00000010¥P3 00000020¥U噺本大系△第三巻 00000030¥T一休はなし 00000040¥G 00000050¥Y 00000060L16寛文八年刊 00000070L17編者未詳 00000080L18大本四巻 00000090L19武藤禎夫蔵 00000100¥Y一休はなし序 00000110M3此/年比(としごろ)くるす野のかたすミにねまりゐて、/萩(はぎ)の/下枝(したえ)をあつ 00000120M4めてハ、/雨(あま)もる/宿(やど)の/漏(もり)をとめ、/篠(さゝ)の/葉(は)をならべてハ、/嵐(あらし)を 00000130M5ふせぐよすがとなして、一/鉢(はつ)のまふけ、/藜(あかざ)の/羮(あつもの)をすゝりて、 00000140M6うつら+とねふり/暮(くら)しけるが、比しも/秋(あき)のすゑ、/千代(ちよ)を 00000150M7一/夜(よ)の/長&(なが+)しさに、ひとりかもねも/寝(ね)られまじく思ひて、 00000160M8/庵(いほ)ちかき御寺へまいらバやと、としよりこひとはいはねど、 00000170M9/鳩(はと)の/杖(つえ)にすがりて、よろぼひ出て、御寺の大ぐりの/長炉(ながろ)の 00000180M10はたにかまえけれバ、/小沙弥(こしやミ)小/喝食達(がつしきたち)/出合(いてあひ)給ひ、/煎茶(せんじちや)を/給(たま) 00000190M11ハり、むかし/物語(ものがたり)をせよと仰られけれバ、/祖(おほ)(一オ)/父(ぢ)と/祖= 00000200M12母(う=バ)との咄しよりしらぬ我なれバ、かしこまりたりとは申せ 00000210M13共、山へ/洗(せん)だくしに、川へ/柴(しバ)かりにと申ければ、ふるめか 00000220M14しの咄しや、いで此寺の/先師(せんし)一/休和尚(きうおしやう)の/放気咄(おどけはなし)してきかす 00000230M15べしとて、ひた物かたり給ふをきけバ、我も人も/覚(おほえ)たるハ 00000240M16かたことまじハり也。扨もおもしろや有がたやと思ひて、 00000250M17/忘(わす)れてハ大事也と、/葛紙(くづがミ)の/雑帋(ざつし)の/皺(しハ)をのばし、/書(かき)付、帰り 00000260M18てみればえこらへぬ者也。又参りて承り、そろり+と/鼠(ねずミ) 00000270M19の/塩(しほ)なむるがごとく、/聞覚(きゝおぼえ)、かへりては/猫(ねこ)の/爪磨(つめとぐ)がごとく 00000280¥P4 00000290L1に、/書付(かきつけ)、二三/冊(さつ)となして、一休/咄(はなし)と/名(な)付て/秘(ひ)してけるが、 00000300L2/或時(あるとき)又御寺へ参り、おかしき/達(たち)に/問(とい)けるは、扨も一休和尚 00000310L3(一ウ)ハいかなる御僧やらん、犬うつ/童(わらハへ)/牛(うし)つかむ/男(おのこ)までよ 00000320L4く/知(しり)申候といへバ、それ一休和尚ハ、/後小松(ごこまつの)院の二の/宮(ミや)な 00000330L5り、世人の口にある哥にも、/後(のち)の小/松(まつ)の/二葉(ふたば)と/詠(ゑい)ぜられけ 00000340L6る也、/誠(まこと)にいともかしこき人にてまし+けるが、/高(たか)き御 00000350L7/位(くらゐ)をもふミちらし、/大内(たいり)を/跳(おどり)出て、十宗をたゞ一目に/白眼= 00000360L8付(にらミ=つけ)、/達磨宗(だるましう)となり給ひて、九年/面壁(めんへき)をも、/賊(ぬすひと)のあとの/棒(ぼう) 00000370L9ちぎり木と見立て、其身ハあさがら/程(ほど)にも思ハず、うき世 00000380L10をばへうたんよりかるくもてなし、/邪(よこしま)なる/萌(きざし)なく、/竹(たけ)二つ 00000390L11にわりたるがごとくの御/志(こころざし)なりし也、/路人(ろじん)の/口碑(こうひ)にあれバ、 00000400L12舌の/頭(さき)の/隙(ひま)とし侍ると仰られ候し。/扨(さて)ハ/弥(いよ+)/有(あり)がたし、我 00000410L13ら一人して見るのミも/罪(つミ)ふかし、(二オ)/梓(あづさ)に/鏤(ちりバめ)て、/夢(ゆめ)の世 00000420L14わたる人&の、/煩悩(ほんなう)のねふたなぐさミと思ふなりと人に/語(かたり) 00000430L15けれバ、一休の御事ハ/狂雲集(きやううんしう)にくハしくと申もあへず、/狂= 00000440L16雲(きや=ううん)をもとめて見れば、まことに御一代のたハぶれは残らぬ 00000450L17そうなり。され共其/書(しよ)ハ、もろこしのかたくな/文(ふミ)のごとく 00000460L18/書(かき)たれバ、我も人もはぶしハつよけれ共、/読(よミ)くだく事なら 00000470L19ず。/偏(ひとへ)に/胡椒(こしやう)/丸(まる)のミなり。風をひかぬ/養生(ようじやう)ばかりにてハ/詮(せん) 00000480M1なし。よし/同(おな)じ事にても、おぼしき事いはざれハ/腹(はら)ふくる 00000490M2ゝわざなり。たとひ/狂雲集(けううんしう)には/住吉(すミよし)の神なり共、是を人に 00000500M3見せぬもいと口おし。さてかくあらハし侍るなり。(二ウ) 00000510¥P5 00000520¥Y1一休はなし巻之一△目録 00000530L3一△一/休和尚(きうおしやう)いとけなき/時(とき)/旦那(だんな)とたハむれ/問答(もんだう)の事 00000540L4二△同/師(し)の/坊(ばう)につかへて/鯉(こひ)をくひ給ふ事 00000550L5三△一休といふ名の事 00000560L6△△△付四休/居士(こじ)の事 00000570L7四△/蜷川(になかわ)/新右衛門(しんゑもん)/親当(ちかまさ)/初(はしめ)て一休にあふ事 00000580L8△△△付/哥(うた)少& 00000590L9五△一休ならの/薪(たきゞ)にて百/性(しやう)の/訴状(そじやう)を書給ふ事 00000600L10六△同/関(せき)の/地蔵(ぢざう)くやうし給ふ事 00000610L11七△同/閑居(かんきよ)し給ふを人&/不審(ふしん)する事 00000620L12八△同/詩哥(しか)を作りて/蛸(たこ)をくひ給ふ事(三オ) 00000630L13△△△付/吐(と)きやくの事 00000640L14九△一休/魚(うを)をくひて/高札(たかふだ)を立給ふ事(三ウ) 00000650¥T1一休はなし巻之一 00000660¥N1¥J 00000670¥X 00000680M3一△/一休和尚(いつきうをしやう)ハ、いとけなき時より、/常(つね)の人にハかはり給 00000690M4ひて、/利根(りこん)/発明(はつめい)なりけるとかや。/師(し)の/坊(ばう)をハ/養叟和尚(やうそうをしやう)と申 00000700M5ける。こびたる/旦那(だんな)ありて、常に来りて、和尚に/参学(さんがく)など 00000710M6し侍りてハ、一/休(きう)の/発明(はつめい)なるを心地よく思ひて、折&ハた 00000720M7はふれをいひて、/問答(もんだう)などしけり。或時かの/檀那(だんな)かわばか 00000730M8まを/着(き)て来りけるを、一休/門外(もんぐハい)にてちらと見、内へはしり 00000740M9入て、へぎに/書(かき)付立られけるは、 00000750M10△此寺の内へかわのたぐひ、かたくきんぜいなり。/若(もし)かわ 00000760M11△の物入る時ハ、其の身にかならずばちあたるべし。 00000770M12とかきて置れける。かの/旦那(だんな)是を見て、/皮(かハ)のたぐひにば 00000780M13(四オ)ちあたるならバ、此お寺の/太皷(たいこ)ハ何とし給ふぞと申 00000790M14ける。一休聞給ひ、されバとよ、/夜昼(よるひる)三度づゝばちあたる 00000800M15間、其方へも/太皷(たいこ)のばちをあて申さん、/皮(かわ)のはかまきられ 00000810M16けるほどにとおどけられけり。其後かの旦那/養叟和尚(やうそうをしやう)を/斎(とき) 00000820M17によぶとて、一休も御/供(とも)にと申、かの/返報(へんほう)せばやとたくミ 00000830M18けるが、入口の門の前に/橋(はし)ある家なりけれバ、橋のつめに、 00000840M19/高札(たかふだ)をかなにて/書(かき)て立てける。 00000850¥P6 00000860L1△此はしをわたる事かたくきんぜいなり 00000870L2と書付ける。/養叟(やうそう)/斎(とき)の時分よしとて、一休をめしつれ、か 00000880L3の人の方へ御出あるに、/橋(はし)の札を御覧じて、此はしわたら 00000890L4でハ内へ/入道(いるみち)なし、一休いかにと有けれバ、一休申さるゝ 00000900L5ハ、いや此は(四ウ)しわたることゝ、かなにて仕たるあい 00000910L6だ、まん中を御渡りあれとて、/真中(まんなか)をうちわたり内へ入給 00000920L7へバ、かの/者(もの)出合、きんぜいの/札(ふだ)を見ながら、いかではし 00000930L8わたり給ふぞと、とがめけれバ、いやわれらハ、はしハわ 00000940L9たらず、/真中(まんなか)を渡りけると仰らるれは、/亭主(ていしゆ)も口をとぢ侍 00000950L10るが、何がなお/小僧(こぞう)に不/審(しん)申さんとて、又いハく、/凡(およそ)/沙= 00000960L11門(しや=もん)のかたちといつは、にんにく二/躰(たい)の衣を/着(き)、ざいしやう 00000970L12さんげのけさをかけてこそ、/僧(そう)とは申すべけれ、いかに小 00000980L13僧なりとて、/俗衣(ぞくゑ)の出立心得がたく候と申せば、一休おさ 00000990L14なけれ共、哥一/首(しゆ)よミて/答(こたへ)られける。 00001000L15△△きてきたぞ/本来(ほんらい)/空(くう)のくろころも 00001010L16△△△袖ながゝらて人こそハしらね(五オ) 00001020L17と侍り給へハ、旦那も養叟も手を打、口をあいてふさぎか 00001030L18ねられけると也。扨御/斎(とき)を出しけるが、今一度不/審(しん)せばや 00001040L19と思ひ、一休にハわざと/魚類(ぎよるい)の/膳(ぜん)をすへけり。めづらしく 00001050¥G 00001060M12やおぼしけむ、ひた物/食(くい)給ふ。時に旦那、人しれぬ衣めし 00001070M13たる御僧の、したゝか/魚(うを)をまいることよとたハふれければ、 00001080M14一休聞き給ひて、口ハかまくらかいだうなれバ、/貴(たつと)きも行、 00001090M15いやしきもすぐとのたまへハ、かゝるものも/通(とを)り候べきか 00001100M16とて、刀をするりとぬきける。一休すこしもさハがす、て 00001110M17きかみかたかととふ。てきなりといふ。しからバ通す事な 00001120M18らず。いやみかたなりといへバ、其まゝけへん+との給 00001130M19ひて、くせ物がとをるとて、只今にハかにせきがすハりた 00001140¥P7 00001150L1るハと(五ウ)(六オ挿画)いひ給へバ、旦那も和尚も此お小 00001160L2僧の口にハかたれまじとて、ことの葉なく/舌(した)の/根(ね)をふるひ 00001170L3てやミぬ。 00001180¥N2¥J 00001190¥X 00001200L5二△/一休和尚(いつきうをしやう)十二三の時、/師(し)の/坊(ほう)につかへて、物よミ手な 00001210L6らひなどしておはせしに、折ふし夜さむの比なれバ、/師(し) 00001220L7の/坊(ほう)、からざけをあつものとして、たゞひとりまいりて、 00001230L8一休へハたうふやうの物まいらせられけるに、一休これを 00001240L9見て、およそ出家ハ、なまぐさき物をくハざるよしうけた 00001250L10まハりしが、和尚はからざけをまいるよ、くるしからずハ 00001260L11われらもたべんと申されける。師の坊おかしくおぼしめし、 00001270L12なんぢらがやうなる/小僧(こぞう)の身として、なまぐさものくふ時 00001280L13ハ、たちまち/罰(ばち)あたるなりと仰られけれバ、一休/眉(まゆ)をひそ 00001290L14めて、しバらくしあんして(六ウ)申さるゝハ、おなじ人間 00001300L15の身として、小僧にのミばちあたらむや、老僧こそなまぐ 00001310L16さ物まいらハ、ばちハあたるべけれとて、あざわらひてお 00001320L17ハしけれバ、/師(し)の/坊(ばう)のたまふハ、いとけなき身として、心 00001330L18たけたるいひやうかな、されバよ/老(らう)僧とて御ゆるしハなけ 00001340L19れ共、われらハゐんだうをして/食(くふ)也といひ給へバ、其/引導(いんだう) 00001350M1いかなることやらん、少うけ給りたしと申されけれハ、さ 00001360M2て+わごぜハこしやくなる人や、いで、いんだうしてき 00001370M3かせんとて、一/盃(ぱい)もりたるからざけをさゝげて、/箸(はし)おつと 00001380M4りのべてのたまハく、 00001390M5△なんぢ/元来(ぐハんらい)/枯木(かれき)のごとし。たすけんとすれ共/生(いき)て/二度(ふたゝび)/水= 00001400M6△中(すい=ちう)にあそぶことあたハず。/愚僧(ぐそう)に/服(ぶく)せられて/仏果(ふつくハ)を得よ。 00001410M7△(七オ)/喝(かつ)。 00001420M8との給ひてひたものまいりける。一休つく※と/聞(きゝ)て、又 00001430M9/眉(まゆ)をひそめてしあんして、夜のあくるを待かねて、いそぎ 00001440M10/魚(うを)の/棚(たな)へはしりゆきて、したゝかなる/鯉(こい)を一/献(こん)/買(かい)とり来り 00001450M11て、/味曽汁(ミそしる)をこしらへ、かのこゐをひんにぎり、ながたな 00001460M12をおつとりのべて、ほそくびちうにうちおとさんとせられ 00001470M13ける所へ、/師(し)の坊立出御覧じて、是ハ沙汰のかぎりなり、 00001480M14昨夜もしめしをしへしごとくに、いとけなき小僧の身とし 00001490M15て、からざけだにも/無用(むよう)といひしに、其いきてはたらく物 00001500M16をがいしてくらハん事、もつたいなしといましめ給ふ。一 00001510M17休すこしもさハがす、われらもいんだうおハしますとて、 00001520M18/去(さら)ぬていにておハしける。/師(し)の坊もあきれはて大に/笑(わら)ひ 00001530M19(七ウ)て、それハいかなるいんだうぞや、もししからバゆ 00001540¥P8 00001550L1るし申べし、しからずハのがすまじとて、かの御家の一/棒(ぼう) 00001560L2をこハきにかいかふで、ゐんだういかにとせめられける。 00001570L3一休すこしもさハかず、いで/引導(いんだう)仕らんとて、左にハ/鯉(こい)の 00001580L4ほそくびひんにぎり、右にハながたなをしやにかまへてい 00001590L5はく、 00001600L6△なんぢ/元来(ぐハんらい)なま木のごとし。たすけんとすれバにげむと 00001610L7△す。/生(いき)て水中にあそバんよりハ、しかじ/愚僧(ぐそう)が/糞(くそ)となれ。 00001620L8△/喝(かつ)。 00001630L9とて、/鯉(こい)のほそくび、水もたまらず打おとし、ぐつ+と 00001640L10かい/煮(に)て、したゝか/食(くい)て、そらうそ吹ておハせしかバ、/師(し) 00001650L11の坊これを聞、さてもよき/引導(いんだう)ぶりて、/手(て)がハりなる心得 00001660L12かな、(八オ)昨夜のわれらがいんたうにてハ、からざけか/仏= 00001670L13果(ぶつ=くハ)をハえずしてくそとなるべし、なんぢが鯉ハくそとハな 00001680L14らで/仏果(ぶつくハ)を得たり、さて+/活機(くわつき)なる人や、/禅僧(ぜんぞう)なるそや 00001690L15小僧殿とて、彼一/棒(ぼう)をからりとすて、/舌(した)をふるひてのたま 00001700L16ひけるは、三年になる/鼠(ねずミ)を、/今年(ことし)生れの/猫子(ねここ)がとるとハか 00001710L17ゝることをや、とかくになんぢハ、たゞものにハあらじと 00001720L18/感(かん)じ給ひけるが、あんのごとくほどなく天下/老和尚(らうをしやう)とミづ 00001730L19からいへる程の/活祖師(くわつそし)にて、一休とて名を千/歳(ざい)に伝へ給ひ 00001740¥G 00001750M12て、田をかえすぢい、のりをするあま迄、物語のすゑまで 00001760M13もそれそと人にいひもてはやされ給ふこと、誠にたゞ人に 00001770M14てハましまさざるなり。(八ウ)(九オ挿画) 00001780¥N3¥J 00001790¥X 00001800M16三△一休和尚御/諱(いミな)は/宗純(そうじゆん)と申せしが、/別号(べつがう)を一休と名付給 00001810M17ひけるに、或人来て、一休と名付給ふ御心ハ、いかなる御 00001820M18心得にて侍るやとたづねけれバ、よくこそたづねめされけ 00001830M19る、去ながら一休にふかき心もあらざれハ、かたりて聞す 00001840¥P9 00001850L1べきやうもなし、聞給へとてよめりけるハ、 00001860L2△△/有漏路(うろぢ)より/無漏路(むろぢ)へかへる/一休(ひとやすミ) 00001870L3△△△雨ふらバふれ風ふかバふけ 00001880L4とあそバしけれバ、彼もの聞て、さてもおもしろさふなる 00001890L5御哥や、/有漏(うろ)/無漏(むろ)とハいかなる事にておハしけるぞとたづ 00001900L6ねけれハ、御そばなる/払子(ほつす)をとりて/彼者(かのもの)の/顔(かほ)をなで給へバ、 00001910L7/目顔(めかほ)しかめて/俯(うつぶし)ける。一休払子を引、/合点(がつてん)かと(九ウ)のた 00001920L8まへバ、いや何事かなさるゝとおどろきたるバかりにて、 00001930L9何共心得ずと申。その何とも心得ぬ処が/無漏路(むろぢ)なり、はつ 00001940L10とおどろく所が/有漏路(うろぢ)なりと仰られけれバ、/彼俗(かのぞく)/肝(きも)にめい 00001950L11じて、有がたや/即時(そくじ)に大事をさづかりけると、よろこびて、 00001960L12さて御哥の/一休(ひとやすミ)とハ心得申候、雨ふらバふれ風ふかばふけ 00001970L13とハ、いかなる御心にて侍りけるぞ。さればよ、わづかの 00001980L14道のことなれバ、雨も風もいとふ事侍らずと仰られけれバ、 00001990L15扨も有がたき御哥や、おそれながらたゞ今さづかり申せし 00002000L16心を、一/首(しゆ)申て見んと申されけれバ、それハきどくなるこ 00002010L17ゝろざしやとのたまへバ、/彼俗(かのそく)よめり、 00002020L18△△/有漏路(うろぢ)/無漏路(むろじ)一やすミぞときくときは(十オ) 00002030L19△△△十万億土すんさきとしる 00002040M1と仕りけれハ、一休きこしめし、/善哉(ぜんざい)+とて/尻餅(しりもち)ついて 00002050M2よろこびたまひて、かゝるためしもろこしにも侍りし事也、 00002060M3四/休居士(きうこじ)といふ人有けるに、/山谷(さんこく)といふ人その四休の心を 00002070M4とひけれバ、四休わらひて/答(こたへ)ていはく 00002080M5△麁茶淡飯飽即休、補破遮寒暖即休、 00002090M6△三平二満過即休、不貪不妬老即休、 00002100M7と申されけれバ、/山谷(さんこく)がいはく、これ/安楽(あんらく)の法也、それよ 00002110M8く/少(すこしき)時ハ不/伐(はつ)の家也、/足(たれ)ることをしるハ/極楽(ごくらく)の国なりと 00002120M9/感(かん)じて、したしくかたりて、四休の心を/詩(し)三/首(しゆ)につゝりて 00002130M10うたひたのしミしとかや。其一/首(しゆ)に、 00002140M11△富貴何時潤髑髏△守銭奴与抱官囚(十ウ) 00002150M12△大医診得人間病△安楽延年万事休 00002160M13と侍りしによく似り。一休の心をとひて、今其方の哥よむ 00002170M14事よと/感(かん)じ給へバ、彼人申すやう、一休の二/字(じ)をたづねて 00002180M15四休の四/字(じ)をしる事、まことにもとめずして/得(うる)を/幸(さいハひ)と/注(ちう)せ 00002190M16しとかや。これ幸なりとよろこびけるが、かの四休の内、 00002200M17三/平(へい)/二満(じまん)とハいかなることやらんと申けれバ、其方の内方 00002210M18よとのたまへハ、/合点(がつてん)まいらず、見にくきといふ心かと云。 00002220M19いやさにハあらず、おとごぜのことなりとのたまへバ、扨 00002230¥P10 00002240L1もめづらしきことかな、誠に三平ハ両の/頬(ほう)と/鼻(はな)、二満ハ/額(ひたい) 00002250L2と/頤(おとがい)よ、おもしろき/故事(こじ)や、去ながら女どもにきかせバ、 00002260L3一休様をつめり申すべしとわらひて帰りける。(十一オ) 00002270¥N4¥J 00002280¥X 00002290L5四△一休の時代に/蜷川(になかハ)新右衛門尉/親当(ちかまさ)といふ人有けるが、 00002300L6/禅法(ぜんほう)に身をやつし、心をなやましけると也。一休の/発明(はつめい)な 00002310L7る事を聞及びて、/導師(たうし)とたのミ奉るべしとて、或時一休の 00002320L8/庵室(あんじつ)へたづね行て、/柴(しば)の/扉(とほそ)をほと+と/扣(たゝ)く。折節一休出 00002330L9たまひて、いかなる人ぞと問給へハ、いやくるしうも候ハ 00002340L10ず、/仏法修行(ふつほうしゆぎやう)の大/俗(ぞく)参りて候と申されけれバ、一休はや/問(とい) 00002350L11たまハく、 00002360L12なんぢハいづくの人ぞ。△△/答(こたへて)云、/和尚(をしやう)と/同国(どうこく)。 00002370L13国にハ何事も侍らぬか。△△鴉(からす)はかう+、/雀(すゝめ)ハちう+。 00002380L14こゝハいづくとかしるや。△/紫(むらさき)に/染(そめ)たる/野辺(のべ)。 00002390L15いかんとしてか染けるや。△/尾花(おばな)、/槿(あさがほ)、/紅菊(かうきく)、/紫蘭(しらん)。 00002400L16ちりての後いかん。△△△△/宮城野(ミやぎの)が/原(はら)。(十一ウ) 00002410L17原にハ何事か侍る。△△△△水ハ/流(なかれ)て沈&(ちん+)、風ハ吹て/颯&(さつ+)。 00002420L18よきかなやこれへ+と/請(しやう)じ、/茶(ちや)をまいれとて一/首(しゆ)よめる、 00002430L19△△なにをがなまいらせたくハおもへども 00002440M1△△△/達磨宗(だるましう)にハ一/物(もつ)もなし△△△△△△△△一△休 00002450M2返哥、 00002460M3△△一物もなきをたまハるこゝろこそ 00002470M4△△△/本来(ほんらい)/空(くう)の/妙味(めうミ)なりけり△△△△△△△△親△当 00002480M5と申されけれバ、一休のたまひけるハ、聞及びしより/蜷(にな)川 00002490M6殿ハ/道心者(だうしんしや)なりとて/感(かん)ぜられける。扨四方山の物語過て/親= 00002500M7尚(ちか=ひさ(ママ))申されけるハ、少承り度事有、/邪(じや)正一/如(によ)と云心得ハいか 00002510M8なるが能侍るや。一休聞給ひて、わごぜハ哥ずきなれバ哥に 00002520M9て(十二オ)一&答へ侍らん、聞給へとて、/邪(じや)正一/如(によ)の心を、 00002530M10△△生れてハ死ぬるなりけりをしなべて 00002540M11△△△しやかもだるまもねこもしやくしも 00002550M12又とふ、/空即是色(くうそくぜしき)とハいかん。こたへていはく、 00002560M13△△しら露のおのがすがたはそのまゝに 00002570M14△△△紅葉にをけばくれなゐの玉 00002580M15又とふ、/色即是空(しきそくぜくう)の心ハ、前の哥心をかへして見べきや。 00002590M16/答(こたへ)てよめり、 00002600M17△△花を見よ色香もともにちりはてゝ 00002610M18△△△心なくても春ハきにけり 00002620M19又とふ、仏法とハいかなる心得をよしとし侍るや。答てよ 00002630¥P11 00002640L1めり、(十二ウ) 00002650L2△△仏法ハなべのさかやき石のひげ 00002660L3△△△絵にかく竹のともずれのこゑ 00002670L4又とふ、/世法(せほう)ハいかに。こたへてよめり、 00002680L5△△よの中ハくふてはこしてねておきて 00002690L6△△△さてそのゝちハ死ぬるばかりよ 00002700L7と、一&とふことばの下に哥よミてこたへられけれバ、/親= 00002710L8当(ちか=まさ)舌(した)をふるハかして、聞及しよりたけき/活僧(くわつそう)かなと頼もし 00002720L9く思ひけれバ、いよ+道をしめしたまハれ、いつまでか 00002730L10たるとも浜のまさごの数&なれバ、先御いとま申すとて、 00002740L11しおりがきの/辺(ほとり)まで帰りけるが、手をはたとうち立帰りて、 00002750L12一大事のあんじんわすれたり、仏にハいかゞしてなりける 00002760L13ぞと申(十三オ)されけれバ、一休きやつハくせものかなと 00002770L14おぼしめし、それハいとやすき事なりとて、ふんぞりかへ 00002780L15りて目口をひろげて、かくして仏にハなるよとのたまへハ、 00002790L16/親当(ちかまさ)おどろき、/活大禅師(くわつたいぜんじ)かなと/心空(しんぐう)/及第(きうだい)してこそかへりけ 00002800L17る。 00002810¥N5¥J 00002820¥X 00002830L19五△一休和尚ならのたき木と云処に、折&ハおハしましけ 00002840M1る。其辺の村&ハ/近衛(このゑ)殿の御/領地(りやうち)にて有けるが、左近尉と 00002850M2云/家老(からう)、百/姓(しやう)をひたものせぶり取けるに、百姓共是をなげ 00002860M3きて、いかゞせんとひしめきあへり。其中の老人申けるハ、 00002870M4いかに百姓のあたりきつしとても、/武家(ぶけ)とハはるかちがふ 00002880M5べし、御/公家(くげ)の長袖なれバ、/訴(うつたへ)申て見んとて、/訴状(そじやう)をたく 00002890M6ミける所へ、折節一休/鉢(はち)をひらきに出給ふ。百/姓(しやう)共一休を 00002900M7/請(しやう)じ、此/訴状(そじやう)御/書(かき)下(十三ウ)されよとたのミけれハ、やす 00002910M8き事也、いかなることぞやとのたまへバ、しか+のこと 00002920M9にて侍ると申けれバ、長&しき状までもいるべからず、是 00002930M10をもちて/近衛(このゑ)殿へ/捧(さゝげ)よとて、哥よミてやらせたまふ。 00002940M11△△よの中ハ月にむらくもはなに風 00002950M12△△△近衛とのにハ左近なりけり 00002960M13とよみてこれをつかハされけれバ、村&の百/姓(しやう)、かゝる事 00002970M14にてハ、/免(めん)おほく給ハること思ひもよらずと申けれバ、一 00002980M15休ひらさら此哥のミ/捧(さゝげ)よと仰られて帰り給へバ、おの+ 00002990M16せんぎしけれ共、本より/土(つち)のつきたる/男(おとこ)共なれバ、一筆よ 00003000M17ミかく事ならざれバ、ぜひなく、かの哥をさゝげけれバ、 00003010M18/近衛(このゑ)殿御覧じて、是(十四オ)(十四ウ挿画)ハいかなる人のし 00003020M19けると仰出されける。百姓申けるハ、たき木の一休の御作 00003030¥P12 00003040¥G 00003050L12にて候と申せバ、その/放者(おどけもの)ならでハ、かゝる事いハん人ハ 00003060L13今の世に覚えずと/興(けう)じ給ひて、おほくの/免(めん)を下されけると 00003070L14なり。 00003080¥N6¥J 00003090¥X 00003100L16六△/関(せき)の/地蔵(ぢぞう)をはじめて/作(つく)りし時、所の人&よりあひ、此 00003110L17/開眼(かいげん)をバ、いかなる御/僧(そう)にかたのむべしと、皆&口&に 00003120L18/評定(ひやうでう)しけるに、其中に一人申けるハ、我等今度京都一/見(けん)仕 00003130L19りし時、京/童(わらんべ)のいひしハ、今の代にハ紫野の一休にまさる 00003140M1僧ハあらじと申ける、いざやこれほどの地蔵をこしらへ、よ 00003150M2のつねの僧に頼まむより、一休和尚を/請(しやう)ずべしといひけれ 00003160M3バ、おの+然るべしとて、はや都のむらさき野へといそ 00003170M4ぎける。折節一休寺に御座有(十五オ)ける。/関(せき)の/者(もの)共御礼 00003180M5申よしをくハしく申上る。一休のたまひけるハ、/幸(さいハひ)/関東(くハんとう)し 00003190M6ゆぎやうに出るなれバ、たちより/開眼(かいげん)してまいらせむと仰 00003200M7下さるゝ。里人よろこびはしりかへり、一休こそ御下なれと 00003210M8て、上を下へともてかへし、なけれど道の/塵(ちり)をとり、あた 00003220M9まを/棒(ぼう)につき、/跟(きびす)をぼんのくぼにつけて、御むかひに出け 00003230M10る。一休たゞ一人すご+と来り給ふ。皆&よろこび、先 00003240M11御礼を申す。一休かの/地蔵(ぢざう)ハとのたまへバ、さしもけつか 00003250M12うなる地蔵をつくり、/供物(くもつ)をそなへ、/香花(かうはな)をたむけ、しや 00003260M13うごんおこたらずぞ見えける。扨/開眼(かいげん)して給れとて、一休 00003270M14を/請(しやう)じて、いかなる事か有やらんと、われも+とのびあ 00003280M15がり、おしあひつまづきなどして見る処に、一休つか+ 00003290M16とはしりより、彼/地蔵(ぢざう)のあたまから、/小(せう)(十五ウ)便をしか 00003300M17け給ふこと、/廬山(ろさん)のたきのごとし。種&の供物もうきにな 00003310M18り、ながるゝバかりしかけて、/開眼(かいげん)ハこれ迄なりとて、あ 00003320M19づまをさしていそがれける。所の人&これをみて、あら/勿= 00003330¥P13 00003340L1躰(もつ=たい)なの御事や、きやうがるやせ法師の物ぐるひをつれ来り、 00003350L2かゝる大/事(じ)の/菩薩(ぼさつ)に/小便(せうべん)しかけさせることの/腹立(はらたち)さよ、彼 00003360L3法師め、のがすなと、我も+とはがみして/追(をつ)かけけるが、 00003370L4/尼入道(あまにうだう)ハよりあひて、扨ももつたいなや、一/休坊主(きうぼうず)めがし 00003380L5けることハとのゝしりて、/清水(せいすい)を/掬(すくい)来りて、彼地蔵にそゝ 00003390L6ぎかけて、小便をあらひおとして、又/供物(くもつ)をしなをし、ゆ 00003400L7るし給へと/礼(らい)をなしけるが、彼/追(をつ)かけける/若者(わかもの)も道にたふ 00003410L8れ、彼/小便(せうべん)あらひしもの共もわなゝきふるひ、/狂乱(けうらん)して、 00003420¥G 00003430M1口ばしりけるハ、天下の/老和尚(らうをしやう)一休の/開眼(かいげん)なされし(十六 00003440M2オ)(十六ウ挿画)を、なにとてあらひ/落(をと)しけるぞとのゝしり 00003450M3て、みな+物に/狂(くる)ひしかバ、/妻子眷属(さいしけんぞく)おどろきて、やれ 00003460M4彼一休和尚を追かけ、いま一度/開眼(かいけん)をたのミ奉れと、我も 00003470M5+とおつかけけるに、/桑名(くハな)の渡舟に/乗(のり)給ふ所にてぞおひ 00003480M6つきけるが、/彼段(かのだん)くハしく申けれバ、それハ不/便(びん)のことな 00003490M7れ共、是よりかへるに及ずとて、/布下帯(ぬのしたをび)の八百年バかりに 00003500M8もなるらんとおぼしきを取出し、これにて地蔵の/首(くび)をくゝ 00003510M9りてをけ、/忽(たちまち)にやまひハ/治(ぢ)すべしとのたまへバ、彼者共/勿= 00003520M10躰(もつ=たい)なしとハ思へ共、前のきどくにおそれて、おづ+御請 00003530M11申ていそぎ/関(せき)に帰りけれバ、一休ハ関東へいそぎ給ふ。さ 00003540M12て里人かへり、仰のごとくおづ+地蔵の/首(くび)に、かのふる 00003550M13/下帯(したをひ)をまとふとひとしく、みな+ものゝ気のきしかバ、 00003560M14扨も/名(めい)(十七オ)/誉(よ)の御事なりとて、其下帯を、えはづさざ 00003570M15りけるに、一休御上りの時、又立より給ひて、かの/首(くび)の下 00003580M16帯をはづして、かねの/緒(を)にかけて都へ上られける。それよ 00003590M17りして、今の世の仏神のかねのをを、下帯のたけにくらべ、 00003600M18六尺に定めけると也。ふしぎ成事共也。 00003610¥P14 00003620¥N7¥J 00003630¥X 00003640L1七△一休一大事/因縁(いんえん)の御/工夫(くふう)なされし時、/諸旦那(しよだんな)あるひハ 00003650L2御/伴達衆(ともだちしゆ)、毎日/訪(とふらひ)きまして、さまたげとなりけれバ、か 00003660L3しかましくおぼし召て、御心地あしゝとて、一ゑん人&に 00003670L4出あひ給ハず。みな人心もとなくて、おり+に御見廻申 00003680L5侍れバ、御/長髪(ちやうはつ)/■&(ばう※)とし給ひて何とも色見えず。御なや 00003690L6ミとのミ仰られける。旦那をさきとし御/知音衆(ちいんしゆ)もより合、 00003700L7是ハきづかハしき事なりとて、時の名医を入かへ+かけ 00003710L8まいらせて、御いたハりハいかにと聞バ、/医(くす)(十七ウ)/師(し)申 00003720L9されけるハ、御/脈(ミやく)ハいかにもよし、ふしんなる御/煩(わづらい)と、ど 00003730L10れ+も申けれバ、ある時/旦那(だんな)/知音衆(ちいんしう)、よりあつまり、此 00003740L11御なやミの/様子(やうす)ハ、如何様/湿熱(しつねつ)のなやミとハ見えず、/若(わか)き 00003750L12御僧のことなれバ、もしや/恋(こひ)などをバなされて、かく思ひ 00003760L13わづらひ給ふこともやあらむと、一人申けれバ、をの+、 00003770L14此義尤しかるべし、とやせんかくやあらんと口&に申され 00003780L15けるが、いや+人おほくしりたりとおぼしめさバ、あか 00003790L16し給ハぬこともや侍らん、ひそかに、よき中の知音のミ二 00003800L17三人見廻て、そとうかゞひ侍らバ、誰と名ざし有べし、し 00003810L18からバ誰人にてもあれ、此もの共がかゝりなバ、などか御 00003820L19/本意(ほんい)をとげられぬ事ハ有べからずと、たのもしくいひあハ 00003830M1せて、ひそかに三人参りたり。一休出あひ、四方山の物語 00003840M2すミて、一人申出しけるハ、此間(十八オ)さま+の御/療= 00003850M3治(れう=じ)にても、御ミやくハ常にかハらずと医師おの+申也、 00003860M4/平生(へいぜい)にハちがひて、何とて心ふかくわたらせたまふぞや、 00003870M5定て/恋(こい)をなさるゝと見つけ侍るハ、ひが目か、有のまゝに 00003880M6仰られよ、かなへて参らせむと、打つけて申ける。一休 00003890M7いかにもうれしげなる御かほバせにて、此上ハなにをかさ 00003900M8のミかくすべし、此/日来(ひごろ)/恋(こい)わびて、扨かくのごとくやつれ 00003910M9はてゝ候也、よくこそ仰出されたり、何とや覧、われらに 00003920M10ハにあハぬ事にて侍れ共、おの+ハ日来のよしみなれバ、 00003930M11ひとへにさたなくかなへてたべ、去ながらいとによる物な 00003940M12らなくに、心みたれてはづかしや、それぞと名をバ面上に 00003950M13てのべがたし、一筆かきて参らすべし、門外へ出給ひて、 00003960M14おの+ひらき御覧じて、いそぎかなへて給ハゞ、我等が 00003970M15(十八ウ)命ハながらへて、おの+にハ其替りに/能(よき)道をし 00003980M16へ仕らんとて、おくの間へずんど入、一筆さらりと書て引 00003990M17むすび、彼三人に渡し給ふ。三人よろこび、御心やすく思 00004000M18しめせとて罷出、門外へはしり出て、扨こそ申さぬ事かと 00004010M19て、いそぎ其名のしらまほしくて、彼ふミひらきて見れハ、 00004020¥P15 00004030L1御哥あり。 00004040L2△△/本来(ほんらい)の/面目(めんもく)/坊(ぼう)がたちすがた 00004050L3△△△一目見しより恋とこそなれ 00004060L4△△我のミかしやかも/達磨(だるま)もあらかんも 00004070L5△△△此君ゆへに身をやつしけり 00004080L6とかゝれたり。三人のもの共案に/相違(さうい)して、よこ手をはた 00004090L7と打、ひごろの御心もしらぬ身が、あらぬわざを思ひける 00004100L8こそお(十九オ)かしけれ、今にはじめぬ御どうけに、たば 00004110L9かられけるこそおろかなれ、まことに有がたき御僧かな、 00004120L10/画(ゑ)にうつし木にきざめるハおほけれど、わたもちの/尺迦如= 00004130L11来(しやかによ=らい)なりと、おがまぬ人ハなかりけり。 00004140¥N8¥J 00004150¥X 00004160L13八△一休和尚ハ/蛸(たこ)が御/好物(こうぶつ)にて、/或(ある)日のつれ※にたこを 00004170L14/買(かい)につかハれけるに、折ふし/棚(たな)にきれて、彼つかひの者こ 00004180L15ゝかしこと尋て、おそくかへりけれハ、待わび給ひて一/首(しゆ) 00004190L16侍りける。 00004200L17△△此たびハいそぐといふにながそての 00004210L18△△△たこの入道みちのおそさよ 00004220L19とあそバしける処へ、/蛸(たこ)四五盃/買(かい)もて来りけれバ、一休よ 00004230M1ろこび給ひて、此たこむざ+と/食(くふ)もむざんのこと也、/引= 00004240M2導(いん=だう)の(十九ウ)(二十オ挿画)/頌(じゆ)なくてハとて、一首、 00004250M3△千手観音蛸手多△刺懸柚酢拝如何 00004260M4△佐州一味天然別△他禁戒任老尺迦 00004270M5やれ、/引導(いんだう)ハすミけるぞ、/火葬(くハさう)にすべきか/土葬(どそう)にせんか、 00004280M6いや+すひさうにせよとて、手とりあしとり、手に+ 00004290M7もくよくさせて、/柚醋(ゆず)をかけてひたぐひに/食(くい)て、さる/檀方(だんはう) 00004300M8へ行て/酒(さけ)などまいりけるが、余りにおほく/蛸(たこ)をまいりけれ 00004310¥G 00004320¥P16 00004330L1バ、/吐却(ときやく)なされけるに皆たこ也。/旦那(だんな)衆是を見ておどろき、 00004340L2かへりて申けるハ、一休和尚ハ仏のやうに思ひしに、/蛸(たこ)を 00004350L3まいりけるか、なまぐさ坊や、是ハ+とあざけりわらひ 00004360L4けれバ、一休すこしもさハかず、いやとよ、われらハたこ 00004370L5をたべね共、口より出れバせん方(二十ウ)なし、さりとて 00004380L6ハくハぬと、まつくすミになりてあらがひ給へバ、口より 00004390L7/吐(はき)出したるものを、くハぬとあらがひ給ふかや、いよ+ 00004400L8きこえぬ/御坊(ごはう)やと、おどりあがりてわらひけれバ、いで 00004410L9+わごせ達に、くハね共口より出たるしやうこを見せん 00004420L10とて、皆&引つれて百万返に行て、/善導(ぜんだう)/法然(ほうねん)の/画像(ぐハざう)を見せ 00004430L11て、あれ見給へや人&よ、ぜんだうのあミだをくひしこと 00004440L12ハなけれ共、口より三/尊(ぞん)の弥陀仏出たまへバ、善導大師さ 00004450L13へ、くハねど口より出るあみだをせいしがたし、まして/愚= 00004460L14僧(ぐ=そう)、くハね共口よりたこの出ること、さらにせん方なしと 00004470L15仰られけれバ、みな人よこ手を打て、さても/頓作(とんさく)なる御返 00004480L16答やと、口をとぢてかへりける。 00004490¥N9¥J 00004500¥X 00004510L18九△一休和尚ハ/生仏(いきほとけ)にて、魚をまいりて水中へはき出し給 00004520L19へハ、(廿一オ)其魚たちまちいきかへりて、もとのごとく 00004530M1になると、/洛中(らくちう)に此事専なりと、/或(ある)人来りてかたりけれバ、 00004540M2一休おかしくおぼしめし、洛中の/辻&(つじ+)に/高札(たかふだ)をこそあげら 00004550M3れける。其ことばにいはく、 00004560M4△来るいついくかの日、さがり松のほとりむらさき野にお 00004570M5△ゐて、魚を/食(くい)て、其まゝもとの魚にはき出し、水中にお 00004580M6△どらさしむる事也。御/望(のぞミ)のかた+御見物に待奉る。 00004590M7△△△△△△太夫ハ天下/老和尚(らうをしやう)一休大/禅師(ぜんじ) 00004600M8とぞかゝれける。洛中の諸人是を見て、うそかまことか、 00004610M9かくとハ人&いひけれと、まことしからず思ひしに、さて 00004620M10ハうたがふ所なし、正しく御/自筆(じひつ)にて高札を立らるゝ上ハ、 00004630M11しるしなくて(廿一ウ)ハかなふまじ、いざや人&見物して、 00004640M12末代のかたり句にせよやとて、しるもしらぬも、みたも見 00004650M13ぬも、其日の/来(く)るを待かねて門前に市をなし、我見もらさ 00004660M14じと、ころぶまでのびあがりて、/洛中(らくちう)の/貴賎(きせん)くんじゆせり。 00004670M15其刻にもなりしかバ、大たらゐに水を入、なるほど魚を/能(よく) 00004680M16/料理(れうり)て、彼たらゐのほとりに御/膳(ぜん)をぞすへける。一休出た 00004690M17まひて、彼魚をひた/食(ぐい)に/食(くい)たまひて、さてはんぎりにむか 00004700M18いて、/喝&(かつ+)とのたまひて、しバらく目などをふさぎなどし 00004710M19たまへバ、/見物(けんぶつ)のくんじゆ御/顔(かほ)をまもりゐ、/生(いき)たる/魚(うを)をは 00004720¥P17 00004730L1き出し給ふかと、今や+と待居たるに、しハらくありて 00004740L2のたまひけるハ、おの+はる+の御出なる程に、いつ 00004750L3もより一きハ手ぎハにはくべしと種&/思案(しあん)(廿二終オ)をす 00004760L4るに、中+はかれそうにもなし、ぜひにおよバず/糞(くそ)にな 00004770L5りとひりて捨申さむ、はやおの+も御かへりあれとて内 00004780L6へ入給ふ。上下万人きもをつぶし、さてもおどけたる御坊 00004790L7と/興(けう)をさましてかへりけるが、其中に心ある者のいひける 00004800L8ハたゝ今参りたる/魚(うを)ハ、みないきて/淵(ふち)におどる也、有がた 00004810L9き一/言(ごん)かな、まことに正法にきどくなしとこそうけ給りし 00004820L10に、人のあまりいハんとて、ふしぎなることをいひて、一 00004830L11休をほめんがために、かへつてそしるなれバ、其理にしめ 00004840L12し給ふ、有がたし+と/感(かん)じけれバ、みな人是に気がつき 00004850L13て、/合点(がつてん)したも合点せぬも、うなづきあへりて帰りしと也。 00004860¥Y1一休咄巻之一終(廿二終ウ) 00004870¥Y1一休はなし巻之二△目録 00004880M3一△/一休和尚(いつきうおしやう)/難句(なんく)を付給ふ事 00004890M4二△同/土佐守(とさのかミ)が/掛絵(かけゑ)に/讃(さん)をかき給ふ事 00004900M5三△同五百らかんの名をこたへ給ふ事 00004910M6四△同/元三(ぐハんざん)のあしたしやれ/頭(かうべ)を引てとをり給ふ事 00004920M7五△同/大名(だいミやう)に/引導(ゐんだう)をわたす事 00004930M8六△同/宗&(しう+)より/祖師(そし)の/讃(さん)を/頼(たの)む事@黒谷△永観堂|法花△△△△@ 00004940M9七△/山伏(やまぶし)一休ときどくをあらそふ事 00004950M10△△△付/犬(いぬ)のほゆるをいのる事 00004960M11八△/女(おんな)の/死(し)がいをかも川へながす事 00004970M12△△△付/仏果(ぶつくわ)を/得(う)る事(一オ) 00004980M13九△/山姥(やまうバ)のうたひ/作(つく)りてゑいざんに/上(のほ)り給ふ事 00004990M14△△△付/山法師(やまほうし)一休に/掛字(かけじ)をかゝする事 00005000M15十△/霊照女(れいしやうぢよ)の/絵(ゑ)にさんをかき給ふ事 00005010M16十一△かはらけ/売(うり)を/追(おひ)はぎし給ふ事 00005020M17△△△△付/布施(ふせ)をとりてゐんだうをわたす事 00005030M18十二△/酒(さけ)にゑひふして/狂哥(きやうか)をよミ給ふ事 00005040M19△△△△付/唐僧(たうそう)に/答話(たうわ)の事 00005050¥P18 00005060L1/十二((ママ))△/蜷川(になかわ)/新(しん)右衛門/話則(わそく)をゆるさるゝ事(一ウ) 00005070¥T1一休はなし巻之二 00005080¥N1¥J 00005090¥X 00005100M3一△白河の辺にすまゐしける/桑門(よすてひと)に、/名誉(めいよ)なるかる口の人 00005110M4侍りけるが、一休のかる口なることを聞及びて、いつぞハ 00005120M5行て/難句(なんく)をしかけて心ミんと、常&心かけられけるが、不 00005130M6/斗(と)思ひあたりたるしゆかう有けれバ、さらば一休へ参り 00005140M7て御知人にもなり、扨一/句(く)してミんと、はる※と白河/辺= 00005150M8土(へん=ど)より紫野へとぞいそがれける。折節一休も/庵(いほり)にまし+ 00005160M9て御しる人になり、とかくふるほどに、内&たくミし一句 00005170M10の句作も出来けれバ、彼僧申されけるハ、うけ給り及びし 00005180M11御かる口を、何にても一/句(く)あそバせかし、何とぞ付て見侍 00005190M12らんと申されければ、一休仰らるゝハ、/客(きやく)/発句(ほつく)に/亭主(ていしゆ)/脇(わき)と 00005200M13こそ申せ、先(二オ)其方あそばせとありしかバ、内&たく 00005210M14ミをきしことなれバ、さらバ申て見んとて、なん句をこそ 00005220M15ハ出されけるが、此所ハ何と申す。むらさき野と仰られけ 00005230M16れバ、 00005240M17△△/紫野(むらさきの)/丹波(たんはに)/近(ちかし) 00005250M18とせられけれバ、いまだ/息(いき)もひき入ぬに、はやつけられけ 00005260M19るが、そなたハいづくの人ぞ。白河の者也と申されけれバ、 00005270¥P19 00005280L1△△/白河(しらかハ)/黒谷(くろだにの)/隣(となり) 00005290L2とあそバしけれバ、彼僧/肝(きも)をつぶし、さしもむつかしき/章= 00005300L3句(しやう=く)なり、一句の内に二つの色字、二つの所の名、いかなる 00005310L4へうたんの川ながれなるかる口も、少ハしぶりしぶりし給 00005320L5ふべしと思ひしに、/貝(かい)とるあまならで、/息(いき)もつぎあへず付 00005330L6給ふ、かゝる/名(めい)(二ウ)/対(つい)ある上ハ、はちや、こハしとて空 00005340L7うそふひて、/尻(しり)をからけてにげられけると也。 00005350¥N2¥J 00005360¥X 00005370L9二△或人/画書(ゑかき)の/土佐守(とさのかミ)に、内&/掛画(かけゑ)を一/幅(ふく)たのミけれバ、 00005380L10終にかきてつかハ/ず((ママ))。彼人心せきて/直(ぢき)に土佐が宿へゆきて 00005390L11申されけれハ、折ふし/太鼓(たいこ)うち殿にハあらねど、ひるねを 00005400L12してこそ居けれ。かの仁常&したしくかたる中なり。又内 00005410L13&頼ミをきし事なれハ、引つりおこしかゝされける。土佐 00005420L14眠るにたえたり。たとひ一夜ねずとなり共、晩に書てま 00005430L15いらせんとておきず。しかれ共又晩といハゞ、/明日(あす)か川の 00005440L16/淵瀬(ふちせ)と心かハりもやせん世中なり、ひらにといふ。是非 00005450L17なく筆をとり、くる+とまハしてはけおつとり、さつ 00005460L18とかいてこれ+とてふせりける。(三オ)望ミ/足(たり)ぬと其/画(ゑ) 00005470L19を取てかへり、ひねくりまハしてミれ共、何ともさらに/躰(たい) 00005480M1なく、水を書て其中に一筆くる+としたるもの有。さら 00005490M2に見わけられず、余にがつてんゆかざれハ、土佐方へも 00005500M3たせつかひ、なになると/問(とへ)とも、我らもしらずと云。かゝ 00005510M4る画を持てなにかせん、引やぶらんと思へ共、三国一出来 00005520M5たり、とやせむかくやあらましと思ひけるが、いや+一 00005530M6休和尚に/賛(さん)をこひて掛物とせんずるぞと、いそぎ大徳寺へ 00005540M7はしり行、一休に申上けるハ、此/画(ゑ)ハ土佐守にかゝせしが、 00005550M8さらに此水の中のものしれず、いかゞ御覧あると申けれバ、 00005560¥G 00005570¥P20 00005580L1されハ何共見えね共、/賛(さん)のぞミならバ、してとらせんと仰 00005590L2られけれバ、かたじけなしとて賛をかふ。一休其/画(ゑ)に/賛(さん)し 00005600L3給ふハ、(三ウ)(四オ挿画) 00005610L4△水中に物あり。その一物をとへハ、かきし/画工(ぐハこう)もしらず。 00005620L5△持主もしらず。/賛(さん)する我ハ猶しらず。 00005630L6とあそバしけれバ、見る人聞人、さてもまつすぐなる御心 00005640L7ばせや、むこならて三国一の/掛(かけ)物なるべしといひしが、い 00005650L8まにおゐてそのかけ物、たゞうとの手にハあらずとかや。 00005660¥N3¥J 00005670¥X 00005680L10三△/或(ある)寺に五百羅かんを作りて、/堂供養(だうくやう)しけれバ、/貴賎(きせん)/群= 00005690L11集(くん=じゆ)のけんぶつ有けり。法事やミて後、其寺の僧羅かんの 00005700L12前に/香花(かうけ)などとりてゐけるに、こびたる/世俗(せぞく)二三人らか 00005710L13んを見物し、みな+人されども、此もの共つく※と見 00005720L14/居(を)りて、扨かの僧に問けるハ、此五百らかんに一&名こそ 00005730L15おハすらん、御坊ハ定めて御存知あらん、うけ給りたしと申 00005740L16けれバ、此僧三(四ウ)尊の外ハ一人も名をしらざりけれバ、 00005750L17何共物ハいはずして方丈へにげ入ける。折節一休その寺に 00005760L18/居(い)給ひて、何事なると問給へハ、しか+と申さるゝ。一 00005770L19休のたまひけるハ、いらざる/俗(ぞく)のとがめことや、かくて/芸(げい) 00005780M1にもならざること、たれかハ覚え侍らん、われもしらね共、 00005790M2いで+云てきかすべしとて、羅/漢堂(かんだう)へすゝみ出て、こな 00005800M3たへ物申さん、らかん達の名の御のぞミかと仰られけれハ、 00005810M4おそれながらうけ給りたしと申ける。さらバ一&とひ給へ。 00005820M5先真中なるハしやかむに、左なるハかしやう、右なるハあ 00005830M6なん、さて次ハと/問(とへ)バ、南無さたんど。其次ハととへバ、 00005840M7すぎやとや。其次ハととへバ、おらこちと、一&しり給ハ 00005850M8ねば、れんげじゆにて答給へハ、五百らかんのことハおき、 00005860M9百貫/羅漢(らかん)をとへども(五オ)なにかはつまり給ハんや。かの 00005870M10/俗(ぞく)こと+くとひて、扨もよき御覚かなと申けれバ、さも 00005880M11なく候、いにしへハ一/巻(くわん)ばかりハ中に覚て候へどもと仰ら 00005890M12れけれバ、/笑(わら)ひてかへりけると也。されバ時にとつて/頓作(とんさく) 00005900M13なる御心入と、人みな/感(かん)じけると也。/問(とふ)て用にたゝず、覚 00005910M14ても用にたゝぬことをバ、いはざるにまさるめでたし、よ 00005920M15しなきことをすこびて/問(とい)あやつられける。すへて羅かんの 00005930M16ミにもあるべからず。 00005940¥N4¥J 00005950¥X 00005960M18四△元三ハ/歳(とし)のはじめ、月のはじめ、日のはじめとて、一 00005970M19天四/海(かい)の人&の、かしこきも/愚(おろか)なるも、/愁(うれい)あるも愁なき 00005980¥P21 00005990L1も、/貴(たつとき)もいやしきも、いハひかざることかハる事なしとミ 00006000L2ゆ。/屠蘇(とそ)/白散(ひやくさん)にハどぶろこなり共/鬚(ひげ)につけ、おかゞミすハ 00006010L3るとて/尻餅(しりもち)なり共つき(五ウ)て、それ+にいはひませる 00006020L4ありさまハ、まことにきのふにかはりたるにハあらね共、 00006030L5空のけしきものどやかに/霞(かすミ)わたり、/大路(おほち)のさま、松立わた 00006040L6し、家にハながき代のためしといふしめなハを引まハし、 00006050L7昨日の夜半過るまで、人の門たゝきて、何事にかあらん、 00006060L8こと+しく/足(あし)を空にまどふが、たゝ一夜あけぬれバ、ひ 00006070L9きかへ心もゆる+と、又とも/晦日(つごもり)の来るべき心もなくて、 00006080L10/野辺(のべ)の小松に/千代万世(ちよよろづよ)をいはひそめ、いつ/死(し)ぬべきものと 00006090L11ハなしに、万のことをいミおそれ、/朝(あした)の露に/名利(ミやうり)をむさぼ 00006100L12り、夕の/陽(ひ)に/子孫(しそん)を/愛(あい)し、/蟻(あり)が/磨(ちやうす)をめぐるがことく、おな 00006110L13しことをくるり+と、五百八十年七まがりといハひて、 00006120L14世を秋風の心ハ露ちりほどもなき人心を、一休おかしくお 00006130L15ぼしめし、誠におろかなるかな、/槿(あさかほ)(六オ)の/■(ひかげ)まつ間をも 00006140L16さかり久しき花とながめ、かげろふの/青(せい)天に/羽(は)をふるひて、 00006150L17たのしむ間もなき世の中に、くそにはくぬる正月ことばや、 00006160L18たゞ時の間の/煙(けふり)ともなりなむと、打見るより思ハるゝ。い 00006170L19で物見せん人&よと、はかはらへゆきてしやれかうべをひ 00006180M1ろひ来り、竹のさきにつらぬきて、比ハ正月元日の/早天(さうてん)に、 00006190M2/洛中(らくちう)の家&の門の口へ、/如皷(によこ)+と彼しやれかうべをさし 00006200M3出し、御/用心(ようじん)+とてありき給ふ。皆人いまハしくて門さ 00006210M4しこめて居けるより、今に正月三日ハ/門戸(もんこ)を/鎖(とざ)しける也。 00006220M5しかれバ一休を見まいらせて、或人のいへるハ、御用心と 00006230M6ハ尤/至極(しごく)なり、いハひてもかざりても、終にハ皆人かくの 00006240M7ごとし、されども世の習にて、かくいハひよろこぶに、そ 00006250M8のむくつけなきしやれかうべを、家&へ出さるゝことハ、 00006260¥G 00006270¥P22 00006280L1御ち(六ウ)(七オ挿画)がいならずやと申けれバ、さればよ、 00006290L2われもいはひて此しやれかうべをおの+に見する也、め 00006300L3でたしといふこといかゞ心得けるぞや、むかし/天照(あまてる)おほん 00006310L4がミ、/岩戸(いハと)をひらき給ひしより、ことおこるといへ共、此 00006320L5しやれかうべよりほかにめでたきものハなしとて/読(よめ)る、 00006330L6△△にくげなき此のしやれかうべあなかしこ 00006340L7△△△/目出度(めでたく)かしくこれよりハなし 00006350L8と侍り給ひて、是見よや人&/目出(めで)たるあなのミ残りしを 00006360L9バ、めでたしといふなるぞ、皆人ごとにかくとハしるらめ 00006370L10ど、きのふも過し心ならひにけふをくらしつ、あすか川の 00006380L11/淵(ふち)せ常ならぬ世とハ目に見ぬからに、風の/音(をと)にもおどろか 00006390L12ぬ人&に/用心(ようじん)せよとおもふ也、たゝ人ハ是にならねバ、目 00006400L13出度事ハなにもなしとのたまへ(七ウ)バ、諸人これを聞て、 00006410L14さてもかしこきひじりとて、おがまぬ人はなかりけり。 00006420¥N5¥J 00006430¥X 00006440L16五△西の国の大名身まかりけるに、今ハの時に申されける 00006450L17ハ、我/死(し)して後、しゆ※の/仏事(ぶつじ)をもつとむべからず、む 00006460L18らさき野の一/休禅師(きうぜんじ)を/請(しやう)じて/引導(いんだう)を頼ミ申せ、是より外 00006470L19にのぞミなしとて/死(し)しける。人&なげきて、御/遺言(ゆいごん)なれバ 00006480M1とて、いそぎ都へ/使者(ししや)をたて、一休を請じける。一休折節 00006490M2ありあひ給ひて、やすきことなりとて、かの/使(つかひ)と打つれて 00006500M3かけり下り給ふ。/葬礼(そうれい)の/日限(にちげん)きハまりしかバ、音に聞えし 00006510M4/紫(むらさき)野の一休/和尚(をしやう)こそ、此国のなにがしに御/引導(いんだう)のためと 00006520M5て、御/下向(げかう)ありしとこそいふたれ、国&嶋&よりきくほどの 00006530M6人、/足(あし)を空にまどふて、/貴賎(きせん)(八オ)くんじゆし、一休の御引 00006540M7導をちやうもんせむとぞひしめきける。/葬礼(そうれい)の/儀式(ぎしき)、天に 00006550M8ハ花をふらし、地にハ/錦(にしき)を敷、ことばにものべかたく、けつ 00006560M9かうを/尽(つく)し、其日になれバ/数(す)万の見物、かの一休の/導師(だうし)を 00006570M10ぞ/聞(きく)べけれと、おしあひ、へしあひしけると也。さて玉の 00006580M11こしをかきすへけれバ、一休立出給ひて/龕(がん)の前に一/黙(もく)し給 00006590M12ふ。諸人いまや+と/耳(ミゝ)をそばだて居るに、一/言(ごん)をもいひ給 00006600M13ハず。天を見て口をひらき、地を見て口をふさぎて、さつ 00006610M14とひきこみ給へバ、彼大名のミだいきん達をはじめ、一門 00006620M15/家来(けらい)の人&、是ハ如何なる御ことやらむ、せめてハ一/句(く)を 00006630M16しめし給ハれ/ど((ママ))、御衣の袖にすがりつく。諸人の見物も/興(けう) 00006640M17をさましけれバ、一/首(しゆ)の哥をよミて、都をさして上り給ふ。 00006650M18人+/是非(ぜひ)なく、その御(八ウ)哥を見れば、 00006660M19△△我はたゝ後世のをしへをしらぬなり 00006670¥P23 00006680L1△△△あうんの二字のあるにまかせて 00006690L2と侍り給へハ、皆人これを聞て、あとも、うんともいはれ 00006700L3ざる御僧かなと、/黙(もく)して/感(かん)じあへりしと也。 00006710¥N6¥J 00006720¥X 00006730L5六△一/休和尚(きうをしやう)ハ天下の/活僧(くハつそう)なりしとて、/諸宗(しよしう)もをしなへて、 00006740L6たつとびけるなれバ、いづれの上人長老もあがめ給ハず 00006750L7といふ事なし。ある時一休/黒谷(くろだに)へ御まいり有しに、/寺中(じちう) 00006760L8の人&一休をミ奉り申けるハ、今の/代(よ)に/活仏(いきほとけ)と、人こと 00006770L9にいへるハ此/禅師(ぜんじ)なり、よき折からなれバ、いざや当寺に 00006780L10侍る/善導(ぜんだう)/法然(ほうねん)の/画像(ぐハざう)に/讃(さん)をたのミ申、かの念仏/無間(むけん)とてあ 00006790L11ざける/日蓮宗(にちれんしう)に見(九オ)せて、/禅宗(せんしう)の/仏心宗(ふつしんしう)だに、かく此 00006800L12方の/祖師(そし)ハたつとび給ふと/高言(かうげん)にせバや、かるき僧なれば 00006810L13定て/讃(さん)し給ふべしと申けれバ、おの+此儀然るべしと/相= 00006820L14議(あい=ぎ)して、やがて一休を/方丈(はうでう)へ/請(しやう)じ申。/件(くだん)の/画像(くハざう)を取出し、 00006830L15/賛(さん)をたのミ奉る由申けれバ、あんのごとく、やすき事なり 00006840L16との給ふ。すなハち/硯(すゞり)と/画像(ぐハざう)を御まへに出しけれバ、さら 00006850L17りとひらき一覧あり、筆をつ取給ひ、先/善導(ぜんだう)大師に/讃(さん)して 00006860L18いハく、 00006870L19△末法出現名善導△則是弥陀化身也 00006880M1△濁世末代導悪人△一切衆生易往生 00006890M2/法然(ほうねん)上人には、 00006900M3△伝聞法然活如来△安坐蓮華上品台(九ウ) 00006910M4△尼入道同愚痴輩△一枚起請最奇哉 00006920M5と/即時(そくじ)にあそバしけれバ、扨こそとて、おの+大きによ 00006930M6ろこび侍りて、此/両仏(りやうぶつ)に/浄土宗(じやうどしう)として、かく/讃(さん)をいたさバ、 00006940M7家の事なれハ、てぼめにしたるとて、又/日蓮宗(にちれんしう)があざける 00006950M8べきに、かゝるうれしき事こそなけれと、かの/讃(さん)を/日蓮宗(にちれんしう) 00006960M9に見せて、大きに/威言(いげん)をぞ申ける。其比ハ殊に日蓮宗と浄 00006970M10土宗とハ中あしくて、/犬(いぬ)のいがむかごとくし、/牛(うし)つきまなこ 00006980M11をいからかしければ、日蓮宗かの/讃(さん)を見て大きにはらを立、 00006990M12一休をそねミにくみけるが、其中に一人申けるハ、いや 00007000M13+一休の御心ハ、ものにかざりなくすなほなる御事也、 00007010M14いざや/日蓮(にちれん)大/聖人(しやうにん)の/像(さう)をかゝせ、/讃(さん)を/乞(こい)て見ん、あれ程の 00007020M15/褒美(ほうび)(十オ)ハ有べしと申けれハ、もつともしかるべしとて、 00007030M16いそぎふためきて/画(ゑ)をかゝせ、やがて一休へもちて参り、 00007040M17/賛(さん)をたのむ由申けれバ、もとよりかるき御僧なれバ、やす 00007050M18きことゝのたまひ、/彼画(かのゑ)をひらき御覧じけるが、此/画(ゑ)ハ扨 00007060M19もちいさくかきて、うそ/黄(ぎ)なる衣をきせけるよとわらひ給 00007070¥P24 00007080L1へバ、人&申けるハ、さん候、いかにもけつかうに大きに 00007090L2かゝせたく存候へ共、先日浄土宗法然の/讃(さん)をじまん申候ゆ 00007100L3へ、口おしく候ひて、取ものも取あへず、先ちくりけに、 00007110L4かゝせて参り候、いそぎ/讃(さん)してたべと申せハ、心得候とて、 00007120L5さきの法然の/讃(さん)を所&なをして 00007130L6△伝聞日蓮活如来△香座則是妙法台 00007140L7△尼入道同愚痴輩△一遍題目殊勝哉(十ウ) 00007150L8となされ、其おくに 00007160L9△△ぼうず+小ぼうず、まめの/粉(こ)にぬりぼうず 00007170L10とぞあそバしけるとかや。其比又やうくハん/堂(だう)の/住寺(ぢうじ)/黒谷(くろだに) 00007180L11の/賛(さん)のよしを聞て、よき寺のかうかつなりと浦山敷おぼし 00007190L12めし、かほどかるき御僧なるに、何にがな此方にも/讃(さん)を頼 00007200L13ミ申さんとて、先一山の人&をよびよせ/談合(たんかう)せられけれハ、 00007210L14其中に一人申けるハ、なに+と申までもあるまじ、/先(まづ)/宗(しう) 00007220L15の/祖師(そし)なれバ、/当寺(たうじ)につてハる/半金色(はんこんじき)の/善導(ぜんだう)大師の/画像(くハざウ)に 00007230L16/賛(さん)をたのまれよと申せバ、おの+申やう、げに+是ハ 00007240L17代&当寺の/重物(ぢうもつ)なれバ、是にましたる物ハ有まじ、さらバ 00007250L18其方/使僧(しそう)に/成(なり)給へとて、/彼(かの)半金色の善導大(十一オ)/師(し)の/画= 00007260L19像(くハ=さう)を持せ一休へまいり、彼僧一休に/対面(たいめん)して申けるハ、/黒= 00007270M1谷(くろ=たに)の/讃(さん)のよし承り、あまりに浦山敷候ひて、是まで参りて 00007280M2候、あハれ此方の/善導(ぜんたう)にも讃をあそバしてたべと申けれバ、 00007290M3それこそやすき御用とて、かの/絵(ゑ)をひらき一覧あり。立な 00007300M4がら一筆さら+とかき給ひ、もとのごとくしたゝめ、か 00007310M5の/使僧(しそう)にわたされけれバ、かたじけなしとて/謹(つゝしん)でいたゞき、 00007320M6いそぎやうくハん/堂(だう)にかへり、しか+のよし申けれバ、 00007330N7さてもかるき御僧かな、本望ハとげたり、まづ一/山(さん)をよび 00007340N8よせ、/讃(さん)を/拝見(はいけん)せばやとて、やがて人をまハしけれバ、お 00007350N9の+よろこびはしり参る。さてかの/画像(くハざう)を方丈にかけ、 00007360N10拝見申けれバ、いかにも大文字に哥一/首(しゆ)有。其哥に、(十一ウ) 00007370N11△△くろからんころものすその/黄(き)になるは 00007380N12△△△善導大しはこをたるらむ 00007390N13とあそバしけれハ、みな人どつとわらひ、/興(けう)をさます人も 00007400N14あり、/感(かん)に/堪(たへ)たる人もありしが、今の世まで伝へて、天下 00007410M15に一ふくの名物となりけるとかや。 00007420¥N7¥J 00007430¥X 00007440M17七△一休/堺(さかい)へ御下りの時、/淀(よど)の/河瀬舟(かハせふね)に乗たまひけるに、 00007450M18そのふねの乗あひに山/伏(ぷし)有けるが、御僧ハなにしうぞと 00007460M19/問(とふ)。一休われらハ/禅宗(せんしう)なりと/答(こたへ)られけれバ、禅宗にハわれ 00007470¥P25 00007480L1らがごとき、きどくハあらじといひける。一休申さるゝハ、 00007490L2いかにもきどくおほし、其方にも何にてもきどくあらバ、 00007500L3見せたまへと仰られけれバ、いでわれらが法力にて、此舟 00007510L4のへさき(十二オ)にふどうをいのり出して御目にかけむと、 00007520L5一にこんから二にせいたかをはじめて、もミにもうで祈り 00007530L6けれバ、皆&のりあひのもの共、目と+見あハせおる処 00007540L7に、あんのごとく船のへさきに、たちまちふどうの/像(ざう)くハ 00007550L8えんをはなつてあらハれたり。其時山/臥(ぶし)ぢうめんをつくり 00007560L9て、おの+おがミたまふかと申けれバ、皆人ふしぎの思 00007570L10ひをなしけれ共、一休ハ更にふしぎにもましまさぬふり也。 00007580L11いかに/禅僧(ぜんそう)、かゝるきどくハ如何にし給ハんと、せぐりか 00007590L12けて申けれバ、我らがきどくにハ身より水を出して、あの 00007600L13火えんを/放(はなつ)不/動(どう)をけして見せん、/随分(ずいぶん)祈り給へとて、彼不 00007610L14/動(とう)の/像(ざう)の/火焔(くハゑん)に、/小便(せうべん)をしたゝかしかけ給へバ、火焔ハ其 00007620L15まゝきえて、山/臥(ぶし)の法力つきけれバ、(十二ウ)みな人一休 00007630L16を礼して、/奇異(きい)の思ひをなしける也。扨舟よりあがりて、 00007640L17/陸路(くがぢ)を打つれ行ところに、むかひよりなるほど大なる犬、 00007650L18山河にもひゞくバかりにほえてかゝりければ、山ぶし申や 00007660L19う、いかに御坊、さきの/行(ぎやう)くらべにこそまけたり共、あの 00007670M1おそろしきいぬのいかりをやめて、たゞ今これへよびよす 00007680M2る法力をあらハさんが、御僧ハいかにと申ける。一休これ 00007690M3ハいとやすき事なり、先いのりて見たまへ、若来らずハ我 00007700M4等にまかせたまへとのたまへバ、山伏大いらたかの/赤木(あかき)の 00007710M5/数珠(じゆず)を、さらり+とおしもんで、一いのりこそ祈りける 00007720M6が、一切犬ハほえやまず。手もとへ来るねんもなかりけれ 00007730M7バ、たつさまやよこさまかけて十文字、犬の/喉(のど)とめよあび 00007740M8らうんけんそわか(十三オ)+といへども、いぬハほえや 00007750¥G 00007760¥P26 00007770L1まず。一休おかしくおぼしめし、そこのき給へ、それほど 00007780L2のことにあびらもうんけんも、そわかも入事にてハあらず、 00007790L3あの犬のいかりをやめ、たちまちこゝへ来らせんと、ふと 00007800L4ころよりひるげのやきめし取出し、かの犬に一め見せてこ 00007810L5ろ++とのたまへバ、さしもいかれる犬なれど、やき 00007820L6めし一目見てしより、くん++とて/尾(お)をふりて来りけ 00007830L7れバ、山ぶしも/肝(きも)をけす。みな人さても/各別(かくべつ)なる心得かな 00007840L8と、かんにたへてぞわかれけると也。 00007850¥N8¥J 00007860¥X 00007870L10八△なにがしとかやいへる人のおくがた相/果(はて)られけるに、 00007880L11今はの時のいひをきに、我等此年まで/仏(ぶつ)共/法(ほう)ともしらず 00007890L12して、かくなりはつる也、ことに女ハつみふかきよし、末 00007900L13の世いと心もと(十三ウ)(十四オ挿画)なし、うけ給り及びし 00007910L14むらさき野の一休ハ、今の世の、だるま殿とやらむいふな 00007920L15る間、われが/引導(いんだう)をバたのミ奉りてえさせよと、ねんごろ 00007930L16にいひをきしかば、/妻子(さいし)なく+、一休へ参りて、其由を 00007940L17かくと申上けれバ、そのとしまで/仏(ぶつ)とも法共しらずハ、大 00007950L18かたのことにてハうかミがたし、去ながら我等が一/句(く)をさ 00007960L19づけてすくふべきなり、/水葬(すいそう)にせんあひだ/鴨(かも)川へつれゆけ 00007970M1とて、其まゝ座をたち、打つれて、川のほとりになりしか 00007980M2ば、其死人を出せよとて、一休かの死人の/首(くび)になハをつけ、 00007990M3ひつかたげて川/岸(ぎし)に立てのたまハく、 00008000M4△△河舟をとめてあふせのなミまくら、うき世の夢を見な 00008010M5△△らハしの、おとろかぬ身のはかなさよ(十四ウ) 00008020M6とて川へざぶとなげすてゝ、はやかへり給ひける。妻や子 00008030M7どもおどろきて御気もそゞろなるが、此一句ハ江口をうた 00008040M8ひ給ふなり、かゝる事にてハうかびがたしと、/彼死(かのし)がひを 00008050M9引あげ、ねんごろにおさめて、ある寺の上人にゐんだうた 00008060M10のミけれバ、其/宵(よひ)よりかの/夫(をつと)も子どもも、さん※にわな 00008070M11ゝきふるひて夢見けるハ、一休の御/引導(いんだう)にてうかミしもの 00008080M12を、よしなや上人の引導にてひきもどされて、/中有(ちうう)のたび 00008090M13に/迷(まよ)ふよ、又一休をたのミてわれをすくハせ給ハずハ、/妻= 00008100M14子(さい=し)もともに取ころし、手にてをとりて、/三途(さんづ)の川を渡らん 00008110M15と、まざ+と夢まぼろしに見えけれバ、是ハとおどろき一 00008120M16休へまいりて、其よしをしか+と申(十五オ)あげけれバ、 00008130M17我よくいんだうせしに、又こと人をたのミし故なりとて、 00008140M18ふたゝびかへりミたまハねバ、親子のものさま+になげ 00008150M19きしかバ、扨も不便の事やとて、うづミししがひをほり出 00008160¥P27 00008170L1させ、又かも川へかたげゆき、川岸に立て一首、 00008180L2△△大水のさきになかるゝとちがらも 00008190L3△△△身をすてゝこそうかぶせもあれ 00008200L4とて、かはとしがひを川へなげてかへられけバ、其宵親 00008210L5子の夢に、ありがたき御引導にて、いまこそうかびけるぞ 00008220L6とて、白雲にうちのりて、にしのそらに行ければ、みな人 00008230L7ありがたくぞおぼえけると也。 00008240¥N9¥J 00008250¥X 00008260L9九△一休和尚山/婆(うば)の/謡(うたい)を作り給ひし時、ひえい山に中よき 00008270L10人(十五ウ)おハしけれハ、だんかうにのぼりてのたまふ 00008280L11ハ、仏あれハ衆生あり、/衆生(しゆじやう)あれハ山/婆(うバ)もありといたし 00008290L12ける。此つぎいかゞハせんとのたまへハ、彼人もさすがの 00008300L13人にて、さだめて/柳(やなぎ)ハみどりとなされつらんと有けれバ、 00008310L14一休、さてもよく/推(すい)し給ふものかな、/柳(やなぎ)ハみどり花ハくれ 00008320L15なゐの色&、扨人間にあそぶ事と仕候とのたまへハ、さこ 00008330L16そといひて/興(けう)ぜられし。まことに同気あいもとむなるこゝ 00008340L17ろざし、いとはづかしく思ハれける。扨よきつゐでなりと 00008350L18て、/叡山(えいざん)の/堂社(だうしや)を拝ミめぐり給ひしに、山法師ども是を 00008360L19聞て、一休ハかくれなき/能書(のうじよ)なり、何にても/書(かき)てもらハん 00008370M1とて、手に+/硯帋(すゞりかミ)を持来りてたのミしかバ、一休おぼし 00008380M2けるハ、/聖道(しやうたう)のあて/字(じ)とかや、定て/文盲(もんまう)なる/法師(ほうし)どもな(十 00008390M3六オ)らむ、何にがなかきてとらせんと、いかにもよみがた 00008400M4き一句を、さら+と一筆に書ちらして、つかハされけれバ、 00008410M5一山の僧よりあつまり、かゝる/能書(のうじよ)の/名僧(めいそう)此山に来る事ハ、 00008420M6後の世までも/宝物(たから)とも成べき/語(ご)をかゝせをくべしとて、其 00008430M7中の老僧のいへるハ、先よりをの+書てもらいけるハ一 00008440M8字もよめず、又/語(ご)もあまりにみじかくて、此山のたからと 00008450M9ハ成がたし、いかにも大文字を長&と書てたべ、よミがた 00008460M10きハありても/詮(せん)なし、いかにもよミやすき事を頼ミ奉ると、 00008470M11一/山(さん)ともに/望(のそま)れけれバ、一休のたまひけるハ、紙筆ハ候 00008480M12か。中+/古(いにし)へ大師のあそバしける、七八尺の大筆あり、 00008490M13紙ハなにほどもつぎ申すべしと申されけれバ、さらバ/帋(カミ) 00008500M14をつがせ給へ、御望の通、なが+と大/文字(もじ)を(十六ウ)か 00008510M15きて、よくよめるを仕べし、いそぎかみをつがせ給へとあ 00008520M16りしかバ、何程なりと紙ハ御のぞミ次第とて、ひた物長/ぐ((ママ)) 00008530M17つぐ程に、えいざんの/金堂(こんだう)の前より、とづさかもとの/人家(じんか) 00008540M18まで、長&しくもかミをつぎけれバ、さらば筆をそめんと 00008550M19て、/墨(すミ)たつふりとふくませて、へたと紙へかきつけて、一 00008560¥P28 00008570L1さんかけて、不/動坂(どうざか)まで一すぢにひかれて、よめるか法師 00008580L2達とのたまへバ、いやなにともよめずといふ。又すミをつ 00008590L3ぎて、不/動坂(どうさか)より、坂もと迄一すぢにはしりびきに引て、 00008600L4よめるか+とおめき給へバ、一/山(さん)の法師たち/肝(きも)をつぶし、 00008610L5いやなにともよめずといへバ、これハいろはのあさきの 00008620L6くだりにある、しの/字(じ)也、なが+と書てよめやすきハ是 00008630L7なりとのたまへハ、皆人/興(けう)を(十七オ)さまし、さても聞を 00008640L8よびしよりおどけ人かなと、一/度(ど)に/咄(どつ)と/笑(わら)ひて/興(けう)しけると 00008650L9也。今の世までもそのしの/字(じ)、/叡山(えいざん)のたから物となりて有 00008660L10けると也。山法師達も、のぞミし事なれバ、いやといハれ 00008670L11ぬ御/作意(さくい)と、みな/感(かん)じけると也。 00008680¥N10¥J 00008690¥X 00008700L13十△ある人/牧渓(もつけい)和尚の御筆なりし/霊照女(れいせうぢよ)の絵を持けるが、 00008710L14一休和尚の/活機(くハつき)なる事を聞て、/讃(さん)をたのミ申べしとて、や 00008720L15がて一休へ持て参り、しか+のよしたのミ申ければ、そ 00008730L16れこそやすき事なれ、のぞミならバ/讃(さん)して参らせむと筆お 00008740L17つ取給ひ、さら+と一筆かき、かの者に渡されけれバ、 00008750L18有がたしといたゞき、さてもかるき御僧かなとよろこび、 00008760L19内へ帰り、友だちどもをよびよせ、/日来(ひごろ)の/絵(ゑ)に一(十七ウ) 00008770M1休の/讃(さん)なされしと語りけれハ、/各(をの+)拝見申さんと云。やがて 00008780M2/床(とこ)にかけ、皆&拝見しけれバ、かなまじくりに、 00008790M3△/汝(なんぢ)が/親(をや)の/笊(いかき)/作(つく)り△△/馬祖(ばそ)にだまされて 00008800M4△/宝(たから)を/海(うミ)にすつる△△阿/■居士(はうこじ)が/娘(むすめ) 00008810M5とあそバしけれバ、みな人よこ手打、さてもだうけたる御 00008820M6事かな、/■居士(はうこじ)も/霊照女(れいしやうぢよ)も/唐土(もろこし)にての/賢人(けんじん)なりと、みな人 00008830M7いひ伝へしほどに、定てさやうの心をもあそばさるべきか 00008840M8と思ひけるに、/各別(かくべつ)なる御事かな、誠に天下の/活祖師(くわつそし)にて 00008850M9ましますと、みな人/感(かん)にたえけると也。 00008860¥N11¥J 00008870¥X 00008880M11十一△一休和尚ハ/金(こがね)を山に捨、玉を/淵(ふち)になぐべくもあらん 00008890M12御きざしなれバ、もとより一鉢のもうけより兼てたくハ 00008900M13へなか(十八オ)りけるに、はや大/晦日(つこもり)の暮かたになりけ 00008910M14れバ、/一僕(いちぼく)申すやう、明日ハ元三なり、なにをかまいらせ 00008920M15む、八つの/木(き)ハ一/合(がう)もなく、/青(あを)きあかゞねハ一/銭(せん)もなしと 00008930M16なげきけれバ、一休聞給ひて、それハなげくことにハあら 00008940M17ず、いさ出よとのたまひて、一/棒(ぼう)をふりかたげ、山/家(が)/海道(かいだう) 00008950M18へ出給へバ、折ふしかハらけ/売(うり)通りけれバ、のがすまじと 00008960M19おつかけたり。彼者おどろき一/荷(か)のかハらけを捨て、にげ 00008970¥P29 00008980L1けれバ、扨こそとて彼めしつれし/僕(ぼく)にもたせて、これをし 00008990L2ろなし、初春をむかへ給ふが、はからず大名はて給ひける 00009000L3とて、一休を/引導(いんだう)に/請(しやう)じけれバ、いや参るまじとのたまふ。 00009010L4何とて御出なきぞと申けれバ、銭をくれバゆかんとのたま 00009020L5ふ。やすき事なり、何程か(十八ウ)(十九オ挿画)御用なると 00009030L6申せバ、一貫八文ほしゝといへり。やすきことゝ申て奉り 00009040L7けれバ、其銭をもらいて、彼おいはぎしたまひし所へ行て、 00009050L8かハらけ/篭(かご)に銭をくゝりつけて/札(ふだ)を立られけるハ、先月の 00009060¥G 00009070M1大晦日の夜の/土器(かハらけ)の/代(しろ)一貫八文、/但(たゝし)一/枚(まい)に付一/銭(せん)つゝ、/帳(ちやう) 00009080M2けし給へと書つけて、/傍(そば)に一句、 00009090M3△/貧(ひん)のぬすミハ/偸盗戒(ちうたうかい)にハあらず。いかんとなれば恋の哥 00009100M4△も/邪淫戒(じやいんかい)にあらざる/証拠(せうこ)あり。/慈鎮和尚(じちんくハしやう)とて/貴(たつと)き/聖(ひじり)のよ 00009110M5△めるに、 00009120M6△△我恋ハまつをしぐれのそめかねて 00009130M7△△△まくずがはらに風さハぐなり 00009140M8△と侍りけんとかや。しかれバとて/邪淫戒(じやいんかい)をやぶりた(十 00009150M9△九ウ)る人とハいひがたし。我も/貧(ひん)のぬすミなれバ、偸 00009160M10△盗戒をやぶりたるとハえいふまじき也。 00009170M11と書れけるとかや。さて引導に出給ひていはく、 00009180M12△人ハ六道銭とて六文出す。汝は引導銭とて一貫八文。さ 00009190M13△つしんかいちじう。さてハ汝は人に一貫二文まされり。 00009200M14△十方に道あり。/行(ゆき)たい方へつつとゆけ。/成仏(じやうぶつ)正にうたが 00009210M15△ひなし。是いかんとならバ、/有摩地獄(ありやぢこく(ママ))のさたも銭がする 00009220M16とのたまへバ、みな人おどろきて、扨もおどけ人やと/感(かん)ぜ 00009230M17ぬ人ハなかりけり。 00009240¥N12¥J 00009250¥X 00009260M19十二△或僧一休の/活機(くハつき)なることを聞つたへて、いかほどな 00009270¥P30 00009280L1る/道徳(だうとく)かあるとて、大徳寺へ行て尋けれバ、折ふし一休 00009290L2ハ門前の/酒(さか)(二十オ)屋が方へ行、酒にたべよひ、前後も 00009300L3しらず臥給ふ処へ、小僧たづね来りて、たゞ今/唐僧(たうそう)とかや 00009310L4見えし、大和尚一休ハと/尋(たづ)ね給ふ。はや御/帰寺(きじ)あれと引お 00009320L5こしけれバ、一休御目いまださめず、うか+としておハ 00009330L6せしに、/酒屋(さかや)の/亭(てい)出て、御/酔眼(すいめん)御心よく侍りたるかと申け 00009340L7れバ、扨もよき/気味(きミ)やとて、一/首(しゆ)よミて/亭主(ていしゆ)にとらせられ 00009350L8けるハ、 00009360L9△△こくらくをいつくのほとゝおもひしに 00009370L10△△△杉葉立たる又六か門 00009380L11とあそバしけれバ、/亭(てい)よろこびけるとなり。かゝる所へ小 00009390L12僧又来て、はやおかへりあれ、さきに申せし/和尚(をしやう)の御待か 00009400L13ねと申せバ、こたへす。又打かへし/高鼾(たかいびき)かいてふんぞりかへ 00009410L14(二十ウ)りて/寝(ね)たまひしかバ、小僧かへりて、何ほどおこ 00009420L15してもおきあがり給ハずと申せば、よし+そのねいりて 00009430L16何とも思ひよらぬ時、ひきおこして一/問(もん)かけたらバ、/志(こゝろざし)い 00009440L17よ+しれ侍るべしと、彼/唐僧(たうそう)一休の/臥(ふし)給ふ処へさしあし 00009450L18して行、まくらもとへどうど/座(さ)し、なに共いハず引づりお 00009460L19こして、目もいまだあき給ハぬに、/一越声(いちこつじやう)をあげていはく、 00009470M1△/西来意(せいらいい)の/祖師(そし)の/話(わ)に/俗語(ぞくご)ありや 00009480M2と/問(とい)給へハ、その/息(いき)もつぎあへぬに、一休も大/音(をん)にて、 00009490M3△/汝(なんぢ)が/俗(ぞく)よ 00009500M4とこたへてつきこかしたまへハ、/彼大禅師(かのだいぜんじ)も/舌根(ぜつこん)をふるひ 00009510M5て立れけるが、扨も/活祖師(くわつそし)や、聞しにハ十/倍(ばい)せり、汝が 00009520M6(二十一終オ)俗よとハ即時に出まじき答話なりと、/感気(かんき)きも 00009530M7にめいじてかへり給ひけると也。 00009540¥N13¥J 00009550¥X 00009560M9十三△或時新右衛門/誰(たそ)の/話(わ)を/参(さん)じけるに、一休しめしてい 00009570M10ハく、 00009580M11△しやかみろくハ是、/他(た)の/奴(ぬ)、しバらくいへ 00009590M12△他ハこれ/阿(あ)/誰(たそ) 00009600M13△ととひ給へハ、新右衛門哥をよミてこたへけるハ、 00009610M14△△たそといふことばの下にあらはれて 00009620M15△△△たそこそ誰よたそハたれなれ 00009630M16と侍りけれバ、一休これをかんじて、此一そくにて千七百 00009640M17/則(そく)をゆるし給ふとなり。 00009650¥Y1一休咄巻之二終(二十一終ウ) 00009660¥P31 00009670¥Y1一休はなし巻之三△目録 00009680L3一△/蜷川(になかわ)新右衛門/末期(まつご)に/化生(けしやう)を/射(ゐる)事 00009690L4△△△付一休/導師(だうし)の事 00009700L5二△新右衛門が/女房(にうばう)の事 00009710L6三△一休の/弟子(でし)四十からにゐんだう渡す事 00009720L7四△一休/遊山(ゆさん)の事 00009730L8五△同/口痺(こうひ)のくすりをならひ給ふ事 00009740L9六△かたゝのせんどう/死(し)する事 00009750L10△△△付/引導(いんだう)の事 00009760L11七△/沙門(しやもん)ゑざうを書く一休に見する事 00009770L12八△一休なぞをときて人にたづねあふ事(一オ) 00009780L13△△△付斎旦那難問をかくる事 00009790L14九△/蝸牛(くわぎう)のつのゝ物語の事 00009800L15△△△付/南極(なんきよく)物がたりの事 00009810L16十△一休こつじきとなり/旦那(だんな)をたバかり給ふ事(一ウ) 00009820¥T1一休はなし巻之三 00009830¥N1¥J 00009840¥X 00009850M3一△/蜷川(になかわ)新右衛門/親当(ちかまさ)、其身いミじき/才智(さいち)/発明(はつめい)の/道士(だうし)なが 00009860M4ら、和尚のもとへ立入、/禅法(せんぼう)に/参(さん)しられける。/誠(まこと)に仏心の 00009870M5/妙奥(めうおう)をつたへ、/正法眼蔵(しやうぼうげんさう)をきわむ。/英雄(ゑいゆう)の/士(し)といひつべ 00009880M6し。和尚も/心通(しんつう)あひかなひて、ゆゝしく思し召けるもこと 00009890M7ハりなり。されバ/定業期(でうごうご)/来(きたつ)て/寂滅(じやくめつ)の/室(しつ)にいらんとす。/胎下(たいか) 00009900M8のむかしより、是をまつ事とし久しく、思ひまふけたる道 00009910M9なりとて、/快気(くハいき)のいろぞミえにける。一門はせあつまり、 00009920M10をの+今はのかぎりに、名残をゝしミ、したひなげく事 00009930M11よその見るめもあはれにて、しらぬ袖さへぬらしける。こ 00009940M12とハりとそミへ(二オ)ける。かゝるしうたんの折ふし、/青(せい) 00009950M13&たる西のそらより、/紫雲(しうん)たなひき、/空(くう)中におほひ、/音楽(おんがく) 00009960M14きこへ、/異香(いけう)くんじ花ふり、/妙(たへ)なるかな三/尊(ぞん)廿五ぼさつ、 00009970M15かく+たる/聖(せう)衆を引つれ、まぢかく/来迎(らいかう)し給ふ。ふしぎ 00009980M16なり共中&有がたかりける/瑞相(ずいさう)なり。うたがひもなく新右 00009990M17衛門ハ、西方十/万億土(まんをくど)/極楽世界(ごくらくせかい)に往生せしめて、九/品(ほん)上/刹(せつ) 00010000M18のうてなにいたらん事ハ、たなごゝろをミるがごとしと、 00010010M19おの+かんにたえざるハなかりけり。されバ、/落日(らくしつ)にち 00010020¥P32 00010030L1かき/老士(らうし)、まだ物なれぬ/若輩(じやくはい)のやからは、天にあふぎ地に 00010040L2/伏(ふし)、共にしなんとぞくるひける。道理の/至極(しごく)とぞ聞えし。 00010050L3其中に/嫡子(ちやくし)ハ新右衛門かひざのもとによりそひ、/泪(なミだ)を袖に 00010060L4つゝミながら、いかにあれ御(二ウ)らん候へ、たのもしく 00010070L5思しめされて、/往生(わうしやう)/安全(あんせん)にとげ給へと、ゆびをさしておし 00010080L6へける。其/時(とき)/親当(ちかまさ)ねむれる/眼(まなこ)くハつと見ひらき、我子をは 00010090L7たとにらんて、それ/弓馬(きうば)の/家(いゑ)に生れけるものハ、たとへハ 00010100L8/安養(あんやう)/浄刹(じやうせつ)にいたりて、九/品蓮台(ほんれんだい)に/座(ざ)す共、/弓箭(きうせん)をわするべ 00010110L9きにあらず、/書院(しよゐん)の/床(とこ)に立置たる、/重藤(しげどう)のぬりごめに、矢 00010120L10そへてもち来るべしといふ。聞人おどろかざるはなかりけ 00010130L11り。こはいかにと見る所に、/親当(ちかまさ)/弓勢(ゆんぜい)なん人はりとはしら 00010140L12ね共、さしもつよかるらんと思しきか、やがて引くハへ、 00010150L13引しほり、しばしかためてひやうとはなつ。あやまたず三 00010160L14/躰(たい)の中尊、ひかりをはなちて立給ふ、あミたのむない(三 00010170L15オ)(三ウ・四オ挿画)たを、あなたこなたへゐとをしてけれ 00010180L16バ、こくうにあまねき/紫雲(しうん)のよそほひ、もろ+の/聖衆(しやうしゆ)と 00010190L17おぼしき物、/暫時(ざんじ)にきへてかげもなし。いかなる事ぞとれ 00010200L18うけんすれば、/処(ところ)に久しきふるむじなの、ばけこうを/経(へ)た 00010210L19るにてぞ有ける。/誠(まこと)に/希有(けう)のしだいなり。/終(つい)に一/首(しゆ)の/辞世(じせ) 00010220¥G 00010230¥P33 00010240L1を作りのこされける。 00010250L2△△生れぬる其あかつきに/死(しに)ぬれば 00010260L3△△△けふのゆふべは秋風ぞふく 00010270L4とかやうにつらね、/臨終(りんじう)をとげ給ふ。/奇(き)なるかな、/空寂(くうじやく)の 00010280L5/玄妙(げんめう)を/恵得(ゑとく)して、/邪魔(しやま)のしやうげをはらひ、其身ハ/死門(しもん)に 00010290L6入ながら、/活(くハつ)人のねむりをさまされけ(四ウ)るハ、世人の 00010300L7/珍事(ちんし)とする所なり。其後一休を/導師(だうし)とたのミ奉り、御引導 00010310L8をこひけれバ、一休も、此新右衛門にハ、一かわりかハり 00010320L9て引導すべしと、たくミすましておはせしに、はや新右衛 00010330L10門がしがいをこしにのせて来りけれバ、一休立出給ひて、 00010340L11彼新右衛門が乗たる/龕(がん)をたゝき給へば、死したるものがた 00010350L12からかなるこゑを出して、一首の哥をバ一休にかけゝる社 00010360L13ハふしぎなれ。新右衛門もたゞ人にはあらじと、今の世ま 00010370L14でも人のいひつたへ侍るなり。その哥にいはく、 00010380L15△△ひとり来てひとり帰るも我なるを 00010390L16△△△道をしへんといふぞおかしき(五オ) 00010400L17とたからかにとなへけれバ、其ことばのおはらざるに、返 00010410L18哥をし給ふ社有がたけれ。 00010420L19△△ひとり来てひとりかへるも迷ひなり 00010430M1△△△来らずさらぬ道をゝしへん 00010440M2との給へバ、新右衛門も実もとや思ハれけん、其後ハをと 00010450M3もせずなりけり。人ミな是を聞て、まことに人間にハあら 00010460M4ず、たゞ/仏菩薩(ぶつぼさつ)のかりにあらハれ、ひとり来てひとりかへ 00010470M5る道といへバ、来らずさらぬとの給ふ、さても有がたやと、 00010480M6見る人きく人、あか手のかわをすりておがまぬものハなか 00010490M7りけるとなり。/老子(ろうし)のいわく、死してもほろびざるものハ 00010500M8いのちながしといへるハ、かゝるためし(五ウ)なるべし。 00010510¥N2¥J 00010520¥X 00010530M10二△新右衛門が/最愛(さいあい)の/妻(つま)、いとけなき時より、よろづに心 00010540M11ミぢかく、たけ+しかりけれバ、かなしき者にもじひの 00010550M12めぐミなく、めしつかふわらハにも、/哀憐(あいれん)のなさけうすか 00010560M13りけり。されバ人ハ似を/友(とも)とするならひなるに、/悟道(ごだう)の/居= 00010570M14士(こ=し)になれそひて、たうときおしへをしらざりける事、いか 00010580M15様むくひのはぢなるべしと、みな人ごとにさミしける。新 00010590M16右衛門あけくれふびんに思ひて、もとより道者の事なれバ、 00010600M17たましゐをくだき、にうわのをしへをすゝめける。しかれ 00010610M18共/露(つゆ)したがふけしきみえざりけり。ある時あまりいたく/制(せい) 00010620M19し(六オ)けれバ、女房かほをあかめて聞えけるやう、 00010630¥P34 00010640L1△△あさ糸のながしみじかしむつかしや 00010650L2△△△うむのふたつにいつかはなれん 00010660L3とたゞかやうによミておともせず。親当おどろき、日比の 00010670L4ふるまひに/相違(さうい)して、哥の心あまり/殊勝(しゆしやう)なりけれバはづか 00010680L5しく思ひ、わがおしゆるにおよバずとて、/肝(きも)にめいじてか 00010690L6んじける。ふしぎなるかな、今までハはういつじやけんに 00010700L7身を/任(まか)せ、/誠(まこと)にくらきぐ人なるとおぼえしが、扨ハ我より 00010710L8さきにさとりける物をと思ひ、したをまきける。其後ハふ 00010720L9うふのなさけあさからず、ひよくのちぎりふかゝりけり。 00010730L10上しも(六ウ)/水魚(すいぎよ)の心をなし、むつびけるに、つらきもの 00010740L11ゝいひなしにてや有けん、ひそかにことつまをかさねて、 00010750L12ふた心有よし、まことしやかに新右衛門につげける。新右 00010760L13衛門もとより、いつはりをしんずるものにはあらざりけれ 00010770L14共、げに+思ひあたる事ありとて、物をしのびぬおのこ 00010780L15なりけれバ、しばしの/延(ゑん)引もなく、りべつして社おくりけ 00010790L16る。女ばうハ折ふし/懐姙(くハいにん)の心ありてなやミけれバ、うらミ 00010800L17の心あさからず、つるぎをのミほのほをかふむらんと、 00010810L18もだへかなしミけれ共、ちからなくいでにける。/無実(むしつ)の程 00010820L19ぞあハれなる。しかれ共あとかたもなきいつハりなれバ、 00010830M1誠がつゐにあらハれて、ざんげんのし(七オ)わざとしりに 00010840M2ける。新右衛門/後悔(こうくハい)して、又よびむかへんとて、わがあや 00010850M3まりなるよしいひつかハしければ、女ばう返事に、 00010860M4△△秋風の人の心にたつならば 00010870M5△△△実のらぬさきにいねといわざる 00010880M6とかやうによミおこせて、ふたゝびかへらざりける。それ 00010890M7より、女ばうのなさけたぐひなく、いさぎよきふるまひハ、 00010900M8かへりてまさりけりと、ほめぬものなかりしとなん。ある 00010910M9人かたり侍り。いミじうおもしろくおぼえければ、かごみ 00010920M10ゝのそこにとゞまり、わすれもやらず有けるを、かりそめ 00010930M11にあらハし侍る。されバかの哥に、いづ(七ウ)れもかけ 00010940M12うた有しとなり。聞もらしぬる。口おし。 00010950¥N3¥J 00010960¥X 00010970M14三△一/休和尚(きうおしやう)の/庵(いほ)ちかきあたりに、四十からを/愛(あひ)してかひ 00010980M15けるもの有しが、/生有物(しやうあるもの)なれバ、/死(し)する/期(ご)有て、かごのう 00010990M16ちにむなしくなれり。あさゆふ手なれし/可愛(かあひ)さに、殊のほ 00011000M17かふびんにおぼえ、いとかなしくて、子にわかれたる思ひ 00011010M18をなせり。/凡(およそ)/非情(ひじやう)無心の物だにも、/各(をの+)/仏性(ぶつしやう)をぐせり。ま 00011020M19していはんや、生有物をや。/死出(しで)の山、三/途(づ)の/河(が)、めいど 00011030¥P35 00011040L1のやミいかゞ有らん。しかるべき/智者(ちしや)をたのミて、/引導(いんだう)わ 00011050L2たさばやと思ひ、一休のいほりにたづね入て、しか+の 00011060L3事、たのミ申たきよしなげきければ、折ふし和尚の/弟子(でし)出 00011070L4あひ、いとやすき事なり、(八オ)(八ウ挿画)いで+/成仏(しやうぶつ) 00011080L5得させんとて、仏前にむかハせ、/足下(そか)にゐんだうわたしけ 00011090L6る。 00011100L7△むかし/釈尊(しやくそん)八十三、ばつたい/河(が)におゐてねはんに入。今 00011110L8△なんぢ四十から、むらさき野に成仏をとぐ。 00011120¥G 00011130M1とたからかにこそさづけゝる。かのものたのもしく思ひ、 00011140M2やがてほうむりてかへりぬ。是を一休物ごしに聞しめし、 00011150M3たゞ今のゐんだうは、よくでかしたる小僧かな、風骨によ 00011160M4ると思しめし、大きによろこバせ給ひ、きげんのよき事な 00011170M5ゝめならず。 00011180¥N4¥J 00011190¥X 00011200M7四△むつきのすゑつかた、ある人和尚にともなハれ、 00011210M8/逍遥(せうよう)して/山野(さんや)にあそび、見るにつき、聞につき、ひた物/例(れい) 00011220M9(九オ)のかる口を仰られ、われもよろこび、人をも/興(けう)ぜさ 00011230M10せ給ふ。折ふしはるかに雲井のそらを、かりがねの友をし 00011240M11のび、こしにかへるかと思しくて、二羽つらなりてとび過 00011250M12ける。かの人一休に申けるは、いかに只今、そらを過るか 00011260M13りがねハ、いづちへかおり申さん、御申あれといひける。 00011270M14和尚聞しめされ、天にかね一はい、じやのひげ三すじとい 00011280M15へる、じやのひげハ、いか計ながゝらん、ちやくと申され 00011290M16よとのたまふ。かのものいふべきやうハなし。されバじや 00011300M17のひげとやらんハ、けふまでいまだ見たる事侍らず、しら 00011310M18ぬに候と申ける。一休、されバあのかりも、おうしうへか 00011320M19おりなん、つくしへかおりなん、/終(つい)にかりがねなどゝ、同 00011330¥P36 00011340L1心してあゆミ(九ウ)たる事侍らねバ、しらぬなりとこたへ 00011350L2給ふ。 00011360¥N5¥J 00011370¥X 00011380L6五△其比しも、都に/口痺(こうひ)の/妙薬(めうやく)をおぼえて、/秘蔵(ひさう)しけるも 00011390L5の有けり。一休きどくを聞し召、いかにもしてしらバや 00011400L6と思しめされ、やがてたづねあひ給ひて、しか+の御 00011410L7くすりをしらせ給ふよし、承りおよび候て、あはれ此/愚僧(ぐそう) 00011420L8御/相伝(さうでん)をうけたくぞんじ、はる+是までたづね参り候と 00011430L9申されける。かの人承り、中+の事、さる/妙薬(めうやく)をわれら 00011440L10/代(だい)&つたへ来り候へ共、一子相伝の/秘法(ひほう)なれば、/他(た)にもら 00011450L11す事思ひもよらず、さりながらきとくゆゝしき御僧と見奉 00011460L12れバ、いなびがたくも社候へ、ふかき御/執心(しうしん)にてわたらせ 00011470L13給ハゞ、他に口伝有まじき、御(十オ)きしやうをかゝせ給 00011480L14へ、しからバゆるしておしへ侍らんとぞいひける。和尚聞 00011490L15しめされ、/我身(わがミ)の大事、一代一/紙(し)の/誓文(せいもん)なれ共、/愚僧(ぐそう)にを 00011500L16しへてたび候ハゞ、心得侍るとて、すミぐろに社かゝれけ 00011510L17る。やがてならひ得て/庵(いほ)にかへり、あざわらひての給ふや 00011520L18う、人のやまひにくすりとなるべき物を、/秘蔵(ひさう)して、ひ 00011530L19とりおぼえたらんハ、/慈悲(じひ)のうとき心なり、これらの事を 00011540M1ひさうとせば、おそらくは/秘(ひ)しても秘しがたき、一大事/因= 00011550M2縁(ゐん=ゑん)をバいかゞせん、さりながら、仏神の/冥罰(ミやうばつ)そらおそろし、 00011560M3さらバ札をかきてしらせんとて、 00011570M4△一/口痺(こうひ)のくすりの事。もしこうひをやむものあ(十ウ)ら 00011580M5△△ば、かならずミかんのさねをくろやきにしてのむべし。 00011590M6△△なをる事すミやかにして、ふたゝびおこる事なし。是 00011600M7△△きたいの/妙薬(めうやく)なり。 00011610M8と/書(かき)て立られける。おしへけるもの是を聞、/以之外(もつてのほか)に/腹(はら) 00011620M9をたて、せほねをいからかして、いそぎむらさき野にはし 00011630M10り行、一休をたづね出し、いかに御僧、はかいむざんの/間= 00011640M11僧(まい=す)かな、何とて大事の/秘薬(ひやく)をならひ得て、他に/口伝(くでん)せまじ 00011650M12とて、きしやうをかきながら、あまつさへ/高札(たかふだ)をたてゝ万 00011660M13人のめにさらす事、いかなる曲事ぞやと、しのびかねたる 00011670M14其ふぜい、打はたしてもこらへがたく、まつくろになりて 00011680M15いかりければ、さしもの一休なれ共、おめきころすか(十 00011690M16一オ)とぞ見えにける。され共おどろくけしきなく、そら 00011700M17さぬかほにもてなし、あらこと+しの有様や、何事をかく 00011710M18ハの給ふらん、きしやうをかきしも/誠(まこと)なり、しかるに札を 00011720M19たてしもいつはりにあらず、さりながら口伝せまじとかき 00011730¥P37 00011740L1ぬれバ、口伝ハ/一人(ひとり)もせざるなり、札をたてじとかゝざれ 00011750L2ば、たてたる事があやまりか、きしやうに/少(すこし)もそむかざれ 00011760L3バ、仏神のばちもおそろしからずとて、そらうそむひてま 00011770L4し+ける。かの/者(もの)あく/迄(まて)のゝしり、/怒気(とき)におかされて、 00011780L5/方寸(はうすん)にせまりけるが、一/言(こん)のぬけ句に/返答(へんたう)をうバはれ、こ 00011790L6とばもなくかへりける。 00011800¥N6¥J 00011810¥X 00011820L8六△ちかき江やかたゝのうらはに、弥五郎といふせん 00011830L9(十一ウ)どう一人ありける。おのがわざなからいやしきい 00011840L10となミにやつれはて、一生ほのふすま、かぢのまくらをそ 00011850L11バたて、まことの道にうとくして、心ざしさながらゑびす 00011860L12なり。九重の花にあそぶともがらには、はるかおとり、お 00011870L13のづからいやしきになれて、いミじかるべき事を露しらず。 00011880L14かたくなにたうときをしへをはぢくやまざれバ、いとあさ 00011890L15ましきよすがなりけるが、つゐに身まかりて死にける。妻 00011900L16子したひてなげく事かぎりなし。さてあるべきにあらざれ 00011910L17ば、火にやせん、土にやうづまんとかなしミける。せめて 00011920L18いかなるちしきをもたのミて、後世のくげんをたすけたき 00011930L19と思ふ折ふし、一休(十二オ)/風雲(ふううん)のゆくゑをおふて、うら 00011940M1のかたにねまりゐて、よもの/致景(ちけい)をたのしミておはします 00011950M2所に、妻子是をミて衣のすそにすがり、只今かやうのあさ 00011960M3ましきものゝ相はてゝ候が、あはれ御じひをたれて、かの 00011970M4ものゝ後世のくるしミを、ミちびきて給ハり候へ、生&の 00011980M5/厚恩(かうおん)にて候べしと、かなしミける。一休ふびんに思しめし、 00011990M6何よりやすき事也、ゐんだうさづけ得させんとて、し給ふ 00012000M7やう社ふしんなれ。まづ+死人をよねごもにつゝめよと 00012010M8て、たハらに入てなハをかけ、まるた舟にかきのせ、/湖水(こすい) 00012020M9の波にうかべける。おきにいたりてこゑをあげ、高らかに 00012030M10の給ふやう、 00012040M11△此たハらハこれ、/元来(ぐハんらい)/米俵(こめびやう)にもあらず、まめべう(十二ウ) 00012050M12△にもあらず。なんぢハかたゝの弥五郎俵なり。ごうかに 00012060M13△しづんてうろくづのゑとなり、仏果を得よ。/喝(かつ)。 00012070M14との給ひ、水のそこにそつき入ける。是成仏のゐんだう也。 00012080¥N7¥J 00012090¥X 00012100M16七△一休和尚とひとしき/沙門(しやもん)有けり。わがゑざうをミづか 00012110M17らうつし、心づから一入よく出来たるよとうれしくて、 00012120M18さもあれ一休に見せばやと思ひ、いそぎむらさき野へもて 00012130M19行ける。和尚此絵を一目見給ひ、あな見ぐるしやとて、目 00012140¥P38 00012150L1をとぢ、大きにあざけり給へバ、いかなれバ/所(しよ)存をもかへ 00012160L2り見給ハず、かくわらひ給ふぞやと、うちはらたてゝのゝ 00012170L3しりける。其時ゑざうをとつて、/庭上(ていしやう)へなげすて、土ぞう 00012180L4りをはきながら、さん+にふミにじり、(十三オ)一筆か 00012190L5うぞかゝれける、 00012200L6△世をすてゝかたちをすてず。びんばつをきりてぼんなふ 00012210L7△をきらず。かりにゑざうをかきて、おのが悪業をかづけ 00012220L8△おく。ゑざう大きなるめいわくなり。 00012230L9とくろ+とさんをかきてわたされける。沙門つく+と 00012240L10かんじ、やがて懐中してかへりける。 00012250¥N8¥J 00012260¥X 00012270L12八△/五月雨(さミたれ)のふりつゞき、はれまもみえず、うちしめり、 00012280L13よものけしきうるほひ、こずゑふかくみえ渡るころ、つ 00012290L14れ+わびしく思しめしけん、しばのあミどをさしこめて、 00012300L15たんぜんとしておはしましける所(十三ウ)に、みそじあま 00012310L16りのおのこと見えて、やぶれがさをかむり、つゞれミの 00012320L17を身にまとひ、しやぢくるあめにそぼぬれつつ、いかにも 00012330L18思ひあまり、うれへにしづミたるありさまにて、しづかに 00012340L19物申さんと、うかゞひける。一休たそやこなたへとの給ひ 00012350M1て、しばのあミ戸をひらき給ふ。かの男いふやう、我らハ 00012360M2ちかきわたりに侍り候ものなるが、明日はさる心ざしの日 00012370M3にあひあたり候へ共、ちしきをたのミたてまつるかたなく 00012380M4候へバ、おそれながら和尚を請じ奉り、おろそかなる、と 00012390M5きをまいらせあげたく候て、是までたのミ来り候なりと思 00012400M6ひ入てぞ申ける。一休きこしめし、もとより出家のいとな 00012410M7ミに、いとやすき事なり、いづく(十四オ)の程ぞとゝひ給 00012420M8へば、おのここたへて、さん候、我らがいゑぢと申ハ、に 00012430M9ごり川通、そこぬけびしやくの町と申て、かくれなき所に 00012440M10て侍るなり、たづねてわたらせ給はゞ、かとへにしるしを 00012450M11ゝくべし、かならずまち奉り候とて、いとま申てかへりけ 00012460M12る。一休あとにてつく+とあんじ給ひ、きやつハふし 00012470M13ぎなるをしへやうをいひつる物かな、さらバれうけんして 00012480M14みバやとて、やがて義理をぞひらかれける。/抑(そも+)にごり川と 00012490M15いひしハ、是今出川なるべし、そこぬけびしやくといひし 00012500M16ハ、ゑがわ町といふなるべし、いで+たづねゆきてミん 00012510M17とて、思ふあてどをとひ給へば、あんにたがハず、ゑがわ 00012520M18町といふ所に、ゆきあたらせ給ひ(十四ウ)(十五オ挿画)ける。 00012530M19しるしといひしハ何なるらんと見給へバ、おもてにしやく 00012540¥P39 00012550L1しをぞつりおきける。是ハ誠にしるしなりとて、やがてう 00012560L2ちにいりて見給へバ、きのふの男にあひ給ふ。めでたかり 00012570L3けるちゑぞかし。あるじかんにたへかねて、かつがうする 00012580L4事なゝめならず。我らのあさましく、おろかなるたハむれ 00012590L5を申参らせ候へバ、一&にときわかち、みちをもまよハず 00012600L6御いり候こそ、いつハりもなき/天眼通(てんがんつう)にておハしますとて、 00012610L7ひとへにしやかのごとくに思ひける。男もけうがるくせも 00012620L8のにて、むつかしく/難問(なんもん)をかけんと思ひけるが、/法事(ほうじ)も過 00012630¥G 00012640M1ぬれバ、ぜんを出してすへたりける。其時和尚ぜんにむか 00012650M2ひ、/殊(こと)には/亡者(まうじや)/法味(ほうミ)のため、ゑかうを(十五ウ)なして三界 00012660M3にたむけ、ふたをあけて見給へバ、めしにハあらで、こぬ 00012670M4かをもりてすへたりける。ふしぎに思しめされ、しるをと 00012680M5りあげ見給へバ、是もおなじくぬかなりけり。残りの物も 00012690M6さぞあるらんとて、よこ手をてうと打、あらいたハしや、 00012700M7扨ハ亡者の三七日にあたり候よと、かぶりもふらずの給ひ 00012710M8ける。男いよ+肝をけし、おそれをなしてうやまひける。 00012720M9其時男いふやうハ、仰せのごとくそれがしハ、ちゝをうし 00012730M10なひ候て、三七日になり侍る、仏果にやいたりけん、ぢご 00012740M11くにやおちぬらん、後生の事におぼつかなく候てかなしく 00012750M12候とゝひければ、一休仰せられけるハ、何事かあるべき、 00012760M13たゞ存生のふるまひをば、他人ハよ(十六オ)しとほむるや、 00012770M14あしきとそしるや、いかゞいふぞと宣ひける。されバ平生 00012780M15ハつねによこしまなる事候ハず、ひとへに正直にてまつた 00012790M16き性候ひけれバ、他人ハほとけにてありつるとほむるもの 00012800M17おほく候と申けれハ、一休聞し召、しかれバきづかひなる 00012810M18事なし、是あミだにもあらず観音にもあらず、/則(そく)/正直仏(しやうぢきぶつ) 00012820M19なり、仏果を得る事/疑(うたか)ひなしと、事もなげに仰せられける。 00012830¥P40 00012840L1男つく+と承り、扨ハ心やすく候が、又それがしが兄に 00012850L2て候者、三年以前にむなしくなり、つねに仏道をもしらず、 00012860L3いたづらにあかしくらし、はづかしながら天性ぐどんに候 00012870L4ひて、人のくちに、ぬかりものと名を得候事、口おしきし 00012880L5だい(十六ウ)なり、たゞしつミをもつくらず候へバ、仏果 00012890L6を得候ハんやととひける。一休聞しめし、中+つミとが 00012900L7なしといへ共、仏にはなりがたし、さやうのものハ、/愚僧(ぐそう) 00012910L8がゆるしても、人がゆるさゝれば、のがれず、其おつるぢ 00012920L9ごくを、/則(そく)あハうぢごくといふなり、たゞ/今生(こんじやう)のごとくに 00012930L10後生の事も侍れバ、/仏果(ぶつくわ)とぢごくと少もうたがふ事なしと 00012940L11仰られける。 00012950¥N9¥J 00012960¥X 00012970L12九△そこつなる/弟子(でし)、ある時一休へたづねけるは、世中に 00012980L13なる/程(ほど)ちいさき事を、御物がたり候て聞させ給へといひ 00012990L14ける。一休聞しめし、なんぢかたつぶりといふむしをみ 00013000L15たるや、弟子いかにも見候といふ。其かたつぶりめが、か 00013010L16いよりいでゝはいゆく時に、かしらにつの二つ有、其ゆん 00013020L17でのつのさき(十七オ)に国の数五百有、めてのつのさきに 00013030L18国の数五百あり、合て一千の国有、しかるに此せかいのご 00013040L19とく、日月そらにかかやき、山川下にそバだちながれ、し 00013050M1んらまんぞうすこしもかハる事なし、/天運(てんうん)ハ/須臾(しゆゆ)をもつて 00013060M2千/歳(ざい)とす、然るにたがひに国をあらそひ、左ハ右をうちと 00013070M3り、右ハ左をほろぼし、かつせんさらにやむ事なし、ある 00013080M4ひハ一ねん国をたもちてハ、二ねんにほろび、扨ほろびし 00013090M5国も又おこり、年中の/間(あいた)/存亡(ぞんバう)たちまち地をかゆる事たび 00013100M6+なり、さればしゆゆを千さいとするうちに、ふゆうの 00013110M7むしありて、夕へに生れあしたに死する事、是よりちいさ 00013120M8き事なしとの給ひける。其時弟子然らば世中に大き(十七ウ) 00013130M9なる事ハ何事か候ハんとたづねけれバ、一休きこしめされ、 00013140M10心得たりとの給ひて、北海に水とり有、名を大こうといへ 00013150M11り、/胴(どう)の大きさ千里有、はねのながさ千里あり、あハせて 00013160M12三千里にはたらざりけり、此とり/南極(なんきよく)を見にゆかばやと心 00013170M13ざし、北海より思ひたち、はる+ととぶ程に、一日にい 00013180M14く千万里といふ事をしらず、昨日もとび、けふもとび、と 00013190M15しをかさねていそぎけれ共、いつ/行(ゆき)つくべき共しれざりけ 00013200M16り、さしもの大こうもつかれはて、とある木の枝にとまり、 00013210M17しバらく羽をやすめつゝゐたりけれバ、下より大ごゑをあ 00013220M18げて、かろらかに我ひげさきにとまりたるハ、何ものなる 00013230M19ぞとさけびけ(十八オ)(十八ウ挿画)る、大こう大きにおどろ 00013240¥P41 00013250L1き、こはいかに、ふしぎやな、われハ/北海(ほくかい)の水にあそぶ大 00013260L2こうといふ鳥なるが、我かたちをもつて/南極(なんきよく)を見ばやと思 00013270L3ひ、はる+とび来るといへ共、つかれにおよんでちから 00013280L4なく、此所に羽をやすめ侍るなり、かゝる大木をひげにも 00013290L5ち給ふハ、何ものにてかわたらせ給ふ、名のらせ給へとの 00013300L6ゝしりける、其時下よりいふやうは、なんぢがかたちに 00013310L7て、南極をミん事思ひもよらず、我ハこの南海のそこに代 00013320L8&/経(へ)たる/海老(ゑび)なれ共、我だに/未(いまだ)見ざるぞかし、いそぎこれ 00013330¥G 00013340M1よりかへるべしと、大きにさけびていかりける、/高慢(かうまん)しけ 00013350M2る大こうも/力(ちから)およバずあざむかれ、もとの/北海(ほくかい)にかへりけ 00013360M3る、其時/海老(ゑび)いかりをゝ(十九オ)こし、かゝる小鳥さへ、南 00013370M4極をミんと心ざし、思ひ立こそやさしけれ、我見ぬ事や有 00013380M5べきと思ひ、南海をたち出、ミなミをさしておよぎける、ま 00013390M6ん+たるさうかいを、あけくれいそぎけれ共、/広大(くハうだい)無辺 00013400M7のミちなれバ、いたりつべうハなかりけり、海老も程なく 00013410M8つかれはて、とあるほらのありけれバ、しハらく立いりや 00013420M9すミける、其時こくうよりこゑを出し、何ものかやわがみ 00013430M10ゝに入しとおぼえたり、いそぎ出よとよバゝりける、/海老(ゑび) 00013440M11是をきくよりも、我ハこれ/南海(なんかい)のそこに代&/経(へ)たる海老な 00013450M12るが、かやうのしさい候ひて、南極へおもむき候といへ共、 00013460M13はる+のミちなれバ、しバらくこゝにやすむものなり、 00013470M14しかるにふしぎや、此ほら(十九ウ)をみゝにもち給ふ御事 00013480M15ハ、たれなるらんとおそれける、その時こくうより、大千 00013490M16せかいにうなりわたる大ごゑにて、我ハあめつちかいひや 00013500M17くより、此海にすむかめなり、おのれが身にて、南極をミ 00013510M18ん事ハかなふまじきなり、思ひたちしハやさしけれ共、心 00013520M19ざしをむなしうして、これよりいそぎかへるべしと、よば 00013530¥P42 00013540L1はるこゑ、天地にひゞきて聞えける、扨ハゑびもかなふま 00013550L2じとて、終にむなしくかへりける、それよりかのかめ、又 00013560L3南極におもむき、見てかへらんと心ざし、我すむうミを立 00013570L4出て、ミなミをさしてゆきけると聞えしが、いまだけふに 00013580L5おひてかへらす、いはんやいつかへらんといふ事もなしと、 00013590L6めさむるやうに仰せられける。(二十オ) 00013600¥N10¥J 00013610¥X 00013620L8十△都にて大ぶんけんなるもの、大事のとぶらひをしけ 00013630L9る事ありけるに、折ふし/導師(だうし)にハいかなる人をか/請(しやう)じ/奉(たてまつ) 00013640L10るべきと、/思案(しあん)まち+にくらしける。其/比(ころ)/名高(なたか)き/知識(ちしき)あ 00013650L11またおはしけれ共、中にもむらさき野一休和尚にしくハあ 00013660L12らじと、/仏事(ぶつじ)ハ/明日(あす)の事なれバ、いそぎ人をぞつかハしけ 00013670L13る。折ふし和尚ハ、/庵(いほ)のちりをはらひ、/庭(にハ)をそうぢしてま 00013680L14し+けるが、すこしもなづまぬ御僧なれバ、心やすくりや 00013690L15うじやうし給ひける。さる程に、やがていやしくさまをか 00013700L16へ、あさましきこつがい人に身をやつし、手あしにすゝを 00013710L17にしり付、くさりごもをまとひ、もくづの中より出たるや 00013720L18うになりはてゝ、かの門(二十ウ)にたち給ひ、こつじきの 00013730L19のゝしるごとく、御くやうの御せぎやうをたべ、御じひを下 00013740M1されよと、とり+にの給ひける。あるじじやけんにはら 00013750M2をたて、見ぐるしきやつはらをおひ出せよと/下知(げぢ)しける。 00013760M3其時下男二三人はしり出、くやうハあすの事なるに、けふ 00013770M4来ておめく/曲(くせ)事やとて、もとよりたれとはいさしらず、い 00013780M5たはしや一休をたゝき出し奉り、さん※にてうちやくし、 00013790M6ふミたをしてぞ入にける、一休ハからき/命(いのち)をやう+たす 00013800M7かり、むざんのしハざと思しめし、むらさき野へぞ帰り給 00013810M8ふ。其日にもなりければ、きのふのさまに引かへて、あら 00013820M9たにゆあミし給ひ、/衣(ころも)をふるつてめされける。七/丈(てう)(廿一 00013830M10オ)の御けさをすそながに引かけ、きんらんまじりにとり 00013840M11つくろひ、もとよりしゆしやうに見え給ふ。一休御こし有 00013850M12ければ、/旦那(たんな)大きによろこび、/仏前(ぶつぜん)へこそ/請(しやう)じける。され 00013860M13共一休すゝみ給ハず、いやそれまでハ参るまじ、/愚僧(ぐそう)ハ是 00013870M14に候とて、石うすになりてにじり給ハず。/旦那(だんな)ハもだへて、 00013880M15是ハ何事にておはします、あらいまハしや、こゝハ下らう 00013890M16のむしろなり、こなたへとをらせ候へとて、手を/引(ひき)たて/奉(たてまつ) 00013900M17れば、一休御らんじて、しかじバ此/衣(ころも)に/料供(れうぐ)を給ハるべし、 00013910M18/愚僧(ぐそう)が給ハるべき/子細(しさい)なしとて、一首の狂哥をよミ給ふ。 00013920M19△△わうばくの三十ぼうをあてられて(廿一ウ) 00013930¥P43 00013940L1△△△身にはれきたるせミのぬけがら 00013950L2とよミ給ひて、こつじきも/愚僧(ぐそう)も、おなじ/火(ひ)と/水(ミづ)なれ共、 00013960L3きのふハぼうをくらひ、けふハ御ときを給ハる事、/偏(ひとへ)に此 00013970L4衣のいろがひかるゆへなりとて、ぬぎすてゝこそかへられ 00013980L5ける。 00013990¥Y1一休咄巻之三終(廿二終オ) 00014000¥Y1一休咄巻之四△目録 00014010L3一△一/休和尚(きうおしやう)の/神変(じんべん)を/語(かた)りつたふる事 00014020L4二△/愚痴(ぐち)なる/者(もの)/話則(わそく)をこふ事 00014030L5三△一休/魚(うを)を/釣(つり)給ふ事 00014040L6△△△付/達磨(たるま)の/由来(ゆらい) 00014050L7四△一/休(きう)/高野(かうや)山に/登(のぼ)り/山形(さんぎやう)の/詩(し)を作り給ふ事 00014060L8五△同/熊野(くまの)にて/山形(さんぎやう)の詩を作り給ふ事 00014070L9△△△付/東坡(とうバ)/径山寺(きんざんし)の詩の事 00014080L10六△一休/旦那(だんな)の/女房(にうばう)に/懸想(けさう)し給ふ事 00014090L11七△/堺(さかい)にてふくとうにゑひて/死(し)したる者の事 00014100L12△△△付ゐんだうを/書(かき)て遣し給ふ事(一オ) 00014110L13八△/大内(たいり)/燈篭詩(とうろうのし)の事 00014120L14△△△付/性霊(しやうれう)うたの事 00014130L15九△一休/御袋(おふくろ)へ御すゝめの事 00014140L16△△△付哥少& 00014150L17十△新右衛門/仏法物語(ぶつはうものかたり)の事 00014160L18△△△付/扇(あふぎ)に五/戒(かい)有事 00014170L19十一△一休/狗子(くし)/仏性(ぶつしやう)の/話(わ)の事 00014180¥P44 00014190L1△△△△付哥少& 00014200L2十二△/風雨(ふうう)の日新右衛門/見舞(ミまい)に/行(ゆく)事 00014210L3十三△一休/末期(まつご)/辞世(じせい)の事 00014220L4十四△同/自画自讃(じくわじさん)の事 00014230L5△△△△付/末代(まつだい)/遺言(ゆいげん)の事 00014240L6十五△一休和尚/風骨(ふうこつ)の事 00014250L7△△△△付/狂詩(きやうし)二十首(一ウ) 00014260¥T1一休はなし巻之四 00014270¥N1¥J 00014280¥X 00014290M3一△一/休和尚(きうおしやう)ハ/活仏(いきほとけ)にてまし+けると、世上に/風聞(ふうぶん)しけ 00014300M4るが、/余(あま)りにいはんとて去人申けるは、此間一休へ参りけ 00014310M5れハ、よく来るとのたまひて、/虚空(こくう)に/座(ざ)し給ひて、御庭の 00014320M6松の/枝(ゑだ)に御/腰(こし)をかけられ、御すゞみなされし也、ふしぎな 00014330M7る事にあらずやと、しけ+と/語(かた)りけれバ、/皆(ミな)人、それハ 00014340M8/偽(いつハ)りに社、人間と生をうけ、かゝる/自在(じざい)のなるべしやと、 00014350M9取さたしける事、ほのかに一休聞し召、一条の/辻(つじ)に札を立 00014360M10られしは、 00014370M11△/仏法(ぶつほう)の/修行(しゆぎやう)すでに道なり、/天眼通(てんがんつう)をえたり。/虚空(こくう)に/坐(ざせん)ん 00014380M12△とすれバすなハち/坐(ざ)し、/座(ざ)せじと思へバ則座せず。/通力(つうりき) 00014390M13△/自在(じざい)を得たり。若うたがふ人あらバ見物に来べし。(二オ) 00014400M14とかゝれたり。みな人是を見て、此間人の/評判(ひやうはん)しけるが、 00014410M15かくせらるゝ上ハ/更(さら)にうたがふ所なし、去ながら/魚(うを)をくひ 00014420M16ていかして/吐(はく)と仰られしも、まことならず、さなることに 00014430M17てやあらんと云人も有しが、いや+それとハ/品(しな)かハりた 00014440M18るとて、すこびたる仁二三人つれたち、一休の御/庵室(あんじつ)へ来 00014450M19り、御札のおもてうたがひハ有まじけれど、/直(ぢき)におかミ申 00014460¥P45 00014470L1度候て是迄参り候と申す。一休出あひ給ひて、中+の事 00014480L2/天眼通(てんがんつう)を得申候と仰られければ、其中にこびたるものすゝ 00014490L3ミ出て申けるは、是ハ御偽にて有べし、/虚空(こくう)の事ハ思ひもよ 00014500L4らす、此/扇(あふぎ)の上へあがりて御らんあれと申けれバ、いとや 00014510L5すき事なり、去なから其扇の上へものらんと思ふ心出れバ 00014520L6/乗(のる)、今日ハ早天よりのらふと思ふ心なし、/虚空(こくう)へ(二ウ)も 00014530L7のぼらんと思へハのぼる、上らふと思ハねバのぼらず候、 00014540L8重て御出あれ、のぼらんと思ふ時上りて見せんと仰られけ 00014550L9れバ、ミな人あきれて/帰(かへ)りける。其中の一人申けるは、い 00014560L10かにしても一休也、人の/余(あま)りにいはんとて、/天眼通(てんかんつう)を得給 00014570L11ふと云を、おかしくおぼしめし、かくいましめしむるなり 00014580L12とて、/感(かん)じて帰しと也。 00014590¥N2¥J 00014600¥X 00014610L14二△一休和尚へある時、旦那来りて申けるは、此御寺へ 00014620L15出入仕候とて人&申けるは、/話(わ)そくの一そくもぬけたる 00014630L16かなどゝて、我等の/愚痴(ぐち)なるをあなどり、何共/迷惑(めいわく)をいた 00014640L17し候間、何にても一そく御じひに/示(しめ)し給へと申けれバ、/安(やすき) 00014650L18事也、さらバ/参(さん)しられよと有けれバ、参するとハいかなる 00014660L19事にて侍りけると申せバ、いや何なり共仏の道にて、がて 00014670M1んのゆかぬ事を尋られよ。/畏(かしこまつ)て候とて(三オ)/仏殿(ふつてん)をさして 00014680M2走出る。一休おかしく思し召、ミぬかほしておはしけれバ、 00014690M3せつなの間に/走(はしり)帰る。一休いづくへ行けると/宣(のたま)へバ、仏の 00014700M4道にふしんあらバ申せと仰られしにより、仏の道ハ仏殿へ 00014710M5行道なると存、一はしりに見てまいり候が、いかにもがて 00014720M6んのまいらぬ事こそ御座候、あの山門のほとりの松に/巣(す)を 00014730M7かけて候が、なにのすとも更にかてんまいらず、大かた/鷲(さぎ) 00014740M8の/巣(す)にハみえて候へとも、しかとハわきまへず候と申けれ 00014750M9バ、いや+からすこそいま時分ハすをかくれとのたまへ 00014760M10ハ、いや、とてもの御事に御じひをたれてしめし給ハれと 00014770M11申けれハ、其義ならばとて、はしのこをもちゆき、のぼり 00014780M12たまへと仰られけれバ、かのものいそぎのぼりて、かの巣 00014790M13をお(三ウ)ろしてミれば、中に鳥の子もなく、なにとも見 00014800M14えぬなり。一休何なるとのたまへハ、何もなかにハなく侍 00014810M15ると申せバ、 00014820M16△△△△△△△△△△△△△△△△△一休和尚 00014830M17△△/鷺(さぎ)の/巣(す)をおろして見ればからすにて 00014840M18これにつけて見たまへ、こゝが一そくなるハと仰られけれ 00014850M19バ、かのもの中+何ともつけ申べき心ハなく候と申けれ 00014860¥P46 00014870¥G 00014880L12ば、一休仰られけるハ、そこなるハ、我もなんちに一そく 00014890L13さづけしらすべき心ハなしと、しめし給へバ、かのものお 00014900L14どろき、扨ハ一休様も仰られかたく侍るかと申けれバ、/自= 00014910L15心自仏(じ=しんじぶつ)と答へ給へハ、よこ手をはたと打て、かへり、終に 00014920L16/自得(じとく)しけると也。(四オ)(四ウ挿画) 00014930¥N3¥J 00014940¥X 00014950L18三△一休和尚/片田(かたた)の/庵(いほ)におハせし時、うみバたへ立出給 00014960L19ひてハ、毎日つりをたれてハ魚をとりてまいりけるに、 00014970M1御弟子兄弟の僧達、これハ不/律(りつ)なる仕合なりとて、一休を 00014980M2一間所へよび入て、口&に異見しけれバ、一休のいはく、 00014990M3おの+たちハがくもんをするとて、何事をかし給ふや。 00015000M4我等ハいにしへの/祖師(そし)の真似をするを、/禅宗(ぜんしう)の学問と心得 00015010M5たり、しかれバ例なき事ハ仕らず。いて+古の例をしら 00015020M6ずハ見せんとて、もとより/絵(ゑ)ハきやうなり、/蜆子(けんす)の/海老(ゑび)を 00015030M7つり給ひて/喰(くい)し処を、あり+と/絵(ゑ)に書、なを一/首(しゆ)の哥を 00015040M8かゝれける。 00015050M9△△いにしへのかしこき/祖師(そし)ハ/海老(ゑひ)を釣し 00015060M10△△△我ハあほうて/魚(うを)をつりてくふ(五オ) 00015070M11とあそバして、彼僧達にさし付、さあらぬふりにて居られ 00015080M12ける。みな+彼/絵(ゑ)を見て、扨も/奇容(きよう)なる絵や、見事なる 00015090M13かなの書ぶりやと/感(かん)じけるが、其中にての老僧あざわらひ 00015100M14て、古の祖師の/蜆(ゑび)を御つりありてまいりしとて、貴僧の 00015110M15若きなりにて、其/魚(うを)をつりまいらんこと、/鵜(う)の/真似(まね)して/烏(からす) 00015120M16水のむといひしたぐひ也、扨貴僧ハ此/蜆子(けんす)/和尚(をしやう)のゑびつり 00015130M17てまいりし御心/根(ね)をしろし召けるか、中+及びなき事 00015140M18やとわらひけれバ、一休すこしもさハかず色をもかへず、 00015150M19さて+貴僧の/愚(をろか)なる心にてハ、/蜆子(けんす)の/海老(ゑひ)を食し心根、 00015160¥P47 00015170L1がてん参るまじ、それ人ハ若きにもよらず、老たるにもよ 00015180L2らず、道におゐてハ/老若(らうにやく)ハあるまじ、老たるが悟道せは、 00015190L3門外の、む(五ウ)く犬も悟道したるかして、/毛(け)もぬけ、す 00015200L4ねたゝずにじりありくハ、若とて/悟道(ごたう)せまじきや、/世尊(せそん)ハ 00015210L5三十/成道(じやうだう)と承る、我等が/祖(そ)/達磨(だるま)大師の/古(いにしへ)を承るに、或時/般= 00015220L6若多羅尊者(はん=にやたらそんじや)の来り給ひて、/光明(くハうミやう)かくやくたる/璧(たま)をさゝげ、 00015230L7三人の/皇子(わうじ)に見せ給ひつゝ、心をためさんとて、おの+ 00015240L8此玉をたからとし給ハんやと/問(とい)給ひしに、御/兄(あに)二人ハ此/璧(たま) 00015250L9にまさるたからハ又あらじとのたまひけるに、/達磨(だるま)大師ハ 00015260L10七/歳(さい)にて、一の/乙皇子(をとわうじ)なりけれ共、此玉ハ/世宝(せほう)にて/宝(たから)にあ 00015270L11らず、/智光(ちくハう)の/珠(たま)こそハ又なき/宝(たから)なれとて、彼たまをなげう 00015280L12ち給ひけれバ、/尊者(そんじや)おどろき、かゝるいとけなき身にして、 00015290L13ふしぎなる人かなとて、すなハち御名を/達磨(だるま)とつけられけ 00015300L14る、はじめハ(六オ)/菩提多羅(ぼだいたら)と申せしとかや、達磨とハ/万(よろつ) 00015310L15の事に/達(たつ)し、/通(つう)じて、みがき立たるやうなる人なりとの心と 00015320L16かや、しかれバ/悟道(こだう)ハ/老若(らうにやく)にハよるべからずと、一休/手(て)を 00015330L17打、彼老僧をわらひたまへバ、老僧も人中にてこみつけら 00015340L18れ、/赤面(せきめん)して申されけるハ、かる口にまかせて申されたり、 00015350L19/如何(いか)に口にてハいふとても、心ハさもなきものに候よ、貴 00015360M1僧ハ/実正(じつしやう)/蜆子(けんす)のゑびまいりし御心根をしり給ふか。一休答 00015370M2ていハく、中+存たり。老僧申さるゝハ、おの+いか 00015380M3にとおぼしめす、それ/禅宗(ぜんしう)ハ/以心伝心(いしんでんしん)なり、いかでか/蜆子(けんす) 00015390M4の御心がしらるべき、蜆子にならずハしりがたしとあざわ 00015400M5らひ申されけれバ、おの+も、尤&、蜆子の御心ハ/凡人(ほんにん) 00015410M6のしりがたき事也、蜆子にならでハいかにしてかしられむ 00015420M7や、一休蜆子(六ウ)(七オ挿画)になりて御覧じけるかと、 00015430M8口&にわらひけれバ、一休すこしもさハがす、さて+お 00015440¥G 00015450¥P48 00015460L1の+ハおろかなることをのたまふものかな、我等ハ/蜆子(けんす) 00015470L2にならね共、蜆子の心根をよくしりたりとのたまへバ、皆 00015480L3&それハむりなりと申されけれバ、聞給へ人&よ、しから 00015490L4バおの+ハ、この一休におなりなくハ、一休が蜆子の心 00015500L5をしりたる心根を、えしり給ふまじとてわらひ給へバ、お 00015510L6の+/藤咲(ふぢさく)門にてにげられけるとかや。 00015520¥N4¥J 00015530¥X 00015540L8四△一休和尚/高野(かうや)山へのぼり給ひて、四方の山&をなが 00015550L9め、さても聞しよりおもしろき/風景(ふうけい)かなと、ながめておは 00015560L10しけれバ、/高野(かうや)ひじり共立出、一休を見て、いかなる人ぞ 00015570L11とたづねけれハ、いや名もなき/道心者(たうしんじや)にて侍るが、此山は 00015580L12じめて(七ウ)一見仕候へバ、あまり風景かおもしろく侍れ 00015590L13ば、こしをれの/詩(し)か哥か一/首(しゆ)つかまつらんと存て、つく 00015600L14※として侍るとのたまへバ、ひじりども一休とハ中&お 00015610L15もひもよらず、しほらしやわごせハまことにめくらの/垣(かき)の 00015620L16ぞき、すくちの/嘯(うそ)も心なぐさむとや、その身ハかミこで、 00015630L17ごそめき、うそさむげなるなりにて、ゑりのうすさハ此山 00015640L18の名物のかミそりのはよりもうすくて、ほそくびいとあぶ 00015650L19なしなどゝて口&にわらひける。一休かたはらいたく思し 00015660M1けれ共、いかにも/空(そら)さぬかほにて、一/首(しゆ)仕り候、/硯紙(すゞりかミ)給り 00015670M2候へとのたまへバ、何と一/首(しゆ)出来候とや、さてもはやしと 00015680M3又口&に/笑(わらひ)て、やれ/硯帋(すゞりかミ)を、かせと出しければ、一(八オ) 00015690M4休筆をおつとり、/東坡居士(とうばこじ)か/径(きん)山寺の/詩(し)を山なりに作りし 00015700M5ことを思し召出されて、 00015710M6△△△△△△△△△△△△△△△▽此/山形(さんぎやう)の/詩(し)のよミやうハ 00015720M7△△△△△△△△△山秋葉落△山高近都率内院 00015730M8△△△△△△山春開花発空△山閑表華蔵世界 00015740M9△△△山迎連峰報仏心亦△山迎連峯報仏土 00015750M10山高近都率内院土進空△山平幽源化仏地 00015760M11山閑表華蔵世界地醒寂△山春開花発心進 00015770M12△△△山平幽源化仏悩亦△山夏涼風煩悩醒 00015780M13△△△△△△山夏凉風煩寂△山秋葉落空亦空 00015790M14△△△△△△△△△山冬素雪△山冬素雪寂亦寂 00015800M15△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△(八ウ) 00015810M16かくのことく/即時(そくじ)に筆をひかへながらあそバしけれハ、一 00015820M17山のひじりたなごゝろを打て、扨も見事なる/筆跡(ひつせき)や、目な 00015830M18れぬ/詩(し)の/躰(てい)やと、口をあきてから、ふさぎかね、先より皆 00015840M19&よしなき事共をいひて、御僧をはづかしめけることのは 00015850¥P49 00015860L1づかしさよ、いかなる人ぞ名を名のり給へと口&に申けれ 00015870L2バ、其/詩(し)の下に候との給へば、まことに一文字候ハ、何一 00015880L3とか申すぞと尋ける。其中ひじり一人/眉(まゆ)を/皺(しハ)め、彼詩の筆 00015890L4跡を見る。一休ハはや御いとまとて御下向あらんとす。彼 00015900L5僧、この筆ハ正しく紫野の一休也、ことに一と書しハくせ 00015910L6者也、やれ引とゞめよとておつかけたり。一休これハ何事 00015920L7なると仰られけれバ、先より存ぜず皆&/慮外(りよぐハい)申たり、御/免(めん) 00015930L8(九オ)あれ、先御かへりありて坊へ入らせ給へと、やう 00015940L9+に申て/留(とめ)けるが、はや御下向あるべしとのたまへバ、 00015950L10色&/馳走(ちそう)申ておくり奉りけるに、ひじりの中に一人申やう、 00015960L11あのごときの名僧、此山へ又ハのぼらじ、大師の/御影(ごえい)に/賛(さん) 00015970L12をたのミ申さんものをと、又おつかけ奉る。何事なると仰 00015980L13らるれハ、しか+と申す。一休わらひ給ひて、それほど 00015990L14の事ハ又立かえらず共なる事也、その御影をいそぎ持来れ 00016000L15とて、道なる茶屋にてやすミておハしける。みな人おどろ 00016010L16き、大/師(し)の/賛(さん)を/請(こふ)に、立ながら/思案(しあん)もなくあそバすこと、 00016020L17聞しより大/博学(はくがく)の/祖師(そし)かなと、/舌(した)の/根(ね)をふるひて、扨大師 00016030L18の/御影(ごえい)を持て来りけれハ、立ながらあそバしける。(九ウ) 00016040L19△△/弘法大師(こうほうたいし)/活仏(いきほとけ) 00016050M1△△△/死(し)ねは野はらの土となる 00016060M2と一筆にさら+とあそバしける。みな+ふかき事もあ 00016070M3りと、いそぎ/登山(とうざん)して/学匠(がくせう)に見せけれハ、/各別(かくべつ)のおどけ事 00016080M4ありしかバ、又ひじり共口をえふさがざりけると也。 00016090¥N5¥J 00016100¥X 00016110M6五△一休和尚ある時/熊野山(くまのさん)へ御/参詣(さんけい)まし+て、/本宮(ほんぐう)へあ 00016120M7がり給ふ。比しも春の半過行なれハ、山&/谷(たに)&の桜、都 00016130M8の二月の比よりもいとめでたかりけれバ、/拝殿(はいてん)によぢの 00016140M9ぼり、/四方(よも)の/風色(ふうしよく)をながめてまし+ける所へ、/社僧(しやそう)一人 00016150M10出て、/客僧(きやくそう)はたゞ人とハ見まいらせずと申けれバ、中+ 00016160M11我等はたゞ人にてハ候はず、出家にて候と仰られしかバ、 00016170M12彼僧さても(十オ)よき御口かなと、一つ二つ物語しける 00016180M13が、一休高野山の詩の事おぼし召出され、此山にても一 00016190M14/首(しゆ)つくりてなぐさまむと、其まゝあそバされける。彼僧に 00016200M15/硯帋(すゞりかミ)を/乞書(こいかき)つけて/宮前(くうぜん)にそなえ給ふ。此僧御筆跡のめでた 00016210M16きをミて、いよ+/推量(すいりやう)申たり、都衆と見たてまつるハひ 00016220M17がめかと申ければ、よくこそ見しり給へ、我等ハミやこの 00016230M18一休なりと仰られしかバ、扨こそたゞ人にハあらじと、は 00016240M19じめより申けるハといひもあへず、彼拝前へあげをき給ふ 00016250¥P50 00016260L1御作の/詩(し)を取来りて、御名をあそばせとこひければ、あそ 00016270L2ばしける。其詩は、(十ウ) 00016280L3△△△△△△△△△△山里放光 00016290L4△△△△△△△山滝吟落碧三 00016300L5△△△△山海浪高船片雲社 00016310L6△山廟等一扶桑神片漲景 00016320L7△山客成群数万人輪塵春 00016330L8△△△△山楼鐘動月輪悩宮 00016340L9△△△△△△△山谷洗流煩本 00016350L10△△△△△△△△△△山花猶馥 00016360L11△△△△△△△△△△△△△△/一休(いつきう)/老人(らうじん)/偶題(ぐうだい)(十一オ) 00016370L13とあそバしける。さて彼僧一休なりとて、/横槌(よこつち)にて庭はき、 00016380L14/杓子(しやくし)で/芋(いも)もり、御/馳走(ちそう)申事、中&いふもおろかなり。折節 00016390L15花のさかりなれハ、/庭前(ていぜん)の花を見給へと酒肴を出してなく 00016400L16さめ申。扨彼僧申けるハ、此山へ又御出なさるゝ事ハはかり 00016410L17がたし、/末代(まつだい)の/宝(たから)にもなるべけれハ、何にても一筆あそバ 00016420L18し給ハれと申けれバ、やすき事也、御望あれとのたまへバ、 00016430L19さても/拝殿(はいでん)にての御/作(さく)の/詩(し)ハ御/自作(じさく)にて候か、又いにしへ 00016440M1もかゝる/詩(し)の侍りける事にて候かと申ければ、されバいに 00016450M2しへよりありし事なり、もろこしの/詩人(しじん)/東坡居士(とうばこじ)が/径山寺(きんざんじ) 00016460M3にてつくりし/詩(し)にかくいへり、(十一ウ) 00016470M4△△△△△△△△△△山僧 00016480M5△△△△△△△山鳥偸来 00016490M6△△△△山雲飛片菓問 00016500M7△山遠路幽深片食道 00016510M8△山花発茂林沈吟尋 00016520M9△△△△山水碧沈樹相 00016530M10△△△△△△△山猿抱還 00016540M11△△△△△△△△△△山客 00016550M13と語り給へば、扨も+めづらしき/詩(し)や、此/年(とし)までかゝる山 00016560M14のおくに住けれバ、かやうなる/詩(し)ハ目なれも/耳(みゝ)なれもいた 00016570M15さず候、とかくちと我等が/愚(おろか)なる/耳(ミゝ)にも、耳なれ目なれし 00016580M16(十二オ)(十二ウ挿画)事をあそバし給ハれと、のぞミけれバ、 00016590M17貴僧の耳なれ目なれたる事ハなにがなとのたまふ所へ、折 00016600M18ふし桜花にハかにはら+と/落散(おちちり)みだれけれバ、/貫之(つらゆき)が哥 00016610M19をふとおほし召出して、いかにも大/文字(もじ)にあそバしける。 00016620¥P51 00016630L1△△桜ちる木のした風ハさむからて 00016640L2△△△空にしられぬ雪ぞふりける 00016650L3是ハいかにとのたまへバ、彼僧、いや是もいまだ耳なれず 00016660L4候と申所へ、又さくら花風にちらされ、さつ+とみだれ 00016670L5けれバ、そのまゝあそバしけるは 00016680L6△雪やこんこ、あられやこんこ、お寺の/柿(かき)の木に 00016690L7△ふりやつもれこんこ(十三オ) 00016700L8是ハとのたまへハ、彼僧はらをすへかね、さてもおどけた 00016710¥G 00016720M1る御僧や、いかに/耳(ミゝ)なれ目なれし物とて、それハあまりに 00016730M2候と申せバ、一休もわらひ給ひて、/実(げに)尤なり、いで+其 00016740M3望の目なれ耳なれしことを書てまいらせむとて、 00016750M4△△きねがすゞ/海(うミ)山木こり/谷(たに)のこゑ 00016760M5△△△入あひのかねに/庭前(ていぜん)のはな 00016770M6とあそバしけれハ、彼僧さてもよき御かる口や、まことに 00016780M7見なれ聞なれし物を望ミけるこそ/愚(をろか)なれとて、御口のかる 00016790M8きを/感(かん)じて、おくゆかしくこそ侍りけれとて、色&馳走申 00016800M9ておくりたてまつりけると也。(十三ウ) 00016810¥N6¥J 00016820¥X 00016830M11六△一休和尚、比しも春の/半(なかバ)の事なるに、花に心をよせ給 00016840M12ひて、いく/枝(え)もあつめ花/篭(かご)に立まじへて、酒などまいり、 00016850M13心もわか+となりておハしましける所へ、一休の/旦那(だんな)の 00016860M14/奥(おく)方まいりける。よくこそ来り給ふとて、さゝなどすゝ 00016870M15め、おかしきことなど御はなしありて、ひたもの酒のミて 00016880M16あそびけれバ、日もはや/西山(せいざん)にをちこちのたつきもしらぬ 00016890M17御寺に、彼女房もべんとはなし居ける。一休如何おぼし召 00016900M18けむ、/今宵(こよひ)ハ御とまりあれと仰られける。女房申けるハ、 00016910M19かりそめにまいり、/長(なが)あそび仕候さへ、なにとやらん/似合(にあハ) 00016920¥P52 00016930L1ぬやうに侍に、一夜とまり申さバうき名や立申べし、其 00016940L2上/夫(をつと)ある身の事に候へバ、いかに心ハさ思ひ(十四オ)て 00016950L3もかなひがたく侍る、先御いとま申すとて立かへりしを、 00016960L4一休袖にすがり、ひらに/今宵(こよひ)ハとまり給へと引とめ給ふ。 00016970L5女房申やう、いまゝでハ一休さまハいきじやかのやうに思 00016980L6ひしが、わらはに御心ありてとゞめ給ふかや、きやうこつ 00016990L7なる仰かなと申けれバ、一休わらひ給ひて、其方へ心を 00017000L8かくれバこそ/愚僧(ぐそう)もぜひともにととゞめ申せ、心かけぬも 00017010L9のが御とまりあれと申すものかと仰られけれバ、/沙汰(さた)のか 00017020L10ぎりや、/夫(おつと)ある身がかゝる事侍るべきかと、ふりきりて/輿(こし) 00017030L11に/乗(のり)、立かへりける。扨/夫(をつと)にあひて、一休は仏のやうに思 00017040L12ひ、そなたもさおぼしめさんが、いたづらなる御坊や、わら 00017050L13ハに酒をすゝめ給ひて、今まで引とゞめ、あ(十四ウ)(十五 00017060L14オ挿画)まつさへ、こよひハ一夜とまれと、かなに仰られけ 00017070L15る。かならずあの寺へ参り給ふなと、二心なきいけんをく 00017080L16り返し申ける。/夫(をつと)ハさる者にて、手を打てわらひ、さりと 00017090L17ては仏なり、なんぢがかくいふもことハり也、よく思ひ見 00017100L18よ、いかなるものにても、われをたのむ/旦那(だんな)の女房に、な 00017110L19れ+しげなく、一夜とまれとハ、中+/出家(しゆつけ)の/身(ミ)にていひ 00017120¥G 00017130M12がたし、よし一休和尚と枕をならべハ/今生(こんじやう)/後生(ごしやう)のうつたへ 00017140M13成べし、我等をかね侍らず、急き行て一夜あそび給へ、な 00017150M14に+の/誓言(せいごん)ぞ、我等のねたミ心ハなしと申せば、/左(さ)あら 00017160M15バ引かへし参るべし、御よろこび有べしと申けれバ、いそ 00017170M16ぎ参りて、ゆる+と一休和尚をなぐさめ給へと申けれバ、 00017180M17女房(十五ウ)よろこび一間所へ/立(たて)こもり、/白粉(はくふん)/口紅(くちべに)きつね 00017190M18のばけたるごとく引つくろひ、/衣裳(いしやう)をかざりていそぎ/輿(こし)に 00017200M19うち/乗(のり)、一休へこそ参りけれ。一休ハはや/寝(いね)給ひしに、門 00017210¥P53 00017220L1ほと+と/扣(たゝく)。一休おどろき立出給へバ、彼女いかにもほ 00017230L2そ※としたる声にて、さきにハ/是非(ぜひ)と仰られけれ共、/夫(をつと) 00017240L3の心うかゞハしくてふりきり立かへりし、あまり御残多く 00017250L4て、夫にいとまをこひ候へバ、/苦(くる)しからじと申侍るゆへ、 00017260L5とまりかけて御はづかしながら参りけると申けれバ、一休、 00017270L6いや+、もはやいやにて候、御帰あれ、先程ハこなたへ 00017280L7心かゝり候が、はや心かゝらず候、はや御かへりあれ+ 00017290L8とて、/門戸(もんこ)かたくしめて音もせず。さりとてハ御なぶり候 00017300L9かと(十六オ)申けれ共、あへて音もせず。是非なくかへり 00017310L10て、夫にしか+と語りけれバ、さあらんと思ひけること 00017320L11よとて、わらひて、天下の老和尚なり、心のうごく時ハう 00017330L12ごかし、うごかざれバうごかし給ハず、もハやとハみじか 00017340L13し、誠に行水のごとき御心や、いさぎよし+、とかく/凡人(たゞひと) 00017350L14にてハなしとて、いよ+たつとびけると也。 00017360¥N7¥J 00017370¥X 00017380L16七△/堺(さかひ)にての事なりしに、一休和尚へ常にまいりて、御 00017390L17心やすく御意を得たる又次郎といふ町人有ける。/或(ある)時/河豚= 00017400L18汁(ふくとう=じる)をしたゝか/食(くらい)てけるが、/殊外(ことのほか)に/酔(えい)て、終に其日の内に/死(し) 00017410L19しけるが、今はの時に申置けるハ、我世にありし時ハ、死 00017420M1ぬる事ハいつの比ぞやと思ひけるなれバ、後世とてねがひ 00017430M2(十六ウ)をきし事もなし、され共一休和尚へ常にしかう申、 00017440M3御物語共うけたまハりし/結縁(けちえん)あれバ、/引導(いんだう)をもたのミ奉れ、 00017450M4かゝる不/慮(りよ)なる/死(し)を仕けると、さこそあハれにもおぼしめ 00017460M5すらめ、かならずといひ置て、終にむなしく成にけり。/妻= 00017470M6子眷属(さい=しけんぞく)なげきかなしミ、/遺言(ゆいごん)の/通(とをり)、/具(つぶさ)に一休和尚へ申上け 00017480M7れバ、いとやすき事也、扨&不便の仕合と仰られける。然 00017490M8処へはや時分もよく候間、一休御出をあふぎたてまつると 00017500M9て、/再(さい)三人をこしけれバ、一休おほせられけるハ、いや 00017510M10+我等罷出るにも及バず、引導をつぶさに/書(かい)てつかハす 00017520M11べし、誰にてもよミあげてほふむれよと仰られけれバ、/妻= 00017530M12子(さい=し)なげきて、/遺言(ゆいごん)にて候間、ひらに御出下されよ、(十七オ) 00017540M13此分の御じひとさま+にくどきけれバ、一休のたまひけ 00017550M14るハ、我等が出れば/却(かへつ)てかれがまよひとなる也、すなはち 00017560M15/書(かき)つけつかハすべしとてあそバしけるハ、 00017570M16△海中有毒魚△△名云河琢魚 00017580M17△面腹白背斑△△人不食此魚 00017590M18△呼鳴痛哉又次郎△食之忽死矣 00017600M19△彼歳五十四△△彼歳五十四 00017610¥P54 00017620L1△合せて/数珠(じゆず)一/連(れん)百八/煩悩(ぼんなう)のきづなをふつつと/截(きつ)て行たい 00017630L2△方へつつとゆけ 00017640L3△/木曽(きそん)十七/寅(とら)の/年(とし)、/角(かど)のなひこそ/添(そい)よけれ 00017650L4とあそバしてつかハされけるとかや。しかれバおの+/肝(きも) 00017660L5を(十七ウ)けしけれ共、仰なれバ其ごとくにおこなひける 00017670L6が、其ゐんだうの書たるを、其子共/秘蔵(ひさう)し/伝(つたへ)て、其家のた 00017680L7からとし、又もなき/墨跡(ぼくせき)にて、今の代&まで所持仕りて有 00017690L8けるとかや。 00017700¥N8¥J 00017710¥X 00017720L10八△一休和尚の/時代(じだい)までハ、方&の寺&より、七月十四日 00017730L11にハ/大内(おほうち)へ/灯籠(とうろう)をさゝげける。大徳寺にも/開山(かいさん)/大灯国師(だいとうごくし)よ 00017740L12りゆへありてさゝげしかバ、後&まで/例(れゐ)になりて、やめが 00017750L13たくぞ有けれハ、一休もこむつかしくやおぼしけん、ある 00017760L14時/大裏(だいり)へ灯篭あげるとて、/狂詩(けうし)を一/首(しゆ)つくりて、其/灯篭(とうろう)に 00017770L15相そへてさゝげ給ひけるハ、 00017780L16△性霊今日出来迎△△雨露直供万葉棚(十八オ) 00017790L17△挑得灯明天上月△△松風流水読経声 00017800L18とあそバしけれバ、みかど御えい覧まし+て、まことに 00017810L19一休の/詩(し)なるものを、やうなき/灯篭(とうろう)をもとめける也、/自今= 00017820¥G 00017830M12以後(じこん=いご)大徳寺よりも何方の寺よりも、七月に燈篭をさゝぐる 00017840M13事有べからずと仰出されけると也。世の人是を聞て、扨も 00017850M14+/名僧(めいそう)かな、かゝる御こゝろざしにてハ、定而御寺にハ 00017860M15/性霊祭(しやうりやうまつり)はあるまじ、/若(もし)あらバさこそかハりたる事にてや 00017870M16有べし、いざや人+一休の御寺へ参りて/見(けん)物し、/末代(まつだい)のか 00017880M17たり/句(く)ともなすべしと、四五人づれにてまいりて、一休へ 00017890M18御目にかゝり、此間/禁裏(きんり)へさゝげ給ひし灯篭の/詩(し)、/洛(らく)中に 00017900M19て、是のミ沙汰仕候、定てかゝる御(十八ウ)(十九オ挿画)こ 00017910¥P55 00017920L1ゝろざしにてハ、/性霊(しやうりやう)まつりもあそバし申すまじく候と申 00017930L2けれバ、いや+我等ハ三/界(がい)の/衆生(しゆじやう)を思ふゆへに、/有縁無= 00017940L3縁(うえんむ=えん)の/悪鬼(あつき)をまつりて、しゆ※のものをたむくるゆへ、/広= 00017950L4大無辺(くハう=だいむへん)なる性霊祭仕て候と仰られけれバ、みな人/案(あん)に/相違(さうい) 00017960L5して、此御寺にハみえ申さず候が、いづ方にか御まつり候 00017970L6ぞと申けれバ、是より四五町わきをかりて候と仰らる。皆 00017980L7人申けるハ、とてもの御ことに見物仕度候、御人そへられ 00017990L8下され候へと申けれバ、きどくなることをいひたまふかた 00018000L9※や、人までもなし、われら同道申すべし、水むけし給 00018010L10へとまことしやかに仰られけれバ、皆&よろこび御跡につ 00018020L11きて行けれバ、ひがし河原へ御出有て、これ+(十九ウ) 00018030L12見たまへとて、両方の御手をひろげ給ふ。みな+どこも 00018040L13とにて候ぞとうと+しけれバ、一休これ見給へとて、く 00018050L14る+と/舞(まひ)、手をひろげたまへ共、みな/合点(がつてん)せざりけれバ、 00018060L15おの+ハ見物ハなるまじきぞ、いひてきかすべし、たゞ 00018070L16/耳(ミゝ)にてお聞あれと仰られけれバ、みな人あきれて/立居(たちすハ)りて 00018080L17聞けれバ、一休/一越調(いちこつでう)をあげて仰られけるハ、 00018090L18△△山城の瓜やなすひをそのまゝに 00018100L19△△△たむけになれやかも川の水 00018110M1聞給ひけるか、是大なる/性霊棚(しやうれうだな)にてハなきかと仰られけれ 00018120M2バ、皆人扨も+いや共いハれぬ御/意(い)やとて、かんにた 00018130M3(二十オ)へてかへりけり。 00018140¥N9¥J 00018150¥X 00018160M5九△一休和尚の御/袋(ふくろ)ハ/浄土宗(じやうどしう)にて有しとかや。一休つねに 00018170M6かな/法語(ほうご)書てつかハし、又ハ水/鏡(かゞミ)といふさうしを送りて道 00018180M7ををしへ給へ共、しか+御さとりもなく、明暮たゞ念 00018190M8仏のミにて過し給ふ。一休きこし召、一段の御心入也、 00018200M9念仏にても仏にならせ給ハんことハうたがひなけれ共、此 00018210M10御所より愚僧が庵へ御出あらんに、何のうたがひなく御出 00018220M11あるべし、是よく常&道をしり給ふゆへに、/苦(く)もなくうか 00018230M12+とありき給ひても、/庵(いほり)へハ御出ある也、又かたへ/夷(いなか)人 00018240M13が我庵を尋来らんに、いか程道にまよひても、我等が庵あ 00018250M14る上ハ何れたづねあふなり、その尋ぬるまでの心ぐるし 00018260M15(二十ウ)き分が迷ひなりと仰られけれバ、しからバ何にて 00018270M16もしめし給へと仰られける。一休さあらバ一句申てミんと 00018280M17て、 00018290M18△△目なしとぢ+こゑについてましませ 00018300M19皆人の悟とやらむいふことを/悟(さと)る、其ならひはじめに父母 00018310¥P56 00018320L1もなく、とつと/已前(いぜん)の我身ハ何なると申すに、いかにして 00018330L2もしらぬことが申さるべきかと云、といふものハ何ものぞ 00018340L3といへとも、といふものをしらずと、とがむるものもしら 00018350L4ず、しかれば/尺迦(しやか)/弥陀(ミだ)ハよしなのとハずがたりやといふも 00018360L5のハ、とはずがたりかといひけれバ、一/黙(もく)しておりける。 00018370L6此心を見たまへと仰られけれバ、御袋のいハく、 00018380L7△△いへばいハずいはねはむねにさハがれて(二十一オ) 00018390L8△△△思はぬさきやほとけなるらん 00018400L9とあそバしけれバ、一休よろこび給ひて、とりあへず一/首(しゆ) 00018410L10侍り給ひける。 00018420L11△△いまハゝやこゝろにかゝる雲もなし 00018430L12△△△月といるへき山しなけれと 00018440L13と侍りて、いよ+御/工夫(くふう)尤も+とてかへり給ひけると 00018450L14なり。 00018460¥N10¥J 00018470¥X 00018480L16十△/或(ある)時/蜷川(にながハ)新右衛門来りて、/仏法(ぶつほう)ばなしなどしてあそび 00018490L17ゐけるに、一休の仰られけるハ、いま時の/出家(しゆつけ)こゝろざし 00018500L18うすし、仏ハ五百/戒(かい)をさへたもち給ひしとかや、せめて 00018510L19其数とりの五戒をバ、よくたもつべきことなり、とのた 00018520M1まへハ、新右衛門(二十一ウ)申されけるハ、まことに沙門 00018530M2ハ申におよハず、俗の上にもせめて五/戒(かい)はたもちたき事に 00018540M3候と申すに、一休、いや/俗(ぞく)は/是非(ぜひ)なき事也、出家にハもた 00018550M4せたく思ふ也、去ながら目に見え、/耳(ミゝ)に聞ゆるもの、五/戒(かい) 00018560M5をたもつ事なし、わづかなる一尺の/扇子(あふぎ)さへ五/戒(かい)をやぶる 00018570M6上ハ、まして/僧俗(そうぞく)/生(いき)とし/生(いけ)るものとして、五戒をたもたざ 00018580M7るハことハり也と仰られければ、新右衛門申されけるハ、 00018590M8此扇子も五戒をやぶり申候や。中+やぶりたり。是ハ又 00018600M9和尚の/出来口(できくち)にて侍らん、いで五戒を一&とひたてまつる 00018610M10べし、こたへてきかしめ給へ、いつもの御/頓作(とんさく)の御かる口 00018620M11うけたまハらんと申けれバ、さらバ一&とひ給へ、答て見 00018630M12申べし。新右衛門/問(とふ)(廿二オ)ていはく、 00018640M13△/如何(いかなるか)/是(これ)/殺生戒(せつしやうかい)△/答(こたへ)て/云(いハく)△/竹截(たけきり)ほねとハなさゞるや 00018650M14△如何是/偸盗戒(ちうたうかい)△答て云△/虚空(こくう)の風を/偸(ぬす)まぬや 00018660M15△如何是/邪淫戒(じやいんかい)△答て云△かなめと+あハせずや 00018670M16△如何是/妄語戒(もうごかい)△答て云△/画(ゑ)そらごとをかゝざるや 00018680M17△如何是/飲酒戒(をんじゆかい)△答て云△/開(ひらい)てざゝんざいはざるや 00018690M18是扇子の/破戒(はかい)ならずやと、仰られけれバ、今にはじめぬ御 00018700M19口なりけれ共、一入有がたく存候、去ながら五戒の内/偸盗(ちうたう) 00018710¥P57 00018720L1戒の御/答(こたへ)に不/審(しん)申たく候。一休答ていはく、/如何(いか)なるふし 00018730L2んぞや。新右衛門のいはく、/古語(こご)に、 00018740L3△扇是日本扇△風不日本風(廿二ウ) 00018750L4と聞時ハ、扇こそ日本の扇をうごかすらめ、風ハ日本ばか 00018760L5りとハかぎらず、千/里(り)/同風(どうふう)とあるからハ、ぬすむ所いなや 00018770L6とおどけて一句申けれバ、一休、新右衛門とのたまふ。や 00018780L7つと/答(こたふ)。一休一/首(しゆ)、 00018790L8△△音もなく/香(か)もなき人のこゝろにて 00018800L9△△△よべばこたふるぬしもぬす人 00018810L10とあそバしけれバ、さてもよき御口や、先ほどよりの/問答(もんだう)、 00018820L11御むつかしながら一筆あそバし給ハれとて、書てもらい/掛(かけ) 00018830L12物にせられけると也。此/懸(かけ)物都の中にもちたる人あり。こ 00018840L13れをうつす。 00018850¥N11¥J 00018860¥X 00018870L15十一△一休和尚の/旦那(だんな)に/狗子(くし)/仏性(ぶつしやう)の/話(わ)をさづけ給ひしに、 00018880L16(廿三オ)此人/狗子(くし)とハ、犬の子なり、是に/仏性(ぶつしやう)とハ何とも 00018890L17/合点(がつてん)まいらずと申ければ、聞て見たまへとて仰られける 00018900L18ハ、 00018910L19△△犬の子にあやかる人のしわざこそ 00018920M1△△△ほとけともなれ地ごくへも入れ 00018930M2△むかひ殿の/犬子(ゑのこ)ろハまだ目があかぬか、おつぼにまゝ入 00018940M3△てころ++や 00018950M4と仰られけれハ、いま目があきて候、扨/狗子(くし)の所ハやう 00018960M5+いまめがあき候が、/趙州(てうしう)の/有無(うむ)の所ハ千年工夫仕候共、 00018970M6/愚痴(ぐち)の我等ハ/得道(とくだう)仕る事ハなりがたしと申けれバ、哥よミ 00018980M7て聞すべし、此哥をつねに/吟(ぎん)じて心得て見られよとて、 00018990M8△△なしといへばなしとや人のおもふらむ(廿三ウ) 00019000M9△△△こたへもそする山ひこのこゑ 00019010M10△△ありといへはありとや人のおもふらん 00019020M11△△△こたへてもなき山ひこのこゑ 00019030M12とあそバしけれバ、/彼者(かのもの)しばらく/工夫(くふう)して、しからバあり 00019040M13ともなしともしれぬにて御ざ候かと申けれハ、 00019050M14△△/有無(うむ)をのする/生死(しやうじ)のうミのあまをふね 00019060M15△△△底ぬけて後有無もたまらず 00019070M16と仰られけれバ、彼人此哥にて/得心(とくしん)して一首、 00019080M17△△/有無(うむ)そしるなにおもひけむ趙州も 00019090M18△△△なかりしさきの犬の一こゑ 00019100M19と申けれハ、一休聞給ひて、おつぼのまゝを一口まいりけ 00019110¥P58 00019120L1る(廿四オ)よとてわらひ給へハ、/旦那(だんな)/礼拝(らいはい)してかへりける 00019130L2と也。 00019140¥N12¥J 00019150¥X 00019160L4十二△比しも八月の下旬なれバ、大風大雨しきりにして、 00019170L5/洛(らく)中の/家(いへ)、/堂(だう)/社塔(しやとう)もそこねけれバ、/蜷川(になかハ)新右衛門とるもの 00019180L6も取あへず、一休和尚へ御見舞申て、御坊御内に御座候か、 00019190L7何と+殊外の大風大雨、御寺ハいづ方もそこね申さず候 00019200L8やと申けれバ、一休出合給ひて、よくこそ御心付候ものか 00019210L9な、誠にめづらしき大風にて候、去ながら/当寺(たうじ)ハ先何事も 00019220L10御座なく候とて一首、 00019230L11△△わかやどははしらもたてずふきもせず 00019240L12△△△雨にもぬれず風もあたらず 00019250L13と仰られけれバ、その御/庵(いほり)はいづくのほどにて候ぞと申 00019260L14(廿四ウ)(廿五オ挿画)けれは、一休わらハせ給ひて、されバ 00019270L15こそ大事のことをおたづねあれ、 00019280L16△△わか庵ハミやこのたつミしかぞすむ 00019290L17△△△よをうち山と人ハいふなり 00019300L18と仰られけれバ、さてハ/喜撰(きせん)法師と/相住(あいずミ)なされ候かとたハ 00019310L19ふれけれバ、いや喜撰にかりて居る也と有ければ、さてハ 00019320¥G 00019330M12借屋殿にて候かと申て笑ひしかバ、一休又一首あそバしけ 00019340M13る、 00019350M14△△かりの世にかしたるぬしもかりぬしも 00019360M15△△△かすとおもハずかるとおもハず 00019370M16とあそバしけれバ、新右衛門此哥を/感(かん)じて扇に/書留(かきとめ)(廿五 00019380M17ウ)かりそめにまいりても/得道(とくたう)の徳侍るとて、よろこびて 00019390M18かへりけるが、門外より立かへりて、さて+おかしき 00019400M19たはふれごと仰られて、うかゞひ申すべきとおもふことを 00019410¥P59 00019420L1打忘れ候て、すでにかへらむと仕候、一/首(しゆ)につゞり申候、 00019430L2此心いかゞ心得申すべしやとてよめる、 00019440L3△△吹ときはものさハがしき風なるが 00019450L4△△△ふかぬときにハいづちなるらん 00019460L5と申けれハ、そのまゝ御返哥ありけるハ、 00019470L6△△吹ときハむべさはがしき山かぜの 00019480L7△△△ふかぬときにハふかぬかぜかな 00019490L8と仰られけれハ、新右衛門物をもいハずうなづきて、し 00019500L9(二十六オ)ばらく礼拝をなしてかへりしと也。 00019510¥N13¥J 00019520¥X 00019530L11十三△一休和尚の/末期(まつご)の/句(く)とて、世の人の口にまかせけ 00019540L12るハ其/数(かず)/多(おほ)し。是が/実(じつ)也、是ハ不/実(じつ)なりといふも不/実(じつ)也。 00019550L13/如何(いかん)とならバ/彼(かれ)も/御影(ごえい)を書て、/賛(さん)をもとめ、是も/賛(さん)をもと 00019560L14むれば、其/賛(さん)にハ/出(で)るまゝにあそバしけると也。ある所の 00019570L15/御影(ごえい)の/賛(さん)にあそバしけるハ、 00019580L16△朦&而三十年△△△淡&而三十年 00019590L17△朦&淡&六十年△△末後晞糞捧梵天 00019600L18此句&もあり、又の/語(ご)にハ、 00019610L19△/借用申(しやくやうもふす)/昨月(さくぐハつ)/昨日(さくじつ) 00019620M1△/返弁申(へんべんもふす)/今月(こんくわつ)/今日(こんにち)(廿六ウ) 00019630M2△/借置(かりをき)し五つのものを四つかへし 00019640M3△△△本来空にいまぞもとづく 00019650M4又ある/末後(まつご)とやらむにあそバしけるとて人のいへるは、 00019660M5△/生也(しやうや)/死也(しや)△△/死也(しや)/生也(しやうや) 00019670M6△/柳(やなぎ)ハ/緑(ミとり)花ハ/紅(くれなゐ) 00019680M7△△/喝(かつ) 00019690M8△柳不緑花不紅、△御/用心(ようじん)+、△一休/筆題(ひつだい) 00019700¥N14¥J 00019710¥X 00019720M10十四△ある人一休の御寺へよしありて参りけるが、/或夜(あるよ)/沙= 00019730M11弥(しや=ミ)/小喝食達(こかつしきたち)をこまづけて、一休の御/遺言(ゆいごん)共をおがミ侍し。 00019740M12一&/名誉(めいよ)を/極(きハ)めたる事ども也。(廿七オ) 00019750M13一/自画(じぐハ)/自賛(しさん)の/御影(ごえい)をおがミ侍りしに、かうべハいかにも長 00019760M14△/髪(はつ)にして、/眼(まなこ)をきつと見出し、うすあかき衣をめし、丸 00019770M15△竹の/柱杖(しゆぢやう)をつき、いすにこしかけ侍りて、/賛(さん)に/柳(やなぎ)は/緑(ミとり)花 00019780M16△は/紅(くれない)とあそバして、一/頌(じゆ)あり。 00019790M17△△行脚事畢△△今日時節 00019800M18△△折主丈子△△焼六月雪 00019810M19△△△/虚堂之(きだうの)/再来(さいらい)/天下(てんか)/老(らう)/和尚(をしやう)一/休宗純(きうそうじゆん)/末後(まつごに)書之 00019820¥P60 00019830L1△とあそバしける。見る目もすさまじくて、/身(ミ)の/毛(け)もよだ 00019840L2△つ事なり。 00019850L3一/真珠菴(しんしゆあん)にハ、/末代(まつだい)まで出世すべからずと仰られしが、/自(ミつから) 00019860L4△(廿七ウ)の一代にも出世ハましまさゞりけれ共、出世 00019870L5△の/法語(ほうご)共ハ/名誉(めいよ)なる/語(ご)共を出して書置給ふ。和尚/号(がう)ハお 00019880L6△くり/号(がう)也。 00019890L7一△/自(ミつから)いへり/虚堂(きだう)の/再来(さいらい)なりと。其外ふしぎなる事を書を 00019900L8△き給ふことおほし。其/遺言(ゆいごん)のおくに、我/死(し)して百年過て、 00019910L9△もろこしより/禅師(ぜんじ)来らバ、我再来と思へ、又二百年に当 00019920L10△る歳我しがゐを/土(つち)よりほり出して見べし、若かたち/朽(くち)た 00019930L11△らバ、いひ置しことハみなたはことゝ思ひて、書置し/語(ご) 00019940L12△共火中すべし、大かたハしがゐハそこねまじとのたまひ 00019950L13△をきしと也。今年百八十三年になると也。/隠元(いんげん)/来朝(らいてう)なり。 00019960L14△百年あまりと仰られしに/相違(さうい)なし。隠元ハ一休の/再来(さいらい)か 00019970L15△や。しかれハ二(廿八オ)百年目ハ今十七年也。御しが 00019980L16△ゐも定而かハり給ふましきなり。 00019990L17一今の一休の/木像(もくざう)ハ近き比つくりけるが、/諸檀那(しよだんな)或は/弟子(でし) 00020000L18△衆まで、一休和尚の御そりかミをまもり袋におさめて持 00020010L19△けるが、かの/木像(もくざう)をつくりし時、御/長髪(ちやうはつ)の/躰(てい)なれバ、/直(ぢき) 00020020M1△の御/剃髪(そりかミ)を御/鬚(ひげ)御/眉(まゆ)御/髪(かミ)に/仏工(ぶつこう)がうゑけると也。御そり 00020030M2△かみを我等まで拝ミ奉る事有難からずや。/毛(け)の色もかハ 00020040M3△り給ハず。百八十三年を/経(へ)けれバ、二百年めに御しがゐ 00020050M4△をほりいだして見るまでもなく、あり+とおはしまさ 00020060M5△むことうたがひなし。 00020070¥N15 00020080¥X 00020090M7十五△一休和尚の御こゝろざしを思ひミるに、/寒山子(かんさんし)の/風= 00020100M8狂(ふう=けう)(廿八ウ)にかハる事なし。/寒山子(かんさんし)の/詩句(しく)に、 00020110M9△我心如寒月△△秋水清無底 00020120M10と侍りしが、一休の/道哥(だうか)に、 00020130M11△△我こゝろそのまゝほとけいきほとけ 00020140M12△△△波をはなれて水のあらばや 00020150M13と侍り給ふ。これ寒山の詩の心也。寒山ハ/文殊(もんじゆ)なりと/伝(つた)へ 00020160M14し。一休ハさだめて/普賢(ふげん)なるべし。されバ/狂雲集(けううんしう)に其詩文 00020170M15おほしといへ共、たゞの人の目に見えぬをにくミて、その 00020180M16中より/金聾(かなつんぼ)の耳へも入やすき詩を書ぬき、/盲(めくら)の目にも見あ 00020190M17きらむべきひらがなにてしばりつゝ、子供にも覚させ、お 00020200M18となにもいまだしらぬ人に見せ侍らんと(廿九オ)かたこ 00020210M19とをかへりミず、/仄平(そくひやう)をわきまへねども、人の書あやまり 00020220¥P61 00020230L1しをもつてわがあやまりとす。われあやまりてもくるしか 00020240L2らねバ、かくあらハし侍る。 00020250L3一休老和尚之狂詩二十首 00020260L4△△△題鉢敲 00020270L5△昼不笠兮夜不茵△△東西南北自由身 00020280L6△瓢簟扣罷有何益△△花発十方浄土春 00020290L7△△△題影法師 00020300L8△元来有物不離身△△揚手同揚伸足伸 00020310L9△全躰分明無面目△△起居動静似侮人 00020320L10△△△/彼岸(ひがん)(廿九ウ) 00020330L11△今日彼岸欲開鉢△余身貧乏雨晴稀 00020340L12△無蓑無笠又無杖△△結句食犬引腰帰 00020350L13△△△/梅法師(むめぼうし) 00020360L14△往昔江南没落時△△起青道心成法師 00020370L15△欲問横斜疎影古△△伊勢壷底暗皺眉 00020380L16△△△/虱(しらミ) 00020390L17△独臥寒衾患幾千△△余身貧極有誰憐 00020400L18△夜深依被半風食△△天到暁鐘未作眠 00020410L19△△△/男根(なんこん) 00020420M1△一生忍衆動焦身八寸推根尚勝人 00020430M2△入道修行若時事△△須臾老去革頭巾(三十オ) 00020440M3△△△/女淫(ぢよいん) 00020450M4△元来有口更無言△△百億毛頭擁丸痕 00020460M5△一切衆生迷塗所△△十方諸仏出身門 00020470M6△△△寄少人三首 00020480M7△紅顔緑髪冠沙喝△△况忘御年十二三 00020490M8△若有貧僧憐愍志△△寮前吹嘯致推参 00020500M9△△△其二 00020510M10△少年十五月如出△△一笑紅顔花似開 00020520M11△木石無心多世上△△鳴呼是此玉瑕哉 00020530M12△△△其三 00020540M13△若衆天然好富貴△△摺切争可入御意 00020550M14△無酒無茶又無餅△△山僧風流只文字 00020560M15△△△賛児文珠 00020570M16△看画怱忘七仏師△△雲鬟霧鬢少年姿 00020580M17△手中経巻是何字△△定有愁人小艶詩 00020590M18△△△賛阿弥陀仏 00020600M19△汝是桑願△△一人不救 00020610¥P62 00020620L1△我無一願△△万民不泄 00020630L2△△△賛大黒 00020640L3△大黒尊天其面黔△△諸人信仰置棚陰 00020650L4△平生愛鼠是何事△△足下米嚢無用心 00020660L5△△△賛布袋(卅一オ) 00020670L6△菩提煩悩△△△睡裏乾坤 00020680L7△寤寐恒一△△△仏無虚言 00020690L8△△△青地/扇(あふぎ)/切薄(きりはく) 00020700L9△本真白物染青&△△日本晴時如見星 00020710L10△又有縦茲思出事△△宇治川畔乱飛螢 00020720L11△△△八島之壇浦合戦図 00020730L12△射手名人能登守△△兵法達者源九郎 00020740L13△秋風有恨八嶋浦△△狼藉忠信亡菊王 00020750L14△△△/一谷合戦(いちのたにかつせん)/図(のづ) 00020760L15△万騎下山源氏兵△△平家運尽出堅城 00020770L16△長江不洗英雄恨△△日夜風涛戦皷声(卅一ウ) 00020780L17△△△源九郎流弓図 00020790L18△漫&滄波已落弓△△恰如初月掛晴空 00020800L19△忽伸左臂取来者△△天下英雄在■中 00020810M1△△△熊谷招於敦盛図 00020820M2△生年十六美男児△△身命砕珠回馬時 00020830M3△熊谷道心従此発△△法然庵室念阿弥 00020840M4△△△佐&木四郎宇治川先陣図 00020850M5△万騎如雲宇水辺△△東関諸将各争先 00020860M6△功名誰出四郎上△△一馬化龍何着鞭 00020870¥Y1△一休はなし下終(卅二終オ) 00020880¥Q 00020890M11△寛文八@戊△|△申@暦六月吉辰 00020900M12△△△△△△△△書林堂△山本重郎兵衛梓刊(卅二終ウ) 00020910¥P63 00020920¥U噺本大系△第三巻 00020930¥T一休関東咄 00020940¥G 00020950¥Y 00020960L16寛文十二年刊 00020970L17編者未詳 00020980L18大本三巻 00020990L19国会図書館蔵 00021000¥Y一休関東咄序 00021010M3比ハ寛文十一の年/二月(きさらぎ)の比、ながさめふりつゞ/け((ママ))、いとさ 00021020M4びしくて暮しかねたる折ふし、したしき友/二人(ふたり)/三人(ミたり)来りて、 00021030M5けふハ末の五日天神の/縁日(ゑんにち)なれバ、いざや北野へとすゝめ 00021040M6ける。やつかれも心さし有ければ、さいわいと打つれてま 00021050M7うでける。かへるさに門の/右左(ミぎひたり)に、何とハしらず人のむれ 00021060M8ゐしをミれば、いかさまにも/当世(とうせい)はやる/虎(とら)や/薬(くすり)の/類(たぐい)ならん 00021070M9と立よりてミれば、さにハあらで、から大和の事ともしるし 00021080M10たるふミあき人、多くの草紙をかざりし中に、一休はなし 00021090M11となんあり。ひらいてこれをミるに、聞しにまさるかる口、 00021100M12おもしろき事共いふにたらず。しかハあれどかき残せるは 00021110M13なしおほし。殊にハくわんとうにて(一オ)の物語まれなり。 00021120M14やつかれいやしくもこれをくやミて、むぐらおひてあれた 00021130M15る/宿(やと)にかへり、一つ二つ三つ四ついつわりまじりのむかし 00021140M16物語、筆にまかせかきつゞり侍る所に、おりしも/梓人(あつさひと)来り 00021150M17て見るとひとしく、さてもよき/笑草(わらひぐさ)のたねなるかな、あづ 00021160M18さにちりばめて世にひろめんといふ。やつかれ見しにもあ 00021170M19らぬ/昔(むかし)がたりの、聞しをたよりにかきつくれハ、其ことさ 00021180¥P64 00021190L1またがひたるもおほからん。ことにいやしき筆に書つくれ 00021200L2ば、かたことなどもおほかるべし。いかでか人に見せ侍ら 00021210L3んとじゝけれども、ひたすらにすゝめられて、一二さつと 00021220L4なして、一休くわんとうばなしとなづけ侍る。これたゞ女 00021230L5わらべのもてあそびなり。/賢眼(けんがん)にをよぼす事有べからすと 00021240L6いふことしかり。(一ウ) 00021250¥Y1一休関東咄巻上△目録 00021260M3第一△八はしにてきやうかの事 00021270M4第二△ミねのやくしへきやうかをつかハさるゝ事 00021280M5第三△一休衆道ぐるいの事 00021290M6第四△けいせいにいんどうわたさるゝ事 00021300M7△△△△付にないぢや屋にいんどうの事 00021310M8第五△かいの国にてぢごくこくらくのもんだうの事 00021320M9第六△らうにん御ひきたての事 00021330M10第七△大しよくばなしの事 00021340M11第八△ばけもの御たいじの事 00021350M12第九△まめのしうくの事 00021360M13第十△かしまにて天ぐともんだうの事(二オ) 00021370M14第十一△こくしへ下おびをつかハさるゝ事 00021380M15第十二△ひやうたんのさかことばの事 00021390M16第十三△ひゑい山にて御付句の事 00021400M18△△△△△△△△△△△△△△△上巻終(二ウ) 00021410¥P65 00021420¥T1上巻 00021430¥N1¥J 00021440¥X第一△八はしにてきやうかの事 00021450L5三河のくにの八はしハ、なにをふめいしよにて、そのかミ 00021460L6なりひらも、かきつばたの五もしを句のかミにをひてよま 00021470L7れけるとかや。一休も御らんなされたくや思しめしけん、 00021480L8ところのものにあんないさせて御らんずれとも、八はしハ 00021490L9あれてかきつばたもなし。ところせきまて田をうへてけれ 00021500L10ハ、いつれを八はしとも見もわかぬていなりけり。一休、 00021510L11△△をとにきく三河にかけし八はしも 00021520L12△△△田ハかり有てかきつばハなし 00021530L13とあそはされけるとかや。 00021540¥N2¥J 00021550¥X第二△ミねのやくしへきやうかをつかハさるゝ事(三オ) 00021560L17おなしきくにみねのやくしハ、れいげんあらたにましませ 00021570L18ハ、てうせきまうずる人たえざりけり。こゝに/当国(とうこく)やはぎ 00021580L19といふ所に、かさをやむもの有て、七&日のぐわんをたて、 00021590M1まいにちをこたらすまうでける。すでに四十余日におよべ 00021600M2ども、そのしるしなけれハ、如来をうらミたてまつりて、 00021610M3さん+あつこうしけるが、一休の御くだりときくよりも、 00021620M4いそぎ御むかひにいで、しか+のよし申けり。一休きこ 00021630M5しめし、御しめしありけるハ、如来のれいげんなきにハあ 00021640M6らず、たゞなんぢが身をうらむべし、さりなからわれいの 00021650M7つてミんとて、きやうか一しゆあそバし、/今晩(こんばん)まうでゝこ 00021660M8れをよむべしとのたまひけれハ、びやう人よろこび、いそ 00021670M9きその夜ま(三ウ)いりける。ころしも五月中の二日なれバ、 00021680M10きせんくんじゆの其中に、あるひハげんぜあんをん、ごせ 00021690M11うぜんしやう二世あんらくといのるもあり。又なむやくし 00021700M12るりくわうによらい、かれをたすけ給へ、これをすくひ給 00021710M13へなどゝ、くち+にのゝしれハ、ものさハがしくて心さ 00021720M14だかならず。しバらくなひゐんに入て、人のしづまるやう 00021730M15をまちけり。やう+しんかうにおよべハ、ミな人げんじ 00021740M16て、とうミやうのほうしとびやう人ばかりなりけれバ、く 00021750M17だんのうたをとりいだし、つゝしんでよミあげたり。 00021760M18△△なむやくし/衆病(しゆびやう)/悉除(しつじよ)のぐわんなれば 00021770M19△△△身より仏の名こそをしけれ 00021780¥P66 00021790¥G 00021800M1とよミもはてぬに、ないゐんしんどうして、けたかき御こ 00021810M2ゑにて、(四オ)(四ウ・五オ挿画) 00021820M3△△村雨ハたゞ一ときの物ぞかし 00021830M4△△△をのがミのかさそこにぬぎをけ 00021840M5ときこえけり。ありがたき仏ちよくやと、しばらくらいは 00021850M6いし、をきあがりてミれば、ミのかさハをちてあともなし。 00021860M7こつずいにとをつてとをとく思ひ、すぐにほつしんしてし 00021870M8よこくしゆぎやうしけるとかや。 00021880¥N3¥J 00021890¥X第三△一休衆道ぐるいの事 00021900M11一休ハしゆどうずきにておハしけるとかや。されバちごか 00021910M12つしきへの御ゑんじよ、こゝかしこにいまにあり。それが 00021920M13したち所にミたりけるハ、するがのふちうに小玉弁之助と 00021930M14て、所一ばんの/美童(ひどう)ありけるに、ない+御くどきありけ 00021940M15れども、御なぶりなさるゝなどいふていらへも申さゞる所 00021950M16に、やかて/狂哥(きやうか)一首あそハして/遣(つかハ)されける。(五ウ) 00021960M17△△花ハねに鳥ハふるすにかへれども 00021970M18△△△人ハわかきにかへる事なし 00021980M19とばかりにて、弁殿まいる、ミやこがたのづくにうとあそ 00021990¥P67 00022000L1はしつかハされけれハ、御うたにやはぢけん、しミ※と 00022010L2御へんじ申上て、すなハちそのよまいり、御のぞミをかな 00022020L3へけるとかや。 00022030¥N4¥J 00022040¥X第四△けいせいにいんどうわたさるゝ事付△にないちや屋にいんどうの事 00022050L7そのころあかさかに、いつきといふ名たかき遊女ありける 00022060L8か、しばらくわづらひて身まかりけり。したしきものども 00022070L9あつまりて申けるハ、それ女ハ五しやう三じゆうにゑらわ 00022080L10れつミふかし、ことにながれの身なれバ、おほかたにてハ 00022090L11かなふまじ、いざや一休をたのミ(六オ)たてまつりとむら 00022100L12ハんとて、御しゆくしよへまいり、御りやくにゐんどうあ 00022110L13そばしくたされ候ハゝ、ありがたくこそハそんじ候ハめと 00022120L14て、ひたすらにたのミたてまつれハ、一休やすき事と、か 00022130L15る+しくも御座なされて、いんどうあそハしけるハ、 00022140L16△△僧ハ衣をうり、女ハべにをうる。 00022150L17△△柳ハみとり、花ハくれない。かつ。 00022160L18とのたまひけれは、死人をいれたるくわんより、くハうミ 00022170L19やうかくやくたるとミへしが、そのよすなハち日ごろした 00022180M1しきものどものゆめに、じやうぶつとげたるよしミへける 00022190M2とかや。又おなじき所に、往来の旅客にせんじちやをうり 00022200M3て、世をいとなむおとこありしが、にわかに此世をすぎに 00022210M4けり。近きあたりの(六ウ)ものどもよりあつまりて、水な 00022220M5どをそゝき、きつけなとをふくませけれど其かいなし。折 00022230M6ふし一休御とをりありけるゆへ、さいわいの事とてたのミ 00022240M7あけければ、ちやひしやくをおつとり給て、いんとうにい 00022250M8ハく、 00022260M9△△一ふく一せん、一期のあいた。 00022270M10△△末期の一句、うんきやくの話。喝。 00022280M11とあそバしけれバ、これもわうじやうをとげたりとかや。 00022290M12ありがたしともいふはかりなし。 00022300¥N5¥J 00022310¥X第五△一休かいの国にてぢごくごくらくもんだうの事 00022320M16かいの国にしばらく御とうりうのうちに、/古跡(こせき)一見のため 00022330M17にたちいで給ひけるに、所のぢたう一休の御げかうのよし 00022340M18きゝをよび、わざとしらぬふりにて近+と行むかひ、そ 00022350M19れなるほうしぢごくこくらくは(七オ)(七ウ挿画)いかにと 00022360¥P68 00022370¥G 00022380L13とひければ、一休まなこにかどを立て、くそをくらへとの 00022390L14たまひければ、ぢとうもつてのほかにはらをたて、にくひ 00022400L15ほうしのあつこうかな、ものないわせそ、それいましめよ 00022410L16とげぢすれば、かしこまり候とわかとうどもはしりよりて、 00022420L17さん※にちやうちやくして、たかてこてにいましめけれ 00022430L18ハ、一休これこそぢごくよとのたまひけれバ、ぢたうかん 00022440L19じつゝ、あハてゝ馬よりとんでをり、手づからなわをとき、 00022450M1さても有がたき御けうけやとらいはいして、わがのりたる 00022460M2馬にのせ申、したくに御とも申つゝ、てうせき御そばをは 00022470M3なれず、しゆ+のちんぶつをとゝのへ御ちそう申ければ、 00022480M4これぞまことのごくらくよとのたまひけり。(八オ) 00022490¥N6¥J 00022500¥X第六△らう人御ひきたてなさるゝ事 00022510M7しばらくかいの国に御とうりうのうちに、一人のらう人御 00022520M8でいり申けり。一休ハいきぼとけにてましませハ、たのミ 00022530M9奉りて/身上(しんしやう)ありつきたしと、ない+思ひけれども、おり 00022540M10をゑずしてゑも申さてすきける所に、ある時事のほか御き 00022550M11げんよく、御酒などまいりけるついでに、らう人申上ける 00022560M12ハ、それかし一もんれき+はう※にまかりあれども、 00022570M13おはを打からしぬれハはぢがハしくてまいりゑず、かつハ 00022580M14ろぎんのよすがもなく、ふじゆうにてめいわく申にて候、 00022590M15あわれ御かげにて/身躰(しんだい)ありつき申度よしひたすらにたのミ 00022600M16あげゝれば、一休もふびんとや思しめしけん、打うなづか 00022610M17せ給ひてのたまひける、その(八ウ)かたしよげいにハ何を 00022620M18かゑたりと。らう人こたえて、万事ぶてうほうに候と申あ 00022630M19ぐる。そのとき一休、/礼楽(れいがく)/射御書数(しやぎよしよすう)の文の/類(たぐひ)をゆひたてゝ 00022640¥P69 00022650L1とひ給へとも、一つとして存せぬよし申上る。一休聞し召 00022660L2て、さてもにが+敷らう人かなと、しばらくあんし給ふ 00022670L3所に、かの仁申上るハ、こゝにあつもりの/舞(まい)一ばん存て候 00022680L4と申上る。一休きこし召て、それこそ日本一の事よとの給 00022690L5ひもはてず、所にてぶへんだてするもの共をまねきよせた 00022700L6まひ、しミ※とないだんなされけり。其ほかつゞミうち 00022710L7など御よういありて、しばいをしつらい、まんまくをうた 00022720L8せ、こゝかしこにたか札をたて給ひける。 00022730L9△一、今度上方より/幸若(こうわか)/罷下(まかりくだり)/勧進舞(くわんしんまい)仕、/勧(くわん)(九オ)/進本= 00022740L10△者(しんもと=ハ)/日本老和尚(につほんらうおしやう)一休 00022750L11とあそばされけれハ、さふらいハ申にをよバす、町人百性 00022760L12五里七里をへだて、きせんくんじゆして、さしもにひろき 00022770L13しばいはりやぶるゝほどに見へたり。さてかのらう人しや 00022780L14うぞくけたかくつくろひ、ぶたいへ出てあつもり一ばんま 00022790L15いすまして、がく屋へいるとひとしく、一人の男出て、ま 00022800L16ことにれき+御けんぶつのだん、かたしけなきなどゝれ 00022810L17いぎただしくして、さてこのつぎにハ何をかまハせ申さん、 00022820L18御のぞミしだいと申ければ、おほくのけんぶつくち※に、 00022830L19たいしよくわんよ、しだよ、たかだち、きよしげよ、など 00022840M1ゝよばハりける所に、かねて御やくそくにてや有けん、く 00022850M2だんのあぶれもの共、こゝかしこよりのびあがり、いやと 00022860M3よ、あつ(九ウ)もりをまはせよといふ。ふれたる男、おな 00022870M4し舞ハ御たいくつに候ハんといへは、かのあぶれもの共、 00022880M5此男がすきじや、あつもりまわせずんバしばいをふミやぶ 00022890M6らん、つかミひしやがんなどゝいふほどに、又あつもりを 00022900M7ぞまハしける。又男出てとへバ、又あつもりといふまゝに、 00022910M8つゞけて四五ばんまハしける。其のちまづ今日ハ御いとま 00022920M9ごいとておい出しけり。木戸口にて明日ハかわるといふて 00022930M10ふれければ、前の日より人ハおほくいりぬ。又あつもり一 00022940M11ばんまハして、前のことくのしぐミにて、七日までこそし 00022950M12たりけれ。さてこそかのらう人たよりをゑて、/一廉(いつかど)の身上 00022960M13となりけるとかや。所のぢとう聞けれども、一休の御事な 00022970M14れバきかぬふりにてゐけるとかや。(十オ) 00022980¥N7¥J 00022990¥X第七△大しよくはなしの事 00023000M17おなじき所に、事の外大ふをいふさふらい有けり。ある時 00023010M18一休の御しやうばんして、御/非時(ひじ)を給ハりける。一休おほ 00023020M19せけるハ、さても其方ハめづらしき大しよくかなとの給へ 00023030¥P70 00023040L1バ、かのうそいひかつにのりて、いやとよ、これハたぶる 00023050L2にてハなく候、それがしわかゝりし時、ともどちよりあひ 00023060L3てかけろくしけるに、もち米一斗つかせ、一人してしよく 00023070L4すれとも、いまだたらざりければ、そばにあわ/餅(もち)したゝか 00023080L5有けるを残らすたべて、あまりはらふくれければ、河へは 00023090L6しり出て、大きなる舟をよこにもちて、川をせき申たりと、 00023100L7かほ打ふりてかたりければ、一休聞し召、さてもおびたゝ 00023110L8しき大しよくかな、それほどの(十ウ)大しよくハいまだき 00023120L9かず、さりながらそれがし存じたる山ぶし有けるが、これ 00023130L10もかけろくして、もち二斗をつかせてひとりしてのこらず 00023140L11しよくし、あまり腹ふくれけるにや、ひろき松ばらにはし 00023150L12りいで、ミかいばかり有ける松の木をねぢをりて、こしを 00023160L13かけやすミゐける所に、ちいさきへびおほきなるかわづを 00023170L14のミて、くるしげに見えし所に、ミなれぬくさをくひけれ 00023180L15ば、ぢミ+と腹ハへりぬ。さてもよき事を見つる物かな 00023190L16と、かの山ぶしくだんのくさをくひければ、うんのきハめ 00023200L17にてや有けん、人のきゆる草にて、山ぶしハきえて、二斗 00023210L18のもち、ときんすゞかけ、ほらのかい、こんごうづえをも 00023220L19ちてゐけるとかたり給ひければ、かのおとこ色をちがへて 00023230¥G 00023240¥P71 00023250L1帰りけるが、(十一オ)(十一ウ・十二オ挿画)かさねてハまいら 00023260L2さりけるとかや。そうしてけうがるおうふハいふまじき物 00023270L3也。かの男も大ふゆへに一本した。 00023280¥N8¥J 00023290¥X第八△ばけ物御たいじの事 00023300L6おなじき国のかたハらなるふるき宮に、大きなる石どうろ 00023310L7う有けるが、いづくともなくまいばんとうミやうをとぼし 00023320L8ける。そのとうろうを大のほうしくるり+とまハりける 00023330L9を、見ぬ人もなくをそれぬものもなかりしかとも、よそに 00023340L10のミ見て見とゞくるものなし。一休これを聞し召て、/拙僧(せつそう) 00023350L11こよいたいじすべしとのたまひけれハ、所のものどもよろ 00023360L12こびて、日の暮るを待かねて、くだんの所へゆきて見ける 00023370L13所に、其よもたがハず、とうろうをめくる事かさぐるまの 00023380L14ごとし。ミな人申けるハ、一休御た(十二ウ)いじ有べきよ 00023390L15しの給ひけれども、其しるしもなきなどゝ、とり+ひや 00023400L16うばんをなす所に、又一人あらハれ出て、其よハ二人ぞめ 00023410L17ぐりける。夜のふくるにしたがつて、ミな人/私宅(したく)にかへり 00023420L18ける。/翌日(よくじつ)一休の御しゆくしよへまいり、御口とちがひ候 00023430L19ものかな、やぜんもばけ物出てとうろうをめくる事つねに 00023440M1たがハず、しばらく有て一人出て二人までめぐり申たりと、 00023450M2くち※にのゝしれば、一休きこしめして、その一人ハせ 00023460M3つそうにてありけり、よもすがらおつつかへしつしつるが、 00023470M4ついにふミたをし、/自今以後(じこんいご)いでまじきよしさいさん申た 00023480M5り、かさねてハあらハるゝ事有ましきよしの給ひければ、 00023490M6人&てをうつてかんじけり。さてまたそのよになりければ、 00023500M7人&ゆきて見れ共(十三オ)いでざりけるとかや。ふしぎと 00023510M8いふもあまりあり。 00023520¥N9¥J 00023530¥X第九△まめのしうくの事 00023540M11一休ハおんかる口にてましませハ、ぢとうのおくがたへ申 00023550M12いれ給ひ、御はなしうけ給ハらんとて、四はうよりとりま 00023560M13きて、みゝをすまして聞ければ、一休ゑたりかしこしと御 00023570M14物がたり有ければ、上/臈(らう)しうかんにたへて、もつとも御は 00023580M15なしハおもしろけれども、みぢかくしてほいなし、ねがハく 00023590M16ハなが+とたいくつするまで、御物かたりあれかしと申 00023600M17されけれバ、一休ともかうも御のぞミしだいとのたまひて、 00023610M18御はなしあるこそなが+しけれ。せつそうさるかたへ夜 00023620M19ばなしにまかりけるに、くわしにいりまめを出しけり。かた 00023630¥P72 00023640L1ハらより此まめしうくにてたべんといふ。ミな(十三ウ)も 00023650L2つともとどうして、さるまめのこまめのまめなやうになど 00023660L3くち※に申なかに、かしこうもなくミゆる人いでられて 00023670L4申さるゝハ、をくさまのよしのまいりとて、したゝかつか 00023680L5みてくらふ。人&きいて、これハいかにまめのしうくにを 00023690L6くさまのよしのまいりとハ心へず、いかに+とせむれハ、 00023700L7さてハ御ぞんじなきか、井のうちのかハず大かいをしらぬ 00023710L8ためしあり。いつれも御ぞんじのとをり、当春それがしたの 00023720L9ふたる人のおくよしのへまいり給ふに、それかしもともし 00023730L10てまかりしなり。道すがらめいしよきうせき打ながめ、さほ 00023740L11の川、井手の里、玉水などやうのめいしよつぶさに見物して、 00023750L12よしのにもなりぬれハ、山ハさながら雪かと見まがふばか 00023760L13りなり。じんじやぶつかくのこらずおがミめぐり、(十四オ) 00023770L14それより高き所にのぼりて、よもを打なかめ給ふ所に、に 00023780L15ハかに/嵐(あらし)ふききたつて、をくさまのぬりがさをたにぞこへ 00023790L16をとしけり。其ときそれがしふかきふちにのぞむがことく、 00023800L17はくひやうをふむ心地して、岩ほをつたふてついにとりて 00023810L18かへりぬ。されどもかさハすこしはげたり。をくさま御ら 00023820L19んじて、さてもうたてしのことかなとの給ひて、それより 00023830M1/龍田(たつた)、ほうりうし、なら、はせなどいふめいしよ、ミつ山 00023840M2だるまじ、たへまなどやうのきうせき御見物ありて、御上 00023850M3京ありし所へ、御一もんの女中御見まいなされけるに、さ 00023860M4もじんじやうなるぬりがさをめし給ひて御いで有けり。そ 00023870M5れにつきて思しめし出され、かのかさのはげたるをぬらせ 00023880M6よとおほせありけるほどに、ぬしへあつら(十四ウ)ゆれバ 00023890M7銀子三銭にてぬらんと申。をくさまきこしめし、それハむ 00023900M8つかしきことかな、さらバ手ぬりにせよとて、うるし屋へ 00023910M9てうもく二ひきをもちて、うるしをもとめけるに、むくろ 00023920M10じほど有けり。そうじてをくさまハ、ものごとおびたゝし 00023930M11くのたまふゆへにや、これハすくなき事かな、まめつぶほ 00023940M12とありとのたまひける。さてこそまめのしうくにハ、三ご 00023950M13く一の事よといふたとかたり給へハ、上ろう衆たいくつし 00023960M14ていろわろくなりぬ。 00023970¥N10¥J 00023980¥X第十△かしまにて天ぐともんどうの事 00023990M17一休ひたちの国かしまの宮だち一けんのためさんけいなさ 00024000M18れけり。すでにやしろちかくあゆミ給ふ所に、しげりたるも 00024010M19りの木かげより、何とハしらず、たけ七尺あまり(十五オ) 00024020¥P73 00024030¥G 00024040L13の山ふしつと出て、一休にむかつて、ぶつほうハいかに。 00024050L14こたへて、むねにあり。さあらハわりて見んとて、こほり 00024060L15のごとくなるかたなをぬき、心もとにさしあてける。一休 00024070L16すこしもさハかず、まてしばし、 00024080L17△△春ごとに/咲(さく)や吉野の山/桜(さくら) 00024090L18△△△木をわりて見よ花のあるかハ 00024100L19との給ひければ、へんげのものいづくともなくきえうせぬ。 00024110M1いともめでたき御さいちならずや。 00024120¥N11¥J 00024130¥X第十一△こくしへ下をびをつかハさるゝ事 00024140M4さがミの国小田原に御とうりうのうちにハ、片岡弥太夫と 00024150M5いふらう人かいほりにまし+けるとかや。所のぢとう聞 00024160M6つけて、使者をもつて申上けるハ、ながのたびに御つかれ 00024170M7あそバすべく候、見ぐるしう候へ共御こしあそば(十五ウ) 00024180M8(十六オ挿画)して、御つかれをはらし給へかしと申上ければ、 00024190M9よくこそとの給ひて、ししやをつれてぢとうがたくへ御ざ 00024200M10なされけり。ぢたうもほんゐにや思ひけん、さんかいのち 00024210M11んぶつにて御ちそうをこそ申ける。さてしゆをすゝめ御き 00024220M12げんをうかゞひて申けるハ、申かね候へ共御/手跡(しゆせき)をとぞ/望(のぞミ) 00024230M13ける。一休聞し召、やすき事にて侍る、あなたよりしんず 00024240M14べしとて、御やどへ帰らせ給ふ。おつつけししやをもつて、 00024250M15さきほど御けいやく申候御しゆせき、此ものに下さるへく 00024260M16候と申てこそつかひける。一休もあまりせわしくや思し召 00024270M17けん、弥太夫がかきさしたる文の、そばに有けるを、しし 00024280M18やにわたし給ふ。ししやよろこび帰りて、しうに見せけり。 00024290M19ひらいてこれを見るに、弥太夫か手也。これは(十六ウ)ふ 00024300¥P74 00024310L1しきなる事かな、つかいのあやまりにてこそあるらめとて、 00024320L2よびてたづぬれとも、ぢきに御手よりとりて候と申。さて 00024330L3ハあまりきうに申上たるによりてなるべしとて、またつか 00024340L4いをもつて申あげけるハ、さいぜん下され候ハ弥太夫が/手= 00024350L5跡(しゆ=せき)と見へ申候、ねかハくハ御自身にかゝせ給ふをこそのぞ 00024360L6ミ申候へと申上けれハ、さほどにふかきのぞミならハ、い 00024370L7かでかおしむべきとて、したゝかつゝミたるふくろをこそ 00024380L8下されけり。使よろこび帰りて/主(しう)に渡す。やがてふくろを 00024390L9やぶりてミれハ、ふるきしたおびにてぞ有けり。/地頭(ぢとう)も手 00024400L10をうつてわらひけり。其のちおくへとをり給ふべき前に、 00024410L11弥太夫にやなぎとばかり大文字を一字あそばして下されけ 00024420L12る。又/古(ふる)き(十七オ)べうぶに何ともかたちのしれぬ/絵(ゑ)あり 00024430L13けり。ていしゆにとハせ給へバ、ふるくなり候てわけ見へ 00024440L14不申、私/親(おや)が申候つるハ、馬とやらんうしとやらんにて御 00024450L15ざ候よし申けれハ、うしならハつの有へし、つのなけれハ 00024460L16馬なるべきぞとのたまふ。ていしゆ申けるハ、ついでに此 00024470L17ゑにもさんをあそばし下し給ハれよかしと申けれバ、やす 00024480L18き事とのたまひて、大もじに馬じやげなとぞあそはしける。 00024490L19そのゑ今にありて、いともめでたき御くらにおさまりて、 00024500M1御/宝物(たから)のその一つにて侍るとかや。 00024510¥N12¥J 00024520¥X第十二△ひやうたんのさかことばの事 00024530M4一休御てまへふつていのじぶんにてやおハしけん、一条の 00024540M5つじにたかふだをぞたてられける。(十七ウ) 00024550M6△一、/今度(こんど)/日本老和尚(につほんらうおしやう)一休、/三明六通(さんミやうろくつう)を/得(ゑ)て/瓢箪(ひやうたん)をひつく 00024560M7△△り返し申。/望(のぞミ)のかた+/見物(けんぶつ)可有者也。今月幾日よ 00024570M8△△りはじめ申。 00024580M9とあそばして、/紫野(むらさきの)にしばゐをかまへ給ひけり。事がなと 00024590M10おもふ京わらべとも、らうにやくなんによきせんひんふく 00024600M11をいわず、/足(あし)をそらになしてくんじゆしたり。さてしばゐ 00024610M12もつミぬれは、一休御/衣(ころも)のまへに大きなるひやうたんをつ 00024620M13け給ひ、両手にばちをもちて、にしよりひんがしより、き 00024630M14たよりミんなミまで、とびめくりはねかへりなんどしたま 00024640M15ひて、/大音(たいをん)をあげ、たんひやう++とて、弐十へんば 00024650M16かりおどりまハり、はねかへりなどしたまひて、其後がく 00024660M17屋へはしりいり、御自身に/太鼓(たいこ)を打給ひ、かハり+(十 00024670M18八オ)とておひ出し給ふ。見物のものども、これハいかな 00024680M19る事ぞとて、きやうをさます者もあり。あるひハ又今には 00024690¥P75 00024700L1しめぬ一休のおどけ事かなと、/暫(しバら)くハ口をふさぎゑぬ者も 00024710L2おほかりき。 00024720¥N13¥J 00024730¥X第十三△ひゑい山にのぼり給ふ時御つけくの事 00024740L5一休ひゑいざんへのぼり給ふ時、/蜷川(になかわ)新右衛門といふもの 00024750L6御とも申せしとかや。一休へ申あげゝるハ、ふと心にうか 00024760L7ひ候あいだ、一句申て見候ハん、御つけなさるべしとて、 00024770L8△△ひゑの山路をひろひゆくかな 00024780L9といひもはてぬに、一休、 00024790L10△△さしとけてふもとに四貫の銭をはらり 00024800L11とつけ給ふ。かくいちはやき御とんさくなり。それより 00024810L12(十八ウ)山にのぼり給ひて、しゆ※の御おどけ事有けれ 00024820L13共、/前集(ぜんしう)にくハしく見へたれハ、これをりやくする者也。 00024830L14(十九オ) 00024840¥Y1一休関東咄巻中△目録 00024850M3第一△一休こちをめして師の坊に見せ給ふ事 00024860M4第二△小利大そんの事 00024870M5第三△一休に御ないはう有し事 00024880M6△△△△付御ししやうの事 00024890M7第四△かミなりをちたる事 00024900M8第五△いなかへへちまのかわをつかハさるゝ事 00024910M9第六△ちやうすをかりにつかハさるゝ事 00024920M10第七△へいぐわいの事 00024930M11第八△ちくゑんの事 00024940M12第九△しゆせきの事 00024950M13第十△ひまハしの事(一オ) 00024960M14第十一△ついには日月のあハれミをかうむらずの事 00024970M16△△△△△△△△△△△△△△△△△△△中巻終(一ウ) 00024980¥P76 00024990¥T1中巻 00025000¥N1¥J 00025010¥X第一△一休こちをめして/師(し)の坊に見せ給ふ事 00025020L5一休御やうちのころの事なるべし。はじめてくわ僧へ御た 00025030L6いめん有ける時、くわそう仰せけるハ、それ/禅宗(ぜんしう)は/教外別= 00025040L7伝(けうげべち=でん)にしてとく事なし、さとりといふ事第一なりとのたまひ 00025050L8ける。一休とひたまハく、其さとりとやらんハいかやうの 00025060L9ものにて候ぞと。○くわそうこたへて、/東風(とうふう)ハいかにとと 00025070L10ハゞ、こちとさとるやうの事なりと仰せける。一休きこし 00025080L11めして、かしこまりて候との給ひて、すこしほどへてだん 00025090L12なしうまいりけるに、くわそう一休にむかつて、とうふを 00025100L13とゝのふべしと。○こゝろへ候とて、一休ぢきにうおや町 00025110L14にゆき給ひて、こちといふ/魚(うお)をめしてかへり給ひ、さて 00025120L15(二オ)くわそうにむかつて、とうふをもとめ候との給ふ。 00025130L16くわそう御らんじて、これハいかに、うをにてこそあれ、 00025140L17とうふにてあらず、ごんごだうだんと御しかりなされける。 00025150L18一休さあらぬていにて、/一日(ひとい)御しめし候つるハ、/東風(とうふう)とい 00025160L19はゞこちとこたへよとこそうけたまハり候ぬ、しかしなが 00025170M1らそれがしきゝあやまりてや候らんとの給ひければ、師の 00025180M2坊あきれて口をとぢ給しとかや。 00025190¥N2¥J 00025200¥X第二△小利大そんの事 00025210M5一休いとけなきとき、くハそうにつかへ給ひけり。くハ僧 00025220M6つねに/蜜(ミつ)をこのミてまいりける。一休御らんじて、それが 00025230M7しにも給ハれかしとのたまふ。くわそう仰せけるハ、おさ 00025240M8なきものこれをしよくすれバ身まかるなり、かならずな 00025250M9(二ウ)(三オ挿画)むる事なかれとのたまひけり。あるとき御 00025260M10るすのうちに、すこしなめ給ひけるに、事の外あまかりけ 00025270M11れバ、ひたものまいりけるほどに、残りずくなになりにけ 00025280M12り。よく+思しめしけるに、くわそう御帰りあらん時、 00025290M13なにとか申ひらかん、いかゞハちんずべきとしばらく御し 00025300M14あんありて、きつと思しめし出されけり。ひごろくわそう 00025310M15ひそうし給ひけるちやわんを打わりて、其のちかのミつを 00025320M16口のはたへつけ、かうべよりあびなどして、なみだぐミた 00025330M17るていにてをハします所へ、くわそう御かへりありて、こ 00025340M18れハいかなるふぜいぞととひ給へハ、さん候、御ひそうの 00025350M19ちやわんをとりおとして、打わり申ゆへに、めいわく仕り、 00025360¥P77 00025370¥G 00025380L13御帰りのせつ申上べきやうもなく候のあいだ、ひごろ御申 00025390L14なさるゝとをり、此どくをたべて(三ウ)しなんとぞんじ、 00025400L15かたのごとくしよくすれどもしに申さぬゆへ、かうべより 00025410L16あび申候とのたまへバ、くわそうもあきれてしたをまきた 00025420L17まふとかや。 00025430¥N3¥J 00025440¥X第三△一休に御ないはうありし事付御/師匠(ししやう)の事 00025450M1一休くわんとうより御下向ありて、いかゞ思しめしけん、 00025460M2三条河原辺にひんなるおんなすミけるをまねき給ひて、御 00025470M3ちぎりあさからずとぞきこえける。年へだゝり月かさなり 00025480M4て、一人の子をまふけて、御てうあいなされけるが、ある 00025490M5ときかの女にむかつてのたまひけるハ、すをもとめてきた 00025500M6るへしと。おんな何心もなくすをもとめて帰りけるに、一 00025510M7休かのちごにすをかけて、はぎにかぶりつき給へば、女房 00025520M8おどろきさハぎて、かの子をうバひとり、にげさ(四オ)り 00025530M9てあとなくなりにけり。おもん見るに、しうぢやくをきら 00025540M10しめんとの御はうべんかとぞおぼゆる。 00025550△△△御ししやうの事 00025560M13一休の御ししやうをやうそうといふせつ、/前集(ぜんしう)に見へたれ 00025570M14とも、ほんせつハくわそうにてましますとかや。やうそう 00025580M15ハ弟子兄弟にてましますなり。近江の国/堅田(かたた)のうらに、く 00025590M16わそうの御かいじ今にあり。此所にてゑびをつり給ひしも、 00025600M17くわそうの御事なり。一休ハかた田へついに行給ハず。や 00025610M18うそうハくわそうのかた田へ御ざなされしをしたひて行給 00025620M19ふとかや。 00025630¥P78 00025640¥N4¥J 00025650¥X第四△かミなりおちたる事 00025660L3きうか三ぶくの夏のころ、/紫野(むらさきの)ちかき者共六七人つれて、 00025670L4(四ウ)一休の御寺へすゞみにまかりけるに、にわかに夕立 00025680L5しけり。一休も御寺にまし+て、空のはるゝまでハ、これ 00025690L6へとをりてまち給へと仰つかわされけバ、御意にまかせて 00025700L7ミな+おくへとをりぬ。とかうするほどに日もくれけり。 00025710L8空のくらむにしたがつて、いなびかりはげしく、かミなり 00025720L9さハぎ、おそろしなどもいふばかりなし。ミな+申あひ 00025730L10けるハ、夏ハいつもかミなりをきけど、これほどおそろし 00025740L11きハなし、などゝおそれおのゝく所に、またおびたゝしき 00025750L12いなびかりしければ、すハや今こそ此御寺へおちかゝるハ、 00025760L13すでにつかミひしがるゝと、きもたましゐをうしなふ所に、 00025770L14あんのごとくくわら+ひつしりとおちたりけり。なじか 00025780L15ハこらふべき、其ざにゐたる者ともミな+たへいりけり。 00025790L16やゝあつて一休御出なされ、(五オ)人&にきをつけ給へば、 00025800L17ゆめのさめたる心地して申けるハ、さるにてもかミなりハ、 00025810L18聞しにまさるをそろしき物にて侍るなどゝいふ。さてハか 00025820L19たちを見給ひけるにやととひ給へば、さればこそ、たとへ 00025830M1バくるまうじにはねのはへたるやうなる物にて侍りなどゝ 00025840M2いふ。又かたハらより、いやとよ、それハ見あやまり給ひ 00025850M3たり、小ぢやうちんのかたちして、あかき物にて侍るなど 00025860M4もいふ。其ほかにわ鳥のやうにて候の、おにのかたちなる 00025870M5物にて侍るなどゝ、くち+にゆひける中に、一人ふてき 00025880M6ものありけるが、/始終(しじう)心をへんぜす、とくと見すまして申 00025890M7けるハ、いやとよ、人&の申さるゝハミなひが事にて待る、 00025900¥G 00025910¥P79 00025920L1かミなりのかたちハ、たけ六尺ばかりのほうし、ひらミた 00025930L2るたいこをまへにもちて、おちるとひとしく御だい所へな 00025940L3りてゆき(五ウ)(六オ挿画)申たとかたりける。一休これを 00025950L4聞しめして、むねを打てわらひ給ふ。よく+のちにきけ 00025960L5ハ、やねのもりをとめんため、小たらいを持て一休/天井(てんじやう)へ 00025970L6あがり給ひしが、ふミはづしておち給ふにてぞありける。 00025980¥N5¥J 00025990¥X第五△いなかへへちまのかわをつかハさるゝ事 00026000L9一休しバらくあか坂に御とうりう有ける中に、ほうねんじ 00026010L10といふじやうど寺に御やどなされける。ぢうじおろかもな 00026020L11く御ちそう申けれバ、一休も御まんぞくにや思しめしけむ、 00026030L12御上京のちまでも御ふミなどつかハされける。ある時ほう 00026040L13ねんじ、一休へひきやくをもつて申上けるハ、こんどぐそ 00026050L14う一だんなりつしんいたし候につき、いんしん仕るへきに 00026060L15て候へ共、御存しのとをりいなかにて、よろづふしゆうに 00026070L16てとゝのへ(六ウ)かね候、何にても御見はからひにて、心 00026080L17やすくしてミばよくかさだかなる物を、御とゝのへたのミ 00026090L18申上るよしにて、わざ+ひきやくをのほしけり。一休聞 00026100L19しめし、にくき出家の心かなとのたまひて、へちまのかわ 00026110M1といふ物を、にもつ三かうりにつくらせ給ひて、御文をそ 00026120M2へられける。とをくの所思しめしより申のほし給ふゆへ、 00026130M3ずいぶんげじきにてかさだかなるものをくだし申候、きに 00026140M4入候ハゝいかほどもしんじ申べし、かさねて申のほし給へ 00026150M5とあそバしつかハされければ、かさねてハりよぐわいを申 00026160M6あげさりけるとかや。 00026170¥N6¥J 00026180¥X第六△ちやうすをかりにつかハさるゝ事 00026190M9一休/京都(きやうと)に御さなさるゝ時、御/近所(きんしよ)に人にすぐれてしハき 00026200M10僧有けるが、一休へまいど御むしんをのミ申あげけり。 00026210M11(七オ)ある時一休かの/有欲(うよく)の僧へちやうすをかりにつかハ 00026220M12されける。かの僧へんじ申上けるハ、ちやうすのぎ御申こ 00026230M13しなされ候、やすきほどの御事にて候へ共、/他所(たしよ)へかし申 00026240M14候へハくせがつき申候あいだ、こなたへひきにつかハさる 00026250M15べきよし申上けれバ、其ぶんにてやミ給ひぬ。ほどへてか 00026260M16のうよくの僧、一休の御寺へのぼりはしをかりにつかひけ 00026270M17る。一休聞しめして御へんじ有こそおかしけれ。やすき事 00026280M18にて候へ共、よそへかせバくせがわるくなり候ほどに、こ 00026290M19なたへ御/越(こし)有てのほり給へ。 00026300¥P80 00026310¥N7¥J 00026320¥X第七△へいぐわいの事 00026330L3かたいなかのものはしめて京へのほりけるに、かのいなか 00026340L4ものことの外かしこたてするものにて、しかももんまうな 00026350L5り。かりそめにもこばしたがりければ、やどぬしもこびも 00026360L6の(七ウ)にて、一休へより+御見まい申ければ、いなか 00026370L7ものにむかつて申けるハ、はじめて上京し給ふしるしに、 00026380L8いさや紫野の一休へ御め見へし給へかしとすゝめければ、 00026390L9もつともいなかにてもきゝおよひ候、それがしかおやハ一 00026400L10休とちん+にて侍る、まづまいりて御たいめん申さんと 00026410L11て、やどぬしと打つれてむらさきのへとぞまいりける。折 00026420L12ふし一休も御寺にまし+ければ御出あり。いなかものに 00026430L13むかつて仰せけるハ、その方ハいなかしゆのよし聞およひ 00026440L14候、やさしくもたづねつるものかな、くたひれぬらんに、 00026450L15へいぐわいにあれとのたまひける。かのいなかもの何ぞた 00026460L16べよと仰せあると心得て、いかにもしたく仕り候と申。や 00026470L17どぬしせうしがりて申けるハ、よくこそ御きをつけさせら 00026480L18れ候ものかな、私躰の下れつ(八オ)のものハ、とにかくに 00026490L19へいぐわいかよく御ざ候ととりなをせとも、かのいなかも 00026500M1のぬからぬかほにて、ゑゝへいぐわいの事にて待るか、い 00026510M2やはや御申なさるゝとをり、国もとなとにてもめんるいの 00026520M3うちにてハ、へいぐわいそはきりなとをつねにたべ候、一 00026530M4ぜんハ下さるべし、御出しあれといふた。 00026540¥N8¥J 00026550¥X第八△ちくゑんの事 00026560M7二条堀川辺にすまいするもの、今宮へさんけいしける下向 00026570M8に、大徳寺をすきて、ふと一休の御事を思ひ出し、人をよ 00026580M9せける。御門前をとをり候により、人をもつて申上候、い 00026590M10よ+御きけんよく御座なされ候や承り度存候、などゝて 00026600M11ねんごろに申上ければ、一休も御/使僧(しそう)をそへられて、ちと 00026610M12たちより給へ、折ふししぐれもいたし候、ていかの(八ウ)(九 00026620M13オ挿画)こせきならねど、ちんをしつらひ候と申つかハされ 00026630M14けれハ、きやつももんまうなるものにて、あなたの口上ハ 00026640M15一ゑんに聞わけずして、/土足(どそく)にて候へハまつとをり申にて 00026650M16候とへんじ仕る。一休又しそうをもつて、どそくのよし承 00026660M17候、さいわい/竹縁(ちくゑん)も候、ぜひ御より有へしと仰つかハされ 00026670M18ければ、ちくゑんとハ人の名ぞと心得て、中+の事にて 00026680M19侍る、ちくゑんもそれにおハし候か、ちくゑんへもしかる 00026690¥P81 00026700¥G 00026710L13へきやうに御こゝろへたのミ申といひすてゝ、足ばやにこ 00026720L14そ帰りけれ。 00026730¥N9¥J 00026740¥X第九△しゆせきの事 00026750L17むらさきのゝかたハらに、四十にあまるまて一文字ふつう 00026760L18のとんせいじやありけり。をり+ハ一休へまいりて御用 00026770L19など承りける。あるとき一休の御前へ出て申けるハ、それ 00026780M1(九ウ)人の一げいハ、物をよくかくにしくハなし、なにわ 00026790M2のよしあしにつけても、ぐそうがもんもうなる事をのミく 00026800M3やミ存候、あしたにミちをきいてゆふべにしすともかなり 00026810M4と承り候、ひくれてミちをいそぐにて候へとも、御手本一 00026820M5つあそばしくだし給ハれかしと申あげけれバ、やすき事と 00026830M6のたまひて、かなまじりにさら+とあそばし下さるゝ。 00026840M7とんせいじやちやうだいしてあんじつに帰り、をこたりな 00026850M8くならひけり。一両日をすぎて、あさとく一休の御寺へま 00026860M9いりけるに、御でしたち出あひ給ひて、/貴僧(きそう)ハ手ならひし 00026870M10給ふときゝ候、きとくの御心さしにて侍る、さてしゆせき 00026880M11ハあがり候かとありけれバ、とんせいじや申けるハ、たゞ 00026890M12いまたべ申たと。○いやとよ、しゆせきの(十オ)事にて侍 00026900M13ると。○なにのじぎをつかまつらふといふた。 00026910¥N10¥J 00026920¥X第十△火まハしの事 00026930M16一休の御きんじよに、日まちをするものありけり。よひの 00026940M17ほどは、ご、すごろく、しやうぎなどやうの物をもてあそひ 00026950M18けるが、のちにハいまやうをうたひ、あるいハまひなどして 00026960M19おどりさハぎける。かたハらより申けるハ、いざや火まハし 00026970¥P82 00026980L1といふ事をはじめんと。しかるへしとてかたはしより、ひ 00026990L2ぢりめんの、ひざやの、ひどんすなどゝいへば、かしこう 00027000L3もなく見ゆる人、ひはぶたいと。一休もその人じゆにてお 00027010L4ハしけるが、ひはぶたいといふ物ハしらぬとのたまふ。其 00027020L5ときかのおぬく、いやとよ、おの+のひぢりめん、ひざ 00027030L6や、ひどんすなどゝいわるゝもの、ひはぶたいと(十ウ)い 00027040L7ハでハといへば、そのぶんにてやミたまひぬ。かのかしこ 00027050L8からぬもの一休にとがめられてはらをたて、なにがなとが 00027060L9めかへすべしと思ふ折ふし、一休ひこ九郎とのたまふ。そ 00027070L10のときかのおぬく申けるハ、ひこ九郎といふ事か侍るかと。 00027080L11○一休、いかにもある、ぐそうか寺の門ばんこそひこ九郎 00027090L12といふとのたまへハ、なにとかがてんしたりけん、うちう 00027100L13なづきて九郎すけと。○これハいかに、火まわしに九郎助 00027110L14とハがてんゆかぬと有ければ、そなたの寺のひこ九郎ばか 00027120L15りが門ばんか、こちのてらの九郎助も門ばんじやといふた。 00027130¥N11¥J 00027140¥X第十一△ついにハ日月のあハれミをかうむらずの事 00027150L19一休の御ぞくしやうハ、/前集(せんしう)に見へたれハこゝにしる 00027160M1(十一オ)(十一ウ挿画)すに及ばす。このゑ殿一休へ御見まい 00027170M2あそばしける事ありけるとき、御とこに三じやのたくせん 00027180M3をかけられたる。つく※と御らんあるに、ついに日月の 00027190M4あわれミをかうむらずとあそばしてげり。このゑ殿もふし 00027200M5ぎに思しめしながらかへらせ給ひて、いともかしこき御か 00027210M6たさまへ御そうもん有ければ、さてハのそミあるにこそご 00027220M7さんなれとて、あまたの御いんもつをつかハさるゝ。其の 00027230¥G 00027240¥P83 00027250L1ちまたこのゑ殿ゆきて見給へハ、日月のあわれミをかうむ 00027260L2らずのわきに、すこしかうむりとぞあそばしける。さてハ 00027270L3ふそくにおハするかとて、かさねて金銀あまたつかハされ 00027280L4てのち、又このゑ殿ゆきて見給ひけるに、すこしかうむり 00027290L5とかき給ふつぎに、又かう(十二オ)むりとそあそはしける。 00027300¥Y1中巻終(十二ウ) 00027310¥Y1一休関東咄巻下△目録 00027320M3第一△文字せんさくの事 00027330M4第二△たきゞの寺にて金のばけたる事 00027340M5第三△天をかさにきたまふ事 00027350M6第四△弟子をとりてめいくをのたまふ事 00027360M7第五△今出川口にてこつじきに小袖をとらせらるゝ事 00027370M8第六△一休おさなき時いんどうなさるゝ事 00027380M9第七△/堺(さかい)の浦にて/遊女(ゆふぢよ)と哥もんどうの事 00027390M10第八△/甲斐(かい)の国にてかる口もんどうの事 00027400M11第九△せきはんの/当話(とうわ)の事 00027410M12第十△/極楽(ごくらく)沙汰の事 00027420M13第十一△一休/山居(さんきよ)し給ふ時にごり酒の/問答(もんどう)の事(一オ) 00027430M14第十二△/壁(かべ)の/恋(こひ)といふ/題(だい)にて/詩歌(しか)を/詠(ゑい)し給ふ事 00027440M15第十三△一休関東へ下向の時/路次(ろし)にて山伏と問答の事 00027450M16第十四△/狂詩(きやうし) 00027460M18△△△△△△△△△△△△△△△△△下巻終(一ウ) 00027470¥P84 00027480¥T1下巻 00027490¥N1¥J 00027500¥X第一△文字ぜんさくの事 00027510L5一休御わづらひの折から、御やうじやうのためとてかゆを 00027520L6まいりける所へ、はせ川与吉とてこざかしおとこまいりあ 00027530L7わせて、御しやうばんつかまつりて一休に申上けるハ、さ 00027540L8ても此かゆといふ文字を、りやうわきに弓をかいて、中に 00027550L9こめをかくにハしさいこそ候ハめ、ふしんしごくに存候、 00027560L10そも+かゆといふ物ハ、水の中へこめをいれ、しるくや 00027570L11わらかににたるをかゆといふなれハ、あるひハさんずいに 00027580L12こめとか、じきへんにゆなどゝこそかくべきものにて侍る 00027590L13なるに、いかなるしさい候て、かやうにハかき申候やらん 00027600L14とたづね申ければ、一休こたへてのたまハく、この(二オ) 00027610L15文字にはしさいこそあれ、むかし大とうに、しんのうふつ 00027620L16きとてせい王おハしけり、其ころまでハ文字いまださたま 00027630L17らず、/米食(べいしよく)などの文字ハあれとも、かゆといふ字なかりし 00027640L18を、ふつきしんのうあまたのせいけんをあつめて、こめを 00027650L19水のなかにいれ、しるくやわらかににてもちゆれハ、ふく 00027660M1ちうとゝのふてきゑやすきものなり、しかれとも此文字い 00027670M2まださだまらず、いかゝハつくるべきや、いづれもたくミ 00027680M3て見給へとて、さま+しあんし給へども、思ひ出し給 00027690M4ハねハ、あんじわづらひて、まつかゆをたきて人&にすゝ 00027700M5め給ひけり、されとも思しめし出されざりければ、しんの 00027710M6ううつわ物にはしをからりとおかせ給へハ、$かくの 00027720M7ことくに見えたり、さてこそ両(二ウ)(三オ挿画)わきにゆ 00027730M8ミをかきて、なかに米をかくなりとこたへ給ふ。与吉てを 00027740M9うつて申けるハ、あつはれ御とんさくにてましますかな、 00027750M10いかさまこれハゆへもなき事にて候はんづるに、何を申あ 00027760M11げてもらちをあけ給ふ事/な((ママ))とて、から+とわらひけり。 00027770M12さればとよ、これにつきて又ふしんこそ候へ、只今のごと 00027780M13く/笑(わらふ)といふ字を竹かふりにいぬをかくこそ心ゑね、わらふ 00027790M14といふ文字ならば、口へんにひろがるとか、目へんにしわ 00027800M15むなどゝこそかくへき物にて侍るに、竹かふりに犬といふ 00027810M16もじハ、いかなるしさい候てかき申候と申けれは、一休聞 00027820M17しめし仰せけるハ、これもかゆと一どにつくられたり、わ 00027830M18ろふといふ字をたくまんとて、/聖賢(せいけん)あまたならびいたまふ 00027840M19所へ、(三ウ)ちいさき犬かしらにかごをかふりてきたりつ 00027850¥P85 00027860L1ゝ、さま+おどけてくるひければ、人&一どにどつとわ 00027870L2らひ給ふ、其ゆへにこそミぎのとをりにかくなりとのたま 00027880L3ひけり。いかさまいはれありもやすらん、なくもやあるら 00027890L4ん。いとしゆしやうなる御へんたうかな。 00027900¥N2¥J 00027910¥X第二△たきゞの寺にて金のばけたる事 00027920L7一休いまたわかくましますとき、山城廻見のためたち出さ 00027930L8せ給ひけり。たきゞといへる所に一ケのふる寺有。寺号ハ 00027940L9/酬恩庵(しうをんあん)とかや申ぬ。されは此寺にたへて久しくぢうぢなけ 00027950L10れば、おのづからやかんのすミかとなりて、ふるきこけハ 00027960L11かべをとぢ、むぐらハのきをおほひつゝ、物すさまじきあ 00027970L12りさまなり。所のものどもあつまり(四オ)て、かくまであ 00027980L13れはつる事、たゞすむ者のなきゆへなり。しかるべきほう 00027990L14しをまねきて、此寺にすへんとて、かれこれ六七人まてす 00028000L15ゆれども、あるひハよのうちに身まかり、又ゆくゑもなく 00028010L16なりゆきて、いよ+ゆきかふ人なくあれはてたり。一休 00028020L17これを聞しめして、此寺をわれにわたすべし、いかさまし 00028030L18れものゝすむとおぼゆるぞとてやがて出給ふ。たきゞのも 00028040L19のともこれを聞て、ミぎのしだいをのこらず申あげ、さま 00028050M1+せいし申けれ共、われにまかせよとばかりのたまひて、 00028060M2たゞひとりすご+と、かのふる寺のまバらなるに、かす 00028070M3かなるともし火をのミたよりにて、夜のふけゆくをまち給 00028080M4ふ。すでに子のこくばかりとおぼしきとき、寺内しんどう 00028090M5して、いなびかりすさまじき(四ウ)(五オ挿画)なかより、 00028100M6としのほと二八ばかりなる女の、いかにもやうがんびれい 00028110M7なるが、こつぜんとあらハれて、一休の御そばちかふあゆ 00028120M8ミよる時、一休すこしもさハぎたまハず。大かたこゝろへ 00028130¥G 00028140¥P86 00028150L1たるぞ、そこをされとのたまへバ、跡もなくきゑうせぬ。 00028160L2しばらくあつておなじ年ごろのちご、ちやうしかわらけを 00028170L3もちて、よさむに候、/酒(しゆ)をすゝめたてまつらんとたわむれ 00028180L4て、御そばちかふあゆミよる。一休ちつともおどろかせ給 00028190L5ハす。さいぜんのものハ又きたるかとのたまひければ、こ 00028200L6れもおなじくきへうせぬ。とかふするほどにすでにうしの 00028210L7こくばかりとおぼしきとき、寺内ゆるぎさわぎ、いなびか 00028220L8り一入しげくすさまじくして、たけ一丈ばかりのほうし、 00028230L9おもてハわうだんをやむものゝやう(五ウ)にて、まなこハ 00028240L10しゆをぬりたるごとくなるが、ひかりと共にとびめぐりて、 00028250L11ぶつだんのしたをしきりにながめたり。一休御らんじて、 00028260L12すわ三どまできたることこそをろかなれ、はやくつちのそ 00028270L13こへかへれとの給ふよりはやくきへうせぬ。すでによもほ 00028280L14の+とあけけれバ、所のもの共大ぜいにてかの寺へきた 00028290L15りて、さても一休とていきぼとけのやうにいわれさせ給ふ 00028300L16人の、へんげのものにころされ給ハんことのむざんさよと、 00028310L17ねんぶつなど申て一町ばかりへだてつゝ、一休ハまします 00028320L18か、御坊やわたらせ給ふかと、口+によばゝりけり。そ 00028330L19の時一休門のそとへ出給ひけれバ、一どにどつとかんじつ 00028340M1ゝ、しバしはなりもしづまらず。さて一休をたよりにて、 00028350M2ミな+(六オ)寺へ入にけり。一休の給ひけるやうハ、ま 00028360M3づ此寺をくづし、さてぶつだんの下を、ふかさ三尺はゞ一 00028370M4間四方にほりて見よとの給ふ。所のもの共うけたまハり、 00028380M5仰せにてハ候へ共、此寺ハすでに久しき寺とこそ承および 00028390M6候、いかでかさうなくこぼち申さんとをしミける。一休の 00028400M7給ひけるハ、さほどおしく思ハゝ、此寺をくづしてそのあ 00028410M8とに、いかなるがらんをもこんりうすべしと仰せけれバ、 00028420M9さらバ御げちにしたがひ候ハんとて、さん+に打くつし、 00028430M10さてぶつだんの下をほりて見ければ、こがねをつめたるつ 00028440M11ぼを三つまでこそほり出しけり。さてほり出したるこかね 00028450M12を、壱つハ地頭この衛どのへしん上し、いま一つハところ 00028460M13の者共にとらせ給ひ、のこる金にて/善(せん)つくし(六ウ)/美(び)つく 00028470M14したる/堂塔(だうとう)をこんりうし給ふとなり。その時よりかの寺を 00028480M15/酬恩庵(しうおんあん)とがうして、大徳寺の/末寺(まつじ)にさだめられしとかや。 00028490M16此寺にて一休すませ給ふ事とし久しかりしと也。今の世に 00028500M17いたるまで一休の御いんきよの寺と申とかや。さるによつ 00028510M18て此寺に、一休の御/手跡(しゆせき)そのほかれいほうれいぶつあまた 00028520M19有けると也。 00028530¥P87 00028540¥N3¥J 00028550¥X第三△天をかさにき給ふ事 00028560L3一休くわんとうより御/下向(げかう)の道すがら、しかるべき大ミや 00028570L4うと覚しき者と、跡にさがり先になりてのぼらせ給ふ。比 00028580L5しもミな月の末つかたなれバ、/暑気(しよき)はなはだしかりしかど 00028590L6も、かさをもめさずあゆミ給ふ。かの大ミやうもやさしき 00028600L7者にて、/使(つかい)をもつて申上けるハ、(七オ)かゝるゑんてんに 00028610L8御坊ハなどかさをだにもめされざるや、さいわいもちあわ 00028620L9せて候、ふるく候へ共これをめされてあゆミ給へとて、す 00028630L10げのをがさをまいらせける。一休もれいぎたゝしくて仰せ 00028640L11けるハ、御心ざしのほと近比しうちやく申て候、しかしな 00028650L12がら此ほうしハ、天をかさにき候へハあつくもぬるくも候 00028660L13ハずとの給ふ。使の者かへりて/主(しう)にかくとかたれば、かの 00028670L14大ミやうも、いかさまたゝ人にてハなきぞとよ、馬のけあ 00028680L15げをかけ申な、ひかげをよぎてとをし奉れとて、なをも同 00028690L16道申ける。さてとまりにもなりぬれバ、一休もかの大ミや 00028700L17うも同しき所に宿したまふ。さて使をもつて申上けるハ、 00028710L18さき/程(ほと)かさをまいらせんと申つかひ候ものにて候、たびハ 00028720L19いとゞもの(七ウ)うきものにて候なるに、此ころのあつさ 00028730M1にさぞや御身もつかれさせ給ハんなれバ、御出ありて御し 00028740M2ゆ一つまいりてんやと申上ければ、くわぶんの心ざしなれ 00028750M3バとて、使とつれてゆかせ給ふ。さておくへとをり給へハ、 00028760M4大ミやう申けるハ、そも+わこくにてハ、人にあふてハ 00028770M5/笠(かさ)をぬぐとこそ申に、などやぬがせ給ハぬぞと申ける。こ 00028780M6とばの下より、ぬぎ候ひてもかけ申べき所なく候との給ひ 00028790M7ける。さてこそ一休とすいし申て、しゆ+御ちそう申け 00028800¥G 00028810¥P88 00028820L1るとかや。其のちさま※のもんどうありつれ共、聞もら 00028830L2しぬるこそ口/惜(をし)けれ。 00028840¥N4¥J 00028850¥X第四△弟子をとりてめいくをのたまふ事 00028860L5一休のだんなにおろかなるもの有ける。此ものおり+ま 00028870L6いりて御物かたり承りける。あるとき/一子(いつし)しゆつけ(八オ) 00028880L7(八ウ挿画)すれは、きうぞく天にしやうずるといふほうだ 00028890L8んをうけたまハりて、ふかくしんじ、たゞひとりもちたる 00028900L9せがれを、御弟子にあそばし下され候へとてつれてまいり 00028910L10ける。やすき事也とて/髪(かミ)そりすまして、かの小僧がかしら 00028920L11を御手にてさらり+となでたまひて、きんになれ+う 00028930L12しのきんになれとのたまふを、小僧がおやふくりうして、 00028940L13これハきよくもなき事をのたまふ事かな、ほとけまてこそ 00028950L14なくとも、せめてぼさつになれとなり共のたまハで、うし 00028960L15のきんになりてなにのゑきか候ぞやとて、一休をしきりに 00028970L16にらミける。其時一休打わらひ給ひて、されハ/末法(まつほう)の出家 00028980L17ハ、おこなひがたくしておちやすし、されバうしのきんハ 00028990L18ぶらり+とおちさうに見ゆれ共、(九オ)おちたるためし 00029000L19なければ、さてこそかくハいふ也と仰せければ、かのだん 00029010M1ななにとか心得けん、いわれをうけたまハれバおもしろく 00029020M2候といふた。 00029030¥N5¥J 00029040¥X第五△今出川口にてこつじきに小袖をとらせらるゝ事 00029050M6一休/極月(ごくげつ)の末つかた、よし田へ御ざなされける。かへるさ 00029060M7に、今出川口の河原に、まるはだかなるこつじきのふして 00029070¥G 00029080¥P89 00029090L1いたりけるを御らんじて、さてもふびんの者やとのたまひ 00029100L2て、小袖を一ゑぬぎてとらせらるゝに、此こつじきよろこ 00029110L3ぶけしきもなく、そで打とおしきたりける。一休おゝせけ 00029120L4るハ、さてもふしぎなるこつじきかな、一銭をだにいたゞ 00029130L5きてふしおがむハ、こつじきのならひなるに、よろこぶけ 00029140L6しきもなく見ゆるハ、うれしくもなきかと(九ウ)とひ給へ 00029150L7ば、こつじきこたへて申けるハ、御身ハわれに小袖をくれ 00029160L8てうれしくもなきかととひける時、一休さてもあやまつた 00029170L9り、一たいじのさとりこゝなりけるぞや、いかさま此こつ 00029180L10がい人ハたゞ人にてハなきそ、/愚僧(ぐそう)がぐちをはらしぬるこ 00029190L11そうれしけれとて、たなごゝろをあわせ御目をふさぎ給ふ 00029200L12内に、こつがい人ハきえうせて、たゞ小そでばかりぞ残り 00029210L13ける。ふしぎなりける事共かな。 00029220¥N6¥J 00029230¥X第六△一休おさなきときいんどうなさるゝ事 00029240L16一休いまだ十歳ばかりのとき、くわそういなかへ行給ふ御 00029250L17るすに、だんな相はてたり。いそぎいんどうをたのミ申と 00029260L18て、死人をもちてきたりたり。御るすのよしをのたまへど 00029270L19も、御でしたちなり共たのミ申とて、御寺へ死人(十オ)を 00029280M1かきこミけり。折ふしおとなしき御弟子たちもゐあわせ給 00029290M2ハざりければ、一休心得候とて、さもしゆしやうげに御や 00029300M3ういありて、さて死人のいりたるくわんにむかつて、まづ 00029310M4死人にゆびさし、つぎに御身にゆびざし、さて両手をひろ 00029320M5げてなにのことばもなく、/喝(かつ)とぞの給ひける。とかうする 00029330M6程にくわそう御かへりありて、右の次第を物かげより見給 00029340M7ひて、さて一休にいかなるいんどうにてありけるぞとてた 00029350M8づね給ふ。一休仰せけるハ、さん候、死人にゆびざし候ハ、 00029360M9なんぢがしにたるゆへにと申事にて候、それがしニゆびざ 00029370M10し候ハ、この小僧にと申事にて候、両手をひろげ候ハ、お 00029380M11ほきなるはぢをかいたると申たるにて候なりとぞ、こたへ 00029390M12給ひし。(十ウ) 00029400¥N7¥J 00029410¥X第七△/堺(さかい)の/浦(うら)にて/遊女(ゆうぢよ)と/哥問答(うたもんどう)の事 00029420M15一休和尚さかいの浦へ御こしの時、所に/旅客(りよかく)を宿する/店屋(てんや) 00029430M16あり。其中に/地獄(ぢごく)といへる遊女あり。一休和尚をしりて、 00029440M17一首を詠じて和尚に奉りける。 00029450M18△△/山居(さんきよ)せハ深山の奥に/住(すめ)よかし 00029460M19△△△爰ハ/浮世(うきよ)のさかい近きに 00029470¥P90 00029480¥G 00029490M1一休そのまゝ返哥、 00029500M2△△一休か身をハ身程に思ハねハ 00029510M3△△△市も/山家(やまが)も同し住家よ 00029520M4和尚もたゝならぬ者と思しめし、あたりの者によしを尋給 00029530M5へハ、あれこそ人のしりたる地ごくと申遊女にて候と申け 00029540M6れは、和尚そのまゝ、 00029550M7△△聞しより見ておそろしき地獄かな 00029560M8遊女とりあへす、(十一オ) 00029570M9△△しにくる人のおちざるハなし 00029580¥N8¥J 00029590¥X第八△/甲斐(かい)の国にてかる口もんどうの事 00029600M12甲斐の国へ一休御下りの時、所のなにがし、かねて一休の 00029610M13/答話(とうわ)よき事を聞及ひしゆへ、一休の/頓作(とんさく)をまのあたり聞ん 00029620M14と思ひ、まぢかく使ふ/童(わらハ)におしへいひけるハ、一休こゝを 00029630M15御とおりのとき、/生恁麼(しやういんも)の時如何と申せ、和尚何とぞ/言句(ごんく) 00029640M16あらバ、/喝(かつ)といふてたちされとふくむれど、聞なれぬ言葉 00029650M17なれハ、おぼへがたきていに見へけるゆへ、かさねていひ 00029660M18けるハ、なまといふ生の字なるぞ、/恁麼(いんも)はいもをはねたる 00029670M19物と覚へよとて、一休をそしとまちかけたる所へ、和尚御 00029680¥P91 00029690L1とをり有ければ、童かけいで、/生(なま)いもの時いかんととふ。 00029700L2和尚とりあへず、/煮(に)てもよし/焼(やき)ても(十一ウ)よしと仰せけ 00029710L3れば、おしへのごとく喝といふ。和尚こたへて、ゑぐいか 00029720L4とあれバ、なにがしもおかしと思ふ中にも、答話の頓なる 00029730L5事を/感(かん)じられたり。 00029740¥N9¥J 00029750¥X第九△せきはんの/当話(たうわ)の事 00029760L8一休和尚したしき/在家(ざいけ)へ御行なされ候時、折ふし/到来(とうらい)とし 00029770L9てこはいひを奉りけるが、亭主こびたるものにて、和尚の 00029780L10当話をこゝろミんために、何と和尚せきはんなれバむさと 00029790L11むねハとをるまじきに、そこつにまいるハいかんといふ。 00029800L12されば一休そらさぬ/風情(ふせい)にて、ひきよせにぎりかためてひ 00029810L13た物にまいりけり。亭主しきりに、一句なくしてまいるハ 00029820L14せんなし、いかに+とせめければ、その時和尚こたへ給 00029830L15ひけるハ、これ見よ、せきはんときくゆへ(十二オ)(十二ウ 00029840L16・十三オ挿画)に、てがたをつけてむねをとをすほどに、い 00029850L17くらもとをらでハとあれば、亭主理におれてあきれけり。 00029860¥N10¥J 00029870¥X第十△/極楽(ごくらく)/沙汰(さた)の事 00029880M3一休和尚へ日比御でいり申たる/白俗(はくぞく)に、たゞ一向に弥/陀(だ)の 00029890M4/浄土(じやうど)に生れん事を/願(ねが)ふ心/深(ふか)かりし者あり。さる程に当時の 00029900M5/名僧(めいそう)八宗九宗をへだてず、/足(あし)をそらさまになし、あなたこ 00029910M6なたへまいりつゝ、/極楽(こくらく)浄土に生れん事の沙汰のミに日を 00029920M7くらしける。ある時一休へまいりて申けるハ、それがしあ 00029930M8さましくも愚/痴(ち)/暗昧(あんまい)の身と生れ候へども、たもちがたき/仏= 00029940M9性(ぶつ=しやう)をぐし申上ハ、いかやうにもしゆぎやう仕り、来世ハか 00029950M10ならず極楽国に生し申たき/誓願(せいぐわん)深くおハしまし候、さるに 00029960M11より四方の/能化達(のうけたち)(十三ウ)にさんじて承り候に、他の/師(し)ハ 00029970M12十万八千里の遠きあなたに極楽ありとおしへ給ふに、和尚 00029980M13ハ地獄極楽/目前(もくぜん)にありとしめし給ふ、百里や弐百里ハちが 00029990M14ひもいたさんずれと、かやうに/相違(さうい)あるによりて、それが 00030000M15しまよひ申候あいだ、あわれ御ぢひに/実(まこと)をしめし給へと、 00030010M16なみだをながしくどきける。一休聞しめし、されば/迷執(めいしう)深 00030020M17き者のためには十万/億土(をくど)と/説(とき)、/悟了通徹(これうつうてつ)の者には目前と/説(とき)、 00030030M18経に/去此不遠(こしふをん)とあるハこゝなりとのたまへハ、俗かさねて 00030040M19申けるハ、かやうにていねいのおしへ承り候へとも、/終(つい)に 00030050¥P92 00030060L1/七宝荘厳(しつほうしやうごん)の極楽、いかほどたづねても見申たる事なし、と 00030070L2てもの御ぢひに、今一句ねんごろなる御おしへにあづかり 00030080L3たくこそ候へといふ。和尚聞しめし、さればこそ(十四オ) 00030090L4極楽目前にありといふハ、七宝荘厳のかたちあるにあらす、 00030100L5人のために口に説て/示(しめ)す極楽にあらず、人&/自己(じこ)に/言句(ごんく)を 00030110L6はなれて/悟(さと)り得ずんばしる事なし、しばらく/坐禅(ざぜん)/工夫(くふう)して 00030120L7見付よとおゝせければ、かたじけなしとて家にかへり、ふ 00030130L8すまをかぶり/昼夜(ちうや)/案(あん)しくらし明して、あはたゝしくも和尚 00030140L9へまいりてためいきつぎ、/目前(もくぜん)の極楽こそミつけて候へ、 00030150L10さて+多くの衆生のまよひてしらざるこそふびんなれ、 00030160L11さとりこそハひらけて候へとて、ゑミをふくミ小おどりし 00030170L12て申ける。一休聞しめし、さこそあるらめ、心の面目だに 00030180L13ひらけなば、何のうたがひ有べきそ、さりなから其方の明 00030190L14らめやうはいかんととひ給へハ、さればこそ、此極楽と申 00030200L15ハ、/貧賎(ひんせん)(十四ウ)/富貴(ふうき)にもよらす、/老若男女(らうにやくなんによ)のへだてなく、 00030210L16朝夕きらりとある事に候といふ。和尚うちうなづき、もつ 00030220L17とも+よき心得かな、さてその極楽に朝夕安座したる心 00030230L18はいかんととひ給へハ、さればその事にて候、/美食蔬飯(びしよくそはん)に 00030240L19かぎらず、朝夕のごくをらくにたぶる所こそ極楽にて候と、 00030250M1さもじまんらしく/重面(じうめん)作りて申けれは、一休も手を打てわ 00030260M2らひ給ひけるとそ。 00030270¥N11¥J 00030280¥X第十一△一休山居し給ふ時にごり酒の問答の事 00030290M5一休和尚山居しておハしませし時、したしく御出入申人御 00030300M6見まひ申ける。折ふしにごり酒をまいりける所へ行かゝり 00030310M7けれは、 00030320M8△△山居して心すますと聞つるに 00030330M9△△△にごり酒をハいかてのむらん(十五オ) 00030340M10和尚其まゝ、 00030350M11△△山居してのむへき物ハにごり酒 00030360M12△△△とても浮世にすむ身てもなし 00030370M13とあそばしける。 00030380¥N12¥J 00030390¥X第十二△/壁(かべ)の/恋(こひ)といふ/題(だい)にて詩哥を詠し給ふ事 00030400M16一休和尚のかる口なるをよくしりたる人、/作意(さくい)を聞んため 00030410M17和尚へまいり、壁の恋といふ題を出して、和歌一首あそは 00030420M18し候へと所望しければ、とりあへす、 00030430M19△△君まつちこねはやひとりぬるはかり 00030440¥P93 00030450L1△△△こいをしたてのなハ立にけり 00030460L2とあそばしける。又/烟(けふり)の恋と云題にて詩一首をこひけれ 00030470L3ハ、 00030480L4△冉々軽烟惹恨長△△六宮宴罷月昏黄 00030490L5△羊車不至芙蓉殿△△知有佳人慢■香(十五ウ) 00030500¥N13¥J 00030510¥X第十三△一休関東へ下向の時路次にて山伏と問答の事 00030520L9一休和尚関東へおもむかせ給ふ時、/普化僧(こもそう)の尺八を吹てと 00030530L10をらせ給ふ。道にて山伏にあひ給ひしに、一休を見しりて 00030540L11とひかけゝるハ、いかに/普化僧(こもぞう)殿いづかたへ行給ふといふ。 00030550L12和尚こたへて仰せられけるハ、風にまかせてとあれハ、山 00030560L13伏いひけるハ、風なき時ハいかん。一休仰せけるハ、吹て 00030570L14行とあれば、山伏もがをおりて口をおりて口をとぢける。 00030580¥N14¥J 00030590¥X第十四△/狂詩(きやうし) 00030600L17△△△於一谷 00030610L18△寿永三年三月天△△九郎冠者乗兵船 00030620L19△源平合戦無申計△△海底死人幾万千(十六オ) 00030630M1△△△題茶釜 00030640M2△有口不言全体円△△不離色相絶諸縁 00030650M3△并呑大海江河水△△吐出趙州一味禅 00030660M4△△△題黄鴬 00030670M5△鳥亦説経似度他△△樹頭樹底妙音多 00030680M6△林間花若諸菩薩△△中有黄鴬小釈迦 00030690M7△△△或人/不動(ふだう)明王の/古仏(こぶつ)を/秘蔵(ひさう)して/安置(あんぢ)しけるか、一休 00030700¥G 00030710¥P94 00030720L1△△△かの家につねにゆき給ひしに、ある時/彼不動(かのふだう)を御覧 00030730L2△△△して、/頓(やが)て一/絶(ぜつ)を/賦(ふ)し給ひける。(十六ウ)(十七オ挿 00030740L3△△△画) 00030750L4△全躰真黒称明王△△生付片輪目口張 00030760L5△一生不犯無念者△△去何処固護摩堂 00030770L6△△△題一谷 00030780L7△打落平家無数兵△△九郎冠者大高名 00030790L8△敦盛熊谷進遅速△△一朝懸向上時声 00030800L9△△△/落髪(らくはつ)之時 00030810L10△東山々下玉毛頭△△今日出家作比丘 00030820L11△移得天台真羅漢△△平生所望一時休(十七ウ) 00030830L12△△△題男根 00030840L13△我此貪裸八寸強△△夜来抱汝臥空床 00030850L14△一生不触美人手△△犢鼻褌中日月長 00030860L15△△△題那須与一 00030870L16△与一源平第一弓△△判官召道射成功 00030880L17△塞目祈念鞍馬上△△七花八裂扇真中 00030890L18△△△題宇治川先陣 00030900L19△頼朝大将秘蔵馬△△宇治川先陣給之(十八オ) 00030910M1△生食前非磨墨後△△梶原源太一鞭遅 00030920M2△△△題蚤 00030930M3△垢耶塵耶是何物△△元来見来更無骨 00030940M4△雖為人喰十分肥△△痩僧一捫没生涯 00030950M5△△△/歳旦(さいたん) 00030960M6△有銭有酒有金銀△△今歳初成大徳人 00030970M7△当寺他山若僧達△△未申案内徃来頻 00030980M8△△△/恋(こひ)(十八ウ) 00030990M9△日夜思君長不忘△△夜深恋慕臥空床 00031000M10△夢中携手欲相語△△被駭暁鐘又断腸 00031010M11△△△同 00031020M12△花咲花而易老花△△花顔花盛夢中花 00031030M13△花時花亦可情重△△花落花過誰問花 00031040M14△△△同 00031050M15△生天成仏閣思君△△灯下吟詩痩十分 00031060M16△有力秋風不応払△△胸関鎖断楚山雲(十九オ) 00031070M17△△△題性霊棚 00031080M18△飯在中央盛曲盆△△饅頭無味鉄崑崙 00031090M19△慇懃三洒性霊水△△水出推流地獄門 00031100¥P95 00031110L1△△△/布袋(ほていの)/賛(さん) 00031120L2△布袋依袋眠△△人言是坐禅 00031130L3△工夫無一字△△大食腹便々 00031140L4△△△題淫門 00031150L5△両脚山中有小池△△東西南北草離々(十九ウ) 00031160L6△無風白浪起烟波△△一目朱龍出入時 00031170¥Q 00031180L8△△寛文十二年歳次壬子季春吉辰 00031190L9△△△△△△△△二条通丁子屋町 00031200L10△△△△△△△△△△△△鶴屋喜右衛門梓板(二十オ) 00031210¥P97 00031220¥U噺本大系△第三巻 00031230¥T狂歌咄 00031240¥G 00031250¥Y 00031260L16寛文十二年刊 00031270L17浅井了意著 00031280L18大本五巻五冊 00031290L19大東急記念文庫蔵 00031300¥Y 00031310M1つれ+なるまゝに/庇(ひさし)の/簾(すたれ)にむかひて、こゝらにうたひゆ 00031320M2く世になしことを、そのわけもなく聞つくれは、あだしう 00031330M3こそ物さハかしけれ。いでや子どものうかれてハ、めざま 00031340M4しかるへき事こそおほかめれ。身もちのおほへいハ、いつ 00031350M5もかだまし。/酒(さけ)のそさうのすいきやうまで、/人外(にんぐわい)のたハけ 00031360M6なるそやくたいなき。いぢのひがミのおほあれさまハさら 00031370M7也。あほうども/蜻蜒(とんバう)などたハるゝきはいはぬるしとミゆ。 00031380M8その子うばそだてハ/恥(はじ)てにぐれど、なをなまづけなし。そ 00031390M9れよりしもべがたハほたにつけつる/飛火(とびひ)にあひ、しめりが 00031400M10ほなるも、水かけばいかめしとおもふらめと、いたくくえ 00031410M11なまし。れうしばかりうらやましからぬものはあらし。人 00031420M12にハ/切剥(きりはぎ)の(一オ)やうに思ハるゝよと、/僭上(せんしやう)をなごがいへ 00031430M13るも、けにざれことそかし。いきすぢもみて/農人(のうにん)したるに、 00031440M14つゐにいそかしとハみえす。/高野(かうや)ひしりのいひけんやうに、 00031450M15/明年(ミやうねん)/喰(くふ)へき/糒(ほしゐひ)のおほん/惜(おし)さに、たバふらんとぞおほゆる。 00031460M16ひだるさの世すて人ハ何にても/飽(あか)まほしき/粮(かて)も有なん。人 00031470M17ハかたぎありきさまのすがみたらんこそあさましかるへけ 00031480M18れ。物うち/喰(くひ)たる/割煮(きりにる)によらす、あハつるやうにありて、 00031490M19ことがらおちふれぬるこそ、あハずむなつかへしけれ。め 00031500¥P98 00031510L1つらしとミる/稗(ひえ)の/糂(こなかき)をくりせらるゝほんそうに見えぬこ 00031520L2そ/曲(くせ)ものなるへけれ。嶋かたひらこそむさくつぎたらめ。 00031530L3心ハなどかかだましきよりかたましきにもうつけばうつけ 00031540L4さらん。かたぎことの外(一ウ)こびたる人も、ざゝめくに 00031550L5なりぬれは、しらけたる/顔(かほ)にか+しげなる人にも立まハ 00031560L6りて、かならずけほかさるゝこそかひなきわさなれ。あい 00031570L7さうなき事ハまが+しき口の/神子(ミこ)/作病(さくひやう)わる/緩怠(くハんたい)の/意地(いぢ)、 00031580L8また/遊興(ゆうけう)にくぜつのかた人の/敵(かたき)ならんこそいやらしかるへ 00031590¥G 00031600M1けれ。手などつくねたらずはしりかけ声をかしくていとお 00031610M2しうするものから、けなものこそおのこゞハよけれ。 00031620M4△△△△△△△△△/瓢水子(へうすいし)/松雲処士(せううんしよし)/叙述(じよじゆつ)(二オ)(二ウ挿画) 00031630¥P99 00031640¥T1狂哥咄巻第一 00031650¥N1¥J 00031660¥X 00031670L3△/柿本(かきのもとの)人丸は/和歌(わか)の/祖師(そし)にて、/哥仙(かせん)の長とあかめられ、 00031680L4世に有かたき歌とも数+よミたまひけり。いかなる国の 00031690L5誰人の子とさだかにしることなし。たゞこれ/化生(けしやう)の人にて、 00031700L6後にハ天にのほられしといひつたふ。/八尾大臣(やおのおとゞ)の/姫宮(ひめミや)ハ/文= 00031710L7武(もん=む)天皇の/后(きさき)にておはします。此御もとへしのひて通ひける 00031720L8つミによりて、/上総(かづさ)の国になかされ、みとせ/経(へ)てめし返さ 00031730L9れけり。又ある女を/恋(こひ)渡り、年ころつれなかりしかハよミ 00031740L10つかハしける、 00031750L11△△おとゝしもこそも今年もおとゝひも 00031760L12△△△きのふもけふも我恋る君 00031770L13石見国/高津(たかつの)浦にて身まかるとて、 00031780L14△△/石見潟(いはミかた)高津の松の木のまより 00031790L15△△△浮世の月を見/果(はて)ぬる哉(三オ)(三ウ・四オ挿画) 00031800L16西国に下りし時、舟にのりて石見がたを行けるに、/大山(おほやま)の 00031810L17里に人/磨(まる)の/墓(はか)ハあり。今ハ/城(しろ)の二の丸に/掻(かい)ごめられ、外へ 00031820L18ハ見えすと聞てよめる、 00031830L19△△人丸のしるしの/塚(つか)ハ二の丸の 00031840¥G 00031850¥P100 00031860L1△△△/石垣(いしかき)のもとゝなりにけるかな 00031870¥N2¥J 00031880¥X 00031890L2△小野小町ハ/衣通姫(そとをりひめ)のなかれを/汲(くん)で、和哥の道に名をえ 00031900L3し人なり。後に年老て都をはなれ、/逢坂(あふさか)山のふもとにすミ 00031910L4けり。あさましきわら屋のうちに居て、むかしをおもひ出 00031920L5つゝ、 00031930L6△△花の色ハうつりにけりないたつらに 00031940L7△△△我身世にふるなかめせしまに 00031950L8とよミけるも、/百年(もゝとせ)の/婆(うは)と成ての哥なりとかや。小町が/墓(はか) 00031960L9ハ都の北/市原野辺(いちハらのべ)にあり。/深草(ふかくさ)の/小将(せうしやう)/百夜(もゝよ)かよひて/死(し)せし 00031970L10所とて、其しるしの/跡(あと)あり。小町と少将との墓む(四ウ)か 00031980L11ひ合せてミゆ。又ある説にハ、小町ハ物の/怪(け)つきて奥州ま 00031990L12て狂ひ行つゝ、/八十嶋(やそしま)にて/死(し)す。その/墓(はか)所を市原といふと 00032000L13かや。 00032010L14△△/陸奥(みちのく)とこの市原と同し名の 00032020L15△△△小町か墓のまち+のあと 00032030¥N3¥J 00032040¥X 00032050L17△伊勢/太輔(たゆふ)ハ伊勢物語をめでたく書あらハして、世のも 00032060L18てはやしも高くきこえしか、後にをとろへて、久しくすみ 00032070L19渡りける京の家を銭にうりて、 00032080M1△△/飛鳥(あすか)川/淵(ふち)にもあらぬわか家を 00032090M2△△△せにかハりゆくものにそ有ける 00032100M3とよミて、山城の/淀(よど)の西に引こもりて、世をすこしける。 00032110M4そのかみ、わかゝりし時に/枇杷(ひわの)左大臣/仲平(なかひら)公に思ハれしが、 00032120M5すさめられ奉りて、/娘(むすめ)の中/務(つかさ)をとゞめて、我ハ故郷に帰る 00032130M6とて、 00032140M7△△いとハるゝ我身ハ春の駒なれや 00032150M8△△△/野飼(のかひ)がてらにはなちすてらる(五オ) 00032160M9かのすミける所、今ハ伊勢寺と名づく。中比地を掘けるに、 00032170M10伊勢がもちたる鏡なんとの出たりと聞つたふ。 00032180M11△△書置し伊せ物語ぬしや誰 00032190M12△△△むかし+になりにけるかな 00032200¥N4¥J 00032210¥X 00032220M14△△/清原元輔(きよハらのもとすけ)身まかりて後ハ、家に住人もなくなりて、 00032230M15軒もかたふき、/垣(かき)もあバらに/苔(こけ)ふかくあれにけるを、/娘(むすめ)の 00032240M16清少納言、親の跡とてゆきてすみけり。/枕草紙(まくらざうし)とて有かた 00032250M17きさうしを作り出て、世にもてはやす。ある冬のすゑつか 00032260M18た、雪のいみじう降けるに、/赤染(あかそめの)衛門とふらひきて、家の 00032270M19有さまへだての/垣(かき)もなくたふれてあハれなりけるを見てよ 00032280¥P101 00032290L1める、 00032300L2△△跡もなく雪ふる里のあれたるを 00032310L3△△△いつれむかしの垣ねとか見る 00032320¥N5¥J 00032330¥X 00032340L5△赤染衛門ハ/時望(ときもち)か娘にて、上東門院につかうまつり、 00032350L6和哥の(五ウ)道にひろくまなびて、宇治殿の世のさかりな 00032360L7りし事をしるして、/栄花(えいくわ)物語と名づく。いと面白き文なり。 00032370L8後にいかなる思ひの有けるにや、よろつにつけてあちきな 00032380L9くおほえしかハ、よめる、 00032390L10△△身をかくす方なきものハ我ならて 00032400L11△△△またハ/焼野(やけの)の/雉子(きゝす)成けり 00032410L12とて引こもりしが、家のあれわたりて/蛛(くも)のゐまとはれ、/垣= 00032420L13壁(かき=かへ)まバらなりけれハよめる、 00032430L14△△我宿のあるしも今ハ歎かまし 00032440L15△△△/蛛(くも)の/八重垣(やへがき)ひまもなくみゆ 00032450¥N6¥J 00032460¥X 00032470L17△和泉式部ハ/大江(おほえの)/雅致(まさむね)がむすめなり。母ハ/昌子内親王(しやうしないしんわう)の 00032480L18めのと/弁内侍(べんのないし)とかや。式部ハ歌の道に名をえしが、あると 00032490L19きよめる、 00032500M1△△人ハたゝあかれぬうちに世を出よ 00032510M2△△△なさけのあるをおもひ出にして(六オ) 00032520M3むすめの小式部、あな心とまりて聞ゆとてよめる、 00032530M4△△人はたゝあかれて後に世を出よ 00032540M5△△△なさけのあれハ名こりおしきに 00032550M6式部ハ/保昌(ほうしやう)につれあひて、丹後にくたりぬ。小式部が、ま 00032560M7だふミもミぬといふ名哥をよみけるが、十八にてむなしく 00032570M8なれり。その年の暮に上東門院より、うつくしく/衣(きぬ)/縫(ぬひ)たて 00032580M9させ、小式部と書て、いつもに替らず給ハりけれハ、母の 00032590M10式部いとゝかなしくてよめる、 00032600M11△△諸友に苔のしたにハ/朽(くち)すして 00032610M12△△△うつもれぬ名を聞そかなしき 00032620M13それまてハ後世の事、露ハかりも思ハさりしを、卅五の年 00032630M14より、小式部にをくれし/歎(なけき)のあまり、仏の道に入て、寺に 00032640M15引こもり、念仏となへて/往生(わうしやう)をとけゝると也。京極三条の 00032650M16南に/試心院(ししんゐん)とて、式部か/影(えい)あり。四十計のうつくしき(六ウ) 00032660M17/尼(あま)、墨染の衣にはなのぼうしかふれるすかたをうつせし。 00032670M18その/墓(はか)もこゝにあり。 00032680M19△△なき跡のしるしの/塚(つか)に立よりて 00032690¥P102 00032700L1△△△和泉しきミの花をたむくる 00032710¥N7¥J 00032720¥X 00032730L3△/紫式部(むらさきしきふ)ハ越前守/為時(ためとき)かむすめなり。はしめハ/藤(とう)式部と 00032740L4いひけるが、源氏物語を作りて、/紫(むらさきの)上の御事をことさら 00032750L5めでたく書あらハしける故に、紫式部とハ名つけられける 00032760L6とかや。式部か墓ハミやこの北/閻魔堂(えんまだう)の左にあり。/白毫院(びやくがうゐん) 00032770L7と名づく。/前(さき)より語る五人の女房ハ、上東門院の御時に/梨= 00032780L8壷(なし=つほ)の五人の哥仙といはれて、いつれもとり+にめてたき 00032790L9哥よみ出しけるが、又いつれも+まつしかりけるとにや。 00032800¥N8¥J 00032810¥X 00032820L11△昔さしも名ある人おほくハまづしく聞えし。/小侍従局(こじしうのつほね) 00032830L12は(七オ)まことにまつしくて、世に立まじハりかたく、/因= 00032840L13幡堂(いな=はたう)の薬師にいのりてよみける、 00032850L14△△なむ薬師/愈(いや)させ給へ是や此 00032860L15△△△まつしきもまた/病(やまひ)ならずや 00032870L16/薬師(やくし)の御/利生(りしやう)にや、/徳大寺(とくたいじの)/実定公(じつていこう)に思ハれまいらせて、ゆ 00032880L17たかになりけるが、/待宵(まつよひ)にふけ行鐘の声といふ哥よミて、 00032890L18/待宵侍従(まつよひのじしう)といはれしとかや。 00032900¥N9¥J 00032910¥X 00032920M1△権中納言/定家卿(さたいゑのきやう)は、色くろく/疱顔(いもがほ)なりしとかや。あ 00032930M2る時内よりめされて、/殿上(てんじやう)の大/床(ゆか)にまいり給ふに、ほどあ 00032940M3りて/二十(はたち)バかりの女房のかたちきよらなるが、柳のいつゝ 00032950M4に/紅梅(こうばい)のはかまふミしたき、くた物を/篭(こ)にいれて中納言の 00032960M5まへに打をきて、あいきやうある/皃(かほ)つきにて物いふけハひ、 00032970M6いと/艶(えん)にやさし。定家卿手をとりて、ざれことをいひかけ 00032980M7られしに、いか(七ウ)におほせ給ふとても、御色のくろう 00032990M8おハしますものをといひけれは、中納言殿とりあへす、 00033000¥G 00033010¥P103 00033020L1△△/葛城(かつらき)の神ハ夜るこそ契りけれ 00033030L2△△△すかたによらぬ人はこゝろを 00033040L3とよみたまひしに、女房ハ返しもせて入にけり。 00033050L4定家卿、/猫(ねこ)の妻こふるとてかまひすしうなきけれはよめる、 00033060L5△△うらやましこゑもおしまぬのら猫の 00033070L6△△△心のまゝに恋をするかな 00033080L7ある人の哥に、 00033090L8△△恋をして仏になるといはませハ 00033100L9△△△我そ浄土のあるしならまし 00033110L10/不言恋(いはぬこひ)といふことをよめる、 00033120L11△△夏ハ扇冬は火桶に身をなして 00033130L12△△△つれなき人によりもつかハや(八オ)(八ウ挿画) 00033140¥N10¥J 00033150¥X 00033160L14△螢には声のなきにや。/宗祇(そうき)の引れし/証哥(せうか)に、 00033170L15△△こゑ+に鳴虫よりハ中+に 00033180L16△△△なかぬほたるの思ひこそませ 00033190L17/宗朝(そうてう)ハ螢も鳴ものとて、/証哥(せうか)を出されし、 00033200L18△△/深山(ミやま)なるほたに喰つき鳴螢 00033210L19△△△声なかりせはこれそ/狐火(きつねび) 00033220M1かくあらそひて/是非(ぜひ)分かたし。/法橋(ほつけう)/紹巴(ぜうは)と云ける/連哥師(れんかし)、 00033230M2/太閤秀吉公(たいかうひでよしこう)の御前に出られしとき、秀吉公かく仰せけり、 00033240M3△△奥山に紅葉ふミわけ/鳴(なく)/螢(ほたる) 00033250M4/紹巴(ぜうは)心得しらず。螢ハなかぬむしとうけたまハりしと申す 00033260M5に、御/気色(きしよく)を/損(そん)じて、/天(あめ)がしたを手にいるゝほどの事に、 00033270M6/鳴(なか)するならハほたるとてもなくまじきかとのたまふ。細川 00033280M7/玄旨(げんし)御前に有て、螢も鳴ものにて、古哥に、 00033290M8△△武蔵野の/篠(しの)を/束(つかね)て降雨に 00033300M9△△△ほたるより外なくむしもなし(九オ) 00033310M10とよみたりと申されしにぞ、さすがに和哥の道ひろくまな 00033320M11はれし故にこそ、かゝる/証哥(せうか)をも出されたれと御/感(かん)あり。 00033330M12此哥ハ/聞哥(きゝうた)とて、まことには螢の鳴といふ証哥にはあらず。 00033340M13時にとりて螢も鳴と申なだめ候し引哥に取なされける。/哥= 00033350M14道(か=だう)/博学(はくがく)の心ばせなり。 00033360¥N11¥J 00033370¥X 00033380M16△宇治の中納言藤原/朝雅(ともまさ)卿、熊野にまうてたりしに、和 00033390M17泉国/大高郡(おほたかこほり)にて、/在原業平(ありハらのなりひら)/驪(くろ)の馬にのり、七八人具して、 00033400M18いきをひあまりて行合たり。/朝雅(ともまさ)卿夢のやうにおほえて、 00033410M19いかにととへば、常にハすみよしにすミ侍へるとて行わか 00033420¥P104 00033430L1れぬ。おそろしくて/帝(ミかど)へそうしけれハ、/行平(ゆきひらの)中納言に仰せ 00033440L2て、すみよしへ行て尋させられし。その夜の夢に業平のよ 00033450L3める、(九ウ) 00033460L4△△思ひ出て神代のことも忘れしな 00033470L5△△△むかしなからのわか身なりとハ 00033480L6これによりて業平を住吉明神とハ申けるとかや。業平朝臣 00033490L7ハ/東(あつま)に下りて身まかりけりといひつたへし。/下総(しもをさの)国/牛込(うしこミ)と 00033500L8云所に業平/塚(づか)とてあり。角田川にて舟より落てむなしくな 00033510L9れりとて、/塚(つか)も舟ともにつきこめたりといひならハせり。 00033520L10△△なき跡のしるしハこゝにありハらや 00033530L11△△△/塚(つか)のかたちハ舟のなり/平(ひら) 00033540¥N12¥J 00033550¥X 00033560L13△桜井/基佐(もとすけ)まづしくて、人+あなつりけるにや、哥の 00033570L14集に入られざりけれハ、歎き思ひてよめる、 00033580L15△△あしなうてのほり兼たる/筑波(つくは)山 00033590L16△△△和哥の道にハ/達者(たつしや)なれとも 00033600¥N13¥J 00033610¥X 00033620L18△/奈良(なら)の/帝(みかと)の御時、/紀貫之(きのつらゆき)と聞えしハ/紀(きの)/文本(ふんもと)が子にて、 00033630L19/泊瀬(はつせ)に住けり。/元服(げんふく)して/実定(さねさだ)とぞいひける。内へめされ 00033640M1(十オ)て、御前にして/首(かしら)をかたふくるとて、/冠(かふり)をおとした 00033650M2り。極たる非礼の御とがめ、いかゞあらんと人+浅まし 00033660M3く思ハれけるに、冠ををしなをして、 00033670M4△△今よりハ/紀貫之(きのつらゆき)とめさるへし 00033680M5△△△/實定(さねさだ)なからかふりおとせハ 00033690M6えいかん斜ならず、/興(けう)せさせたまひけり。/御書所(ごしよところ)をうけた 00033700M7まハり、/古今集(こきんしう)をえらひて奉らる。大かたならぬ上/戸(こ)にて 00033710M8やありけむ、 00033720M9△△酒かめに我身をいれて/漬(ひたさ)ハや 00033730M10△△△/醯(ひしほ)色にもほねハなるとも 00033740M11かゝる哥の類、万葉集にミゆ。 00033750M12△△中+に人とあらすハ酒/壷(つほ)に 00033760M13△△△なりても酒をのミてんものを 00033770¥N14¥J 00033780¥X 00033790M15△ある人、あなかちに酒をこのミていひけるハ、我/死(しな)ば 00033800M16備前国の土とならばや、/酒壷(さかつほ)に/焼(やか)れて酒をのむへきにとい 00033810M17ひけり。(十ウ)いかめしき上/戸(こ)にこそ。/晋(しん)の七/賢(けん)が酒を好 00033820M18ミし事をよめる、 00033830M19△△いにしへの/七(なゝ)の/賢(かしこ)き人と/ゝ((ママ))も 00033840¥P105 00033850L1△△△/欲(ほり)する物ハ酒にしあるらし 00033860¥N15¥J 00033870¥X 00033880L3△京の/樋口(ひくち)の町に酒うる人あり。/十二月(しはす)の大/晦(つこもり)に、田 00033890L4川/某(なにかし)がもとへ/酒手(さかて)をこひにやりけれ共、えなさす。物う 00033900L5き事に思ひけれと、すべきちからもなくて、かくそよみて 00033910L6つかはしける。 00033920L7△△/酔(えひ)はてた酒手を我にこひ衣 00033930L8△△△いくたひきてもやれるきハなし 00033940L9酒屋のあるし、此哥の返しすとて、 00033950L10△△こひ衣心つよくもけふの日に 00033960L11△△△やれぬときけハ我そうらみる 00033970¥N16¥J 00033980¥X 00033990L13△四条/油(あふらの)小路に、/幸和(かうわ)といふ/医師(くすし)、七月十二三日わた 00034000L14り、酒手をすまさゞりしかハ、酒やより/櫛(くし)のはを/挽(ひく)ことく 00034010L15に人をや(十一オ)りて、こひたてしに、なすへきおほえた 00034020L16になく、せんかたなさに哥をかきてつかハしける。 00034030L17△△五月雨やあまのさかてにふりつまり 00034040L18△△△雨の/脚(あし)ほとかうわめいわく 00034050L19酒屋のあるし返し、 00034060M1△△五月雨に日あしもみえす入逢の 00034070M2△△△くれぬとつくるかねそうたてき 00034080¥N17¥J 00034090¥X 00034100M4△/唐橋(からはし)のあたりに酒うる/翁(おきな)あり。本より/無筆(むひつ)にて、帳に 00034110M5/画(ゑ)をかきておほえとし、/十二月(しはす)廿日ハかりに、物/書(かく)人を資 00034120M6て酒手の書付せさせ、/借(かり)ける人のもとにつかハして/代(かハり)をバ 00034130M7とる事也。/画(ゑ)の書たる有様色&なる中に、馬の前足の間へ 00034140M8人の/頭(かしら)をさし入て/噛(かミ)つきて居る所あり。是ハいか成事そと 00034150M9とへハ、馬をくらふ所ハ/馬工郎(ばくろう)と云事也、馬の/俣(また)をくらふ 00034160M10ところハ又九郎といふ心也といふに、をかしくてかくそよ 00034170M11ミける。(十一ウ) 00034180M12△△/馬工郎(ばくらう)と又九郎とをひとつ画に 00034190M13△△△かくハ誠におほえにく郎 00034200¥N18¥J 00034210¥X 00034220M15△大津に酒うる人、物をハえかゝで、帳にハ/画(ゑ)を書てし 00034230M16るしとす。七月八日九日のころ、人をやとひて書立の日記 00034240M17をかゝせけるに、をのれハ帳を前にひかへて、それかれと 00034250M18いひてかゝするに、四角なる物の中にほそき墨すこし付た 00034260M19る/画(ゑ)あり。我ながらわすれて、/暫(しバ)し案じつゝ、/屹(きつ)とおもひ 00034270¥P106 00034280¥G 00034290L12出たり、これハ宗珍といふ人の事也と云。其故をとへハ、 00034300L13されハこそ、/宗珍(そうちん)より酒を/借(かり)におこせたるを、いかゝ書て 00034310L14よからんと思ひしが、宗珍とハ/提灯(てうちん)を書たらば、まぎれ有 00034320L15まじと思ひながら、いそかしくて/行灯(あんどう)を書たり、中なる墨 00034330L16ハ火をともしたる所よといふに、をかしくて笑ひけれハ、 00034340L17大にはらたゝしくなりて、かくそつふやきける。 00034350L18△△/行燈(あんどう)も/提灯(てうちん)もはた/闇(やミ)の夜に 00034360L19△△△火さへともせハおなしあかさよ(十二オ)(十二ウ挿画) 00034370¥N19¥J 00034380¥X 00034390M2△東国の住人/名和(なわ)角之丞とて/武勇(ふよう)の/者(もの)、小/鷹狩(たかかり)に出て、 00034400M3/竹筒(さゝえ)の酒に/酔(えひ)つゝ、木のもとにふせりて、日暮にかへりけ 00034410M4り。/主人(しゆじん)よりめさるゝに/酔(えひ)ふしてまいらず。/例(れい)の/給酔(たべえひ)かな 00034420M5といへど、/流石(さすか)に/武勇(ぶよう)のものなれハ、あたら男の/瑕(きず)かなと 00034430M6て、よミ人しらす哥を書てをくる、 00034440M7△△大酒をのむハ浮世のすたりもの 00034450M8△△△いふもいハれすくさりなハかな 00034460M9角之丞、これは/下戸(げこ)のしたりけるわさにやとて、返しをか 00034470M10きて立たり、 00034480M11△△上&の上の/字(し)つきし上戸をハ 00034490M12△△△下&の下の字の下戸かそねミて 00034500M13とよみけれハ、くさりなハにハあらで、いはれたる名和殿 00034510M14かなと、人みな/興(けう)じけり。 00034520¥N20¥J 00034530¥X 00034540M16△/万里小路(まてのこうち)に柳屋とて/名酒(めいしゆ)をつくるもの、名は/八田(やつたの)/某(それかし) 00034550M17と(十三オ)いふ。女房ハ顔かたちうつくしけれど、心ざま 00034560M18はしたなく、酒の/直(あたひ)もよそよりたかく、すこしもゆるさず。 00034570M19されども酒のよかりけれハ、人おほく/買(かい)にいきけり。いか 00034580¥P107 00034590L1なるものかしたりけん、哥をよミて門口に立たり。 00034600L2△△柳酒/直(ね)こそ高けれほとゝきす 00034610L3△△△本尊かけてにくいやつだな 00034620L4△△あるしめか/姿形(すかたかたち)ハ柳屋ぞ 00034630L5△△△たをやかなれと心いばらき 00034640L6これより女房、心をもちかへ、酒も/世並(よなミ)に売けりとそ。 00034650¥N21¥J 00034660¥X 00034670L8△ある人寄あつまりてあそひしけるに、酒のミさま+ 00034680¥G 00034690M1興じけるほどに、かたハしいひ出けるやう、/盃(さかつき)を替て/飲(のミ)侍 00034700M2らんに、古哥なりとも/当意(たうい)なりとも、一首をつらねて替侍 00034710M3らんハおもしろかるへし、これこそまことにけふのあそひ 00034720M4の/本意(ほんい)ならめとてよみしける、(十三ウ) 00034730M5△△年たけて又のむへしと思ひきや 00034740M6△△△いのちなりけりさよの中/椀(わん) 00034750M7とよみて、たぶ+とうけてのミければ、つぎにありける 00034760M8人、 00034770M9△△もみちせぬ/常葉(ときハ)の山にすむ鹿ハ 00034780M10△△△をのれ啼てや秋をしる椀 00034790M11とよみて、又うけてのミしかば、又そのつぎなる人、 00034800M12△△年の内に春ハきにけり一とせを 00034810M13△△△/去年(こぞ)とやいひ/椀(わん) 00034820M14とてさし出す。みないふやう、哥の下の句の七/文字(もじ)の/足(たり)侍 00034830M15へらずととがめしに、いやとよ、まづ酒をつぎたまへ、其 00034840M16後あとをは申さんといふ。さらばとて、酒をつがせたれハ、 00034850M17一/息(いき)にうちのミて、又さし出しつゝ、今年とやいひ椀とて、 00034860M18又さしうけてのミければ、/満座(まんざ)えつぼに入てわらひ/興(けう)じけ 00034870M19り。(十四オ)(十四ウ挿画) 00034880¥P108 00034890¥N22¥J 00034900¥X 00034910L1△そのかみ、鳩ふくといふ事世にはやりて、人のせし也。 00034920L2両の手をくミあわせ、たなこゝろのうちを/空(うつほ)にしてふきぬ 00034930L3れば、/鳩(はと)のなくやうに/音(こゑ)のいづる。これを吹て人に/相図(あひづ)を 00034940L4する事あり。又ハ/猟師(れうし)の/鹿(しか)を待にもふく事あり。今ハしる 00034950L5人もまれになりにたり。古哥に、 00034960L6△△ますらおの鳩ふく秋の音たてゝ 00034970L7△△△とまれと人にいはぬはかりそ 00034980L8△△まぶしさし鳩ふく秋の山人ハ 00034990L9△△△をのかすみかをしらせやハする 00035000¥N23¥J 00035010¥X 00035020L11△山/賎(がつ)のむくつけきが、/腰(こし)を引て、山鳥をもちて京に出 00035030L12つゝ、/売(うり)めぐるに、大かた/買(かふ)人なし。卯月のはしめつかた、 00035040L13さしも永/ぎ((ママ))日にやう+/疲(つか)れて、ある家の門にやすみける 00035050L14を、あるじこれを見てよめる、 00035060L15△△/足曳(あしひき)の遠山鳥をうる男 00035070L16△△△なか+し日をあかすありきて(十五オ) 00035080¥N24¥J 00035090¥X 00035100L18△花見にとて友たちかたらひ、東山のかたさすらひつゝ、 00035110L19所せく立つどひし花の本にねぢよりて、人よりねんころに 00035120M1花をそミるらんと、見くるしきまで物しければ、長楽寺の 00035130M2わたりに鐘のこゑきこゆ。はや入あひに及びけるや、げに 00035140M3春なれと/楽(たのしミ)にハ日をもみじかうおほゆとて、 00035150M4△△/撞(つき)いたす長楽の寺の鐘の声 00035160M5△△△桜のはなの外にきこゆる 00035170M6帰るさの道のつゐで、/智恩院(ちをんゐん)に立入けるに、門のうちに/慈= 00035180M7鎮石(じ=ちんせき)あり。それより上のかたに/真葛原(まくすかハら)とて、/芝草(しばくさ)しげき所 00035190M8あり。我恋ハ松を時雨の哥ハ、こゝにてよませたまふとい 00035200M9ふ。これを/翻案(ほんあん)して、 00035210M10△△我恋ハまゝを日暮に待かねて 00035220M11△△△あはらのしたにむしさハぐなり 00035230¥N25¥J 00035240¥X 00035250M13△/祇園会(ぎをんゑ)にまつり渡す山ほこハ、跡さきをあらそひ、六 00035260M14角堂(十五ウ)にして、/鬮(くし)どりして番&をさたむといふ事を 00035270M15よめる、 00035280M16△△跡さきをあらそふ/鬮(くじ)やなんのかの 00035290M17△△△ひゝの山ほこ渡す/祇園会(ぎをんゑ) 00035300¥N26¥J 00035310¥X 00035320M19△去ぬる/辛亥(かのとのゐ)の弥生のころより百日のほど、/鞍馬(くらま)の/毘沙= 00035330¥P109 00035340L1門(びしや=もん)/開帳(かいちやう)とて、京田舎まうでつどふ人、いくらともかぎりな 00035350L2し。さらばとおもひ立て、たゞひとりまうでけり。/散(ちり)のこ 00035360L3るさくらを見て、 00035370L4△△ゐぎあらハしばれくらまのうす桜 00035380L5△△△たをるハ人の/落花(らつくハ)/狼(らう)ぜき 00035390L6とうちなかめて、/僧正(そうじやう)が/谷(たに)に行つゝ、 00035400L7△△僧正か谷に嵐の吹落て 00035410L8△△△木の葉/天狗(てんぐ)や/飛(とん)でちるらむ(十六オ)(十六ウ挿画) 00035420¥G 00035430¥T1狂哥咄巻第二 00035440¥N1¥J 00035450¥X 00035460M3△都の/南(みなミ)/宇治郡(うぢのこほり)、/宇治(うぢ)の里ハ名にしおふいにしへより茶 00035470M4の名所ぞかし。/茶苑(ちやえん)おひたゝしく/植(うえ)ならべ、そこら小屋お 00035480M5ほくつくりて/芦簾(あしすたれ)入置たるは、八月十六夜の初霜より、/茶= 00035490M6苑(ちや=えん)に霜おほひすといふためなるぞ、をろそかならすおぼ 00035500M7ゆ。/土(つち)をそゝり、やしなひをいれ、草をひき、虫をはらひ、 00035510M8露隙なく小枝ひとつもをらさじと、空吹風に手をあて、あ 00035520M9らき雨にハからかささしかくるハかりにおもひたるを、弥 00035530M10生のころ、木の/芽(め)わづかに出れハ、茶つミの女共、手ごと 00035540M11に/篭(かご)もちてつミたむるをとりあつめ、/甑(こしき)にいれ、/焙炉(ほいろ)に 00035550M12かけ、/茶師(ちやし)の家&/数(す)十人の女、/鉄漿(かね)くろく/薄(うす)げさうし、/赤(あか) 00035560M13まへだれして、ひとやうに出たち、打ならび、鳥の/羽(は)もち 00035570M14て声をかしく、/曲(ふし)(一オ)おもしろう歌うたふて、/上(かミ)しも/中(なか) 00035580M15に茶の葉を/撰(えり)わくれば、/茶利(ちやきゝ)の人ハ色と/形(さま)と/気味(きミ)と匂ひを 00035590M16心ミ、すぐりきはめて諸国うへつがた/御物(ごもつ)の/壷(つぼ)につめてわ 00035600M17たしつかハす。/袋(ふくろ)にハ何かしの茶と/銘(めい)と名とを書つけて、 00035610M18それ+頼来れる御かた、あまたのつぼにほと+にまか 00035620M19せてつめおさむる。そのほど立こみ入こむともからに、さ 00035630¥P110 00035640¥G 00035650M1ま+もてなし、/会席(くわいせき)/茶菓子(ちやぐわし)/奇麗(きれい)にものし、/濃茶(こいちや)うす茶取 00035660M2&に/疎(うと)からぬさま、その道のすてかたきものをや。茶にハ 00035670M3七/種(しゆ)の/名苑(めいえん)とてあり。 00035680M4△△/森(もり)/岩井(いわゐ)/宇文字(うもじ)/河下(かハしも)/奥(おく)の山 00035690M5△△△/麓(ふもと)の/朝日(あさひ)/琵琶(びわ)を/挽(ひく)也 00035700M6又此宇治川ハみなもとハ/近江(あふミ)の/湖水(ミつうミ)より、/勢多(せた)の橋のした 00035710M7に出て、/田上(たなかミ)/鹿飛(しゝとび)なんと云所を/経(へ)て、/巽(たつミ)の方より/乾(いぬゐ)を(一 00035720M8ウ)さして流るゝ。その/下(しも)ハ/伏見(ふしミ)の/豊後橋(ふんこはし)より、/淀(よと)川にお 00035730M9つる。卯月のすゑつかた、こゝハ/螢(ほたる)のあつまり、えならぬ 00035740M10/興(けう)をもよをせり。/余所(よそ)のほたるよりハ/一際(ひときわ)大にして、ひか 00035750M11りことさらにミゆ。世にいひならハし侍へる、/治承(ぢせう)のいに 00035760M12しへ/頼政(よりまさ)入道が/亡魂(ばうこん)にて、今も/軍(いくさ)するありさまとて、夜に 00035770M13入ぬれハ数千万のほたる、川のおもてにむらがり、あるひ 00035780M14はまりの大さ、あるひハそれよりなを大に丸かりて、空 00035790M15に/舞(まひ)あがり、とバかり有て水のうへにはたとおちて、はら 00035800M16+ととけてながれゆく事、いくむらともかきりなし。ほ 00035810M17たる見とて行けるに、よめる、 00035820M18△△来て見れハ/昼(ひる)ハ/藍(あい)そめ宇治の川 00035830M19△△△夜るハ螢のひぢりめんかな 00035840¥P111 00035850¥N2¥J 00035860¥X 00035870L2△四条/坊門(はうもん)に扇をあきなふ人、よしすけとかやいひける。 00035880L3秋の(二オ)(二ウ・三オ挿画)はしめつかたより/瘧(おこり)といふ事を 00035890L4/仕(し)いだし、さま+薬をもちゆれともおちず。後にハ/越期(えちご) 00035900L5になり、日ことにをこりしかハ、せんかたなさに寺の上人 00035910L6にかくと申ければ、とくにもうけ給ハらぬことのくちおし 00035920L7さよ、たちまちにおとし侍へらんとて、/仏壇(ぶつだん)を清めさせ/日= 00035930L8蓮(にち=れん)上人の/病即消滅(びやうそくせうめつ)の/曼陀羅(まんだら)を持来り、これをかけまいらせ、 00035940¥G 00035950M1/供物(くもつ)いミしくかさりそなへ、/師弟子(しでし)三人声をはかりに二時 00035960M2計御経よミけり。今ハゝや名残なく落侍へらんといきをひ 00035970M3きこゆるに、人ミなさこそとたうとく思ふに、あくる日い 00035980M4つものころ、きのふに替らずふるひ出ければ、寺へつかひ 00035990M5をまいらせて、かくとつげゝれハ、上人聞給ひ、さためて 00036000M6かげとてさるものぞかし、つね+/信心(しん※)のあさきは一/往(わう)に 00036010M7て落かたき事も侍へりとて、いらなくとなへあげて、(三 00036020M8ウ)経よみけれども、いさゝかのきどくもなし。/或(ある)人いふ 00036030M9やう、こなたの/長老(ちやうらう)に頼まバたゞ一まじなひにて、かげも 00036040M10なく落侍らんといふに、此ものうさハ/宗旨(しうし)を替るともくる 00036050M11しからじとて、よびむかへしに、十念をさつけ念仏一/迫(せめ)申 00036060M12されしに、其まゝおちて/凉(すゝ)やかになりて、弥陀のちかひハ 00036070M13/現当(げんとう)二世の御利やくかなとて、念仏宗になりけり。上人聞 00036080M14つけて、その/曲者(くせもの)/仏(ぶつ)のをしへうけごハれずとて、 00036090M15△△念仏にてえやミよしすけと思ふ共 00036100M16△△△善のうらみよ/後世(ごせ)ハあしすけ 00036110M17といひをくりけれハ、返し、 00036120M18△△八/軸(ぢく)のけうとき声に隙とりて 00036130M19△△△/疫(えやミ)ハいへす/陀羅(たら)り/品(ほん)かな 00036140¥P112 00036150¥N3¥J 00036160¥X 00036170L2△田舎より京へのぼりて、二条堀川にすみけるが、/貧(まづ)し 00036180L3さハ田舎もこゝもおなし有様にて、よろづともしく、かつ 00036190L4(四オ)+に月日を送りしかハ、いとゝ物ふりて年久しき 00036200L5家なれば、をのつから/苔(こけ)ふかく/朽(くち)かたふき、/臥(ふし)ながら/星(ほし)を 00036210L6ミるほどに、せんかたもなかりしが、いかなるくわほうの 00036220L7つき時にや、/医師(くすし)をならひしに、よく病のいへけれバ、隙 00036230L8なく人の頼ミて、今ハ/貴族(きぞく)/高位(かうゐ)の御もとにめされ、家つく 00036240L9りいみしく、人おほくめしつかひ、時ならねどいつも春め 00036250L10きけり。故郷の友達尋/来(き)て、すみ家のめてたくさかえたる 00036260L11を見て、 00036270L12△△いとゝしく過にしかたのわひしきに 00036280L13△△△うら山しくもすめる家かな 00036290¥N4¥J 00036300¥X 00036310L15△杉本小四郎といひける人、とし久しく/麹麈染(きちんそめ)のきる物 00036320L16ひとつをもちて、/晴(はれ)がましけれハいつもうへに引はり出け 00036330L17るを、ある人、 00036340L18△△我見ても久しくなりぬ杉もとか 00036350L19△△△きちんの小袖いく世経ぬらん(四ウ)(五オ挿画) 00036360¥N5¥J 00036370¥X 00036380M2△平(たいらの)/俊方(としかたの)/朝臣(あそん)の家に、おいぬとて女房達のありて、やゝ 00036390M3もすれハ虫気おこり、/腹(はら)いたみけるほとに、/医師(くすし)の/点(てん)をう 00036400M4け、/灸治(きうち)しけり。ことの外/熱(あつし)とて、よゝと/泣(なき)けるを、/俊方(としかた) 00036410M5/障子(しやうじ)を/隔(へた)てゝ聞給ひて、かくよみて/恥(はぢ)しめらる。 00036420M6△△/蛛(くも)たにもすゆるやい火に声ハせす 00036430M7△△△いかにわひしきいぬのながほえ 00036440¥N6¥J 00036450¥X 00036460M9△/亘理(わたり)石見守が家に/逸物(いちもつ)の/鷹犬(たかいぬ)二ひきまであるよしを聞 00036470M10て、石川某わりなく申されしが、つよくおしミけれバ、か 00036480M11さねてこひにつかハすとて、 00036490M12△△おしむこそ惜まぬ/狩(かり)の犬なれハ 00036500M13△△△なとやをしつけもらハさるへき 00036510M14亘理此哥にめてゝ、いぬをつかハすとて、返し、 00036520M15△△のそむをハ/惜(おしむ)ハこれも/狗(いぬ)也と 00036530M16△△△おもへハ君にほえ+そやる 00036540¥N7¥J 00036550¥X 00036560M18△江州/月称院(くわつせうゐん)にて、日吉太夫が/能(のう)をせしとき、内山助作 00036570M19(五ウ)といふ人、太鞁を打そこなふて、太夫の仕舞あしか 00036580¥P113 00036590L1りけれは、 00036600L2△△太鞁をハうつゝなけにもうち山の 00036610L3△△△神のとかめかはちのあたりハ 00036620¥N8¥J 00036630¥X 00036640L5△八月十五夜の月見んとて、/広沢(ひろさハ)に行けるに、すミのぼ 00036650L6る空のけしき/隈(くま)なく/照(てり)かゝやきて、水底にうつる月影、い 00036660L7つよりもこと更に面白かりけれは、 00036670L8△△/望月(もちつき)の/鏡(かゝミ)のいゑハ広沢の 00036680L9△△△池のふたとれミるそうき草 00036690¥N9¥J 00036700¥X 00036710L11△/美濃国(ミのゝくに)/土岐(とき)/合戦(かつせん)に打まけ、/城郭(じやうくわく)のこらす/没落(ほつらく)しけれ 00036720L12は、 00036730L13△△ときはれどのりだちもせぬよの/袴(はかま) 00036740L14△△△ミのハ/破(やふ)れてひとのにそなる 00036750¥N10¥J 00036760¥X 00036770L16△今川/伊予(いよの)入道/了俊(れうしゆん)の家に、玉川松之介とて、いとけな 00036780L17きよりめしつかハれ、そのあひだにハ学文をつとめ、才智 00036790L18の(六オ)聞えあり。了俊も/秘蔵(ひさう)の者に思ハれしか、大事の 00036800L19使をうけ給ハり、三ケ条の内一ケ条をわすれて返事なかり 00036810M1けれハ、これハ/主君(しゆくん)を/軽(かろ)しむる所よりおこりたりと、いま 00036820M2しめられけるに、玉川申けるハ、/柳意軒(りういけん)より/薫(たき)物を給ハり、 00036830M3/消息(せうそこ)に一首の哥を送られ、その返しつかうまつらんと物し 00036840M4て、心のうつけたるよし/陳(ちん)じ申す。その哥に、 00036850M5△△牛ならてにほひをやるそ薫物の 00036860M6△△△けふりハ袖につなきとゝめよ 00036870M7さて、その返しハいかゝ案じけると仰せけれハ、玉川、 00036880M8△△薫物のかほる一ふしうたかたの 00036890M9△△△あはせの袖にとめてきかはや 00036900M10歌の道にハ武きものゝふの心もやハらくとかや。了俊これ 00036910M11にめてゝゆるされしとなむ。 00036920¥N11¥J 00036930¥X 00036940M13△賀茂川せうえうし侍へりけるに、大木の/皮(かわ)を/押(をし)けづ 00036950M14(六ウ)りて、かの/字(じ)となの字を/句(く)ごとの上にをきたる哥を 00036960M15かきつけたり、 00036970M16△△かと+にかやり火たくやかもの里 00036980M17△△なつなれやなすひとなしのなりミだれ 00036990M18いか成人にかありけん、面白くて書そへたる、 00037000M19△△あまかゝのあさ草とるやあさはたけ 00037010¥P114 00037020¥N12¥J 00037030¥X 00037040L2△/尼子(あまご)下野守/晴(はる)久の家に、/杉坂(すぎさか)/角弥(かくや)とて/才覚(さいかく)すぐれたる 00037050L3/侍(さふらひ)あり。/卜伝(ぼくてん)一/流(りう)の兵法に名を得て、/門弟(もんてい)おほし。其ころ 00037060L4/筑紫(つくし)より/荻田(おぎた)/強(すねの)之丞とて/鑓(やり)の名人、/出雲(いつもの)国に来りて/弟子(でし)を 00037070L5とる。両家の弟子ども小太刀と鑓との/勝劣(せうれつ)をあらそひ、杉 00037080L6坂荻田が/雌雄(しゆう)を/決(けつ)すべきに成たり。日をさだめ、野中に出 00037090L7合て、杉坂まづ荻田か才覚のほとをミんとや思(七オ)ひけ 00037100L8ん、人をつかハしていひやりける、 00037110L9△△いにしへの賀茂の/祭(まつり)にあらね共 00037120L10△△△なかえをとりてやりやつけなん 00037130L11荻田返し、 00037140L12△△春の山こたちさかりとみゆれ共 00037150L13△△△/一東風(ひとこち)あてハ花やちらさむ 00037160L14国中ゆすりける事なれハ、/晴(はる)久より勝負の事をとゝめられ、 00037170L15荻田ハつくしに帰りぬ。 00037180¥N13¥J 00037190¥X 00037200L17△/牛頭(ごづ)天王の御たく/宣(せん)に、我年の内/常(つね)に/眠(ねふ)りて、たゝ 00037210L18五月五日に一たび/覚(さめ)て、空にむかひて気を/吐(はき)給ふ、其気す 00037220L19でに天が下に渡りて雲となり、雨となり露となる、その地 00037230M1のめぐりによりて/毒(どく)ともなり薬ともなる、といへり。され 00037240M2はにや、五月五日の朝露の落さる間に百草をとりて/黒焼(くろやき)に 00037250M3しつゝ薬につかふ事あり。百草といへハ、其数百(七ウ)色 00037260M4といふハ、それにハあらず。数のおほきをおほやう百とハ 00037270M5いふなり。これに思ひ合するに、/端午(たんご)の日に、/薬玉(くすたま)とて百 00037280M6/草(さう)をすりて、五/色(しき)の糸につけて、身にかくれハ、その年の 00037290M7/疫(えやミ)をはらひ、命もながしといふ事ハ、此故なるべし。/五月= 00037300M8玉(さつきの=たま)ともよむなり。 00037310M9△△/菖蒲草(あやめくさ)ねたくも君にとはぬかな 00037320M10△△△けふの心にかゝれとそ思ふ 00037330M11といふ哥も薬玉を詠ずとかや。 00037340¥N14¥J 00037350¥X 00037360M13△/鬼(おに)といふ事ハ、よき人の御前にありて、朝夕の食物も 00037370M14りたるを一口つゝ/喰(くひ)て、心ミする者をいふ。これ/毒(どく)の心見 00037380M15也。乱れたる世には、ことさら大将する人は、/毒(どく)のおそれ 00037390M16あるによりて、/鬼(おに)といふものをめしをかれけるとにや。こ 00037400M17れを名づけて鬼といふハ、伊勢物語に、鬼はやひとくちに 00037410M18くひて(八オ)げり、といふ詞をとりていふ事也。又同し 00037420M19物語に、かりにも鬼のすだくとよみけるハ、女を鬼とハい 00037430¥P115 00037440L1ひける也。平兼盛か哥に、 00037450L2△△/陸奥(みちのく)のあたちか原の/古塚(ふるつか)に 00037460L3△△△鬼こもれりといふはまことか 00037470L4とよみしも、女をおにといひける哥なり。 00037480¥N15¥J 00037490¥X 00037500L6△/富小路(とミのこうぢ)の西五条坊門のみなミに、/金輪墳(かなわづか)とて侍り。む 00037510L7かし物ねたミふかき女あり。そのおとこかよふかたありけ 00037520L8るを、かぎりなく/腹立(はらたち)て、頭に金輪をいたゞき、金輪のあ 00037530¥G 00037540M1しに火をともし、かほにハ/燕脂(べに)をぬり、/髪(かミ)をみだして、/貴= 00037550M2布祢(き=ふね)の明神へ丑の時まいりをしけれハ、明神夢につげ給ひ、 00037560M3貴布祢川にひたりしかハ、鬼になりてにくき人ども思ふま 00037570M4ゝに取たり。後に/降伏(かうふく)せられて(八ウ)(九オ挿画)死けるを、 00037580M5此/墳(つか)に埋ミしが、今もその跡あり。さてよみける、 00037590M6△△おそろしやあたちか原にあらね共 00037600M7△△△金輪の鬼のこもる/古墳(ふるつか) 00037610¥N16¥J 00037620¥X 00037630M9△/鬼醜草(おにのしこくさ)とハ/紫苑(しおん)と云草の事也。物忘せぬ草といふ。万 00037640M10葉集に、/大伴家持(おほとものやかもち)が/坂上(さかのうへの)/太娘(おほいらつこ)にちきりて、久しく中絶 00037650M11しか、忘れんとすれともわすられざる心をよミてつかハし 00037660M12ける哥に、 00037670M13△△忘草わか/下紐(したひも)につけたれハ 00037680M14△△△おにの醜草ことにし有けり 00037690¥N17¥J 00037700¥X 00037710M16△/平(たいらの)/仲文(なかふん)しのひてかよふ女ありけり。ある時かのかた 00037720M17に行て、しめやかに物かたりして、此世ならぬ心さしをた 00037730M18かひにうらなくきこゆるほどに、仲文すゞりの水をふとこ 00037740M19ろにもちて、袖のしたにかくしをき女の目を忍ひて、とき 00037750¥P116 00037760L1+目にぬりて、涙をなかしてなくまねをしけるに、女こ 00037770L2れをミつけて、(九ウ)ひそかに人して、墨をすりて水入に 00037780L3いれさせけり。仲文これをばしらで、たび+目をぬらし 00037790L4けれハ、/顔(かほ)うち墨によごれて、ことそきてみえたり。女こ 00037800L5れを見て、あな浅まし、したりがほにぞ思ふらん、いでや 00037810L6/妖(ばけ)をはがさんとおもひて、かゝみを取出て、これを見給へ 00037820L7とてよめりける。 00037830L8△△我にこそつらさを君かミするとも 00037840L9△△△かほにすミつく人のけしきよ 00037850L10といへりけれハ、仲文恥かしき事かきりなくて、それより 00037860L11いかずなりけり。 00037870¥N18¥J 00037880¥X 00037890L13△ある人かたへに女房をかたらひて、塩ひるまのつれ 00037900L14+にハしのひて通ひ侍へりけり。此女のもちける鏡の、 00037910L15ことの外にくもり入たりけれハ、男とらせんとちきりて後、 00037920L16つゐにをこせざりしを、女あふたびごとにかゝみはいかに 00037930L17とせめけ(十オ)るを、ほどありてもとめてとらせつかハす 00037940L18とて、よミそへてやる。 00037950L19△△鶴亀の/齢(よハひ)もあかぬしるしとて 00037960M1△△△鏡をやるそ心くもるな 00037970M2女かきりなくよろこひて、返し、 00037980M3△△曇なき君か心をけふそしる 00037990M4△△△鏡の底に/塵(ちり)も見えねは 00038000¥N19¥J 00038010¥X 00038020M6△/教月(けうくわつ)上人とてたうときひしり、国&をめぐり/修行(すぎやう)しけ 00038030M7るが、/筑紫(つくし)のある里がたに、女房のうハなりうちをなむし 00038040M8けるを見てよみける、 00038050M9△△世中に女の心すくならハ 00038060M10△△△/女牛(めうし)の角やぢやう木ならまし 00038070¥N20¥J 00038080¥X 00038090M12△/畠山(はたけ)左兵衛督のめしつかひける信夫といふ女房、/厩= 00038100M13屋(むま=や)の前にて/衣(きぬ)をはりけるに、三疋立たる馬の中に/鹿毛(かけ)なる 00038110M14馬、いかゝしたりけん、/繩(つな)/喰(くひ)きりてかけ出つゝ、/信夫(しのぶ)が/腰(こし) 00038120M15の(十ウ)あたり、ふつゝかにかミて、ふりけれハ、女かな 00038130M16しやともえいはでたえ入にけり。あり合人+/走(はし)り出て、 00038140M17やう+引のけ、女をとかく/呼生(よびいけ)てけり。左兵衛督ハ/連歌= 00038150M18師(れんが=し)/可徹(かてつ)といひける人をめして、物かたりしておハしける。 00038160M19かう+とつげたりけれハ、可徹聞て、いミしの馬やとて、 00038170¥P117 00038180L1かくそよみける、 00038190L2△△故郷の人とや駒も/陸奥(みちのく)の 00038200L3△△△しのぶときけハ袖やなつかし 00038210¥N21¥J 00038220¥X 00038230L5△山名の/某(なにかし)の家に田宮といひける/童(わらハ)、/顔(かほ)かたちきはめて 00038240L6うつくしかりけれハ、いとおしミ給ひしを、北のかたねた 00038250L7む心ふかく、いかにもして此田宮が/髪(かミ)をきり、見くるしく 00038260L8なして、うとませ侍へらはやと思ひ、山名の外へ出し跡に、 00038270L9侍にたのまれたりければ、酒もりせさせて、かの童によゝ 00038280L10とのませ(十一オ)て/酔(えひ)ふしたるを、/前髪(まへかミ)を残りなくはさみ 00038290L11おとしぬ。山名帰りて是を見給ひ、こはいかにしつる事ぞ 00038300L12と仰せあり。なでゝ見るに/髪(かミ)のなかりしかハ、/童(わらハ)もあきれ 00038310L13にけり。さて、かくそよみける、 00038320L14△△これハ又たかねたミともしらにきで 00038330L15△△△田宮も今ハ神さひにけり 00038340L16とて引こもり/居(お)る。年比北の方ねたう思ひてはかりける事 00038350L17よとて、山名ハいとゝいきとをりつゝ、北の方にむかひて、 00038360L18我/後(うしろ)をくらまかし、いみしき事/仕出(しいて)たりけるやとて、 00038370L19△△田宮なるかみおろしける/神子(ミこ)の湯を 00038380¥G 00038390M12△△△たてゝみませハあらハれやせん 00038400M13と仰せられしかハ、北のかた返し、 00038410M14△△田宮にハあがりし/御酒(ミき)にかたそ木の 00038420M15△△△かみさへしらす我しらめやも 00038430M16かく/陳(ちん)じけれど、後あらハれて恥見られけり。(十一ウ)(十 00038440M17二オ挿画) 00038450¥N22¥J 00038460¥X 00038470M19△ある家のあるじの女房、心ざまはしたなく、/夫(おつと)の友だ 00038480¥P118 00038490L1ち入来るをも、心にあはぬをば、物もいはず、ふりくすべ 00038500L2けり。かゝる女ぞとさたしあへりけれハ、おとこうたてし 00038510L3き事に思ひうんじてよめる、 00038520L4△△/顔曲(かほくせ)のわろきや小野の/炭頭(すミかしら) 00038530L5△△△おこれハいとゝふすほりにけり 00038540¥N23¥J 00038550¥X 00038560L7△/定家(さたいえの)卿の立られし/時雨亭(しくれのちん)と聞えしハ、都の北千本のあ 00038570L8たりにありといへと、今ハ跡たえて、さしてそこと知人も 00038580L9なし。さて、かくそ思ひつゝけゝる、 00038590L10△△尋れは/時雨(しくれの)亭ハ跡もなし 00038600L11△△△/誰(たか)まことよりそこと定めむ 00038610¥N24¥J 00038620¥X 00038630L13△雲林院ハ紫野にあり。世にうぢ井と名づく。むかし 00038640L14/常康(つねやす)親王住給ひし。/遍昭僧正(へんせうそうじやう)もしバしすミけり。そのころ 00038650L15寛平法皇みゆきまし+き名木の桜あり。そのかミ大伴 00038660L16(十二ウ)黒主これを詠めて、春を興せしと聞つたふ。 00038670L17△△/黒主(くろぬし)がなかめし花や墨染の 00038680L18△△△さくらのたねのはしめ成らん 00038690L19今は桜の名残もなく、/農人(のうにん)のすミ家となりけれハよめる、 00038700M1△△名にしおふ雲の林に来てミれハ 00038710M2△△△のこる桜の朽木たになし 00038720¥N25¥J 00038730¥X 00038740M4△/墨染寺(すミそめのてら)ハ深草のうちにあり。墨染のさくらとて名木有 00038750M5て、ことふりて聞ゆ。古今集に/上野(かんつけの)ミね/雄(お)か哥に、 00038760M6△△深草や野辺のさくらし心あらハ 00038770M7△△△ことしハかりハすミそめにさけ 00038780M8とよみしハ此花の事なり。さてよめる、 00038790M9△△咲花に/短冊(たんさく)おほくかけぬれハ 00038800M10△△△みなすミそめのさくら成けり 00038810¥N26¥J 00038820¥X 00038830M12△花のころ清水寺にまうてけるに、春の日うらゝかな 00038840M13るにいざなハれ、花見すぐしがたく、桜の/木(こ)のもとにめぐ 00038850M14り、せはしく立よる人、袂にちりかゝるハ雪かあらぬか白 00038860M15雲のおほ(十三オ)ひくるかとたハふれ、/詩(し)つくり、哥よミ、 00038870M16筆うつくしく/短冊(たんざく)かきて、たハめる枝にむすびなから、風 00038880M17にひらめくハ、げに花に咲そふ花なれや。しかま/塚(づか)を過る 00038890M18とて、 00038900M19△△春きてハしかまのかちの/古布子(ふるぬのこ) 00038910¥P119 00038920L1△△△花見/虱(しらミ)やとんてちるらむ 00038930L2/経書堂(きやうかくだう)にてよめる、 00038940L3△△桜にもあらて妙なる法の花 00038950L4△△△経かく/堂(だう)にすミそめにさく 00038960¥N27¥J 00038970¥X 00038980L6△都の北山/高野(たかの)といふ所に、犬桜のやう+さきかゝり 00038990L7けりと聞て、見にいきけれハ、さくらのもとに哥よミて札 00039000L8に立たり、 00039010L9△△まだらにも咲かゝりたる犬桜 00039020L10△△△をる人あらはあしにかミつけ 00039030L11是ハ花のあるじの立たりやとて、 00039040L12△△たか野にはかならすつるゝ犬桜 00039050L13△△△ひきをる人をとかめやハする(十三ウ) 00039060L14とて手折ければ、あるし聞て、やさしき人にこそとてよび 00039070L15いれつゝ、酒なと出してもてなしけり。そのゝちハをり 00039080L16+音つれかハしけるが、又のとし花のころ、人+いざ 00039090L17なひて見にいきけれは、あるしハ身まかりけりといふに、 00039100L18いとあはれに悲しくて、かくよミて手向て帰りにけり、 00039110L19△△またこんと契りし花の主ハゝや 00039120M1△△△今ハ此世にいぬさくらかな 00039130¥N28¥J 00039140¥X 00039150M3△伊勢伊勢守か庭に、伊勢桜の今をさかりと咲みたれた 00039160M4るを、やことなき人+見におハしけり。かくてよミたま 00039170M5ひける哥、 00039180M6△△神風も心してふけ伊勢さくら 00039190M7△△△はなのさかりをあたにちらすな 00039200¥N29¥J 00039210¥X 00039220M9△ある人の家に、/桐(きり)が/谷(やつ)の桜/木(こ)たち見事にさきけれハ、 00039230M10/好事(かうず)の人おほく立こミ、詠めくらし、歌よミ/詩(し)つくる。 00039240M11中+(十四オ)世渡るいとなミにさハりとなるとて、切す 00039250M12てたり。いかなる人か哥をかきて、門の戸にをしつけ侍へ 00039260M13り、 00039270M14△△花ミんと入来る人を/嫌(きら)へハや 00039280M15△△△あたらさくらをきりか/谷(やつ)哉 00039290¥N30¥J 00039300¥X 00039310M1730△/御鬚(おひけ)の/塵(ちり)をとりて/諂(へつ)らふものハ、出入する門にちこめ 00039320M18きて、あまさかさまなる事をも、たゞよしとのミ申て、/鼻= 00039330M19毛(はな=げ)の数をよミて、あほうになしけるを、これに/妖(ばか)されて、 00039340¥P120 00039350L1よだれをながし、めしつれて花見に出つゝ、詠め/居(お)る有さ 00039360L2まを、ある人のよめる、 00039370L3△△桜さくこすゑをたかくふりあけて 00039380L4△△△ミるハ鼻毛のなかき春の日 00039390¥N31¥J 00039400¥X 00039410L6△人+あつまりて、花に/興(けう)じつゝ酒のミけるに、/鯛(たい)を 00039420L7もとめ出て/料理(れうり)すとて、/鱗(いろこ)をふきけるを見て、 00039430L8△△ふきちらす鱗ははなか桜鯛(十四ウ) 00039440L9といふ発句をいたしけるハ、/等類(とうるい)おほかるへしや。 00039450¥N32¥J 00039460¥X 00039470L11△いとけなき子の/匍(はひ)まハりて、あしき事するをおどして、 00039480L12をそ+といふ詞ハ、をそとハ/獺(かわをそ)の事也。此/獣(けたもの)ハはじめ 00039490L13ハたハるゝやうにて、後にハ/喰(くひ)つくものなり。むかし/大伴= 00039500L14田主(おほとも=のたぬし)/といふ人ハ、/美男(びなん)なりけれハ、/石川女郎(いしかわのをとめ)思ひかけて、 00039510L15/隣(となり)の/貧(まづし)き女のまねをして、/闇(くら)き夜に火をもとめに行たりし 00039520L16を、/田主(たぬし)ハそれともしらて、火計やりて、むなしくかへし 00039530L17けれは、/女郎(をとめ)がよミてつかハしける、 00039540L18△△たハれおと我は/聞(き)けるを宿かさす 00039550L19△△△我をかへせりおそのたハれお 00039560M1此哥によりて、おそといふ/詞(ことハ)ハありといふにや。 00039570¥N33¥J 00039580¥X 00039590M3△九条あたりにすミける人、下づかへのものにつけて、 00039600M4いさゝかの事をいひあがりて、めをといさかひになれり。 00039610M5妻はら立(十五オ)て、とかく思ひきりて、身をなげて/死(し)な 00039620M6んとひしめきけるを、/隣(となり)の人とりさへつゝ、けうくんしけ 00039630M7る中に、源氏かけろふの巻に、 00039640M8△△世の中のうきたひことに身をなけハ 00039650M9△△△深き谷こそ浅くなりなめ 00039660M10といふ哥の侍へり。身のあり/限(かき)りハいくたびも/腹立(はらたつ)ことな 00039670M11きにしもあらざるへし、あなかしこ思ひとまり給へといふ 00039680M12に、さも侍へらハ/尼(あま)になりて、いかなる所にも引こもり、 00039690M13心やすくせんといふ。それも身をはなれぬ心なれハ、山と 00039700M14てもうき世の外ならず、世をいとふともはじめ思ひ入たる 00039710M15所も、後ハ物うき事あれハにや、西行法師の哥に、 00039720M16△△すめハ又浮世なりけりよ所なから 00039730M17△△△思ひしまゝの山里もかな 00039740M18とよめり、とにもかくにもなからへたる身ハ、心のまゝに 00039750M19ハならず(十五ウ)(十六オ挿画)とぞ、むかしも今もしかある 00039760¥P121 00039770¥G 00039780L12といふに、此腹だゝしき事ハ、/生(いき)ても/死(しゝ)てもおなし事とつ 00039790L13ふやきけるを、/夫(おとこ)聞て、 00039800L14△△/生居(いきゐ)ても死ても腹の居ぬならハ 00039810L15△△△まづ一日も/生(いき)たるがまし 00039820L16とよみて、中なをりしける。 00039830¥N34¥J 00039840¥X 00039850L18△ある人世わたるわざにつたなくや有けん、/十二(しハす)月の大 00039860L19晦になれど、/借(かり)たる物を/済(なす)べきおほえたになし。いとわひ 00039870M1しくてよめる、 00039880M2△△たつしやにも道ハありけと越兼る 00039890M3△△△年ハおあしをもたぬ故也 00039900¥N35¥J 00039910¥X 00039920M5△丹波の/杵宮(きねのミや)にまうてゝよミ侍へる、 00039930M6△△つくやうに/守(まも)らせ給へ/杵宮(きねのミや) 00039940M7△△△米こそもたね/連哥(れんが)成とも 00039950¥N36¥J 00039960¥X 00039970M9△/菅丞相(かんせうじやう)のすみたまひし/第(てい)ハ、むかし四/条(てう)/西洞院(にしのとうゐん)のあた 00039980M10りときこゆ。/紅梅(こうばい)のいろことなるをうえたまひて、(十六 00039990M11ウ)限りなく/愛(あい)せられ、その/第(てい)を紅梅殿とぞ名つけられし。 00040000M12後に/筑紫(つくし)の/太宰府(ださいふ)になかされてよミ給ふ、 00040010M13△△/東風(こち)ふかは匂ひおこせよ梅の花 00040020M14△△△あるしなしとて春な忘れそ 00040030M15と詠したまひしに、紅梅殿の梅一夜のうちにつくしの/配所(はいしよ) 00040040M16にとび行て、庭の面に/生立(おいたち)たり。その/梅(むめ)を/飛(とび)梅と名づけら 00040050M17れしとかや。/安楽寺(あんらくじ)の/別当僧(べつたうそう)/尭孝(けうかう)かときに、飛梅の/枯(かれ)侍へ 00040060M18りしかハ、 00040070M19△△/天(あめ)をだにかけりし梅の/根(ね)にいらハ 00040080¥P122 00040090¥G 00040100L12△△△/地(つち)よりハなと花のひらけぬ 00040110L13と詠せしかば、/神感(しんかん)おハしけん、もとのことくさかえけり 00040120L14とかや。かくそおもひつゞけゝる、 00040130L15△△天かける梅の/梢(こすゑ)に/鴬(うくひす)の 00040140L16△△△のりて/筑紫(つくし)の/案内(あんない)やせし(十七オ)(十七ウ挿画) 00040150¥N37¥J 00040160¥X 00040170L18△古しへ大/内裏(たいり)の時、/紙屋院(かんやのゐん)は野宮の東にありけるよし 00040180L19/古伝(こてん)に記せり。平野より東のかた、北野よりは西にあたり 00040190M1て、/南(みなミ)へながるゝ水を/紙(かん)屋川と名づく。世にかい河といふ 00040200M2めり。むかしハ此水にて紙を/漉(すき)て、/図書別所(つしよのへつしよ)これをとりて、 00040210M3/紙屋院(かんやのゐん)におさむ。/宿紙(しくし)と名づく。/綸旨(りんし)/宣命(せんミやう)なんど書侍へる。 00040220M4今ハ帋/漉(すく)事も/絶(たえ)て、川も流れの本意をうしなひ侍へり。 00040230M5△△今もその名に流れたる紙屋川 00040240M6△△△かきやる物ハ/芥(あくた)のミして 00040250¥N38¥J 00040260¥X 00040270M8△時世にしたかひて、名所も替りて/絶(たえ)行事おほかり。 00040280M9都の北に/七野(なゝの)あり。/内野(うちの)、/北野(きたの)、/紫野(むらさきの)、/萩(はき)野、/滋米野(しめの)、/柏(かしハ) 00040290M10野、/見苦野(ミくるしの)、その所&残れるものあり、絶たるもあり。その 00040300M11/総社(そうしや)ハ/舟岡(ふなをか)山の東に/七野社(なゝのやしろ)とて今もあり。いにしへ賀茂の 00040310M12/祭(まつり)(十八オ)のときに、都より行道ハ/紫野(むらさきの)を通りしにや。/源(みなもとの) 00040320M13/兼高(かねたか)賀茂の/葵(あふひ)まつりのかへるさをよめる哥に、 00040330M14△△宮人のかさしてかへる/葵草(あふひくさ) 00040340M15△△△むらさき野まてみとりなるかな 00040350M16/滋米野(しめの)/柏社(かやのもり)ハ紫野につゞきてありと/記(しる)しけれと、/森(もり)の跡も 00040360M17なく、野といひながらその所さだかにしる人もなし。為家 00040370M18卿の哥に、 00040380M19△△しめのゆき紫野なる/柏森(かやのもり) 00040390¥P123 00040400L1△△△葉かへすなからうつもれにけり 00040410L2たゝ、古歌にのミ聞つたふる、いと/本意(ほい)なし、 00040420L3△△名所も/認(とめ)うしなひてしめのゆき 00040430L4△△△/杜(もり)こそ見えね柏野かくるゝ 00040440L5千本/閻魔堂(ゑんまたう)の/閻魔王(ゑんまわう)の/頭(かしら)を/掘(ほり)出しける所ハ、/釈迦堂(しやかだう)のあた 00040450L6りなり。こゝを柏野とぞいひける。今ハあやまりて/頭野(かしらの)と 00040460L7/呼(よぶ)も/覚束(おぼつか)なし。(十八ウ) 00040470L8△△頭野ハ地こくの道の戸口かや 00040480L9△△△△閻魔の/首(みくし)こゝにいてけり 00040490¥N39¥J 00040500¥X 00040510L11△むかし/正親町(おほきまち)の北、京極の西二町の間ハ、/忠仁公(ちうじんこう)の家 00040520L12有。その南に/清和院(せいわのゐん)とて、清和天皇御/誕生(たんじやう)の地なり。忠仁 00040530L13公の御むすめ/染殿(そめとの)の/后(きさき)/明子(あきらけいこ)のすミ給ひしとかや。かゝる 00040540L14/古跡(こせき)も今ハ/知(しる)人たになく、/民家(ミんか)となりにたり。 00040550L15△△名を聞て今ハ何にかせいわ院 00040560L16△△△心を法にそめ殿のあと 00040570¥N40 00040580¥X 00040590L18△△/異国(いこく)にハ/河東西河(かとうせいか)とて、川を隔てゝ名をかたとれる 00040600L19所+あり。日本にても西に/桂(かつら)川ひかしに/鴨(かも)川あり。その 00040610M1/中間(ちうけん)になかるゝを中川といふ。源氏の君御かたゝがへの 00040620M2夜、うつ/蝉(せミ)の/尼(あま)の住ける中川の宿といふは此あたり成へし。 00040630M3/光俊(ミつとし)/朝臣(あそん)の哥に、 00040640M4△△このころハなかるゝ水をせきいれて 00040650M5△△△木かけ涼しき中川の宿(十九オ) 00040660M6とよみけるも、此中川の事也。 00040670M7△△中川の河ハたちかきこすゑより 00040680M8△△△たかくきこゆるうつせみの声 00040690¥N41¥J 00040700¥X 00040710M10△京うちまいりの時、/西郊(にしのをか)わたりに行けるに、/仁和寺(にんわじ)/御= 00040720M11室(を=むろ)の東のかたに/並(ならび)の岡とて小山ありて、上にハ/一叢(ひとむら)の松あ 00040730M12り。世にいひつたふ/寛平(くハんへい)法皇ハ、/延喜帝(えんぎてい)の不/孝(かう)におハしま 00040740M13すとて、うらみ給ひ、都のかた見給ふまじとて、此岡をつ 00040750M14かせられしとぞ。さてかくぞよミける。 00040760M15△△春秋の/並(ならび)の岡の奥の山 00040770M16△△△もみちハ/高尾(たかお)はなは/栂(とか)のお 00040780M17此岡のふもとより/高雄(たかお)にゆく道あり。その山に/木嶋(こしま)といふ 00040790M18ところあり。折ふしわかき/尼(あま)どものみえけれはよめる、 00040800M19△△水もなく舟も通はぬこの嶋に 00040810¥P124 00040820L1△△△いかてかあまのなまめかるらん(十九ウ) 00040830¥T1狂哥咄巻第三 00040840¥N1¥J 00040850¥X 00040860M3△/鳴滝(なるたき)ハ/七瀬(なゝせ)のその一なり。/御室(おむろ)の西十町はかりにあり。 00040870M4西行法師のよめる、 00040880M5△△しハしこそ人めつゝミにせかれけれ 00040890M6△△△はてハ涙になる滝の川 00040900M7といふ哥をおもひ出て、 00040910M8△△しハしこそ人めつゝみにこらへけれ 00040920M9△△△/腹(はら)はひもしになる滝の川 00040930¥N2¥J 00040940¥X 00040950M11△/砥取(ととり)の山は/鳴滝(なるたき)の西にあり。あはせ/礪(と)を切出せり。/高= 00040960M12雄(たか=お)につゞきたる山なり。 00040970M13△△高雄なる/砥取(とゝり)の山のほとゝきす 00040980M14△△△をのか刀をとぎすとそなく 00040990M15/広沢(ひろさハ)の池もほと近けれは、かくそつゞけゝる、 00041000M16△△ひろ沢の池のをし鳥/剣羽(つるきば)を 00041010M17△△△/砥取(とゝり)の山にとぎみがくらむ 00041020M18此広沢の池ハ月の名所ぞかし。世の/好事(かうず)の人ハ名月に(一 00041030M19オ)うそふき、こゝにまどひ来て興をもよをし、哥よミ詩 00041040¥P125 00041050L1つくり、酒のミ哥うたふ。此池の月をミるにハ、池の西の 00041060L2岸に居て、東の山のはより出る月の、水にうつるを見たる 00041070L3こそ、たぐひなき詠めなれ。源三位頼政の哥、 00041080L4△△いにしへの人ハ/汀(みぎハ)に影たえて 00041090L5△△△月のミのこる広沢のいけ 00041100L6秋の中比よめる、 00041110L7△△広沢の池におり居る/鴈(がん)がとへハ 00041120L8△△△/底(そこ)のどう/亀(かめ)じだんだやふむ 00041130¥G 00041140M1広沢の東の方/路(みち)ばたに帯取池とて、むかしハ底ふかく波立 00041150M2てすさまじく、池にハ主のありて、人をとらんとてハ、う 00041160M3つくしき帯に化して、水に/浮(うき)てたぶろかしけりと云伝しか、 00041170M4今ハあれて、わづかに/窪(くぼミ)たる水の中に、/藻(も)のはえて見えけ 00041180M5れハよめる、 00041190M6△△水衣誰きよとてか帯取の 00041200M7△△△いけの/藻(も)ながくはえてミゆらん(一ウ)(二オ挿画) 00041210¥N3¥J 00041220¥X 00041230M9△/槙尾(まきのお)ハ/律院(りつゐん)の寺なり。大納言/雅経卿(かけいのきやう)の哥に、 00041240M10△△春きても誰かハとはむ花さかぬ 00041250M11△△△槙尾山のあけほのゝ空 00041260M12あまたの/比丘衆(びくしゆ)/首(かしら)をうなたれて、目もとハ竹の子の番をす 00041270M13るやうにみえて、/戒品(かいほん)を/破(やぶ)らじとまもり居る。/突吉羅(ときら)/波羅= 00041280M14夷(はら=ゐ)月ごとの/布薩(ふさつ)をいたさるゝも、/実(げに)さることぞかし。 00041290M15△△身ハ/田地(でんぢ)/戒(かい)は/鋤鍬(すきくわ)/機(き)ハ/加地子(かぢし) 00041300M16△△△/仏(ほとけ)の/種(たね)をまきのおの寺 00041310M17大/沢(さい)ハ大学寺へ行道にて、/樹木(じゆもく)しけりたるこもり江なり。 00041320M18俊成卿の哥に、 00041330M19△△大沢の池のけしきも更行ど 00041340¥P126 00041350L1△△△かハらすすめる秋の夜の月 00041360L2さて、かくそよミける、 00041370L3△△/借銭(しやくせん)をわが首だけにおほ沢の 00041380L4△△△池にハ魚のすむよしもなし(二ウ) 00041390¥N4¥J 00041400¥X 00041410L6△夏ハ/狐(きつね)の鳴ぬものとや。もし/啼(なく)ことあれハ、ふかく/忌(いむ) 00041420L7といふ。むかし右大将/頼朝(よりとも)、/信濃(しなのゝ)国御原野の御/狩(かり)のとき、 00041430L8きつねの啼て侍へりしかハ、頼朝御心にかけられ、誰かあ 00041440L9る、哥よみて奉れとあり。武蔵国の住人/愛甲(あいかうの)三郎/李隆(すゑたか)か 00041450L10くそよミける、 00041460L11△△夜るならハこう+とこそ鳴へきに 00041470L12△△△あさまに走る/昼狐(ひるきつね)かな 00041480L13いしくも仕りたりとて、上野国松井田にて、三百町をたま 00041490L14ハりしとかや。中比小田原北条/氏康(うちやす)の城中にて、夏狐の鳴 00041500L15けれハ、氏康、 00041510L16△△夏ハきつねに鳴蝉のから衣 00041520L17△△△をのれ+か身の上にきよ 00041530L18とよまれしが、その狐、をのがなきつる所にて死けるこそ、 00041540L19哥のきどくと申あひたりけれ。(三オ) 00041550¥N5¥J 00041560¥X 00041570M2△/楊梅(やまもゝ)の北、油小路の西のかたハ、六条堀川の御所とて、 00041580M3むかし源九郎判官義経の家ありけり。土佐房が堀川夜うち 00041590M4もこゝの事といふ。その/古跡(こせき)に太刀懸の松とて、木だち枝 00041600M5たれて、物ふりたる大木のありしも、今ハ跡なく成にたり。 00041610M6ある人、太刀懸の松を題にてよめる、 00041620M7△△太刀懸の松のはかきて火にたけハ 00041630M8△△△乱れ/刃(やいば)と見ゆる成けり 00041640¥N6¥J 00041650¥X 00041660M10△/黒谷(くろたに)法然上人御年かたふきて、今一たび故郷をミんと 00041670M11て/美作(ミまさか)の/稲岡(いなをか)の庄へおもむき給ふ。/垢(あか)づける布の/服(ふく)に墨衣 00041680M12の/破(やれ)たるをめしたるより外ハ何もなし。/勢観房(せいくハんばう)、あまりに 00041690M13見くるしき御出立かなと申されしに、上人よミ給ひけり、 00041700M14△△故郷へ帰るも今ハ恥ならす 00041710M15△△△/錦(にしき)にまさるすミ染の袖(三ウ) 00041720M16故郷にハにしきをかさるといふ事を、よミ給ひける哥とお 00041730M17ほえて、いとたうとし。 00041740¥N7¥J 00041750¥X 00041760M19△まことの道心にもあらで、世をいとふとて東山に庵り 00041770¥P127 00041780L1をむすび、念仏してたうとくつくろひ、無智無学なる/癖(くせ)と 00041790L2して、をろかなる/尼(あま)かゝをすゝめ、物をむさほりけるを、 00041800¥G 00041810M1ありがたき長老ともてはやす。/賢(さかし)き人こゝにまうでゝ、念 00041820M2仏の安心をしめし給へといふに、/聖(ひじり)ハ、たゝよくおほく念 00041830M3仏すれば/罪(つミ)/消(きえ)て極楽に往生すといふ。それハあまりに浅& 00041840M4し、何ぞ心得の候へし、聞させ給へといふ。それならハ、 00041850M5一念弥陀仏/即滅(そくめつ)/無量罪(むりやうざい)ととなへ給へかしといふ。これも人 00041860M6ごとにいひおほえてめつらしともおほえ候らハずといふに、 00041870M7さもあらば/極重悪人(ごくぢうあくにん)/無他(むた)はうべんと唱(四オ)たまへといふ。 00041880M8それもむかしよりよく知侍へり、今すこし深きことハりを 00041890M9しめし給へといふに、ひじり、いふへき事につまりて、 00041900M10△△むつかしやなむあみた仏を/疑(うた)かハゝ 00041910M11△△△/釈迦(しやか)も我らも口過ハなし 00041920M12とて、めんざうへにげこまれけり。(四ウ)(四ウ・五オ挿画) 00041930¥N8¥J 00041940¥X 00041950M14△いにしへハともかうもせし人、/流石(さすか)にいやしきが/果(はて)に 00041960M15もあらざりけり。世にすさめられ身も/衰(をとろ)へ、京を出て/鳥羽(とば) 00041970M16におもむく。日暮しかハ/地蔵堂(ぢざうたう)に立入つゝふせりけれと、 00041980M17/夜寒(よさむ)の嵐はしたなく吹て、いもねられず。古き/席(むしろ)を引かづ 00041990M18き、夢をだに/結(むす)バず、わびあかして思ひつゝけける、 00042000M19△△何となく物かなしくそ思ほゆる 00042010¥P128 00042020L1△△△鳥羽田の秋の夜寒成身ハ 00042030L2小枝の橋をわたるとて、 00042040L3△△とばといへととハれぬ川に渡すてふ 00042050L4△△△こえたの橋を我ハゆきげた 00042060L5/横大路(よこおほち)ハ世に/横(よこ)うちといふ。/下鳥羽(しもとば)の南にありて、/車借(くるまかし)の 00042070L6家+おほく立ならべり。折ふし向ふより吹くる風に、/小= 00042080L7雨(こ=さめ)ふり出つゝ、はしたなく/面(おもて)を打けれハ、/横向(よこむき)て行とて、 00042090L8(五ウ) 00042100L9△△世をそむく身ハ谷川の/蟹(かに)なれや 00042110L10△△△/横大路(よこおほち)をもよこはしりして 00042120L11鳥羽の/離宮(りきう)の横大路より、/羽束師(はつかし)の森を見やりて、 00042130L12△△おちぶれし我身ハ人にはつかしの 00042140L13△△△もりてあまれる袖のなみたに 00042150L14/六田(むつだ)のあたり、いにしへハ/茅(つばな)まじりに、/菫(すミれ)、/荻(おき)、/薄(すゝき)なんど 00042160L15/生(おひ)つゞき、/鳥羽(とば)の/面(おも)にほどちかくして、秋の夜すから、虫 00042170L16のこゑ+心ほそく、物あハれなる所なりけるを、今ハ/田= 00042180L17畠(た=はた)になり、/鴫(しぎ)の/羽(はね)がきだにもまれ+なるやうに侍へり、 00042190L18△△むしの音に替るあハれハ六田をも 00042200L19△△△過るをミたといふ人もなし 00042210M1秋の山ハ下鳥羽にあり。鳥羽殿の御時、さしも/絶景(ぜつけい)の/築(つき)山 00042220M2にて、春の花秋の紅葉、ことさらに池にさし入月までも、 00042230M3詠め一しほの/興(けう)ありけり。年/経(へ)て今ハ名バかりになりて、 00042240M4畠をつくる地となし、引ならして山の/形(かたち)もなく侍へれは、 00042250M5(六オ) 00042260M6△△水うミの桑原になるためしにや 00042270M7△△△いまは畠になる秋の山 00042280M8/淀(よど)の/小橋(こはし)の北のかた、大あらきの/森(もり)をミて、 00042290M9△△大あら木のもりのしたなる草の上に 00042300M10△△△木から落たる猿ぞ我なる 00042310M11かくひとりごちて行ほどに、もとしれる人をたよりに/河内(かうち) 00042320M12にくたり、尋/逢(あふ)て打頼ミつゝ、さるへき人のもとにとゞま 00042330M13りて、今ハやすらかに住わたりけり。村里の/師(し)にうやまひ 00042340M14て、よろつの事をならひ侍へり。その里を/高安(たかやす)とかやいひ 00042350M15ければよめる、 00042360M16△△わひ人も所をかへてすみてみよ 00042370M17△△△こゝろもやすし高安の里 00042380¥N9¥J 00042390¥X 00042400M19△世をすてたりといふ人、かしらをそりこほして、/和泉(いつミ) 00042410¥P129 00042420L1の/堺(さかい)なる町にしハしとゝまりけるを、ある人哥をよミてを 00042430L2くりける、(六ウ) 00042440L3△△篭りなハ深山をさして入てまし 00042450L4△△△こゝハ/市中(いちう)の堺なるもの 00042460L5といひつかハしけれハ、返し、 00042470L6△△身をも身と思ふときこそ浮世なれ 00042480L7△△△太山もこゝもおなしかくれ家 00042490¥N10¥J 00042500¥X 00042510L9△一/遍(へん)上人念仏して諸国をめぐり給ふに、京都に/暫(しば)しお 00042520L10ハしける。/老(おひ)たる若き/尼(あま)ども五六人をめしつかひけり。/法= 00042530L11橋(ほつ=けう)/紹巴(ぜうは)、あれハ/何尼(なにあま)ぞととハするに、上人、旅衣の/洗濯(せんたく)つ 00042540L12かうまつるといふに、人にくき心地してよみてつかハしけ 00042550L13る、 00042560L14△△上人のうす墨衣桐のずゞ 00042570L15△△△あまけはなれぬ空念仏哉 00042580L16上人返し、 00042590L17△△水鳥の水に入とてぬれもせす 00042600L18△△△海の魚とてしほもあらはや 00042610¥N11¥J 00042620¥X 00042630M2△/土岐(ときの)蔵人の/侍(さふらひ)、あやまつ事有て、/曹洞宗(さうとうしう)の/和尚(をしやう)を頼て 00042640M3走り入けるを、さま+/詫言(わびこと)せられしか共聞ずして、(七オ) 00042650M4後にハ此寺の僧わがもとへ出入すなとて、侍を引出して打 00042660M5ころしぬ。かゝる/政法(せいほう)あらけなき国の/主(ぬし)にハ、何か心のと 00042670M6まりて侍へらんとて、出ていにけるが、寺の/柱(はしら)にかき付け 00042680M7る、 00042690M8△△日本にはゞかるほどのからかさを 00042700M9△△△もちてハミのはいらぬもの哉 00042710¥N12¥J 00042720¥X 00042730M11△/奥州(あうしう)/会津(あひづ)の/国守(くにのかミ)/洞家(とうか)の/僧(そう)を/供養(くやう)して、母のついぜんの 00042740M12ためとて、/永楽(えいらく)の銭百貫を/布施(ふせ)にひかれしを、ある人これ 00042750M13をミて、 00042760M14△△/布施(ふせ)とりて今えいらくと思へとも 00042770M15△△△後の世をみよあく銭ぞかし 00042780M16と書て寺の門に立たりけれハ、和尚返しすとて、よミて立 00042790M17替られたり、 00042800M18△△/畏(おとす)ともおそろしからす/黒革(くろかわ)の 00042810M19△△△/鎧(よろひ)にまさる墨染の袖(七ウ)(八オ挿画) 00042820¥P130 00042830¥G 00042840¥N13¥J 00042850¥X 00042860L13△銀の板かねがもとより、こまがねのまめいたがもとへ、 00042870L14哥をよみてつかハしける、 00042880L15△△/銀針(ぎんしん)の/軸(ぢく)と法師の/布施(ふせ)のかね 00042890L16△△△ひねるつらさハいつれ勝れる 00042900L17まめいたのこまがね返し、 00042910L18△△ふところに法しのいるゝ布施のかね 00042920L19△△△ひねるつらさハ針ハものかは 00042930M1/法師(ほうし)の/布施(ふせ)とりて、ふところに入つゝひねりて、おほきす 00042940M2くなきを心ミるらむ、いとあさましくもをかしかりけり。 00042950¥N14¥J 00042960¥X 00042970M4△/洞家(とうか)の/長老(ちやうらう)、/本来(ほんらい)/空(くう)の/理(り)を/醒悟(せいご)して、おこなひておハ 00042980M5しけるに、/遊行(ゆぎやう)上人聞及びて尋ねられしに、/座禅(ざぜん)にハあら 00042990M6て、眠り居るを見てよめる、 00043000M7△△/夜昼(よるひる)の念仏してたにおほつかな 00043010M8△△△/眠居(ねふりおり)てハいかゝのちの世 00043020M9長老聞て、目をすり+うち笑ひて、(八ウ) 00043030M10△△おとりはねしける雀の心とて 00043040M11△△△/鷲(わし)のすみかをいかてしるへき 00043050¥N15¥J 00043060¥X 00043070M13△むかしひえの山/北谷(きたゝに)の/覚成房(がくじやうはう)のあざり、月の夜/簀子(すのこ)に 00043080M14おましをのべて、/児(ちご)たちあまたもろともになかめつゝ、松 00043090M15がえしげりたる木の間より、まバらに月のかげさしけるを 00043100M16/興(けう)じて、あれにたてるハ/男松(おまつ)か/女松(めまつ)かととハれしに、大/児(ちご) 00043110M17は、松ふぐりのあるからハ男松とさだめ侍へらんと申され 00043120M18けるに、小児ハ、月のさハりのあるからハ女松と見侍へる 00043130M19と申されし。いとやさしくて、あざりかくぞよまれける、 00043140¥P131 00043150¥G 00043160L12△△男松とも我ハえいハし女松共 00043170L13△△△さためぬかけを月にまかせて(九オ)(九ウ挿画) 00043180¥N16¥J 00043190¥X 00043200L15△/長尾景虎(ながうかけとら)の家臣/甘糟(あまかす)近江守とて、/武勇(ふよう)の名かくれなき 00043210L16が、心さへやさしくて、寺の/東堂(とうだう)のもとへあま/苔(のり)をまいら 00043220L17するとて、 00043230L18△△/東堂(とうだう)の衣の/垢(あか)をふりすゝき 00043240L19△△△あまのりつけて早くめさせよ 00043250M1とよみてつかハしけれハ、返し、 00043260M2△△/垢(あか)もなしと思ふ衣をふりすゝき 00043270M3△△△あまのりつけハけかれやハせん 00043280¥N17¥J 00043290¥X 00043300M5△/江州(がうしう)/北郡(きたのこほり)に/真慶房(しんけいばう)のあざりとて、たうときひじりの 00043310M6もとより、近きあたりに/岩雪和尚(がんせつをしやう)のおハしける所へ、わか 00043320M7めといふものをつかハすとて、よみそへてやりけり、 00043330M8△△さひしさをとふらふためにまいらする 00043340M9△△△わかめを君かなくさみにせよ 00043350M10と書てをくりけれハ、和尚よろこびて、わかめのもとを/切(きり) 00043360M11て、それにそへて返しける、(十オ) 00043370M12△△わかめ得てもとめ返さぬ物ならハ 00043380M13△△△ふため狂ひと人のいふへき 00043390¥N18¥J 00043400¥X 00043410M15△細川/玄旨(げんし)のめしつかひける/中間(ちうげん)あり。/長(たけ)大にふとりて、 00043420M16心ハ正直なりけれは、/異名(いミやう)を大/仏(ほとけ)とよび給ひ、常には庭の 00043430M17/塵(ちり)をひろひ、朝ぎよめしてよくつかハれしか、/法師(ほうし)になり 00043440M18侍へらばやと望申けるに、ゆるされて/髪(かミ)をそりたるが、き 00043450M19ハめてにげなくみえしを、御前にめしてかくぞきこえける、 00043460¥P132 00043470L1△△/大仏(おほほとけ)かしらをそりてまた仏 00043480L2△△△これそ二/仏(ぶつ)の/中間(ちうげん)のはて 00043490¥N19¥J 00043500¥X 00043510L4△/伊庭(いばの)/玄蕃允(けんばのぜう)と聞えし人、/侍(さふらひ)十人ハかりをぐし、馬にの 00043520¥G 00043530M1りて京にのぼるとて、十/禅師(ぜんし)にすむ僧の、梅のはなさきた 00043540M2るを一えたもちて帰りけるを、その梅わけてたべといはれ 00043550M3しに、これハ仏に手向まいらせんとて、もて帰(十ウ)り侍 00043560M4べる、されと所望をは、いかでむなしくすべきとて、/俣(また)折 00043570M5して参らするとて、 00043580M6△△我宿の仏に/手向(たむく)梅の花 00043590M7△△△折分ぬれハ香こそしるけれ 00043600M8と申たりけれは、玄蕃かんじて、返し、 00043610M9△△咲梅にあらぬ鴬こゑすなり 00043620M10△△△匂ひもふかき僧の/哥口(うたぐち) 00043630M11かくて此僧としたしミて、かたのことく寺を立てまいらせ 00043640M12けりとかや。 00043650¥N20¥J 00043660¥X 00043670M14△西山にすみける/隠遁(いんとん)の/僧(そう)、/程学(ていがく)とかやきこえし世すて 00043680M15人のもとへ尋まかりしに、さま+の物かたりのつゐで、 00043690M16たたう紙に書たる物を、取出て見せられしに、歌あり、 00043700M17△△木には杉/苑(その)のくれ竹/鑓(やり)の/柄(え)に 00043710M18△△△人にハ/乞食(こじき)これ/直(すぐ)な物 00043720M19けにも/山海(さんかい)の/賊(ぞく)/夜盗(よたう)なんどハさら也、正/直(ぢき)をつくる人、か 00043730¥P133 00043740L1だ(十一オ)ましからぬハなし。我身ひとつのため、人をた 00043750L2ぶろかし、いつハりて物をかすめ取、これもぬすミの数な 00043760L3らんかし。ことに世をいとふとて、かしらをすり、すミそ 00043770L4めの衣を/着(き)て、三千世界第一の正直なるほとけを/方人(かたうと)にし 00043780L5て、ぬすみをする/者(もの)みち+て、是をとがめんとすれハ、 00043790L6仏のころものたもとのしたにかくれ/居(お)る。/無智(むち)/無道(むたう)の/法師(ほうし) 00043800L7ハ/社(やしろ)のねずミ、/城(しろ)のきつねといはまし。(十一ウ)(十二オ挿画) 00043810¥N21¥J 00043820¥X 00043830L9△/普光院殿(ふくハうゐんでん)、弥生なかば、高野の山にまうでたまひ、/奥= 00043840L10院(おくの=ゐん)にハ大/師(し)/入定(にうぢやう)の/室(むろ)の/扉(とほそ)をおがみ給ふにも、当/来(らい)/弥勒(ミろく)の出 00043850L11世、三/会(ゑ)の/暁(あかつき)をや待たまふらんと、いとゞたうとく、/骨堂(こつたう) 00043860L12にうつりて、ふかく/無常(むじやう)を/観(くハん)じ、かうがいをぬきて、ミづ 00043870L13から御/歯(は)をおこして、納め給ふとて、かくなむ、 00043880L14△△/高野(たかの)山おろす嵐のはけしくも 00043890L15△△△このはゝ残れ後の世迄も 00043900¥N22¥J 00043910¥X 00043920L17△白川の花ミんとて、四五人つれていきけり。花のもと 00043930L18にて/破篭(わりこ)/竹筒(さゝえ)とり出て、ものしけるに、年のほど六十にも 00043940L19やとミゆる/乞食(こつしき)の、むしろをかづきて/傍(あたり)に/臥(ふし)たるを、それ 00043950M1/追(をひ)のけよといふに、おとこ共立よりて、やゝとおこせとも 00043960M2いらへもせず。/足(あし)してふミおこしけれハ、/顔(かほ)もたげて、か 00043970M3くそいひける、(十二ウ) 00043980M4△△身ハ更にいやしけれ共心にハ 00043990M5△△△人をへたてぬほとけもそある 00044000M6男かへりてかう+とかたる。これは世を見かきれる人の、 00044010M7道をたのしミて/衣食(いしよく)のともしきをうれへす、花の本にはゞ 00044020M8からず、心のまゝに居たるなるへしとて、さま+わひこ 00044030M9としけるとて、 00044040M10△△/形(かたち)こそミのむしなれと人心 00044050M11△△△/底(そこ)のふかきをおもひやる哉 00044060M12といひけるに、/顔(かほ)をもたげ、打わらひて、 00044070M13△△いにしへの花のさかりも時過て 00044080M14△△△今ハくち木にすかる/蓑虫(ミのむし) 00044090M15とよミて、跡なくうせにけり。(十三オ) 00044100¥N23¥J 00044110¥X 00044120M17△京よりやむことなき人+、山崎/宝(たから)寺の花さかりと聞 00044130M18て、/乗(のり)物やりつゞけてゆくに、/貧(まづ)しき僧に行逢て、/宝(たから)寺ハ 00044140M19今いくほどの道ぞ、花ハ猶/盛(さかり)なるかととハせしに、いらへ 00044150¥P134 00044160L1ハせて、 00044170L2△△/盲目(まうもく)と/貧(ひん)なるものハ花もみす 00044180L3△△△咲もしらねハちるもおほえす 00044190L4といふ。あやしの僧や、いかなる寺にいますそといへハ、 00044200L5つかれの/雉(きし)の草がくれといひて打過けり。其跡に/柴(しば)人の通 00044210L6りたるに、あの僧しるやと問に、/宗鑑(そうかん)とて、世にきこえし 00044220L7僧なれと申けるにぞ、さてハとおとろかれける。 00044230¥N24¥J 00044240¥X 00044250L9△和泉国/岸和田(きしのわだ)に、世をのがれてすみける/法師(ほうし)ありけり。 00044260L10/道徳(だうとく)たかくきこえしが、身のやすらかなるをもとめ、心の 00044270L11しつかなるをたのしみとして、おこなひすまして居たりけ 00044280L12る(十三ウ)がもとへ、したしき/旦那(たんな)の、/道明寺(たうミやうし)の/干飯(ほしいゐ)と、 00044290L13/錫(すゝ)に酒を入て来り。/六月(みなつき)のあつさをちらし給へとてよめる、 00044300L14△△/道明寺(だうミやうじ)寺井の水にあらハせて 00044310L15△△△まいる心はすゞしからまし 00044320L16僧よろこひて、返し、 00044330L17△△ほしゐまゝとつてくらふてのむならハ 00044340L18△△△我身ひとつの蛇鬼がんだう 00044350¥N25¥J 00044360¥X 00044370M1△西行法師いまた/憲清(のりきよ)といひけるころより、世をうき物 00044380M2に思ひなしなから、/恩愛(をんあい)のはなれかたくおほえけれは、よ 00044390M3める、 00044400M4△△山深くさこそ心ハ通ふとも 00044410M5△△△すまであハれをしらんものかハ 00044420M6つゐに/発心(ほつしん)して/修行(すぎやう)しけるが、あるとき京へのほりて、上 00044430M7/西門院(さいもんゐん)/法性寺(ほつしやうじ)のほとりをとをりけるに、我子のいとけなき 00044440M8か、いかゝ/生立(おひたち)ぬらんとなつかしくて、もとの家をよその 00044450M9(十四オ)やうにしてしばし見居たれハ、六つはかりになり 00044460M10ける子の、/土(つち)なぶりしてあそび/居(おり)けるが、内へにげ入て、 00044470M11門に/乞食法師(こつじきほうし)の我を見るがおそろしさにとて、/興(けう)さめて語 00044480M12る声のきこえしかば、やをら立のきて打すぎぬ。/西住(さいぢう)上人 00044490M13と二人つれて、都のうちをありきけれと、いとやつれて替 00044500M14るすかたを見しる人もなし。/西住(さいちう)が家の門に立て/乞食(こつしき)しけ 00044510M15れバ、内にハ妻やめのと、いとけなき子をいだきかゝへて、 00044520M16よゝと/泣(なき)て、後に/塗桶(ぬりをけ)のふたに/米(よね)を入てまいらせしかは、 00044530M17ゑかうしてかへりぬ。おもひきりたるさま、あはれにもた 00044540M18うとかりけり。程へて/仁和寺(にんわじ)の御/室(むろ)にふたりながらめされ 00044550M19て、月の百/首(しゆ)和哥/結縁(けちえん)せよと仰けるに、西行、(十四ウ) 00044560¥P135 00044570L1△△月の入山に心ををくりいれて 00044580L2△△△闇なる跡の身をいかにせむ 00044590L3西行ほうし、 00044600L4△△/古(ふり)にける我身のかけを思ふにも 00044610L5△△△はるかに月のかたふきにけり 00044620L6とし月へだゝりてのちに、西行ハ伊勢にくたりて、/二見(ふたミ)の 00044630L7うらに/庵(いほり)をしめて、しばしすみけるを、/建春門院(けんしゆんもんゐんの)少納言 00044640L8が、西行が/家集(いゑのしう)をもとめてよミてつかはしける、 00044650L9△△さてことに玉を残せし玉札の 00044660L10△△△たくひハまたも有けるものを 00044670L11西行返し、 00044680L12△△よしさらハ光なくとも玉といひて 00044690L13△△△こと葉の/塵(ちり)ハ君みかくらん(十五オ)(十五ウ挿画) 00044700¥N26¥J 00044710¥X 00044720L15△西行法師、かうちの国かた野のわたりに行暮て、ちい 00044730L16さき庵りに宿をかりけり。あるしハ/七十(なゝそぢ)にも及ふらんと見 00044740L17ゆる/古尼(ふるあま)、たゝ一人居て、見くるしくともあかしたまへ、さ 00044750L18れど、まいらすべき物にことかき侍るこそ/甲斐(かひ)なけれ、と 00044760L19いふに、尼のよういある物をたべとそいひける。さらばと 00044770M1て、家の/外(そと)に/柿(かき)の木のえだ立のびて、高きにかけたる/干菜(ほしな) 00044780M2を竹のぼりはしさして取ておりけるに、/闇(くら)かりければ、ふ 00044790M3ミたがへて落けり。/腰(こし)のあたりつよくうちて、しバしハお 00044800M4きもあがらて、うめき/吟(によ)ひたり。西行はしり出て引おこし 00044810M5けるが、/顔(かほ)にくさげなる尼の、声わなゝきながら、腰をさ 00044820M6すれといひけれハをかしくて、 00044830M7△△空/晴(はれ)て雲のけしきもよき物を 00044840M8△△△こと+しくもあまおちそする(十六オ) 00044850¥G 00044860¥P136 00044870L1といひけるに、あなにくのほうしや、和僧ゆへにぞ、かゝ 00044880L2るあやまちして、うせなんとするに、何のたハふれ事そと 00044890L3てつふやくほどに、外の家ににげて行けり。 00044900¥N27¥J 00044910¥X 00044920L5△西行ある時、/陸奥(ミちのく)より/中道(なかみち)にかゝりて、しなのゝ国に 00044930L6きこえし/七瀬(なゝせ)川につきて、/懐(ふところ)より/麦粉(むぎこ)をとり出てくひける 00044940L7に、むせたりけり。目をミいで、身をゆすり、水をすくひ 00044950L8のミてやゝをこたりぬ。橋の上を馬にて渡る/侍(さふらひ)の見/居(おり)て、 00044960L9人してかくぞいはせける、 00044970L10△△/信濃(しなの)川/七瀬(なゝせ)と聞にいかなれハ 00044980L11△△△/法師(ほうし)ハ独りむせわたるらん 00044990L12西行返し、 00045000L13△△信濃川なゝせ渡ると聞てしが 00045010L14△△△君か馬こそやせ渡りけれ 00045020L15といひけるを、西行なりと聞て、されハこそとおどろき、 00045030L16い(十六ウ)とゝゆかしく/興(けう)じけり。 00045040¥N28¥J 00045050¥X 00045060L18△西行法師北国すぎやうすとて、/越前(えちぜんの)国/脇本(わきもと)と云所にし 00045070L19て、ある家に立入つゝ、水をもとめけれハ、あるし云ける 00045080M1ハ、此夏の/旱(ひでり)に水/涸(かれ)てなしと、はしたなくこたへけるに、 00045090M2西行、 00045100M3△△名にしおふわきもとなれハ此里ハ 00045110M4△△△水こそさハにあらまし物を 00045120M5とて過けれハ、あるし水をまいらせしとぞ。 00045130¥N29¥J 00045140¥X 00045150M7△/篠岡(さゝをか)/筑後(ちくご)と云ける人の家に、久しくつかへし女房お秋 00045160M8とて、いとけなき時に/疱瘡(はうさう)の入て、/片目(かため)つぶれたり。かく 00045170M9かた/輪(わ)づきければ、逢へきおとこのなくて、/四十(よそぢ)に及ふま 00045180M10でかゝへをかれしを、/或(ある)人これを見て、/破鍋(われなべ)に/閉蓋(とちふた)と云事 00045190M11の侍へり、/似合(にあハ)しき男をあはせんに、かたき事かと、(十七 00045200M12オ)よし/都(いち)といふ/座頭(さとう)になかだちして、此かた/輪(わ)をばふか 00045210M13く/隠(かく)して、いかにもかたちよしと語るに、かきりなくよろ 00045220M14こひてかたらひにけり。日数へて、さかしらするわかき人 00045230M15+いふやう、我身こそ/片輪(かたわ)ならめ、又かた目つぶれし女 00045240M16房をかづきける事よとわらひあへり。さてよみてつかハし 00045250M17ける、 00045260M18△△よし/都(いち)かめおとのミめハわろけれど 00045270M19△△△せめて一めハあきのまへかな 00045280¥P137 00045290¥G 00045300L12此哥を聞て、されば/夫婦(ふうふ)して四つあるべき目の三つハうせ 00045310L13て、たゞ一/目(もく)のこりたるこそたバかられけりと思へ共、今 00045320L14さらせんかたもなくて、返し、 00045330L15△△三目わろく/形(かたち)あしきも人ハたゝ 00045340L16△△△ひとめ/守(まもる)をよし/都(いち)とせよ(十七ウ)(十八挿画) 00045350¥N30¥J 00045360¥X 00045370L18△伊勢の/国司(こくし)の家に、/忍坂(をしさか)といひし人、/妻(つま)をむかへける 00045380L19に、聞及ひしに替りて、/疱顔(いもかほ)にしてさしも見にくかりけり。 00045390M1され共げしうハあらざりけり。さてしたしき/友達(ともたち)よびあつ 00045400M2めて、物せんとするほどに、家の/老臣(おとな)/小監物(こけんもつ)をまねくとて、 00045410M3/消息(せうそこ)をつかハしけるおくに、よミてやりける、 00045420M4△△手にいれてみてこそ秋のいもが/顔(かほ) 00045430M5△△△きめのわろさを君にみせハや 00045440M6返し、 00045450M7△△いもか/顔(かほ)きめハわろくと/味(あぢハひ)の 00045460M8△△△えぐたになくハこらふへしやハ 00045470M9とて、行て酒のミつゝ、人+興(けう)じけり。 00045480¥N31¥J 00045490¥X 00045500M11△源氏物語にしるせる、/末摘(すゑつむ)花ときこえし女房ハ、ひた 00045510M12いひろく、/顔(かほ)のかゝり下ふくらにて、/鼻(はな)のさし出て色(十 00045520M13八ウ)あかく、/長(たけ)たかく、やせ+しく、/髪(かミ)ハうちきに一 00045530M14尺はかりもあまりて、なよやかにミゆ。源氏の御哥に、 00045540M15△△朝日さす軒の/垂樋(たるひ)ハとけなから 00045550M16△△△などかつらゝの結ほゝるらん 00045560M17/普賢(ふげん)ほさつののり物とそのたまひける。あるときよみてき 00045570M18こえ給ふ、 00045580M19△△なつかしき色ともなしになにゝこの 00045590¥P138 00045600L1△△△末つむはなを袖にふれけむ 00045610L2/鼻(はな)のとがめをいたうし給ひて、 00045620L3△△くれなゐのひと花心うすく共 00045630L4△△△ひたすらくたす名をしたてすハ 00045640¥N32¥J 00045650¥X 00045660L6△玉かつらの御棠/着(き)して、/内侍(ないし)の/督(かミ)になさるへしとて、 00045670L7/冷泉院(れんせいゐん)より/勅(ちよく)のくだりしに、宮&たちよりさま+御たま 00045680L8ものあり。すゑ摘花の御もとより、/落栗(おちくり)色の昔物のやうに 00045690L9古めかしき/衣(きぬ)を奉り給ふ、/袂(たもと)に、(十九オ) 00045700L10△△我身こそうらみられけれ唐衣 00045710L11△△△君か袂になれすとおもへは 00045720L12此君から衣といふ事をつねに哥にはよまれけるを、源氏を 00045730L13かしく思ひ給ふにや、 00045740L14△△から衣またから衣からころも 00045750L15△△△かへす+もからころもなる 00045760L16とよみ給ひて、わらハせ給ひけりとそ。 00045770¥N33¥J 00045780¥X 00045790L18△山ちかき所にて、つぼさうぞくしける女どもの、物を 00045800L19尋ぬるかとおほえたるを、何わざをしたまふととへハ、/野= 00045810M1老(とこ=ろ)といふ物をほるといふ。このいらへを聞て、よミてつか 00045820M2ハしける、 00045830M3△△春の山ところもとむといふなるハ 00045840M4△△△ふしたゝぬ計ミいでたるやも 00045850M5女ともの中より、返し、 00045860M6△△春の山ほる+ミれとなかりけり 00045870M7△△△世にところせき人のためにハ 00045880M8この事にて思ひ出せは、過にし春のころ/鞍馬(くらま)にまう(十九ウ) 00045890M9でゝ、聞及びし/野老(ところ)もとめんと、こゝかしこ見めぐり、山 00045900M10/賎(がつ)の家のうしろに行いたりしに、/顔(かほ)にくさいなる/婆(うば)の出て、 00045910M11何ものぞ、家ちかくきて物すとて、ことの外にしかりける 00045920M12ほどに、かくぞよみける、 00045930M13△△くらま山/野老(ところ)もとめて山/婆(うは)に 00045940M14△△△にか+しくもとかめられけり 00045950¥N34¥J 00045960¥X 00045970M16△むかしの/誹諧躰(はいかいてい)とハ、今世に聞ゆる/風情(ふせい)にハ替りしに 00045980M17や、/凡河内(をふしかうちの)/躬恒(ミつね)、 00045990M18△△おく山に舟こく音の聞ゆるハ 00046000M19といひけれは、/貫之(つらゆき)かくそ付ける、 00046010¥P139 00046020L1△△なれるこのミやうミわたるらむ 00046030L2/頼慶(らいけい)法師か前句に、 00046040L3△△/桃苑(もゝその)のもゝの花こそ咲にけれ 00046050L4とせしかば(二十オ)、/公資(きんすけ)朝臣、 00046060L5△△梅津のむめハちりやしぬらん 00046070L6とぞ付られける。今ハ/句(く)がら詞のいやしきをいはす。口に 00046080L7まかせて百/韻(ゐん)だにつゞきて、わつかに/指合(さしあひ)を/去(さり)/嫌(きら)ふを、よ 00046090L8き事に思ひにたる、いと口おし。さればこそ/茶杓(ちやしやく)竹にて打 00046100L9あひ、ふくさ物にて/顔(かほ)を/拭(ぬぐ)ひ、たゞ/数奇(すき)さへすれハ、それ 00046110L10/者(しや)といハるらし。 00046120¥N35¥J 00046130¥X 00046140L12△むかし/俊恵(しゆんゑ)法師と/道員(だうゐん)法師と、十首の哥合しけるに、 00046150L13道員ハ九/首(しゆ)まけて、一/首(しゆ)ハ/持(ぢ)になりぬ。次の日俊恵がもと 00046160L14よりよみてつかハしける、 00046170L15△△君か歌しかまの市といひしかと 00046180L16△△△かちのひとつもなとなかるらん 00046190L17/道員(たうゐん)この哥をよまれて、いと口おしくおもひ、すみよしに 00046200L18さんろうしていのりつゝ、かさねての哥合には(二十ウ)必 00046210L19らず/勝(かた)させ給へと念願し、七日の後に下向いたし、その翌(あくる) 00046220M1日紅葉の哥合とて、/俊恵(しゆんゑ)/道員(だうゐん)めし合せらる。俊恵ほうしの 00046230M2哥に、 00046240M3△△しなか鳥/稲野(いなの)/芝(しば)山吹風に 00046250M4△△△おろす紅葉か小屋のうハぶき 00046260M5/道員(たうゐん)法師ハ右にて、 00046270M6△△紅葉ゆへふたゝひ物を思ふかな 00046280M7△△△また落葉さへはらふへしやハ 00046290M8とよみたりしかハ、/勝(かち)に定られ侍へりし。住吉明神の御利 00046300M9生とそよろこびける。(廿一オ) 00046310¥P140 00046320¥T1狂歌咄巻第四 00046330¥N1¥J 00046340¥X 00046350L3△/天地(あめつち)のあひだにはらまれて、いきとしいけるもの、い 00046360L4つれか哥をよまざるとハいへど、大かたよまれぬぞ哥なる。 00046370L5/八雲(やくも)たつやえ/垣(がき)を、/牆(かき)のぞきにのぞきても、/底(そこ)さへみえぬ 00046380L6山の井の、/蛙(かハづ)の哥ぶくろだにもたず。人の心を/種(たね)とすとき 00046390L7けども、さながらみなし/麦(むぎ)の、ふけバとびちるやうに生れ 00046400L8つきたれハ、いかにおもひの土をほぜりて/蒔(まく)とても、ひと 00046410L9ふしのことの葉のはえ出へくもおほえず。/新婦(よめ)の名のたつ 00046420L10なれ+/茄子(なすび)、ならぬものは哥なりと捨にたり。春立けふ 00046430L11より山もかすめる目うちしばたゝき、むめかえにきゐるう 00046440L12くひすの哥口を、耳もとまでゆがめて、七/草(くさ)たゝくも物く 00046450L13さげにて、/呻(あくび)まじりに(一オ)ねのびしける、小松がうれに 00046460L14吹かよふ風のまに+、柳の糸をくりたむる、山姫の立は 00046470L15たかれるふともゝの花に心をかけし/児(ちご)桜の、ほそ/眉(まゆ)を/軒(のき)の 00046480L16つまにとりのこし、あやめもしらぬ/五月雨(さミたれ)の雲の絶まより、 00046490L17ほとゝきすかすかに音づるゝにいざなハれ、/早苗(さなえ)とりて/殖(うえ) 00046500L18わたすころも過れハ、たへがたきあつさのまゝ、池のみぎ 00046510L19ハにたちよれハ、こすゑすゝしき/蝉(せミ)のもろこゑ、いくほど 00046520M1なくぬけがらの、/茅(かや)が葉にすがりつきたるも、世のあだし 00046530M2身のためしとおどろかれ、/汗(あせ)水に成て/魂(たま)まつりするに、は 00046540M3や/鹿笛(しゝふえ)をひいやりとふく秋の風に、/棹(さほ)になりて夜すがら渡 00046550M4るくらがりの空に、弓はり月の入残るかげ、初霜にさゆる 00046560M5鐘のをと、よハりゆく虫の音をあハれと聞けるに、/蓑毛(ミのげ)な 00046570M6びける(一ウ)ぬれ鷺の、によろだかき/茎(くき)にひらき出る白菊 00046580M7の花、うつろふ色をたすくる紅葉のにしきのきれ+に、 00046590M8嵐にちるや玉あられの、板屋の/庇(ひさし)に降かゝるもすさまじく、 00046600M9雪ふる里の家+ハ/窓(まど)さしこみつゝ、/焼火(たきび)にあたり/居(お)るぞ、 00046610M10ゆるりとやおもふらん。せめて月日のうつり行有さま、/難= 00046620M11波津(なに=はづ)のよしあしをいはず。心のきハをいひあらハしなば、 00046630M12思ひをなぐさむにつけて、やさしとも聞えなんかし。万葉 00046640M13集の哥に、 00046650M14△△あまの原舟こぐかいの/薬師寺(やくしでら) 00046660M15△△△あハぢの/島(しま)に/犂(からすき)のへら 00046670M16とよみしハ、跡さきあはぬ哥のためしにさだめられたりと、 00046680M17/清輔(きよすけ)の/奥義抄(あうぎせう)にハかゝれたり。 00046690M18△△雲まゆくかたわれ月のかたわれハ 00046700M19△△△落ても水に有けるものを(二オ) 00046710¥P141 00046720L1といふ哥をは、八雲御抄にハ、風情のいりほがとて出され 00046730L2しを、/貫之(つらゆき)が哥に、 00046740L3△△ふたつなき物と思ひし水底に 00046750L4△△△山のはならていつる月かけ 00046760L5これよく相似たる/風躰(ふうてい)なりとぞ、 00046770L6△△桜ちる木のした風ハさむからて 00046780L7△△△空にしられぬ雪そ降ける 00046790L8といふ哥をとりて、 00046800¥G 00046810M1△△雪晴る雲まにさむき月かけハ 00046820M2△△△水にしられぬ氷なりけり 00046830M3とよめりしハ、是をこそまことにぬすミせざるほどのなま 00046840M4しんミやうの、きぬ/盗(ぬすミ)て小袖になしたるになんおほゆると、 00046850M5和哥の六帖にハ/記(しる)されけり。詞ハふるきをもちひ、心ハあ 00046860M6たらしきをよしとすとハ侍へれと、本哥をとるに、そのさ 00046870M7まあるへき事也と、ある人申給ひき。(二ウ)(三オ挿画) 00046880¥N2¥J 00046890¥X 00046900M9△新古今集の哥に、よミ人しらす、 00046910M10△△秋も秋こよひもこよひ月も月 00046920M11△△△所もところ見るきミも君 00046930M12同集に西行法師のよめる、 00046940M13△△いかゝすへき世にもあらハや世を捨て 00046950M14△△△あなうの世やと更に思ハむ 00046960M15これらハ万葉集に、詞を/畳(たゝミ)てよめる本歌あり、 00046970M16△△よき人のよしのよくミてよしといひし 00046980M17△△△よしのよくみよよき人よ君 00046990¥N3¥J 00047000¥X 00047010M19△一/首(しゆ)のうちに同し文字なき哥あり。/物部(ものゝべの)よし名、 00047020¥P142 00047030L1△△世のうきめみえぬ山路にいらんには 00047040L2△△△思ふ人こそほたしなりけれ 00047050¥N4¥J 00047060¥X 00047070L4△/忠仁公(ちうじんこう)の給へりとかや、花をし見れハ物思ひもなしと 00047080L5いへるハ、聞よくおもしろけれハ、さうにをよハず、よし 00047090L6なき時、たけたかくみせんとして、このミて/文字(もじ)をあます 00047100L7事、/中飽病(ちうはうびやう)とたてゝあり。たゞし/信明(のふあきら)朝臣、(三ウ) 00047110L8△△ほの+と有明の月の月かけに 00047120L9△△△紅葉吹おろす山おろしの風 00047130L10これハ三十四字なれと、/長(たけ)たかく聞にくからすとおほせけ 00047140L11り。二条院/讃岐(さぬき)か哥に、 00047150L12△△ありそ海の波まかき分てかつく/蜒(あま)の 00047160L13△△△いきもつきあへす物をこそ思へ 00047170L14これハ三十六字の歌なり。かゝる字あまりの哥どもおほけ 00047180L15れども、/長(たけ)たかく聞にくからず。さしも哥人のわさ/量(はかり)かた 00047190L16し。今の字あまりの哥ども、みな病なきハなしといへり。 00047200¥N5¥J 00047210¥X 00047220L18△/弥生(やよひ)のはじめつかた、/岡谷(をかや)入道のもとより、桜のさか 00047230L19りに一えだ折て、/法橋(ほつけう)/紹巴(ぜうは)にをくりつかハすとて、哥をよ 00047240M1ミそへてやる、 00047250M2△△花のもとへまた此花をまいらせハ 00047260M3△△△ふたはな心いもやうらミむ(四オ) 00047270M4/紹巴(せうは)返し、 00047280M5△△花のもとへまた此花をさしそへて 00047290M6△△△たゝひと花に/妹(いも)となかめむ 00047300¥N6¥J 00047310¥X 00047320M8△/小幡(をバた)山城守入道かもとより、いが/栗(ぐり)の十四五なりたる 00047330M9を、枝をりにして/馬場(ばゝ)/美濃守(ミのゝかミ)にをくるとて、 00047340M10△△いが+し/毛衣(けころも)なれハ手もふれす 00047350M11△△△そこにてはだをくりあけてめせ 00047360M12返し、 00047370M13△△をしつけて/栗(くり)か/毛衣(けころも)はぎとらバ 00047380M14△△△いががんだうと人のいふへき 00047390¥N7¥J 00047400¥X 00047410M16△/土御門(つちミかと)のほとりにすミける人、ある/御所(ごしよ)の女房をむか 00047420M17へてかたらひしが、いさゝかの事をいさかひければ、おと 00047430M18こはら立て/去(さり)返しぬ。その女房の名をこつまとそいひける。 00047440M19かきりなく悲しミながら、涙をゝさへて、 00047450¥P143 00047460L1△△/小夜(さよ)衣いくよ重ねしこつまをハ 00047470L2△△△返すうらみハ/縫(ぬひ)し/糸(いと)かず(四ウ) 00047480L3おとこあはれに思ひて、 00047490L4△△秋風の吹かへしけるこつまをハ 00047500L5△△△うらむときけハ又そかへさむ 00047510L6とて、よひかへしけり。 00047520¥N8¥J 00047530¥X 00047540L8△八/条(てう)/唐橋(からはし)にすミける人、/新婦(よめ)をむかへて月かさなりぬ。 00047550L9/姑(しうとめ)の小袖をぬハせけるに、/表(おもて)ハあらためしかとも、/裏(うら)ハ 00047560L10古しかりけるほとに、つまさきかたみじかくて合ざりしか 00047570L11ハ、手づゝなりとて、姑のせんぎして/腹(はら)だちけるを、/隣(となり)の 00047580L12人聞て、もとよりあたらしきに、ふるしき/衣(きぬ)をとりあハせ 00047590L13てハ、合にくき物ときこえ侍へり、清少納言が/草子(さうし)に、鍋= 00047600L14蓋(なべ=ふた)のとりあはせと、たちあはせぬ小袖のうらハ、あひにく 00047610L15き物とかけり、よろつの事みなおなじく、ふるきにあたら 00047620L16しきをとり合せてハにげなし、わがよむ哥を聞給へとて、 00047630L17(五オ) 00047640L18△△/姑(しうとめ)とよめと小袖のうらはらに 00047650L19△△△心のつまのいかてあふへき 00047660M1さて、むかしよりある事かとて、やミにしとかや。 00047670¥N9¥J 00047680¥X 00047690M3△丹波国野の村に、/須原(すハら)半之丞とて/武勇(ぶよう)の人、ならびの 00047700M4里より妻をむかへて、むこ入せんとするに、もとよりすり 00047710M5きりて、きるへき/上着(うハき)のなかりけり。おなし里に/赤沢(あかさハ)の/某(なにかし) 00047720M6といふ人は、したしき友たちにて、それがもとへ小袖を/借(かり) 00047730M7につかハしけれハ、/丹田(にた)山/紬(つむき)を/苅安(かりやす)ぞめにしたるをかしけ 00047740M8り。これを引はりてむこいりしつゝ、/明(あく)るあした返すとて、 00047750¥G 00047760¥P144 00047770L1よみそへてやる、 00047780L2△△うハきをは心をかずもかりやすの 00047790L3△△△やすくもきのふとくるむこ入 00047800L4返し、 00047810L5△△小袖をハかりやす+とむこ入を 00047820L6△△△すハらときけハうらやまれぬる(五ウ)(六オ挿画) 00047830¥N10¥J 00047840¥X 00047850L8△一条の小路に、よろしくすみわたりける人、/惣領(そうりやう)ハ前 00047860L9の妻の子にて、後はらに二人の子をまうけたり。いにしへ 00047870L10今いかなれば、女心にまゝ子をにくミ、よろつあしさまに、 00047880L11つらめしうもてなしけれと、まゝ子ハ更にうらめしともい 00047890L12はず、何事もさかふ心なくて暮しけるか、父なやましくわ 00047900L13つらひ出て、今ハ大かたかぎりと見えしかハ、/跡職(あとしき)の事い 00047910L14かゞ、たしかにいひをき給へといふに、硯紙とりよせて二 00047920L15筆計かきて、我/死(し)して/中院(ちうゐん)のはての日、此かきつけを見て 00047930L16跡の事まかなへとて、事きれにけり。かくて四十九日過て、 00047940L17ひらきてミるに、なにの事をもかゝず、哥一首あり、 00047950L18△△なき跡ハみな惣領にゆつり葉の 00047960L19△△△末葉ハともに我親になれ 00047970¥N11¥J 00047980¥X 00047990M2△親をやしなふて、ねんころにもなき子のありしに、親 00048000M3う(六ウ)らめしく/述懐(しゆつくわい)すれば、只今にも死給ハゝ、跡よ 00048010M4くとふらひてまいらせん、されバ誠の/孝行(かう+)ハ、親の/後世(ごせ)を 00048020M5たすくるにまさる事なしと、/法談(ほうだん)にも聞侍へりといふに、 00048030M6親聞てかくそよみける、 00048040M7△△/孝行(かう+)ハ命のうちに尽せかし 00048050M8△△△うたかハしくハうけとりをとれ 00048060¥N12¥J 00048070¥X 00048080M10△赤染衛門すミける家のあたりちかく子をすてけれハ、 00048090M11声をはかりに母を恋て/啼(なき)けるを、あはれと聞居たるに、し 00048100M12ばし音なく成しかハ、人して見せにやりけるに、ねいり侍 00048110M13へりといふに、かくそよみける、 00048120M14△△哀なり夜はに捨子の啼やむハ 00048130M15△△△親にそひねの夢やミるらん 00048140¥N13¥J 00048150¥X 00048160M17△ある人、子をすつるとてよめる、 00048170M18△△身にまさる物なかりけり/緑子(みとりこ)ハ 00048180M19△△△やるかたもなくかなしけれとも(七オ) 00048190¥P145 00048200¥N14¥J 00048210¥X 00048220L2△ある人、子をうしなふ事五六人に及びしか、妻又たゝ 00048230L3ならす、すでに月みちておのこ子をまうけたり。/夫婦(ふうふ)はい 00048240L4ふに及ハず、/親類(しんるい)こぞりてよろこびあひける処に、/隣(となり)の/隠= 00048250L5居(ゐん=きよ)の/禅門(ぜんもん)よろこびに来て、此子ハ/幾(いく)久しく、かミもかたか 00048260L6るへし、哥をよみていはひ侍へらんとて、 00048270L7△△/緑子(ミとりこ)のかミのかたさハ/石仏(いしほとけ) 00048280L8△△△命ながさを弥陀にあやかれ 00048290L9といひ出たりけれバ、家うち/上(かミ)しもにがりかへりて、物い 00048300L10ふ人なし。此/禅門(せんもん)はたと思ひあたりて、さらばめでたくよ 00048310L11ミなをさんとて、 00048320L12△△おやよりもさきたち給ふ竹の子の 00048330L13△△△はやしに入てみるうちのほど 00048340L14此哥、いよ+いま+しくて、中/違(たが)ひけり。 00048350¥N15¥J 00048360¥X 00048370L16△ある/侍(さふらひ)、/緋威(ひをとし)の/鎧(よろひ)を/威(をどし)立て、その/祝(いは)ひにとて、人&よ 00048380L17(七ウ)びあつめて物しけるに、/楚忽(そこつ)の人哥をよミけり、 00048390L18△△/緋威(ひをとし)のよろひのさねをかた糸の 00048400L19△△△わたかみとりて打きられけり 00048410M1うちきられの/字(じ)さし合て、あるじ/不興(ふけう)せしとにや。 00048420¥N16¥J 00048430¥X 00048440M3△ある人、あたらしく家つくりける。その祝にとて、友 00048450M4だちよびて物しけり。家うち見めぐりつゝ、/垂木(たるき)の竹こと 00048460M5の外に/太(ふと)かりしをほめけるとて、此竹ハ八町ばかりハきこ 00048470M6え侍へらんといふ。その故をとひければ、ある所の家の竹 00048480M7/垂木(たるき)、いまだこの竹にハ似るへくもなくほそかりしが、/火= 00048490M8事(くわ=じ)の時に六町きこえ侍へり、/焼(やけ)て/破(われ)たる音の、遠くひゞき 00048500M9し事を思へハ、今此竹ハ八町ハ聞ゆべしといふに、人+ 00048510M10さればともえいはず、あるし聞つけて、ことの外に気にか 00048520M11けつゝ、/腹立(はらたち)けれは、此人めいわくして、あるじ(八オ)の 00048530M12きげんなをしに、哥をよミ侍へりとて、かくそいひける、 00048540M13△△火をかけて/焼(やく)とももえしこの家の 00048550M14△△△/棟(むね)も/柱(はしら)も水をもりつゝ 00048560M15この家、つゐに/洪水(こうすい)になかれけりとぞ。 00048570¥N17¥J 00048580¥X 00048590M17△ある人、/綾(あや)の小袖を/借(かり)にやりければ、おしミてかさす。 00048600M18哥をよミてつかハしける、 00048610M19△△綾の小袖あやかり物と誰もミん 00048620¥P146 00048630L1△△△かさバあやかしつきやしぬへき 00048640¥N18¥J 00048650¥X 00048660L3△/鍛冶(かぢ)の/国員(くにかず)ハ、小刀を打て名を得しものなり。/十二月(しはす) 00048670L4のすゑに/餅(もちゐ)つかんとて、/甑(こしき)を立て/蒸(むし)ける処に、俄に/釜(かま)の/鳴(なり) 00048680L5出て侍へりければ、/国員(くにかす)かくそよミける、 00048690L6△△我/釜(かま)の声をはかりに/鳴(なる)ことハ 00048700L7△△△はがねを人にしらせんとなり 00048710L8これより世に名高く聞えしとかや。 00048720¥N19¥J 00048730¥X 00048740L10△いにしへ都のうちに、さもある人の家に、めでたき/祝= 00048750L11言(いはひ=ごと)(八ウ)ある所にハ、/桂(かつら)の里よりわかき女のまいりけり。 00048760L12その出立ハ、/顔(かほ)うつくしうけハひ、/眉(まゆ)つくり、うるハしき小 00048770L13袖をかさね、わか名を/桂(かつら)と名のりて、かの家にまいり、/新= 00048780L14婦(よ=め)いりむこどり家/作(つくり)なにゝよらす、めてたき御事の候と聞 00048790L15て/桂(かつら)がまいりて候とて、その事につけて、さま+詞をか 00048800L16ざりいひつゞけ、/祝言(のつと)の/祓(はらひ)をいたし、そのほど+の/賜物(たまもの) 00048810L17とりて帰る事の侍へりき。これにつけてハ、/往当(そのかミ)正月元日 00048820L18の/朝(あした)より十五日まで、年毎に/仮粧書(けさうふミ)とて/売(うり)けり。その出立 00048830L19ハ赤き/布衣(ほい)に/袴(はかま)の/裙(そば)たかくとり、猶それより前にハゑぼし 00048840M1を/着(ちやく)せりとかや。中ころハ/編笠(あミかさ)かぶり/覆面(ふくめん)して、都の町& 00048850M2を/売(うり)けり。これを/買(かふ)人あれハ、ほそき/畳紙(たゝうかミ)の中に、/洗米(あらひよね)二 00048860M3三りう入たるを、/仮粧書(けさうふミ)と名づけて(九オ)渡す。一銭より 00048870M4百銭までも、/代(かハり)ハ買人の心にまかす。さてその/祝言(のつと)ハ、/買(かひ) 00048880M5ける人、あるひハ/夫婦(ふうふ)のかたらひの事、あるひハ/商売(しやうはひ)の事、 00048890M6又ハ物かく事、其外なにゝてものぞむ事をさま+めでた 00048900M7くいひつゞけて打とをる。いとおもしろく/売(うり)ける/詞(ことハ)、やさ 00048910M8しうきこえしを、時世のありさまにをしうつされ、今ハみ 00048920¥G 00048930¥P147 00048940L1な絶けるにや、此ころわかき人ハしりたるもなし。これハ 00048950L2/祇園(ぎをん)の/犬神人(いぬじんにん)なりや、又ハ/桂(かつら)の里より出る男にや、その出 00048960L3る所をしらず。このほとハ/飴(あめ)をねり出して、里の名物とな 00048970L4れり。/桂飴(かつらあ)とて世にもてはやすとかや。かくそよみける。 00048980L5△△名にしおふ里ハ桂のあめ/牛(うじ)や 00048990L6△△△月の夜すからねりをかむらん(九ウ)(十オ挿画) 00049000¥N20¥J 00049010¥X 00049020L8△いざよひといふこと葉ハ、やすらふ心とにや。/猶予(ゆよ)と 00049030L9/書(かく)よし。万葉集にハ/不知夜(ふちよ)と書て、いざよふとよめり。柿 00049040L10本人丸の哥に、 00049050L11△△/武士(ものゝふ)の/八十宇治(やそうぢ)川の/網代(あしろ)木に 00049060L12△△△いさよふ波のゆくゑしらずも 00049070L13とよめるハ、宇治川のあしろハ、/氷魚(ひを)をとるためなるに、 00049080L14波のせかれて、なかれのやすらふといふ心とミゆ。あるひ 00049090L15は十六日の月をいさよひの月といふ。源氏物語に、いざよ 00049100L16ふ月にゆくりなくあくかれんことをと/書(かき)たり。これハ十五 00049110L17夜の月入かた十六日になる事をいへり。これも十五夜より 00049120L18は十六夜にハ、月の出る事しハらくやすらひて、をそく出 00049130L19る心にや。万葉集に、 00049140M1△△山のはに/不知夜(いざよふ)歴月を出けんかと 00049150M2△△△待つゝおるに夜そ深にける(十ウ) 00049160M3たゝしはらくやすらひて、をそき心なり。古今集よミひと 00049170M4しらすの哥に、 00049180M5△△君やこん我やゆかむのいさよひに 00049190M6△△△槙の板戸もさゝすねにけり 00049200M7とよみたり。 00049210¥N21¥J 00049220¥X 00049230M9△むかし/惟喬親王(これたかのミこ)の/別業(べつげう)ハ、/水無瀬(ミなせ)といふ所にあり。伊 00049240M10勢物語に、山ざきのあなたにみなせといふ所に宮ありけり 00049250M11と書たるハ、此所の事なり。古哥に、川をよミ、山をよみ、 00049260M12/鹿(しか)をむすひてつらねたり。夫木和哥集の哥に、 00049270M13△△/水無瀬(ミなせ)山木かけの草のした露や 00049280M14△△△林の鹿のなみた成らん 00049290M15此哥を思ひ出て、かくぞつぶやきける。 00049300M16△△水無瀬山秋の紅葉ハ/棹鹿(さをしか)の 00049310M17△△△妻こふなみた色に出らむ 00049320¥N22¥J 00049330¥X 00049340M18△/嵯峨野(さがの)の/宿光寺(しゆくくハうじ)ハ、二/尊院(そんゐん)より/東南(たつミ)の方にあり。是 00049350M19(十一オ)ぞ定家卿の/小倉(をくら)の山庄なる、/色紙(しきし)の和哥を書つけ 00049360¥P148 00049370L1てをかれし所、今ハ/日蓮宗(にちれんしう)の寺となれり。小倉山の内なれ 00049380L2ハ、古哥共おほくミゆ。後鳥羽院このほとりに/行幸(ぎやうがう)まし 00049390L3+て、/少(ちいさ)き/庵室(あんじつ)に煙の立けるを見給ひて、とハせられし 00049400L4かは、 00049410L5△△をりくぶる/薪(たきゝ)ハあれと/鉢(はち)の木の 00049420L6△△△絶まかちにて煙たゝざる 00049430L7とよミて奉れり。/慈鎮和尚(じちんくハしやう)にておハせしと也。定家卿ハ、 00049440L8五条三位/俊成(しゆんぜい)の/息(そく)、和哥の/中興(ちうこう)也。新古今集を/選(せん)せられし 00049450L9時に、父の/喪(も)にあふて座に/列(つらな)らず。後にその哥どものよろ 00049460L10しからざるを/編(あミ)入られし事を残おほくおもひ、/新勅撰(しんちよくせん)和歌 00049470L11集ハ定家卿ひとりして/選(せん)せられしといふ。さてかくぞ云け 00049480L12る。(十一ウ) 00049490L13△△昼なかもふミまよひけり敷嶋の 00049500L14△△△哥の道にハをくら山かな 00049510¥N23¥J 00049520¥X 00049530L16△/有巣(ありす)川は/野宮(のゝみや)のほとりにきこえなから、その所さだか 00049540L17ならず。/花鳥余情(くハてうよせい)にハ、伊勢の/斎宮(さいくう)の野宮ハ、嵯峨の有巣 00049550L18川にあり、/賀茂(かも)の斎院の野宮ハ紫野にありと/記(しる)せり。/顕昭(けんせう) 00049560L19か注にハ、斎宮のおハします本院の/傍(あたり)にある小川を、/有巣(ありす) 00049570M1川といふといへり。野宮へゆく道の竹/薮(やぶ)のかげになかるゝ 00049580M2を有巣川と名づくるよし、所の人は申す。二尊院の南にあ 00049590M3る/森(もり)の内に/小社(こやしろ)あり。/黒木(くろぎ)の鳥/居(ゐ)/小柴垣(こしばがき)、今もその/形(かた)ハか 00049600M4り残りにたる。こゝぞ野宮の跡なる、 00049610M5△△/野宮(のゝミや)の森のこからすとまれバや 00049620M6△△△いとゝ黒木の鳥居ともミゆ 00049630¥N24¥J 00049640¥X 00049650M8△/愛宕(あたご)まうてしつゝ、さま+願たて祈りけるほどに、 00049660¥G 00049670¥P149 00049680L1(十二オ) 00049690L2△△願たてゝ祈りをかくるあたこ山 00049700L3△△△これそまことの天狗だのもし 00049710L4/樒(しきミ)が原といふもおなじ山のうちにあり。/曽禰(そねの)/好忠(よしたゝ)が哥に、 00049720L5△△あたこ山樒か原に雪つもる 00049730L6△△△花つむ人のあとたにもなし 00049740L7樒をはたきて、/抹香(まつかう)にすといふ事を、 00049750L8△△あたこ山やまのあたまのまつかうを 00049760L9△△△はたく/樒(しきミ)かはらだちハなぞ、 00049770L10/下向道(げかうたう)のつゐで、/大炊(おほゐ)川をよめる、 00049780L11△△とんつはねつ流れにそふてのほり/鮎(あゆ) 00049790L12△△△/汲(くミ)てそしるき数おほゐ川 00049800L13/芹(せり)川は/仁和(にんわ)の/帝(ミかと)行幸し給ひけるよし、伊勢物語にミゆ。嵯 00049810L14峨天皇はじめて行幸有けりと/旧記(きうき)あり。此例とぞきこえし。 00049820L15千世の/古道(ふるみち)ハ亀山の/腰(こし)にある道/筋(すぢ)なり。/戸名瀬(となせ)の/滝(たき)ハ大炊 00049830L16川の上の滝なり、 00049840L17△△戸名瀬よりなかすにしきのきれ+ハ 00049850L18△△△時雨に染し木葉也けり(十二ウ) 00049860L19嵐山ハ法輪寺のうしろにあり。こゝハもとより、あらしを 00049870M1我か物と名のる山なれど、さすがにさはかしからす。春の 00049880M2花秋の紅葉、月雪につけても見所おほく、筆にもつくしが 00049890M3たく、浮世をよそにのがれたる所ならし、 00049900M4△△嵐山にそたつさくらハわが物と 00049910M5△△△殊更はなをよきてふくらむ 00049920M6松尾にまうでゝ、むかし+子どものことわさを思ひいで 00049930M7ゝ、 00049940M8△△松尾の/使者(ししや)といふなるどう亀を 00049950M9△△△/焼米(やきこめ)くれぬ田にやはハせん 00049960M10/西方寺(さいはうじ)の庭ハ、/夢窓国師(むさうこくし)/絶景(ぜつけい)の/工(たくミ)よりつくられし所、今も 00049970M11/掃除(さうぢ)をこたらずや、 00049980M12△△西方寺/碧岩石(へきかんせき)の作り庭 00049990M13△△△/時&(より+)/塵(ちり)を/払拭(ほちぬき)やする(十三オ)(十三ウ挿画) 00050000¥N25¥J 00050010¥X 00050020M15△/八幡(やハた)にまうてゝ、所の人に尋ねしかは、八幡ハこゝも 00050030M16との/惣名(そうミやう)にて、その間におとこ山/鳩(はと)の峯とてあり。女郎花 00050040M17を結びてよめる哥どもおほし。/男塚(おとこつか)女塚の/故事(こじ)あるゆへと 00050050M18ぞ、 00050060M19△△男山にくねらハくねれ女郎花 00050070¥P150 00050080L1△△△弓や八/幡(まん)無理にちきらん 00050090¥N26¥J 00050100¥X 00050110L3△/八幡(やハた)/下向(げかう)の道、/淀(よと)の渡りを通るとて、/述懐(しゆつくわい)の哥よめる、 00050120L4△△淀川や河せにたてる/鷺(さき)/烏(からす) 00050130L5△△△しろくろとして世を渡るらむ 00050140L6/楊子嶋(やうしかしま)/美豆野(ミづの)このわたりにあり、 00050150L7△△淀川や楊子嶋に住千鳥 00050160L8△△△/觜(はし)にてなどか石をくじれる 00050170L9といふ古哥を思/び((ママ))てよめる、 00050180L10△△淀川やゝうしか嶋にたつ鷺は 00050190L11△△△やなぎ/鰌(どぢやう)を/觜(はし)てくじれる 00050200L12△△住もうしミづ野の里のつくねいも 00050210L13△△△おやもぬか子も土をほぜりて(十四オ) 00050220L14岩田の小野を過るとて、 00050230L15△△ひもしさを誰にいはたのをのれのミ 00050240L16△△△こらへて過る道そわひしき 00050250L17/鳥羽(とば)といふ所は、/天仁帝(てんにんのミかと)の/離宮(りきう)を立てすませ給ふ故に、 00050260L18鳥羽院とハ/尊号(そんがう)たてまつり給へり。/保延(ほうえん)年中より、此所に 00050270L19/牛車(うしくるま)ゆるされ、今も車借の家+ならび立て、物をはこび 00050280M1送るにやすらか也。 00050290M2△△をのか名を鳥羽のあめ牛ねりかみて 00050300M3△△△/涎(よたれ)/垂(たれ)つゝくるま曳らん 00050310M4/城南寺(じやうなんじ)ハ/鳥羽(とば)殿の宮の跡なり。城南の/離宮(りきう)といふハ此森の 00050320M5事也。世のことわざに、腹のふくれたるをハ城南寺まつり 00050330M6といふ。こゝの/神事(じんじ)にハ、/餅(もちゐ)をつきて、人にしゐてくハす 00050340M7るとかや、 00050350M8△△城南寺まつりの餅をつきの夜に 00050360M9△△△聞てそきねが/舌鼓(したつゝミ)うつ(十四ウ) 00050370¥N27¥J 00050380¥X 00050390M11△ある人の/妻(つま)、むすめの子をうミて、/卅日(ミそか)余り三日とい 00050400M12ふに、/忌(いミ)あけて/産土御霊(うふすなごりやう)の御宮まいりとて、めのとハいと 00050410M13ゝうれしけに出たち、人あまたつれてまうでけるによめる、 00050420M14△△いみあけてまいるごりやうに祈る子ハ 00050430M15△△△うふすなをなれかみもかたかれ 00050440¥N28¥J 00050450¥X 00050460M17△/屏風(びやうぶ)と/商人(あきうど)は、すぐにてハたゝぬものといへり。され 00050470M18ばこそ、いかなる物を/売(うる)とても、/直(あたい)をいつはりてたかくい 00050480M19ふを、買人ハさま+ねぎらひて、まけさせ侍へるを、な 00050490¥P151 00050500L1を買なからも/利分(りぶん)ありとハいはず、いつハりをのミもとゝ 00050510L2する事なり。やゝもすれば、こと+しく/誓言(せいごん)して、まこ 00050520L3とらしく語りて/売(うり)つけ侍へる。/年中(ねんちう)いつハり立るちかごと 00050530L4のむくハゞ、/商(あき)人にあたる/罰(ばち)に、人/種(たね)は有ましくぞおほゆ 00050540L5る。むかし/土佐房(とさばう)/正尊(しやうぞん)か/頼朝(よりとも)の仰にて、九郎判官/義経(よしつね)の 00050550L6(十五オ)/討手(うつて)として、鎌倉より上洛し、此事あらハれて、 00050560L7六条/堀(ほり)川の/御所(ごしよ)にめされしに、討手のつかひにハあらず、 00050570L8熊野まうでのためなりと/陳(ちん)じて、/起請文(きしやうもん)かきたり。その/罰(ばち) 00050580L9にや、夜うちに/敗北(はいほく)して/生捕(いけとら)れころされたり。かの起請文 00050590L10を物うきことに思ひ、神にいはゝれて、世の人の起請文の 00050600L11/罰(ばち)の身/代(がハり)に立へしといふ願を立しとかや。時の人これを神 00050610L12にいはひ、その社ハ四条京極に西むきに立たり。毎年/十二= 00050620L13月(しハ=す)大/晦(つこもり)にハ京都の諸商人、/空誓文(そらせいもん)のほどこしに、此やし 00050630L14ろにまうてゝ祈る事なり。さてかくそよミける、 00050640L15△△/商(あき)人の空せいもんやいつハりの 00050650L16△△△かうべにやとる神も在けり(十五ウ) 00050660¥T1狂謌咄巻第五 00050670¥N1¥J 00050680¥X 00050690M3△/八瀬(やせ)の/釜風呂(かまふろ)ハ、都かたの人、わつらひあるものたえ 00050700M4ず入侍へり。/極(きハ)めて/効(しるし)あり。京より二/里(り)はかりの/北山家(きたやまが)な 00050710M5り。/黒木(くろき)といふものを/業(なりわひ)として、京に出し/売(うる)。それをふす 00050720M6べけるつゐでに、/釜風呂(かまふろ)をたつるに、/生木(なまき)を/焼(たき)てその気を 00050730M7うくるハ、まことに人の身の薬成へしや。四月はじめの辰 00050740M8の日ハ、此所のまつりとて、/競(きそひ)馬つがハせ、/興(けう)ある見もの 00050750M9也。 00050760M10△△やう性のために入来る病人ハ 00050770M11△△△/骨(ほね)と皮とにやせの釜ふろ 00050780¥N2¥J 00050790¥X 00050800M13△/大原(おほはら)の里ハ八瀬よりハ一里ハかりの北にあり。村の家 00050810M14+立ならび、いとゞ物さひしく、/時(より)+ハ軒ちかく/猿(ましら)の 00050820M15声わびしらにきこえ、かつ※/窓(まと)のまへに鳥の音かすか 00050830M16におち、月のひかり木のまに/漏(もれ)て、/滝(たき)の音ハつもれる落葉 00050840M17(一オ)にせかれ、殊更にむせかへり、何事につけても心をい 00050850M18たましむ。山/賎(かつ)の/業(なりわひ)とて、/柴(しば)といふものを/樵(こり)、/黒(くろ)木とい 00050860M19ふものをふすべて、ミやこに出しあきなふに、女ハ/鉄漿(かね)くろ 00050870¥P152 00050880¥G 00050890L12く/薄(うす)げさうし、/白(しら)布のぼうし/赤前(あかまへ)たれして、柴木をいたゞ 00050900L13き、日ことに京に出て、/黒木(くろぎ)めせと/売(うり)ける。人がら山/家(が)な 00050910L14れと/尋常(じんじやう)なり。木かハんといへは、/後(うしろ)むきてミせ侍べる。 00050920L15/建礼(けんれい)門院大原の/芹生(せれふ)にこもり給ひ、人の見たてまつる事を 00050930L16おもはゆくおぼして、うちそバミ給ひしおもかけとぞいひ 00050940L17つたふ。/小(を)原木/躍(をとり)といふ/曲(きよく)あり。つゝミハ家の大事なりと 00050950L18て、/申楽(さるがく)どもの/秘(ひ)するといふも、こゝの黒木をうること也。 00050960L19かくそ思ひつゞけていひける、 00050970M1△△水ならて世渡るわさにこりつミし 00050980M2△△△小原木かハひ黒木めさいの(一ウ)(二オ挿画) 00050990M3/来迎院(らいかうゐん)証拠のあミだ/瀬井清水(せかゐのしミつ)/音無(をとなし)の/滝(たき)みな此地にあり。か 00051000M4くぞよミける、 00051010M5△△/水口(ミなくち)を木の葉草ばにせかれつゝ、 00051020M6△△△/問(とへ)どこたへぬ音なしの滝 00051030¥N3¥J 00051040¥X 00051050M8△/志津原(しづはら)は大原より北西のかたなり。名こそ/静原(しつはら)や、そ 00051060M9むくとならハ、かゝる所こそあらまほしと思ふに、里人の 00051070M10有さま、いとゝしづかにもあらで、身にハ/藤(ふち)/葛(かつら)の/割織(さきをり)とて、 00051080M11/簟(たかむしろ)に似て/衣裏(ゑり)もなく、けふの/細布(ほそぬの)にもあらず、/胸(むね)あはで/裾(すそ) 00051090M12ミじかきに、/斧(をの)/鎌(かま)といふ物を/腰(こし)にさし、おうこといふもの 00051100M13うちかづき、朝まだきより山ふかくわけ入て、谷を渡りか 00051110M14けぢをつたひ、/柴(しば)かり/木樵(きこり)て、/星(ほし)をいたゞきて家ぢにかへ 00051120M15り、/商山(しやうさん)四/皓(かう)がすま居をうつすにもあらず。/伯夷(はくゐ)/叔斉(しゆくせい)が/行(おこなひ) 00051130M16をしたふにもあらで、/葛(くず)をほり、/蕨(わらび)を折、(二ウ)峯の/小&栗(さゝくり) 00051140M17をひろひ、谷の/根芹(ねせり)をつミても、その日の/飢(うえ)をたすけがた 00051150M18く、/苦(くる)しうもいそがハしからぬかハ、いつをかぎりに何を 00051160M19待ともなし。つたなき山/賎(がつ)のわざかなと思ふにつけて、よ 00051170¥P153 00051180L1みける、 00051190L2△△名計ハしづや/静原(しつハら)/椎柴(しゐしば)を 00051200L3△△△こりはてもせぬ人こゝろかな 00051210¥N4¥J 00051220¥X 00051230L5△世にそさうなる人、六/波羅(はら)まうでしける道にて、何と 00051240L6はしらず/黒焼(くろやき)の薬をひろひけり。薬とだにいへばよき事か 00051250L7と思ひたるにや、しる人のもとに立より、/湯(ゆ)をもとめて、 00051260L8したゝかにのミければ、そのまゝ/腹(はら)くだり出て、/間(ま)もなく 00051270L9後にハ/痛(いた)ミけるを、/医師(くすし)を頼ミ、さま+/療治(れうぢ)して、/辛(からう)し 00051280L10て/愈(いへ)たり。さてかくそよミける、 00051290L11△△名もしらぬその/黒焼(くろやき)をまいりける 00051300L12△△六はらいたくあれくたりつゝ(三オ) 00051310¥N5¥J 00051320¥X 00051330L14△ある人/喘息(せんそく)の/病(やまひ)おこりて、/痰(たん)に/嗽(せき)つめられ、/横(よこ)にもえ 00051340L15/臥(ふ)さで、ほのくらき一間のうちによりかゝり/居(お)る。医師に 00051350L16見するに、産/後(ご)のわづらひかと思ひにたり。/脉(ミやく)とりて立/退(のき) 00051360L17つゝ、/産(さん)の上にハかやうの事もあり、くるしからすといふ。 00051370L18これハ女にハあらすとことハりけれハ、/医師(いし)/楚怱(そこつ)をいひけ 00051380L19りと思ひてよめる、 00051390M1△△女かとみれバ男の/病人(やまひと)ハ 00051400M2△△△/痰(たん)や/嗽(せく)らん/喉(のど)のなりひら 00051410¥N6¥J 00051420¥X 00051430M4△四条坊門京極のあたりに、/道児(たうに)とかやいふ人いまぞか 00051440M5りける。げしうハあらさりけり。/腰(こし)をれの狂哥なんど口す 00051450M6さひ/興(けう)じけり。酒をこのミて/酔(えひ)ぬれハ、道行すぢのふたつ 00051460M7にミゆとて、入道して、はじめハ/道二(だうに)とぞいひける。老て 00051470M8二たび/児(ちご)になるといふ事をおもひて、後にハ/道児(だうに)(三ウ)と 00051480M9ぞつきにける。常に/疝気(せんき)をうれへて、/足(あし)よはかりしが、/誓= 00051490M10願寺(せい=くわんじ)の/建立(こんりう)より、一千年になるといふ/供養(くやう)のときよめる、 00051500M11△△誓願寺千とせの供養有かたや 00051510M12△△△/持病(ぢびやう)に替ておこれ/信心(しん※) 00051520M13かくて心ちわづらひてよめる、 00051530M14△△弥陀頼む/来迎(らいかう)往生同しくハ 00051540M15△△△のばさせたまへをそからぬこと 00051550M16/典薬頭(てんやくのかミ)/道作(たうさく)、此哥をきゝてあはれがり、心をつくして/療= 00051560M17治(りやう=ぢ)せられしかハ、このたびはやまひをこたりけり。後つゐ 00051570M18に年/経(へ)て、今ハこの世の名ごりたのミかたく、わづらひ出 00051580M19て、/息(いき)たえなんとしける時、 00051590¥P154 00051600L1△△旅の屋のねふりの夢のさめかたハ 00051610L2△△△もとのすみかに帰る門いで 00051620L3とよミて正念に事きれにけり。(四オ)(四ウ挿画) 00051630¥N7¥J 00051640¥X 00051650L5△北山かけにすミける/翁(おきな)、その古郷の、いか成人共しる 00051660L6ものなし。草の庵りにひとり世をのかれて、しつかに月日 00051670L7を送る。/傍(あたり)の人とふらひ/来(く)るをも、心にあはぬときハ物も 00051680L8いはず。ある時ハをかしき物かたりして、人をも/笑(ハら)ハせ、 00051690¥G 00051700M1我もわらひどよミ、露心にかゝる事もなし。心地わつらハ 00051710M2しく、今ハとミゆるに、 00051720M3△△なゝそぢの夢こそさむき今日のいま 00051730M4△△△心はれにし大空の月 00051740M5とて/死(しに)けり。いとたうとき/道人(だうにん)にてや有けむ。 00051750¥N8¥J 00051760¥X 00051770M7△ある人/筒花入(つゝはないれ)に、桜のはないれたるを見てよめる、 00051780M8△△生花のうき世の水につなかれて 00051790M9△△△命ハきれてしなれもそせぬ 00051800¥N9¥J 00051810¥X 00051820M11△/江州(がうしう)/栗太郡(くりもとのこほり)梅木の里ハ、/草津(くさつ)の/宿(しゆく)よりハ二里はかり 00051830M12の東にて、/東海道(とうかいたう)/往還(わうくハん)の所、こゝに茶屋あり。/座敷(ざしき)(五オ) 00051840M13涼しく/作庭(つくりにハ)あり。つぎ+しくハなけれど、旅のつかれを 00051850M14やすらふたよりにつけてハ、/足(あし)のたゆきも/甘(くつろ)ぐやうにおほ 00051860M15ゆ。前にハ馬のり物なんど、やどりのために小屋つくりて、 00051870M16梅の木/殖(うへ)て、里の名をしらせ侍へり。世に梅木の茶屋と名 00051880M17つく。/和中散(わちうさん)とて/名誉(めいよ)の薬を出し売ける。よろづの/病(やまひ)をい 00051890M18やす。ことさら旅にハ此薬にまさる事なし。いか成心地な 00051900M19やましきにも用れハ、そのまゝしるしありとて、東西/諸国(しよこく) 00051910¥P155 00051920L1にかくれなくはやりつゝ、薬を売に隙なし。心ある/旅客(りよかく)ハ 00051930L2ミな此茶やに立より、茶によせ薬によせて、/詩(し)つくり哥よ 00051940L3ミて、/書(かき)てとらせたまふほどに、此ころハ/掛(かけ)物/色紙(しきし)とり 00051950L4+の/手跡(しゆせき)おほく成にたり。梅の木の茶屋、薬をうるとい 00051960L5ふ事を書て/給(たべ)とのぞミ(五ウ)しかば、書てとらせける哥二 00051970L6首、 00051980L7△△鴬のやとる梢ハいはねとも 00051990L8△△△をのつからしるむめの木の茶や 00052000L9△△すきものハ立よる梅の木の薬 00052010L10△△△うるてふ茶やの名こそしるけれ 00052020¥N10¥J 00052030¥X 00052040L12△此ころ岩屋の不/動(どう)の/開帳(かいちやう)とて、人+まうで侍へり。 00052050L13/往初(そのかミ)/空海和尚(くうかいくハしやう)の/開基(かいき)、/石仏(せきぶつ)の/不動明王(ふとうミやうわう)/霊験(れいけん)いちじるしと 00052060L14て、常にも絶まなく/参詣(さんけい)すとかや。高き/岩(いは)の洞(ほら)より/滴(したゝり)出る 00052070L15水あり。/香水(かうずい)とて小竹の/筒(つゝ)にうけいれて帰り、/垢離潅頂(こりくハんぢやう) 00052080L16の/功徳(くどく)におなじとて、少つゝいたゝき/飲(のむ)といふ。/殊勝(しゆせう)の/霊地(れいち) 00052090L17なれば、友だちかたらひてまうで行。ミやこより北のかた大 00052100L18宮の森にゆきいたる。/権現(ごんけん)の社南向にあり。大宮殿と申す、 00052110L19△△名をきけハ/外聞(ぐわいふん)ハよし大宮の 00052120M1△△△もりハ/小林(こバやし)神は/小(こ)やしろ(六オ) 00052130M2今宮/紫竹(しちく)大門より北にゆく。/鷹峯(たかゝミね)と云所にいたる。其北に 00052140M3岩尾と云所あり。又ハ/岩陰(いはかけ)とも名づく。大石ふたつはしら 00052150M4のことくに立ならべり。/岩門(いハもん)といふ。むかし/愛宕(あたこ)を/草創(さう+)せ 00052160M5し所といへり。 00052170M6△△都をハ思ひ立つゝきた山や 00052180M7△△△足ぞつかれてはい/鷹(たか)が/峯(ミね) 00052190M8車坂をうち過れハ、こゝハ/鮎(あゆ)をとりて、ミやこに出し、お 00052200M9ぎのる名物のきこえあり。 00052210M10△△世を渡るいとなミハうしの車坂 00052220M11△△△のほる/小鮎(こあゆ)をとるいとまなミ 00052230M12まんじゆ/峠(たうけ)をこえて、/雲(くも)か/畑(はた)といふ所にいたる。その道の 00052240M13ほど五/里(り)ハかり、/葛折(つゝらをり)にして、めぐればのぼり、くだれバ 00052250M14だミて、平地ハすくなし。こゝハ/茅(かや)屋の軒ならべる山かつ 00052260M15の家&、/薪(たきゞ)を/樵(こり)て/業(すきハひ)とす。いつくもおなじ浮世の中、その 00052270M16(六ウ)ところこそかはれども、世をすごすいとなミハ、な 00052280M17にゝつけてもくるしきや。/爪木(つまき)/椎柴(しゐしは)こりつミて、/束(たバ)ぬるね 00052290M18その結びめまで、やすからずそおぼゆる。折ふし夕立して 00052300M19/雷(いかつち)なりければ、山かつの家にやどりて、 00052310¥P156 00052320L1△△/真黒(まつくろ)に夕立雲がはたゝがミ 00052330L2△△△をちこち人のむねぞとゞろく 00052340L3雨はれけれハ出て、ゆく+十町ハかりにして、くろミか 00052350L4まへたる岩やの/滝(たき)にいたる。/白布(しらぬの)さらせるかとあやしむほ 00052360L5どに落たぎれり。これぞ物のけつきたる人を、此滝にうた 00052370L6せぬれバ、さむるといふなる、/倶梨迦羅(くりから)不/動(どう)の/名滝(めいれう)なる。 00052380L7△△△うこきなき/窟(いハや)の/滝(たき)の水きよミ 00052390L8△△△/濁(にご)る心もあらハれにけり(七オ)(七ウ挿画) 00052400¥G 00052410¥N11¥J 00052420¥X 00052430M1△年毎のみな月下の十日のうち、都人たかきいやしき、 00052440M2/御手洗(ミたらし)川に出て/祓(はらへ)する事あり。/御祖神社(ミおやのじんじや)/南(みなミ)向に立給ふ。 00052450M3/糺(たゝす)の宮と/号(かう)す。みたらし川とハ、/本社(ほんしや)の東のかたに流るゝ 00052460M4川なり。/六月祓(ミなつきはらへ)ハ天武天皇の御宇よりはじまれり。/邪神(じやしん)を 00052470M5/祓(はらへ)なごむる故になごしといふ。河辺に/五(い)十/串(ぐし)たて、/麻(あさ)の/葉(は) 00052480M6なとにてする也と、/八雲(やくもの)御抄にしるせり。必らず/晦日(つこもり)にハ 00052490M7かぎらす、六月の祓するを/皆(ミな)月祓といふと、定家卿ハ/注(ちう)せ 00052500M8られし。此川水ハ清くすめるのミにあらず、又なく/冷(ひやゝ)かに 00052510M9して、かさなれる/氷(ひ)にも/遠(とを)からぬぞ。げに三/伏(ふく)の火もしめ 00052520M10るべしや。/杜(もり)のほとりにさし入より、茶やの軒かこひつゞ 00052530M11け、青き杉葉さしかさね、名におふみたらし/団子(たんご)、ほそき 00052540M12竹にさして、前なる/土塗(つちぬり)の/炉(ろ)(八オ)に立ならべたるハ、/五(い) 00052550M13十/串(ぐし)立たる心地す。/好事(かうす)の人行つどひ、下ゆくなかれにさ 00052560M14かづきをうかへ、あるひハしけりたる木のまに/幕(まく)打まハし、 00052570M15/梢(こすゑ)のせミのむら声吹かふ風にまじハり、/遠近(をちこち)きこえわたる 00052580M16ひゞきに/和(くわ)して、声よき歌一ふし/時(より)+/拍子(ひやうし)とりて、さす 00052590M17かにかしましからぬもいとゆかし。/真瓜(からうり)いくつも川水に 00052600M18なげいれて、/清泉(せいせん)に/瓜(うり)をうかふと/吟(ぎん)じ、/茶瓜(さくわ)/客(かく)をとゞむと 00052610M19口すさふも、此所の今ぞかしと思ハるゝ。入日を送りてと 00052620¥P157 00052630¥G 00052640L12もし火にかゆるといふ。ほのめく螢火とびかふ比ハ、涼し 00052650L13さいとゞまさりぬ。手に+とりて家つとにし、かへる/袂(たもと) 00052660L14の名ごりまで、興ハつきずとぞ、かくそよミける、 00052670L15△△人はいさ物をもくハてみたらしや 00052680L16△△△たゝすもどりを我ハしにけり(八ウ) 00052690¥N12¥J 00052700¥X 00052710L18△/蝉(せミ)の/小川(をかハ)は/本社(ほんしや)のみなミのかたになかるゝ大川をいへ 00052720L19り。/光行(ミつゆき)/賀茂(かも)の/社(やしろ)の哥合に、/長明(ちやうめい)、 00052730M1△△石川やせみのをかハの清けれハ 00052740M2△△△月もなかれを尋てそすむ 00052750M3とよミしを、/師光(もろミつ)入道/判者(はんしや)にて、かゝる川やあるとてまけ 00052760M4に成侍へり。/顕昭(けんせう)か判ぜし/詞(ことハ)にハ、此川いかゝ、所の人に 00052770M5尋て定むへしといひけるを、後に長明、顕昭に逢て、これ 00052780M6ハ賀茂川の/実名(じつミやう)なりとかたりけるとぞ。さてこそ/前(さき)の哥を 00052790M7新古今に入られたりしかハ、長明は過分の面目なりとよろ 00052800M8こびし事、ミづから無名抄にしるせり。かく思ひつゝけゝる、 00052810M9△△年よれハ絶せす音の聞えけり 00052820M10△△△わか耳蝉の小川なるらん(九オ)(九ウ挿画) 00052830¥N13¥J 00052840¥X 00052850M11/上賀茂(かミかも)ハ/糺(たゝす)の/杜(もり)よりハ一/里(り)ハかり北にあり。/別雷神(わけいかつちのしん) 00052860M12と申す。/本社(ほんしや)の東のかたにながるゝ水を、/鴨(かも)川と名つく。 00052870M13/賀茂(かも)山をハ/神(かミ)山といふ。四月中の/酉(とり)の日、/葵祭(あふひまつり)あり。その 00052880M14前の日、賀茂松尾の/社司(しやし)/葵(あふひ)をたてまつる。これを/鬘(かつら)のこと 00052890M15くかけつぎてまつる。/祭(まつり)はてぬれハ/簾(ミす)/几帳(きちやう)にかくる。其所 00052900M16へハ/雷(かミなり)の落ずといふ。古き葵をばよろづの物にもかくると 00052910M17かや。賀茂の/競馬(くらへむま)ハ/往昔(そのかミ)より名におふ/見物(けんぶつ)なり。五月/朔(ついたち)を 00052920M18/足揃(あしそろへ)と名づく。廿四疋の馬をかざり、前後の/鬮(くじ)をとり、/馬= 00052930M19場(ば=ゝ)の左右に/埒(らち)をゆひ、/乗(のる)人ハ/布衣(ほい)に/烏帽子(ゑほし)を/着(ちやく)し、はじめ 00052940¥P158 00052950L1ハ/跣走(すはしり)とて一疋つゝ/蒐(かけ)させ、馬の/足並(あしなミ)/遅(をそ)きを見さだめ、次 00052960L2に二疋/番(つかふ)てかけさせ、/馬場(ばゝ)中に/樗(あふち)の木あり、これを/勝負(せうぶ)の 00052970L3木と名づく。此木の前にして/遅速(ちそく)の(十オ)/勝負(せうぶ)を/決(けつ)す。同 00052980L4五日を/競馬(けいば)と名づく。乗人ハ/赤黒(あかくろ)二色の/布衣(ほい)を両/陣(ちん)に/番(つがふ)て 00052990L5/馬場(はゝ)を乗渡す。馬どもハ近国の大/名(ミやう)/諸司(しよし)の御もとより、/祈= 00053000L6祷(き=たう)のためとて/飾(かざり)出さるゝと聞ゆ。これを見に行つどふ人 00053010L7+いまだその/期(こ)を待とては、さかつきとりつゝ/興(けう)をつく 00053020L8す。さしも/広(ひろ)き馬場のあひだ、/錐(きり)をたつる/地(ところ)もなく、/老若= 00053030L9貴賎(らうにやく=きせん)せきあひをしあひ、或は/菅笠(すけかさ)をのけさまにかぶり、或 00053040L10ハ/編笠(あミかさ)を/横(よこ)に/着(き)て、腰にさしたる/脇指(わきさし)おとさじとにぎり、 00053050L11/帯(をび)につけたる/巾着(きんちやく)を/盗(ぬす)人にきられじととらへ、友だちには 00053060L12ぐれしとものするもあり。知人を見つけて、それかと/呼(よび)か 00053070L13け、人の袂のした/掻(かい)くゞりて、行て逢もあり。馬のかけ/来(く) 00053080L14るを待兼て/埓(らち)によりかかり、耳もとまで口をあきつゝ大あ 00053090L15くびするもあり。すはや(十ウ)来るぞと色めきたてハ、諸 00053100L16人一面に立さはぎ、西にむきつゝはるかに見やりける間に、 00053110L17馬ハ打立られ/鬨(とき)の声におどろき、/蝶(てふ)/蜻蜒(とんハう)のことくかけ通れ 00053120L18ば、/乗手(のりて)ハ馬をとめんとくつわをとらへ、水つきをにぎり、 00053130L19その間に東の田中まで/馳(はせ)過るもあり。又ハ/鞍(くら)じた定まらず、 00053140M1/腰(こし)すハらて/桃尻(もゝしり)になり、/前輪(まへわ)にかゝぐりつきて/蒐(かけ)ゆく間に、 00053150M2馬にあまされてどうどおち、/顔(かほ)すりむき/泥(どろ)まぶれになり、 00053160M3/痛(いた)む所あれどもさらぬ躰にて、又馬にかきのせられ、ぬけ 00053170M4+として引返すもあり。見物の人共ハ、かけ来る馬を猶 00053180M5をそしと/飛(とび)あがり+ミるほどに、風のことくはせ来れバ、 00053190M6是に/蹴(け)られじとなたれかゝり、あなたへ村立くづるれバ、 00053200M7馬も行つかへて/横(よこ)にきれ、/乗手(のりて)ハおとしながら、東の山ま 00053210M8てかけゆくもあり。馬に/踏(ふま)れて気をとり/失(うしな)ひ(十一オ)(十一 00053220M9ウ・十二オ挿画)かた/息(いき)になり、あしをふミたるとて/喧嘩(けんくわ)す 00053230M10るもあり。兼好がいひけるやうに、木のまたにのぼり居て 00053240M11ミる人、川むかひにしてミる人ハ、馬に/蹴(け)らるゝきづかひ 00053250M12ハなし。/饅頭(まんぢう)/餅(もち)/飴(あめ)/■(をこし)なんどその中にも/売(うり)めぐるに、/崩(くづ)れか 00053260M13ゝる人、はせ過る馬に/蹴(け)ちらされ、うちこぼしてあはてた 00053270M14るも、かゝる所までハ、売べき物も用意あるへき事とぞお 00053280M15ほゆる。/競馬(けいば)も事をハり、をのづから日も暮れば、つどひ 00053290M16たる人ども、いづちいぬらんともしらず、/酔(えひ)さらバふて、 00053300M17みなちり+になりぬ。 00053310M18△△/飛(とん)で来る/競馬(けいば)のさきハあひもなし 00053320M19△△△出はる京者よふまれバしすな 00053330¥P159 00053340¥G 00053350¥N14¥J 00053360¥X 00053370M1△/双(すご)六をうつ人、もし/七目(なゝめ)をふさがれてハ/術(じゆつ)なき事、/腸(はらわた) 00053380M2を/断(たち)てもだえこがる。/碁(ご)を/囲(かこ)む人ハ、敵に取こめられ、/黠(なかで) 00053390M3おろされてハ、/逃遁(にげのか)れんと物する有さま、おほく/負(まけ)ぬれバ、 00053400M4後ハ/腹立(はらたち)(十二ウ)いかり、/助言(ぢよこん)する人あれハ、あなかちに 00053410M5うらミをふくむ。まことに/我執(がしう)といひながら、をろかなる 00053420M6事になん。/味方(ミかた)を生て敵を/殺(ころ)さんとし、手をぬすミ/偽(いつハ)りを 00053430M7かまへ、/主従(しう※)/父子(ふし)/師弟(してい)/兄第(きやうだい)といへともゆるさず。四/重(ぢう)五 00053440M8/逆(ぎやく)の/罪(つミ)にも過たりと、/兼好(けんかう)がいひけんもことハりぞかし。 00053450M9これほどに心をいれてすべくハ、何れの事か/感応(かんおう)の上手と 00053460M10ならざらん。あたら/光陰(くハういん)をいたつらにつゐやす事、/聖賢(せいけん)の 00053470M11むねにたかふらんとぞおほゆるといひければ、世に/高麗胡= 00053480M12椒(かうらいこ=せう)とて好む人、その/辛(からき)事たましゐをけづり、/胸(むね)を/爛(たゝら)かして、 00053490M13これをよしと思ひたる。/彼囲碁(かのゐご)双六に/負(まけ)色つきて、/喘息(いきどを)し 00053500M14きを/慰(なくさ)ミにせばいかゞせん。/蓼(たで)を/食(くふ)むしもあるものをとつ 00053510M15ぶやく人も有けり。(十三オ) 00053520M16△△双六に/七目(なゝめ)ふさがれ/碁(こ)にしちやう 00053530M17△△△唐がらしより辛おほゆる 00053540¥N15 00053550¥X 00053560M19△/鋸屑(のこきりくず)もいへばいはるゝ物とかや。なに事も詞をつゞけ 00053570¥P160 00053580L1ていふに、いはれぬハなし。/催馬楽(さいばら)/律調(りつてう)の/老鼠(おひねすミ)の哥に、 00053590L2△△/西寺(にしてら)の/老鼠(おひねすミ)/若鼠(わかねすミ)おんもをつんづけさ 00053600L3△△△つんづほうしに申さん/師(し)にまうさむ 00053610L4とうたひ侍へる。かゝる事も詞につらね、/拍子(ひやうし)とりて、/節(ふし) 00053620L5をかしくうたふは、面白し。去ぬる年、閏正月の有ける/歳= 00053630L6旦(さい=たん)の/発句(ほつく)に、 00053640L7△△春ハ百廿日ねずミのあしたかな 00053650L8といへり。心はせいとおもしろく聞ゆ。古き哥に、 00053660L9△△よめの子のこねらハいかに成ぬらん 00053670L10△△△あなうつくしとおもほゆる哉 00053680¥N16¥J 00053690¥X 00053700L12△おなし虫の/類(たくひ)にて、人を/吸(すふ)事ハ/蚤(のミ)に替らねと、/虱(しらミ)ハ 00053710L13(十三ウ)こと更にきたな/む((ママ))事いふ計なし。/朝(あした)に子を/生(しやう)じ、 00053720L14/夕(ゆふへ)に/孫(まご)を/産(うむ)と/韓退之(かんたいし)ハ/賦(ふ)につくれり。時のまに/子孫(しそん)おほく 00053730L15なりけるものにて、人の/頭(かしら)にすめバ色くろく、身におちか 00053740L16くれてハ白くなれり。むかしの人、/虱(しらミ)の百首をよミ侍へり 00053750L17けれは、虱の/群(たかり)てうらみしかば、今一/首(しゆ)よまさらんハほい 00053760L18なし、名をあらはさずして、/員(かず)を/満(ミつ)べしとて、 00053770L19△△/喰(くひ)つかバにがしばしすな只ひねれ 00053780M1△△△/布子(ぬのこ)のうらにわたがミハなし 00053790M2虱四/季(き)の哥とてよめる、 00053800M3△春△梅桜すり/縫箔(ぬひはく)の古小袖 00053810M4△△△△花見虱のとひちりにけり 00053820M5△夏△汗水に成て世渡る人の身の 00053830M6△△△△夏の虱ハ/浮(うい)つしつミつ 00053840M7△秋△引かつき帷子ごしに空ミれハ 00053850M8△△△△雲井をはしる月の夜しらミ 00053860M9△冬△冬こもる/布子(ぬのこ)の/綿(わた)にすむ虱 00053870M10△△△△雪のことくにしらけてぞふす(十四オ) 00053880M11虱六道の哥とてよめる、 00053890M12△/地獄(ぢこく)△/捻(ひね)る楽つふす/極栄(こくらく)火ハ/浄土(じやうど) 00053900M13△△△△水に入こそ地こく成けれ 00053910M14△/餓鬼(がき)△/脱(ぬき)捨て/棹(さほ)にかけたる/古布子(ふるぬのこ) 00053920M15△△△△がきのごとくに/痩(やせ)虱かな 00053930M16△/畜生(ちくしやう)△人を/喰(くふ)ことより外ハいさしらミ 00053940M17△△△△いきぢく生のはてといふへき 00053950M18△/修羅(しゆら)△/血(ち)ましりにころし捨たる/虱(しらミ)こそ 00053960M19△△△△さなから修羅の/巷(ちまた)也けれ 00053970¥P161 00053980L1△/人道(にんたう)△帷子の縫めにやとる虱こそ 00053990L2△△△△人とおなしく立てゆくなれ 00054000L3△/天上(てんしやう)△五月雨や龍の/鱗(いろこ)にわく虱 00054010L4△△△△つれて諸友天に上れり 00054020L5迚の事に成仏せさせ侍へらんとて、 00054030L6△/仏道(ふつたう)△かくれすむはだのまもりの虱こそ 00054040L7△△△△生ながら今仏にハなれ 00054050¥N17¥J 00054060¥X 00054070L19△北/山家(やまが)の人、はじめて都に出て、かなたこなた見めぐ 00054080L10りけるに、/薫(たき)物を/売買(うりかふ)を見ておもひけるハ、山がたにてハ 00054090L11柴木をこそたき物とハいふなれ、これハ薬の名をかくいふ 00054100L12そあやしき、(十四ウ)いかさまにも故ある事にこそと、宿 00054110L13にかへりてあるしにかたりつゝ、哥をよミける、 00054120L14△△柴木にハあらで都のたき物ハ 00054130L15△△△わか方にいふ/丁子円(ちやうじゑん)かも 00054140¥N18¥J 00054150¥X 00054160L17△ある人、/牛(うし)を/買(かひ)けるに、此牛ハ橋をよく渡り、/荷負(にをひ)も 00054170L18よきかと/問(とひ)ければ、/売主(うりぬし)のよめる、 00054180L19△△△この牛の橋を渡るハ/鵜(う)のことく 00054190M1△△△にをひハ/沈(ぢん)の/焼(たき)からとしれ 00054200M2といひけれは、さてハよき牛にこそとて買取て帰り、/板橋(いたばし) 00054210M3を引わたせば、そのまゝ水にとびいり、/荷物(にもつ)を/負(をふ)すれば/跳(はね) 00054220M4をどりて/負(をハ)ざりけり。/彼売主(かのうりぬし)に逢て、かう+と語り、人 00054230M5をいつハりける事よといふに、売主ハ、何かいつハりを哥 00054240M6にハよむべき、/橋(はし)をわたるにハ/鵜(う)のことく水にとびいり、 00054250M7/沈(ぢん)の/焼(たき)からハ/匂(にほ)はぬといふ事をたとへ侍へり、(十五オ)はじ 00054260M8めよりことハりけるにたかハずといふに、すべきやうなく 00054270M9て、かくぞいひける。 00054280M10△△いつはりを/恥(はぢ)ともしらて/売(うる)牛の 00054290M11△△△皮よりあつき/顔(かほ)の/皮(かわ)かな 00054300¥N19¥J 00054310¥X 00054320M13△ある人、/宿鴾毛(さびつきけ)の馬を買けるに、ことの外に/痩(やせ)て見え 00054330M14ければ、物の用にも立かたかるへし、せめて/癖(くせ)ハなきかと 00054340M15/問(とひ)けれは、/売主(うりぬし)のよめる、 00054350M16△△馬の/背(せ)ハ/古長刀(ふるなきなた)のさびつきげ 00054360M17△△△やせこそしぬれ/癖(くせ)ハなき物 00054370¥N20¥J 00054380¥X 00054390M19△/山陵(やまから)を/篭(かご)に/飼(かひ)置けるが、面白く/戻(もとり)をうち、日暮には/篭(こ) 00054400¥P162 00054410¥G 00054420L12のうちにかけたる、ちいさき/夕皃(ゆふかほ)の中に入て、あかしける 00054430L13を見て、よめる、 00054440L14△△山からも源氏の君に習ひけん 00054450L15△△△夜毎にやとる夕かほのやと(十五ウ)(十六オ挿画) 00054460¥N21¥J 00054470¥X 00054480M17△ある人/木兎(ミゝつく)を/飼(かひ)ける。その/形(なり)ハふくろふに似て、/耳(ミゝ)あ 00054490M18りてうさぎのかしらのことし。羽の/府(ふ)ハ/鶉(うつら)に似て、大さハ 00054500M19/鳩(はと)のことし。土御門院/御製(ごせい)に、 00054510M1△△足曳の山ふかくすむみゝつくハ 00054520M2△△△浮世のことをきかじとや思ふ 00054530M3かくそよみける、 00054540M4△△つなかれて声をもたてすみゝつくの 00054550M5△△△つくねんとして何を聞覧 00054560¥N22¥J 00054570¥X 00054580M7△ある人、いまだわかき時より、よろつの/芸能(けいのう)にたづさ 00054590M8ハり、/学問(がくもん)なんどをろかならずつとめしかば、なにゝつけ 00054600M9てもこゝろえ侍へりけれと、世にいふなる/石磨芸(いしうすげい)になりつ 00054610M10ゝ、身もなりたゝず、/四十(よそぢ)にをよぶまて打すぎにけり。さ 00054620M11てかくそよミける、 00054630M12△△冬こもる虫のすミかを打たゝき 00054640M13△△△雲ぢかけらぬ四十がらめハ(十六ウ) 00054650M14又ある時よめる、 00054660M15△△世にたゝぬ身ハかたつふり心から 00054670M16△△△家をはなれす住かひもなし 00054680M17年かたふきて後よめる、 00054690M18△△今ハわれ世をうき草の根にいらぬ 00054700M19△△△/藻(も)くすかしたにかゝむ/老蝦(おひえび) 00054710¥P163 00054720¥N23¥J 00054730¥X 00054740L1△世を過わびて、かなたこなたいとなミけれども、とに 00054750L2かくにつきて、身のなりたちかたけれはよめる、 00054760L3△△/鳴海(なるミ)かた/塩干(しほひ)塩みち流れ木の 00054770L4△△△うきぬしつミぬ身こそつらけれ 00054780L5又ある時よめる、 00054790L6△△我家の垣ほの/穂蓼(ほたで)花さけど 00054800L7△△△駒もすさめずからき世中 00054810¥N24¥J 00054820¥X 00054830L9△山寺に住ける僧の、めしつかふ/小童(こわらハ)のあやまちありと 00054840L10て、こと+しくはら立どよミけるを、行かゝりて、かく 00054850L11そいひける、 00054860L12△△世の外に心をすます山鳥も 00054870L13△△△/耳(ミゝ)に絶せぬいかるがのこゑ(十七オ) 00054880L14あるしの僧返し、 00054890L15△△/生死(いきしに)の海わたる身ハ/行(おこなひ)の 00054900L16△△△ふねにいかりをあげおろしする 00054910¥N25¥J 00054920¥X 00054930L18△むかし民部卿/範光(のりミつ)/朝臣(あそん)の哥に、 00054940L19△△ふりたてゝならしかほにそ聞ゆなる 00054950M1△△△かくらのをかのすゝむしの声 00054960M2去ぬる秋のころ、東山に行つゝ、/神楽岡(かくらをか)のあたりまでさす 00054970M3らひけり。これはむかし/紀州(きしう)/高野山(かうやさん)にいかづち/落(をち)かかり、 00054980M4山さけて此所に飛来れりとかや。/裂雷神(さくいかつちのかミ)にて吉田の/地主(ぢしゆ) 00054990M5なり。後に春日明神を/勧請(くわんじやう)せり。天の/岩戸(いはと)の事によせて、 00055000M6こゝを/神楽岡(かくらをか)と名づく。さてかくぞよみける。 00055010M7△△松ふぐり枝に/鈴(すゞ)なり神楽岡 00055020M8△△△風ふくことに/颯&(さつ+)の声 00055030¥N26¥J 00055040¥X 00055050M10△/■鼻(さび)の病にて/鼻(はな)の/赤(あか)き人、/頬(ほう)さきまで色づきけ(十七 00055060M11ウ)るを、友だちミな/王(わう)のはなと名をつけてよび侍へり。 00055070M12神社のまつりに、/神輿(ミこし)の前に/掛(かゝ)る面の名を/王鼻(わうのはな)といふ。き 00055080M13ハめて鼻たかく、色あかきものなり。さてかくそよみける、 00055090M14△△君が顔さこそみるらめ/神慮(かミこゝろ) 00055100M15△△△いつもまつりにかく王の/鼻(はな) 00055110M16此人うちわらひて返し、 00055120M17△△我をかくわうのはなげとおもふとも 00055130M18△△△心のあかき神そしるらん 00055140¥P164 00055150¥N27¥J 00055160¥X 00055170L1△吉野屋の/某(なにかし)、人+友なひてあそび来ながら、枕をか 00055180L2たふけいたく/寝(ね)入つゝ、座もさひしく侍へりければ、 00055190L3△△やまと/路(ぢ)や吉野/漆(うるし)のさむしくも 00055200L4△△独りそむきていかにぬるらん 00055210L5といひけるに、むくとおきあかりて、 00055220L6△△物かたりせしめ漆をぬる我ハ 00055230L7△△△さひしくもなし是そよしのや(十八オ) 00055240¥N28¥J 00055250¥X 00055260L9△世にうるさき物ハ、しらぬ所にて/狗(いぬ)の/吠(ほえ)かゝるこそ、 00055270L10すべきかたなき。/後京極(ごきやうごく)/摂政(せつしやう)入道の哥に、 00055280L11△△主しらぬ/岡部(をかへ)の里をきてとへハ 00055290L12△△△こたへぬさきに犬そとかむる 00055300L13とよミ給ひけん。いかにもして、/狗(いぬ)のほえやむべきはかり 00055310L14ことこそあらまほしけれといふに、それこそよきまじなひ 00055320L15の侍へれ、手の中に/虎(とら)といふ/文字(もじ)を書て見すれは、跡もな 00055330L16く/逃(にげ)おそるゝといふ。後に犬のほえかゝるに、此たひの事 00055340L17と思ひ出て、虎といふ/字(じ)を書てさし出たる手さきに、くひ 00055350L18つきければ、/辛(からう)して逃かへり、彼をしへける人に逢て、う 00055360L19らみけれバ、その人打/笑(わら)ひ、さてハその狗ハ/無筆(むひつ)にて、虎 00055370M1といふ/字(し)のよめさりけん、残りおほさよとて、 00055380M2△△虎といふもじだによます/吠(ほえ)かゝる 00055390M3△△△狗ハ何とて/無筆(むひつ)なるらむ(十八ウ) 00055400¥N29¥J 00055410¥X 00055420M5△/猿(さる)まハしの来て、/猿(さる)をまハせけるを、家の/狗(いぬ)かけ出て 00055430M6きびしくほえけれハ、猿ハおそれて舞さしつゝ、/綱(つな)引たぐ 00055440M7り二/階(かい)にあがり/居(お)る。狗ハしきりにほえけるを、猿の主さ 00055450M8ま+よべとも/下(をり)来らず。人しておろさんとすれハ、此猿 00055460¥G 00055470¥P165 00055480L1/牙(きバ)をあらハしいかりけるほどに、せんかたなくて/米(こめ)を/盆(ほん)に 00055490L2入てさし出す。狗をばつなぎ侍へりければ、やう+猿は 00055500L3下来り、盆をとりて主にわたし、やがて主にいだかれて出 00055510L4て/去(いに)けり。猿まハし心ありけるにや、哥よミけり。 00055520L5△△名にたてる狗と猿とのいさかひも 00055530L6△△△米みせられてかミつきもせす(十九オ)(十九ウ挿画) 00055540¥N30¥J 00055550¥X 00055560L8△/親子(おやこ)すミ渡りける家に、ある時よきさかなども/幾品(いくしな)も 00055570L9見え侍へり。親まづこれを/喰(くひ)けるが、子にハくはせず、哥 00055580L10をなむよミける。 00055590L11△△とにかくにわかきハ年のたのミあり 00055600L12△△△定まりつめし老か身ぞうき 00055610L13/生子(むすこ)聞て、それならハ哥よミ侍へりて、ことハりをくらべ 00055620L14侍へらんとて、 00055630L15△△とにかくに/老(おひ)ハあまたの年を/経(へ)ぬ 00055640L16△△△定なき世に若き身そうき 00055650L17とて、/肴(さかな)をとりて/喰(くひ)けるは、いつれことハりの立侍へりけ 00055660L18るや。(二十オ) 00055670¥Q 00055680M1△△寛文十二@壬△|△子@年仲夏吉辰武藤氏書 00055690M2△△△△△△△△△△書林△鈴木権右衛門板(二十ウ) 00055700¥P166 00055710¥T1〈参考〉 00055720¥T1/曽呂里(そろり)狂哥咄巻第一 00055730L4/往古(むかし)より一/芸(げい)にすぐれしものハ、/用(もち)ひられずといふ事なし。 00055740L5むかし/太閤秀吉公(たいかうひでよしこう)の御時、御そバさらずの御とぎに、/曽呂= 00055750L6里(そろ=り)といふものあり。此者の/本(ほん)名ハ新左衛門といふて、泉/州(しう) 00055760L7/堺(さかい)/南(みなミ)の庄、目口町の内に、浄土/宗(しう)の寺内を/借(かり)て/居(きよ)住せし 00055770L8/刀(かたな)の/鞘師(さやし)なり。/細工(さいく)に/名誉(めいよ)を得て、小口より刀をさし入る 00055780L9に、そろりと/鞘(さや)口よくあふ故に、/異名(いミやう)をそろりと云けるが、 00055790L10秀吉公へ召出され、細工を承るに、おどけものにて軽口を 00055800L11申せし故、御/機嫌(きげん)にあづかり、/出頭(しゆつとう)せしなり。/然(しかる)に/秀吉= 00055810L12公(ひでよし=こう)の御/秘蔵(ひさう)の松/枯(かれ)けれバ、/尊慮(そんりよ)にかけられ、御/機嫌(きげん)すぐれ 00055820L13ざる所へ、そろりまかり出、御/秘蔵(ひさう)の松の/枯(かる)るとハ、かぎ 00055830L14りもなきめでたき御事、御小性/衆(しゆ)お硯御祝儀に(三オ)一首 00055840L15仕らんと、さら+と書て照覧に入奉りける。 00055850L16△△御ひそうのとこよの松ハかれにけり 00055860L17△△△をのがよハひを君にゆづりて 00055870L18/秀吉公(ひでよしこう)御/感(かん)ありて、/能(よく)こそ/祝(いは)ふたり、そろりに金とらせよ 00055880L19とありけれバ、そろりうけたまハり、ありがたき/仕(し)合、し 00055890¥G 00055900M11かし只今御金を/拝領(はいりやう)仕るよりハ、日ごとに君の御/耳(ミゝ)をかゞ 00055910M12せて下され候ハゞ、御金にまさり有がたからんと申上れば、 00055920M13/太閤(たいかう)をかしく思しめして、それこそ安き事、毎日かげよと 00055930M14仰下されけれバ、そろりよろこび、諸大/名(ミやう)御登城御目見へ 00055940M15を見かけてハ、其まゝ/太閤(たいかう)の御耳をかぎけれバ、大名/衆(しゆ)我 00055950M16身の事を/囁(さゝやき)申上るやと心もとなくおぼしめして、そろり 00055960M17に我+も/諂(へつらい)らひ、内/証(せう)より金銀を送られけれバ、/俄(にハか)に/有= 00055970M18徳(う=とく)になれり。ある時御茶事有て、御/茶(ちや)(三ウ)/菓子(ぐわし)に/黒胡麻(くろごま) 00055980M19のあんを置たる/餅(もちゐ)出ければ、此餅にて、そろり狂哥と御上 00055990¥P167 00056000L1/意(い)ありけれバ、/餅(もちゐ)/飲(のミ)こむやいなや、 00056010L2△△くろこまのかけて出たるもちなれハ 00056020L3△△△/喰人毎(くふひとごと)にあらむまといふ 00056030L4秀吉公をはしめ、一座の/歴&(れき+)/興(けう)せさせたまひけり。又ある 00056040L5御夜/食(しよく)に、そばがきを御好みなされ、御/相伴衆(しやうばんしゆ)へも下され 00056050L6ける。そろりも末座にありけるが、/蓋(ふた)をあけてとりあへす、 00056060L7△△うすゞみにつくりし/眉(まゆ)のそばがほを 00056070L8△△△よく+ミれハミかどなりけり 00056080L9名月の夜、御近習のともがら/御勝手(をかつて)に/居(ゐ)て、そろりが御前 00056090L10よりくだりけるをまねかれ、其方に/今宵(こよひ)/例(れい)の狂哥を/望(のそミ)なバ、 00056100L11さだめて名にしおふ月なれハ、よき狂哥ども兼てよりこし 00056110L12らへおきぬらん、それは何ほど/秀(しう)いつにても、はらミ/句(く)な 00056120L13れバのぞミになし、はらミ句といふ/題(だい)にて名月の/発句(ほつく)(四オ) 00056130L14せよと、難題をいひかけられしかバ、そろりやがて、 00056140L15△△はらミ句やさんご夜中の/子望月(こもちつき) 00056150L16其外紙/袋(ふくろ)を米蔵にきせての狂哥、木/釜(がま)のはなしにて/流石(さすが)の 00056160L17秀吉公に手をとらせ奉りしなどの古き咄、/皆(ミな)人しれる事な 00056170L18れバいふに及ハず。/名誉(めいよ)なる狂歌咄の上手なり。かくて心 00056180L19ちわづらひて今ハの時、/太閤(たいかう)よりかたじけなくも上/使(し)を給 00056190M1ハリ、何事にても望ハなきかとの御上/意(い)あれバ、/別(べつ)に望も 00056200M2こざなく候、/冥途(めいど)に御ざ有御一門様方へ、若/御書(ごしよ)にてもつ 00056210M3かハされ候ハゞ、/片便宜(かたびんぎ)にてハ侍へども、とゞけ申上べし 00056220M4と事きれるまでおどけ申けるとなん。咄のミにあらず、 00056230M5/詩(し)哥にも/携(たづさハ)り、艶しかりし男にて、今に/名誉(めいよ)を残せり。/惣(そう) 00056240M6じて狂歌/誹諧(はいかい)などハ作/意(い)が第一とかや。 00056250M7春雨のしつほりと(四ウ)して物さびしきに、/誹友(はいゆう)打/寄(より)、/昼(ひる) 00056260M8の桜を夜咄の生花に見て、はや吉野ハ/散(ちり)て仕舞、/奈良(なら)の/八= 00056270M9重(や=へ)桜も四五日の中を/盛(さかり)と、南都の友よりしらせける。次で 00056280M10に、南都諸白と書つけたる一樽はる※をくられけるハ、 00056290M11/誹諧(はいかい)/好(すけ)る人にハ気がはたらかず。我等酒を好ぬ事ハ日比よ 00056300M12く知ながら、名物なれバとて南都諸白うれしからず、/今宵(こよひの) 00056310M13の/客衆(かくしゆ)の/仕(し)合と、/主(あるし)/不興(ふけう)ながら/封(ふう)を切れば、酒樽に/餅(もちゐ)をつ 00056320M14めて越けるにぞ、上/戸(こ)どもハおどろきちからをおとしぬ。 00056330M15主ハきげんにて、我らが下戸を知て、此気の付所、あつハ 00056340M16れはたらきたる作意と、ひとり/感(かん)じ、過し夏、此樽/主(ぬし)/飛火(とぶひ) 00056350M17野にて、/螢(ほたる)を見ておどけ/句(く)に、 00056360M18△△ほゝほたるとゝとぶひのゝどもりかな 00056370M19/螢(ほたる)に声あらば、なを/賞翫(しやうくわん)なるべきにと、其/座(ざ)にていひし人 00056380¥P168 00056390L1(五ノ八オ)有けるに、成ほど/鳴(なく)ものなりと、/片意地(かたいぢ)にいふ 00056400L2ていさかひぬ。(五ノ八ウ)(五ノ八ウ挿画) 00056410¥P169 00056420¥U噺本大系△第三巻 00056430¥Tかなめいし 00056440¥G 00056450¥Y 00056460L15寛文三年頃刊 00056470L16浅井了意著 00056480L17上中下三巻 00056490L18大洲市立図書館蔵 00056500¥Y1艱難目異誌上巻△目録 00056510M3△△/序(じよ) 00056520M4一△/地震(ぢしん)ゆりいだしの事 00056530M5二△京中の町家/損(そん)ぜし事 00056540M6三△/下御霊(しもごりやう)にて子どもの/死(し)せし事 00056550M7四△/室町(むろまち)にて女房の/死(し)せし事 00056560M8五△大/仏殿(ぶつでん)/修造(しゆざう)并日用のものうろたへし事 00056570M9六△/耳塚(ミゝづか)の事并五条の/石橋(いしばし)落たる事 00056580M10七△清水の/石塔(せきたう)并/祇園(ぎをん)の石の/鳥居(とりゐ)/倒(たをるゝ)事 00056590M11八△/八坂(やさか)の塔修造并/塔(たう)のうへにあがりし人の事 00056600M12九△方&小屋がけ付/門柱(かとバしら)に哥を/張(はり)ける事(一オ) 00056610M13十△光り物のとびたる事(一ウ) 00056620¥P170 00056630¥Y1 00056640L1春すぎ夏も来て、やう+なかはに成ゆけは、/藤(ふぢ)山吹に咲 00056650L2つゝく、/垣(かき)ねの卯の花やまとなでしこ、庭もさながらにし 00056660L3きをしけるごとくなるに、千えう万えう/梨月(りげつ)/名月(めいげつ)などいへ 00056670L4る/五月(さつき)つゝじも、しな+にほころびいで、山ほとゝぎす 00056680L5ハ、声をはかりに鳴わたり、田子の/早苗(さなえ)ハ、時過るとてさ 00056690L6しいそぐ、/早乙女(さをとめ)の田うたのこゑ※、/井手(ゐて)のかはづも、 00056700L7おもしろがりてとびあがるも、心ありげ也。 00056710¥N1¥J 00056720¥X一△/地震(ぢしん)ゆりいだしの事 00056730L10/今年(ことし)ハ寛文第二ミづのえ寅のとし、/去年(こぞ)にも/似(に)ず、/我(が)も/耗(へげ) 00056740L11やミけれバ、民のかまどもにぎハひ(二オ)何となく世もゆ 00056750L12るやかに侍べりける所に、五月朔日巳のこくバかりに、空 00056760L13かきくもり、/塵灰(ちりはい)の立おほひたるやうにみえて、雨げの空 00056770L14にもあらず、夕立のけしきにもあらず、いかさま聞をよぶ 00056780L15/龍(たつ)のあがるといふものか、それかあらぬか、/雲(くも)か/煙(けふり)かとあ 00056790L16やしむところに、うしとらのかたより、何とハしらず、ど 00056800L17う+と/鳴(なり)ひゞきて、ゆりいだす。上下地しんとハおもひ 00056810L18もよらさりけるが、しきりにゆらめきけれハ、諸人こゝろ 00056820L19づきて、初めのほどハ世なをし+といひけれとも、大/家(け) 00056830¥G 00056840¥P171 00056850L1/小家(せうけ)、めき+として、うごきふるふ事おびたゝし(ニウ) 00056860L2かりけれバ、すはや世がめつして、只今/泥(とろ)の海になるぞや 00056870L3と、いふほどこそありけれ、京中の諸人、うへをしたに、 00056880L4もてかへし、大/道(だう)をさしてにげ出る。生れてよりこのかた、 00056890L5日のめもミぬほどのやごとなき/女房達(にようばうたち)も、をびときひろげ、 00056900L6さばきがみはだしつるもぎにて、/恥(はぢ)をわすれてかけいでに 00056910L7げいで、おめきさけぶ事いふはかりなし。ある人この中に 00056920L8もかくぞいひける、 00056930L9△△わが/庵(いほ)の竹のたる木もふるなゆに 00056940L10△△△ゆがまバやがて世なをし+ 00056950¥N2¥J 00056960¥X二△京中の/町家(まちや)/損(そん)ぜし事(三オ) 00056970L13/家居(いえゐ)つき※しくつくり、みがゝれしかた※、/堂舎(だうしや)/仏(ぶつ)か 00056980L14く/社頭(しやとう)にいたるまて、あるひハ/棟木(むなぎ)くじけ、/染(うつバり)ぬけて、/瓦(かハら) 00056990L15おち、/垂木(たるき)おれ、さしもの/砕(くだけ)て、/軒(のき)かたふき、あるひハ/鴫= 00057000L16居(しき=ゐ)/鴨居(かもゐ)ハゆがみすぢり、さしこめたる/戸障子(としやうじ)どもをひらか 00057010L17んとするに、つまりてあかず。これに心をとられて、/気(き)を 00057020L18うしなひ、又ハにげんとするに地かたふき、/足(あし)よろめきて、 00057030L19うちたをれ、ふしまろぶ。かたハらにハ、家くづれておち 00057040M1かゝる。さしものなげし/鴨居(かもゐ)にかうべを打わられ、たをる 00057050M2ゝ/小壁(こかべ)に、/腰(こし)のほねをうちをられ、二/階(かい)よりをるゝ(三ウ) 00057060M3ものハ、おちかゝる/棟木(むなき)に/髪(かミ)のもとゞりをはさまれ、たも 00057070M4とをはさみとめられ、ミづからかたなわきざしにて、/切(きり)は 00057080M5なちにげおりて、はう+いのちをたすかり、又ハ大/木(ぼく)に 00057090M6うちひしかれて、ひらめになりて/死(し)するもあり。/疵(きず)をかう 00057100M7ふりて/吟(によひ)ふし、今をかぎりのものもあり。をよそ京中のさ 00057110M8うどう、/前代未聞(ぜんだいミもん)の事共なり。ある人これにおどろきて、 00057120M9/腰(こし)をぬかし、/尻井(しりゐ)にどうどふして、かくぞよみける、 00057130M10△△ふるなえにあやかりけりな手もあしも 00057140M11△△△なえになえつゝたゝれこそせね(四オ)(四ウ・五オ挿画) 00057150¥N3¥J 00057160¥X三△/下御霊(しもごりやう)にて子どもの/死(し)せし事 00057170M14五月朔日ハ、/祈祷(きたう)の日なりとて、/諸社(しよしや)に御/神楽(かぐら)/御湯(ミゆ)などま 00057180M15いらする事、いにしへよりこのかたこれあり。/下御霊(しもごりやう)にも、 00057190M16/御湯(ミゆ)まいらせ、/貴賎(きせん)/老若(らうにやく)つどひあつまりて、おがみ奉る。 00057200M17その時しも、地しんおびたゝしくゆりいでしかば、諸人き 00057210M18もをけし、/拝殿(はいでん)にのぼり/居(ゐ)たるハ、くづれおち、地下なる 00057220M19ものは、はしりいでんとす。こみあひ、もみあふて、なき 00057230¥P172 00057240L1さけび、よばひどよむ。その中に年のころ、七八/歳(さい)にもや 00057250L2なるへきとみゆる、おのこ子二人、にげいづべき/方角(はうがく)をう 00057260L3しなひ、心きえたましゐうろたへて(五ウ)せんかたなく、 00057270L4おそれもだえ/石燈篭(いしどうろう)にいたきつきし所に、やがてかのいし 00057280L5どうろうゆりかたふきて、打たをれしかば、二人の子ども 00057290L6ハ、これにうちひしかれ、かうべより手あしにいたるまで、 00057300L7つゞく所なく、きれ※になりて/死(しに)けるこそ、かなしけれ。 00057310L8是ハそもいか成人の子ともなるらんと、諸人おそろしき中 00057320L9にもあはれにおもひて、いひのゝしる。しバらくありて、 00057330L10子どものおやはしりきたり、そのかほかたちハ、ひしけて 00057340L11見えねども、/血(ち)に染かへりしきる物は、まがふ所なくそな 00057350L12りければ、母も気をうしなひ、父も声をあげて、只なきに 00057360L13なきけれ(六オ)ともかひなし。さても、夢かよ+とて、 00057370L14ちぎれたるかばねをとりあつめ、涙とゝもに/俵(たハら)にいれ、人 00057380L15してもたせて、家ぢに立帰る。ふたりのおやの心の内、お 00057390L16もひはかるべし。その身、さきの世のむくひとはいひなが 00057400L17ら、やまひにふして/死(しに)もせば、せめては思ひもうすかるべ 00057410L18きにや。これハ、おもひもかけざりしいらけなきさいごの 00057420L19ありさま、/余所(よそ)のたもともぬれ侍べり、/後(のち)に聞けれバ、/御= 00057430¥G 00057440¥P173 00057450L1霊(ご=りやう)ちかきあたりのものにて、一人ハ/琴屋(ことや)、一人ハ/鞠(まり)やの子 00057460L2にて侍へりし。けがれたる火をくひて、/親(おや)にもしらせず、 00057470L3この御やしろにまいり、/御湯(ミゆ)まいらする(六ウ)をおがまむ 00057480L4とせしが、神の御とがめにて、かゝる事にあひ侍べりける 00057490L5とかや。あまりにみるめのふびんさにや、とふらひける/僧(そう) 00057500L6かくぞよみてたむけける、 00057510L7△△とてもはやうちひしかれて死するから 00057520L8△△△いしどうろうを五/輪(りん)ともみよ(七オ)(七ウ・八オ挿画) 00057530¥N4¥J 00057540¥X四△/室町(むろまち)にて女房の/死(し)せし事 00057550L11二条むろ町に、/百足(むかで)屋のなにがしとかや聞えし人の女房ハ、 00057560L12今年わづかに十七歳、むかへとりていくほどもなく、たゞ 00057570L13ならぬ身にて侍へりしが、朔日の地しん、さしも、おびた 00057580L14ゝしかりけれバ、家のうちにもたまりえず、おちの人かひ 00057590L15ぞへ小女四人つれて、うらなる/空地(くうぢ)にいでんとす。そのあ 00057600L16ひだに、/土蔵(どざう)のありけるが、俄にくづれかゝり、/瓦(かハら)にて、 00057610L17かうべをくだき、おちかさなる/壁(かべ)にひしけうづまれ、四人 00057620L18一所に/死(しに)けるこそ、一/業(ごう)/所感(しよかん)とハいひながら、かなしかる 00057630L19べきありさまなり。家のうちの(八ウ)上下もだえこがれ、 00057640M1山のごとくにおちかさなりし/土(つち)をかきのけ、むなしきかば 00057650M2ねをほりいだす。いまだ/息(いき)のかよへるものも、ありしかど 00057660M3も、とかくするうちに、はや事きれはてけり。女房ハあえ 00057670M4なく打ひしかれ、/腹(はら)ハわきよりさけて、内なる子は、いま 00057680M5だ/五月(いつゝき)バかりなるが、はらわたにとまハれ、/血(ち)にまみれて、 00057690M6なだれ出けるを見るこそ、かなしけれ。おやしうとめ、さ 00057700M7しつどひて、これハ+といへども、かひなし。只なくよ 00057710M8りほかの事なく、いかにとも、思ひわけたることなけれバ、 00057720M9内のものどもとかくはからひて、/寺(てら)にをくり、一/聚(じゆ)の/塚(つか)の 00057730M10/主(ぬし)となし(九オ)けり。かの女房にかハりて、 00057740M11△△大なえにくづれておつる/棟(むな)がハら 00057750M12△△△/土(つち)ぞつもりて/墳(つか)となりける 00057760¥N5¥J 00057770¥X五△大/仏殿(ぶつでん)/修造(しゆざう)并/日用(ひよう)のものうろたへし事 00057780M15これをはじめとして、京中にありとあらゆる/土蔵(どざう)ども、あ 00057790M16るひハひらにくづれ、あるひハかはらおち、/壁(かべ)われて、ゆ 00057800M17がみかたふかずといふことなし。家&の/棟木(むなぎ)さし物ハ、ほ 00057810M18ぞおれてぬけかゝり、/軒(のき)かたふき、/束柱(つかバしら)くじけゆがみ、/棚(たな) 00057820M19にあげをきし/道具(だうぐ)ども、家ごと一/同(どう)におちくづれ、女房子 00057830¥P174 00057840L1どもハ、いよ+おそれまどひ、/啼(なき)さけぶ声に取くハへて 00057850L2(九ウ)/目(め)をまはし、/気(き)をとりうしなふものも、おほかりけ 00057860L3り。むかし/文徳(もんどく)天/皇(わう)の御宇/斎衡(さいかう)二年五月五日の大/地(ぢ)しんに、 00057870L4/南都(なんと)/東大寺(とうだいじ)大/仏(ぶつ)の/頭(ミくし)をゆりおとせしと、/記録(きろく)にしるせり。 00057880L5このたびの地しんにハ、京都の大仏ハ/修造(しゆざう)のため、/頭(ミくし)ハす 00057890L6でにとりおろし奉りぬ。日ごとに、/手伝(てつだひ)/日用(ひよう)をいれて、/金= 00057900L7銅(こん=どう)十六/丈(ぢやう)の/仏像(ぶつざう)を、げんおうかなとこをもつてかちくだき、 00057910L8うちこハす。くハん+といふ其ひゞき、/四王■利(しわうたうり)の雲の 00057920¥G 00057930M1うへまでも聞え、/水輪坤軸(すいりんこんじく)の/下(した)までもこたへぬらんと、物 00057940M2すごくおぼゆるところに、俄に、おびたゝしき大なえゆり 00057950M3いだして、大/仏殿(ぶつでん)(十オ)ゆるぎはためきければ、/日用(ひよう)ども 00057960M4ハ地しんとハ思ひもよらず、うちくだく/仏(ほとけ)の/罸(ばち)あたりて、 00057970M5たゞいま/無間(むけん)地ごくにおつるとこゝろえ、百人バかりの/日= 00057980M6用(ひ=よう)のものども、一/同(どう)に声をあげ、手をすりて、/南無釈迦如= 00057990M7来(なむしやかによ=らい)かやうにかちこハし奉る事われらがこゝろよりおこる所 00058000M8にハさふらハず、/日用(ひよう)つかさにやとハれて、/下知(げぢ)によりて 00058010M9打くだき奉る、我らに/科(とが)はなきものを、ゆるさせ給へ+ 00058020M10とわびことする。/奉行(ぶぎやう)の/者(もの)どもハ、いかに、これハ地しん 00058030M11なるぞや、日用のものども、さはぐな+といへども、/耳(ミゝ) 00058040M12にも聞いれずして、仏の/肩(かた)にのぼり、御手のうへに(十ウ) 00058050M13あがりて/居(ゐ)たる/日用(ひよう)ども、おつるともなく、とぶともなく、 00058060M14やう+にげおりてこそ、初めて地しんなりとハおほえけ 00058070M15れ。ある/日用(ひよう)のものかくぞつぶやきける、 00058080M16△△ゆるからにほとけの罸とおもひきや 00058090M17△△△なゆとしりせばおりざらましを(十一オ)(十一ウ挿画) 00058100¥N6¥J 00058110¥X六△/耳塚(ミゝづか)の事并五/条(でう)の/石橋(いしばし)/落(おち)たる事 00058120¥P175 00058130L1大/仏殿(ぶつでん)の/門前(もんぜん)みなミのかたに、耳塚とてこれあり。むかし 00058140L2/太閤秀吉公(たいかうひでよしこう)/朝鮮征伐(てうせんせいばつ)の時、/異国(いこく)の軍兵ともおほく/日本(にほん)の手 00058150L3に打とり、その/首(くび)を日本にわたして、太閤の/実検(じつけん)にそなへ 00058160L4んとするに、/首数(くびかず)おびたゝしかりけれバ、只/耳(ミゝ)バかりを/切(きり) 00058170L5て、/樽(たる)につめてわたしたり。/太閤(たいかう)/実検(じつけん)し給ひてのち、これ 00058180L6/無縁(むえん)のものにして、/亡郷(ぼうきやう)の/鬼(き)となりぬらん、/敵(てき)ながらもふ 00058190L7びんなりとて、/塚(つか)につきこめ、そのうへに五/輪(りん)を立て、/永= 00058200L8代(えい=たい)のしるしとし給ふ。去ぬる/慶長(けいちやう)十九年十月廿五日、まこ 00058210L9とに/夥(おびたゝ)しき(十二オ)地しんなりけるにも/子細(しさい)なかりけるを、 00058220¥G 00058230M1このたびの大なゆに、ふりくづされ、/塚(つか)ハくづれ、五/輪(りん)ハ 00058240M2たをれて、其あとハ、/深(ふか)きあなとなり侍へりけるこそ、ゆ 00058250M3ゝしけれ。ある人/穴(あな)の中へよみいれけり、 00058260M4△△/耳塚(ミゝづか)のおほくの/耳(ミゝ)よことゝハん 00058270M5△△△かゝる地しんを聞やつたへし 00058280M6あなの底よりひゞき出ける音に、返哥とおほしくて、 00058290M7△△もろこしもゆりやしぬらん大なゆに 00058300M8△△△今こそ/耳(ミゝ)のあなハあきけれ(十二ウ)(十三オ挿画) 00058310M9五条の石ばしも、このころハ、わたしおほせて、/仮令(たとひ)いか 00058320M10成事ありとも、/当来(たうらい)/弥勅出世(ミろくしゆつせ)の/時代(じだい)までもことゆへあらじ 00058330M11とおもひけるに、/橋(はし)げた/橋板(はしいた)/闌干(らんかん)まで廿/余間(よけん)おちたりけり。 00058340M12この時、わたりかゝりし人ありけるが、一人ハ橋げたの/石(いし) 00058350M13にうたれ、くだけちりて/死(しに)たり。いま一人ハ、西六条花や 00058360M14町のものとかや、橋板のおつるにのりて下におちつき、や 00058370M15がて/絶(たえ)いりしが、ひざのあたりすこし打やぶれたるバかり 00058380M16にて、やう+よみがへり、夢のこゝちして、はう+家 00058390M17にかへりぬ。/運(うん)のつよきものにこそとて、ミづから大によ 00058400M18ろこび、いはゐごとしけ(十三ウ)るも、ことハり也。/荷(に)お 00058410M19ひたる馬ども、橋づめにおほくつどひあつまりけるが、お 00058420¥P176 00058430¥G 00058440L12ほくの馬ども一/同(どう)におそれて、はねあがり、立あがりて、 00058450L13一あしもゆかず。ひけどもうてどもすゝまざりけるハ、橋 00058460L14のおつべき事をしりけるかと、諸人/是(これ)をあやしみけり。い 00058470L15ときどくの事にこそ。(十四オ)(十四ウ挿画) 00058480¥N7¥J 00058490¥X七△/清水(きよミつ)の/石塔(せきたう)并/祇園(ぎをん)の/石(いし)の/鳥居(とりゐ)/倒(たをるゝ)事 00058500L18清水の/石(いし)の/塔(たう)ハ、上二/重(ぢう)をゆりおとす。/滝(たき)まうでのもの、 00058510L19其外さんけいのともがら、きもをけし色をうしなひ、あま 00058520M1の命をたすかり、よみがへりたる心地して、/下向(げかう)の道のお 00058530M2そろしさ、いふはかりなし。/祇園(ぎをん)の/南門(なんもん)に立られし石の鳥 00058540M3居ハ、/津(つ)の国/天王寺(てんわうじ)の/鳥居(とりゐ)になぞらへ、/笠木(かさぎ)たかくそびえ、 00058550M4/二(ふた)バしらふとしく立ならび、/額(がく)ハこれ/青蓮院(しやうれんゐん)の御/門跡(もんぜき)あそ 00058560M5ハされ給ひ、/筆画(ひつくハく)ゆたかにめでたくおはせしを、たちまち 00058570M6にゆりくづされ、/立(たつ)や/鳥居(とりゐ)のふたバしら、地をひゞかして 00058580M7どうどたをれ、/段&(きだ+)(十五オ)にうちをれて、/額(がく)もおなじく 00058590M8くだけたり。/八坂(やさか)の/茶(ちや)屋共ハ、鳥居のたをるゝ音にいよ 00058600M9+/肝(きも)をけし、さればこそ、地の/底(そこ)がぬけて/泥(どろ)の海になる 00058610M10ぞやとて、/建仁寺(けんにんじ)のうしろなる/野原(のばら)をくだりにかけ出たり。 00058620M11おやハ子をすて、/兄(あに)ハおとゝをわすれ、あるひハわが/妻(つま)の 00058630M12女房かとおもひて、人とめ女の手をひきてにげいで、ある 00058640M13ひハわが子とおもひて、/茶(ちや)つぼをいだきてはしりいで、ふ 00058650M14みたをされ、うちまろび、夢ぢをたどる心地して、目くら 00058660M15み、たましゐきえて、をこがましきありさまどもなり。茶 00058670M16やにあそび/居(お)るわかきものどもハ、あはて(十五ウ)ふため 00058680M17き、あみ/笠(がさ)を手にもち、/草履(ざうり)/席駄(せきだ)かた※しはき、わきざ 00058690M18しをとりわすれ、みだれ/足(あし)になりてかけいづるもあり。そ 00058700M19の中に、井づゝ屋のなにがしとかや、年のころ八十四五な 00058710¥P177 00058720¥G 00058730M1るおとこ、はう+にぐるを見て、ある人かくよみてわら 00058740M2ひけり、 00058750M3△△としたけてまだ/生(いく)べしとおもひきや 00058760M4△△△いのちなりけり茶屋のながにげ(十六オ)(十六ウ・十七 00058770M5△△△オ挿画) 00058780¥N8¥J 00058790¥X八△/八坂(やさか)の/塔(たう)/修造(しゆざう)并/塔(たう)の/上(うへ)にあかりし人の事 00058800M8八坂の/塔(たう)ハ、いにしへ/後鳥羽院(ごとばのゐん)いまだいとけなくおはしま 00058810M9しける御時に、御くちずさひに、/東寺(とうじ)の/塔(たう)と八坂の/塔(たう)とく 00058820M10らべてミれバ、/八坂(やさか)の/塔(たう)ハまだうゝい+やとおほせられ 00058830M11しとかや。右衛門の/局(つぼね)が/日記(につき)にハしるしをきけり。ある時、 00058840M12この/塔(たう)のゆがみたりしを、/浄蔵其所(じやうざうきそ)といへる/聖(ひじり)いのりなを 00058850M13されけり。それよりこのかたハふたゝび/浄蔵其所(じやうざうきそ)も世に出 00058860M14給ハねバ、この/塔(たう)ゆがみてもいのりなをす人もなかりしに、 00058870M15よき事を/案(あん)じいだし、ゆがみたるうしろのかたに/池(いけ)をほり 00058880M16ぬれば、をのづからなをる。ゆがみの(十七ウ)なをりぬれ 00058890M17ば、その池をうづむとかや。しかるに、このころ/八坂(やさか)の/塔(たう) 00058900M18のうへそこねて、雨もり侍へるとて/修理(しゆり)に及び、一/紙(し)/半銭(はんせん) 00058910M19をいはず、十方だんなの心ざしをもとむ。世のわかきもの 00058920¥P178 00058930L1ども、/奉加(ほうが)にいりて、その/塔(たう)のうへにのぼりて、/結縁(けちえん)する 00058940L2事侍へり。五月朔日、けふしもあまたこの塔にのぼりつゝ、 00058950L3/四方(よも)のけしきを見わたして、何心もなかりし所に、にハか 00058960L4に大なゐふり出して、/塔(たう)のゆする事いふはかりなく、/露盤(ろばん) 00058970L5へき+として、/宝鐸(ほうちやく)りん+とひゞきけるを、只わかき 00058980L6ものどもしたにありて、うへなるものをおびやかさんとて 00058990L7/塔(たう)をゆすると(十八オ)心得て、うへなるものども/声(こえ)をそろ 00059000L8へて、いかにかくわろき事なせそ、さなきだにあやうくお 00059010¥G 00059020M1ほゆるに、これいか成事ぞ、只をけや+といふほどこそ 00059030M2ありけれ、/塔(たう)のしたを見おろせば、女おとこ子どもまで、 00059040M3あはてふためきて、家のうちよりはしり出つゝ、此/塔(たう)も只 00059050M4今地にたをるゝぞやといふ声の、かすかに聞えしにぞ、地 00059060M5しんなりとこゝろづきて、おりくだらんとするに、手ふる 00059070M6ひ、あしなえ、/塔(たう)ハかたふきうなたれ、めき+といふ。 00059080M7/四方(よも)の/空(そら)色はくろけふりのことくに侍べりしが、とかくし 00059090M8て、やう+ゆりやみしかば、何とぞしてにげおりバやと 00059100M9おもふ(十八ウ)一/念(ねん)バかりに、/塔(たう)のしたにハおりくだりけ 00059110M10れども、/気(き)をとりうしなひ、目をまハし、人心地もなく、 00059120M11/篭(かご)にのり、つえにすがり、家+に立かへりても、今に心 00059130M12地わづらひて、おきふしなやむものもあり。ある人此/塔(たう)に 00059140M13/結縁(けちえん)すとて、/数珠(ずゞ)つまくりてのぼりけるが、ゆられており 00059150M14くだりつゝかくなん、 00059160M15△△/椎柴(しゐしば)のこりはてにけり/後生(ごしやう)だて 00059170M16△△△いまハ/八坂(やさか)のたうとげもなし(十九オ)(十九ウ挿画) 00059180¥N9¥J 00059190¥X九△/方&(はう※)/小屋(こや)がけ付/門柱(かどバしら)に哥を/張(はり)ける事 00059200M19をよそこの時にあたつて、/洛中(らくちう)はし※には、家もたをれ、 00059210¥P179 00059220L1人も/疵(きず)をかうふり、/土蔵(どざう)のくづれたる事、京都に二百/余庫(よこ) 00059230L2なり。打ころされける人四十余人とかや。そのほか、/諸寺(しよじ) 00059240L3/諸社(しよしや)の/石(いし)どうろう/築地(つゐぢ)五/輪石塔(りんせきたう)、あるひハ軒かたふき、あ 00059250L4るひハ/棟(むな)がハらくづれおち、寺+のつり/鐘(かね)共ハ、/鐘木(しもく)う 00059260L5ごきふらめきて、みな一/同(どう)に、はやがねをつきけるこそ、 00059270L6いとゞきもつぶれ、おどろきけれ。/生(むま)れてよりこのかた、 00059280L7かゝるおびたゝしき大なゆハおぼえたる事もなしなどいふ 00059290L8うちに、又ゆり出し(二十オ)時をうつさず、/間(ま)をもあらせ 00059300¥G 00059310M1ず、/常(ひた)ものにゆりけるほどに、五月朔日、/昼(ひる)のうちに五十 00059320M2六度、その夜にいりて四十七度にをよべり。ゆり初めほど 00059330M3にこそなけれ、かくゆるからに、いか成大ゆりになりてか、 00059340M4家くづれてうちひしかれなん。いにしへ、/慶長(けいちやう)の大地しん 00059350M5にも、大地がさけて/泥(どろ)わきあがり、なをそのいにしへハ、 00059360M6火がもえいでゝ人おほく/死(し)せしといふ。このたびの大地し 00059370M7んも、/後(のち)にハいか成ことかあらんと、手をにぎり、あしを 00059380M8そらになし、おきてもねても/居(お)ることかなハず、立ても/居(ゐ) 00059390M9てもたまられず、ゆりいだすたびごとに、家&に時の声を 00059400M10つくり、(二十ウ)いとけなき子どもハなきさけぶ。何とハし 00059410M11らす、地の/底(そこ)ハ、どう+と/鳴(なり)はためきて、京中さはぎ立 00059420M12たるどよみに物音も聞えず。とかく町屋の家どもハ、残ら 00059430M13ずゆりくづすべし、命こそ大事なれとて、/貴賎(きせん)上下の人 00059440M14+あるひハ寺+の/堂(だう)の/前(まへ)、/墓原(はかハら)、あるひハ/町(まち)の/広(ひろ)ミ/四= 00059450M15辻(よつ=つじ)のあひだに、/下(した)にハ/戸板(といた)をしき、竹のはしらを/縄(なハ)がらみ 00059460M16にし、上にハ/渋紙(しぶかミ)/雨葛■(あまかつは)をひきはり、京の諸寺/社(やしろ)にも/居(ゐ)あ 00059470M17まり、北にハ、/北野(きたの)、/内野(うちの)、むらさき野、れん/台野(だいの)、ふな 00059480M18岡山のほとり、西のかたハ、/紙屋(かミや)川をくだりに、/西院(さいゐん)山の 00059490M19うち、/朱雀(しゆしやか)の/土手(どて)のうち、/南(ミなミ)ハ、/山崎(やまざき)かいだう、九(二十一 00059500¥P180 00059510L1オ)条おもて、東のかたハ、/賀茂(かも)川のほとり、ひがし河/原(ハら) 00059520L2をくだりに、塩がま、七条川原にいたるまですきまもなく 00059530L3/小屋(こや)がけして、あつまりきたる、/老少男女(らうせうなんによ)、いく千万とい 00059540L4ふ事をしらず。小屋がけのためにとて、/下部(しもべ)共のもちはこ 00059550L5ぶ/道具(だうぐ)ども、西よりひかしへ、北よりみなミへにげまどふ 00059560L6人にもみあひこみあひ、あるひハのり物にてゆく人も、又 00059570L7ゆりいたして/間(ま)もなき地しんに、おのこどもきもをけし、 00059580L8/足(あし)なえてハ、のり物をどうど打おとし、あるひハ/屏風(びやうぶ)/障子(しやうじ) 00059590L9をになひかたげてゆくものも、うちたをれてハ、やぶりそ 00059600L10こなふ。むかしの事ハしらず、このたびの(二十一ウ)地し 00059610L11んに、/貴賎(きせん)上下あはてたるありさま、たとへんかたなし。 00059620L12ある/姫御前(ひめごぜん)のよみける、 00059630L13△△わくらハにとふ人あらば/小屋(こや)のうちに 00059640L14△△△しとをたれつゝわぶとこたへよ 00059650L15かくて、朔日の夕暮がたに成けれども、初めほどこそなけ 00059660L16れ、/間(ま)もなくゆりて、しかも雨さへふり出つゝ、かみなり 00059670L17さはぎにうちそへ、この/行(ゆく)すゑの世の中ハ、何となりはつ 00059680L18べき事ぞやと、おや/子(こ)兄弟たがひに手をとりひたいをあは 00059690L19せ、いとけなきをばいだきかゝへて、うづくまり/居(ゐ)たるう 00059700M1へに、/小屋(こや)のうへもり、下ぬれて、いとゝ物わひしさかぎ 00059710M2りなし。(二十二オ)何ものゝ/仕(し)いだしけん、/禁中(きんちう)よりいだ 00059720M3されて、此/哥(うた)を/札(ふだ)にかきて、家&の/門(かど)バしらにをしぬれバ、 00059730M4大なゐふりやむとて、 00059740M5△△/棟(むね)は/八(やつ)/門(かど)ハ/九(こゝのつ)/戸(と)ハひとつ 00059750M6△△△身ハいざなぎの内にこそすめ 00059760M7諸人うつしつたへて、/札(ふだ)にかき、家&の/門(かど)バしらにをしけ 00059770M8れども、地しんハやまず。/夜中(やちう)に四十七度までゆり侍へり。 00059780M9たかきもいやしきも、きのふの/昼(ひる)よりこのかたハ、物もく 00059790M10ハず、/湯水(ゆミづ)をだにこゝろのまゝにハえのまで、あれや+ 00059800M11とバかりにて、ふりいだすたびごとに、むねをひやし手を 00059810M12にぎり、(二十二ウ)/桃尻(もゝじり)になりて、おそれまどふ。この哥 00059820M13ハ、むかし/慶長(けいちやう)の地しんに、其時の人となへ侍へりしと、 00059830M14ふるき人ハかたられ侍へり。夜あけても猶ゆりやまず。あ 00059840M15る人、京の町家のくづれかゝるを見て、このうたを/翻案(ほんあん)し 00059850M16て、かくぞよみける、 00059860M17△△むねハわれかとハくづれて/戸(と)ハゆがみ 00059870M18△△△身は/小屋(こや)がけのうちにこそすめ 00059880M19すべて哥のこゝろ、いかなる事ともしりがたし。いつやら 00059890¥P181 00059900L1ん、/疫癆(えきれい)のはやりしころ、京中家&に花かごやといへる哥 00059910L2をかきて、/門&(かど+)にはりける事の侍べり。万葉の哥に、(二十 00059920L3三オ) 00059930L4△△白雲の/峯(ミね)こぐ舟のやくしでら 00059940L5△△△あはぢの嶋にからすきのへら 00059950L6といへるこそ、わけの聞えがたき/証哥(せうか)なれといへり。この 00059960L7哥のたぐひにや、世の/愚俗(ぐぞく)ども、物のまじなひに哥をとな 00059970L8ふる事あり。その哥どもハ、/大(おほ)かたハわけもなき/片言(かたこと)おほ 00059980L9し。これも人の/気(き)を/転(てん)じて、ゆるやかになす事あり。/腫物(はれもの)、 00059990L10/瘧(おこり)、/魚(うを)の/■(ほね)、/山桝(さんせう)にむせたるなど、みなよくなれるためし 00060000L11すくなからず。諸人せめておそろしさのむねやすめに、う 00060010L12つしつたへて、門&にをしけるもをろかながらもことハり 00060020L13也。(二十三ウ)(二十四オ挿画) 00060030¥N10¥J 00060040¥X十△/光(ひか)り物のとびたる事 00060050L16五月二日になりても、いよ+なゐハゆりにゆりて、大/病(びやう) 00060060L17をうけて久しくわづらふもの、ちかきころ/産後(さんご)の女房など 00060070L18ハ、/気(き)をとりあげ、こゝろをうしなふて、むなしくなるも 00060080L19の、/洛中(らくちう)に数をしらず。町屋の家&をあけて、小屋ごもり 00060090M1せし/間(ま)をうかゞひ、/盗(ぬす)人いり/来(き)て、物をとり、にげはしる。 00060100M2のがすまじとて、/追(をつ)かけ、うちふせ、ふみたをし、さう 00060110M3※しさはかぎりもなし。その日もくれて、三日になれど 00060120M4も、いまだゆりやまず。かゝる所に、西山のかたより、ひ 00060130M5かり物とび出て、ひえの山の峯をさしてゆく事、さしも 00060140M6(二十四ウ)はやからす。その大さ/貝桶(かいをけ)ほどにて、あかき事 00060150M7/火(ひ)のごとし。しづかにとびて、山にかくれたり。諸人この 00060160M8よしを見て、いかさま只事にあらず、世の中めつして、人 00060170M9だねあるまじなど、いひのゝしる。大/津(つ)三井寺のあたりに 00060180M10て、諸人の見たるも只/同(おな)じやうに侍べりし。京の/寺(てら)町三条 00060190M11のわたりより、みなミをさして火の玉のとびけるも、その 00060200M12かたちハ/瓢(ひさご)のごとく、/尻(しり)ほそく、色あをくとびゆくあとよ 00060210M13り、火の/■(こ)のごとく、火のちりける。これぞ/天火(てんひ)といふも 00060220M14のなる。此うへに、京中大/火事(くハじ)ゆきて、一/面(めん)に/焼(やけ)ほろぶべ 00060230M15しと、いひいだしけるほどに、(二十五終オ)/身上(しんしやう)よろしき人 00060240M16ハ、/土蔵(どざう)を/立(たて)て、/財宝(ざいほう)を/入(いる)れバ、たとひ家こそ/焼(やく)るとも、 00060250M17/財宝道具(ざいほうだうぐ)ハことゆへあるまじと、/日比(ひごろ)ハ頼ミ思ひけるに、 00060260M18/洛中(らくちう)の/蔵(くら)共ハ大/方(かた)くづれたをれ、其ほかハ、/戸前(とまへ)/傾(かたふ)き、軒 00060270M19ゆがみ、/壁(かべ)われはなれ、/土(つち)こほれ/落(おち)たれば、火事ありとて 00060280¥P182 00060290L1も/入置(いれをく)べきやうもなく、/資財雑具(しざいざうぐ)を/人家(じんか)をはなれし/寺&(てら+)/社= 00060300L2&(やしろ=+)に/運(はこび)あづくる有さま、/東西南北(とうざいなんぼく)せき合たり。せめてあづ 00060310L3くる/所縁(しよえん)なきものハ、/肩(かた)にになひ、/背(せなか)に/負(をふ)て、小屋がけの 00060320L4中にはこびいれて、つみをきけるも/夥(をびたゝ)し。みだりがはしき 00060330L5/洛中(らくちう)のさうどう、地しんにとりまぜて、一かたならぬさは 00060340L6ぎなり。(二十五終ウ) 00060350¥Y1夏難免怡詞中巻△目録 00060360M3一△五月四日大ゆりの事 00060370M4二△/伏見(ふしミ)の/城山(しろやま)/南(ミなミ)のかたへうつり行ける事 00060380M5三△/加賀(かゞ)の/小松(こまつ)の庄大水の事 00060390M6四△/越前(えちぜん)/敦賀(つるが)の/津(つ)并/江州(がうしう)所&/崩(くづれ)し事 00060400M7五△/朽木(くつき)并/葛川(かつらかハ)ゆりくづれし事 00060410M8六△地の/裂(さけ)たる所へ/踏(ふミ)入し事并/米俵(よねだハら)をゆり入し事 00060420M9七△/豊国(とよくに)ハなゆのゆらずとて諸人参詣の事(一オ) 00060430M10△△△△△△△△△△△△△△△△△△△(一ウ) 00060440¥P183 00060450¥T1夏難免怡詞中巻 00060460¥N1¥J 00060470¥X一△五月四日大ゆりの事 00060480L5なゐのふらざるあひだにも、只どう※と/鳴音(なるをと)は、しばら 00060490L6くも/絶(たゆ)ることなし。地の/底(そこ)か山のうちかと思ふ所に、これ 00060500L7ハ/将軍塚(しやうぐんづか)の/鳴(なる)なり、只事にハあらずなどいひはやらかせば、 00060510L8上下万民いよ+手をにぎり、/足(あし)をつまだて、日ごろかは 00060520L9ゆき妻や子ども、今/更(さら)あしまとひになる心地して、にげゆ 00060530L10くべきところを/案(あん)じわづらひ、何の目にみえたる事もなき 00060540L11に、色をうしなひ、ふるひわなゝく。その中になま心あり 00060550L12けるものども、今より/後(のち)ハ猶も大事あるべし、(二オ)来る 00060560L13四日にハ大ゆりして大地ひきさけ、/泥(どろ)わきいで、家&のこ 00060570L14らすくづれ、人だねあるまじきとうらなひいだしたりと、 00060580L15/沙汰(さた)しけれバ、町人共ハいふにをよバず、やごとなき上つ 00060590L16がたまて、/禁中(きんちう)の/焼(やけ)あとに小屋をかまへ、杉の/青葉(あをば)にて四 00060600L17方をかこみ、/笘(とま)をもつて上をおほひ、/御殿(ごてん)を出てうつりす 00060610L18ませ給ふ。/案(あん)のごとく、四日になりてハ、夜の明がたより、 00060620L19上下用心して、物を待うるくやう也ける所に、/未(ひつじ)のこくバ 00060630M1かりに、/乾(いぬゐ)のかたよりどう+と/鳴(なり)出つゝ、ひらにゆりけ 00060640M2るほどに、去ぬる朔日ほどこそなけれ、かたのごとくの大 00060650M3ゆりなりけれハ、上下万民されバ(二ウ)こそとて、気をう 00060660M4しなふ。二条御/城(しろ)の大手からめ手、四方ともに大地われさ 00060670M5け、やぐらかたふき、/壁(かべ)こほれ、すこしもおほいなる家ほ 00060680M6どつよくあたりて、/柱(はしら)ハ石ずへをはづれ、/指物(さしもの)/鴨居(かもゐ)ぬけく 00060690M7つろぎ、今やひしけくづるゝかとぞおぼえける。四日め 00060700M8+に大ゆりハあるなり、その日か大事ぞ+とて、それ 00060710M9よりこのかたハ、日ごとに廿度卅度/常(ひた)ゆりにゆりけれども、 00060720M10後にハ/馴(なれ)たるゆへにや、おどろく事もそのかみほどにハな 00060730M11し。地ハゆらねども、山ハ常物に/鳴(なり)ひゞきて、どう+と 00060740M12いふを聞て、ある人かくぞおもひつゞけゝる、(三オ) 00060750M13△△きもハみなつふしはてたる大なゆを 00060760M14△△△山にのこしてをとをきくかな 00060770M15五月五日ハ、家&の軒ばに/菖蒲(あやめ)ふく日也けれども、それま 00060780M16でもとりあハぬ家もあり。軒にあがりて、あやめをふくあ 00060790M17ひだに、又ゆりいだしけるに、おそれまどひてどうどおち、 00060800M18こしのほねうちそんじて、かた/息(いき)になりつゝ、によひふし 00060810M19たるものもあり。/半(なかば)ふきちらして、打をきたる家もあり。 00060820¥P184 00060830¥G 00060840L12/巳(ミ)の/剋(こく)バかりより大雨になり、/篠(しの)を/束(つかね)てふりければ、/賀茂(かも) 00060850L13の/競馬(けいば)にゆく人もなく、/藤(ふぢ)の/杜(もり)の神事にも、さして見物の 00060860L14ものハなかりけり。(三ウ)(四オ挿画) 00060870¥N2¥J 00060880¥X二△/伏見(ふしミ)の/城山(しろやま)/南(ミなミ)へうつり行ける事 00060890L17雲すきもなく、/小止(をやミ)もなく、うつすがごとくにふる雨のあ 00060900L18ひだにも、なゐのふる事ハ、一日のうち三十度に/及(をよ)べり。 00060910L19京ちかき北山、あたご、/高雄(たかお)などは、山くづれ、/岩(いは)まろび、 00060920M1まさすじき事かぎりなし。ある人かくぞよみける、 00060930M2△△/降(ふる)ならば只ひとかたにふりもせで 00060940M3△△△なえにしまじる大雨ぞうき 00060950M4小屋がけのわびしきすまゐに、上ハもり、したハ/横(よこし)雨にあ 00060960M5てられ、いか成人もその日ハしとゝにぬれ侍べり、このほ 00060970M6どの/湿気(しつけ)にあたりて、/痢病(りびやう)/瘧(おこり)を/仕(し)(四ウ)いだして、/前後(ぜんご)も 00060980M7しらぬ人もおほし。されば、かやうの事ありてのはてにハ、 00060990M8人みな/不祥(ふしやう)の/気(き)を/感(かん)じて、/疫癆(えきれい)/奇病(きびやう)の/流行(はやる)ものなれば、か 00061000M9ねてこれをふせぐべしとかや。/伏見(ふしミ)、/木幡(こハた)のわたりハ、京 00061010M10都より猶おびたゝしくゆり侍べり、日ごろにあれはてたる 00061020M11あばらやの/柱(はしら)くちて、軒もなく、/壁(かべ)こをれ、/垣(かき)くづれたる 00061030M12/古家(ふるいゑ)ハいふに及バず。京橋すぢ舟つきの/旅飯屋(はたごや)町のあたり 00061040M13ハ、みな家&くづれたをれて、おとこ女/死(し)せしものおほか 00061050M14りし。/木幡(こハた)のあたりは、いにしへ鳥井のなにがしの/城(しろ)のあ 00061060M15と、半里バかりの山なりけり。此山しきりにゆるぎうごく。 00061070M16/南(ミなミ)の/方(かた)(五オ)にハ、町家ありて人すみけるが、立出てミる 00061080M17に、/城(しろ)山すでにをしきたるとおぼえたり。只今この家共ハ 00061090M18うづまれなん、はやとくにげよやとよバゝりしかば、あた 00061100M19りのものども、とる物もとりあへず、我さきにとにげたり 00061110¥P185 00061120L1し所に、/城(しろ)山ほどなくをし来り、廿/余家(よけ)の/在家(ざいけ)をうづミ、 00061130L2/細(ほそ)き流れをへだてゝゆりすハりぬ。かの/城(しろ)山八十/余間(よけん)に及 00061140L3びて、みなミにをしうつり、/田畠(たはた)おほくうづもれたる、そ 00061150L4の山の/跡(あと)ハ/地形(ぢぎやう)をすり、はらひに水わき出て、ふめは、ゆ 00061160L5ら+うごきわたり、/奈落(ならく)の/底(そこ)までもおちいるべき心地し 00061170L6て、/沼(ぬま)のごとくになりたり。うづまれし家どもハ、地形よ 00061180L7り一丈(五ウ)バかり下になりしを/堀(ほり)いりて、/家財(かざい)どもハと 00061190L8りいだし侍へり。あやうかりける事共也。ある人/城(しろ)山の/南(ミなミ) 00061200¥G 00061210M1にうつり行けるを見て、 00061220M2△△山のみなうつりてしもによることハ 00061230M3△△△なゆにふられてとぶとなるへし 00061240M4△△あぶなくもなゆにハきものつぶるゝか 00061250M5△△△/城(しろ)山にげてゆらずもあらなん(六オ)(六ウ挿画) 00061260M6それより/南(ミなミ)ハ/宇治(うぢ)の里、/大和(やまと)の国ハ/泊瀬(はせ)のわたり、津の国 00061270M7ハ/兵庫(ひやうご)の/灘(なだ)、/尼(あま)が崎、/播磨路(はりまぢ)もすこしハゆりぬ。大坂いづ 00061280M8ミの/堺(さかひ)、/紀州(きしう)/雑賀(さいか)のあたりまでも、かたのごとくにゆりけ 00061290M9れども、京ふしみほどにハなしとかや。/東(ひがし)ハするがの国/小= 00061300M10田原辺(を=だハらへん)まで、/尾州(びしう)のうちハ大かたにて、伊勢の/桑名(くハな)の/城(しろ)を 00061310M11はじめて、かみがた/漸&(ぜん※)におびたゝしく、亀山の/城(しろ)も/損(そん)じ 00061320M12たり。ことさらに、/江州(がうしう)/膳所(ぜゞ)の/城(しろ)ハ、/殿主(てんしゆ)ハ大にゆがみか 00061330M13たふき、/矢倉(やぐら)ハのこらずくづれ、町家おほく/損(そん)じけれども、 00061340M14/城(じやう)の/石垣(いしかき)ハこと故なし。 00061350¥N3¥J 00061360¥X三△/加賀(かゞ)の/小松(こまつ)の/庄(しやう)大水の事(七オ) 00061370M17北国がたハ、/若狭(わかさ)/朽木(くつき)のわたり、/越前(えちぜん)/敦賀(つるが)の/津(つ)まで大にゆ 00061380M18り/損(そん)じ、それより北ハ、/福井(ふくゐ)北の/庄(しやう)わたりハすこしにてし 00061390M19ずまりぬ。加賀にハ、/能美(のミ)の/郡(こをり)小松の/庄(しやう)ハ地しんハゆらで、 00061400¥P186 00061410L1四月廿九日大雨ふり、/東北(とうほく)ちかき山&谷&より、/螺(ほら)の/貝(かい)出 00061420L2たり。その跡より水わき出て、山くづれ、谷うづもれ、大か 00061430L3た山田ハみな/(つぶ)■れて、一面に水わき出つゝ、ひとつにおち 00061440L4あひ、俄にをしきたる水のいきをひ、一/丈(ぢやう)あまりに/際(きハ)だち、 00061450L5/提(つゝミ)にあまり、川にあまり、小松の町屋に流れいりつゝ、/明(あく) 00061460L6れば五月朔日、/垣(かき)ともいはず、/壁(かべ)ともいはず、打こしをし 00061470L7やぶりて、家のうちにこみいりたり。俄のことにては(七 00061480L8ウ)あり、上下あはてふためき、家のうへにかけあがる。 00061490L9水ハ軒をひたし、/棟(むね)につかへて、流れのはやき事/矢(や)のごと 00061500L10し。舟をもとめてわたらんとするに、/櫓械(ろかい)もたゝず、諸人 00061510L11いろをうしなひ、/資財雑具(しざいざうぐ)を流し、/撰糸(せんじ)の/絹(きぬ)をぬらし、/損= 00061520L12否(そん=ふ)せし事かぎりなし。されども、人のおぼれたるとハ聞え 00061530L13ず。水もほどなく落きりて、ことゆへなかりしとかや。あ 00061540L14る人/昼(ひる)ねして/居(ゐ)たる所に、俄に水出来り、/頭(かしら)にざぶ+と 00061550L15かゝりけるに夢をさまし、あはてふためきて、家の上にか 00061560L16けあがりて、かくそおもひつゞけゝる、 00061570L17△△おもひよらず家までひたす大水の(八オ) 00061580L18△△△ね/耳(ミゝ)にいりて夢ぞさめける 00061590L19そのほか、道ゆく人も俄の事に出合て、手に/持(もち)たる物をと 00061600¥G 00061610¥P187 00061620L1りおとし、とりあぐべきいとまなくして、やう+いのち 00061630L2バかりをたすかりける人もあり。田つくる人おほく/外面(そとも)に 00061640L3ありしが、/鋤鍬(すきくわ)をもうちすて、/足(あし)をはかりににげのび、わ 00061650L4がすむ家ハをしながされて、/妻子(さいし)のゆきがたをたづねもと 00061660L5め、せんかたなき人もあり。又/逸足(いちあし)をいだしにげてゆく/跡(あと) 00061670L6より、/追(をひ)きたる水のはやくして、/風門(ちりけ)もとにひや+とあ 00061680L7たりしかば、おそろしさにあとをもかへりミず、今井の橋 00061690L8をうち渡り、ゆぶり橋と(八ウ)いふ所までにげのびて、/枯= 00061700L9朽(かれ=くち)たる/榎(え)の木のうへにのぼりて見まハせば、大水一/面(めん)に/流(なが) 00061710L10れて、さながら海になりたるかとおぼえければ、こゝにも 00061720L11たまられず、 00061730L12△△おちそうな名にこそありけれゆぶりはし 00061740L13△△△この大水にハ/居(ゐ)られまうさぬ 00061750L14とよみすてゝ、大/聖寺(しやうじ)までにげてゆきけるこそ、用心ふか 00061760L15けれ。(九オ)(九ウ・十オ挿画) 00061770¥N4¥J 00061780¥X四△/越前(□□ぜん)/敦賀(つるが)の津并/江州(がうしう)所&/崩(くづれ)し事 00061790L18/敦賀(つるが)の/津(つ)ハ、海のおもてうしほわきあがり、くらやミのご 00061800L19とくになり、どう+と/鳴(なり)はためく。町家の諸人すハや、 00061810M1四/海(かい)/浪(なミ)のうちて、只今/敦賀(つるが)ハ/底(そこ)の/水(ミ)くづとなるぞやと、い 00061820M2ふほどこそありけれ、/礒並(いそなミ)に立つゞけたる家ども、/土蔵(どざう)と 00061830M3もにめき+ゆら+として、かたはしより打たをれけれ 00061840M4バ、/親(をや)ハ子をわすれ、/兄(あに)ハおとゝをしらず、われさきにと 00061850M5にげ出つゝ、はしらんとするに、あしもたまらず打たをれ、 00061860M6又おきあがり、はふ+にげて、/笥飯(けゐの)明神/瓜割(うりわり)の水のほと 00061870M7りにつどひあつまる。/金(かね)が/崎(さき)も(十ウ)山のこし、せう+ 00061880M8くつれしかども、/観音堂(くハんをんだう)ハことゆへなし。それより/上(かミ)がた 00061890M9/疋田(ひきだ)の里七/里半(りはん)の山中の/宿(□ゆ□)、こゝかしこの山もと/谷(たに)あひの 00061900M10家&ハ、くづるゝ山にをしうづもれ、人もはし※/死(し)せし 00061910M11とかや。あらち山もくつれかゝりて、/谷(たに)ひとつうづミしか 00061920M12ども、判官殿の/笈(をひ)かけの松ハ子細なし。/江州(がうしう)にハ、/海津(かいづ)の 00061930M13/浦(うら)水うミのはたに立たる家ども七八/家(け)バかりハ、かたふき、 00061940M14ゆがみたるのミにて、たをれざりき。山の/方(かに)にたちつゞき 00061950M15たる家どもハ、一家ものこらず/将碁(しやうぎ)だをしのごとく、一/同(どう) 00061960M16にひしけくづれて、人の/死(し)する事百四十余人、その外/疵(きず)を 00061970M17かうふりし(十一オ)ものはなハだおほし。/今津(いまづ)の/宿(しゆく)もくづ 00061980M18れざるハ、只四五/家(け)にて、のこりの家どもハひらつぶれに 00061990M19なり、人も/疵(きず)をかうふりし。地のゆりしつむ事五尺ハかり 00062000¥P188 00062010L1なり。/大溝(おほミぞ)の/宿(しゆく)も家&みなくづれ、その中に火事いできた 00062020L2り。これにうろたへて、人おほくうちころされたり。/片田(かたゝ) 00062030L3の/宿(しゆく)、/真野(まの)のうらべ村&の家、/損(そん)ぜざるハなし。/比良(ひら)小松 00062040L4のあひだハ、なをあらけなくして、家たをれ、山くづれて 00062050L5打ころされ、地にうつもれし人その数おほし。大/津(つ)の/浦(うら) 00062060L6+、町家どもかたふきやぶれ、大/名(ミやう)がたの米/倉(ぐら)くづれさ 00062070L7るハなし。(十一ウ) 00062080¥N5¥J 00062090¥X五△/朽木(くつき)并/葛川(かづらかハ)ゆりくづれし事 00062100L10/若狭(わかさ)の国/小浜(をばま)の/城下(じやうか)もかたのごとくのなゐふりしかども、 00062110L11町家ともにわづかに/損(そん)じぬ。/朽木(くつき)といふ所ハ、大なゐふり 00062120L12て、/城(じやう)のうちくづれ、人おほく/損(そん)したり。町家どもハ、山 00062130L13のくづれかゝりしにうづまれ、家+たをれつゝ、あるひ 00062140L14ハ/棟(むな)木/御梁(こうりやう)に打ひしかれ、/真平(まひら)になり、あるひハさし物に 00062150L15手足をうちをられ、又ハかうべをうちくだかれ、むないた 00062160L16あばら/骨(ぼね)をうちおられ、はらわたいで、/血(ち)はしりて/死(し)する 00062170L17もの百/余人(よにん)に及べり。親ハ子にをくれ、/兄(あに)ハおとゝをさき 00062180L18たて、/夫婦(ふうふ)にわかれて、くづれたる家&のうちに(十二オ) 00062190L19なきかなしむこゑたえず。/細川(ほそかハ)/桑名(くわな)川などにも、山くづれ 00062200M1家ひしけて、人おほく/死(し)せしとかや。こと更かづら川とい 00062210M2ふ所ハ、前にハ谷川みなぎり流れ、/後(うしろ)ハ/太山(ミやま)につゞきて、 00062220M3/薪(たきゞ)を/樵(こり)、/炭(すミ)をやきて、世をわたるいとなみとする所なるを、 00062230M4ためしすくなき大なゐふりて、うしろの/大山(たいさん)/半(なかば)さけて、立 00062240M5ならびたる家のうへにどうどおちかゝり、猶その前なる/谷(たに) 00062250M6をうづミしかば、みなぎる水ハおちかさなりて、流れハせ 00062260M7きとめたり。ひたすら/淵(ふち)となり、夜に日にまさりてふかく 00062270M8たゝえたり。俄の事にてハあり、思ひもよらぬわざハひに 00062280M9かゝり、村中のもの共/十方(とはう)に(十二ウ)まよひ、にげのがる 00062290M10べきかたなく、/生(いき)ながら土の/底(そこ)にうづもれしこそかなしけ 00062300M11れ。一村のうち/他所(たしよ)に行けるもの、わづかに四五人バかり、 00062310M12かづら川の/人種(ひとだね)にのこりて、そのほかのともがらハ残らず 00062320M13うづまれ/果(はて)たり。それより二三日のあひだハ、/土(つち)の/底(そこ)にお 00062330M14とこをんなの/啼(なく)声のかすかに聞えけれとも、一丈二丈こそ 00062340M15あらめ、はるかの地の/底(そこ)にうづもれしかば、/堀(ほり)いだすべき 00062350M16たよりもなく、きく人涙を流しけるが、四五日の後にハ、 00062360M17なくこゑたえて聞えざりけり。むな木はしら/道具(だうぐ)などのあ 00062370M18ひだにありて、/械(かせ)になりて、/死(しな)ざりけるものども出べき道 00062380M19なくて、/啼(なき)(十三オ)さけびぬらん。心のうちさこそハかな 00062390¥P189 00062400L1しかりけめ。それより、日夜ゆりつゞけて、つゐにハ/死(しに)け 00062410L2んとおもひやるもあはれなり。ある人そこをとをりけるが、 00062420L3/土(つち)の/底(そこ)にてうつもれしものどものなく声を聞て、 00062430L4△△いとあはれなくぞきこゆるかづら川 00062440L5△△△なえにうづミし人のこゑ+ 00062450¥N6¥J 00062460¥X六△地の/裂(さけ)たる所へ/踏(ふミ)入し事并/米俵(こめだハら)をゆり入し事 00062470L9をよそ五月朔日、おなしき四日の大地しんに、諸方の山& 00062480L10家&/神社(じんじや)/仏(ぶつ)かくの/損(そん)したる事、筆にも更に及びがたし。北 00062490L11山がたにハ大地さけて、両方にひらけし所へ、わかき女房 00062500L12両の/足(あし)をふみいれ、地のそこに(十三ウ)しづミいらんとす。 00062510L13人+やがてとらへとゞめ、引出さんとするに、大かた引 00062520L14ぬかれず、からうじて引あげたれば、/気(き)をとりうしなひけ 00062530L15り。とかくして人心地いできてかたりしハ、あしをふみい 00062540L16れしより、/下(した)へ引いる事かぎりなし、人+引あげんとす 00062550L17るに、/足(あし)ハちきるゝ心ちしながら、地の/底(そこ)の/熱(あつき)事火の中に 00062560L18入たるがことくなりけりとかたりしが、十の/爪甲(つめ)くろくな 00062570L19りてみなぬけ侍へり、/膝(ひざ)より下ハたゞれて、/湯(ゆ)やけ火やけ 00062580M1に逢たるがごとし。/淀(よど)の/城(しろ)わたりにある家の庭に、米三石 00062590M2バかりをつミをきたるに、地しんゆりて庭の/上(うへ)/裂(さけ)われて、 00062600M3(十四オ)/米俵(よねたハら)ひとつ地の/底(そこ)にゆり入たり。あたら物/堀(ほり)いだ 00062610M4せとて、その所をほらするに、ほれども+/俵(たハら)ハなし。水 00062620M5のわき出るまでほりけれどもみえず。かたはらへゆりこし 00062630M6ぬらんとて、二/間(けん)/四方(よはう)バかりほりけれどもつゐに/俵(たハら)ハなし。 00062640M7りう/宮(ぐう)にミしづみけん、/金輪際(こんりんざい)にやおち入けん、おぼつか 00062650M8なし。その/堀(ほり)ける時も、地の中ハ/熱(あつ)かりけりとかや。いま 00062660¥G 00062670¥P190 00062680L1だ此なえハゆりやむまじといふを聞て、かくぞ思ひつゞけ 00062690L2ゝる、 00062700L3△△地の/底(そこ)にゆりしづめたる/米俵(こめだハら) 00062710L4△△△なえにハこれや/種(たね)と成らむ(十四ウ)(十五オ挿画) 00062720¥N7¥J 00062730¥X七△/豊国(とよくに)ハなゆのゆらずとて諸人/参詣(さんけい)の事 00062740L7ふし見かいだうにすみけるもの、きぬ糸をよりて世をわた 00062750L8るわざとす。そのたけながくよる物なれば、町屋にてハ中 00062760L9+かなひがたし。ほどちかけれバ、/豊国(とよくに)の/馬場(ばゞ)にゆきて、 00062770L10日ごとに糸をよる。心のまゝにひろければ、まことによき 00062780L11所にこそ。五月朔日にもこゝに出て、糸をよりけるが、/洛= 00062790L12中(らく=ちう)/辺土(へんど)すべてうへをしたへ返すバかりにおどろきまどひけ 00062800L13る大地しんの、/豊国(とよくに)わたりハすこしもゆらざりけり。人の 00062810L14まいる事もまれなりけれハ、今日のなゐハいかにふりぬら 00062820L15ん、いさゝかもしらさりしとかたる。(十五ウ)/独(ひと)りふたり、 00062830L16聞つたへかたりつたふ。/国内(こくない)/通計(つうげ)の/道理(だうり)なれバ京中此事を 00062840L17聞つたへ、/豊国(とよくに)こそこのたびのなゐハふらざりけれ、その 00062850L18しるしにハ、さしも神さびてくづれかゝりたる/社壇(しやだん)すこし 00062860L19もそこねたる所なし、/奇特(きどく)の事也といふほどに、うつり心 00062870M1なる都の諸人バら/参詣(さんけい)の/貴賎(きせん)上下、さながら/蟻(あり)の/熊野(くまの)まい 00062880M2りのごとし。年六十よりしたの人ハ、生れてよりこのかた 00062890M3初めて逢たる大地しんなれば、たましゐきえ、むねつぶれ 00062900M4ておそろしければ、もしやまもりの神ともなり給ふらんと 00062910M5おもへる心ざしにや、日ころハおもひもいださぬ所へ、我 00062920M6/先(さき)にと(十六オ)まいりけれバ、三条寺町より豊国まで/参詣(さんけい) 00062930M7の/男女老少(なんによらうせう)、ひしと/町中(まちなか)につかへてせきあひけるこそおび 00062940M8たゝしけれ。/神前(しんぜん)にハ、/散米(ざんまい)/参銭(さんせん)山のことくになけいれ奉 00062950M9り、諸人手をあはせて、/南無(なむ)/豊国(とよくにの)大明神とおがみたてまつ 00062960M10る。そのかみ/慶長(けいちやう)四年四月十八日に/額(がく)を/賜(たまひ)て、/廟号(べうがう)を豊国 00062970M11大明神とくだされしよりこのかた、つゐにこれほどの/参詣(さんけい) 00062980M12はためしもなし。いにしへハ、/近江(あふミ)/山城(やましろ)とて二人の/神主(かんぬし)を 00062990M13/首(かしら)として、あまたの/禰宜(ねぎ)/社僧(しやそう)あり。/社領(しやりやう)いかめしくつけら 00063000M14れしかば、/神主(かんぬし)もゆたかにして、八人の/八乙女(やをとめ)五人の/神楽(かぐら) 00063010M15おのこつねに/神前(しんぜん)に(十六ウ)/伺公(しこう)し、きねがつゞミのをと 00063020M16たかく、/鈴(すゞ)の声松風に/和(くハ)して、めでたかりける事共なりし 00063030M17に、/時代(ときよ)うつりぬれバ、/神主(かんぬし)/社僧(しやそう)も行がたなくちり+に 00063040M18なり、さしもつくりみがゝれし/社頭(しやとう)も、年+の/霧(きり)にをか 00063050M19され、露に/朽(くち)て、つくろふ人もなけれバ、まのあたり鳥井 00063060¥P191 00063070¥G 00063080M1/楼門(ろうもん)ハ跡かたなく、玉の/瑞籬(ミづがき)もやぶれくだけ、/拝殿(はいでん)にかけ 00063090M2られし/哥仙(かせん)の/絵(ゑ)ハ、その人となくとりちらし、/社(しや)だんハ/上(うへ) 00063100M3もり軒かたふき、庭にハ草のミおひ/茂(しげ)り、あれはてたる有 00063110M4さま、きつねふくろふのたぐひより外にハ、/音(をと)なふものも 00063120M5なかりしに、今さら/貴賎(きせん)上下のともがら/道(ミち)(十七オ)もさり 00063130M6あへずまいりつどふもけしからず。とりまかなふ人もなけ 00063140M7れバ、かくにぎハゝしけれども、/灯明(とうミやう)をかゝぐることもな 00063150M8く、いはんや/神楽(かぐら)をまいらする/者(もの)もなくして、/神前(しんぜん)ハいと 00063160M9ゞ物さひたり。さてもまいりつどふ諸人、手ごとに庭の草 00063170M10葉をかなぐりて、家にとりてかへり、をの+軒にかけた 00063180M11り。いかなるものゝ何事によりて/仕(し)そめたりけん、おぼつ 00063190M12かなし。/茅(かや)/薄(すゝき)ハみなむしりつくし、松/杉(すぎ)の枝を、をりとり 00063200M13しかば、/茂(しげ)りあひたる草も木も、みなまばらにおりかなぐ 00063210M14りて、いよ+/社頭(しやとう)ハあばらなり。洛中上下家&の軒につ 00063220M15るしかけたる人の(十七ウ)心ばせ、/豊(とよ)国にあやかりて、町 00063230M16やもゆらであらなんと思ひける成べし。おろかにもまどひ 00063240M17はてゝ、をこかましかりけり。其比、京中町家のゆり/損(そん)じ 00063250M18たる所&をかきつけらるゝ事有けり。奉行人しるしめくる 00063260M19所に、又何ものかいひ出しけん、豊国まいりの事、/当時(たうじ)し 00063270¥P192 00063280L1かるべからず、軒にかけし草の葉をしるしに、/横目(よこめ)衆その 00063290L2家&をかきつけて、御/誡(いましめ)をくハへらるべしといひつたへし 00063300L3かバ、町人バら色をうしなひ、あはてふためきて、豊国よ 00063310L4りとりて帰り、軒にかけたる草の葉を、はた+ととりい 00063320L5れけるこそあやしけれ。それよりして、豊国の参詣ハ、軒 00063330L6&にうすらぎぬ。(十八オ)(十八ウ・十九オ挿画) 00063340¥N8¥J 00063350¥X八△京の/町説(まちぜつ)さま+の事 00063360L9このたびの地しんに、よし田の/神楽岡(かぐらをか)、をか崎の村なども 00063370L10すこしゆるやうにて、あらけなくハ侍べらず。豊国とても 00063380L11なゐのふらざるにハあらで、只わづかにゆりたれば、くづ 00063390L12れかゝりながらも/損(そん)ぜざるばかりなり。/損(そん)せざるを/奇特(きどく)な 00063400L13りといはゞ、/損(そん)じたる/社&(やしろ|+)の御神達にハ/神秘(じんひ)なしといふべ 00063410L14きや。津の国すみよしの鳥井ハ、廿五/段(きだ)にくだけ、京の/祇= 00063420L15園(ぎ=をん)の石の/鳥居(とりゐ)も、たをれくだけたり。これらの大/社(しや)も/損(そん)じ 00063430L16くづれたるをば、/神秘(じんひ)なしとかろしめ奉らんや。おなし所 00063440L17ながらつよくゆるとよわきとハ(十九ウ)/地気(ぢき)のわざなれば、 00063450L18さしてあやしむにたらず。町中のとり/沙汰(さた)さま+なり。 00063460L19去ぬる春のころハ、月日の色あかき事/朱(しゆ)のごとく、又四月 00063470M1廿七日の日中に月日星の/三光(くハう)一所にミゆ。これみな/陰有余(いんゆうよ) 00063480M2/陽不足(やうふそく)の故なれバ、いかさましかるへき事ならずといふ人 00063490M3もありけるが、はたして、この大地しんおこり出て、月を 00063500M4かさぬれども、いまたやまず。あるひハ二三日に一度、又 00063510M5ハ四五日に二三度、その名ごり今にたえせず。京の二条わ 00063520M6たりに、/調子(てうし)を聞て/吉凶(きつけう)をうらなふ/盲目(まうもく)あり。これよくう 00063530M7らなふとていはせてきくに、その日こそ大事なれ、その日 00063540M8ハ大ゆりすべしなといへとも(二十オ)ひとつもあはず。み 00063550M9な違けり。この盲目のうらなひのちがひけるハめでたき事 00063560M10なれども、これ/風情(ふぜい)のものをやごとなき御かたにもてはや 00063570M11して、/兎(と)ある/歟(か)かくある/歟(か)と尋ねらるゝもあさはかなり。 00063580M12平家物がたりに、/盲(めくら)うらなひの事をかきたり。それもよき 00063590M13人のもてはやされしとハみえず。/離朱(りしゆ)がためしになぞらへ 00063600M14んハ、/末代(まつだい)今の時ハおぼつかなくや侍へらん。去年の春の 00063610M15ころ、あやしき/星(ほし)のひがしのかたに出て、あかつきごとに 00063620M16ミゆといふ。これ/虎尾星(こびせい)と名づく。この星あらハるれバ、 00063630M17天下のためよろしからずなど、なま物じりに/沙汰(さた)しけるを、 00063640M18此ころある人(二十ウ)のいはく、/今年(ことし)ハ/寅(とら)のとし、/尾州(びしう)よ 00063650M19り/星野(ほしの)のなにがし京にのぼりて、五月の/節(せつ)過て後、ためし 00063660¥P193 00063670L1なき大/矢(や)数を/射(い)て、弓の天下をうけとりけるにて、/虎尾星(こびせい) 00063680L2のしるしならんとうらなひけるこそ、げにもとおぼゆれ。 00063690L3来る十六日にハ、大なる/法師(ほうし)の出て、/洛中(らくちう)をはしりめぐる 00063700L4べし、これを出合て見る人ハわざハひに/逢(あふ)べしと、これ/神= 00063710L5詫(しん=たく)なりといひはやらかす。おろかなる人は、さもこそと/信(しん) 00063720L6じておそれ思ふものもあり。心ある人ハ、いや+これハ 00063730L7さためて/盗人(ぬすびと)どものそら/言(ごと)にて、/町家(まちや)に火をつけ、そのま 00063740L8ぎれに物をとらんとするはかりことなるべし、只よく用心 00063750L9せよといはれしか(二十一オ)その日/野夫(やぶ)/医師(くすし)の七条わたり 00063760L10にすみけるが、京のひがし河原/田中(たなか)といふ所にて、/喧嘩(けんくわ)を 00063770L11/仕(し)いだし、あかはだかにはがれて、/白昼(はくちう)に/洛中(らくちう)にかけこみ、 00063780L12うき世の/恥(はぢ)をかきたり。これに出むかふて、/喧嘩(けんくわ)のあひ手 00063790L13になりし人も、わざハひにかゝり侍へり。この/説(せつ)こそ/違(ちが)ハ 00063800L14ねとわらひかたるもあやしけれ。四方の山&地しんにゆら 00063810L15れ、/狸(たぬき)おほかみきつね/兎(うさぎ)の/穴(あな)どもみなくづれて、すみ所を 00063820L16うしなひ、人ちかき所によりあつまり、/洛中(らくちう)に出て、人を 00063830L17そこなふといひ/沙汰(さた)せしこそ、まことにさこそあらめとお 00063840L18ほゆれ。又ある人のかたられしハ、五月朔日のあかつきよ 00063850L19り(二十一ウ)いはし水八まん/宮(ぐう)の/社頭(しやとう)しばらく/鳴動(めいどう)して、 00063860M1/神馬(じんめ)しきりにいばひけるが、この馬いづくともなくうせに 00063870M2けり。かくて五日の暮かたに、かの/神馬(じんめ)/汗(あせ)水になり、もと 00063880M3の馬やにかへりつながれ侍べり。いか成ゆへともしりがた 00063890M4し。/社司(しやし)/神主等(かんぬしら)、はなハだおそれあやしみけりと。又ある 00063900M5人のかたられしハ、/常陸(ひたちの)国/鹿嶋(かしまの)明神の御やしろめいどうし 00063910M6て、/神馬(じんめ)ゆきかたなくうせし所に、おなしき五日の暮かた、 00063920M7馬の/背(せ)に/血(ち)ながれて、/汗(あせ)水になりてかへりぬ。/神主(かんぬし)/禰宜等(ねぎら) 00063930M8/沙汰(さた)しけるハ、このたびの地しんハ、これ神いくさのしる 00063940M9しなり、/蒙古(むくりこくり)とたゝかひ給ふなるへし、されども、/軍(いくさ)にう 00063950M10ち(二十二終オ)かち給ふ故に、/神馬(じんめ)かへりぬとかたられし。 00063960M11かやうの時ハ、見も聞もせぬ事共とり+にいひはやらか 00063970M12すは、世の人のならひなれバ、心あるともがらハ、/耳(ミゝ)にも 00063980M13聞いれざるを、をろかなる女わらべハ、かやうの事を聞て 00063990M14ハ、只今大事の出きたるやうにおぼえて、ふるひおそるゝ 00064000M15もことハり也。その外/浮(うき)たる/俗説(ぞくせつ)どもにいよ+たましゐ 00064010M16をけす斗也。さてかくぞよみける、 00064020M17△△あぶな+おもへばすかぬなゆの/沙汰(さた) 00064030M18△△△たかきいやしきくるしかりけり(二十二終ウ) 00064040¥P194 00064050¥Y1可名免為誌下巻△目録 00064060L3一△地しん/前例(せんれい)付地しん/子細(しさい)の事 00064070L4二△/諸社(しよしや)の/神詫(しんたく)の事 00064080L5三△/妻夫(めをと)いさかひして/道心(だうしん)おこしける事 00064090L6四△なゆといふ事付/東坡(とうばの)/詩(し)の事(一オ) 00064100L7△△△△△△△△△△△△△△(一ウ) 00064110¥T1可名免為誌下巻 00064120¥N1¥J 00064130¥X一△/地震(ぢしん)/前例(せんれい)付地しん子細の事 00064140M5ちはやふる/神代(かミよ)のいにしへハしらず、人王の世にいたりて 00064150M6/記録(きろく)にあらハすところ、地しんの事すでに、人王第廿代/允= 00064160M7恭(いん=げう)天皇五年ひのえ/辰(たつ)七月十四日、はじめてなゐのふりけり 00064170M8とハしるしたれ。第卅四代/推古(すいこ)天皇七年、つちのとのひつ 00064180M9じ四月廿七日、大なゐふりて、人の/家居(いゑゐ)、おほくたをれ、 00064190M10四方の山&おびたゝしくくづれしかば、神をまつりてしづ 00064200M11められしとなり。第四十代天武天皇十三年きのえ/申(さる)十月十 00064210M12四日にハ、/前代未聞(ぜんだいミもん)の大地しんにて、人民(二オ)おほく/死(し) 00064220M13せしと也。第四十二代/文武(もんむ)天皇/慶雲(けいうん)四年ひのとのひつじ六 00064230M14月廿三日、第四十五代/聖武(しやうむ)天皇天平六年きのえ/戌(いぬ)四月、第 00064240M15五十五代/文徳(もんどく)天皇/斎衡(さいかう)二ねんきのとの/亥(ゐ)五月五日に大地し 00064250M16んして、/東(とう)大寺大仏の/頭(ミくし)おち給へり。それより/以後(いご)にも、 00064260M17大なゐふりしかども、/鴨長明(かものちやうめい)が/方丈記(ハうぢやうのき)にこの時の事をかき 00064270M18のせしハ、さこそ大なゐにて侍へりけめ。まことに/筆勢(ひつせい)お 00064280M19びたゝしくしるせり。次の年ひのえ/子(ね)三月にもゆりけり。 00064290¥P195 00064300L1第五十八代/光孝(くわうかう)天皇/仁和(にんわ)三年ひのとのひつじ七月晦日、大 00064310L2なゐふりて、/海水(かいすい)みなぎり/沸(わき)て/陸(くが)をひたし、おぼれ死する 00064320L3人(二ウ)数しらず。山くづれて/谷(たに)をうづミ、/山家(やまが)の人おほ 00064330L4くうづもれ、その外/禁中(きんらう)をはじめ、民の家&やぶれくづれ 00064340L5たり。第六十一代/朱雀院(しゆしやくゐん)/承平(せうへい)四年きのえ/午(むま)五月廿七日、 00064350L6おなしき七年ひのとの/酉(とり)四月十五日、第六十四代/円融院(ゑんゆうゐん)/貞= 00064360L7元(てい=げん)&年ひのえ/子(ね)六月十八日にハ、/未曽有(ミぞう)の大なゐ一日一夜 00064370L8のあひだ/小止(をやミ)もなく、/常(ひた)ゆりにゆりてゆりやまず。/人家(じんか) 00064380L9くづれて、人民おほく/損(そん)じ、地ハ/裂(さけ)われて/泥(どろ)わきあがれり。 00064390L10第六十九代/後朱雀院(ごしゆしやくゐん)長久二年かのとの/巳(ミ)四月二日、大地し 00064400L11んして、/法成寺(ほうじやうじ)の/塔(たう)をゆりたをしぬ。第八十二代/後鳥羽(ことばの)院 00064410L12/文治(ぶんぢ)元年七月九日、第八十八(三オ)代/後深草(ごふかくさの)院/正嘉(しやうか)二年ひ 00064420L13のとの/巳(ミ)二月廿三日、第九十一代/伏見(ふしミの)院/永仁(えいにん)元ねん四月に 00064430L14大地しんゆりて、日をかさねてやまず。/鎌倉(かまくら)中にうちころ 00064440L15され、うづみころされしもの、一万余人に及べり。第九十 00064450L16九代/後光厳(ごくわうごん)院/延文(ゑんぶん)五年かのえ/子(ね)に大地しんありと、太/平記(へいき) 00064460L17におびたゝしくかきしるせり。第百一代/後小松(ごこまつの)院/応永(おうえい)九年 00064470L18ミづのえむま、春ハ/彗星(はゝきぼし)あらハれ、/夏(なつ)ハ大に/旱(ひでり)して、/野(の)に 00064480L19/青草(あをくさ)なく、井の水ハ/涸(かれ)、秋は/洪水(こうずい)大風、冬にいたりて大地 00064490M1しんあり。/同(おなじき)十三年ひのえいぬ、春ハ天下大に/飢饉(ききん)して、 00064500M2道のほとりはいふにをよばす、家のうちにもうえ(三ウ)/死(し) 00064510M3するもの数しらず。秋にいたりてハ/洪水(こうずい)大風、冬になりて 00064520M4十一月朔日大地しんあり。おなしき十四年ひのとの/亥(ゐ)正月 00064530M5五日おびたゝしき大なゐふりぬ。第百三代/後花園(ごはなぞのゝ)院/文安(ぶんあん)五 00064540M6年つちのとのたつ、/洪水(こうずい)地しんえきれい/飢饉(ききん)うちつゞきた 00064550M7り。次の年/宝徳(ほうとく)元年つちのとの/巳(ミ)四月より日をかさねて大 00064560M8なゐふりて、人民おほく/死(し)す。おなしき/御宇(ぎよう)/康正(かうしやう)元年きの 00064570M9との/亥(ゐ)十二月晦日の夜大地しん、第百四代/後土御門(ごつちミかとの)院/文正(ぶんしやう) 00064580M10元年ひのえいぬ十二月廿九日、おなしき御宇/明応(めいおう)三年/甲(きのえ)と 00064590M11ら五月七日、同き七年つちのえむま六月十一日にハ、諸国 00064600M12をしなへて、(四オ)大/地震(ぢしん)して/海辺(うミべ)山がた人民おほく/死(し)せ 00064610M13しと也。第百五代/後柏原(ごかしハばらの)院永正七年かのえ/午(むま)八月七日、同 00064620M14九年ミつのえ/申(さる)六月十日、第百七代/正親町(おほきまちの)院天正十二年き 00064630M15のえ申十一月廿九日より大地しんして、次のとしの正月す 00064640M16ゑつがたまでゆりけり。第百八代/後陽成(ごやうぜい)院/慶(けい)長元年ひのえ 00064650M17/申(さる)閏七月十二日より大なゐふり/初(そめ)て、月をこゆれどもその 00064660M18名ごりゆりやまず。これよりこのかたの事ハ、今/古(ふる)き人ハ 00064670M19おぼえ侍べり。第百九代太上皇帝万&歳の/正統(しやうとう)/慶長(けいちやう)十九年 00064680¥P196 00064690L1きのえ/寅(とら)十月廿五日、大地しんありと、をよそ/記録(きろく)にしる 00064700L2すところ、古しへも(四ウ)さこそありけめ。第百十二代今 00064710L3上万&歳/統御(とうぎよ)の時にあたつて、/寛文(くハんぶん)二年/壬寅(ミつのえとら)五月朔日よ 00064720L4り大地しんしそめて、日ごとにゆる事、あるひハ五七度、 00064730L5あるひハ二三度、日をかさね月をこゆれどもその名ごりい 00064740L6またやまず。/年闌(としたけ)たる人ハおほえたるためしもあらめ、わ 00064750L7かきともがらハ、このたび初て逢たる事にてハあり、こと 00064760L8さら女房子共などは、おそれまどふもことハり也。もろこ 00064770L9しにも上代の事ハさしていふにも及ばず、/大元(たいげん)の/世宗皇帝(せいそうくハうてい) 00064780L10/至元(しげん)廿七年八月に大地しんして、/民屋(ミんおく)おほくくづれたをれ 00064790L11て、をされ/死(し)するもの(五オ)七千人なり。/成宗(せいそう)皇帝大/徳(とく)七 00064800L12年八月、おなしき十/年(ねん)八月に大地しんして、/後宮(こうきう)の女房大 00064810L13臣以下/死(し)するもの五千余人なり。/順宗(じゆんそう)皇帝の時/元統(げんとう)二年八 00064820L14月に地しんあり。/大明(たいミん)の世にいたりて、/孝宗敬(かうそうけい)皇帝/弘始(こうし)十 00064830L15四年正月朔日大地しんして、人民おほく/死(し)すといへり。/異= 00064840L16国(い=こく)/本朝(ほんてう)ためしなきにハあらねと、たま+かゝる事に逢ぬ 00064850L17れバ、むかしハためしもなきやうに、上下おとろきさはぐ 00064860L18も、またことハりならずや。仏経のこゝろによらば、地し 00064870L19んに四/種(しゆ)ありととかれたり。これも一/往(わう)の/説(せつ)なるへし。こ 00064880M1の/世界(せかい)の/下(した)ハ/風輪(ふうりん)にて、その中に水を/盛(もり)たり。/水輪(すいりん)の/上(うへ)す 00064890M2でに(五ウ)/凝(こり)かたまりて、/金輪際(こんりんざい)となり、そのうへに/土輪(どりん) 00064900M3ありて/人間(にんげん)のすみかなり。/風輪(ふうりん)わづかにうごけば、/水輪(すいりん)に 00064910M4ひゞき、/金輪際(こんりんざい)より/土輪(どりん)につたへて大地ハうごくといへり。 00064920M5/易道(えきたう)のこゝろは/陰気(いんき)/上(かミ)におほひ、/陽気(やうき)/下(しも)に/伏(ふく)してのぼらん 00064930M6とするに、/陰気(いんき)にをさへられて、ゆりうごく時にあたつて 00064940M7地しんとなれり。ゆる所とゆらざる所のある事ハ、/水脉(すいミやく)の 00064950M8すぢによれり。人の/病(やまひ)にとりてハ、/関格(くわんかく)の/証(しやう)と名づくへし 00064960M9といへり。みなこれ/陽分(やうぶん)の/為(わざ)にして、/甘(くつろぎ)ある所より/起(おこ)れり。 00064970M10/上(かミ)にある時に、声あるを/雷(かミなり)と名づけ、声なを/電(いなびかり)といふ。下 00064980M11にありてうごく時に地しんと名づくと、(六オ)さま+い 00064990M12へとも、これをとゞむる手だてハなし。 00065000¥N2¥J 00065010¥X二△/諸社(しよしや)の/神詑(しんたく)の事 00065020M15このたびの大地しんに、/貴賎(きせん)上下おどろきさはぎ、此ゆく 00065030M16すゑにハ、又いか成事か出きたらんずらんと、やすきこゝ 00065040M17ろもなし。京都はいふにをよばず、/田舎(ゐなか)/辺土(へんど)の村里/在郷(ざいがう)か 00065050M18たの/禿倉(ほこら)小宮までも、俄に神前の草をむしり、/灯明(とうミやう)をかゝ 00065060M19げ、/幣帛(へいはく)/御供(ごくう)をそなへ、/散米(ざんまい)/御酒(ミき)をたてまつり、猶そのう 00065070¥P197 00065080L1へに/湯(ゆ)をまいらせ、さま+に/追従(ついせう)いたし、このなゆやめ 00065090L2給へと、いのるほどに、神&の御たくせん、/日比(ひごろ)の/述懐(しゆつくわい)を 00065100L3仰せらるゝこそ(六ウ)まが+しけれ。大津の四の宮ハ、 00065110L4かたしけなくも/延喜(えんぎ)第四の/御子(ミこ)/弾(せミ)丸にておはしますとかや。 00065120L5宮もわらやもはてしなけれハとて、逢坂の関のほとりに引 00065130L6こもり、これやこのゆくもかへるもといへる名哥を詠し給 00065140L7ひけると也。のちに神といはひたてまつりて、四の宮と申 00065150L8して、れいけんあらたにおはしますとて、あがめまつる事、 00065160¥G 00065170M1今にたらず。このたび大津わたりハ、又ことさらにつよき 00065180M2大なゆふりて、人の家&、おひたゝしく/損(そん)じければ、これ 00065190M3只事にあらずとて、/産土所(うぶすなどころ)のものどもあつまりて/湯(ゆ)をまい 00065200M4らせ、/神(しん)(七オ)/慮(りよ)をすゞしめ奉る。五月四日の事なるに、 00065210M5/諸人(しよにん)市のごとくあつまりまうで、おかみ奉らんとす。すで 00065220M6に/湯(ゆ)ハたぎりて、玉のわきあがる事三尺バかり、/宜禰(きね)がつ 00065230M7ゞミのこゑたかく、松かせにひゞくふえのねに/和(くわ)し、/銅拍= 00065240M8子(とびやう=し)をならし、/調子(てうし)をそろへて相待ところに、年のころ/五十(いそぢ) 00065250M9にあまる/古神子(ふるミこ)の/頬車骨(ほうぼね)あれて色くろきが、/白髪(しらが)まじりの 00065260M10/鬘(かづら)をゆりさげ、白きうちかけしてねりいで、/鈴(すゞ)ふりあげ/拍= 00065270M11子(ひやう=し)とりて、/一舞(ひとまひ)かなでたるありさま、しミやかにいとたう 00065280M12とかりけれバ、諸人/随喜(ずいき)の涙をながす。かくて/舞(まひ)おさめつ 00065290M13ゝ、/御幣(ごへい)を(七ウ)とり、/湯釜(ゆがま)のほとりにさしかゝり、しば 00065300M14し祈念(きねん)して、/湯(ゆ)をかきまはし、御/幣(へい)の/柄(え)を引あげたれバ、 00065310M15/湯玉(ゆだま)とびあがりて、沸(わき)かへるいきをひすさまじかりける所 00065320M16に、/神子(ミこ)すでにうちかけをぬぎすて、/篠(さゝ)の/青(あを)葉の/束(たバね)たるを 00065330M17両の手にとりもち、/鼓(つゞミ)の/拍子(ひやうし)にあはせて、/二(ふた)あび三あびあ 00065340M18びければ、あつまりける諸人/感(かん)をもよをし、前なる人ハ手 00065350M19をにぎり、/後(うしろ)なるものハあしをつまだて、をの+/片津(かたづ)を 00065360¥P198 00065370L1のミて見けるほどに、/篠葉(さゝば)につきてとびちる/湯(ゆ)のしづくに、 00065380L2たへがたくあつかりければ、これにかゝらじともや+す 00065390L3る所に、俄に又大なゐふり出たり。諸人(八オ)きもをけし、 00065400L4立さはぎ、みたれあひ、ふみたをし、をしあひ、いとけな 00065410L5き子どもハ、こゑ+になきさけぶ。しばらくありてゆり 00065420L6しづまりぬ。/御湯(ミゆ)まいらせし/願人(ぐハんにん)をはじめ、又神前に立か 00065430L7へりてミれば、かの/神子殿(ミこどの)ハ人よりさきににげて、/拝殿(はいでん)の 00065440L8かたハらなる杉の木のうへにかけのぼり、色をうしなひけ 00065450L9るありさま、おそれまとひたる/体(てい)なりしが、ゆりしづまり 00065460L10ければ又をりくだり、/禰宜(ねぎ)どもをまねき、/太鼓(たいこ)をうたせ、 00065470L11/笛(ふえ)をふかせて、しばらく/湯(ゆ)をあびけるが、御たくせんこそ 00065480L12ありけれ。(八ウ)(九オ挿画) 00065490L13その御たくせんのこと葉にいはく、いかに/願人(ぐハんにん)よ+、只 00065500L14令/湯(ゆ)をくれて三/熱(ねつ)のくるしミのたすかりたるこそうれしけ 00065510L15れ、大なゆがゆりておそろしさに、/丸(まる)にいのりをかくるよ 00065520L16な、丸もさづかひをするぞ、只今もゆりたる地しんに、丸 00065530L17もおそろしくて杉の木へとびあがりたり、/氏子(うぢこ)どもの/強(こわ)が 00065540L18るハ/道理(だうり)かな、さりながら、丸が心をすいりやうせよ、/氏= 00065550L19子(うぢ=こ)どもを/随分(ずいぶん)まもらうとハおもへども、なゆのゆるたびに 00065560M1丸がむねがをどりて、まもりつめて/居(ゐ)られぬぞ、只その身 00065570M2+によく+用心をせよやとて、神ハあがらせ給ひけり。 00065580M3(九ウ)近江路ハことに大なゐふりければ、こゝにもかしこ 00065590M4にも、小宮/小社(こやしろ)まで/在所(ざいしよ)+より/湯(ゆ)をまいらせていのりを 00065600M5かくるに、/社(やしろ)ハ替り在所ハちがへども、/神子(ミこ)ハ四の宮の神 00065610M6子只一人なり。こゝかしこへやとハれて、御たくせんをお 00065620M7ろし奉るに、大かたおなし事なり。大津かいだう/山科(やましな)わた 00065630M8り、/諸羽(もろはの)大明神に/湯(ゆ)をまいらせしに、四の宮の/神子(ミこ)をやと 00065640M9ひて御たくせんおろし奉る。すでに/湯(ゆ)をあびをハりて、や 00065650M10がて御たくせんあり。いかに/氏子(うぢこ)どもよくきけ、この年月 00065660M11日ごろハ丸をあるものかともおもはず、/社壇(しやだん)も/拝殿(はいでん)もこを 00065670M12れかたふき、庭にハ草のミ/生茂(おひしげ)り、(十オ)まことに、さび 00065680M13しさいふはかりなし、まうでくる人もなく、とうミやうを 00065690M14かゝくることもなし、いはんや/神楽(かぐら)などハ、まつりの日よ 00065700M15り外にハきかず、/御供(ごくう)もその日のまゝにてそなふることな 00065710M16し、あまりのさびしさにハ、鳥井のもとに立出て、/往来(わうらい)の 00065720M17旅人をミてこゝろをなぐさむバかり也、日ころかけたる/絵= 00065730M18馬(ゑ=むま)どもハ、雨露にさらされ、/絵(ゑ)のぐはげてのるべきやうも 00065740M19なし、いづかたに何事のあれバとて、かけいづへきたより 00065750¥P199 00065760L1をうしなひ、れき+の神たちにあなづられ、をとしめら 00065770L2るゝハ、みな/氏子(うぢこ)どもの/所為(しわざ)ぞかし、かやうの折から/述懐(しゆつくわい) 00065780L3をせずハ、今より後も(十ウ)丸をすてものにすべし、それ 00065790L4に只今めづらしき/湯(ゆ)をくれて、しばらく三/熱(ねつ)のくるしみを 00065800L5たすかり、こゝろもすゞやかにおぼえたり、このほとの地 00065810L6しんがおそろしさに、俄にをかぬものを尋るやうに丸が所 00065820L7へ来りて、たのミをかくるかや、地しんのゆるたびに、/社(やしろ) 00065830L8も/拝殿(はいでん)もくづれさうにてきづかひなれバ、これをくづされ 00065840L9てハ、重ねて立てくるゝものハあるまじ、いかにもしてく 00065850L10づさじと用心にひまがなけれバ、湯をくれたるハうれしけ 00065860L11れども、なゆの事ハ丸がちからわざにならぬぞ、只用心を 00065870L12よくせよとて、神ハあがり給ひぬ。/氏子(うぢこ)どもハ、用心をせ 00065880L13よとの(十一オ)御たくせんなり、用心をせずハ/罸(ばち)あたるべ 00065890L14し、御たくせんにしたがひて、いざや用心して神の心をい 00065900L15さめよとて、竹のはしら/薦(こも)ぶきの小屋をかまへて、うつり 00065910L16すみけるありさま、俄に/乞食(こつじき)のあつまりたるにたがハず、 00065920L17見ぐるしき事共也。 00065930L18西の京/紙屋(かミや)川のほとり、/橘地(きちぢ)の天皇に/湯(ゆ)をまいらせしかば、 00065940L19御たくせんの事おはしましけり。いかに/氏子(うぢこ)ども、かくあ 00065950M1ハたゝしき中に/湯(ゆ)をくれて、身のくるしミをやすむるのミ 00065960M2ならず、心のすゞやかになりたるこそうれしけれ、されば 00065970M3このほどの大なゐに、氏子どものきもをつぶすらんと、や 00065980M4すき(十一ウ)こゝろもなく、大/社(しや)の神&/達(たち)に尋ねまいらせ 00065990M5しが、むかしもかやうにゆりそめてハ、久しくゆりたるた 00066000M6めしあり、さりながら、/別条(べちでう)あるまじとハおもへども、そ 00066010M7れもしらずと仰せられし也、氏子どもよ、只用心せよ、用 00066020M8心といふは、別の事にハあらず、/軒(のき)ぐちハ/襲(をそひ)の石がおつる 00066030M9ものぞや、小家ならバ/築張(つゐはり)をせよ、地が/裂(さけ)さうならば、/戸= 00066040M10板(と=いた)をしくべし、/戸障子(としやうじ)をさしこめてハ、かたふきてハあか 00066050M11ぬものぞ、夜るも/昼(ひる)もあけはなしにせよ、おさなき/子(こ)ども 00066060M12ハ、おびえて/驚風(きやうふう)がおこるものぞ、/虫薬(むしぐすり)をのませて、すか 00066070M13しなぐさめよ、家がくづれさうならバ、はやくにげ出よ、 00066080M14(十二オ)/瓦(かハら)ぶきの家又ハ/土蔵(どざう)の/戸前(とまへ)などは、心をつけて/機(き) 00066090M15をゆるすな、火の用心をよくせよ、かやうの時ハ、うろた 00066100M16へて/火事(くハじ)ゆくものなり、丸がをしへにしたがハゞ、あやま 00066110M17ちハあるまじきぞ、よくまもらんとハおもへども、あまた 00066120M18の/氏子(うぢこ)なれバ、見はづす事もあるへし、見わするゝ事もお 00066130M19ほかるへしと、御たくせんしミやかに、諸人こゝろをすま 00066140¥P200 00066150L1し、耳をかたふけてうけたまハる所に、又おびたゝしくど 00066160L2う※とゆりいでしかば、/神子殿(ミこどの)ハ色をうしなひて、やし 00066170L3ろのうへにかけのぼり、神ハあがらせ給ひけり。あらたに 00066180L4たしか成御たくせんかなとて、氏子共ハ(十二ウ)手をあは 00066190L5せておかみたてまつるもいとたうとし。又かやうの事ハ、 00066200L6御たくせんまてもなし、いかなるものも心得たる事也、さ 00066210L7るめつらしからぬ御たくせんかなと、つぶやきわらふ人も 00066220L8ありけり。その外京/田舎(ゐなか)なゐのふりける所&ハ、俄にそこ 00066230L9+の神前をきよめ、いのりをかけて、御たくせんをおろ 00066240L10し奉る事さま+なり。 00066250¥N3¥J 00066260¥X三△/妻夫(めをと)いさかひして/道心(だうしん)おこしける事 00066270L13そのころ、都のうちに俄道心おこして、浮世をめぐる/痴= 00066280L14者(しれ=もの)あり。ミづから/新房(あたらしばう)とかや名をつきて、かたのごとく 00066290L15/機(き)まゝなるだうけものなり。五月四日ハ(十三オ)大事の日 00066300L16にて、なゐふりつゝ、大地がさけて/泥(どろ)の海になるか、しか 00066310L17らずハ、火の雨がふりて一めんにやけほろぶるか、いかさ 00066320L18ま世の中/滅(めつ)すべき/境目(さかひめ)也といひはやらかす。京中の/貴賎(きせん)上 00066330L19下聞つたへ、/血(ち)の涙を流しておそれかなしむもあり。又い 00066340M1かなる事にもさやうにハあるましきぞやといふものも有け 00066350M2り。ある町人の/身上(しんしやう)もまづしからず、ともかうもしてすみ 00066360M3けるもの、此沙汰をきくにおそろしさかぎりなく、手ふる 00066370M4ひ、足わなゝき、目くらみ、むねおどりて、うつゝ心にな 00066380M5りしかとも、男たらんもの色にいたしておそれまどハゞ、 00066390M6人のためわらハれんも口おしく(十三ウ)おもひて、さらぬ 00066400M7やうにてふせり/居(を)る。今やゆりいでゝ/泥(どろ)の海になるらん、 00066410M8火の雨ふるべきかとおもひける所に、/案(あん)のごとく/未(ひつじ)のこく 00066420M9ハかりに、北のかたよりどう+となりひゞき、しきりに 00066430M10大なゐゆりいでければ、すはや今こそ/草木(さうもく)/国土(こくど)/人(ひと)も鳥も 00066440M11けだものも、みな一/同(どう)に成仏する也、もしやのがるゝ事も 00066450M12あり、あしにまかせてにげてみよやとて、/妻(つま)の女房が手を 00066460M13ひつたて、みなミをさしてかけゆきつゝ、七条川原に出 00066470M14たり。かくてゆりやみければ、しばらく心をしづめてつら 00066480M15+見れば、手をひきてうちつれにげたるは、妻の女房に 00066490M16ハ(十四オ)あらで、さしもなき/熊野比丘尼(くまのびくに)の地しんにおそ 00066500M17れてにげこみたるを、/是非(ぜひ)なく手を引て、七条川原までに 00066510M18げきたりぬ。くちおしき事かな、さこそ人のわらひ/種(ぐさ)にな 00066520M19るへしと、おもひつゞけて、我ながらをかしく、日くれか 00066530¥P201 00066540L1たに家にかへりしかバ、妻の女房大に/腹(はら)をたて、日ごろそ 00066550L2なたの思ひ給ひけるしるしにハ、我をば打すてゝ、/癩尼(かつたいあま)が 00066560L3手をひきてにげ出給ふはらたちさよ、その/焼尼(やけあま)と/来世(らいせ)まで 00066570L4もそひ給へ、我にハ隙をあけて、/入婿(いりむこ)なれバ出ていねとて、 00066580L5ふりくすべければ、おとこのいふやう、人たがへといふ事 00066590L6ハ、ためしなき事か、わごぜかとおもひてとり(十四ウ)ち 00066600L7がへたり、それをふかく/腹立(はらたつ)ハ、/吝■(りんき)なり、わがよむ哥を 00066610L8きかしませとて、 00066620L9△△なゆよりもつまにふらるゝくるしさに 00066630L10△△△きげんなをしといふは世なをし 00066640L11といへば、女房いよ+/腹(はら)をたて、何の哥どころぞ、聞た 00066650L12うもなし、今ハこれまでなり、その/尼(あま)が所へゆかしませと 00066660L13てつきいだす。けしかる地しんのぞめきに、とりさふる人 00066670L14もなし。男ちからなく出るとて、/門柱(かどバしら)かきつけゝる、 00066680L15△△出ていなば心かろしといひやせん 00066690L16△△△このいさかひを人ハしらねば(十五オ) 00066700L17涙とゝもに追出され、今ハ世にすむべき/甲斐(かひ)ハなし。俄に 00066710L18/髪(かミ)をそりて、こゝろもおこらぬ/青道心(あをだうしん)をおこし、こゝかし 00066720L19こしれる人のもとにたちよりて、きのふけふとするほどに、 00066730¥G 00066740M12水無月/文月(ふづき)ハすくれども、なゆの名ごりはいまだやまず。 00066750M13そのあひたに国&所&をめぐりて、このたびのなゆにてく 00066760M14づれそんぜしありさま、こまかに見聞つゝかたり侍へりし 00066770M15こそ、たしかなれ。(十五ウ)(十六オ挿画) 00066780¥N4¥J 00066790¥X四△なゆといふ事付/東坡(とうば)の/詩(し)の事 00066800M18ある人尋ねけるハ、地しんをなゆといひならハし、又ハな 00066810M19ゐともいふ、いづれか/本(ほん)ぞと/問(とひ)けれバ、/新房(あたらしばう)、まかり出て 00066820¥P202 00066830L1こたへけるハ、やいゆゑよは五/音(いん)の/横(わう)/相通(さうつう)なれば、いづれ 00066840L2もおなじこゝろ成へし、どう+と/鳴(なり)て地のゆるといふ/義(ぎ) 00066850L3也、/鳴(なり)ゆるゆへになゆといふ、又家も草木のなびきてゆる 00066860L4故に、なゆと名づく、なゆのふるといふもおなじくうごく 00066870L5義也、地しんのするも月によりて/吉凶(きつけう)あり、/東坡詩集(とうばのししう)にみ 00066880L6えたりとて、ある人かたられしとてうつしもちたり、これ 00066890L7見給へとてよむをきけば、(十六ウ) 00066900L8△△民衰春火大旱至△△二五八龍高賎死 00066910L9△△六九一金穀米登△△七十二帝兵乱起 00066920L10このたびの地しんハ、五こくゆたかに民さかゆべきしるし 00066930L11也、いにしへ/聖王(せいわう)の/御世(ミよ)とても、もろこしわが/朝(てう)のあひだ、 00066940L12天地/陰陽(いんやう)五/行(ぎやう)の/災変(さいへん)なきにしもあらず、今もつてかくのこ 00066950L13とし、さのミにあやしむべきことにあらず、いはんや四海 00066960L14たいらかにおさまりたる世の中、何かこれほどの事にゆく 00066970L15すゑまでのさとしとして、けしかる事といふべきや、/俗説(ぞくせつ) 00066980L16に、五/帝(て)/龍王(りうわう)、この/世界(せかい)をたもち、/龍王(りうわう)いかる時ハ、大地 00066990L17ふるふ、/鹿嶋(かしまの)明神かの五/帝(てい)/龍(りう)をしたがへ、(十七終オ)/尾首(おかしら)を 00067000L18一所にくゞめて、/鹿目(かなめ)の/石(いし)をうちをかせ給ふゆへに、いか 00067010L19ばかりゆるとても、/人間世界(にんげんせかい)は、めつする事なしとて、む 00067020M1かしの人の哥に、 00067030M2△△ゆるぐともよもやぬけじのかなめいし 00067040M3△△△かしまの神のあらんかぎりハ 00067050M4この/俗哥(ぞくか)によりて、地しんの/記(き)をしるしつゝ、名づけて/要= 00067060M5石(かなめ=いし)といふならし。(十七終ウ) 00067070¥P203 00067080¥U噺本大系△第三巻 00067090¥T竹斎はなし 00067100¥G 00067110¥Y 00067120L16寛文十二年頃刊 00067130L17作者未詳 00067140L18上中下三巻 00067150L19水戸彰考館蔵 00067160¥Y竹斎はなし巻之序 00067170M3こゝに/上京辺(かミきやうへん)に、やぶぐすしの/竹斎(さくさい)とて、けうがるやせ 00067180M4/法師(ほうし)ありけるが、/学文(がくもん)人にこへて/医者(いしや)の/道(ミち)もかうしやなり。 00067190M5しかあれども少心のをとけたれば/一生(いつしやう)のあひた/心(こゝろ)をうから 00067200M6かし、うきにうひたるひやうきんの/名(な)とりし。/羽(はね)なくして 00067210M7/飛(とび)ありき、人の心をなぐさめて、我も又をのづから/世(よ)のう 00067220M8きつらきもわすれて、/身(ミ)の/上(うへ)たのしミはきけんじやうも、 00067230M9そりやそこのけといはんばかりの/法師(ほうし)なり。就中此遊楽ニ 00067240M10付さま+おかしき(一オ)/物語(ものかたり)侍んへれは、ほうぐのうら 00067250M11に是をうつしとゞめ、ひとりぬる/夜(よ)のなぐさミによみて/見(ミ) 00067260M12れは、いやはやかたはらいとうして、とんぼうがへりをせ 00067270M13る心ちあり。かほとおかしき/物語(ものかたり)を、我一人見るへくもあ 00067280M14まりむけにおもひて、寛文十二/壬子(ミつのへね)ノ/年(とし)十一月五日の/初子(はつね) 00067290M15の/夜半(やはん)に、/燈心(とうしん)をかゝけてねやの内より/書(かき)出し侍りしが、 00067300M16/世(よ)のそしりをもかへり見ず、/板(いた)におこしてわらハべのねさ 00067310M17まし/草(くさ)ともなりなんかし。(一ウ) 00067320¥P204 00067330¥Y1竹斎はなし巻之上△目録 00067340L3第一△/竹斎(さくさい)/夜食(やしよく)の事 00067350L4第二△竹斎念仏の事 00067360L5第三△同うらおもてせんきの事 00067370L6第四△同からかさと/棒(ばう)と取ちかゆる事 00067380L7第五△同/鼠(ねずミ)をとらんとて/猫(ねこ)をとる事 00067390L8第六△同下女と/行違(ゆきちかふ)事 00067400L9第七△同小判をもらハるゝ事 00067410L10第八△同きせりに火ふき竹をする事 00067420L11第九△同たばこの事 00067430L12第十△同/勧進能(くハんじんのう)/見物(けんぶつ)の事(二オ) 00067440L13第十一△竹斎むかし物語の事 00067450L14第十二△同/清水(しミづ)惣右衛門所をおしゆる事 00067460L15第十三△同/俗人(ぞくじん)の時山本又右衛門といふ事 00067470L16第十四△同/火事(くわじ)におどろく事 00067480L17第十五△同/火事(くわじ)の事 00067490L18第十六△同ぎをんまいりの事 00067500L19第十七△同すりきり/迷惑(めいわく)する事 00067510M1第十八△同下かんれうじの事 00067520M2第十九△同/下帯(したおひ)/落(おとす)事 00067530M3第廿△同ばゝに/夢(ゆめ)物語の事 00067540M4第廿一△同/他行(たぎやう)しけるにいたち/道(ミち)をきる事(二ウ) 00067550M5第廿二△竹斎ほたもちをほしぬすまるゝ事 00067560M6第廿三△同かやつりて/外(そと)にねる事 00067570M7第廿四△同わたの中へはいりねる事 00067580M8第廿五△同/盗人(ぬすひと)に/出合(てあふ)事 00067590M9第廿六△同盗人の事 00067600M10第廿七△同/去方(さるかた)よばれ/行(ゆき)て/膳(ぜん)に有に物をかくす事 00067610M11第廿八△同/振舞(ふるまひ)に/行(ゆく)事 00067620M12第廿九△同/銭(ぜに)の/異名(いミやう)を付る事 00067630M13第卅△同ぜにの事 00067640M14第卅一△かうじんはらひ竹斎/方(かた)へ来る事 00067650M15第卅二△/或人(あるひと)来り竹斎/子(こ)と/嘲(あさける)事并竹斎大にせく事(三オ) 00067660M16第卅三△竹斎/棒(はう)と/杖(つえ)と取ちかゆる事 00067670M17第卅四△竹斎をどりに出る事 00067680M18第卅五△同/或病人(あるひやうにん)/尋(たつね)来るに/自身(じしん)/留主(るす)をつかふ事 00067690M19第卅六△同はじめて/法躰(ほつたい)の時の事 00067700¥P205 00067710L1第卅七△同ちやうちんをとぼしれうしに/行(ゆく)事 00067720L2第卅八△同あしを引れうしに出る事 00067730L3第卅九△同/氷(こほり)を/見(ミ)て/餅(もちゐ)といはるゝ事 00067740L4第四十△同/人参(にんじん)の事をしうくにいはるゝ事(三ウ) 00067750¥T1竹斎はなし巻之上 00067760¥N1¥J 00067770¥X第一△/竹斎(ちくさい)/夜食(やしよく)の事 00067780M5○ある/夜(よ)竹斎、とぜんの事ありて、夜食せんとおもひて、 00067790M6おばゝをゆすりおこされけれとも、あらさむやむつかしと 00067800M7ておきさりけれハ、ちから及ず/自身(じしん)ぜんだなにかゝり、た 00067810M8なのつり木をとらへて、ゑい+といふてのびあがり、め 00067820M9しびつをおろさんとするに、折ふしつり木をれて、ぜんだ 00067830M10なくハら+くわつとおちければ、竹斎きもをつぶして、 00067840M11よなをし+南無ぜんたなの大明神といはれた。 00067850¥N2¥J 00067860¥X第二△竹斎ねんぶつの事 00067870M14○ある時竹斎しやうごをたゝき、/念仏(ねんぶつ)を申されけるに、後 00067880M15にハしこりかゝつて、そりやそこ+へと、ひた物あせ水 00067890M16をながして申されけれハ、おばゝきかれてうしろより、そ 00067900M17れハ何事をいはるゝそ、しつかいまつんぢよのやうにとい 00067910M18はるれバ、竹斎うしろむきて、今(四オ)のたぬきのはらつ 00067920M19ゝミ、打ころするハいとやすけれと、おもしろさにたすけ 00067930¥P206 00067940L1てとらす++と、ひやうしにかゝりて申された。 00067950¥N3¥J 00067960¥X第三△うらおもてせんきの事 00067970L4○ある夜竹斎ちけいのあまりに、うらおもてのせんさくを 00067980L5しけれハ、おばゝきかれて、うら切をせられんよりハうし 00067990L6にはぢかれたかましじや物、といはれけれハ、竹斎聞て、 00068000L7いや、うしでハなひ、/馬(むま)じや+といふて、つゐにうらよ 00068010L8りしまハれた。 00068020¥N4¥J 00068030¥X第四△竹斎からかさの事 00068040L11○ある夜竹斎ねられて/後(のち)、/雨(あめ)はら+とふりてとをりけれ 00068050L12は、竹斎きもをつぶし、南無三ぼう、ねすミめがからかさ 00068060L13をかぶるといひて、まるはだかにておきあがり、からかさ 00068070L14かけに手をかくるに、折ふしそばによりばうのかけてあり 00068080L15ければ、是をからかさと心得、よりばうを取て、なむ三ぼ 00068090L16うほねまでくらふたといはれた。(四ウ)(五オ挿画) 00068100¥N5¥J 00068110¥X第五△竹斎ねすミとる事 00068120L19○ある時竹斎、ねずミ夜ことにあれければ、ちととらはや 00068130M1とおもひて、ぢごくおとしをかけてをきければ、/鼠(ねすミ)ハかゝ 00068140M2らすして/猫(ねこ)がかゝりてありければ、竹斎見られて、さても 00068150M3+大き成ねずミかな、しつかいねこのやうにといふて、 00068160M4大だうへすてられけるが、/道行(ミちゆき)人か是を見て、ねこをすて 00068170M5たといひければ、竹斎是に/気(き)がつきて、よく+見れハ我 00068180M6かひけるねこにてぞ有。 00068190¥N6¥J 00068200¥X第六△竹斎下女の事 00068210M9○竹斎れうしに出られけるに、むかふよりみめ/能(よき)下女来り。 00068220M10をれハ少ほのじとやおもハれけん、ゆきちがふひやうしに、 00068230M11そでをちくと引けれハ、下女はらをたてゝ、あらしやらく 00068240M12さのしにばうずやといひければ、竹斎きゝて、しやらくさ 00068250M13きこそたうりかな、いふでハなひが、ことしまだぎやうず 00068260M14いせぬといはれた。 00068270¥N7¥J 00068280¥X第七△竹斎小判をもらハるゝ事(五ウ) 00068290M17○あるとし竹斎、/年玉(としたま)として、方&よりおこし小判をもら 00068300M18ハれけるに、竹斎/友(とも)の所へ/行(ゆき)て、ことしハ我等/仕合(しあハせ)にて、 00068310M19方&より小判か来る、しぜん其方つかひ/用(よう)の事あらバ、取 00068320¥P207 00068330L1におこさしめといひてかへる。ともあとにておもふやう、 00068340L2さあらバ四五両ばかりあづかりて、まハさばやとおもひ、 00068350L3おつ付竹斎所へ行て、さき程の小判四五両あづかりたきと 00068360L4いへば、/早&(さう+)の御出何よりもやすき事といひて、取いだす 00068370L5を見れは、おこし小判て有けり。 00068380¥N8¥J 00068390¥X第八△竹斎たばこのむ事 00068400L8○竹斎/友(とも)の所へ行て、きせりを取あげ、たばこをのまんと 00068410L9せられけるに、はいふきへ手を入て、さても是ハしるきた 00068420L10ばこかなといはれけれバ、/亭主(ていしゆ)是をミて、それハはいふきじ 00068430L11やといはるれば、竹斎きひて、そんならさうじやとはじめ 00068440L12からおもしやらひで、人に手をとらする人しやといはれた。 00068450¥N9¥J 00068460¥X第九△同たばこの事(六オ) 00068470L15○竹斎/元来(くハんらい)たはこすきにて、きせりさへ取あぐれバはなす 00068480L16といふ事もしらず。ひた物にのミて/四方山(よもやま)の/咄(はなし)をして、き 00068490L17せりをはなさゝりけれバ、そばにありあふ人&/気毒(きのどく)に思ひ、 00068500L18折ふしそばに/火(ひ)ふき竹の有けれハ、そつとぬきかへ取けれ 00068510L19共、竹斎それともしらず、きせりかとおもひ、/口(くち)にをしあ 00068520¥G 00068530M13てすハんとして、いまゝであつたがんくびすいくちが見へ 00068540M14ぬといはれた。 00068550¥N10¥J 00068560¥X第十△竹斎のう見物の事 00068570M17○ある時竹斎くわんじん/能(のう)を/見物(けんぶつ)せられけるに、ゆやのは 00068580M18しまる時分せうやうにたゝれけるに、ひへ物じや御めんあ 00068590M19れとて、おしわけ+とをられけれバ、見物のかた+申 00068600¥P208 00068610L1けるハ、しつかいゆやのれいきしやといへバ、竹斎きゝて、 00068620L2何とゆやでハなひか、あのむねもりがつらを見よ、ゆやを 00068630L3するといはれた。 00068640¥N11¥J 00068650¥X第十一△竹斎むかし物かたりの事 00068660L6○ある時竹斎まご/子(こ)共をあつめて、むかし物語をせられけ 00068670L7るに、(六ウ)(七オ挿画)むかし+有所におうぢとうばか 00068680L8あつたとの、おうぢハ山へしばかりに、うばハ川へせんだ 00068690L9くにといはれければ/孫(まご)や子共が聞て、何にてもこわいはな 00068700L10しがきゝたいといへば、心得たりとて、むかし/弁慶(べんけい)かまだ 00068710L11殿、よるひるくまのへ参るとて、さがりの松に/火(ひ)をとぼす、 00068720L12とほせと+ひかりなし、/誠(まこと)ひかりのなきならハ/切(きり)てくれ 00068730L13う+といふて、おばゝのせなかをほうどたゝかれたれバ、 00068740L14おばゝ大きにはらをたてゝ、其まゝ/火(ひ)ばしをあかめて、さ 00068750L15るがしりハまつかひなといふて、竹斎のしりをまくりて、 00068760L16ちり+とあてられた。 00068770¥N12¥J 00068780¥X第十二△しミづ惣右衛門はなしの事 00068790L19○さる/田舎(いなか)もの、/清水(しミづ)惣右衛門と/書(かき)付たる/状(じやう)ばこを/持来(もちきた)り 00068800M1て、竹斎に見せて尋けれハ、竹斎きよ/水(ミづ)の惣右衛門とよミ 00068810M2て、きよ水のかたへ、ことねん比におしへける。かのい 00068820M3なかものうれしがり、一/礼(れい)を申てきよ水の/坊(ばう)へ尋行て、き 00068830M4よ水の惣右衛門+といふて、ひた物/坊中(はうぢう)をたづねける。 00068840M5そのとき五十ばかりの/男(おとこ)(七ウ)ふた+と出て、何じやと 00068850M6いへば、そなたか/惣(そう)かといふた。 00068860¥N13¥J 00068870¥X第十三△竹斎はじめて/名字(ミやうじ)を付るゝ事 00068880M9○竹斎/俗人(ぞくじん)の時ハ山本又右衛門といひしか、有時/貴人(きにん)の/前(まへ) 00068890M10に出られしに、/貴人(きにん)申されけるハ、其方の/名(な)ミやうじハ何 00068900M11といふぞととハれけるに、竹斎我名字をはたとわすれて、 00068910M12/返答(へんたう)にさしつまりけるか、折ふしえんさきを見れバせんす 00068920M13い有。/泉水(せんすい)のはたよりかいる一つ、水の中へどんぶりとと 00068930M14みこミけれハ、やがて其まゝ、とんぶり又右衛門と申され 00068940M15ける。其時貴人申されけるハ、扨も+めづらしき/名字(ミやうじ)か 00068950M16な、もじにハ何とかくぞとあれバ、かいる/水(ミづ)へ入とかくと 00068960M17申された。 00068970¥N14¥J 00068980¥X第十四△竹斎火事におどろく事 00068990¥P209 00069000L1○ある夜/火事(くわじ)出来して、はやがねなりければ、町の夜ばん 00069010L2ふつとをきて、よりばうをつえにつき、はやがねかやける 00069020L3+といふてとびありきければ、竹斎もねミゝにふつと入 00069030L4て、はやかねハどこじや、しよまふかやけるかといはれた。 00069040L5(八オ) 00069050¥N15¥J 00069060¥X第十五△同火事の事 00069070L8○竹斎/近所(きんじよ)に/火事(くわじ)出来しけれバ、/去人(さるひと)竹斎へ/見舞(ミまひ)に/来(きた)りて、 00069080L9/先(まつ)もつて/火(ひ)もとちかくてめでたしといへば、竹斎はらを/立(たて) 00069090L10て火もとがちかくて/目出度(めてたく)ハ、あの/焼毛(じやうもう)をかたげていねよ 00069100L11といわれた。 00069110¥N16¥J 00069120¥X第十六△竹斎ぎをんまいりの事 00069130L14○有時竹斎ぎをんどのへ参られしか、六十ばかりのおばゝ、 00069140L15けつかう成/衣装(いしやう)をき、はゞのひろき/帯(おび)をして、しりをもつ 00069150L16たてゝおかミける。竹斎其まへを通り、扨もうまさう成し 00069160L17り付かなとほめられけれハ、おばゝよろこび、其まゝしり 00069170L18もちを二つ三つついて、/望(のぞミ)ならハ/少(ちと)まいれといはるれハ、 00069180L19竹斎もこらへかねて、ほうどかぶり、しばらく有て、扨も 00069190¥G 00069200M13よひきミやといはれた。 00069210¥N17¥J 00069220¥X第十七△竹斎すりきりめいわくする事 00069230M16○ある/年(とし)竹斎れうしもはやらず、殊にみせのむし/薬(くすり)もうれ 00069240M17ず。とやせんかくやとあんずる所に、あまつさへ/世界(せかい)ひで 00069250M18りにて、はちぼく(八ウ)天ぢくまでもあがる。其さうをう 00069260M19にしたかひて、むぎ、まめ、ひぢき、からこのかす、りや 00069270¥P210 00069280L1うぶとうに至るまで、あがらぬ物とて一つもなし。竹斎も 00069290L2何とぞして/食(くひ)つゞけたく思ひ、してう、かたびら、つゞれか 00069300L3みこ、ふんどしまではづして、皆一六やにあづけて、口の 00069310L4れうじをせられしに、ほとなくしはす大晦日にも成にける。 00069320L5其時おばゝ竹斎に申されけるハ、先今日までハとやかくと 00069330L6して、物うき/年(とし)をバくらせしが、けふハはや大晦日、/元日(くハんにち) 00069340L7ハあす成、からこのかすはあがりてかハれず、何をもつて 00069350L8/年(とし)をとらふぞと、あつき/涙(なミた)をな/な((ママ))がさるれば、竹斎聞て、 00069360L9まことに世に有人&ハ、きるいはき物こしらへて、正月ぐ 00069370L10わちと、ぐわちめきて、/餅(もち)よ/酒(さけ)よといはるれど、此竹斎ハ 00069380L11すり/切(きり)て、はうきですつきりはいたれば、いなふか、もと 00069390L12らふか、とほふかと思へハ、/一(いつ)さい心か/月(くわち)めかぬといはれた。 00069400¥N18¥J 00069410¥X第十八△竹斎けかんれうしの事 00069420L15○びぜん/者(もの)けかんけ/煩(わつらひ)て竹斎にれうじを/頼(たのミ)けれハ、心得た 00069430L16(九オ)り、/先&(まつ+)見やうずるとて見られけるに、たいはひの 00069440L17見事さ、まことにびぜん物と見えたり。むけバきらずちる 00069450L18程の大やきばなれば、いか成びぜんのすりばち成とも、/只(たゝ) 00069460L19一こくにすりハらん、あたら見事の打物を、やすきとぎや 00069470M1にとがせつゝ、むきづの物にきづを付、きつさきにしミぞ 00069480M2有、何とぞしてなをさんとて、かうやくを取出し、ひた物 00069490M3に付たれと、ちたいとをりししミなれは、ぜん+にひろ 00069500M4がりて、所&にくち入て、ねながらくつとおちにけり。さ 00069510M5れともおともハのこりけるとそ。 00069520¥N19¥J 00069530¥X第十九△竹斎ふんどしおとさるゝ事 00069540¥8○竹斎れうしに出られけるに、何とかしてふんどしのむす 00069550¥9びとけて、そろ+とひきづられけれハ、ばかもの是を見 00069560¥10て、/跡(あと)よりじつとふミければ、次第にぬけておちニける。 00069570¥11取あげて見れハ、百年ばかりにも成さうなるふるふんどし 00069580¥12の、しハらくさきて有ければ、はなをしかめて、のふ+ 00069590¥13御ばう、ふんどしがおちたといひ(九ウ)(十オ挿画)けれハ、 00069600¥14ちくさいたちかへり見て、是ハおれがでハ有まひ、いかふ 00069610¥15むさいといふて、/鼻(はな)をふんどして、すてゝにげられた。 00069620¥N20¥J 00069630¥X第廿△竹斎ばゝに/夢(ゆめ)物がたりの事 00069640M18○竹斎/有夜(あるよ)/夢(ゆめ)をミておばゝに申されしハ、こよひこハきゆ 00069650M19めを見たが、さてもなんぎなめにあふた、先かたりてきか 00069660¥P211 00069670¥G 00069680L13せんとて、おはゝの/耳(ミゝ)もとへ口をよせて、はなされけるこ 00069690L14そおかしけれ。まづおばゝおきゝやれ、ゆふべの夢に、い 00069700L15づくともなく山かつの来りて、それかしにいふやうハ、お 00069710L16じやいかふ山へいかふといふ程に、それがし/返答(へんたう)に、山の 00069720L17/道(ミち)にハじやか有といへば、じやがあらふとまゝよといふて、 00069730L18つれ立てゆきけるに、あんのごとく、しやたい来りて、そ 00069740L19れかしをのまんとする、時にそれがし、さすがをぬひて待 00069750M1かけたれハ、まつくろにはせ来りて、それがしをつつとの 00069760M2む、のまれてこゑの出ざれば、それがしゐんろうよりちり 00069770M3薬を取出し、じやばらにとろりとぬりければ、じやたいハ 00069780M4きへて、うらゝ計に成と思へハ夢さめけり。(十ウ) 00069790¥N21¥J 00069800¥X第廿一△竹斎他行しけるいたちに道をきらるゝ事 00069810M7○ある時竹斎/縁辺(えんへん)の事ありて、其もとへゆかれけるに、い 00069820M8たちひよつと出て、あなたこなたへ/通(とを)り/道(ミち)をずんど切けれ 00069830M9ば、竹斎是を見て、南無三ぼういたちめに道をきられた、 00069840M10きつけうわるき事かな、何とぞして打ころさんとおもひて、 00069850M11いたち見め/しよ((ママ))あしたこひ、かほ見やうといふてよばハり 00069860M12ければ、又いたちき/□((よカ))ろ+として出にける。竹斎とひか 00069870M13ゝつて、打ころさんとするに、いたちもさいごとやおもひ 00069880M14けん、大き成へをこひてにけけれは、竹斎はなに手をあて 00069890M15ゝ、なんばうのへをかいたれども、此やうなくさいへハ、 00069900M16いまがはじめじやといはれた。 00069910¥N22¥J 00069920¥X第廿二△竹斎はきのはなをほしぬすまるゝ事 00069930M19○竹斎所へ七月に、しやうれうまつりのはぎのはな、方& 00069940¥P212 00069950¥G 00069960L13よりきたりけれハ、こゝをせんとしよくせらるゝか、大分 00069970L14よりし事なれハ、くひ残しあまたありけるが、竹斎おもハ 00069980L15れけるハ、是を(十一オ)ほしてをきて、秋の夜のちやのこ 00069990L16にせんとおもひ、むしろをひろげ、うらの口にほしけれバ、 00070000L17あたまのくろきねずミ共が、そろ+と引けれハ、むしろ 00070010L18計ぞ残しける。竹斎是をミて、是たゞことにあらしとて、 00070020L19たいこかねを打ならして、かへせ+、はぎのはなかへせ 00070030M1といひて、とんづはねつおどられければ、あたりの者ども 00070040M2出合て、何がなひぞといへば、さればこそ、はきのはなか 00070050M3まよい子になつて見へぬといへば、是かとて、たもとより 00070060M4めん+にさし出せは、竹斎たいこかねを/□((うカ))ちすてゝ、こ 00070070M5/□((とカ))+請取て、せとかとに物がつんとほされぬ、□うんき 00070080M6のどくじやといはれた。 00070090¥N23¥J 00070100¥X第廿三△竹斎かやをつりねる事 00070110M9○竹斎なつの夜の事成に、かやをつらせてねられけるに、 00070120M10やぶれかやの事なれは、ぞんの外にかゞ入て、竹斎を大き 00070130M11にすいければ、とかくそとかましさうなといひて、やかて 00070140M12かやのそとへ出てねられける。誠におろかなる竹斎や、や 00070150M13ふれ(十一ウ)(十二オ挿画)かやをつりてだにも、内におほく 00070160M14かのあるに、何が/外(そと)の事なれバ、ばいも二ばひもかゞあり 00070170M15て、ぶ&いひてくひければ、ゐんぐわな事や、うちにも/外(そと) 00070180M16にもねられぬとて、えんの/下(した)へはいりけり。 00070190¥N24¥J 00070200¥X第廿四△竹斎わたの中へはいりねる事 00070210M19○ふゆの事成に、竹斎のおばゝ打わたをかふて、二かいに 00070220¥P213 00070230L1あげてをかれけるに、竹斎さむさのまゝに、かのわたの中 00070240L2へぐすとはいりて、あたゝかさのあまりにや、いびきをか 00070250L3きてねられけるが、時におばゝ、竹斎の見へられぬとて二 00070260L4かいへゆき、竹斎+とよハれければ、こゝにあたゝまつ 00070270L5ているとて、丸はだかて出られた。 00070280¥N25¥J 00070290¥X第廿五△竹斎/盗人(ぬすひと)に出合事 00070300L8○/盗人(ぬすひと)竹斎をはかんとおもひ、かこをかきて来り、そんじ 00070310L9よそこから御むかひに参る、/早&(さう+)御出下されよと、つつし 00070320L10んて申上る。竹斎おつとこたへて、やぶれかミこにやぶれ 00070330L11づきんにて、其まゝかこへのられけるに、盗人もせうこと 00070340L12なくて、かこをかき、七八町も(十二ウ)行て、ほりの有け 00070350L13れバ、ごもくをすつるやうに、竹斎をくハら+くすつと 00070360L14すてゝ、にげにけるとぞ。 00070370¥N26¥J 00070380¥X第廿六△同/盗人(ぬすひと)の事 00070390L17○ある夜竹斎所へ盗人の入けれハ、きもをつぶし、ふとお 00070400L18きて、ぜうもふに、ふんどしよ、やれ出あへこと+と、 00070410L19いふておめきたれば、むかひとなりの者共、ふんどしをか 00070420M1きちらし、どこじやかしこじや、こゝじやあそこじやとい 00070430M2ふてにへたれば、盗人ハにげてけり。扨竹斎にあふて、火 00070440M3本ハどこぞといへば、火もとハ盗人しやか、もはやかきけ 00070450M4すやうにうせたりといふ。 00070460¥N27¥J 00070470¥X第廿七△竹斎去方へよば/□((れカ))に物をかくす事 00070480M7○しやうとく竹斎、に物にいとこにハぶすきなりけるに、 00070490M8さる所へよはれてゆかれけれは、したゝかにもりてすへた 00070500M9り。竹斎是を見られて、ぜんにをくもいやなれバ、そつと 00070510M10取てせんの下にをかれけるに、/亭主(ていしゆ)立まわり見て、きうじ 00070520M11人をよび付、何と(十三オ)て、に物をおとしたるぞ、はや 00070530M12+すへよといひけれハ、竹斎きかれて、いとこどしめう 00070540M13とハゑい物じやげなが、いとこにハきらいてござる、是で 00070550M14おじやるかとて、/鼻(はな)をしかめてさし出された。後にきけバ、 00070560M15此/亭主(ていしゆ)いとこどしめうとゝ承り、竹斎あせをかゝれた。 00070570¥N28¥J 00070580¥X第廿八△竹斎ふるまひに/行(ゆく)事 00070590M18○有時竹斎ふるまひに/行(ゆか)れけるに、/昼(ひる)のうち付に、ひた物 00070600M19/酒(さけ)をのまれけれバ、あひきやく申けるハ、左様に酒を参り 00070610¥P214 00070620L1てハ、/晩(ばん)のふるまひむそくならんといひけれハ、竹斎きか 00070630L2れて、少もあんじ給ふな、酒ハうしろへ打こすと見へて、 00070640L3/腹(はら)ハうとろもつかうでやらうといはれた。 00070650¥N29¥J 00070660¥X第廿九△竹斎/銭(せに)のいミやうを付る事 00070670L6○去かたこといひどもあつまりて、/銭(ぜに)のいミやうをせんぎ 00070680L7しけるに、一人かいふやう、銭のいミやうハきやうそくと 00070690L8いふといへば、一人かいふやう、いや、きやうそくとハい 00070700L9はぬ、らうそくといふといへば、いや、きや(十三ウ)(十四 00070710L10オ挿画)うそくしや、らうそくじや云て、せんきまち+ 00070720L11成所へ、竹斎来りて、何のせんぎぞととハるれハ、されは 00070730L12+銭のいミやうの事にてござるが、きやうそくかぜうか、 00070740L13らうそくかせうかといへば、竹斎きかれて、きやうそくで 00070750L14もなし、らうそくてもなし、ひやうそくといふ物じやとい 00070760L15はれた。 00070770¥N30¥J 00070780¥X第卅△同銭の事 00070790L18○竹斎銭の入事ありて、銭屋へさうばを/書(かき)にやられけるに、 00070800L19壱分壱貫とかきておこせり。竹斎是をミて、扨もやすき銭 00070810¥G 00070820M13かな、まづ十貫かハんとて、十貫文取よせて、壱匁計のこ 00070830M14まを一つわたさるれバ、銭屋こまを請取て、是ハどふぞと 00070840M15いへば、竹斎きゝて、それハ銭十貫のあたいなり、かけて 00070850M16見て、つよくハつりをこせといふ。銭屋きもをつぶし、十 00070860M17貫のあたいにハ壱分十をしやといひければ、竹斎きゝて、 00070870M18/書(かき)そこないのよミそこないか、一/歩(ぷ)の歩にハ是をかいてこ 00070880M19そといはれた。(十四ウ) 00070890¥P215 00070900¥N31¥J 00070910¥X第卅一△かうじんはらい竹斎所へ来る事 00070920L3○有時かうじんばらい、竹斎所へ来りて、少かうじんをは 00070930L4らハんといへは、竹斎きかれて、かうじんをはらいてハお 00070940L5/食(めし)がくわれぬ、しやくせんならバ少はらいたいといはれた。 00070950¥N32¥J 00070960¥X第卅二△或人来り竹斎子をあさける事 00070970L8○有時竹斎むす子をもふけられけるに、とひやう成もの来 00070980L9りて、扨も+/目出(めで)たや、よきしやくせんのねつぎやとい 00070990L10ひけれハ、竹斎/腹(はら)を立て、其まゝこまたを取て、しやく/銭(せん) 00071000L11のねたをし見へたかとて、取てなけたれバ、かの/者(もの)はう 00071010L12+のていにておきあがり、いや/+/見せ度共、銭か有ま 00071020L13ひと云てにげた。 00071030¥N33¥J 00071040¥X第卅三△竹斎よりばうと/杖(つえ)と取ちがゆる事 00071050L16○有夜竹斎れうしにさる方よりよひにまいりけれバ、心得 00071060L17たりとてたゝれけるか、竹づえかとおもふて、そばに有け 00071070L18るよりばうを/杖(つえ)につきて出られけるに、むかひのもの申や 00071080L19うハ、そ(十五オ)れハよりばうにてといへば、竹斎ぬから 00071090M1ぬかほにて、なるハはえこそよけれといはれた。 00071100¥N34¥J 00071110¥X第卅四△竹斎をどりの事 00071120M4○竹斎/若(わか)き時はをどりすきにて有けるが、女子ともをあつ 00071130M5めて、うきにういてをとられけるか、三尺ばかりの/刀(かたな)をさ 00071140M6し、二尺はかりのさしそへしたるばかもの来りて、をどり 00071150M7にじやまを入けれハ、竹斎はらをたてゝ、其まゝとつさに 00071160M8合さしたる/刀(かたな)をうしろへくるりと引まハし、よりばうにし 00071170M9て、かたはなをこもるにかゝせて、ろくハ+といひて、 00071180M10/川原(かハら)へすてゝかへられしと也。 00071190¥N35¥J 00071200¥X第卅五△竹斎/自身(ししん)に/留主(るす)をつかふ事 00071210M13○竹斎所へかよふ/病人(びやうにん)有けるか、ある時/案内(あんなひ)をかふて、少 00071220M14御目にかゝりたきといへば、竹斎内に/居(ゐ)ながら、/自身(ししん)に返 00071230M15事せられける。今日竹斎ハれうしに罷出られて、/留主(るす)にて 00071240M16御ざる、のち程御出なされよといへば、病人竹斎のこゑと 00071250M17(十五ウ)(十六オ挿画)きゝて、内に御ざりて/自身(じしん)に留主をつ 00071260M18かひ給ふハ、それハ手のわるき事かな、ちと御めにかゝら 00071270M19うといへば、竹斎聞て、/自身(じしん)に/留主(るす)じやといふに、何のう 00071280¥P216 00071290¥G 00071300L13そか御さらうと、いはれた。 00071310¥N36¥J 00071320¥X第卅六△竹斎/法躰(ほつたい)の事 00071330L16○竹斎法躰せられけるに、/一家(いつけ)一/門(もん)をよびあつめて、/酒(さけ)を 00071340L17一つもられけるに、竹斎申されけるハ、我おさなき時より 00071350L18も/大学(だいがく)の少もおぼえ、其かげにていしやのミちをならひ、 00071360L19今法躰いたす事、是天道のめうがにかなひ候、めん+も 00071370M1あやかり給へとて、酒をしいてもられける。何れも聞て、 00071380M2仰のとをり、かやうの目/出度(てたき)事こそあらね、我&も/追付(をつつけ)あ 00071390M3やかり申さん、さりながら我&ハかくもんとてもなし、其 00071400M4上せわにいとまあらねハ、いきなから法躰する事、せんに 00071410M5一つで御ざ有べし、さだめてわれ+ハ念仏かうがあつま 00071420M6りてをけぞりになるべしといふ。 00071430¥N37¥J 00071440¥X第卅七△竹斎ちやうちんをとぼしれうしに行事(十六ウ) 00071450M10○ある夜竹斎ちやうちんをとほして、れうしにゆかれける 00071460M11に、道すがら子供とも多く付て、ちやうちんのもちくハふ 00071470M12とて、火のかげに付てありきけれバ、竹斎やがてにぎりへ 00071480M13をして、こりやくらへとて、かゞさんとして、我/鼻(はな)のさき 00071490M14へかひ手をひろけて、じぐわじさんにかひて、扨もくさき 00071500M15をれがへかなといはれた。 00071510¥N38¥J 00071520¥X第卅八△竹斎あしを引れうしに/行(ゆく)事 00071530M18○有時竹斎ちんばを引てれうしに出らるゝに、或ばかもの、 00071540M19かどにたちて、あれ+ちんばが通るといへば、竹斎やが 00071550¥P217 00071560L1て/杖(つえ)をして、かのはかものがかほゝつや+よく+見す 00071570L2まして、にらミ付て返られしに、又かさねて、こち+と 00071580L3いひけれは、竹斎今ハこらへかね、こち+としてもどら 00071590L4れしに、ばかものはつちやこハしとてにげゝれハ、竹斎今 00071600L5ハせうことなくて、やとたゝいたといふて、とがもなき/戸(と) 00071610L6しやうじをさん+にうちたゝかれた。 00071620¥N39¥J 00071630¥X第三九△竹斎/氷(こほり)を見て/餅(もち)といはるゝ事(十七オ) 00071640L9○或時竹斎/寒天(かんてん)の事成に、去方へふるまひにゆかれけるに、 00071650L10てうずばちのほとりに/氷(こほり)の有ければ、扨もきれい成こほり 00071660L11もちかなと申されけれバ、うつけたる人ありて、まことの 00071670L12こほり/餅(もち)とおもひて、二つ三つ取て/床(とこ)にをきけれは、いつ 00071680L13のまにかハとけて、とろ+と/水(ミづ)になりけれハ、かのうつ 00071690L14けものか見て、さてももろきこほりもちかなといはれた。 00071700¥N40¥J 00071710¥X第四十△竹斎/人参(にんじん)の事をしうくにいはるゝ事 00071720L17○ある人竹斎へ参りて申けるハ、此度の御れうじにて/命(いのち)を 00071730L18たすかりたり、扨も+かたじけなきといへば、竹斎きい 00071740L19て、おふ+それよ、まことに此度ハ仕合にて、うけがた 00071750M1きにんじんをうけ、あひがたき此竹斎にあわれ、先以仕合 00071760M2じやといはれた。 00071770¥Y1竹斎はなし巻上之終(十七ウ) 00071780¥P218 00071790¥Y1竹斎はなし巻中△目録 00071800L3第一△/或人(あるひと)/竹斎方(ちくさいかた)へ/行(ゆき)三里の/灸(きう)を/頼(たのむ)事 00071810L4第二△竹斎/知音(ちゐん)かたへ/茶磨(ちやうす)をかす事 00071820L5第三△竹斎れうしに出つち風にあふてかミこをとらる 00071830L6△△△ゝ事 00071840L7第四△同/腹薬(はらくすり)にあかたゑんをあたふる事 00071850L8第五△同はぶきをいわるゝ事 00071860L9第六△同はいがらといふ事 00071870L10第七△同/風車(かさくるま)のたとへをひく事 00071880L11第八△同めかけぐるひの事 00071890L12第九△/或人(あるひと)/笛(ふえ)を/守(まも)りにかくる竹斎/異見(いけん)する事 00071900L13第十△竹斎せうようおきかぬる事(一オ) 00071910L14第十一△竹斎/雪隠(せつちん)より/涙(なミだ)をこぼし出る事 00071920L15第十二△同/茶入(ちやいれ)をほむる事 00071930L16第十三△同うづらをかいける事 00071940L17第十四△同大坂より/飯米(はんまい)を/買(かふ)事 00071950L18第十五△同うらなひをする事 00071960L19第十六△同/薬(くすり)屋にて/人参(にんじん)を買事 00071970M1第十七△同/行(ぎやう)をする事 00071980M2第十八△同/異名(いミやう)の事 00071990M3第十九△同/薬代(やくたい)に/悪(わる)かねをとる事 00072000M4第廿△△同/貧福(ひんふく)のれうしをする事 00072010M5第廿一△同/午(むま)/牛(うし)の事(一ウ) 00072020M6第廿二△竹斎/懐妊(くわいにん)の女にくすりをもる事 00072030M7第廿三△同やね/破損(はそん)の事 00072040M8第廿四△同とんばうつりに行あたる事 00072050M9第廿五△同/貧福(ひんふく)をあきらむる事 00072060M10第廿六△同こもくゆをする事 00072070M11第廿七△庄九郎竹斎をなぶる事 00072080M12第廿八△竹斎大ふくりを人に見する事 00072090M13第廿九△同/借銀(しやくぎん)にこひ/詰(つめ)られ迷惑する事 00072100M14第卅△△同/病人(ひやうにん)をきずい八百の/煩(わつらひ)といふ事 00072110M15第卅一△同病人をせゝり/殺(ころす)事 00072120M16第卅二△同八十/余(よ)のばゝをれうしする事并七まかりと云 00072130M17△△△△事(二オ) 00072140M18第卅三△ばゝ竹斎にせんだく日を/問(とふ)事 00072150M19第卅四△或人の子げほうかしら成事并竹斎れうしの事 00072160¥P219 00072170L1第卅五△ばゝなすびを買事并竹斎さん用の事 00072180L2第卅六△ぬれかミこ四十八枚と云事并竹斎よりはしまる 00072190L3△△△△事 00072200L4第卅七△竹斎ちりくすりの事 00072210L5第卅八△同神なりくすりをもる事 00072220L6第卅九△同おいぬをよぶ事 00072230L7第四十△わうわくもの竹斎にへをひりかくる事 00072240L8第四十一△竹斎/丹波越(たんはごへ)の事 00072250L9第四十二△竹斎としくらべの事(二ウ) 00072260¥T1竹斎はなし巻之中 00072270¥N1¥J 00072280¥X第一△或人竹斎方へ行三里の/灸(きう)を/頼(たのむ)事 00072290M5○去人三里の/灸(きう)をせんとて、竹斎かたへ行、頼けれバ、や 00072300M6すき事也とて、先しりをまくらせて、/尻(しり)のまん中におろし、 00072310M7ふぐりを引つり出して、ふくりのまん中にもおろし、又ひ 00072320M8ぢしりをまくらせて、ひぢしりのまん中におろして、是合 00072330M9て三里なり、はや+すへられよといへば、此もの、扨も 00072340M10+三里と申ハきのどく成所にて候、是より/別(へち)に三里ハ御 00072350M11ざなきかといへば、竹斎きゝて、ふじ三里と申て、ふしよ 00072360M12り下に百八町の/灸(きう)有と申された。 00072370¥N2¥J 00072380¥X第二△竹斎さるかたへ/茶磨(ちやうす)をかす事 00072390M15○或人竹斎所へ/茶磨(ちやうす)をかりにやりけるに、かな/書(かき)にして文 00072400M16をつかハしけれバ、竹斎ちやうすとよミて、百年ばかりに 00072410M17もなりさう成てうすを、つかいの者にやりけれバ、かりぬ 00072420M18し是にてハなきとて、茶磨を/絵(ゑ)に/書(かき)て、是をかせとてやり 00072430M19けれは、竹(三オ)斎扨ハ是かとて、大き成引ばちにおかわ 00072440¥P220 00072450L1をのせてやりしと也。 00072460¥N3¥J 00072470¥X第三△竹斎れうしに出つち風にあふてかミこをとらるゝ事 00072480L5○ある時竹斎れうしに出けるに、/俄(にハか)につち風にあふて、か 00072490L6ミこはをりを風にとられ、こくうにそらへあがりけれハ、 00072500L7あたりの人&出合て、扨もをしきかミこばをりかなと申け 00072510L8れバ、竹斎申けるハ、いや+はをりハ少もおしくハ御ざ 00072520L9なひ、をしき物か有、といひて/涙(なミた)をこほせバ、あたりの人 00072530L10&、なにかをしきそととへば、たもとぐそかをしきといひ 00072540L11て猶なかれた。 00072550¥N4¥J 00072560¥X第四△竹斎/腹(はら)薬にあかたゑんをあたふる事 00072570L14○ある時竹斎/友達(ともたち)の所へゆくに、折ふし/亭主(ていしゆ)/俄(にハか)にはらこハ 00072580L15りけれバ、女/房(はう)おどろきて、はら薬ハ御さらぬか、ちくと 00072590L16あたへくたされよといへば、竹斎心得たりとて、こしをさ 00072600L17ぐりて見れども、ゐんろうなし。こハ何とせんと思ひ、あ 00072610L18せをかき、わきの/下(した)へ手を入、なづなにあづきつぶほどあ 00072620L19かすりたまれハ、是+と云(三ウ)(四オ挿画)てあたへけ 00072630¥G 00072640M13れバ、其まゝはらハやミにける。其時/亭主(ていしゆ)おきあかり、扨 00072650M14も+きめう成薬かなと申されけれバ、されは+是ハ我 00072660M15家のめうやく、あかだゑんといふ物じやと申された。 00072670¥N5¥J 00072680¥X第五△竹斎わらばふきをいわるゝ事 00072690M18○ある時竹斎、はふきハゆいたしわらハなし、いかゞせん 00072700M19とおもふ所に、きつとあんじ出して、あさとくおきて、ち 00072710¥P221 00072720L1やをわかし、ふうふもろとも、のミたくもなきちやをのミ 00072730L2てハ、せうようにゆき、おもふやうにこきためて、わらに 00072740L3/替(かへ)て、はふきをゆわるゝ。ある人のミて、是ハせうり大/損(そん) 00072750L4かな、其/茶(ちや)たきゞの入用にて、わらをかふて有ならハ、一 00072760L5/駄(だ)もあらんといはれた。 00072770¥N6¥J 00072780¥X第六△竹斎をはいがらといふ事 00072790L8○或時竹斎ひるねしけるに、はいたかりて、竹斎がきんか 00072800L9あたまをせゝりければ、竹斎はらをたてゝ、少たいらげば 00072810L10やとおもひて、とりもちをかひよせ、きんかあたまにぬり 00072820L11こくり、かさねて(四ウ)ひるねしけれバ、家うちのはいと 00072830L12も、鳥もちにかゝりてこと+くしにけるか、竹斎かあた 00072840L13まハさなからかさ八郎とそ見へける。それよりして竹斎を、 00072850L14はいとりぼんとぞ申ける。 00072860¥N7¥J 00072870¥X第七△竹斎をかさぐるまと云事 00072880L17○ある人竹斎に申けるハ、其方ハもつたい付て、少もまハ 00072890L18らぬ人じやと世間に申、ずいぶんたしな□まハり給へとい 00072900L19ひければ、竹斎きひて、それハぜにゝこそよれ、いかにも 00072910¥G 00072920M13此竹斎ハかさ車程よくまハる也、さりながら此/風(かさ)車を見給 00072930M14へ、/高(たか)きハよくまハるなり、やすきハまハりかぬると、い 00072940M15ふて見せられた。 00072950¥N8¥J 00072960¥X第八△竹斎手かけぐるひの事 00072970M18○或時竹斎ゑいやうのあまりに、手かけをこしらへ、よる 00072980M19ひるのさかひなく、かよひけるが、おばゝうらみて、竹斎 00072990¥P222 00073000L1ハ/年(とし)にこそよれ、あなのはたをのそきて、/今日(けふ)かあすかの 00073010L2身をもちて、あのしにばうずのやけばうすといはるれハ、 00073020L3竹斎聞て、もつとも(五オ)御身のいはるゝ通、しにばうず 00073030L4がやけばうずになりたるによつて、われもやがてまいると 00073040L5こゝろへ、あたらしきあなをこしらへ、よるひるのさかい 00073050L6なく、あなのさうぢにゆくか、くせことかといはれた。 00073060¥N9¥J 00073070¥X第九△或人/笛(ふえ)をまもりにかくる竹斎/異見(いけん)する事 00073080L9○去人、人の/命(いのち)ハふゑに有といふ事をきゝて、/笛(ふえ)を一くハ 00073090L10んかふて、まほりにかけられけれハ、竹斎ミて、それハ何 00073100L11のために/笛(ふえ)をまほりにかくるや。/彼者(かのもの)聞て/論語(ろんこ)よミのろん 00073110L12こしらずや、人の命ハふゑにあるといふによつて、きたう 00073120L13のためにかくるといふ。竹斎聞て、から+と打わらふて、 00073130L14人の命ハひゑに有とこそいへ、其ふゑすてゝ、ひゑをかけ 00073140L15よといはれた。 00073150¥N10¥J 00073160¥X第十△竹斎せうようにおきかぬる事 00073170L18○/寒天(かんてん)の事成に、ある夜竹斎ねられて/後(のち)、せうように/行(ゆき)た 00073180L19けれども、さむさにをきる事を大義におもひ、あらしたや 00073190M1+(五ウ)(六オ挿画)といひて、ねことにもいはれければ、 00073200M2おばゝきかれて、我事かとおもふて、それほどしたか、め 00073210M3さといはれけれハ、竹斎聞て、いやそなたの事でハなひ、 00073220M4せうべんの用じやが、あがミのいきやらば、少ことつけた 00073230M5いといはれた。 00073240¥N11¥J 00073250¥X第十一△竹斎せつゐんより涙をこぼし出らるゝ事 00073260M8○ある時竹斎せつゐんへゆかれけるに、/涙(なミた)をこぼして出ら 00073270M9れければ、おはゝの見られて、何のあハれ成事ありて、そ 00073280M10ゞろになミだがこほるゝやといへば、竹斎きかれて、され 00073290M11ハ+大き成なたがてゝ、それて涙がこほれたといへば、 00073300M12おはゝきかれて、さても+うれしや、かいまらしよとお 00073310M13もふたに、どれ、なたハといはるれハ、竹斎聞て、いや、 00073320M14/木(き)をわるなたではなひ、きり+ちやんとねちたなたしや 00073330M15といはれた。 00073340¥N12¥J 00073350¥X第十二△竹斎/茶入(ちやいれ)をほむる事 00073360M18○さる人茶入を竹斎に見せければ、ひん+とはぢきて、 00073370M19そのまゝ/耳(ミゝ)にあてゝ見□□□□□□□□□□□/□□((すきカ))のみち 00073380¥P223 00073390L1とてこの(六ウ)茶入かちやのまふ+となるといはれた。 00073400¥N13¥J 00073410¥X第十三△竹斎うづらをかいける事 00073420L4○竹斎うづらをかハれけるに、一はのうづら、ちくさい 00073430L5+となきければ、我名をよぶとうれしかり、なにそ+ 00073440L6といふて、てうあひせられけるに、又一はのうづら、与吉 00073450L7+となきけれは、竹斎はらをたてゝ、げんざいおのれか 00073460¥G 00073470M1/旦那(だんな)をハ与吉にする事や有、うづら+とかふて/腹立(はらたち)や、 00073480M2をくばにのせてやらんとて、其まゝ/篭(かご)より取出し、/火(ひ)のけ 00073490M3をそつと入て、六はらさしてはなされた。 00073500¥N14¥J 00073510¥X第十四△竹斎大坂米屋より/飯米(はんまい)を取事 00073520M6○竹斎/飯米(はんまい)を大坂より取よせて、ひた物/食(くわ)れけるが、/終(つゐ)に 00073530M7金銀をくださねば、米屋はらをたてゝ、かねを取にのぼり 00073540M8て、竹斎にあふて、/銀(かね)をかり度といへば、竹斎きゝて、も 00073550M9はやそれハたかせに打のせて下したりといへば、米や聞て、 00073560M10それハいつ比ぞや、めあてハとれへといへば、竹斎、先月 00073570M11の/初(はしめ)比、うちの方へといわれた。(七オ) 00073580¥N15¥J 00073590¥X第十五△竹斎うらなひをする事 00073600M14○去人、物をぬすまれて、色+せんぎしけれ共、/終(つゐ)に/出(いで) 00073610M15す。竹斎を頼てうらないすれバ、竹斎八/卦(け)をかんがへ見て、 00073620M16しハらく有て打うなづき、ずいぶん内を尋たまへ、人さへ 00073630M17ぬすまぬ物ならば、内にきよろりと御ざらふず、人か/盗(ぬすミ)て 00073640M18有ならバ、御さるまひとうらなハれた。 00073650¥P224 00073660¥N16¥J 00073670¥X第十六△竹斎薬屋にて人参をかふ事 00073680L3○竹斎/人参(にんしん)をかはれけるに、一両ハいかほどとハれけれバ、 00073690L4/薬(くすり)やきいて、何としてかれがかふべきとあなどりて、一両 00073700L5ハ四十刄仕り候といひければ、竹斎きかれて、扨も+/高= 00073710L6直(かう=ちき)成しやりきかな、まけハなひかとゝハるれば、/薬(くすり)屋もな 00073720L7ぶると心得、/爰(こゝ)はうしやでハなひといへば、竹斎きゝて、 00073730L8うしやでハないかうそやじや。 00073740¥N17¥J 00073750¥X第十七△竹斎/行(きやう)をつとむる事 00073760L11○/寒天(かんてん)の事成に、折ふしみぞれふるに、竹斎/行(きやう)をつとむる 00073770L12とて、(七ウ)あらこもをかぶりて、/雪霜(ゆきしも)に打れてゐけるを、 00073780L13去人来りて見て、是成こもかぶりハ何ものそといへは、竹 00073790L14斎聞て、/雨露(うろ)/霜雪(さうせつ)の下にすむこもかぶりの竹斎、あたりへ 00073800L15よりて、ばちあたるなといはれた。 00073810¥N18¥J 00073820¥X第十八△竹斎/異名(いミやう)をつかるゝ事 00073830L18○竹斎の/異名(いミやう)を、ねびへ+といひけるか、其/子細をいか 00073840L19にととへバ、/何様(なにやう)の/病人(ひやうにん)を見せても、ねびへといはれける 00073850M1にや。又さる人のいへるハ、おきびへといふひへハなきか 00073860M2と尋けれは、/口(くち)かしこきものゝ申けるハ、おきびへといふ 00073870M3ひへハ有まひ、そのしさいハ、おきハ/火(ひ)じやほどにといは 00073880M4れた。 00073890¥N19¥J 00073900¥X第十九△竹斎へ薬代の事 00073910M7○さる人竹斎所へ、/薬代(やくだい)に/悪銀(わるかね)をこしける。竹斎はらを立 00073920M8て、わるくしてよきならバ、其方の/病(やまひ)もわるくして、/建仁= 00073930M9寺(けんにん=じ)へやりて、つぶしにせんもの、あたらほねをおりて、わ 00073940M10るがねをかづいた、さりとてハ、手のわるき事をしをつた 00073950M11といはれた。(八オ) 00073960¥N20¥J 00073970¥X第廿△或人竹斎方へ行てひんほうのれうしを頼事 00073980M15○ある時竹斎れうじ殊外はやり、/立鳥(たつとり)もおちて、あまつさ 00073990M16へびんぼうまでもなをるといふ事/専(もつハら)也。去うつけたるび 00074000M17んほう人、竹斎へまいりて、少御れうし/頼度(たのミたき)といふ。其時 00074010M18竹斎何の/病(やまひ)有/□((やカ))ととハれけれハ、かのうつけもの申やう、 00074020M19されば、それかしは、/無病(むひやう)なる者にて候へども、/只(たゝ)びんほ 00074030¥P225 00074040L1うけにて/迷惑(めいわく)仕る、あハれ御じひに、ぶげんになり候様□ 00074050L2御れうしを頼あぐるといへば、竹斉きひて、ひんほう計な 00074060L3らバいかにもやす+となをし参らせん/□((がカ))、ひんほうにけ 00074070L4のはへたるハ、こうじたるにて候間、まつ/余人(よじん)へ見せられ 00074080L5よといはれた。 00074090¥N21¥J 00074100¥X第廿一△竹斎午牛□はなしの事 00074110L8○竹斎/寄合(よりあい)の中にて、扨も+めつらしき物を見たといは 00074120L9るれは、人&聞て、それハ何そととへば、されは+、/午(むま) 00074130L10につの有、/牛(うし)につのゝなきを見たといふ。人&よこ手を打 00074140L11て、さても+竹斎ハこう(八ウ)(九オ挿画)ぎ/専(もつハら)にせらる 00074150L12ゝゆへ、左様のめつらしき物なとを御らんぜらるゝか、我 00074160L13&はかまどばかりへめぐりて、かどより外へ出ざれバ、/午(むま) 00074170L14につのかあるやら/牛(うし)につのゝなきやら、かつてしらず、我 00074180L15等がやうなるあさましきものハあるまひといへば、竹斎、 00074190L16いやそれほど/珍敷(めつらしき)物でもなひ、/牛(うし)/午(むま)の/字(じ)につのゝ有なきを 00074200L17見たと云事よ。 00074210¥N22¥J 00074220¥X第廿二△竹斎くわいにんの女見まふ事 00074230M3○さる女/懐妊(くわいにん)しけれハ、一/家(け)一門/寄合(よりあい)、けふよあすよとい 00074240M4ふて、/生(うま)るゝをまちけれども、/終(つる)にうまさりけれバ、竹斎 00074250M5をよびて、はやめ/薬(くすり)をのませけるに、のむよりはやく、く 00074260M6わら+くわつとうミて、七八間もとびゆきければ、竹斎 00074270M7かミなりと心へ、くわばら+、竹斎是にあり、くわの木 00074280M8にて、ついてくれうといはれた。 00074290¥N23¥J 00074300¥X第廿三△竹斎やねはそんの事 00074310M11○ある時竹斎、屋ね/破損(はそん)に及けれハ、ふき/板(いた)を/買(かい)、/内(うち)の/男(おとこ) 00074320M12をよびて、やねはそんに及へば早&ふけよと申さるれば、 00074330M13男(九ウ)聞て、それがしハつかひばんの御奉公こそ仕れ、 00074340M14やねのぶぎやうハ、かつてぞんじもよらぬといへば、竹斎 00074350M15もせうことなくて、そのまゝやねにあがり、むねよりのき 00074360M16へ、まつさかさまにふかるれハ、男是を見て、から+と 00074370M17/笑(わらふ)て、のふ+竹斎さま、のきからこそふく物也、むねか 00074380M18らふく法や御ざあるかといへば、竹斎聞て、それほとによ 00074390M19くしつて、しらぬといふ/法(ほう)や有、知ぬハ/知(しる)の/基(もとい)也とて、終 00074400¥P226 00074410¥G 00074420L13男にふかせける。 00074430¥N24¥J 00074440¥X第廿四△竹斎とんばうつりに行あたる事 00074450L16○去たわけたる人、はなけをのばし、はいを取て/茶筅(ちやせん)のほ 00074460L17にさして、/灯心(とうしん)を/持(もた)せ、/棒(ばう)ふりさせて、ながめゐける所へ、 00074470L18とんばう一つ来りて、かけゆきけれハ、とこへやるまひと 00074480L19いふて、はふきをかたげ、やんまかへせ+といふて、い 00074490¥G 00074500M13きを切てはしりまハるとて、竹斎にいきあたりて、とんぼ 00074510M14うがへりをせられしが、/鼻(はな)を打て血かたれハ、ぬりこくり 00074520M15かひで見て、ちくさいやつしやといひをつた。 00074530¥N25¥J 00074540¥X第廿五△竹斎ふくひんはうをあきらむる事(十オ) 00074550M18○大としの夜も/明(あけ)、あくれハ正月一日になれば、/諸万民(しよはんミん)/皆(ミな) 00074560M19ふくの神をいわゝんとて、/門戸(もんこ)をとぢて、ふくの神をいわ 00074570¥P227 00074580L1いけるが、ことに竹斎ハ其身ハひん成、何として我もぶげ 00074590L2んにならんと思ひ、しめをはり、/戸(と)さしまハして、ふくの 00074600L3神をいわゐけるに、少もりしやうなくして、/却而(かへつて)きんちや 00074610L4くのそこをたゝひて、ならざれば、竹斎心におもふやう、 00074620L5じたいひんほうの神といふものハ、ほかにハあるまじ、た 00074630L6ゝ我さうにおもハるゝといはれた。 00074640¥N26¥J 00074650¥X第廿六△竹斎ごもくゆをする事 00074660L9○或時竹斎、おり/湯(ゆ)をせられけるか、/方&(はう+)よりすつるごも 00074670L10くをあつめをきて、/薪(たきゞ)として、ゆをわかして入られけるに、 00074680L11或人来りてミて、扨も+竹斎ハむさき事をせらるゝとい 00074690L12へば、竹斎聞て、五もく八さうのゆといふて、御身のやう 00074700L13成かんけなる人にハ/薬(くすり)なり、/望(のそミ)ならバ少御入被成、ゆせん 00074710L14ハもどりじやといはれた。 00074720¥N27¥J 00074730¥X第廿七△庄九郎竹斎か事(十ウ)(十一オ挿画) 00074740L17○竹斎手前ひつはくして、庄九郎といふものに/逢(あひ)て、扨も 00074750L18+にか+しきうき世かな、/腹(はら)をきらんとおもへば、涙 00074760L19かあめやおこしこんへいととながるゝ、是ハ何と庄九郎と 00074770M1いはるれバ、庄九郎聞て、其やうなるあはうげたあまき涙 00074780M2のながるゝ事ハ、此庄九郎もせう事なし、/腹(はら)をきればちく 00074790M3さいぞ、ずいぶんはらをきらんやうに、さじかけんをせよ 00074800M4といふてにげた。 00074810¥N28¥J 00074820¥X第廿八△竹斎大ふぐりの事 00074830M7○しやうとく竹斎ハすばく/持(もち)にてありけるが、すはくきん 00074840M8にさしこミ、やくわんのやうに見へける。ある時竹斎/喧嘩(けんくわ) 00074850M9しけるに、/子細(しさい)有てにけられける。皆人ふぐりなしといひ 00074860M10けれハ、竹斎まへをまくりて見せ、是ほとのきんにても、 00074870M11なしといはハ/是非(せひ)もなし、あり++といふて、かの物 00074880M12を、まりのことくにけあけて、かさねてなしといふて見よ 00074890M13と、ねりかうやくほとねられた。 00074900¥N29¥J 00074910¥X第廿九△竹斎/借銭(しやくせん)こひつめられ迷惑する事(十一ウ) 00074920M17○ある/年(とし)しハす大晦日に、しやくせんこひ、竹斎所へあま 00074930M18た来り、いつ参れども内にごさらぬが、今日ハ/払(はら)ハんと思 00074940M19召て内にござるよ、我&か銀子をも、もはや久しく成ます 00074950¥P228 00074960L1る、御/合力(かうりよく)に一時も早&御かし被下よといへば、竹斎きゝ 00074970L2て、だうり+、我等も何とそはやくかげんして、すまし 00074980L3たく候へども、京江戸大坂/長崎(なかさき)より、かけともよらす候ゆ 00074990L4へ、おもひながらも/延引(ゑんゐん)す、より次第にきつと御さん用申 00075000L5さんといはるれば、/借銭(しやくせん)こひとも是をきゝ、何の因果(ゐんくわ)に、 00075010L6お身の薬を京江戸大坂長崎よりのミに来るものや有、よき 00075020L7かげんなる事をいはるゝと、めん+口&にいへば、竹斎 00075030L8聞て、あらやかましや、ちとちらさんと思ひ、れいのちり 00075040L9薬を取出し、ひたものかミにぬりこくれハ、しやくせんこ 00075050L10ひ共是を見て、それハ何をおめさりやる、先&らちをあけ、 00075060L11それハ/跡(あと)にてなる事よと、ぜん+につめかくれハ、竹斎 00075070L12さてハ、ねりやくでハ猶ねりよるそ、只さんやくでちらん 00075080L13と、かミ/袋(ふくろ)を取出しつかミたし+、はらり+とまき 00075090L14(十二オ)かくれバ、つらうちにかゝりて、くん+といふ 00075100L15て、是たゝ事によもあらじ、気がちかふたりと見えたり、 00075110L16先/春(はる)の事よといふて、みなちり+にちつたれバ、竹斎あ 00075120L17とにておもふやう、扨もめいよのくすりかな、しやくせん 00075130L18こひまでちるぞとて、から+とわらハれた。 00075140¥N30¥J 00075150¥X第卅△竹斎病人をきずい八百と見立る事 00075160M3○去人のむす子、/奉公(はうこう)に出けるか、奉公ハいやなり、/煩(わつらひ)と 00075170M4かこ付て、/主(しう)のまへを/引込(ひきこミ)て、ふら付まハりいたりしか、 00075180M5二人の/親(おや)是を見て、まことのわつらひかと心得、竹斎をよ 00075190M6びて、是成わかきものこそそれがしが/世忰(せがれ)にて候か、/病気(ひやうき) 00075200M7故ふら+と仕り、何共きのとくに存候、おミやくをちく 00075210M8と御らん下されよといへば、竹斎立より/脉(ミやく)を見て、もミ/手(て) 00075220M9をしてすされば、二人の/親(おや)共、何と申煩にて候ぞ承度とい 00075230M10へば、竹斎申けるハ、是ハきずい八百と申て、ねだんのい 00075240M11たす煩にて候か、薬やひもいらず、時&よりばうをせんじ 00075250M12て、しんせられよといはれた。(十二ウ)(十三オ挿画) 00075260¥N31¥J 00075270¥X第卅一△或人竹斎れうしにてしぬる事 00075280M15○竹斎のれうしにて、夜前しゝたる人あり。竹斎/夢(ゆめ)にもし 00075290M16らで、/明(あくる)早&に/見舞(ミまひ)にゆきけれバ、むす子立出て、病人ハ 00075300M17夜前/果(はて)たるよしを申せハ、竹斎いはんやうなくて、りんじ 00075310M18うハ何と候や。りんじうハ正念にござりましたといへば、 00075320M19竹斎又年ハいくつぞととふ。七十三といふ。竹斎よこ手を 00075330¥P229 00075340L1てうと打、扨も+つらのかわないきやうかな、しつかい 00075350L2いきぬす人じやといはれた。 00075360¥N32¥J 00075370¥X第卅二△あるばゝ竹斎に七まかりといふ事 00075380L5○さる所に八十にも及つらんとおぼしきおばゝ/煩(わつらひ)付、竹斎 00075390L6をよびて、れうしを頼けるに、竹斎心得、やかてミやくを 00075400L7見て、まだいきたひかととハるれハ、はゝ、中+いきた 00075410L8き事ハなゝまがりほどといふ。竹斎聞て、まつ+この七 00075420L9まがり、/余人(よじん)のいしやに見せられよ、病よりハとしが/大病(たいびやう) 00075430L10まめがすきたといはれた。 00075440¥N33¥J 00075450¥X第卅三△はゝ竹斎にせんだく日をとハるゝ事(十三ウ) 00075460L14○竹斎のおはゝせんたくして、/糊(のり)を付んと思ふ内に、そら 00075470L15かきくもりければ、竹斎にとハるゝやう、けふハふらうか 00075480L16てらうかと、天気を見て給ハれといはれけれハ、竹斎心得 00075490L17たりとて、其まゝこむめのさねを取て、ゆびのさきにはさ 00075500L18ミ、けふハふらうかてらうかとて、ゆひにてをしけれは、 00075510L19しるひやつといでけれハ、竹斎、けふハふらうぞ、のりハ 00075520M1御むよう+。 00075530¥N34¥J 00075540¥X第卅四△或人の子げほうがしら成ゆへ竹斎を頼/りう((ママ))しの事 00075550M5○さる人のむす子に、げほうがしら有けるか、年のゆくに 00075560M6したかひ、次第+にながく成。二人の/親(おや)きのどくにおも 00075570M7ひ、竹斎をよびて、何とぞして此あたまちゝむれうしハ御 00075580¥G 00075590¥P230 00075600L1さなひかと申けれハ、ちゝむれうしこそあれ、ちゞめて参 00075610L2らせんとて、やがてたんばいかきをかぶらせて、ちり薬を 00075620L3付たれハ、あたまハちりて、いかき計か残りけるとそ。 00075630¥N35¥J 00075640¥X第卅五△ばゝなすびをかハるゝ事并竹斎さん用の事 00075650L7○竹斎のおはゝ、なすびをかわれけるに、一文に五つとい 00075660L8へハ、竹斎(十四オ)にとハれけるハ、五文にはいかほど取 00075670L9そととハるれば、竹斎聞て、扨もふさん用なるはゝかな、 00075680L10五文にハ五&の五十といはるれば、おはゝ五十取あけて、 00075690L11銭五文わたさるゝ。なすひうりも五&の五十と心得て、う 00075700L12りける事こそおろか也。 00075710¥N36¥J 00075720¥X第卅六△ぬれかミこ四十枚と云事并竹斎よりはしまる事 00075730L16○ある時竹斎れうしに出られけるに、/俄(にハか)に雨風にあふて、 00075740L17かミこをぬらし、是ハ+と云内に、四十八枚にとけて、 00075750L18風にとられ、丸はだか/と((ママ))にてかへられしか、皆人是をミて 00075760L19大じやうごんけんか通るといふて、水を出しけれハ、竹斎 00075770M1我とさむいか+といふて、水をあびて通りける。 00075780¥N37¥J 00075790¥X第卅七△竹斎ちりくすりの事 00075800M4○さる人の/鼻(はな)のさきに、/腫物(しゆもつ)/俄(にハか)に/出来(てき)けれバ、竹斎をよび 00075810M5て、れうしを頼ければ、やすき事なりとて、ふところより 00075820M6も、ちり薬を取出し、かミにひたとはり、鼻のさきに付ら 00075830M7れける。ちる程に+、はなハねなから、つぼろほんとち 00075840M8りけれハ、彼もの大きに(十四ウ)(十五オ挿画)腹をたて、し 00075850M9ゆもづこそ頼たれ、はなをちらせとたれかいふ、男かなら 00075860M10ぬとなきけれハ、竹斎聞て、したいきづある/鼻(はな)なれハ、は 00075870M11なのちりたかふしぎか、男かならすハ女に成、よめ入をし 00075880M12たまへと、あせをながしてにげられた。 00075890¥N38¥J 00075900¥X第卅八△竹斎神なり薬をもる事 00075910M15○ある人竹斎にいひけるハ、それがしわるき/虫(むし)有て、神な 00075920M16りのをとをきけハ、しぬるやうにおもふ也、殊にひかるハ 00075930M17猶わろし、しぜんおどろかぬくすりのあらバ、たへたひと 00075940M18いふ。竹斎聞て、それハをくびやうとて、四百四病の第一 00075950M19也、一ごこハげのなきやうに、なをしてまいらせんとて、 00075960¥P231 00075970L1ひゑくすりをひた物もるほどに+、のむ程に+、/耳(ミゝ)も 00075980L2聞へず目もつぶれ、右や左の大か□さまとなりて、一/期(こ)こ 00075990L3ハげハなかりけりとぞ。 00076000¥N39¥J 00076010¥X第卅九△竹斎いぬをよふ事 00076020L6○竹斎のむかひに、おいぬとて五つになりけるむすめあり。 00076030L7かん(十五ウ)の/虫(むし)にて、此中ハ両がんふさがり、はひまハ 00076040L8りけれハ、竹斎おつぼにまゝ入れて、むかひどのおいぬハ 00076050L9まだ目かあかぬか、おつほにまゝ入た、ころ++やと 00076060L10いはれけれバ、おや聞てはらをたて、しつかいいぬのやう 00076070L11にといひければ、竹斎きゝて、おれもいぬかとおもふてい 00076080L12ふたといはれた。 00076090¥N40¥J 00076100¥X第四十△わうわくもの竹斎にへをひりかくる事 00076110L15○或時竹斎/表(おもて)に出てゐられしに、わうじやくもの、とをり 00076120L16さまに、竹斎のまへでへをこいて通りけるが、竹斎聞て、 00076130L17何やらんおちたといはるれば、/彼(かの)おとこきかぬがほにて/打= 00076140L18過(うち=すき)ける。竹斎/声(こゑ)をかけて、是+やらうといはれけれバ、 00076150L19わうじやくもの立かへりて、とれ下されよといへば、心得 00076160M1た、いでやらうとて、其まゝよりばうを出さるれハ、わう 00076170M2じやくものきもをつぶし、/糞(くそ)をたれてにげける。竹斎是を 00076180M3見て、はなに手をあてゝ、さても+、大き成事をしくさ 00076190M4つたといはれた。(十六オ) 00076200¥N41¥J 00076210¥X第四十一△竹斎たんばこへの事 00076220M7○竹斎去人の/大病(たいひやう)をかるく思ひ、うつら+と薬をもりけ 00076230M8るか、次第に病おもくなり、何とかげんをいたさるれと、 00076240M9つんほ程もきかねば、今ハはや手にあまりて、にけたけれ 00076250M10共にがさす。内へかへれハ人ばしをかけ、こされ+と/呼(よび) 00076260M11にくる。竹斎も/初(はしめ)こそ大きかほしたりしか、後にハ/迷惑(めいわく)/面= 00076270M12目(めん=ぼく)にて、心の内ハたと+とわきまふることなければ、/所= 00076280M13詮(しよ=せん)只はしらはやと思ひ、去大名方よりよひに参り候とて、 00076290M14薬/箱(はこ)をせおい、たんばの国にかくれゐて、彼者しまふたる 00076300M15よしを聞て、二度/古郷(こきやう)にかへりしと也。 00076310¥N42¥J 00076320¥X第四十二△竹斎としくらべの事 00076330M18○或時竹斎思ふとち+/寄合(よりあい)て、年くらべをしけるに、或 00076340M19ハ五十□又ハ廿廿五などゝ云て、せんぎしけるか、其中に 00076350¥P232 00076360L1七十一じやと云て、いかにもまめさう成ぜんもん有けるか、 00076370L2一はなかけて口をたたき、我等かやう成まめ成ものもよも 00076380L3あらじ、それをいかにと申に(十六ウ)、道をありけど/苦(ぐ)に 00076390L4ならず、物をくへともはふしもよく、竹斎殿も此ぜんもん 00076400L5にあやかりたまへといひけれは、竹斎きゝて、いかにぜん 00076410L6もん殿、そのはうのやうなるいきぬす人にあやかる事ハい 00076420L7やにて候、たゝ此竹斎ハなり次第とそんずるといへば、ぜ 00076430L8んもん聞て/腹(はら)をたて、いかに竹斎、何/盗(ぬすミ)ていき盗人とハ申 00076440L9さるゝぞ。竹斎きひて、只今の年くらべをはやくもわすれ 00076450L10てありけるかや、およそ人の/寿命(じゆミやう)ハ六十也、七十一までい 00076460L11きたれハ、いきぬす人にてあらずや、但十一年の所ハ、れ 00076470L12い奉公にいきるかや、あたまにしらかをいたゝきて、れい 00076480L13奉公ハ無用なり、いはれぬ所になかいきして、恥をさらさ 00076490L14んも/知(しら)す、たゝよきかけんにいきられて、ぢごくのかまへ、 00076500L15たんたはしりせよといはれた。 00076510¥Y1竹斎はなし巻中之終(十七オ) 00076520¥Y1竹斎はなし巻之下 00076530M3第一△竹斎/脉(ミやく)取ちかゆる事 00076540M4第二△竹斎かうやくにて/金(きん)をすハする事 00076550M5第三△同/陳皮(ちんひ)をひく事 00076560M6第四△同/壷(つほ)を/目利(めきゝ)する事 00076570M7第五△同/孫(まこ)てうあいする事 00076580M8第六△同もつたい付事 00076590M9第七△同やつこ/男腹(おとこはら)を痛事并竹斎見立る事 00076600M10第八△同とうふや/施行(せぎやう)の事并竹斎少うくる事 00076610M11第九△同/鯉(こい)をとびにとらるゝ事 00076620M12第十△同人のはなしを/((聞き脱カ))ながらねる事(一オ) 00076630M13第十一△竹斎/関東(くわんとう)下り/道中(たうちう)にて/酒(さけ)を買事 00076640M14第十二△同去人によばへの/仕様(しやう)をおしゆる事 00076650M15第十三△同去方へ/日待(ひまち)に行事并なぞの事 00076660M16第十四△/薬(くすり)と/病(やまひ)/軍(いくさ)物語の事 00076670M17第十五△/髪(ひけ)と/顔(かほ)との/境目論(さいめろん)の事(一ウ) 00076680¥P233 00076690¥T1竹斎はなし巻下 00076700¥N1¥J 00076710¥X第一△竹斎ミやくをとりちかゆる事 00076720L5○さる人のおさあひ/煩(わつらひ)ける。/母親(はゝおや)ひさにいたきて竹斎に見 00076730L6せけれハ、竹斎ミやくを見るとて、はゝおやの手をにぎり、 00076740L7しバらくかんがへて、/脉(ミやく)にハ/別(べち)の/子細(しさい)なし、きしよくハい 00076750L8かにととハるれば、はゝおや聞て、今のハわらハが手で御 00076760L9ざるか、それにても脉がしれまするかといはるれバ、竹斎 00076770L10是ハとおもひ、さうならハさうじやとハおもしやらひて、 00076780L11さて+人に手をとらする人じやといはれた。 00076790¥N2¥J 00076800¥X第二△竹斎かうやくにて金をすハする事 00076810L14○さる人のはなしに、水かねといふ物ハよくきんをすう、 00076820L15其すうたる水かねをふかすれハ必きんの有と云はなしをき 00076830L16いて、ちくさい、我もすいかうやくにてきんをすハせ、ふ 00076840L17かせはやとおもひ、折ふし人の/預(あすけ)たる/金(きん)つばの大小あれハ、 00076850L18かのすいか(二オ)うやくをひたとはり、そろ+とめくり 00076860L19て、ふきやを頼てふかするに、ふくとひとしくはいに成て、 00076870M1こくうに/空(そら)にあかりたれば、竹斎けうてんし、をれいたか 00076880M2こいよととひあかられた。 00076890¥N3¥J 00076900¥X第三△竹斎陳/皮(ひ)を引事 00076910M5○或時竹斎大はだぬぎに成、あせ水になりて、引うすにて、 00076920M6ちんひをくハらり+とひかれける所へ、/友達(ともたち)来りて、 00076930M7何を引かせらるゝといへは、ちんといふ。ともたちきゝて、 00076940M,ちんとハいかに。竹斎きゝて、さとつたかよひといはれ 00076950M9た。 00076960¥N4¥J 00076970¥X第四△竹斎つほ/目利(めきゝ)の事 00076980M12○或時たんご殿より、茶入を見せにつかハされければ、竹 00076990M13斎とりあげ見て、扨もきれいな茶入かな、こゝの薬のな 00077000M14だれくちハ、さながらすいがうやくにさもにたり、扨も見 00077010M15事のちや入とて、したにをかんとしたりければ、ころ+ 00077020M16としてこけたり。竹斎打うなつき、さすか/丹後(たんこ)の/壷(つほ)程有、 00077030M17ころ+としてこけらるゝといはれた。(二ウ)(三オ挿画) 00077040¥P234 00077050¥G 00077060¥N5¥J 00077070¥X第五△竹斎ひ孫てうあいの事 00077080L15或時竹斎ひまこをだきておもてへ出て、ほと+とたゝい 00077090L16て、いとし子ハねんねといひてあひせられけるが、折ふし 00077100L17/旅(たひ)人通り合て、扨もしやくミしよひ子や、そなたの御子か 00077110L18ととひけれハ、竹斎につこと打わらひて、扨はそれかしハ 00077120L19それ程わかく見へ候か、ちとおはいり被成て、/酒(さけ)を一つま 00077130M1いれといひけれハ、/旅(たひ)人きひて、扨ハ/孫(まこ)かといひけれハ、 00077140M2いや孫にても御さなひ、子の子の孫しやくしじや。 00077150¥N6¥J 00077160¥X第六△竹斎もつたい付て見ゆる事 00077170M5○さる人/煩(わつらひ)、竹斎をよひにやりけれとも、もつたい付て 00077180M6おそく参りけるにより、/余(よ)の/医者(いしや)を頼てミやくを見する所 00077190M7へ、竹斎見まハるゝ。まづあがらしやれませうといふ。竹 00077200M8斎きゝて、是程あけて/置(をき)て、まだあがれや、そんな事ニあ 00077210M9すあゝふといはれた。 00077220¥N7¥J 00077230¥X第七△/去(さる)やつこ/腹(はら)いたミ竹斎に見する事 00077240M12○山のてのやつころさ、/俄(にハか)に/腹(はら)こハらかし、竹斎をよひて、 00077250M13かやう+(三ウ)といひけれハ、竹斎打うな付、先/腹(はら)を見 00077260M14やうするとて、打あをのけにねさせて、/腹(はら)をそろ+とさ 00077270M15すりて、是でハだうり+、腹の内かしんどうして、やた 00077280M16けびのをと、しよくにたゝへておびたゝし、あばらのほね 00077290M17をへだてゝ、たゝかふみかたにハ、むし、しやく、す/白(ばく)、 00077300M18かんの虫、入ちかへもミちがひ、さん+にきたりけりと 00077310M19て、ひやうしにかゝりて、やつころさを/を((ママ))二つ三つぶた 00077320¥P235 00077330L1れけれハ、折ふしこハりハやミにける。 00077340¥N8¥J 00077350¥X第八△とうふや/施行(せきやう)の事并竹斎も少うくる事 00077360L4○竹斎の近所にとうふやあり。/後世(こせ)せん生のためにや、と 00077370L5うふのかすをせきやうに引けるが、竹斎もうけばやとおも 00077380L6ひ、つゝれかミこになわおびして、ふんどしにてほうかぶ 00077390L7りし、とうふやのくハんじんおしきをもつてまいつたとて、 00077400L8ふちはなれなるおしきを、十まいばかりいだされた。 00077410¥N9¥J 00077420¥X第九△竹斎うをゝとびにとらるゝ事 00077430L11○ある時竹斎/魚(うを)のたなに/行(ゆき)、/鯉(こい)を二三本/買(かい)ちゝめかいてか 00077440L12(四オ)へられけるか、うしろよりとひ来、ひいよろ+と 00077450L13いふてかけければ、竹斎きもをつぶし、大手をひろけて、 00077460L14とんびかへせあたこ殿へ申そといわれた。 00077470¥N10¥J 00077480¥X第十△竹斎人のはなしをきゝひた物ねる事 00077490L17○ながじり/成(なる)人竹斎所へ来りて、きゝたくもなきはなしを、 00077500L18うしのよだれのごとく、ひた物なか+しくはなされける。 00077510L19竹斎もせいつきて、そろ+といねぶられける。此/男(おとこ)、扨 00077520¥G 00077530M13ハ竹斎ハよく/合点(かつてん)してうなづかるゝと心得て、猶だら+ 00077540M14とはなしけれバ、竹斎後にはたかいびきして、ころ+と 00077550M15こけられけるをミて、此ものはらをたてゝ、ねるならハね 00077560M16るとはしめからいはれたがよい。 00077570¥N11¥J 00077580¥X第十一△竹斎/関東(くハんとう)下り/道中(たうちう)にて酒を買事 00077590M19○或時竹斎/関東(くハんとう)へ下られしが、道にて/酒(さけ)ハのミたし、あ 00077600¥P236 00077610L1ひ手はなし、殊にねち/上戸(じやうご)の事なれハ、一ねぢねぢねバのむ 00077620L2事ならず。何とぞしてあひ手ほしや、ねぢられてのミたや 00077630L3と思ひ、有酒やに立入/かし((ママ))、六つにて候へ共おみきをハ一 00077640L4升はかりかんをして下されよ(四ウ)といはれけれハ、承る 00077650L5とて、かんなべに一升つぎ、内のとうしかんをしけるか、 00077660L6かんよき時分に、先たべまいといふておもてへ出る。其時 00077670L7/男(おとこ)はしり出て、せうべんハさせぬといひて、こがいな取て 00077680L8ねぢあぐれハ、竹斎是てこそのめたれ、心きゝのとうしど 00077690L9のとて、さんせうをくわへて、むいきにつつとやられける。 00077700¥N12¥J 00077710¥X第十二△竹斎さる人によばへの仕様をおしゆる事 00077720L12○しやうぢきなるわか/男(おとこ)に、竹斎おしへ申けるハ、夜はへ 00077730L13ほとおもしろき物ハなしとかたりけれハ、此人りちき成人 00077740L14にて、よばへとハ何事ぞや、おもしろき物ならバ、少なら 00077750L15ハんといへば、竹斎申けるハ、先よばへといふハ、丸はだ 00077760L16かに成、あるひハざしきにかい、上らう下らうのへや※ 00077770L17までも、夜ごとにくるり+とめぐれハ、其後うまき事有 00077780L18て、なんぼうおもしろき物じやといはれけれハ、/彼(かの)りちき 00077790L19もの心得たりとて、其日のくるゝをる夜半の比、其まゝ丸 00077800M1はだかに成、ざしき又ハ二かい、上らう下らうのへや※ 00077810M2まで、くるり+とめぐれ共、/更(さら)におも(五オ)しろき事も 00077820M3なくして、夜ハほの+とあ/ぐ((ママ))る。其時内のもの共おき合 00077830M4て、やれ+/爰(こゝ)にはだかのたいまいりかぬすミに入たるハ 00077840M5とて、とらへて見たれば我だんなにてありけるとぞ。 00077850¥N13¥J 00077860¥X第十三△竹斎去方へ日待に行事并なぞの事 00077870M8○竹斎さるかたへ、正月十四日のばんに日待にゆかれける 00077880M9か、さしきのまん中に、ひげむさ+としたる男一人とう 00077890M10と/居(ゐ)て、何とも物をもいはず、竹斎をにらミ付、しやのま 00077900M11ふがほしていたりける。竹斎是を見ておす+そばへたち 00077910M12よりて、いつ方よりの御出ぞや、/終(つゐ)に見なれ申さぬ御かた 00077920M13也、扨も見事のおひげとてちりを取てほむれども、何とも 00077930M14物をいはざれハ、竹斎はらにすへかねて、ひさをたてひぢ 00077940M15をいからかして、/本来(ほんらい)なんぢハ何ものじや、人にじぎをも 00077950M16いはずして、もつたいづらなるおのこかなと、ふるい+ 00077960M17申ければ、ひげ聞て、身共ハ/根本(こんほん)/地水火風(ちすいくわふう)のおのこなるが、 00077970M18扨さ申/入道(にうたう)ハ何ものそ。竹斎聞て、それがしハ/地水火(ちすいくわ)(五ウ) 00077980M19(六オ挿画)風のわづらひを、仕合次第によくなをす、やふぐ 00077990¥P237 00078000L1すしの竹斎成か、しぜん/知音方(ちゐんかた)にしなれてもくるしからざ 00078010L2る/病人(ひやうにん)あらハ、ちんひ、かうぶしにてなをし申さん、/薬代(やくたい) 00078020L3ハやすくまわると申さるれバ、おのこ聞て、扨も+御ば 00078030L4うハ物をかくさずへつらハず、とうわよき人かな、きやう 00078040L5かう/互(たがい)にはなし申さん、是へ+とせうして、きけば御ば 00078050L6うハ、京わらんべの口ずさむなぞかけの/上手(しやうず)ときく、こよ 00078060L7いの日待のなぐさミに、ちと+御かけ候へや、我らもす 00078070L8きの事なれば、ずいぶんほどき申さんと、打とけて申さる 00078080L9れば、竹斎も今ハあんどして、ひさをなをしくつろきて、 00078090L10其儀にて有ならハ、さあらばなぞをかけ申さん、随分ほど 00078100L11き給へとて、竹斎、 00078110L12△△▽二人ハしめし申て/頓而(やがて)すへからくと云△△○/天神鬚(てんしんひげ) 00078120L13△△▽まハり+にけがはへた△△○はたけ 00078130L14△△▽こま引のさふらい△△○馬おいぶし 00078140L15とかやうに一句もつまらずほときけれハ、竹斎もあひそう 00078150L16なくてあたまをかきて、少ひげ殿もかけ給へ、それかしほ 00078160L17どき申さんと云。ひけ、(六ウ) 00078170L18△△▽ちんちくりんのいしや△△○やぶぐすし 00078180L19△△▽おたけのわつらひ△△○じねんこ 00078190M1△△▽人切がたな△△○ちくさい 00078200M2と是もつまらずほときけれハ、今より後ハ一/句(く)つゝかけあ 00078210M3ひに/致(いたさ)ん。尤然へしとて、又竹斎いきもつかす、 00078220M4△△▽五丈四寸のやまとりのこゑ△△○八てうが/嶋(しま) 00078230M5△△▽べにやの男△△○/赤染(あかそめ)ゑもん 00078240M6△△▽孫六よミかいりて王にすハる△△○六/孫王(そんわう) 00078250M7△△▽八/竹王(ちくわう)の/廿(はたち)計△△○八/算(さん) 00078260M8△△▽酉亥の中のけた物△△○いぬ 00078270M9△△▽すいそんひそんのあらそひ△△○/水火(すいくわ)のたゝかい 00078280M10△△▽すきやのまハりくハし△△○ちやのこ 00078290M11△△▽与次兵へのよぬけ△△○次兵衛 00078300M12△△▽みをのやに王をばわれた△△○みのや 00078310M13△△▽いまのうちの子とも△△○いこま 00078320M14△△▽まつにはやきた△△○松はやし 00078330M15△△▽うしね△△○ねかへり 00078340M16△△▽かいげん大明神△△○ぜに神 00078350M17△△▽ほさつのうハきぬ△△○ほうがら 00078360M18△△▽やゝおほき家の名△△○かやゝのやくゑもん 00078370M19△△▽竹のさきにほかついた△△○ほたけ 00078380¥P238 00078390L1△△▽ひようのよりあひ△△○ふせんさく 00078400L2△△▽くじがすんだ△△○くし 00078410L3△△▽とうざ銀のあきない△△○はやかね 00078420L4△△▽さらしのかしら△△○されかうべ 00078430L5△△▽すそびんばう△△○こしほそ 00078440L6△△▽いばらきつるをたはかる△△○つるぬき(七オ) 00078450L7△△▽よときのかわり△△○よすけ 00078460L8△△▽すぼろほんのすぬけ△△○ぼろぼん 00078470L9△△▽くさのもち△△○はぎの花 00078480L10△△▽いはざる見ざる△△○いわし/水(ミづ) 00078490L11△△▽さかこめ△△○めこ 00078500L12△△▽ねきのとんはうかへり△△○きね 00078510L13△△▽竹のぶぎやう△△○やぶにらミ 00078520L14△△▽おやか子にさけをもる△△○このめ 00078530L15△△▽のミかへりむしに成△△○みのむし 00078540L16△△▽やけるそしたひほ△△○しやうもふよふんどしよ 00078550L17△△▽すばり/苦衆(わかしう)△△○しりくゝり 00078560L18△△▽かめのお△△○しりかしら 00078570L19△△▽いせ/大神宮(だいじんぐう)△△○神かしら 00078580M1△△▽神いくさ△△○かミきり 00078590M2△△▽のとくひ△△○江口 00078600M3△△▽あさきゆめミた△△○しほち 00078610M4△△▽むさし△△○六しやく 00078620M5△△▽いまの内の/戸(と)△△○いとま 00078630M6△△▽へこきさけ△△○なら衆 00078640M7△△▽しるなべのしるをとる△△○なべ 00078650M8△△▽くハんのうちに人がすむ△△○こしびと 00078660M9△△▽/刀(かたな)のさきかおちた△△○/力(ちから)おとし 00078670M10△△▽あし引の山の神△△○ちんばのおかた 00078680M11△△▽ふぬけのぬけた△△○ふ 00078690M12△△▽あかゝねのあかを取△△○かね 00078700M13△△▽さかやのぜうもふ△△○さかやき 00078710M14△△▽とうじんの若衆△△○からしり 00078720M15△△▽所&に雨がふる△△○むらさめ(七ウ)(八オ挿画) 00078730M16△△▽そつねな△△○よたれかけ 00078740M17△△▽たはたの入物△△○たばこ 00078750M18△△▽一身のそせう△△○みくじ 00078760M19△△▽まくらかへし△△○くらま 00078770¥P239 00078780L1△△▽あたまのさらかはなれた△△○はちの木 00078790L2△△▽わくのいとハめん+くり△△○くりの木 00078800L3△△▽二日+の/寄合(よりあひ)△△○四日/市(いち) 00078810L4△△▽/寺(てら)のあさめし五人まへ△△○ときハごぜん 00078820L5△△▽/金玉(きんたま)二つはねかけた△△○金ふくりん 00078830L6△△▽くまのへゐんきよ△△○ミやまかくれ 00078840L7△△▽からすの中にうかいる△△○からうす 00078850¥G 00078860M1△△▽でう六のつぼね△△○十二のきさき 00078870M2△△▽はりかたにまかいる△△○はりまかた 00078880M3△△▽神なりのきんもつ△△○くわはら 00078890M4△△▽八まん大名△△○やわた殿 00078900M5△△▽壱升ぶち△△○ふちたか 00078910M6△△▽たけおかたのいさかい是ハおかたのたうり△△○竹 00078920M7△△△かぶり 00078930M8△△▽おんなのめ付△△○さねもり 00078940M9△△▽八里の内か四里やけた△△○しりやけさる 00078950M10△△▽たからの山△△○さんほう 00078960M11△△▽こ米△△○まゝ子 00078970M12△△▽月ほしの/図(づ)△△○天たう次第 00078980M13△△▽ちやかまのにかい△△○やくハんか 00078990M14△△▽よこつちのよこ取△△○つち 00079000M15△△▽ゆなのよりあい△△○むらさる 00079010M16△△▽けちへやのうハしき△△○ちハむしろ 00079020M17△△▽一六さへもん△△○七左衛門 00079030M18△△▽/矢(や)はきや天ぐに成△△○やしま(八ウ) 00079040M19△△▽しよやの一はんこ△△○ごや大郎 00079050¥P240 00079060L1△△▽よるひるのさかい△△○ねむま 00079070L2△△▽くわごん△△○口すき 00079080L3△△▽びくにのよめ入△△○妙ゑん 00079090L4△△▽ゑんかきれた△△○おちやない 00079100L5△△▽くらにくら△△○またくら 00079110L6△△▽はなのさきにひがついた△△○ひはな 00079120L7△△▽あはうハ一はん△△○ぬけ大郎 00079130L8△△▽ひんそうのはなずき△△○びんばうのはな 00079140L9△△▽それおきかおちた△△○ひをどし 00079150L10△△▽金玉の玉おとし△△○きん 00079160L11△△▽ゑん天のはやし△△○あつもり 00079170L12△△▽ぼゝけのさか様△△○けぼゝ 00079180L13△△▽ほゝのひたい△△○さねかしら 00079190L14△△▽上&のすあり△△○きひすか 00079200L15△△▽わたくし物にてふねをこく△△○まらかい 00079210L16△△▽二三升のミてもあししらす△△○こせう丸のミ 00079220L17△△▽ひつしのかしら△△○むま 00079230L18△△▽はなのこゑ△△○ふん 00079240L19△△▽ほさつのとしやうひけ△△○ほうひけ 00079250M1とかやうになぞをかけ合給へ共、両方一/句(く)もつまらずとき 00079260M2けれハ、/亭主(ていしゆ)立出、先/御酒(ごしゆ)一つ参れとて、/種&(しゆ+)の/肴(さかな)を/調(とゝのへ)、酒 00079270M3をしいてもられけるに、ひげ申されけるハ、何にても竹斎、 00079280M4をんぎよく一つ承り/度(たき)とあれハ、竹斎承り候とて、/薬(くすり)と/病(やまい) 00079290M5(9オ)とのかつせんを、はや物かたりにせられけり。 00079300¥N14¥J 00079310¥X第十四△薬と/病(やまひ)いくさ物かたりの事 00079320M8○去程に、一年の日数をかんこふるに、凡三百五十余ケ日、 00079330M9其間に四/季(き)の/土用(とよう)六八せん、/草(くさ)ばへ草かれなんとゝて、人 00079340M10間をなやまし、心ちあしき事度&に及ぶ。然を/薬師(やくし)如来と 00079350M11て、じひ第一成仏まし+て、色&の御薬をあたへ給ふに 00079360M12よつてこそ、/老若男女(らうにやくなんによ)おしなへて、めでたかりける御代と 00079370M13かや。かゝりける所に、薬と病の間に大き成もんどう一つ 00079380M14出来たり。先薬のかたにハ病にさきたつ薬なしとて、四方 00079390M15にやげん/堀(ほり)ほらせ、やくばんかたく申付、おふてからめて、 00079400M16つゞらおりなる/城(じやう)くわくに、たてごもりて、病のかたの手 00079410M17だてを、しのひ+に/伝(つた)へきゝ、かげんしてこそおハしけ 00079420M18れ。扨病のかたにハ此よしをきゝ、かほどぶやうじやう成 00079430M19世の中に、いざや一おこりおこつて、人間をなやまさんとい 00079440¥P241 00079450L1ふ程こそ有けれ、先打たつ病ハたれ+そ、一番にちやう 00079460L2まん入道がちやくし、しやくじゆ(9ウ)の太郎としひさハ、 00079470L3しんきそめのひたゝれに、よせてたゝほと成大腹巻、きよ 00079480L4しのものを少つゝ、おこりさめむらしけとうの弓引すゑ、 00079490L5むねはらふくろうのはねにてはいだりける矢をおひ、日数 00079500L6くり毛の馬に、かしらハつねにつゝミくら、我身おもげに 00079510L7ゆらりとのり、つゝみかわごによりかゝつてひかへけるが、 00079520L8なのるやうこそおかしけれ。/抑(そも+)/陳(ちん)とうにすゝミ出たるつ 00079530L9ハものを、いかなるものとか思ふらん、是ハ人間の八/苦(く)のう 00079540L10ちに、しやうらうひやうしのしかの/流(なかれ)にては候へ共、此程 00079550L11五三年が間、/心肝腎肺脾(しんかんじんはいひ)の間に積りつもつて候へ共、薬と 00079560L12やらん申にが+しき/客人(きやくじん)にいまだげんさんせず、我と思 00079570L13ふ人あらバ、よりあひ給へしや、むすとくんで両馬が相に 00079580L14/高枕(たかまくら)して、どうとふさんずものをとて、こと+しく名乗 00079590L15ける。つゞいて出る/若(わか)たうにハ、ちむしせむしにわか虫、 00079600L16身のしゝをすばくり虫、火に入もごう、水にいるゝもごう 00079610L17よとて、はせまハる。又さふらひ大将にハ、半ちうぶの/□((てカ)) 00079620L18なへさへもん、かつけのす/□((ねカ))ゑもんよこねとの、ひさわら 00079630L19殿、(十オ)けんべき、かたいた、しもかせなんとハおく病第一 00079640M1のもの成が、わなゝきふるひて申やう、我等ハきん年無足 00079650M2して、武具のたしなミも候ハねハ、たゝこまたくゝり入て、 00079660M3きんのねをしめて参らせんとそのゝしりける。しゆうそう 00079670M4たむししゆもつなんとハ、あかゝわおとしのよろいきて、 00079680M5むかし源平の/合戦(かつせん)のとき、抑北国しのはらの城にて、長井 00079690M6の/斎(さい)藤/別当(へつたう)/実(さね)盛と、てつかの太郎かかつせんしたることく、 00079700M7火くさきれ草すねくさりをたゝみあけて、/勝負(せうふ)をせんとそ 00079710M8申ける。又上かた侍にむしハのとけつつうゑもんハ、なつ 00079720M9きのたいへはしりあかつてひしめきけるか、たとひ/鑓(やり)長刀 00079730M10のきつさきをハ打おとされたりとも、おつとりなおひてか 00079740M11ゝり、ゑづきにせんとそ申ける。こゝに又、病のかせいと 00079750M12打見へて、無/養生(やうしやう)成人数あまたはせあつまる。/寒気(かんき)の/薄衣(うすきぬ) 00079760M13/炎(えん)天のちうぶくせんミのねつとう下ひへ夜しよく先として、 00079770M14/都合(つかう)其せい四百よき、/石(いし)よりかたきはらた殿へおしよせ、 00079780M15太/鞁(こ)をとう+とうたせ、うなり声にかゝつて(十ウ)時の 00079790M16こゑをそあけにける。扨薬のかたにハ此よしをきゝ、馬の 00079800M17くさかいのとくちに湯水のかよふあいたに、よろつの病を 00079810M18たいしせよとて、うつたつ薬ハたれ+ぞ。先一/番(はん)に/黄金(わうこん) 00079820M19のこかねむしや、わうれんのひけむくの助たいわらの紀伊 00079830¥P242 00079840L1守、これらハ皆大名の薬なれハとて、てんまあまたにけし 00079850L2をうけ取て、さまさんとそ仰ける。もつかう、かしゆつ、 00079860L3かうぶしハ、大かうのぶしなれハとて、足かる大将にそな 00079870L4されける。/川■(せんきう)、びやくじゆつ、ひんろうし、/地黄(ちわう)、しや 00079880L5くやく、にんじんハ、うけかたき人じんをうけて、あハせ 00079890L6かたき薬にあへり。病をきろふかさんきらい、にほう薬か 00079900L7こうひやくし、よろつの薬のかげんさへもん、にかはやく 00079910L8のくしんの介、あまのゝかんさう、あさかほのけんこ、四 00079920L9くざれことすきのきやうさんりやう、ことはたゝかいのば 00079930L10くもんとう、こしのまハりのこせう、さんせう、はじかミ 00079940L11なんとハ、去年の/冬(ふゆ)の比より世をすて、かんきよはし給へ 00079950L12とも、からいこゑにて出給ふ。殊更もつて物しり/顔(かほ)のさい 00079960L13かくゑんてん(十一オ)(十一ウ・十二オ挿画)すいかくハこわう 00079970L14ゑんちむしなんとにもりいたり、しんせんけとくとのなん 00079980L15とを用たり。/都合(つかう)其せい三千五百よき、まへにハかけ帋を 00079990L16ひろけ、くつはミをきさミそろへて、東道にかゝつてひか 00080000L17へけるやうこそおもしろけれ。そも+ちんとうにすゝミ 00080010L18出たるつハものを、いか成ものとおもふらん。忝も天ちく 00080020L19にてハきばいわう、たいとうにてハくわたへんじやく、扨 00080030¥G 00080040¥P243 00080050L1日本京都にてハ六てんやくのいじゆつをたすけ、近代くわ 00080060L2んとうにてハさんきこうしゆんの御手にかゝりて、万の病 00080070L3をりやうしせしむ。されは法花経六の巻にもいしやのたと 00080080L4へをあけて、ミやうれんほうやくせんししひやうととき給 00080090L5ふ。かやうにありかたき我等なれハ、とうほうしやうるり 00080100L6世/界(かい)のやく師如来のつほの内、すミかとしてしよしつしよ 00080110L7しんちんあんらくのらう薬なれハ、たとひいかなる病なり 00080120L8とも、かたきにはきろふまし、たいしせんとそ仰ける。こゝ 00080130L9にまた、山かさふらひに、山もゝのかわ太郎、あてのきの 00080140L10かわら次郎とておとゝひ(十二ウ)あり。抑我等せんそのかわ 00080150L11ら兄弟ハ、むかし源平の合戦の時、大手ハいくたのもりの 00080160L12せんぢんして、名をこうたいに上ケ給ふ、それ程こそなく 00080170L13とも、我等二人かのりこへて、たゝかわんにハいかてかせ 00080180L14めやふらさらんとそ申ける。しやくの虫共是をきゝ、やあ 00080190L15いかには薬ともいなかをわたるやぶいしやか、みやくのき 00080200L16よしつをもさくりおほえす、ふちんちさゝをもしらすして、 00080210L17五月五日に野へ出て、万のねほり出し、わやく五服十ふく 00080220L18せんし、あつめかけたりとも、我等ハみの/笠(かさ)を打かふつて、 00080230L19もちいましゐものをとそよばわりける。こゝに又、薬のか 00080240M1たのあらくんひやうに、つほうしのちんきうさいすゝミ出 00080250M2て申けるハ、大将軍あれ御らん候へ、天とうのいくさ今ハ 00080260M3手いたきほとハ見えて候、老若の者共か引かせにて、しわ 00080270M4ふきし候に、かさ上より火のてを立て、せめんにハしかし 00080280M5とて、五のすい七のすい、一せめのほり九のゆ、十一十四 00080290M6のゆへ中の三つやいと左石のけいもんしやうもんをおしひ 00080300M7らゐて、しやくしゆかいたりけるつほをさいてやきはらふ。 00080310M8しや(十三オ)くしゆの虫とも是を見て、かなハじとやおも 00080320M9ひけん、五/臓(さう)六ふの腹中にてはいくんし、こゝやかしこに 00080330M10たゝすミけるを、こゝに又、薬のかたのはやわざに、きう 00080340M11ゑん三百騎、さんわうくわん五百き、しほゆのこんのふ丸 00080350M12をともなひ/弓矢(ゆミや)のはつに手をかけて、せめいりけるあいた、 00080360M13ひゑもねつきも諸病もろ共に、他国をさしておし下す。扨 00080370M14こそ無病長命とかんせぬものこそなかりけりと、かやうに 00080380M15いしやに/応(おうし)たる、はや物語をかたられけれハ、其座に有し 00080390M16人&、ひけも/亭主(ていしゆ)ももろ共に、是ハ+といひて、三国一 00080400M17なとうたひて、竹斎申されけるハ、ひけ殿も何にてもめつ 00080410M18らしき事あらハ申させ給へとありけれは、ひけもじたいに 00080420M19及ハねハ、心得たりとて、ひけとかほとのさいめろんを、 00080430¥P244 00080440L1はや物語にせられける。 00080450¥N15¥J 00080460¥X第十五△かほとひけとのさいろんの事 00080470L4○さる間/山城(やましろ)の国おたきの/郡(こほり)、花の都にて事こそいてき□ 00080480L5り。何事やらんとたつねしに、ひげと/顔(かほ)とのさいめろんと 00080490L6そ聞(十三ウ)へける。先ひけの一ぞくさしあつまつて申け 00080500L7るハ、我等と申ハ、かつてうき世にかまふ事もなく、年月を 00080510L8おくりしに、近年ハ人&の身のたしなミに事よせて、けぬき 00080520L9といへるつわものをこしらへおき、うぶけはなけに至まで、 00080530L10こと+くみなぬきはらハれ候事、かへす+むねんなれ、 00080540L11いさや/各(をの+)かほのば中へせめいつて、日比むねんをさんじつ 00080550L12ゝ、名をこうたいにあけんといふ。其中に惣大将とおほし 00080560L13きかしら/髪(ひけ)の太郎つつと出て申けるハ、我等と申ハ天地か 00080570L14いひやくより此かた、五たいの上つかさを給ハつて、/頂上(てうじやう)を 00080580L15住家とし、本とり山を本城にて、こよりの細つなようかい 00080590L16にし、朝夕しゆりをくわへつゝ、うき世の中をおくりしに、 00080600L17ころハいつ/れ((ママ))もしらねとも、/顔(かほ)のかたより使者を立、こび 00080610L18たいまでをしよもうする。かく有へしとはしらすして、や 00080620L19す+とりやうしやうしけるに、近年ハ仁義をほんと仕り、 00080630M1けぬきといへる大ゑせものをこしらへをき、あるひハさか 00080640M2やき、こびんなんとゝ名を付てぬきはらハれ候事、返&も 00080650M3口おしき。しんいの(十四オ)(十四ウ・十五オ挿画)ほむらをさ 00080660M4きとして、ふせきたゝかふとハ申せとも、さすかにかれら 00080670M5ハつハもの也、我等か事ハ、いとものほそきしんたいにて、 00080680M6終にいくさにまけけれハ、万むかしにひきかへて、ぼんの 00080690M7くほをすみかとし、あるにあられぬ次第なり。然るへくハ、 00080700M8此事をおもひとゞまり給へかしと、さま+にけうくん申 00080710M9けれハ、その中に、むさひけのゑちこのかミすゝミ出て申け 00080720M10るハ、御異見尤にてハ候へ共、此事さしおく物ならハ、爰 00080730M11やかしこにたゝすミて、身をたすけんと思ふ共、次第+ 00080740M12にぬきとられ、とてもはつべき露の命、おしミても何かせん、 00080750M13きよやかにうちしにし、名を後の世にのこすへし、うつたて 00080760M14やものともと、物たのもしうこそいひけれハ、此義尤然る 00080770M15へしとて、うつたつつハもの、とれ+そ。先むさひけの 00080780M16/越後守(ゑちこのかミ)、びつ中の新助、ほうひけの/能登守(のとのかミ)、くたりひけの 00080790M17/伊与(いよ)守、つるハひけの/若狭(わかさ)守、ひじやう又助、あかひけの 00080800M18はりのすけ、うらミかほなるしゆつくわいひげ、近江の国 00080810M19の住人に、白ひけのおきなとの、おとがいしたのどひげ、 00080820¥P245 00080830¥G 00080840M1其外かしらかミの大郎、(十五ウ)まゆけの次郎、まつけの三 00080850M2郎、はなけの四郎、わきけの五郎、都合そのせい九万八千 00080860M3よき、かちんのはた一なかれ、さつとさゝせ、右のさい所 00080870M4をうしろにあて、米かミ山に/陳(ちん)をとつて、時のこゑをとつ 00080880M5とぞつくりける。顔のかたにも、此よしかねて聞けれハ、 00080890M6おとろ/((く脱カ))へきにあらすとて、かたらひおきしかたへ、はやう 00080900M7ちをそまハしける。あつまるかほハとれ+そ、大ひたい 00080910M8のむつのかミ、はちひたいのはりまのかミ、さかやきのお 00080920M9くの介、あてこびんの新左衛門、たかはなの勘内、ほうか 00080930M10いの甚介、扨ものすきを見てあれハ、まるかほ、わらいか 00080940M11ほ、そこおくひやうのなけかほ、人のもちいぬわらいかほ、 00080950M12物しりたてのまんしかほ、酒によハねとあからかほ、はら 00080960M13たちかほや、うれいかほ、人をとかむるねたれかほ、こゑ 00080970M14顔、やせ顔、しんきかほ、朝かほ、夕かほ、むさくさかほ、 00080980M15都合そのせい廿八万八千よき、しらはた一なかれさつとさ 00080990M16ゝせ、たかはな山に陳をとり、時をとつとぞつくりける。両 00081000M17方すてにおりたつて、矢いくさをそはしめける。其相ちか 00081010M18き事成に、一大事(十六オ)とや思ひけん、こゝに両かんの玉 00081020M19介と申て、顔にも髪にも近き一そく成が、おとろきさわき 00081030¥P246 00081040L1申やう、扨も今度髪とかほとのさいめろんを、/余所(よそ)の事か 00081050L2とおもひしに、身のうへなりけるかなしさよ、やゝ共すれ 00081060L3ハはしり矢に、まなこをつぶさん事ハ/実正(しつしやう)也、いさや、け 00081070L4かせん其さきに、わよのちやうきをあつかハん、さりなか 00081080L5ら、こぜひの/扱(あつかい)かなふまじ、一そく共をもよほせとて、/触(ふれ) 00081090L6状をそまハしける。あつめる/眼(まなこ)ハとれ+そ。先白まなこ、 00081100L7くろまなこ、其色かわるさるまなこ、物もされさるうなき 00081110L8まなこ、せひにおもふのミ取まなこ、其さまわるきそう眼、 00081120L9人のほむるハふたかハめ、大め、まけめ、ちかめ、のそ 00081130L10き目、うちめ、かすむめ、両事中を合せめ、つきめ、はり 00081140L11目、すちかいめ、春のはしめにてハあらね共、諸木のこの 00081150L12めをさきとして、くろめ、わか目にいたるまて、みなこと 00081160L13+く同心して、そうへさつとそいつたりける。両かんの 00081170L14玉助すゝミ出て申けるハ、いかにや両ちんのかた+、な 00081180L15りをしつめて事のしさいを聞給へ、それうつもうたるゝ 00081190L16も夢まほろしのたハふれなり、されハ有経にいハく、/困果(ゐんくわ) 00081200L17ハしやりん(十六ウ)のことし、我人をうしなへハ、かれ又 00081210L18我をかいす、一世に人をころしぬれハ、七生まてもころさ 00081220L19るゝ、此ことハりを聞時ハ、かつてもかちにあらさる也、 00081230M1世をおさめんとおもふにハ、人の道理をそたてつゝ、我た 00081240M2うりをハつゝしミて、わかうの道をたしなミて、/友(とも)にあら 00081250M3そふ事もなく、世ハ太平の事そかし、ことに我等か在所も 00081260M4いくさば近き事なれハ、いこミの矢にもあたりつゝ、玉助 00081270M5むなしく成ならハ、たゝつえ一つのたのミにて、両の御い 00081280M6せいも有ましそ、昔か今に至まて、さんしんさうわうした 00081290M7るをこそ、ミやうか人とハ申也、今より後ハ/各(をの+)三はう/互(たかい) 00081300M8にしゆつこんして、世をおさめんと云けれハ、/至極(しこく)の道理 00081310M9にせめられて、/顔(かほ)と/髪(ひけ)中なをりし事、むかしも今も上下万 00081320M10民おしなへ、かんせぬ人こそなかりけり、とかやうにはや 00081330M11物語をせられけれ。座中一どにどつとわらふて、/亭主(ていしゆ)にい 00081340M12とまをこふて、めん+我やにかへられける。 00081350¥Q□屋喜右衛門開板(十七オ) 00081360¥P247 00081370¥U噺本大系△第三巻 00081380¥T一休諸国物語 00081390¥G 00081400¥Y 00081410L16寛文末頃刊 00081420L17作者未詳 00081430L18大本五巻五冊 00081440L19野田寿雄氏蔵 00081450¥Y一休諸国物語△序 00081460M3/竊(ひそか)に/愚(ぐ)なるこゝろのそこにおもひそめて、兎のハしるにま 00081470M4かせて/玉淵(ぎよくえん)をうかかふ事なけれは、/却而(かへつて)世のそしりをもか 00081480M5へりみず。たゝうき世の/波(なミ)にたゞよふ、一/瓢(へう)のうきにうひ 00081490M6たる世の中の、人のこゝろはよしあしの、/難波(なには)/入江(いりえ)のもし 00081500M7ほ/草(くさ)、かきあつむるといへとも、みじかきをひきのばし、 00081510M8其心さしばかりありがほなり。それ/世上(せじやう)に、/同名(とうミやう)はなしの 00081520M9/書(しよ)其/類(るい)ありといへとも、是もつて/実義(じつき)ならず。(1オ)/幸(さいわい)な 00081530M10るかな此書、らくぐわいにさる/翁(をきな)のもとに一休一代記あり。 00081540M11/数年(すねん)の/懇望(こんもう)によりもとめ得たり。彼是つゝり、/梓(し)にちりは 00081550M12め、五巻にあミたて、一休諸国物かたりと/号(かう)して、今こゝ 00081560M13に板行せしめ畢。/縦(たとひ)ちある人たりとも、/子孫(しそん)/寵愛(てうあい)のミぎり 00081570M14ハ、一/座(さ)のわらひ/草(くさ)か、就中どうなんどうによの、もてあ 00081580M15そひともなれかし。(1ウ) 00081590¥P248 00081600¥Y1一休諸国物語巻一△目録 00081610L3第一△一休/途中(どちう)にて/斎(とき)の/約束(やくそく)の事 00081620L4第二△/専光寺(せんくわうし)/不行義(ふぎやうき)并一休/落書(らくがき)の事 00081630L5第三△一休/狂哥(きやうか)の事 00081640L6第四△同/若年(しやくねん)の事 00081650L7第五△同十七/歳(さい)の時/途中(どちう)にて/引導(いんだう)の事 00081660L8第六△/松山(まつやま)半平/難文(なんもん)を/請(うけ)和尚ニ返事を/頼(たのむ)事 00081670L9第七△一休/関東(くハんとう)/心外寺(しんげじ)にての事 00081680L10第八△同女を見て/礼拝(らいはい)し給ふ事 00081690L11第九△同/因縁(ゐんえん)ばなし并/屏風(ひやうぶ)ニ/打付書(うちつけかき)の事(一オ) 00081700L12第十△/卒都婆(そとは)/燃(もゆる)を一休やめ給ふ事 00081710L13第十一△一休りんじうをすゝめ給ふ事 00081720L14第十二△/長野(なかの)/銀助(ぎんすけ)一休を申入ル事 00081730L15第十三△/死(しゝ)てやけざる/房主(ばうず)の事并一休四/句(く)の/文(もん)を書給ふ 00081740L16△△△△に/忽(たちまち)やくる事 00081750L17第十四△一休へよしや/如斎(ちよさい)文をやる返事狂哥の事(一ウ) 00081760¥N1¥J 00081770¥X第一△一休途中にて斎の約束し給ふ事 00081780M3○上京に/糸(いと)屋よし右衛門と申ものあり。内&一休和尚のた 00081790M4うわよき事、古今ぶさうのよしうけたまはり、いつぞハむ 00081800M5らさき野へまいり、何にてもめづらしき事をうけ給ハらん、 00081810M6さなくば此方へ/斎(とき)に申入べきと、かね※おもふ折ふし、 00081820M7和尚/旦那(たんな)がたよりかへり給ふに、此人/途中(とちう)にてゆきあひ、 00081830M8扨&一たんの所にて御目にかゝり候ものかな、つゐでなが 00081840M9らわたくし、明日すこし心ざす日にさしあたり候、御ばう 00081850M10へ御/斎(とき)をしんじたく候、内&ハ御寺へ/伺公(しこう)いたし申べきや 00081860M11うにぞんじ候処に、/幸(さいわい)是にて御目にかゝり候、かならず 00081870M12+と申せば、和尚、心得申候、さりながら、/宿所(しゆくしよ)ハいか 00081880M13んととひ給ふ時、此人、やどハむろ町どをり、そんじよう 00081890M14そこなりと(二オ)いひすてゝうちすぎぬ。一休やがて心得 00081900M15給ひ、扨あくる日さうてんよりこしらへ、彼ものゝやどを 00081910M16たづねらるゝに、此ものもすこしハ心あるものにて、みせ 00081920M17にちいさきなたをつりてをけり。一休是を見給ひ、さてハ 00081930M18ていしゆも一くせあるものなり、ちいさきなたをつるハ、 00081940M19こなたといはん事にとおもひ、やがてうちに入給ふが、又 00081950¥P249 00081960L1ざしきのくちに/犬(いぬ)のかわをしけり。和尚ざしきへとをらる 00081970L2ゝ。時にていしゆ出合、さて+今日ハをりしも、ろしあ 00081980L3しく御たいぎなり、御あしよごれ候ハん、せんそく参らせ 00081990L4んと申。一休、いや+、たゞ今かハをこへてまいり候ゆへ、 00082000L5すこしもくるしからずと仰らるゝ。ていしゆ、さてこそは 00082010L6や一はいくハされたりとおもひ、扨/膳(せん)をこしらへ、ごきに 00082020L7何れもぬかを入、ふたをして出す。時に一休一&ふたをあ 00082030L8けて見給へ(二ウ)(三オ挿画)ばぬかなり。和尚さらぬてい 00082040¥G 00082050M1にもてなし給ふ。其のちていしゆざしきへまかり出けり。 00082060M2一休仰らるゝハ、さて+今日の心さしハ/三七日(ミなぬか)にて候か 00082070M3と仰らるゝに、/亭主(ていしゆ)いよ+かんじ入ける。扨一休ざしき 00082080M4をたち給ふ時、ていしゆなをもこゝろを引ミんとて、/銭(せに)百 00082090M5文とり出し、是ハ今日の/布施(ふせ)に参らする、是へよらずして 00082100M6ゐなから御とりあれと申。一休きゝ給ひ、心へ申候、いか 00082110M7にも是にてうけ申へき事いとやすき事也、さ候ハゝなけず 00082120M8にたまハり候へと仰らるれば、ていしゆいよ+かんじ、 00082130M9扨&御ばうさまハ、きゝをよびたるよりハとうハそうにて 00082140M10まします、/凡(およそ)人ハしバらくしあんして申出すに、いまだし 00082150M11たもひきいれざるうちに、はやくもかく仰らるゝ、さても 00082160M12+古今まれなる御はうさまやとぞかんしける。(三ウ) 00082170¥N2¥J 00082180¥X第二△専光寺不行義并一休落書の事 00082190M15○/洛外(らくぐわい)に/専光寺(せんくハうじ)と申寺あり。此房主馬をすきて/飼(かい)、又ハ 00082200M16/鶏(にハとり)の/玉子(たまご)をなにほども、あたひをこぎらず/買(かい)取てくハる 00082210M17ゝと云事、/風聞(ふうふん)しけるを、/旦那(だんな)衆是をきゝ、せうしにおも 00082220M18ひ、或時一両人ひそかに寺へゆき、申けるハ、何と御房様 00082230M19見申せば、御出家の御身として、寺ににあハぬ馬を御もと 00082240¥P250 00082250L1めなされ、其うへにハとりの玉子などをまいるといふ事、 00082260L2もつはら世間のとりさたにて候、是ハ御出家の/作法(さほう)にもれ 00082270L3たる御事也、たゞし参りてもくるしからざるぎ、/経論釈= 00082280L4書(きやうろんしやく=しよ)に見え候や、/四方(よも)のそしりいかゞして候と申せバ、ばう 00082290L5ずのいはく、いや、さやうのぎは/経(きやう)にあるにもあらずなき 00082300L6にもあらず、それ馬といふ物ハはやきものなるがゆへに、 00082310L7おもしろさに/飼(かふ)、また玉子ハしよくすとい(四オ)へども、 00082320L8是ハ/鳥類(てうるい)のたぐひにあらず、たゞ水なりとおもひてたべ候、 00082330L9をの+の御/存知(そんぢ)なき事なりといひて、/旦那(たんな)の申ぶん少も 00082340L10きゝ入ず、うそふいていられしか、旦那衆もことばなくし 00082350L11て立けり。其中に/一休和尚(いつきうおしやう)としたしき人有。此事一入せう 00082360L12しにおもハれ、或時和尚のもとへ行、爰にかやう+の房 00082370L13主あり、旦那中より/再三(さいさん)/異見(いけん)申せどもすこしももちいず、 00082380L14何とぞしてこのふぎをやめさせたく候、あハれ和尚さまを 00082390L15/頼(たのミ)奉り、此房主を/驚(おとろ)かし、りんがう他国へも、とりさた 00082400L16仕ほどに、はちしめずんばやむまじと存る也、いかゝ仕ら 00082410L17んと申。一休きこしめし、それ程の事ハやすき事也とて、 00082420L18/板(いた)一/枚(まひ)取いだし給ひて、/落書(らくしよ)をぞかき給ふ。 00082430L19△一△はやき物か/面白(おもしろく)ハ、/鳥(とり)の/飛(とぶ)を見てもありたき事、并 00082440M1△△玉子(たまこ)を/水(ミつ)なりと(四ウ)おもひて/食(しよく)するならは、/元来(くハんらい)/水(ミつ) 00082450M2△△を/呑(のミ)てありたき事也。 00082460M3△△△/専光寺(せんくハうじ)心ハそらてあたまそる 00082470M4△△△△△△うき/世(よ)/衣(ころも)の/袖(そて)のなかさよ 00082480M5此ふだを在所と/他郷(たかう)とのさかひ目か、又ハ/往還(わうくハん)のかいだう 00082490M6にたてゝおかれよ、かくある時ハなにほと心つよき房主な 00082500M7りとも、是に/恥(はぢ)ぬハあるまじ、はやとく+とて給ハりけ 00082510M8り。かたじけなしとて取てかへり、をしへのまゝにたてを 00082520M9きけり。/行逢(ゆきあふ)人&是を見て、つまはぢきして通るものも有。 00082530M10或ハわらひどよめき通るものもおほかりけり。/彼房主(かのはうす)是を 00082540M11/面目(めんほく)なしとや思ひけん、終にハやめけると也。何れもだん 00082550M12なかた、ひとへに和尚の御かけなりと、よろこばざるハな 00082560M13し。 00082570¥N3¥J 00082580¥X第三△一休狂哥の事(五オ) 00082590M16○和尚の門前にかたのゝ与助と申もの有。ひんなる事ハた 00082600M17とへていはんやうもなきほどの/身(しん)代なりしか、/碁(ご)をすきて 00082610M18うつ事、日のくるゝをも夜のあくるもしらず。ふゆのさむ 00082620M19きにハごいしをいりてあたゝかにしてうち、あぶらなけれ 00082630¥P251 00082640L1バしばなんどをたきて/打(うつ)。まなこかすめバ/衣類(いるい)/家財(かさい)をおし 00082650L2まずうりすてゝ、目ぐすりをかふてひた物さしぬりて、よ 00082660L3るひるわかずうちけり。女房ついへなる事をめいはくにお 00082670L4もひ、ある時一休和尚へ参りて申けるハ、わらハ是まで参 00082680L5る事、よのぎにあらず、ない+おしやうさまも御ぞんじ 00082690L6のごとく、与助/碁(ご)にすき入、/家職(かしよく)のいとなミを打すてゝ、 00082700L7よるひるのわかちもしらず、しんるい/同友(とうほう)の/異見(いけん)をも一せ 00082710L8つ聞ず、/碁(こ)に長じ、もはや身代ハかごに仕り候、和尚さま 00082720L9つね+(五ウ)御目下され候、はゞかりながら御/異見(いけん)にあ 00082730L10づかり候ハゝ、ありかたかるべしと申ければ、おしやうき 00082740L11ゝ給ひて、もつともおかたの申ぶん、一&しごくせり、さ 00082750L12りながら、何事もすきの道に入さかりしミぎりは、いかや 00082760L13うに異見してもきかざる物なり、とかく人にハ一つのくせ 00082770L14ある物也、むかしもくせあるものあれはこそ、 00082780L15△△人により一つのくせはある物を 00082790L16△△△我にハゆるせしきしまのミち 00082800L17かやうのくちずさミもあるほどに、ずいぶんかんにんをお 00082810L18めさりやれ、誠のつまりにハ、おかたのたくわへをかれた 00082820L19る、しやく屋ちんがあるべし、それを取出してさしあハせ 00082830M1にめされよ。女房きゝて、御はうさまハきやうこつなるお 00082840M2ほせられ事かな、それがしに何のしやく屋が御座有べきや。 00082850M3和尚、たやかあるほどにと、仰らるれハ、女房、また+ 00082860M4(六オ)御房様のわるくちをお申なさるゝと、申てぞ帰りけ 00082870M5る。 00082880¥N4¥J 00082890¥X第四△一休/若年(じやくねん)にて去人を得道させ給ふ事 00082900M8○一休若年の時分、或人問ていはく、何と小法師、それぢ 00082910M9ごくごくらくと申事ありげに候、しかしながら、/死(し)てなら 00082920M10でハ/証拠(せうこ)なきよし承ハる、さもありぬべし、/若(もし)人ありて、 00082930M11あくじをなせば、しゝて三づの/大河(たいか)/四手(しで)の山などゝいふ、 00082940M12なん所をこへて、/漸&(やう+)ぢごくに入と申也、さて又ごくらく 00082950M13/浄土(じやうど)と申ハ、是より十万をくどゝ申せば、/遥(はるか)の道をへて参 00082960M14るじやうとなれバ、我等がやう成ぶたつしやものハ、こく 00082970M15らくの事ハ扨をき、ぢごくへもゆきがたかるべし、此ぎい 00082980M16かん。一休こたへて、それぢごくとをきにあらず、がんぜ 00082990M17んのきやうがい/悪鬼(あくき)外になし、浄土といへば爰をさる事と 00083000M18をからすとの給へば、此もの申やう、いや+さやうに目 00083010M19のまへに、ぢごくごくらくありとの給ふ(六ウ)とも、あら 00083020¥P252 00083030L1ハれて見えねば/合点(かてん)ゆきがたし、小法師のぶんとしてハ、 00083040L2くハしくしめし給ふ事成まじと、あざわらふてぞ申ける。一 00083050L3休はらを立、さてハ其方ハ、我を/若年(じやくねん)ものとあなとり給ふ 00083060L4かとて、やがて一休、なわをもつてうしろへまハり、かの 00083070L5ものゝ/首(くび)に引かけ、おもふさまにしめ付、なんぢ是ハいか 00083080L6にと申さるゝ時、此ものがてんして、もつとも是ぢごくな 00083090L7り、其時またなわをとき給ひて、なんぢかくある時ハいか 00083100L8んととひ給へは、じやうどなりとこたへ、其まゝ/合点(かてん)して、 00083110L9さても+、小法師ハ何のわきまへもあるまじきやうに、 00083120L10おもひあなとりしに、/幼稚(ようち)なれとも、かくのごとくのちゑ 00083130L11ある事、わたくしならぬことなりとぞかんじける。 00083140¥N5¥J 00083150¥X第五△一休十七/歳(さい)の時/引導(いんだう)し給ふ事 00083160L14〇一休ある日/下加茂(しもがも)へんをとをり給ふ折ふし、(七オ)/途中(とちう) 00083170L15に死人あり。一休たちよりゐんだうをさづけ給ふ。時にあ 00083180L16る人の見、おろかなりこぞう、その死人にむかつて何事 00083190L17をいひたればとて、何のせむかあらん、人ハたゞいきのか 00083200L18よふ折からこそ、何事も人のいふ事を/耳(ミゝ)にもきゝ/入(いる)れ、死 00083210L19人に何事をいふたりとも、/耳(ミゝ)に入べきやいかんといふ。一 00083220¥G 00083230M12休こたへていはく、/芭蕉(はせを)/無耳(むに)/電之音聞(らいしをんもん)/則(そく)/目出(もくしゆつ)ス、此もんの 00083240M13心ハ、そればせをといふものハみゝもなくめもなけれども、 00083250M14めをいださんとおもふ時ハ、カミなりのをとをきゝて、す 00083260M15なはちめをいだすとなり、かくのことくのひじやうさうも 00083270M16くのたぐひまでも、ゐんえん/和合(わかう)のことハりあり、いはん 00083280M17や人間にをゐてをや、彼是もつて/同事(どうじ)也と、へんたうし給 00083290M18へば、此もの、げにもと思ひけん、つゞいて一言にも/及(およハ)ず 00083300M19/立(たち)のきけり。(七ウ)(八オ挿画) 00083310¥P253 00083320¥N6¥J 00083330¥X第六△松山半平難文をうけ一休を頼返事する事 00083340L3〇松山半平と申もの、手前おとろへ、らくくわいに引こも 00083350L4り、あさましきものハ我ひとりにおもひくらしける折ふし、 00083360L5さる方より/酒瓢(しゆへう)に十ぶん入、文一つうそへ来る。其/文言(もんこん)に 00083370L6/木槿(もくきん)/夕枯朝栄(せきこてうゑい)とかき、そのつぎに、此さけハ是かんふうを 00083380L7しりぞくる事三寸にして、しかもうれいをはらふ/箒(はうき)なりと 00083390L8/書(かき)つけたり。此男しゆ+/工夫(くふう)いたすれどもかつてがてん 00083400L9ゆかず。つゐにかやうなるこばしたるぶんていハ、いまた 00083410L10しらざる事なれば、此返事にさしつまり、とやせんかくと 00083420L11あんじ/居(い)けるが、いや+かやう成むつかしき返事なとハ、 00083430L12一休和尚へたのミ申さんとおもひ、むらさきのへしりから 00083440L13げしていそぎける。折しも和(八ウ)尚出合まし+、何事 00083450L14やらんと仰らるゝ。此男よろこひちかくよりて申やう、爰 00083460L15にさるかたよりかくのごときの文を得申候へども、われら 00083470L16いまだかやうのぶんてい、/一(いつ)はいもたべつけざる事なれば、 00083480L17返事にはたとさしつまり、めいわくいたし候、和尚さまハ 00083490L18はつめいにましませば、はゞかりながら此返事をあそハさ 00083500L19れくだされ候ハゝありかたかるべし、まづ此もんごむハ何 00083510M1と申たる事にて候や。和尚見給ひ、是は世の中のむじやう 00083520M2をくハんして、たとへに此/木槿(もくきん)といふ事をひけり、其方の 00083530M3一たびハさかへ一たびハおとろふる事をいはんためのこと 00083540M4ばなり、此もくきんといふはなハ、あしたにさかへてゆふ 00083550M5べにしぼむといへども、又時を得てハまたさかゆるといふ 00083560M6事なり、此さけをのミてかなハざるおもひをやめ、うれい 00083570M7を(九オ)はらし、/気(き)をなぐさめよといふ事なるべし、是ほ 00083580M8どの返事ハいとやすき事なりとて、やがて返事をかきて給 00083590M9ハりける。其返事にいはく、何となく/南山(なんさん)にうちむかひた 00083600M10る折から、人なさけを給ふ、一たびハよろこび一たひハか 00083610M11んじ、/魏(ぎ)/武帝(ぶてい)のたんかこうをうたひ、やせたる/草花(さうくわ)をあひ 00083620M12するなりとかきつけ、是をやり給へとて給ハる。おとこよ 00083630M13ろこび、さて+おしやうさまハさいちにまします、かや 00083640M14うの文をそくざにあそばし下さるゝ、かたじけなしと/頭戴(てうだい) 00083650M15してそかへりける。 00083660¥N7¥J 00083670¥X第七△一休関東心外寺にての事 00083680M18〇一休くハんとうしんげじにしバらくおハしけるか、此/住= 00083690M19持(ちう=ち)そのかミ/同(どう)がくなれば、むかしのよしミをおもひ、種&ち 00083700¥P254 00083710L1さうし給ふ。ある時一休とぜんのあまりに、きやく/殿(でん)(九ウ) 00083720L2に出てよもをながめて侍りし所へ、ぢさふらひとおほしき 00083730L3人、とも人四五人つれ来りて、一休にむかひ、いかに御ば 00083740L4う、此寺の/寺号(しかう)さんがうハ何と申候ぞ。一休、さればさん 00083750L5かうハ/別法山寺(へつほうさんじ)、かうハ/心外寺(しんけじ)と申なり、其方ハいかなる 00083760L6御かたにてましますぞ。それが/□((しカ))ハ此あたりちかき在所も 00083770L7のなり、すなはち/名(な)ハゆきをれ柳之助と申もの也、此てら 00083780L8を内&うけたまハりおよびしまゝに、さんけい申なり、し 00083790L9かれハめづらしき/寺(じ)がうさんがうなり、それ三/界(かい)/唯一心(ゆいいつしん)/&= 00083800L10外(しん=げ)/無別法(むべつほう)にして、心のほかにほうなし、いかなるをか是へ 00083810L11つほうしんげじ、とあれば、一休こたへていはく、それ/柳= 00083820L12枝(りう=し)にゆきをれなし、いか成をか是ゆきをれと/答(こた)へ給へば、 00083830L13此人かんし給ひて、さても+/答話(たうわ)かしこきばうすかな、 00083840L14我等ハない+たくミてさへ、さしあたればしつねんする 00083850L15事(十オ)もあり、又ハかつて出ざる事おほきに、そくじに 00083860L16かやうのへんたうをせられし事、あつはれ御ばうかなとぞ 00083870L17かんじける。 00083880¥N8¥J 00083890¥X第八△一休女を見て礼拝し給ふ事 00083900M1〇和尚さる/川辺(かハべ)をとをり給ふに、女のはだかに成てゐける 00083910M2を見給ひ、ぎよくもんをめさして三と/ら((ママ))はいしてすぎ給 00083920M3ふ。折ふしありあふ人&是をミて、さてもあのそうハきち 00083930M4がひか、出家の身として女のはたかになりて/居(ゐ)けるを見て、 00083940M5三どふしをがミてゆかるゝハいか成事やらん、いかさまに 00083950M6もきやうきなるか、さもなくば、かゝる事ハし給ハじ、是 00083960M7もつてめづらしき事なり、いさ、ちかづきしさいを尋ねん。 00083970M8もつともとて、われも+とあとをしたひ/追(をつ)つき、やがて 00083980M9/袖(そで)をひかへ、御ばうたゝいま女のはだへを見給ひ、らいし 00083990M10(十ウ)給ふハ、いかなるゐんゑんやらん、きゝまほしく候、 00084000M11たゝしぶつだうしゆきやうに、かゝる事やましますか、い 00084010M12かに+とせめかけてとひけれハ、一休うむの返事にもお 00084020M13よび給ハず、かくいひすてゝすぎ給ふ。 00084030M14△△女をは法のミくらといふそ/実(けに) 00084040M15△△△しやかもたるまも出る玉門 00084050M16と云すてゝこそとをり給ふ。いか成ばうすやらんときく処 00084060M17に、一休なりといひし人あり。扨こそ其ばうずならでハ、 00084070M18かやうの事をいふべきものおぼえず、あらしゆせうや、世 00084080M19の中のばうすハ、女のはだへを見るならば、心ちよげにね 00084090¥P255 00084100L1ちかへり+目もはなたず、さながらゆきもやらず見候ハ 00084110L2んに、かく/礼拝(らいはい)をなしてとをりたまふ。/実(けに)もまことに此う 00084120L3たの心ハ、女人の/胎内(たいない)よりいか成きにんかうにん、あるひ 00084130L4ハしよしうの/貴僧(きそう)/高(かう)(十一オ)そうたちも出らるゝと云心な 00084140L5るべし、尤とかんじける。 00084150¥N9¥J 00084160¥X第九△一休ゐんえんばなし并/屏風(ひやうぶ)ニ打付書事 00084170L8〇下立うり、ほり/河辺(かハへん)に/道意(たうい)と申ものあり。或時一休を/斎(とき) 00084180L9に申入、よろつはなしをハりて、/道意(たうい)申けるハ、おしやう 00084190L10さま、それがしハむすめ一人もちて候が、さんぬるはるの 00084200L11ころ、りん町へゑんに付申て候が、やゝともすれば/姑(しうとめ)とか 00084210L12らかひてかへり候、親の身にて候へハなんぼうめいはくに 00084220L13そんじ、色&/異見(いけん)申てハかへし候事、/度&(たひ+)におよび候、和 00084230L14尚さまハちしやにてましませハ、おもしろき/因縁(ゐんえん)ばなしな 00084240L15ど候ハゝ、そと御物かたりきかさせ給へかし、よくおほえを 00084250L16き、むすめかんげんのために申聞せなバ、かこしハ聞入事 00084260L17も侍らん。和尚きゝ給ひ、それがしひとゝせしゆぎやうの 00084270L18ミぎり、/関東(くハんとう)にてのことなりしに、是はしうとめにあしく 00084280L19あたる女成か、(十一ウ)(十二オ挿画)たちまち其むくひ、れ 00084290¥G 00084300M12きぜんなりし事、あら+か/だ((ママ))り申さん、/下野(しもつけ)にての事成 00084310M13しが、しうとめ久しくやミてなやミけるを、其子ふかくな 00084320M14げきて、/医師(いし)をよびりやうぢしけれ共、さらにしるしもな 00084330M15く、日をおくりけるが、ある時いしや申やう、此/病(やまひ)にハぶ 00084340M16たのきもを/煮(に)てあたへなば、たちまち本ぶくあるべしとい 00084350M17ふ、さらばとて、ぶたのきもをもとめて、是をよく/煮(に)ては 00084360M18ゝにすゝめよとて、/妻(つま)にわたして、其身ハ/他行(たきやう)しけり、此 00084370M19つま、つね+しうとめをにくミ、らうひやうの事なれば、 00084380¥P256 00084390L1せんなきくすりぐひなりと思ひける折ふし、其まごよめ子 00084400L2をうミければ、其ゑなをひそかに取て、よく/煮(に)てしうとめ 00084410L3にすゝめ、ぶたの/胃(きも)をハかくして、をのが/薬(くすり)ぐひにぞした 00084420L4りける、程なくあかいろなる/蛇(へび)、かのよめのくちへとび入 00084430L5けるか、/尾(を)(十二ウ)四五寸ほど口より外へのこれり、其よ 00084440L6めなきさけびもだへぬる事いふはかりなし、誠にきたひふ 00084450L7しきなる事なれば、きゝつたへに見物の人おほくあつまり 00084460L8けるが、/老(をい)たる人の見る時ハ/尾(を)をうごかず、わかきものゝ 00084470L9見けるときハ、此/蛇(へひ)/尾(を)をミぎひだり/上下(うへした)へうごかし、つら 00084480L10をたゝきけるこそおそろしけれ、ある人、くぎぬきをもつ 00084490L11て、/蛇(へひ)をはさミひき出さんとしけれども、尾のかたき事く 00084500L12ろがねのことくにて、をくへハ入といへども、すこしも口 00084510L13へハいでざりけり、かくのごとくなやむ事三日ありて、つ 00084520L14ゐにむなしく成にける、是といふもつね+/姑(しうとめ)にあしく 00084530L15あたりしむくひなり、しうとめの口へ入まじき/胎衣(ゑな)をすゝ 00084540L16め、我口にくふまじき、ぶたのきもをぬすミくひけるあく 00084550L17ぎやくによつて、かくのごとく口へはいるまじき蛇のとび 00084560L18入(十三オ)ける事、天ばつ也、かげにかたちのしたがふご 00084570L19とくおそろしき事なりと、あら+かたり給へば、/夫婦(ふうふ)と 00084580M1もに手をうつて、あらおそろしやとかんじける。やゝ有て 00084590M2道意申けるハ、和尚さま、それがし此ころあたらしきまく 00084600M3ら/屏風(びやうぶ)をこしらへ申候、是ハむすめがかたへおくり申した 00084610M4くに仕候、何にても一筆あそハし下され候へ。一休やすき 00084620M5事也とて、ふで取よせ、 00084630M6△△/万一(はんいち)/人事(ひとこと)/一口(いつこう)むやく、/惣而(そうじて)/壁(かべ)ニ/耳(ミゝ)、 00084640M7△△/岩(いわに)/口(くち)、/姑(しうとめ)/夫(をつとを)/唯(たゝ)/主(しう)おやとあふぐのミ 00084650M8△△△我男げにたいせつにおもひなは 00084660M9△△△△などしうとめの見にくかるへき 00084670M10△△△むねの火のもえたつ時の有ならハ 00084680M11△△△△心の水をせきとめてけせ 00084690M12とかやうに書たびけり。此屏風今に/伝(つたハ)り侍る。(十三ウ) 00084700¥N10¥J 00084710¥X第十△一休卒/都婆(とば)の/燃(もゆる)を見て/文(もん)を書なとし給ふに/忽(たちまち)きゆる事 00084720M16〇一休/丹波(たんば)ぢへおもむき給ふ。あ/□((るカ))山里に二三日とうり 00084730M17うありけり。在所のものゝ申けるハ、いかにたびの御そ 00084740M18う、此がうさかへ二町ばかり/南郷(ミなミかう)に、/天台寺(てんたいでら)の御座候が、 00084750M19此てらよるにもなればすさまじく/家(や)なりのして、色&ふし 00084760¥P257 00084770L1ぎ成事共ありけるにより、我すハらんといふばうずなし、 00084780L2其/子細(しさい)ハ去年(きよねん)たびのそう、をの+のやう成しゆぎやうじ 00084790L3やをたのミをき候処に、去方より三年きの/卒都婆(そとば)を此ばう 00084800L4すのかきけるか、時ならず/火(くわ)ゑんにもゆる、其火の高き事 00084810L5一/丈(ぢやう)ばかりあり、/郷内(かうない)ハ申におよバず、りんがう二三里外 00084820L6まても其かくれなし、されば此はうすもさま+/経陀羅尼(きやうたらに) 00084830L7をじゆし、とふらひしかどもしるしなければ、いつ(十四オ) 00084840L8の比か、此事はづかしくやおもハれけん、夜ぬけにしてゆ 00084850L9きがたしれず、然れは此さとの女わらんべ、よるにもなれ 00084860L10ば、おそれてかどせどへも/自由(じゆう)ならず、其後或はうずを入 00084870L11をきしに、是も二三日もこらへずして出られけり、われぢ 00084880L12うせんといふひじりなければ、おのづからあきでらとなり、 00084890L13くちはてんこそおしう候へ、これハいか成事にてや候らん。 00084900L14一休きゝ給ひて、さやうの事ハいかほどもある事也、それ 00084910L15ハ/別(へち)の事にてハあるまじ、さだめて卒都婆にもんじを書ち 00084920L16かへしゆへならん、それがし書なをしまいらせなば、別の 00084930L17ぎあるまじ、さらば/同道(とうたう)申さんとて、くだんの寺にゆき見 00084940L18給へば、/法花経(ほけきやう)のようもんなり。あんのごとくもんじ一/字(じ) 00084950L19ちがひあり。あらためかきなをし給ふ。其/文(もん)に云、/十方仏= 00084960M1土中(じつはうぶつ=どちう)、/唯有一乗法(ゆいういちじやうほう)、/無二亦無三(むにやくむさん)、/除仏方便説(ぢよぶつはうべんせつ)/(十四ウ)とか 00084970M2き、是を立をかれよ、かさねて/子細(しさい)ハあるまじとて、和尚 00084980M3ハそれよりして、西国がたへと心さし給ふ。其後ハ此寺ぶ 00084990M4しになりけり。ひとへにおしやうを仏神のけゞんなりとい 00085000M5はぬものこそなかりけり。 00085010¥N11¥J 00085020¥X第十一△一休りんしうをすゝめ給ふ事 00085030M8〇/西国(さいこく)のさんしうに/榊原(さかきはら)兵内と申ぶしあり。久&/相煩(あひわつらい)、 00085040M9いじゆつをつくすといへとも、さらに其しるしなし。殊に 00085050M10ぢうびやうなれば/最期(さいこ)ちかづきぬ。折ふし一休/郷内(かうない)にまし 00085060M11ますよし、其かくれなく、ない+/殊勝(しゆせう)成しばうずのよし 00085070M12きゝおよバれ、いそぎつかひを以て、此/度(たひ)、りんじうの一 00085080M13大事をもきかさせ給ひて、すくなるみちにひき入給ハゝあ 00085090M14りがたかるべしと、申つかハす。一休きこしめし、それこ 00085100M15そいとやすき御事也とて、其まゝつかひとつれて参らるゝ。 00085110M16和尚とりつくろふこと(十五オ)もなく、やぶれ/衣(ころも)にやふれ 00085120M17がミこの、所&ハのりばなれさながら、とびのミぶるひし 00085130M18たるふぜいも、まだこれよりハましならん/風躰(ふうてい)にて、病人 00085140M19のまぢかくより給ふ。/家内(けない)の人&も、日比きゝおよびしそ 00085150¥P258 00085160¥G 00085170L12うなれば、何さまじやうぶつあんじんしごくのむねをきく 00085180L13べきと、我も+とつぎの/間(ま)につめかけ、かうべをかたむ 00085190L14け、/耳(ミゝ)をすましてきく所に、一休何となくびやう人のミゝ 00085200L15に口をあて、大をんにて云く、 00085210L16△△汝巳ニ末期也我も行人も行 00085220L17△△只是一生ハ如夢如幻 00085230L18かくいひすてゝかへり給ふ。何れも/勝手(かつて)にハ一門家の子あ 00085240L19つまり、扨も+めづらしからぬ一休ばうずのすゝめかな、 00085250M1それりんじうをすゝむるといふ事ハ、成仏かんじむをいひ 00085260M2きかせて、心やすくおハらするをこそハ、りんじう(十五 00085270M3ウ)(十六オ挿画)一大事をすゝむるといふ物なるに、かゝる 00085280M4/語(こ)ハ/房主(はうす)のいふまでもなく、/皆(ミな)がんぜんに人ことにいふ事 00085290M5也、さてもいつきやうのばうずかなと、口&に申あへり。 00085300M6かゝる所へある出家きたり、此よしをきゝ、いや+それ 00085310M7ハ何れもふがつてんなり、一休ほどこそ候へ、かやうの/語(ご) 00085320M8こそいかにもしゆせうにおほえ候、そうじて、せんけ/悟道(こたう) 00085330M9のばうずなどゝいふものハ、/余宗(よしう)などのやうにあるひハね 00085340M10んぶつだいもくをとなへて、たうとひところへおまいりや 00085350M11れ、ありがたき事をおハすりやるななどゝいふ事ハ、ぜん 00085360M12ぞうなどハ申さぬなり、いかにも+右のすゝめしゆせう 00085370M13也と、申ければ、何れも、さもこそありぬべしと、皆一ど 00085380M14うにかんじける。扨御内にをんをふかくかうむりたるもの 00085390M15ども、御さいごの御ともこそたゝ今なりと、我も+とひ 00085400M16しめきける。此よし一休きゝ給(十六ウ)ひて、其よの/夜半(やはん) 00085410M17に、かのさふらひの/近所(きんじよ)に、一しゆのきやうかを立られけ 00085420M18り。 00085430M19△△世の中の/生死(しやうし)の道につれハなし 00085440¥P259 00085450L1△△△たゝさひしくも/独死(どくし)/独来(どくらい) 00085460L2かやうにいひてたてらるゝを、御内のものやがて/札(ふた)をうば 00085470L3ひ取て、らうじうに奉る。何れもうちより、是ハいか成も 00085480L4のゝ立つらんとせんぎしけるに、かのそうまた申さるゝハ、 00085490L5さだめて是ハしゆぎやう一休の立つらん、かやうの事をい 00085500L6ふべきものハ、たう所にハかつておぼえず、さて+こと 00085510L7ハり聞えたるうたかな、此うたの心ハみな人ハひとりしゝ 00085520L8てひとり来る身なれは、たれあつてめいどのともをすれば 00085530L9とて、めいとのたよりとならんや、たとひ一度に五十百御 00085540L10ともすると云共、/自業自得(しこうじとく)/過(くわ)なれば、めん+の/罪障(さいしやう)(十 00085550L11七オ)により、百人か百所へゆくべし、かくある時ハ、あ 00085560L12つたらわかき人&の、/世次(よつぎ)の御用にたゝされば、めいどの 00085570L13とも共ならずして、むやくの/死(しに)をする時ハ、せんなき人を 00085580L14/殺(ころさ)む事、たゞまげて此御とものさたハさしをかるべしと、 00085590L15りをつくして申されければ、ミな此ことハりに同じつゝ、 00085600L16かさねて御とものさたハなかりけり。すでにはや、しぬべ 00085610L17きにさだまりしものどもの、一休の御すすめゆへに、ミな 00085620L18/死(し)のなんをのかるゝなり。扨こそ和尚をは、いか成をんご 00085630L19くゑんりまでも、ほとけといはぬ人はなし。 00085640¥N12¥J 00085650¥X第十二△長野銀介和尚を申入事 00085660M3○ゑちぜんの/府中(ふちう)に長野銀助とてあり。一休ふくゐより上 00085670M4り、此ふちうに二三日とうりうして、万取行給ふ。銀助き 00085680M5ゝをよび申入らるゝ。/斎(とき)すぎ、かへり給ハん所(十七ウ)へ、 00085690M6さる方よりはね馬を引て来り。御むつかしなから、此馬を 00085700M7たゝ今一ばゝせめて給ハれと申来る。やすき御事也とて、 00085710M8やがて馬引よせのられしか、此銀助と申ハ、せんきの病ゆ 00085720M9へ大きんにてぞありける。和尚も立とゝまり見物し給ふに、 00085730M10かのきん大きなれバ、くらのまへわにつかへ、ことのほかの 00085740M11りにくさうに見へしを、一休おかしくおもひ給ひて、かく、 00085750M12△△はね馬のまへわにかゝる大べのこ 00085760M13△△△きんぶくりんと是をいふらん 00085770M14とよまれける。銀介きゝ給ひて、さて+御はうの/狂哥(きやうか)一 00085780M15たんできましたりとぞかんじられける。 00085790¥N13¥J 00085800¥X第十三△死てやけざる房主一休四/句(く)の文をかき死人ニなけかけ給ふにやくる事 00085810M19○/常州(じやうしう)に/徳念寺(とくねんじ)と申/浄土(しやうど)寺あり。/住持(ちうち)の/長老(ちやうらう)、/先(せん)(十八オ) 00085820¥P260 00085830L1ぞよりの/旦那(たんな)にてありけるが、いかゝおもひけん、/禅寺(せんてら)へ 00085840L2まいる。久しくわづらひて程なく死けり。其子すなハちか 00085850L3の禅寺のぢうちにゐんだうを頼むよしを、かの徳念寺ほの 00085860L4かにきゝて、中&せんぞより我旦那にまぎれなし、然るを 00085870L5なんぞや、ぜん/家(け)へわたしてゐんだうさせん事、ぜんだい 00085880L6ミもんのちじよく成べし、/縦(たとひ)此事にをゐて、すりくびにあ 00085890L7ふとも、我ゐんだうせん物をとおもひ/定而(さためて)、在所のもの其 00085900L8外あぶれものを二三十人ばかりかたらひ、ミぢんになさん 00085910¥G 00085920M1とひしめくを、此よしを禅寺に聞、いや+かゝるむつか 00085930M2しき死人をとりおかざるとても、何かくるしかるべし、た 00085940M3ゝいらざる物なりとてうちすてぬ。三十五日のとふらひ/過(すき) 00085950M4て、此とくねん/寺(し)、にハかにきやうらんして、さま+く 00085960M5るひ出て、色&の事を口はしりけるを、何れも旦那衆めい 00085970M6わくして、ろうを/作(つく)(十八ウ)(十九オ挿画)りてをし入をけば、 00085980M7ろうをやぶつて出て、ふんを/へり((ママ))てハ手ににぎりてハかほ 00085990M8にぬり、或ハをのが/朝夕(てうせき)/食(しよく)するごきに入て、在所中をもて 00086000M9ありき、あかはだかになりて、きる物をずん+にくひさ 00086010M10き、家&へとび入てハ、人のさいしをおし付、へしたをし 00086020M11なとしてハ、さま+あつこうし、くるひける程に、/終(つゐ)に 00086030M12くるひじにゝしける。やかて/火(くハ)さうにしけるに、/石(いし)などを 00086040M13うちくべたるやうに、くろくはなりけれども、はいになら 00086050M14ず。ふしぎにおもひ、すミ木を山のごとくにつミくべてや 00086060M15けどもやけず。/弟子(でし)のばうず是をミて、大きにおどろき、 00086070M16扨ハ/執心(しうしん)のかたまりてやけぬにや、いか成くろがねなりと 00086080M17も、是程のたきゝにて、などやけざる事あらじと、いよ 00086090M18+ふしぎのおもひをなし、いかゝせんとあんじわづらひ 00086100M19しか、其比一休/常州(じやうしう)にまします。或人の申やう、爰に上 00086110¥P261 00086120L1方より/執行者(しゆぎやうしや)の来りて侍りしが、(十九ウ)ちとくあるそう 00086130L2也、此そうにしさいを尋給へかしと申ける。弟子ばうず、 00086140L3/幸(さいわい)の事かな、さらばとて弟子の/房主(はうず)、一休へ参り、しか 00086150L4+と申ける。一休きゝ給ひて、ふびむの事かな、それ仏 00086160L5法と申すハ、/人我(にんが)の/相(さう)をとゞめて、心をおさむるをもつて 00086170L6せんとす、まして/僧法師(そうほうし)ハ大じひしんをもつはらとして、 00086180L7人をおしゆるものなるに、ぐちはういちにして、かばねを 00086190L8あらそふ事、いきながら/犬(いぬ)に/似(に)たり、あさましき次第也、 00086200L9それかし、たちまちはいにして参らせんとて、/諸行無常(しよきやうむじやう) 00086210L10の四/句(く)のもんを/書(かき)給ひて、是を死人の上へなげかけ給ハゝ、 00086220L11そくじにはいと成べし、はやとく+とあれは、かたじけ 00086230L12なしとて取てかへり、/彼(かの)ふすほりし死人の上へなげければ、 00086240L13あぶらをかけてもやすことく、へら+とやけて、はいと 00086250L14ぞなりける。ふしぎなりし事ども也。さ(二十オ)るほとに 00086260L15一休和尚を、仏のさいらいかと、いはぬ人ハなし。 00086270¥N14¥J 00086280¥X第十四△一休へよしやぢよさい文やる和尚返状ニ狂哥の事 00086290L19○/今出河(いまでかハ)によしやのぢよさいと申ものあり。和尚へたび 00086300M1+/見廻(ミまひ)しか、うちつゞき/用(よう)しげくして、見舞うちたへけ 00086310M2り。或時文をしたゝめ、此ころハようつどひ候ゆへ、御見 00086320M3まひぶさたいたし候、きん/日(じつ)さんをもつて申べきと、こと 00086330M4ハりのとをり、こま※としたためて、つかハしける。其 00086340M5返事に、 00086350M6△△見まひとて見まふてくれそ見まハすと 00086360M7△△△よしやちよさいとおもふ身ならば 00086370M8といふてつかハされける。ぢよさい是をミて、御房のかる 00086380M9くちハ今にはじめさる事也とそ申ける。 00086390¥Y1一休諸国物語一之巻終(二十ウ) 00086400¥P262 00086410¥Y1一休諸国物語巻二△目録 00086420L3第一△一休/殺生人(せつしやうにん)に/教化(けうけ)し給ふ事 00086430L4第二△さるばかを一休一/言(こと)にてつめ給ふ事 00086440L5第三△一休/過去(くハこ)物かたりの事 00086450L6第四△同/葛(くづ)のうらミの助と付給ふ事 00086460L7第五△同きつねばなしの事 00086470L8第六△一休より/能瀬(のせ)小作ニ/薬(くすり)をとらせらるゝ事 00086480L9第七△同高キ物の/品&(しな+)をいひ立給ふ事 00086490L10第八△同ニ或人/参得(さんとく)の望をかくる事 00086500L11第九△同或人見ざる聞ざるのいはれを/問(とふ)事(1オ) 00086510L12第十△一休人に/異見(いけん)し給ふ事 00086520L13第十一△同へ/愚痴(ぐち)の/房主(ばうず)うしに成て来る事 00086530L14第十二△/尊勝陀羅尼(そんせうたらに)の/功徳(くどく)の事 00086540L15第十三△一休/関東(くハんとう)にて/猿(さる)をたすけ給ふ事 00086550L16第十四△同/天狗(てんぐ)にゐんをならひ給ふ事 00086560L17第十五△同ねずミばなしの事 00086570L18第十六△くうかばうの事 00086580L19第十七△/筆(ふて)やゆふしげと申ものゝ事(1ウ) 00086590¥T1一休物語はなしの本 00086600¥N1¥J 00086610¥X第一△一休人を/殺(ころす)ものに/証拠(せうこ)を引ニ/得道(とくたう)する事 00086620M5○爰に/早川(はやかハ)次郎太夫と申もの、一休のもとへゆき申さるゝ 00086630M6ハ、それ人をころす其理もつともならば、千万人をころす 00086640M7ともくるしかるまじ、又ころすまじき其理なくハ、一人な 00086650M8りともあくぎやくぶたうなるべしと、申ける。時に和尚お 00086660¥G 00086670¥P263 00086680L1ほせられけるハ、それせつしやうハもろ+の/罪(つミ)の/根本(こんぽん)也、 00086690L2たとひ/生(いけ)るものにおゐてハ、のミしらミにてもころす事あ 00086700L3るべからず、同じくハたゞころさゞるにハしかじ。男/答(こたへ)て 00086710L4申やう、すこしもくるしかるまじ、或ハ/主命(しゆうめい)と申、又ハは 00086720L5うばいどもにたのまれぬれハ、ぜひなく/殺(ころす)事あり、かく有 00086730L6時にハ、其たのミたるものこそとがならん、我ハまつたく 00086740L7とがはきまじと、りこうげに/自慢(じまん)して申。/和尚(おしやう)(一オ)/舌(した)も 00086750L8ひき入させずして、なんぢあの/柳(やなき)に/雪(ゆき)つもりたり、えだお 00086760L9もげに見え候、はらひてたびてんやと仰られ/げ((ママ))る。心へ申 00086770L10候とて/柳陰(やなきかけ)に立より、ふりおとしければ、かしら/袖(そで)のうへ 00086780L11にゆきちりかゝりしを、うちはらひ候とき、和尚のいはく、 00086790L12なんぢいかなればゆきをはらひ給ふぞ、それがしがたのミ 00086800L13申せば、それがしにこそちりかゝるべき事なるにやと、お 00086810L14ほせらるれば、此人はたとゆきあたり、それよりして、か 00086820L15さねてせつしやうをやめけるとかや。是によつておもへば、 00086830L16いかに人をころすハざいくわなりといふとも、/朝敵(てうてき)をほろ 00086840L17ぼし、あくぎやくのものをたいぢせん事ハ、いく千万人な 00086850L18り共くるしかるまじ、一人/半童(はんとう)なりともころすべきだうり 00086860L19なくハ、其せめおもかるべし、されば人を/殺(ころす)におゐてハ、 00086870M1もつとも/害(がい)すべき/道理(たうり)なれども、さふらひのあまり(一ウ) 00086880M2(二オ挿画)にすきこのミてきるべき事、いかゝあらん、然れ 00086890M3ばころすべきだうりの内に、又きるまじきだうりあるべし、 00086900M4よく+こゝろへへし+。 00086910¥N2¥J 00086920¥X第二△さるばかもの一休に/面(つら)をけらるゝ事 00086930M7○/都(ミやこ)にかくれなき其/名(な)を得し、ひやうきんのとびあがりも 00086940M8の有。ころしも/夏(なつ)の事なるに、/暑気(しよき)におかされ/納涼(とうりやう)のため 00086950M9に、みせに出、ゆふかたの事なるにすゞミ/居(ゐ)ける。折ふし 00086960M10一休ようじ有て、其まへをいそがハしくしてとをり給ふ。 00086970M11何とかし給ひけん、/石(いし)にけしたミ、ころひ給ふ程に見へし 00086980M12所に、彼とびあかり、ミせにひれふしゐながら、御ばうあ 00086990M13ひたしといふ。一休やがて其/舌(した)も引入ざるに、もつとも御 00087000M14めんあれ、それがしハ/石(いし)かとぞんずれば、扨ハそなたの/鼻(はな) 00087010M15のさきか、それほといたくてハ、中&あひたくもあるまし 00087020M16と云て通り給ふ。(二ウ) 00087030¥N3¥J 00087040¥X第三△一休過去物かたりの事 00087050M19○爰に木屋半次郎と申もの、きハめて/長(たけ)ちいさき/色(いろ)くろき 00087060¥P264 00087070L1/男(おとこ)なり。/世間(せけん)に人&是をあざけり/笑(わらふ)事よのつねならず。ま 00087080L2して他所へようじを/調(とゝのへ)にゆく事あれバゆひをさし、子と 00087090L3もあまた付したふて道をもやすからしめねば、おのづから 00087100L4/歩(あゆミ)をなすことならず。ある時すこし心ざす事ありて一休和 00087110L5尚をしやうじ、我身のやうだいを/具(つぶさ)にはなし、今更是をく 00087120L6いかなしむ。一休仰らるゝハ、むまれつきたる身をちいさ 00087130L7きとても何とすべき、さやうの事をかなしむ物にあらず。 00087140L8其/子細(しさい)ハ/金(こかね)ハちいさけれとも天下のたからとなる、/針(はり)ハち 00087150L9いさけれども/衣服(いふく)をぬふたからとなる、/墨(すミ)ハくろけれども 00087160L10/仏経(ふつきやう)・/祖録(そろく)・/聖経(せいきやう)・/賢伝(けんてん)の/書(しよ)をしるして天道のたすけとな 00087170L11る、/漆(うるし)ハくろけれども(三オ)/諸道具(しよだうぐ)のたすけたり、山ハ/高(たか) 00087180L12しといへ共/貴(たつと)からす、/木(き)有をもつて/尊(たつと)しとす、/霜雪(しもゆき)/白(しろ)けれ共 00087190L13/万民(ばんミん)是をいためり、たとひ/肥(こへ)ふとりたる人か、いかほど/痩(やせ) 00087200L14ほそりたくねかひたり共かなふまじ、然るをしゐてやせほ 00087210L15そらんとて、くひ物をとゞめ、かたちをちゞめたらば、か 00087220L16ならす/気血(きけつ)をへらし、やまひをしやうじ、しんめいあやう 00087230L17かるべし、又やせほそりたる人、何程こゑふとりたしとね 00087240L18がふとも、かなふまじ、こゑふとらんとのミ、しよくもつ 00087250L19をたくさんに取くひ、ねのびいのびをせバ、かならず/気血(きけつ) 00087260M1をミたらし、しよくしやうして、うらしげく、のちにハゐ 00087270M2なからもねながらも/目出度(めてたく)ハなけれ共、うしのふんのかさ 00087280M3ね+なるを、ね所にもつゝミをき、のちにハしゆんくわ 00087290M4んそうづの、きかいかしまにすミし有さまになりなば、命 00087300M5もすでにあやうかるべし、されば/薬師(やくし)によらいの/出世(しゆつせ)、 00087310M6ぎばへ(三ウ)んじやくかさいらいして、薬をあたへりやう 00087320M7ぢするとも、いかて其しるしを得ん、しからば天のこくび 00087330M8やくせいの/長短(ちやうたん)も又かくのことし、爰におもしろきはなし 00087340M9有、さる所にこうざいりはつの人あり、此男いかにもせい 00087350M10がちんちくりんにて、我身ながらもうらめしく、/悔(くい)かなし 00087360M11む事せつなり、あまりのむねんさに、つく+としあんし 00087370M12けるに、我身こそかく有とも、/是非(せひ)子共におゐてハせいの 00087380M13たかき子をもつべし、さあらばまづ女房をむかへんにこの 00087390M14ミあり、ミめさまにハすこしも/望(のそミ)なし、たゞせいの/高(たか)きを 00087400M15と/尋(たつぬ)るに、其せい六尺あまりにて/無双(むさう)のあくぢよあり、い 00087410M16そぎこれをむかへ取て、よるひるかせぎけるほどに、程 00087420M17なく此女くわいにんして九/月(つき)を過し、程なく/産(さん)のひもをと 00087430M18く、よろこび取あけて見れハむすめ也、あつはれおのこに 00087440M19て(四オ)あれかしとねがふところに女也、すつべきにもあ 00087450¥P265 00087460L1らすそだてけり、かくて此度ハ/是非(ぜひ)に男をまうけん+と 00087470L2かせぐほどに、うむほどにつゞけさまに女子ばかりを五人 00087480L3までもてり、あらはらたちやしんきやといかりおめけども 00087490L4かひもなく、或ハつぶさうのすてふのとどしめけども、さ 00087500L5すがさもならずして/養育(やういく)する程に、せいじんするにしたか 00087510L6ひ、むすめども何れも母に/似(に)て/色(いろ)くろくせいたかく、はな 00087520L7すぢひしげほうにさり、うつむきにころぶにハ/鼻(はな)のようじ 00087530L8んおもひてなり、まなこほそく、/頚(くひ)ハさぎなとのごとくに 00087540L9て、六尺ゆたかの女也、むこどりよめいりならされば、何 00087550L10とももてあつかひたるありさま也、何事もかやうの事をき 00087560L11くからハ、/諸事(しよし)/悔(くい)かなしむ事あらじと、/言葉(ことは)に/花(はな)をさかせ 00087570L12つゝ、かたりすてゝぞかへられる。(四ウ) 00087580¥N4¥J 00087590¥X第四△一休葛のうらミの助と付給ふ事 00087600L15〇爰に/葛(くず)のかづらの介といへるものあり。此人のくせとし 00087610L16て、いかほどしたしき/友達(ともたち)にても、すこしの事にもうらミ 00087620L17くねりて、其まゝ中をたがふ。さる時一休/彼(かれ)か所へふと来 00087630L18り給ひ、いかにかづらの助、其方ハけふより/名字(ミやうじ)をかへて 00087640L19くずのうらミの介なるべし、其いわれハ/葛(くず)といひてつたわ 00087650M1たる/草(くさ)あり、此くさハ秋風そよとふきたてハ、其まゝはの 00087660M2うらを見する草なれば、うたにもしのたの/森(もり)のうらミくず 00087670M3のはなとゝ侍りしが、まつそのごとく、其方ハ心ニ秋風そ 00087680M4よとふけば、やがてうらミくねりおハします、さればひよ 00087690M5くれんりの/夫婦(ふうふ)の中さへ、したしき時ありうとき時有、い 00087700M6ハんや他人の中にし、いかで我心のまゝならん、みな是わ 00087710M7が心のおろかなる所を、さとりわきまへずして、他人のわ 00087720M8(五オ)るきやうにばかりおもひなし候事、むげにあさまし、 00087730M9されはうたにも、 00087740M10△△あたにのミ人をつらしと何か思ふ 00087750M11△△△こゝろに我をうきものとしれ 00087760M12△△をのか身のをのか心にかなはぬを 00087770M13△△△おもハくものを思ひしりなん 00087780M14げに+我身にてさへ、我心のおもふまゝにハうちまかせ 00087790M15ぬうき世のならひなれば、まして他人をうらむる事是ミな 00087800M16ひが事のいたり也、/親(おや)の子をもちて其子かハゆき時ありに 00087810M17くき時あり、かくのごとくなるときハかならず得べし給へ 00087820M18かし。 00087830¥P266 00087840¥N5¥J 00087850¥X第五△一休きつねはなしの事 00087860L3○さる人一休のさうあんへ尋ねゆき、和尚にあひ奉りて申 00087870L4やう、我等/文盲(もんもう)ふつうのものに候へば、みゝがたき事(五 00087880L5ウ)(六オ挿画)ハきいてもきかざるがごとし、何にてもおも 00087890L6しろきことの候ハゝ、御はなしきかさせ給ハれと申。時に一 00087900L7休、さればもろこしに、とら、きつねをおつつめ、すでにく 00087910L8らハんとするに、此きつねの申やう、いかにとら、われをく 00087920¥G 00087930M1らふ事なかれ、けふよりしてそれがしを、もろ+の/獣(けたもの)の大 00087940M2将に天道より仰付られたり、さる程に我をぶくするならハ 00087950M3天/命(めい)にそむき、たちまちなんぢか命めつすべし、もし此事 00087960M4いつハりとおぼしめさバ、わがあとにつきともをして参る 00087970M5べし、もろ+のけだものわれを見てかならず、おそれを 00087980M6のゝきにげかくるべしと云、とらふしぎにおもひ、さらば 00087990M7とて此きつねの/跡(あと)に立てゆく、もろ+のけだものどもあ 00088000M8んのごとく、みなちり+に/逃(にげ)かくれ、おそれをのゝきひ 00088010M9れふす、その/子細(しさい)ハ此きつねにおそれてにぐるにハあらず、 00088020M10とらを(六ウ)ミてこそもろ+のけだものハにげかくれ、 00088030M11おそれをのゝくなれ、されども此とらハ誠にかのきつねに 00088040M12おそれをなすとおもひ、天命をおもんじかへつて/守護(しゆご)をな 00088050M13しけるとかや、そも大き成ばけやうかな、されは世間のい 00088060M14ゑ+にも又かのきつねこそおほけれ、ばかされたまふな 00088070M15御ようじん+。 00088080¥N6¥J 00088090¥X第六△/能瀬(のせ)小作和尚に薬を所望する事 00088100M18○爰に/能瀬(のせ)小作といへる大すりきりのわるがしこきものあ 00088110M19り。ときしも極月廿七八日ごろの事成しが、/借銭(しやくせん)にこひつ 00088120¥P267 00088130L1められ、せんかたなく、方&をかけまハり、さいかくしけ 00088140L2るに、我も人もめん+に用あるをりからなれば、我よう 00088150L3に立べきといふものなし。然にあハたくち/辺(へん)に彦八と申て、 00088160L4とミさかへの町人あり。かれが所へ尋ねゆき、からばやと 00088170L5おもひ、あはた口へといそぎける。此彦(七オ)八と申もの、 00088180L6いか成ぜんごうのつたなきにや、/朝夕(てうせき)の/飲食(いんしい)とてハくろ米 00088190L7/飯(いひ)に、ミづじるにてくふほどのもの也。かれにかくといひ 00088200L8けるが、くだんのことくつましきものなれば、我身にさへ 00088210L9をしミ、/朝夕(てうせき)のしよくをだにも、時に取てハ一/度(ど)もかんに 00088220L10んするほどのものなるゆへ、まして/親類(しんるい)すら猶以他にかね 00088230L11などをように立べき事、おもひもよらず。かつてとりあひ 00088240L12申さねば、/是非(ぜひ)にかなハずしてかへりけるが、ついてなが 00088250L13ら、 00088260L14△△たからともならぬたからハ彦八か 00088270L15△△△持たるかねは我身きんたま 00088280L16とよミすてゝこそかへりけれ。さる人の申けるハ、一休和 00088290L17尚へ参りなけき給ハゝ、さためて和尚ハしひふかくましま 00088300L18すほどに、すこしハ給ハらん事ハよもあらじ、はや+参 00088310L19られよ、殊に其方のよろしき時ハ、/相応(さうおう)の/用(よう)(七ウ)/事(し)をた 00088320M1び+かなへられし事なれハ、其方の事ハ和尚かげにても 00088330M2ねんごろに仰られ候まゝ、御うけあひ給ハぬ事あるまじ、 00088340M3とく+と申せは、此ものげにもと/同意(とうい)して、やがて和尚 00088350M4へまいる。折ふし和尚出合給ふ。先/四方(よも)のはなし二つ三つ 00088360M5仕り、ついでを見て申けるハ、いかにおしやうさま、それ 00088370M6人間ハ四百四/病(びやう)の其中に、ひんくほどつらきやまひハなし 00088380M7と、古人も是をかなしめり、されば御そうも内&それがし 00088390M8か、年月のじびやう御ぞんじ也、殊に此比しきりにさしを 00088400M9こり、さる/医師(いし)に尋ね候へば、此わづらひハ我等か/療治(りやうち)に 00088410M10ハかなひがたし、かやうの病ハつゐに/医書(いしよ)にも見え申さず、 00088420M11しかれども/曽(かつて)/名(な)を申さねば、いしやの見立を知さるににた 00088430M12り、たぶん此わつらひハ、しやくきんといふ/煩(わつらい)也、いか 00088440M13成ぎばへんじやくかかゝりたり共、ぢしかたかるべし、め 00088450M14(八オ)うやくきん※丸をもらひてのミ給ハ、そくじにぢ 00088460M15すべしとをしへられけり、もし和尚さまに御座あらば、一 00088470M16つゝミ御ほうしにあづかりたく候と、/涙(なミた)をはら+となが 00088480M17し申せハ、和尚きゝ給ひて、さればこそ其わつらひハ、年 00088490M18に二度つゝおこるやまひなり、まづ当月今比、あきハ七月 00088500M19中/旬(じゆん)、何れもゑんごくゑんりまでもはやりわづらひなり、 00088510¥P268 00088520L1さもあらば/愚僧(くそう)すこしもちあハせたり、一つゝミ参らせん 00088530L2とて、をくへ入給ひて、かね一つゝミ取いだし、上書にハ 00088540L3/養命補身丸(やうめいほしんくハん)とかきつけて、先是を一つゝミ参らせ候、さだ 00088550L4めて是にてげんきあるべし、もしさいほつのぎハしらぬな 00088560L5り、はや+かへられよとてたまハりけり。 00088570¥N7¥J 00088580¥X第七△一休高き物の品&をいひ立給ふ事 00088590L8○去人和尚へ参る。折ふし和尚たいめんあり。諸事の(八 00088600L9ウ)はなしおハりてのち、此男申やう、和尚さま、わたく 00088610L10しハ此比病中にて、/漸&(よう+)/本腹(ほんふく)いたし、今日うゐ立仕、まづ 00088620L11和尚さまへ御見廻申候、しかれば御房様の御たうわよき事 00088630L12ハ、およそ日本にるふ仕りて候、あハれ何にてもおもしろ 00088640L13き事を御はなしきかされよ、さりながら今程せけんにかう 00088650L14ぢきなる物をもてあつかひ候、まづなに+にて候や。一 00088660L15休きこしめし、されば高き物をいハんならば、まづ、 00088670L16△△ふじのだけに、あさまのたけ、伯耆の大せん、/高間(たかま)の 00088680L17△△ミねに、あたごさん、ひえいさんや、とうじのたうに、 00088690L18△△天ぐのはな、しなこそかハれ、きだうのぼくせき、大 00088700L19△△灯や、扨つらゆきか/哥書(かしよ)に、/定家(ていか)のしきしたんざく、 00088710M1△△さてあらかねのつちの物にハ、まつぼぶんりんかたつ 00088720M2△△き、まるつぼに、なすびかふらや、はないれがぶらな 00088730M3△△しに、(九オ)つるの一こゑ、せいしとう、さてわきさ 00088740M4△△しやたちかたな、よしミつ、正むね、国としや、かの 00088750M5△△ゆきひらに、しらゐのうつぼに、ひでりのとしの米の 00088760M6△△ねと、いんすハなをもたかきかね也、かれうひんがの 00088770M7△△こゑたてゝ、わらハべのうたひこゑ、ばんしき、らむ 00088780M8△△けい、かミむてう、 00088790M9是までなりといひおさめ給ふところへ、たんながたよりと 00088800M10て御/衣(ころも)を一ゑ、是ハおしやうへしんじ参らするとてもてき 00088810M11たる。一休さのミうれしくおぼしめさるゝ/気色(きしよく)もなく、一 00088820M12ごんれいといふぎもなく、たゝ/狂哥(きやうか)をぞよミ給ふ。 00088830M13△△から/衣(ころも)またから衣からころも 00088840M14△△△かへす+もから衣かな 00088850M15かくいひて、是を返事にしておくり給ふと也。 00088860¥N8¥J 00088870¥X第八△或人参得の望ありて一休へ参る事 00088880M18○さる人一休へ尋ねゆき、さんとくの望を申ければ、和尚 00088890M19きゝ(九ウ)(十オ挿画)給ひ、やすき事也、其望ならば、先 00088900¥P269 00088910L1/金剛(こんかう)の/正躰(しやうたい)といふ物をあんじ出し給へとおほせらるゝ。此 00088920L2ものきいて取あへず、其こんがうのしやうたいならば、あ 00088930L3んずるに及ぬ事、それハわらにて御座あるべし、/子細(しさい)ハま 00088940L4づ、わらといふ物にてこんがうハつくる物なれば、かくあ 00088950L5るべきなりと申。和尚をかしさかぎりなくして、いや+ 00088960L6さやうの物にてハなし、金剛のしやうたいと申ハ、おとあ 00088970L7つて目にも見えず、手にもとられず/火(ひ)にもやけず、きつて 00088980L8もきれず水にもぬれず、色にもそまらず、かくてはなき物 00088990¥G 00089000M1かとおもへば、/元来(くハんらい)其時にしたがつて又ある物なりと、を 00089010M2しへ給ふ。此ものきいて、こハむつかしき尋ね物かな、こ 00089020M3んがうならばとかくわらならでハ、/別(へち)によなる物にてつく 00089030M4る物あるまじ、左候ハゝぞんぜぬことなりとて出けるが、 00089040M5門のほとりより又取てかへし、(十ウ)御ばうさま、たゞい 00089050M6まをしへ給ふこんかうのしやうたいハ、かへりさまに門前 00089060M7にてとくと/合点(かてん)いたし候、それハへにて御座有べし、しさい 00089070M8ハまづ、へと申ものハをとハありて手にもとられず目にも 00089080M9見えず、色にもそまず火にもやけず、きつてもにてもかくて 00089090M10も、元来なきものかとおもへば、/腹中(ふくちう)の時によりて、いく 00089100M11つもある物にて候と、じまんかほにいへるハおかしかりし。 00089110¥N9¥J 00089120¥X第九△一休に或人見ざる聞ざるのいハれをきゝて三人くハんを立る事 00089130M15○さる人の家の/破風(はふ)のもんに、/猿(さる)を三つ/作(つく)り付たり。一つ 00089140M16のさるハ両手をもつて目をふさく。一つのさるハ両手をも 00089150M17つて/耳(ミゝ)をふさく。今一つハ口をふさぐ。ある人三人つれて 00089160M18此門前に立よりて、是を見物す。折ふし一休そこをとをり 00089170M19給ひて、たちより是を見給ひ(十一オ)、打うなづき、わら 00089180¥P270 00089190L1ひて/過行(すきゆき)給ふ。三人の内一人か申やう、何も三つのさるの 00089200L2いはれを、しゆ+なんじけれとも、/終(つい)に/合点(かてん)ゆかず、た 00089210L3ゝ今是にしバらくありて行給ふ出家の見て、うちわらひて 00089220L4とをられしハ、/定(さため)てがてんあれバこそ打うなづき給ふ、い 00089230L5ざしさいを尋ねてミん。尤然べしとて、/追&(をい+)にをつかけ、や 00089240L6がて一休のそでをひかへ、御房に物を尋ね申さん、只今もん 00089250L7ぜんにありつるさるを御らんありて、うちうなづきわらひ 00089260L8給ふやうハ、さだめて御そうハよく御そんじありつる物と 00089270L9ぞんずる、かやうに申我&ハぐち/文盲(もんもう)にして、何のわきま 00089280L10へをもぞんぜざるものどもなり、/子細(しさい)をかたりきかさせ給 00089290L11へ、やど+へかへりはなしにも仕らん、いかに+とせ 00089300L12りかけてとひければ、一休、さればこそ其さるのいはれハ、 00089310L13我等もくハしくハぞんぜず、さりなから、何れもれき+ 00089320L14わかき衆の尋ね給ふに、(十一ウ)しらぬといふもいかゝ、 00089330L15かくいひし事もありげに候、 00089340L16△△何事も見ざるいはざるきかざるハ 00089350L17△△△たゝほとけにハまさるなりけり 00089360L18とよミきかせ給へば、三人の者共、さて+/実(げに)もなるうた 00089370L19のこゝろかな、是ハめん+の心得になくてかなハざる 00089380M1うたなり、さて今の御房ハぶつじんの/現化(けんけ)成べしと、みな 00089390M2一どうにかんじ立かへりしか、一人の申やう、いかにめん 00089400M3+、いざ此うたの心をもつて、三人共に/今日(けふ)よりして、 00089410M4見さるきかざるいはざるのぐハんを立べし、/皆(ミな)もつともと 00089420M5/同(どう)じて、扨かたハらに立よりければ、折ふし/遠寺(ゑんじ)の/晩鐘(ばんしやう)か 00089430M6すかにきこへけるを、きかざるのくハん立たる人、何とな 00089440M7くおもひ出て、 00089450M8△△けふの日も/命(いのち)の内に/暮(くれ)にけり 00089460M9△△△あすもやきかん/入逢(いりあい)のかね(十二オ) 00089470M10とふるきうたをうそふきける所に、いはざるの/願(くハん)たてたる 00089480M11人のいひけるハ、いかに其方、きかざるのくハんむなしく 00089490M12なりぬる事のあさましさよと、手をうち、ゆびをさしてわ 00089500M13らひあざける所に、見ざるのぐハん立たる人のいへるハ、 00089510M14さて+かた+ハ、何をきゝ、何事をいひてともに大ぐ 00089520M15ハんをやぶり給ふや、おろかにあさましき事かなととがめ 00089530M16らるゝ。三人の心おかし。 00089540¥N10¥J 00089550¥X第十△一休去人に異見し給ふ事 00089560M19○さるしよしんなる男あり、さい+一休和尚へ参りよろ 00089570¥P271 00089580L1づうけたまハる。和尚此ものを見るたひに、其方ハたんき 00089590L2人也、物ごとにずいぶんかんにんせられよとおほせらるゝ。 00089600L3此もの答て申やう、もつともかんにん仕候事、随身にこへ 00089610L4過ておぼえ候、さりながら我何のかまひもなく無ゐぶしに 00089620L5まかりあり候時、いたづらもの来りて、(十二ウ)それがし 00089630L6の/面(おもて)へかすはきをはきかけ候を、おしのごひてかんにん仕 00089640L7候と申。和尚きゝ給ひて、ごんご/道断(たうたん)、それハわるきかん 00089650L8にんのこゝろへやうかな、かへす+其かすはきをのこふ 00089660L9べからず、もし其かすはきをのごひ候ハゞ、はきかけたる/田= 00089670L10夫(でん=ぶ)もの、われらがかすはきをむさしきたなしとおもへばこ 00089680L11そのごひたれ、にくきしかたなりと、猶&いかり、かさねて 00089690L12ハいか成めにかあハせんすらん、さる程に、其かすはきを 00089700L13きたなくとも、其ままをきて、ほしつけてをくへし、それ 00089710L14何のとがもなき人のつらへ、かすはきをはきかくる/馬鹿(ばか)も 00089720L15のハ、生有ものにあらず、ひとへにきやうらん、すいきや 00089730L16う、ばか、たくらた、非人とも云べし。それ/蝿(はい)といふむしハ、 00089740L17いか成/貴人(きにん)/高人(かうにん)のつふりへもおそれずあがり、/夫婦(ふうふ)のかた 00089750L18らひをなし、あるひハふんをひりかくる、されば其はいは、 00089760L19(十三オ)もとより/虫(むし)なりと思へば、はらもたゝず、/真(まつ)其ご 00089770M1とくはいどうぜんのものにたいする時ハ、/人倫(しんりん)のなすさほ 00089780M2うにハあらずとかんにんのこゝろへ、是ほどにもなくてハ 00089790M3いかゝあらん。 00089800¥N11¥J 00089810¥X第十一△ぐちの僧うしになり一休へ来る事 00089820M6○一休の御/弟子(てし)に/雲知坊(うんちばう)とてあり。/江州(がうしう)にすミけるか、と 00089830M7し月を/経(へ)て、ある時一休のもとへゆきて、てらへいらんと 00089840M8するを、こぼうし、/棹(さほ)をもつてうたんとす。こハ何事ぞと 00089850¥G 00089860¥P272 00089870L1いハんとすれども、物もいはれすにけさりぬ。また行ば、 00089880L2さきのごとし。先かたハらに立よりておもふやうハ、是ハい 00089890L3か成事やらん、はる+おもひ立て来りしかひもなく、む 00089900L4なしく帰るべきかとおもひて、又ゆく時に/小法師(こほうし)、此うし 00089910L5ハいかさま思ふ事のあるやらん、たび+きたるといひて、 00089920L6まづかたハらにひき入てつなぎ(十三ウ)(十四オ挿画)をく。 00089930L7其時我身を見れは/牛(うし)なり。心うき事かきりなし。是ハ/日来(ひころ) 00089940L8の/信施(しんせ)のつミふかきゆへにこそとおもひて、/尊勝陀羅尼(そんしやうたらに) 00089950L9こそ、しんせのつミをせうめつするくどくあれと、さすが 00089960L10きゝをきてじゆせんとおもへども、ならハざる事なればか 00089970L11なハず。せめてハ/名字(ミやうじ)なりともとなへんとおもへども、し 00089980L12たこハくしていはれず。たゞそゝめくばかり也。此うしハ 00089990L13やまひのあるにや、/草(くさ)もくハず、水ものまずそゝめくと、 00090000L14人いひけれとも、心うさに食物の事をもうちわすれて、三 00090010L15日三夜そゝめきしか、心ざしのつもりにや、そんしやうだ 00090020L16らにといハれたりける時、本のほうしになりぬ。さてつな 00090030L17をときて和尚のまへにゆきぬ。おしやう仰らるゝハ、御房 00090040L18ハいつきたるといひ給へば、三日いぜんに参り候と申さる 00090050L19れば、いづくにありつるぞととひ給へば、むまやに候 00090060M1(十四ウ)ひつるとて、ありのまゝにかたりける。和尚ふび 00090070M2んにおほしめして、彼そんしやうだらにをおしへ給へば、 00090080M3いよ+此房主/得道(とくたう)しけるとなり。あさましき事也。おそ 00090090M4るべし。はづへし+。 00090100¥N12¥J 00090110¥X第十二△/尊勝陀羅尼(そんしやうたらに)/功徳(くどく)の事 00090120M7○/北野辺(きたのへん)に十二三ばかりなる/女童(をんなわらんべ)の、菜つミてゐけるか、 00090130M8俄にひれふし死入ける所へ、一休とをり合、立より見給へ 00090140M9ば、四五尺ばかりなる/蛇(へひ)はひかゝりけるを、一休つえをも 00090150M10つてはらひのけ、/童女(とうによ)を引おこし、/子細(しさい)をとひ給へば、た 00090160M11ゞいまこゝにわかきとのゝきたりて、そこにふせ+と仰 00090170M12られて、そのゝちむたひにひきふせらるゝか、何とやらん 00090180M13くびのまハりを見て、おそれおどろきたるふぜひにて、さ 00090190M14ながらよりもつかずして、其まゝにげさり給ふなりと、か 00090200M15たる。一休ふしぎにおぼしめされし(十五オ)が、かミのも 00090210M16とゆひをとかせて見給へば、そんしやうだらにのかきたる 00090220M17をひきさき、もとゆひにしたりける。これにおそれてちか 00090230M18つかざるこそふしぎなれと、和尚ある時に/旦那(たんな)方にて此事 00090240M19をはなし給ふ。さるほどに此そんしやうだらにのくどくに 00090250¥P273 00090260L1より、あまの命をたすかりけり。扨こそまもりといふ物を 00090270L2もつべき物也。 00090280¥N13¥J 00090290¥X第十三△和尚/伊豆(いつ)の国にて/猿(さる)をたすけ給ふ事 00090300L5○一休いづの国にて、さる山人/猿(さる)を一ひきとらへてはしら 00090310L6にしばりつけ、なさけなくもうちたゝき、すでにうちころ 00090320L7すべき所へ、一休ゆきあハせ見給ひ、ふひんにおもひ、こ 00090330L8ひとつてはなしやり給ふ。折から春のころなりしか、或ゆ 00090340L9ふぐれにくだんのさる、いちごをかしはのはにつゝミもち 00090350L10て来り、一休にさしいだしける。一休かわゆくおもひ、/布袋(ぬのふくろ) 00090360L11にまめを入てとらせらるれば、とりてかへ(十五ウ)り、か 00090370L12さねてまた、其ふくろにくりを入てきたり。みぎのことく 00090380L13和尚にさし出してかへりけると也。/畜生(ちくじやう)なりといへとも、 00090390L14命をたすかりし、をんのほどをよくしれり。しかれば人間 00090400L15の身として、是非のわかちをしらぬハさるにハおとれりと、 00090410L16かんじ給ひ、此事を旦那かたにて/具(つふさ)にかたりたまふ。少も 00090420L17いつハりなき事也。 00090430¥N14¥J 00090440¥X第十四△一休天ぐにゐんをさづかり給ふ事 00090450M3○/□((一カ))休しよほつしんの時、ゑちごへしゆぎやうしくた 00090460M4り給ふか、ある山中にゆき給ふに、はや日も/西山(せいざん)にかたふ 00090470M5きしが、在所のもの申やう、御房、やとをかりたく候ハゝ、 00090480M6あのむかふに見え候ふるきだうへゆき、一夜をあ/□((かカ))し給へ、 00090490M7さりながら、あのだうハよるにもなれば天ぐのすむよし申 00090500M8つたへけるか、いかんといへば、一休それこそ望所なりと 00090510M9て、かのだうへゆき、ぶつだんのうへにあがり、/隠形(ゐんぎやう)の/印(ゐん) 00090520M10をむすび、心(十六オ)をしづめておハしける所に、夜半の 00090530M11ころ、うへの山より、人ならハ二三十人ばかりのをとして、 00090540M12ざゝめきわたりきたる。一休すハやとおもひ見給ふところ 00090550M13に、たうのうちへむらかり入をミれば、いろしろくきよげ 00090560M14なる法師を/手(て)ごしにかきのせて、小ぼうしばら二三十人ぜ 00090570M15んごをかこミてきたりしが、此法師こぼう/じ((ママ))ばらをみな/庭(にハ) 00090580M16におひ出し、なんぢらハあれにてあそび候へと云。かしこ 00090590M17まつてはら+といでゝあそぶ。ときにこのそう申けるハ、 00090600M18それにかくれゐたまふ御房是へ出られ候といふ。一休さて 00090610M19ハ見付られたりとおもひて、何のように候やと申さるゝ。 00090620¥P274 00090630¥G 00090640L12いや御ばうのゐんぎやうのゐんのむすびやうのわるくて見 00090650L13ゆるぞ、是へおハしませ、をしへ申さんといふ時、一休こ 00090660L14ゝろあんどしてそばへより給ふ。こま+とをしへてさら 00090670L15は物見給へ、しよせんなきやつばらに、(十六ウ)(十七オ挿画) 00090680L16見せ申さじとぞんじ、おひ出したり、先/印(ゐん)むすびて見給へ。 00090690L17さらばとて、一休むすび給へば、よし+たゞ今ハ見へ給 00090700L18ハぬそといふて、そのゝちハ/主従(しゆしう)ともにうちまじはりて、 00090710L19まひあそびて、あかつきかたにをく山へかへりけり。和尚 00090720M1此事をさるかたにてはなし給ふ。 00090730¥N15¥J 00090740¥X第十五△一休ねずミはなしの事 00090750M4○上京にかめや六右衛門と申ものハ、一休の/旦那(たんな)にて、つ 00090760M5ねに寺へまいり、よろづはなしなぐさみしが、ある時此人 00090770M6おしやうへ参り、かたりけるハ、何と和尚さま、それかし 00090780M7さひしさのまゝに、よろつの事をつく+としあんするに、 00090790M8とかく人間ほどあさましきものハなし、第一何事をねがふ 00090800M9といひても、是一つとしてかなふたりとおもふ事も/も((ママ))なく、 00090810M10きのどくのうき世や、つらや、はやくしにたしなとと、ひ 00090820M11た物に/明暮(あけくれ)そらことをのミいひつくす、是もなに(十七ウ) 00090830M12ゆへぞなれば、かのひんといひし物にせめられしゆへなり、 00090840M13うけたまハるに、/大黒(たいこく)ハふくじんにて、衆生のねがひにお 00090850M14うじてふくとくをあたへ給ふよしうけたまハる、いかゝわ 00090860M15れらも明日からいのりて見ばやとおもふハいかにと申けれ 00090870M16ば、和尚のいはく、いや+ふくとくを大こくにいかほと 00090880M17いのり申さるゝとも、ぜんじやうの/果報(くわほう)なくてハかなひが 00090890M18たかるべし、爰におもしろきはなしの候、かたりてきかせ 00090900M19申さん、/鼠(ねつミ)か女の子をまうけて、おそらくは此むすめ天下 00090910¥P275 00090920L1にならびなきミめかたちなり、すいぶんのむこをとらんと 00090930L2じまんして、それ/日天子(につてんし)ハせかいをてらし給ふとくめでた 00090940L3ければ、此天子をむこにとらんとて、あさ日の出給ふにうち 00090950L4むかひて、それがし世にならびなきむすめを一人もちて候、 00090960L5ことにミめかたちなだらかに候、其方へ参らせんと、申せバ、 00090970L6もつ(十八オ)ともわれハせかいをてらすとくあれども、/雲(くも) 00090980L7といふものにあひぬればひかりもなくなる程に、雲をむこ 00090990L8にとられよと、仰られけるに、誠にとおもひて、くろき雲 00091000L9の見ゆるにむかつて、此よしを申せば、されば我ハ日の 00091010L10ひかりをもかくすとくあれども、風といふものにふかるれ 00091020L11ば、ちり+ときへてなくなるほどに、風をむこにとられ 00091030L12よといふ。さもとおもひて、山風のふきけるにむかつて、 00091040L13此よしを申せば、我ハ雲をもふきちらし草木まても/も((ママ))ふき 00091050L14なひかすほどのとくあれども、/築地(ついぢ)といふものにあひぬれ 00091060L15ば、ちからなきなり、たゝついぢをむこにとり給へといふ。 00091070L16さらばとてついちにかくといへば、我ハ風にあふてもたぢ 00091080L17ろく事もなけれども、ねずミと云ものにほらるゝ時ハ、こ 00091090L18れのミたへがたき也といひければ、さてハねずミハなにゝ 00091100L19もすぐれたる物なりとて、(十八ウ)つゐにねずミをむこに 00091110M1とりけるとなり。 00091120¥N16¥J 00091130¥X第十六△くうかはうの事 00091140M4○此くうかばうと申ものハ、一休和尚につかハれしものな 00091150M5るが、/食(しよく)をなにほどくひてもつゐにくひあくといふ事もな 00091160M6く、いまくいてもまもなくはや/食(くふ)により、そこぬけばうず 00091170M7と名を付てよび給ふ。かれか/俗(そく)のときハ在所にてしうぎな 00091180M8とのあるときハ、一升五合ばかり入はちに酒をたぶ+と 00091190M9入、二いきのミ三いきのミなどゝいひてのミけるものなり。 00091200M10あまり大しよくゆへに/身代(しんたい)くいつぶし、今此てらにはうこ 00091210M11うしける。さる時和尚ねむたなぐさミに、 00091220M12△△今くふてくふてもくふかくふかばう 00091230M13△△△くふかゝくふハくふにくふなし 00091240¥N17¥J 00091250¥X第十七△ゆうしげといふ筆やが事(十九オ) 00091260M16○此ゆふしげと申筆屋ハ、一休和尚のとくいなるが、じた 00091270M17いしよさぶごうなるゆへに、何としても筆おもハしからず。 00091280M18ある時和尚ふミこま+としたゝめ、此たびの筆ハずいふ 00091290M19んねんを入こされよ、やゝともすれば/毛(け)ぬけてつかひにく 00091300¥P276 00091310L1ゝてきのどくに候まゝ、なるほどずいぶん+かきよきや 00091320L2うにたのミ入候と、かき給ひて、其をくに、 00091330L3△△ゆふしげかゆふたる筆はかさあたま 00091340L4△△△かくたひことに毛ハぬけにけり 00091350L5とかやうにたハむれごとをいひてつかハさるれハ、筆やも 00091360L6今にはじめぬ御ばうのわるくちかなと申てわらひけり。 00091370¥Y1一休諸国物語二巻終(十九ウ) 00091380¥Y1一休諸国物語巻三△目録 00091390M3第一△一休/夢中(むちう)の事并或人/死(しゝ)てきじに生るゝ事 00091400M4第二△一休かつら/河(かハ)へながれ給ふ事 00091410M5第三△同/答話(たうわ)の事 00091420M6第四△女/夫(おつと)をころす事 00091430M7第五△一休十一/歳(さい)の時の事 00091440M8第六△同ひがし山ゆさんの事 00091450M9第七△山人/男女(なんによ)共/道人(だうにん)にまさりし事 00091460M10第八△/蛇(へび)寺/房主(はうず)の事 00091470M11第九△女/犬(いぬ)に生れ来る事(1オ) 00091480M12第十△/竹林坊(ちくりんばう)の事 00091490M13第十一△一休/鳥山(とりやま)百姓をたすけ給ふ事 00091500M14第十二△同はや物かたりの事 00091510M15第十三△同/若年(しやくねん)の時/師匠(ししやう)の/飴壷(あめつぼ)をわり給ふ事 00091520M16第十四△同或人に/異見(いけん)の事 00091530M17第十五△同/殺生人(せつしやうにん)に/証拠(せうこ)を見せ/得道(とくだう)させ給ふ事 00091540M18第十六△同と孫作狂哥の事 00091550M19第十七△或人一休に/不審(ふしん)を/問(とふ)事 00091560¥P277 00091570L1第十八△/蛇(じや)よる+来て/娘(むすめ)をこひうくる事 00091580L2第十九△或人/犬(いぬ)の物を/負(をい)かへす事(1ウ) 00091590¥N1¥J 00091600¥X第一△一休きじをたすけ給ふ事 00091610M3○一休/江州(がうしう)しやうれん/寺(じ)にありし時、ある夜ふしぎの/夢(ゆめ)を 00091620M4見給ふ。其りんがうに/角(かく)助と申ものゝ/親(おや)喜介と申もの、三 00091630M5年いぜんに/死(しに)けり。/今生(こんじやう)にゐ申ときハ、まさしくかために 00091640M6てありしが、一休に/夢(む)中にかたり申やうハ、我ハしゝてき 00091650M7じになりたり、いついくかにハぢとうより御/狩(かり)に出給ふ、 00091660M8さあらバ我命たすかりがたし、此寺へにげ入事あらハかく 00091670M9してたべ、しやう※せゝにうれしとおもハん、我もとよ 00091680M10り御ぞんじのごとくかためしいたりしが、其をりからなれ 00091690M11ば、さだめてきじ/数(かず)おほくとび入事あるべけれども、こと 00091700M12にかためしいたるをしるしにたすけ給へと、物おもひたる 00091710M13すがたにてなく+かたると見て、あやしくおもふ所に、 00091720M14つぎの日あん(一オ)のごとく、ぢとうたかゞりしける。き 00091730M15じ一つてらの内へとび入ぬ。和尚御らんじて、扨ハかのゆ 00091740M16めに見つるきじハ是なるらんと、とつて見給ふに、かれが 00091750M17いひしごとくかためなし。やがてかまの中へかくしてふた 00091760M18をして、さらぬていにもてなし給ふところへ、かり人うち 00091770M19入てかしこを見けれどもなければ、ちからなく出けり。お 00091780¥P278 00091790L1しやう此きじをとりいだして、いまの/世次(よつき)角助にしじうく 00091800L2ハしくかたり給へば、かくすけなみだをながし、此きじを 00091810L3もらひ、/飼(かい)ころしたると聞へ侍る。ふしぎ成し事ともなり。 00091820¥N2¥J 00091830¥X第二△一休かつら川へなかれ給ふ事 00091840L6○一休かつら川をわたり給ふか、何としてかながれたまふ。 00091850L7折ふし川ばたにハ、人おほくあつまり/居(ゐ)て、是は+とい 00091860L8ひて、我取あげ参らせんといふものなし。壱(一ウ)(二オ挿 00091870¥G 00091880M1画)町あまりながれ、/川下(かハしも)のくゐにかゝりて/漸&(やう+)してあが 00091890M2り給ふを、人&、さて+あの御ばうハ、河へはまりなが 00091900M3れ給ふと見えしが、何としてあがられけるぞ、あまの命を 00091910M4ひろハれけるかなと、くち※に申せバ、一休のいはく、 00091920M5さればこそ我ハ、はまりたればこそあがりたり、あがりた 00091930M6ればこそいきたれと申さるれバ、人&きいて、扨もくちの 00091940M7かしこき/房主(ばうず)かなと、どつとわらひてうちすぎけり。 00091950¥N3¥J 00091960¥X第三△一休/答話(たうわ)の事 00091970M10○さるなまこびにこびたる男、一休のもとへ、すゞめを一 00091980M11つもちてゆき、いかに御房、此すゞめハ/生(しやう)か/死(し)かいかん。 00091990M12一休むとこたへ給ふ。此ものいとまもこハずさりけり。此 00092000M13心ハしやうなりといはゝころ/ず((ママ))べし、又/死(し)なりといはゞは 00092010M14なちやらんとの事かしらず。其後和尚、かれか方へ行(二 00092020M15ウ)給ひて、はいり口のしきゐをふミまたげ、ていしゆ+ 00092030M16とよハれける時、/亭主(ていしゆ)いてける。一休此しきゐをいづるか 00092040M17いるかととひ給へば、/亭主(ていしゆ)も少しさいらしきものにて、何 00092050M18の返答もなく、手をうちてこそわらひけれ。 00092060¥P279 00092070¥N4¥J 00092080¥X第四△女房夫をころす事 00092090L3○山里に或ものゝつま、さる男とひそかにかたらひ、たが 00092100L4ひに/情(なさけ)ふかく、ちぎりあさからざりけり。あるよのむつご 00092110L5とに、いつかいつまでかくハしのびなんや、いかにもして 00092120L6なじミのおとこをころして、おもふまゝにちぎらばやとた 00092130L7がひにうちとけて/談合(たんかう)し、たくミ出して、ある夜男にさけを 00092140L8しゐてゑひふさしめ、夜/更(ふけ)人しづまりてのち、まをとこ二 00092150L9人して、男のかうべに/釘(くぎ)を打てころし、さて家に火をかけ、 00092160L10やけ死したる/躰(てい)にし、うたがふ人もなきやうにもてなし、 00092170L11しゝた(三オ)る/尸(かばね)に取つき、こゑをはかりになきさけびけ 00092180L12り。折ふし一休とをり合、此女のなき/声(こゑ)を聞、ふしきのお 00092190L13もひをなし給ひて、あたりちかき人に尋ね給へハ、しか 00092200L14+とかたる。一休きゝ給ひて、此女のなきこゑハおそれ 00092210L15たるてうしにて、さらにかなしミの声にはあらず、ふしぎ 00092220L16なりといひてとをり給ふ。あとにて今のしゆ行じやハ人間 00092230L17にてハあるまじ、むかしよりいまにいたるまて、けんとん 00092240L18はういちの在所へハ、こうぼう/大師(たいし)のありき給ふと云つた 00092250L19へり、さだめて大師の来り給ふとおほえたり、/声(こゑ)ばかりを 00092260M1きゝてそれそとあかし給ふハ、きたいふしぎのおそうかな 00092270M2とて、ミな+かんしけると也。 00092280¥N5¥J 00092290¥X第五△一休十一/歳(さい)の時の事 00092300M5○/師(し)のばう/他行(たきやう)し給ひ、るすの所へ、よそより/餅(もち)一つ(三 00092310M6ウ)きたれり。一休すこしわり、/師匠(ししやう)かへり給ふに取出し 00092320M7て奉る。師もだうけ人にて、/満月(まんけつ)/無片(むへん)/破(は)かけハいづくにか 00092330M8あるとの給へば、一休其比よりちゑさかしかりければ、や 00092340M9かて/返答(へんたう)に/雲隠(うんをん)/有是(うぜ)とて、かけを出さるる。まづ此心ハま 00092350M10んげつハまるくしてかけたる所なし、此もちもまんげつの 00092360M11ことくにてあるべきか、かけたるハいかんととひ給へハ、 00092370M12うんをんうぜとハくもにかくれてこゝにありとこたへ給へ 00092380M13ば、/師(し)うちわらひ給ひて、さてもこざかしき小ぞうかなと 00092390M14て、皆たびけり。 00092400¥N6¥J 00092410¥X第六△一休ひがし山ゆさんの事 00092420M17○一休/旦那(だんな)衆二三人/同心(とうしん)して、ひがし山/辺(へん)へゆさんに出給 00092430M18ふ。ときしも/春(はる)の/中(なか)ばにて、/梢(こずへ)の花/最(さい)中にして、こゝかし 00092440M19こにゆさんおほし。さるかたハらに五六人うちより、手を 00092450¥P280 00092460L1打たゝきおどりあがりて、大わらひして(四オ)あそぶ。何 00092470L2事かおもしろかりけるときく所に、へをへりておもしろが 00092480L3る。旦那の内一人の申さるゝハ、あまりさけにちやうじ、 00092490L4何かそれほどへがおもしろかるべし。一休申さるゝハ、い 00092500L5やおもしろきこそことハりなり、よく+むかしよりもお 00092510L6もしろき事なればこそ、うたひにも、おもしろのはるべや 00092520L7な、あらおもしろの春べやと、うたふ程に、さてハはるの 00092530L8へハおもしろきもだうりなりと申された。 00092540¥N7¥J 00092550¥X第七△山人男女共ニ道人にまさりし事 00092560L11○一休津国の山ざとをとをり給ふに、二人の山がつあり。 00092570L12一人ハふしてあり、今一人ハはたをうつ。父子也。よりて 00092580L13ミれば、むす子/毒蛇(とくじや)のためにさゝれて俄に死せり。父なげ 00092590L14くけしきもなくて一休にむかつて、御ばう其おハする道の 00092600L15ほとりに家あり、是我家也、それよりめしを持て来るべし、 00092610L16只今むす子ハ(四ウ)俄に死せり、さすれハ一人の食ばかり 00092620L17持て来れと申てたへといふ。一休ちかくより給ひて、それ父 00092630L18子の/別(わかれ)はかなしかるべきが、いかなればなんぢハなげきの 00092640L19色なきぞととひ給へば、男こたへていはく、/親子(しんし)/烏夜林(てうやりん)/明(ミやう) 00092650M1/方&(はう+)/如飛去(によひきよ)とこたふ。此心ハしんしのちきりハ鳥のよるは 00092660M2やしによりあひて、夜あけてハ方&へとびさるがごとし。 00092670M3わづかのちぎりの間なれば、なげく事なしといふ心也。一 00092680M4休それよりをしへし家にゆき、くだんのとをりを女房につ 00092690M5ぶさにかたらるゝ。扨ハとて二人のこしらへをきし食物を、 00092700M6一人のをさしをき、たゝ一人のばかり持ていづる。一休と 00092710M7ひ給ふハ、其死したるハなんぢかためにハいかにととハれ 00092720M8ければ、それがしかためにハ/夫(おつと)なりと申て、すこしもなけ 00092730M9く/気色(けしき)なし。一休仰けるハ、それ世中に/死(しす)るといへば、他 00092740M10人の身とし(五オ)てさへあハれハもよほすに、まして夫な 00092750M11らばかなしかるへし、殊に女性ハはかなきものなれば、い 00092760M12かゝあるべしと、とひ給へば、女こたへていはく、/夫婦(ふうふ)/契(けい) 00092770M13/市人(しにん)/行合(ぎやうかう)、/要事(ようじ)/過(くわ)/方&(はう+)/如散(によさん)とこたへて、行すぎけり。此心 00092780M14ハふうふのちぎりハ、/市(いち)により合てようじをとゝのへおハ 00092790M15れは、めん+はう※へちるがごとし。なからへそふべ 00092800M16きものにあらずといふ心なり。一休もふしぎのおもひをな 00092810M17して、さてもかやうなる山/家(が)にも、かゝる/生死無常(しやうじむしやう)のこと 00092820M18はりを、よくあきらめたる男女ありやとかんじ給ふ。 00092830¥P281 00092840¥N8¥J 00092850¥X第八△/蛇(へび)寺の事 00092860L3/嵯峨(さか)に/了意房(りういはう)と申/道心者(だうしんじや)のありける。いつの比よりくびに 00092870L4/蛇(へひ)まとひ付てはなれず。さま+の事をなして/漸&(やう+)はなせ 00092880L5ば、また夜のまにハもとのことくにまとひ付。ことにひじ 00092890L6り切たる/房主(はうす)なれば、日&に(五ウ)(六オ挿画)さがより京 00092900L7へ出で、/鉢(はち)をこひけるに、彼蛇をかくさんがために、ゆた 00092910L8んを/首(くび)にかけてミへざるやうにして出けるが、此事ひとへ 00092920¥G 00092930M1に/難儀(なんぎ)におもひ、其比さか二/尊院(そんゐん)に一休おハしけるに、か 00092940M2のばうず尋ね行、我身のやうだいをくハしくかたりければ、 00092950M3一休きゝ給ひて、いかさまそれは女のしうじやく成べし、 00092960M4しからば汝是より/高野山(かうやさん)へ上り候へ、さもなくばのく事あ 00092970M5らじとをしへ給ふ。ばうずよろこび、/高野(かうや)へのぼりしに、 00092980M6ふどうざかよりくたむの/蛇(へひ)うせてなし。/了意(りやうい)いよ+あり 00092990M7がたき事におもひ、高野山に二三年もすミしが、今ハはや 00093000M8しうしんへびの事もうちわすれ、すきしふるさとのこひし 00093010M9さに、またさがへかへりしが、二三日ハ何の子細もなかり 00093020M10しに、又よのまにくだんの蛇まとひつきけり。其まゝ/高野(かうや) 00093030M11にすむならば、いよ+めでたかるべきに、/何(なん)ぞやまた、 00093040M12ふるさと(六ウ)へかへり二たびなんきにあふ事、さだまれ 00093050M13るごうのほどこそかなしけれ。今に此房主のすミしあとあ 00093060M14り。/蛇(へひ)でらとぞみな人申あへり。 00093070¥N9¥J 00093080¥X第九△女犬にむまれ来る事 00093090M17○一休のもとに犬あり。或時子五つうめり。其五つの子の 00093100M18内一つをおやいぬにくミて、/乳(ち)をもじゆうにのませずして、 00093110M19いがミくひふせけり。下人ども此おやいぬをにくミ、うち 00093120¥P282 00093130L1けるほどに、あるよ和尚の/夢(ゆめ)につけて云やうハ、我身ハぜ 00093140L2んじやうにて、かしはといひしゆふぢよにて侍りしが、五 00093150L3人の/夫(おつと)をもちて候ひしが、四人ハことにふれてなさけある 00093160L4心ざしもたがひにあさからず、一人ハ/偽(いつハ)る心おほくして、 00093170L5/却而(かへつて)我をわづらハしくする事たひ※侍りしかハ、にく 00093180L6ゝおもひながらうちすぎぬ。いま此五つの子ハかの五人の 00093190L7/夫(をつと)なり、四つハむかしのなさけ(七オ)ふかきゆへに、/乳(ち)を 00093200L8のましいとふしくおもふなり、一つハ我をなやめし夫なれ 00093210L9ば、ちをのむもわびしくにくゝ候まゝ、かくあたり候と、 00093220L10こまやかに、むかしの事をあり+とかたりし事を、一休 00093230L11旦那中へはなし給ふ。 00093240¥N10¥J 00093250¥X第十△竹林坊の事 00093260L14○江州に竹林寺と申寺あり。此/住持(ぢうぢ)のせいハ三尺ばかりあ 00093270L15りけり。さる方にすこしおもひ入たる若衆あり。をり+ 00093280L16よひ、ねんころせられしか、何とかしてうちたへ来らざれ 00093290L17ば、ちくりん/気(き)をくさらかし、すてぶちうつて、ねまにひ 00093300L18きこもり、うちふし、下人にいひごとしかけ、まくらなど 00093310L19をなげうちし、さん+あつこうしける所へ、一休来り給 00093320M1ふ。もとよりちくりんじとハしたしくし給ふ。是ハ何事を 00093330M2いひて、ふくりうし給ふぞ、まづ+かんにんめされよ、 00093340M3何と其方ハ/気色(きしよく)ばしあしくて、(七ウ)ねられ候や、いかに 00093350M4+ととひ給へば、ちくりん申けるハ、爰にかやう+の 00093360M5しさいあり、此比ハうちたへまいらず、何とぞしてよびた 00093370M6く候か、親兄弟のまへをしのふよし承る、何とぞおもしろ 00093380M7きかこつけをして、まづ打たへこぬやうハいか成事ぞ、と 00093390M8ひにやりたく候、御房ハさいかくあまり候ほどに、手たて 00093400M9をたのむと、申されし時、一休、ひそかにやうすを尋ねた 00093410M10くおもハゝ、たくさんにあり合たる物なれハ、/菜(な)と/銭(ぜに)とぬ 00093420M11かと此三色をすこしつゝ、かミにつゝミやり給へ。ちくり 00093430M12んきゝて、それハいか成事やらん。一休申さるゝ、まづ此 00093440M13中ハなぜにこぬかといふ事なり。ちくりんきゝて、一だん 00093450M14※おもしろく候とよろこびけり。さ候ハゝ今日ハ/雨中(うちう)に 00093460M15てさびしく候、きのふさるかたよりちん/酒(しゆ)をすこしもらひ 00093470M16候、一つまいれ、我等もたへ申さんとて、たがひにさいつ 00093480M17さゝれつ、うたふつまふ(八オ)つ、をんぎよくなかば也。 00093490M18一休立ておとられける。君がこぬとてまくらがしろか、ま 00093500M19くらなゝげそとがハなし、ちくりん+ちん/り((ママ))くりん、さ 00093510¥P283 00093520L1あちくりんじやほどにきそんな、をどりハなんよさてちや 00093530L2せんやころさと、うたひかなでゝかへられけり。おかしか 00093540L3りし事ともなり。 00093550¥N11¥J 00093560¥X第十一△一休江州とり山百姓をたすけ給ふ事 00093570L6○其比/江州(かうしう)/鳥山村(とりやまむら)と申所ハ、六/条(てう)なにがしどのゝ御/領分(りやうふん) 00093580L7にてありけるか、/久瀬(くせ)又右衛門と申/家老(からう)、だうよくしんの 00093590L8もの成がゆへ、百姓をひた物せふりとり、あまつさへのう 00093600¥G 00093610M1ぐまでもとりつくすにより、百姓おのづから/耕作(かうさく)もならず、 00093620M2在所にすまれずして、一人つゝゆくかたしらずのく程に、 00093630M3/漸&(やう+)のこる百姓わづかあり。何れも是をなげき、いかゝせ 00093640M4んとひしめきあへり。其中に一人か申けるハ、いかに百姓 00093650M5なればとて、是は(八ウ)あまりむだうしん成しやうかな、 00093660M6百姓のかうさくの/道具(たうぐ)までもとられてハ、何をもつて/作(つく)り 00093670M7をせん、然れハ在所にありてもせんなき事也、とてもしな 00093680M8んずる命なれば、此事を一まづうつたへて、其後ハともか 00093690M9くもならん、めん+いかにと申ける。一人の申やう、い 00093700M10や+さやうにきハむるにもあらじ、申せバまた/武家(ぶけ)など 00093710M11ゝハちかひ、なが/袖(そて)の事なれバ、とかくうつたへ申さん、 00093720M12先/訴状(そしやう)をしたためさしあげん。尤しかるべし、さりながら、 00093730M13ミな一/文(もん)ふつうのものどもにて、何とかくべきわきまへも 00093740M14なく、たれをたのまんたよりもなし、いかゝせんと、あん 00093750M15じわつらひし所へ、折ふし一休はちに行給ふに、御ばうそ 00093760M16じやうをかきて給ハれといふ。一休きゝ給ひて、何事なれ 00093770M17ばととひ給へば、しか+の事と/答(こたふ)。いや+これハ/訴状(そしやう) 00093780M18までに及ぶ事にあらず、是をもちて、(九オ)六条どのへさ 00093790M19ゝげよとて、哥をかきてやり給ふ。 00093800¥P284 00093810L1△△又もまたとりてもきかぬ一村の 00093820L2△△△のふぐ残らずくせやとり山 00093830L3とよミて、是をつかハさるれば、百姓ども、かゝる事にて 00093840L4ハいかゝあらん、おもひもよらずと、申ければ、一休、/是= 00093850L5非(せ=ひ)とも是をさゝけよと、仰られてかへり給へば、いづれも 00093860L6せんぎしけれども、/皆(ミな)/土(つち)百姓のあかゞりもちどものより合 00093870L7なれば、ろんじてめづらしき/分別(ふんへつ)も出ざれば、是非なくし 00093880L8て、かのうたをさしあぐれハ、六条殿へ御らん有て、是ハ 00093890L9めづらしき訴状かな、百姓のぶんとしてかゝる事ハおもひ 00093900L10もよらず、さだめて人をたのミてかきつらん、ありのまゝ 00093910L11に申べし、もしちんずるにをゐてハ、くせ事也と、仰らる 00093920L12ゝ。されハ一休の御さくにて候と申せバ、されバこそ其を 00093930L13どけもの(九ウ)(十オ挿画)ならでハ、かゝる事いはんもの、 00093940L14今の世におほえずと、/興(けう)し給ひて、其後ハ、百姓になさけ 00093950L15ふかゝりしと申也。 00093960¥N12¥J 00093970¥X第十二△一休つゝき/言葉(ことば)うたの事 00093980L18○上さがに日本左衛門と申て、日本一のわる口ものゝとび 00093990L19あがりあり。ない+一休和尚のかる口なる事をきゝ及び、 00094000M1いつぞハゆきて何にてもつゝけさまなるだうけ事をいひか 00094010M2け、付らるゝか見たしと、つね+たくミ出し、ふとおも 00094020M3ひたち、一休へとぞ参りける。一休出あひ給ひ、よく来ら 00094030M4れたりといろ+もてなし給ふ。一休仰らるゝハ、何と 00094040M5其方の/名(な)こそめづらしく候へ、もはや日本にハひとり也と、 00094050M6のたまへば、此男うれしかりて、さればそれかしか名ほと 00094060M7大き成名ハ、世かいに御座あるまじ。一休、いや+まだ 00094070M8そなたより大き成名あり、藤左衛門と申ものゝある程に、 00094080M9そなたハわづかの事也と仰侍る。此おと(十ウ)こ申けるハ、 00094090M10いかに和尚さま、わたくし此比おもしろきはやものがたり 00094100M11をくふういだし候、和尚さまもずいぶんの御たうわしやう 00094110M12ずにて侍る、さりながら仏法にこそ御かしくとも、世間の 00094120M13事に付てかくへつのさうい有べし。一休きゝ給ひ、それハ 00094130M14いかやうの事そ、まづ申て見給へ、それかしもずいぶんそ 00094140M15れに付たる事を申べし。其時この男、さらば申てミんとて、 00094150M16△△先世の中の、出入日かげハ山にさす、わたし/守(もり)ハふね 00094160M17△△をさす、ゑさしハ鳥さす、わきざしさす、まひの/扇(あふき)ハ 00094170M18△△左右へさす、ちをとる馬にもはりをさす、しゆもつし 00094180M19△△やくじゆも/針(はり)をさす、扨しづのめハたびをさす、 00094190¥P285 00094200L1とかやうにつゝけて、はや物かたりにぞいひける。一休こ 00094210L2ゝろへたりとて、 00094220L3△△それやねのもりをば/板(いた)でさす、雨のふるにハかさ(十 00094230L4△△一オ)をさす、花さす、あぶらさす、/酒(さか)しほさす、水 00094240L5△△さす、ゆびさす、/戸(と)をさす、たゝミさす、米やの/亭主(ていしゆ) 00094250L6△△ハ米をさす、うたひの本にハしやうをさす、かミにハ 00094260L7△△つげのおぐしをさす、 00094270L8とあそハして、ついでなから、かくうかへりとて、 00094280L9△△さすやうでさゝぬハ人待よひのからきど 00094290L10△△さゝぬやうでさすハ又おもふ中のさかつき 00094300L11とかやうにいひすて給へば、此男きもをつぶし、/猶(なを)とひあ 00094310L12がり、さても+ふしぎの御房かな、我等ハつね+是を 00094320L13たくミてさへ申かぬるに、おもハざる所にかくいひかくる 00094330L14を、其いきをもひくやひかざるに、其まゝかやうに御付な 00094340L15さるゝ事、/当代(たうたい)の事ハさてをき、/末代(まつたい)にもかゝるそうハ、 00094350L16またふたりともあらしとぞかんじしが、いや+かやう成 00094360L17口のかしこき御房に、我等かやう成とり(十一ウ)もちにて 00094370L18ハなけれども、ねば口なるぜつないにて、又かさねてむつ 00094380L19かしき事などをいひかけられてハ、ゐじりにならんハひつ 00094390M1ぢやう也、たゞあしもとのあかき時にかへるへしとて、し 00094400M2りからげしてはしりけると也。 00094410¥N13¥J 00094420¥X第十三△一休若年の時/師匠(ししやう)のあめつほをわり給ふ事 00094430M6○一休十二三/歳(さい)の比、/師匠(ししやう)/粘(あめ)つぼを一つもちて、たゞ一人 00094440M7ある小そうに、いさゝかもくハせずして、なんぢ是をかり 00094450M8にもくふべからず、もし是を子どもかくへバ、たちまちし 00094460M9ぬるどく也と、いふて、ひた物我ばかりくひてハとりをかる 00094470M10ゝを、一休おもハるゝハ、あハれどくにもせよ、しぬるとも、 00094480M11/師(し)の出られなば、くふべしとおもふて、まちける所に、折 00094490M12ふし師匠用ありて出らるゝ。一休やかてさがし出し、たな 00094500M13よりとりをろしさまに(十二オ)うちこぼし、あたまへもき 00094510M14る物にも付けり。日比くひたし+とおもひけるまゝに、 00094520M15先二三ばいくひて、あまつさへ房主のひさうせらるゝつぼ 00094530M16をうちおとし、ミぢんになす。かくする所へ師かへらるゝ 00094540M17に、一休しミ+となかるゝ。師何事ぞととハるゝ。され 00094550M18ば大事のあめつほをうちわりたるなり、さだめて御尋ねの 00094560M19ときハ、なにと申べきやとおもひ、命いきてもよしなし、 00094570¥P286 00094580L1子どもがくへばしぬると仰られ候ほどに、一はいたべ候へ 00094590L2どもしなれず、二三ばいたべつれどもしなれ候ハず、あた 00094600L3まにもきる物にも付てしなんとし候へども、すべてしなれ 00094610L4候ハずと、の給へば、師のばうもことばなくて、うちわら 00094620L5ひてぞ入給ふ。 00094630¥N14¥J 00094640¥X第十四△一休或人に/異見(いけん)し給ふ事 00094650L8○或人つれ+なるまゝに、一休のもとへゆき申けるハ、 00094660L9(十二ウ)和尚、わたくしハずいぶん我身の上をぎんミいた 00094670L10し、諸事につき人と/口論(こうろん)なとをたしなミ候が、やゝともすれ 00094680L11ば/商売(しやうばい)につきからかひ候、是と申も我身ハよきに人のわる 00094690L12きとおもふゆへなるべし、人ハよけれ共我身のあしさにか 00094700L13くろんじ申とだにおもハゝ、論ハ御さあるまじきかと申。 00094710L14一休聞召、いかにも其心得一だんの事、とかく我よきに人 00094720L15のあしきがあらばこそといふことく、我身よければあしき 00094730L16ものハなきものと、がてんいたさるゝがかんよう也、よろ 00094740L17づあやまりとおもふ事をハ、すこしなる内にはやく心得て、 00094750L18是ハ大事成とつゝしミをそれて、あらためなをすべし、さ 00094760L19ればすこしなる火のこかとびて物にもえつき、のちにハ大 00094770M1なる家をやきほろぼす、其時ハきやさんとすれどもきえが 00094780M2たし、すこしの火のこの時にハいかばかり(十三オ)かハ、 00094790M3きやしやすかるへし、誠にあやまつてあらたむるにはゞか 00094800M4る事なかれとあるをや、我身のあしきとおもふ人まれなれ 00094810M5はこそ、かく、 00094820M6△△我か身をはわるかれと思ふ人ハたゝ 00094830M7△△△/唐土(たうと)てんぢく我かてうになし 00094840M8かくハいへども、人ハたゞ心の内に奉行をすへてぎんミす 00094850M9べし、とかく/身口(しんく)/意(い)になす所しば+つミなり、よく+ 00094860M10六こんのくせ物に/番(はん)をすへ、/善悪(せんあく)の出入をとかむる事/肝要(かんよう) 00094870M11なり、其心得あるへし、おそるへし+。 00094880¥N15¥J 00094890¥X第十五△一休殺生人を/教化(けうけ)し給ふ事 00094900M14○下京七/条辺(てうへん)に、/羽(は)右衛門と申ものあり。つねに/殺生(せつしやう)をし 00094910M15て世をおくれり。時ならず一休へ参り、けうけをうくれど 00094920M16も、此しよざいあしきとハしりながらも、よのいとなミを 00094930M17すべきだうり、今さらなりかたし。ある時(十三ウ)(十四オ挿 00094940M18画)和尚へまいりて、万はなしけり。和尚のいはく、汝に 00094950M19日外も申ことく、/渡世(とせい)のいとなミなれば、ちからなき事也、 00094960¥P287 00094970¥G 00094980L12こゝにおもしろきはなしのあり、かたりてきかせ申さん、 00094990L13我/若年(しやくねん)の比、/下野(しもつけ)の国にての事なりしに、其国のうちあそ 00095000L14ぬまといひし所に、つねにせつしやうをして世をわたりし 00095010L15者有、或日かへりさまに、おしとりのをんとりを一つ取て 00095020L16/餌(ゑ)ふくろに入てかへりぬ、其夜の夢に、いかにも身をかざ 00095030L17り其さまじんじやうなる女房一人、すかたかたちよろしき、 00095040L18またふたりともなきほとなりしが、うらミふかき/気色(けしき)にて、 00095050L19かのかり人のまへに近付て、さめ+とうちなきて申やう、 00095060M1わらハが/夫(おつと)をば、なさけなくもころさせ給ふといふ、/狩人(かりひと) 00095070M2夢心にさることこそ候ハねとちんじ申せバ、女房申やう、 00095080M3いやちん(十四ウ)じ給ふな、たしかに今日の事也といふて、 00095090M4かく、 00095100M5△△/日暮(ひくる)れはさそひし物をあそぬまの 00095110M6△△△まこもかくれのひとりねそうき 00095120M7といふてうち/詠(なかめ)て、ふつ+とたつを見ればおしどりのめ 00095130M8んどり也、此ものうちをどろきて、あハれにおもふ程に、 00095140M9あした見ればきのふのをんどりと、はしくひ合てめんどり 00095150M10しにけり、かくのごとくちくるいなれども、物のだうりを 00095160M11しるぞかし、いハんや人間の身として、ぜんあくをしらぬ 00095170M12ハあさましき次第也、とあら+はなし給ひけり。 00095180¥N16¥J 00095190¥X第十六△一休と孫作狂哥の事 00095200M15○一休/門前(もんぜん)に孫作と申/田者(でんじや)有。十七に成きさと云むすめ一 00095210M16人もちけるが、とらやの九蔵と申ものゝ方へえん付させけ 00095220M17り。或時おしやうかれが所へゆき給ふに、孫(十五オ)作お 00095230M18しやうにむすめの事をつぶさにはなしけれは、一休それハ 00095240M19一たんめでたき事やとて、彼是はなし給ふ。こゝに孫作か 00095250¥P288 00095260L1おぢ房主、くらま山に、つげんとてあり。毎年花の比にハ 00095270L2よびにこし、/夫(ふう)婦づれにて一両日もゆさんしてかへる。さ 00095280L3だめてことしも/漸&(やう+)花の時分にて候、今明日にハよびに来 00095290L4るべしといひし所へ、つげんより人来る。孫作申けるハ、 00095300L5和尚さま是につき一/首(しゆ)いたし候、日比わたくしの心かけの 00095310L6あさからさる所をきこしめし候とて、 00095320L7△△花さかはつげんといひし山房主 00095330L8△△△つかひのきたにうしにくらをこ 00095340L9といひけれは、一休きゝ給ひ、一たんできましておじやると 00095350L10ほめ給へば、孫作大きに悦ひ、和尚さまいかにと云、一休も、 00095360L11△△きさは十七とらのとし 00095370L12△△△参るおとこハとらや九蔵(十五ウ) 00095380¥N17¥J 00095390¥X第十七△或人一休にふしんをいひかくる事 00095400L15○七/条(てう)/辺(へん)にうとく成町人あり。ある時仏事けうやうのため、 00095410L16/諸出家(しよしゆつけ)ハ申に及ず、こつじきまでにもかたのごとくじひを 00095420L17しけり。ある時一休を申入、しゆ+ふしんども尋ね、 00095430L18/次而(ついで)にとふていハく、何れの事をさして/善(ぜん)とし、何れをさ 00095440L19して/悪(あく)とするや。一休こたへていはく、ぜんあくかぎりな 00095450M1し、/只(たゝ)/善悪(せんあく)をしらんとならば、其よしあしをなすミなもと 00095460M2有べし、かれにゆいてたづねよとこたへ給へば、/亭主(ていしゆ)もつ 00095470M3共とかんじける。さて和尚立給ふ折ふし雨ふりければ、/亭= 00095480M4主(てい=しゆ)、しバらく御まち、あめをやめて御かへりましませ。一 00095490M5休やかて、 00095500M6△△ふらばふれふらずばふらずふらすとも 00095510M7△△△ぬれてゆくへき袖ならばこそ 00095520M8かくいひすてゝ出られける。(十六オ) 00095530¥N18¥J 00095540¥X第十八△/蛇(へひ)よる+来てむすめ/乞(こふ)事 00095550M11○/下総(しもつさ)国にあるものゝ/妻(つま)、十二三ばかりなる、まゝむすめ 00095560M12を大き成ぬまのほとりへぐし行て、此ぬまのぬしに申ける 00095570M13ハ、此むすめを其方へ参らせて、/聟(むこ)にしまいらせんと、た 00095580M14び+いひけり。ある時またくだんのぬまにゆき、かくの 00095590M15とをりをいひけるに、/俄(にハかに)/世間(せけん)すさまじくなり、雨風しきり 00095600M16にして、/空(そら)くもり、ぬまの/水(ミづ)たち、すさまじき事かぎりな 00095610M17ければ、いそぎ家につれかへるに、物のあとより/追(をい)くるや 00095620M18うにおぼえければ、いよ+おそろしくおもひ、かのむす 00095630M19めちゝに取付、日比それがしを、はゝのぬまへつれゆきい 00095640¥P289 00095650L1ひし事をかたるに、其夜大き成蛇きたりて、くびをあげ、 00095660L2/舌(した)をうごかして、此むすめをミてハしバらくありてうせぬ 00095670L3る事、たひ+也。父此事なんぎにおもひ、いかゝあらん 00095680L4(十六ウ)(十七オ挿画)となげきかなしむ。其比一休同国にま 00095690L5しますが、此事国中にかくれなければ、ふびんの事におも 00095700L6ひ給ひて、かれがかたへ尋ね行給ひて、なをも/子細(しさい)をとひ 00095710L7給ふに、はしめをハりをくハしくかたる。一休、さらば 00095720L8我もんをかき得させん、かさねて来る時此もんをとなへき 00095730¥G 00095740M1かせよ、二たびきたるまじとて、其もんにいはく、此女我 00095750M2女也母継母也無我免争可取、かくとなへきかすべし、/重(かさね) 00095760M3てきたるまじとかきてつかハさるゝ。此もんの心ハ、此む 00095770M4すめハ我子也、はゝハまゝはゝなり、我かゆるしなくてハ 00095780M5いかでかとるべきといふ心なり。男よろ/((こ脱カ))びくだんの蛇のき 00095790M6たるをまちける所に、又れいのごとくすさまじくして来る。 00095800M7さればこそとおもひ、さづかりし文を一&となへきかせし 00095810M8かバ、たちまちきへてうせにけり。ちくるいといへども、 00095820M9物のだうりを/能(よく)わきまへ、二度来ら(十七ウ)ずと申伝へ侍 00095830M10り。一休を/権者(ごんじや)とい/ば((ママ))ん物はなし。 00095840¥N19¥J 00095850¥X第十九△死て犬にむまれ来る事 00095860M13○かもちかき/辺(へん)に、五郎右衛門と申ものあり。かれか内へ 00095870M14いつの比より/犬(いぬ)一疋来りしか、うてどもさらず。ある日、 00095880M15人をたのミ二三里よそへやりけるか、又かへりゐける。此 00095890M16度ハとらへ打ころしすつるに、また同しやう成犬来る。時 00095900M17ならす夢見もあしければ、いかゝ心もとなくおもひ、ある 00095910M18時五郎右衛門、一休へ参り、くだんの事を一&はなしける。 00095920M19おしやうのいはく、ゆめ+そのいぬにあらくあたり給ふ 00095930¥P290 00095940L1な、それハ其方がぜんじやうにて其いぬのものを/負(をひ)、つい 00095950L2にかへしつくさずして、今人となり、いぬとなりてこゝに 00095960L3きたれり、まつたくわたくしならぬ事なれば、すつる共、 00095970L4ころしたりとも、/業力(ごうりき)の/犬(いぬ)なれば其家をはなるゝといふ事 00095980L5あるまじ、けに+うしなひたく(十八オ)おもハゞ、かれ 00095990L6に/米(こめ)一二斗ほどあてがひをき給へ、くひつくしたらん時ハ 00096000L7かへるべし、さなくハ何とする共かへるましとぞをしへ給 00096010L8ふ。さらばとて、かへりて米をあたへけるに、あるよの夢 00096020L9に、汝われをなやます事たひ+也、うつ共ころすともう 00096030L10せまじ、されどもうれしくも今ハ、あの仏おしやうにをし 00096040L11へられ、我をはごくむ事まんぞくせり、しかればなんぢか 00096050L12ものくひつくす事、やう+一斗ばかりあり、其間ハわれ 00096060L13につらくあたる事なかれといふとおもへば、/夢(ゆめ)さめぬ。此 00096070L14者いよ+おどろき、さてハおしやうのをしへさせ給ふに 00096080L15すこしもちがハざりけりと、なを+じひをほどこしける 00096090L16に、/彼(かれ)かいひしごとく、一斗の米なく也てのち、くだんの 00096100L17/犬(いぬ)かきけすやうにうせけり。ふしぎなりし事也。 00096110¥Y1一休諸国物語三巻終(十八ウ) 00096120¥Y1一休諸国物語巻四△目録 00096130M3第一△一休/未来(ミらい)物かたりの事 00096140M4第二△/蛇(じや)をのミたると見て煩事 00096150M5第三△一休/蛇(へひ)を/食(めし)にし給ふ事 00096160M6第四△同/妄霊(まうれい)来て/問答(もんだう)する事 00096170M7第五△ばけ物の事 00096180M8第六△あめやせんなミの事 00096190M9第七△一休/制札(せいさつ)を引給ふ事 00096200M10第八△同女/妄霊(まうれい)に成て来る事 00096210M11第九△同/海津(かいつ)/山中(やまなか)にて/舞(まひ)の事(1オ) 00096220M12第十△馬の物いひし事 00096230M13第十一△一休/天台(てんたい)房主とつめあひの事 00096240M14第十二△或人一休に死ての事を/問(とふ)事 00096250M15第十三△/三好(ミよし)/庄斎(せうさい)一休/法問(ほうもん)の事 00096260M16第十四△/宅斎(たくさい)が事(1ウ) 00096270¥P291 00096280¥N1¥J 00096290¥X第一△一休未来物かたり 00096300L3○或人一休に問云、人ハ死てたいなくなりはつれ共、たま 00096310L4しゐハとゞまると申が、さやうにてもあるまじきハ、たま 00096320L5しゐがしなすにあらバ、たいハなく共やはり其まゝ居て、 00096330L6物がたりなどもしさうな事にてハあるまじきか、何れふし 00096340L7ぎなる事にて候、我等かぞんずるにハ、ほとけに成たるもの 00096350L8ハ、たのしミにほこりて、爰の事をハうちわすれ、きたき 00096360L9心ハ/露(つゆ)もあるまじ、又ぢごくへゆかば、/鬼(おに)にかしやくせら 00096370L10れ、ひますこしもあるまじ、またかやうにもなき物やらん、 00096380L11世中に/妄霊(まうれい)とてしゝたるものゝ来て、さま+の事をいひ 00096390L12なとすると承る、何れ是ハいか成事にて候や。一休のいは 00096400L13く、されば我も其義ハしらず候へども、わかき時だんぎ 00096410L14などをちときゝ候が、人が申ほどに、誠か(一オ)うそかし 00096420L15らぬ、たましゐといふものがありて、ほとけとも/鬼(おに)ともな 00096430L16るげに候、其くせものがゑんまわうとやらんへ、くじ奉行 00096440L17が手にわたり、しやばにてつくるつミをくろがねかあかゞ 00096450L18ねかハしらず、ちやうとやらんに付てをきて、鬼にミせ 00096460L19て、まつ是程のざい人なり、いそぎかしやくせよといふに、 00096470M1いろ+のおにどもかうけ取て、さま+のせめにあハす 00096480M2るよし、しやばにてつくりたるつミほどせむるといふ、さり 00096490M3ながら、どくやくへんじて/薬(くすり)となるといふことあれば、さ 00096500M4のミつミのおほきもあながちなけくべき事にハあらずと見 00096510M5えたり、かくいひしときにハ、 00096520M6△△つくりをく/罪(つミ)のしゆミほと有ならハ 00096530M7△△△ゑんまの/帳(ちやう)につけところなし 00096540M8とある時ハ、おにといふものも、ぐどん成ものなり、しや 00096550¥G 00096560¥P292 00096570L1か(一ウ)(二オ挿画)一代のざうきやうハみな、人間をいた 00096580L2めんがため也、あらつらにくのしやかとのや、いろ+の 00096590L3うそをつきをき給へり。それハととへは、一/字(じ)もいはぬと 00096600L4いひ給へり。またさうかとおもへばしゆつさんの/語(ご)にハ、 00096610L5一ぶつじやうだうくわんけんほうかい、草/木(もく)/国土(こくと)しつかい 00096620L6じやうぶつ、さうもくもほとけになるともいひ、あちこち 00096630L7とひた物に身ぬけばかりいひちらし、人間は永代まよひの 00096640L8身にぢうしてありとおもへば、又うたふもまふものりのこ 00096650L9ゑ、/柳(やなき)ハミどり花ハくれなゐ、あらおもしろの春のけしき 00096660L10や+、 00096670L11△△しやかといふいたづらものか/世(よ)に出て 00096680L12△△△おほくの人をまよハする哉 00096690¥N2¥J 00096700¥X第二△/蛇(じや)をのミたると見て煩事 00096710L15○さる/座敷(さしき)の/天井(てんじやう)に/蛇(じや)をかきてをける。其さしき(二ウ)に 00096720L16て酒をのミけるに、/盃(さかつき)の中へ絵のうつりしをのミて、それ 00096730L17よりわづらひけり。或人来てわづらひのやうを/問(とふ)に、しか 00096740L18+の事ありて、それよりかやうにわづらひ付、かくのと 00096750L19をり也と、申けり。此人申やう、もつともの事かな、其方 00096760M1にかぎらず、たれにてもあれかし、そのさかづきの中に蛇 00096770M2のうかみしを見て、まさしくじやを我ハのミたるかなとお 00096780M3もふならば、何ともきミあしくして、をきふしに是のミ心 00096790M4にかゝりて、わづらひとも成べし、さりながら、さやうの 00096800M5事ハ一休和尚へゆきて、/子細(しさい)を御尋ねあらば、しかるべし 00096810M6と申。さらばとて、和尚へまいり、しか+の事にてかく 00096820M7なやミ申なり、是ハいか成事にて候や、和尚の御しめしに 00096830M8あづかりたくぞんじ、是までまいりて候と、申ければ、一 00096840M9休きゝ給ひて、やがてしめし給ふ。其/語(ご)に云、(三オ) 00096850M10△△まぼろしを知即敵ハはうべんをなさす。/一切(いつさい)のしよ 00096860M11△△はうハ皆是まぼろしなり。/何(いか)なれハ/水中影像(すいちうようぞう)をじつな 00096870M12△△りと思ふや。/愚(ぐ)/也。/早(はや)くなんぢか/自心(じしん)/をあきらめよ。 00096880M13とて/扇(あふき)をもつて、てう※をはたとうち給ふ。まづ右の心 00096890M14ハ、まほろしとしりなば/方便(はうべん)ハあるまじ、いつさいもろ 00096900M15+のなすわさは、何事によらずみなくうなり、ミづのう 00096910M16ちにうつろふかげをミて、/実(まこと)のじやなりと心へやまひとす 00096920M17る、それおろかなる心なり、はやくミづからのこゝろをお 00096930M18さめて見る時ハ、じつのじやかなきかゝあらハるべし、其 00096940M19心おさまる時、すなハちわづらひ本ぶくすべしと、しめし 00096950¥P293 00096960L1給へば、此ものやかて/得道(とくたう)して、誠によく+しあんする 00096970L2に、天井に/絵(ゑ)のあるといふ事をおもひあたりて、それより 00096980L3して心すきと(三ウ)なりて、やかて本ふくしけり。何事も 00096990L4/善悪(せんあく)の/源(ミなもと)を尋る時ハ、心の一つよりしやうずるとミへたり。 00097000L5さてこそ三/界(かい)/唯一心(ゆいいつしん)といへり。 00097010¥N3¥J 00097020¥X第三△一休蛇を食にし給ふ事 00097030L8○/伏見(ふしミ)ふかくさの/里(さと)に/森本(もりもと)善兵衛と申ものゝ下女、/邪見(しやけん)の 00097040L9女にて、/朝夕(てうせき)のめしの残りあれば、むさしきたなしとて、 00097050L10取あつめて、さらばひにんにもくれす、みなほりへすつる。 00097060L11ミな蛇となりてはひありきける。家内のものどもきもをけ 00097070L12し、いか成事やらんとひしめきける。折ふし一休近所にま 00097080L13しますよしを聞/で((ママ))、やかてつかひをもつ/で((ママ))/請(しやう)し奉り、こと 00097090L14の/子細(しさい)をつぶさにかたる。和尚きこしめし、扨&それハせ 00097100L15うし成事かな、是ハ身上のくづるゝずいさうなるべし、そ 00097110L16れはまつたく蛇にてハあるまじ、皆残りめしのせいなる 00097120L17(四オ)べし、其蛇を一つものこさずかまへ入、たきて見給 00097130L18へ、かならずめしに成べし。さらばとてをしへにまかせ、 00097140L19ミなあつめてなべに入、一休/経呪(きやうじゆ)をじゆし、たかせらる 00097150M1ゝに、なるほどきれいなるめし也。此めしをあの女にの 00097160M2こらずくひつくさせよ、すこしも残るならば身代あやうか 00097170M3るべしと仰らるゝ。さらばとて、かの女にくはせけるに、 00097180M4/皆(ミな)くいつくす事ならずして、かくして又すつる。此女或時 00097190M5をのれが在所へかへるに、道にて蛇にさゝれ/死(しに)けり。日を 00097200M6/経(へ)ずしていくほどなくして、天ばつあたりうせしハ、おそ 00097210M7ろしき事也。さるほどに一つぶにてもくいのこしありとも 00097220M8おろそかにすべからさる事也と、和尚、旦那かたへはなさ 00097230M9るゝを、則かきとめをきて今こゝに知する也。 00097240¥N4¥J 00097250¥X第四△一休へ/妄霊(まうれい)来て問答する事(四ウ) 00097260M12○一休/江州(かうしう)にまします時、或寺の/卒都婆(そとハ)ばけて、八尺ばか 00097270M13りの入道よな+、そとばのかげに立そふて/居(ゐ)ける。/下部(しもへ) 00097280M14のものども是をおそろしかり、用事をとゝのふる事もなら 00097290M15ず。ましてあたりへハ猶参らず。いか成子細ぞとしる人も 00097300M16なし。或人和尚にかくとかたる。一休其そとばを見給ひけ 00097310M17るに、文字のちかひあり。扨ハとてやがてあらためかきた 00097320M18てられける。ある時くたんの/妄霊(まうれい)/夜半(やはん)のころあらハれ、一 00097330M19休のまへにひさまつきて、なミだをはら+とこほしてい 00097340¥P294 00097350L1はく、我ちごくの中に入てさま+のくをうくる事たへが 00097360L2たし、あハれ御そうすミやかにすくひ給へと、たゞしほ+ 00097370L3とくどき申ける。和尚のいはく、/汝(なんぢ)/円(えん)つうより出て、/円通(えんつう) 00097380L4にいたる、何れの所にかごくぢうあるやと仰らるれは、/入= 00097390L5道(にう=たう)こたへていはく、いや(五オ)ごくちうをあんずる事なか 00097400L6れ、たゝ此/躰(たい)を見よ。和尚のいはく、其躰まつたく/仏性= 00097410L7同躰(ふつしやう=とうたい)にへだてなしとの給へば、又入道申やう、しからば/名(な) 00097420L8を付てたべと云。一休のいはく、/本空道(ほんくうたう)/入禅定(にうせんちやう)と申さるゝ 00097430L9時、此まうれい、きへ+としてうせにけり。そのゝちハ 00097440L10二たび出ざりけり。一休にとふらハれんがために来れりと 00097450L11/皆(ミな)人申あへり。あハれなりし事也。 00097460¥N5¥J 00097470¥X第五△ばけ物の事 00097480L14○一休さんしう/三木(みき)の/郡(こほり)より、二/里(り)ばかりをくの山里をし 00097490L15ゆぎやうし給ふ。在所のめん+申けるハ、しゆきやうじ 00097500L16やハいづくより出給ふ人ぞ、此/辺(へん)ハ御らん候ことく/草(くさ)ふか 00097510L17き山中なれば、もとより仏をくやうする事なければ、まし 00097520L18てそうなとに一/鉢(はち)のじひをほどこすといふ事もかつてしら 00097530L19ず、誠に/今生(こんしやう)の/罪人(さいにん)と云は(五ウ)(六オ挿画)我+が事な 00097540¥G 00097550M12らん、あハれ是にしバらくとうりうましませかし、いちげ 00097560M13一/句(く)のどをりをもうけたまハり、いき仏にこそならずとも、 00097570M14せめてハしにぼとけともならめなとといひて、四五日も爰 00097580M15にとゞめをきけり。一休申さるゝハ、是より北にあたつて、 00097590M16松ばやしの見え候、いか成所にて候や。在所のもの承り、さ 00097600M17ればこそ、こなたより申たきに、よくも御尋ねある物かな、 00097610M18あのまつばやしに付はなしの候、あのはやしの内にふるて 00097620M19らの候、むかしよりばけ物有て、終にさだまれる/住持(ぢうぢ)なし、 00097630¥P295 00097640L1其ばけ物といつば、何ともしれさるかたちなるもの、三人 00097650L2出てよな+おどりけり、さるにより、いか成ばうずをす 00097660L3ゆるといへども、三日とかんにんならずして/皆(ミな)/立(たち)のきけり、 00097670L4およそ五六十人にもすぎ候、さるにても、此てら/古来(こらい)より 00097680L5の/名寺(めいし)にて、則本尊ハかたじけなくも/春日(かすか)(六ウ)の一/刀(たう)三 00097690L6/礼(らい)の仏也、寺のぢうもつ何にてもくらからず、あハれ御そ 00097700L7うなどのかんにんもあらば、とゞまり給へかし、さりなか 00097710L8ら、れいのばけものよる+出ておとらば、いかに心づよ 00097720L9くともなどかかんにんなるべき、さて+けつこうの寺の 00097730L10くちすたるこそをしく候へと、こま+とかたりける。 00097740L11和尚きゝ給ひ、それこそ一/段(たん)/望(のそミ)のてらにて候、それがしも 00097750L12しゆぎやうし、さやうの寺もあるならば、のぞまんとつね 00097760L13+おもふ所也、/幸(さいわい)の事なり、いづれもたのミ申なり、は 00097770L14や+きもいられ給り候へと、申さるゝ。さらばとて、や 00097780L15かて同道いたさんとて、彼寺にともなひける。すてに其日 00097790L16もくれ、夜半にもなれは、あんのごとく、れいのはけ物ど 00097800L17も三人いでゝおとりけり。一ばんにいでしものかうたに、 00097810L18△△/東野(とうや)のはつハいとしひ事や。いつをらくとも(七オ)お 00097820L19△△もひもせいて、せぼねハそんじあしうちおりて、/終(つい)に 00097830M1△△ハのべのつちとなる+。 00097840M2又二/番目(ハんめ)のうたに、 00097850M3△△/西竹林(さいちくりん)のれい三ぞくハ、あるかひなきかたわに生れ、 00097860M4△△人のなさけを得かうむらで、/竹(たけ)のはやしにひとりゐる 00097870M5△△+。 00097880M6又三番目のうたに、 00097890M7△△/南地(なんち)のりぎよハつめたい身やな、水を家ともじきとも 00097900M8△△すれば、いつもぬれ+ひや+と+。 00097910M9かやうにうたいひた物おどりける。一休一&かてんし給ひ、 00097920M10何さまきやつばらハたいぢやすかるべしとおもひて、扨よ 00097930M11あけぬれば、所のものを近づけ、一&あかし給ふ。まづ一 00097940M12はんに、とうやのばづといひしハ、是よりひかしの/野(の)に、 00097950M13馬のしらかうべあるへし、是を尋ねて見給へ、また二(七 00097960M14ウ)番にさいちくりんのけい三ぞくと申ハ、是より西に竹 00097970M15のはやしあるべし、此内に三そくのにハとりあるべし、又 00097980M16三ばんになんちのりぎよとハ、南にあたつて/古(ふる)いけあり、 00097990M17是にすむこいなり、一&尋ねて見給へ。かしこまつて何れ 00098000M18も是をたつぬるに、/一(ひとつ)ものこらずとりけり、其後ハ此寺何 00098010M19の/子細(しさい)もなくぶじになりける。しかるべきばうずをたのミ 00098020¥P296 00098030L1をき、一休ハなを+/奥(をく)へと心ざし給ふ。和尚を今にいた 00098040L2るまで、/権者(ごんじや)といはんものそなき。 00098050¥N6¥J 00098060¥X第六△あめやせんなミの事 00098070L5○さる/田舎(いなか)人はじめて/京都(きやうと)一見のためにのぼりけるに、或 00098080L6人のいひけるハ、其方京へ御のぼりあらば、文を一/通(つう)こと 00098090L7つて申べし、所ハ我等もしかとそんしよらず、さためて/都(ミやこ) 00098100L8ハとをり+明らかにしれ、かうち(八オ)+ハ猶しれや 00098110L9すきよし承る、何方にて尋ね候とも心やすくしるゝと申候、 00098120L10此文を参らする口上にても申きかする、たしかにおぼえら 00098130L11れとづけたひ候へ、則/名(な)ハさにし/秋北(あききた)/春南(はるミなミ)五百のなミの立 00098140L12かへりと尋ね給ハれ、もし口上わするゝ事もあらば、此文 00098150L13を見せてたつね給へとてわたしけり。此おとこもんまうな 00098160L14れは、いふよりはやくわすれ、扨都へのぼり、文を取出し 00098170L15人に見せけるに、よむものあれどもことハりのとをりをし 00098180L16るものなかりけり。此男申やう、扨&きのどく成文をこと 00098190L17つかりし物かな、是をとゝけずしてかへりたらバ、ことつ 00098200L18かりたるかひもなし、ふがひなしといはれんもはづかしか 00098210L19るべし、尋ねんとすれハらちあきかたし、とやせんかくと 00098220M1あんじわつらひしが、ある人の申やう、此文を千日千夜た 00098230M2づねらるゝともがつてんするものハありかたかるべし、し 00098240M3よ(八ウ)せん此文をもち、是より北西にあたつてむらさき 00098250M4野といふところに、一休和尚とて/名智者(めいちしや)のまします、此/僧(そう) 00098260M5に/尋(たつね)給ハゞ、はつめいにまします程に、さためてをしへ給 00098270M6ハ、むはやとく+参られよ、まつ都ひろくハ候へとも、 00098280M7是を/合点(かてん)しさたし申ものハかつておほへずとかたる時、此 00098290M8おとこ、さらば其むらさき野とやらんをおしへ給ハれとい 00098300M9ふに、くハしくをしへける。やがて尋ねゆく。一休いでさ 00098310M10せ給ひ、何事やらんと仰らるゝ。此男文取いだし奉り、し 00098320M11か+の事にて、此比十日ばかり京都を尋ね候に、それぞ 00098330M12と申人なく候、御そうハちしやにてましませハ、御じひを 00098340M13たれをしへ給ハれとて、うちなげきてそ申ける。和尚ふミ 00098350M14を御らんじ、是ハがてんゆきやすき事也、所ハからすまる 00098360M15どをり、そんじやうそこにて雨やせんなミと尋ね給へとて、 00098370M16くハしくをしへ給ふ。其時此人(九オ)さて+かたじけな 00098380M17く候、とてもの御事に此ぎりを承りたく候。さればまづさ 00098390M18にしあき北はる南といふ時ハ、ミなあめ也、五百のなミの 00098400M19立がへりといふ時ハ、五百二つあハするに千なり、さてな 00098410¥P297 00098420L1ミとかく時ハ、雨やの千なミとならでハよミくだらずとて 00098430L2をしへられける。 00098440¥N7¥J 00098450¥X第七△一休/制札(せいさつ)をうばひ給ふ事 00098460L5○和尚/在世(さいせ)の比、下京まつハらどをり中ほどにせいさつあ 00098470L6り。其ふだのこしらへやうハ、/板(いた)を丸竹にはさミ、其たけ 00098480L7のように/銭(せに)を一はい入、札のかきやうハ、 00098490L8△△一△/餅(もち)/食(くい)たかるものゝ事 00098500L9△△一△さけすひたがるものゝ事 00098510L10△△一△/茶(ちや)のミたかるものゝ事 00098520L11△△△△右の通くひたくば/買(かふて)て/食(くふ)へし。/只(たゝ)/世(よ)の中ハ皆銭也。 00098530L12△△△△以上△年号月日(九ウ)(十オ挿画) 00098540L13かやうにかきつけ立てあり。一休折ふしとをり見給ひ、是 00098550L14ハさて+めづらしきせいさつかな、いかさま是ハ/子細(しさい) 00098560L15あるべしと、立よりうかゝひ見給ふに、世のつねのせいさ 00098570L16つとハかはり、はしらを竹にこしらへしハ、心ありげに見 00098580L17へたりとて、とものものに、なんぢハ此ふだを取てかへる 00098590L18べし、我すこしおもふ/子細(しさい)あり、はやとく+と仰らるゝ。 00098600L19男申やうハ、是ハおしやうさまともおほえさるおほせられ 00098610¥G 00098620M12事がな、かりそめにも是ハ、さだめてこうぎよりのせいさ 00098630M13つならん、然るをむげにばひ取て来らば、後のわざハひい 00098640M14かゞあらん、我らにをゐてハ御めんあれと申ける。和尚き 00098650M15ゝ給ひ、もつともなんぢかいふもことハりなれども、さり 00098660M16ながら子細をしらねばだうり也、まづ此ふだをはさミたる 00098670M17竹の内にぜにあり、此ふだをうばひとるべきとのかきつけ 00098680M18なり、はや+と(十ウ)りてかへるべし、もしたゝりあら 00098690M19はなんぢか身にハとがハかゝるまじ、此一休にまかせをく 00098700¥P298 00098710L1べし、/旦(かつ)ハ我あたまをまんまるめし身なれば、/半銭(はんせん)も身に 00098720L2ハ/付(つけ)じ、皆なんぢがあな一ぜんにとらせん、はやとれとれ 00098730L3とぞすゝめ給へば、きやつもほしくやおもひけん、さもあ 00098740L4らばとるべきとて、はしりよつてをしたをし、まづかなめ 00098750L5を引て見て、あつハれおしやうさまハじんづう/方便(はうへん)にてま 00098760L6しますと、よろこびいさミうちかたけ、それ世の中にぬれ 00098770L7てゞあハをつかむとハ、かやうの事をいふらんとて、ちど 00098780L8りあしにてむらさき野へとぞかへりける。其後/公義(こうき)に、此 00098790L9ふだを一休うばひ取給ふよしほのかに聞しめし、一休へつ 00098800L10かひ立。和尚かしこまつて、やがて/目代(もくたい)へ上り給ふ。奉行 00098810L11のいはく、いかに御ばう何とて/往還(わうく□ん)に立しふだをうはゝれ 00098820L12けるぞ。一休、さればせいさつのお(十一オ)もてを見候に、 00098830L13もち/酒茶(さけちや)ほしくハ/買手(かふて)/食(くふ)へし、よの中に銭かあるほどにと 00098840L14かゝれ候、扨も御/公義(こうき)ハ御じひにましますかなと、ありが 00098850L15たくぞんじ取てかへりて候、ことにひんそうの身なれハか 00098860L16たじけなしと、ありのまゝに申さるゝ。奉行聞しめし、/根= 00098870L17本(こん=ぽん)是ハくばうより御しひのために、国&にたてられ、此書 00098880L18付のおもてをよくがてんいたしたるものハ、此ふだをうば 00098890L19ふべしとのしたく也、よし+かへり給へ。かしこまつて 00098900M1一休ハ、むらさき野へぞかへり給ふ。奉行のいはく、扨も 00098910M2+あの/房主(はうす)ならでハ、かやうのふだを引べきものハおぼ 00098920M3えず、たとへ心をしりてうばひたくおもふとも、とやかく 00098930M4やとしあんし、あるひハ世間をはゞかり、そくじにうばふ 00098940M5べきものハまれなるべきに、何のはゞかりもなくうばひし 00098950M6ハ、きたいめいよの房主かな、末世にいたるとも、かやう 00098960M7のばうずハ又(十一ウ)ふたりともあらじと、いよ+かん 00098970M8じ給ひけり。 00098980¥N8¥J 00098990¥X第八△一休女妄霊に/呪(しゆ)文を書付てさつけ給ふ 00099000M11○丹波のそのべより三四町南のざい所に、かめと云し女あ 00099010M12り。はゝ一人にそひゐける。三四けんとなりの喜八と申も 00099020M13のゝ方へ、えん付のやくそくかね+ありしに、或ものな 00099030M14にかといひさかして、ない+のけいやくへんがへさせて、 00099040M15りんがうよりよしあるものゝむすめをよび入けり。此女是 00099050M16をむねんにおもひ、/死(しに)けり。かのへんがへしける夫のかた 00099060M17へよごとに来りてうらミをいひてハ、喜八がくびをしむれ 00099070M18ば、いきたへなんとする事たひ+也。是のミおそろしさ 00099080M19かぎりなくて、かのよびし女もおどろきかんにんならずし 00099090¥P299 00099100L1て、/親(おや)のかたにゐける。喜八此事をなんぎにおもひ、ある 00099110L2ひハミこかんなき山ぶしをよひて、さま+の事をしける 00099120L3にやます。其比一休(十二オ)そのべにましますよしを喜八 00099130L4きゝ及び、やかて尋ね行、しか+とかたる。和尚きゝ給 00099140L5ひて、/破地獄(はちこく)のじゆを書て、是をなんぢが/首(くひ)にかけてねる 00099150L6べし、又ハ家内の口+にをしてをくべしとて給ハりけり。 00099160L7ありがたく思ひ取てかへり、をしへのごとくにまもりにか 00099170L8け、家の内にをしはりければ、二たび来らざると也。扨ハ 00099180L9和尚ハめいそうなりと、聞人ごとにかんじける。 00099190¥N9¥J 00099200¥X第九△一休かいづ山中にて舞をまひ給ふ事 00099210L12○一休北国より京都へのぼり給ふ。ゑちぜんつるがの/宿(しゆく)を 00099220L13うちすぎ、かいづの山中に一/宿(しゆく)し給ふが、何ものかいひけ 00099230L14ん、今夜此しゆくたれが方にとまりしハ、都に聞へし大が 00099240L15しらの/舞(まひ)まひなり、今程ハ入道して世間をすて、諸国をし 00099250L16ゆぎやうし給ふと承る、いさ+かた+皆まいりて一ふ 00099260L17し所望せん。みなもつともとて(十二ウ)/宿(しゆく)のものども、我 00099270L18も+とうちつれ、二三十人かの/宿(やと)につめかけて、いかに 00099280L19御房、うけたまハれば都の大がしらどのと見申、遠国遠里 00099290M1までも其名かくれなし、さいわい是に一しゆくし給ふ、の 00099300M2ちのかたりくにもせん、一ふしまひてきかさせ給へと、せめ 00099310M3かけて申時、一休此よしをきゝ給ひ、是ハおもひもよらぬ 00099320M4仰かな、それがしハたびのしゆぎやうじやなれば、経だら 00099330M5になどハすこしぞんじたるが、其舞といふ物ハいさしらぬ 00099340M6とぞ申さるれば、在所の者とも、いや+何とちんじ給ふ 00099350M7共、只一ふしの所望候、ぜひ+御まひなきならば、今夜 00099360M8のやどハかなふまじ、いかに+とせめかけ+て所望す。 00099370M9一休さても是ハめいわく成処へまいりかゝりたるものかな、 00099380M10さりとてハゆるし給へ、それがしハ、まひと申事ハそんじ 00099390M11もよらず、さだめて人たがひにてや候らんと、(十三オ)さ 00099400M12ま+わひ給へとも、皆山家のいもほりなれハ、うむをき 00099410M13ゝ入ず是非とも+と、しきりに所望しける。しバらくし 00099420M14あんまし+て、扨ハかた+ハ一ふしまハざれハ、御か 00099430M15へりなきか。中+と申。それがしハまひ+にてハなけ 00099440M16れども、をの+のぜひとお申あるほどに、わかき時に高 00099450M17たちといふまひをすこしおぼえ候か、是もきゝてぼうもん 00099460M18なれとも、一ふしまひ見申さん、まつすゝきの三郎がきし 00099470M19うふぢしろより、あふしうの/衣川(ころもかハ)まで付きし所をすこしま 00099480¥P300 00099490L1ふべし。在所のもの共一たんと申たるばかりにて、高だち 00099500L2と云事もしかとしらずして、只ひらに所望+といひける。 00099510L3一休/扇(あふき)をてうとうちて、さる程にすゞきの三郎しけ家ハ、 00099520L4たびのしやうぞくめされつゝ、ふじしろを立出て、下らせ 00099530L5給ひけるほどに+++にと、ひたと是をよひより/夜= 00099540L6中過(よ=なかすき)までもいはれける。(十三ウ)(十四オ挿画)二三十人もあ 00099550L7りつるものども、大かたたいくつして、是ハそもよひより 00099560L8おなじ事ばかりをいひ給ふハ、いかに。一休、さればすゞ 00099570¥G 00099580M1きの三郎ハ、きしうふぢしろよりあふしう/衣川(ころもかハ)まで、七十 00099590M2五日につきける、はる+とくだりし事なるにより、はか 00099600M3いきにハまハぬ所にて候、此所ばかりを七十五日いはざれ 00099610M4ばならぬほとに、ゆる+とおきゝやれ、/今夜(こんや)にハかぎる 00099620M5まじと申さるゝ。在所のものども、いや+こよひ少の間 00099630M6さへたいくつするに、まして七十五日何としてきく事か成 00099640M7べきぞ、まづ我&ハ成まし、いさ+かへらんとて、皆家 00099650M8&へそかへりける。是も一休のさいちゆへなり。此事のう 00099660M9るさかりし事を旦那がたへのはなし也。 00099670¥N10¥J 00099680¥X第十△馬の物いふ事 00099690M12○京あねが/小路(こうち)中程に、助十郎と云もの、馬をつかひて/世(よ) 00099700M13(十四ウ)をわたる。或時/旅(たひ)人やどをかりて、朝とく出ると 00099710M14て、きる物をぬすミ取て、まへにかゝへて馬やのまへをと 00099720M15をり出んとする時、なんぢ其きる物を何とて取ていづるぞ 00099730M16といふ。此ものふしぎにおもひ、たゝ今人のおきる時分に 00099740M17てもなきが、何ものか物いひつらんと、あたりを見けれど 00099750M18も人もなければ、きかぬがほにして出るに、またかさねて 00099760M19さきのごとくにいふを、よくきけば馬の物いふ也。さて 00099770¥P301 00099780L1+ふしぎの事かなとおもひ、馬にむかひて、なんぢハ、 00099790L2むまの身としてたゞ今何とやらんいひつるハ、いか成ゆへ 00099800L3とぞとひければ、此馬のいふやうハ、我ハ此/亭主(ていしゆ)のおとゝ 00099810L4なり、/前生(ぜんじやう)にて/兄(あに)のをむをあつくかうむりしかども、終に 00099820L5ほうずる事もなくしてむなしく成、此をんをほうぜんため 00099830L6に馬になりて来るなり、もはや大かたおひめすまして、今 00099840L7(十五オ)米五升也、是をすませハもはやをひめなしと云時、 00099850L8此人あきれて、其日ハそこにとゞまりて、/亭主(ていしゆ)にしか+ 00099860L9とかたる。/亭主(ていしゆ)大きにおどろき、扨&ふしぎの事かな、 00099870L10いかゞあらんと/思案(しあん)しけるが、げに誠おもひ出して有、一 00099880L11休和尚へまいりてたのまハやとおもひ、やがて和尚へまい 00099890L12りて、みきのやうだいをくハしくかたるに、一休きこしめ 00099900L13し、それハふびんの事也、よく/追善(ついせん)をし給へとて、/畜生= 00099910L14諷経(ちくしやう=ふぎん)をつとめてとふらひ給ふ。一七日の夢に、助十郎につ 00099920L15げていはく、さて+ありかたや、かりそめに、はからざ 00099930L16る御とふらひかな、ことに仏和尚の御ゐんだうにあづかり、 00099940L17ちくしやうの/苦(く)をはなれ、かならすつぎのしやうにハ/人界(にんかい) 00099950L18へ生るべし、今すこしのをひめはらしなば、/死(しす)へし、あら 00099960L19有かたし+といふかとおもへば、夢さめぬ。此馬終に五 00099970M1十日目にしにけり。(十五ウ)ふしぎなりし事なり。 00099980¥N11¥J 00099990¥X第十一△一休/天台(てんたい)房主と問答の事 00100000M4○爰にてんだい房主に/秀清(しうせい)とて、なまこびにわるこびたる 00100010M5ばうずあり。おほくの人によこしまなる道をすゝめ、およ 00100020M6そ仏法ハ我心にあり、身の外に仏なしなどゝいふて、ある 00100030M7ひハ宮しやとうの木をきらせ、ぶつざうを/破却(はきやく)させ、/先祖(せんそ) 00100040M8をもとふらはず、/邪見(じやけん)はういちのばうずあり。ない+か 00100050M9れが申ハ、承ハれハむらさきのゝ一休和尚と申小法師か、 00100060M10何ほどぶつほうだてをして、/悟道(こたう)はつめいのそうなとゝ世 00100070M11間にさたする事、是もつておかしさ、たとへばゐのうちの 00100080M12かいるか大/海(かい)をしらざるににたるべし、あハれ此房主にあ 00100090M13ひなば、おそらく只一/句(く)をもつてぼひこミ、都のすまひさ 00100100M14せまじ、あハれ/途中(とちう)にて成ともあひたき(十六オ)物かなと、 00100110M15より+是をうかゝひける。ある日/夕暮(ゆふくれ)に一休かへり給ふ 00100120M16に、其比和尚/眼病(がんびやう)けにて、一/眼(かん)ハあしゝ。折ふし彼ばうず 00100130M17に、大宮一条のつぢにてはたとゆきあひ給ふ。秀清されば 00100140M18こそねがふ所のさいわいなりとおもひて、する+とはし 00100150M19りより、いかに御ばう+といひかくる。一休此方の事か 00100160¥P302 00100170¥G 00100180L12と仰らるゝ。其時/秀清(しうせい)いはく、/汝(なんち)一がんをてらし/歩行(ふきやう)す、 00100190L13もしあやまちあるときんば/黒闇(こくあん)也、あやうき事まつたくた 00100200L14のミがたし。一休やがて、汝が両がんより我が一がん、ほ 00100210L15しまん+たりといへども一/月(げつ)にかへがたし、/見物(けんもつ)すると 00100220L16きんばあきらか成かゝミのごとし、かやうにこたへ給へば、 00100230L17此ばうずかさねて一/言(こん)に及ばず、しりからけして、あしば 00100240L18やにゆきがたしらずとびうせぬ。 00100250¥N12¥J 00100260¥X第十二△或人一休に死ての事をとふ事@(十六ウ)△△|(十七オ挿画)@ 00100270M3○ある人一休に問ていはく、何と和尚、つく+世のなり 00100280M4ゆくありさまをミ、人間のきやうがいをあんずるに、ミな 00100290M5我+か/知音(ちゐん)といへばいくたりといふ/数(かす)もしれず、大かた 00100300M6さきだちゆきけるか、ついにたれあつてことつてありとい 00100310M7ふ事もきかず、いかやうの所に何とやうにしてゐるといふ 00100320M8事もなし、これのミこゝろもとなき事とも也、やう+あ 00100330M9ちこちとするまにハ、ひつじのあゆミちかづき車の/庭(にハ)にめ 00100340M10ぐるがごとし、我&かばんにあたり侍らん、なげかしき事 00100350M11とも也、かやうにある時ハしにてハまつなにゝなり侍るぞ。 00100360M12一休かく、 00100370M13△△死てのちいか成ものと成ぬらん 00100380M14△△△めしさけだんご/茶(ちや)とぞ成けり 00100390M15と仰られければ、此人また和尚のわる口のれいをいだし給 00100400M16ふと、どつとわらひけるか、又そば成人の(十七ウ)いひけ 00100410M17るハ、さりとて御房此うたの心おもしろく候か、またゆく 00100420M18もありゆかざるも候よし、是ハまたいか成事やらん、/次而(ついで) 00100430M19ながら仰きかされ候へ。一休また、 00100440¥P303 00100450L1△△とゝまるとおもハゝそこにとゝまれよ 00100460L2△△△ゆくとおもハゝとく+と行 00100470L3とかやうにいひすてゝかへり給ふ。 00100480¥N13¥J 00100490¥X第十三△/三好(ミよし)庄斎一休法問の事 00100500L6○此/庄斎(しやうさい)と申ハ、/生国(しやうこく)ハ/豊後(ぶんご)何かしのはて成しか、/身代(しんたい)を 00100510L7一子にわたし、其身ハさがへ引こもり、一ぼくにてくらし 00100520L8ける。何とぞして、此たび生死をのがれたしとの望也。あ 00100530L9る時一休の/庵(あん)へ尋ね来りて、むかし今のものかたりし、其 00100540L10後/庄斎(しやうさい)/問云(とふていはく)、/緒罪(しよさい)をつくらずんば何のとがゝあるべき、 00100550L11/成仏(じやうぶつ)せずといふともまつたく三/悪道(あくたう)にだせずんば、さとり 00100560L12を/求(もとめ)/何(なに)かせん(十八オ)ととひ給ふ。一休答云、/夫(それ)/人界(にんかい)へ/生(しやうす) 00100570L13るときんば、/自(をのつから)三/毒(とく)/具足(ぐそく)せり、かれをさとらずんば、/不= 00100580L14成仏(ふ=じやうぶつ)にしてぢごくに入事/矢(や)のごとし。又庄斎、其三/毒(とく)い 00100590L15かんしてかさとるべきや。一休の云、なんぢが/自性(ししやう)を見る 00100600L16べし、まづ右一&の心ハ、もろ+のつミをだにつくらず 00100610L17ハ、なんのとがゝあるべき、たとひじやうぶつせずといふ 00100620L18とも、三あくだうにおちまじ、然らハさとりをもとめても 00100630L19いらざる物かととハれける。一休のいはく、それ人がいへ 00100640M1しやうをうけしものハ、一人として三とくぼんのうといふ 00100650M2物を身にうけてむまれざるものなし、たぶん人ごとに我ハ 00100660M3あしき心をもたずおもハず、人のきらひし事をせさる程に、 00100670M4つミなしといふ人世間におほし、それかくのごとくのこと 00100680M5ハりをしらざるゆへなり、人間のおやのたいないより出る 00100690M6とひとしく、三毒(十八ウ)ぼんなうを身につけ出る事也、 00100700M7此三どくのくせものをよく+さとらずんば成仏する事ふ 00100710M8ぢやうなり、終にさとらずして命おハらば、だごくせん事 00100720M9/矢(や)をはなつよりもはやかるべしといふきなり。其三どくを 00100730M10ハいかやうにしてさとるべきぞやととひ給へば、一休、そ 00100740M11れハめん+のじしやうをさとり見出すときハ、三どくお 00100750M12のづからめつして、心のほとけあらハるゝ時、そのまゝ仏 00100760M13也、時に/衆生(しゆじやう)と/仏(ほとけ)/同躰(どうたい)一ぶつ也と、しめし給ふ。 00100770M14△△/一切(いつさい)の/衆生(しゆじやう)と仏へだてなし 00100780M15△△△へたつるものハまよひ一ねん 00100790M16とついでながら、かく口ずさミ給ふ時、/庄斎(せうさい)いよ+かん 00100800M17じ給ひけり。 00100810¥P304 00100820¥N14¥J 00100830¥X第十四△/宅斎(たぐさい)か事 00100840L3○一休/在世(さいせ)の/比(ころ)、京に/宅斎(たくさい)と申いしやあり。我と(十九オ) 00100850L4我身をかうまんし、おそらくハ我程のめいい又二たり共有 00100860L5まじなどゝおもひけれども、人ゆるさねばせんかたなく、 00100870L6されども人にしられんためなれば、/粟田口(あハたくち)ハ/往(わう)来出入の道 00100880L7/筋(すぢ)なれハ、こゝにふだをたてべし、是をりよじんにミせな 00100890L8ば、/故郷(こきやう)にかへり、後是にはなさんにハ、扨ハ都にさるも 00100900L9のありとしるべしとおもひて、ふだのをもてにうたを一し 00100910L10ゆかけり。 00100920L11△△へんじやくやきはにもまさる宅斎を 00100930L12△△△しらぬ人こそあハれなりけれ 00100940L13かやうにかきたてをきけり。一休とをり見給ひて、やかて 00100950L14そへがきをぞし給ふ。 00100960L15△△へんしやくやきはにもまさる宅斎を 00100970L16△△△しやかにあハせぬのこりおほさよ 00100980¥Y1一休諸国物語巻四終(十九ウ) 00100990¥Y1一休諸国物語巻五△目録 00101000M1第一△一休かのゝ/絵(ゑ)に/讚(さん)をし給ふ事 00101010M2第二△或人/我家(わかいゑ)に/法度書(はつとがき)しける事并一休そへがきし給 00101020M3△△△ふ事 00101030M4第三△一休/遁世者(とんせいじや)と/法問(ほうもん)の事 00101040M5第四△同女のなんぎをすくひ給ふ事 00101050M6第五△同と/博士(はかせ)/狂句(きやうく)の事 00101060M7第六△人ハ人たりといふ事 00101070M8第七△或人一休に/目薬(めくすり)をもらひとく立の事 00101080M9第八△一休おどりの事(一オ) 00101090M10第九△/中(ちう)にぶらりといふ事 00101100M11第十△或人一休に/天道(てんたう)のいはれを問事 00101110M12第十一△だいり女房の事并一休/教化(けうけ)の事 00101120M13第十二△一休/清水詣(きよミつまうで)の事 00101130M14第十三△同/風呂(ふろ)いりの事(一ウ) 00101140¥P305 00101150¥N1¥J 00101160¥X第一△一休かのゝ/絵(ゑ)に/讚(さん)をし給ふ事 00101170L3○或人かのゝ/土佐(とさ)に絵を書てもらひけるが、さんなくてハ 00101180L4いかゝなりとおもひ、さる人にはなしけれハ、それハ一休 00101190L5を頼給へ。さらばとて一休へ参り、わたくしさる絵屋にか 00101200L6やうの絵をかきてもらひ候、近比申かね候へども、是にさ 00101210L7んをあそばされ下され候ハゝかたしけなかるべし、さりな 00101220L8がら是ハ何と申人やらん、目うちハミなかほなり、ひげう 00101230¥G 00101240M1ちハみな目にておそろしく候。一休さらばとて、まづゑを 00101250M2見給ひて、是ハ我らか/宗門(しうもん)のそしどのなり、ぐそうなどが 00101260M3さんハいかゝしく候、さりながら御/望(のそミ)ならバかいてもまい 00101270M4らせんとて、何の/思案(しあん)/工夫(くふう)もなく、 00101280M5△△/寝(ね)すおきず物思ハず 00101290M6△△/知(しら)す/問(とへ)ハむ/不問(とハされハ)猶む(二オ) 00101300M7△△問はいはずとハねばいはぬたるま殿 00101310M8△△△心のうちに何かあるへき 00101320M9とかやうにかきて給ハる。此人かたじけなしと頭戴してこ 00101330M10そかへりけれ。此/絵讃(ゑさん)今にありて、家のちやうほうになり 00101340M11侍るとかや。 00101350¥N2¥J 00101360¥X第二△或人我家に法度書しける事并一休そへかきし給ふ事 00101370M15○さる所に何ともならざる/邪気(じやき)なる男ありけり。あまつさ 00101380M16へ身代よろしくして、よろづふそくなし。殊に下人おほく 00101390M17もてり。あまり我まゝをいはんとて、をもての入口に法度 00101400M18かきをしけり。其ふだの/面(おもて)に、 00101410M19△△一△へつらひ有て奉公ハしがちの事 00101420¥P306 00101430L1△△一△つかひたをしの事くひたをしの事 00101440L2△△一△をんハとりかちもらひかちの事(二ウ)(三オ挿画) 00101450L3とかやうにかきて立をきけり。ある時一休を申入、よろづ 00101460L4はなしおハりて、一休申さるゝハ、何とこれのおもてにハ、 00101470L5めづらしき/札(ふだ)をかき立給ふ、あれハ下&へのはつとかきに 00101480L6て侍るか。/亭主(ていしゆ)、なか&とこたふ。一休おかしくおもひ 00101490L7給ひて、やかてかへりさまに、かくかきそへらるゝ。 00101500L8△△へつらひてたのしきよりもへつらハて 00101510L9△△△まつしき身こそ心やすけれ 00101520L10かくいひて、ひそかにおしはりてかへられけり。 00101530¥N3¥J 00101540¥X第三△一休発心者法問の事 00101550L13○/洛陽(らくやう)にある/遁世(とんせい)じやありけり。さる時一休の/草庵(さうあん)へたづ 00101560L14ねゆき、はじめてげんざんに入奉らんよし申ける。折ふし 00101570L15おしやう/病気(びやうき)にて、此間ハたれにも御目にかゝる事まかり 00101580L16ならず候、御用の事あらばかさねて御出有べきよし申出さ 00101590L17るゝに、此ばうずかさねて(三ウ)申やう、御病中のよし御 00101600L18尤なり、しかしながら、立ながら御げんざんに入たきよし 00101610L19たつて申けり。一休かるき御そうにて、あふまじきといふ 00101620M1ならば、扨をくしたりとおもハれんもいかゝ也とおもひて、 00101630M2やかて立出たいめんし給ふ。此ばうず申けるハ、それがし 00101640M3ハらくやうにまかり有ばうすにて候、天/台(たい)の法門をもかた 00101650M4のごとくうけたまハりて候、しかれども御ばうへすこしふ 00101660M5しんを尋ね申たくぞんしまいり候。一休、いか成ふしんば 00101670M6し候や、われらハ/愚(く)僧の身にて候へば、いろはのかうしや 00101680M7くもしかとおほえざる、ぬへらばうにて、/返答(へんたう)申さんこと 00101690M8ハおもひもよらざる事也と、のたまふ。其時此そうのいは 00101700M9く、いか成をか是/草木成仏(さうもくじやうぶつ)。一休答云、/草木(さうもく)成仏より/汝(なんじ)か 00101710M10成仏をしるや。又とんせいじや、其成仏ハいかなる所にか 00101720M11ある。一休、なんちか心にとへとこたへ(四オ)給ふ時、 00101730M12やかて此ばうず/閉口(へいこう)してかへりけり。/自心(じしん)の成仏をもしら 00101740M13ずして、なんぞや外を尋る事おろか也、たとへば/盲目(もうもく)か/黒= 00101750M14白(こく=ひやく)をあらそひ、えんかうが月をのぞむにさもにたり、それ 00101760M15道人といつば生死の一大事を心にかけて、むしろりんゑを 00101770M16たゝんとするをこそ道人とハいふべきに、をのれが心をさ 00101780M17へさとらずして、外をもとめんといふおかしさとて、わら 00101790M18ハれける。 00101800¥P307 00101810¥N4¥J 00101820¥X第四△或女一休になんぎをすくハるゝ事 00101830L3○/雲州(うんしう)大/原(はら)と申所に、ゆるりや藤大夫と申もの有。ひさし 00101840L4く京都にすミけるが、元来/出雲(いつも)ハ/生国(しやうこく)なれは、また本国に 00101850L5かへりてすミけるか、京より国へ下りさまに、/妻(つま)をかたら 00101860L6ひて下る。此女京にて右ねんころしける男のかたより、た 00101870L7び+たよりをうかゝひ、たがひにふミのかよひありけり。 00101880L8此よしさるものひそかにし(四ウ)らする。男ある時あまた 00101890L9文どものありけるを取かくし、我ハむひつなればちからな 00101900L10くして、たれにか是をミせばやとおもふに、たのむべきも 00101910L11のもなくして、其日ハうちすぎけり。折ふし一休此藤大夫 00101920L12きん所にましますに、やがておしやうをしやうして、よき 00101930L13ついてなりとおもひて、くだんの文どもを取いだし、御ば 00101940L14うない+御そんじのとをり、それがしハ目を持なから、 00101950L15あきしゐにひとしけれハ、此文すこし子細ある事どもにて 00101960L16候ゆへ、一&よミて給ハれと申ける。一休ふミ御らんじて、 00101970L17たゞよのつねの文によミなし給ふ。時此おとこ、扨ハくる 00101980L18しうなき文どもなり、人のいひしハミないつハりなり、し 00101990L19かれども/余人(よじん)のよまハゝうたがひもあるべきか、殊に和尚 00102000M1のよミ給ふうへハ、さら+いつハりありとはおもハじと 00102010M2て、其まゝふしんをはらしけり。此女あまりにうれしき事 00102020M3(五オ)におもひて、其次の日、和尚へれい文をつかハす次 00102030M4而に、 00102040M5△△しなのなるきそぢにかけし丸木はし 00102050M6△△△ふミゝし時はあやうかりしを 00102060M7とあまりうれしさのまゝかきてつ/□((かカ)))ハす。一休返哥に、 00102070M8△△見し時はいか成事ととう大夫 00102080M9△△△よミおハりてハ心ゆるりや 00102090¥N5¥J 00102100¥X第五△一休はかせ狂句の事 00102110M12○/洛陽(らくやう)に/天文(てんもん)はかせなにがしといふものあり。ある時一休 00102120M13の/庵(あん)へゆきけり。和尚出合給ひ、その方ハひさ+見へざ 00102130M14るが、いづかたへまいられ候ぞ。さればわたくしは此比ハ 00102140M15さる人にたのまれ、/南都(なんと)にまかりありて候、二三日いぜん 00102150M16にのぼり申候。おしやうのいはく、何とめづらしき事もな 00102160M17く候や。/博士(はかで(ママ))こたへていはく、されハ、ならにてめづらし 00102170M18き事をうけ給ハり候。それハいかやう成事(五ウ)にやあり 00102180M19けるぞ。/博士(はかせ)、さればはんにや坂の/辺(へん)に/歯(は)をぬくものゝあ 00102190¥P308 00102200¥G 00102210L12り、一つを銭二文つゝにてとるときゝて、さるものむしく 00102220L13ひばをもてり、時ならすいたむ時にハ/身躰(しんたい)たへかたくして、 00102230L14もだへける、かれが事をきゝおよびはをぬきにゆく、一つ 00102240L15を二もんつゝなりと申、此ものいひけるハ、それかしハき 00102250L16ゝおよび、はる+遠所より参りたり、一文にまけてぬか 00102260L17れよといへば、いやすこしもそらねハなく候、ようならば 00102270L18何時なりとも御こしあれといひてまけず、色&ことハりを 00102280L19いひ、ことばをつくし、せんかたなくかへるべきとおもひ 00102290M1しか共、せつかく此事に参りて、むなしくかへるべきにもあ 00102300M2らずとや思ひけん、ぜひ+まけなくば二つを三文にてぬ 00102310M3かれよといふ、此ものいふやう、扨&其方ハこまかくねぎ 00102320M4り給ふ人かな、まけておまらしよとて、二つを三文(六オ) 00102330M5にてぬきけり、此男かしこくもねぎりてぬきたりとおもひ、 00102340M6大きに/自慢(しまん)かほしてかへりしを、あたりのものゝ申やう、 00102350M7扨&たゞ今の男ハせんなき事をしけるものかな、其ぬくへ 00102360M8きはばかりをバぬかずして、ぬくまじきはをもさしそへて 00102370M9ぬくハ、一もんの銭をおしミて、ぬかでもくるしからざるは 00102380M10をぬく、さりとてハ世にハめづらしきいきものおほし、是 00102390M11ハ小利大そんともいふべきかとてわらひける、かやうのめ 00102400M12つらしき事をきいてまいり候とてはなしける。和尚おかし 00102410M13くおぼしめして、ころ+とわらひ、誠にそれハおもしろ 00102420M14きはなしなり、されは世間の人利やうの心ふかきハ、事に 00102430M15ふれて利分をおもふほどに、ゐんぐわの/道理(たうり)もしらず、と 00102440M16うらいの/苦果(くくわ)をもわきまへざるかごとしなどゝ、/四方山(よもやま)の 00102450M17はなしおハりて、和尚西のかたのやりどを(六ウ)(七オ挿画) 00102460M18あけて出らるゝ。/博士(はかせ)ミてやがてかくぞいひける。 00102470M19△△いかはかり西にあさ日のいつる哉 00102480¥P309 00102490L1一休やかて心へたりとて、 00102500L2△△天もん博士いかゞ見るらん 00102510L3といひ給へば、博士手をうつて大わらひし、いとまもこハ 00102520L4でかへりける。 00102530¥N6¥J 00102540¥X第六△人ハ人たりといふ事 00102550L7○ある人一休に問云、世中の人の申事にて候、人の人たる 00102560L8といふ事ハいか成事を申候や。一休こたへていはく、され 00102570L9ハ此ばうずハ房主たらん身にて候ゆへ、いはむや人の人た 00102580L10る事をしるべきや、さりながらわかき人の心ざしありて、 00102590L11やさしくも尋ね給ふをしらぬといふもいな物にて候、むか 00102600L12し物しりたる人のはなしを、ちときゝはつりをき候ほどに 00102610L13申て見候ハん、まづ人(七ウ)に人たる人と、また人たらぬ 00102620L14人と候ゆへに、人たる人を人と申げに候、たとへば/鷹(たか)など 00102630L15の鳥をよくとるハ、鷹のたかたるにて候、鳥をばゑとらす 00102640L16してねずミなどをとらば、たかのとびたるにてこそ候へ、 00102650L17たかとハいひがたし、ねこのねずミをよくとるは、ねこの 00102660L18ねこたるにてこそ候へ、もしまたねずミをばゑとらずして、 00102670L19さかななどぬすミくらひ候ハゝ、ねこのねずミたるにてこ 00102680M1そ候へ、ねことはいひがたし、人の人たるとハ人の道をし 00102690M2りたるものを申げに候。問云、かくもんにうけうりと申事 00102700M3の候ハいか成事にて候や。一休こたへていはく、されば是 00102710M4もしかとハしらざる事ながら申て見候ハん、まづうけうり 00102720M5と申ハ、或ハ四/条(てう)五条のつぢに、こま物ミせとてたな一つ 00102730M6に、色+さま+の物をとりあつめてをき、人の/用(よう)した 00102740M7いにうるものゝ(八オ)候、此ものに一色にてもあつらへて 00102750M8見候へば、何れにても/我(わが)しよくにハあらすして、皆上手の 00102760M9しをきたるをうけうりにいたし候間、御用ならば其人にあ 00102770M10つらへて参らせんといふがごとく、がくもんにもうけうり 00102780M11の人こそおほく候へ、あつらへておこなハん人ハまれにこ 00102790M12そ候ハめ、ことに/老子(らうし)/荘子(さうし)/諸子(しよし)百家のさたまてもとりまじ 00102800M13へて、へうろんし、物しりとのゝしるハ、皆こま物ミせに 00102810M14にてこそ候へ、買手のためにハ用にこそたつ事やらん、う 00102820M15り手ハさせるあき人にても候ハし、一/言(ごん)一/句(く)にても我物に 00102830M16してまもりおこなふ人ハ、はるかにすぐれてありがたかる 00102840M17へしと、申さるゝとき、此人つく+きゝゐて、扨もこと 00102850M18ハりかなとて、あつとかんしたまひけり。 00102860¥P310 00102870¥N7¥J 00102880¥X第七△或人一休ニ目薬をもらひとく立の事(八ウ) 00102890L3○ある人一休へ参り申やう、わたくし此比さる方へまいり 00102900L4候へば、めづらしき法度書の高札あり、皆人是を見物す、 00102910L5それがしも立より見候に、しよくハんじん法度、又ハ/年貢(ねんぐ) 00102920L6をなさぬ内ハかり銀かへす事むようなといふふだなり、何 00102930L7れも見物しけるものゝいへるハ、こハそも何事ぞや、やる 00102940L8まじき事ならばやるまじきにてすむ事なるべし、高札ハい 00102950L9まめかしきむかしより天子もゆるし給ひ、天下とるきミも 00102960L10ゆるし給ひし事なるに、今更我国とて、世中のそしりをも 00102970L11かへりミぬ高札なり、それ高札などゝいふ物ハ、天下の人 00102980L12もつともといふことをこそかくべきに、大かたもろこしも 00102990L13我てうにも、札にかくべき事ハ其さまあり、あまりもんも 00103000L14うにして、わたくしびれたる事を、高札にかゝんとおもふ 00103010L15心のうち、あさはかなり、かやうの事ハいかなる事やらん 00103020L16と申。一休(九オ)こたへて、それハ子細もやあらん、いさ 00103030L17しらすと返答し給ふ。此人申やう、よしそれハさもあれ、 00103040L18それがしがばゝ此十日ばかり/眼病気(かんひやうけ)にて候、とてもの次 00103050L19而にとて、すんばくもさし出候、すんばくの事ハ/持病(じひやう)にて候 00103060M1ゆへ、是非に及ず候、うけ給ハれバおしやうさまにハ、よき 00103070M2目くすりを御もちなさるゝよし承る、一さし下され候ハゝ、 00103080M3ばゝにさゝせたく候。一休、やすき事也、まいらせんとて、 00103090M4やかて給ハりける。此もの申やう、さだめてきん好物など 00103100M5の候べし。一休、されハきん/好物(こうもつ)ある事也、口にて申たら 00103110M6ばわすれ給ハん、こと+く書たてゝ参らせん、何程めう 00103120M7やくなりとて用るとも、ぶやうじやうなれハ、もちゐても 00103130M8せんなし、/若(もし)ねつなどハなきか。されハ、ゆふべよりすこ 00103140M9しほとをり候。一休、さだめてはうさうハおめさりやろ。 00103150M10いやまだいたされぬが、たぶんはうさうのぞ(九ウ)やミか、 00103160M11さなくば、はしかにても有べきかと、となりの三郎九郎も 00103170M12いハれ候、われらのぞんずるにハ、もはやあのとしになり 00103180M13てハ、はうさうも/出(で)そてなひにてあるへきやうにそんじ候、 00103190M14たゝしちゑぼとをりかとぞんじ候、/宅斎(たくさい)などのりやうぢに 00103200M15ハ、ほとをりにハ、なすびのかうの物がよきといはるゝほ 00103210M16どに、十きればかりもくハれ候へども、/別(へち)にかハる事もな 00103220M17く候、ずいふんやうじやういたし、ばゝひとりばうにふら 00103230M18ぬやうにとそんじ候、和尚さまなんぞ/好物(こうもつ)のふんをかきた 00103240M19てくだされ候へ。一休心へたりとて、やがてかきたて給ふ。 00103250¥P311 00103260L1△△一△とびのやき物、一△すゝめのすし、一△たかのす 00103270L2△△いり、一△からすのミそづけ、一△こほうの丸やき、 00103280L3△△一△ふくろうのさしミ、一△くじらのやき物、一△か 00103290L4△△ハうそのまるやき、一△なま子のやき物、一△よたか 00103300L5△△の油あげ△一△どじやうのかまほこ、一△かミなりの 00103310L6△△まなこ、(十オ)一△せん人のしらミ、一△天ぐのなく 00103320L7△△物、 00103330L8此ぶんが好物にて候まゝ、ずいぶん+いや+といハる 00103340L9ゝとも、しいておましやれとて、かきたてゝ給ハる。此人 00103350L10かたじけなしとてほゝへをしこミかへりけり。さる人のミ 00103360L11て、手をうつて、ころひまハりてわらハれける。 00103370¥N8¥J 00103380¥X第八△一休をどり給ふ事 00103390L14○比ハ七月十五日の夜、わかきとびあがりのあとさきしら 00103400L15すの男、一両人申やうハ、いざやかた+、一休のかたへ 00103410L16ゆき、夜すがらなぐさまんと申。一人が申やう、されはわ 00103420L17れらもさやうにぞんずる処、よくこそ申出されたり、かの 00103430L18房主も、うきにうきしうきぞうすの事なれば、今よひハこ 00103440L19とさら十五日、いざ+いてうからかさん、もつともとて、 00103450M1うちつれてゆくほどに、折ふし一休寺にまし+て、何れ 00103460M2もよくこそ出られたりと(十ウ)(十一オ挿画)て、祝儀なり 00103470M3とて、はやさかづきを出されて、まふつうたふつするまゝ、 00103480M4一休立てぞをどられける。たけのきりよのたまり水、すま 00103490M5ずにごらずでずいらず、人とちぎらばうすくちぎりてすゑ 00103500M6までとげよ、もミぢばをミよ、うすいがちるか、こきぞま 00103510M7づちる物で候、をとれや+人&よ、わかいがふたゝびあ 00103520M8る身かや、たゞ何事もかごとをも、わかき時にハたれもか 00103530¥G 00103540¥P312 00103550L1も、いたづらぐるひハあるものよ、それもくるしひものて 00103560L2もおじやらぬ、どくやくへむじてくすりとなれば、なにを 00103570L3なけくぞ川やなき、/水(ミづ)のではなをなげき候、それハなげ 00103580L4かバなげかうまでよ、うららが身に、かゝる事にてあらば 00103590L5こそ、うしハうしづれむまハ馬づれ、あたゞうき世ハどん 00103600L6なものじやと、やぶれあふぎのひやうしをとりて、うたハ 00103610L7ゞうたへまハゞまへ、しやかのおかたハやしゆたらによ 00103620L8+よい、人(十一ウ)+とおどりおさめ給ひけり。ミな 00103630L9人&是を見て、扨&御ばうのをどりをひさしうて見申たり、 00103640L10うたのせうが一だんおもしろしとて、一どにどつとわらひ 00103650L11けり。いさ+此おもしろきうへに町へいでゝをどらん、 00103660L12御ばうも同道申べし。一休心へたりとて、大郎次郎と申下 00103670L13人をつれ給ひ、い上四人の人&、おもひ+にいでたちし 00103680L14が、まづ一休のしやうぞくにハ、かつたいかきの/布(ぬの)なげづ 00103690L15きん、かミこのそでなしばをり、こしにハ九寸五ぶんのひ 00103700L16やうたんを、ぶらりしやりとさげられけり。わきざしハ門 00103710L17前の彦六か/一子(いつし)、お介かしやうぶかたなをかねひらざしに、 00103720L18ひらめきわたりて出給ふ。さてをどりハ五でうはしより、 00103730L19四五町西にありければ、こゝこそくきやうのおどりなりと 00103740M1て、うちまじハりて、爰をせんとぞをどらるゝか、二人の 00103750M2つれも見うしな(十二オ)ひ、たゞ/主従(しゆしう)にこそなり給ふ。何 00103760M3とし給ふらん、もはやあしもしどろになりて、わかき女の 00103770M4うへゝ、へら+ところびかゝり給へば、女もともに土つ 00103780M5かむ。彼おつとが是をミて、そつじなるくせものかな、の 00103790M6がすまじといふまゝに、大ごゑあげてはりかゝる。一休も 00103800M7心へたりといふまゝに、大はだぬぎにはだぬいて、大手を 00103810M8ひろけてかゝられけり。五人三人とりつきて、あなたへハ 00103820M9むら+、こなたへハむら+と、をしかへしをしもどし、 00103830M10しばしねぢあふそのひまに、づきんハやぶれてとびけれ 00103840M11ば、かミこハうしろのすそよりも、ぼんのくぼまでひきや 00103850M12ぶり、ぜんごふかくにひしめきけり。かゝりける所に、大 00103860M13郎次郎ハ見るよりも、まかせたりといふまゝに、大はだぬ 00103870M14ぎにはだぬぎて、あひてのすねかとミちかへて、おぼんの 00103880M15すねをむずととり、ゑいやつといふてひ(十二ウ)くほどに、 00103890M16おぼんのつけにうちたをれ、こしに付たるひやうたんも、 00103900M17ミぢんに成てうせにけり。大ぜいうちよりてらうぜきハさ 00103910M18せまじと、我も+とはし/((り脱カ))よる。やかておぼんおきあがり、 00103920M19ひがしをさしてにけらるゝ。/下帯(したおび)はづれてけつまづき、ま 00103930¥P313 00103940L1たころ+とこけらるゝ。やう+命から+にて、しの 00103950L2びて寺へぞかへられける。おかしかりし事ともなり。 00103960¥N9¥J 00103970¥X第九△中にぶらりといふ事 00103980L5○或人一休に問云、なにと御そう、世の中に、ばけ物ハ人 00103990L6ごとに、きどくふしぎと申ものゝおほく候、さやうにて候 00104000L7や。一休こたへていハく、いや、たゞ中にぶらりとこたへ 00104010L8給ふ。此男大きにはらをたて、扨も御ばうハ聞へ申さぬ御 00104020L9へんじかな、それ人の、物をとひかくるに、およそほうこ 00104030L10そ有べきに、中にぶらりといふあひさつハ、つ(十三オ)ゐ 00104040L11にうけたまハらぬ、それハ人をきよくり給ふ、御出家のに 00104050L12あハぬきぶんなり、是非とも此うへハ/子細(しさい)を尋ね申さでハ 00104060L13をくまじ、房主とはいはせまじ、すハ八まんも御じけんあ 00104070L14れと、大きにいかり申ける。一休此ありさまを見給ひ、さ 00104080L15ても+其方ハ、たんきなおそろしき人かな、そなたのや 00104090L16う成人とハ、ものゝはなしもならぬ、子細ハ其はなしくハ 00104100L17ふといふ/気分(きぶん)なり、まづよくがてんしておミやれ、そなた 00104110L18ハものゝふしぎをとひ給ふ、ない+そなたへいくたびも 00104120L19申きかせる事成に、同し事をまたハいひ+おめさりやる 00104130M1に、がでんのゆかぬ人かなとおもひて、たゝ今のやうに返 00104140M2事いたした事也、それ、ものゝふしぎをたつれハふしき、 00104150M3ふしぎもなしとおもへばふしぎ成事ハ一つもなし、又仏も 00104160M4神も有と思へばあり、なしと思へばなし、さればあるにも 00104170M5あらず(十三ウ)なきにもあらず、扨かくある時ハ、/中(ちう)にぶ 00104180M6らりといふ物でハなきかといはるれば、此人手をうつてか 00104190M7んしける。 00104200¥N10¥J 00104210¥X第十△或人一休に天道のいはれを問事 00104220M10○ある人一休に問云、何と御ばう、わたくしハ/年来(としごろ)おもふ 00104230M11子細ありて、天道をしんじ候、しゆ※の/供物(くもつ)をとゝのへ、 00104240M12或ハ日まち月まちなどをもすいぶんいたし候が、今にいた 00104250M13るまで一つとして、望のかなひたるとおもふ事もなく、う 00104260M14つら+と/信(しん)じ候が、どこぞのほどにハ、したゝか成りし 00104270M15やうをかうむべきと、たのもしくおもふばかりをたよりと 00104280M16してゐ候へども、はか+と望のかなはぬハいかなる事に 00104290M17て候や。一休こたへていはく、それハ其方のが物しらずと 00104300M18いふ物なり、しさいハ我内に有天たうをうちすてゝ、/余所(よそ) 00104310M19の見なれぬ天道をひたとたらして、或ハもちのかけや、す 00104320¥P314 00104330L1いくさり酒などミ(十四オ)きにしてふるまひ、さながら水 00104340L2くさき米をあらひて、さらばごきにも入ておましまする事 00104350L3か、かハらけに入つきだしてをけば、いかに物やハらかな 00104360L4る物いはすのお天たうなりとも、よもまんぞくにハあるま 00104370L5じ、さ候へば此方の天たうハ、すこしりんき心もあるべし、 00104380L6我にハくれもせでよそへやるハ、二心かとうたかひ給ふも 00104390L7ことはりならん、とかくよその天道ハたのミてもたのミが 00104400L8ひハあるまじ、たゝけふよりして、こちの天道にひしとた 00104410L9のミをかけて奉公をして、かならず二心なきやうにさへあ 00104420L10らば、いかにもまんぞくある事也、仏もほしくハこちにあ 00104430L11り、ちごくハ猶あり、よしあしともに御用ならば、何時に 00104440L12てもある事也、かまへて+よそをばしうらやましがり給 00104450L13ふなと、のべ給へば、此おとこかてんして、いはれをきけ 00104460L14ばおもしろや、今こそふしんはるの(十四ウ)(十五オ挿画)日 00104470L15の、ひかりもかゝやく御せつほう、ありかたし+とてか 00104480L16んじてこそハかへりけれ。 00104490¥N11¥J 00104500¥X第十一△たいり女房の事并一休/教化(けうけ)の事 00104510L19○爰にだいり上らう衆とうちミへて、女房二三人つれ、かも 00104520M1の/辺(へん)をうちいで、ろしすがらのはなしなり。中にもすこし 00104530M2としたけたる女房の申されやうにハ、いかにめん+きゝ 00104540M3給へ、われも人も明れば宮づかへにいとまもなき身なれば、 00104550M4またもやいでん事さだめがたし、一だんの折がらなれバ、 00104560M5此辺に寺のあらば/次而(ついて)にたち入、上人にあひ奉りて、一/句(く) 00104570M6のしめしにもあつかるべし、我&ハひまなき身なれハ、仏 00104580M7の道もねがふ事なし、此よハ夢まぼろしのあだし身にて、あ 00104590M8したにハかうがんあつてせいろにほこるといへとも、ゆふ 00104600¥G 00104610¥P315 00104620L1べにハはつこつとなりてくちぬとかや、いざ+とてうち 00104630L2つれ(十五ウ)一休の庵へ参りけり。折ふし和尚いでさせ給ひ、 00104640L3よくこそまいり給ふ物かな、それにしバらくまち給へとて、 00104650L4出たゝれけるしやうぞくにハ、はだにハしろき一ゑ/木綿(もめん)の 00104660L5あかづきて、ねづミ色かとうたがハる。うへにハあさぎの 00104670L6やぶれあハせに、かやよりふときやぶれ/衣(ころも)の、さなからと 00104680L7びが風にふかれたことくなり、/帯(おひ)ハ天下にかくれもなき、 00104690L8二/条(でう)どをりのたち花やが、上人さまの御おひとて、/木綿(もめん)の 00104700L9いとの八つうちに、づきんハいかにと見る所に、三条かし 00104710L10はやの、次郎助かたよりおらんだぎれにぬのうら付、なら 00104720L11ちりがミにてつゝミつゝ、ひしをゝそへておこしける。じ 00104730L12ゆずハ四/条(でう)のかめやおかたの/仕立(したて)たる、玉をミかけるびい 00104740L13どろの、ミなすいしやうなりとうそをつき、御手にもちい 00104750L14給ひ、おきやくハ是へ+としやうしける。わかき女房す 00104760L15ゝミ出て、そつじに(十六オ)是まで参る事、/別(へち)の/子細(しさい)にて 00104770L16候ハず、御らんぜられ候ごとく、何れもわかき女の身にて 00104780L17候へば、/明暮(あけくれ)けんどんぐちにして、仏をねがふ事もなく、 00104790L18かゝるたつときちしきにあひ、後世の事をとひ参らせたく 00104800L19そんし、是まてまいりて候、たやすく仏になる道を、し 00104810M1めし給へと申ければ、和尚きゝ給ひ、一たんの心へかな、 00104820M2仏のミちをねかハんとおぼしめさハ、まづけんどんぐちを 00104830M3すてゝ、じひしんをかんようとおめさりやれ、我等がやう 00104840M4成ばうずのいふ事ハ、なを+かなへ給ふかじひなり、ほ 00104850M5とけのミちといつは、さとるをもつて仏なり、まよふ時ハ 00104860M6ちごくなり、爰をもつてあんずるに、一のうらハ六、あく 00104870M7のうらハぜんなり、じやゐんかいをやぶりて、ぢごくへし 00104880M8たゝかにおちよう共、おちまひとも、しやだんへあからふ 00104890M9とも、かミこをきてせつゐんへはまらふとも、それハ(十六 00104900M10ス)ぐそうがまゝにてあり、いざやあんじんをすゝめんと、 00104910M11わかき女の手を取て、をくをさし入給ふを、其中にとしよ 00104920M12りたる女房の是を見て、あらなまぐさきごぼうやと、云よ 00104930M13りはやくひきもきて、みなうちつれておもてをさして出け 00104940M14れば、おぼんもつゝいていでられて、大ごゑあげて、いか 00104950M15に+女はうたち、大事のあんじんをときのこしたり、こ 00104960M16しふをんととく時ハ、こゝをさる事とをからず、かへせと 00104970M17もどせといへどももどらねバ、あらしんきやきのどくや、 00104980M18とく+すゝめいれなハ、ねはんに入べき物をと、あたま 00104990M19をこそハかゝれける。扨其日の/暮(くれ)がたに、わかき女たゞ一 00105000¥P316 00105010L1人来り、いかに上人さま、さきにハ御用にたちたくぞんじ 00105020L2候へとも、はうばいのまへをぞんじ候、只今ひそかに御用 00105030L3をかなへ申さん其ために、しのびて参り候と申けれハ、一 00105040L4休きこしめし、(十七オ)さればさきほどハ、/用事(ようし)ありて、 00105050L5しきりにたのミたくおもひしが、今ハようもなく候、とく 00105060L6+かへり給へとて、あひのやりどをはたとたて、をくを 00105070L7さして入給ふ。扨&/殊勝(しゆせう)の御ばうやと、後にぞ人ハ/知(しり)にけ 00105080L8る。 00105090¥N12¥J 00105100¥X第十二△一休清水詣の事 00105110L11○一休さる人四五人同道して、まづぎをんへ参り御まへを 00105120L12ふしおがミ、清水の方へおもむき、そこらのけしきをなが 00105130L13めゐたるに、こちらむいてくるをミれば、よはひ二八はか 00105140L14りの女の、いふはかりなくうつくしき、其すかたせんけん 00105150L15たる両ひんハ、秋のせミのはにたぐへ、ゑんでんたるさう 00105160L16かハ、遠山の色をふくむよそほひ、おとにきく志賀寺のお 00105170L17しやうさまや、一/角(かく)せんもじも、えんより下へころ+こ 00105180L18ろりとおちられしも、/実(けに)ことハりとぞ聞へける。どことも 00105190L19しらざ(十七ウ)(十八オ挿画)るかたすミより、/世界(せかい)のまん/中(なか) 00105200¥G 00105210M12ちよい+などゝいふ所もあり。又かたハらを見てあれバ、 00105220M13はなやかなるしやうぞくして、まりをける所もあり。立よ 00105230M14りみるに、何様けさうなるこつがらにて、すゝミ出てける 00105240M15ほどに、人の手まへをうはひ取て、あり+といふてける 00105250M16ほどに、やがてむかふのすねをけやぶり、そこらにちとめ 00105260M17草ハおじやらぬかと、尋ねまハる。また一人ハあまりにあ 00105270M18しをさしあげ、/首(くび)にすねをひつかけて、はづさんとすれど 00105280M19もはつれかね、ころ+とこけゝるを、そばなる人&せう 00105290¥P317 00105300L1しがり、我も+とうちよりて、やう+すねをひきはな 00105310L2す。見物する人&、一どにどつとわらひける。此男大きに 00105320L3せき、しやうぞくをかなぐりすて、大はだぬぎにさばきが 00105330L4ミ、こゝをせんとぞける程に、一つもまりハあたらねば、 00105340L5後にハはだかになりて、けるほどに+、(十八ウ)いつの 00105350L6まにかハ、ふどしもはづれてうちふれば、見物の人+も、 00105360L7あまりの事にあきれはて、時の声をどつとあげ、ミなちり 00105370L8+にうせければ、此男もめんぼくなくやおもひけん、大 00105380L9こゑあげてぞなきゐたり。それよりも人&ハ清水さして参 00105390L10らるゝ。一人の申さるゝハ、いさかた+茶をまいらぬか 00105400L11とて、茶屋を見れは、あるじのぢいハうばぐちのくハんす 00105410L12に、りうすいをたぎらせて、ゆきゝの人をとゝむれば、此 00105420L13人&も立より、茶をたべけるに、わりごやうの物に茶のこ 00105430L14を入て出す。是なん京わらんべのうたにも、清水坂のやき 00105440L15もちゐとぞ、やかて一休、 00105450L16△△かふ人を/松葉(まつば)かきたく/茶(ちや)屋のかゝ 00105460L17△△△やくやもちゐにあづき付つゝ 00105470L18と口ずさミ給へば、皆人&申けるハ、扨&和尚ハ何時に 00105480L19(十九オ)ても/自由(しゆう)なる御口にて候、我&がやう成ものハ、 00105490M1七日七夜/工夫(くふう)いたすとも、及もなき事也と、一どにあつと 00105500M2ぞかんじける。 00105510¥N13¥J 00105520¥X第十三△一休風呂入の事 00105530M5○ある時一休せんきにてこしをいたミ、のびかゝミも/自在(じさい) 00105540M6ならず、めいわくして色+やうじやうし給へども、いた 00105550M7ミやミがたし。さる人来りて申やう、其せんきにハしほ/風= 00105560M8呂(ふ=ろ)かなによりもよく候、其いたむ所をいくたびもふきつく 00105570M9れば、やハらぎてそくじによく候、わたくしも此比せんき 00105580M10さし出たるに、風呂にてふき候へば、其まゝやハらぎ、/明= 00105590M11日(あくるひ)ハゆる+と/立居(たちゐ)も/自由(じゆう)にいたし候、御内の太郎次郎を 00105600M12御つれなされ、かれに其いたむ所をふかせ給へとおしゆ。 00105610M13さらばとて、やがて風呂へいり給ふ。太郎次郎もともに入 00105620M14けり。かのいたむ所をふけよとて、(十九ウ)ふかせらるゝ 00105630M15に、太郎次郎やがてふきにかゝりける。其ふきやうにハ、 00105640M16ちくしやう++と云て、ひたとうちたゝひてふく時に、 00105650M17一休つく+ときゝ給ひて、何とか/合点(かてん)し給ふやらん、其 00105660M18まゝ返答に、ぶはうこう++とこたへ給へふ。太郎次郎 00105670M19もふしんにおもひけれとも、主人の事なれハ、いかゝと問 00105680¥P318 00105690L1事もならずして、うちすぎぬ。或人ゆよりあがり、かたす 00105700L2ミにゐて、つく+ときいて、はらすぢをよれり。此人わ 00105710L3さとだまりゐて、/明日(あくるひ)和尚のもとへゆき申けるハ、和尚さ 00105720L4まハゆふべ風呂へ、太郎次郎をつれさせられ、御いりなさ 00105730L5れ候や。されば此中せんきさし出、めいわく申に付、さる 00105740L6人の申すハ、ふろへいり、其いたむところをふかせよと、 00105750L7をしへられけるにより、夜前せんたうのふろへいり候、其 00105760L8方ハまた何としてしられ候ぞ。いやさる人のはなしにてゆ 00105770L9ふべうけ給ハり候、しかれは(二十オ)世にハ風呂をふくも 00105780L10のもおほく、ふかるゝものもおほきに、なんぞちくしやう 00105790L11+とふけば、又ふかれてハ、ふ奉公+とこたへられた、 00105800L12扨&めつらしきふきてふかれてかなと、/風聞(ふうふん)仕候、まづさ 00105810L13やうにふき、こたへらるゝ両人のおもハくハいか成ことや 00105820L14らん、そといハれをきゝたく候、御物がたりなされよ。一 00105830L15休、いや、それハミどもがこたへやうハがてんある事なる 00105840L16か、太郎次郎か、ちくしやう+とふくやうハ/合点(がてん)参らぬ 00105850L17事也、ミどもがちくしやうなる事ハすこしもなきが、いな 00105860L18ことをいふとおもひ、身におほへハなきが、もしちくしや 00105870L19うなるしわざもあるかしらぬ事なり、あらばそれハ其方か 00105880M1奉公があしさよと思ふて、扨ふ奉公+とこたへたとかた 00105890M2り給へば、此人をどりあがり、手をうちたゝいてわらハれ 00105900M3けり。 00105910¥Q 00105920M4寺町□□□□□□□□ 00105930M5△△□□□□□□□□板(二十ウ)