため 00117230M8に/本心(ほんしん)をうばわれて、つゐに我命をうしなふ。あるひハ/奇= 00117240¥G 00117250¥P272 00117260L1恠(き=くわい)の/説(せつ)をとくものあれば、人ミなこれを/信(しん)じて、しひてそ 00117270L2の道におちいる。あゝそれいたまざらんや。/孔子(こうし)/恠力(くわいりよく)/乱= 00117280L3神(らん=しん)をかたらざる事、むべなるかなや。 00117290¥N3¥J 00117300¥X/六((ママ))/狐(きつね)/死(しゝ)たるまねして/殺(ころ)さるゝ事(四ウ) 00117310L6むかし、ある人四人づれにて、/野道(のミち)をとをりけるに、/道(ミち)の 00117320L7かたわらに/狐(きつね)ありて、/草(くさ)の/根(ね)をほり、つちくれをやぶり、 00117330L8もろ+のむしをくふてゐけるが、/狐(きつね)此四人のものゝ/来(きた)る 00117340L9を見て、おもひけるハ、われにげずしてこのまゝこゝに/居(いる) 00117350L10ならバ、この四人の者われをころすべし、またにげなばい 00117360L11よ+おわゑてうちころすなるべし、とかく/詮(せん)ずる/所(ところ)は、 00117370L12いつわりて/死(しゝ)たるまねをして、この四人が/過(すき)ゆきたるあと 00117380L13にて、ゆる+と此むしをもくひ、かつ又いづかたへなり 00117390L14ともにぐべしとおもひさだめて、/四足(よつあし)をのべ目をふさぎ、 00117400L15/息(いき)をもせずして、(五オ)死たるごとくに伏てゐければ、か 00117410L16の四人のもの此所にくるとひとしく、こゝに/狐(きつね)こそ/死(しゝ)て/居(お) 00117420L17るなれといひて、たがひにこれをころさんとあらそひける 00117430L18が、一人ハこの/狐(きつね)の/耳(ミゝ)をきるべしといふ。また一人ハ尾を 00117440L19きるべしといふ。又一人ハ/牙(きば)をきるべしといふ。狐これを 00117450M1聞て、ふしながら心のうちにおもひけるは、はじめよりと 00117460M2てもかやうに/疵(きず)をつけらるゝとしらば、いづかたへなりと 00117470M3もあしをはかりににぐべきものを、いつわり死するまねを 00117480M4して、かへりてわが身のあたとなりけるよと、なげき/後悔(こうくわい)す 00117490M5るといへどもかひもなし。さ(五ウ)れども/耳(ミゝ)/尾(を)/牙(きば)をきられ 00117500M6たるぶんにてハ、いまだいのちハたすかるべしと、心のう 00117510M7ちにたのもしくおもひけるとき、今一人のいわく、/耳(ミゝ)/尾(を)/牙(きば) 00117520M8をきるといふもむつかしゝ、とかく/頚(くび)をきるべしといひし 00117530M9かば、この時狐大におどろき、今はたのミなし、/頚(くび)をきら 00117540M10れなばつゐに/命(いのち)もうせぬべし、しからばこのていにて、く 00117550M11びをきられて/死(しゝ)たるも、またおきにげてころされたるも、 00117560M12いづれにてもともにいのちハたすかりがたし、しからばお 00117570M13なじくは、おきにげて、ころさるべし、もしにげのびてい 00117580M14のちをたすかりなば、わが(六オ)大なる/幸(さいわい)なりと、おもひ 00117590M15さだめておきあがり、/足(あし)をはかりににげゝれば、四人のも 00117600M16のこれを見て、さてハ今までハ、いつわり死たるまねをし 00117610M17て、われらをたぶらかしけるぞ、にくき/次第(したい)の事なり、そ 00117620M18れおつつめてうちころせと、いひもあへずおわへけるが、 00117630M19つひにおつつめとらへつゝ、/頚(くび)をきりあしをもぎ、ほどな 00117640¥P273 00117650¥G 00117660L12くいのちをうしなひけるとなり。さればおのれがせばき/智= 00117670L13恵(ち=ゑ)をもつて、人をあざむきたぶらかさんとする者ハ、つい 00117680L14にわが身のわざわひとなることわり、ミなこの/狐(きつね)に/同(おな)じか 00117690L15るべし。(六ウ)(七オ挿画) 00117700¥N4¥J 00117710¥X/三((ママ))△/斉(せい)の/景公(けいこう)の/夢(ゆめ)を/占(うらな)ふ事△◇晏子春秋◇ 00117720L18もろこし/斉(せい)の/景公(けいこう)といふ/君(きミ)、/病(やミ)給ふ事ありて、すでに十日 00117730L19に/及(およ)べり。ときにある/夜(よ)、/景公(けいこう)、/夢(ゆめ)に二つの/日(ひ)とたゝかふ 00117740M1事ありしが、つゐにかたずしてまけたりと見給ふ。そのあ 00117750M2くる日/臣下(しんか)の/晏子(あんし)きたりてまミへければ、/景公(けいこう)とふての給 00117760M3ハく、われゆふべ二つの日とたゝかひてまけたりといふ/夢(ゆめ) 00117770M4をミたり、はなはだ/不吉(ふきつ)なる/夢(ゆめ)也、さるあいだわれさため 00117780M5て/死(し)するなるべしとの給へは、/晏子(あんし)こたへていわく、これ 00117790M6/夢(ゆめ)をうらなふ/博士(はかせ)をめしてうらなわせ侍るべしとて、ゆめ 00117800M7を(七ウ)うらなふものをめしよばれけるに、夢をうらなふ 00117810M8ものいそぎ/来(きた)りて、なにのためにかめしよばれけるやとい 00117820M9へば、/晏子(あんし)しか+の/次第(しだい)なりと/語(かたり)ければ、/夢(ゆめ)をうらなふ 00117830M10もの大におどろき、これハ/書(しよ)のうへをつぶさにかんがへて、 00117840M11うらなひ侍るべしといへば、/晏子(あんし)/聞(きい)て、なんぢ/書(しよ)をかんか 00117850M12ふる事なかれ、/景公(けいこう)のやまひハかならずいゆべし、それ/病(やまい) 00117860M13ハ/陰(ゐん)なり、日ハ/陽(やう)なり、いま/景公(けいこう)/身(ミ)やまひありて、/二(ふたつ)の日 00117870M14とたゝかふてかたずと/夢(ゆめ)見給ふ、しかるときは、/一陰(いちゐん)のや 00117880M15まひが/二陽(にやう)の日にまけたるなり、やまひのまけたるハやま 00117890M16ひ(八オ)のいゆべききざしなり、これをもつて見る時ハ、 00117900M17/景公(けいこう)のやまひハすミやかにいゆべし、なんぢこのことわり 00117910M18をもつて景公へ申上よといひおしへければ、夢をうらなふ 00117920M19もの、一&のこらず/晏子(あんし)がことばのごとく、景公へ申あげ 00117930¥P274 00117940L1ければ、/其後(そののち)三日ありて、景公のやまひ大にいゑたり。景 00117950L2公よろこび、夢をうらなふものにあつく/奉禄(ほうろく)をつかわされ 00117960L3ければ、夢をうらなふものこれを/辞退(じたい)しうけずしていわく、 00117970L4/今度(こんど)の夢をうらなひ侍るハわが/功(こう)にてハ侍らず、晏子われ 00117980L5におしへて申上させたり、しからば/是(これ)晏子が/功(こう)なり、しか 00117990L6るを(八ウ)いづくんぞわが功として、奉禄をうけんやとい 00118000L7ふ。/景公(けいこう)/晏子(あんし)をめして、この/奉禄(ほうろく)をたまわりければ、晏子 00118010L8がいわく、かの夢をうらなふ/者(もの)、わがいひおしへたる/言葉(ことば) 00118020L9をもちて、/君(きミ)へ申上たるゆへ、つゐに君のやまひもすミや 00118030L10かにいゑたり、もしもちいずして/邪説(じやせつ)をもつてうらなひ侍 00118040L11らハその/不吉(ふきつ)のきざしあらわれて、君のやまひつゐにいゆ 00118050L12べからず、しかればわが/説(せつ)をもちひたるところハ、これ夢 00118060L13をうらなふものゝ/功(こう)なり、かつ又此うらなひをわが身をも 00118070L14つて申あげなば、君これを/信仰(しんごう)し給ふまじ、かれハ夢をう 00118080L15ら(九オ)なふものなりといふ/名(な)あるをもつて、君/是(これ)を/信(しん)し 00118090L16給ふ、かるがゆへにその/信(しん)するところの心にひかされて、 00118100L17やまひついにすミやかにいゑたり、これまた夢をうらなふ 00118110L18ものゝ/功(こう)にして、わがあたわざる/所(ところ)なり、しからばいづく 00118120L19んぞ、功なくして/奉禄(ほうろく)をうる事をせんやとて、ついにうけ 00118130M1ず。景公せんかたなくて、両人に/奉禄(ほうろく)を給ひけると也。こ 00118140M2ゝにおひて晏子は人の功をうばわず、夢をうらなふものハ 00118150M3人の/能(のふ)をおゝわず。まことに世の人ミな、これをもつての 00118160M4りとして、ミづから/功(こう)にほこるべからず。(九ウ) 00118170¥N5¥J 00118180¥X/四((ママ))△/斉(せい)の/閔王(ひんわう)の/后(きさき)/頚(くひ)に/宿瘤(こぶ)有事△◇古列女伝◇ 00118190M7もろこし/斉(せい)の/閔王(ひんわう)の/后(きさき)ハ、くびに大なる/宿瘤(こぶ)ありけるゆへ、 00118200M8その/名(な)を/宿瘤(しゆくりう)といへり。この/宿瘤(しゆくりう)ハもといやしき/民(たミ)のむす 00118210M9めなり。そのかミ/閔王(ひんわう)いでゝ/東郭(とうくわく)にあそび給ひければ、/一= 00118220M10国(いつ=こく)の/民百姓(たミひやくしやう)、/閔王(ひんわう)の御出あるとて、ミな+出てのぞミ 00118230M11見けるに、/宿瘤(しゆくりう)ハ/蚕(かいこ)にかわんがために、/桑(くわ)の/葉(は)をとりてゐ 00118240M12たりけるが、さらに/王(わう)をかへりミ見る事なし。/閔王(ひんわう)あやし 00118250M13ミてとふての給ハく、われ今日いでゝあそべハ、一国の/民= 00118260M14百姓(たミ=ひやくしやう)ミなこと※くわれをのぞミ見る、しかるになんぢ 00118270M15ひとり、(十ノ十五オ)(十ノ十五ウ挿画)一たびもわれを見る事 00118280M16なきは、いかなる事ぞやとたづね給へば、/宿瘤(しゆくりう)こたへてい 00118290M17わく、われは/父母(ふほ)のおしへをうけて、/桑(くわ)をとり侍る也、い 00118300M18まだ君の出てあそび給ふを見よといふおしへをうけず、か 00118310M19るがゆへにわれ君を見る事なしといへり。/閔王(ひんわう)大におどろ 00118320¥P275 00118330¥G 00118340L12き、これ/徳(とく)ある女なり、されどもおしき事ハ、/宿瘤(こぶ)ありてそ 00118350L13のかたち見にくしとの給へば、/宿瘤(しゆくりう)がいわく、わが/職(しよく)ハ/父= 00118360L14母(ふ=ほ)のおしへをうけて/二心(ふたこゝろ)なく、ひたすら/桑(くわ)をとるをもつて 00118370L15つとめとす、なんぞなりかたちの/美悪(びあく)にかゝハりて、/宿瘤(こぶ) 00118380L16ある事をうれゑんやといへハ、/閔王(ひんわう)(十六オ)いよ+おど 00118390L17ろきよろこびて、これ/賢女(けんぢよ)なり、/后(きさき)にせんとて/車(くるま)にのせて 00118400L18つれてかへらんとし給へば、/宿瘤(しゆくりう)がいわく、それ/父母(ふぼ)につ 00118410L19げしらせずして/嫁(△か△△|よめいり)する、これを/奔女(△ほんぢよ△|わしるおんな)といふ、われ父母あり、 00118420M1しかるをつげしらせずして君の/后(きさき)とならバ、これ/奔女(ほんぢよ)な 00118430M2り、君いづくんぞかやうの/奔女(ほんぢよ)を/后(きさき)とし給んやといへば、/閔= 00118440M3王(ひん=わう)大にはぢてかへし給ふ。そのゝち/閔王(ひんわう)/黄金(わうごん)/百鎰(ひやくいつ)@二十四両を|一鎰といふ@ 00118450M4をおくりて/彼宿瘤(かのしゆくりう)をめとり給へば、/宿瘤(しゆくりう)が父母大におどろ 00118460M5き、すなわち/衣服(いふく)をきかへ/沐浴(もくよく)してゆくべしといへは、宿 00118470M6瘤がいわく、われはじめ此なりにて(十六ウ)君にまミへた 00118480M7り、しかるをいままた/衣服(いふく)をかゑてゆかば、君ミしり給ふ 00118490M8まじといひて、つゐにはじめ/桑(くわ)をとりしときのまゝにてゆ 00118500M9き、/閔王(ひんわう)にまミへけると也。そのゝちハ/宮中(きうちう)もこの/宿瘤(しゆくりう)が 00118510M10ためにおさまり、その/化(くわ)、/隣国(りんごく)までおよびて、一国ゆたか 00118520M11におさまりけるとなり。 00118530¥N6¥J 00118540¥X/五((ママ))△日なたを君に/献(けん)ずる事△◇列子◇ 00118550M14もろこし/宋(さう)の/国(くに)に/田夫(でんぶ)あり。/家(いゑ)まづしくて、つねにうす 00118560M15き/衣(ころも)を/着(き)て、わづかに/冬(ふゆ)をおくりけるが、やう+/春(はる)にも 00118570M16なれば、/田(た)にゆきて/東作(とうさく)をしけるに、/日(ひ)せなかにあたりて、 00118580M17あたゝか(十七オ)なりければ、/田夫(てんふ)これをよろこび、さて 00118590M18+日といふものハ、てうほうなるものかな、かくのごと 00118600M19くわか身をあたゝかにするものハ、またと世にあるまじと 00118610¥P276 00118620L1思ひて、ついに/綿布(わたぬの)のあたゝかなる/衣服(いふく)ある事をしらず。 00118630L2/田夫(でんぶ)わが/妻(つま)をまねきてかたりけるハ、世の中に日にあたり 00118640L3たるほどあたたかなるものハあるまじ、しかるを/世間(せけん)の人 00118650L4これをしらずして、ミだりにさむさをいとふこそおかしけ 00118660L5れ、いざこのてうほうなるあたゝかさを、/国(くに)の君へ申あげ 00118670L6て、おもき御おんしやうにあづからんとおもふなりとて、 00118680L7大によろこび(十七ウ)いさミけるとなり。まことに/井(ゐ)のう 00118690L8ちの/蛙(かわつ)は/大海(たいかい)をしらずといへる/語(ご)もまたかくのことし。お 00118700L9ろかなる人わたくしの/智(ち)をもつて、/公(おふやけ)のうへをうかゝひは 00118710L10かること、天にはしたてゝのぼるべからざるがごとし。人 00118720L11それつゝしまざらんや。 00118730¥N7¥J 00118740¥X七△/餅(もち)をくわんとて/無言(むごん)をする事 00118750L14むかし/浜田(はまだ)といふ/所(ところ)に、きわめておろかなる/夫婦(ふうふ)の者あり 00118760L15しが、その/家(いゑ)のとなりより、/餅(もち)を三つおくりければ、/夫婦(ふうふ) 00118770L16おの+一つづゝくひて、のこるひとつをわれくわん人く 00118780L17わんとて、夫婦たがひにこれをあらそひけるとき、/夫(おつと)のい 00118790L18わく、(十八オ)しからば今より/無言(むごん)をはじめて、/無言(むごん)をや 00118800L19ぶりたるものにくわせずして、つゐにものをいわざるもの 00118810M1にくわせんといへば、此/義(ぎ)しかるべしとて、つゐに無言を 00118820M2こそはじめける。たがひにこの/餅(もち)をくわんといゑる心、ひ 00118830M3たすらにありしかば、/夫婦(ふうふ)ともに二三日になれども、さら 00118840M4に物をいふ事なし。そのおりしも、ある夜ぬす人/入来(いりきた)りて、 00118850M5/家中(いゑちう)のもの/残(のこ)らずとりてゆきぬれとも、これを見ながらも、 00118860M6たがひに/餅(もち)をくわんといへる心、ひたすらなりければ、さ 00118870M7らにこゑをあげてよばわる事をもせず、たがひにもだして 00118880M8(十八ウ)(十九オ挿画)/居(ゐ)たりけるが、/妻(つま)おもひけるハ、この 00118890¥G 00118900¥P277 00118910L1わづかの/餅(もち)をくわんために、おゝくの/家財(かざい)をとられては、 00118920L2/小利(せうり)/大損(だいそん)なるべしとて、こゑをあげて、ぬす人こそ来れと 00118930L3てよばわりければ、/夫(おつと)よろこび、さればこそ、/無言(むごん)をやぶ 00118940L4られたるわとて、やがてもちをとりてくひ、ぬす人のとこ 00118950L5ろへハ、さらにこゝろもつけざりしとなり。まことにすこ 00118960L6しの/利(り)を/得(え)んがために、つゐには/命(いのち)をほろぼすほどの大/損(そん) 00118970L7をするものあり。ミなこの/夫婦(ふうふ)に同じかるべし。 00118980¥N8¥J 00118990¥X/九((ママ))△/原穀(けんこく)/祖父(おゝぢ)を山へすつる事△◇太平御覧◇ 00119000L10もろこし/原穀(けんこく)といふ人あり。いづれの所の人(十九ウ)とい 00119010L11ふ事をしらず。/年(とし)いとけなふして、きわめて/才智(さいち)人にすぐ 00119020L12れてたぐひなかりしが、/祖父(おゝち)としよりよわひかたむき給ひ 00119030L13て、ばんじたちゐもふじゆふなりしかば、/父母(ふぼ)これをいと 00119040L14ひにくミて、/祖父(おゝぢ)を山へすてんといひしかば、/原穀(けんこく)いまだ 00119050L15とし十五なりしが、なミだをながしいろ+といさめけれ 00119060L16ども、さらにいさめ/用(もち)ひずして、/手輿(たごし)をつくりて/祖父(おゝぢ)をの 00119070L17せ、/原穀(げんこく)とともにこれをになひて、はる※とをきおく山 00119080L18の、すこしこだかきところにぞすてける。さて父子ともに 00119090L19かへりけるに、/原穀(げんこく)かの/手輿(たごし)をすてずして、はる+(二 00119100M1十オ)とをき道をもちてかへりければ、父これを見て、な 00119110M2んぢいかんぞその/輿(こし)をすてゝハかへらざりけるぞといへば、 00119120M3/原穀(けんこく)がいわく、されば又わが父のとしおひよわひかたむき 00119130M4給ふころに、山へすて申ときのために、もちてかへり侍る 00119140M5なりといひしかば、/父(ちゝ)大にはぢおそれて、ついに/祖父(おゝぢ)を/輿(こし) 00119150M6にのせかへり、そのゝちハひたすら/孝行(かうこう)をつくしけるとな 00119160M7り。/原穀(けんこく)ハまた、たぐひなき孝行なる/孫(まご)なりとて、/名(な)をバ 00119170M8その世にあげゝるとなり。さればおやあしき事あるを、子 00119180M9これをいさむるといへども、さらにいさめを用ひ給ハざる 00119190M10ときハ、子(二十ウ)いかんともすべきやうなし。しかるに 00119200M11この/原穀(げんこく)ハ、父の/悪(あく)にしたがひながら、父の/悪(あく)をいさめけ 00119210M12る事、かつうは父にさかわぬといひ、かつ又父を/孝道(かうとう)に引 00119220M13いるゝといひ、/一(ひと)かたならぬ/孝孫(こうそん)の/為(ため)し成べし。 00119230¥N9¥J 00119240¥X/八((ママ))△/介子推(がいしすい)/綿上山(めんじやうさん)にて/焼死(やけし)する事△◇左伝并史記◇ 00119250M16もろこし/晋(しん)の/文公(ぶんこう)といふ人ハ、/晋(しん)の/献公(けんこう)の/本婦人(ほんふしん)の子なり 00119260M17しが、/献公(けんこう)、/驪姫(りき)といふ/妾(おもひもの)をてうあひしられけるに、/驪= 00119270M18姫(り=き)、/本婦人(ほんふじん)の/子(こ)/文公(ぶんこう)をにくむ事いふはかりなし。ついに/献= 00119280M19公(けん=こう)へ/讒言(ざんげん)をして、/文公(ぶんこう)をころさんとしけるを、文公おそれ 00119290¥P278 00119300L1て/他国(たこく)へにげわしられけるに、そのときにともにつきした 00119310L2がひてにげ(廿一オ)たるもの、/狐偃(こゑん)、/趙衰(てうすい)、/顛誥(てんこう)、/魏■、 00119320L3/介子推(かいしすい)、以上五人なりしが、そのうちにても/介子推(かいしすい)ひとり 00119330L4は、いづれの/臣(しん)よりは、とりわけ/忠功(ちうこう)ふかゝりける。/曹(さう)と 00119340L5いふ/所(ところ)にて/文公(ぶんこう)/飢(うへ)て/死(し)せんとし給ふ時、/介子推(かいしすい)わが/股(もゝ)をさ 00119350L6ききりて、文公にまいらせつゝ、やう+/命(いのち)をたすけける。 00119360L7そのゝち/献公(けんこう)死し給ひて、文公ついに/本国(ほんこく)へかゑりて、献 00119370L8公のあとをつぎ給ふ時、かのにげわしられけるときに、つ 00119380L9きしたがひて/忠功(ちうこう)をなしたるものどもを、のこらず/爵(くらゐ)/奉禄(ほうろく) 00119390L10をあたへ給ふに、ひとり/介子推(かいしすい)をわすれて、/爵(くらゐ)/奉禄(ほうろく)をもあ 00119400L11たへ給ハざりければ、介子推こ(廿一ウ)れをうらミて、/綿= 00119410L12上山(めん=しやうざん)といふ山中へ/引(ひき)こもりて、ついにいでゝつかへざりけ 00119420L13る。されども文公ハ、いまだ介子推をおもひ出し給ハざり 00119430L14ければ、介子推につきしたがふもの、/一蛇(いつじや)/独(ひとり)/怨(うらむ)といふ/語(ご) 00119440L15を、/文公(ぶんこう)の/宮門(きうもん)に/書付(かきつけ)ければ、文公これを見て、はじめて 00119450L16介子推がことをおもひ出して、わが/奉禄(ほうろく)をわすれてあたゑ 00119460L17ざりし事を/後悔(こうくわい)して、いそぎ人をつかわして、/奉禄(ほうろく)をあた 00119470L18ふべしとて、めしよばるれども、介子推さらに山を/不出(ずいで)。 00119480L19文公いかにもしてよび出し、/恩賞(おんしやう)をあたへたくおぼしめし 00119490M1けれども、せんかたなし。あるもの申あげけるハ、(廿二オ) 00119500M2とかくに山に火をかけて、やきはらひ侍らば、つゐには/子= 00119510M3推(し=すい)いづべきといへば、文公さらばとて、おゝくの人にいひ 00119520M4つけて、/綿上山(めんじやうさん)に火をかけて、やきはらひ給へども、つゐ 00119530M5に出る事なくて、木をいだきてやけ死てゐけると也。かる 00119540M6がゆへに、この山をなづけて/介山(かいさん)といふなり。/後(のち)の人是を 00119550M7あわれミて、介子推が死たる日にあたりてハ、前後三日が 00119560M8あいだハ、火を/禁(きん)じてたかざるとなり。今におひて、もろ 00119570¥G 00119580¥P279 00119590L1こしには/冬至(とうじ)の後一百五日にあたる日は、介子推が死たる 00119600L2日なりとて、/寒食(かんしよく)といひて火をいむ事あるとなり。(廿二ウ) 00119610L3(廿三オ挿画) 00119620¥N10¥J 00119630¥X/七((ママ))△/剣(けん)を/水中(すいちう)へおとす事△◇呂氏春秋◇ 00119640L6もろこし/楚国(そこく)におろかなる人ありしが、ある時舟にのりけ 00119650L7るに、舟の中よりあやまりて、こしにさしたる/剣(けん)を/水中(すいちう)へ 00119660L8おとしける。此ものやがて/才覚(さいかく)だてをして、かのおとした 00119670L9る/準度(じゆんど)のしるしなりとて、舟に/契(きざ)をつけて、この/準(じゆん)より水 00119680L10中へおとしたるぞや、いかにもして/是(これ)をたづねもとめたき 00119690L11といへり。されども/舟(ふね)ハ/水(ミつ)のながるゝにまかせてゆき、/剣(けん) 00119700L12ハゆかずして、もとのおちたるところにとゞまりてあれば、 00119710L13舟に/契(きざ)をつけたりとて、なにの/益(ゑき)なき事なり。(廿三ウ)し 00119720L14かるに此ことわりをわきまへずして、ミだりに/契(きざ)だにつく 00119730L15ればよきとこゝろへぬる事のおろかさよ。世の人の/万事(はんじ)に 00119740L16はや/合点(がつてん)をして、/前後(ぜんご)のわきまへなきもの、ミなかくのご 00119750L17とし。 00119760¥N11¥J 00119770¥X十一△/桐葉(きりのは)をもつて/弟(おとふと)を/封(ほう)ずる事△◇事文類聚◇ 00119780M1もろこし/成王(せいわう)といふ/君(きミ)、/弟(おとゝ)の/叔虞(しゆくぐ)といふ人と、ともにあそ 00119790M2ひ給ひける時、もろこしには人を一国の君となして、/奉禄(ほうろく) 00119800M3/知行(ちぎやう)をあたふるときは、/珠(たま)をつくりてそのしるしにたまわ 00119810M4る事なり。かるかゆへに/成王(せいわう)、/弟(おとゝ)の/叔虞(しゆくぐ)にむかひたわふれ 00119820M5て、/桐(きり)の/葉(は)をきりて/珠(たま)なりとし、なんぢこれを以て(廿四オ) 00119830M6国の君とし/封(ほうす)ずべしといわれければ、其のち/史佚(しいつ)/奏問(そうもん)しけ 00119840M7るハ、吉日をゑらびて御/弟(おとゝ)の/叔虞(しゆくぐ)を/封(ほう)じ/奉(たてまつ)らむといふ。/成= 00119850M8王(せい=わう)大におどろき給ひて、われ/叔虞(しゆくぐ)とたわふれに/封(ほう)ぜんとい 00119860M9へり、あへてまことにいふにあらずとの給へば、/史佚(しいつ)がい 00119870M10わく、天子はかりにもたわふれの/言葉(ことば)をの給ふべきにあら 00119880M11ずとて、つゐに弟を/封(ほう)じけると也。されば君たるものハ、 00119890M12/位(くらゐ)たつとく、/臣(しん)たるものハ、くらゐいやしといへども、/道= 00119900M13理(どう=り)のしごくしたる所にいたりてハ、いかにくらゐたつとし 00119910M14といへども、あへて/臣(しん)を/屈(くつ)せしむる事あたわず。かつまた 00119920M15(廿四ウ)天子のミならず、一家の/主君(しゆくん)たるものも、かりにも 00119930M16たわふれいつわれば、下上をうたがひて、何事をも/信(しん)する 00119940M17事なく、一家とゝのふる事有べからず。故に/田子方(でんしはう)も/需(うたがい) 00119950M18ハ/事(こと)の/賊(ぞく)なりといへり。/幽王(ゆふわう)の/燧火(すいくわ)をあげて、天下の/諸候(しよこう) 00119960M19あつまらざるも、ミなこれ下をいつわれるためしならずや。 00119970¥P280 00119980¥Q 00119990L1寛文丁未七歳 00120000L2△△桃浪哉生明 00120010L3△△△△洛陽書林山本五兵衛梓行(廿五終オ)