00000010¥P3 00000020¥U噺本大系△第四巻 00000030¥T秋の夜の友 00000040¥G 00000050¥Y 00000060L15延宝五年刊 00000070L16編者未詳 00000080L17半紙本五巻 00000090L18国会図書館蔵(一〜四) 00000100L19京都大学蔵(恵方の春駒五) 00000110¥Y1秋の夜の友巻一△目録 00000120M3△△ほうらいきう 00000130M4△△うしおき 00000140M5△△松竹のろん 00000150M6△△にんぎよ 00000160M7△△ぜにがみ(一オ) 00000170¥P4 00000180¥Y秋の夜の友序 00000190L3ころハ秋も/半(なか)バ、/荻(おぎ)のうハ風やゝすさまじく、/萩(はぎ)がした葉 00000200L4もうつろふ折から、五条わたりのいにしへならねど、あば 00000210L5ら屋の内にひとりたゝずみ、こしかたゆくすゑの事どもお 00000220L6もひつゞくるこそわびしけれ。これに猶うちそへて、草む 00000230L7らに/鳴(なき)よハる/虫(むし)の声+、/妻(つま)とふ/鹿(しか)の/音(ね)までも、いとゞあ 00000240L8はれをもよ(二オ)ほすに、/板(いた)びさしのすきまより、もれい 00000250L9る月影のさやかなるハ、/不破(ふハ)の/関(せき)屋もさこそとおもほゆ。 00000260L10ことゝひきたる/友(とも)もなく、夜ハながし、衣ハうすし。/枕(まくら)を 00000270L11かたふくれども、いもねられず。/待(まつ)人ハなけれど、/更(ふけ)行/鐘(かね) 00000280L12の声に心ぼそさハ、いやまさりなり。せめて、つれ+を 00000290L13なぐさむたよりにハ、/草葉(くさば)色づく野のむらや、世にはその 00000300L14名もたか/崎(さき)なん(二ウ)どいふ、/莨■草(たばこ)のしな+とり出し、 00000310L15心ゆくばかりのミふすぼらかし、目うちしばたゝき、しハ 00000320L16ぶきまじりにおもひ出つゝ、そのかみみたりける/夢(ゆめ)物語を 00000330L17筆にまかせてかきしるして、秋の夜の友となし/侍(はんべ)る。ゆめ 00000340L18を見て夢のあふたるゆめをバ、まさゆめとかやいへる。今 00000350L19までみたりける夢の数+おほきなかに、まさゆめとおも 00000360M1ふ夢ハなし。(三オ)かねひろふゆめハ夢にてさめにけりと 00000370M2/読(よミ)し/歌(うた)こそ、よきまさ夢の/本哥(ほんか)なれ。/唖子(あし)ゆめを見て、た 00000380M3れにむかつて/語(かた)らんといへることも、よく+おもへハ/見= 00000390M4性悟道(けん=しやうごだう)のうへのみにかきらず。思ふ事いはでぞたゞにと/在(さい) 00000400M5五/中将(ちうじやう)のよまれしも、すべて/人間世界(にんげんせかい)はみなこれならし。 00000410M6(三ウ) 00000420¥P5 00000430¥T1 00000440¥N1¥J 00000450¥Xほうらい/宮(きう) 00000460L3ゆく/年(とし)もくるとしも、身上のすりきりたる事ハ、ときは木 00000470L4にあやかりて、さらにかハる所なく、やう+ことしもく 00000480L5れはどり、あやしきながら立かへる春にならんとす。/寒垢= 00000490L6離(かんご=り)をとる/行人(ぎやうにん)にハあらで、/借銭(しやくせん)の/淵(ふち)にくびだけつかりつゝ、 00000500L7あまりのくるしさに、此年のくれ、いかにして過さんと思 00000510L8(四オ)ひわびて、かくぞよみける、 00000520L9△△たつしやにも/道(ミち)ハあるけど/越(こえ)かぬる 00000530L10△△△年ハおあしのなきゆへぞかし 00000540L11かくて/節分(せつぶん)の夜になりぬ。心ある人&は、年の/名残(なこり)ハこよ 00000550L12ひにありとて、/大豆(まめ)うちはやして、あそびあかし給ふかた 00000560L13もあるに、くれゆく年をおしむ心もなく、袖せバき、すが 00000570L14みこ、はだへもさらに/氷(こほり)とぢ(四ウ)て、/百夜(もゝよ)もおなじまろ 00000580L15ねに、木まくらたかくうちこけて、あハれこよひハ、ほう 00000590L16らい/宮(きう)の/鬼(おに)のくる夜なりとて、門口にも/窓(まど)にも/鰯(いハし)のかしら、 00000600L17/柊(ひいらぎ)をさすとかや。家&物しづかになりぬるを、/柴(しバ)の戸を 00000610L18音づるゝ程に、あなおそろし、/鬼(おに)のきたりて一口にくらハ 00000620L19んとするかと、身の/毛(け)たちておそろしかりけれども、たそ 00000630M1やたそとて(五オ)/窓(まど)をさしのぞきたれバ、右の手をしかと 00000640M2とらへたり。さればこそと、きもたましゐも身にそハざり 00000650M3けるが、/空(そら)をとぶやうにおぼえて下をミれば、/海(かい)まん+ 00000660M4としてほとりもなく、雲のなみ、けふりのなミ、はるかに 00000670M5しのぎて、ひとつの山にいたりぬ。/波(なミ)うちぎハよりして、 00000680M6そばだつ/岸(きし)ハ/水精輪(すいしやうりん)なり。木だち世のつねならず、/鳥(とり)の/色= 00000690M7音(いろ=ね)(五ウ)もやうかハりて、つたへきゝたる事もなく、めづら 00000700M8しきに、すこしあゆミたれば、/並(なミ)木の松/道(ミち)の両バうにあり 00000710M9て、そのおくに/楼門(ろうもん)有。/不老門(ふらうもん)と/額(がく)をうちたり。門の内に 00000720M10/宮殿(くうでん)あり。長/生殿(せいでん)といふ/額(がく)をかけたり。猶そのうしろにハ、 00000730M11たかくそびえたる/宮殿(くうてん)あり。/大真宮(たいしんきう)と名づく。/鳳(ほう)のいらか 00000740M12五/色(しき)の雲にうつり、/虹(かう)のうつばりハまた、あまの川にかよ 00000750M13ふか(六オ)けはしかとあやしまる。/庭(にハ)にハ/金銀(きん+)のいさごを 00000760M14しき、玉の戸ざしうちひらけて、きれいなる事、ごくらく 00000770M15せかいも爰なれやとぞおぼえたる。/御殿(ごてん)の内には、/仙童(せんどう)/仙= 00000780M16女(せん=ぢよ)、花のたもとをつらね、そのうつくしき事かぎりなし。 00000790M17こゝハもとより、ほうらいきうといへる所ぞといふこゑ、 00000800M18かすかに聞えしかども、此所にすまバやとおもふ心はなく 00000810M19して、庭に(六ウ)しきたる金銀のいさごをミるよりほしく 00000820¥P6 00000830¥G 00000840L11なりて、これをとりてかへり、日ごろの/借銭(しやくせん)をもみなすま 00000850L12し、/妻子(めこ)どもに小袖をもきせ、めでたき/年(とし)をとらせ、ぶげ 00000860L13んしやになりて、らくをせバやとおもひ、かのいさごをつ 00000870L14かみとり+、両のたもとへあまるほど入たりければ、/肩(かた) 00000880L15ぼねのぬくる程おもく成て、あゆミかぬるところを、おく 00000890L16よりあらゝ(七オ)かなる声にて、何ものぞ庭のいさごをつ 00000900L17かみとるハ、そのらうぜきもののがすなといふをきくより 00000910L18おそろしくて、にぐるともなくころぶともなく、かたハら 00000920L19なる/岩(いハ)のかげにかくれて、/小便(せうべん)をするとおぼえて夢さめに 00000930M1けり。たもとに入たる金銀の/砂(いさご)ハ、さながら爰にあるやう 00000940M2におぼえてミれどもなし。よるの物のうらハ、小便をたれ 00000950M3てしとゝにぬれたりけれ(七ウ)は、おきあかりてかくそよ 00000960M4みける、 00000970M5△△/借銭(しやくせん)をこふ人あらばよぎのうらに 00000980M6△△△しとをたれつゝわぶとこたへよ(八オ)(八ウ挿画) 00000990¥N2¥J 00001000¥Xうしおき 00001010M9/丑(うし)の年の大つごもりに、/借銭(しやくせん)をこひつめられて、/息(いき)もはづ 00001020M10むばかり也。とかくして夜も/更(ふけ)にけれバ、どよみ+人& 00001030M11かへりければ、あなうれし、今ハ心やすし、/来年(らいねん)ハさり共 00001040M12/仕合(しあハせ)をとりなをし侍らんにとて、ふせりたりけるが、そこ 00001050M13となく/宿(やど)を立出たれば、門口に大きなる/牛(うし)をつなぎたり。 00001060M14うしのせなかに(九オ)/皮(かわ)ぶくろをふたつ付たり。あたりを 00001070M15ミれどもうしの/主(ぬし)もなし。やがて内へ引入たれバ、此うし 00001080M16まう+と/鳴(なき)けるを、人や聞らんとおもひ、口をふさぎは 00001090M17なをふさぐとする程に夢さめたり。うしのほゆるこゑかと 00001100M18聞しハ、/妻(つま)がいびきの音也。とらへて口をふさぐうしかと 00001110M19おぼえしハ、ふるきぬのこのゑりにてぞ有ける。さもあれ、 00001120¥P7 00001130L1めでたき夢かな、/今年(ことし)より仕合なをる(九ウ)へきまさゆ 00001140L2めなりとうれしくて、大ごゑをあげて、うしおきにかつは 00001150L3とおきといふておきあがりければ、そバにねたる/妻(つま)や子と 00001160L4も、此声に目をさまし、きもをつぶし、やれかなしや、こ 00001170L5れの/御亭(ごてい)の気ちがひになられたぞとて、/泣(なき)わめく程に、と 00001180L6なりあたりの人&出合て、これハさて、にが+しき事也、 00001190L7まづきをしづめよといふ。いや+(十オ)気ハちがハぬと 00001200L8いふ。ねぢふせおしつけて、日のくるゝまでいためられて、 00001210L9大きに/草臥(くたひれ)て、かくぞよみける、 00001220¥G 00001230M1△△ながらへバまた此ゆめやしのバれん 00001240M2△△△うしを見し夜ぞ今ハわびしき(十ウ)(十一十五オ挿画) 00001250¥N3¥J 00001260¥X松と竹 00001270M5ぬのこのうへに古ばかまのしほたれて、まちのひくきをし 00001280M6めくゝりつゝ、/御屋方(おやかた)殿へ元三の御礼まいり。/雑煮(ざうに)したゝ 00001290M7かに/喰(くひ)、こん+のさかづきに、ことのほか/給酔(たべゑひ)つゝ、町= 00001300M8中(まち=なか)を八/文字(もんじ)にふミはたかり、/千鳥足(ちどりあし)になりて、宿にかへり 00001310M9けるが、しかるべき人の門に立られたる/飾(かざり)の松と竹と物い 00001320M10ひけるを、ふしぎなり(十一十五ウ)とおぼえて立聞たれバ、 00001330M11松のかたよりいふやう、我いにしへより、このかた、葉色 00001340M12かハらぬときハ木の名をえて、しかも太夫の/官(くハん)にいたり、 00001350M13/十(しう)八/公(こう)の/栄花(ゑいぐハ)十かへりのことぶきをひらき、かけどもつき 00001360M14ぬおち葉ハ又、つきせぬ御代のしるしをしめす、しかるを、 00001370M15世に名もなき物として、木にあらず草にもあらぬ竹/風情(ふぜい)の、 00001380M16おなじ/座(ざ)に立ならぶ事いはれなし(十六オ)といふ。竹ハこ 00001390M17れを聞て、大きにはらだち、ふしくれだちたるこゑにてい 00001400M18ふやう、こともおろかや、/系図(けいづ)にも/故事(こじ)にも、すこしもお 00001410M19とるべきか、まづときはなる/祝言(ことぶき)ハ、我もおなじく名をえ 00001420¥P8 00001430L1たり、/汝(なんぢ)ハ太夫の/官(くハん)になりて、/梢(こずゑ)の風に身をたかくふけど 00001440L2も、我ハ又、此/君(きミ)といハれて、/賢人(けんじん)の/風(ふう)をしたふ事、世も 00001450L3つてかくれなし、それのミならず、我/先(せん)(十六ウ)/祖(ぞ)、もろ 00001460L4こし/解谷(かいこく)の竹にハ、/鳳凰(ほうわう)のすみて、ふくかぜに/龍吟(れうぎん)のひゞ 00001470L5きあるをもつて、/笛(ふえ)ハこれよりはじまり、五/調(てう)十二/律(りつ)も、 00001480L6これよりたゞしくなり、/管弦音楽(くハんげんおんがく)の/頭(とう)どりとして、/音(ね)と 00001490L7りの/調子(てうし)ハ、ふえを/根本(こんぼん)とす、又/軍陳(ぐんぢん)に出むかふ、/馬上(ばしやう)の 00001500L8むちハ是竹なり、其/観(くハん)ずるところ/不動明王(ふどうミやうわう)の/智剣(ちけん)、/摩利= 00001510L9支(まり=し)天の/宝刀(ほうとう)を/表(へう)せり、/陰(かげ)のむち/陽(ひらき)のむち、馬(十七オ)に/飛= 00001520L10行(ひ=ぎやう)の/通力(つうりき)をあたふるハ、これ竹の/徳(とく)也、いかでか、あなど 00001530L11りいやしむべき、といふ。松これを聞て、/湘江(しやうこ)の竹ハまだ 00001540L12らにして、うれへの色を/染(そめ)出し、/孤竹(こちく)の竹ハみなし子にし 00001550L13て、たよりなきすがたをあらハせり、さればこそ、うれへ 00001560L14のときにつくつえハ、/紫竹(しちく)のつえとさだめられたり、かゝ 00001570L15るいまハしき竹どの、/無用(むよう)のはらをたてんより、ふぐりを 00001580L16くらへとぞ/云(いひ)(十七ウ)ける。竹いよ+はらをたて、そも 00001590L17松にこそ、さま+よからぬ事のある也、/恋(こひ)ぢに取てはつ 00001600L18れなき人にたとへられ、/時雨(しぐれ)のそめかねてとうらみられ、 00001610L19しがからさきにひとり立て、/友(とも)もなぎさの一つ松と、さび 00001620M1しきことに名をとりたり、しるしの/塚(つか)の松一木、人の/歎(なげ)き 00001630M2のたねとなる、ましてミのゝ国/青野(あをの)が原にてハ、/熊坂(くまさか)の/長= 00001640M3範(ちやう=はん)が/方人(かたうど)し(十八オ)て、ぬす人の/同類(とうるい)たり、今もものミの 00001650M4松といはれて、あたりちかく立よる人、其まゝあやかりて、 00001660M5ぬす人になるとかや、世のため人のため、あしきハ松の木 00001670M6にこそあれ、かやうのくせものとして、我をおとしめいハ 00001680M7んより、をのれがふぐりををのれくらへといふ。松聞て、 00001690M8はがミをしつゝ、えだ+をはりひぢになし、そも+松 00001700M9の/徳(とく)といふハ、大木(十八ウ)になりてハ/虹梁(こうりやう)といハれ、木 00001710M10の/精(せい)を/土(つち)にかくせバ/茯苓(ぶくりやう)となり、としを/経(へ)て/琥珀(こはく)となり、 00001720M11千世をかさぬる/峯(ミね)の松、こずゑに/通(かよふ)/琴(こと)の/音(ね)のしらべや/遠(とを)く 00001730M12聞ゆらん、/霜(しも)の後までしのぐゆへ、/忠節(ちうせつ)の/臣(しん)にたとへたり、 00001740M13といふ。竹のいハく、/簫丘(せうきう)の竹ハ雲をしのぎ、そのすぐな 00001750M14るを/君子(くんし)にたとへ、/節&(ふし+)みだれざるを、君子の心になぞら 00001760M15へたり、/天(てん)(十九オ)/竹黄(ちくわう)ハ/名薬(めいやく)なり、/竹茹(ちくちよ)、/竹瀝(ちくれき)ハ人をた 00001770M16すく、/茯苓(ふくりやう)こはくにおとるべきか、/弓(ゆミ)となり/矢(や)となり、世 00001780M17の/乱(らん)をしづむる道、すぐなるをしへをあらハせバ、/晋(しん)の七 00001790M18/賢(げん)これをしたひて、名を今の世に残したり、まことにたう 00001800M19ときそれがしを、かくいふこそ口おしけれとて、すでに/喧= 00001810¥P9 00001820L1嘩(けん=くハ)にをよぶところを、今まで立きくに、両/方(ハう)ともにふかき 00001830L2いハれ有(十九ウ)とおぼゆ、まづ+しづまり給へ、それ 00001840L3がし、あつかひ申さん、もとよりよきことハり、ふかきい 00001850L4ハれをバしらず、松と竹とハむかしより、/対(つい)のものにて、 00001860L5めでたき所にはづるゝ事なし、松のとくには/柱(はしら)になり、家 00001870L6をつくらせ、/板(いた)になり/箱(はこ)となりて用をとゝのへ、こえ松は 00001880L7油なき時ハ/明(あかし)となりて/闇(やミ)をてらし、松/脂(やに)ハかうやくにねら 00001890L8れて/腫物(はれもの)をい(二十オ)やし給ふ、又竹のかたにハ/豆腐(たうふ)でん 00001900L9がくの/串(くし)になり、火ふき竹、/壁下地(かべしたぢ)、/耳(みゝ)かきになりつゝ、 00001910¥G 00001920M1人をたすくる道おほし、そのうへ両バうながら、命ながく 00001930M2めでたき御かた+、今更いさかひ給ふべからずとて、と 00001940M3りさゆると思ひしが、はたと目をさまし、酒の/酔(ゑひ)もさめぬ。 00001950M4ゆゝしきあつかひをもしけるものかなと、にようばうにも 00001960M5のがたりしければ、其(二十ウ)松と竹とハいかほど大きに 00001970M6ありけりととふに、かくぞよみける、 00001980M7△△いさかひをあつかひにせし松と竹 00001990M8△△△二かひなりと君もしれかし(二十一オ)(二十一ウ挿画) 00002000¥N4¥J 00002010¥X/人魚(にんぎよ) 00002020M11もろこしのいにしへ、/盧生(ろせい)とかやいへる人ハ、/邯鄲(かんたん)といふ 00002030M12所にて、/呂洞賓(りよとうびん)といふ/仙人(せんにん)にあひて、一/炊(すい)のあひだに、五 00002040M13十年の/栄花(ゑいぐハ)をきハめし事、まことにうら山しきためしかな 00002050M14と、おもひねにせしが、日ごろしたしくかたらひける/友(とも)だ 00002060M15ちの恋しかりければ、それがもとへいきける道にして、/魚(うを) 00002070M16うりに(二十二オ)行/逢(あひ)たり。ミればあやしき魚あり。何ぞ 00002080M17と尋たれば、/鮟鱇(あんがう)といふものなりといふ。四のあしありて、 00002090M18かしらハまろく、/尾(お)のかたちハ、さながら魚にして、うろ 00002100M19この色しろく、それともおぼえぬを、/代物(たいもつ)いとやすく侍り 00002110¥P10 00002120L1しかバ、やがて/買(かひ)とりぬ。家にもちてかへりけれバ、ある 00002130L2人のいはく、これハあんがうにハあらず、/人魚(にんぎよ)といふ魚也、 00002140L3むかしわかさの国/小浜(をはま)といふ所に、(二十二ウ)人魚の/網(あミ)にか 00002150L4ゝりてあかりしを、れうしの/娘(むすめ)これをぬすミてくらひけれ 00002160L5ば、八百/余年(よねん)までもとのわかやかなるかほばせなりしが、 00002170L6/尼(あま)になりて後にハ、山ふかく入つゝ、仙人になりたり、あ 00002180L7まりに色の白かりければ、わかさの白びくにとて、/諸国(しよこく)に 00002190L8かくれもなかりき、その住ける所ハ、今の世までも、八百 00002200L9/比丘尼(びくに)の/洞(ほら)とてこれあり、めでたきもの(二十三オ)なりと 00002210L10いふを、きくにうれしき事かぎりなく、いそぎ/料理(れうり)して、 00002220L11/妻(つま)や子どもにもあたへ、我も/喰(くい)てもろともに、/長生(なかいき)せバや 00002230L12とおもひ、/庖丁(ハうちやう)をとぎたて、うろこをふき、/筒切(つゝきり)にして、 00002240L13あつものにしたゝめ/喰(くい)けるに、其あぢハひいふはかりなく、 00002250L14/河豚汁(ふくたうじる)にハはるかにまさり、/甜(うま)き事かぎりなし。これより 00002260L15身も心もすゞやかにかろくおぼえ、う(二十三ウ)きたつや 00002270L16うに侍べりしかバ、まだあれかし、今一たび/喰(くい)たき事かな 00002280L17と、よだれをながしける処に、/奉行(ぶぎやう)所より、ぬすみ物の人 00002290L18魚/買(かひ)とりたりとて、/数(す)百人の/武士(ぶし)共四方を取まハし、から 00002300L19めとれとひしめきけるに、おそろしき事かぎりなく、にげ 00002310¥G 00002320M11むとするに道ハなし。あまりにうろたへて、井のもとのな 00002330M12かへとびこむとおぼえて夢(二十四オ)さめたれば、からめ 00002340M13とれといふ声ハ/耳(ミゝ)のもとに残り、/流(なが)しけるよだれハまくら 00002350M14のうくばかりにぬれて、夜ハほの+と/明(あけ)にけり。さてか 00002360M15くぞおもひつゞけける、 00002370M16△△人のいふ魚もうらめしあぢもなく 00002380M17△△△世をわぶる夢におそはるゝ身ハ 00002390M18△△△△△△△△△△△△△△△△(二十四ウ)(二十五オ挿画) 00002400¥P11 00002410¥N5¥J 00002420¥X/銭神(ぜにがミ) 00002430L3銭/銀(かね)をまうけたりとも、入をく/庫(くら)ハなし。をき所にことを 00002440L4かき、とかく/思案(しあん)をし出し、/土(つち)にうづミてをかバやと、あ 00002450L5らましことをおもひ/煩(わつら)ひける折ふし、ことのほか/仕合(しあハせ)よく 00002460L6なり、/銭(ぜに)五六貫程まうけえたり。あらうれしやとおもふに、 00002470L7日ごろたくみたることなれば、まづ地をほりて、その中へ 00002480L8かくし(二十五ウ)つゝ、いかに銭よ、/余所(よそ)の/盗(ぬす)人がほりと 00002490L9るならば、そのものゝ目には、銭神のすがたをあらハして、 00002500¥G 00002510M1/蛇(くちなハ)にみえよやとて、う/べ((ママ))につちをうちかけてをきたりけ 00002520M2るを、あるものこれを立聞して、やがてかの銭をほりとり 00002530M3て、その/跡(あと)へ/蛇(くちなハ)を入かへてをきぬ。さて用の事有ければ、 00002540M4ほり出してミれば、銭にハあらで、大きなるくちなハなり 00002550M5けり。やれ我じやぞ、(二十六オ)銭よ、み/忘(わす)れたるかよ+ 00002560M6と/名乗(なのり)けれ共、もとの銭にハならずして、/腕(うで)くびへ、へた 00002570M7とまとひつくを、はらひのくるとおぼえて、夢さめたれば、 00002580M8残りおほき事いふはかりなく、銭のばけたる/蛇(くちなハ)とみえしハ、 00002590M9枕もとにをきたる/褌(ふんどし)にてぞ有ける。/起(おき)あがりてかくなん、 00002600M10△△へびならバいくたび/腕(うで)をはらハまし 00002610M11△△△/布(ぬの)のふどしを銭とみしゆめ(二十六ウ)(二十七オ挿画) 00002620¥P12 00002630¥Y1秋の夜の友巻二△目録 00002640L5△△たこといかと 00002650L6△△/三途川(さうづがハ)のむば 00002660L7△△むさしあぶミ 00002670L8△△みこしにうだう 00002680L9△△へびとむかで(一オ) 00002690¥T1秋の夜の友△第二 00002700¥N1¥J 00002710¥X/章魚(たこ)と/烏賊(いか)と 00002720M5入/海(うミ)の波うちぎハをとをりけれバ、/素絹(そけん)をきたる/法師(ほうし)と、 00002730M6/紫衣(しゑ)を/着(き)たる法師出合て、さま+/問答(もんだう)する。それ、おな 00002740M7じ/沙門(しやもん)なれども、/官位(くハんゐ)たかくあがらざれば、むらさきの衣 00002750M8ハ/着(ちやく)する事かなはず、/公家(くげ)がたにも、中大/納言(なごん)にいたつて 00002760M9こそ、うす/紫(むらさき)、こ紫の(二オ)しやうぞくハめす事なれ、む 00002770M10さしのゝ花のゆかりとよみける/歌(うた)より、紫ハ名たかき色と 00002780M11いはれ侍る、それがし/赤子(あかご)のときより、家のけいづにて、 00002790M12/紫衣(しゑ)をきたる/僧綱(そうがう)の/座(ざ)にならばん事いハれなし、といふ。 00002800M13/素絹(そけん)の法師大きにいかりをふくみ、ことあたらしき仰かな、 00002810M14/仏在世(ぶつざいせ)のときより、さだめられて、/不正色(ふしやうしき)/壊色(ゑしき)/染衣(ぜんゑ)の名あ 00002820M15り、(二ウ)たとへバ/袈沙(けさ)ころもハ、何色にてもあらバあれ、 00002830M16/学徳(がくとく)/行法(ぎやうぼう)のすぐれたらんこそ、まことの法師ならめ、又色 00002840M17をもつていはゞ、もろ+の色のこんぼんハ、/白(しろ)きを第一 00002850M18とす、/妙(めう)ほうれんげの/蓮花(れんげ)も、しろき色とこそさだめられ 00002860M19たれ、ことさら五/行(ぎやう)五/方(ハう)の/正色(しやうしき)にもあらぬ/紫(むらさき)は、/間色(かんしよく)にて 00002870¥P13 00002880L1/仏法(ふつほう)正/道(だう)の/理(り)にたがへり、それがし/素絹(そけん)を/着(ちやく)する事、/仏道(ぶつだう) 00002890L2(三オ)を/白法(びやくほう)と名付る/義(ぎ)なり、といふ。/紫衣(しゑ)の法師、大き 00002900L3にあざわらひていはく、/外(ほか)にハ白き色をあらハし、内に/墨(すミ) 00002910L4をかくしたる、これないしんのよごれたるところ也、その 00002920L5うへ/汝(なんぢ)に/烏賊(うぞく)の名あり、/賊(ぞく)ハ/盗(ぬす)人とよむ、仏法の中の/盗(たう)ぞ 00002930L6くなり、といふ。/素絹(そけん)の法師、大きにはらをたて、/文字(もじ)に 00002940L7よりていふならバ、/提婆(たいば)ぼさつ、/迦那(かな)提婆/尊者(そんじや)とて、五/逆(ぎやく) 00002950L8の(三ウ)だいばにおなじといハんや、かくいふものゝなれ 00002960L9のはてこそ、あハれなれ、はらをさかれ、はり木をかハれ、 00002970¥G 00002980M1日にほされて/引張章魚(ひつはりだこ)といはれつゝ、身の後のうき名をな 00002990M2がすことのいたハしさよ、といへバ、たこ大きに/腹(ハら)だち、 00003000M3なんぢハ/陸(くが)にあげられ、日にほされて、するめといハれ、 00003010M4きざまるゝこそ口おしけれ、ほうしながら世におちける事 00003020M5うたがひなし(四オ)など、さま※いさかひけり。かゝる 00003030M6世にいさかひ給ふはよしなし、/両方(りやうハう)ながら名ある法師の身 00003040M7として、/獅子身中(しゝしんちう)の/虫(むし)といはれんは、/恥(はぢ)にあらずや、/紫衣(しゑ) 00003050M8のくらゐにあがりて、/問答(もんだう)ハ/老気(おとなげ)なし、/烏賊(いか)にも/道理(たうり)ハあ 00003060M9る物を、/禅法(ぜんほう)の/話則(わそく)にはずれず、/僧(そう)の/上堂(しやうだう)の時、/仏法(ふつほう)を尋 00003070M10るに、いかなるかこれと/問(とひ)かくるハ、/烏賊(いか)を仏法のもとゝ 00003080M11せられたり、仏も(四ウ)これをこのミ給ひて、/無量寿経(むりやうじゆきやう)に 00003090M12ハ、いかじやうにとゝかれたり、又たこをも経に/説(とき)給ひし 00003100M13ハ、あのくたらたこ三百参文とみえたり、いづれもをとら 00003110M14ぬ御事也、しづまり給へとあつかひければ、/烏賊(いか)も/章魚(たこ)も 00003120M15波のそこに入にけり。さてかくぞよみける、 00003130M16△△/生死(いきしに)のうみをわたらんミのりにハ 00003140M17△△△ふねいかだこそたとへにもすれ(五オ) 00003150M18とよみけるハ、ねごとにてぞ有け△△(五ウ)(六オ挿画) 00003160¥P14 00003170¥N2¥J 00003180¥X/三途川(さうづがハ)の/姥(うば) 00003190L3/二月(きさらぎ)のころ、心ちわづらひけり。京/田舎(ゐなか)にかくれもなき、 00003200L4くすしの/功者(こうしや)/竹斎(ちくさい)を頼ミて、やうじやうをせしが、只一/服(ふく) 00003210L5にて、はかなくなりぬ。それより只一人、さいの河原をた 00003220L6どりゆくに、いとけなき子どものあまたあそぶ。まことに 00003230L7あハれにおぼえて、見めぐらせバ、日もやう+入がたに 00003240L8なりしほどに(六ウ)子どもみなこゑをそろへて、/父(ちゝ)よ/母(はゝ)よ 00003250L9とよばゝる。かゝるところへ、ぢざうぼさつおハして、/錫= 00003260L10杖(しやく=ぢやう)の/柄(え)にて、子ども一ところにかきあつめ、御ふところよ 00003270L11り、/地黄煎(ちわうせん)、/氷砂糖(こほりさたう)、/土(つち)でつくりし/狗(ゑ)の/子(ころ)、おきあがり小 00003280L12/法師(ほうし)、さま+取出してあたへ給ひ、なぐさめ給ふぞ有が 00003290L13たき。それより/三途川(さうづかハ)のはたに行ければ、なにやらん、こ 00003300L14との外なる/口舌(くぜつ)ありて、/関(せき)をす(七オ)へて、河むかひへわ 00003310L15たさず。何事ぞと聞けれバ、あるものこたへていふやう、 00003320L16此過つる正月の/末(すゑ)かたに、/姥(うバ)ものさびしさに、河バたの柳 00003330L17ハらを見やりて、 00003340L18△△春かぜに柳のいとをくりためて 00003350L19△△△はなのころもををるかさほひめ 00003360M1とうちながめ、心をすますところに、あみがさ、まぶかに 00003370M2引こミ、ふる小袖きたるもの、(七ウ)こしにハかごを付、 00003380M3/小手網(さであミ)をつかふて、/三途川(さうつかハ)の河上さしてのぼる。/姥(うバ)これを 00003390M4見付て、此川はせつしやうきんだんの所なるに、あミをつ 00003400M5かふこそやすからね、/獄卒(こくそつ)どもハなきか、あれからめとり 00003410M6て、みせしめにせよとわめかれしかバ、此もの網をうちす 00003420M7てゝにげうせたり。其網をとりて家のまへなる、/衣領樹(ゑりやうしゆ) 00003430M8といふ木にうちかけて(八オ)ほされしところに、此ごろぢ 00003440M9ざうぼさつ、こゝもとを通り給ひて、此/網(あミ)ハそれがし/迦羅= 00003450M10陀山(から=だせん)にして、すかせたる網にて、ひさうしける/ゝ((ママ))/処(ところ)に、ち 00003460M11かきころ、ぬす人にとられたり、/方ゝ(はう+)尋るを、爰にほした 00003470M12るこそ心えね、/姥(うバ)におひてハ、ゑんまわうにとゞけて、/急= 00003480M13度(きつ=と)くせ事におこなふべしとの給ふ。姥大きにはらをたち、 00003490M14われをんなの身(八ウ)として、こと更としより、子もなき 00003500M15ものなれバ、たよりすくなう心ぼそきミづからを、うばな 00003510M16りとて、あなづり給ひ、/無実(むしつ)を申かけらるゝこそやすから 00003520M17ね、いで其ころ/小手(さで)つかふて、此川の魚をとりしハ、ぢざ 00003530M18うなるべし、にあハぬ事かな、せつしやうをこのミ給ふ、 00003540M19こと更/殺生(せつしやう)きんだんの所にして、/法度(はつと)をやぶり給ふこそ、大 00003550¥P15 00003560L1きなる(九オ)/科(とが)人なれ、ゑんまわうハ一門の事なれば、心 00003570L2やすさに/姥(うば)をくせごとにおこなハせんとや、/公事沙汰(くじさた)ハひ 00003580L3ゐき/偏頗(へんば)ハあるまじき物をとて、さん+にわめきどよま 00003590L4れけり。ぢざうはらをたて給ひ、ゑんまわうにことハり給 00003600L5へハ、/倶生神(くしやうじん)をつかハして、姥をよびよせ、/対決(たいけつ)有けれ 00003610L6ども、魚をとりしハぢざうなりとも、網をぬすミたるが/姥(うば) 00003620L7なりとも、其(九ウ)せうこなく、せんさくなかバなれバ、 00003630L8ぢごくもごくらくも人どめにて、とをさずとかや。めいど 00003640L9の十わう達、さま+/分別(ふんへつ)し給へども/埓(らち)あかず。さらバ/人= 00003650¥G 00003660M1間界(にん=けんかい)の/公事(くじ)の/批判(ひはん)を見よとて、/棠陰秘事(たういんひじ)といふ書物を、し 00003670M2やばせかいよりとりよせて見給へども、よめかぬるよし聞 00003680M3えたり。人どめならバもどらばやとおもひ、そろ+と立 00003690M4かへるを、跡より(十オ)ごくそつどものがすましとてをひ 00003700M5かけたり。爰をさいごと/逃(にげ)のびて、かへるとおぼえたれば、 00003710M6心地/煩(わつら)ふとおぼえしより、みな夢にてさめにけり。夢ハい 00003720M7なものかな、あるべくもなき事を見けるよと、われながら 00003730M8をかしくて、かくぞおもひつゞけける、 00003740M9△△なむあミをぬすまれ給ふお/地蔵(ちざう)ハ 00003750M10△△△たのむ/衆生(しゆじやう)をなにですくハん(十ウ)(十一十五オ挿画) 00003760¥N3¥J 00003770¥Xむさしあぶミ 00003780M13あるゆふぐれの事なるに、世に/住(すミ)ゆびつゝ、門に立出てう 00003790M14ちながめ、いづくもおなじ秋の夕ぐれといへる/歌(うた)を、/吟(きん)じ 00003800M15ゐたりける折ふし、あやしげなる男きたりて、これかひ給 00003810M16へといふ。何ぞととへバ、うちでの小/槌(づち)なりといふ。/代物(だいもつ) 00003820M17はなハだやすかりければ、古ぬのこ/質(しち)にをきて/買(かひ)とりぬ。 00003830M18/妻(つま)に(十一十五ウ)見せければ、めでたきものかひ給へりと、 00003840M19よろこふ事かぎりなし。さらバまづ/銀(かね)をうち出し、日ごろ 00003850¥P16 00003860L1ほしき物かハんとて、しろかねこがねととなへてうちけれ 00003870L2バ、/金銀(きん+)のわきいづる事かぎりなし。いつしか/俄(にハかに)にぶげん 00003880L3しやになり、家をたてなをし、人あまためしつかふ。子ど 00003890L4もにも/乳母(おち)めのとつけてそだてけるほどに、そのかミすり 00003900L5きりた(十六オ)る事ハおもひわすれ、えようにほこること 00003910L6たぐひなし。出いる人数しらずまいりへつらふ。夜るひる 00003920L7となきたのしミハ、世にならぶ人なし。さる程に心おごり 00003930L8て、行かよふかた出きたり。/女房(にようバう)これを聞付て、りむきい 00003940L9さかひをする事/毎日(まいにち)也。そのぎならバいとまをとらすると 00003950L10いへども、まづしき/世帯(せたい)をへあがりて、今/更(さら)われをさる 00003960L11(十六ウ)ことハなるまいといふ。うるさき事におもひける。 00003970L12うち出したる金銀もミなになりければ、又うち出さんとて 00003980L13小/槌(つち)をとりいだす。女房これを見て、又かの行かよふ女が 00003990L14もとへ金銀をつかハさんといふ事か、すこしもやらすまひ 00004000L15とてとりつく。あまりにめいハくして、うるさいことやと 00004010L16て、/槌(つち)をうちけれバ、槌の下より、うるさいといふものが 00004020L17(十七オ)わき出ける程に、あをき/色(いろ)あかき色さま+のう 00004030L18るさいが、家のうちにわきミちて、四方よりとりつめけれ 00004040L19ば、身もおもくいきもはづむ程わきみちて、今ハ五/色(しき)のう 00004050¥G 00004060M11るさいにとりつめられ、うん+とうめくほどに、/汗(あせ)水に 00004070M12なりて夢ハさめにけり。むさしあぶミといふうたをおもひ 00004080M13出て、かくぞよ/□((みカ))ける、(十七ウ) 00004090M14△△むさしあぶミさすかに/銀(かね)をうつ/槌(つち)ハ 00004100M15△△△となへねば出ずうてばうるさし(十八オ)(十八ウ挿画) 00004110¥N4¥J 00004120¥X見こし/入道(にうだう) 00004130M18/庚申待(かうしんまち)に、さるかたへよバれて、/夜半(よハ)過るまではなしける 00004140M19が、あまりにねふたう覚えければ、/座(ざ)をたちつゝかへりけ 00004150¥P17 00004160L1り。いまだ/夜食(やしよく)も出ざりしかバ、うそ物さびしく、くらき 00004170L2みちをたどり+かへるほどに、むかひをミれバ何ハしら 00004180L3ず、その/長(たけ)一/丈余(ぢやうあま)りなる/坊主(ハうず)すくりと立はたかりゐたり。 00004190L4(十九オ)日ごろ聞つたへたる、みこし/入道(にうだう)よと、きもたま 00004200L5しゐも身にそハず、/雲(くも)すきにみれバ、/額(ひたい)にもむねにも、は 00004210L6らにも、ひとつづゝ目のありて、きらり+とひかる。お 00004220L7そろしさかぎりなく、ミこしにうだう様、たすけてたび給 00004230L8へ+と、こゑをはかりに、わびことをいたしけれバ、立 00004240L9とまりてうごかず。おづ+ちかくはひよりてミれば、み 00004250¥G 00004260M1こし入(十九ウ)道にハあらで、大きなる五/輪(りん)にてぞありけ 00004270M2る。ひたいむねはらに、ひとつづゝ目のありて、ひかると 00004280M3みえしハ、五りんの/梵字(ぼんじ)をきんばくにてしるしたる也。あ 00004290M4なくちおし、かゝるものにおそれたる事よ、うちたをいて、 00004300M5のけんとおもひ、ちからにまかせてふミけれバ、まへのか 00004310M6たへこけたる石にて、むかふすねをうちおりうめくほどに、 00004320M7女房おどろ(二十オ)き、おそハれ給ふかとて、おこしたれ 00004330M8ば、ゆめさめたり。木まくらをあしもとにをきたるが、足 00004340M9にさハりて、かくぞおほえたる、 00004350M10△△二こしをさしたるわれををどしける 00004360M11△△△/石(せき)たうをミればみこしにうだう(二十ウ)(二十一オ挿画) 00004370¥N5¥J 00004380¥Xへびとむかで 00004390M14草むらの中に物/音(をと)こそ聞ゆれ。何やらんと立聞たれば、へ 00004400M15びとむかでとたちあひ、さま+/問答(もんだう)をするにぞ有ける。 00004410M16/蛇(へび)のいふやう、それがし生れつき足ひとつももたずといへ 00004420M17ども、はしる事風のごとく、木にのぼり水ををよぐ、すべ 00004430M18て心のまゝなり、なんぢハかたちにすぎて足おほく、しか 00004440M19も(二十一ウ)道ゆく事おそし、木にのぼり水ををよぐに、 00004450¥P18 00004460L1こゝろのまゝならず、されば/足(あし)/過(すぎ)て/用(よう)すくなし、/大過不及(たいくハふぎう) 00004470L2のいましめ、こゝにあり、その足ミなきりすてよ、しかも 00004480L3/汝(なんぢ)が一/門(もん)たるけち+も、足おほくして、見にくしとわら 00004490L4ひければ、むかで聞ていふやう、足のおほきをわらひ給ふ 00004500L5御かたの、又ひとつも/持(もち)給ハぬすがたこそ、たゝくれた 00004510L6(二十二オ)る/緒綱(をつな)に目口の付たるこゝちぞする、あしハ世の 00004520L7てうほうにて、ものゝ/用(よう)をはやくとゝのへ侍べるゆへに、 00004530L8/銭(ぜに)をおあしとハ申す事なり、げぢ+までをそしり給ふ事 00004540L9いはれなし、汝が一門の/石龍子(とかき)こそ、足をうらやましがり 00004550L10て、四/本(ほん)までもたれたり、むようのあしならバ、それをも 00004560L11きりてすてさせ、くさり/縄(なハ)のきれのめくちあるやうに(二 00004570L12十二ウ)つくりなをせ、といふ。/蛇(へび)大きにはらをたて、緒づ 00004580L13なのかしらにめくちの付たるやう也とハくちおしや、なん 00004590L14ぢがかたちハ、又/端(はた)の/折(おれ)たるたうぐしのごとし、いで+ 00004600L15それがしハ、地に住事ひさしく、後にハ/龍(りやう)となりて雲をお 00004610L16こし、雨をふらし天にのぼる、又もろ+の神たちのかた 00004620L17ちをあらはし給ふときも、大かたハ/蛇(へび)のすがたをげ(二十三 00004630L18オ)むじ給ふ、銭神といはるゝも又、これへびのかたちな 00004640L19り、人もし夢に/蛇(へび)をミれバ、銭をまうくるといふ事うたが 00004650M1ひなし、かゝるそれがしをあなどるこそ、いこんなれ、と 00004660M2いふ。むかで聞て、雲をおこし雨をふらする事ハ、/龍王(りうわう)の 00004670M3/所作(しよさ)なり、五こくをやしなふ/徳(とく)あり、蛇の天にのぼるハ、 00004680M4/用(よう)にもたゝぬ四五月の、大雨の中に雨をそ(二十三ウ)へて、 00004690M5田をながし人をそこなふ、これ大きなる/害(がい)となれり、そも 00004700M6我等と申ハ、かたじけなくも、/毘沙門(びしやもん)の/使者(ししや)として、/福(ふく)の 00004710M7神とあふがれ、かの正月の/初(はつ)とらの日に、くらまの山にま 00004720M8いる人、もし/蚣(むかで)を見付ぬれば、それより/富貴(ふつき)になる事うた 00004730M9がひなし、なんぢらハ、水にすむ/蛙(かハづ)をあハれげもなく、/生(いき) 00004740M10ながらのミ、/梁(うつバり)にすをくふつバくら(二十四オ)をむごくこ 00004750M11れをくらひて、なさけもしらぬ天ばちにて、/焼野(やけの)のきじを 00004760M12まきては、ほろゝのはねにきれ+にきられ、あきの/彼岸(ひがん) 00004770M13過ぬれバ、両の目つぶれて物も見ず、/蜒(なめくじり)にあひてハ、/血(ち)の 00004780M14/涕(なミだ)をながし、すくミ/死(しに)にするこそをかしけれ、といふ。/蛇(へび) 00004790M15聞て大きにはらをたて、うろこをさかしまになし、をのれ 00004800M16も/蛙(かへる)にあひてハ/腰(こし)ぬけ、(二十四ウ)人の/唾(つハき)を見ては/気(き)をと 00004810M17りうしなふ、かゝるくせものとして、/悪口(あつこう)するこそにくけ 00004820M18れとて、すでにまきつかんとす。むかでもこゝろえたりと 00004830M19て、口わきの大ばさみをひろげて待かけたり。これハそも 00004840¥P19 00004850L1いか成事ぞ、まづ+しづまりて、わがいふことをよくき 00004860L2けとて、両方へおしわけていはく、我此としごろ、此地の 00004870L3あるじとして(二十五オ)住はんべる、しかれども、すりき 00004880L4りたる事たぐひなし、これハおあしのなきゆへなれバ、/蚣(むかで) 00004890L5どのゝ足もうら山し、されば蚣の/方人(かたうど)せんとおもへども、 00004900L6/本(もと)よりおあしのなき身なれば、/蛇(へび)どのゝかたもすてられす、 00004910L7只/中分(ちうぶん)をとりて申さバ、足のひとつもなきと、又あし過た 00004920L8ると、まこと/大過(たいくハ)と/不及(ふぎう)と、その/理(り)おなじ、こゝに/勝劣(せうれつ)あ 00004930L9るべから(二十五ウ)す、今わがよむ/歌(うた)をきけとて、まづむ 00004940L10かでのあしを/題(だい)にて、 00004950L11△△かりつミてなさぬおあしのおほけれバ 00004960L12△△△なをすりきるや/帋(かミ)ぎぬのすそ 00004970L13/次(つぎ)にへびを題にて、 00004980L14△△かせぎをバ夜を日につげと/身上(しんしやう)も 00004990L15△△△おあしなければあがりこそせね 00005000L16されば足のあるなきハ、ときによりこと(二十六オ)により 00005010L17て、よしわろしあるべし、むようのいさかひせんより、わ 00005020L18が此うたを一/首(しゆ)づゝとりておぼえよといふ。たけきものゝ 00005030L19ふ、おそろしき/鬼神(おにかミ)だにも、哥にハこゝろのやはらぐとか 00005040M1や。かれらも此哥にはらをゐてやありけん、草むらのもと 00005050M2にわかれ入ぬ。あつかひすましたりとおもふ程に、夢さめ 00005060M3て我ながらおちぶれたる/身上(しんしやう)を、ゆめ(二十六ウ)のうちに 00005070M4さへ、しゆつくハいせしこそをかしけれと、まくらをあげ 00005080M5ておき立ければ、折ふしひバりのさえづるこゑの聞えけれ 00005090M6バ、かくぞよみける、 00005100M7△△わが/世帯(せたい)あがる/雲雀(ひばり)のごとくにて 00005110M8△△△さがることこそ/矢(や)よりはやけれ 00005120M9△△△△△△△△△△△△△△△△(二十七オ)(二十七ウ挿画) 00005130¥G 00005140¥P20 00005150¥Y1秋の夜の友△巻三目録 00005160L3△△びんぼう/神(かミ)付/米(こめ)の値上 00005170L4△△/恋(こひ)のこがね 00005180L5△△さしもぐさ 00005190L6△△/唐(から)くちなしの花 00005200L7△△ふえ竹(一オ) 00005210¥T1秋の夜の友△第三 00005220¥N1¥J 00005230¥X/貧乏神(びんぼうがミ)付米の/値上(ねあげ) 00005240M5此ごろはこと/更(さら)げほうのくだり/坂(さか)になりて、いよ+/仕合(しあハせ) 00005250M6わろく、只ひとえなるかきかたびらも、すそハます+す 00005260M7りきりて、/尾(お)のぬけたる/鶉(うづら)のごとく、かたちはやせつかれ 00005270M8て、/雲雀(ひばり)をむしりたるやうになり、身すぎのいそがしさに 00005280M9ハ、/足(あし)(二オ)を/章魚(たこ)からけにからげ、/肩(かた)にハ/烏賊(いか)だすきを 00005290M10かけ、あなたこなたすれども、なをいづくもおなじ秋の風 00005300M11ハ、やせたるむなすだれにあたりて、すさまじく、あをつ 00005310M12ゞらおひものおほくかさなりて、すみわびたる/古家(ふるいゑ)のあバ 00005320M13らぼねにこだハりて/堪(たへ)がたかりけれバ、此うへにハとかく 00005330M14うき世をいとひはなれつゝ、もろこしのよしのゝ山のおく 00005340M15の(二ウ)とろくへもわけいらばやとおもふにも、こぼるゝ 00005350M16/涕(なミだ)ハ日ごろより大つぶになりて、おそふる袖にあまるをミ 00005360M17れば、とち程なるなみたにてぞ有ける。/道因(たうゐん)法師が、 00005370M18△△おもひわびさても/命(いのち)ハあるものを 00005380M19△△△うきにたえぬは/涕(なミた)なりけり 00005390¥P21 00005400L1とよみしことまでおもひつらね、此法師も、そのかみ/左馬(さま) 00005410L2のすけ/敦頼(あつより)といひし(三オ)時に、さこそハすりきりつゝ、 00005420L3せんかたなさに此哥をよみて、/道心(だうしん)をやおこしけんと、見 00005430L4ぬいにしへまでおもひやりて、世の取さたをきけバ、いた 00005440L5きうへの/針(はり)とかや。此程ハ米のねだんさへことの/外(ほか)にたか 00005450L6くあがりて、/雲(くも)のうへ人ハよろこび給ふらん。まづしき/下(した) 00005460L7づかたハ、いよ+地のそこにしづミ入やうにおぼゆ。さ 00005470L8てかくぞよみける、(三ウ) 00005480L9△△米のねにむねのうちをもこがすらし 00005490L10△△△いづれの日よりあがりそめけん 00005500L11とうちわびつゝ/居(お)る。 00005510L12△△あけぬれバさがるものとハしりながら 00005520L13△△△なをうらめしき米/問(とひ)屋かな 00005530L14とあらぬところまでうらみかこちけるが、又思ひけるやう、 00005540L15一升入へうたんハ、大/海(かい)にても一升とハいへども、又立よ 00005550L16らハ大木のかげ(四オ)といふことあり。/住(すミ)どころのあしけ 00005560L17ればにや、いよ+まづしくもなるらん。/宿(やど)をかへてみバ 00005570L18やとおもひ、一/跡(せき)を一/荷(か)にになひて出たれバ、まへなる/荷= 00005580L19物(に=もつ)のうへより、小/房主(ばうず)一人こけ/落(おち)たり。さてをのれハ今ま 00005590M1でミなれもせず、いかなるものなれば/我荷物(わかにもつ)のうへより、 00005600M2こけおちたるといへバ、小ぼうしがいハく、我ハ/貧乏神(びんぼうがミ)な 00005610M3りといふ。これハにくき事(四ウ)かな、此とし月かせげど 00005620M4も+、只まづしきのミにして、/仕合(しあハせ)のなをらぬハ、を 00005630M5のれがわざかやといふ。小ぼうしがいはく、さのミ我計を 00005640M6にくみ給ふな、此一/荷(か)の/荷物(にもつ)のうへに/貧乏神(びんほうがミ)がいくらとい 00005650M7ふ数なくのり侍る、あまりせバくしてをしあひつゝ、われ 00005660M8ハ只今/荷(に)のうへよりおしおとされたりとて、又荷のうへに 00005670M9のらんとするを、つきたをしうちふ(五オ)せ、くみあひ、 00005680¥G 00005690¥P22 00005700L1つかミあひするとおぼえて、ゆめハさめにけり。あまりの 00005710L2ことにあきれはてゝ、かくぞよみける、 00005720L3△△もろともにあハれとおもへびんぼうの 00005730L4△△△神よりほかにしる人もなし(五ウ)(六オ挿画) 00005740¥N2¥J 00005750¥X/恋(こひ)のこがね 00005760L7こゝちれいならず/煩(わつら)ふ事あり。/野父(やぶ)ぐすしを頼ミて/脉(ミやく)をと 00005770L8らすれども、何やまひともしることなし。只/欝気(うつき)の/煩(わつら)ひな 00005780L9りといふ。さらハとて、/香蘇散(かうそさん)ハ/軽散(きやうさん)の/剤(ざい)にして、よく/欝= 00005790L10証(うつ=しやう)をひらくといへども、少もしるしなし。又/配剤(はいざい)をかへ、 00005800L11/匕(さぢ)かげんして/順気流気六欝湯越鞠丸(じゆんきりうきりくうつたうゑつきくぐハん)など、さま+/薬((ママ))(六 00005810L12ウ)の/薬(くすり)を、みゝなしの山程のめどもきく事なし。今ハは 00005820L13や、くすしも/退屈(たいくつ)して、さのみをしたてたる/煩(わつら)ひともみえ 00005830L14ず、又薬もまハらず、さて心のそこにおもふことハなきか 00005840L15といふ。今ハ何をかつゝみ侍らん、それがしあらぬかたに 00005850L16こゝろひかれて、恋のやまひの付て候といふ。くすし聞て 00005860L17手をうち、さて/身上(しんしやう)にもにあハぬすりきりの、(七オ)/手前(てまへ) 00005870L18をこそ/案(あん)じもせよかし、むようの/恋(こひ)をもするものかな、さ 00005880L19て恋にもさま+あり、見る恋、きくこひ、うらむる恋、 00005890M1/忘(わす)らるゝこひ、/逢(あふ)てあハざるこひなどいへり、いかなる恋 00005900M2をかするととハれしに、いやそれがしハひとつやふたつの 00005910M3ことでハ御ざない、こひといふ恋をつくねあつめて、一/同(どう) 00005920M4に/煩(わつら)ひ出し侍り、おもひそめしよりこのかたは、(七ウ)ミ 00005930M5れハ恋しく、/聞(きけ)バ恋しく、/適(たま)+/逢(あふ)てはそのまゝわかれ、 00005940M6/忘(わす)られではこひしく、夜もすがらおも影にたち、ひねもす 00005950M7にうつつにみえ、立てもゐてもねてもさめても、只此きみ 00005960M8のミわすられす、おもひあまりて、やまひとなり侍りとて、 00005970M9なく+かくぞよみける、 00005980M10△△かきくらしねてもさめてもこゝろから(八オ) 00005990M11△△△人をおもひのしのバれもせず 00006000M12まことに/貧(ひん)のぬすみ/恋(こひ)の/歌(うた)とて、をのづからに/仕(し)ならふ事 00006010M13なりと申す。これハ哥の/躰(てい)には/折句(おりく)と申よし聞給へといふ。 00006020M14くすし此歌をうち返し+/吟(ぎん)じて、此うたまことに、こひ 00006030M15の折句と聞ゆ、さてハ、かねこひしといふことを、/句(く)のか 00006040M16みにをきて、恋の心をよめるにや、かたのごとく(八ウ)を 00006050M17よハぬ恋をもする人かな、そのわづらひにハ、/黄(わう)ごん/湯(たう)に 00006060M18/金銀花(きん+くハ)をくハへて、あたへてよしとて、/金子(きんす)五両つゝみて 00006070M19給るに、立どころに/本復(ほんぶく)しけり。手をあハせ、くすしを/礼= 00006080¥P23 00006090L1拝(らい=はい)し、天ぢくの/耆婆(ぎば)、もろこしの/扁鵲(へんじやく)、わがてうのいにし 00006100L2へ一/渓(けい)/道三(だうさん)といふとも、これ程の/療治(りやうぢ)の/上手(じやうず)とハ聞もをよ 00006110L3バず、おやくしにてこそ、おハしませとて、(九オ)おがむ。 00006120L4くすしハうち笑ひて、立かへりけるを、門をくりに出ると 00006130L5おぼえて夢さめぬ。夢としりせバさめざらましをといへる 00006140L6/古哥(こか)を思ひ出て、残りおほさかぎりなし。/西(にし)のかたをミれ 00006150L7ば、入のこりたる有明の月、山のはに、かたふきたるを、 00006160L8うちながめて、 00006170L9△△やぶぐすしいにつるかたをながむれハ 00006180¥G 00006190M1△△△たゞ/晨明(ありあけ)の月ぞのこれる(九ウ)(十十四オ挿画) 00006200¥N3¥J 00006210¥Xさしもぐさ 00006220M4むかし/実方(さねかた)の/中将(ちうじやう)ハ、/病者(びやうじや)に有けるにや、おり+/灸(きう)をめ 00006230M5されしが、/章門(しやうもん)の灸たへがたく、あつかりけれバ、かくぞ 00006240M6よまれける、 00006250M7△△かくとだにえやハいぶきのさしも草 00006260M8△△△さしもしらじなもゆるあつさを 00006270M9されバ、いぶきもぐさハ、よそのもぐさよりも、/灸(きう)にして 00006280M10一しほあつきとかや申/伝(つた)へし(十十四ウ)とかたる。それな 00006290M11らバ、しめぢが/原(はら)のさしもぐさを、やいとにすへたらんに 00006300M12ハ、あつうはあるまひ、かたじけなくも、くハんおんの御 00006310M13せいぐハんに、 00006320M14△△たゞたのめしめぢが原のさしも草 00006330M15△△△われ世の中にあらんかぎりは 00006340M16されバ、/観音(くハんおん)経に、ねびくハんおんと/説(とか)れたり。御ちかひ 00006350M17にまかせて、しめぢが原の(十五オ)/蓬(えもぎ)をもとめ、もぐさに 00006360M18して/灸治(きうぢ)せんとするに、/清少納言(せいせうなごん)がのぶる物きうの日ぎり 00006370M19とかきけるごとく、きのふけふと日をのバしけり。やう 00006380¥P24 00006390¥G 00006400L11+きりもぐさつくり出し、/南無観世音(なむくハんせおん)ととなへて、まづ 00006410L12ふじ三里を/灸(きう)するに、かハきりよりはじめて、あつさにあ 00006420L13せながれ、身もうきしまが/原(ハら)となりけるを、灸のあつきか 00006430L14と、人のとひ(十五ウ)ければ、 00006440L15△△忍ぶれど色に出にけりわが/足(あし)の 00006450L16△△△/灸(きう)やあつきと人のとふまで 00006460L17とよみけるうちに、火をつけたるもぐさをとりおとし、う 00006470L18ちまたへ入ければ、あらあつやとて、/足(あし)をはねければ、/火= 00006480L19鉢(ひ=はち)におこしたる/炭(すミ)火をふミこぼし、ゆびのまたに、おきの 00006490M1はざかまりて、したゝかにやけど(十六オ)をしけり。かの 00006500M2伊勢物語の哥に、 00006510M3△△おきのゐて身をやくよりもかなしきハ 00006520M4△△△/都(ミやこ)しまべのわかれなりけり 00006530M5といふことをおもひ出て、 00006540M6△△おきのゐて足を/焼(やく)よりかなしきハ 00006550M7△△△/豊嶋(てしま)むしろのこぐる/成(なり)けり 00006560M8とよミしハ、ゆめのうちのことなりかし。(十六ウ)(十七オ挿 00006570M9画) 00006580¥N4¥J 00006590¥X/唐梔子(からくちなし)の花 00006600M12/下手(へた)の/碁(ご)うち、/貧乏(びんほう)/木数奇(ぼくずき)、大かたすかばこゝろえよと、 00006610M13世の人の申つたへし。/佐野(さの)の源左衛門/経世(つねよ)といへる/古牢人(ふるらうにん) 00006620M14も、おちぶれて後、ことの/外(ほか)に木ずきをせられし。/博奕(ばくち)/傾= 00006630M15城(けい=せい)ぐるひをこのむ、/不覚人(ふかくじん)だにあるに、又木/草(くさ)をすきて、 00006640M16もてあそぶは、すりきりの心にハしほらしや。人の(十七ウ) 00006650M17かたやに/借屋(しやくや)すまゐをして、屋/賃(ちん)をさへなしかね、その日 00006660M18すぎのいらち/貧乏(びんぼう)人、ことのたとへに、/胡雀(あつとり)の火にくバり 00006670M19たるやうにあハたゝしく、/渡世(とせい)のかせぎいとなむ中に、木 00006680¥P25 00006690L1草を/愛(あひ)してもてあそぶ。さらバ/植(うへ)どころも心のまゝならぬ 00006700L2に、日かげかたすみに、/古(ふる)きつるべ/火鉢(ひばち)の/破(われ)に/植(うへ)たるも、 00006710L3けうとしや。此ごろ世にはやるものハ、/五月(さつき)(十八オ)つゝ 00006720L4じにて上下もてあそぶ。いたりて、まづしき人は、あハび 00006730L5の/貝(かい)にうへてなりとも、さつきつゝじをもたねば、人でハ 00006740L6なひと思へり。されば、もとむるにきたり、/愛(あひ)するにひか 00006750L7りをますといふがごとく、あかき、白き、むらさき、うす 00006760L8色、八/重(え)、千/葉(よう)、万/葉(よう)、さき/分(わけ)、いろ+ありて、何れも 00006770L9をの+色をあらそふ。さらハ、我ももとめてみバやと 00006780L10(十八ウ)おもひ、二三/種(しゆ)四五種とあつめけれバ、/源氏(げんじ)/平家(へいけ) 00006790L11ハ、はたじろはたあか、白くあかくさだまらぬハ、このて 00006800L12がしはの二おもて、名におう十五/葉(よう)の/名月(めいげつ)もあり/明(あけ)の/李月(りげつ)、 00006810L13/清白(せいはく)はみなしろく、らかんいふそのむらさきは、花のゆか 00006820L14りの名もしるし。かやうのしな+おほくなりて、/余(よ)の草 00006830L15木のはなどもハ、/顔色(がんしよく)なきがごとくなり。これにすき出て、 00006840L16(十九オ)夜るひるもてあそぶほどに、/渡世(とせい)ハわきになる。 00006850L17これ程はやれども、世にしろき千ようのさつきつゝじのな 00006860L18きゆへに、/諸国(しよこく)をあまねくもとむると聞て、あハれ是をも 00006870L19とめえたらバ、一/夜(や)/検校(けんげう)に/仕合(しあハせ)を取なをしてんものをと、 00006880M1白千ようの、ほしさかぎりなし。かくぞおもひつゞけける、 00006890M2△△世の中にたえてさつきのなかりせバ(十九ウ) 00006900M3△△△はるのこゝろハのどけからまし 00006910M4いかにもして、あかき千よう、ことしばかりハしろく咲か 00006920M5しと、よるひるこれを/念(ねん)ずるところに、/卯(う)月の中ころより、 00006930M6千ようの白さつきこそほころび出たれ。あハれ/出来(でき)物かな 00006940M7と、あらき風にもあてじ、人に一/葉(は)ももがれじとまもり/居(お) 00006950M8る。日にそへて花ぶさ大きになりけれバ、心おもしろく 00006960M9(二十オ)これぞせかいのまんなか、又あつたものでハなひ 00006970M10とおもふうちに、一りん二りんひらけ出たり。千ようの白 00006980M11さつきこそあれと、世にひろうすれば、人ミな聞つたへ、 00006990M12めづらしがりて見にきたる。/好事(かうじ)のものほしがりて、ねだ 00007000M13んをたつる。百両二百両と付あぐる。ことしよりはや人に 00007010M14なりたると、ひげくひそらし、としてかくして(二十ウ)と、 00007020M15/分際者(ぶげんしや)のあらましをおもひたくむ程に、よく+ミればさ 00007030M16つきにハあらで、からくちなしの花のさきたるにてぞ有け 00007040M17る。世のわらひ草になり、くちおしき事かぎりなし。ねご 00007050M18しにして、さん+にうち折、火にくべたれども、これに 00007060M19かゝりて、/借銭(しやくせん)おほくなり、身のをきどころもなくなりに 00007070¥P26 00007080L1ければ、(二十一オ) 00007090L2△△うへをきし/五月(さつき)が花にだまされて 00007100L3△△△あハれことしの/秋(あき)はいぬめり 00007110L4とよみて家を/忍(しの)び出、かけおちをするとおもひしが、つげ 00007120L5わたる/烏(からす)のこゑに夢さめたり。おき出てかくぞよミける、 00007130L6△△ちハやふる/神代(かミよ)もきかずさつき花 00007140L7△△△からくちなしに見まがゆるとハ 00007150L8△△△△△△△△△△△△△△△△(二十一ウ)(二十二オ挿画) 00007160¥G 00007170¥N5¥J 00007180¥X/笛(ふえ)竹 00007190M3こゝろならず世におちぶれて、せんかたのなきまゝに、今 00007200M4ハ/谷(たに)川のそこにながるゝ/橡(とち)からの身をすてゝも、世をわた 00007210M5らんとおもひて、 00007220M6△△わびぬれハ身をむさくさと/値(ね)を立て 00007230M7△△△やとふ人あらバいかんとぞおもふ 00007240M8とうち/詠(ゑい)じ/居(お)る。ある人/家(いゑ)/普請(ふしん)して(二十二ウ)/日用(ひよう)にやと 00007250M9ハんといふ。かしこまりぬとて、/朝(あさ)とくより行つゝ、日く 00007260M10るゝまで/手伝(てつだひ)はたらきけり。朝ぼらけのしたゝめのままに 00007270M11て、有/明(あけ)の月のいづるまで、なにをもくハず、/足(あし)もながれ 00007280M12て、ひだるかりけれは、 00007290M13△△ひたものにひざのよだるき春の日に 00007300M14△△△しづこゝろなくはらのへるらん 00007310M15とおもひつゞけて、かたハらをミれバ、見事(二十三オ)な 00007320M16る/笛(ふえ)のおちて有けるを、そのまゝとりあげ、ふところにさ 00007330M17して、家にかへらんとす。あるじ見付て、やれその笛ハこ 00007340M18ちの笛ぞ、ふえぬす人よとて、うちたをし、さん+に、 00007350M19ちやうちやくし、笛をばとりかへしつゝ、むなぐらをとら 00007360¥P27 00007370¥G 00007380L11へて、つきいださるゝとおぼえしが、まくらもとに有ける 00007390L12火ふき竹をにぎりすくみて、夢さめにけり。(二十三ウ)わ 00007400L13れながら、おかしくて、 00007410L14△△夢にだに/日用(ひよう)ひだるらうと/吹(ふく)笛と 00007420L15△△△ミしハ火ふきの竹にぞ有ける(二十四オ)(二十四ウ挿画) 00007430¥Y1秋の夜の友巻四△目録 00007440M3△△ねことねずみ 00007450M4△△でき/斎(さい) 00007460M5△△/石(いし)がめの/願(ぐハん)だて 00007470M6△△すんばく 00007480M7△△みゝかき/了(れう)(1オ) 00007490¥P28 00007500¥T1秋の夜の友△第四 00007510¥N1¥J 00007520¥Xねことねずみ 00007530L5ひごろ見なれぬ屋かたのうちに、人にもあらぬものおほく 00007540L6なミゐてみゆ。立よりて見きけバ/公事(くじ)/訴詔(そせう)の/躰(てい)なり。これ 00007550L7を/批判(ひはん)するものも、人にハあらで、いなもの也。こゝハそ 00007560L8も、いづくなるらんと、あやしさかぎりなし。かゝるとこ 00007570L9ろに、ねずミおほく(一オ)出きたり。/訴詔(そせう)しけるハ、これ 00007580L10ハかくれなき/長尾(なかお)の/鼠(ねすミ)次郎/穴住(あなずミ)と申ものなり、なましゐに 00007590L11/生(しやう)をうけながら、ちくるひと也、三/無差別(むしやへつ)の/性(しやう)をそなへな 00007600L12がら、/猶(なを)三/道(だう)の/果(くハ)をはなれす、春のあした、/桃李(たうり)の花ひら 00007610L13くれども、秋のゆふべ、/梧桐(ごとう)の/葉(は)おつれども、/飛花(ひくハ)/落葉(らくよう)の 00007620L14/観念(くハんねん)をも、おこさず、夜あくれハ、/宰予(さいよ)がひるねをくハた 00007630L15て(一ウ)て、日くるれハ、又おちものをひろひ、すべて/君= 00007640L16子(くん=し)のみちにたがふ、これ/生前(しやうぜん)の/難(なげ)き也といへども、今に/過(あやまち) 00007650L17をあらたむる事なし、こゝに/忰(かせ)/家代(いゑだい)+の/怨敵(おんでき)、/光目(ひかりめ)の/猫(ねこ) 00007660L18太郎/爪長(つめなが)といふものあり、がまん/非法(ひほう)のくせものとして、 00007670L19/鼬(いたち)をもつて、ひくハんとせり、そのかたちをいハゞ、/外(ほか)に 00007680M1ハ/虎(とら)のもん有て、うちにハ/狼(おほかミ)のこゝろをふくみ、ひるハ 00007690M2(二オ)/尾(お)ゝまげて、こたつのはたにうづくまり、/息(いき)の出入 00007700M3はぜんそくの、びやうじやのごとく、よるになれば、立あ 00007710M4がり、両がんより、ひかりをはなちて、かけめぐる事、ゐ 00007720M5だてんのごとし、人にやしなハれて、/主(しう)になつかず、じひ 00007730M6のこゝろハ、うのけもなく、/無道(むだう)のわざハ、/魚(うを)のうろこよ 00007740M7りおほし、ことさら我等にむかつて、あたをなす事、/妻子(さいし) 00007750M8けんぞく(二ウ)ミなもつて/害(がい)せらる、此ゆへに、うつバり 00007760M9のうへ、えんのしたにたゝずむといへども、さらにようじ 00007770M10んするに、ひまなし、天にせくゞまり、/地(ち)にぬきあしゝて、 00007780M11つねにおそれをなす、われら此/生(しやう)に、この身をうかへすハ、 00007790M12いつの時にか、/生死(いきしに)の/海(うミ)をバ渡るべきと、こゝろざしをバ、 00007800M13/弥陀(ミだ)の/本願(ほんぐハん)にかけ、十/方(ハう)/衆生(しゆじやう)のちかひを頼ミ、さやかなる 00007810M14(四オ)月にむかひてハ、/笙歌(せいが)はるかに聞ゆ/孤雲(こうん)のうへと、 00007820M15くハんじ、あざやかなる花をながめては、/聖衆(しやうしゆ)/来迎(らいかう)す/落日(らくじつ) 00007830M16のまへと/念(ねん)し、こゝろをすますところに、かのねこ太郎、 00007840M17くらまぎれより、/忍(しの)ひちかづき、とがりたる/爪(つめ)をのべて、 00007850M18/首(くび)すぢをつかむ、思ひよらずに、とらハれて、きもたまし 00007860M19ゐをうしなひ、りんじう正/念(ねん)十念/往生(わうじやう)の心(四ウ)をわすれ、 00007870¥P29 00007880L1只さいごの一/句(く)には、/自終実(じじうじつ)ととなへて、/息(いき)きれ命おハる、 00007890L2ねこ太郎ハ、むなしきかバねをなげほをり、手玉につきて、 00007900L3かしらよりくらふ、/鬼(おに)一口といふとも、これにハよも過じ、 00007910L4かたじけなくも我らハこれ、/須弥(しゆミ)/頂上(ちやうじやう)/■利(とうり)天のあるじ、 00007920L5/帝釈(たいしやく)の/化身(けしん)、大こくでんの/使者(ししや)として、つねにつかへ奉る、 00007930L6世の人ミな、/利分(りぶん)ふくとく(五オ)の/祈(いの)りとして、くやうの 00007940L7ものをそなへらるる。此/時分(じぶん)我等たなのすみ、だんの/辺(ほとり)に 00007950L8たゝずむ事、/供物(くもつ)をとらんためにあらず、/行者(ぎやうじや)の祈りを、 00007960L9ねんごろに大こくでんへ申さんがため也、かゝる/善根(ぜんごん)のも 00007970L10のに/対(たい)して、あたをなす事、大きなる/悪行(あくぎやう)ならずや、され 00007980L11ば/猫(ねこ)太郎、/猶(なを)これのみにかぎらず、こずえにあそぶ小鳥 00007990L12(五ウ)を見ては、/尾(お)をふりてのぞミ、ぼたん/花下(くハか)に、そら 00008000L13ねふりをしてハ、花にたハふるゝ/蝶(てふ)をとり、/壁(かべ)にぎんずる、 00008010L14きり+すにハ、みミをそばだてゝ、くちびるをねぶり、 00008020L15くさむらにすだく/鈴虫(すゝむし)をみてハ、目をくるめかして、足を 00008030L16そバだつ、とんばう、かへる、あぶはいまで、ほしゐまゝ 00008040L17に、わざはひをなす、よろしく/御政道(こせいたう)をくハへ給へ、と申 00008050L18す。(六オ)/獅子(しゝ)王きこしめされ、いそぎ/猫(ねこ)太郎をめしよせ 00008060L19ていハく、そも+わが/主君(しゆくん)/文殊大士(もんじゆだいじ)ハこれ、/釈尊(しやくそん)七代の 00008070M1/祖師(そし)として、/般若波羅蜜(はんにやはらミつ(ママ))ゆが上/乗(ぜう)の/智火(ちくハ)をかゝやかし、三 00008080M2世/覚母(かくも)の名をあらハし、/独歩(どくぼ)/無畏(むゐ)のゐりきをしめす、此ゆ 00008090M3へに、うでん大わうハ、十/善(ぜん)十力の/徳(とく)をそなへ、/善財童子(ぜんざいどうじ) 00008100M4ハ、五十五人のちしきをとふらふ、/皆(ミな)(六ウ)わがくつばミ 00008110M5を引て、とねりやつごと成給へり。我かたじけなくも、/文= 00008120M6殊(もん=じゆ)の/乗物(のりもの)となり、あるときハ、じやうミやうこじの/方丈(はうぢやう)に 00008130M7のぼりて、/真如(しんによ)/不二(ふに)のほうもんをきく、あるときは、りう 00008140M8ぐうせかいの/玉殿(きよくでん)にいたつて、/龍女(りうによ)/成仏(じやうぶつ)のをしへをきく、 00008150M9そのほか/会座(ゑざ)ごとにつらなりて、あまねく十二/分(ふん)一百/洛叉(らくしや) 00008160M10の/契経(かいきやう)をちやうもんせしに、つゐ(七オ)に、せつしやうを 00008170M11もつて、/善根(せんこん)とする/経論(きやうろん)をきかず、いかなれば/鼠(ねずミ)次郎に/対(たい) 00008180M12して、をんできとなる、その事まことならバ/曲(くせ)事たるべし、 00008190M13をよそ/生(いき)とし/生(いけ)るもの、のミ、しらミ、ぼうふりむしにい 00008200M14たるまで、いつれか命をおしまざらん、まづこゝろみに/汝(なんぢ) 00008210M15がかたきの、くろ/犬(いぬ)兵衛がまへにゆきてみよ、いかばかりか 00008220M16おそろしく、かなしかる(七ウ)べき、わが身をつミて、人 00008230M17のいたさをしるべし、それ大/慈(じ)大/悲(ひ)ハ、しゆつりげだつの 00008240M18/父母(ふも)也、なんぢ此ふたつをわするゝゆへに、久しく五だう 00008250M19にまよふべし、今より後は、かならずきのふの/非(ひ)をあらた 00008260¥P30 00008270L1め、/明日(あす)ハ是におもむくべし、もし此いましめをそむきて、 00008280L2せつしやうをとゞめずハ、/六害(ろくがい)の水ぜめにし、四/殺(せつ)の/剣(けん)に 00008290L3て、くびをきらんとぞ、い(八オ)ましめられける。/猫(ねこ)太郎 00008300L4承りていハく、ねずみ次郎が/濫訴(らんそ)のくハたて、はなハだも 00008310L5つて、わがまゝなり、それつら+/本朝(ほんてう)/仏法(ふつほう)の/流布(るふ)すると 00008320L6ころ、九/顕(けん)一/密(ミつ)にわかつ、九/種(しゆ)の/顕乗(けんぜう)ハ、/漸教(ぜんげう)にして、一 00008330L7/密金剛乗(ミつこんがうせう)ハ、/直入(ぢきにう)の/頓教(とんげう)なり、しかるに、ことさら此大日 00008340L8本ハ、/真言本仏(しんごんほんぶつ)の国にして、我等すでに八よう九/会(ゑ)の、ま 00008350L9だらねこと生れ、(八ウ)つねに、はんにやう+と/唱(とな)ふ、 00008360L10こんがうりしゆさんまや/経(ぎやう)の/文(もん)に/云(いハく)、せつがい三がい、一 00008370L11さいじやう、ふだあくしゆ、ゐでうぶくこ、しつせうむ 00008380L12じやう正とうぼだい、とんよくそくぜだう、ゐちやくぶね 00008390L13んととき給へり、三どくすでに/道(だう)なれバ、/殺生(せつしやう)いかでか、 00008400L14ざいごうならん、これ、あくぎやうをてうぶくするがため 00008410L15也、こゝに/鼠(ねずミ)次郎がうつたへ申(九十四オ)処、/重&(ぢう+)もつて、 00008420L16ひが事也、/某(それがし)/鼠(ねずミ)次郎に/対(たい)して、/野心(やしん)をぞんずる事、其い 00008430L17ハれなきにあらず、/彼穴住(かのあなずミ)が/悪行(あくぎやう)/無道(むだう)なる事、世のため人 00008440L18のため、/更(さら)に其かぎりなし、あるひハ/丹■椒房(たんちせうバう)をいハず、 00008450L19/走(はしり)かゝつて/壁(かべ)をくづし、あるひハ/玉楼(ぎよくろう)/金殿(きんでん)をきらハず、/忍(しの) 00008460M1びよつて、/梱(とじきミ)をかぶり、又ハ/腰(こし)ばりの/糊(のり)を/望(のぞ)ミてハ、引ま 00008470M2くり、又ハからかさの/油(あぶら)をかぎてハ、くら(九十四ウ)ひや 00008480M3ぶる、此ゆへに、/坐禅(さぜん)の/床(ゆか)をさまたげて、/空理(くうり)三/昧(まい)のさと 00008490M4りをさまし、まくらをならぶる、ひよくのちぎりにハ、さ 00008500M5ゝめごともミにしまず、しやうじをならし、びやうぶをた 00008510M6ゝき、おもひの外なる人のいかりをおこさしむ、それのミ 00008520M7ならず、/綾(あや)にしきのうつくしきをも、いハずくらひ/割(さき)てハ、 00008530M8ひるねのむしろにしき、仏/経(きやう)/祖録(そろく)のたうとき(十五オ)をも 00008540M9いハず、くひ切てハ子をうむゆかになす、/納豆(なつとう)/麹(かうぢ)の中に入 00008550M10てハ、をのれがふんをまじへ、こめまめにおひてハ、くら 00008560M11ハねどもはねちらし、はぼねにあハぬ/茶(ちや)うす、ちやつぼに 00008570M12ハ、/尿(いバり)をしかけて、これをけがす、そのくさき事かぎりな 00008580M13し、あハれなるかな、此ごろうミけるあか子の、両のめも 00008590M14まだあかざるに、/黄蘗(きハだ)をよせてねぶらせ、もしにが(十五 00008600M15ウ)がりて、ねぶらぬをば、うちすてゝ/乳(ち)をのませず、こ 00008610M16れハ/雄鼠(おね)の子になり、すら+ばしりをする時より、/黄巻= 00008620M17朱軸(わうぐハん=しゆぢく)の/経論(きやうろん)を/損(そん)ざせんがため也、かゝる/悪行(あくきやう)、われらの一 00008630M18/類(るい)にハ、さらにこれなし、大/日経(にちきやう)の六十/心(しん)にハ、/鼠(ねすミ)のこゝ 00008640M19ろをバ、ものをやぶりそこなふにたとへて、/破壊心(はゑしん)と、 00008650¥P31 00008660L1とかれたり、それがし手にかけ、ころさねども、かうべを 00008670L2(十六オ)/自業(じごう)のをしにくだかれ、/首(くび)を/自得(じとく)の/締(わな)にかゝりて、 00008680L3うちころされ、しめころされて、しがいを/道(ミち)のまんなかに、 00008690L4さらされ、/鳶(とひ)/烏(からす)のまうけとなる。猶もをかしきことにハ、 00008700L5/柱(はしら)をめぐり、/梁(うつバり)をかけり、/壁(かべ)をつたひ、あなをくゞる、そ 00008710L6の/通力(つうりき)ハ、三/明(ミやう)のもくれんに似たれども、/山椒(さんせう)の目をみて 00008720L7ハ、をのれがまなこのぬけたるかと、うたがひ、/数行(すかう)の 00008730L8(十六ウ)なミたをながす、/鼬(いたち)のまかげをほのみてハ、足な 00008740L9へ、こしぬけて、/血(ち)をはき、たましゐをうしなふ、おくび 00008750¥G 00008760M1やう第一のもの、うき世にながらへて、何のとりえかあら 00008770M2ん、ねがハくは、御ゆるされをかうふり、神のやしろハゐ 00008780M3がきをもこえ、仏の寺ハしゆミだんにものぼり、/追(をつ)付せめ 00008790M4付、/常捕(ひたとり)にとらバ、/箱(はこ)にふたをもせじ、/庫(くら)ハ/扉(とびら)をもたてじ、 00008800M5よろしく(十七オ)/泰平(たいへい)のもとひなるへし、と申上る。/獅子(しゝ) 00008810M6王、此/公事(くじ)をわけかね、しバらく/思案(しあん)せらるゝよとおぼえ 00008820M7しが、ものをきしるねずみのはをとに目をさまし、とかく 00008830M8此ひはんは、/猫(ねこ)のかちに成さうな、にくひ/鼠(ねずミ)かなと思ふが、 00008840M9くさり/縄(なハ)にも、とりえありとかや。鼠のけハ/蒔絵(まきえ)筆に/最上(さいじやう) 00008850M10の物とこそ。さもあれ、/高麗(かうらい)/胡椒(こせう)を/喰(くら)ひたがる事、山の手 00008860M11の/奴(やつこ)の生れがハりか。(十七ウ)(十八オ挿画) 00008870¥N2¥J 00008880¥Xでき斎 00008890M14世にすみて、/年(とし)月ををくれども、/別(べつ)に、へうたんから/駒(こま)も 00008900M15いでず。なにのへんてつもなき事よ、せめて/鯰(なまづ)ををさへて、 00008910M16ぬめり過にもせよかし。/朝(あさ)ねゆふまどひ、/昼(ひる)ねがちに、ち 00008920M17りがつえしても、まげて一/生(しやう)を送りける物くさ太郎もあり 00008930M18けるに、山鳥の尾の、なが+しき春の日も、めぼしの花 00008940M19(十八ウ)のちる程かせきをつとめ、うしのよだれにたとへ 00008950¥P32 00008960L1られし/秋(あき)の夜も、いとなむわざに、ねふりをわすれ、身を 00008970L2くづをらし、心をくだけども、あをち/貧乏(びんぼう)のたゞ中にて、 00008980L3せんかたのなきまゝに、やぶぐすしにならばやとおもひ、 00008990L4かみをそり、でき斎とかや名を付、むし薬をあハせ、あな 00009000L5たこなたへ、くバりわたす。そのつゝみがミに、かくぞよ 00009010L6(十九オ)みてかきつけゝる、 00009020L7△△たれをかもしる人にせん/出来斎(てきさい)を 00009030L8△△△われもむかしのぎバの/弟子(でし)ぞと 00009040L9ある人歌の返しせんとて、 00009050L10△△我きくも久しく成ぬ天ぢくの 00009060L11△△△ぎばのひやくはいく世へぬらん 00009070L12とハいひけれども、/咳気(がいき)をはじめて、なをらねば、/薬代(やくだい)は 00009080L13/芥子(けし)程もとらず。/正(まさ)木のかづ(十九ウ)ら、とひくる人もな 00009090L14し。手あらひける時、はんざうの水にうつる影をみて、 00009100L15△△我ばかりはやらぬゐしやハ世にあらしと 00009110L16△△△おもへバ水のそこにもありけり 00009120L17とよみけるハ、夢なりけるにこそ。よるさへや、ゆめのか 00009130L18よひぢ人めよぐらんと、/敏行(としゆき)の/朝臣(あそん)のよみける哥まで、お 00009140L19もひつゞけてハ、うつゝのあひだこそ、身のすりきり(二 00009150¥G 00009160M11十オ)をもわびぬべけれ。ゆめにだに、まづしきことハ何 00009170M12事ぞやとおもひわびて、かくなん、 00009180M13△△びんほうの神もおなじくねいるらん 00009190M14△△△わがミるゆめハ夢もわびしき(二十ウ)(二十一オ挿画) 00009200¥N3¥J 00009210¥X石がめのぐハんだて 00009220M17さても我よハひをのぶる事万年にして、人のために、めで 00009230M18たきものともてはやされ、/蓍(めど)の/亀(かめ)ハ/卜兆(うらかた)の大事をしめす。 00009240M19故にたから物とあふがれ、いはんやほうらいの山ハ、/亀(かめ)の 00009250¥P33 00009260L1うしろにのせて、/海上(かいしやう)にさゝげ、山の中にハ/不老(ふらう)不/死(し)の/薬(くすり) 00009270L2をたくはへたれば、世の人これをうらやまずといふことな 00009280L3し。(二十一ウ)又其/形(かたち)をいへば、/陰(いん)をせなかにして、/陽(やう)に 00009290L4むかひ、かうべ/空(そら)に立あがりて、天をかたどり、/腹(はら)ハ/平(たひら)か 00009300L5にして、/地(ち)をかたどり、/四(よつ)の足は四/季(き)をかたどり、/頭(かしら)ハ/蛇(へび) 00009310L6に/似(に)て、くびハ/龍(れう)のごとし。/左(ひだり)の目ハ日をかたどり、/右(ミき)の 00009320L7目ハ月にかたどり、人の/吉凶(きつけう)をしる事たなごゝろにあり。 00009330L8一千年を過れば、人と物語するに、こと葉よく人のごとし。 00009340L9こと更松の/尾(お)(二十二オ)の明神の/使者(ししや)として、つねにつか 00009350L10へたてまつる。その中に/卯(う)月の比の/苗代(なハしろ)にはひ入て、/早苗(さなへ) 00009360L11をおしたをし、苗代をくづし、のうにんに/腹(はら)だゝすること 00009370L12ハ、わかき/亀(かめ)のすること也。又人の子どもにそゝのかされ 00009380L13て、早苗をバ、そこなふ事なり。/焼米(やきごめ)くれずハ石/亀(かめ)はくせ 00009390L14うといふ、世の/諺(ことわざ)ハ、人の子どものたはふれあそぶ哥也と 00009400L15かや。されば松の尾の大(二十二ウ)明神につかへたてまつれ 00009410L16ども、只はひあるくばかりにて、手あしありながら、立てあ 00009420L17るくことのかなハぬ事こそ口おしけれとおもひて、/泊瀬(はせ)の 00009430L18/観音(くハんおん)に/祈(いの)りけり。まことに観音の御利やくにハ、/死(し)にたる 00009440L19者もかさねてよみがへり、/枯(かれ)たる木にも二/度(たひ)花さく御事也。 00009450M1まして是程の/願(ねが)ひハ、/信心(しんじん)まことあらバ、いかでかむなし 00009460M2からん。七日と(二十三オ)いふに、御むさうの事有ければ、 00009470M3石/亀(かめ)よろこびて、わが/住(すむ)ところにかへり、立あがりてミれ 00009480M4バ、心のまゝにたゝれ侍べり。有がたき御/利生(りしやう)かなとおも 00009490M5ひ、/孫(まご)子どもをあつめ、立あがりてミせければ、立たるば 00009500M6かりにてハ/詮(せん)もなき事也、むかふて、はしりてあるかしま 00009510M7せといふ。さらバとて、むかふへゆかんとすれば、/首(かうべ)ハう 00009520M8しろへそりかへり、/腹(はら)ハ/板(いた)のごとくにして(二十三ウ)むか 00009530M9ふがみえさりければ、ゆかんとするにあぶなく、一あしを 00009540¥G 00009550¥P34 00009560L1もえあるかず。これにてハ/詮(せん)もなし。只もとのごとく、は 00009570L2ゝせて給ハれと/願(ぐハん)をたてなをしぬるとおぼえて夢さめにけ 00009580L3り。をかしき夢をもみたりける物哉と、其石亀の立はたか 00009590L4りて、足ぶミハしながら、一あしをもあるかれざるおも影、 00009600L5今ミるやうにおぼえて、かくぞよみける、(二十四オ) 00009610L6△△世の中にあらぬ/願(ねが)ひをする人は 00009620L7△△△げにいし/亀(がめ)のじだんだぞかし(二十四ウ)(二十五オ挿画) 00009630¥N4¥J 00009640¥Xすんばく 00009650L10此ころぢびやうの/寸白(すんばく)おこりて、/睾丸(きんだま)にさしこみて、しめ 00009660L11ける程に、めいわくさのあまり、からしをすりて、のめど 00009670L12もきかず。此上ハ、きん玉をうちやぶり、すんばくを引出 00009680L13さむとおもひ、石にあてゝ、一うちうちたれば、/意(いき)はづミ、 00009690L14めまひて、しに入たり。人&あつまりて、かほに水そゝぎ 00009700L15などしければ、/漸(やう)(二十五ウ)+にいきかへり、 00009710L16△△我うへに露ぞをくなるあまの川 00009720L17△△△とわたるふねのかいのしづくか 00009730L18といふ歌ハ、よみたけれども、/在原(ありハら)のなりひらのよまれた 00009740L19りければ、ちからをよばず。さていまだ玉ハぬけ出ざりし 00009750¥G 00009760M11かといふ。/未(いまた)あるといへば、 00009770M12△△おもひあまりいためし玉のあるならバ(二十六オ) 00009780M13△△△すんばくみえば玉れうぢせよ 00009790M14と/読(よミ)けるが、大かたいたみけり。ある人の/云(いハく)、/打損(うちそんじ)/痛(いたむ)とこ 00009800M15ろにハ、白/薄(ばく)を付たるがよしといふ。さらバとて/箔(はく)を付け 00009810M16れば、すこしいたミなをりぬ。さて、かくぞよみける、 00009820M17△△うちまたにものゝぶら+ぎらめくハ 00009830M18△△△寸白でだミしきん※の玉 00009840M19と/読(よミ)けれバ、人&/笑(わら)ひどよめく声に、おびえて夢ハ/覚(さめ)にけ 00009850¥P35 00009860L1り。(二十六ウ)(二十七オ挿画) 00009870¥N5¥J 00009880¥X/耳(ミゝ)かき/了(れう) 00009890L4/町内(ちやうない)に/町年寄(まちとしより)をさだめて、万事/公議(こうぎ)の/法度(はつと)をも申付たら 00009900L5ばよからん、此町にてハ、たれかしかるべきといふ。/当(たう)町 00009910L6のふるき人にハ、/了願(れうぐハん)と/宗春(そうしゆん)と二人なりといふ。さらバと 00009920L7て町中/寄会(よりあひ)て、としよりをさだめ、帳のおもてにかき付、 00009930L8/判(はん)をすへさせんとて名をしるす。筆をとりて宗春とハいか 00009940L9なる(二十七ウ)/文字(もじ)ぞとゝへバ、/宗(そう)ハ/宇冠(うかふり)に/示(しめす)といふ/字(じ)、 00009950L10/春(しゆん)ハ/春(はる)といふ/字(じ)といふ。さて/了願(れうぐハん)の/了(れう)ハ耳かき了といへバ、 00009960L11了願大きにはらを立て、宗春とそれがしと、町の内に住て、 00009970L12久しきこともかハらず、/身上(しんしやう)もおなじく、としばひもひと 00009980L13しきものを、/宗春(そうしゆん)の宗ばかりに宇冠をきせて、此了願の了 00009990L14にハ宇かふりをきせられぬこそ、いこんなれ、そのうへ耳 00010000L15かき(二十八オ)了こそ、こゝろえぬ/字(じ)なれ、せめて/杓子(しやくし)/了(れう) 00010010L16か/柄杓(ひしやく)了ならバ、/腹(ハら)もたゝぬが、ちいさきみミかき了ハ、 00010020L17何事ぞ、それとても、宗春とおなじく、宇かふりをきせさ 00010030L18しませと/云(いふ)。いや了の/字(じ)に宇かふりを、きせたる字ハなし 00010040L19といへども、聞いれず。みな+おかしけれども、わらハ 00010050M1れもせず。さらバやゝ/良(りやう)をかけといへバ、了願いよ+は 00010060M2らをたて、年(二十八ウ)/寄(より)をもつ程のそれがしの名に、わ 00010070M3らべらしきやゝ/良(りやう)とハきこえず、あか子などの、にうだう 00010080M4になりたるときハ、やゝ良も/似(に)あひて聞えた、此六七十に 00010090M5なるものに、やゝ良をかきてハ、世のわらひものなるへし、 00010100M6いやでもおうでも了の字に宇冠をきせずハ、ねんもなひ事 00010110M7きくまひといふ。さらば了願の名をかへ給へといへば、此 00010120M8名ハ寺の(二十九オ)/長老(ちやうらう)の付給ひ、/過去帳(くハこちやう)にもかきのせら 00010130M9れ、あミだによらいも御ぞんしの名なれば、今更かゆる事 00010140¥G 00010150¥P36 00010160L1もならぬといふ。わかき人&はらを立て、それ程かふりが 00010170L2うらやましくハ、/病(やまひ)かふりの/■(れう)の/字(じ)を付給へといふ。了願 00010180L3大きにはらたち、口おしき事かなとて、/硯(すゞり)をとつてなげ、 00010190L4さすがを引ぬき、只今じかいをいたす、あひ手ハ筆取(二十 00010200L5九ウ)どのよといふ。大ぜいたちさハぎ、とりさゆる。どし 00010210L6めくとみて、うちおどろきたれば、ゆめにてさめたり。思 00010220L7ひよらぬあひてにさゝれ、めいわくなりけるが、さめての 00010230L8うれしさ、かぎりなし。(三十オ)(三十ウ挿画) 00010240¥Y1ゑほうの春こま△五 00010250M3△△一△むしくらい念仏 00010260M4△△△△附めいとのたかへ念仏の事 00010270M5△△二△らく馬のはなし 00010280M6△△△△附なか浪人狂哥 00010290M7△△三△すまあかし 00010300M8△△△△附なか浪人名所狂哥(一オ) 00010310M9△△四△ゑびとかにの事 00010320M10△△△△附いせゐあらそひ 00010330M11△△五△茶と酒のろん 00010340M12△△△△附ちやのいとく酒のいとく(一ウ) 00010350¥P37 00010360¥T1ゑほうの春こま第五 00010370¥N1¥J 00010380¥Xむしくらひ念仏 00010390L5ひとひふつかわつらひて、ころりと/死(し)にけり。ちからをよ 00010400L6ハす、めいどをさしてゆくほどに、さいのかハらをさし過 00010410L7て、/三津(さうづ)川にぞつきにける。此川に三つのせありて、/善人(ぜんにん) 00010420L8をバ舟にてわたし、/悪(あく)人ハおよぎわたる。その中にも、い 00010430L9たりて上&の(二オ)善人は/弥陀(ミだ)の/御来迎(こらいかう)にあづかり、ぼさ 00010440L10つたちとうちつれて、大/橋(はし)のうへをわたりて、/上品(じやうぼん)上/生(しやう)の 00010450L11ごくらくへすぐにゆく。まことにみちもちかけれども、此 00010460L12大橋のうへハ、せう+の善人をバとをされずとかや。此 00010470L13三つの/瀬(せ)あるゆへに、此河を三つせ川と名付たり。川のふ 00010480L14かさハ大/炊(ゐ)川ほどにて、しかも此程雨ふりつゞき、大水出 00010490L15てにご(二ウ)りければ、そこもみえず。/河上(かハかミ)ハ/堤(つゝミ)くづれて、 00010500L16/鬼(おに)の/家(いゑ)どもおほくながるゝ。やねのうへにハおにのつまや 00010510L17子どものりて、/太鼓(たいこ)をたゝき、おめきさけんで、たすけぶ 00010520L18ねをもとむ。ながるゝ家ども河中にてくづれ、鬼どもミな 00010530L19うきぬしづミぬするもあり。たすけ舟をよせて、をなご鬼 00010540M1子おにどもをのせて、たすくるもあり。おほくのざいに 00010550M2ん、(三オ)どもハ此大水にわたりかゝり、さかまく/浪(なミ)にま 00010560M3きこまれて、水をのミそこにしづミ、/沼(どろ)に/酔(えひ)たる/魚(うを)のごと 00010570M4し。/水練(すいれん)を得たるざいにんハ、水をくゞり、をよぎこし、 00010580M5むかふの/岸(きし)へあがるもあり。我は/水練(すいれん)をもしらず/善根(ぜんごん)もな 00010590M6ければ、舟にのるべきやうもなし。いかゞせんと立やすら 00010600M7ふところに、わたしもりのおにども、善人をのせてわたら 00010610M8ん(三ウ)とす。われをも此舟にのせてたべと、さま+わ 00010620M9びことをすれどものせず。舟の中に八十ばかりなるうばの 00010630M10有けるが、あハれがりていろ+いへどものせず。あまり 00010640M11のことにふなバたにとり付、引とゞめ、いかにわたしもり 00010650M12の/鬼(おに)殿、さらバ舟ちんをまいらせんとて、今をりのきんら 00010660M13んにてこしらへたる/匂(にほひ)ぶくろをやりけれバ、鬼う(四オ)れ 00010670M14しがり、法度なれどもわたし侍らん、さらバのれといふ。 00010680M15やがてうちのりてわたらんとするに、舟の中につくばひて 00010690M16おもひやれば、かぎりなくとをくもきにけるものかなと、 00010700M17いとゞ物わびしきおりふし、まだらなる鳥の、はしとあし 00010710M18とくろき、からすの大きさなる、水のうへにあそびつゝ/魚(うを) 00010720M19をとる。しやばにてハ見なれ(四ウ)ぬ鳥なれば、みしらず。 00010730¥P38 00010740L1わたしもりの鬼にとひければ、これなんみさご鳥と/云(いふ)をき 00010750L2ゝて、 00010760L3△△名にしおハゞいざことゝハんみさご鳥 00010770L4△△△ながとる/魚(うを)は/鯉(こひ)かふなかと 00010780L5とよめりければ、舟こぞりて/笑(わら)ひにけり。かくてまよひゆ 00010790L6くとも、/善根(ぜんごん)なければぢごくへおつべし。いかゞせんとお 00010800L7もふ(五オ)ところに、ひとつ舟にのりたるうばがまへに、 00010810L8何とハしらず大きなるふくろに物を入たる有けり。ひそか 00010820L9にぬすミとり、あしばやに舟よりあがりつゝ、みち/筋(すぢ)にま 00010830L10かせて行ほどに、ゑんまわう/宮(ぐう)につきたり。あまたのざい 00010840L11にんども/庭(にハ)のおもてになミゐたり。そこに立出てかしこま 00010850L12りければ、ゑんまわう御らんじて、(五ウ)大きにはらをた 00010860L13て、口のうちより/火焔(くハゑん)を出し、目をぐつと見だしてにらミ 00010870L14給ひ、をのれ、しやばにて/後生(ごしやう)をねがハず、一/期(ご)のあひだ 00010880L15あそこ爰をぬめりすぎにして、うそをつき、仏にも見しら 00010890L16れず、/悪(あく)ばかりつくりたり、一&に/鉄(くろがね)の/札(ふだ)に付置たり、ぢ 00010900L17ごくへおとすべしとぞいかられける。そのときこたへて云 00010910L18やう(六オ)よく+/帳面(ちやうめん)を御らんあるべし、かならず付お 00010920L19としがあるものなり。それがし日/比(ころ)念仏をとなへて、ごく 00010930M1らくに/徃生(わうじやう)せんとねがひし御事ハ、我等の町衆もよくしり 00010940M2たる御事なり、仏たちのミしり給はぬこそだうりなれ、わ 00010950M3かきものゝ寺参りハ、はづかしくぞんし、いつもほうかぶ 00010960M4りをいたして、まいりしゆへ、仏もさだめて御(六ウ)ミし 00010970M5りあるまじ、そのせうこにハとし月となへたる念仏をこれ 00010980M6へもちて参りたりとて、/布(ぬの)の/袋(ふくろ)をさし出す。/倶生神(くしやうじん)うけ 00010990M7とりて、なめしがわをひろげ、其袋の口をあけてうつした 00011000M8れば、久しき念仏にて、むしのつゞりうとろになりて、し 00011010M9かも/信心(しん※)うすき念仏なれば、/光明(くハうミやう)もかゝやかず。さらハ/銀= 00011020M10座(ぎん=ざ)衆のものをめせとて(七オ)めさるゝに、めいどの両/替師(がへし) 00011030M11まいりて申やう、此念仏にハたんば/似(に)せのぞきのおほくま 00011040M12じりて、/題目(だいもく)とも念仏とも見/分(わけ)られず、なまいだ+とと 00011050M13なへたる念仏にて、すぐなるハまれにあり、正じんの六/字(じ) 00011060M14の念仏も、むしくらひにて、みなうとろになりたり、/分(ぶ)を 00011070M15入てかへたりとも、/吹(ふき)なをしたらバ大/分(ぶん)のへりにまかり成 00011080M16(七ウ)侍らん、是ハたゞそのまゝをきて、しやかの/鑓(やり)、ミ 00011090M17だの/利(り)けんの/金(かな)ぐになさるゝか、又はつぶしにして、ふる 00011100M18かねやにうり給ふよりほかハなしと申す。ゑんまわういよ 00011110M19+はらをたて、をのれハぶせう/者(もの)にて、なむあミだ仏と 00011120¥P39 00011130L1ハいハずして、なまいだ+ととなへ、/字(じ)もたらぬにせ物 00011140L2になし、/虫(むし)ぼしさへせずして、むしにつゞらせ、(八オ)何 00011150L3のようにもたゝず、鬼どもそれとらへて、ぢごくの/釜(かま)のそ 00011160L4こへつきおとせとこそいかられけれ。あまりのおそろしさ 00011170L5に、ふるひ+かくぞおもひつゞけける、 00011180L6△△念仏をすぐろくじにもとなへなバ 00011190L7△△△しうじミやうがうと人やいふべき 00011200L8鬼どもたかりかゝつて引たて、ぢごくへおとさんとす。あ 00011210L9たちが原のくろつかならね(八ウ)と、鬼のすたくおそろし 00011220¥G 00011230M1さ、いふはかりなくて、声をあげてなく程に、ことの外に 00011240M2をそハれ給ふとて、つきおこされしに、/汗(あせ)水になり、むね 00011250M3のうちハまだきと+をとりて、大/息(いき)つぎつゝかくぞよみ 00011260M4ける、 00011270M5△△名にしおふゑかうほつぐハんといふ/丸薬(くハんやく)で 00011280M6△△△念仏をむしのさしやむときく(九十四オ)(九十四ウ挿画) 00011290¥N2¥J 00011300¥X/落馬(らくば)△附△なからう人狂哥 00011310M9おもふことをねごとにするといふ事有。あハれ/知行(ちぎやう)とりに 00011320M10なりて、馬にのり、ざざめかしてなど、あらましごとをた 00011330M11くみけるが、/門(かど)をたゝくものあり。出てきけバ、/関東(くハんとう)より 00011340M12めされて、知行にありつく。日ごろ/永牢人(ながらうにん)にて、/帋子(かミこ)一/重(え) 00011350M13なり。いかゞせんといふに、/呉服所(ごふくしよ)より小袖したゝめ(十 00011360M14五オ)つかハす。/侍(さふらひ)/中間(ちうげん)も一日のうちにをきそろへ、馬を 00011370M15ももとめ出して、/急(いそ)ぎ/関東(くハんとう)にくだる。わがこゝろから、う 00011380M16れしき事かぎりなし。もはや心もかうじやうになり、物い 00011390M17ひもなまり出て、/旅(たび)だつそらこそいかめしけれ。あふさか 00011400M18のせきをこゆるとて、せミのなくを聞て、 00011410M19△△/逢坂(あふさか)の松のこずゑに是やこの(十五ウ) 00011420¥P40 00011430L1△△△歌をよむてふせミまるの声 00011440L2などうち/詠(ゑい)じてゆく程に、/乗(のり)たりける馬はことの外なるじ 00011450L3や+馬にて、はねをどりけり。/手綱(たづな)を引ければ、よこに 00011460L4ききてかけ出つゝ、これにあまされて、どうどおち、/腰(こし)ぼ 00011470L5ねをしたゝかにうちければ、馬ハ行がたしらずうせにけり。 00011480L6/侍(さららひ)中/間(げん)どもハ、馬を/追(をひ)かけて行しかバ、(十六オ)只われ 00011490L7/一人(ひとり)いたきこしぼねをさすりもみつゝ、 00011500L8△△/腰(こし)ぼねハおれる計ぞじや+馬よ 00011510L9△△△われおちにきと人にかたるな 00011520L10とよみて、まてども+/一人(ひとり)も立かへらず。さらバ、そろ 00011530L11+あゆまんとすれども、腰いたみてあるかれず。日もは 00011540L12やくれ方になり、いきももどりもならで、みちの(十六ウ) 00011550L13かたハらにふせりおるところに、/盗(ぬす)人どもあまた/来(きた)り。か 00011560L14たなわきざし小袖みなはぎとる。やれ/追(をひ)はぎよ、出/合(あへ)+ 00011570L15とよバハれば、口に手ぬぐひをあてゝおし付、あかはたか 00011580L16に引むくらるゝよと見て、夢さめたれば、/胸(むね)より下ハはだ 00011590L17かになり、きたる夜るのものハあたまに引かぶり、袖のあ 00011600L18たりは、わが口のうへにうちきさりて、これ(十七オ)にを 00011610L19びえたりける也。せめて/身上(しんしやう)のありつくとみしハ、夢見よ 00011620¥G 00011630M11かりけりとおもひて、かくぞよみける、 00011640M12△△/牢人(らうにん)のありつくと見し夢のまハ 00011650M13△△△いかにうれしきものとかハしる(十七ウ)(十八オ挿画) 00011660¥N3¥J 00011670¥Xすまあかし 00011680M16ひさしく/牢人(らうにん)して、すり切はて、いかにすべしともおもひ 00011690M17わけたるかたもなく、 00011700M18△△/足(あし)引の山鳥の/尾(お)のしだり尾の 00011710M19△△△なが+しくも牢人をして 00011720¥P41 00011730L1さらバ/身上(しんしやう)をもかせぎてみんとおもひ、はりまのかたにし 00011740L2るよしゝて、かせぎにいきけり。そのくにゝしかまといふ 00011750L3ところ有て、(十八ウ)かちのそめものを出すと聞及びて、 00011760L4△△はりまがた馬にものらで下るこそ 00011770L5△△△しかまのかちと人はいふらめ 00011780L6すがハらや/伏見(ふしミ)の京/橋(ばし)より舟に/乗(のり)てくたる。ゆん手をはる 00011790L7かにながむれバ、ことのねしらふるきんやの/里(さと)、むかし/在= 00011800L8五(さい=ご)中/将(じやう)のまじろのたかを手にすへし、かたのゝさとのかり 00011810L9ころも、今ハ名にのミ聞つたへ(十九オ)あハれぞいとゞま 00011820L10さりける。/妻手(めて)のかたは山ざきや、正八まんもおハします、 00011830L11たから寺とハこゝなれや、 00011840L12△△たから寺神に/祈(いの)りのかなひなバ 00011850L13△△△八まんぐハんの/銭(せに)ぬしとなれ 00011860L14せきどのゐんをうち過れバ、松にかゝれる/藤(ふぢ)の花さかりに 00011870L15みえしを、 00011880L16△△松かぜをひきてや藤のがいきし/((て脱カ))(十九ウ) 00011890L17△△△せきどのゐんにはなをたれつゝ 00011900L18/□((かカ))くてこがれゆく程に、ひらかた、鳥かひ、かふりのさと、 00011910L19/江口(えくち)のさとをよそに見て、はや大/坂(ざか)につきしかバ、舟ども 00011920M1あまたこしらへ、はりまへのせう+とよバゝる。さらバ 00011930M2とて、うちのりつゝくだるところに、しろくみゆるを、あ 00011940M3れハいづくぞとゝへハ、あまが/崎(さき)の/城(しろ)にて侍べりといふ、 00011950M4(二十オ) 00011960M5△△あまが崎ふりさけミればかすか成 00011970M6△△△うみのとなりにたてし城かも 00011980M7むろのとまりをすぐるとて、 00011990M8△△有がたや/実相(じつさう)むろの大/海(かい)に 00012000M9△△△風もなければ波しづかにて 00012010M10/兵庫(ひやうご)のうらをこぎゆけバ、/武庫(むこ)の山もみえわたり、ゆづ 00012020M11りはがだけも程ちかし。/峯(ミね)をミれば/刃篠(やきバざゝ)のはえしげりたる 00012030M12を、(二十ウ) 00012040M13△△/太刀(たち)ならバ/兵庫(ひやうご)づくりに/刃篠(やきハさゝ) 00012050M14△△△むこひきでにとゆづりはがだけ 00012060M15れうし舟の/釣(つり)してかへるに、さかなハなきかととへバ、/生= 00012070M16鯛(なま=だい)をさし出す。やがてかひ取つゝ、のりあひの人&、いざ 00012080M17此たいを/浜焼(はまやき)にせんといふ。折ふし/船中(せんちう)にハさゝらの竹も 00012090M18なしといへバ、其まゝうちくべてやく。そのあひだに/芦(あし)屋 00012100M19のなだをも行すぐれば、(二十一オ)かくぞよみける、 00012110¥P42 00012120L1△△芦の屋のなだの/浜焼(はまやき)いとまなミ 00012130L2△△△竹のこぐしもさゝずしにけり 00012140L3やう+あかしにつきければ、舟よりあがりけり。しれる 00012150L4人のもとに尋よりて、さま+かせげども、ありつかず。 00012160L5せめてなぐさミのため、聞をよびし/名所(めいしよ)をもみばやと、す 00012170L6まあかしを/見物(けんぶつ)する。いにしへ(二十一ウ)天/智(ち)/天武(てんむ)/持統(ぢどう)/三= 00012180L7代(ミ=よ)の/御門(ミかと)につかうまつりし/柿本(かきのもとの)人丸、あかしのうらに住て、 00012190L8ほの+とあかしのうらと/詠(ゑい)じけんも、/時代(ときよ)へだゝれば、 00012200L9人丸のしるしのつかも/城(しろ)のうちになりて、/外(ほか)へハみえずと 00012210L10きゝて、おもひつゞけける、 00012220L11△△名にきゝしその人丸は二の丸の 00012230L12△△△石かきのもとゝなりにけるかな(二十二オ) 00012240L13すまのうらに出て/詠(ながむ)れバ、いにしへ松かぜむらさめのきう 00012250L14せきとて、一/木(き)の松あり。折ふし、むらさめふりてぬれた 00012260L15りけれバ、 00012270L16△△松かぜのしるしの松ハありハらや 00012280L17△△△ゆきひらぬれにぬらす村雨 00012290L18いにしへハ/不破(ふは)の/関(せき)、あふさかのせき、すまのせきとて、 00012300L19これを三/関(くハん)と名付たり。今は/関(せき)もたえはて、せきもりもな 00012310M1く、只名の(二十二ウ)ミ残り侍べり。/源(ミなもと)の/兼昌(かねまさ)がいく夜ね 00012320M2ざめをとよみけるも、むかしがたりになりにけり。かの行 00012330M3/平(ひら)のちうなごん、此うらに下りてよみける。 00012340M4△△/旅(たび)人のたもと/涼(すゞ)しくなりにけり 00012350M5△△△せきふきこゆるすまの/浦(うら)かぜ 00012360M6といふ哥をおもひ出るに付て、日もはやくれなんとす。/腹(ハら) 00012370M7も物ほしげに覚えて、(二十三オ) 00012380M8△△/旅(たび)人のはらもひもじになりにけり 00012390M9△△△めしをくハずハすまぬうらかぜ 00012400¥G 00012410¥P43 00012420L1とハよみけれども、宿かす人もなし。かへるべきみちをも 00012430L2おぼえず、いかゞせんと思ふところに、あら浪うちよせて、 00012440L3ざハ+となるにこそ、目さめたれば、夢にてぞありける。 00012450L4なミのをとよときゝしハ、きてねたるかみぶすまの、ねが 00012460L5へりするとて(二十三ウ)ごそ+となりけるをとならし。 00012470L6さておきあがりて、 00012480L7△△あたらしき/紙(かミ)のふすまのなる/音(をと)に 00012490L8△△△いくよねざめをすまぬあだ夢(二十四オ)(二十四ウ挿画) 00012500¥N4¥J 00012510¥Xゑびとかに△附△いせいあらそひ 00012520L11風ものどかに/海(うミ)しづかなる日、ゑびとかにと出あひ、/玉藻(たまも) 00012530L12のうへにあそぶ。かにのいふやう、/冬(ふゆ)の/比(ころ)あらしはげしく、 00012540L13世もいたりて/寒(さむ)きにハさもこそあらめ、/長閑(のとか)なる春の日の、 00012550L14ひかりあまねく/海(うな)ばらのそこまでもあたゝかなれど、つね 00012560L15にかごふでのびらかなることをしらず、されば(二十五オ) 00012570L16世のことわざに、/鱧(はむ)も一/期(ご)/海老(ゑび)も一/期(ご)と人の/身上(しんしやう)のたとへ 00012580L17にもいハれ侍べり、さのみにひろき/海中(かいちう)に、かゞまずとも 00012590L18あれかしといふ。ゑび聞て、ながきひげをかきなで+大 00012600L19きにいかつていはく、わが身のうへのよからぬ事にハおぼ 00012610M1えもなく、よそをあざけるこそおかしけれ、いで、/汝(なんぢ)があ 00012620M2りさま、/生(いき)としいけるものにかハりて、(二十五ウ)ゆくと 00012630M3きもむかふにハゆかで、よこしまにかけはしる見ぐるしさ 00012640M4よ、/余所(よそ)のことをいはんより、まづわが身をたしなめとい 00012650M5ふ。かにのいはく、/我(われ)/武(ぶ)ようの/官(くハん)にあつかり、ふたつのは 00012660M6さみをみがきたてゝ、身をはなさずもちたり、/海中(かいちう)のらう 00012670M7ぜきをしづむ、かゝるものをわらひあなどる口おしさよ、 00012680M8まことにあなどるものならば、(二十六オ)只一はさみに/腰(こし) 00012690M9のあたりをはさみきらむといふ。ゑびから+とうち/笑(わら)ひ、 00012700M10あらこと+しや、そのはさみ何程のことか有べき、/武(ぶ)よ 00012710M11うの事ならバそれがしこそあらめ、いせむしやのかのひお 00012720M12どしの大よろひハ、われらをもつてはじめとす、かしらに 00012730M13かぶとをいたゞき、身によろひをまとひて、よるひる/海中(かいちう) 00012740M14をめぐる也、/汝(なんぢ)があり(二十六ウ)さま、両のまなこハ天を 00012750M15さし、/山椒(さんせう)の目のごとく、つらくせわろくしかみて、はら 00012760M16だつときにハ/淡(あハ)をはき、/甲(かう)にゝせて/穴(あな)をほり、/胴(どう)ハすなハ 00012770M17ちかしらにて、/腹(はら)ハやがて口なれバ、内に五ざうもそなへ 00012780M18ねバ、ちゑもなく/分別(ふんべつ)もなしとぞいかりける。かに聞てい 00012790M19ふやう、山中の/無腸(ふちやう)/公子(こうし)と/書伝(しよでん)にのせられて名をあげ、 00012800¥P44 00012810L1/酒宴(しゆえん)の/座(ざ)のさかなと(二十七オ)なり、/玉人(きよくじん)/桃李(たうり)のかほばせ 00012820L2をひらくと/詩(し)にも又ほめられたり。/瑣■(さきつ)といふものは、わ 00012830L3れを/足(あし)とたのむ也、なんぢがひげハやすりのごとく、かう 00012840L4べハわさびおろしに/似(に)て、/首(くび)のまハりに足あれバ、/腰(こし)より 00012850L5下は立あがらずといへバ、ゑびかさねて/云(いふ)やう、/瑣■(さきつ)がた 00012860L6めにしりまひをして、つかはるゝことをよしとするか、そ 00012870L7れならバ(二十七ウ)それがしハ/水母(くらげ)のために目となりて、 00012880L8物を見わくる/徳(とく)あり、世の人のことぶきに、/海老(ゑひ)の/腰(こし)のか 00012890L9ごふて、/梅(むめ)ぼしのしハのよるまで、命ながえのてうしにハ、 00012900L10とそびやくさんをうかへて、春のはじめをいはふなる、ほ 00012910L11うらいの/盆(ぼん)のまん中に、我こそ/座(ざ)をばさだめらるれ、/汝(なんぢ)ハ 00012920L12/外(ほか)にはさみをもち、/武(ぶ)へんをするに/似(に)たれ共、(二十八オ) 00012930L13/神鳴(かミなり)のこゑをきくときハ、はさみもうなたれあしなえて、 00012940L14/穴(あな)のそこににけこむ、おくびやう第一の/嶋村(しまむら)/蟹(かに)よとわらひ 00012950L15ければ、かにいよ+はらをたて、はさみをひろげて、よ 00012960L16こあひにかゝる。ゑびもこゝろえたりとて、はねかゝる。 00012970L17これハそも、いかなることぞ、/太平(たいへい)の世の中に、ゆめ+ 00012980L18さやうの事あるべからず、よこにゆくもむ(二十八ウ)かふ 00012990L19にゆくも、その/役&(やく+)ハあるものを、/蛙(かへる)のとび、/蚯(ミゝず)のにじり 00013000¥G 00013010M11あるくまで、生れつきをバいかゞせん、たとへバ/将棋(しやうぎ)の/駒(こま) 00013020M12のごとし、/角行(かくぎやう)の/角(すミ)にとび、/飛車(ひしや)のよこにはしる、/桂馬(けいば)の 00013030M13とぶ、/香車(きやうしや)のはしる、いづれも/用(よう)にたつものなり、かゞむ 00013040M14ものぶるも、みなゆへあり、 00013050M15△△門におろす/鎖(じやう)ハなまがねたてあけに(二十九オ) 00013060M16△△△のびつかごふづゑびのするらん 00013070M17△△/甲(かう)にゝせてほりける/穴(あな)の口せばく 00013080M18△△△よこになりつゝはしり入けり 00013090M19此歌にて/腹(はら)をゐよといふに、わけをばしらねども、両方に 00013100¥P45 00013110L1わかれて、/沖(おき)をさして入にけり。(二十九ウ)(三十オ挿画) 00013120¥N5¥J 00013130¥X/茶(ちや)と/酒(さけ) 00013140L4物さひしさに一/盃(はい)をかたふけ一/盞(さん)をながし、なにとなく立 00013150L5出てミれバ、/四方(よも)に人の/声(こゑ)もなく、こずゑの花わづかにほ 00013160L6ころび、鳥のこゑかすかにして、/谷(たに)の水/音(をと)ほのかなり。か 00013170L7ゝるところに、かしこの/洞(ほら)にものいふこゑきこゆ。何事な 00013180L8るらんと立よりてミれば、あやしきもの只二(三十ウ)人う 00013190L9ちむかひたり。一人ハ/茶(ちや)をこのミて酒をのまず、一人ハ又 00013200L10酒をこのミて茶を/飲(のま)ずといふ。これさだめて酒と茶とのせ 00013210L11いなるべし。茶のかたよりいふやう、酒ハこれいにしへ/釈= 00013220L12尊(しやく=そん)/世(よ)におハせしときに、/長老(ちやうらう)/沙伽佗(しやかだ)といへる御/弟子(でし)/雨請(あまごひ)し 00013230L13て、/龍王(りうわう)をしたがへ、雨のふりける/祝(いハ)ひに酒を/飲(のミ)給ひ、/酔(えひ) 00013240L14ふして、田の/畔(くろ)におハしけるを、/蛙(かへる)共(三十一オ)の、その 00013250L15うへにとびのりとびこえ、/袈沙(けさ)をどろまぶれにせしかバ、 00013260L16それよりいましめられ、/飲酒戒(おんじゆかい)をたてられたり。又/梵網経(ぼんまうきやう) 00013270L17にハ、酒に三十六のあやまりをとかれたり。天下/国家(こつか)をう 00013280L18しなふもとひ、/身命(しんミやう)をほろぼす/種(たね)ハ酒なりといふ。酒この 00013290L19よし聞て大きにいかつていハく、三/寸(ずん)をひるがへして、み 00013300M1だりに酒をそしること、まこと(三十一ウ)に井の/蛙(かハづ)なるべ 00013310M2し。/経(きやう)にのたまハく、酒ハこれ/甘露(かんろ)の/良薬(らうやく)也と、又/波斯(はしの)/匿= 00013320M3王(く=わら)ハ酒をのミて、まつりこと/正(たゞ)しかりければ、仏ゆるして 00013330M4大くどく有とのたまへり、四天王にハ/須陀味(しゆだミ)の酒あり、/阿= 00013340M5修羅王(あ=しゆらわう)ハ四大/海(かい)を酒につくりて、これをのむに、/飽(あく)ことな 00013350M6し、/仏経(ふつきやう)に酒の/徳(とく)おほくみえたり、いまだ茶の徳をのべ給 00013360M7ひし/経論(きやうろん)をきかず。又四/書(しよ)(三十二オ)/六経(りくけい)にも/茶(ちや)をのせず 00013370M8といふ。茶こたへていはく、七/仏(ふつ)の/祖師(そし)/文殊(もんじゆ)大/士(じ)ハ、五/台= 00013380M9山(だい=ざん)にして/無着(むぢやく)ぼさつと茶をのミ給ひ、るりの茶/椀(わん)をさゝげ 00013390M10ていハく、/南方(なんバう)に/這个(しやこ)のものありやとの給ひき、それのミ 00013400M11ならず、/真如(しんによ)の茶、/鹿苑(ろんをん)の茶あり、又十方の/諸仏(しよぶつ)ぼさつに 00013410M12茶をそなふといへども、酒をもちひず、/仏経(ふつきやう)に茶の/徳(とく)なか 00013420M13らんや、四/書(しよ)/六経(りくけい)に茶を(三十二ウ)のせざることハ、あま 00013430M14りにすぐれてたぐひなき故也、たとへバ/屈原(くつげん)が/離騒経(りさうけい)に、 00013440M15/梅(むめ)をのせざるがごとし、/趙州(てうしう)/風穴(ふうけつ)/南泉(なんせん)/香厳(きやうげん)、か様の/悟道= 00013450M16人(ごたう=じん)ミな茶をこのミて、/坐禅(させん)/醒悟(せいご)のたよりとし給ふといふ。 00013460M17酒のいハく、/付法蔵(ふほうざう)の第七/祖(そ)、/波須蜜(ばしゆミつ)/尊者(そんじや)ハ、手に酒のう 00013470M18つハ物をさゝげ、/弥遮迦(ミしやか)尊者と/問答(もんたう)して、仏法をつたへ給 00013480M19ふ、/芭蕉(はせを)の/泉禅師(せんぜんじ)、/馬祖(はそ)の/道(だう)一(三十三オ)ミな酒をこのミ 00013490¥P46 00013500L1給へり、/黄蘗(わうばく)に/■酒糟(とうしゆさう)の/漢(かん)あり、/曹山(さうざん)に/答白家(たうはくけ)の酒あり、 00013510L2/青峰(せいぼう)の/葡萄酒(ふどうしゆ)あり、/陶淵明(たうゑんめい)ハ酒を/愛(あひ)して/晋(しん)の/達磨(だるま)と名をよ 00013520L3バれ、/劉伯倫(りうはくりん)ハ酒をこのミて/酒徳(しゆとく)の/頌(ぜう)をあらハしたりとい 00013530L4ふ。茶の/云(いハく)、もろこしの/桀(けつ)/紂(ちう)の両/帝(てい)ハ酒をのミて天下をう 00013540L5しなひ、/義(ぎ)/和(くハ)の二人ハ酒におぼれて身をほろぼせしとかや、 00013550L6わざハひをまねく(三十三ウ)/根元(こんけん)、何事かこれにまさらん 00013560L7といふ。酒のいはく、その事しからず、むかし/尭王(げうわう)ハ千/觴(しやう) 00013570L8をかさねては其/仁政(じんせい)とをくつたはり、/孔子(こうし)ハ百/■(かい)をかたふ 00013580L9けて、其/徳(とく)四/海(かい)にみちたり、/儀狄(ぎてき)といふもの酒をつくれバ、 00013590L10/夏(か)の/禹王(うわう)これを/飲(のミ)給ふ、/杜康(とかう)といふもの酒をつくれバ、/魏(ぎ) 00013600L11の/武帝(ぶてい)これをのミて哥をうたひてのたまハく、何をもつて 00013610L12か(三十四オ)/我(わが)うれへをとくべき、是/杜康(とかう)が酒にありとい 00013620L13へり、/殷(いん)の/高宗(かうそう)ハ/麹(かうじ)を夢にみてより、天下をおさめてたひ 00013630L14らかなりし、又/清(すミ)たる酒をバ/聖奬(せいしやう)と名付、/濁(にご)りたるをバ/賢= 00013640L15奬(けん=しやう)と名づく、/聖賢(せいけん)の道も酒よりおこる、又/食後(しよくご)にのむを/中= 00013650L16酒(ちう=しゆ)と名づく、/酔(よハ)ずさめずの中なれば、/中庸(ちうよう)の道も酒にあり、 00013660L17又百/薬(やく)の長といハれて、酒に(三十四ウ)まされる薬なしと 00013670L18いふ。茶のいハく、茶ハ是/神農(しんのう)の時よりはじまれり。/魯(ろ)の 00013680L19/周公(しうこう)、/斉(せい)の/晏嬰(あんえい)、/漢(かん)の/揚雄(やうゆう)、/晋(しん)の/劉■(りうこん)、みな茶を愛して、 00013690M1これをもてあそぶ、それ天地の中に人をもつて第一とし、 00013700M2/万物(はんぶつ)のつかさとせり、茶といふもじハ草木の間に人のある 00013710M3かたちなり、酒といふ/文字(もじ)ハ/水辺(すいへん)に/酉(とり)の有かたちなれバ、 00013720M4人と鳥とそのくらゐおなじ(三十五オ)からんやといふ。酒 00013730M5のいハく、人に上中下のしなあり、草木のあひだにある人 00013740M6ハ/位(くらゐ)たかき人ならんや、木こり草かりのたぐひなるべし、 00013750M7/水辺(すいへん)の鳥をいやしむ事なかれ、/唐(たう)の/李杜(りと)といふ人ハ、天下 00013760M8に名をえしものなり、つねに水辺の鳥を/愛(あひ)して、/後(のち)には/開= 00013770M9元(かい=げん)の鳥となり、/黄山谷(くハうさんこく)ハ水中の/白鴎(はくおう)を我にゝたりとうらや 00013780M10ミたりと/云(いふ)。(三十五ウ)茶のいはく、/猩&(しやう※)の酒に/酔(えひ)てハ、 00013790M11みだりに人を/笑(わら)ふがことく、我をあざけることこそやすか 00013800M12らね、わが茶にも/鳳凰団(ほうわうだん)、/壁龍団(へきれうだん)といふ/名茶(めいちや)あり、これを 00013810M13/煎(せん)ずるにハきりんだんといふ/炭(すミ)にて/煎(せん)ずる、是ほうわうき 00013820M14りんハ鳥けだものゝつかさ也、名もなき水辺の鳥のしるべ 00013830M15き処にあらず、茶のぐにハミな/金銀(きん※)/珠玉(しゆきよく)を(三十六オ)もつ 00013840M16て/作(つく)る、そのあたひいく千万/貫(ぐハん)ともさだめがたし、茶をこ 00013850M17のむものひさうして/重宝(てうほう)とす、酒だうぐにハ何か/値(ね)/高(たか)きた 00013860M18からあるといふ。酒のいはく、わが酒のぐにハ、/銀杯(きんはい)、/金= 00013870M19盃(きん=はい)、/薬玉舩(やくぎよくせん)、其外に/蓬莱盞(ほうらいさん)、/海仙螺(かいせんら)、/無仙螺(ぶせんら)、/匏子巵(はうしし)、/巻= 00013880¥P47 00013890L1荷(けん=か)、/金蕉葉(きんせうえう)、/玉蟾児(きよくせんじ)、これらのうつハものミな/盃(さかづき)の名にし 00013900L2て、もつとも重宝とするところ也、(三十六ウ)春ハ/桃李(たうり)の 00013910L3/園(その)にあそび、花に/座(ざ)して/朧月(らうげつ)をながめ、夏ハ/竹葉(ちくよう)の酒をく 00013920L4ミて、あつさをわすれ、秋は/紅葉(こうよう)を/林間(りんかん)にたきて酒をあた 00013930L5ゝめ、/冬(ふゆ)ハ雪間に/盃(さかつき)をすゝめ、/寒気(かんき)をふせぐ、ミなこれ酒 00013940L6の徳ならずやといふ。茶のいハく、茶ハその四/季(き)にかゝハ 00013950L7らず、又夜るひるをへだてず、立にもゐるにもこれをすて 00013960L8す、/陸羽(りくう)ハ/茶経(だきやう)を/作(つく)り、(三十七オ)/盧同(ろどう)ハ/茶歌(だか)をのぶ、天下 00013970L9の/名文(めいぶん)なり、水ハ/恵山寺(けいさんし)の/石泉(せきせん)の水、/斬州(きんじう)/蘭渓(らんけい)/石下(せきか)の水、 00013980L10/建渓(けんけい)の水ハ又第一の/風味(ふうミ)あり、茶は/増坑(そうこう)/金粟(きんぞく)/建安(けんあん)/北苑(ほくゑん)/義興(きけう) 00013990L11/顧諸(こしよ)などの/名苑(めいえん)を/賞翫(しやうくハん)すといへバ、酒のいハく、天地の間 00014000L12に生れて名ある人ハみな酒を/愛(あひ)す、/晋(しん)の七/賢(げん)八/達(たつ)、/唐(たう)の/六= 00014010L13逸(りく=いつ)八/仙(せん)、/漢家(かんか)にハ七十二人、/金谷(きんこく)にハ二十四/友(ゆう)、/劉玄石(りうげんせき)が 00014020L14一千日、/淳于■(しゆんうひ(ママ))(三十七ウ)が七八斗、/鴎陽修(おうやうしゆ)が/酔翁(すいおう)、/元次= 00014030L15山(けんし=さん)が/漫郎(まんらう)、みな酒によつて名をほどこし、徳をいだく、さ 00014040L16れば/楚国(そこく)の/届太夫(くつだいぶ)ハ/独(ひと)り/醒(さめ)たりとてながされ、/宋朝(そうてう)の/蘇太= 00014050L17夫(そだい=ふ)ハ酒をのまざるをもつて/無能(むのう)のものといやしめらる、茶 00014060L18はこれいやしきもの也といふ。茶の云、わがてうに茶の名 00014070L19ところおほし、/梅(とが)のおハ第一なれども、/宇治(うぢ)の茶のミ声を 00014080M1にご(三十八オ)らず、/数奇者(すきしや)此故に宇治茶をもつて第一と 00014090M2す、そのかみハ/無上(むじやう)、/別義(べちぎ)、/極無(ごくむ)と名付し、/近代(きんだい)にをよび 00014100M3て、/初(はつ)白、むかし、もり、/朝(あさ)日などさま+の/名苑(めいえん)の茶を 00014110M4きしりて、一/盞(さん)を/点(てん)じ/服(ふく)すれば/無明(むミやう)のねふりながくさめ、 00014120M5/心火(しんくハ)の/熱(ねつ)をしめして大あんらくの/悟道(ごだう)/地(ぢ)にいたる、いかな 00014130M6る酒もをよぶべからずといふ。我立出ていハく、/双方(さうハう)名を 00014140M7えしかた※(三十八ウ)なり、/無量却(むりやうこう)にも此ろんぎつく 00014150M8すへからず、われはよく酒ものミ茶ものむ、此二つ何れか 00014160M9/勝劣(せうれつ)あらん、わがよむ歌を聞給へとて、 00014170M10△△茶と酒と花ともみぢと月と雪 00014180M11△△△もちとだんごと何れまさらん 00014190M12といふおかしき哥をよみければ、茶と酒とを両方の手にも 00014200M13りて、くるゝをのむと(三十九オ)おもひしが、つにむせて 00014210M14さめたる目を、する+おきあがりたれば、夢にやありけ 00014220M15ん、うつゝにや有けん、/夢(つめ)うつゝをわかぬ/胡蝶(こてふ)のたハふれ 00014230M16を、筆にすさひて、はるごむまとするならし。 00014240¥P48 00014250¥Q 00014260L1元禄六@癸△|△酉@歳正月吉日 00014270L2△△△△△△日本橋万町 00014280L3△△△△△△△△△△△△△△△△万屋清四郎板(三十九ウ) 00014290¥P49 00014300¥U噺本大系△第四巻 00014310¥T囃物語 00014320¥G 00014330¥Y 00014340L16延宝八年刊 00014350L17編者未詳 00014360L18大本三巻 00014370L19国会図書館蔵 00014380¥Y囃物語序 00014390M3さひしさに宿を立出でながむれバ、いつくもおなし秋の夕 00014400M4暮と、よまれし古哥の身にしミて思ひ出られ侍るに、折し 00014410M5も雨さへ/降(ふり)て、宿を立いてんもわづらハしく、/独(ひとり)/灯(ともしび)のも 00014420M6とに、/鴫(しぎ)の/看(かん)経とかやの/風情(ふせい)して侍る所に、したしき友の 00014430M7をとなひ来て、此秋の/淋(さび)しさ、いかにやハ過すといへり。 00014440M8/嬉(うれ)しくも/訪(とふら)ひきましたれ、降くらしたる宵の雨、これぞ雨 00014450M9夜の物かたりして、/徒然(つれ+)をもはらさんといへバ、さ思ひて 00014460M10こそ来つれときこえしまゝ、予物語始侍る。(一オ) 00014470M11△△昔去所に、夜/更(ふけ)て/盗(ぬす)人来り、家の戸をひたもの/押(おし)/け((ママ))け 00014480M12△△れバ、亭主聞付/起(おき)あがり、刀/脇指(わきさし)をさすまゝに、白/綾(あや) 00014490M13△△たたんで/鉢巻(はちまき)し、盗人戸を/押破(おしやふり)てはいらハ、/抜討(ぬきうち)にせ 00014500M14△△んと、/鍔本(つはもと)をくつろげて待かけた。案のごとく押/壊(やふ)り、 00014510M15△△/顔(かほ)さし入て/覗(のぞく)所を、亭主刀ひんぬいて首を/礑(はた)ときる。 00014520M16△△され共/切(きり)損しけるか、/頚(くび)落かゝり/不落(ぶら)+としけるを、 00014530M17△△此盗人首をかゝへ、一さんかけて/逃行(にげゆく)。亭主あまさじ 00014540M18△△と追かけけれバ、にくるに/邪摩(じやま)にやなりけん、首を/扱= 00014550M19△△放(もぎ=はなし)、ふところへ入て、終に/逃(にげ)のびた。亭主是非なく立 00014560¥P50 00014570L1△△かへり、/翌(あくる)日早&奉行所へあがり、/訴(うつた)へけるハ、夕べ 00014580L2△△私方へ盗人入申候ひしを、一打に/討(うち)申候へハ、かやう 00014590L3△△+にて/逃失(にけうせ)候と申上け(一ウ)れば、御奉行聞召れ、 00014600L4△△よく社、申来りたれ、さらバ国中へ/触(ふれ)をまハせとて仰 00014610L5△△出さるゝハ、若/頚(くび)のなき者道を通り候ハゝ、見あひ次 00014620L6△△第に急度からめまいるへし、 00014630L7とかたりしかハ、友大に/笑(わら)ひて、物語せんと申さるゝ程に、 00014640L8耳を/澄(すま)し聞/居(い)たれバ、思ひの外の/戯言(たハこと)也、さやうの事を咄 00014650L9しと社いふなれ、世の/噂(うハさ)にもまことしからぬ儀を人のかた 00014660L10れバ、/夫(それ)ハはなしにてぞあらめと、いふにても/弁(わきま)へしられ 00014670L11よかし、/話(ものかたり)とハ出書正しき事をいふなるへし、伊勢物語 00014680L12の註にも、其有しことをかたるを聞て、書たる心なりと侍 00014690L13るとかや、いで只今のはなしに/似(に)たる事を、物かたりして 00014700L14きけ(二オ)侍らんとて、 00014710L15△△/朱雀院(しゆしやくいん)の御宇に、平の/将門(まさかと)といふ人有。/桓武(くハんむ)天皇の 00014720L16△△御子、/葛原(かつらはら)の/親王(しんわう)より五代、上総の介/高望(たかもち)の孫、/義政(よしまさ) 00014730L17△△の/子(こ)なり。/承平(じやうへい)五年二月に/謀叛(むほん)を起し、/伯父(おぢ)/常陸(ひたち)の大 00014740L18△△/掾(じやう)国/香(か)を討てより東国をなびけ、/下総(しもつふさ)の国/相馬(さうま)の郡 00014750L19△△に都を/建(たて)、/平(へい)親王と/自(ミづから)名を/称(しやう)しけり。天慶三年二月 00014760M1△△に、国香が子/貞盛(さたもり)、藤原の/秀郷(ひでさと)両人大将承り、下総に 00014770M2△△発向して、さま+に/責(せめ)しかども、城/強(つよう)して落がたか 00014780M3△△りけれバ、秀郷身を/窶(やつし)ねらひけるが、将門我に似たる 00014790M4△△兵七人友として、更に/主従(しゆじう)の義なき故、すへてわきか 00014800M5△△たかりしを、八幡大菩薩の御力により、終に/秀(ひで)(二ウ) 00014810M6△△/郷(さと)将門を討にけり。将門か首四月の末に京着しけるを、 00014820M7△△/獄(ごく)門にかけしかバ、此首/歯噛(はがミ)をなし、声を/揚(あげ)、我/躯(むくろ)ハ 00014830M8△△何方に有そ、はやく来れ、/頚(くび)/継合(つぎあハ)せて、今一軍せんと 00014840M9△△て/呼(さけふ)/形勢(ありさま)、/冷(すさま)しといふもおろかなり。有時藤六左近と 00014850M10△△いふ者、 00014860M11△△△△将門は米かミよりそきられけり 00014870M12△△△△△たハら藤太かはかりことにて 00014880M13△△とよミけれバ、将門首しゝとわらひて消うせしとなり。 00014890M14かやうに出所有事を、物語といふなりと語らるゝ。誠にさ 00014900M15も有べき義なれとも、予ハかつてしらずかし。/所註(しよせん)/僕(やつかれ)ハ 00014910M16囃し侍らん、そこには/似通(にかよ)ひたる事を、物語し給へとて、 00014920M17是より/次第(をち)+かたミに(三オ)し侍りし。(三ウ) 00014930¥P51 00014940¥Y1囃物語上△目録 00014950L3△△一△天下一目/医者(いしや)の咄し并/華佗(くわた)物語 00014960L4△△二△/篭抜(かごぬけ)の咄し并/列子(れつし)物語 00014970L5△△三△大風に逢し舟の咄并人のせい/長短(ちやうたん)物語 00014980L6△△四△/香嗅(かうきく)名人の咄并小野小町物語 00014990L7△△五△/提重(さけじう)の咄し并/仙郷(せんきやう)雪物語 00015000L8△△六△能太夫咄し并/土佐(とさ)日記物語 00015010L9△△七△/鳶(とひ)/烏(からす)物いひし咄并/公冶(こうや)長物語(四オ) 00015020L10△△八△念仏数取咄し并重怡物語 00015030L11△△九△/泰山府君祭(たいさんふくんまつり)咄并有国物語 00015040L12△△十△/防風(ほうふう)買し咄并伯楽物語(四ウ) 00015050¥T1 00015060¥N1¥J 00015070¥X一△天下一目医者の咄し 00015080M3去目医者、日本無/双(さう)の上手なるが、/療治(りやうぢ)にありかるゝ時、 00015090M4辻/放下(はうか)其外何にても、人だかりあれバ立/留(とゝま)り見られしなり。 00015100M5されどもせいがひくうて、人の/後(うしろ)からハ見えぬにより、両 00015110M6の/眼玉(まなこ)を小刀にてくじり出し、/鐘木杖(しゆもくつえ)のさきに/双(なら)へてさし 00015120M7上見られし。扨/仕舞(しま)へハ又、目の玉に/粉(こ)薬をふりかけ、押 00015130M8入ておかれし。 00015140¥N2¥J 00015150¥X/華(くわ)佗物語 00015160M11@史記|評林@/魏(き)の華/佗(た)といふ人、養性の/術(じゆつ)を/悟(さと)り、年百歳に至ても、 00015170M12殊外/顔象(かほかたち)若かりき。時の仙人なるへしといふ。病有人に 00015180M13薬針を以て療治せられ、又薬針の及(五オ)かたき病ハ、酒 00015190M14にて/麻痺散(まひさん)をのませられしに、病人酔て前後をしらず/伏(ふし)ぬ 00015200M15る時、腹のやまひ/背(せ)の病、惣じて其病の有ところを/裁割(たちさき)て、 00015210M16/悉(こと+く)洗流し、又本のことく/縫(ぬひ)合せ、/神膏(しんかう)を付けれバ、四五 00015220M17日に/疵(きず)/愈(いへ)て、一月の間に/透(すき)と本復せしとなり。下略。 00015230¥P52 00015240¥N3¥J 00015250¥X二△篭ぬけ咄し 00015260L3長崎より/名誉(めいよ)の/軽業(かるわざ)上りて、四条河原に芝居をかまへ、さ 00015270L4ま+/芸(げい)を尽しけり。中にもちやるめらとかやいふ/鳴(なり)物 00015280L5を/吹立(ふきたて)、/太鼓(たいこ)かねを打て、長さ八尺の篭の中を、/走(はしり)かゝ 00015290L6つて/抜(ぬけ)けるが、身のかるき鳥のとぶがことし。/見物(けんぶつ)の/貴賎= 00015300L7群集(きせん=くんじゆ)しけり。ある時雨ふりけ(五ウ)れバ、其日ハ芝居をや 00015310L8めて、四条縄手の/■(もとい)屋へ遊ひに行、/良(やゝ)/暫(しはらく)はなしけるが、 00015320¥G 00015330M1折節/眠(ねふり)気ざしけれハ、もとゐやのみせに心地よく/寝(ね)入し所 00015340M2に、/庚申(かうしん)の/代(だい)侍/鉦(どら)をならし通けれバ、此/鉦(どら)の/響(ひびき)、/寝(ね)耳へ入 00015350M3しかば、其侭起て、/軒(のき)に/釣(つつ)てある/■(もとい)の形を、あうといふて 00015360M4ぬけた。 00015370M5△△鉦の音をちやるめらかと思ふた。 00015380¥N4¥J 00015390¥X/列子(れつし)物語 00015400M8列仙全伝ニ/鄭(てい)の/列子(れつし)といふ人、/関(くハん)/尹子(いんし)といひし人を/師(し)とし、 00015410M9/壷丘子(こきし)といふ者を友として、二人の道を学ひ得て、風に/乗(のり) 00015420M10て/飛行(ひぎやう)せられしが、身のかろき事/木(こ)の/葉(は)又ハ/蝉(せミ)の/抜殻(ぬけがら)の風 00015430M11にふかるゝがことくなり。@又唐天宝初|著書行世△@(六オ) 00015440¥N5¥J 00015450¥X三△大風に/逢(あひ)し舟の咄し 00015460M14去人西国へ下りしが、大風吹て舟を/馳(はせ)ける程に、いづち共 00015470M15しらぬ嶋に吹付られ、/辛(から)き命たすかり、/漸(やう+)嶋へあがりてミ 00015480M16れバ、此世/界(かい)の外にて有やらん、其国の人の/長(たけ)四五寸計な 00015490M17り。あやしく思ふ処に、魚売と覚しきもの、/簣(あじろ)に魚を入て 00015500M18/荷(にな)ひ、/韶陽魚(ごまめ)の切売ハ+と/喚(よはハ)りけり。此/者(もの)/興(けう)をさまし、 00015510M19いや+爰にてハ中&口/過(すき)の成へき所にあらずと思ひ、そ 00015520¥P53 00015530L1れより道の有に任せて、山を/越(こへ)谷を/隔(へだ)て行しに、又国有。 00015540L2人のたけの高さ五六丈も有らん、爰にても魚売のよハゝる 00015550L3をきけば、/鰤(ぶり)/雑喉(さこ)ハ+といふ。よく見れバ、三間四方程 00015560L4の/升(ます)(六ウ)にてはかつて売し。 00015570¥N6¥J 00015580¥X人の/長(たけ)長短の物語 00015590L7三界義此/娑婆(しやは)世/界(かい)/初劫(しよこう)の時、人の身の/長(たけ)千尺、或ハ二千尺、 00015600L8/寿命(じゆミやう)八万四千歳、此時の女人五百歳にて初て/婬(いん)をこなふ 00015610L9事をしる。是より次第に、寿命も身の長も/減(げん)して、三/災(さい)の 00015620L10時節ハ寿命十歳、身の長二尺、短ハ一尺、此時の女人生れ 00015630L11て五ケ月に/嫁(か)を/行(おこなふ)。 00015640¥N7¥J 00015650¥X四△/香嗅(かうきく)/名人(めいしん)咄し 00015660L14昔山口源五右衛門とかやいひし人有。生れつき鼻の高き事、 00015670L15天狗ハ物かハなり。/香(かう)を/嗅(きく)事名人にて、大名高家にかぎら 00015680L16ず、/伽羅(きやら)を求る人&ハ、此源五右を頼ミ、(七オ)(七ウ挿画) 00015690L17善悪を極られし。或時山口を始、人&打寄十/■香(しゆかう)をせられ 00015700L18しか、会終りて亭主申されけるハ、時分柄殊外あつく侍る、 00015710L19十■香ハ/果(はて)候まゝ、是からハ不礼講にして、丸/裸(はたか)に成て緩 00015720M1&遊ひ給へといふ。座中の人&是ハ/能(よき)御気がついた、さら 00015730M2バ左様にいたさうとて、面&/■(かたびら)を/脱捨(ぬきすて)/寝倦(ねころび)、或ハ/匐(はらはい)に成 00015740M3て咄しける。折ふし座敷の/片隅(かたすミ)に弓矢有。源五右是を見て、 00015750M4御亭主の得物かととふ。亭主、されハ此中ちと/稽古(けいこ)いたし 00015760M5侍るが、所ハ/狭(せば)し、自由に射る事も成申さずといふ。源五 00015770M6右聞て、かやうにせばき所に/で((ママ))ハ、/空矢(そらや)を/射(い)て/弓勢(ゆんせい)をため 00015780M7したるがよく侍るといふ。亭主、そら/箭(や)と申ハ/虚空(こくう)へ矢を 00015790M8/射(い)る事か、それハ(八オ)かへり矢/浮雲(あぶなく)侍るゆへ、なり申さ 00015800M9すといふ。源五右、いやさ、少もくるしからぬ物なり、我 00015810M10等射て見せ侍らんとて、裸ながら庭へ立出、弓矢おつとり 00015820M11打つかひ、/彎(よつひい)て虚空へ/放(はな)つ。其弓勢/強(つよう)して、雲をわけてぞ 00015830M12あがりけり。人&見て、射たりや+と/誉(ほめ)けるが、此矢/空(そら) 00015840M13より落かへり、山口が高き鼻を/寸斗(ずんと)/殺(そぎ)、あまる矢が/勢(へのこ)をね 00015850M14よりふつと切て落す。人&驚き、先あたゝまりの有内に/継(つけ) 00015860M15やとて、/周章翊(あハてふためき)し程に取違へ、/■(へのこ)を鼻の跡へ付、鼻をば/臍(ほぞ) 00015870M16の下へ付たり。此後より源五右、小便をするにハ鼻の上よ 00015880M17り滝を流しけるなり。扨人が頼ミて香をきいて/貰(もら)へハ、前 00015890M18をまくり、香/炉(ろ)を/胯(またくら)へ入て/嗅(きゝ)けるに、/善悪(よしあし)(八ウ)をきゝわ 00015900M19くる事、少もあやまらずとなり。扨も奇妙な事かな、鼻の 00015910¥P54 00015920L1付所違ふても、能きゝ覚し。是そ実の名人ならん。 00015930¥N8¥J 00015940¥X小野小町物語 00015950L4小野ゝ小町ハ其かくれなき哥人なり。古今集序ニをのゝ小町 00015960L5ハいにしへのそとをり姫の流なり、あハれなるやうにてつ 00015970L6よからず、いはゞよき女のなやめる所有ににたり、つよか 00015980L7らぬハをうなの哥なれバ成へしと有。無名抄/業平(なりひら)の朝臣、 00015990L8二条の/后(きさき)いまだたゞ人におハしましける時、盗取て行ける 00016000L9を、せうと達にとりかへされたる由いへり。此事又日本紀 00016010L10の弐に有。ことのさまハ彼物語にいへる(九オ)ごとく成に、 00016020L11とりてうばひ返しける時、/兄達(せうとたち)其いきとをりやすめかたく 00016030L12て、/業平(なりひら)の朝臣のもとゝりを切てげり。しかあれと、たが 00016040L13為にもよからぬ事なれバ、人もしらず、人ひとつにのミ思 00016050L14ひて過けるに、業平朝臣、髪おほさんとてこもり居たりけ 00016060L15る程に、哥枕共見んとて、/逸(すき)に事よせて東の方へ行けり。 00016070L16みちの国に至りて、やす嶋といふ所にそやとりたりける夜、 00016080L17野の中に哥の上の句を詠する声あり。/詞(ことバ)にいはく、 00016090L18△△秋かせのふくにつけてもあなめ+ 00016100L19といふ。あやしく覚て、声をたつねつゝ是を求るに、更に 00016110M1人なし。只死人の/首(かしら)一つ有。/旦(あした)に猶是を見るに、彼(九ウ) 00016120M2/髑髏(どくろ)の、其かしらの目の穴より、/薄(すゝき)なん一本生出たりける。 00016130M3其薄の風になひく/音(をと)のかく聞えけれバ、あやしく覚えて、 00016140M4あたりの人に此事をとふ。有人語りていはく、小野の小町 00016150M5此国に下りて、此所にて命終にけり、則かの/頭(かしら)是なりとい 00016160M6ふ。爰に業平あはれに悲しく覚えけれは、なミだをおさへ 00016170M7て下の句をつけけり、 00016180M8△△△をのとはいはじすゝき生たり 00016190M9とそつけゝる。 00016200M10△△たゝ今の咄しの、香きゝし名人ハ、其身/存命(ながらへ)てのこと 00016210M11△△なり。小町ハ死て、されかうべに成て迄、目の穴より 00016220M12△△生し薄の、哥の上の句を詠しけん事、有(十オ)難き名 00016230M13△△人ならずや。 00016240¥N9¥J 00016250¥X五△/提重(さげじう)のはなし 00016260M16去人万に/異風(いふう)なる事を好ミけり。提重余多持たれ共、いつ 00016270M17れも同じ様にて気にいらす。何とそ手かるいやうに、/風(ふう)か 00016280M18ハりにせんとたくミ、色+案しけるが、/兎角(とかく)/張抜(はりぬき)にして 00016290M19ミんと思ひ、重箱を五/重(じう)にして、/蒔絵(まきゑ)に/薄(すゝき)なと/幽(かすか)にかゝせ 00016300¥P55 00016310L1/嗜(たしなミ)けり。扨友達衆を同道して、東福寺の/開山忌(かいさんき)に参り、 00016320L2下向に門前の芝の上に/絵莚(ゑむしろ)しかせ、彼提重を取出す。人& 00016330L3是を見て、さて+/異風(いふう)/成(なる)能/物逸(ものずき)かな、先ハ手がるうて面 00016340L4白しなと、取+/襃(ほめ)て、酒一つ二つ呑ける所に、十月の事 00016350L5なれバ、大/嵐(あらし)吹来り、彼/張(はり)(十ウ)/抜(ぬき)の提重を、五重共に/虚= 00016360L6空(こ=くう)へとつて行。人&/噪(さハぎ)けれども、空へ吹上し事なれバせん 00016370L7方なし。其後東福寺辺の人の咄しをきけバ、/今年(ことし)の/開山忌(かいさんき) 00016380L8にハ不/思儀(しぎ)有しと云。いかやうの事ぞととへバ、白雪のふ 00016390L9る所も有、/紫(むらさき)の雪或ハ/黄(き)色の雪ふる所も有しが、地にたま 00016400L10りしを見れバ、紫の雪ハ/章魚(たこ)、黄色の雪は/卵(たまご)、白雪と見え 00016410L11しは/蒲鉾(かまほこ)、其外/巻鯣(まきするめ)なとが/降(ふり)しと。 00016420¥N10¥J 00016430¥X/仙郷(せんきやう)の雪物語 00016440L14八雲御抄ニ仙郷にはむらさき、/黄(き)色、/浅黄(あさぎ)の雪ふるとあり。倭 00016450L15漢合運/孝元(かうげん)天皇三十九年乙丑六月大雪ふる。/推古(すいこ)天皇九年辛酉 00016460L16五月火の雨ふる。/聖武帝(しやうむてい)(十一オ)天平十四年壬午/奥州(おうしう)/紅(くれない)の 00016470L17雪ふる。/厚(あつ)さ二寸。/堀川(ほりかハ)院長治二年乙酉六月北国紅の雪ふ 00016480L18る。あつさ五寸。/後土御門院(こつちミかとのゐん)文明九年丁酉七月北国紅の雪 00016490L19ふる。一寸。 00016500M1△△此外夏、雪/雹(あられ)/非常(ひじやう)の物ふりし事有。/繁(しげ)きによつて略 00016510M2△△す。 00016520¥N11¥J 00016530¥X六△能太夫はなし 00016540M5江戸にて去能太夫、親子づれにて、出入する屋敷方へ、節 00016550M6句の礼に行しが、去御大名の所へ参りけれバ、大名仰ける 00016560M7ハ、折ふし今日ハ徒然也、其方山/姥(うは)を久敷見ぬほとに、仕 00016570M8れと仰らるゝ。/親仁(おやぢ)畏候とて、御手/役者(やくしや)を/催(もよを)(十一ウ)し、 00016580M9山姥一番/果(はて)た。殿も御/機嫌(きけん)よくて、又むす子にも/陽貴妃(やうきひ)を 00016590M10御所望有。むす子謹で申上けるハ、今朝より方&へ御礼に 00016600M11/伺公(しこう)仕、殊外/草臥(くたひれ)罷在候、恐なから今日御免被遊被下候は 00016610M12ゝ、有かたかるへき由申上る。親仁/傍(そば)にて是/是((衍))を聞、大に 00016620M13せきて申されけるハ、やれ+其方ハよく/合点(がつてん)せよ、御意 00016630M14を背ハ慮外に非すや、其上我等年寄て、/行歩(ぎやうふ)叶ハぬ身でさ 00016640M15へ、しにくい山姥を一番したでハないか、なんぞや其方若 00016650M16くさかんな身で、楊貴妃をせまいとハ、扨&/栄耀(ゑよう)にほださ 00016660M17れたか、/冥加(ミやうが)につきようはしじやといはれた。 00016670M18△△聞やうがわるけれバおかし。(十二オ) 00016680¥P56 00016690¥N12¥J 00016700¥X/土佐(とさ)日記物語 00016710L3土佐日記二月五日、けふからくして/和泉(いづミ)のなだより、小津の 00016720L4とまりををふ。松原目もはる+也。彼是くるしけれバ、 00016730L5舟とくこげ、日の/能(よき)にともよほせバ、/梶(かぢ)取船子どもにいは 00016740L6く、 00016750L7△△み舟よりおほせたぶなり/朝北(あさきた)の 00016760L8△△△いでこぬさきに/綱手(つなて)はやひけ 00016770L9此ことばの哥のやう成ハ、かぢとりのをのづからのことば 00016780L10なり。/梶(かぢ)取ハうつたへに、/我(わか)哥のやう成事いふにもあらず。 00016790L11きく人の、あやしく哥めきてもいひつるかなとて、書いだ 00016800L12せれバ、/実(げに)もみそじあまりなりけり。下略。(十二ウ)(丁付 00016810L13ナシ挿画)(丁付ナシ挿画) 00016820L14△△是ハ聞やうよかりし故おもしろし。 00016830¥N13¥J 00016840¥X七△/鳶(とび)/烏(からす)の物をいひし咄し 00016850L17去人、鳶と烏が物をいひたるを聞たといふ。それハ不/思(し)儀 00016860L18の事也、鳥の/鳴(なく)声を、何事と聞わけ給ふ事、/奇特(きどく)なことじ 00016870L19や、して+何といひしぞととへバ、答ていふ様、去所の 00016880¥G 00016890M12屋ねの上に、/鵄(とび)が魚の/腸(わた)をくふて/居(い)る所へ、/鴉(からす)がとんで来 00016900M13て、/買(かふ)たか+といひけれバ、/鵄(とび)がいひしハ、ひいろた 00016910M14+とこたへし。 00016920¥N14¥J 00016930¥X鳥の声を聞わけし物語 00016940M17論語首書/公冶長(こうやちやう)といひし人ハ孔子の弟子也。/衛(えい)の国より/魯(ろ)の 00016950M18国へ帰られし道にて鳥の鳴声をきけバ、/清渓(せいけい)に(十三オ)死 00016960M19人有、いさ行てくらハんといひて、友の鳥と打つれ飛さり 00016970¥P57 00016980L1けり。かゝる所へ/老嫗(らうおう)一人/泣(なく)&来りけれバ、/公冶(こうや)長見て、 00016990L2何とてなくやと/問(と)へハ、老女こたへけるハ、前の日/幼少(やうしやう)の 00017000L3子家を出行て今にかへらず、/何国(いづく)に居るともしらず、若死 00017010L4ても有か覚束なさに/啼(なく)と云。公冶長申けるハ、最前鳥の鳴 00017020L5をきけば、/清渓(せいけい)に往て肉をくらハんといひしなり、おそら 00017030L6くハ老女の子なるへしといふ。老女清渓に行て見れバ、尋 00017040L7る子死て有。/涙(なミだ)ながら立帰りて、国の/司(つかさ)へ/訴(うつた)へけれバ、/司(つかさ) 00017050L8聞給ひて、何としてか其/死骸(しがい)の有所をしりぬると/宣(のたま)ふ。老 00017060L9嫗承り、公冶長に/行逢(ゆきあい)侍りしが、汝が子ハ、清渓に有と申 00017070L10せしにより、知侍ると申(十三ウ)せバ、扨ハ公冶長か殺し 00017080L11たる物なりとて/呼寄(よひよせ)、老女が子の/死骸(しがい)有し所、如何してし 00017090L12りぬると/問(とひ)給へバ、公冶長答へて申けるハ、鳥の/語(ご)を聞て 00017100L13/悟(さと)り侍る、/努(ゆめ)+/我(わが)ころせしに非ずといふ。さらバ汝に重 00017110L14て鳥の/語(こ)をきかせて、其声を悟るにおゐてハ命をたすくべ 00017120L15し、若さとらずハ、汝がころせしに/紛(まきれ)なき間、命を取へし 00017130L16とて、公冶長を/獄(ごく)屋へ/押込(おしこめ)られけり。/篭(らう)へ入て六十日目に、 00017140L17/雀(すゝめ)集りて、/嚼(やく)&/嘖(せき)&と鳴けれバ、公冶長/笑(わらへ)を含けり。/篭(らう)守 00017150L18此/躰(てい)を見て、司へ参りて申けるハ、只今/獄(こく)の上へ/雀(すゝめ)きたり 00017160L19て/啼(なく)を、公冶長聞て/咲(えミ)をふくミ侍るといふ。司やかて公冶 00017170M1長が前へ来り、雀の鳴声ハ、何とか聞しと(十四オ)問。公 00017180M2冶長答へて、雀の鳴しハ、/白蓮水(ひやくれんすい)の辺に、/粟(あハ)をつミし車く 00017190M3つかへりしが、/牛(うし)ハ角折たり、こぼれし粟をひろへども/尽(つき) 00017200M4ず、いざ行てくらハんといひし也と申けり。/司(つかさ)うたがハし 00017210M5く思ひ、白蓮水へ人を遣し見せけれバ、公冶長か申せしに 00017220M6少もたがハざりけり。是によつてゆるしぬ。 00017230¥N15¥J 00017240¥X八△念仏数取はなし 00017250M9去者/死(しゝ)て/黄泉(よミぢ)の旅に趣しが、/娑婆(しやば)に有し時、露計の善/根(ごん)ハ 00017260M10せず、定て/地獄(ぢごく)へ行であらう、是非に及ハぬ事哉と心ほそ 00017270M11く、/曠&(くハう+)たる道をたどりし所に、/背(うしろ)の方より八十計の/姥(うば)、 00017280M12竹の/杖(つえ)をつき、何かハしら(十四ウ)ず大き成布袋を、肩に 00017290M13かけて来る。此者見て、近くさし寄て姥にいふやう、その 00017300M14肩にかけ給ふハ何そととふ。姥答て、是ハ我等/娑婆(しやば)に有し 00017310M15時、常に念仏申侍しが、/珠数(じゆず)を買事も太儀さに、/藁莚(わらしべ)を一 00017320M16寸程つゝに切て、念仏一返にしべ一つゝにて数を取侍しを、 00017330M17布袋へ入て此度持参るといふ。彼者聞て、扨&/殊勝(しゆしやう)な事や、 00017340M18見れバ/老躰(らうたい)のそれを肩にかけられ、/術(じゆつ)なさうに見え侍る、 00017350M19/亡者(もうじや)ハ相/互(たがへ)、我等/若役(わかやく)に持て進上といふ。姥、嬉しや、さ 00017360¥P58 00017370¥G 00017380L12らバ頼ませうかとて渡す。彼者袋を請取肩に懸、飛がごと 00017390L13く/逃(にげ)行。姥驚、やれ/盗(ぬす)人よ/出合(であへ)+とよバゝりけれ共、折 00017400L14節行かふ/亡(もう)(十五オ)者もなし。彼盗人しすましたりと悦ひ、 00017410L15/焔魔(えんま)王の前に来り申様、我等ハ/平生(へいせい)念仏/怠(おこた)らす、一/遍(へん)+ 00017420L16にわらしべにて数を取、袋に一/杯(はい)御座候間、/極楽(ごくらく)へ御やり 00017430L17被下候へといふ。/閻(えん)王聞召、/汝(なんぢ)か/臉魂(つらたましい)ハ念仏など申しさ 00017440L18うにハ見えぬなり、名ハ何といふぞと/問(とい)給ふ所へ、姥杖に 00017450L19/把(すがり)大/息(いき)ついで来り申やう、あの念仏の数取はわたくしがに 00017460M1て侍るを、あの者私を/賺(だまし)/奪(うばい)取候といふ。ゑんま王聞召、/左= 00017470M2社(さ=こそ)有べきと思ひしなり、乍去ばゞがしべならバ、/凡(およそ)数を覚 00017480M3たかと仰けれバ、されバ、一斗程御座りませうといふ。ゑん 00017490M4ま彼/袋(ふくろ)を御覧じ、いや+殊外/重(かさ)たかし、五六斗も有べし、 00017500M5先&はかつて見よと(十五ウ)/冥官(ミやうくハん)におほせつけられ、升に 00017510M6てはかり見れば、/実(げに)もしべハ一斗有。其残りハみな+/牛= 00017520M7馬(うし=うま)の/沓(くつ)なり。これハなにとして入しぞと仰ければ、/姥(うば)うけ 00017530M8たまハり、それハわたくしハ入ませぬ、さためてこの/横惑= 00017540M9者(わうちやく=もの)がしわざで御座りませうといふ。えんまきこし召、/言語= 00017550M10道断(こんご=とうだん)/兇奴(にくいやつ)かな、一斗の/莚(しべ)ではすくないとおもひ、六道の辻 00017560M11で/牛頭(ごづ)/馬頭(めづ)の/履(くつ)を/拾(ひろ)ひいれて、かさだかに/に((衍))してきたりし 00017570M12なり、/己(おのれ)/最前(さいぜん)もとふたれども、名をいひおらぬ、名はなに 00017580M13といふとおほせけれバ、加賀屋加兵衛と申。そのとき/扣(ひかへ)帳 00017590M14を見たまへ(十六オ)ば、/娑婆(しやば)にて長崎の/似荷(にせに)をしたやつが、 00017600M15それに/懲(こり)もせず、又/似袋(にせふくろ)をしをつた。 00017610¥N16¥J 00017620¥X重怡物語 00017630M18元亨釈書一重怡/比丘(ひく)ハ/伯州(はくしう)の人なり。/比叡(ひゑい)山に/住(すミ)て/顕蜜(けんミつ(ママ))の法 00017640M19を/学(まな)び、後に/鞍馬(くらま)寺のうしろに、丈六の阿弥陀を/安置(あんぢ)した 00017650¥P59 00017660L1まひ、大治二年より保延六年まて、十四年があいだ念仏を 00017670L2/唱(とな)へ、/小豆(あづき)にてその/数(かず)をとりたまふに、二百九十七/斛(こく)六斗 00017680L3あり。兼て/徃生(わうじやう)の日を知、/沐浴(もくよく)して左の手に五/鈷(こ)をとり、 00017690L4右の手に念/珠(じゆ)を持、西に向目出度命終たまふ。(十六ウ) 00017700L5同書二/興福寺(こうふくじ)/荘厳院(しやうごんいん)の/実覚(じつがく)法師の下人、其/役(やく)をゆるされ、/髪(かミ) 00017710L6を/剃(そり)て/法(ほう)名を/願西(ぐハんさい)といふ。/飛鳥寺(あすかじ)の/側(かたハら)に/庵(いおり)を/結(むすひ)て住、弥陀 00017720L7を唱ふ。念珠をもたず、小豆にて数を取。その数七百余石。 00017730L8天承元年七月朔日病おこる。諸人にかたりて曰、我死たり 00017740L9とも三日/葬(はうふる)事なかれ、/形象(かたち)三日があいたに/壊(かふれ)ずは、極楽に 00017750L10生れしとしるへしと、いひ/已(おハつ)て西にむかひ、/定印(ぢやういん)を結で/寝(ねる) 00017760L11がことくして死す。四日めに諸人大桶に入、/菴(いほり)の後に置し 00017770L12が、十余日過て高野の僧四人きたり申けるは、我+夢の 00017780L13/告(つけ)ありて来れり、願西の/死骸(しがい)を(十七オ)見せ給へといふ。 00017790L14人&/破(やふれ)/爛(たゝれ)て/臭(くさ)かるへきと思ひて遠慮しけれバ、四人の僧、 00017800L15すこしもくるしからず、夢の告によりはる+来りし上ハ、 00017810L16/憚(はゞかる)に及ずといふ。其時桶の蓋を取て見けれバ、/身躰(しんたい)/変(へん)せず、 00017820L17/生(いき)たる人のごとし。/髪髭(かミひげ)一寸余のびてあり。四人の僧諸人 00017830L18ともに礼拝せしなり。年ハ七十五。 00017840¥N17¥J 00017850¥X九△/泰山府君(たいさんふくん)まつる咄し 00017860M3去人以の外わつらい、色&薬をつくせともしるしなし。む 00017870M4す子いかゝせんと/歎(なげ)きけるが、此上ハ/祈祷(きとう)してみんとて、 00017880M5急き山臥の方へ行、我等が/親仁(おやぢ)散&わづらひ、今ハ薬の力 00017890M6及がたく侍る、/哀(あわれ)仏神の御たすけ(十七ウ)を蒙り、今一/度(ど) 00017900M7本/復(ふく)あらせてたべと念比に頼む。山伏尤御/断(ことわり)也、して 00017910M8+御/親父(しんぶ)の年ハいくつ、/煩(わつらい)ハいつ比からぞと、こま+ 00017920¥G 00017930¥P60 00017940L1ととひて申やう、此病人ハ/泰山府君(たいさんふくん)をまつらねばならず、 00017950L2/祈祷領(きとうりやう)銀子十枚也といふ。むす子聞て、本復さへいたさう 00017960L3事ならバ、何かおしかるへきといふ。其時山伏申けるハ、 00017970L4我等が/崇(あがめ)し不/動(どう)ハ、/霊験(れいけん)あらた成明王にて、/定業(しやうごう)/必死(ひつし)の者 00017980L5にても、一度ハ本復申也、祈祷をいたす時、御前の/御幣(こへい)必 00017990L6ゆるぎ出侍る、則/願(ぐハん)叶へバ/揺(ゆるぎ)申間、気を付てよく+見 00018000L7たまへといひ/含(ふく)め、四方に五色のしでを切かけ、十二の燈 00018010L8明あきらかにかゝやかせ、/洗米(せんまい)/供物(くもつ)さま+/備(そな)へ、御幣を 00018020L9大き成/徳壷(とくり)に(十八オ)立て、不動の御前にすへ置、扨山伏 00018030L10壇上に打上りて、/施主(せしゆ)にむかひて申けるハ、最前も申こと 00018040L11く、本復あれば/祈(いの)る内に此御へいゆるぎ申程に、心を付て 00018050L12見給へといひ渡し、/頭巾(ときん)/篠懸(すゝかけ)引つくろひ、/伊羅(いら)多加の/珠数(じゆす) 00018060L13/押(おし)もんで、祈るかた手にハ/洗米(せんまい)を/蒔(まき)ちらし、或ハ/菓子(くハし)其外 00018070L14の/供(く)物をつかんでまきかけ+、/按(もミ)にもうで祈りけれバ、 00018080L15/暫(しばらく)有て/徳壷(とくり)にさし入し御/幣(へい)、ゆら+とゆるぎけれバ、 00018090L16/願(ぐハん)/成就(じやうしう)目出たしとて、山伏も/施主(せしゆ)も/感涙(かんるい)を流し悦びけり。 00018100L17扨施主申けるハ、有難き次第にてこそ侍れ、其/御(ご)幣を/迚(とても)の 00018110L18事に病人にいたゞかせたきといふ。山伏聞ていかにも左様 00018120L19にし給へとて、徳壷に指置し御幣をぬき(十八ウ)出さうと 00018130M1しけるが、へい串が長さに誤て、とくりをこかしたり。と 00018140M2くりの中より/鯲(どちやう)二升計出て、/護摩(ごま)の/壇(たん)をはね廻る。施主 00018150M3もあきれ、山伏も赤面して、/斗(と)方にくれた。能&/思案(しあん)して 00018160M4見れバ、/供物(くもつ)色&有中に、塩を山のことく台に盛て備へし 00018170M5有。最前/恭物(くもつ)をまく時、此塩をとくりの中へ/蒔(まき)入しにより、 00018180M6鯲が上を下へ返しける時、御へいゆら+とせしなり。 00018190¥N18¥J 00018200¥X有国物語 00018210M9寝覚記/勘解由(かげゆ)の/相公(しやうこう)有国といひし人、父/豊前守(ふぜんのかミ)/輔道(すけミち)に/具(ぐ)し 00018220M10て/筑紫(ちくし)に有ける時、父/重病(じうびやう)を/請(うけ)て/死(し)門に及びけれバ、有国 00018230M11心を/尽(つく)して、法のことく/泰山府君(たいさんふくん)(十九オ)をまつりけり。 00018240M12三時計有て輔道/活(いき)かへりて語りていはく、我/閻魔(えんま)の/庁(ちやう)に召 00018250M13出されつるに、/美麗成(ひれいなる)/饗膳(きやうぜん)を備へたるによりて、返しつか 00018260M14ハすへき由定め有つるに、一人の冥官の曰、/輔(すけ)道をかへさ 00018270M15るゝといふ共、有国をバめさるべし、其故ハ、其道の者に 00018280M16あらすして、其祭をつとむる/咎(とが)のかるべからすと申。又/床(ゆか) 00018290M17に/着(つき)たる/冥衆(ミやうしゆ)の/曰(いはく)、有国/科(とが)有へからず、其道の者なき遠国 00018300M18のさかひにて、/孝養(かうやう)の心に/堪(たへ)ずして祭をつとむ、更に/咎(とが)に 00018310M19非ずといひ出たるに、面&冥衆どうするによりて今かへさ 00018320¥P61 00018330L1るゝよしをかたりし。 00018340L2/■(ゆ)/黔婁(きんる)といふ人、南/斉(せい)の時の人にて、/孱陵県(せんりやうけん)の/令(れう)と(十九ウ) 00018350L3成て出つかへ、十日もたゝぬに、/忽(たちまち)/胸(むね)さハぎ、/汗(あせ)流れて心 00018360L4も心ならざりけれバ、/即(すなハち)/令官(りやうくハん)を捨て/故郷(こきやう)に帰ければ、 00018370L5父の病発りて二日目なり。一門もあまりはやく来れる事を 00018380L6あやしめり。/■(ゆ)/黔(きん)婁父の病いかゝあらんと/医師(いし)に問けれバ、 00018390L7医者の曰、父の病の/軽重(きやうぢう)を/を((衍))しらむと思はゝ、父の/糞(ふん)を/嘗(なめ) 00018400L8て見よ、其味/苦(にが)くハよかるべしといひけれバ、父が糞を/泄(もらせ) 00018410L9しを取て嘗て見けるに、味/甘(あま)かりき。/黔婁(きんる)が心弥うれへ悲 00018420L10しめり。いかにもして父の命をすくハんと思ひ、夕に/北極(ほくきよく) 00018430L11の/星(ほし)に祈り、/頭(かしら)を/扣(たゝ)き/悲(かな)しミて、父の命に/代(かハら)んと願へり。 00018440L12これ廿四孝の其一人なり。(二十オ)(二十ウ挿画) 00018450L13△△誠に/孝行(かう+)の至極成べし。父の恩にくらべてハ/須弥山(しゆミせん)も 00018460L14△△ひきく、母の恩ハ/蒼海(さうかい)より深しとなり。今の孝ハ/能(よく)/養(やしな) 00018470L15△△ふをいふ。/犬馬(けんば)に至る迄能養事有。/敬(けい)せずハ何を以て 00018480L16△△かわかたんとハ、孔子の御詞なり。 00018490¥N19¥J 00018500¥X十△/防風(ほうふう)を買し咄し 00018510L19去人防風を/買(かふ)て来れとて、下人を青物やへつかハしけれハ、 00018520M1したゝか成/蓮(はす)の/根(ね)を買て帰る。主人見て、是ハ蓮なり、何 00018530M2と聞あやまりしぞといひけれバ、下人申けるハ、/八百(やを)屋中 00018540M3を見ましたか、ばうふらしき物ハ是より外にハごさらぬと 00018550M4いふ。しかれハ是を/棒(ぼう)に見立たか、それでもふがたらぬと 00018560M5いひけれバ、下人聞て、ようぬかり(二十一オ)ませうぞ、 00018570M6これ+とて、/懐(ふところ)から/麩(ふ)をひとつ取出した。主人も/叱(しかる)事ハ 00018580M7おゐて、/尻餅(しりもち)/搗(つい)てわらふた。 00018590¥N20¥J 00018600¥X馬を求る物語 00018610M10瑯耶代酔伯楽が/相馬経(さうハきやう)に、隆■跌目如累■と有を/読(よミ)て、此 00018620M11りうそうといふハ/額(ひたい)大き成事なり、又てつぼくとハ目のす 00018630M12ゞやかに大き成事、るいきくのことしとハ、/栄螺(さゞい)などのや 00018640M13うに、上へ前あがりにたくましき事をいふなりと/講釈(かうしやく)しけ 00018650M14れバ、其子是を聞て、馬を求に出けるが、爰かしこと尋る 00018660M15所に、大き成/蟾蜍(ひきかへる)有しを見付取て帰り、父にむかひて申け 00018670M16るハ、我馬をもとめたり、其/相(さう)/額(ひたい)大きに目もすゝやかなり、 00018680M17(二十一ウ)さりなから/蹄(ひづめ)たくましくハなしといふ。父我子 00018690M18の/愚(おろか)なるをしりて、/不怒(いからずし)てわらひしとなり。(二十二オ) 00018700¥P62 00018710¥Y1囃物語中△目録 00018720L3△△一△/鰻(うなぎ)かバ/焼(やき)の咄并中/納言(なこん)子/安貝(やすかい)物語 00018730L4△△二△/身代(ミかハり)の咄し并/感世(かんせい)物語 00018740L5△△三△/法華宗(ほつけしう)/往生(わうじやう)咄し并/義孝(よしたか)物語 00018750L6△△四△うしなひの咄し并/晴明(せいめい)物語 00018760L7△△五△/比丘尼(ひくに)咄し并女新左衛門物語 00018770L8△△六△/推(すい)と違ふた咄し并/艾子(がいし)物語 00018780L9△△七△大/上戸(しやうご)咄し并/国輔(くにすけ)物語(一オ) 00018790L10△△八△鯉の目の咄し并/安勝(あんしやう)物語 00018800L11△△九△銭をひろハぬ咄し并/道鏡(とうきやう)物語 00018810L12△△十△子共に世を渡す咄并/伯夷(はくい)/寂斉(しゆくせい)物語(一ウ) 00018820¥T1 00018830¥N1¥J 00018840¥X一△/鰻(うなき)かバやきの咄し 00018850M3/或(ある)町を/夜半(よなか)過に、鰻のかバやき+と売て通りけれハ、去 00018860M4人の下男、折節/寝(ね)入られハせず、/■&(まじ+)として/居(ゐ)けるが、幸 00018870M5是を/喰(くふ)へしと思ひ、かばやきを呼て、/門(かど)にてハ人も見る程 00018880M6に、内へはいりて/焙(あぶり)給へとて、/門(かと)の/戸(と)をあけ中戸の/際(きハ)にて 00018890M7あぶらせけるが、是をたゞくふも/可惜(あつたら)事也、/冷(ひや)食に添てく 00018900M8ふべしと思ひ、皆&/家内(やうち)ハ/寝(ね)入たれバ、/潜(ひそか)に/台(たい)所へ行て/食= 00018910¥G 00018920¥P63 00018930L1櫃(めし=ひつ)を/探(さがせ)とも、/闇(くら)さハくらし/■(さぐり)あたらず。とかうする内に/鰻(うなぎ) 00018940L2か/焼(やけ)過る。かばやき売小声になりて、久三郎殿やけまする 00018950L3+といへども、/奥(おく)の台所なれバ/得(え)きかず。せんかたなさ 00018960L4に大きなる声にて、久三郎殿(二オ)やけまする+といひ 00018970L5けれバ主人聞付て、やれ+やけるといふハ、久三郎/起(おき)よ 00018980L6とて、/■翊(あハてふためき)走出て中戸をあけければ、鰻の香/■(ばつ)と/匂(にほひ)しか 00018990L7バ、南無三宝ちかいハ、魚の/棚(たな)さうな。 00019000¥N2¥J 00019010¥X中納言/子安貝(こやすかい)物語 00019020L10竹取物語昔竹取の/翁(おきな)といふ者有。野山にまじり竹を取つゝ万 00019030L11の事につかひけり。名をバさかきのミやつこといひける。 00019040L12其竹の中に/光(ひか)る竹一/筋(すぢ)有。それを見れバ、三寸計成人、い 00019050L13とうつくしうて居たり。翁云やう、われ朝夕見る竹の中に 00019060L14おはするにてしりぬ、子に成たまふへき人なりとて、手に 00019070L15打入家へ持て帰り、妻の女に預けしか(二ウ)(又二オ挿画) 00019080L16(又二ウ挿画)いとおさなけれバ、箱に入て養ふ。此後翁竹を 00019090L17とるに、ふしをへたてゝ、よごとに金の有竹を見付る事か 00019100L18さなりぬ。かくて翁漸ゆたかに成行。此/小女(むすめ)養ふほとに、 00019110L19すく+とおほきに成まさる。三月ばかりに成程に、よき 00019120M1ほとなる人になりぬれバ、/髪(かミ)あげなとして/几帳(きちやう)の内よりも 00019130M2出さす。此むすめかたち世にたぐひなく、屋の内ハくらき 00019140M3所なく光ミちたり。此子いとおほきに成たれバ、みむろと 00019150M4いんべのあきたを/呼(よび)て名をつけさするに、なよ竹のかくや 00019160M5姫と付侍る。世界のおのこども、あてなるもいやしきも、 00019170M6此姫を聞/目出(めで)て恋ざるハなし。中にも色このミといはるゝ 00019180M7人五人、よる/昼(ひる)きたり/門(かど)に立けり。其五人の名、一人(三オ) 00019190M8ハいしつくりのみこ、一人ハくらもちの御子、一人ハ左大 00019200M9臣あべのミむらし、一人ハ大納言大/伴(とも)のゆき、一人は中納 00019210M10言いそのかミもろたか、此人&なりけり。かの家にたゝず 00019220M11ミ、或ハ文かきてやれとも返事もせず。或時ハ翁をよび出 00019230M12して、娘を我にたべとふし/拝(おが)ミ手をすり/宣(のた)へバ、翁が心に 00019240M13もまかせすといひて月日を送る。或とき翁かくや姫にいふ 00019250M14やう、我七十にあまりぬれバ、けふあすもしらず、此世の 00019260M15人ハ男ハ女にあひ、女はおとこにあふ事をす、其後門/広(ひろ)く 00019270M16も成侍る、此人&の年月を経て、かうのミのたまふを、い 00019280M17かでむなしくハ過し給ふそといへバ、かくや姫いはく、/能(よく) 00019290M18もあらぬかたちを、ふかき心もしらてあだ心つきなバ、/悔(くや) 00019300M19しき事も有べ(三ウ)きと思ふ計なり、其人のふかき心さし 00019310¥P64 00019320L1をしらでハあひかたしといふ。翁のいはく、抑いかやうな 00019330L2る心ざしあらん人にかあハんとおぼす、かばかり心ざし、 00019340L3おろかならぬ人&にこそあめれ。かくやひめのいはく、此 00019350L4人&の心ざしひとしきなり、いかでか中におとりまさりを 00019360L5しらん、五人の中に、ゆかしき物を見せ給ふ人あらバ、御 00019370L6心ざしまさりたりとてつかうまつらん、此よしを人&に申 00019380L7給へといふ。翁心得たりといひて、人&を待けり。日くる 00019390L8ゝ程に、人&又れいのごとくあつまりぬ。翁出て、ひめが 00019400L9申けるやうを語る。人+聞て、是よき事也、人のうらミも 00019410L10有まじといへバ、翁内へ入てかくや姫にいふやう、五人の 00019420L11人&に、ゆかしき物をミせ給ひなバ、御心ざしふかき方へ 00019430L12まいるへし(四オ)といひしに、いとやすき事なり、何成と 00019440L13もこのミ給へと宣ふといふ。かくや姫聞て、いでこのミ侍 00019450L14らん、石つくり御子にハ、仏の御石の鉢といふ物有、それ 00019460L15を取て給へ、又くら持の御子にハ、東の海に/蓬莱(ほうらい)といふ山 00019470L16有、それに白/銀(かね)を/根(ね)とし、こがねを/茎(くき)とし、白き玉を/実(ミ)と 00019480L17したる木有、それを一枝折て給ハれ、今ひとりにハ、/唐(もろこし)に 00019490L18有火ねずミの皮ぎぬをたべ、大友の大納言にハ、たつの/首(くび) 00019500L19に、五色に光玉有、それを取て給へ、いそのかミ中納言にハ、 00019510M1つばくらめの持たる、子安の貝とりてたべと、此やう申さ 00019520M2せ給へといふ。翁又まかり出て、五人のひと+にかう 00019530M3+といふ。人&きゝて、いづれも求めがたき物なれとも、 00019540M4命を/捨(すて)(四ウ)てももとめんとて、家+へかへられけり。 00019550M5中略中納言いそのかミもろたかハ、家につかハるゝおのこ 00019560M6共の本に、/燕(つはくらめ)の/巣(す)くひたらバ告よと宣ふ。何の御用にか 00019570M7あらんと申。もろたか答へ給ふハ、つばくらめの持たる、 00019580M8子安貝を取べきなりとのたまふ。おのことも申やう、つは 00019590M9くらめをあまた殺して見たるにも、腹になき物也、但子/産(うむ) 00019600M10ときいかで致らんと申。又一人か申やう、おほいつかさの 00019610M11/飯(いひ)/炊(かしく)屋の/棟(むね)に、つくの穴ことにつばくらめハ/巣(す)をくひ侍る、 00019620M12それにあくらをゆひあけて、人を付置、つばくらめ子をう 00019630M13む時、うかゞひてとらしめ給へといふ。中納言悦ひて、よ 00019640M14くこそいひたれとて、まめなるをのことも二十人はかり、 00019650M15あなゝひにあげす(五オ)へられたり。扨子安貝取たるかと、 00019660M16中納言隙なく/問(とひ)にやり給へハ、をのことも御返事に申やう、 00019670M17人あまた上りいてさふらへバ、それにおぢて、つばくらめ 00019680M18巣にも来らずと申けれバ、いかゝしてか取べきと思ひわづ 00019690M19らひ給ふ所に、官人くらつ丸といふ翁申けるハ、大勢上り 00019700¥P65 00019710L1て侍ばこそ、つはくらめ得来らず、此あなゝひをこぼちて、 00019720L2人を皆/退(しりぞけ)て、まめならん人一人にまもらせ、綱をかまへ 00019730L3て、鳥の子を産時つなを/釣(つり)上させ、/与風(ふと)子安貝をとらせ給 00019740L4へと申。中納言のたまハく、つはくらめは、いか成時にか 00019750L5子を/産(うむ)としるべきと宣ふ。くらつ丸申けるハ、燕子うまん 00019760L6とする時は、尾をさゝげて七/度(ど)めぐりて/産(うミ)おとす、七度め 00019770L7くらん時(五ウ)引上て貝をとらせ給へといふ。中納言悦ひ 00019780L8給ひ、二十人ばかりの人を皆&しりぞけ、あなゝひをこぼ 00019790¥G 00019800M1ち給ふに、つはくらめ来り巣を作れり。中納言ミつから貝 00019810M2を取へしとて、篭に乗てつられあがりうかゞひ給ふに、つ 00019820M3ばくらめ尾をさげていたくめぐる。時分よしと思ひ、手を 00019830M4/捧(さゝけ)てさくり給ふに、手にひらめ成ものさハりしかば、すハ 00019840M5貝取たり、篭をおろせよと宣ふ。皆&あつまり、とくおろ 00019850M6さんと、綱を引過して、綱/切(きれ)たりけれバ、/鼎(かなへ)の上へのけさ 00019860M7まにおち給へり。人&/浅猿(あさまし)がりて、/寄(より)て/抱(かゝへ)奉りしが、目ハ 00019870M8白目にて/臥(ふし)給へり。人&水をそゝぎ奉る。からうして/活(いき)出 00019880M9給ひぬ。御心地ハ如何ととへバ、/息(いき)の下に(六オ)て、物ハ 00019890M10すこし覚ゆれど、腰ハうこかれす、されど子安貝はにきり 00019900M11持ちたれバ/嬉(うれ)敷思ふなり、先/紙燭(しそく)してこよ、貝のかほミん 00019910M12と、御手をひろげ給へるに、貝にハあらすして、燕の/古糞(ふるくそ) 00019920M13をにぎり給へる也けり。是御覧してなを心地なやみ給ひし 00019930M14かバ、かくや姫伝へ聞てとふらひにやる哥、 00019940M15△△年をへて波立よらぬすみの江の 00019950M16△△△まつかひなしときくハまことか 00019960M17と有を、読ミて聞せ奉りけれバ、よハき心にかしらもたげ 00019970M18て、人にかミを持せて、くるしき心地にからふして書給ふ、 00019980M19△△かひハかくありける物をわびはてゝ 00019990¥P66 00020000L1△△△しぬるいのちをすくひやハせぬ(六ウ) 00020010L2とかきはつると、たえ入給ひぬ。 00020020L3△△咄しとハ不都合なれど、燕の/糞(ふん)を子安貝と思ハれし所 00020030L4△△と、/鰻(うなき)焼し香を魚や町の火事也と思ひし所、いづれも 00020040L5△△/本(もと)を見とゞけぬ故をもつて、麁相仁にして対するなり。 00020050¥N3¥J 00020060¥X二△身/代(かわ)りのはなし 00020070L8去/者(もの)散&わづらひ、頼すくなう見えけれハ、友達来りて、 00020080L9其方の病今ハ/為方(せんかた)なく覚ゆる、偏に往生を願ひ給へ、又何 00020090L10にても心にかゝることあらバ、申置れよといひければ、病 00020100L11人聞て、能ぞや/勧(すゝめ)給ふ、/迚(とても)命の有べきと思ひ侍らねバ、/極= 00020110L12楽(こく=らく)往生を/願(ねかひ)申也、去なから此/煩(わつらい)と申ハ、そんじやう(七オ) 00020120L13それさまと申御若衆を、不/図(と)/執心(しうしん)に存てより、誰を便に此 00020130L14物思ひを伝へまいらせんやうもなく、/寤(おき)てハ思ひ/寝(ね)てハ猶 00020140L15君の/俤(おもかけ)のミ立/添(そひ)て、片時も忘るゝ隙なく、終になやミ侍る、 00020150L16此事いひて無/益(やく)と思へど、かつうハ後生の/障(さハり)共成らんと思、 00020160L17/懺悔(さんげ)の為に申也と、/涙(なミた)を流しいひけれバ、友達聞て、扨& 00020170L18左様のことならバ、/△(など)今迄ハつゝミ申されしぞ、其君は我 00020180L19等も心安く申合せ侍る物を、いかならん事をも申伝へ侍る 00020190M1へきに、今とても此恋かなひ侍らバ、其方の病本/復(ふく)せらる 00020200M2ゝ事もあるべし、申てミんとて/走(はしり)出、彼若衆にかう+と 00020210M3語る。/若衆(わかしゆ)聞召、数ならぬわが身を左様に覚し入んこと、 00020220M4/痛敷(いたハしき)御事也、いかで/否(いな)と申べき、とく病人の本(七ウ)へ参 00020230M5り、二世の/契約(けいやく)致べしと仰けれバ、友達大きに悦ひ、御供 00020240M6申行しかバ、病人/感涙(かんるい)を流し、扨&有かたき御事や、/最早(もはや) 00020250M7/露命(ろめい)たすかりがたく覚侍る、去なから百年の御情も、只今 00020260M8の御出にて同じ御事、草葉の影にても、御恩はわすれ申ま 00020270M9し、御一代蔭身に添て守り侍らんと、大声/揚(あげ)て/泣居(なきい)たり。 00020280M10/責(せめ)て御盃成共といふ程に、若衆一つ請給ひ、付ざしにし給 00020290M11へバ、病人重き枕を/漸(やう+)/揚(あけ)、三度/頂戴(てうだい)仕、一口/呑(のむ)と見えしが、 00020300M12其/侭(まゝ)/絶入(せつし)しけれバ、一/座(さ)の面&、声をはかりに/呼活(よびいけ)けれ共、 00020310M13終に/空敷(むなしく)なる。扨も+/本意(ほい)なき事かなとて、/泪(なミた)なから野 00020320M14辺に送り、/骨(こつ)を高野山に/納(おさめ)けり。其後若衆高野へ参り給ひ、 00020330M15彼者の/卒都婆(そとは)に(八オ)向、一/蓮托生(れんたくしやう)の/回向(ゑかう)して、扨御下向 00020340M16まします所に、山の僧達十人計打つれ行逢しが、此若衆を 00020350M17見るよりも、望所の/幸(さいわい)と、中に取/込(こめ)、/押仆(おしたおし)立替り入かハり、 00020360M18心のまゝにおこなひける。下人もせんかたなくて/逃(にげ)けるが、 00020370M19さるにても大勢してたしなませまいらせし程に、たまる事 00020380¥P67 00020390L1でハ有ましと思ひ、立帰りて見けれバ、僧衆ハ一人もなし、 00020400L2若衆計打臥て/御座(おハします)。下人走寄、引/起(おこ)し参らせ、扨も大/難(なん)に 00020410L3/逢(あい)給ひしが、御心は何と侍るやらんととふ。若衆聞召、初 00020420L4僧達/幾人(いくたり)も寄て、我を手こめにせられし迄ハ覚しが、其後 00020430L5ハたゞ/寝(ね)入て、何事もしらすと仰らるゝ。下人承り、不/思(し) 00020440L6義に思ひ、又彼念/者(しや)の/墓(はか)へ行て見れバ、/卒都婆(そとハ)の(八ウ)/後= 00020450L7下(うしろ=した)の方に穴があいて有。扨ハ疑もなく/身代(ミかハり)に立給ふ、必守 00020460L8の神と成べしと仰られしが、届きたる事やとて/啖上(すゝりあげ)てない 00020470L9た。 00020480¥N4¥J 00020490¥X/丹(たん)州/菩提寺(ぼだいじ)観音物語 00020500L12元亨釈書/感世(かんせい)といふ仏師有。/暇(いとま)に任せ常に法華経よむ。或ハ 00020510L13一両/巻(くハん)、或一二/品(ほん)、/細工(さいく)の隙に随ふ。又/普門(ふもん)品三十三/遍(へん)、 00020520L14毎日/怠(おこた)る事なし。丹波の国/桑田郡(くわたのこほり)に、宇治/宮成(ミやなり)といふ者有。 00020530L15感世を/呼(よひ)よせ観音をつくらせけり。宮/成(なり)其/価(あたい)を/厚(あつ)く/施(ほとこ)す。 00020540L16感世/銭帛(せんきん)を請て京都へ帰りけるに、宮成/忽(たちまち)悪念を発し、 00020550L17仏師に/与(あた)へし物ハ大分なり、/所詮(しよせん)道にて/殺(ころ)し/奪(うば)ひ取へしと 00020560L18思ひ、則/追(おつ)かけ(九オ)大江山にて/追(おつ)付、感世を切殺し、銭 00020570L19/帛(わた)を/悉(こと+)くうばひ取て帰けり。其後観音を/拝(おが)ミ奉りしに、御 00020580M1/肩(かた)の上/割(さき)切たり。其/瘡(きず)より/血(ち)/流(なか)れて地に/凝(こ)る。宮成大きに 00020590M2驚き、仏師を/斬(きり)しと思ひしに、此観音の御有さまこそ不/審(しん) 00020600M3なれとて、都へひとを/馳(はせ)て、感世が様子を見せけれは、感 00020610M4世ハ何の/恙(つゝが)もなし。使者立帰此由をいふ。宮成/駭(おとろき)いそき 00020620M5感世か家へ行、うはひ取し物皆&返して、観音の/像(ざう)を/斬(きり)し 00020630M6事を語る。感世申けるハ、我大江山にて/賊人(ぬすひと)に逢て、/所持(しよじ) 00020640M7の物をうはゝれ、/漸(やう+)/逃(にげ)て爰へ帰りしなり、扨ハ観音の我に 00020650M8/代(かハり)て、其/難(なん)を請給ひしとて、二人手に手をとりて、/感嘆(かんたん)せ 00020660M9しとなり。応和二(九ウ)年の事なり。/穴穂(あなほ)寺ともいふ。 00020670M10△仏神の/感応(かんおふ)、今更いはんも事あたらしけれど、信の至れ 00020680M11△バかゝるためし、昔より/多(おほ)かりき。/彼筑紫(かのつくし)の/押領使(おうりやうし)が、 00020690M12△薬なりとて/土大根(つちおほね)を、/信(しん)じて/食(しよく)せしだに、/勇士(ゆうし)と/変(へん)して 00020700M13△/賊(ぞく)を/拒(ふせぎ)しぞかし。まして仏神におゐてをや。其/利益(りやく)にあ 00020710M14△づからぬハ、/偏(ひとへ)に信のいたらされバ成べし。 00020720¥N5¥J 00020730¥X三△/法花宗(ほつけしう)/往生(わうしやう)の咄し 00020740M17去者/借屋(しやくや)して居けるが、/屋賃(やちん)ちとおそなハれバ、家主/権柄(けんへい) 00020750M18をいひてせがむ。思ふやうに商ハなし。/万(よろづ)(十オ)/苦(く)になる 00020760M19事じや、/迚(とても)/生涯(しやうがい)の中にハ家持になることハあるまい、/死(しん)だ 00020770¥P68 00020780L1らバ仏に成事ハ及ひもない、責てあの世にてハ、/間半(まなか)口の 00020790L2家成とも持て、/屋賃(やちん)を取、ゆる+とくらしたいといふ。 00020800L3/相借(あいしやく)屋の/亭主(ていしゆ)聞て、そなたの/宗旨(しうし)じや程に、随分/題目(だいもく)をさ 00020810L4へ/唱(となへ)られたら、/寂光浄土(じやくくハうじやうど)のどうぶくらに、何ほとの家な 00020820L5り共もたれうと、常+/放気(おどけ)しが、ある時此/法花(ほつけ)宗/煩(わづらい)ひ 00020830L6/死(し)にけれバ、彼相借屋思ひけるハ、つね+いハれしハ、 00020840L7あの世にて/間半(まなか)口なりとも、家が持たいと申されしが、何 00020850L8にかなられたぞ/覚束(おぼつか((ママ))なしと思ふ所に、ある夜の夢に、彼人 00020860L9来りていふやう、今ほど/寂光(じやくくハう)(十ウ)浄土にて、/面(おもて)七間、裏 00020870L10へ廿八間の家持に成て侍る、是七字の/題目(だいもく)二十八品を/表(へう)し 00020880L11てなり、屋賃を取て心安く暮し侍るといふ。相借屋聞て、 00020890L12それハ/羨敷(うらやましき)事や、年中の家賃ハ何程あがり侍るととへバ、 00020900L13△△あの世にて七間口の家もちて 00020910L14△△△年中とるハ一分八貫 00020920L15と読かと思へハ、夢ハさめたり。家賃一分八貫ならバ、八 00020930L16貫の銭も金子に/直(なを)し、壱両三分何百文とよまれさうな事じ 00020940L17やがと、能&案じ見れバ、/実(げに)&法花経は一/部(ぶ)八巻なる故か 00020950L18くよまれし。/生涯(しやうがい)のうちに大/般若(はんにや)をよまれたらバ、六百貫 00020960L19づゝ取家をもたれう物(十一オ)を、残多事なり。 00020970¥N6¥J 00020980¥X/義孝(よしたか)/往生(わうじやう)物語 00020990M3日本往生伝/右近衛(うこんゑ)の少将藤原の義孝ハ、大/政(じやう)大/臣(じん)/贈(ぞう)一/位(ゐ)、/謙= 00021000M4徳(けん=とく)公の四男なり。仏法に深く/帰依(きゑ)して、つね+法花経を 00021010M5読たまふ。天延二年の秋、/疱瘡(ほうさう)を病往生し給ひしが、/臨終(りんじう) 00021020M6の/砌(ミぎり)/方便品(ほうへんほん)をよミたまふ。其座/異香(いきやう)/薫(くん)じ、有/難(かた)き往生なり。 00021030M7大納言藤原の高/遠(とを)といふ人、/義孝(よしたか)と/親友(しんゆう)なり。或とき義孝 00021040M8を夢に見給ふ。まじはりつねのごとし。義孝一句の詩を詠 00021050M9ず、 00021060M10△昔契蓬莱宮裡月(十一ウ)今遊極楽界中風 00021070M11釈書にも此事あり。文字少し替りあり。 00021080M12△昔約蓬莱宮裏月△今居極楽界中花 00021090¥N7¥J 00021100¥X四△うらなひの咄し 00021110M15昔去所に占の上手ありと聞及ひ、さらバうらなハせ見はや 00021120M16と思ひ、我所へよひよせ、/大重箱(おほぢうはこ)に金/柑(かん)八十一入持出て、 00021130M17此重の内何にて侍る、占たまへといふ。/博士(はかせ)/暫(しばらく)/工夫(くふう)して 00021140M18日、金柑なるへしといふ。扨数ハいくつ候ととへバ、八十 00021150M19一と答ふ。亭主/横手(よこて)を/拍(うつ)て、さて+聞及びたるより上手 00021160¥P69 00021170L1なり、おそらくハ神の/変化(へんげ)なるへし、/一向(ひたすら)我等を/弟子(でし)にし 00021180L2て、御/相伝(さうでん)頼入るといふ。はかせ聞て、実さやうに(十二オ) 00021190L3思ひ給ハゝ、いかにものこらず相伝いたすべし、先七日か 00021200L4間、是+の/行(ぎやう)ありとて、こと+しく書立をして渡す。 00021210L5此者/則(すなハち)/作法(さほう)のごとく七日の行終りて、/博士(はかせ)の方へ行けれ 00021220L6バ、礼物にも/式法(しきほう)ありとて、大分金銀をとり、其上に/他言(たごん) 00021230L7せまじといふ/起請(きしやう)をかゝせ、ひそかにいふやう、先日其方 00021240L8にての占物を、何にてあらんと/工夫(くふう)して居たれば、庭へ/蜈(むかで) 00021250L9が一疋/這(はい)出た、それを/鶏(にハとり)がくらふたによつて、むかでくふ 00021260L10といふ義理にて金柑としるといふ。彼者あきれしが、さら 00021270L11ぬ躰にて、数ハ何としてしれ候やととへば、其庭鳥か蜈を 00021280L12くらふとて、くゝ+といひしなり、九&八十一とうらな 00021290L13ふと。(十二ウ) 00021300¥N8¥J 00021310¥X/安部(あべ)/晴明(せいめい)物語 00021320L16晴明物語村上天皇の御宇に/当(あたり)て、/縫殿頭(ぬいとのかミ)安部晴明とて、/古今= 00021330L17無双(ここん=ぶさう)の/博士(はかせ)あり。都西の洞院に居所かまへて、/禁中(きんちう)へ仕へ 00021340L18奉る。爰に/播磨(はりま)国/印南郡(いなごほり)に、/道満(とうまん)法師といふ者有。/俗姓(ぞくしやう)は 00021350L19/蘆(あし)屋の/村主(すくり)/清太(きよふと)が/後胤(こういん)なり。清太ハ/法道(ほうどう)仙人に逢て、天文 00021360M1地理/易暦(えきれき)を/学(がく)し、/書典(しよてん)に/記(しる)し家に伝へしを、道満ひそかに 00021370M2/学(まな)び、大むね其理に達したり。されども仏法ハしらず。其 00021380M3心/我慢(がまん)にて/誹法(ひほう)/乱行(らんぎやう)なり。尤/占兆(うらかた)長じて、時+/奇特(きどく)をあ 00021390M4らハす。/自(ミつから)/日(云く)、/易暦(ゑきれき)/陰陽(いんよう)五行におゐて、天下に/肩(かた)をなら 00021400M5ぶる者あらじ、然に都に/晴(せい)明とて、/名誉(めいよ)(十三オ)の占出て 00021410M6官位に預り、禁中へ伺公申とかや、此道満を/閣(さしおき)て、左程の 00021420M7者天下に有へしとハ思ハれず、急き都に上り/奇特(きどく)をくらべ、 00021430M8其晴明に/耻辱(ちぢよく)をあたへ、我身天下の名人とならんと思ひ立、 00021440M9都に上り、扨市町の人に近付、晴明が事を尋しに、市人答 00021450M10て申やう、晴明ハ限なき/奇特(きどく)者にて、廿日計以前より、/播= 00021460M11磨(はり=ま)の国より我と/論儀(ろんき)しに上る人ありとて、相待るゝと語る。 00021470M12道満も是にハ驚しが、されども何ほどの事か有へきと、晴 00021480M13明か家へたつねいたる。晴明則出むかひ、/汝(なんぢ)を待しこと良 00021490M14久、よく/社(こそ)来られたりとて、さま+にもてなしけり。道 00021500M15満申しけるハ、某是まて来るハ、汝ときどくをくらべん 00021510M16(十三ウ)為なり、/迚(とても)の事に、禁中南殿の御庭にてはげま/ま(衍) 00021520M17んといふ。晴明尤と同心して、此義を/奏問(そうもん)しけれバ、則/勅= 00021530M18許(ちよく=きよ)有て、両人ともにうちつれ/参内(さんだい)しけり。帝南殿に/出御(しゆつぎよ)、 00021540M19/后妃(こうひ)/簾中(れんちう)に出給ひ、/公卿(くぎやう)/殿上(てんじやう)人、地下の/衛府(ゑふ)/諸司(しよし)相ならぶ。 00021550¥P70 00021560L1先一番に道満法師、御庭の白砂を手に取、/暫(しばらく)/持念(じねん)して、小 00021570L2石を空へ/投(なげ)上けれバ、/燕(つばめ)と成て飛めぐる。晴明扇をもつて 00021580L3一打うちしかば、数十のつばめ一同に、本の小石と成にけ 00021590L4り。其時晴明座を立て、陽明門の方に向て持念す。俄に大 00021600L5龍空より/降(くだ)り、雲を/起(おこ)し雨をふらす。庭に有人&、/濡(ぬれ)にぬ 00021610L6れてぞ立にける。道満さま+すれども雨やまず。/御溝(ミかう)の 00021620L7水(十四オ)/陸(くが)にながれ、船を指はかりに見ゆ。庭にありし 00021630L8人&、/腰(こし)だけつかり立あがる。今ハとて晴明又、一言/唱(とな)へ 00021640L9ければ、則雨はれ水/干(ひ)たり。御庭の人+、ぬれたりと思 00021650L10ひしも、すこしも/沾(ぬれ)たる所なし。道満いはく、是/魔道(まどう)の/の((衍)) 00021660L11/術(じゆつ)にして正理にあらず、占を以て/決(けつ)せん、此上まけたらん 00021670L12方ハ弟子となるへしと。晴明尤と/応(おふ)じけれバ、/奥(おく)より長/櫃(びつ) 00021680L13一/合(がう)に、大/柑子(かうじ)十五入、/鏗(おもり)をかけて出す。道満占て、是大 00021690L14柑子十五有へしといふ。/公卿(くきやう)/臣下(しんか)此事をしろしめされし人 00021700L15&、扨ハたがハずしおぼしめす。晴明立寄加/持(ぢ)し替て、是 00021710L16/鼠(ねずミ)十五疋ありといふ。人+すハ晴明うらなひそんじたり 00021720L17と色をうしなふ。其とき(十四ウ)/衛府(ゑふ)の/官(くハん)人立より/蓋(ふた)をひ 00021730L18らけバ、鼠十五疋かけ出、四/角((ママ))八方へ/逃失(にげうせ)て、大かうしハ 00021740L19一つもなし。/簾中(れんちう)/階下(かいか)/同音(どうおん)にかんじたまふ。道満大きに/恥(はぢ) 00021750M1て弟子と成。 00021760¥N9¥J 00021770¥X五△びくに咄し 00021780M4去田舎衆京へ上り宿を取、/端居(はしゐ)して/四方(よも)を詠けるに、熊野 00021790M5/比丘尼(ひくに)のあぢ物、/帽子(ぼうし)にて/頭(かしら)を包ミ、小妻を取てあゆむを 00021800M6見て、扨+/異風(いふう)者かな、あれハなに者で候ぞととふ。亭 00021810M7主こたへて、熊野比丘尼にて侍るが、小哥をうたひ/勧進(くハんしん)い 00021820M8たすなり、若き衆ハ小哥に心をうかし、/価(あたい)を/得(え)させ/契(ちぎ)り侍 00021830M9る、かれらがから名を手きざみと申なりといふ。手/刻(きざミ)とハ 00021840M10いかやうな義理ぞと/問(と)(十五オ)へば、油ひかずといふこと 00021850M11なり、総して女ハ/髪(かミ)にあぶらをつけて/嗜(たしなミ)侍れど、あれハ 00021860M12かしらをまるめ侍る故、油を用ひず、去によりて/莨■(たばこ)にた 00021870M13とへ候といふ。田舎衆聞て/横手(よこて)を打て、京衆ハ/種(しゆ)&のかる 00021880M14口をいひ給ふものかな、さてまた我等が国本にハ/売女(ばいた)あり 00021890M15て、夜ごとに辻に立申が、京にもさやうの者侍るやととふ。 00021900M16亭主聞て、中+総右衛門と申て、其やうな者侍るといふ。 00021910M17して+其、総右衛門と申義理ハととへバ、亭主/礑(はた)とつま 00021920M18り、総がゑもんいたすと。 00021930M19△女に総右衛門ハ/似合(にあい)がたしと思へど、むかし新左衛門と 00021940¥P71 00021950L1△いふ女もありしと見えたり。(十五ウ) 00021960L2女郎花物語新左衛門と申女房に忍びたるおとこ、外に宿をも 00021970L3とめ出あハんといへバ、 00021980L4△△春霞たちいでんこともおもえず 00021990L5△△△あさみどりなるそらのけしきに 00022000L6とよミて侍り。当時の女ならバ、春かすみ立出てなびきや 00022010L7すく、名をながすもかへり見まじきに、新左衛門が心ざし 00022020L8やさしくこそ侍れ。女ハかく身をもつへきにや。 00022030¥G 00022040¥N10¥J 00022050¥X六△/推(すい)と違ふた咄し 00022060M3去所に、/夫婦(ふうふ)/背戸(せと)口にて/諍(あらそ)ふをきけバ、女房はあをのきに 00022070M4したがよいといふ。夫ハうつぶせにしたかよい(十六オ)(十 00022080M5六ウ挿画)といふ。女房、いやとようつぶせにすれハ思ふやう 00022090M6にはいりもせず、どうでもあをのきにしたがよい、わらハ 00022100M7が申やうにしたまへとて、扨物をもいひやミぬ。/隣(となり)の人/壁(かへ) 00022110M8ごしに右の/問答(もんとう)を聞付、さてハ/昼(ひる)一義をおこなふと見えた、 00022120M9物をいひやミし程に、今ハ最中なるへしと思ひ、/屏覆(へいおほい)に/階= 00022130M10小(はし=ご)さして上り、能+/覗(のぞき)見れバ、/瓜(うり)の香の物を夫婦して/漬(つけ) 00022140M11て居た。 00022150¥N11¥J 00022160¥X/艾子(がいし)物語 00022170M14事文類聚艾子といふ人、/斉(せ)と/魏(ぎ)との間に/旅宿(りよしゆく)せしに、夜る隣 00022180M15の家に人ありていふやうをきけバ、一しゆなり、又/暫(しはらく)あ 00022190M16りて一しゆなりといふ。/暫(しはらく)有てまた(十七オ)一しゆなり、 00022200M17暁に及て六七首に至る。/艾子(がいし)思ふやう、是必詩人なるへし、 00022210M18/終夜(よもすから)詩をつくる事六七首と見えたり、夜も明なバ彼詩をき 00022220M19かばやと思ひけり。夜/巳(すで)に明けれバ、/冠(かふり)正しくして隣へ尋 00022230¥P72 00022240L1行しに、其かたち/疲(つかれ)たる商人なり。艾子案の外におもひな 00022250L2から問けるは、昨夜/足下(そこ)にハ/終夜(よもすから)詩を作られしと見えたり、 00022260L3一覧の為来りたりといふ。商人答て、我ハ/売(ばい)人なり、詩作 00022270L4るやうをしらすといふ。艾子再三所望しけれ共語る事なし。 00022280L5艾子又とふ、昨夜我隣に居て終夜聞に、汝かいふやうをき 00022290L6けバ、一首なり、又しばらく有て一首なりといひしが、詩に 00022300L7あらずして何成ぞ。商人笑て/日(いはく)、(十七ウ)それハ君の/誤(あやまり)な 00022310L8り、昨夜我/腹(はら)俄にくだる、紙を尋に及ばず、手を/穢(けが)しての 00022320L9ごふ、六七度手を/膩(よご)たり、故に一/手(しゆ)+といふ、一手を一 00022330L10首に聞なし給ひしと。 00022340¥N12¥J 00022350¥X七△大/上戸(じやうご)の咄し 00022360L13去者/嵯峨(さが)へ祭に行しが、夜にいれどもかへらす。親心許な 00022370L14くおもひ、友達ともを呼あつめていひけるは、/忰(せがれ)今朝より、 00022380L15嵯峨の一門どもかたへまつりに行しに、今まてかへらぬハ 00022390L16/若気(わかげ)ゆへ、道にて/喧嘩(けんくわ)などして切こかされても居るやらん、 00022400L17太儀なから/各(おの+)我等と同道してたびたまへ、やうす見てま 00022410L18いらふといふ。いづれも聞て、尤なり、/去座(いざ)同道いたすべ 00022420L19しとて、/続松(たいまつ)とぼし(十八オ)行けれバ、/西生河原(さいしやうかハら)に/仆臥(たふれふし)たる 00022430M1者あり。/松明(たいまつ)/振(ふり)上よく見れバむす子なり。大きに驚きゆり 00022440M2起し、或ハよびいけて見れと/息(いき)もせず。親仁/歎(なげ)き悲しミけ 00022450M3れども/甲斐(かい)もなし。友達とも、歎きハ/理(ことハ)りなれとも、/頓死(とんし) 00022460M4と申こともみな+定りことなり、もはやかへらぬ義じや、 00022470M5/兎角(とかく)/葬送(さうさう)のいとなみめされよといふ。親仁/涙(なミた)ををさへ、万 00022480M6事能やうに各をたのむといふ。其時みな+談合しけるハ、 00022490M7どうしても此/西生河原(さいしやうかハら)で/火葬(くハさう)にせずハなるまい、しからバ 00022500M8此/死骸(しがい)を宿まで持てかへらうより、今夜爰へ寺の御坊を呼 00022510M9よせ/沐浴(もくよく)させ、すぐに爰のをんぼを頼、今宵火葬にせうと 00022520M10いふ。皆&(十八ウ)尤と同心して、寺へ人をはしらせけれ 00022530M11バ、御坊はせ来り、/髪(かミ)をそれ/湯潅(ゆくハん)せよとて、手取足とり/沐= 00022540M12浴(もく=よく)して、をんほを/雇(やとひ)、火屋へすぐに/死骸(しがい)を入、火をかけけ 00022550M13れば、其とき此死人火の中より/躍(おとり)いで、是ハ付火か手/過(あやまち) 00022560M14か、やれ火事よ+と/叫喚(おめきさけ)んで/菟(かけ)出た。親仁をはじめ、み 00022570M15な+/肝(きも)をつぶし、宿へつれてかへつた。大上戸故殊外酒 00022580M16に酔て、さがより帰るとて/西生河原(さいしやうがハら)に酔ふしたりしが、火 00022590M17をかけられて正念か付しとなり。/天窓(あたま)をそられしほどに、 00022600M18本のことく髪をはやさんとしけれとも、火葬のとき/悉(こと+く)あ 00022610M19たまハ/焦(こげ)て、/髪(かミ)一/筋(すし)もはへず。/薬鑵(やくハん)の尻のやうになりしま 00022620¥P73 00022630L1ゝ、是非なく十徳(十九オ)を着る。 00022640¥N13¥J 00022650¥X/国輔(くにすけ)物語 00022660L4発心集中比/但馬(たしま)の守国/挙(たか)か子に、所の/雑色(さつしき)国/輔(すけ)といふ人あ 00022670L5り。ある宮原のはした者をおもひて、心ざしふかく契りし 00022680L6比、父但馬の守に成て下りければ、国輔も下らでハ叶ハぬ 00022690L7事に成けり。/馴(なれ)そめてより一日もまみえぬ事あれバ、/互(たがい)に 00022700L8泣かこちわりなく覚えけるに、立わかれてハたえぬべくも 00022710L9あらねど、すべきやうなくて、さま+にかたらひ置つゝ、 00022720L10/泣(なく)+わかれにけり。国へ下りても妻の事のミ心にかゝり、 00022730L11京への便りことに文をやれどもとゞかず。/障(さハり)がちにて返事 00022740L12も見ず、(十九ウ)心許なくなつかしくて年月を送りしが、あ 00022750L13る時人の語るをきけバ、京にハ人/多(おほ)くやミて、世の中/噪(さハが)し 00022760L14きといふにも、先/覚束(おほつか)なく思ひしが、得こらへすして京へ 00022770L15上り、妻の有し宮のうちを尋させけれバ、其人ハ煩ひ付て、 00022780L16此宮のうちを出たまひしといふ。使むなしく帰りて、此由 00022790L17を国輔に申けれバ、/胸(むね)つふれて何の/斐(あやめ)も覚えず。又使を押 00022800L18返し、行衛たづねきかすれと、知人もなし。せん方なくて 00022810L19心のあられぬまゝに、馬に打/乗(のり)てすゞろに、/何国(いづく)をさすと 00022820M1もなく打出たり。西の京のかたにより、知人あるやうに常 00022830M2に聞しかと計、ほのかに思ひ出て、そこはかとなく尋あり 00022840M3きけれバ、あやしけ成家の前に、妻の召つか(二十オ)ひし 00022850M4/女童(めのわらハ)立て居たり、/最(いと)嬉しく思ひ、詞をかけんと思ふ間に、 00022860M5家のうちへ/逃隠(にげかくれ)けり。馬よりをりて内へ入て見れば、妻は 00022870M6尼に成て打そばミ居たり。あら嬉しや爰におハしけりとて、 00022880M7うしろより/抱(いだき)て、日比なつかしかりつる事共かきくどきけ 00022890M8れとも、此尼いらへもせず。/醒(さめ)+と泣より外の事なし。 00022900M9扨ハ我をうらミたまふか、心うき事なりとて、さま+い 00022910M10ひなくさめ、扨もなど/後(うしろ)をむけ給ふそや、いつしか見奉ら 00022920M11んと思ふ計に、/杳(はる+)からうして上りしに、あまり/強面(つれなく)侍ると 00022930M12て引むけんとするに、いとゝ/泣(なき)まさりて更に面をむかへず。 00022940M13/強(しい)て引むけけれバ、二つの/眼(まなこ)なし。木の/節(ふし)のぬけたるごと 00022950M14くにて、目もあてられ(二十ウ)ず成しが、/漸(やう+)心をしつめ、 00022960M15扨もいかなる事にかくハ有ぞととふ。妻ハ/音(ね)をのミ/啼(なき)て、 00022970M16/兎(と)も/角(かう)もいはねバ、やう+/女童(めのわらハ)ありし事をかたるやう、 00022980M17御下りの後、しばしハ御文の/音信(おとづれ)も有かと、人しれす侍給 00022990M18ひしかど、更にそよとの便もなくて、一とせ二とせ過にし 00023000M19かバ、物をのミおぼして明し暮し給ひし間に、御病つき給 00023010¥P74 00023020L1ひて宮を出給ひき、したしき御あたりにも、便りあしき事 00023030L2とも有て、さるベき所も侍らさりしかバ、是にてあつかひ 00023040L3奉りしに、御病おもらせ給ひ、終には/が((ママ))なき露ときえ給ひ 00023050L4し程に、今ハせん方なしとて、此前の野に御からを/捨(すて)奉り 00023060L5しに、/日半(ひなか)計有て、思ひの外に/活(いき)かへり給ひにし、(廿一オ) 00023070L6其間に/烏(からす)などのしわざにや、かく浅間敷御目になして侍る、 00023080L7態も殿を尋奉るへきにて/社(こそ)侍しかど、この御/形勢(ありさま)の心/憂(う)さ 00023090L8に、今ハいかで、世に有者と人にしられじ/ど((ママ))、ふかくおぼ 00023100L9したるも/理(ことわり)なれバ、初もかくれ奉らんとハ仕しなりと、/泣= 00023110L10&(なく=+)かたりけり。国輔心うきことかぎりなし。こハそも何の 00023120L11/報(むく)ひにて、かゝる目を見るらん、今ハ此世の限に/社(こそ)とて、 00023130L12頓て是より/比叡(ひえい)山へ/登(のぼ)り、/甘露(かんろ)寺の/教浄僧都(けうじやうそうづ)の房に、/慶祚(けいそ) 00023140L13の弟子と成、/真言(しんごん)の/秘法(ひほう)を伝へ、/唐(たう)の坊/法橋行因(ほつけうぎやういん)といふハ 00023150L14此人なり。山王に/逢(あひ)奉り、/潅頂(くハんでう)し奉りし人なり。 00023160L15△/暫(しばらく)の内に形の替りし故、似たる事にして(廿一ウ)咄し 00023170L16△と対するなり。 00023180L17元亨釈書日/行円(きやうえん)、/姓(しやう)は源氏、太夫/国挙(くにたか)が子なり。初行円、国 00023190L18/輔(すけ)と名/乗(のる)。父に随ひて国に趣。/妾(おもひもの)あり。都にとゞめ置、 00023200L19一日/潜(ひそか)に京都にきたり女を/問(とふ)。/或(ある)人日、其女ハ/病(やミ)て/看病(かんびやう)す 00023210M1る者なし、生死をしらずといふ。国輔尋もとめ、野を行に、 00023220M2其/尸(しかばね)/脹爛(ちやうらん|はれたゞれ)して目もあてられず。国輔家に帰らず。則/園城(をんじやう) 00023230M3寺に入て/剃落(ていらく)し、/智静心誉(ちじやうしんよ)の二門に随ひ/修学(しゆがく)す。/如意輪観= 00023240M4自在(によいりんくハん=じざい)の/供(く)を修す。/勧音(くハんをん)身を/現(げん)じ光を/放(はな)つ。又山王明神と常 00023250M5に/清談(せいたん)す。明神日、我名ハ山王といふ、三/諦則(ていそく)一を/表(へう)せり、 00023260M6山の/字竪(じたつ)の三/画(くハく)ハ/空仮中(くうけちう)、/横(よこ)の一/画(くハく)ハ是/即(そく)一也、王の字/横(よこ) 00023270M7の(廿二オ)三画ハ三諦なり、/竪(たつ)の一画ハ又一なり、二字三 00023280M8画しかも一貫の/象(かたち)あり、故に/我(われ)立て/号(がう)となすなり、一心三 00023290M9/観(くハん)一念三千、又+かくのことし。下略。 00023300M10△/案(あん)するに是/行因(ぎやういん)と同人なるべし。/諺(ことわざ)に三たび/写(うつ)せば、/烏= 00023310M11△焉馬(う=ゑんば)のたがひめ有といふなれバ、発心集の/板(はん)の/誤(あやま)りなら 00023320M12△んか。しかれバ/行円(ぎやうえん)といふなるべし。又釈書に行円とい 00023330M13△ふ今一人あり。但是ハ/行(きやう)願寺の/開山革(かいさんかハ)上人の事なり。同 00023340M14△名にて別人なり。 00023350¥N14¥J 00023360¥X八△/鯉(こい)の目はなし 00023370M17去人下人にいひ付て/鯉(こい)をあらハせしに、此下人鯉の目を水 00023380M18で/呑(のめ)バ、万に薬なりと聞及、/鱗(うろこ)ふきて後、/件(こい)の(廿二ウ) 00023390M19目を/操(くり)出しける所を、主人見付て、そこな/■(うつけ)者何事を 00023400¥P75 00023410L1しをるぞと、大声/揚(あげ)てわめかるゝ。下人/肝(きも)をつぶしける 00023420L2が、両の/眼玉(まなこたま)ひよいとぬけ出、/爼(まないた)の上へ落た。下人の/傍輩(ほうばい) 00023430L3是を見て、扨+目のぬける程しからるゝといふハ此事か、 00023440L4やれ+はや+目の玉を入よとて、/周章(あハて)ふためき、鯉の 00023450L5目を取/違(ちが)へ、彼者の目の跡へ鯉の目を入し程に、目のはた 00023460L6落くぼミ、見苦しけれとも、是非もなし。其後此下人大坂 00023470L7へ使に行とて、伏見より夜舟に乗て下りしが、/夜半(よなか)時分に 00023480L8船より/這(はい)出川へはまる。/船中(せんちう)の人+、やれ誰やら川へは 00023490¥G 00023500M1まつたハとて引あげ、扨も/麁相(そさう)な人や、小/便(へん)するとてはま 00023510M2られたかと問へバ、いや+(廿三オ)我等ハ/曽(かつ)て覚えす、 00023520M3/現(うつゝ)にはまりしといふ。能案じて見れバ、/鯉(こい)の目を入しによ 00023530M4り、本の魚の時川にはかり住し故、古郷なつかしくてはい 00023540M5りけん。 00023550¥N15¥J 00023560¥X/安勝(あんしやう)物語 00023570M8扶桑隠逸伝安勝といひし僧あり。国/族(そく)/姓(しやう)ハしらず。つねに法 00023580M9花経を/読誦(どくじゆ)せられしか、其声/微妙(ミめう)にて、/聴聞(ちやうもん)の人/随喜(ずいき)のな 00023590M10ミたを流しけり。又/慈悲(じひ)ふかくして、/貧(ひん)人には食物着物を 00023600M11あたへ、病有者にハ薬を得させて/恵(めぐミ)給ふ。しかれとも此/聖(ひじり)、 00023610M12/生(むまれ)つき殊外色黒し。去によつて時の人/黒色(こくしき)沙門といひしな 00023620M13り。それを恥しく思ひ、人にましハり給ハず。或時/長谷(はせ)の 00023630M14観音へ/参詣(さんけい)して、(廿三ウ)/極(きハめ)て色黒きハ何たる/因縁(いえん)ぞや、 00023640M15/願(ねかハく)ハ大/悲(ひ)の御力に、其故を/示(しめ)し給へとて、三日篭たまへ 00023650M16バ、夢の中にうつくしき婦人、/枕上(まくらかミ)に立給ひ、/汝(なんぢ)か前身ハ 00023660M17牛なりしが、/持経(じきやう)者の辺にありて、常に法花経よむ声をき 00023670M18ゝ、経の力によつて、今汝と生れ替しなり、しかれともい 00023680M19また牛の/余殃(よわう)/不尽(つきず)して、色黒しとの御告なり。夢/覚(さめ)て弥/菩= 00023690¥P76 00023700L1提(ほ=だい)心を/増(まし)たまひしとなり。 00023710L2△咄しハ/鯉(こい)の目の余殃にて、川へはいりしとなれバ、牛の 00023720L3△余殃にて色黒きといふを以て/対(つい)するなり。されバ惣して 00023730L4△かたわに生れつくも、又ハ/貧賎(ひんせん)なるも、皆+前生の因 00023740L5△縁によるなるべし。/強(あなかち)に(廿四オ)(廿四ウ挿画)悔/悲(かな)しミ、 00023750L6△叶ハぬ願ひをせんより、たゞ後の世を思ふべきにや。 00023760¥N16¥J 00023770¥X九△銭をひろハぬ咄し 00023780L9去者の子幼少成が、外より帰りて母にいふやう、下の町の 00023790L10/辻(つじ)に銭か/落(おと)してあつた。ひろをと思ふ内につい人がひろふ 00023800L11たといふ。母親聞て、なんぼう程有しぞととへバ、とゝの 00023810L12まら程にあつたといふ。母手を打て、おしい事や、すくな 00023820L13くとも百四五十ハあらうに。 00023830¥N17¥J 00023840¥X/道鏡(どうきやう)物語 00023850L16日本王代一覧/弓削(ゆげ)道鏡といひしハ、孝/謙(けん)天皇の/篭愛(てうあい)/甚(はなはた)しく、 00023860L17/大政(だいじやう)大/臣禅師(じんぜんし)の位を/授(さづけ)給ふ。其後(廿五オ)又/法皇(ほうくハう)の位を 00023870L18さづけ、/内裏(だいり)の/西宮(せいきう)に/住居(じうきよ)す。下略。 00023880L19下学集道鏡ハ/法名(ほうミやう)なり。/丹州(たんしう)/弓削(ゆげ)の人、後に/入洛(にうらく)して/弓削(ゆげ)法 00023890M1皇と号す。/孝謙(かうけん)女帝の夫なり。/馬陰過量(ハいんくわりやう)、可笑。 00023900M2△と/有之(これあり)。しかれバ馬の道具よりすくれたると見えたり。 00023910¥N18¥J 00023920¥X十△子供に世を渡す咄し 00023930M5去者子を二人持けるが、或時/呼(よひ)付ていひけるハ、我年より 00023940M6て世のまじハりもむつかしき程に、幸其方達年/闌(たけ)て、/商売(しやうばい) 00023950M7の事も心得しまゝ、我等ハ/隠居(いんきよ)して心やすく暮し度思ふな 00023960M8り、十貫目の銀子を(廿五ウ)、兄に五貫目、弟に五貫目渡 00023970M9す程に、左様に心得て随分/精(せい)出し、我等をはぐゝミ、家の 00023980M10立やうにせよといふ。弟むす子申やう、十貫目の銀子を、 00023990M11五貫目つゝ請取申へき事心得かたく侍る、/兄者人(あにじやひと)ハ総領の 00024000M12事に候まゝ、六貫目御渡し、我等ハ四貫目請取申へしとい 00024010M13ふ。兄むす子聞て、扨&其方ハ不/合点(がつてん)な事をいふ、親の仰 00024020M14をそむくか、是非半分つゝとりて、以後ハ/銘(めい)+に随分精 00024030M15出しかせぐへしといふ。弟又いひけるハ、それハ/順(じゆん)にあら 00024040M16ず、いかにおやの仰にても、我等ハいやにて侍るといふ。 00024050M17兄ハどう有とも親仁次第にせよといひて、/皃(かほ)をあかめせり 00024060M18合しを、隣の人/与風(ふと)来りて、此/諍(あらそい)を聞、(廿六オ)/横手(よこて)を 00024070M19打、さて+/旁(かた+)ハ/聖人(せいじん)かな、当世ハ/欲(よく)にまよふて、親をし 00024080¥P77 00024090L1△ひたげ、目をぬきても、身がちに計し侍るに、弟ハ四分 00024100L2六分にわけてとらうといふ。兄ハ半分つゝとらうといひて、 00024110L3諍給ふ事、ためしなき/心底(しんてい)なりと、/泪(なミだ)を流し/感(かん)しぬ。其後 00024120L4能&/内証(ないしやう)をきけバ、せり合し/社(こそ)道理なれ。十貫目の借銀有 00024130L5しか、此事なりとそ。 00024140¥N19¥J 00024150¥X/伯夷(はくい)/叔斉(しゆくせい)物語 00024160L8史記評林/伯夷(はくい)/叔斉(しゆくせい)ハ、/孤竹(こちく)君の二子なり。父/卒(そつ)するに及て、 00024170L9叔斉を跡目に立るに、叔斉順にあらすと思ひ、兄伯夷に/譲(ゆづ) 00024180L10る。伯夷/日(いはく)、父の命なりといひて(廿六ウ)/遂(つい)に/逃去(にけさる)。叔斉 00024190L11又伯夷が国にあらぬ事を思ひ同逃けり。/国人(くにたミ)其/中子(ちうし)を立て 00024200L12主とせしなり。/宋朝(そうてう)の/文王(ふんわう)といひしハ、能/老者(らうしや)を養ひ給ふ 00024210L13と聞て、二人ともに出て仕へしが、文王/果(はて)給ひて後、其子 00024220L14武王/紂(ちう)を/亡(ほろぼす)べしとて、/義兵(きへい)を/挙(あげ)て、父文王を/木像(もくぞう)に作り、 00024230L15車に乗せ大将とし、すでに/発向(はつかう)せんとし給ふを、伯夷叔斉、 00024240L16武王の馬を/叩(とゞめ)て/諌(いさめ)申けるハ、父の文王死て/未(いまだ)うづまずして、 00024250L17軍を/起(おこ)すハ/孝心(かうしん)に非す、又紂ハ是君なり、臣として君を/弑(しい) 00024260L18する事、仁心に非ずと申けれバ、/大公望(たいこうばう)が日、伯夷叔斉ハ 00024270L19/義人(きしん)なり、義の向ふ所ハ尤なれども、紂王の/政(まつりごと)/人望(しんばう)に背 00024280M1けり、是/全(まつたく)身の/為(ため)に非(廿七オ)ず、しかしなから民の為な 00024290M2り、今此時を天より武王に/与(あた)ふ、天のあたへをとらざれバ 00024300M3かへつて其/咎(とが)を/受(うく)、時いたりて/行(おこな)ハざれバかへつて其/殃(えい)を 00024310M4うく、/暫(しはらく)も/遅留(ちりう)すへからずとて、すでに打立、終に紂を/亡(ほろぼ) 00024320M5し、武王天下の主となりたまひしかば、伯夷叔斉是を恥て、 00024330M6/首陽山(しゆやうさん)といふ山に/隠(かく)れ、/蕨(わらび)をとりてくらひ、/周(しう)の/粟(あわ)をはま 00024340M7ざりしに、或人日、首陽山も武王の地なり、其地のわらび 00024350M8なれバいかゞといひけれバ、二人共/飢(うへ)死せしとなり。下略。 00024360M9△是ハ父遺言して、叔斉に国を/譲(ゆづり)しを、兄を/閣(さしをき)てハ/順(じゆん)にあ 00024370M10△らずと、/伯夷(はくい)にゆつらんとしけれバ、伯夷ハ又父の命に 00024380M11△そむく事をおそれ、たがひに(廿七ウ)あらそひて国を捨 00024390M12△たり。はなしとハうらはらなり。(廿八オ) 00024400¥P78 00024410¥Y1咄し物語下△目録 00024420L3一△/琥珀(こはく)の咄し并大海/増減(ぞうけん)なき物語 00024430L4二△/盗(ぬす)人の咄し并/安養(あんやうの)/尼(あま)物語 00024440L5三△/悋気(りんき)はなし并/趙(てう)/飛燕(ひゑん)/昭義(しやうぎ)物かたり 00024450L6四△北野へ/無実(むしつの)祈る咄并/直幹(なをもと)物語 00024460L7五△/杣(そま)/怪我(けが)の咄し并大/樹(じゆ)仙人物語 00024470L8六△/浄瑠璃(しやうるり)語咄し并/盃中(はいちう)/蛇影(じやえい)物語 00024480L9七△/絵像(ゑざう)阿弥陀咄并地蔵物かたり(一オ) 00024490L10八△坊主/到惑(たうわく)の咄并/乙鶴(おとつる)丸物語 00024500L11九△/虎平(とらへい)咄し并/無理(むり)之介物語 00024510L12十△/道心者(たうしんじや)/臨終(りんじう)咄并/善(ぜんわ)臨終物語(一ウ) 00024520¥T1 00024530¥N1¥J 00024540¥X一△/琥珀(こはく)の咄し 00024550M3去人琥珀の/緒〆(をじめ)をもとめ、/塵(ちり)などすハせて/試(こゝろミ)けれバ、上& 00024560M4吉の玉にてよく塵を/哺(す)ふ。頓て/印篭(いんろう)/巾/着(ちやく)に付て/腰(こし)に/降(さげ)、/或(ある) 00024570M5時魚屋町を通しに、俄に/印(いん)篭巾着/重(おも)くなりしかば、不/審(しん)に 00024580M6思ひ腰を/撫(なで)て見けれバ、うるめを二/俵(へう)/吸(すい)とりたり。大きに 00024590M7悦ひ宿へ帰り、さて+塵をよく/哺(すふ)こはくハ、かやうの俵 00024600M8物を取、是ハ/重宝(てうほう)な物じやとて、又同しこはくにて/根付(ねつけ)を 00024610¥G 00024620¥P79 00024630L1大きに/拵(こしら)へ/降(さげ)られし。其後米屋の門を通けれバ、何かハし 00024640L2らず、したたかなる物を/吸(すい)とりたり。殊外/腰(こし)重くて、自由 00024650L3にありかれもせぬを、/汗(あせ)水になりてそろ+帰り宿へ行 00024660L4(二オ)着て、やら嬉しや米を一俵/吸(すい)とりしと、独/笑(えミ)してよ 00024670L5く+/□((みカ))れバ、/薦(こも)を/被(かぶり)たる/乞食(こつじき)の/死骸(しがい)にて有し。 00024680¥N2¥J 00024690¥X大/海(かい)/増減(ぞうげん)なき物語 00024700L8三界義問、雨つねに/降(ふり)、川+の水流入、しかれとも大海の 00024710L9水/増(まし)もせす/減(へ)らざる、何の故ぞ。/答(ことふ)、/華厳経(けごんきやう)に曰、大海に 00024720L10四つの/熾燃(しきねん)光明大/宝(ほう)あり。大海の/底(そこ)に/布(しき)て、/性(しやう)/極熱(ごくねつ)にして、 00024730L11常に能百/川(せん)/所注(しよじう)の無量の大水を/飲縮(のミしゝむ)。此ゆへに大海増減な 00024740L12し。其四つの大/宝(ほう)ハ、一つにハ日蔵といふ。大/宝光(ほうくハう)明/照觸(てりふれ) 00024750L13て、海の水を/悉(こと+く)/変(へん)じて/乳(にう)となす。二にハ/離潤(りじゆん)大宝光明。 00024760L14其乳を照/觸(□□□)して、/悉(こと+)く変じて/酪(らく)となす。三にハ大/焔(えん)大宝光 00024770L15(二ウ)明/照(しやう)觸して、悉其酪を/変(へん)じて/蘇(そ)となす。四には無/余(よ) 00024780L16大宝光明照觸して、其/蘇(そ)を悉変じて/醍醐(だいご)となす。火の/熾燃(しきねん) 00024790L17成がごとくにして、/悉(こと+く)/尽(つき)て余なしと云云。/若(もし)/心地観経(しんちくハんぎやう) 00024800L18によらバ、大海に/牡象口(ぼさうく)有。海悉流入/滅尽(めつじん)して/余(よ)なし。 00024810L19△大海の水を/吸込(すいこむ)なるへし。咄しの/琥珀(こはく)の/塵(ちり)を/吸(すふ)とも是に 00024820M1△ハ及バし。 00024830¥N3¥J 00024840¥X二△/盗人(ぬすびと)のはなし 00024850M4/去(さる)所へ盗人来り/壁(かべ)を/毀(こぼち)けれバ、/亭主(ていしう)やかて/起直(おきなを)り、/屏(へい)の/際(きハ) 00024860M5へ行しに、盗人終に/壁(かへ)をすこしこぼちあけて、其/穴(あな)より手 00024870M6を/差(さし)出しけれバ、/亭主(ていしゆ)其手を/捕(とら)へ、(三オ)銭二百文握らせ 00024880M7ていひけるハ、我人世を渡る/方便(てだて)がなけれバ、/盗(ぬすミ)なりとも 00024890M8せねバならぬものなり、/去(さり)ながら/若(もし)きついやつにとらへら 00024900¥G 00024910¥P80 00024920L1れてハ命あぶなし、此二百文/軽微(けいび)なれども、是にて/硫黄(ゐわう)売 00024930L2なりともして、/賊(ぬすミ)をやめたまへといふ。盗人さて+かた 00024940L3じけなや、/去(さり)なから此やうにさ/ぜ((ママ))らるれバ、/重(かさね)てもまいり 00024950L4にくいといふた。/時宜(じぎ)が聞事じや。 00024960¥N4¥J 00024970¥X/安養(あんやう)の尼物語 00024980L7寝覚記/恵心僧都(ゑしんそうづ)の/妹(いもうと)、安養の/尼(あま)の本に/強盗(ごうどう)入にけり。ある程 00024990L8の物ともみなとりて出にけれハ、安養の尼ハ、/紙衾(かミふすま)といふ 00025000L9ものはかり引/着(き)て居られたりけるに、/姉(あね)(三ウ)(又三オ挿画) 00025010L10(又三ウ挿画)なる尼の本に有ける仕へ者のあま、走来り見れ 00025020L11バ、小袖ひとつ盗人の取おとしけるを取て、安養の尼に奉 00025030L12りけるに、/尼上(あまうへ)のいはく、それを取て後ハ、盗人わが物と 00025040L13社思ひつらめ、ぬしの心ゆかざらん物をバ、いかゝ/着(き)るべ 00025050L14き、いまたよも遠くハゆかじ、とく+持て行て盗人にと 00025060L15らせ給へといはれけれバ、門の外へはしり出て盗人を呼返 00025070L16し、是をおとされにけり、慥に奉らんといひけれバ、盗人 00025080L17共立留りて、しばし思案したる気色にて、悪敷参りにけり 00025090L18とて、取たる物ともさながら返し置て帰りにけり。かゝる 00025100L19正/直(じき)、今の世にをごの/嘲(あざけり)有ぬへし。いかにいミじき事も 00025110M1世に/似(に)す。/時宜(じぎ)に叶ハぬ/行跡(ふるまひ)をバ、人是を用(四オ)ひざれ 00025120M2ハ其/益(えき)ある事なし。但/賢(けん)を見てハ/等(ひとし)からん事を願べしとい 00025130M3へり。まことに其ほと至ぬれバ、/謗(そしり)をなす人あるべからす。 00025140M4しかれども心をバ/古(いにしへ)にひとしくして、/挙動(ふるまひ)は今の世にかな 00025150M5へるをよしとす。 00025160¥N5¥J 00025170¥X三△りんきはなし 00025180M8去家中の侍衆/寄合(よりあひ)、さま+の/雑談(ざうたん)の/次(つい)手に、其中の一人 00025190M9申されけるハ、我等女房殊外りんきがふかうて、ちと見よ 00025200M10き/腰本(こしもと)ハ置つけぬ、迷惑なりといふ。其時又一人申されけ 00025210M11るハ、どこも+りんきふかきハ同じ事じや、我等も二人 00025220M12ばかり手かけが/欲(ほし)いが、何とぞりんきさせぬやうにしたい。 00025230M13又一人がいふやう、/所詮(しよせん)殿の仰付(四ウ)られ/に((ママ))て、知行百 00025240M14石に付、女房一人つゝもてとの御意じやといふて/廻文(くハいふん)を作 00025250M15り、御家老のそんじやうそれ殿ハ、千石なれバ、女房十人 00025260M16と書つけ、それより次第+に知行に合て、誰/幾人(いくたり)、かれ 00025270M17/何人(なんにん)判として、そなたの方へ持せてやるべし、/其方(そなた)ハ三百 00025280M18石しや程に、手かけ者二人置給へ、御内方共には三人なり。 00025290M19いかにりんき深くとも、殿の御意じやといふならバ、せく 00025300¥P81 00025310L1事もなるまい、/場(ば)はれて/慰(なぐさミ)給へといふ。尤よき分別なり、 00025320L2しからバ廻文を作り、我等方へ御こし頼入と約束して、扨 00025330L3家へ帰り、何となく内儀に向ひ、世間はなしの次手に、昨 00025340L4日何事やら殿の御内談なさるゝ事有て、家老衆を/召(めさ)(五オ) 00025350L5れしと聞たが、何事も/触(ふれ)てハこなんたかと/問(とふ)。内方聞て、 00025360L6いまた何の沙汰も聞侍らずといふ所へ、彼/廻文(くわいふん)を持来る。 00025370L7/悦(よろこ)びて/押披(おしひらき)見て/眉(まゆ)をひ/ぞ((ママ))め、しばらく物/案(あん)じ/皃(がほ)にして見せ 00025380L8けれバ、内方見て、あら心許なや、何事の御/触(ふれ)にて侍るや 00025390L9らんと問。/答(こたえ)て、されバ/呆果(あきれはて)た事じや、知行百石に付、女 00025400L10房一人つゝもてとの仰付られなり、家老殿ハ千石じやによ 00025410L11つて女房十人、其外次第+に御請を申、知行に合て女房 00025420L12数を持と見えた、皆&印判書判つきならべた、気の/毒(どく)な事 00025430L13哉、其方一人にてさへ/身躰(しんたい)かならぬに、今二人持たらバな 00025440L14を+/借銭(しやくせん)の/淵(ふち)にはまらうが、殿の御意にて一家中御請を 00025450L15申(五ウ)たる事を、我等/訴訟(そせう)したりとも、叶ふまいが気の 00025460L16/毒(どく)やといふ。内儀聞て、尤三百石で侍れバ、我身ともに三人 00025470L17女房御持なうてハなるまい、御訴訟なされたりともかなふ 00025480L18まじ、所詮知行二百石殿さまへ御上げ被成候へバ、わが身 00025490L19一人にてくるしからぬ程に、百石どりに御成あれといふた。 00025500M1△身躰三分一に成てもくるしからぬと思ふハ、ふかきりん 00025510M2△きの。 00025520¥N6¥J 00025530¥X/趙(てう)/飛燕(ひえん)/昭儀(せうぎ)物語 00025540M5劉向烈女伝/漢(かん)の/成帝(せいてい)と申王の/后(きさき)に、飛燕、其/妹(いもうと)昭儀とて、二 00025550M6人ともに/寵愛(てうあい)し給ふ。/姉(あね)の飛燕ハ/愛(あい)(六オ)/衰(おとろ)ふ。然れとも 00025560M7/后皇(こうくハう)に/恭(そなハ)る。昭儀ハ寵/盛(さかん)なり。/昭陽舎(しやうやうしや)に/住居(すまゐ)けり。/楼閣(ろうかく)七 00025570M8宝を以てかざり立、善/尽(つく)し/美(び)つくせり。しかれども姉妹と 00025580M9もに子なし。/帝(ミかど)又/許美人(きよびじん)といふ/后(きさき)に/幸(さいわい)して子を/産(うミ)けれバ、 00025590M10昭儀これを聞て、/帝(ミかど)に/恨(うらミ)たてまつりけるハ、常に中宮に遊 00025600M11び、わが居所へ来らせ給ふとのミ勅ありしが、何とて許美 00025610M12人にハ御子出来させ給ふぞとて、/高欄(かうらん)より/自(ミづから)地へ身を/抛(なけうち)、 00025620M13/泣叫(なきさけ)びて物を食せず。最早/宮闕(きうけつ)にありてもよしなし、/当(まさ)に 00025630M14帰らんといふ。帝然らバ許美人の/産(うミ)し子を/殺(ころす)へしとて、昭 00025640M15儀が目の前にて/縊殺(くひりころ)し給ふ。其後又/偉能(いのう)といふ后に、幸し 00025650M16給(六ウ)ひ子出来たり。昭儀又うらむゆへ、是を殺へしと 00025660M17勅有。/籍武(せきぶ)といふ臣/奏(そう)しけるハ、かやうに有てハ/継代(けいたい)の君 00025670M18あるまじ、/殺(ころ)し給ハずとも、王子に立給ふへしと/諌(いさめ)けれと 00025680M19も、帝用ひ給ハず。生れて八九日になる子を殺し給ふ。是 00025690¥P82 00025700L1にも昭儀が腹や居ざりけん、/偉能(いのう)に/毒(どく)を与へたり。偉能い 00025710L2ふやう、/適(たま+)太子を/産(うミ)しも昭儀が悪心にころされぬ、生て 00025720L3も/甲斐(かい)なき我身なれバ、所/全((ママ))此/毒(どく)を/呑(のミ)て死なんとて、終に 00025730L4死けり。此後ハ帝幸して子ある者ハ自毒を/飲(のミ)て死けり。下略。 00025740L5△/寔(まこと)にをそろしき/妬嫉(しつと)ならずや。さらぬだに女人ハ五/障(しやう)の 00025750L6△雲/厚(あつ)く、高野の山を初として(七オ)/詣得(まふてえ)ぬ/霊(れい)地数多し。 00025760L7△仏の御をしへにも、面は/菩薩(ぼさつ)のごとく内心ハ/夜叉(やしや)のごと 00025770L8△しと侍るとかや。万つゝしむへき事にこそ。彼の紀の有 00025780L9△常の/娘(むすめ)ハ、/業平(なりひら)河内へ通ひ給ひしを、ねたき心ハもたす 00025790L10△して、風ふけバ/沖津(おきつ)白波/龍田(たつた)山と詠じけん。すゑの世の、 00025800L11△女の/鑑(かゝミ)ならんかし。 00025810¥N7¥J 00025820¥X四△北野へ/無実(むしつ)を祈るはなし 00025830L14むかし北野の天満宮へ、/異形(いきやう)の者三人/篭(こもり)けり。一人ハ折/烏= 00025840L15帽子(ゑ=ほうし)着て色浅黒き男、一人ハ法師にて其色まつ黒なり。今 00025850L16一人ハせいちいさく/峻臉(しかミつら)なり。三人ともに念珠/押按(おしもミ)、/祈誓(きせい) 00025860L17終りてひとつ所に寄(七ウ)/集(あつま)り、面&/懺悔(ざんげ)物がたりしけり。 00025870L18折ゑほし着たる者申やう、我等/信濃(しなのゝ)の者なるが、無/実(しつ)の/難(なん) 00025880L19に逢、/杳(はる+)上りてこの御神へ参/篭(ろう)し侍るといふ。二人の者聞 00025890¥G 00025900M12て、何たる無実にやと/問(とふ)。されバ我ハ/蕎麦(そは)なり、人間そば 00025910M13切を/逸好(すきこの)ミ、/美旨(うまさ)に/喰(くら)ひ過してハ、/兎角(とかく)そは切ハ/腹中(ふくちう)の/毒(どく) 00025920M14じや、必はらがくだると申て、我等になき難を申なり、よ 00025930M15い/加減(かけん)に/喫(くら)へバたゝる事ハなきに、無実を申に付、今宵/通夜(つや) 00025940M16し侍るといふ。其時いろ黒き坊主打/諾(うなづき)、さてハ我人/似(に)た事 00025950M17にて侍る、我等ハ爰元のものなり、名ハ/憲法(けんぼう)と申、則黒茶 00025960M18にて待る、人間着物を染申に、くろちやハ/弱(よハい)と申なり、(八 00025970M19オ)/浅黄(あさぎ)の上を膩して後花色に染、又/洗濯(せんたく)して其上を/海松(ミる) 00025980¥P83 00025990L1茶に染、後ハそむべき色がなさに黒ちやに染侍る、久敷/着= 00026000L2馴(き=なれ)て地のよハき事ハいハず、黒茶ハ弱しと申、初から新し 00026010L3き緒を黒茶に染たらバ、何しによハく侍るべき、是無実な 00026020L4りといふ。又しかミづらの小おとこすゝミ出、我等ハ/疝気(せんき) 00026030L5市助と申者なり、尤人間の/腰(こし)、或ハ腹にかきらす、折+ 00026040L6いため侍る事我等か所作なり、然るに疝気けもない/奴原(やつばら)が、 00026050L7主人、或ハ親のいひ付る事に/不性(ぶしやう)をかまへ、疝気か/発(おこつ)てい 00026060L8ためますとて其まゝ打/臥(ふし)、/仕(し)事がしたむなけれバ疝気、遠 00026070L9所へ使にやりさうなれバ疝気、/己等(おのれら)がぶしやう(八ウ)さに、 00026080L10何/気(げ)もないに、せんき+と申事、是無実なり。 00026090¥N8¥J 00026100¥X/直幹(なをもと)の物語 00026110L13撰集抄むかし橘の直幹といふ文章の/博士(はかせ)、/無実(むしつ)を/蒙(かうふ)りて、 00026120L14ながさるへしとて、明日なん/宣下(せんげ)くだると聞えけるに、直 00026130L15幹力なし、前世の/宿執(しゆくしう)にこそと思ひ侍れと、年比/最惜(いとおし)く侍 00026140L16りし/妻子(さいし)もわかれがたく、住/馴(なれ)し都をふり捨て、旅だゝん 00026150L17事の悲しく覚えて、北野の神こそかやうの事にハ、あらた 00026160L18成こと共おハしまし侍るなれとて、其夜参りこもり、泣 00026170L19+/終宵(よすから)/祈(き)念し侍り/梟(けり)。/暁(あかつき)かたに/御殿(ごてん)の内に、大きに/岌(けたかき)御 00026180M1声にて、/道風(とうふう)+とよバせ給ふに、道風の声にて/応(いら)へ(九オ) 00026190M2(九ウ挿画)申てけり。さて仰下さるゝやうハ、此直幹か歎 00026200M3き申事あり、無実にて侍れバ、御/免除(めんじよ)あるへき状書て、直 00026210M4幹にたぶべしと/宣(のたま)ふ御声あり。承るに身の/毛(け)/竪(よだち)て、忝覚え 00026220M5て待居たるに、良暫ありて、立/封(ふう)しめの文を/翠簾(ミす)の内より 00026230M6/颯(さつ)と/投(なげ)出されたり。直幹急ぎ披きて見れバ、文章の博士 00026240M7/橘(たちはな)/直幹(なをもと)依無実蒙勅勘事返&不便也、於今度者可有 00026250M8御/優免(ゆうめん)之由、天神之御気色候、小野道風奉也、とかゝれた 00026260M9り。悦ひをなして急き宿に帰りて、此有さまを委しく/奏問(そうもん) 00026270M10し侍るに、/叡慮(えいりよ)御驚有て、道風が自書の申文をひらかるゝ 00026280M11に、天徳二年正月二日(十オ)余りの比、近江守を望める状 00026290M12△紫宸殿之皇居七廻、書賢聖之障子、大嘗会之宝祚両度、 00026300M13△黷書図之屏風視三朝之徳化身猶雖沈本朝隔 00026310M14△万里之波涛、名是得播唐国 00026320M15とかける/手跡(しゆせき)に、/聊(いさゝか)もたがハざる上ハ、帝おそれをなさせ 00026330M16給ひて、/流罪(るざい)をとゞめ給ひて、/剰(あまつさへ)日比申ける式部/大輔(たゆふ)に 00026340M17なされ侍りけり。殊にあらたにぞ覚侍る。 00026350¥P84 00026360¥N9¥J 00026370¥X五△/杣(そま)/怪我(けが)のはなし 00026380L3木/曽(そ)の山家に住者あり。朝夕木を/樵(こり)て世を渡りしが、或時 00026390L4山へのぼり木をきるとて、/斧(よき)を打はづし足の/甲(かう)へ打込し程 00026400L5に、ふかさ二寸はかりきれたり。されども/疵(きず)よ(十ウ)り/血(ち) 00026410L6も出ず。/漸(やう+)/黎(そろ+)家へ帰り、里に/外科(げくわ)有しを呼よせ見せけ 00026420L7れバ、外科申されけるハ、/斧(よき)を深く打こまれしが、/疵(きず)の/底(そこ) 00026430L8に血か/肉(にく)か赤き物見え侍る、さりながら足/垢(あか)をおとし給へ 00026440L9といふ。さらバとて湯を/涌(わか)し、そろ+垢を/洗(あらい)落しけれバ、 00026450L10足の甲にすこしも疵ハつかず。二寸はかり垢がたまりて有 00026460L11しなり。それ故斧を打込けれとも血も出ざりし。/疵(きず)の底に 00026470L12赤く見えし物ハ、色よき紅葉の葉一枚足の甲に取付て有し 00026480L13が、其上へひた物あかのたまりし物なり。生れて後、終に 00026490L14/洗足(せんそく)せなんだか。 00026500¥N10¥J 00026510¥X大/樹(じゆ)仙人物語(十一オ) 00026520L17大唐西域記/羯若鞠闍国(きやにやきくしやこく)に仙人有。/定(ぢやう)に入て数万/歳(さい)を/経(へ)たりけ 00026530L18れバ、形/枯(かれ)木のことし。然に鳥共集り、/尼拘律(にくりつ)の/果(ミ)を仙人 00026540L19の/肩(かた)の上へ落しけれバ、年を/累(かさね)て/果(このミ)/生(おひ)出、大木と成て、仙 00026550M1人の肩の上にはへたり。/定(ちやう)より/起(たち)て、此木を取て捨んとし 00026560M2けるか、/梢(こずへ)に鳥の/巣(す)有けれバ、こらへて取も/捨(すて)す有けり。 00026570M3又其国の王を/梵授(ぼんじゆ)と申ける。或時/容顔美麗(ようがんびれい)の女房百人、花 00026580M4を/飾(かさり)て/伴(ともな)ひ、/■伽河(ごうがか)の辺に遊ひ給ふを、仙人見て/愛欲(あいよく)を/発(おこ) 00026590M5し、/染着(せんぢやく)の心出来たり。其後王宮に来りければ、王出合給 00026600M6ひ、何として爰へ来ると/宣(のたま)へバ、仙人申けるハ、我/林薮(りんそう)に 00026610M7/住(すミ)て多の年月を送る、/定(ぢやう)より出て(十一ウ)遊覧しけれバ、 00026620M8王の伴ひし余多の/美(び)女を見て心うかれ待るなり、いづれに 00026630M9ても一人我に給へといふ。王/否(いな)ともいひかたく、先帰りた 00026640M10まへ、いづれにてもまいらせんと約束して、百人の女房に 00026650M11/宣(のたま)ふハ、仙人女を一人くれよといふ也、たれにても彼所へ 00026660M12行べしと仰けれバ、女房達一人も行へきといふ者なし。王 00026670M13思ひたまふハ、若仙人に女をあたへずハ、/通力(つうりき)をもつてい 00026680M14かやうにか、/仇(あた)をなすべきもしらすとて、/憂(うれへ)に沈ミ給ひし 00026690M15所に、/幼稚(ようち)の女、王の/傍(かたハら)に来りて、何か御心にかゝりてう 00026700M16れへしづミ給ふぞと問。王、仙人の望を語、女の一人もま 00026710M17いらぬ事を歎き給ひけれバ、此小女申けるハ、王のうれへ 00026720M18だにやむことにて侍らバ、我/稚(ち)なりとも(十二オ)仙人のか 00026730M19たへ参るへしといふ。王大きに悦び、小女を伴ひ仙人の/庵(いほり) 00026740¥P85 00026750L1へ行給ひ、是をあたふへしと仰けれバ、仙人よろこバずし 00026760L2て、何とてかやうの小女を給ふやといふ。王聞給ひ、残る 00026770L3女ハ/我命(わかめい)に従ハず、此小女一人ハ仙人につかへんといふ間、 00026780L4つれ来ると宣へバ、仙人/怒(いかつ)て/悪呪(あくしゆ)して、九十九人の女一時 00026790L5に/腰(こし)/曲(かゞまり)て形/衰(おとろへ)と/咀(のろい)ひけり。王ハ/内裏(だいり)へ帰り見たまへバ、 00026800L6残る女/悉(こと+く)、/腰(こし)かゞまり、一生和合ならざりけり。是より 00026810L7後ハ内裏の名を、/曲女城(きよくじよじやう)といひけるなり。此仙人肩に大木 00026820L8/生(をい)し故、大/樹(じゆ)仙人と申き。 00026830L9△是も一生身を洗ざりしか。 00026840¥N11¥J 00026850¥X六△/浄瑠璃(しやうるり)語りはなし(十二ウ) 00026860L12/当時(とうじ)嘉太夫/曲(ぶじ(ママ))節角太夫ぶしなどゝて、洛中に/専(もつはら)浄/瑠璃(るり)/流(はやり) 00026870L13けり。去者此二流をひたと/稽古(けいこ)して、随分の上手に成しが、 00026880L14爰の日待、かしこの月待に/雇(やとハ)れて、是を所作とする。有時/太= 00026890L15秦(うづ=まさ)に近付有てやとハれ行、夜に入て京へ帰るに、/朧(おほつか)月夜の 00026900L16/覚束(おほつか)なきに、野辺を只ひとりすこ+と/歩(あゆミ)しか、何とやら 00026910L17ん心すごく思ふ所に、行べきさき半町はかりに、/狼(おほかミ)二三 00026920L18十立ならび、此者ちかづかバ、一口にくらハんと待かけた。 00026930L19此躰を見て、扨&是非もない事かな、/逃(にげ)たりともやわかに 00026940M1がしハせじ、すゝむべきやうもなし、/斗方(とほう)にくれて居ける 00026950M2が、/畜生(ちくしやう)でハあれども、随分/詫言(わびこと)してミんと思ひ、わなゝ 00026960M3く+(十三オ)申けるハ、いかに狼さま、私ハ都の者てこ 00026970M4ざりますが、浄瑠璃をかたりに、うつまさ辺へ、今朝より 00026980M5やとハれて参り、只今帰ります、命を御たすけ下され候ハ 00026990M6ゝ、成程面白き所をかたつてきかせませうといふ。余多の 00027000M7狼の中に、/顫頭(かぶり)ふるも有、うなづくも多し。此者思ふやう、 00027010M8先/諾(うなづく)狼多けれバ、語つて見ばやと思ひ、/声繕(こハつくろい)してふるひ 00027020M9+、善光寺といふ浮瑠璃を、角太夫ぶしのひんぬきに語 00027030M10けり。二三十の狼ども、つく+として動もせず聞居たり。 00027040M11既に六段語り/仕舞(しまい)けれとも、一疋もかへらず。さてハわが 00027050M12浄瑠璃上手ゆへ、/畜類(ちくるい)といへども/感(かん)にたへて、今すこし聞 00027060M13度思ふてかへらぬと見えたり。最早(十三ウ)命ハたすくる 00027070M14なるへし、先心ハ落/着(つい)た、去ながら、又浄瑠璃をそなハり 00027080M15てハあしかりなんと思ひ、今度ハ賀太夫ぶし、三社の託宣 00027090M16を、つりがね三/柱(ぢう)七つゆり、爰を大事と語りしが、初段過 00027100M17しかバ夜ハしら+と明にけり。朝日のさし出るに能&見 00027110M18れバ狼でハなくて、/芳(よし)を/苅(かり)たばねて置しにてそ有けり。宵 00027120M19よりかふりふつたり、うなづいたりせしハ、風の吹しゆへ 00027130¥P86 00027140L1なり。 00027150L2△憶病さに夜一術ない目に逢た。 00027160¥N12¥J 00027170¥X/盃中(はいちう)/蛇影(じやゑい)物語 00027180L5書言故事/晋(しん)の国に/楽広(がくくハう)といふ人有。或時客来りしに酒をのま 00027190L6せけり。其客二/度(たび)来らず。/楽広(がくくハう)客(十四オ)の所へ行て、 00027200L7何とて久しく来らぬととふ。此人答へて、前日酒を給ハり 00027210L8し時、盃の中に小/蛇(じや)のかたちを見しなり。それより心地な 00027220L9やミて得ゆかずといふ。楽広不審に思ひ、/工夫(くふう)して見れバ、 00027230L10座敷の天/井(じやう)に/角膝弓(かくしつきう)を置しが、此影盃の中へうつりて、/蛇(へび) 00027240L11のごとく見えし物なりと思ひ、客をわが屋へ同道して、最 00027250L12前の弓を天井にかけて、又盃に酒をつぎて先日の小蛇ハ是 00027260L13なるへし、是弓の影なりといひけれバ、客得心してやまひ 00027270L14本復せし。 00027280L15△是も一念のまよひなり。 00027290¥N13¥J 00027300¥X七△/絵像(ゑざう)の阿弥陀はなし 00027310L18去者後生第一に願ひけるか、絵像の阿弥陀を/持仏(しぶつ)(十四ウ) 00027320L19堂に掛奉り、香花を/供養(くやう)し時&念仏怠らす勤けり。或時み 00027330M1あかしの油を/継(さす)とて、如何したりけん、ゑざうの御/顔(かほ)へ油 00027340M2を懸たり。さて+/怪我(けが)とハいひながら勿躰ないこと哉、 00027350M3去なから是を幸に、木仏にせんとて仏師に頼ミ、舟御光に 00027360M4九重座、/荘厳(しやうごん)/奇麗(きれい)に好ミ、/箔(はく)仏にして/崇(あかめ)、右の絵像をくる 00027370M5+と巻、持仏堂の片角に押込置けり。其後此者頓死して 00027380M6/黄泉(よミぢ)に趣きしが、/瓢&(ひよう+)たる野原に出たり。爰許ハ/何国(いづく)にて 00027390M7あるやらんと、心細くて/徊(やすらい)けるに、向ふより光明/赫奕(かくやく)たる 00027400M8御仏、/紫雲(しうん)に乗て来らせ給ふ。よく+拝ミ奉バ、御/面相(めんさう) 00027410M9に油かゝりて黒し。疑もなく/娑婆(しやは)にて/崇(あかめ)し(十五オ)絵像の 00027420M10如来なり。大きに悦ひ御前近く跪、謹而申上けるハ、私娑 00027430M11婆にて頼奉りし事なれバ、此度極楽へ/導(ミちび)かせ給へと、/歓喜(くハんき) 00027440M12の泪を流し申けれバ、如来仏勅ありけるハ、汝尤初の間は 00027450M13我を/尊(たつと)ミけれとも、みあかしの油を皃へかけ、其上持仏堂 00027460M14の/隅(すミ)へ押込て、木仏をたうとミしなり、最早我ハしらぬそ、 00027470M15/日来(ひごろ)の九重座の木仏をたのめ。 00027480¥N14¥J 00027490¥X地蔵物かたり 00027500M18砂石集むかし鎌倉に、/或武士(あるぶし)二人/知音(ちいん)なりけるが、地蔵を信 00027510M19じて/倶(とも)に/崇(あがめ)/供養(くやう)しけり。一人ハ世間/貧(まづ)しかりけれバ、古き 00027520¥P87 00027530L1地蔵の/相好(さうごう)も調らぬを、花香/捧(さゝげ)(十五ウ)て/崇(あかめ)ける。一人ハ 00027540L2世間ゆたかなりけれバ、いミじく/造立(ざうりう)して、/厨子(づし)なんと/美= 00027550L3麗(ひ=れい)に仕立て、あがめ供養しけるか、此人先立て世をはやく 00027560L4しける時、まづしき知音に、/地蔵(ぢざう)を信ずる人なれバとて、 00027570L5本尊を/譲(ゆつり)けり。悦ひて今の本尊を/供養(くやう)して、年比の古き地 00027580L6蔵をバ、かたハらに打置て供養もせざりけり。ある時夢に 00027590L7此地蔵物うらミたる気色にて、 00027600L8△△世をすくふ我もこゝろハあるものを 00027610¥G 00027620M1△△△かりの姿ハさもあらバあれ 00027630M2/古徳(ことく)の口伝にいふ、仏の真身ハ無/相(さう)/無念(むねん)なり、大/悲(ひ)本/誓(せい)善 00027640M3/根(ごん)の身によりて、種&の形を現じたまふ、(十六オ)/形象(きやうざう)も/応= 00027650M4身(おう=じん)の一つなり、然るに行者の信心知恵の分に随て、木石の 00027660M5思ひをなせば、仏躰もたゞ木石の分なり、木石をも仏の思 00027670M6ひをなせバ、仏の/利益(りやく)有、/恭敬(くきやう)の心も/信仰(しんかう)の思ひも、誠に 00027680M7ふかくまめやかに念比なれば、生身の利益にすこしもたか 00027690M8ふへからず、/愚(おろか)なる/成((衍))にて/軽慢(きやうまん)のふるまひなれば、利益の 00027700M9用あらハれかたし、人をうやまへとも、仏の御前にハはぢ 00027710M10ずおそれずのミ世間にふるまふ、いかてか仏徳をもかうふ 00027720M11り、利益にも預へき、返+もをろかなる人の/慣(ならい)なり。 00027730¥N15¥J 00027740¥X八△/坊主(ばうず)/倒惑(たうわく)の咄し 00027750M14去/坊(はう)主二人づれにて、/旦那(たんな)の方へ/斎(とき)に行。/経(きやう)念仏(十六ウ) 00027760M15過て/膳(せん)を出す。さいに/酢韲(すあへ)有。酢がよくきゝたり。此二人 00027770M16僧、前日に、/鮒(ふな)/鱠(なます)をひそかに/拵(こしらへ)/喰(くらい)しが、/酢(す)のきかざりし 00027780M17により、それを思ひ出して一人の坊主、さて+此酢での 00027790M18う、此酢でといふ。今一人の坊主も、されバ+といふて 00027800M19打うなつき食をくふ。亭主/相伴(しやうばん)しけるが、此酢が御気に入 00027810¥P88 00027820L1侍らバ、何にても御/好(この)ミなされよ、只今こしらへてまいら 00027830L2せうといひけれバ、其時二人の僧/倒惑(とうわく)して、此/酢(す)で/素麺(そうめん)を 00027840L3たべたらよう御座らふ。 00027850¥N16¥J 00027860¥X/乙鶴(をとつる)丸物語 00027870L6従然草ニ大/納言(なこん)法/印(いん)の召つかひし乙鶴丸、やす(十七オ)(十七 00027880L7ウ挿画)ら殿といふ者をしりて、つねに行通ひしに、或時を 00027890L8と鶴丸外より帰り来るを、法印いづくへ行つるぞととひし 00027900L9かば、やすら殿の許へまかりて候といふ。法印又やすら殿 00027910L10ハ男か法師かととハれしかバ、乙鶴袖かき合て、いかゝ候 00027920L11らん頭ハ見候ハすとこたへ申き。など頭の見えざりけん。 00027930L12△是も/推量(すいりやう)するに、乙鶴丸、女房などの方へ通ふとて、や 00027940L13△すら殿とかりの名を付て、つね+法印の前を/繕(つくろ)ひ置し 00027950L14△に、男か法師かととハれしとき、倒惑せしと見えたり。 00027960¥N17¥J 00027970¥X九△虎平はなし(十八オ) 00027980L17去人/伊達(たて)な名を付度思ひ、虎平と名を付けるが、ある時友 00027990L18達四五人同道にて/参宮(さんぐう)せしに、惣中間と/と((衍))して/乗懸(のりかけ)一/駄(だ)仕 00028000L19立て、道の/程(のり)をつもり、一人に五里つゝのれバよしと定て、 00028010M1道中を替&のる。虎平ハ六里/乗(の)れ共おりず。人&申けるハ、 00028020M2最早おり給へ、定の外に一里過たり、/乗替(のりかハる)るへしといふ。 00028030M3虎平聞きて、我等ハ不達者に侍る程に、/合力(かうりよく)にのせ給へと 00028040M4いふ。いづれもいふやう、虎ハ一日に千里を/走(はしる)と申なれバ、 00028050M5/流石(さすが)の虎平、不達者にハ有へからず、おり候へといひけれ 00028060M6バ、いやとよ我等ハ/大唐(たいとう)の虎にてハなし、とら/猫(ねこ)の虎なり 00028070M7とて無理に乗行。扨伊勢へ着て、太夫殿にてさま+の/料= 00028080M8理(りやう=り)出けれバ、虎平/肴(さかな)ともをした(十八ウ)たか/喰(くい)て、我等ハ 00028090M9猫の虎じや程に御免候へとて、人+の/繕(せん)にある肴の/饌(わけ)を 00028100M10とり喰ふ。其時/連(つれ)の中に一人座敷を立、/裏(うら)のはきだめに鼠 00028110M11の/腐(くさり)たるが有しを取て来り、猫ならバ/似合(にあふ)たやうに是を/啗(くらへ) 00028120M12とて、五/器(き)の中へ/投(なげ)入けれバ、あら/膩(きたな)やとて/吐逆(ときやく)する。人 00028130M13&見て、されバこそへどをついたハ。 00028140¥N18¥J 00028150¥X/無理(むり)の助物語 00028160M16甲陽軍鑑花沢の城門/脇(わき)へ五人つきたる衆ハ、四郎/勝(かつ)頼公、長 00028170M17坂長/閑(かん)、名和無理之助、/初鹿(はじか)伝右衛門、/諏防(すハ)越中也。城の 00028180M18/鎖子(じやう)を無理之助あけられよと、/初鹿(はじか)伝右衛門申候へハ、矢 00028190M19/鉄炮(てつほう)しげくして、あけらるゝ所にてな(十九オ)しと無理之 00028200¥P89 00028210L1助/答(こたへ)也。そこにて伝右衛門立あがり鎖子/押(おし)上る。/諏訪(すハ)越中 00028220L2つゞいて、我持たるかま/鑓(やり)を以てつきあげて帰る。伝右衛 00028230L3門越中両人にて、無理之助が/是足(ぐそく)の上に/着(き)たるなハの/羽織(はおり) 00028240L4を/剥(はぎ)取、以来無理之助とハ名のらせましと申。/勝頼(かつより)公あつ 00028250L5かひ被成、縄の羽織ハ其/場(ば)にて返し候。中略。 00028260L6一、此御陳中に、/甲州(かうしう)信州の、/信玄(しんげん)公本参衆より、哥をよ 00028270L7△ミ、板に書付たつる。 00028280L8△△無理のすけ道理の介に名ハなれや 00028290L9△△△むりなることをする身でもなし 00028300L10/寺院(じいん)の/号(がう)、さらぬ万の物にも名をつくる事、人の(十九ウ) 00028310L11名も、目なれぬ文字をつかんとする、/益(えき)なき事也とぞ、吉 00028320L12田の/兼好(けんかう)ものたまひし。 00028330¥N19¥J 00028340¥X十△道心者/臨終(りんじう)の咄し 00028350L15去道心者往生せられしが、日比ハ随分の人にて有しが、臨 00028360L16終に/屁(へ)を/晞(ひら)れたと語る。/傍(そば)な人聞て、其やうな事もある事 00028370L17さうな、先年我等か親仁の臨終の時、去長老さまの仰らる 00028380L18ゝハ、必&りんじうが軍じや程に、取はつし給ふなと、親 00028390L19仁に返す+仰られし。しかれバ取はづして死ぬる人もあ 00028400M1ると見えた。 00028410¥N20¥J 00028420¥X/張(ちやう)/善和(せんわ)/臨終(りんしう)物語 00028430M4諸上善人詠むかしもろこしに善和といふ者有。大唐(二十オ) 00028440M5の/風俗(ならハし)にて、牛を食する故、此善和牛を殺して/商売(しやうはい)しけり。 00028450M6或時病に/伏(ふし)死ぬへき時に、牛余多善和か/枕本(まくらもと)へ来りていひ 00028460M7けるハ、汝我を殺したりと、人の物いふやうに、いひけれ 00028470M8バ、善和大きに/怖(おぢ)て、妻に/告(つげ)て、急ぎ僧を/請(しやう)じて我/苦(くるしミ)を/救(すくへ) 00028480M9といふ。妻/走(はし)り出て僧を/伴(ともな)ひ来る。僧則すゝめけるハ、十 00028490M10六/観経(くハんきやう)に/云(いはく)、/若(もし)人/臨終(りんしう)に/地獄(ちこく)の相を/現(げん)ぜんに、十たび南 00028500M11無阿弥陀仏と/称(しやう)せバ、/即(すなハちゝ)浄土に往生する事を得んとすゝ 00028510M12むる内に、善和申ける、/便(すなハち)/地獄(ゝこく)に入ぞといひけれバ、僧 00028520M13香/炉(ろ)を取に/暇(いとま)あらすして、手にて香をさゝけて、西に向ひ 00028530M14て念仏しける。未だ十/遍(へん)に/満(ミて)ざるに、又善和申けるハ、我 00028540M15阿弥陀仏(二十オ)の西方より、来迎し給ふを見ると、いひ 00028550M16/訖(おハつ)て往生す。 00028560M17△かゝる悪人すら、臨終の知識に/逢(あ)ひて、極楽に生るゝ事、 00028570M18△有がたき事ならずや、又たのもしからずやと、/発露(ほろ)+ 00028580M19△/涙(なミだ)にて/語(かたら)るゝ。予が申けるハ、嬉敷事を聞つる物哉、/珠数(ずゝ) 00028590¥P90 00028600L1をたに手にふれし事ハなけれど、臨終にハ知識をたのミ、 00028610L2/天晴(あつはれ)往生すべしといへバ、友かぶりを/振(ふつ)て、其心得大き 00028620L3に悪し、つねに念仏し給へ、/頓死(とんし)眼に/遮(さへぎ)る時人をまたざ 00028630L4れバ、いつを期とか/知(しる)、又思ひかけぬ/災(わざハひ)に死せんも/量(はかり)か 00028640L5たし、古哥ニモ、 00028650L6△夢の世にまほろしの身の生れきて 00028660L7△△露にやとせるよひのいなつま(二十一オ) 00028670L8はげしき無常の風、りんじうの/知識(ちしき)をまつ物かハ、なと 00028680L9すゝめらるゝ内に、八声の鳥の/告(つげ)わたれバ、/暇(いとま)申とて出 00028690L10られき。名残ハおしミながら、又/社(こそ)とて返しぬ。されバ 00028700L11こそ咄しハ/屁(へ)にて/果(はて)侍り、物語の品+ハ、玉を/琢(ミがき)し詞 00028710L12成を、/児童(じとう)の見やすからん為に、をろか成/亳(ふで)に書/穢(けが)し侍 00028720L13る。罪の/遁(のが)るゝ所なき事を知也已。 00028730¥Q 00028740L15延宝八庚申年中秋上旬△△幸佐集之 00028750L16△△△△△△△△△祇園縄手大黒町 00028760L17△△△△△△△△△△△満足屋清兵衛板行(二十一ウ) 00028770¥P91 00028780¥U噺本大系△第四巻 00028790¥T杉楊枝 00028800¥G 00028810¥Y 00028820L16延宝八年刊 00028830L17野本道元著 00028840L18半紙本六巻 00028850L19東大霞亭文庫蔵 00028860¥Y杉楊枝△序 00028870M3/先達(さきだつ)て/世(よ)に/広(ひろ)めし一/休(きう)/噺(ハなし)、/竹斎物語(ちくさいものがたり)の/両編(りやうへん)ハ、たれびとか 00028880M4/作(つく)れる。/其文才(そのぶんさい)の/巧(たくミ)なる/所(ところ)には、/東坡山谷(たうばさんこく)だにも/小指(こゆび)の/瓜(つめ) 00028890M5を/噛(かミ)、/我朝(わがてう)の/管丞相(かんせうじやう)も、/松梅(せうばい)の/下(もと)に/逃隠(にげかく)れ給ハん/程(ほど)の/筆作(ひつさく) 00028900M6なり。何ものか、是を/読(よん)でくすミをるべき。しかし/狂言(きやうげん) 00028910M7/綺語(ききよ)ハ、/人(ひと)を/導(ミちびか)んための/橋(はし)なり。/虚(きよ)を/以(もつ)て/実(じつ)をしらしむ 00028920M8るハ、/荘子(さうし)が/寓言(ぐうげん)に(一ウ)/等(ひと)しく、/頓語(とんご)/軽舌(けいぜつ)の/興(けう)は、/旧本(きうほん) 00028930M9の/大意(たいい)として、/旦(かつ)/禅法(ぜんバう)の/端(はし)くれにも/近(ちか)し。されバ/老和尚(らうをしやう)の 00028940M10/古(いにしへ)ハといへバ、よく人のしれるがことく、/高(たか)き/御位(をんくらい)を/踏(ふミ)す 00028950M11べりて、/底深(そこふか)き/道(ミち)に/首(くび)だけ/打込(うちこミ)、/生死(しやうじ)のふたつを/押分(をしわけ)て、 00028960M12/浮世(うきよ)の/波(なミ)に/抜手(ぬきで)をきり、/游渡(をよぎわた)りのかろき御/心(こゝろ)はせを/察(さつ)して、 00028970M13/拙(つたな)き/口(くち)に/云(いひ)まげし、/技折垣(しをりかき)のうちなる、/竹(たけ)の/薗(そのふ)の/末葉(すへは)たる、 00028980M14/御(をん)かたの/事(こと)を/書(かき)あつむるなれハ、/薮医者(やぶいしや)(二オ)の/竹斎(ちくさい)が/身(ミ) 00028990M15の/上(うへ)を、いひ/出(いで)んも/縁(ゑん)なきにあらずとて、はるかに/隔(へだゝ)りた 00029000M16るを、ひとつ/時代(ときよ)に/書成事(かきなすこと)、/世(よ)の/嘲(あざけり)すくなからず。されど 00029010M17も/三聖三笑(さんせいさんせう)の/親(したしミ)を、/此草紙(このさうし)の/方人(かたうど)となし、なき/事(こと)のミを見 00029020M18しやうに/取続(とりつゞけ)たるハ、/紫(むらさき)なる/女(おんな)の/六十四帖(ろくじうよでう)の/筆(ふで)に/免(ゆるし)をとり、 00029030M19そげたる事(こと)のミをよせて、/置頭巾(をきづきん)せし/翁(をきな)の/喰(くい)しめら/れ((ママ))るゝ 00029040¥P92 00029050L1/口(くち)にもそばへ、をのづと/歯(は)の/根(ね)をくつろげさせなんとて、 00029060L2/杉楊(すぎやう)(二ウ)/枝(じ)と云/名(な)をおもひ/出(いで)、ふと/取初(とりそむ)る/筆(ふで)を/見付(ミつけ)て、 00029070L3ぬけさや/持(もた)んといふ、ひとり/二人(ふたり)にそゝのかされ、/木(き)に/竹(たけ) 00029080L4を/続(つひ)て、ひた物に/書(かき)つゞけたる。/簣子椽(すのこゑん)のくさり/縄(なハ)にもと 00029090L5りへありて、もしや一/座(ざ)の/笑草(わらひくさ)となり、/一興(いつけふ)を/催(もよほ)す/媒(なかたち)とな 00029100L6らバ、/我(わか)/思(おも)ふ/処(ところ)の/本意(ほい)を/遂(とげ)たる/物(もの)になん。/于時(ときに)/延宝(ゑんほう)/七(なゝつ)の/年(とし) 00029110L7/孟陽仲澣(もうやうちうかん)、/江城(こうせい)の/旅(りよ)、/里木予一(さときよいち)みちもとゝ/云者(いふもの)、/麻生(あさぶ)なり 00029120L8し/片隅(かたすミ)に/居(をり)て、/是(これ)を/全(まつたふ)し、/六冊(ろくさつ)と/分(わか)ちてやミぬ。(三オ) 00029130¥Y1杉楊枝第一 00029140M3△△竹斎不喰貧楽 00029150M4△△/一休(いつきう)/竹斎(ちくさい)/初而(はじめて)/対面(たいめん) 00029160M5△△/源氏(げんじ)のしらはた 00029170M6△△/越中下帯(ゑつちうしたをび)(三ウ) 00029180¥P93 00029190¥T1/杉楊枝(すぎやうし)第一 00029200¥N1¥J 00029210¥X竹斎不喰貧楽 00029220L5/日外(いつぞや)/世(よ)に/鳴(なり)し/竹斎(ちくさい)ハ、京/田舎(いなか)まで/隠(かく)れなき、そげものなり 00029230L6しが、/利根(りこん)/発明(はつめい)にして、/心(こゝろ)ばせさすがに/賎(いや)しからす。/和哥(わか) 00029240L7のかたハしをも/翫(もてあそび)て、しほらしき人がらなれども、/耳(ミゝ)のた 00029250L8ぶ/溥帋(うすがミ)のごとく、あちらこちらの見えすくやうにて、/一生(いつしやう) 00029260L9/思(おも)ひばかもゆかず。/一切(いつさい)はたらかぬ/療治(りやうぢ)なれハ、/茶匙(さじ)さき、 00029270L10さながら/緑青色(ろくせういろ)にさびきり、/家内(かない)の/風情(ふぜい)/物淋敷(ものさびしく)て/世(よ)を/渡(わた)る 00029280L11だに/賢者(けんしや)ハ家不富と思ひ/明(あき)らめ、/肱(ひぢ)を/曲(まげ)て/枕(まくら)とし、/明(あか)し 00029290L12(四オ)/暮(くら)す/内(うち)にも、/何(なに)がしが/末(すえ)なれバとて、/常(つね)に/武儀(ぶぎ)をわ 00029300L13すれず。いらぬ/法師(ほうし)のうでだてと、人もほめざるしなひ/打(うち) 00029310L14に、/心(こゝろ)をついやし、バた+とたゝきあぐる、/銭(せに)かね/足(あし)を 00029320L15もためぬ/革袋(かわふくろ)、をのづと/口(くち)を/明(あけ)て、しまらぬあてづかひに、 00029330L16/喰(くい)あげ/呑(のミ)あげしてハ、からりちんと、ひあがりたるはしり 00029340L17もとに、きれいずきをしながらも、/米(こめ)からうとの/中(うち)にハ/蜘= 00029350L18蛛(く=も)の/巣(す)をはらせ、やゝともすれバ/主従(しう+)のおなか、うそさび 00029360L19しく、/目星(めほし)の/花(はな)もちり+に、ミのなる/果(はて)こそおぼつかな 00029370M1き。又、/二季(にき)の/物際(ものぎハ)にハ、かけ/乞(こい)の/催促人(さいそくにん)、/門前(もんせん)に/市(いち)をな 00029380M2す。されども(四ウ)/蛙(かへる)のつらに水とかや、かゝり/付(つけ)たる/買= 00029390M3物(かい=もの)の/帳面(ちやうめん)、まだ/横筋(よこすぢ)もひかぬうちに、/幾年月(いくとしつき)をふるつゞら 00029400M4のそこに/積(つも)りし、/書出(かきだ)しの/反古(ほんこ)より/外(ほか)、/別(へち)のたくハへもな 00029410M5し。/只(たゝ)おごりハ/長(ちやう)ずべからす、よくハ/縦(ほしいまゝ)にすべからすと 00029420M6て、/一重(ひとへ)なる/帋(かミ)ぶすまを、ミづから/夜床(よとこ)に/敷(しき)のべ、/大豆蟹(まめかに) 00029430M7のうち/殺(ころ)されたることく、/足手(あして)を/腹(はら)に/引付(ひきつけ)、ちゞみあがり 00029440M8て、/臥(ふす)だにいとゞ/侘(わび)しかりけるに、/明(あく)れハ/水(ミつ)を/汲(くミ)、/薪(たきゞ)をに 00029450M9なひ、/竃(かまど)の/下(した)をせびらかすより、よまいごとして、ぶつめき、 00029460M10/才(さい)ありとて、たのむべからす。/顔回(かんくわい)も/不幸(ふかう)なり。/奴(やつこ)/随(したがへ)り 00029470M11とて(五オ)/頼(たのむ)べからす。/却而(かへつて)/辛苦(しんく)の/基(もと)なり。あゝいらぬも 00029480M12のかなとて、/譜代相伝(ふだいそうてん)のにらみの/介(すけ)、/只一人(たゝいちにん)/召(めし)つかひ、/借= 00029490M13宅(しやく=たく)/閑居(かんきよ)するに/付(つけ)て、/薬師(やくし)の十二/神(じん)になぞらへ、十二匁の/屋= 00029500M14賃(や=ちん)を/喧嘩(けんくわ)まじりにかけ/出(いだ)し、/佗(わび)しき/月日(つきひ)を/送(おく)りにける。/然(しかれ) 00029510M15ども/古(いにしえ)より、/果報(くハほう)ハ/寝(ね)てまてといふなれハ、さらハ/寝侍(ねハべ)ら 00029520M16んとて、くる日も+/宰予(さいよ)が/夢(ゆめ)をたのしミ、うつら+と 00029530M17せしうちに、まだ/胸(むね)さきの/躍(おとり)もやまぬ/盆前(ほんまへ)の、/痛(いたミ)をさすり 00029540M18やハらげ、やゝほそほふ/成(なる)むしの/声(ね)に、/秋(あき)も/暮行(くれゆく)。/光陰(くハういん)ハ 00029550M19/鉄炮(てつほう)よりも/早(ハや)く、じやうあがりの/内証(ないしやう)ざたも(五ウ)/富(とめ)る/人(ひと) 00029560¥P94 00029570L1のかたに/口説(くどき)たてゝ、/不断(ふだん)/揉手(もミで)をするより、/肌(はだえ)をぬくめ、 00029580L2/水鼻(ミつばな)ふせぎの/紙子(かミこ)きる/物(もの)も、四十八/枚(まい)になりけれハ、/弥陀(ミだ) 00029590L3の四十八/願(ぐハん)に/表(ひやう)し、/継(つき)め+のはなれ+になりて、しハ 00029600L4らくさきを、にんにくの/鎧(よろい)のくさずりとおもひなぞへ、さ 00029610L5なだうちの、ちぎれたる/上帯(うわおび)とつて、てうどしめ、すわと 00029620L6もいハゝ/高名(かうめう)し、いま/一(ひと)たひ/世(よ)に/出(いづ)へきものをと、はがミ 00029630L7をしてぞ、ひかへにける。かゝる/折(おり)ふし、おもてに/物(もの)もふ 00029640L8といふ/声(こえ)しけれハ、すハやとて/立出(たちいつ)るに、/紫野(むらさきの)の/辺(へん)、そん 00029650L9じやうそこより、/急病人(きうひやうにん)/御座(ごさ)候て、/御迎(おんむかい)にまかり候とぞ(六 00029660L10オ)申ける。/兼(かね)て/望(のそ)む/事(こと)なれハ、/心得(こゝろへ)たりとて、/取(とる)ものも 00029670L11とりあへず、/門外(もんくわい)に/立出(たちいて)見れハ、はげたるあをりにかけ 00029680L12/鞍(くら)おき、/無事(ふし)に候、/是(これ)にめされて御/出(いて)あれとの/使(つかい)ハ/来(きた)り。 00029690L13/馬(むま)に/鞍(くら)くら/馬(ま)の/山(やま)の/火打石(ひうちいし)、/角(かど)のつぶれし/古頭巾(ふるつきん)をハ、ま 00029700L14ぶかにきて、/鐙(あふミ)ふんばり/大音(たいおん)あげ、/如何(いか)に/其方(そのはう)/慥(たしか)にきけ、 00029710L15/昔(むかし)もさるためし/有(あり)、/耆婆扁鵲(ぎハへんじやく)に/背(そむき)し/病人(びやうにん)、たちまちほろび 00029720L16うせしぞかし、ましてや、まぢかき/竹斎(ちくさい)をおろそかにし給 00029730L17ふな。/畏(かしこまり)て候と、/馬(むま)にかきのせ/行(ゆく)ほどに、/耆婆(きバ)のなかれ 00029740L18も、/末清(すへきよ)き/小川(こかハ)/通(とをり)に/差(さし)かゝる。/爰(こゝ)ハ/名(な)に(六ウ)あふ/名所(めいしよ)に 00029750L19て、/立売(たちうり)/小川(こかハ)と/詠(えいせ)しも、/此所(このところ)そと/聞(きく)からに、/徒然草(つれ+ぐさ)に/書(かき)た 00029760M1りし、/猫(ねこ)またなどをおもひでゝ、あとに/心(こゝろ)のひかされし、 00029770M2/臆病神(おくびやうかミ)や、かミ/小川(こがハ)/寺(てら)の/内(うち)にそ/出(いで)にける。/所(ところ)の/名(な)とハい 00029780M3ひながら、/爰(こゝ)を/去事(さること)とをからぬ、/仏(ほとけ)や/納受(なふじゆ)ましまさんと、 00029790M4ふかく/心(こゝろ)に/誓(ちか)ひして、/一首(いつしゆ)ハかふぞ/詠(ゑい)じける。 00029800M5△△/名(な)にめてゝおがミ申そ/南無薬師(なむやくし) 00029810M6△△△われ/野夫医者(やぶいしや)と/人(ひと)に見するな 00029820M7と/心中(しんちう)に/祈念(きねん)をし、/安居院(あくいいん)にぞあゆませゆく。/爰(こゝ)ハいにし 00029830M8へ/名僧(めいそう)の/百八(ひやくはち)の/数珠玉(じゆずだま)に、/末広扇子(すへひろあふき)/持(もち)(七オ)(七ウ挿画)/添(そへ)て、 00029840¥G 00029850¥P95 00029860L1/源氏(けんじ)/供養(くやう)の/能毎(のうごと)に、/出現(しゆつけん)し給ふ/霊地(れいち)そと、おもへハ/是(これ)も/夢(ゆめ) 00029870L2の/世(よ)と、/人(ひと)に/知(しら)せん/御方便(ごはうべん)、/実(げに)/有難(ありがた)きちかひとて、/袖(そで)に/時= 00029880L3雨(し=ぐれ)の/色(いろ)/染(そむ)る、あけを/奪(うはひ)し/紫野(むらさきの)、/病家(びやうか)にこそは/成(なり)にける。/手= 00029890L4綱(た=づな)/取手(とるて)の/袖口(そでくち)も、わたうち/出(いで)て/見(ミ)くるしきに、/亭主(ていしゆ)はおも 00029900L5てへ/走出(はしりいで)、はる+/是(これ)まで/有難(ありがた)しと、/馬(むま)より/下(した)にいたきお 00029910L6ろすに、もろひかな、/紙子(かミこ)の/袖(そで)、めり+とぞいひける。 00029920L7/竹斎(ちくさい)/気(き)あがりして、 00029930L8△△きて/来(き)ぬる/紙子(かミこ)ハうしやとりつきて 00029940L9△△△やぶるへしとハおもハぬものを(八オ) 00029950L10と、ぶつめきけれハ、/亭主(ていしゆ)/迷惑(めいわく)さうにて、 00029960L11△△/袖(そて)やれて/千ゝ(ちゝ)に/物(もの)こそかなしけれ 00029970L12△△△わが/身(ミ)ひとりのけがにハあらねど 00029980L13など云て、/色能(いろよき)/小袖(こそで)を/出(だ)しけれハ、/又(また)とりあへず、/竹斎(ちくさい)、 00029990L14△△ねだるれはくるゝものとハしりなから 00030000L15△△△なを/恨(うら)めしき/袖(そで)のめり+ 00030010L16と/狂哥(きやうか)して、/嬉(うれ)しげに見えけれハ、/亭主(ていしゆ)ざれ/事(こと)すとて、/又(また)、 00030020L17△△/小袖(こそて)見てうつろふものハ/世中(よのなか)の(八ウ) 00030030L18△△△人のこゝろの/欲(よく)にぞありける 00030040L19/竹斎(ちくさい)/腹立(ふくりう)の/躰(てい)にて、 00030050M1△△/袖(そで)の/下(した)つれなく見えしやぶれより 00030060M2△△△わる口ばかりうき物ハなし 00030070M3といひて、/帰(かへ)らんとせしを、おしとめて、/亭主(ていしゆ)、 00030080M4△△此たひハふととりあへすたハことを 00030090M5△△△申もくちのひまのまに+ 00030100M6/女房(にようハう)/又(また)、/竹(ちく)か袖をひかへて、 00030110M7△△/佗(わび)ぬれハ今またおなしわれらまで 00030120M8△△△身をつくしてもとめんとぞおもふ(九オ) 00030130M9といひて、わりなく見えけれハ、竹斎も/流石(さすが)/岩木(いはき)ならす、 00030140M10立留りて、 00030150M11△△/恨(うらミ)わびやれし袖たにあるものを 00030160M12△△△/欲(よく)にくちなん/名(な)こそ/惜(おし)けれ 00030170M13とうち/咲(わらい)てより、/先(まつ)/一脉(いちミやく)をかんがミける。/看病(かんびやう)のものども、 00030180M14竹斎がかほざしをつく+ながめ/居(い)けるか、/興(けう)さめたる躰 00030190M15にて、/眉(まゆ)をしかめ、かしらをふり、/抜(ぬき)たる/扇子(あふき)をもさしあ 00030200M16へず、あはてゝおもてに出んとす。人&袖にとりつき、こ 00030210M17はいかなる御事ぞや、さまてたへ入ほとの事(九ウ)にもな 00030220M18きものをといへハ、竹斎聞て、いや/脉(ミやく)かあがつてこそとて、 00030230M19もぎはなして/帰(かへ)らんとするを、そはなるものども是を/聞(きゝ)て、 00030240¥P96 00030250L1竹斎さまにハ何と/御覧(こらん)候ぞや、/脉(ミやく)ハ/慥(たしか)に/侍(ハんへる)るものをとい 00030260L2ふ。いや、さハあるまじとて、/聞(きゝ)もいれさりしを、/亭主(ていしゆ)た 00030270L3えかねて、今一度/御覧(こらん)して給ハれと/歎(なげ)く。不及力又/指寄(さしより) 00030280L4て見れハ、/左右共(さうとも)に/脉(ミやく)すミやかなり。竹斎へらぬくちにて、 00030290L5いふ様ハ、末代の/名医(めいい)竹斎、かゝる/民家(ミんか)に来て/侍(はんべ)れハ、病 00030300L6人我/威(い)に/恐(おそ)れてこそ、脉もたえたるものならめ、此/躰(てい)なら 00030310L7は(十オ)本/復(ぶく)なるへしといふ。/亭主(ていしゆ)を/始(はしめ)一座のものども、 00030320L8つらにくしとハおもひながら、左様にこそとぞいひたりけ 00030330L9る。かくて竹斎、/懐中(くわいちう)の/小袋(こふくろ)より/黒(くろ)薬を/取出(とりいだ)し、めしのと 00030340L10りゆにて、あたふれハ、/鰯(いわし)の/頭(かしら)も/信心(しん+)にて、/忽(たちまち)/快気(くハいき)と見え 00030350L11にける。ミな+あまりのうれしさに、南無/薬師(やくし)竹斎さま、 00030360L12是ハ何と申候御薬にて候ぞや、ありかたしとぞ/悦(よろこ)ひける。 00030370L13其時竹斎、左の/臂(ひぢ)をはり、/扇子(あふき)おつ取、ひらめかし、それ 00030380L14ハわれらが/先祖(せんそ)、まかた国に、その/名(な)を得し、/耆婆(ぎバ)大/臣(じん)よ 00030390L15り/相伝(さうでん)の妙薬/炭団散(たんどんさん)とそ/答(こたへ)に(十ウ)/に((衍))ける。さてもめいよ 00030400L16の御薬かな、是ハわれらが、ひざもとをはなさぬ、たはこ 00030410L17の火いけにいたしぬるものゝ名に/似(に)て候といへバ、/如何(いか)に 00030420L18も/能(よき)/御(ご)ふしん也、/大事(だいじ)の/秘方(ひハう)にハ候へども、とてもの事に 00030430L19/伝(つたへ)えておき申へし、是ハ/釣樟(くぬぎ)の/黒焼(くろやき)なりと/語(かた)る。/亭主(ていしゆ)聞て、 00030440M1さてこそそれハ其/侭(まゝ)なる火いけにて候といふ。竹斎いふ/様(やう)、 00030450M2されバこそ、そこが/医者(いしや)の/上手(じやうず)なり、/元来(くハんらい)此/病(ひやう)人ハ、下/焦(せう) 00030460M3の火/逆上(さかのほる)/虚熱(きよねつ)の/証(しやう)なれバ、此くぬ木の/炭(すミ)を/粉(こ)にしてあた 00030470M4へ、めしのとりゆをそゝげハ、/腹(ふく)中にてたんどんとなる 00030480M5(十一オ)/故(ゆへ)、/虚火(きよくハ)/是(これ)に/移(うつ)りて下/部(ぶ)に火を/埋(うつミ)おさむ、かくの 00030490M6ことくして、/実火(じつくハ)をいけおけバ/本復(ほんふく)なりとぞかたりにける。 00030500M7/人&(ひと+)/横手(よこで)を/打(うち)、/舌(した)を/巻(まい)てぞほめにける。さて竹斎立/帰(かへ)りし 00030510M8あとにて、そはにありしものゝ/云様(いふやう)、/慥(たし)か、ぬしが/羽織(ハおり)の 00030520M9/袖(そで)の/掛(かゝ)りたるを、其まゝ其/上(うへ)より/脉(ミやく)をとられながら、脉が 00030530M10あがりたるとて、/驚(おどろか)れしものと/覚(おほ)え/侍(はんべ)ると/云(いふ)にて、ミな 00030540M11+けうをさまし、大手をうつて、わらひにける。/亭主(ていしゆ)、 00030550M12△△はや/死(し)すと目にハさやかに見えねども(十一ウ) 00030560M13△△△/脉(ミやく)のちがひにおどろかれぬる 00030570¥N2¥J 00030580¥X/一休(いつきう)/竹斎(ちくさい)/初而(はじめて)/対面(たいめん) 00030590M16かくて竹斎、/目(め)ざましき/手柄(てがら)をして、うきたつ/心(こゝろ)をおとし 00030600M17つけ、おそらく日本に、われならではなど/自讃(じさん)し、あハれ 00030610M18ねがハくハ、/如何(いか)なるものしりにも/行(ゆき)あひ、/我医門(わがいもん)の、く 00030620M19わんぬきをはづし、三千世界を/一目(ひとめ)にしたる大の/眼(まなこ)ににら 00030630¥P97 00030640L1ミつけて、/舌(した)をふるハせんものをと、それより/紫野(むらさきの)におハ 00030650L2します一休の方へぞ/尋行(たつねゆく)。/先(まつ)大徳寺の/境内(けいたい)、/爰(こゝ)(十二オ)か 00030660L3しこと見めぐりし所に、わづかの/小堂(せうだう)あり。立/寄(より)のぞけハ 00030670L4/経蔵(きやうざう)なり。されバ、/親(おや)の/日(ひ)に/魚(うを)を/喰(くい)て、うそなまぐさき、 00030680L5くちのはたを、/鼠(ねずミ)のかぶりたる、おさなき人の/像(ざう)に、がん 00030690L6ぎしぼりのゆかたをきせ、いつも/煤(すゝ)はきのごとく、/頭巾(づきん)の 00030700L7うへもほこりたらけになりて、/鼻(はな)の下くろく、まへにハ/数(かず) 00030710L8の/大豆袋(まめぶくろ)をぶらさげ、うれしげに見えける。中にあひたて 00030720¥G 00030730M1なく、ひげはへたる/木像(もくざう)、つつくすんで見え給ふ。世人あ 00030740M2らぬ名を付て、/笑(わら)ひ仏などいひて、すぢなき事を語り/伝(つたふ)る。 00030750M3/愚(おろか)かなる事かなと/悔居(くやミい)(十二ウ)(十三オ挿画)/侍(ハべ)る/処(ところ)に、/河内= 00030760M4木綿(かわち=もめん)のよごれはてゝ、/鼠(ねすミ)ともしれず、すんほとも見えわか 00030770M5ぬものを、かたまへさがりに/着(き)なし、/麻衣(あさころも)の/袖(そで)ぶら+と 00030780M6して、/狩(かり)ぎぬのごとく、/肩先(かたさき)までほころびあがりたる/物(もの)を 00030790M7ちやくし、ほうき/木(き)の/杖(つえ)に/憂世(うきよ)のちりを/払(はら)ひのけ、/頭(かしら)の/雪(ゆき)、 00030800M8/眉(まゆ)の/霜(しも)、/行(おこな)ひすましたがほなる/法師(ほうし)見えけり。竹斎/心(こゝろ)にお 00030810M9もひしハ、一休/和尚(をしやう)ハともあれ、ひとまづ/此芋掘入道(このいもほりにうたう)にあ 00030820M10てゝ見バやとおもひ、/如何(いか)に/老僧(ろうそう)、/是(これ)なるハ/堂(たう)か/宮(ミや)か。/答(こたへ) 00030830M11て/曰(いはく)、/中(なか)にましますハ/仏(ほとけ)とおもへるや/神(かミ)と心得られたるや。 00030840M12竹斎/聞(きゝ)て(十三ウ)/肝(きも)をつぶし、南無三宝、神ぞといはゞ宮、 00030850M13仏と答バ堂なるへしといハんためにこそ、かくハいひたる 00030860M14なら/じ((ママ))と、とふわくして、/仏神(ぶつじん)の/両分明(りやうふんめう)ならねハといふ。 00030870M15僧の曰、/汝(なんぢ)/智(ち)あるや/愚(おろか)なるや、分明ならすといへり。竹斎 00030880M16聞て、智者に/逢(あふ)てハ智、/愚(ぐ)者にむかへば/愚(ぐ)なりといふ。老 00030890M17僧の曰、仏神ハもと一躰/分身(ふんじん)なり、仏神異なりと見るハ、 00030900M18汝がまよふ所なりと云り。竹斎/重(かさね)ていふ、そのまよひとは 00030910M19何ものそ。/眼前(かんせん)の/焼坊主(やけバうず)よとの給ふ。竹斎/腹(ハら)をすへ/兼(かね)て、 00030920¥P98 00030930L1かく、(十四オ) 00030940L2△△/煩悩(ぼんなふ)のあかつくころもきてたにも 00030950L3△△△人のまよひハいふ物そかし 00030960L4僧すこしも、せきたる/気色(けしき)なく、かくそ、あいしらハれぬ 00030970L5る、 00030980L6△△すハまよひそのいかるきをきりくべて 00030990L7△△△はいにせよかしそのやけぼうず 00031000L8此/一句(いつく)に竹斎も、つのを折て、ほく+とうなつき、/胸(むな)さ 00031010L9きをさすりおろして申様、さても有がたき御/示(しめ)しやな、是 00031020L10則、/教外別伝(けうげへつでん)なるへし、かゝる御方に/逢(あひ)て、/結縁(けちゑん)/利益(りやく)に/預(あづか) 00031030L11り申事、不(十四ウ)/思議(しぎ)の/御縁(こゑん)なり、/先程(さきほど)よりの/御頓作(ごとんさく)に 00031040L12て存寄て候、/卒爾(そつじ)ながら、もし一休/和尚(をしやう)様にてハ、おハ 00031050L13しまさずや、/某事(それがしこと)ハ/普(あまねく)く衆生の/病苦(びやうく)をば、/茶匙(さじ)の/先(さき)にか 00031060L14けてすくひ、/薬師(やくし)のまねをも仕り、/製薬(せいやく)袋の/角(かど)をたをさず 00031070L15して、/洛中(らくちう)にその名を得し竹斎とよバれ候ハ、/乏少(ぼくせう)にハ候 00031080L16へども、/拙(せつ)が事にてさふらふなり、あハれ/自今(じこん)/以後万端(いごばんたん)わ 00031090L17けて御/心易(こゝろやすく)/可奉得尊意(そんいゑたてまつるへし)とぞ、こバしにける。和尚もとよ 00031100L18り/異風(いふう)なる/御方(おんかた)なれバ、/誠(まこと)にめづらしき/御口上(ここうじやう)を/到来(たうらい)/欣悦(きんゑつ) 00031110L19+とて、(十五オ) 00031120M1△△/夢(ゆめ)の/世(よ)に/生死(しやうじ)のふたつになひいで 00031130M2△△△いき/杖(つえ)ついて/一休(ひとやすミ)する 00031140M3との給ひたりけれバ、さてこそ/一休和尚(いつきうをしやう)にてましますよな、 00031150M4いよ+/後世(ごせ)かけて頼たてまつるといひて、/竹斎(ちくさい)も返し、 00031160M5△△/後(のち)の/世(よ)ハへびかとかけか/蚊(か)にならん 00031170M6△△△やぶ/医(い)といひて/竹(たけ)に/斎(すむ)身は 00031180M7一休にこ+て/笑(わら)ひ/給(たま)ひて、/聞(きゝ)しより/究才(くわうざい)人なりとて、そ 00031190M8れより草庵へ友なひて、/師弟(してい)の/契約(けいやく)などむつび、/夕日(ゆうひ)/西(にし)に 00031200M9うつりしころ、かへる。(十五ウ) 00031210¥N3¥J 00031220¥X/源氏(けんじ)/白旗(しらハた) 00031230M12/駿河(するが)屋甚左衛門とて、りくつものゝ有けり。/和尚(をしやう)の/頓作(とんさく)/発= 00031240M13明(はつ=めい)なる事を/心地(こゝち)よくおもひて、今の世の/闊僧(くわつそう)なりとて、/深(ふか) 00031250M14く/貴(たつと)ミける。/或時(あるとき)心ざす日とて、/斎(とき)に申請たりしに、/漸(やゝ)/日= 00031260M15中(につ=ちう)に/及(をよ)べ/共(とも)、/来(きた)らせ給ハず。駿河や/立腹(りつふく)して、よのつねな 00031270M16らぬ/仏事(ふつじ)なるに、うち/忘(わす)れさせ給ふこそ、/例(れい)の/我任(わかまゝ)にて、 00031280M17かく、おそなハり給へる成へし、いかなるわざをかして、 00031290M18おもひ/知(しら)せ申さんと/巧居(たくミい)ける/処(ところ)へ、何心なく、にこ+と 00031300M19/咲(わら)ひ、いつよりもおとし付(十六オ)たるかほつきして、ま 00031310¥P99 00031320L1ちどをにおハすらんなど宣ひけれバ、甚左衛門、其時/髭口(ひげくち) 00031330L2をとがらせ、/鍋(なべ)づる程に重面/作(つく)り、/赤面(せきめん)に/成(なつ)ていふ様、い 00031340L3や/何(なに)事にかハまち申べき、むかしより、ときと申ハ/時刻(じこく)を 00031350L4/定(さだめ)ある事に/承(うけたまハ)り候、その/程(ほど)/過(すぎ)ぬれば、/家内(かない)ミな/仕廻(しまい)侍る 00031360L5とて、/更(さら)にとりあハざりける。和尚も是にハこまりたまひ、 00031370L6やゝ有て/仰(をほせ)らるゝハ、/昔(むかし)もさる事の有けるにや、/孔子(こうし)も/斎(とき) 00031380L7にあハず、/顔回(がんくわい)も/不巧(ぶこう)なりとて/悔(くやミ)たる事有、今おもひ合す 00031390L8れバ、是也、いきほひ(十六ウ)もふに、のゝしり/給(たも)ふにつ 00031400L9けて、いミじとハ見えず、/一向(ひたふる)の/腹(はら)ふくれ/坊主(ほうず)ハ、/中(なか)+ 00031410L10あらまほしき者もありなん、しなかたちこそ/生(むま)れつきなら 00031420L11め、/此(この)やせ/法師(ほうし)ハ、よほど、へそもと、うそさびしく、/空(くふ) 00031430L12&として/一物(いちもつ)もなし、/己身則仏(こしんそくぶつ)の/魂(たましゐ)を/入(いれ)て、たび給へ、か 00031440L13ほどまで心づよくおハするをこそ、かたいかな/甚(じん)左衛門と、 00031450L14/論語哉覧(ろんごやらん)にも見えたりと、/頓口(とんく)有けれバ、/駿河(するか)屋も、くす 00031460L15ミたるかほに、ゑくぼを入て、 00031470L16△△こぬ人を/待(まつ)とてさむる/朝(あさ)めしに 00031480L17△△△やくやたうふのミもこがれつゝ(十七オ)(十七ウ挿画) 00031490L18と、つかうまつりけれは、一休/則時(そくじ)に、かへし、 00031500L19△△/三穂(ミほ)が/崎(さき)まつにうらみる/駿河屋(するがや)ハ 00031510¥G 00031520M12△△△/長(なが)く/短(ミじか)くなりぬべきかな 00031530M13とかくして、/膳(ぜん)を出しけれハ、心のまゝ/聞(きこ)しめし、/四方山(よもやま) 00031540M14の/噺(はなし)も/時(とき)/移(うつ)りしに、/不斗(ふと)/思(おもひ)出、竹斎/宅(たく)此/辺(へん)と聞しとて、/問= 00031550M15寄(とい=より)給へハ、かゝる見ぐるしき所へ、/御尋(おんたづね)/有/難(がたし)とて、/竹(ちく)ほゝ 00031560M16ゑミ、何がな/御馳走(ごちさう)にとて、どしめくもおかし。/例(れい)の/睨(にらミ)の 00031570M17/助(すけ)よひ出し、/冷飯(れいはん)にても、/先(まづ)あげよなどいへハ、/和尚(をしやう)、い 00031580M18や/晴天(せいてん)(十八オ)に月ひとつと/答給(こたへたま)ふ。さしもの竹斎も、是 00031590M19に、はたとこまり入、/納戸(なんど)の/奥(おく)にかけ/込(こミ)、/睨(にらミ)の助を/近付(ちかづけ)、 00031600¥P100 00031610L1こハ/無念(むねん)の事かな、只今の/一言(いちごん)/覚(さと)られぬとぞ/云(いひ)ける。にら 00031620L2ミいふ/様(やう)、是こそ聞えたる/事(こと)にて候、/清天(せいてん)に月ひとつとハ、 00031630L3月ほどの/餅(もち)ならハ、/何(なに)の/苦(く)もなしといふ事なるべし。晴天 00031640L4にて候ハゝ、/雲(くも)あるまじきほどにとぞいひたりける。竹斎 00031650L5/大(をゝき)に/悦(よろこ)び、/左(さ)あらバ、それ+とて、/件(くだん)の/餅(もち)を出させけれ 00031660L6ハ、一休/重而(かさねて)、/武蔵野(むさしの)とぞの給ひける。/扨(さて)ハ、是にてハ 00031670L7なしとて、/一舛余(いつしやうよ)もいるべき、/大(をゝ)(十八ウ)/盃(さかづき)をかりもと 00031680L8めて、/又(また)一休の/前(まへ)におく。和尚にがわらひになりて/仰(おほせ)ける 00031690L9ハ、/大風(をゝかぜ)の/矢数(やかず)に/餓鬼(がき)のうでおしよと、いひ/捨(すて)て、/立帰(たちかへ)ら 00031700L10んとし給ふとき、竹斎いかなる事にかと、おほつかなく/思(おも) 00031710L11ひ侍れハ、/御衣(おんころも)のすそに/取(とり)つき、/今(いま)しバしととゝむ。/睨(にらミ)之 00031720L12/助(すけ)も、ともに/取付(とりつき)、とやかくとひしめく、/足(あし)もとのひゞき 00031730L13に/古家(ふるいへ)の/障子(しやうじ)、をのれとはづれ、/痛(いた)ハしや、一休の/皺首(しハかうべ)を、 00031740L14したゝかにぞうちめぎける。/老躰(らうたい)の/御事(おんこと)なれバ、/肉(にく)おち/骨(ほね) 00031750L15たかくて、/少(すこし)なる事にも、どよミつよく、しハしがほどハ、 00031760L16ものをも/宣(のたま)ハす(十九オ)/歯(は)をくいつめて、おハしましける 00031770L17が、や&有て、かくぞ、うめき/給(たま)へり、 00031780L18△△/障子木(しやうじき)のかうべにやどるうたてさよ 00031790L19△△△/仇(あた)なすかミのひきさかれめに 00031800M1とて、/先(まづ)はれあがりたる/所(ところ)を/水(ミづ)にてひやし、/骨(ほね)たがひのあ 00031810M2いすに、/瓢箪(ひやうたん)の/黒焼(くろやき)よとて、こハつけども、/呑汁(のミしる)の酒/一滴(いつてき) 00031820M3もありあハねハ、/才覚(さいかく)にとて、睨の助ハ、おもてへかけ/出(いで)、 00031830M4むかひ/殿(どの)、/隣(となり)などへ/無心(むしん)をいへども、/町内(てうない)へ/来(きた)り、/数年(すねん)/軒(のき) 00031840M5をならべながら、けふが/日(ひ)まで、しぶ/茶(ちや)の/一服(いつふく)も、ふるま 00031850M6ハぬ(十九ウ)竹斎なれバ、たまの/御用(こよう)にてハ候えども、/雫(しづく) 00031860M7もなしとて、あいしらひもせす。せんかたなさに、/重(ぢう)代の 00031870M8/葛篭(つゝら)に、たくハへおきし、いつせきの/木綿(もめん)/下帯(したおび)/一筋(ひとすぢ)、ごそ 00031880M9+と/取出(とりいだ)し、/質屋(しちや)へとてぞ/走(はし)り行。しちやにて/云様(いふやう)ハ、 00031890M10/抑(そも+)比一筋と申は、/清和天皇(せいわてんわう)の/後胤(かういん)たゞの/満仲公(まんぢうこう)、御身を 00031900M11はなされざりし/御旗(おんはた)なり、/旦那(だんな)が/家(いへ)に、さる/子細(しさい)有て、/数= 00031910M12代(す=だい)/続(つゝいて)てもてり、今/靜謐(せいひつ)の/御代(ミよ)なれバ、かゝる物も出し/用(もちゆ) 00031920M13る事なし、されバ、/虫(むし)ばミ、くちうせんををしますんハ、有 00031930M14べからずと、おり+風にあて、日に(二十オ)ほしたれバ、 00031940M15そんしさふらハずとて、/高山茶(たかやまちや)せんの/古家(ふるいへ)に/入(いれ)、/三重(ミゑ)四重 00031950M16に/包(つゝミ)たるを、/破(やぶり(ママ))れあふぎに、取すへて、出したりけるに、 00031960M17/質(しち)屋此よしを/聞(きゝ)、/珍敷(めづらしき)ものを、ふしぎの/縁(ゑん)にて、おがミ/奉(たてまつ) 00031970M18る事かなとて、つゝしんで/三度(さんど)いたゞき、/押(おし)ひらき見てあ 00031980M19れバ、/興(けう)さめたるものなり。/亭主(ていしゆ)/大(をゝ)きに/立腹(りつふく)し、/気色(きしよく)を/損(そん) 00031990¥P101 00032000L1じていふ/様(やう)、/何(なに)と/満仲(まんちう)の/御旗(おんはた)とや、/然(しか)らハ、いろも/白(しろ)かる 00032010L2べきに、/鼠色(ねずミいろ)に/染(そめ)たる事、/是(これ)/先(まづ)もつて心得がたし、/尤(もつとも)/年(とし) 00032020L3かさならハ、ふるびもせめ、是が御はたならバ、/旗棹(はたざほ)とや 00032030L4らんに/付(つけ)たりし(二十ウ)/乳(ち)なりとも、あるべきなるに、さ 00032040L5るものも見えず、まさしく/是(これ)ハ、/木綿(もめん)ふどしのふるびくさ 00032050L6りたるものと、おぼえたり、/目(め)をくらますこそ、きくわい 00032060L7なれ、うろたえて、/棒(ほう)くろふなとて、あいそふなくも、な 00032070L8げ/出(いだ)す。/睨(にらミ)の/助(すけ)、/赤面(せきめん)して、/弓矢八幡(ゆミやはちまん)、/重代(ぢうだい)の/御旗(おんはた)を、ふ 00032080L9どしにしたる、あきめくらに、事の/子細(しさい)をいふまでもなし、 00032090L10いやならハ、いやまてよ、/其難言(そのなんごん)ハ/何(なに)事ぞ、そこをひくな 00032100L11と、まなこをひからせ、/鍔(つバ)のぐハたつく/脇差(わきざし)をびくめかひ 00032110L12てぞ、おどしにける。此/気色(けしき)におどろき、/究竟(くつきやう)の/下男(しもおとこ)ども、 00032120L13二(二十一オ)三/人(にん)にじり/出(いで)、/何(なに)と/仰(をゝせ)らるゝぞや、いで/其白= 00032130L14旗(そのしら=はた)をおがまんとて、にらミの/介(すけ)が/膝本(ひざもと)へ、うでまくりして 00032140L15ぞ、おしなをる。/睨(にらミ)之/助(すけ)も、/是(これ)に/肝(きも)をとられ、わな+と 00032150L16ふるひて、ほそ/声(ごゑ)になり、いふやうハ、いや、かく申せバ 00032160L17とて、はらバしたゝせ給ふなよ、/誉(ほむ)るも/謗(そし)るも/常(つね)の/習(なら)ひ、 00032170L18/少(すこし)も/心(こゝろ)にかけ/侍(ハべ)らず、されども、あまりにあいそふなく見 00032180L19え給へハ、うらめしくぞんじてこそ、声があらくなつて候 00032190M1なり、とかく/其(その)まゝもと/引(びき)して、さたなしに/帰(かへ)らんといふ。 00032200M2/若(わか)きものども/腹(はら)をかゝへ、さて+めいよのこしぬけ/哉(かな)、 00032210M3きやつ(二十一ウ)めをなぶりてあそバんと、/中(なか)にも/年(とし)ごろ 00032220M4のはやりおのこ、すゝみ/出(いで)ていふ/様(やう)、/如何(いか)なれバ、/此白旗(このしらはた) 00032230M5にハ/乳(ち)を/付(つけ)ざるぞといふ。にらミの介/聞(きゝ)て、されバこそ、 00032240M6/此(この)はたに/乳(ち)のなきこそ、いわれあり、是に/乳(ち)が/侍(ハべ)れハ、 00032250M7おちの/人(ひと)のやうにて/不吉(ふきつ)なり、/落人(をちびと)と、ことばかよふ/故(ゆへ)な 00032260M8り、/然(しか)れハ、/出陣(しゆつぢん)に、いま+しさに、/乳(ち)のなきやうに/拵(こしらへ) 00032270M9たるなりと、かたる。なをもおかしく/思(おも)ひて、さもこそ、 00032280M10あるべけれど、/木綿(もめん)の/白旗(しらハた)といふ事ハ、/聞(きゝ)なれぬといふ。 00032290M11されバこそ/大事(だいじ)の/秘事(ひじ)有、/木綿(もめん)と/書(かき)てハ、きわたとよむ、 00032300M12木わたハ、さねを(二十二オ)(二十二ウ挿画)くり/出(いだ)して/後(のち)、 00032310M13うちとるもの也、/出陣(しゆつちん)の/時(とき)にも、/魚鱗(ぎよりん)/鶴翼(くハくよく)などゝて、さ 00032320M14ま※の/備(そなへ)をたて、/次第(しだい)にくり/出(いだ)し、うちとるを/目出度= 00032330M15例(めでたき=れい)とするなれバ、/其故(そのゆへ)に/木綿(もめん)を/賞翫(しやうくハん)のはたとす、さてこそ、 00032340M16/木(き)わたを/打(うつ)にも、/弓(ゆミ)をもつてうつなり、是ミな、/武儀(ぶぎ)をま 00032350M17ねびたるためしぞといふ。しからハ、わた/打弓(うちゆミ)にも、/矢(や)の 00032360M18あるべき事なるに、さなきハいかん。いやそれハなき/道理(だうり) 00032370M19なり、/矢(や)ハよせ/来(く)る/敵(てき)をいとめて、こなたにとまらぬを/吉= 00032380¥P102 00032390¥G 00032400L12事(きち=じ)とするよりこそ、/竹(たけ)のへらにて/打(うつ)といふ。/然(しか)らハ、/異(こと)な 00032410L13るものも(二十三オ)あるべき事なるに、/何(なに)とて/箆(へら)にハ、き 00032420L14ハめたるぞや。されバ/素性(そせい)の/哥(うた)に、 00032430L15△△いづくにか/来(き)わたうちけんこゝろこそ 00032440L16△△△/野(の)にも/山(やま)にもつかふ/箆(へら)なり 00032450L17/又(また)あるうたに、 00032460L18△△見てもまだ/又(また)もあらまくほしけれど 00032470L19△△△/竹(たけ)をバ/人(ひと)はつかふ/箆(へら)なり 00032480M1/是等(これら)の/哥(うた)にて、よくしろしめせと、いひたりけれバ、/一座(いちざ) 00032490M2にありしものども、/横手打(よこでうち)、おどりあがり、かけかねのは 00032500M3づるゝバかり/大笑(をゝわらひ)して、もはや(二十三ウ)/旗(はた)の/道理(だうり)ハしれ 00032510M4ぬ、いざ+/寄(より)て/拝(おかま)んと、あちらこちらへ/引(ひつ)はりあいて、 00032520M5よこざきに、ひきやぶり、づだ+にしてぞ、なげ/出(だ)しけ 00032530M6る。/睨(にらミ)の/介(すけ)、/気(き)を/失(うしな)ひ、/脣(くちびる)の/色(いろ)かハりて、ぎく+とむせ 00032540M7て、ものをもゑいハず、うろ+/涙(なミだ)を/頬先(ほうさき)まで/流(なが)し、/小首(こくび) 00032550M8をかたげ/帰(かへ)りけるが、/折節(おりふし)むかひの/方(かた)より、/古鉄買(ふるかねかい)なるも 00032560M9の見えけれバ、/四辻(よつつし)の/木戸(きど)のかたかげに/立忍(たちしの)びて、/僅(わづか)の/鳥= 00032570M10目(てう=もく)に、しろがへ、それよりして、/酒(さけ)やに/行(ゆき)、ねがひを/叶(かなへ)て 00032580M11/帰(かへ)りけるに、竹斎ハ、和尚をいだきすくめて/居(い)たりけるが、 00032590M12/仰天(げうてん)したるかほつきし、ため(二十四オ)いきついて、しか 00032600M13+の事どもをかたる。竹斎/聞(きゝ)て、いやそれハ、/追而(おつて)の/沙= 00032610M14汰(さ=た)なるべし、はや+あいすをまいらせよといふ。さらバ 00032620M15とて、一休の/口(くち)の/廻(まハ)り、/黒雫(くろしづく)をぞ/流(なが)しにける。とかくする 00032630M16/内(うち)に、/日(ひ)も/西山(にしやま)に/隠(かくれ)れ、/遠寺(ゑんじ)の/晩鐘(ばんしやう)、ものせハしくひゞき 00032640M17わたれバ、竹斎も心ならず、/此(この)まゝにてハ、うちおきがた 00032650M18し、/如何(いか)にもして、/御寺(おんてら)へ/返(かへ)し申さんといふ。せんぎまち 00032660M19+なりしに、/睨(にらミ)の/介(すけ)/云様(いふやう)、とかく/篭(かご)にて/送(おくり)申より/外(ほか)ハ、 00032670¥P103 00032680L1/別(べち)の/儀(ぎ)/侍(ハべ)るべからず、されども、おあしなけれバ、/心(こゝろ)のま 00032690L2ゝにもなりがたし、いざ/家主殿(いへぬしどの)(二十四ウ)の/庭(にハ)に、つられ 00032700L3たる/乗物(のりもの)をかりよせ、/主従(しう※)にて、かき申べしといへバ、竹 00032710L4斎げにもと思ひ、/何(なに)と/門(かど)ハくらくなりたるかととふ。さん 00032720L5候、/今宵(こよい)ハやミにて/侍(ハべ)るといへば、/さい((ママ))/究竟(くつきやう)の事/哉(かな)、/左(さ)/有(あら) 00032730L6ハ/汝(なんぢ)ハあとをかけとて、/件(くだん)の/篭(かご)をとりよせ、一休を/抱(いだき)のせ、 00032740L7いき/杖(づえ)/取(とつ)て、ぐわらめかし、/挑灯(ちやうちん)おそれの/頬(ハう)かぶり、ちよ 00032750L8つほ/つ((ママ))まげに/尻(しり)たれ/帯(おび)、かいしやうなくも、かきつゞけて、 00032760L9/大徳寺(だいとくじ)へぞ/送(をくり)りにける。竹斎、/其夜(そのよ)ハ/寺(てら)にとゞまり、/能(よく) 00032770L10+いたハり/奉(たてまつ)りしが、/翌日(よくじつ)、いよ+/正気(しやうき)ならせ給ひて、 00032780L11あのゝ(二十五オ)ものゝといふ/次而(ついで)に、/昨日(きのふ)/被仰(をほせられ)候/晴天(せいてん)に 00032790L12/月(つき)ひとつとハ、/如何成(いかなる)/御心(おんこゝろ)にて候ぞととふ。/一休(いつきうの)/曰(いわく)、され 00032800L13バその御事よ、はなし/聞(きく)だに、あたまにこたへ/侍(ハべ)る也、/何(なに) 00032810L14の/意趣(いしゆ)ありて/打擲(てうちやく)をし給ふぞと仰ありけれバ、竹斎/承(うけたまハ)り、 00032820L15そのひとつの月と/侍(ハべ)り候も、/出物(でもの)にて/御座(こざ)候へハ、/出(で)もの 00032830L16はれもの/所(ところ)きらハぬとかや申/習(ならハ)し候、/只今(たゝいま)/下拙(げせつ)が/身(ミ)の/上(うへ)に 00032840L17もしれ申さずなど、いひまぎらかしぬれバ、その/抜句(ぬけく)の 00032850L18/返答(へんとふ)に、/何(なに)かな、こまらせ申べし、/乍去(さりながら)あたハ/恩(おん)にて/報(ほう)ず 00032860L19るといへハ、/虫(むし)を/押(おさ)へて/語(かた)り申さん、/晴(せい)(二十五ウ)/天(てん)に/月(つき) 00032870M1ひとつとハ、/其方(そのはう)より/冷飯(れいハん)をたべずやと/問(とハ)れしほとに、/星= 00032880M2雲(ほし=くも)なしと申事をさハ/答(こたへ)し/也(なり)、/何(なに)と/聞違(きゝちがへ)給ふやらん、/大(をゝ)き 00032890M3なる/餅(もち)をいだされし/程(ほと)に、/武蔵野(むさしの)とて、はらが/大(をゝ)きなとこ 00032900M4たへたれバ、/又(また)あいたてなき/盃(さかづき)にて、見せつけんとの事、 00032910M5/猶(なを)すさまじく/思(おも)ひ、/始(はじめ)より申事ひとつも/通(とを)らざれバ、/力(ちから)に 00032920M6/不及(およバす)との申/分(ぶん)を、/大風(をゝかぜ)の/矢数(やかず)に/餓鬼(がき)のうで/押(おし)と、つまりた 00032930M7る、ぬけことして/帰(かへ)らんとせし/時(とき)、いか/計(ばかり)/腹(はら)のたちぬるに 00032940M8や、かくまで/辛目(からきめ)を見せ給ふ事、/恨(うらめ)しくハおもひ/侍(ハべ)れと、 00032950M9/此比(このころ)のなじミと(二十六オ)いひ、/旦(かつ)ハ/法師(ほうし)のうでだて、い 00032960M10らざる事よと、むしをおさへ申なりとて、かく、 00032970M11△△/障子(しやうじ)こけて/身(ミ)をうつなりのをのれのミ 00032980M12△△△いたみてものをおもふころかな 00032990¥N4¥J 00033000¥X/越中下帯(ゑつちうしたおび) 00033010M15/去程(さるほど)に、/嗜(たしなミ)の/下帯(したおび)もむなしくなり、かハりにすべき/布(ぬの)ぎれ 00033020M16ももたず、/買求(かいもとむ)べき/銭銀(ぜにかね)のいとまもなけれバ、くゑ+と 00033030M17/心(こゝろ)にかけ、/何(なに)とぞなして、/今(いま)/一筋(ひとすぢ)をたくハへんと、とやか 00033040M18く思ひめぐらす(二十六ウ)うちに、/月日(つきひ)/移(うつ)るに/随(したが)ひ、/今(いま)/肌= 00033050M19馴(ハた=なれ)しも、はや/真中(まんなか)よりきれて、よる/昼(ひる)となく、ぶらめかし、 00033060¥P104 00033070L1/海松喰(ミるくい)のごとく、はさミ/出(だ)したるさま、見るめもくるしけ 00033080L2れバ、おためしやの/睨(にらミ)之/介(すけ)、/彼(かの)ふたつにきれたりしを、/其(その) 00033090L3まゝふる/葛篭(つゞら)の/緒(を)に/結(むすび)つぎて、/越中(ゑつちう)といふものにしてぞ、 00033100L4かゝせてげる。/其時(そのとき)にらミの/介(すけ)、かく、 00033110L5△△きれはてゝおしからざりしふどしさへ 00033120L6△△△なかくもがなとおもひぬるかな 00033130L7されども、/下(さが)りミじかく、やゝともすれバ、/人前(にんぜん)(二十七オ) 00033140L8にても、はづれやすく、あふさきるさに/吹入(ふきいるゝ)/風(かぜ)、ふぐりを 00033150L9ちゞめ、/両(りやう)の/内股(うちもゝ)/鳥(とり)はだになりて、さむく/覚(おぼえ)えければ、竹斎、 00033160L10△△/越中(ゑつちう)ハ/雪国(ゆきぐに)なれハさりとては 00033170L11△△△ふどしにしてもひえわたるかな 00033180L12と、よまひ/言(ごと)せしも、あさましく/聞(きこ)えし。はや/此越中(このゑつちう)とて 00033190L13も、/盛(さかり)/間(ま)なく、/心(こゝろ)ほそけれバ、/睨之介(にらミのすけ)、/東河原(ひがしがハら)に/出(いで)て、/富= 00033200L14士垢離(ふ=じごり)とる/行者(ぎやうじや)の、かぶり/居(い)けるはち/巻(まき)を/目(め)がけ、たゝず 00033210L15ミたりしに、むかふの/川岸(かハぎし)に/友(とも)なるものゝ、/着(き)がへなどそ 00033220L16ばに(二十七ウ)/置(をき)、すや+/眼(ねむり)り/居(い)るあり。やかて、ちか 00033230L17く/寄(より)て、たばこたべなど、火もらいけるに、もてなし、/彼= 00033240L18寝(かの=ね)たるものをゆすりおこし見れども、/目(め)も/覚(さめ)ざりければ、 00033250L19しすましたりとて、/彼者(かのもの)の/鉢巻(はちまき)を、そと/盗取(ぬすミとり)て、/我懐中(わがくハいちう)せ 00033260¥G 00033270M12し竹斎が/古(ふる)ふどしにとりかへ、かうべにまとひ/付(つけ)てぞ/帰(かへ)り 00033280M13にける。/其後(そののち)/此者(このもの)/目覚(めさめ)て、/四方山(よもやま)を/詠侍(ながめハべ)りしに、/何(なに)とやら 00033290M14ん、わるくさき/匂(にほ)ひ/頻(しきり)なりけれハ、/中山(なかやま)の/人焼煙(ひとやくけふり)を、/比叡(ひゑ) 00033300M15の/山颪(やまおろし)のさそひくるよとおもひ、/暫(しバ)し/無常(むじやう)を/観(くハん)じ、/念仏(ねんぶつ)申 00033310M16て/居(い)たり(二十八オ)(二十八ウ挿画)けるに、/友(とも)の/行者(ぎやうじや)是を見 00033320M17て、其方のかぶれる物ハ何なるぞといふにて/驚(おどろ)き、よく 00033330M18+見れバ/古(ふる)下/帯(おび)也。/興(けう)さめて、かくぞよんだりける、 00033340M19△△はちまきのさまをかへたる/下帯(したおび)は 00033350¥P105 00033360L1△△△かくまでくさいものとかハしる 00033370L2といひて、あきれたりけるに、又/一人(ひとり)の/行者(ぎやうじや)、 00033380L3△△我見ても久しくなりし下/帯(おび)の 00033390L4△△△たがまたぐらに/幾(いく)世へぬらん 00033400L5と/共(とも)に口/号(ずさミ)て、/彼(かの)ふどし、/水底(ミなそこ)へ、しづめにかけて、立さ 00033410L6りける。(二十九終オ) 00033420¥Y1/杉楊枝(すきやうじ)第二 00033430M3△△/不動(ふどう)のからしばり 00033440M4△△/悪女(あくじよ)の/願立(ぐハんだて) 00033450M5△△/不老不死(ふらうふし)の/妙薬(ミやうやく) 00033460M6△△/情強(じやうごハ)/法花(ぼつけ)(一ウ) 00033470¥P106 00033480¥T1/杉楊枝(すきやうじ)第二 00033490¥N1¥J 00033500¥X/不動(ふどう)のからしばり 00033510L5一/休和尚(きうおしやう)と竹斎、/弥生(やよひ)/中比(なかころ)、花も/盛(さかり)に/門前(もんせん)もさハざはとし 00033520L6て、心も/空(そら)になるばかりなれば、いさやとて、うちつれう 00033530L7かれ/出(いて)給ひ、東山にて/幕(まく)/打廻(うちまハ)し、まどろミ/居(ゐ)給ふ処に、/頬= 00033540L8先(はう=さき)/熊(くま)よりもくろく、/眼(まなこ)三/角(かく)にして、口/鍋弦(なへつる)のことくにひそ 00033550L9り、其/長(たけ)七尺あまりなる大/山臥(やまぶし)来りて、/斎料(ときれう)といひて、/貝(かい) 00033560L10こと+しく/吹(ふき)たてたりける。一休も竹斎も、一/睡(すい)の/枕(まくら)を 00033570L11おとろかされて、二三/尺(しやく)ばかりとびかへり、/忙然(はうぜん)として、 00033580L12あきれ、(二オ)/良(やゝ)ありて、和尚/立腹(りつふく)のあまりに、/斎料(ときれう)ハな 00033590L13しと/仰(おほせ)けれハ、山伏/聞(きゝ)もいれず、/夫(それ)大/峯山(ミねさん)と申ハ、忝も天 00033600L14下/泰平(たいへい)/国家(こくか)/安全(あんせん)の/守護(しゆご)とし、/殊(こと)にハ女人成仏の/御(ミ)山、とき 00033610L15/料(れう)ぶうとぞ/吹(ふき)たてける。あまりかしましくおほし召けれハ、 00033620L16/前巾着(まへぎんちやく)の口を、/朝(てう)三/暮(ぼ)四の/菓(このミ)の/皮(かは)をむくごとく成手付をし 00033630L17て、/青銅(せいどう)一銭なげ出し給ふに、山伏是を目にもかけず、/幕= 00033640L18内(まく=ない)見かけ参りたるに、今一銭と/乞(こひ)て、又/貝(かい)をそ/吹(ふき)たりける。 00033650L19一休あまりに物せハしくおほしめして、いやならば、をき 00033660M1候へとて、又巾着へ入られける。山/臥(ふし)はらをたて、/人躰(じんたい)と 00033670M2いひ、年比(二ウ)といひ、/旁以(かた+もつて)/似合(にあハ)ざる/振舞(ふるまひ)かな、いで 00033680M3物ミせんといひて、あらけなく/目王(めたま)を/睨(にらミ)出し、/青筋(あをすぢ)はつて 00033690M4/貝(かい)を/吹(ふき)、じだんだふんでそ、いかりにける。和尚の給ひし 00033700M5ハ、いや其方が物をミせねバとて、見かぬるにあらず、野 00033710M6山たゝ一目に/眼前(かんせん)の春なり、/隔(へた)てぬ四/方(も)の山はれて、心に 00033720M7かゝる/雲(くも)もなけれバとて、和尚、 00033730M8△△はるの日のゆめばかりなるたまくらに 00033740M9△△△/貝(かい)ふきおこすまこそおしけれ 00033750M10竹斎も同しく、 00033760M11△△世中にたえて山ぶしなかりせば(三オ) 00033770M12△△△春のこゝろはのとけからまし 00033780M13山/伏(ぶし)いよ+/立腹(りつふく)していふやう、その/哥(うた)とやらむは、いさ 00033790M14しらず、/我家(わかいゑ)に/伝(つたハ)りし明王の、からしばりにてくゝりあげ 00033800M15て、/返哥(へんか)をせんとぞわめきたてける。一休/聞召(きこしめさ)れ、いて 00033810M16+しばりて見せ候へ、/恐(おそ)らくハ、しばりかへしてまいら 00033820M17せん、/先(まつ)/試(こゝろミ)の為に、/空(そら)を/飛行(とひゆく)/鴈(かり)をしバりて/験(しるし)を見せよ、 00033830M18もし/首尾(しゆび)よくくゝり/落(おと)したらバ、/煮(に)てくはせんとぞ仰ける。 00033840M19山臥/聞(き)ひて、/鴈(かり)をくゝれとの/教(をしへ)ハうけず、たゞ仏法を/妨(さまたく) 00033850¥P107 00033860L1るものをこそ、くゝるなるぞ、くらひたく(三ウ)は/汝(なんぢ)くら 00033870L2へ、口を/過(すご)して/後悔(こうくわい)すな、/皺入道(しハにうどう)とて/睨(にらミ)にける。一休から 00033880L3+と/打咲(うちわら)ひ、いふまでもなし、よのつねの事なり、其方 00033890L4がからしバりハ、/別(へち)のものハえしバらずや、/不自由(ふしゆ)なる/験= 00033900L5術(けん=じゆつ)かなとて、口をゆかめて/笑(わら)ひ給ふ。山/臥(ぶし)/是(これ)に/我慢(がまん)を/起(おこ)し、 00033910L6いや/出家(しゆつけ)の身なれハこそ、さハいひたるなり、その/嘲(あさけり)を/聞= 00033920L7上(きく=うへ)ハ、いで+しバりて見すへき也、もしくゝりえたらハ、 00033930L8/汝(なんぢ)/我弟子(わがでし)に成かとぞいひたりける。一休聞召、/其断(そのことハり)ま 00033940L9でもなし、弟子にならん、まづ+くゝり見せよとあれバ、 00033950L10山/伏(ぶし)、此/僧(そう)に/持(もち)あまし(四オ)て、/空(そら)をながめて/居(ゐ)たるおり 00033960L11ふし、/帰鴈(きかん)一むれ見えけれバ、さああれはやくしバり候へ、 00033970L12弟子にならんと/宣(のたま)ひける。山/伏(ぶし)せんかたなさに両手をいか 00033980L13らせ、印事&敷むすび、/光明真言陀羅尼(くハうミやうしんごんたらに)なと、くり返し 00033990L14+大こゑあけて、となへぬれども、/更(さら)+しるしハなか 00034000L15りけり。一休仰けるハ、日本の/鴈(かり)ハ/足(あし)がはやくて、くゝる 00034010L16間もなし、あれほとの/足骨(あしほね)ならずハ、/越路(こしぢ)へハ/帰(かへ)られまじ 00034020L17とて、手を/扣(うつ)て/笑(わら)ひ給ふ。山伏/面目(めんぼく)を/失(うしな)ひ、さらバ其方く 00034030L18ゝりて見よといへバ、一休のいはく、とくにも申されたら 00034040L19バ、ならぬまてもくゝるべ(四ウ)きものを、もハや一/疋(ひき)も 00034050M1見え侍らず、さりとて/我行力(わかきやうりき)を見せざるもほいなし、い 00034060M2て、あの/犬(いぬ)をくゝりて見すべしとて、大きなる/赤(あか)犬に/食(めし)を 00034070M3見せ給へバ、人なれたる犬にや、/尾(お)を/振(ふり)て/来(きた)り、一休の御 00034080M4ひざ/本(もと)に、ころびをうつてぞじやれたりける。/其時(そのとき)和尚は 00034090M5二三/尺(しやく)ハかりの/縄(なハ)ぎれを/取出(とりいだ)して、此犬の/四足(よつあし)を、ひた/巻(まき) 00034100M6にまとひ、/是(これ)見よと/仰(おほせ)けれバ、山ぶしいかつていふやう、 00034110M7それがからしばりなるにや、つたなき/口(くち)に/広言(くわうげん)をはなし、 00034120M8/縄(なハ)しバりをしなからも、/是(これ)見よとハ/推参(すいさん)なりとて、/目口(めくち)を 00034130M9しかめ、/咲(わら)ひにける。一休(五オ)きこしめし、いやとよ、 00034140M10/笑(わら)ひ/匐(のゝし)れる山/伏殿(ぶしとの)のからしハりハ、/名(な)はかり、からしバり 00034150M11にて、/日本流(につほんりう)さう也、手くち/動(うこき)て、むつかし、/此方(このはう)がせし 00034160M12からしばりハ、/弘法(こうほう)/入唐(につたう)の/後(のち)、/吾朝(わかてう)に/伝(つた)へをかれし/根本(こんほん)の 00034170M13/唐(から)しばリ也、此/国(くに)の/木(この)葉山ぶしハ、いまたしらぬと見えた 00034180M14り、もし/無念(むねん)に/思(おも)ハゝ、其/方(はう)も/是(これ)をしバりてみよとて、/縄(なは) 00034190M15をとき、あれかめと、けしかけ給へバ、まくろになりて/飛= 00034200M16掛(とひ=かゝ)り、山/伏(ふし)がむかふずねをしたゝか/噛(かミ)けるほとに、八/角(かく)の 00034210M17ひの/木棒(きほう)にて、/払(はら)ひのくれとも、/猶(なを)、/足(あし)くびにくらいつき、 00034220M18/吠(ほえ)かゝるも、たへかたく(五ウ)て、あともミす、/西(にし)をさし 00034230M19て、にけゝるが、犬いくつともなく/吠(ほえ)出て、いよ+はる 00034240¥P108 00034250L1かに、おひやりける。一休そのとき、 00034260L2△△あかはぢをかくまてつのるからしはり 00034270L3△△△しまらぬ/僧(そう)が/行力(きやうりき)のほど 00034280L4と/興(けう)じ給へば、竹斎も又、 00034290L5△△犬にをはれあしをそらなるにげぶりハ 00034300L6△△△けにかけいてのお山ぶしなり 00034310L7かく、ともに/口(くち)ずさみ、/日暮(ひくれ)て/家路(いゑぢ)にかへられける。(六 00034320L8オ)(六ウ挿画) 00034330¥G 00034340¥N2¥J 00034350¥X/悪女(あくしよ)の/願立(くハんたて) 00034360M3/春雨(はるさめ)しきりに/降(ふり)つゞき、つれ+なりしまゝに、一休を竹 00034370M4斎が/宅(たく)に申入て、/常(つね)なる、くろいひをもてなし、/来(こ)しかた 00034380M5/行末(ゆくすゑ)の/物語(ものかたり)、やゝ/程(ほと)/過(すき)て、/勝手(かつて)の/方(かた)より、/女(をんな)の/声(こゑ)/聞(きこ)えけれ 00034390M6バ、いか/成(なる)/御内客(こないきやく)か候と/仰(おほせ)られしに、竹斎申やう、かねて 00034400M7御めかけられ候和尚さまの御事に/御座(こさ)候へハ、いつぞハ申 00034410M8あけて、御/目(め)見へいたさせ候ハんと/存(ぞんし)なから、女のことゆ 00034420M9へに、けふあすと/延引(ゑんにん)/仕(つかまつり)て候、あれハ/若年(しやくねん)より、さる御 00034430M10/奥方(おくかた)に/預置(あつけをき)候/妹(いもと)にて御/座(さ)候が、もはや/年(とし)もたけ、/縁(えん)にもつ 00034440M11き申(七オ)/時分(じふん)なれバとて、/主人(しゆじん)より御/暇(いとま)を被下(くたされ)、/我(わか)なら 00034450M12ぬうちのやつかいとなり候とそ申ける。一休/聞召(きこしめし)、/左(さ)に 00034460M13候や、くるしからぬ事、いさ/是(これ)へとぞ/仰(おほせ)ける。/其時(そのとき)/女(をんな)、/座= 00034470M14敷(さ=しき)へつか+と/罷出(まかりいて)、和尚へ/対面(たいめん)申て、/跡(あと)やさきなること 00034480M15ゝもを、いひちらし、はがミける。その/顔(かほ)ばせ、/芙蓉(ふよう)の/瞬(まなじり)、 00034490M16たんくわの/脣(くちひる)あざやかに、/白粉(はくふん)をたえさず、/羅綾(られう)の/衣(ころも)あを 00034500M17ふして、けいでんの/中(うち)にあまりし/小野(をの)の/小町(こまち)がなりハてゝ、 00034510M18関/寺辺(てらへん)にほろをミたせし/有(あり)さまとても、かほとまでにハ、 00034520M19つかミさがしは、せましとこそ、おもひやらるゝ。されど 00034530¥P109 00034540L1はかなきこゝろにハ(七ウ)/氏(うぢ)なくても/玉(たま)のこしにのる/習(なら)ひ 00034550L2ありと/頼(たのミ)をなし、/馴染(なじ)ミたる/主君(しゆくん)に/暇(いとま)とりたるならし、よ 00034560L3し、/玉(たま)の/輿(こし)ハ不叶とても、せめて/紙(かミ)はりのこしにのりて、 00034570L4/鳥部野(とりべの)の/焼場(やきは)へよめ入すべき/折(おり)もやあらん、ゑぞが/嶋(しま)ハ、 00034580L5いさしらず、/日本(につほん)六十/余州(よしう)の/中(うち)に、/女(をんな)のひでりうちつゝき 00034590L6たらハ、/其時(そのとき)/龍神(りうしん)の/人御供(ひとこくう)にそなへて、/祈(いのり)をなさば、/天龍= 00034600L7地神(てんりう=ちしん)も/不便(ふびん)とおもひ、/涙(なミた)の/雨(あめ)を/降(ふら)さるべし、見くるしのか 00034610L8ほざしかなと、ひとり/笑(わら)ひし給ひける、御/心(こゝろ)の/内(うち)、たとふ 00034620L9るに物なし。/只(たゝ)/胸先(むなさき)へせめあぐる/笑(わら)ひをおさへて/宣(のたま)ひけ 00034630L10るハ、/竹殿(ちくとの)の(八オ)/妹御(いもうとご)にハ/渦(すき)申たり、/随分(すいふん)/生付(むまれつき)/残(のこ)る/所(ところ) 00034640L11なく、/双眼(さうかん)といひ、/鼻筋(はなすぢ)といひ、/耳(ミゝ)せゝ、/頬先(ほうさき)、/口(くち)の/廻(まハ)り 00034650L12まても、/天下(てんか)に/又(また)とある/景(けい)ならず、/松嶋(まつしま)、/切門(きれと)、/厳嶋(いつくしま)なり 00034660L13とも、此よそほひにハ、よもやまさらん、/是只(これたゝ)/竹殿(ちくとの)の/福神(ふくのかミ) 00034670L14そやと、おとけ給へハ、/女心(をんなこゝろ)に/誠(まこと)のほめ/詞(ことバ)そと/思(おも)ひて、/鰐(わに) 00034680L15の/様(やう)なる口に、くゝり/巾着(ぎんちやく)ほどのひだをよせ、/摺鉢(すりバち)のこと 00034690L16くなる/目(め)うはちをしかめ、からすきもどく大/手(て)をまつかい 00034700L17/成(なる)ほう/先(さき)に/押(をし)あて、/雲(く)をつきぬく大/声(こゑ)して、/呼嗚(あゝ)/軽忽(きやうこつ)や、 00034710L18おはもしや、和尚/様(さま)にハ、/何(なん)そついたか、おそろしや、あ 00034720L19れがいなる、お人さまてハないと、おもへバとて、うれ 00034730M1し(八ウ)さうなる/尻目(しりめ)つかひに、しほから/声(こゑ)なる/笑(わらひ)をませ 00034740M2て、一休をミやりぬる。そのかほつきハ、あたか/干蕪(ほしかふら)の、 00034750M3すミぬりに、おたがしやくしを、そへたるをも、たとふる 00034760M4にたらず。一休/興(けう)をさまして、あきれはておハしましける 00034770M5が、/名(な)ハ何と申ぞとありけれバ、竹斎うけ給り、されハ、 00034780M6やしき/方(かた)に/居(ゐ)申候時ハ、かると申て候へとも、/少(すこし)/存寄(そんしより)の御 00034790M7さ候へハ、此ほどハ、いしとつけ申といへハ、和尚聞召、 00034800M8/是(これ)ハ/面躰(めんてい)見くるしきゆへに、/竹(ちく)がかるくちにて、かる/石(いし)と 00034810M9つゞけたる心なるべしとて、くつ+と/咲(わら)ひ給ひて、/仰(おほせ)け 00034820M10るハ、さそや、/兄弟(きやうだい)/一/所(しよ)に/居(ゐ)給ひ、何かに(九オ)/付(つけ)て、心 00034830M11/苦労(くらう)に/侍(はんへる)べし、/折節(おりふし)ハ、/愚僧(ぐそう)が/寺(てら)へも/来(きた)り給ひて、/気(き)をは 00034840M12らされよと、の給ひけれバ、さてハ、/我(われ)に心ありてこそ、 00034850M13かくハ仰られたるものと思ひ、よろこひたる/躰(てい)にて、ひと 00034860M14り身の事に御座候へハ、おはつかしなから、けふが日まて、 00034870M15/肌(はだ)なれし/夫(おつと)もなく、たれと/枕(まくら)をかハしまや、/三十余(ミそぢあま)りの/瀬(せ) 00034880M16を/越(こえ)て、/岩(いは)うつ/波(なミ)のをのれのミ、つれなく/年(とし)の/積(つも)り/来(き)て、 00034890M17けふの/今(いま)こそ/縁(えん)ならめ、いよ+見すて給ふなと、そはな 00034900M18るてうしをひつかたむけ、六七/盃(はい)ほどかいほして、つけさ 00034910M19しにしてぞまいらせける。竹斎/是(これ)をミて、大/汗(あせ)かき、(九ウ) 00034920¥P110 00034930L1/牙(きバ)をかミ、大の/眼(まなこ)をにらミ/出(いた)し、たゝミをうつていふやう 00034940L2ハ、それ女ハ五/障(しやう)三/従(じう)に/撰(えら)まれ、とんよく、しんい、ぐち 00034950L3をはなれず、ましてや/諸仏(しよぶつ)のたねをたつ、それのみならず、 00034960L4/尊(たつと)き/御寺(ミてら)といへバ、/女人(によにん)をきらひ、女の/手(て)より物をとれバ、 00034970L5五百/生(しやう)の/間(あひだ)、手なき/虫(むし)に/生(むま)るゝとかや、かく/汚(けが)れたる身を 00034980L6しらて、/兄弟(きやうだい)の/前(まへ)とも/憚(はゞか)りなく、/言語道断(こんごたうだん)のふるまひ、/曲= 00034990L7事(くせ=こと)なりとぞいかりにける。女いふ/様(やう)、その/兄(あに)かほこそ、 00035000L8かせたけれ、/我(われ)/牢人(らうにん)となりし事ハ、/誰故(たれゆへ)ぞや、/大事(たいじ)の/主人(しゆじん) 00035010L9の/妹御(いもとご)を、只一/服(ふく)にて、もりころし、はう+/京(きやう)へ/逃上(にげのほ)り、 00035020L10/年(とし)/久(ひさ)(十オ)しき、わらハが身なれバ、/似合敷(にあハしき)、/縁(えん)の/道(ミち)にも、 00035030L11つけ給ハるへき物なるを、それ/故(ゆへ)にこそ、/追出(をいいた)され、日/比(ころ) 00035040L12ためたる/小袖(こそて)をだに、/睨之助(にらミのすけ)にはぎとられ、日に日に/質(しち)や 00035050L13の手にわたす、其数つきて今はゝや、/皮足袋(かはたび)/帽子(ぼうし)のやぶれ 00035060L14まて、ひとりのいもうとをせぶりとる、目の/前(まへ)の/三途(さうづ)川の 00035070L15/姥(ばゝ)とおもふ、にらミのすけ、見るも中+うらめしや、 00035080L16まるはだかの身なれは、又奉公に/出(いづ)べき事もなりがたし、 00035090L17はぎとる事のうれしさに、はう※よりいひ/来(きた)る、/縁(えん)の/道(ミち) 00035100L18をもとりくまず、ひとり身となしをきながら、(十ウ)わか 00035110L19まゝいふこそ心得ねと、むさぶりつひて、わめきけれバ、 00035120¥G 00035130M12/興(けう)さめたるばかりなり。其時和尚/仰(おほせ)られしハ、此/女男(めを)のか 00035140M13たらひといつは、/伊弉諾(いさなミ)、伊弉/冉(なき)の/尊(ミこと)より/始(はしま)り、/今(いま)/人倫(しんりん)の 00035150M14/大極(たいきよく)なれバ、/世(よ)になきわざにハあらず、/兄弟(きやうだい)の/前(まへ)とても、 00035160M15はぢて/恥(ハち)ならぬみちなるべし、(十一オ)(十一ウ挿画) 00035170M16/兄(あに)よ/妹(いもうと)よと/分(わか)ちて、面をふり座を/立去(たちさる)事、/今日(こんにち)の/上(うへ)を/定(さたむ)る 00035180M17/人間(にんけん)の/式法(しきはう)、/是(これ)/礼義(れいき)の二つなれは也、/立去(たちさつ)てミれバ、/無捨= 00035190M18平等(むしや=びやうとう)にして、一/物(もつ)もなく、/親(した)しきもあらず/疎(うとき)もなし、/無(む)二 00035200M19/亦(やく)無三/本来(ほんらい)/空(くう)、くふ+/寂(しやく)&のむかしに/帰(かへ)れバ、/猶(なを)残るへ 00035210¥P111 00035220L1き/肉身(にくしん)たになし、/是非(ぜひ)のあらそひ、/更(さら)に/益(ゑき)なし、人のいか 00035230L2りハ/木魅(こたま)のごとく、/此方(こなた)にいへバあなたにもいふ、/有(う)無の 00035240L3/全躰(せんたい)/目前(もくせん)の酒うけてなかせば、さとりの/道(ミち)さあつがせたま 00035250L4へ、いたゞかんと一くちにいひやふり給へバ、竹斎も女も 00035260L5有かたのしめしやな、/余所(よそ)のみるめもあらされバ、いざや 00035270L6(十二オ)うちより/慰(なくさま)んと、座/興(けう)に/成(なつ)てぞ/笑(わら)ひにける。/漸(やう) 00035280L7+其日も西山に/隠(かく)れ、一休も/千鳥足(ちとりあし)にて/紫野(むらさきの)へ/帰(かへ)り給ふ。 00035290L8おりふし、ミちにてかくぞあそはしける、 00035300L9△△大さけのあげくはしどろもどりミち 00035310L10△△△あしよはぐるまころひてそ/行(ゆく) 00035320L11かくて、竹斎か/妹(いもうと)、夜すがら/憂世(うきよ)のはかなき事を、ねられ 00035330L12ぬまゝにおもひやれハ、/我(わか)身のうへにせまり、/余所(よそ)の心ハ 00035340L13しらま/弓(ゆミ)、やたけにおもふえん付は、さても/長柄(なから)の/橋(はし)なれ 00035350L14や、/渡(わた)りくらべて今ぞ(十二ウ)しる、身のうき/年(とし)をつもり 00035360L15きて、いつをいつともおもはねば、けふをけふともわきま 00035370L16へぬ、身の/行末(ゆくすゑ)のあぢきなく、/袖(そで)に/涙(なミた)や/沖(おき)の/石(いし)、人こそし 00035380L17らね/只独(たゝひと)り、/夜床(よとこ)の/内(うち)に/古(いにしへ)の、/班女(はんしよ)が/閨(ねや)の/徒然(とせん)さを、おも 00035390L18ひくらべてみをがさき、/枝(えた)に/声(こゑ)そふ/塩風(しほかせ)も、/男松(おとこまつ)にやな 00035400L19れぬらん、やもめ/烏(からす)の/啼(なく)たにも、ひとつおもひに/嵐(あらし)/吹(ふく)、ミ 00035410M1むろの山の/紅葉(もミぢ)ばも、いろにハそむときく物を、/情(なさけ)をしら 00035420M2ぬ/竹斎(ちくさい)の、/竹(たけ)の一/字(じ)や/杖(つえ)はしら、たのミにしたる/兄弟(きやうたい)ハ、 00035430M3あるにかひなき/捨小舟(すてをふね)、いつちよるべの/波(なミ)にさへ、/女(め)なみ 00035440M4/男(お)(十三オ)/波(なミ)のえんふかく、うちよる/磯(いそ)のもくずとも、/共(とも) 00035450M5にくちなんものをやと、おもふに/付(つけ)てあぢきなく、一/首(しゆ)ハ 00035460M6かふそ/述懐(しゆつくハい)す、 00035470M7△△なさけなきものやぢごくでせめぬらん 00035480M8△△△/青鬼(あをおに)/黒鬼(くろおに)いろにそまれば 00035490M9なといひ/出(いた)して、すゝりなきする/声(こゑ)しけれバ、/睨之助(にらミのすけ)がい 00035500M10ふ/様(やう)、こハ/何(なに)事にか、なき給へる、あしき/夢(ゆめ)ハし、見給ふ 00035510M11かと、おこしたてけれバ、いやさる事ハなし、たゝ/三途川(さうづかは) 00035520M12より/生(むま)れがはりの、にらミの/介(すけ)か、日にいくつともなき/小= 00035530M13袖(こ=そで)をはぎとり、/小札(こふだ)にかゆるとミて(十三ウ)/夢(ゆめ)さめたると 00035540M14いへバ、にらミの介/腹(はら)をたてゝ、あを/鬼(おに)くろおにとありけ 00035550M15るほどに、をそハれ給とおもひて、おこし侍れバ、さにハ 00035560M16あらず、/一重(ひとへ)のものに/執着(しうぢやく)し、つミつくり給ふか/浅(あさ)ましき 00035570M17御/心(こゝろ)ねやといふ。/女(をんな)/聞(きゝ)て、 00035580M18△△小袖にハおもひそめこむよくぞなき 00035590M19△△△むまれしときのはだかとおもへば 00035600¥P112 00035610L1にらミの介、なをもはらをたてゝ、 00035620L2△△さればその/裸(はだか)になれる/鮫肌(さめはた)で 00035630L3△△△おろすばかりにものがいるかな 00035640L4女、/是(これ)に/赤面(せきめん)して、又、(十四オ) 00035650L5△△/実(げ)にさめの/皮(かは)とおもひてはぐ/小袖(こそて) 00035660L6△△△/三途川(さうづかは)にぞ/流(なが)すしちもつ 00035670L7といひすてゝ、/夜着(よき)/引(ひき)かぶり、いらへもせず。とかくして、 00035680L8/横雲(よこくも)のそらはれわたれハ、/手水(てうす)つかひ、/目(め)のやにをこそけ 00035690L9おとし、かゝみ/出(いた)して/我顔(わかかほ)を見るに、/額(ひたい)/頬先(ほうさき)ふくれあかり 00035700L10て、/中(なか)くほなる事、/今更(いまさら)のやうに/覚(おほ)え、いとかなしくて、 00035710L11△△/縁付(えんつき)をいかにまちミんとしふとも 00035720L12△△△たづぬる人もあらしとおもへば 00035730L13とうちなげき、/我(わか)身ながら/興(けう)をさまし、此まゝな(十四ウ) 00035740L14らば、中+に、たれかむかへん、あぢきなや、いさ清水 00035750L15寺の観世音を頼奉りて、/衆人(しゆにん)/愛敬(あいきやう)の御/利益(りやく)にあつかりなん 00035760L16ものをと、やがてかミゆひ、べにかねをつけ、おしろい所 00035770L17まだらににしりひろげ、つきうすのごとくなるこしを、百 00035780L18偏はかりもなてつけ、はゞひろ帯、紫手ぼそ、きどく頭巾 00035790L19につゝらがさ、もミのふと緒にかさねゑり、白むく/黄(き)むく 00035800M1あさきむく、ひとつまへにとおもへとも、わづかにのこる 00035810M2/紺(こう)屋染、しはだらけにきなし、清水さしてそ、まうてにけ 00035820M3る。仏前になりぬれば、/若有(にやくう)/女人(によにん)/設欲(せつよく)/求男(ぐなん)の御ちかひ、此 00035830M4身に/納受(なふしゆ)をた(十五オ)れ給へと、ふかく/祈誓(きせい)をかけ帯の、 00035840M5むすぶゑんだに候ハゞ、只今の/御鬮(ミくじ)にいちをおろしあたへ 00035850M6給へ、又ふえんにも候ハゞ、二を給り候へ、なむ大慈観世 00035860M7音菩薩、又ハ/弘誓深如海(ぐせいしんによかい)、/歴刧不思議(りやくこうふしぎ)、/侍多千億仏(じたせんおくぶつ)、/発(ほつ)大 00035870M8/清浄願(しやう+くハん)とあれば、たとひ/不縁(ふえん)に候共、/福徳智恵(ふくとくちゑ)の/男(おとこ)をは、 00035880M9むすひあはせてたび給へと、つゝしんて祈念をなし、ぐわ 00035890M10ら+さつとふりいだせバ、うたてや二こそ、とひて出け 00035900M11る。是にこゝろをうしなひて、かれたる木にものうそつき 00035910M12よと、/鬮筒(くじつゝ)とつて、なけ込、かく、 00035920M13△△たのミてもなにゝせんじゆのものしらず(十五ウ) 00035930M14△△△大/慈(し)大/悲(ひ)がおごりなるべし 00035940M15と/雑言(さうごん)し、なんぞ、いやなら/頼(たの)むましと、/祇園(ぎをん)をさしてお 00035950M16もむきけり。折節道のかたハらに、安/倍(へ)の清明が/流(なかれ)とて、 00035960M17/占(うらない)するものあり。立寄て、身の/吉凶(きつきやう)を尋たりしに、/大極= 00035970M18両儀(たいきよく=|りやうぎ)四/象(しやう)八/卦(くわ)六十四/卦(け)、わつつくたいつ占ひ、しばしし 00035980M19て、いふやう、是ハ/縁(えん)ぐミの事に候なむ、御/望(のそミ)の通、大吉 00035990¥P113 00036000L1なり、年三十一ハ/壬(ミつのへ)申金性なり、このかねハつるぎの金、 00036010L2/魂(たましひ)七つ心清くして、たけし、されども、あいきやう有て、 00036020L3人にほしがらるゝ事あり、/殊更(ことさら)水性の男相生して、おもふ 00036030L4まゝなるべし、氏神を御(十六オ)信心ありてハ、なを+ 00036040L5/子孫(しそん)/繁昌(はんしやう)なり、/酉(とり)の日、午の日、戌の日此内に能えん付の 00036050L6事、定るべし、御心やすかれと、/手(て)にとるやうにかたりけ 00036060L7れば、あまりにうれしさのまゝ、 00036070L8△△名にしおはゝさんねい坂の/算(さん)をきと 00036080L9△△△人にしられてをくよしもがな 00036090L10さんをきも、/謙退(けんたい)の心を、 00036100L11△△/世(よ)の/中(なか)よみちこそなけれへりくだる 00036110L12△△△/坂(さか)のそばにも/算(さん)ををくなる(十六ウ)(十七オ挿画) 00036120L13又、女かくそいひたりける、 00036130L14△△あらざらんこのよのほかのおもひ/出(て)に 00036140L15△△△ミめよきむこにあふ事もがな 00036150L16たかひに、めてたがりて、/昆布(こんふ)なととり出し、口いわゐし 00036160L17て、立出/行処(ゆくところ)に、又天下一三/世想(せさう)の/占(うらない)とて、/幣(へい)をたて、/壇(たん) 00036170L18を/餝(かざ)り、/法印(はういん)/何(なに)かしとかや、いげんたら※成、大かんば 00036180L19んいでたり。女此ていをミて、/猶(なを)/慥(たしか)成事きかまほしくお 00036190¥G 00036200M12もひて、又/立寄(たちより)、おもふ事の/品(しな)+語り出し、さんをかせ 00036210M13たりけれバ、是ハ/始(ハしめ)と/違(ちかい)て、つちのへの/寅土性(とらつちしやう)なり、此/土(つち) 00036220M14ハ屋ねのはなの土也、しかも/焼(やけ)土、/魂(たましゐ)ひ(十七ウ)とつ大き 00036230M15にわろし、/時(とき)+心さハかしくて、さたまる/気(き)なく、人に 00036240M16ハ見あけらるれとも、あやうきことのミなり、/縁組(えんくミ)の思ひ 00036250M17/入(いれ)、一/生(しやう)/更(さら)になし、山の/神(かミ)を/祭(まつ)りてよし、大風/地震(ぢしん)をつゝ 00036260M18しミ給へとそ、いひたりける。女大きに/肝(きも)をつぶし、いや 00036270M19我等ハ三十一/申(さる)の/年金性(としかねしやう)ぞといふ。/何(なに)さハあるべからず、 00036280¥P114 00036290L1此/占(うらない)を/家業(かけう)とする身の、/違(ちかい)たることして/世(よ)をわたるべき 00036300L2かや、あきめくらの/算置(さんをき)ならバしらず、/千(ち)たひ/百度(もゝたび)をきた 00036310L3ればとて、/少(すこし)もかはる事ハなしとて、そらうそ/吹(ふい)てそ/居(ゐ)た 00036320L4りける。女/赤面(せきめん)し、/始(ハしめ)の算をきがいひたりしを、こま※ 00036330L5と語り、ひらにをきなを(十八オ)して/給(たへ)といふに、/其(その)算/置(をき) 00036340L6ハ/銭(せに)ぬす人にて、/偽(いつハり)をいへとも、此/法印(はういん)ハありのまゝなる 00036350L7/正道(しやうとう)を/気(き)に不合とてもいふなれバ、いつにても此/通(とをり)とて、 00036360L8/算木(さんき)を/仕廻(しまひ)て/立(たち)たりける。女いよ+/腹(はら)を/立(たて)、/始(はしめ)/頼(たのミ)しさん 00036370L9置か/家(いへ)に、ぐるともどり、さん※に/讒言(さんげん)す。此算置もた 00036380L10がひに/職(しよく)がたきなれバ、にくしとおもふやさきにて、いざこ 00036390L11なたへおハしませ、/是非(ぜひ)を/正(たゞ)してまいらせんと、/踊出(をとりいて)て/行(ゆく) 00036400L12まゝに、/逢(あふ)とひとしく/胸(むな)くらをひしととらへ、とよミに/成(なつ) 00036410L13てそ、わめきにける。法印ちつともさはがす、いやまてし 00036420L14バし、かた+、此三/世想(ぜさう)と申ハ、/過去(くわこ)、/現在(げんざい)、/未(ミ)(十八ウ) 00036430L15/来(らい)と/立(たて)て、其/吉凶(きつきやう)を/考(かんかふ)るものなり、心をしづめて/聞(きゝ)給へ、 00036440L16/先(まつ)/過去(くわこ)にて人の/善事(よきこと)をそねミ、しつと/執着(しうちやく)の/念(ねん)/深(ふか)くしては、 00036450L17/現在(けんさい)に/悪女(あくしよ)となる、/中(なか)にも此/女中(じよちう)ハ、心さハがしく大風を 00036460L18にくむ屋ねの/端(はな)なる/鬼瓦(おにかわら)の/焼土(やけつち)を/種(たね)として、/生(うまれ)たる人なれ 00036470L19ば、その/顔(かほ)さながら鬼のことし、/色(いろ)/黒(くろ)ふ/口(くち)/広(ひろ)く、ほう/先(さき)と 00036480M1がつて、/額(ひたい)ぬけあがり、一/生(しやう)/不縁(ふえん)の/想(さう)、/眼前(かんせん)の/通(とをり)也、/何(な)ど 00036490M2や、/是(これ)に/逢馴(あひなる)る男のあるへきか、/然時(しかるとき)ハ/執着(しうちやく)/瞋恚(しんい)の/罪(つミ)に 00036500M3/沈(しづん)て、/未来(ミらい)/又(また)其/業因(ごういん)をひく、此/占(うら)をなどしらずやと/云(いふ)。/彼= 00036510M4男(かの=おとこ)/横手(よこて)をうち、/誠(まこと)に/面(おもて)ハさにぬりの(十九オ)/軒(のき)の/瓦(かわら)の鬼 00036520M5のかたちを、/今(いま)みることこそおそろしけれ、おもへバ/慥(たしか)な 00036530M6御/占(うら)かなとて、つけ※と女の/顔(かほ)を見あげ/居(ゐ)たりけれバ、 00036540M7まてをのれら、一/念(ねん)の/悪鬼(あつき)となり、いち+にけ/殺(ころ)さんぞ 00036550M8と、/歯(ハ)きりして、/顔(かほ)をあかめ、わゝつて、おもてへ/出(いて)たり 00036560M9ける。その時/法印(はういん)、 00036570M10△△あひミての/後(のち)のこゝろにくらぶれば 00036580M11△△△むかしハ鬼を見しらさりける 00036590M12/今(いま)一/人(にん)の/算置(さんをき)、又かくぞいひける、 00036600M13△△/君(きミ)ならでたれかは見せん/鬼女(おにをんな) 00036610M14△△△いろをも/皃(かほ)もしる人ぞしる(十九ウ) 00036620¥N3¥J 00036630¥X/不老不死(ふらうふし)の/妙薬(ミやうやく) 00036640M17じやうのこわき/日蓮宗(にちれんしう)のありけるが、つれ+を/慰(なくさま)んとて、 00036650M18おさなき/娘(むすめ)を/酒買(さけかい)にやりけり。その/時(とき)かたくいひ/含(ふくめ)けるハ、 00036660M19もし/道(ミち)にて/念仏(ねんふつ)の/声(こゑ)をきかば、はやく/徳利(とくり)の/口(くち)に/手(て)をあつ 00036670¥P115 00036680L1べし、/法花(ほつけ)の/行者(きやうしや)の/呑酒(のむさけ)に、念仏のひゞきまじへなバ、日 00036690L2/比(ころ)/唱込(となへこみ)たる御/題目(だいもく)を/汚(けが)すのミならず、/成仏(しやうぶつ)することなく 00036700L3て、/阿梨樹(ありじゆ)の/枝(えた)のごとくに、/死(し)してかうべをくだかるゝそ 00036710L4や、/油断(ゆだん)すべからずと、念/比(ころ)にいひ/含(ふくめ)てけり。/折節(おりふし)一休そ 00036720L5の/家(いへ)のまへに、たちやすらはれしが、さる事を聞給ひて、 00036730L6おろかなる(二十オ)ものゝ/上(うへ)にハ、さもこそおもふらめど、 00036740L7/極(きハめ)て/無下(むけ)の/事(こと)也、いで此とくりに念仏して、すつるか/捨(すて)ざ 00036750L8るか、いか/様(さま)にも、きやうけをなさハやと、/彼軒下(かののきした)に/待(まち)給 00036760L9ふ所に、/門(かと)の/戸(と)さら+として、/件(くだん)のとくりを、おさなき 00036770L10ものゝ/提出(さけいで)たりしを、やがてそのあとに/付(つき)て見/送(をく)り給へハ、 00036780L11/酒(さか)やとおほしき/家(いへ)に/入(いり)て、しはし有/立出(たちいて)けるを、一休つか 00036790L12+と/走(ハし)り/寄(より)給ひて、とくりのほそくびひしととらへ、な 00036800L13になるぞととひ給ふに、おもひよらざるさまなれバ、おさ 00036810L14な心におそろしく思ひて、わつといひてなきけ/利(り)。一休そ 00036820L15の/間(あいだ)に/数(す)十/反(べん)をしかへし、/高声(かうしやう)に/念仏(ねんぶつ)(二十ウ)を/唱(とな)へて、 00036830L16とくりの/口(くち)へ/吹入(ふきいれ)+し給ひ、それよりあたりにみえ給は 00036840L17ず、おさなきものハ是を/悲(かな)しく思ひ、しやくりなきになき 00036850L18て/帰(かへ)りぬ。(廿一オ)(廿一ウ挿画)おやどもはしり出、こは何 00036860L19事にかなくぞととへども、いらへもせで、ひれふしける。 00036870¥G 00036880M12/友(とも)なる/子(こ)どもの/追(おい)かけたるにや、/犬(いぬ)やかミけるかなと、さ 00036890M13ま※に/尋(たつ)ぬれバ、おづ+はじめ/終(をハり)をいひたりける。/親(おや) 00036900M14ども大きにおどろき、けがらハしや、そのとくりうちくだ 00036910M15き/捨(すて)よ、それこそ、さいづちあたまの/法然(ほうねん)がながれをくむ 00036920M16/法師原(ほうしばら)なるへし、あはれ/其場(そのば)に/有合(ありあひ)なば、しやつめをやつ 00036930M17ざきにせんものをと、こふしを/握(にきり)、きばをかむ。女房が 00036940M18いふやう、いやさ、な/腹立(ふくりう)せさせ給ひそ、むかしも、さる上 00036950M19人様(廿二オ)、御身一/代(たい)は西の/方(かた)へ/行(ゆき)給ふまじと、かたく/誓(ちか) 00036960¥P116 00036970L1ひをなし、/禁足(きんそく)の御/願(くハん)を/立(たて)給ひし/比(ころ)、西の/京(きやう)に/有(あり)し/旦那(たんな)、 00036980L2/死(し)して/引導(いんとう)にたのミたてまつりしに、いろ+と/仰(おほせ)られし 00036990L3かとも、/年比(としころ)の御/契約(けいやく)なれバとて、ゆるし申さゞりけり、 00037000L4御/寺(てら)よりハ/彼家(かのいへ)ハ西にあたり侍れとも、不及力ゆかせ給ふ 00037010L5に、/堀(ほり)川の/辺(へん)にて、/堕地獄(たぢごく)の念仏者、御むなくらをとらへ 00037020L6て、一/首(しゆ)かけたりける、 00037030L7△△/念仏(ねんぶつ)をむけん+といひなから 00037040L8△△△西へいそぐは/弥陀(ミだ)をたのむか(廿二ウ) 00037050L19といひたりけれバ、上人とりあへず、 00037060L10△△ミたたのむ/衆生(しゆしやう)/地獄(ぢこく)におちぬれば 00037070L11△△△すくはんために西へこそゆけ 00037080L12とて、/扇子(あふき)にて三つ四つうたせ給へハ、/閉口(へいこう)して/帰(かへ)りしと 00037090L13かや、かゝるためしも侍るなれバ、少もくるしかるまじ、 00037100L14あたら酒を/捨(すて)給ハんより、とく+のミ給ひて、/法花(ほつけ)の行 00037110L15者か/腹(ふく)中に/入(いれ)、/開会(かいゑ)の/利益(りやく)をほとこし給へとぞ、すゝめに 00037120L16ける。男大きに/悦(よろこ)び、いミじくも、の給ふもの/哉(かな)、御身ハ八 00037130L17/才(さい)の/龍女(りうによ)にもをとらず、/変成(へんしやう)/男子(なんし)/則得(そくとく)/成仏(しやうふつ)/疑(うたが)ひあらじと、 00037140L18/頭(かしら)を(廿三オ)たゝきて、ひたのミに/呑(のミ)けるほどに、間なく 00037150L19/酔臥(ゑいふし)にける。かくて/夢(む)中に、/赤(あか)き/物(もの)/着(き)たる/童子(とうし)、/忽然(こつせん)と/顕(あらハ) 00037160M1れ、/両眼(りやうがん)を/光(ひか)らせ、いかつて/曰(いハく)、/何(なに)とて念仏のましりたる 00037170M2酒を/呑(のミ)て、/権実雑乱(ごんじつざうらん)の/罪(つミ)をなしけるぞや、それ法花たるも 00037180M3のゝ身にハ、/法身(ほつしん)/報(ほう)身/応(をう)身とて、三身の/如来(によらい)/常(つね)に身をはな 00037190M4れ給はず、/胸(けう)中を/照(てら)さしめ給ふに、かゝる大/罪業(さいごう)を/作(つく)りて、 00037200M5/法花(ほつけ)/守護(しゆご)たりし/諸神(しよしん)、たちまちに天上し給へバ、/仏性(ふつしやう)さつ 00037210M6て/雲(くも)にかくれ、/慈悲(ぢひ)のまなじりをもち給へハ、/未来(ミらい)やう 00037220M7+/劫(ごう)をふるとても、/成仏(しやうぶつ)/更(さら)にあるべからず、/其人(ごにん)/命終(ミやうしう) 00037230M8/入阿(にうあ)(廿三ウ)/鼻獄(びこく)/頭破(づば)七/分(ぶん)とぞいかられける。/男(おとこ)此/気色(きしよく)を 00037240M9ミて、大/汗(あせ)をながし、かたいきになりて、/目(め)を/覚(さま)し、/女房(にうはう) 00037250M10を/近付(ちかつけ)、しか+かのことを/語(かた)り/聞(きか)せ、是十/羅刹女(らせつによ)の御と 00037260M11がめ/成(なる)べし、/女(をんな)ハ/外面菩薩(げめんほさつ)に/似(に)て、/内心(ないしん)は/夜叉(やしや)なりと/説(とき)給 00037270M12ふに、おもはずも/悪縁(あくえん)にひかされ、/無間(むけん)に/沈(しつ)むへき事こそ、 00037280M13かなしけれとて、/地(ち)にふし天にあふきて、さけひにける。 00037290M14女房あまりたえかたさに、よし+/我(わか)身ハ何ともなれ、そ 00037300M15もしの/罪(つミ)を/我(われ)にうけ、/地獄(ちごく)の/猛火(ミやうくわ)の/底(そこ)に/入(いり)て、御身をたす 00037310M16け申べし、先それはともあれ、水をのミて、あらひ清め見 00037320M17給へとて(廿四オ)、ひたもの水をあたへけれバ、やゝ/有(あり)て、 00037330M18/腹太鞁(ハらたいこ)のことく/成(なつ)て、ひえかへりけるを、いきなからに/餓鬼= 00037340M19道(がき=とう)へおちぬるハとて、/猶(なを)なく/声(こゑ)/梵天(ほんてん)へつきぬけ、/須弥山(しゆミせん)を 00037350¥P117 00037360L1ゆるかす。/然(しか)るとき、/腹(はら)に/声(こゑ)/有(あり)て、ぶつ+と/鳴(なり)ける。さ 00037370L2てハ/南無阿弥陀(なむあミだ)の五/字(し)ハ、/消滅(せうめつ)して、/今少(いますこし)/仏(ふつ)か残てあるも 00037380L3のならめ、いとめでたき事なりとて、又こそ水をのませて 00037390L4けり。是にていよ+くるしミつよく、はないきもゑせて、 00037400L5くちこもり、あゝ+とのミ、もたへにける。女房/子(こ)ども 00037410L6/枕(まくら)もとにあつまり、とゝハ念仏のいりたる酒をのミ、ぢご 00037420L7くにおちて、此世から、くるしまるゝぞ(廿四ウ)や、あな 00037430L8いとおしや、/南無妙法蓮花経(なむミやうほうれんけきやう)なと、わめきたつる。この 00037440L9/声(こゑ)に/隣(となり)あたりよりも、おどろき/集(あつま)り、あらいとおしや、此 00037450L10まゝむなしくなしまいらせなバ、/心残(こゝろのこ)りにさふらふべし、 00037460L11ひとまつ/水(ミつ)をくだしてミん。/尤(もつとも)/然(しかる)へしなと、とり※な 00037470L12り。女/房(はう)/子(こ)ともハ/頼(たのミ)申といひて、なきけり。いとゞみるめ 00037480L13もあはれなりければ、/医者(いしや)を/呼(よひ)て、ともかうも/談合(だんかう)すべし、 00037490L14どれかれかと、さたしけるに、/竹斎老(ちくさいらう)ならでハ、かやうの 00037500L15/療治(れうぢ)するもの/覚(おほ)えずとて、やがて/使(つかひ)を/立(たて)たりける。竹斎/程(ほと) 00037510L16なく/来(きた)り、ことの/様子(やうす)をきゝて、うちうなづき、/尤(もつとも)/是(これ)は 00037520L17(廿五オ)/水腫(すいしゆ)の/張満(ちやうまん)に/似侍(にはへ)るなれど、さして、ねふかき/病= 00037530L18症(ひやう=しやう)ならず、此/薬(くすり)にて/能(よく)候ハんとて、/包(つゝ)ミ/出(いた)す。さてのませ、 00037540L19まもり/居(ゐ)けるに、/眼中(かんちう)はつきと見ひらき、それそと人も見 00037550M1/知(しり)ければ、是こそ大/験(げん)なれとて、いよ+/間(ま)なく、のませ 00037560M2たりしに、/小便(せうべん)/滝(たき)のごとくにして、たちまち/腹(はら)へつそりと 00037570M3なり、/常(つね)のやうに/本(ほん)ふくしてけれバ、/座中(ざちう)/此手柄(このてから)に/舌(した)をま 00037580M4き、/人間(にんげん)にてハあらしといふ。女ばう/子(こ)どもハ手を/合拝(あハせおか)ミ 00037590M5/悦(よろこ)び、/唐国(からくに)はいさしらす、/日本(ひのもと)にハあるべからず、をそら 00037600M6く/薬師(やくし)の御/化身(けしん)ならめと、ほめそやすうちに、/彼薬(かのくすり)なめて 00037610M7ミれば(廿五ウ)、ふしの/粉(こ)なり。/名誉(めいよ)の事に/思(おもひ)て、/是(これ)ハ/歯(は) 00037620M8に/付(つけ)申、ふしの/粉(こ)にてハさふらハずやといふ。竹斎/聞(きゝ)て、 00037630M9いかにもさるものなり、/本草(ほんさう)にハ/五倍子(こばいし)といひて、/能毒(のうとく)あ 00037640M10またしるして、ほめたる/薬(くすり)なり、大/事(し)の/秘方(ひはう)なれバ、たや 00037650M11すくかたり侍らぬ事ながら、此/上(うへ)にて候ほとに、物/語(かたり)して、 00037660M12きかせ申へし、/努&(ゆめ+)/他言(たげん)せたせ給ふベからず(廿六オ)(廿六 00037670M13ウ挿画)、/先(まつ)比/薬(くすり)と申ハ、/法花経(ほつけきやう)の/中(うち)に、その/功(こう)/速(すミやか)なり、 00037680M14さるゆへに、此/病人(ひやうにん)に/相応(さうおう)の/薬(くすり)なり、/浄土宗(しやうどしう)にも/禅宗(ぜんしう)にも、 00037690M15/余宗(よしう)にあたへて/更(さら)に/験(げん)あるべからず、されバ、/法花経(ほつけきやう)に、 00037700M16/是好良薬(せこうらうやく)、/今留在此(こんるさいし)、/病則消滅(ひやうそくせうめつ)、/不老(ふらう)ふしとそ/説(とき)給へり、 00037710M17/誠(まこと)に/仏(ほとけ)の/方便(はうべん)として、/罪(つミ)ふかき女人には、是を/歯(は)にぬらせ 00037720M18て、/主(ぬし)がしらぬながらも、口にふれ/舌(した)にあぢはゝせて、/醍= 00037730M19醐味(たい=こミ)の/妙理(ミやうり)を/授与(じゆよ)する事と/聞(きこ)ゆ、/能(よく)此/理(り)より、しらるべき 00037740¥P118 00037750¥G 00037760L12なり、/何(なに)とをの+、ありかたき薬にハあらずやといふ。 00037770L13みな+/肝(きも)にめいじ、/骨髄(こつずい)にとをりて、ありがたく、身の 00037780L14/毛(け)もよだつバかり(廿七オ)なれバ、いづれも/手(て)を/合(あハ)せ、竹 00037790L15斎をがみ、さても+けつかうなる御くすりにてこそ候へ、 00037800L16/其上(そのうへ)、か/様(やう)の/療治(れうぢ)の事まて、/説(とき)をかせ給ふ事、/余(よ)の/宗旨(しうし)に 00037810L17は、うけ給り/侍(ハへ)らす、かゝる/奇特(きどく)を/目前(もくせん)に見ながら、/何(なに)し 00037820L18に/余経(よきやう)をたのミ申へき、是三/宝(ほう)の御/影(かけ)なるそや、皆&かた 00037830L19く/他言(たげん)し給ふななど、いひたりけれバ、竹斎/聞(きゝ)て、一/段(だん)の 00037840M1おほしめし/入(いれ)なり、されば八のまきにも、/身出上水(しんしやうしゆつすい)と侍れ 00037850M2は、/水(ミつ)となり/治(ぢ)すること、/掌(たなこゝろ)ににぎるがごとしと/語(かた)れハ、 00037860M3/病人(ひやうにん)かうべをさしあげて、(廿七ウ) 00037870M4△△なむあミのましりしさけの/内損(ないそん)を 00037880M5△△△/不老(ふらう)/不思儀(ふしき)になをすいしやどの 00037890M6かくいひて、よろこびければ、竹斎、 00037900M7△△/弥陀損(ミたそん)の/酒(さけ)には/不老(ふらう)ふしの/粉(ご)が 00037910M8△△△なむ/妙薬(ミやうやく)と人ぞしるべき 00037920M9といひすてゝ/帰(かへ)る。まことにおろかなるものゝ、/我宗(わがしう)をい 00037930M10ちがいに、おもひ/入(いれ)たる/心(こゝろ)なれバ、かの/念仏(ねんぶつ)のまじりたる 00037940M11ことを、ふかくなげき、/苦(く)にして、おもひねいりにしたり 00037950M12ければ、かくおそろしき/夢(ゆめ)み、くるしミたるなるべし。/扨(さて) 00037960M13/彼病人(かのひやうにん)/本復(ほんぷく)せし(廿八オ)/後(のち)、/禁酒(きんしゆ)の/誓(ちかひ)を/立(たて)、/仏前(ふつせん)にて、 00037970M14かく申あげたるとかや、 00037980M15△△あのくたらさまく/三菩提(さほだい)の/仏(ほとけ)たち 00037990M16△△△/我(わが)たつさけに/冥加(ミやうが)あらせ給へ 00038000¥Y4¥J 00038010¥X/情強(しやうごハ)/法花(ほつけ) 00038020M19又さるかたくち法花なるもの、竹斎か/宅(たく)にて一休に/出合(いてあひ)、 00038030¥P119 00038040L1/例(れい)の大/乗妙典(しやうミやうてん)をいひ/出(いた)してより、ひとつふたつと、つの 00038050L2りけるほどに、/後(のち)ハ/念仏無間禅天魔(ねんふつむけんぜんてんま)なとゝて、/踊躍(をとりあかつ)て/悪口(あくこう) 00038060L3す。されども/和尚(おしやう)にハ、/是躰(これてい)の事、とりもあげ給はす、か 00038070L4たほうにて、わらひながら(廿八ウ)仰らるゝハ、愚/僧(そう)は、 00038080L5さやうの事あるもなきも/存(そん)ぜす、もとより/親(おや)のすゝめわう 00038090L6じやうに、かく/法師(ほうし)となしつるなれバ、/今更(いまさら)何をわきまへ 00038100L7たる事もなく、其日暮しの/斎(とき)ぬす人にて、/世(よ)をわたる/小僧(こそう) 00038110L8にて候なり、さほとにじやう/□((こカ))わらせ給ふ人の/開山(かいさん)は、い 00038120L9かばかり/気根(きこん)つよくまし+けるぞや、/此方(こなた)が/祖師(そし)は九/年(ねん) 00038130L10/面壁(めんへき)とて、九年のあひた/壁(かへ)に/向(むか)ひ、物さへいはぬ/内気(うちき)もの 00038140L11にて/侍(はんへ)る/故(ゆへ)、なかれのわれらまて、/随分(すいふん)/隠者(いんしや)にて山里をこ 00038150L12のミ、むつかしひ事にハ/庭前(ていぜん)の/柏樹枝(はくじゆし)とこたへ、/法儀(ほうき)をと 00038160L13けとある人には、(廿九オ)一/字(じ)/不説(ふせつ)とかぶりをふる、/気随(きすい) 00038170L14ものにて候へハ、/只(たゝ)/本来(ほんらい)くふとて、/喰呑(くいのミ)するより外をしら 00038180L15ず、/以何令衆生得入(いがりやうしゆじやうとくにう)むじやう/道(とう)とやらん、の給ひて、む 00038190L16りに/相手(あひて)をほしかり給へど、/柳(やなき)ハみどり/花(はな)ハ紅にて、月日 00038200L17を/送(をく)るにて候とあれば、男聞て、仏法の/上(うへ)ハともあれかし、 00038210L18じやうのこわきとハ、いかなるよこしまぞや、いはれをき 00038220L19かんとひしめきける。一休から+とわらひ給ひて、 00038230M1△△/鎰(かぎ)あらば/止観(しくハん)の/窓(まと)の/戸(と)をあけよ 00038240M2△△△じやうこはくして月をミぬかな(廿九ウ) 00038250M3とあそはしければ、竹斎もそのときかく、 00038260M4△△じやうごはとわれをえしらぬじやうごハの 00038270M5△△△じやうのこはさを人にとへかし 00038280M6といひたりしに、/男(おとこ)/今(いま)ハ/我(が)をおらして、ほく+とうちう 00038290M7なづき、/誠(まこと)に人をじやうこハしと/思(おも)ひあらそふ事ハ、/我(わか)身 00038300M8のじやうのこハさゆへなり、/狂人(きやうしん)はしれバ不狂人もはしる 00038310M9といふハ、これをいふなるべしとて、 00038320M10△△/我(わか)じやうのこはきとしりていざゝらは 00038330M11△△△もミやはらけん百八の/珠数(じゆず)(三十オ) 00038340M12とつらね、/和尚様(おしやうさま)の/旦那(たんな)になり申さんといへば、一休/聞(きこ) 00038350M13しめし、その/方(はう)の/宗旨(しうし)も此方の/法儀(ほうぎ)も、みな心ひとつがま 00038360M14よへバ、さいたらばたけへ、よことびするなり、/是(これ)に竹斎 00038370M15もおはしけるが、さためて/医道(いとう)もおなし心なるべし、一二 00038380M16ふくの/薬(くすり)に/効(しるし)なきとて、/病(やまひ)の/軽重(きやうぢう)をはからずして、あれ/是(これ) 00038390M17と頼かゆる/故(ゆへ)、/結句(けつく)ハ大病となりて、あやうきに/至(いた)るらん、 00038400M18/法儀(ほうぎ)又かくのごとし、/只(たゝ)ねかひ/入(いれ)、こゝろさし給ふ、その 00038410M19/方(かた)の/宗(しう)にて、さとり給へ、/深入禅定(じんにうせんぢやう)とあるときハ、/座禅不= 00038420¥P120 00038430L1退(させんふ=たい)の(三十ウ)心にたかはず、/善悪(せんあく)/無異(むい)の/全躰(せんたい)ハ、/己身(こしん)の/外(ほか) 00038440L2に/道法(とうほう)なき事也、/当地是所(たうちぜしよ)/則是道場(そくぜどうしやう)とも、又は/裟婆(しやば)/則寂= 00038450L3光(そくしやく=くハう)、/或(あるひハ)/則身成仏(そくしんしやうぶつ)九/界則仏界(かいそくぶつかい)なとゝもあれば、又おきら 00038460L4いの/余経(よきやう)にも、/去此不遠(こしふをん)、/己身(こしん)の/弥陀(ミた)、/唯心(ゆいしん)の/浄土(じやうど)などゝ 00038470L5/説(とき)給ひて、/随他意(ずいたい)/方便(ほうへん)し給へバ、/皆無捨(ミなむしや)/平等(ひやうとう)、/無(む)二無三、 00038480L6/其中衆生(こちうしゆしやう)、/悉是吾子(しつぜごし)、/何(なに)をか/隔(へた)て何をかしたしむべき、/教= 00038490L7外別伝(きや=うげべつでん)、/不立文字(ふりうもんじ)、/以心伝心(いしんでんしん)、/見性成仏(けんしやう※ぶつ)、むつかしの人の 00038500L8心/根(ね)やな、万事ハ皆/空(くう)なりとて、 00038510¥G 00038520M1△△かたちなきものハかたちをあらはして(卅一オ) 00038530M2△△△かたちはものにかくれぬものを 00038540M3/扨(さて)、/男(おとこ)此/教化(けうけ)を/聞(きゝ)、何とやらん/唐(から)人の/哥(うた)の様にハ御/座(さ)候へ 00038550M4共、大/方(かた)/得道(とくたう)/仕(つかまつ)りて候とて、 00038560M5△△めぐりあひ聞やそれともわかぬまに 00038570M6△△△まよひをはらす/胸(むね)の月かな(卅一ウ)(卅二終オ挿画) 00038580M7一休うれしくおほしめし、/古歌(こか)にとて、又、 00038590M8△△人ことになしありのミとへたつれど 00038600M9△△△/○(くう)にふたつのあぢはひもなし 00038610M10かく/侍(はべ)るにて/分別(ふんへつ)し給へと/有(あり)けれバ、竹斎も其時、 00038620M11△△とる/匙(さじ)のゑこそなをさねわれとても 00038630M12△△△とんよくしんいくちのやまひは(卅二終ウ) 00038640¥P121 00038650¥Y1杉楊枝第三 00038660L3△△/猿(さる)が/池(いけ)/殺生(せつしやう)の/抜句(ぬけく) 00038670L4△△/秤(はかり)の/家(いゑ)を/氏神(うちかミ)とあふく 00038680L5△△/当話(たうわ)にこまる/山臥(やまぶし) 00038690L6△△/河豚汁(ふくとうじる)の/咒(ましない)(一ウ) 00038700¥T1杉楊枝第三 00038710¥N1¥J 00038720¥X/猿(さる)か/池(いけ)/殺生(せつしやう)の/抜句(ぬけく) 00038730M5/都(ミやこ)の西に/猿(さる)か/池(いけ)とて、/少(すこし)なる/流(なかれ)あり。/爰(こゝ)ハ/殺生(せつしやう)/禁断(きんだん)にて、 00038740M6/常(つね)に、/網(あミ)をうち、/棹(さほ)をのぶる人しなけれバ、/魚淵(うをふち)におどり、 00038750M7/岸(きし)の/柳(やなき)も/波(なミ)にあらひ、/泉流(せんりう)/清&(せい+)としてハ、/丈布(ぢやうふ)の/流(なかれ)となり、 00038760M8/砂(いさこ)の/上(うへ)に月を/置(をく)。/星(ほし)の/林(ハやし)もさながら/移(うつ)るなれバ、/桃花(たうくハ)の/節= 00038770M9会(せち=ゑ)の/比(ころ)、/京(きやう)かたより爰に/興(けう)を/求(もとめ)て、/曲水(きよくすい)の/盃(さかつき)をうかふる事、 00038780M10/広沢(ひろさは)の/秋(あき)をもとく。あるとき一/休和尚(きうおしやう)ハ、此ほとりへ/納涼(だうりやう) 00038790M11のために、/竹斎(ちくさい)を/誘(いさな)ハせ給ひ、さま※のたのしミをなし 00038800M12て(二オ)、心ハばん/天(てん)の/雲(くも)にとびあがり、/波(なミ)にうかふる/浮= 00038810M13瓢箪(うき=ひやうたん)、うかれ出させ給ひつゝ、いざや竹斎、此/池(いけ)の/魚(うを)を 00038820M14とりて/寺(てら)に帰り、/八声(やこゑ)の/鳥(とり)に/歯(ハ)たゝき/聞(きか)せんと/仰(おほせ)けれバ、 00038830M15あとさきしらずの竹斎、/余所(よそ)のみる目もあらざれば、さら 00038840M16ばとともに/尻(しり)をからげ、一休のめしたる衣をひつばりあひ 00038850M17て、魚を/追(をふ)てぞさまよひける。然る折ふし、里人通りかゝ 00038860M18り、何ものなるぞととかむれども、いなの/返答(へんたう)もなく、/舌= 00038870M19内(せつ=ない)もさだかならねば、さてハ、水におほれたるものにてあ 00038880¥P122 00038890L1りつらんと、(二ウ)(三オ挿画)村中の人をよバゝり/立(たつ)れバ、 00038900L2手に+松どもとぼして、くまてよ、/棒(ほう)よなどとて、/噪(さハき)に 00038910L3けり。かくて大/勢(せい)寄こぞつて、此人+の有様をミれば、 00038920L4としごろなる入道二人、まくろなる物を/左右(さう)へひろけ、/魚(うを) 00038930L5をすくひて、/酒瓢(しゆひやう)の/中(うち)へぞ入にける。里人此/躰(てい)を見て、か 00038940L6ゝる/殺(せつ)生/禁断(きんだん)の地に来り、わがまゝをふるまふこそ、/前(せん)代 00038950L7/未聞(ミもん)の/曲(くせ)事かな、それ、からめとれとぞ、わめきにける。 00038960L8一休竹斎大きにおどろき、かゝる/殺生(せつしやう)/禁断(きんたん)の所ともしら 00038970L9ず候、/向後(きやうこう)の事をこそ心得候べけれと、あかでをすり、わ 00038980¥G 00038990M1ぶれとも、/更(さら)に聞もいれず。(三ウ)それ、物ないはせそ、 00039000M2/是非(ぜひ)にくゝれといふ/程(ほと)こそあれ、はや、/縄(なわ)をそ/掛(かけ)たりける。 00039010M3一休/気色(きしよく)をかへあたりをにらみ仰けるハ、こは、口/惜(おしき)あり 00039020M4さまかな、仏法の上に身命を/捨(すつ)るハ、出家の/望(のそむ)事なれども、 00039030M5一大事の/誓願(せいくハん)もミてさる内に、物/知(しら)ぬ/愚(ぐ)人はら、手/込(こみ)にせ 00039040M6しこそ無念なれ、こいねがはくハ、天神/地祇(ぢき)も力を/添(そへ)、/降= 00039050M7伏(がう=ぶく)の/鉾(ほこ)を取て、いち+に此/奴原(やつバら)を/跳(け)殺されよや、南無諸 00039060M8天竜王/大悟沙門(だいごしやもん)/某(それがし)と、大声ひゞかせ、おめき給ふ。/村(むら)の 00039070M9者ども腹を立、かゝる/法(はつ)度を/破(やぶ)りながら、/竜(りう)神の諸天のな 00039080M10ととて、我等(四オ)/□((をカ))/調伏(てうぷく)する事こそ/科(とが)の上の科成へし、 00039090M11/旁(かた+)以て/遺恨(いこん)/深(ふか)し、/頚(くび)/刎落(はねおと)して、ミせしめにせん、尤とぞは 00039100M12やりにける。一休も今ハ、ほうど力/落(おと)し、わな+と/振(ふる)ひ 00039110M13ながら、/絶躰(ぜつたい)絶命、生死爰に/究(きハま)れバ、今一度/謀(たバか)りミハやと、 00039120M14/膝(ひざ)の皿をきつ立/仰(おほせ)けるハ、/汝等(なんちら)ごときの/愚痴(ぐち)無智なる者ど 00039130M15もに、聞せて/甲斐(かひ)も有まじけれども、我+死して/後悔(こうくハい)す 00039140M16へきが/痛(いたハ)しさに、あら+語て聞するなり、それ、我宗の 00039150M17/祖(そ)師にこそ、/海老(ゑび)を/喰(く)ひて/発明(はつめい)得道(とくとう)の/眼(まなこ)を/開(ひら)き、/猪(ゐ)のかう 00039160M18べをかぶりてたに、/悟(ご)道の智者となり(四ウ)給ふ、されば、 00039170M19ながれの/愚僧(ぐそう)ばらも、魚をとり鳥を取、是食/物(もの)のためにハ 00039180¥P123 00039190L1あらず、/夏(げ)百日の間、/夜嵐(よあらし)/風雨(ふうう)のいとひなく、/悉得(しつとく)仏/果(くわ)の 00039200L2/誓願(せいくハん)を立て、三世の諸仏たる衣をもつて、あミとなし、/愚= 00039210L3僧(く=そう)か/誓(ちか)ひの手に/懸(かけ)て、魚を一/瓢(ひやう)にとり入てハ、/魚生(うしやう)/飛鳥(ひてう)/草(さう) 00039220L4木/国土(こくと)/悉皆(しつかい)/成仏(しやうふつ)と、/善果(せんくわ)をあたふ、又山/林(りん)の/獣(けた)物にハ、/如= 00039230L5是(によ=ぜ)/畜生(ちくしやう)、/発菩提心(ほつほだいしん)と/廻向(ゑかう)をなして得さすれバ、/殺(せつ)生といふ 00039240L6べき子/細(さい)ハなし、されバ仏も九/界(かい)の衆生をたすけんとの、 00039250L7ちかひの/網(あミ)を/三途(さうづ)川にとりひろげて、六道/輪廻(りんゑ)の/亡者(まうじや)をす 00039260L8くひたまふに、(五オ)/罪(つミ)ふかきものハ、水の/底(そこ)を行、/浅(あさき)ハ 00039270L9水の上を/通(とを)り、此大/網(あミ)にかゝるゆへに、/速(すミやか)に/極楽(ごくらく)浄土へ生 00039280L10るゝ也、かるがゆへに、/常(つね)にも人のとなふべくハ、うかめ 00039290L11給へ、しやか仏、すくハせ給へや、ミた/如来(によらい)と、ねかひし 00039300L12事こそこの故なれ、さるによつて、しやかハやり、ミたハ 00039310L13網ひく一/筋(すち)の大つなに、廿五の/菩薩(ほさつ)も手に手をそへて、/実= 00039320L14相(じつ=さう)むろの大/海(かい)より、/安楽世界(あんらくせかい)の/浜辺(はまべ)まで引よせ給ふ、則/弥= 00039330L15陀(ミ=だ)の御名を、むかし、/仏在世(ふつざいせ)の時は、/縄網陀仏(なわあミたふつ)と申たりし 00039340L16か、/末(まつ)世の/童男(とうなん)童女、/愚癡(ぐち)無智の/輩(ともから)、/短舌(たんせつ)をもつてハ/唱(となへ)か 00039350L17たかるべし(五ウ)とて、なむあミた仏とをしへをかせ給ふ 00039360L18なり、それのミならす、大/俗(ぞく)なりし太/公望(こうばう)も、/渭浜(いひん)の波に 00039370L19/棹(さほ)を/支(さゝ)へ、/定業(ぢやうがう)/必死(ひつし)の/鱗(うろくす)をとりあつめ、/膾(なます)ハ/細(ほそ)きをいとは 00039380M1ずとて、づだ※に/切(きり)て、やまぶきあへに、/子(こ)と共にかき 00039390M2ませ、/親(しん)子一所の/孝味(かうミ)なれば、天是をほめ給ふとて、/賢者(けんしや) 00039400M3の/腹(はら)に/喰込(くいこミ)、/学徳充満(かくとくしうまん)の明徳にうちましれバ、何かは/成(しやう)道 00039410M4とげさるべき、/抑(そも+)此/一行(いつぎやう)のおこりハといへバ、かたじけ 00039420M5なくも/智恵(ちゑ)第一の/文珠菩薩(もんしゆほさつ)、/龍宮城(りうくうしやう)に/水練(すいれん)して、妙法花経 00039430M6を説給へバ、/龍(りう)女、則うろくすの身をへんじ、/角(つの)を/脚下(きやくか)の 00039440M7土に/埋(うつミ)、南方無垢世界に生をうけぬ(六オ)れハ、/我施海中(がせかいちう)、 00039450M8/唯常宣説(ゆいしやうせんせつ)、妙法花経と/自慢(じまん)し給ふ、/嗚呼(ああ)、たとへていふも 00039460M9/恐(おそ)れ有、我/拙(つな(ママ))き/凡(ほん)夫身にて、仏のまねをするゆへにこそ、 00039470M10諸仏是をいからせ給ひて、かゝる大/難(なん)にあふものかハ、百 00039480M11日の/願望(くハんまう)/半(なかハ)にも及はずして、寸善尺/魔(ま)の土民/原(ばら)、仏性同 00039490M12躰の/沙(しや)門をしバり、十/悪(あく)の中の/悪口(あつく)の/科(とか)を/犯(をか)すのミならず、 00039500M13/小魚(せうきよ)の命をいとひて、三/才(さい)一/具(ぐ)の/人身(にんしん)をころす、/愚(ぐ)なるか 00039510M14な+、されバ仏の/戒(いましめ)にも、/羅漢(らかん)を/殺(ころ)し、/或(あるひ)ハ仏の身をう 00039520M15つて/血(ち)を出し、又、/和合(わかう)の/僧(そう)を/破(やふ)り、父を殺し母をころす、 00039530M16是を大/罪(さい)五/逆(きやく)(六ウ)の/科(とか)とす、出家ハ仏/果(くわ)の/親(おや)ならずや、 00039540M17浅ましくも、此村の百/姓原(しやうバら)、/無間(むけん)の/底(そこ)に/沈(しつ)んて、うかふ 00039550M18/世(よ)/更(さら)に有べからす、あら不/便(びん)の心/根(ね)やとて、にか/笑(わら)ひし給 00039560M19へバ、/在(さい)所のものども、何とやらん身の/毛(け)だちて、おそろ 00039570¥P124 00039580L1しく、かたはらに立のき、ひそ+といひたりしが、いや 00039590L2+かやうの/智(ち)者の御身に、なわをかけたる、/勿躰(もつたい)なや、 00039600L3それとけといふ。さらバとて、手に+/寄(より)てぞときにける。 00039610L4一/休(きう)の御うれしさ、たとふるに物なし。されども竹斎、う 00039620L5き+ともせず、/痺(しびれ)しかいなをさすりやはらけ、ぶる+ 00039630L6とふるひ/居(ゐ)たりければ、(七オ)一休おかしくおほしめし、 00039640L7ちくに/気(き)をもたせばやと、大/声(こゑ)しての給ひけるハ、いかな 00039650L8れば、ふるひけるぞや、/師弟(してい)となりて、けふが日まて/学(まな)ひ 00039660¥G 00039670M1し経ハ、何のためぞ、/釈尊(しやくそん)の御身たにも、/提姿(たいば)といひし/悪(あく) 00039680M2人に/妨(さまたげ)られ給へと、その大/難(なん)を/凌(しのき)、仏法を/弘(ひろ)め給ふ、つい 00039690M3に提婆ハ其/科(とが)により、大/地(ち)/破(われ)て無間に/沈(しづ)む(七ウ)(八オ挿画)、 00039700M4又/吾朝(わかてう)の/聖徳太子(しやうとくたいし)は、/守屋(もりや)が/悪(にく)ミ/奉(たてまつ)りて、あそこへ/追(をひ)た 00039710M5て、/爰(こゝ)にて/戦(たゝか)ひ、/害(がい)し申さんとしたりしかとも、/諸天善神(しよてんせんしん) 00039720M6のやいばにかゝりて、/死(し)したりしより、いよ+/仏教(ふつきやう)/繁= 00039730M7昌(はん=しやう)せり、/忝(かたしけなく)も/太子(たいし)ハ、/末代(まつだい)の/凡夫(ほんぶ)をあはれミ給ひ、/高(たか)き 00039740M8御/位(くらゐ)をおり、たまのかんふりをなげ、/袞龍(こんりやう)の/御衣(ぎよい)をすみ/染(そめ) 00039750M9の/麻(あさ)ぬのにひるがへし給ひて、御身をやつされ、かばねを 00039760M10九/界(かい)のちまたにすて、/身命(しんミやう)をあしたのしもにとゝめ、/難= 00039770M11行(なん=ぎやうく)苦行の/功積(こうつも)りてこそ、/成(しやう)道ならせ給ふなるに、/其方(そのはう)が 00039780M12ごとく/心(こゝろ)かいなく、みれんなるも(八ウ)のゝ、なとて/仏= 00039790M13道(ぶつ=とう)/修行(しゆきやう)の/成就(しやうじゆ)すべきそ、いまよりしてハ、/師弟(してい)の/気縁(きえん)も 00039800M14是まてなり、浅ましの/心根(こゝろね)やとて、/杖(つえ)ふりあげてうち給へ 00039810M15バ、竹斎そゞろにおかしけれども、いや+爰の/奴原(やつバら)に、 00039820M16色をミせんハ大事なりと、さも/悲(かな)しさうに/這(はひ)かゞみ、され 00039830M17は候、/某(それがし)も命ハ/塵(ちり)とも存せす候ひしが、川あがりの/酔(ゑひ)ざ 00039840M18めにて、色青くかほそげ立て、ふるひ出、おぼえず、か様 00039850M19に見/苦敷(くるしき)/躰(てい)仕候也、弥/嗜(たしなミ)申へし、ゆるしてたび候へと、 00039860¥P125 00039870L1手を合/難(なけ)き/侍(ハべ)れバ里人とも是をミて、扨も/殊勝(しゆしやう)の御事かな、 00039880L2御弟子の身として、かくもな(九オ)ふてハ、/叶(かなふ)べからすと 00039890L3て、そゞろに/感涙(かんるい)を/流(なが)し、皆+/家居(いへゐ)に帰りにける。一休 00039900L4竹斎ハ、あまの命をひろひたるものかなとて悦び給ふ。さ 00039910L5て又、/和尚(おしやう)さまにハ、能もばけ給ひしとて、共に/横腹(よこはら)を/押(をさ) 00039920L6へて/笑(わら)ひにける。一休其時、 00039930L7△△おもひまはしさてもいのちハあるものを 00039940L8△△△うきにこほすハなミたなりけり 00039950L9竹斎もとりあへず、 00039960L10△△なからへてまたこのことやおもはれん 00039970L11△△△うをゝとる/夜(よ)そいまハおそろし(九ウ) 00039980¥N2¥J 00039990¥X/秤(はかり)の/家(いへ)を/氏神(うちかミ)とあふく 00040000L14/一(ひと)とせ一休竹斎を同道し給ひ、/熱海(あたミ)の/湯(ゆ)を心さし、/関東(くハんとう)に 00040010L15下り給ひし次てに、奥州に立越、あつま廻り/仕(し)給ふ/砌(ミきり)、/去(さる) 00040020L16/奥(おく)山家にて、/川向(かわむかふ)の山/際(きハ)に、一在所の者ともあまた集り居 00040030L17て、とり※の/評定(ひやうちやう)をしけり。何事や覧と、川を渡り、 00040040L18しバし其/是非(ぜひ)を聞給ふに、在所のものとも秤の家をひろひ 00040050L19て、是ハ/瓢簟(ひやうたん)のやう成ものなるが、何にてかあるべき、い 00040060M1や是ハ天狗の/持(もて)る/扇子(あふき)の上/骨(ほね)成べしなど、さま※に沙汰 00040070M2する。中に年寄たるもの、杖をもつていらへバ、/蓋(ふた)のあき 00040080M3ける(十オ)をミて、いや+是ハ/化(ばけ)物にまがふ所なし、口 00040090M4をあくぞ、かまれ/な((ママ))どゝて、/騒(さハぎ)立れハ、両人おかしさいふ 00040100M5計なし。いで此ものどもをふしぎがらせて、/旅路(たびぢ)のつかれ 00040110M6ばらしにせんと思召れ、一休の仰らるゝハ、皆達それを得 00040120M7しらずや、是ハ一大事の物なり、定て天よりふりたるらん、 00040130M8/正(まさ)しく此所の/富貴(ふつき)/繁昌(はんしやう)の/瑞相(すいさう)なりと語り出し給へハ、里人 00040140M9大きに悦ひ、誠に左様成/謂(いハれ)も有物に候覧、知ぬ田舎のも 00040150M10のどもなれバ、とやかく/不思議(ふしぎ)に存候て、一在所集り、/僉= 00040160M11議(せん=ぎ)いたし見候へども、どれとても委存たるものなく候、然 00040170M12るに/幸(さいハひ)御出家の渡らせ給ふ事、/実(まことに)/有難(ありかたき)(十ウ)御事なり、 00040180M13急て此/謂(いはれ)を語り給ひ、/愚癡(ぐち)の我+を/示(しめし)してたひ候へと、 00040190M14ひざまついてぞひかへにける。その時/和尚(おしやう)、する+と岩 00040200M15ばなにかけあかり、/平懐(へいくハい)に/座(さ)を/組(くミ)、/膝(ひさ)の上に件の物を取の 00040210M16せ、座禅をして、目をふさき、その間にうそ八百をあんじ 00040220M17付、/暫(しハらく)有て/仰(おほせ)けるハ、いかに面&、かろ※しくハいはぬ 00040230M18事なから、ふしぎの縁にめくりあひ、か様の/妙器(めうき)を/拝(おか)む事 00040240M19の忝さに、由来を語りて聞するなり、おろそかに存べから 00040250¥P126 00040260L1ずとて、三度いたゞき、/夫(それ)此/器(うつわもの)の/根元(こんげん)を尋れバ、忝も六 00040270L2道の/能化(のうけ)、/地蔵菩薩(ちさうほさつ)、/伽羅陀山(からだせん)にして、百座の/禅定(せんちやう)をこ 00040280L3(十一オ)らさしめ給ひて、九十日の間にハ、/受持(じゆぢ)の/行読誦= 00040290L4農行解説(ぎやうどくじゆ=のきやうげせつ)の行、各三十日/宛(つゝ)/修(しゆ)し給ひて、残る十日は/書写(しよしや) 00040300L5の行とて、一切諸経の要文を、木&の落葉にかき給ひて、 00040310L6/有情(うしやう)/非情(ひしやう)/悉得(しつとく)/作仏(さふつ)と/唱(となへ)たまひ、山中に/蒔(まか)せ給へバ、その 00040320L7時/七宝(しつほう)の硯箱を、/蓮(はす)の/糸(いと)の八打にてくゝりたるが、/虚空(こくう)よ 00040330L8り/降(ふり)くだる、其/形(かたち)かくのごとし、然るを/菩薩(ぼさつ)、是を/閻魔(ゑんま)大 00040340L9/王(わう)のもとへつかハさるゝ、/閻王(ゑんわう)、大きに悦ひ給ひて、/娑婆(しやば) 00040350L10より来り居ける/亡者(もうじや)の中に、小細工の名人ありけれバ、是 00040360L11を召出されて、/閻浮樹(えんふしゆ)といふ木を、/須弥(しゆミ)(十一ウ)/山(せん)のいた 00040370L12ゞきより取寄られ、十の/硯(すゝり)を/拵(こしらへ)させて、十王たちに渡さ 00040380L13るゝ、十王是を請取、各/腰(こし)にさして、三悪道の/巷(ちまた)をめくり 00040390L14て、/罪人(さいにん)の/善(せん)/不(ふ)善を/正(たゞ)し、/科(とが)の/厚薄(こうはく)/軽(きやう)重を/分(わかち)て、帳面に 00040400L15しるし置、二/季(き)の/彼岸(ひかん)に、/帝釈(たいしやく)の/喜見城(きけんしやう)にて/勘定(かんちやう)を立らる 00040410L16ゝ、其時是をやたてにして、/帳相(ちやうあい)をし給ふ也、されバ/中(なか)に 00040420L17三/所(ところ)のくぼミあり、其大きに丸きハ、硯石をほり入たる所 00040430L18なり、又四角に長ミあるハ、/墨(すミ)を入る/穴(あな)なり、/長(なかふ)してほそ 00040440L19きハ、筆を入る/溝(ミそ)なり、此硯箱を名付けて、/奇妙宝寿(きめうほうしゆ)の硯と 00040450M1いふ、/抑(そも+)此/妙器(めうき)、此界に渡りし事、いづ(十二オ)れの/御= 00040460M2代(ミ=よ)ぞといへば、人王五十五/代(たい)、/文徳天皇(もんとくてんわう)の御宇にあたつて、 00040470M3/小野(をのゝ)/篁(たかむら)/不慮(ふりよ)に死して、/閻魔(ゑんま)王宮へ行、二度古郷へ/甦生(そせい)の 00040480M4/砌(ミきり)、大王より/餞(はなむけ)にとて、右十の内、ひとつ篁にたひ給ひて 00040490M5こそ、やう+/娑婆(しやば)へは、渡りにける、然るを篁おもへる 00040500M6にハ、かゝる大事の物をハ、/末世(まつせ)のもの是をしらすして、 00040510M7そまつにせハ、/罰(ばち)あたるのミならず、死して閻王のとがめ 00040520M8をふかく/蒙(かうふり)り、いかなるくるしミの/地獄(ぢごく)へおとし給はんも 00040530¥G 00040540¥P127 00040550¥G 00040560L12しらねハ、/不便(ふひん)の事なりとて、則閻魔大王の像を作りて、 00040570L13其御身の/中(うち)に/篭(こめ)給ふ、当時/都(ミやこ)の北千本(十二ウ)といふ/所(ところ)に、 00040580L14此/尊像(そんざう)おハしますなり、されども/其形(そのかたち)/世(よ)になくてハとて、 00040590L15/飛弾(ひだ)の/工(たくミ)に/誂(あつらへ)て、かくのごとくのものをうつしとめて、 00040600L16/今(いま)の/代(よ)まても/重宝(ちやうほう)とす、此/例(れい)をもつて、/蓋(ふた)の/上(うへ)に、/天下(てんか)に 00040610L17/一(ひとつ)つと/書付(かきつけ)をする也、いにしへ/是(これ)を/腰(こし)さしの/硯(すゝり)と/名(な)つけ、 00040620L18/詩哥(しいか)を/翫(もてあそ)ふ人は、/野山(のやま)/水辺(すいへん)へ/持出(もちいて)、/歌(うた)をよミ/詩(し)を/作(つく)り、 00040630L19/懐紙(くわいし)にとめ、/短冊(たんざく)に/書(かき)て、/花(はな)の/下枝(したえ)に/結(むすひ)つけ、/慰(なくさむ)ものなり 00040640M1し、(十三オ)(十三ウ・十四オ挿画)/中興(ちうこう)より、又/高野聖(かうやひしり)といふ 00040650M2もの、/夢想(むさう)の事ありて、此/箱(はこ)の/中(なか)へ、/秤(はかり)といふてかねかく 00040660M3るものを/取入(とりいれ)、/腰(こし)にさして/商買(ばい+)に/出(いつ)るより、/今(いま)時ハ/秤(はかり)とい 00040670M4ひならはしぬれとも、さにハあらず、そのはかりハ此/中(なか)に 00040680M5あるもの也、とかく/所(ところ)/繁昌(はんしやう)して、大かね/持(もち)なくてハなき物 00040690M6也、と/語(かた)り給へバ、かたすみにひかへ/居(ゐ)たるおのこ、すゝ 00040700M7み/出(いて)ていふ/様(やう)、又此ほか+と/口(くち)をあけ申物の/名(な)ハ/何(なに)と申 00040710M8候や、とてもの/儀(ぎ)に/承(うけたまハ)らんといふ。/其時(そのとき)竹斎、さし/心得(こゝろへ) 00040720M9ていふ。/如何(いか)にも/能所(よきところ)を/尋(たつね)られつるものかな、/先(まず)/中(なか)の/秤(はかり)に 00040730M10て/金銀(きん※)を/掛分(かけわけ)て、/箱(はこ)に/詰(つめ)たる時、/目出度(めでたし)と(十四ウ)も、/中(なか) 00040740M11+申はかりハとて、/中(なか)の/秤(ハかり)をいひ、又その/口(くち)あく物をは 00040750M12なかりけりと/名(な)づく、さるによつて、/云(いひ)つゞけてハ、めて 00040760M13たしとも中+申/秤(ハかり)ハなかりけりといふ/詞(ことハ)/始(はしま)りたりとかた 00040770M14る。人+/横手(よこで)をうち、/肝(きも)をつぶし、お/師匠様(ししやうさま)が物しり 00040780M15なれバ、御/弟子(でし)まてもおろかハないぞとほめたりける。一 00040790M16休/重而(かさねて)/仰(おほせ)けるハ、此まゝにて、うちおく物にハあらず、 00040800M17いそひて/堂(だう)か/宮(ミや)かへ、いわゐこめて、いよ+たうとミ申 00040810M18さるべし、/信(しん)あれば/徳(とく)ありと、古/人(じん)もいひをかれたるなれ 00040820M19バ、/努(ゆめ)&/疎(おろそ)かにめさるへからず、さらば+といひ/捨(すて)て、 00040830¥P128 00040840L1打つれ/山路(やまぢ)をおりら(十五オ)るゝ。/里(さと)のものども御あとを 00040850L2見/送(をく)り、あの/生如来(いきによらい)の物しりどのを、/能(よく)/寄(より)ておがめ、さた 00040860L3めて/是(これ)ハ/弘法様(こうほうさま)の/生(むま)れかはりでもあらふぞとて、/皆(ミな)/手(て)を/合(あハせ) 00040870L4て/拝(おが)ミにける。/誠(まこと)に/無下(むげ)の/事(こと)どもなり。かくて/在所(さいしよ)のもの、 00040880L5ひとつ/所(ところ)に/寄(より)こぞり、/香(かう)をたき/花(はな)を/手向(たむけ)、/隣郷近里(りんごうきんり)を/相触(あひふれ)、 00040890L6/老若男女(らうにやくなんによ)におがませける。/扨(さて)五七日も/過(すぎ)て、/岩(いは)かど/観音(くハんおん) 00040900L7とて、/山端(やまばな)にありし/茅(かや)ぶきの/小堂(せうだう)に、こめたりしが、/堂守(たうもり) 00040910L8とてもなかりければ、/一人宛(ひとりつゝ)、/在所(さいしよ)より/替(かは)り/番(ばん)にして、三 00040920L9/時(じ)の/念仏(ねんぶつ)なとをつとめ、/深(ふか)く/尊(たうと)ミしこそ、/愚(おろ)かとハいひな 00040930L10がらも、/殊勝(しゆしやう)の事なり。/然(しか)るにその(十五ウ)/年(とし)の/暮(くれ)に/及(をよん)て、 00040940L11/在所中(さいしよぢう)の/菜畠(なばたけ)/悉(こと+く)/虫付(むしつき)て、/青葉(あをば)なく/成(なり)けるより、むし/送(をく) 00040950L12りとて、/太皷(たいこ)かねにて、どしめけども、/更(さら)にしるしなけれ 00040960L13バ、/在所(さいしよ)の/口利(くちきゝ)とてとりはやさるゝものども、/彼小堂(かのせうたう)に/集(あつま) 00040970L14り、大/寄合(よりあひ)とて/相触(あひふれ)、/不残(のこらす)/並居(なミゐ)て/評判(ひやうはん)せし/中(なか)に、一/人(にん)にし 00040980L15り/出(いて)ていふやう、/日外(いつそや)、なかりけりさまの、/降(くた)らせられ 00040990L16しとき、/尊(たつと)き/御僧(おそう)の/物語(ものかたり)/有(あり)しを/聞侍(きゝはべ)るに、/少(すこし)にても/疎(おろそか)に 00041000L17してハ、/必(かならす)/罰(ばち)あたるべしと/宣(のたま)ひしに、此/比(ころ)ハ、はやその 00041010L18ことを/打忘(うちわすれ)て、かはり/番(はん)の/衆中(しゆぢう)の/内(うち)に、/何(なに)とそ/慮外(りよくわい)ばし/仕(し) 00041020L19給ひたるものならし、その/覚(おほ)えある人は(十六オ)、/急度(きつと) 00041030M1/仏前(ふつぜん)にて/降参(かうさん)せられよ、もし/隠置(かくしをき)、/後日(ごにち)にしれたるにおい 00041040M2てハ、/在所(さいしよ)の/住居(すまゐ)、/叶(かなふ)ましとそいひたりける。/其時(そのとき)、/猫(ねこ)ぜ 00041050M3なか/成男(なるおとこ)すべり/出(いて)ていふ/様(やう)、さなあらけなき事どもいはれ 00041060M4そよ、/我等(われら)ハ此なかれけりどのを、いはひこめらるゝ事、 00041070M5/抑(そも+)より/気(き)にハ/入(いら)ざれとも、/所(ところ)の/役目(やくめ)なれば、/勤(つとめ)たるなり、 00041080M6それをいかにといふに、/先(まつ)なかれけりといふ名こそ/不吉(ふきつ)な 00041090M7らめ、/是(これ)/菜(な)/枯(かれ)けるはずのけちにてあらん、百/姓(しやう)どもにハ、 00041100M8いやな/名(な)にてあれども、それなる/文盲(もんもう)なおやぢいが、かた 00041110M9しけながらるゝによりて、とかくハいはぬといへバ、/座中(ざちう) 00041120M10のものとも/聞(きゝ)て(十六ウ)、あゝ/疎忽(そこつ)なる人かな、いま+ 00041130M11し、勿/躰(たい)なし、それハ/悪敷(あしき)心入ぞといふ。かたすミより、 00041140M12/親(おや)なるもの/飛出(とひいて)、九/寸(すん)五/分(ぶ)のくさりあひ/口(くち)をひらめかし、 00041150M13たゝミをうつていふ様、やれ、それなる/畜生(ちくしやう)めよ、それほ 00041160M14どまで/成人(せいじん)したるハ、たが/影(かけ)ぞや、此/文盲(もんもう)が/影(かげ)ならずや、 00041170M15其かしこ/顔(がほ)する大たはけこそ、もんもうなれ、あまねく人 00041180M16のしれる、なかりけりの御事をさへ/覚(おほ)えかねて、なかれけ 00041190M17りとハ何事ぞや、をのがひが/耳(みゝ)をしらぬばちあたりめ、そ 00041200M18こをさるなととびかゝれハ、/皆(ミな)&いたきとめ、/仏(ぶつ)前にては 00041210M19/勿躰(もつたい)なし、ひらに/鎮(しつま)り給へといふ。むす(十七オ)こ大きに 00041220¥P129 00041230L1/腹(はら)を/立(たて)、/何罸(なにばち)あたりとや、/親(おや)なれバとて、こらへハせぬぞ、 00041240L2そこのき給へと、もろはたぬいでかゝりけるを、やう+ 00041250L3と/両方(りやうはう)/押(をし)とめ、とやかくとする/内(うち)に、ぬぎたる/肌(はだ)より/風(かせ)を 00041260L4引/込(こミ)、大/頭痛(づつう)/頻(しきり)につよくなりて、かほあかく/胸(むね)つまり、え 00041270L5物をもいはず、うちふしけれバ、すハ申さぬ事か、ばちが 00041280L6あたりさふらふぞと、/堂(たう)の/前(まへ)を/洗清(あらひきよ)め、/山伏(やまぶし)をよび/寄(よせ)、/祈= 00041290L7念(き=ねん)などしたりしほどに、やう+/正気付(しやうきつき)、/目(め)の/内(うち)もあざや 00041300L8かになりけれバ、/万死(はんし)一/生(しやう)の/難(なん)をまぬかれ、さて/佗言(わひこと)を申 00041310L9/上(あげ)でハとて、さま+に/降参(かうさん)し、/蜀黍団子(たうきびだんこ)、/麦食(むぎめし)やう(十 00041320L10七ウ)の物、とりつくろひ、/宝前(ほうぜん)に/備(そなへ)て、/肝胆(かんたん)くだき/歎(なけき)に 00041330L11ける。/里(さと)人此様子ミしより、/猶(なを)/恐(おそろ)しく/尊(たうと)く/覚(おほ)えて、いざや 00041340L12/所(ところ)の/氏(うち)神さまにせんと、/俄(にハか)に/宮(ミや)を/立(たて)て/祝込(いはゐこめ)、/日毎(ひこと)にあゆミ 00041350L13をはこびにける。(十八オ)(十八ウ挿画)されとも/祭(まつり)なくてハ、 00041360L14いかゝ成べきとて、ふり/鬮(くじ)にして、禰/宜(ぎ)を/定(さだめ)、一/在所(ざいしよ)より、 00041370L15/鳥目(てうもく)をくゝり/寄(よせ)、京/都(と)/吉田(よした)殿に行て、/祭(まつり)の/作法(さほう)を/習来(ならひきた)るべ 00041380L16しとて、都をさして、のほりにける。かくて四五日/計(ハかり)に/道= 00041390L17中(だう=ちう)戸/塚(つか)といふ/所(ところ)に/付(つき)たり。はや/暮(くれ)がたになりたりけれバ、 00041400L18/宿(やと)を/求(もとめ)、/労(つかれ)をはらしける。/折節(おりふし)/相宿(あひやと)の/旅人(りよしん)、/銭売(ぜにかい(ママ))けるをミ 00041410L19れバ、/件(くだん)のなかりけりの/中(なか)より、/秤(ハかり)を/取出(とりいだ)し、/銀(かね)かけたり 00041420¥G 00041430M12しを、つく※とながめ/居(ゐ)て、いひけるハ、/其方(そのはう)にハ、い 00041440M13ま+しやな、なかりけりさまを/足本(あしもと)にけちらかし給ふ事 00041450M14こそ、/勿躰(もつたい)なし、/我(われ)(十九オ)/等(ら)が/在所(さいしよ)にて、/此比(このころ)もあしく 00041460M15したるものハ、大きなる/罸(ばち)をあたりて、十/死(し)一/生(しやう)にてたす 00041470M16かり申といへば、/旅(たび)人/聞(きゝ)て、/何(なに)事を/宣(のたま)ふそや、/気(き)ハ/違(ちが)ひ/侍(はべ) 00041480M17らずやといふ。百/姓(しやう)/腹(はら)を/立(たて)、/我(われ)此なかりけりの御事にて、 00041490M18/京(きやう)/吉田殿(よしたどの)へのほる/神主(かんぬし)なり、/汝等(なんちら)に/罸(ばち)あたらんことを/不= 00041500M19便(ふ=びん)におもひて、いらざるとはず/物語(ものかたり)せしに、/忝(かたしけなし)とハ/思(おも)ひ 00041510¥P130 00041520L1侍らで、/気違(きちがひ)といふこそ/心得(こゝろへ)ず、/田舎者(いなかもの)なれバ、/侮(あなとる)か、な 00041530L2かりけりも/御照覧(ごせうらん)あれ、/赦(ゆる)しハせぬぞ、/打果(うちはた)して/死(し)なんと 00041540L3いふ。/旅(たひ)人/亭主(ていしゆ)/立騒(たちさはぎ)て、やう+にとりしづめ、/隣(となり)あたり 00041550L4かり/集(あつめ)て、二三十ばかりもなげ/出(いだ)(十九ウ)して、/其方(そのかた)の/旦= 00041560L5那殿(たん=なとの)ハ、此あたりの/遣(つかひ)物なりとて/笑(わら)ひけれバ、/禰宜(ねき)/是(これ)をミ 00041570L6て/肝(きも)をつぶし、/思案(しあん)の/躰(てい)にみえけるが、/扨(さて)ハ/珍敷(めつらしく)なき物な 00041580L7るを、/知(しら)ぬ/田舎(いなか)のあさましさに、/神(かミ)にハ/祝(いハ)ひ/侍(はべ)るよと/思(おも)へ 00041590L8バ、いとゝ/恥(はつ)かしくなり、/寝所(ねところ)にこそ+とかけ/入(いり)て、/終= 00041600L9夜(よす=がら)とやかく思ひ/煩(わづら)ひ、いや+かゝる/様子(やうす)をみながら、/遥(はる) 00041610L10&/京(きやう)まで/上(のほ)り、又/後悔(こうくわい)する/事(こと)やあらん、ひと/先(まつ)/国本(くにもと)へ/下(くた)り、 00041620L11/寄合(よりあひ)の/上(うへ)にて、又こそ/上(のほ)り侍るべき、/夜明(よあけ)て人に/笑(わらハ)れんよ 00041630L12りハ、しよせん/夜(よ)ぬけにせばやと、さし/足(あし)して/立出(たちいで)けるが、 00041640L13しば(二十オ)しとゝまり、/門(かと)の/口(くち)にてかく、 00041650L14△△ほの+とあかしてうらがあさめしを 00041660L15△△△えこそくらはで/行(ゆく)おしそおもふ 00041670¥N3¥J 00041680¥X/当話(たうわ)にこまる/山臥(やまぶし) 00041690L18一/休(きう)/竹斎(ちくさい)/諸国(しよこく)/廻(まハ)りの/比(ころ)、/高田(たかた)といふ/所(ところ)より/清田(きよた)の/方(かた)へ/趣(おもむき) 00041700L19給ふ/時(とき)、/道中(とうちう)にて/山伏(やまぶし)/出合(いてあひ)、一休/和尚(おしやう)をミて、お/僧(そう)にハい 00041710M1づくへ御/通(とを)りぞと/問(とひ)たりしに、かうでんよりせいでんにげ 00041720M2すとぞ/宣(のたま)ひける。山/臥(ぶし)/是(これ)を/聞(きゝ)、/更(さら)に/合点(がつてん)なく、かすぼのす 00041730M3つ/□((かカ))りすつぼのかすよと/答(こたへ)にける。一休和尚ハ又此/答(こたへ) 00041740M4にこまり(二十ウ)/入(いり)給ひて、/何(なに)と/案(あん)し給へど、/更(さら)+/分明(ふんミやう) 00041750M5ならねバ、いか/成(なる)御/心(こゝろ)にて、かくハ/答(こた)へ給ふ、/深(ふか)き御心に 00041760M6こそと/仰(おほせ)ければ、山/伏(ぶし)/聞(きゝ)て、いや、そなたにわけもなき 00041770M7事をいはせらるゝによりて、/此方(こなた)にも/筋(すぢ)なき事を申て候と 00041780M8いふ。和尚から+とうち/笑(わら)ひ給ひて、/我等(われら)が申たる事ハ、 00041790M9/高田(たかた)より/清田(きよた)へ/下(くた)るといふ事也、さほとに/御謙退(ごけんたい)し給はず 00041800M10とも、いか/成(なる)御心入にて候やらん、/被仰聞(おほせきけられ)よと/有(あり)けれハ、 00041810M11山伏、/今(いま)ハとくと/思(おも)ひわけたりけれども、/今更(いまさら)/我(わが)いひし事 00041820M12/道理(たうり)なき事なれバ/力(ちから)/及(をよ)はす、いや/某(それかし)が申たる事ハ、/高田(かうでん) 00041830M13より/清田(せいでん)へと/仰(おほせ)られしほどに、(二十一オ)/然(しか)らハそふ御/座(さ)候 00041840M14へ、/此方(こなた)ハかふまいると申たるに候といひ/紛(まぎら)かしたりけれ 00041850M15バ、一休も竹斎も/片腹(かたハら)を/押(をさ)へ大/笑(わら)ひし、それより打つれ、 00041860M16ひたもの/語(かた)り/行(ゆき)て、/並松(なミまつ)の/下陰(したかけ)/凉敷(すゝしく)/風流(ふうりう)なる/所(ところ)ありけれバ、 00041870M17いさとて三人/立寄(たちより)、/茶(ちや)なと/呑(のミ)ながら、ふと竹斎/問出(とひいだ)しける 00041880M18は、/何(なに)と/御坊(ごほう)、/其方(そのかた)の/宗旨(しうし)を山/伏(ぶし)と申/習(なら)ハしたるゆへは、 00041890M19/如何成(いかなる)事にて候ぞ、きかまほしといへハ、さん候、/我等(われら)が 00041900¥P131 00041910L1/宗(しう)と申は、/忝(かたしけなく)も/役(えんの)/行者(きやうしや)の/跡(あと)を/継(つき)、/金胎両部(こんたいりやうぶ)の/峯(ミね)をわ 00041920L2け、/岩根(いはね)の/枕(まくら)、/莓(こけ)の/衾(ふすま)、/谷峯(たにミね)を/宿(やと)として、山/路(ぢ)に/打臥(うちふす)身な 00041930L3れバ、山/伏(ぶし)とハ申也、此/難行(なんきやう)の/功積(こうつも)り(二十一ウ)て、/修験(しゆけん) 00041940L4の/徳(とく)を/天下(てんか)に/曜(かゝや)かし、/死(し)せる/者(もの)をもいかし、/狂気(きやうき)をもしつ 00041950L5むる、/是(これ)一大/乗(しやう)の/法義(ほうき)にあらずやといふ。/竹斎(ちくさい)又/問(とふ)、/其(その)か 00041960L6ふり給ふ/物(もの)を/頭巾(ときん)とハいかん、御/不審(ふしん)/尤(もつとも)なり、/古歌(こか)にと 00041970L7て、 00041980L8△△/山伏(やまぶし)かやまのなりしたものをきて 00041990L9△△△/貝吹(かいふく)ときんぞあきのミねいり 00042000L10と/侍(ハべ)るよりして、かく/名付(なづけ)たることの/葉(は)也といへバ、又す 00042010L11ゞかけとハ、いか/成謂(なるいハれ)に候ぞや、/迚(とても)の事に/承(うけ給ハ)らんといふ。 00042020L12されバ此すゝかけと申事も、/同(おなしく)/高(たか)きミやまを/分入(わけいり)、/嶮(けハ)し 00042030L13き/谷(たに)のそハつたひ、/蔦葛(つたかづら)を(二十二オ)/便(たよ)りとして、/岩間(いはま)を 00042040L14のほる/其時(そのとき)にハ、/手(て)くゞまり、ミも/冷(ひえ)て、/貝吹(かいふく)いきもたえ 00042050L15+なれバ、/錫(すゝ)の/酒器(しゆき)を/結付(むすひつけ)て、/苔(こけ)の/莚(むしろ)、/岩根(いはね)の/囲(かこ)ミ、/散= 00042060L16敷(ちりニしく)/松葉(まつば)をかき/集(あつめ)、/各(をの+)/余多(あまた)の/山伏(やまぶし)とも、/寒日(かんじつ)の/労(つか)れをはら 00042070L17し、又わけのほり、又/休(やす)ミ、/道(ミち)なき/所(ところ)をふミ/分(わく)る、/是(これ)/我宗(わかしう) 00042080L18の/掟(おきて)なりと/語(かた)る。/金剛杖(こんこうつえ)とハ又いかに。さん候、/是(これ)ハ又/山= 00042090L19峯(さん=ほう)の/不自由(ふしゆ)なる/山家(さんか)にハ/足半(あいなか)とても/侍(ハへ)らねバ、/兼而(かねて)/草履(さうり)を 00042100M1/用意(ようい)して、比/桧木棒(ひのきほう)にくゝり/付(つけ)、/各(をの+)/持参(ぢさん)/仕(つかまつり)、大/護摩堂(ごまたう)の 00042110M2/上(うは)ばきにいたし候なり、されバ/草履(ざうり)の/異名(いめう)として、/金剛(こんこう)と 00042120M3いひな(二十二ウ)らはす、是ハ/我家(わかいへ)の/詞(ことば)なり、/猶(なを)/不審(ふしん)に思 00042130M4召事侍らは、御/尋(たつね)候へといふ。一休も竹斎も、/扨&(さて+)/存(そんじ)の 00042140M5ほか/速(すミやか)なる/謂(いハれ)を/語(かた)り給ひたるものかな、/数年(すねん)の/疑意(ぎい)を/晴(はら)し 00042150M6申事、是/偏(ひとへ)に/物知(ものし)れる/方(かた)に/出合(いてあひ)たる/故(ゆへ)也と、ほめそやされ 00042160M7し/程(ほと)に、山/伏(ふし)うちほゝゑミ、ふはと/乗(のり)て、うれしさのまゝ、 00042170M8おりふし/瓜(うり)/商(あきな)ふ/者(もの)ありければ、いづれもさまにハ、/真桑瓜(まくわうり) 00042180M9/召上(めしあげ)られまじや、ひとつまいらせんとて、/腰(こし)のさすがをす 00042190M10るりとぬき、ぐる+と/皮(かは)をむいて、/両人(りやうにん)へぞ/振舞(ふるまひ)ける。 00042200M11一休も竹斎も、したゝかにとり/喰(くい)、/其上(そのうへ)に/彼(かの)さすがをひん 00042210M12のごふて、/平(ひら)ゆた(二十三オ)むの/中(なか)に/押入(おしいれ)、/空嘯(そらうそふい)ておハ 00042220M13しける。山/臥(ぶし)/肝(きも)をつぶし、こハいかに、/其(その)さすが/此方(こなた)へ御 00042230M14/返(かへ)し候へといふ。一休の/曰(いハく)、いや返し申まじ、是ハうりき 00042240M15つてをきながらとて、から+と/打(うち)わらはせ給へハ、山臥 00042250M16も心/得(え)かたきへんじと/思(おも)ひながら、/高田(たかた)より/清田(きよた)の/詞(ことバ)に/恥= 00042260M17辱(ち=じよく)をとりたれバ、/無理(むり)にも/得取返(えとりかへ)しかたく、いかなるいひ 00042270M18/分(ふん)ぞとつく+/考(かんがへ)けれバ、/瓜(うり)/切(きり)たるといふ事を、/売(うり)きつ 00042280L19たると/詞(ことハ)のてにはにて、/答(こたへ)たる也。/扨&(さて+)むつかしき/法師(ほうし)ど 00042290¥P132 00042300L1もかな、/何(なに)をかな/能(よき)当話(たうわ)をいひて、/取返(とりかへ)さハやと、さま 00042310L2※/案(あん)し、/偈僧(がつそう)あたまをわらすれども、/一口(ひとくち)も/出(いて)ず、やう 00042320L3+の(二十三ウ)/詰(つま)り/口(くち)に、如何に/御僧(おそう)、/其方達(そのはうたち)のかぶれ 00042330L4る/帽子(もうす)にハ、/牛糞(ぎうふん)/何程(なにほど)/入(いり)可申やといふ。一休の/曰(いハく)、されば 00042340L5山/伏(ぶし)のときんに、二三十/盃(ばい)ほとも入/侍(ハべ)らんと/仰(おほせ)られけれバ、 00042350L6山伏/弥(いよ+)/腹(ハら)をすへかね、/今(いま)ハとかうの事なく、/悪口(あくこう)になり 00042360L7て、/昼強盗(ひるがうだう)よ、/生(いき)ずりめなとゝて、とよみになつてぞわか 00042370L8れにけり。(廿四オ)(廿四ウ挿画)かくて一休竹斎ともに/無興(ふけう) 00042380¥G 00042390M1に成て、さすがを/返(かへ)すべき/首尾(しゆび)もなく、手持あしく/木陰(こかけ)を 00042400M2立出、/彼者(かのもの)の/跡(あと)につきゆき、/最早(もはや)其日も入相比に成けれバ、 00042410M3/泊(とま)り/求(もとめ)んとて、宿をも/向(むかひ)合に取侍られしに、山伏方より 00042420M4使立ていふ/様(やう)、/旅(たび)つかれ/晴(はら)さんため、/水風呂(すいふろ)に入て見候へ 00042430M5ば、またくらの/毛(け)が/夥敷(おひたゝしく)/茂(しげ)り申て候なり、/願(ねかハく)ハお僧の/剃= 00042440M6刀(かミ=そり)/一丁借用仕度候とぞいひやりける。一休聞召、いかにも 00042450M7やすき御用にてハ候へ共、/此方(こなた)にも/剃刀(かミそり)/持(もち)合せされバ、事 00042460M8を/欠(かき)候なり、我+かまたぐらにも、山伏のあたまほどは 00042470M9へて、/迷惑(めいわく)仕とぞ被仰ける。此返事に又ぞやいひ/込(こめ)られ、 00042480M10ちよ(廿五オ)ろりさすがを/失(うしな)ひける。その時、 00042490M11△△/禅僧(せんそう)はさすかに口かかしこくて 00042500M12△△△山ぶしまても/腰(こし)に付ぬる 00042510¥N4¥J 00042520¥X/河豚汁(ふくとうじる)の/咒(まじじひ) 00042530M15一休、竹斎を語らひ給ひて、/蜷(にな)川新右衛門/宅(たく)へ雪見におは 00042540M16しましける時、折節/勝手(かつて)の方より/洩来(もりく)る風に、/鼻(はな)を/驚(おどろか)す 00042550M17/魚汁(ぎよじう)の匂ひ/芬&(ふん+)としてげれハ、一休ふしぎそふに/頭(づ)をかた 00042560M18ぶけ居給ふが、得こらへぬかざなれバ、何をか/料理(れうり)し給ふ 00042570M19ぞや、/梅蘭菊(むめらんきく)の匂ひとても、是程にハ/覚(おほ)え申さず、/腹(ふく)中の 00042580¥P133 00042590L1時分も/最(さい)中なれバ、とく+(廿五ウ)/急(いそ)がれ候へと/仰(おほせ)ら 00042600L2れけれバ、新右衛門承り、いや是ハ/和尚(おしやう)さまにまいる物に 00042610L3てハさふらはず、此/比(ころ)の/夜寒(よかん)にて、/寸白気(すはくけ)に御/座(さ)候へバ、 00042620L4/薬(くすり)/喰(くい)にと存、二三日/以前(いぜん)よりたべかゝりたる/河豚汁(ふくとうしる)の/匂(にほ) 00042630L5ひにて/侍(ハべり)候なれど、和尚/様(さま)の御/出(いで)ゆへ、/俄(にはか)に/止(やめ)申なりとあ 00042640L6れバ、竹斎がいふ/様(やう)、さしも/名(な)を仰られし御身の、あらぬ 00042650L7/毒魚(どくきよ)を/好(このミ)給ひて、若もの事侍らば、/蜷川(になかハ)の名を/流(なか)せるのミ 00042660L8ならず、/不覚(ふかく)人の名取し給ハん事、子孫までの/恥辱(ちじよく)にて無 00042670L9御座かと、さん※にはぢしめたりければ、一休の仰らる 00042680L10ゝハ、いや竹斎の身にてハ尤の/云分(いひぶん)なれども、又出家の上 00042690L11にていハゞ、とても(廿六オ)此世ハかりの宿、/電光朝露(てんくハうてうろ) 00042700L12の身を持て、三/界無安(かいむあん)の家に/住(すミ)、/石火(せきくハ)の/影(かげ)よりもろき命に 00042710L13て、/誰(たれ)かながらふべき、身を捨てこそうかぶ/瀬(せ)の、夜の/間(ま) 00042720L14にかはる/飛鳥(あすか)川、ながれてはやき年月を、心て心/慰(なぐさめ)て、 00042730L15それより後は行だをれ、/骸(かはね)ハ/野路(のぢ)の土に/埋(うづ)ミ、名バかり残 00042740L16る/生死(しやうじ)の道、/喰(くふ)者もとゝむる人も、いづれか/万歳(ばんぜい)をたもつ 00042750L17べき、くるしからぬ御事なり、急ひで/聞召(きこしめさ)るべし、薬/喰(ぐい)と 00042760L18有上は、出家の身にも/科(とが)ハなし、我等/相伴(しやうバん)いたすべき、そ 00042770L19れ+と仰けれバ、新右衛門うけ給り、げにも+、出家 00042780M1の御身なれバ、/余(よ)の人にハかはり給ふべし、/実(けに)御経にも 00042790M2(廿六ウ)、/還着於本人(げんぢやくをほんにん)、科(とが)をば/某(それかし)/負(をひ)申べし、/竹老(ちくらう)にも被 00042800M3召上よ、さらば出し申さんとて、/勝手(かつて)をさして/立(たゝ)れければ、 00042810M4竹斎袖にすがり付て、 00042820M5△△ふかき江のこほりわたると/毒(とく)くふと 00042830M6△△△やねを/走(はし)るぞうつけなるらん 00042840M7と申哥も候へバ、ひらさら御無用候といふ。新右衛門少/腹= 00042850M8立(ふく=りう)とみえて、かく/頓句(とんく)せられたりける、 00042860M9△△毒/薬(やく)をなめて見給ふ/神農(しんのう)も 00042870M10△△△うつけなりせば/医者(いしや)の身もそれ 00042880M11とぶつめかれけれバ、和尚/座(ざ)中の/興(けう)さめたりし事(廿七オ)を 00042890M12きのどくにおぼしめして、ちく殿にハいまだ此/魚(うを)の/威徳(いとく)を 00042900M13しろしめさずや、/語(かた)りて聞せ申べし、/抑(そも+)/河豚魚(ふくとう)といつは、 00042910M14/昔年(そのかミ)/相模国(さかミのくに)/大磯(おほいそ)に名取の/遊君(ゆうくん)、とら御/前(せん)とてありけるが、 00042920M15/海道(かいどう)二番の/美人(びじん)にて、/情(なさけ)世にたぐひなけれバ、せめて/手枕(たまくら) 00042930M16になりとも、/積(つも)るおもひを/晴(はら)し、つけさしのぐつ+に、 00042940M17うき年月の/積(しやく)の/虫(むし)を/押(をし)さげ、/髪(かミ)の/油(あぶら)の/移香(うつりか)をだに、君の名 00042950M18残と/惜(をし)ミ、あらき風にもあてぬほどに心をなやますもの、 00042960M19/幾(いく)万人の数をしらず、書送る/玉章(たまつさ)ハ/千束(ちつか)の山と/積(つも)り、立廻 00042970¥P134 00042980L1りのなりふりハ、阿弥陀如来の来/迎(かう)かと、みる人心をなや 00042990L2ま(廿七ウ)して、皆/巾着(きんちやく)の/皮(かは)をむき、/銭金(せにかね)を/抛(なげうつ)よりして、 00043000L3家富/栄(さか)へ、何ほしゐとも思はす、/夫故(それゆへ)/貧(ひん)なる十郎/祐(すけ)成と/馴= 00043010L4副(なれ=そひ)、べに/白粉(おしろひ)の/無心(むしん)もせず、/結句(けつく)袖の下から心付の見/次(つぎ)を 00043020L5して、/幾(いく)年月を/比翼連理(ひよくれんり)と/契(ちぎり)りけるが、十郎死て後、/髻(もとゝり) 00043030L6を切て、/蓼(たで)/摺(すり)こ/木(き)の/青道心(あをだうしん)を/発(おこ)し、/辛(からき)世をにつこりと/暮(くら)す、 00043040L7されども/虎(とら)心におもふ/様(やう)ハ、/迚(とても)/比丘尼(ひくに)の身と成て、二/度(たび)/栄= 00043050L8花(えい=くわ)をすべきにてもあらざれハ、/欲(よく)がましく金銀を/貯(たくハ)へて何 00043060L9にかせんと、年/久敷(ひさしく)ため/置(をき)たる、かね/袋(ぶくろ)を取出し、/縁(えん)有 00043070L10かたへ行やとて、/磯(いそ)打/波(なミ)になけ入ければ、此/皮(かは)袋、/沖(おき)(廿 00043080L11八オ)に/流(なかれ)出て/性(しやう)をかへ、一つの魚と/化(け)したりしを、/龍宮(りうくう) 00043090L12にて名/改(あらため)ありし時、此魚に名のなき事を吟味の上にて、 00043100L13/虎(とら)御前のゆかりなれハと、虎の一字を上に/置(をき)、金銀の/情(せい)な 00043110L14りとて、/福(ふく)といふ字/儀(き)を下に付て、/虎鰒(とらふぐ)と名をゆるされ、 00043120L15/代(よ)+の/末(すゑ)まて子/孫(そん)をさかへ、/浦(うら)浦嶋+をあそひ/廻(めぐ)る処 00043130L16に、/網(あミ)引のために引上られ、魚屋町にかはねを/曝(さら)し、/世俗(せぞく) 00043140L17の/食(しよく)物に成はつれども、人ことにそねミふかくして、/毒魚(とくきよ) 00043150L18なとゝいひなす事、/皆(ミな)/料理(れうり)人の/科(とが)なるべし、(廿八ウ)(廿九 00043160L19オ挿画)もとより/金銀(きん※)ハ人の/内証(ないしやう)をあたゝむる物なれバ、 00043170¥G 00043180M12/魚(うを)とは/形(かたち)をかへながらも、/猶(なを)人の身を/温(あたゝむ)る、/其功(そのこう)、/附子(ぶし)、 00043190M13/干姜(かんきやう)に/越(こえ)たり、/迚(とても)/不定(ふちやう)の身を/持(もち)て、/惜(おしむ)もなとて/甲斐(かひ)あらん 00043200M14や、ひらに御/出(いた)し候へ、たべ申さんとありけれバ、新右衛 00043210M15門/悦(よろこひ)、さあらば出し申べしと、ミづから/給仕(きうじ)して、もて 00043220M16なされける。その/時(とき)竹斎いふ様、さて+/結構成儀(けつこうなるき)を/承(うけたまハ) 00043230M17り候ものかな、/貧(ひん)なる/我等(われら)が身には、いよ+/薬(くすり)そふに/存(そんず) 00043240M18る也、二世まて頼奉りし和尚様の、/苦(くる)しからずと/宣(のたま)ふから 00043250M19ハ、/何(なに)かはもつて/辞(じ)し申べき、/諸(もろとも)にとぞ/望(のぞミ)にける。新右衛 00043260¥P135 00043270L1門、/今(いま)は(廿九ウ)/心(こゝろ)よげに/打笑(うちわら)ひて、しゐたりける/程(ほど)に、 00043280L2和尚も竹斎も、いきのはづむ/計(バかり)/喰込(くいこミ)て、竹斎、 00043290L3△△しのぶれといろに/出(で)にけりふぐ/汁(しる)に 00043300L4△△△ものやおもふと人のとふまて 00043310L5新右衛門とりあへず返し、 00043320L6△△/鰒汁(ふぐしる)をくはれてげりないたづらに 00043330L7△△△/我(わか)身しらずに/給仕(きうじ)せしまに 00043340L8一休/出来(でき)たりとほめ給て、また、 00043350L9△△かくとだにえやハ/亭主(ていしゆ)もふぐ/汁(じる)の 00043360L10△△△/味(あぢ)をしらじなうまいこゝろを(三十オ) 00043370L11新右衛門、又/返(かへ)し、 00043380L12△△これやこのゆくもかへるも/給仕(きうじ)して 00043390L13△△△/汁(しる)をしらぬも/大(おほ)ぐひにこそ 00043400L14か/様(やう)に/戯(たハふれ)らるゝ/内(うち)に、竹斎/俄(にハか)に/面色(めんしよく)/斑(まだら)に/成(なり)て、/目(め)を見/詰(つめ)、 00043410L15すた+とそいひける。さてハ/汁(しる)に/酔(ゑひ)給ふかとて、新右衛 00043420L16門/肝(きも)をつぶし、/立(たち)さハかれけれバ、その/時(とき)一休/何(なに)やらん/紙(かミ) 00043430L17ぎれに一/筆(ふて)あそバして、竹斎か/口(くち)に/押入(をしいれ)給へバ、/忽(たちまち)/正気= 00043440L18付(しやうき=つき)、/色(いろ)/能(よく)なりて、もとのごとくみえけり。こハ/有難(ありかたき)御事 00043450L19かな、/御封(ごふう)にて候かと/問(とひ)まいらせしに、さる物にハあらず、 00043460M1/是(これ)ハ/厭(まじない)なり、さらハ/重而(かさねて)(三十ウ)のために/伝(つた)へ申さんとて、 00043470M2/書付(かきつけ)給ふにハ、七/難則(なんそく)/滅(めつ)しちふぐ/食傷(しよくしやう)といふ/文(もん)なり。/誠(まこと)に 00043480M3/智者(ちしや)のたはふれにハ、かゝる/奇特(きとく)/有(ある)事かなと、皆+/感(かん)じ 00043490M4あへり。とかくして、竹斎いよ+心よくおほえければ、 00043500M5△△ふぐ/汁(しる)かなにぞと人のとひしとき 00043510M6△△△/毒(どく)とこたへてすてなましものを(卅1終オ) 00043520¥Y1杉楊枝第四 00043530L3△△/嶋田(しまた)にて竹斎/手柄(てがら) 00043540L4△△ひしほの/狂哥(きやうか) 00043550L5△△一休/亡者(もうしや)と/問答(もんだう) 00043560L6△△一/休(きう)/餅(きうもち)にて/絶入(せつじ) 00043570L7△△/淋病(りんびやう)の/養性(やうじやう) 00043580¥T1杉楊枝第四 00043590¥N1¥J 00043600¥X/嶋田(しまだ)にて竹斎/手柄(てがら) 00043610M5/一(ひと)とせ一休、竹斎/同道(とうたう)にて/関東(くハんとう)/下向(げかう)の/砌(ミきり)、/和尚(おしやう)ハ/鹿蔵(しかさう)とい 00043620M6ふ/者(もの)に/平(ひら)ゆたん/首(くひ)にかけさせ、竹斎ハ/例(れい)の御/為者(ためしや)に/渋紙包(しふかミつゝミ) 00043630M7を/負(をハ)せなどして、上下四人の/旅(たひ)の/空(そら)、/晴間(はれま)もなつの/五月雨(さミたれ) 00043640M8に、ぬれにそぬれし/破(やふれ)れ/笠(かさ)、今そ/憂目(うきめ)にあふミ路や、大津 00043650M9の/浜(はま)の/浦風(うらかせ)に、つらぬきとめぬ/玉(たま)そちる、/草(くさ)津の/餅(もち)に/腹(はら)ふ 00043660M10くれ、取はづしせし/石(いし)べの/宿(しゆく)、/行(ゆけ)ば/跡(あと)よりさもしやと、み 00043670M11な/口(くち)+にわらふなる、五/盃(はい)/機嫌(きげん)の/千鳥足(ちとりあし)、あゆみかねた 00043680M12る/土(つち)山や、/坂下(さかのした)までころび(二オ)おち、いとゞ心やせきぬ 00043690M13らん、しばし/火縄(ひなハ)に火を/付(つけ)て、たばこのミつゝちとやすむ。 00043700M14/地蔵堂(ぢざうたう)にも成ぬれば、一休やかてかけあがり、見/知(しり)給ふか 00043710M15御/本尊(ほぞん)と、/矢立(やたて)の/筆(ふで)を取出し、そばな/柱(はしら)にかくハかり、 00043720M16△△/開眼(かいげん)に/結(むす)びし/布(ぬの)のふどしをば 00043730M17△△△/旅(たひ)立けふのかぜやとくらん 00043740M18となん/書(かき)付給へば、/俄(にはか)に/須弥壇(しゆミたん)の/方(かた)より、/妙(たへ)なる/御声(ミこゑ)/聞(きこ)え 00043750M19て、かく、 00043760¥P137 00043770L1△△人はいさこゝろもしらずふるふどし 00043780L2△△△/鼻(はな)ぞ/昔(むかし)のかに/匂(にほ)ひける(二ウ) 00043790L3こハ/地蔵菩薩(ちざうほさつ)の御/返哥(へんか)ならしと思ひ/迷(まとへ)るに、/堂内(たうない)ゆすゆす 00043800L4として/奇瑞共(きすいとも)/多(おほ)かりける。やゝふしおがミ、/落涙(らくるい)し、ほう 00043810L5て出ぬる/亀(かめ)山や、/万代(よろつよ)まてもながらへて、楽をせうのゝ/米= 00043820L6俵(こめ=だハら)、とかく/憂世(うきよ)ハ是ぞとて、見ても/悦(よろこ)ぶ竹斎が、手/柄(がら)で/治(ぢ) 00043830L7する病人ハ、/髪(かミ)/堅(かた)かれや/石薬師(いしやくし)、たのミかけをく/穴石(あないし)ハ、 00043840L8つんぼならねど/聞(きこ)えぬと、/恨(うらミ)ぬやうに我をのみ、/守(まも)り給へ 00043850L9と/祈(いの)るなり。されバまふてし/諸人(もろびと)も、日かずをつミて四日 00043860L10/市(いち)、/駄荷乗懸(たにのりかけ)やから/尻(しり)も、こゝにつどひて/寄波(よるなミ)の、/磯(いそ)へ付 00043870L11ぬるわたし/船(ぶね)、さらばといひてのりあひと、あのゝものゝ 00043880L12そのうちに、七/里(り)をはしる/夢(ゆめ)の/間(ま)は(三オ)、なんのくハな 00043890L13いとハいへど、/地獄(ぢごく)の上の/飛(とび)こぐら、/命(いのち)を/掛(かけ)て/頼(たのむ)なる、/宮= 00043900L14居(ミや=ゐ)/凉(すゝ)しき/杜(もり)かげを、/熱田(あつた)といふハ世の人の、是ハ/虚言(そらごと)なる 00043910L15ミぞと、/戯(たは)言いひて/芋(いも)川の、うどん/蕎麦切(そばきり)/望(のそ)ましく、いざ 00043920L16といひつゝ立寄れハ、ばつとちりうの/牛蝿(うしばひ)や、/袖(そで)に取付あ 00043930L17ちものゝ二八ばかりとみえつるが、さもやさかたなこはい 00043940L18ろに、あがらさんせの/嬉(うれ)しくて、お/名(な)ハと/問(と)へば是や此、 00043950L19/行(ゆく)も/帰(かへ)るも/別(わかれ)てハ、あとを見かへり袖しぼる、/岡崎女郎(をかさきじよらう)の 00043960M1名/取達(とりたち)、/左右(さゆう)にならぶ/並(なミ)松も、花の/咲(さく)なる/藤(ふち)川や、ながれ 00043970M2の袖の/脇(わき)あけに、/引(ひき)とめられてはもじやと、/顔(かほ)に/紅葉(もミち)の/赤= 00043980M3坂(あか=さか)や、ごゆうち/過(すき)て行ほと(三ウ)に、/道(ミち)も/吉田(よした)にふミ/迷(まよ)ふ、 00043990M4あちらこちらのふた川や、わたりくらふるさかい/橋(はし)、かけ 00044000M5ても/落(おち)ぬから/尻(しり)ハ、とれがよいやらしらすかの、馬やつな 00044010M6ぎて/待(まち)ぬらん。さらばうちのりいそがんと、思ふ心もせは 00044020M7しなく、/泊(とま)りを/急(いそ)くすき/腹(はら)に、目も/舞坂(まひさか)へやう+と、を 00044030M8よぎついたる/浜(はま)松の、ひゞきにねむき目を/覚(さま)し、きつと見 00044040M9付のしゆくはづれ、もしやかねなどひろいなば、ちやつと 00044050M10入なんふくろいを、くびにしつかと/掛(かけ)川や、/新坂(につさか)/越(こへ)て/行程(ゆくほど) 00044060M11に、/草臥(くたひれ)はてゝ/足本(あしもと)も、ねるとや/爰(こゝ)に/茶(ちや)やの/餅(もち)、くへばお 00044070M12中もたしかにて、/気(き)もまめの/粉(こ)やさてハ又、/砂糖(さたう)ハ/脾胃(ひいい)を 00044080M13やしなへば、(四オ)/命(めい)ハ/食(しよく)よりつなぎとめ、千とせも/無事(ぶし) 00044090M14に/年(とし)をへて、又こゆべきとおもひきや、/小夜(さよ)の中山中+ 00044100M15に、たえぬ/願(ねがひ)の/銭金(せにかね)も、大/井(ゐ)川とはこれかとて、名をきく 00044110M16だにもはや/欲(よく)の、ふかきながれの白波に、きもをつぶして 00044120M17たちとまり、いくらかくらの/値(ね)を/究(きハ)め、川/越(こし)付てそ渡らる 00044130M18ゝ。扨二人のものども丸はだかになり、おめきたてゝぞ/渡(わた) 00044140M19りにける。/然(しか)る/折節(おりふし)/睨(にらミ)之助、川中にて/俄(にハか)にづぶ+/□((とカ))しづ 00044150¥P138 00044160L1むほとに、南無とひとしく、めくらづかミに取付けるが、 00044170L2/不慮(ふりよ)なるかな、一休の内またに手をさしこみ、/皺(しは)ふぐりを 00044180L3ひんにきりたれば、和尚は是にいきつまり、目くる(四ウ) 00044190L4めきて物をもいはれず、たえ+なるこゑをして、やれ 00044200L5+とぞ/宣(のたま)ひける。/川越(かはこし)/聞(きひ)て、こは、せハしき御事かな、 00044210L6是ほどの大/河(が)をば、やれ+と候へバとも、我等どもが/力(ちから) 00044220L7にも/及(をよび)がたく、/左様(さやう)にハあやなさすとぞいひたりける。猶 00044230L8たえがたくおほしめしけれバ、やれきんがつまり候ぞや、 00044240L9きんがなくなるはやあ+と/仰(おほせ)られぬるを、/川越(かはごし)/重(かさね)ていふ 00044250L10/様(やう)、あさましき御事かな、たとへバ/金銀(きん+)がみなになり、御 00044260L11手/前(まへ)さしつまり給へばとて、此/日本(につほん)一の大/河(か)にて、/命(いのち)には 00044270L12かへられ申まいぞとて、なを引立て行程に、(五オ)/向(むか)ひの 00044280L13/岸(きし)につきたりける。一休いよ+/息(いき)つまり、/色青(いろあを)く/目(め)をミ 00044290L14つめ、/四(よ)つばいに/這(ほふ)て、/漸(やう)+かたハら/成(なる)/小芝(こしば)の/上(うへ)まて、 00044300L15あし/曳(ひき)の山とりの/尾(お)のしたりおの、なか+しくうちふし 00044310L16給ふ。(五ウ)(六オ挿画)にらミの介、鹿蔵ハ/銭(せに)を/払(ハら)ひ、身/仕= 00044320L17廻(し=まい)して、和尚様ハとて、爰かしこ/尋(たつ)ねたりけるに、/後(うしろ)の/木= 00044330L18陰(こ=かげ)にふんぞりかへり、うん+と/計(ハかり)にて、/更(さら)に/正気(しやうき)もなし。 00044340L19さては御/目(め)をまハし給ふか、いかなる事に、かくハくるし 00044350¥G 00044360M11ミおハしましける、なふ竹斎さまなどゝわめき立れバ、そ 00044370M12のとき/息(いき)の下より仰らるゝハ、我またぐらのあたりをミよ 00044380M13やとあり。けにも水にてひえ給ひ、/疝気(せんき)がおこり候てこそ 00044390M14と、内またを見奉れば、その中より、くろ+としたるた 00044400M15まをとり出す。扨こそ御身も御/持(ぢ)病に、寸/白(バく)を持せ給ふか 00044410M16とて、にらみも/鹿(しか)もとも+に、ひねり/和(やハら)け申さん(六ウ) 00044420M17といへば、竹斎がいふやう、いや+/土上(とじやう)にてハなをりさ 00044430M18ふらふまじ、/是(これ)ハひえての/病(やまひ)なれバ、/温地(しつち(ママ))ハ/虚&(きよ+)の/愁(うれへ)/有(ある)べ 00044440M19し、/何(なに)とぞして/嶋田(しまだ)まで御手をひけと、たゝ一人の/下知(げぢ)に 00044450¥P139 00044460L1/依(よつ)て、さハかりの大/病(ひやう)なれども、ひとまづしゆくへといそ 00044470L2きにける。日/高(だか)ながらも/宿(やど)をかり、/奥(おく)の/座敷(さしき)に/御座(ござ)をかま 00044480L3へ、御心/持(もち)ハ/何(なに)とましますぞとて、竹斎もにらミの介も手 00044490L4をつくしていたハりける。其時和尚あぢきなき御/声(こゑ)にて、 00044500L5/始(はしめ)の/次第(しだい)をかたり給へば、扨ハ我等がつかミたりしハ、此 00044510L6御方のものなるよと、めいわくにもおもひ、おかしくも/覚(おほ) 00044520L7えて、さらばかたり/出(た)すべきかと(七オ)おもへど、いやあ 00044530L8なかしこ、さある/首尾(しゆび)ならねばとて、おしだまりたる、に 00044540L9らミの介が心の内ぞくるしけれ。竹斎、御/病気(ひやうき)の/様子(やうす)いち 00044550L10+/聞届(きゝとゝけ)て、/扨(さて)/粉薬(こくすり)をまいらせける。/何(なに)が/家伝(かてん)の/名方(めいほう)なれ 00044560L11バ、一/服(ふく)にてしるしをミせ、/腫(はれ)たるきんも/平(たいらか)になり、/疼痛(とうつう) 00044570L12/発熱(ほつねつ)もやミ、今ハ心よくみえ給ひて、やまふの/床(ゆか)を/取(とつ)ての 00044580L13け、大/膝(ひさ)くんでおどりあがり、/鹿蔵(しかさう)ハいぬかと/呼(よバ)ハり給ひ 00044590L14けるに、/如在(じよさい)なしの/鹿蔵(しかさう)なれば、/主人(しゆじん)の/難病(なんびやう)にもかまはす、 00044600L15天もひゞけといびきをかき、/前後(ちんこ(ママ))も/不知(しらず)ふしたりける。此 00044610L16/躰(てい)を/御覧(ごらん)じて、/言語道断(こんこだうだん)のたはけめかな、うちころしてく 00044620L17れんとて、(七ウ)しゆろばゝきを/取(とり)なをし、さん+に打 00044630L18給ふ。うたれてこゑのいでさるハ、もしむなしくやなりつ 00044640L19らん、何しにむなしくなるべきぞと、引立ミれバねほれ入、 00044650M1目くちをこすりあ/ち((ママ))びする。和尚/立腹(りつふく)のあまりに、 00044660M2△△たはけめをはれとてしもめしつれて 00044670M3△△△わかいたみをばなですやありけん 00044680M4竹斎も、 00044690M5△△わか/主(しう)を見つかぬたハけ/鹿蔵(しかざう)を 00044700M6△△△よひうつけじやと人はいふなり 00044710M7扨竹斎、和尚の/急難(きうなん)を/救(すくひ)まいらせ、うれしくも/外聞(くわいぶん)(八オ)/能(よく)、 00044720M8/宿(やと)屋の/亭主(ていしよ(ママ))まじりにうかれ/出(いて)、あつま/下(くた)りの/吉左右(きつさう)なりと 00044730M9て、/酒(さけ)を/出(いた)させ、/下女(けしよ)などをよひ/寄(よせ)、一休の御/腰(こし)をなでさ 00044740M10せ、/血(ち)がめぐり候へハとて、さいつおさへつ/酒(さか)もりになり、 00044750M11/夜(よ)すから/興(けう)をなしたりける。一休中にもふり/袖(そて)なる女に、 00044760M12うるはしく/肥(こへ)あぶら/付(つき)たるを/膝本(ひさもと)へいだき/寄(よせ)て、/何(なに)と年/寄(より) 00044770M13たる/に((ママ))のゝわたくしわさ、いかにうるさくおほしめすらめ 00044780M14ど、/旅(たび)ハ道くさ/世(よ)ハ/情(なさけ)とかや、/老木(おいき)も花ハ/咲(さく)/習(なら)ひ、うちと 00044790M15けてたひ候へ、/雀(すゝめ)ハ百になりてもなど、かきくどき給へバ、 00044800M16女にこ+と/打笑(うちわら)ひ、さほどに御/心(こゝろ)をきし給ふ、その/方(かた)さ 00044810M17ま(八ウ)こそつれなく思ひまいらすなり、/老(おい)たるもわかき 00044820M18も此道ハある/習(ならひ)にて候、中にも御/年寄(としより)の御/詞(ことバ)にハ偽なきも 00044830M19のにて候へバ、一/入(しほ)にぞんしさふらふなり、それ人のうは 00044840¥P140 00044850L1きまぎれのことのはゝ、十がとをなから、ぢつなき事にて、 00044860L2/舌(した)の/先(さき)ばかりなれど、つとめの身のあさましさハ、心にあ 00044870L3ふもあはぬをも、/枕(まくら)をかハしまいらすなり、いとおしきぼ 00044880L4んさまとて、/肩(かた)さきをたゝけは、一休も/臍(ほそ)もとまで、よだれ 00044890L5をなかし、なとて/年寄(としより)を、さハおもひ給ふべきとて、かく、 00044900L6△△いつはりのなき/世(よ)なりせばいかばかり(九オ) 00044910L7△△△人のやきでもうれしからまし 00044920L8と/宣(のたま)ひけるに、/女(をんな)/少(すこし)せきたるていにて、ゆびの/爪(つめ)ハ/磯(いそ)い 00044930L9のちかけて、それさまをこそ、なれくされ、みしやれどろ 00044940L10+がたい、しんぞ+神かけて、などいひて、かへし、 00044950L11△△としよりになさけへだつるものならば 00044960L12△△△/老木(おいき)のはなをなどながむべき 00044970L13となん、よんだりける。扨何時に御/寝(ね)間へまいり候ハんとい 00044980L14ふ。/和尚(おしやう)/聞召(きこしめし)て、/扨(さて)ハ/誠(まこと)の心/入(いれ)にや、いかで/法師(ほうし)のさること 00044990L15の有へき、/明日(あす)ハ/我宗(わかしう)の/開山(かいさん)の日な(九ウ)れば、なといろ 00045000L16+はづしみ給へど、つれなしや、我をさほどまで心ひき給 00045010L17ふか、只今のせいもんかハらぬといへば、/是非(ぜひ)なく一休も、 00045020L18△△おもひあらば/嶋田(しまた)のやとにねもしなん 00045030L19△△△ひしきものにハ御座をしつゝも(十オ十ウ・十一オ挿画) 00045040M1かくの給ひたりければ、女今ハうれしけにて、もの/仕廻(しまひ)、 00045050M2とくまいるべしといひて出たりしに、和尚いかふうるさき 00045060M3ことにおぼしめして、/然(しか)らば人しらぬかたより来り候へと 00045070M4ある。女又かく、 00045080M5△△人しれぬわかかよひぢの/背(せ)戸口は 00045090M6△△△よひ+ことにあけてをきなん 00045100M7かくいひて/帰(かへ)りぬ。一休もざれことのかうじたるハ、今/更(さら) 00045110M8とり/返(かへ)しもならず。/先非(せんひ)を/悔(くい)給へど、かれが/情(なさけ)ぶり、いひ 00045120M9/避(さく)べきやうもなく、/猶(なを)心うく/疎(うと)ましく成て、/彼(かの)約束の道又 00045130¥G 00045140¥P141 00045150¥G 00045160L11ハ/掾(えん)がはにも/尻(しり)ざしせんと/巧(たくミ)(十一ウ)いだし、竹斎が/高(たか)いび 00045170L12きの/隙(ひま)に、一/腰(こし)の/刀(かたな)を/横(よこ)になして、戸ざしのしまりとし、 00045180L13そらいびきしておハしたりけるに、/彼女(かのをんな)/約束(やくそく)の/道(ミち)/塞(ふさか)りけ 00045190L14れバ、ふしぎに思ひ、/湯殿(ゆとの)にまハり、水出しのくゞりより 00045200L15/忍(しの)びて、竹ゑんをつたひくれども、/爰(こゝ)も又あかず。し/□((ばカ))し 00045210L16/耳(ミゝ)をそバたつれバ、高いびきのミ聞ゆ。扨ハ心/□□((かはカ))りたる 00045220L17にや、又ハ/酒(さけ)の/酔(ゑひ)よりこそなど、さま※にこゝろをなや 00045230L18まし、/立(たち)やすらふも程久しく、七八百ほとためいきつき、 00045240L19/舌(した)うちして帰る。かくて夜も明はなれし程に、/荷(に)つくりし 00045250M1立出れども、しバしといふものも(十二オ)なく、東をさし 00045260M2て下られける。/扨(さて)/道(ミち)すからの物かたりに、きのふの/薬(くすり)ハい 00045270M3かなる物にや、/手(て)きわなる/療治(りやうぢ)なりと仰けれバ、竹斎いふ 00045280M4/様(やう)、されバ/他家(たけ)になき/良薬(りやうやく)なり、/本草(ほんさう)にも/勿論(もちろん)見えす、只 00045290M5一/子(し)/相伝(さうでん)の/秘(ひ)方にて、/毎度(まいど)の/手柄(てがら)といひながら、此/度(たび)ハ一 00045300M6/入(しほ)の様に/覚侍(おほえハべ)ると/自讃(じさん)したりしに、/如何(いか)にも/左(さ)/有(ある)べし、 00045310M7/尤(もつとも)大/事(じ)の/家方(かはう)ながら、人をたすくる/道(ミち)ハ、どれとても同 00045320M8し/事(こと)なるべし、出家の/上(うへ)とても、人の/病苦(ひやうく)をすくひてこそ、 00045330M9/善根(せんごん)ならめ、すこしも/他言(たこん)いたすましけれバ、とてもの/義(き) 00045340M10に/伝(つた)へたまへとある。竹斎も(十二ウ)和尚の御事ハ、もだ 00045350M11しかたくて、/耳(ミゝ)せゝにくちをよせ、是ハ/金鎚古(きんついこ)と申薬にて 00045360M12候なり、/平(へい)にして/毒(どく)なし、/和名薄(わミやうはく)屋のふるきつち、水にて 00045370M13よくあらひ、日にほし、さめにておろし、少あぶる、/鎚(つち)ハ 00045380M14/数(す)年金をうち/平(たいらか)にせし、其/切(こう)/尤(もつとも)/浅(あさ)からず、ふぐりのはれ 00045390M15たるに用て、/神効(しんこう)あり、あひかまへて御/隠密(をんミつ)なさるべしと 00045400M16いふ。一休も満/足(そく)し給ひ、いかにも/秘密(ひミつ)ハことハりなり、 00045410M17/多(た)年の/功(こう)をもつて妙をあらハす、天/理(り)のいたる処/自然(しぜん)とし 00045420M18て/奇(き)なり、/医学(いがく)入/門(もん)にも/喉(のと)に魚の/骨(ほね)の立たるにハ、/犬(いぬ)の/涎(よだれ) 00045430M19をなむべし、犬ハ/諸骨(しよこつ)をハむ(十三オ)/故(ゆへ)なりと/侍(ハへ)る、/皆(ミな)此 00045440¥P142 00045450L1/道理(たうり)なるべし、/秘事(ひじ)ハまつげにて、か様の事を/猥(ミだり)に/語(かた)り/伝(つた) 00045460L2へバ、/浅(あさ)き事に思ふへし、あハれ此/金鎚散(きんついさん)を京中のかね持 00045470L3に/呑(のま)せて見/度(たく)こそ候へ、いくつともなく箱に入/持貯(もちたくハ)べし、 00045480L4金をうちへらさせ、/国(こく)中の手におし/廻(まハ)して、世/間(けん)を/潤(うるを)しな 00045490L5ば、かた/行(ゆき)が、せまじ物をと仰られけるに、/睨(にらミ)之助申様、 00045500L6これハ御尤の御事にて候、/乍去(ながらさり)/和尚(おしやう)様に/骨抜(ほねぬき)の妙薬を覚 00045510L7え給ふが心得がたく候とて、/打笑(うちわら)ひてゆく。 00045520¥N2¥J 00045530¥Xひしほの/狂哥(きやうか)(十三ウ) 00045540L10一休の御/弟子(でし)/林月(りんげつ)といひし/御坊(こはう)、/稚時(いとけなきとき)ひしほ/壷(つほ)の口を/切(きり) 00045550L11て、よる+/盗(ぬすミ)ねぶられしを、和尚/或(ある)時見付給ひて、いか 00045560L12に小/僧(そう)、/若(しやく)年にて是をなむれバ/必(かならす)中/風(ぶ)を/煩(わつら)ひ、/目(め)口ゆが 00045570L13ミ、手ふるひ、物かけどもかゝれず、/書物(しよもつ)よめどもよまれず、 00045580L14御身ハいまだ、物よミ手/習(ならひ)のなかばなれば、かたく無用な 00045590L15りとて、ねまの/奥(おく)に/隠置(かくしをき)給へば、/幼(おさな)心にうらめしく思ひて、 00045600L16何かなとたくめる折ふし、小/僧(そう)/腰(こし)うてと仰られけるに、/彼(かの) 00045610L17ひしほの/意趣(いしゆ)をとげはやと思ひ、いや/中風(ちうふ)がおこり申て候 00045620L18やらむ、手がふるひなへて、中+うたれさうにハなく候。 00045630L19(十四オ)その/上(うへ)どこもかもゆがみたり、とて/目(め)口をしかめ 00045640M1てみせられければ、一休はらをすへかね、/棒(ほう)を取て/追(おひ)かけ 00045650M2給ふに、はるかににげのびて、かくそいはれたりける、 00045660M3△△/毒味噌(とくみそ)をねぶりて/口(くち)のゆがみしは 00045670M4△△△たゞ身のひしをしらぬ/故(ゆへ)なり 00045680M5と口ずさみ/門柱(もんはしら)にいだき/付(つき)てなかれたりしに、和尚も此哥 00045690M6に/涙(なみた)をながし一/棒(ほう)をからりとすて、あつはれ/闊気(くはつき)の/智者(ちしや)候 00045700M7ぞ、ゆるし申、とて内に/入(いら)せ給ひ、其後御/膝本(ひざもと)によひ付/仰(おほせ) 00045710M8られしは、/重而(かさねて)我/意(い)に/背(そむく)ならばまるはだかになし、さとへ 00045720M9/送(をく)り候べし、けふはゆるし申なり、とて、 00045730M10△△/岩(いは)ばなにすねゆがみたる松の/木(き)の 00045740M11△△△すぐにのびねは/用(よう)にたゝざる 00045750M12かくの玉ひければ、うろ+/涙(なんだ)を/袖(そで)にてのごひうちしほれ 00045760M13てみえけるに、此あどなきありさまにくからねば、一休も 00045770M14かれがこのむひしほなめさせんなどおもひおはしましける 00045780M15所へ、竹斎御見/廻(まひ)のためにひとつの/器(うつは)物に/封(ふう)を付、/有(う)か/無(む) 00045790M16かと/書(かき)付して/持参(ちさん)したりけるを、一休和尚/幼僧(ようそう)の/発明(はつめい)を御 00045800M17/覧(らん)ぜんために、/中(なか)なるは是いかなる物ぞや、御/弟子(てし)/林月(りんげつ)/書= 00045810M18付(かき=つけ)をミていはく、されば有/無(む)のふたつは、もと/是(これ)一/味(ミ)なる 00045820M19べし、/有(う)によつていはゝありのミなるか、無にとつての/時(とき) 00045830¥P143 00045840L1ならバなしなるべき。竹斎/舌(した)をふるひ、然らハ、そのかず 00045850L2ハいくつ。/答(こたふ)、七つ八つあるべし。/扨(さて)ハ/違(ちが)ひ候なりとて、 00045860L3ふたをとれば、/梨(なし)十五ありけり。まづ+/数(かす)ハあひ申さず 00045870L4とて/笑(わら)ふ。/林(りん)月のいはく、何と七つ八つあるべしと申たる 00045880L5を、ちがひたるとや、七つ八つハ十五なきかとて、/手(て)を 00045890L6/打(うつ)て/笑(わら)ひ返し給ふ。(十五ウ)(十六オ挿画)竹斎、 00045900L7△△ことのはにはなのさくいの七つ八つ 00045910L8△△△あをひわれらハいひかいもなし 00045920L9かく/称美(せうび)して/肝(きも)をつぶし、/残(のこる)所なき大/智者(ちしや)の玉子なるかな、 00045930¥G 00045940M1/誠(まこと)に一休の御弟子にはさもこそ候べき、/栴檀(せんだん)ハ二/葉(ば)よりと 00045950M2申も、この御かたの事なるへきなど、ほめあぐるうちに、 00045960M3/庭前(ていせん)の/植込(うへこミ)より、/熊蜂(くまばち)いくつともなく/飛(とひ)出たりければ、竹 00045970M4斎になしの/追報(ついほう)せばやとおぼしめされ、あの/蜂(はち)の有所はい 00045980M5かん、竹斎聞て、さればむかふなる/梅(むめ)(十六ウ)の木なりと 00045990M6いふ。さらば見てまいらんとて、さほ竹をかたげ、はしり 00046000M7/出(いて)て、/彼木(かのき)を二つ三つうつて、これにてハあらす。又いふ、 00046010M8然らハ桜なるべし。又/打(うつ)て、/是(これ)にもあらす。さあらハあの 00046020M9松の木にて候べし、急て/御覧(ごらん)候へといふ。いや、此木にも 00046030M10あらず、我をなぶり給ふかとて、つる+とはしり/寄(より)、む 00046040M11なぐらをひしととらへ、/答(こたへ)ハいかん。竹斎につことわらひ 00046050M12て、ある/謡(うたひ)の/本(ほん)に、いで/其時(そのとき)の/蜂(はち)の/木(き)ハ、梅桜松にてあり 00046060M13しよなとて、/昔(むかし)よりも/慥(たしか)にハしれさるほどにといひたりけ 00046070M14れバ、むなぐらをはなし、其返/報(ほう)に/皃(かほ)へむめ(十七オ)ぼし 00046080M15とて、/肴(さかな)に出たる/塩梅(しほむめ)をなけ付て、にげ給へり。とかく/頓= 00046090M16作(とん=さく)なる/生(むま)れ付なりとて、たうとみにける。 00046100¥N3¥J 00046110¥X一休/亡者(もうしや)と/問答(もんだう) 00046120M19竹斎が/町内(てうない)に/正徳(しやうとく)といふものありけり。/極(きハめ)て心すなをにし 00046130¥P144 00046140L1て、/後世(ごせ)をわすれず、仏の道うとからぬものなり。ふと/煩(わつ) 00046150L2らひ付て/死(し)したりけれバ、一/類(るい)どもかなしミのあまりに、 00046160L3せめて/然(しか)るべき/智者(ちしや)の/引導(いんだう)を/頼奉(たのミたてまつ)りて、/末来(ミらい)をやすく/往= 00046170L4生(わうじ=やう)させ申さんと、ゝりとりにさたしけるが、とかく竹斎の 00046180L5/入魂(じゆつこん)せらるゝ(十七ウ)一休和尚/然(しかる)べしといふ。竹斎聞て、 00046190L6されバ/正徳老(しやうとくらう)も、/我宅(わかたく)にて/彼方(かのかた)とハ/切&(せつ+)出合れたる/事(こと)に 00046200L7て候へバ、一/入(しほ)の/儀(き)なり、/某(それかし)/手紙(てかミ)を以て/頼遣(たのミつかハ)すべし、/成= 00046210L8程(なる=ほど)かろき御気はいなれバ、別の/子細(しさい)/有(ある)べからずと/云(いふ)。又か 00046220L9たへに居たるもの、/妻子(さいし)の/袖(そて)を引てひそかにいひしは、い 00046230L10や此/御坊(ごばう)ハ/常(つね)※/気(き)がむらにて/自在(わかまゝ)なる/狂僧(きやうそう)と聞/伝(つた)へたり、 00046240L11/同(おなしく)ハ/余(よ)の方にし給ふまじやとかたる。/妻子(さいし)一/類(るい)/是(これ)を/聞(きゝ)、 00046250L12/左様(さやう)の人ならば、あら/勿躰(もつたい)なや、うるさや、いかなる/御僧(おそう) 00046260L13にかなどゝおもひまよふ処に、/東山(ひかしやま)の/木食如心坊(もくしきしよしんほう)さまこそ、 00046270L14/今(いま)(十八オ)の世の/道者(だうしや)にて、/殊勝(しゆしやう)なる御かたなり、是をたの 00046280L15ミ申へしと/事究(こときハま)り、/葬礼(さうれい)の義式を阿弥陀がミねに/執行(とりをこな)ひけ 00046290L16る。/然(しかる)に一休和尚も/諷経(ふぎん)のためにいて給ふか、きのまゝに 00046300L17やぶれ衣をまとひ、しよんぼりとひかへおハしましけるを、 00046310L18皆人/指(ゆび)をさして、あの気まゝ/坊主(ほうす)の/恥(はぢ)しらずを見よとて、 00046320L19目をひき笑ひ居たりける。かくて/引導法事(いんたうほうし)なと/美&敷(びゝしく)こと 00046330M1/終(をハ)りて、/野送(のをくり)の/者共(ものとも)/皆(ミな)/帰(かへ)らんとせし/時(とき)、/桶(おけ)の/蓋中(ふたなか)よりはね 00046340M2のけ、/正徳(しやうとく)/竿(さほ)立に成て、にこ+と/笑(わら)ひ、一休和尚/珍(めつら)しや 00046350M3な、我ハたゞ今、此/土(ど)を立さり、目出(十八ウ)/度(たき)/浄土(しやうと)に/生(むま) 00046360M4るゝなり、さらは+といひたりければ、みな+/肝(きも)を 00046370M5つふし、立さハきぬる処に、和尚から+とうち/笑(わら)ひ、/正= 00046380M6徳(しやう=とく)ハ/得(え)うかますやと/被仰(おほせられ)ける。/亡者(まうしや)/答(こたへ)ていふ、/夫(それ)/生死(しやうし)の 00046390M7/海(うミ)ハもとより/潮水(こすい)((ママ))まん+たり、などうかますといへる。 00046400M8和尚の/日(いハく)、/汝(なんち)すでにくらきよりくらきに/入(いり)、/海上(かいしやう)/満月(まんけつ)の 00046410M9/光(ひかり)をみず、/是(これ)/迷(まよ)ひの/雲(くも)/二眼(じかん)を/覆(おほえ)へバなり、されバまよひの 00046420M10/前(まへ)の/是非(せひ)は是非共に/非(ひ)なり、/天理(てんり)一物の/円(まとか)なる物を見さる 00046430M11ハ又/夢(ゆめ)なり、夢の中の/有無(うむ)ハ有無ともに無なれハ、皆/是(これ)/迷(まと) 00046440M12ひの一つにきす、されバ生して/来(く)るにあらず、/死(し)て(十九オ) 00046450M13又さるにもあらず、/只(たゝ)/本来(ほんらい)の/面目(めんもく)也、/愚(ぐ)おもへらく、今/正= 00046460M14徳(しやう=とく)と見えたるもの、其/躰(たい)/全(まつた)からず、是/狐(きつぬ)か/狸(たぬき)か、狐にあら 00046470M15ば/混&(こん+)とないて、/混沌(こんとん)/未生(ミしやう)のむかしに帰らさらんや、又/狸(たぬき) 00046480M16にあらハ/腹皷(はらつゝミ)のかはをうつて、/空&(くう+)たるひゞきに/帰天(きてん)/無= 00046490M17形(む=きやう)の/自然(しせん)をさとれ、けがれたりな/畜類(ちくるい)、かつといひ、/唾(つは)を 00046500M18はいて、しさり給ふ。/其時(そのとき)/正徳(しやうとく)ぼく+と打うなづき、 00046510M19本の/桶(おけ)にそくゞまりける。/引導(いんたう)の/師(し)/如心坊(じよしんほう)を/始(はしめ)、あまた一 00046520¥P145 00046530¥G 00046540L11/同(とう)に手を打、ありがたき御事かなとて、/感涙(かんるい)/暫(しバら)くやまさり 00046550L12ける。かくて/如心坊(じよしんはう)かうべを地に付、只(十九ウ)今の御/示(しめ) 00046560L13しにてこそ、/亡者(もうしや)もうかみ申さるべし、/某(それかし)が/引導(いんだう)にてハ/却= 00046570L14而(かへつ=て)/迷(まよ)ひとなり、/畜生(ちくしやう)の見入たる事こそあさましけれ、/誠(まこと)に 00046580L15和尚様にハ/名利(ミやうり)のふたつをはなれ給ひ、/破(やぶ)れ/衣(ころも)にかミこき 00046590L16る物、さびたる御/風情(ふぜい)なれども、仏の道によく/叶(かな)ひおはし 00046600L17まし候こそ、/有難(ありかたく)候へとて、三/度(と)/礼(らい)したてまつる。(二十オ) 00046610L18(二十ウ挿画)和尚/謙退(けんたい)していはく、/愚僧(くそう)ハ/元(くハん)来/紙子(かミこ)一/官(くハん)の 00046620L19/仕(し)合なれバ、/只(たゝ)/法(のり)の/力(ちから)を/便(たより)として、しぶ+なる/世(よ)を/渡(わた)り、 00046630M1/葎(むくら)/生(おひ)たるはにふの小屋に/佗(わひ)しく/独(ひとり)りすみそめのそでもな 00046640M2い事を/子細(しさ)らしくいひちらして、人に/殊勝(しゆしやう)といはれぬるく 00046650M3せもの、さのミたうとミ給ふべからすと/仰(おほせ)られけるに、/木= 00046660M4食(もく=しき)、猶有かたく/覚(おほ)えて、/是非(ぜひ)に一/句(く)/示(しめ)し/給(たび)候へといふ。い 00046670M5や、/別(べつ)に示しとてかハりたる申分も侍らず、万事ハ皆是な 00046680M6りとて、ゆびひとつ見せ給ひて、かく、 00046690M7△△/地女火風(ちすいくハふう)くふにあちなき/木食(もくじき)は(廿一オ) 00046700M8△△△さとりの/道(ミち)に/初(しよ)心坊かな 00046710M9とあそばしたりければ、そばにありしもの共まで、みな 00046720M10+袖をしほりて/帰(かへ)りにける。 00046730¥N4¥J 00046740¥X一休/餅(もち)にて/絶入(せつにう) 00046750M13一休和尚ある/時(とき)、竹斎が/宅(たく)に/夜(よ)/更(ふく)るまでおハしましけるに、 00046760M14/鳥(とり)の/声(こへ)ものやかましく/鳴(なき)たて、をのつとはなしも/空(そら)になり、 00046770M15目のうちもこハはり/出(いつ)れば、いざ/帰(かへ)らんとて、おもてに出 00046780M16て見給ふに、ミな/白平(しろたへ)なる/軒端(のきは)の/気色(けしき)、きぬかさ山のきぬ 00046790M17はえて、いくたひ袖をと/詠(えい)じたる、佐/野(の)のわたりの夕げし 00046800M18きも、(廿一ウ)さぞやとおもひ過給ふに、ある家の/軒(き)下に、 00046810M19/男女(なんによ)二人/立忍(たちしの)ひて、ひそ+物語せし/処(ところ)を、あやしくおほ 00046820¥P146 00046830L1しめして、さしのぞき給ふに、/衣(ころも)うちかつける/様(さま)、/常(つね)なら 00046840L2ねば、/彼(かの)ものども大きに/驚(おとろ)き、あなおそろしや、/大入道(おほにうたう)の 00046850L3まくろなるばけ物こそ/来(きた)れとて、わつといひて/逃去(にげさり)ける。 00046860L4其あとに/重箱(ちうばこ)とおぼしき物を打/捨置(すてをき)たり。一休あやしく思 00046870L5ひ、ふたとりのぞき見給ひ、腹をかゝへ、ひとり/笑(わら)ひして、 00046880L6/夜寒(よさむ)/甚(はなハた)しく、手/足(あし)もこゞへたるに、天道の御恵にや、か 00046890L7くあづき/餅(もち)のほこ+四五十を/得(え)たり、是此まゝをきたれ 00046900L8ばとて、(廿二オ)よもとりにハもどり/侍(ハへ)るべからす、ミち 00046910L9すがら/賞翫(しやうくハん)して、あまりたるをは/飢(うへ)たる/非(ひ)人にあたへな 00046920L10ん物をと、/衣(ころも)の/袖(そで)をおほひ、かたすミの/方(かた)より/手(て)を/入(いれ)、と 00046930L11りくひ+し給ひしが、人め/忍(しの)びのなま/咬(がミ)、あはたゞしく 00046940L12のミこませられしほどに、ひしと/喉(のど)につめ給ひて、ありと 00046950L13あらゆる/作意(さくい)/秘術(ひしゆつ)をつくし、はき/出(いた)さんともがき給ふに、 00046960L14/更(さら)に/出(て)も/入(いり)もせず、/既(すで)に御/命(いのち)もあやうく、/天神(てんしん)の/厨子(づし)とい 00046970L15ふ所の/木戸(きと)のかたわきに、そりかへり、/歯(は)くひつめ、/目(め)を 00046980L16見いたし、うめき給へば、/夜番(やばん)なるをのこ、これを(廿二 00046990L17ウ)見付、/扨(さて)ハ大/雪(ゆき)にてこゝへたる、たをれものそと心得、 00047000L18いまたいきのかよふうちに、いづかたへなりともおいやら 00047010L19んと、さま+にいひて、ひきたつれとも、とかふのいら 00047020M1へもなし。/番(ばん)太郎もすべきやうなくて、町ぢうのものよび 00047030M2出しミるほとに、そのまに大勢おめき出て、それ何ものぞ、 00047040M3さまで死するほどの事ハあるへからす、いやされバこそ、 00047050M4しゆくしくさし、さてハなま/酔(ゑい)なるそ、/是非(せひ)に引立をいや 00047060M5れなと、はやりける程に、後ハ/棒(ぼう)をとりなをし、一休のせ 00047070M6なかを、したゝかに打たりけれバ、時なるかな、/鬼(おに)にこぶ 00047080M7といふせわのこと(廿三オ)く、のどなる/餅(もち)、より/棒(ほう)のひ 00047090M8ゝきにて、三尺計むかふへとび出ける。是にてむねひらけ、 00047100M9/夢(ゆめ)のさめたる心ちして、仰けるハ、さて+あやうきめに 00047110¥G 00047120¥P147 00047130L1/逢(あい)申たる事かな、我はむらさきのゝ辺に草むすひせし、は 00047140L2ちひらき坊主なるが、/持病(ちひやう)なる/痰(たん)さしおこりて、すでに/死(しな) 00047150L3んとせし所を、あらけなき、ちやうちやくにあひてこそ、 00047160L4/不慮(ふりよ)/吐出(はきだ)したれ、まづ+是もをの+の御かけ候と、 00047170L5の給ひたりけれは、先それ何ものなるぞ、/顔(かほ)を見よとて、 00047180L6てうちんを/差(さし)上て、よく+見れバ、大徳寺の/老(らう)和尚にぞ 00047190L7有ける。こハおもひよらさる御事かな、な(廿三ウ)とて 00047200L8御供めしつれ給ハすやといふ。されバか様の事や/侍(ハへ)らんと 00047210L9て、/貧僧(ひんそう)のいりもせぬものをかゝへ/置(をく)べきかは、とても出 00047220L10家ハけふありてあすをおもハず、/老躰(らうたい)の/海老(ゑび)ぜなかまげな 00047230L11りに、世をわたれバ、/先(さき)からさきハ行たをれと存ると仰け 00047240L12れバ、いや+それハふかくなるべし、さなけれバこそ、 00047250L13したゝかなる/棒(ほう)をおひ給ひしなり、何と御いたみハなく候 00047260L14や。いや少も/痛侍(いたミハへ)らず、/先(さき)程より申/通(とを)り、とかく御/影(かげ)なり、 00047270L15(廿四オ)(廿四ウ挿画)/我(われ)/棒(ほう)をおひたる事も、もとより身に大 00047280L16きなる/科(とか)のある故なれバ、たれ/恨(うらミ)ともおもひさふらはずと 00047290L17仰られけれバ、人&/肝(きも)をつぶし、/扨(さて)和尚様にハ何の科をか 00047300L18し給ふ。されハ、さる所にて是をぬすミたる故なりとて、 00047310L19/彼重箱(かのちうはこ)を/出(いた)し給ひけれバ、いつれも/興(けう)をさまして、是ハ何 00047320M1たるさもしき事をなされたるぞや、さてハ此/餅(もち)を/咽(のど)につめ 00047330M2給ひたるか、それ、そこへ/飛出(とびいて)たる物、何なるそ、見よや 00047340M3とて、/尋(たつね)いたしたりければ、/立子(りうこ)なりに成てありける。よ 00047350M4くも/偽(いつは)らせ給ひて、/痰(たん)などゝハ仰られける、/例(れい)の御/口(くち)かし 00047360M5こさに(廿五オ)こそとて、大/笑(わら)ひしたりけれバ、さて、 00047370M6かた+ハ/偽(いつハり)とおほしめしけるか、此一休ハ/慥(たしか)に/餅(もち)と存る 00047380M7なり、我/等(ら)はなし申人/達(たち)、/常(つね)に/某(それがし)を/持病(ちびやう)もちの/痰持(たんもち)のなど 00047390M8ゝいはれ候ほとに、/餅(もち)と/痰(たん)と/別(へち)にかはらぬと心得居侍りた 00047400M9ると仰けれバ、あれ聞給へ/何(いつ)れも/達(たち)、あまの命をひろひ給 00047410M10ひて、/息(いき)か/通(かよ)へば/最早(もはや)口がへらぬといひて、/横(よこ)手をうち、お 00047420M11とかひをかゝへて/笑(わら)ひにける。その時一休、かくの給ひける、 00047430M12△△くふほどの数さへなくはなか+に 00047440M13△△△人をも/餅(もち)もうらみざらまし(廿五ウ) 00047450M14かくつらね給ひて、/恥(はつ)かしげもなく/帰(かへ)り給ひしこそ、いづ 00047460M15れにひろき御心なりとて/感(かん)じたりける。あとに/捨置(すてをき)給ふな 00047470M16る/餅(もち)ハ、/番太(はんた)郎か/骨折(ほねおり)のつかればらしとして、/夜(よ)すがら/喰= 00047480M17込(くい=こミ)、/腹(ハら)ふとくしておもふまゝなれば、いぐちのうそも、心 00047490M18なくさみなりとて、 00047500M19△△あたらこの/餅(もち)と/赤小豆(あづき)をおなじくは 00047510¥P148 00047520△△△あはれひもしな人にわけばや 00047530¥N5¥J 00047540¥X/淋病(りんびやう)の/養性(やうじやう) 00047550L4一休めしつかはれし/例(れい)の/鹿蔵(しかざう)、/石淋(せきりん)を/煩(わづら)ひ、/疼痛(とうつう)(廿六オ) 00047560L5/忍(しの)び/難(かた)けれバ、竹斎を頼ミ、色&と/養性(やうしやう)したりしが、少も 00047570L6/験(げん)気なく、次第に/膿(うミ)/潰(ついへ)/腫(はれ)ふとりて、もだへにける。竹斎是 00047580L7に/茶匙(さじ)をからりとなげすて、木/枕(まくら)を四つ五つわらし、五/淋= 00047590L8散(りん=さん)に/加減(かけん)して、/数服(すふく)もちひ、/或(あるひ)ハ/秘灸(ひきう)/洗(あらい)薬などゝて、手を 00047600L9つくし侍れとも、しるしなけれバ、/渡(わた)し箱の/底(そこ)より、家伝(かでん) 00047610L10の一巻取出し、くり返しよミけるに、/名誉(めいよ)なる/養性(やうじやう)を/考(かんかへ) 00047620L11出したりける。先/双(すこ)六の/筒(どう)に糸を付て、玉/茎(ぐき)を此/筒(つゝ)の中へ 00047630L12/指込(さしこみ)、きる物のうらにて、すれざるやうにして/臥(ふす)へし、/夜明(よあけ) 00047640L13なば/咒(ましなひ)して得さすべきぞと(二十六ウ)て、かくのことくし 00047650L14て、ねさせたりけるに、夜中猶/痛(いたミ)つよく、いよ+はれ上 00047660L15りて、ぬかんとすれども、更にぬけず、うちわり捨んと、 00047670L16はものあつれは、その/響(ひゝき)脳にこたへて、目を廻しくるしむ 00047680L17程に、力をよばす、先此まゝにて、ましなひミんとて、九 00047690L18/字(じ)をきり、淋(りん)病/闘(とう)者など、一/越調(こつてう)をあぐれとも、/露(つゆ)ばかり 00047700L19も、くるしミやすからず、其上に小便ふつととまりて/通(つう)ぜ 00047710M1ざれハ、せめて此上ハ一/滴(てき)なりともと歎く。竹斎ぬからぬ 00047720M2顔にて、されバそのために/底(そこ)の中ほとに穴を明置たり、い 00047730M3きづミて見よといへども、さることも(廿七オ)ならす。も 00047740M4はや死するハかりなりとて、さま+の遺言などしけれ 00047750M5バ、竹斎今ハそばよりミる目もかなしく、夢になれ+と 00047760M6十/遍(ぺん)バかり/唱(とな)へたりし時、/鹿蔵(しかざう)が母とて六十あまりなる/姥(うは)、 00047770M7にしり/出(いて)て、こハ何たる/療治(りやうち)ぞや、/杖柱(つえハしら)とも頼ミし子を、 00047780M8先だて、あとにてうきめをみるべきかやとて、むしりつい 00047790M9てもだへわめく。竹斎も/為(せん)方つきて、是用ひ見たまへとて、 00047800M10黒薬を出したりけるに、さらばとて、あたへ、しバしまも 00047810M11り/居(ゐ)侍るうちに、はめ/置(をき)たる/筒(つゝ)、まふたつにいきミわれて、 00047820M12小便水はじきのごとく、しぶ□□(二十七ウ)/飛(とび)に/通(つう)じたり 00047830M13ける。/扨(さて)もめいよの/薬(くすり)なるかな、何と申御薬ぞととふに、 00047840M14わけもなき物の/黒焼(くろやき)なれバ、名もなく、いかゞいはんとあ 00047850M15んじたりしか、しバしありて、是ハアビリイアンバルスボ 00047860M16ルといふ/阿蘭陀(をらんだ)の薬なりと/答(こたへ)たりける。いつそや/初寅(はつとら)まい 00047870M17りの/時(とき)、/鞍馬(くらま)にてひろいたりとて、/拵(こしらへ)をきたる/谷(たに)あひの、 00047880M18/懸樋(かけひ)をさらへとをしたる/古縄(ふるなは)の黒焼、/自然(しせん)として、たちど 00047890M19ころに、しるし見せける。(廿八オ) 00047900¥P149 00047910¥Y1杉楊枝第五 00047920L3△△/竹斎(ちくさい)/仲人口(なかうどくち) 00047930L4△△/鼻(はな)の/下(した)の/療治(りやうぢ) 00047940L5△△/木乃伊(ミいら)の/切売(きりうり)(一ウ) 00047950¥T1杉楊枝第五 00047960¥N1¥J 00047970¥X/竹斎(ちくさい)/仲人口(なかうどくち) 00047980M5/北山(きたやま)/鹿苑寺(ろくをんじ)の/辺(へん)に、弥二郎と云(いふ)百/姓(しやう)、ひとりの/娘(むすめ)を/持(もち)けり。 00047990M6然るを、京なる/公家(くげ)方へ/預(あづ)け/置(をき)けるが、/万(よろづ)つゞまやかに/宮(ミや) 00048000M7づかへ年もかさねしかバ、/似合(にあひ)の/縁(えん)にも付よとて、/主(しゆ)人よ 00048010M8りも心入有て、/彼方(かなた)こなたと/頼(たのミ)、/縁付(えんづき)の/取組(とりくミ)をせんとすれ 00048020M9ども、おもハしき方もなくて、打/過(すぎ)けるに、竹斎此女が/療= 00048030M10治(れう=ぢ)して/近(ちか)付なりければ、さらば此ものをいづかたへなりと 00048040M11も口入して、少の/礼(れい)物をも取て、/内証(ないしやう)を/補(をきな)ハばやと/思案(しあん)を 00048050M12めぐらす処に、/岡嶋(をかしま)/検校(けんげう)(二オ)とて、/有徳(うとく)なる/座頭(さとう)ありけ 00048060M13る。/武家(ふけ)より/扶持(ふち)なと取て、すべ/能(よく)/暮(くら)すものなれバ、/究竟(くつきやう) 00048070M14の事也、此方と取/組(くミ)の/談合(だんかう)せばやとおもひ、先/検校(けんけう)がもと 00048080M15に/行(ゆき)て、木にもちのとり付ひつ付、いひ聞せけるほどに、 00048090M16/如何様(いかやう)とも頼申といふ。すは一方は/成就(しやうじゆ)したりと/悦(よろこ)び、そ 00048100M17れより/直(すぐ)に又、女のかたに行ていふ/様(やう)、内&御頼被成候儀、 00048110M18日本一の御事こそ候へ、さる/扶持(ふち)人に/岡嶋(をかじま)/検休老(けんきうらう)とて、/随= 00048120M19分(すい=ぶん)のかね持の/侍(ハへ)りしが、そなたの御事こま※と/語(かた)り申た 00048130¥P150 00048140L1れは、それこそ/望(のぞミ)の通なる/耳寄(ミゝより)の事也、必何の/拵(こしら)へ(二ウ) 00048150L2とてもいらず、二度めの/妻(さい)なれバ世上/隠密(をんミつ)にして/迎(むかへ)度との 00048160L3事なり、さりとて子もなく、又しうとめもなし、其上さる 00048170L4方より/扶持(ふち)をとり、/公儀者(こうきしや)にて、/洛(らく)中にたれしらぬものも 00048180L5/侍(ハべ)らず、それがし/数(す)年の/療治(れうぢ)/旦那(だんな)にて候へハ、/別(へち)に両方へ 00048190L6/言葉(ことば)を/餝(かさ)り申わけもなし、此事/職(しよく)にも立されバ、まつすぐ 00048200L7にうちわりての申分なり、少御/気(き)に入ましきハ、かた+ 00048210L8の目か、ふそくに侍る、此外ハ/兎(う)の/毛(け)ほども/瑕(きず)になる事候 00048220L9ハず、其上/升舌(べんぜつ)/能(よく)、/才覚(さいかく)/仁(じん)にて/沙汰(さた)したる/芸者(げいしや)なるが、其 00048230L10御方にハ何と思召候といへば、(三オ)女聞て、さて+是 00048240L11ハ思ふまゝなる御事かな、我等久&/住(すミ)なれたる/主(しゆ)人の家よ 00048250L12り/暇(いとま)とり候も、/行(ゆく)行の身だめにて候へバ、ちとも/能(よき)方へと 00048260L13ぞんじ、今迄とり/極(きハめ)たる/談合(だんかう)もいたし申さず、世上ハミな 00048270L14少ため/置(をき)たる、へそくりがねを目あてにしての事なれば、 00048280L15/末(すゑ)心元なく、とやかくと心もおちつかずして/居(ゐ)申候に、よ 00048290L16うこそ被思召寄(おぼしめしよられ)、忝存まいらせ候、さても/片(かた)目の不/足(そく)成事 00048300L17ハ、少もいとひ申さす、只/違(ちかひ)なき事ならバ、いか様とも頼 00048310L18まいらすといふ。竹斎/飛(とび)立バかりに/嬉(うれ)しく、/薬師如来(やくしによらい)も/照= 00048320L19覧(しやう=らん)あれ、何しに/偽(いつハり)申へき、御心やす(三ウ)かれなどいひ 00048330M1まぎらかし、それより/療治(りやうぢ)ハわきの町へなして、足をそら 00048340M2に/飛廻(とびめぐ)り、竹に油のぬり付口に、ちよろり/祝言(しうげん)すましてげ 00048350M3り。扨女、/夫(おつと)のかほをつく※とミれバ、もうもくなり。い 00048360M4かバかり/悲(かな)しく思へども更にすべき手だてもなし。力なく 00048370M5/新枕(にゐまくら)の/盃(さかづき)かはして後、さとがへりの次而に、竹斎が/宅(たく)に 00048380M6来り、雨山の/恨(うらミ)、糸をくり出すごとく、たくりかけてわめ 00048390M7く。竹斎ちつともさハがす、いや+それハあしき御心入 00048400M8也、先世上の/仲人(なかうど)せしものハ、百が六七十までも/誠(まこと)ハなし、 00048410M9ミな/偽(いつハり)にてかたむれども、そなたと/私(わたくし)なれバ、やう+に 00048420M10目を一つ(四オ)と、/検(けん)きうの/休(きう)の字ならでハ/偽(いつハり)なし、/弁舌(べんぜつ) 00048430M11すくれ、/芸者(げいしや)にて、人/愛能(あいよく)、/公儀(こうき)/専(もつハら)にて、/扶持(ふち)人といひ、 00048440M12/手前(てまへ)よく、人にしられたるなど少も/相違(さうい)有べからす、さの 00048450M13ミなうらみ給ふそといふ。今ハ女も力/不及(をよハす)帰りけるが、いく 00048460M14ほどなくそひ/馴(なれ)て、後+ハ/夫婦(ふうふ)が中もむつまじかりける。 00048470M15されども二人の親ハ/片(かた)へんどのいきつまりものにて、目く 00048480M16らと聞て、一両年も/対面(たいめん)せざりしかども、/懐胎(くわいたい)の身となり 00048490M17けるより京へ出、/検校(けんげう)にも/始而(はしめて)/逢(あひ)たりけるが、座敷の/床(とこ)に 00048500M18/琵琶(びわ)の入たる/箱(はこ)をもたせ/置(をき)たるを、ふと/蓋(ふた)とりみるより/肝(きも) 00048510M19をけし、是ハ何といふものなれば(四ウ)すさまじく/腹(はら)のふ 00048520¥P151 00048530L1ときかたちなるぞと、/色&(いろ+)思ひ/煩(わつら)ふ所へ、/検校(けんけう)/罷出(まかりいて)て/挨= 00048540L2拶(あい=さつ)せし/形(かたち)をミれバ、/在所方(さいしよかた)の/座頭(さとう)とハ/替(かハ)り、/猶(なを)すまぬ事に 00048550L3思ひ、/女房(にようはう)を/引立(ひきたて)、/片(かた)すミにこぞり/居(ゐ)ていふ/様(やう)、/是(これ)ハ/近代(きんたい) 00048560L4/御法度(こはつと)の/宗旨(しうし)の/本尊(ほぞん)なるべし、あの/検校(けんけう)といひし名も/聞(きゝ)な 00048570L5れず、/慥(たしか)に/是(これ)ハばてれんの/長老(ちやうらう)にてあるべし、をんな共も 00048580L6/油断(ゆだん)するな、おそろしのことやとて色を/変(へん)じて立さハぐを、 00048590L7/娘(むすめ)ハ/袖(そて)に/取付(とりつき)、こハ/情(なさけ)なき事/宣(のたま)ふものかな、是ハ/琵琶(びわ)と申 00048600L8物にて、/内裏(たいり)さまにも/翫(もてあそ)びにし給ふ物なれバ、さるものに 00048610L9てハ候はず、ひらに御心をしづめ(五オ)給へ、くるしから 00048620L10ぬ物なりといふにて、やう+/尻(しり)をたゝみにすへ、ため/息(いき) 00048630L11つき、まだそれとても心得かたしとて、/彼琵琶(かのびわ)を/取出(とりいた)し、 00048640L12なでゝ見、されはこそ申さぬ/事(こと)か、何と/隠(かく)し申とても、ば 00048650L13てれんにまがひはなきぞ、是ほどいらひミれバ、ばてれん 00048660L14※となる程にとて、又立さはぎ、こらへずして/飛(とひ)いで、 00048670L15(五ウ)(六オ挿画)こびんより/煙(けふり)を/出(いだ)し、一休の御/寺(てら)へかけ/込(こミ)、 00048680L16/始(ハしめ)の/次第(しだい)/語(かた)り出し、/涙(なミた)を/流(なが)していふやう、/明日(あす)にてもあれ、 00048690L17御/公儀(こうぎ)さまより/御穿鑿(ごせんさく)の時ハ、此両人はしり入申へきなり、 00048700L18/命(いのち)御たすけ給ハれなど、なき/口説(くどき)けるに、一休もくねる 00048710L19/腹(はら)をおさへて、/如何(いか)にも/其方達(そのはうたち)がいひぶん、/断(ことハり)/至極(しごく)せり、 00048720¥G 00048730M12いつ何時にても/穿鑿(せんさく)と/聞(きか)ば、/走(はし)り/込(こみ)申さるべし、/愚僧(ぐそう)が一 00048740M13/命(めい)にかへても/助(たす)け申む、されば一/両年(りやうねん)以/前(ぜん)にも/左様(さやう)の事 00048750M14ありて、にげ来りしを、此寺にたすけをきたり、いざこなた 00048760M15へわせよ、物見せんとて、大きなる/琴(こと)ひとつ/取出(とりいだ)し、(六ウ) 00048770M16/小声(ここゑ)に/成(なり)て仰られけるハ、是其時/隠(かく)したる/本尊(ほんぞん)也、/桐(きり)と/紫= 00048780M17檀(し=たん)とにて/作(つく)りたれハ、きりしたんといふなり、其方にある 00048790M18/仏(ほとけ)ハいかにもばてれんの中にても、/琵琶尸仏(びわしぶつ)といふ大/将(しやう)の 00048800M19仏ぞ、ゆだん有べからずと語り給へば、/夫婦(ふうふ)の/者(もの)/肝(きも)をつぶ 00048810¥P152 00048820L1し、なみだをながし出けるが、えんがわにてなきたおれて、 00048830L2こけおちけるを、一休見給ひ、あなめでたし、一命何事も 00048840L3あるべからず、ころびだにすれバ、/別義(べちき)なき事也、心やす 00048850L4かれとあれバ、力を得て帰りにける。 00048860L5△△ばてれんとをとにきゝてハびわにさへ(七オ) 00048870L6△△△いとけはしくもなりわたる哉 00048880¥N2¥J 00048890¥X/鼻(はな)の/下(した)の/療治(れうぢ) 00048900L9/爰(こゝ)に/火鉢(ひはち)のばゝとて/愚(をろか)なるものありけり。かたちいつくし 00048910L10きむすめをもち、玉をさゝげ、花をながめたるがごとくお 00048920L11もひて、いつきかしづきそだてたりしが、いつともなく二 00048930L12八あまりになりければ、いかにもしてうとく成方へ/目(め)かけ 00048940L13物にもいだし、/目出度(めてたき)/末(すゑ)をみるべきなどおもひ/寄(より)て、/其比(そのころ) 00048950L14人の口入をして/世(よ)を/渡(わた)るゑびがかゝといふ女を/頼(たのミ)、/方&(はう※)に 00048960L15/目見(めみえ)させたりけれど、/鼻(はな)の/下(した)にまくろなる/瘤(あざ)あ(七ウ)りて、 00048970L16おもふやうに/能口(よきくち)もなく、/随分(すいふん)/白粉(おしろい)/白壁(しらかへ)ほどぬれども、/鼠= 00048980L17壁(ねすミ=かべ)のごとく見えすきて、むさくろしければ、/其(その)身も/母(はゝ)も/是(これ) 00048990L18をうるさき事に思ひ、竹斎を/頼(たの)ミ、御/薬(くすり)をなどいへば、竹 00049000L19斎きゝ、いかにも/安(やす)き御事なり、乍去(さりなから)見申さでハとて、さ 00049010M1し/寄(より)みるに、なまずともしれす、/上髭(うハひげ)ともわきまへぬもの 00049020M2なり。さしておもひ/寄(より)たる薬もあらねハ、くさりくすりに 00049030M3て/療治(れうぢ)せはやと、/丹礬(たんはん)の入たるこぶぬきの薬を/包(つゝミ)、/書付(かきつけ)し 00049040M4ていたす。/忝(かたしけなし)とて/急(いそ)きやどに/帰(かへ)り、/沸湯(にへゆ)にて/摺(すり)/爛(たゞ)らかし、 00049050M5其上に此薬(八オ)をしへの/通(とをり)に/付(つけ)たりしが、何かはうづか 00049060M6であるべき、/夜中(やちう)/目(め)もあはずしておめきたて、くるしミけ 00049070M7れども、あすハ/定(さた)めてよく/侍(ハへ)るべきぞ、さほどにもあらす 00049080M8ハ、のき申まじとて、むりにこらへさせけれバ、/夜(よ)の/間(ま)に 00049090M9/鼻(はな)のまハり、ほうさきまてくさり上りて、/瘡毒(さうどく)やミにこと 00049100M10ならず、/姥(うば)大きに/驚(おどろ)き、さてもにくきまいす/坊主(ほうす)や、/我杖(わがつえ) 00049110M11とも/柱(はしら)とも頼たるひとりの/娘(むすめ)、かほどまて大/瑾(きず)を/付(つけ)たりけ 00049120M12る竹斎こそ/遺恨(いこん)なれと、/牛(うし)つき/眼(まなこ)になりて、竹斎が家に/走(ハし) 00049130M13りゆき、やにはにほうげたを三つ四つ(八ウ)たゝき、さん 00049140M14+に/嗔(いか)りわめきけれバ、竹斎ハ/女(をんな)なと/相手(あひて)にして、はり 00049150M15かへさんもおとなげなけれバ、さしうつむきて、なミだを 00049160M16/鳩尾(きうび)/先(さき)までこぼし、さな申されそよ、むたいの事なり、/我(われ) 00049170M17あしかれとていたすにもあらず、あたるもきくも/薬(くすり)の/習(なら)ひ、 00049180M18/隣(となり)あたりを/憚(はゞから)れよといへば、/猶(なを)たつミあがりに/成(なり)て、いひ 00049190M19もやまず、おもへば+/腹立(はらたち)やとて、やがて竹斎がうちま 00049200¥P153 00049210L1たへ/手(て)をさし入、/青(あを)ふなるほどつめりにける。(九オ)(九ウ・ 00049220L2十オ挿画)竹斎もいたさハ/痛(いた)し、とちほどなる/涙(なミた)をねぢ/切(きり)、 00049230L3/仏(ほとけ)のかほも三/度(ど)までこそなんのをのれ、といふままに、又 00049240L4ばゝか、しはまたぐらへ大/手(て)をぬつといれたりけるに、/姥(うば) 00049250L5/肝(きも)をつぶし、たけ+/敷(しく)/声(こゑ)を/出(いだ)し、やれすて/坊主(はうず)、いたづ 00049260L6らものめよ、なまとし/寄(より)たるものに、はらすぢや、つらに 00049270L7くやとて、むしりあひ、つかミあふ/所(ところ)へ、/睨之助(にらミのすけ)/外(ほか)より/帰(かへ) 00049280L8り、こハすいさんなるふるまひかなと、まづ竹斎をもぎは 00049290L9なして、しらがあたまをかいつかんで/引立(ひきたて)んとせし/時(とき)、睨 00049300¥G 00049310¥G 00049320M11之介が/下帯(したおび)のさがりはづれて、ひきつりたりしが、姥(十 00049330M12ウ)にふまへられて、/情(なさけ)なくあをのけさまに、とふどふす。 00049340M13/姥(うば)やがて是をとらへて/引程(ひくほど)に、/表(おもて)までひきづり/出(いだ)され、や 00049350M14う+におきあがれバ、わめひて姥は/帰(かへ)りにけり。かくて 00049360M15四五日/過(すき)、いよ+/腫(ハれ)ふくれ、/命(いのち)もあやうき/計煩(ハかりわづら)ひけれバ、 00049370M16あまり/悲(かな)しさのまゝ、/紫野(むらさきの)へゆき、和尚の御/目(め)にかゝり、 00049380M17ぐど+かたりけるハ、わらハがひとり/娘(むすめ)にて候もの、母 00049390M18が/顔(かほ)にハ/生(むま)れまさり、あなたの/玉章(たまづさ)、こなた文にて、ミな 00049400M19人ごとにもらいたがり候へども、月に/村雲(むらくも)、/花(はな)にあらし、 00049410¥P154 00049420L1/少(すこし)/鼻(はな)の/下(した)にさハりなる事御ざ候て、おもハし(十一オ)き 00049430L2事もなく候を、/難義(なんき)なる事に/存(ぞんじ)、竹斎と申ある/下手(へた)めを/頼(たの) 00049440L3ミ、ゑもしれぬ/薬(くすり)をつけ申候へバ、さん+にはれほうち 00049450L4やくつかまつり、/膿血(うミち)/流(ながれ)うづきほめひて、/今(いま)ハはや/頼(たのミ)すく 00049460L5なきやうに/成(なり)て候/間(あひだ)、/仏(ほとけ)/方便(はうべん)の御身なれバ、/何(なに)とぞ御/祈= 00049470L6祷(き=たう)をもあそバされ候てたび給へと/歎(なげ)く。一休/聞(きこ)しめされ、 00049480L7/我等(われら)が/宗旨(しうし)にハ/祈祷(きたう)とてハし侍らねど、それ/程(ほど)にわりなく 00049490L8見え給へバ、いかにも/晩(ばん)ほどずいぶん/祈(いのり)て見申さん、さて 00049500L9その/鼻(はな)の/下(した)のくろきも/膿(うミ)はれたるも、竹斎が/科(とが)に/ハ((ママ))/有(ある)べか 00049510L10らず、むかし(十一ウ)/天竺国(てんちくこく)にハ、/仏(ほとけ)のはなを/錐(きり)にてもミ 00049520L11たるとて、七/生(しやう)が/間(あいた)、/鼻(はな)たけといふものを/煩(わつら)ひたりしため 00049530L12しもあれバ、/是(これ)も/定(さだめ)て/前生(ぜんしやう)のむくひなるべしと/仰(おほせ)けるに、 00049540L13/姥(うば)/聞(きゝ)て、/其(その)むくひを身にうけ可申/子細(しさい)ハ/覚(おほ)え申さず、人を 00049550L14あしかれとハ/存(ぞん)し候ハず、/只(たゞ)あけても/暮(くれ)ても/阿弥陀(あミだ)さまを 00049560L15こそ/頼(たのミ)申なるにとて、/色(いろ)を/損(そん)じたりけれバ、和尚/咲(おか)しくお 00049570L16ほしめして、いやとよ、そのあみださまにてこそ、/左様(さやう)の 00049580L17くろきもの/出来(てき)たるなり、此/禅法(ぜんほう)といつは、/座禅(ざぜん)といふ事 00049590L18をむねとし、/過去(くわこ)にても/未来(ミらい)にても、見たい/所(ところ)を/夢(ゆめ)の/間(ま)に 00049600L19見て(十二オ)くること、/自由(しゆう)/神変(しんべん)なり、/邪気(しやき)を/捨(すて)、/仏道(ふつとう)に 00049610M1/趣(をもむき)、まことの心ざしにて其/前生(せんしやう)の物/語(かたり)をきかれなば、む 00049620M2つかしながら/座禅(ざぜん)をして、ミてきて語り/聞(きか)せんと/宣(のたま)ひたり 00049630M3けるに、/姥(うば)/聞(きゝ)て、そもや此/界(かい)より、いかで/自由(じゆう)にさる事/有(ある) 00049640M4べき、/愚痴(ぐち)のわらはとミて、なぶり給ふかといふ。いや/何(なに) 00049650M5しになぶり申べき、/望(のそミ)ならバ、/只今(たゝいま)にてもやすき事なりと 00049660M6/宣(のたま)ひける。/姥(うば)/手(て)をうつていふ/様(やう)、/左(さ)様の御事とハ/存(ぞん)ぜずし 00049670M7て、たけ※しく申まいらす事、女のあさましさなれバ、 00049680M8とかく御/免被成(めんなされ)候へ、/然(しか)らば、/座禅(ざぜん)あそばされてたび給へ 00049690M9と/云(いふ)。(十二ウ)その時和尚ハ/草臥(くたびれ)はてゝ、ねむさハねむし、 00049700M10やがて/納戸(なんど)に入、大/衾(ぶすま)をひつかぶりて、たかいびきして、 00049710M11ふし給ふ。/姥(うば)是に/興(けう)をさまし、すそを/引(ひき)てゆすりおこし、 00049720M12さても/珍敷(めづらしき)/座禅(ざぜん)にて候物かな、いよ+/姥(うば)をあなどり給 00049730M13ふかとて、たゝミのほこり/打(うち)たてゝいかる。一休/少(すこし)もかま 00049740M14ひ給はず、/何(なに)とて/妨(さまたげ)をし給ふぞや、さて+あぶなき事か 00049750M15な、いま/少(すこし)はやくおこされなバ、よもくハしき事/聞来(きゝきた)るま 00049760M16じものを、まだ/能(よき)/時分(じふん)にとて、/目(め)をこすり+仰られける 00049770M17ハ、此中/建長寺(けんちやうじ)の/僧(そう)とて、/鎌倉(かまくら)よりも(十三オ)座禅して 00049780M18/過(くわ)去へゆき、/今日(こんにち)/帰(かへ)るさの道にて/行合(ゆきあひ)、/其方(そのはう)の事/能存(よくぞんじ)候、 00049790M19/仁故(しんゆへ)/先(さき)まで/行間(ゆくま)なけれバ、此/僧(そう)にこま※ととひたる也、 00049800¥P155 00049810L1心をしづめ、/聞(きゝ)候へ、其先の/生(しやう)ハ/有徳(うとく)なる長/者(しや)の/妻(つま)なりし 00049820L2が、/常(つね)に/後(ご)世をねかひ、/随分(ずいぶん)と/仏(ほとけ)につかへたれども、/心(こゝろ)ち 00049830L3いさくして、/外他(けた)を/利益(りやく)することをしらず、それ/故(ゆへ)、/持仏= 00049840L4堂(ぢぶつ=だう)の/弥陀(ミた)の/像(ざう)の/鼻(はな)の/穴(あな)より、/前卓(まへしよく)の/香炉(かうろ)の/蓋(ふた)のすかしに、 00049850L5竹の/管(くた)をわたし、香の/煙(けふり)をあミた/如来(によらい)へ計とおもひ、/偏(ひとへ)に 00049860L6/鼻(はな)をふすべたりければ、弥陀の/上(うは)くちひる、まくろになり 00049870L7たり、それを又見くるしとて、/小刀(こかたな)にて、こそげおとした 00049880L8れは、(十三ウ)仏も是を迷/惑(わく)し給ふ、さりながら、ふかく 00049890L9弥陀をおもひ入たりし/功徳(くとく)にて、又人/界(がい)へ生れ、五/躰(たい)/具足(ぐそく) 00049900L10すれども/男(おとこ)とハならず、是その/愚(ぐ)なりし/科(とが)なり、/然(しか)れとも 00049910L11/我(わか)身にたくまさる科なる/故(ゆへ)に、一人の/娘(むすめ)にむくひ、/鼻(はな)くろ 00049920L12く、うミ/出(いて)、/今生(こんしやう)にてその科をつくのふて、此/後(のち)ハ/往(わう)生 00049930L13/速(すミやか)なり、/必(かならす)よしなく人を/恨(うらミ)て/嗔恚(しんい)を/発(おこ)さるべからす、 00049940L14かへす※も此今の身こそ大/事(じ)なれと、くすミ/切(きり)て仰られ 00049950L15ければ、/姥(うは)大きに/肝(きも)をつぶし、/扨(さて)ハかゝるむくひにて候か 00049960L16や、/能(よき)/善智識様(せんちしきさま)に/逢(あひ)たてまつる事かなとて、そゝろに/感(かん) 00049970L17(十四オ)涙をながし、おがミたうとみけるが、/迚(とても)の/義(き)に/尋(たつね) 00049980L18申/度(たき)御事の候、あの/阿弥陀(あミだ)さまにも、いろ+のかたち候 00049990L19へバ、どれが/勝(すぐれ)てたうときも、わきまへがたく、まよひ申 00050000M1候なれバ、とくとうけ給、その中にも能かたをねがひ可申 00050010M2といへば、一休/聞召(きこしめし)、いかにも尤の/不審(ふしん)なり、念/比(ころ)に/語(かた)り 00050020M3聞せ申さん、まづ/膝(ひざ)のうへに/両手(りやうて)を/置(をき)給ひし/像(ざう)ハ、/末(まつ)代の 00050030M4/善男子善女(ぜんなんしせんによ)人、/仮初(かりそめ)にも/弥陀(ミだ)を/念(ねん)じ/礼拝(らいはい)し/供養(くやう)せば、まつ此 00050040M5やうにして、すくい/取(とる)べしとのかたちなり、されども阿弥陀 00050050M6ハ/銭(ぜに)ほど/光(ひか)り給ふなれバ、とかく(十四ウ)/銭(せに)を/持(もち)てこよ、さ 00050060M7なけれバ/誠(まこと)の/後生(こしやう)ねがひにてなしとて、人/指(さし)ゆびを丸めて 00050070M8見せおハしますなり、又上と下へ手をなしてまします/像(ざう)ハ、 00050080M9人として/仏道(ぶつどう)をねかハゞ、/高(たか)ひも/卑(ひき)ひもその身/相応(さうおう)に銭を 00050090M10もてまいれとて、是もゆびをまるめて見せしめ給ふなれハ、 00050100M11どちとても、よきのあしきのとて/隔(へだて)申ことは有べからすと 00050110M12/語(かた)り給へバ、/姥(うば)かしらをほく+と/打領許(うちうなづき)て、又/問(とふ)、あの 00050120M13お/地蔵(ちそう)さまと申ハ/男(おとこ)にて候か、女にて候かきかまほしけれ 00050130M14といふ。されバ/愚僧(ぐそう)も、/地蔵(ぢざう)のはだかになられたるをも見 00050140M15/侍(ハへ)らず、/小便(せうべん)(十五オ)めされたるをも/気(き)をつけされバ、そ 00050150M16のわかちハしらす、/然(しか)れども四/季(き)ともに、なまあつきわた 00050160M17ほうしをかぶり、それのミならず、うそやかましき子ども 00050170M18をあせらかさるゝほとに、さだめて女にて/有(ある)へし、/先(まつ)あの 00050180M19/面躰(めんてい)のいつくしきをみられよと、あれバ、わらはもさやう 00050190¥P156 00050200L1に/存(ぞんじ)候なり、さりながら/両(りやう)の/手(て)に持/居(ゐ)給ふ物ハ/何(なに)になるも 00050210L2のにて何と申ぞと/問(とふ)。あれハ/錫杖(しやくぢやう)といふて、さいの/河原(かハら)へ 00050220L3/持出(もちいで)給ひ、あまたの子どもが/浮魚(めゝざこ)をすくひ/遊(あそ)びし/時(とき)、もし 00050230L4水に/溺(おほれ)て/流(なかる)る時ハ、あの錫/杖(ぢやう)のべて、とりつかせ給ふに 00050240L5より、いくつもくハんを/付(つけ)られ(十五ウ)(十六オ挿画)たるな 00050250L6り、又/左(ひたり)の/手(て)の玉ハ、じや※をいふてなく/子(こ)どもあれば、 00050260L7やがて見せてすかし給へり、/扨(さて)又/岩(いは)の上に立給ふかたちハ、 00050270L8/彼(かの)川/岸(きし)におハします/時(とき)の/躰(てい)なりと、/語(かた)り給へば、/勿論(もちろん)/和尚= 00050280L9様(おしやう=さま)の御事ながら、さりとてハよく御/存(そんし)にて候、さぞ※御 00050290¥G 00050300M1やかましくおほしめし候ハんづれども、とてもの事に/尋= 00050310M2奉(たつね=たてまつ)るべし、あの/三途河(さうづがハ)のおばゝと申は、/仏(ほとけ)にて候か、い 00050320M3かなる人にて/何(なに)をめさるゝかたに候やらんととふ。されバ 00050330M4あれハ/閻魔(えんま)大/王(わう)どのゝお/乳(ち)の人なりしが、/罪(つミ)ふかきものゝ 00050340M5/通(とを)る時、/死出(しての)山の/谷(たに)(十六ウ)口にかまへて、丸はだかには 00050350M6ぎとり、/則(すなハち)/三途川(さうづがは)の/流(ながれ)にて/洗濯(せんだく)して、十/王達(わうたち)の/仕着(しき)せに 00050360M7せらるゝとぞ仰ける。/扨(さて)又/薬師如来(やくしによらい)と申御仏の/持(もち)給ふつぼ 00050370M8にハ、何を入て/置(をき)給へるぞや、是又/承(うけ給)りたしといふ。/如= 00050380M9何(い=か)にも/尤(もつとも)なり、あれハ/痰(たん)きりなり、その/子細(しさい)は、/先(まつ)/薬師(やくし)如 00050390M10来の国を/東方上瑠璃世界(とうはうじやうるりせかい)と/名(な)づく、/土地(とち)/殊外(ことのほか)/湿気(しつけ)/強(つよく)て、 00050400M11/痰瘡毒(たんさうとく)はやる/所(ところ)也、それゆへ/耳(ミゝ)のつぶるゝもの、あまたあ 00050410M12るを、/不便(ふびん)におぼしめされて、とりわき/耳(ミゝ)をよくまもらせ 00050420M13給ふ/故(ゆへ)に、/穴石(あないし)をかけて/祈(いの)る事なり、たとへ(十七オ)いし 00050430M14ほどかたきつむほなりとも、/我(われ)いのるものならば、/穴(あな)をあ 00050440M15けてゑさせんとのちかひなれバ、御身ごときの/年寄(としより)たち、 00050450M16/猶以(なをもつ)て/信心(しん※)あるべき/仏(ほとけ)にまします、されバ/誓(ちかひ)の御/哥(うた)にも、 00050460M17△△たゝたのめ/湿気(しつけ)にあたるつんほども 00050470M18△△△われ世の中にあらんかきりハ 00050480M19△△△△又 00050490¥P157 00050500L1△△こゝろだにまことの/道(ミち)に/叶(かなひ)なば 00050510L2△△△いのらずとても/耳(ミゝ)をまもらん 00050520L3となん御/語(かたり)あれば、/扨(さて)&/有難(ありかたき)事/承忝(うけ給かたしけなく)候、/扨(さて)(十七ウ) 00050530L4又/娘(むすめ)か/病気(ひやうき)の事いかゝ、/本復(ほんふく)可仕候や、あはれ御/慈悲(じひ) 00050540L5に御/祈祷(きたう)あそバし/下(くた)され候ハゝなど/歎(なけき)けれバ、やすき事に 00050550L6/侍(ハべ)る、さりながら/先程(さきほど)より申ごとく、/前世(ぜんぜ)の/報(むく)ひにて侍れ 00050560L7バ、/先&(まつ+)/阿弥陀如来(あミだによらい)に/詫言(わひこと)めされよ、/信心(しん※)あらば、やかて 00050570L8/愈(いゆ)べし、此/方(はう)にてもかたのごとく/祈祷(きたう)いたし申べしと仰け 00050580L9れバ、うれしき事に思ひ、御/暇(いとま)申あけ、/帰(かへ)りてより/仏前(ぶつせん) 00050590L10に/向(むか)ひ、/香花(かうはな)くだ物なと/手向(たむけ)、/娘(むすめ)が事ひたすらに/祈(いの)り、/昼= 00050600L11夜(ちう=や)まとろミもせであれバ、/奇瑞(きすい)の事/有(あり)て、それよりうす/紙(かミ) 00050610L12を、へぐやうによくなりしとかや。(十八オ) 00050620¥N3¥J 00050630¥X/木乃伊(ミいら)の/切売(きりうり) 00050640L15/過(すき)にし/神無月(かミなつき)/中(なか)の五日、/上京(かミきやう)より/火事(くわじ)おこりて、/猛火(めうくわ)/東西(とうざい) 00050650L16にひろごり、/万民(はんミん)/足(あし)を/空(そら)になして/逃(にげ)まどひける/折(おり)ふし、/年= 00050660L17比(とし=ころ)/二十(はたち)あまりなる/座(ざ)頭壱/人(にん)、大/宮(ミや)の/四辻(よつつじ)にさまよひ/居(ゐ)たり 00050670L18し/時(とき)、はや/北町(きたまち)まて/火(ひ)かゝりたりと、わめきたつれば、た 00050680L19えがたく/悲(かな)しさのまゝに、/逃行(にけゆく)人をひしととらへて、/是(これ) 00050690M1+たすけさせ給へ、/盲目(もうもく)なり、/東西(とうさい)の/火花(ほさき)いかなるとも 00050700M2見わかず、此まゝにて/焼死(やけしす)べきも/浅(あさ)ましけれバ、かく/仕(つかまつ)り 00050710M3候とて、すがり/付(つき)て、は(十八ウ)なさず。/彼(かの)ものも/是非(ぜひ)は 00050720M4なせといひけれども、すべきやうなけれバ、いかにも/我行= 00050730M5方(わがゆく=かた)へいざなひのけ候べし、さりとても/袖(そで)を/引帯(ひきおび)をとらへて、 00050740M6/多人(たにん)の/中(なか)の/足(あし)まとひになりてハ、一足もひかれず、いざ/手(て) 00050750M7を/引侍(ひきハべ)らんといふ。/座頭(ざとう)よにうれしげにて、ともかくもた 00050760M8のミたてまつるといふを、やがて、もぎはなして/逃(にけ)たりけ 00050770M9る。(十九オ)(十九ウ挿画)あまり/力(ちから)なくおもひければ、又/余(よ) 00050780¥G 00050790¥P158 00050800L1なるものにしがみ/付(つき)て/歎(なけ)く/程(ほど)に、こは/狼藉(らうぜき)なり、とかく/爰(こゝ) 00050810L2をはなせといひて、ねぢあひ/引(ひき)あふ/内(うち)に、/四方(よも)の/烟(けぶり)は/頭上(つじやう) 00050820L3におほひ、/二人(ふたり)ともに/焼失(やけうせ)たりける。かくて/翌日(よくじつ)に/成(なり)て、 00050830L4/始(はしめ)/逃(にけ)たる/男(おとこ)、此/所(ところ)に/来(きた)り、とても/彼盲目(かのもうもく)たすかりハせま 00050840L5じ、いか/成(なる)ありさまにかなりけるなどいひ/尋(たつ)ねたりしに、 00050850L6/足(あし)をふんばり、/棒(ほう)をつき、/左(ひだり)の/手(て)をつき/出(いた)し、にきりしめ、 00050860L7/立(たち)すくミて/死(しゝ)たりける。そのありさま、あたか/大叫喚(だいけうくハん)の/罪= 00050870L8人(ざい=にん)ども、ちまたに/焦(こが)れししかばねも、/是(これ)(二十オ)にハいか 00050880L9でかたがふべき。見るめの/涙(なミた)/袖(そて)をひたし、/暫(しバら)く/念仏(ねんぶつ)して/帰(かへ) 00050890L10りたりけるに、/召(めし)つれたりし/下男(しもおとこ)、/是(これ)を/能(よく)/見置(ミをき)て、/其(その)よ比 00050900L11/死骸(しかハね)を/背(せなか)に/負(おひ)て、/我部屋(わかへや)にかへりて、ふかく/隠(かく)し/置(をき)て/巧(たくミ)し 00050910L12やうハ、/誠(まこと)や/当関白殿(たうくハんハくとの)にハ、大きなる/庭(にハ)を/作(つくら)せ給ひ、/乾(いぬい) 00050920L13の/滝(たき)に/土焼(つちやき)の/西行(さいぎやう)の/人形(にんぎう)ををかんと、方&を御/尋(たつね)のよし聞 00050930L14/及(をよひ)たり、さらば此/座頭(ざとう)がたちずくみたるをば、/西行(さいぎやう)といひ 00050940L15てうらばやとおもひ、ひそかに/屋形(やかた)に/行(ゆき)、/買物使(かいものつかひ)の/益田(ましだ)/源= 00050950L16六(けん=ろく)をたのミ、/上(かミ)へ申入たりけるに、かねてそれをこそ/望(のそむ)処 00050960L17なれ(二十ウ)とて、そのまゝ二/貫文(くハんもん)にめしあげらるゝ。 00050970L18さて/滝(たき)の/辺(ほと)りに/立(たゝ)せをき、大/書院(しよえん)より/遠覧(ゑんらん)し給ふに、二/尺(しやく) 00050980L19あまりにみえて、/恰合(かつかう)/庭(にハ)にまけたり。何/尺(しやく)あるや申上よと 00050990M1あれバ、庭の/奉行(ぶきやう)承り、五尺四寸御/座(さ)候由申上る。扨ハ 00051000M2庭の/広(ひろ)き故にこそとて御/感(かん)有けれバ、御/傍(そバ)/近(ちか)きついせうも 00051010M3の、我等も左様にちいさく奉存候へども、四尺あまりハち 00051020M4いさきとも申されず候、是ハ御/庭(にハ)の大きなる/故(ゆへ)に御座候、 00051030M5此中もみな下※にて申候にハ、/木曾(きそ)に御/座(さ)候/桔梗(ききやう)が/原(ハら)と 00051040M6見くらべ申ても、中+御庭にハ/及(をよ)ひ申さす(二十一オ)と 00051050M7承り候といへば、同じ/穴(あな)の/狐(きつね)とも、/七(なゝ)はけに/化(ばけ)てほめそや 00051060M8すほどに、/御機嫌(ごきけん)よのつねにもあらざりけり。かくて二三 00051070M9日がほどありて、/西行(さいぎやう)か/両眼(りやうがん)を/烏(からす)のせゝりける程に、/庭= 00051080M10奉行(にハ=ぶきやう)の者ども立より見て、とり+/不審(ふしん)をなしていふ/様(やう)、 00051090M11是ハ何とやらんあしき/匂(にほ)ひなり、其上にちや+として、 00051100M12更に/焼(やき)物とはおもひがたし、/蝋(らう)/松脂(まつやに)を以て/練(ねり)たるにてあら 00051110M13ん、是此まゝにてをかば、春になり、/解(とけ)/融(どろけ)て、/苔(こけ)むす/岩(いは) 00051120M14にながれかゝり、ちやんぬりのやうになり/侍(ハべ)らバ、いかば 00051130M15かりむさく、きたなかるべし、とかく/御為(おため)(二十一ウ)づくな 00051140M16れバ、かたちすなほなる/内(うち)に/払物(はらひもの)にせんと、/談合(たんかう)/究(きハま)り、/頓= 00051150M17而(やか=て)/年寄衆(としよりしゆ)まてうつたへ、払物に出し、かなたこなたと/聞立(きゝたつ) 00051160M18れども、一/銭(せん)にも/買(かは)んといふものなし。さてハ/眼(まなこ)ぬけたる 00051170M19故ならしとて、/黒鳬■(くろくわい)を/押入(をしいれ)て見せたりけれハ、/烏丸(からすまる)に/居= 00051180¥P159 00051190L1住(きよ=じう)せし/惣(そう)十郎といふ薬や、是を買とり、/土蔵(どざう)にふかく入て 00051200L2/所持(しよぢ)しにけり。何になるともしれざりけるが、其比/蜷川氏(になかハうち) 00051210L3の/母儀(ほぎ)、/中風(ちうぶ)/発(をこり)て、/目口(めくち)/咼斜(ぐわしや)とゆがミ、/肌肉(きにく)/疼痛(とうつう)して、く 00051220L4るしまれけるを、竹斎/数月(すけつ)薬をあたへ、/君臣(くんしん)/佐使補潟温涼(さしほしやうんりやう) 00051230L5の/験術(げんじゆつ)(廿二オ)をふるひぬれども、そのしるし少もなし、 00051240L6今ハくらゐ/詰(つめ)になりて、/必死(ひつし)の/限(かきり)/待計(まつハかり)なれバ、竹斎も/面= 00051250L7目(めん=ぼく)なくおもひ、此上ハ/煎剤(せんざい)/丸散(くハんさん)/練薬(ねりやく)のたぐひ/及(をよ)ふべから 00051260L8ず、みいらを用て見給ふましやといへバ、それこそ/望(のそ)まし 00051270L9き事とて、/爰(こゝ)かしこと/尋(たつ)ねたりけるに、惣十郎が/家(いへ)にこそ 00051280L10/全躰(ぜんたい)/堅固(けんご)の/正真(しやうじん)のありて、/切売(きりうり)にするよし/聞伝(きゝつたへ)て、/急(いそ)き此 00051290L11者の方に行、是を/求(もとめ)て、少取あたへたりけるに、ふしきや、 00051300L12/目口(めくち)すなほになりて、/惣身(そうミ)やハらぎ出、おびたゞしき/験(けん)な 00051310L13りけれバ、竹斎も是を/塩(しほ)にして、先此間(廿二ウ)のつかれ 00051320L14/晴(はら)しにとて、/帰宅(きたく)してけり、其夜より/両眼(りやうがん)をふさぎひたも 00051330L15のにあふのき、かうべをふり、両手をもだ+とせられけ 00051340L16れバ、みな+/驚(おとろ)きこま※しき/様躰(やうだい)書して、竹斎へぞつ 00051350L17かはれける。竹斎/是(これ)を見て、/横(よこ)手をうち、/肝(きも)をつぶし、是 00051360L18こそ/風■(ふうはい)の/症(しやう)なり、されバ/論(ろん)にも、/風■(ふうはい)ハ身におゐて/痛(いたミ)な 00051370L19し、/四肢(しいし)おさまらずと/侍(ハべ)るなれば、/紛(まき)れなき風■の症なり、 00051380M1其/上(うへ)/口(くち)/開(ひらき)/手(て)/撒(ひろご)り、/眼(まなこ)/合(かつ)し/頭(づ)をふる、ミな/是(これ)/中風(ちうぶ)の/悪症(あくしやう)な 00051390M2れバ、いよ+/本復(ほんぶく)たのミハなし、若ミいらの/薬毒(やくどく)に(廿 00051400M3三オ)て侍らば、又/本(ほん)ぶくし給ふ事も/有(ある)べし、薬やにてよく 00051410M4/真偽(しんき)を/正(たゞ)し給へといふ。さてそのごとく薬屋を/吟味(きんミ)したり 00051420M5けれバ、/惣(そう)十郎がいひしも、竹斎がごとくに/薬毒(やくどく)なり、/世= 00051430M6上(せ=しやう)にてハ/阿仙薬(あせんやく)をかため、/偽薬(きやく)を/売(うり)候へども、此方のはま 00051440M7きれなききり売なれバ、慥成事/明白(めいハく)也、何とその/手(て)ハいか 00051450M8やうに/動(うこき)申候ぞや、じたい此みいらハ/座頭(ざたう)にて候ひしほど 00051460M9に、両手一所にして/動(うこ)かし給ハゝ、その/座頭(ざとう)/按摩(あんま)とりにて 00051470¥G 00051480¥P160 00051490L1候べし、又上下にて、もだつかせなば、/三味線引(さミせんひき)と心得給 00051500L2ふべし、(廿三ウ)(廿四終オ挿画)四五日まつ薬をやめて御/覧(らん)候 00051510L3へかし、/薬毒(やくどく)ならば、そのまゝ/能(よく)なり申べしとかたれハ、 00051520L4さ申候ハんとて、つかひハかへりぬ。まことハ、にせ物な 00051530L5るゆへ、心よからで、又もとがめんかとおもへば、むねも 00051540L6/静(しづ)かならず侍りて、/薬種屋(やくしゆや)、 00051550L7△△いつハりて/売(うり)しわやくのみいらをば 00051560L8△△△とハゝ/座頭(ざとう)がからとこたへん(二十四終ウ) 00051570¥Y1杉楊枝第六 00051580M3△△/竹斎(ちくさい)よまひ/言(こと) 00051590M4△△竹斎/夢想(むさう) 00051600M5△△△△付/臨終(りんじう)の/辞世(じせい) 00051610M6△△/大極捨欲(たいきよくしやよく)の/図(つ) 00051620M7△△/枕屏風(まくらひやうぶ)の/歌(うた)(一ウ) 00051630¥P161 00051640¥T1杉楊枝第六 00051650¥N1¥J 00051660¥X竹斎よまひ/言(ごと) 00051670L5きさらぎ初つかた、うち/続(つゝき)たる春/雨(さめ)にふりこめられて、竹 00051680L6斎ハうそ淋しけに/踞(うつくま)り居て、此間しちらかしたる病人、ほ 00051690L7つ+とかぞへミれば数十人ながら、さつはりと治したり 00051700L8とおもふは、ひとりとしてなく、あまり心うさに、/蜷川(になかわ)の 00051710L9母儀の事とも、とやかくおもひやれば、命のかゝはるべき 00051720L10事おもひもよらず、うそ恥かしくおほえけれバ、/使(つかひ)をもや 00051730L11らて過けるが、つく+と/我茶匙(わがさじ)のまがりたる事を(二オ) 00051740L12おもひくらせば、さながらむねもつまる計あぢきなく、/法= 00051750L13師(ほう=し)のゑり巻すり/切(きり)/果(はて)て、心苦しき/憂(うき)おもひに、/痩衰(やせおとろ)へ/腰(こし)ほ 00051760L14そく、いろ青く百なりびやうたん、ぶらつゐて世をわたる 00051770L15年月、ながれて早き/質物(しちもつ)の/札(ふだ)にハ、/大盤若(だいはんにや)ならねど、てん 00051780L16※し奉る。六百/貫文(くハんもん)と/書加(かきくハへ)へたる/借銭(しやくせん)のみしん、のどく 00051790L17びにおれ込、あはれ手比の/病人(ひやうにん)たにあらば、一もミもふで 00051800L18/鳥目(てうもく)の百/疋(ひき)/計(バかり)も、ハりまなげにせんとおもへど、すぐにも 00051810L19通さぬ/丸木橋(まるきばし)、足の下から、ぐれり+となつて、あての 00051820M1つちはつれやすく、/適&(たま+)/直(なを)しさうなる/病(びやう)人にハ、/寸善尺魔(すんぜんしやくま) 00051830M2の(二ウ)さゝかふざいをいふもの出来て、紙子一重のぐわ 00051840M3さ※/医者(いしや)ハ、/信仰(しんがう)らしからずなど、水を指、あのやぶめ 00051850M4が何をしるべき、たうとき寺ハ門からとて、一間あまりの 00051860M5桧棒の乗物、/灸(きう)だらけなる六尺若/党(とう)を呑たかる世なれバ、 00051870M6我等ごときの/佗医(わひい)は、歯ぬけあしだに/吹鼠(ふきねすミ)、/寒(かん)の中のぬれ 00051880M7/猫(ねこ)、一切うこきもやられぬ/貧苦(ひんく)にせめられ、/日&(ひゝ)にあはれ 00051890M8にして、又/日&(ひゝ)に/衰(あは)れなり。/誠(まこと)に世に有人は/富(とん)でかうぎを 00051900M9し、薬師の生れがハりともてはやされ、右の/足(あし)をふミ出す 00051910M10より、そのまゝおびたゝしき/脉銭(ミやくせん)をけ(三オ)こむ事、飛/鳥= 00051920M11井(か=ゐ)どのゝ/鞠(まり)よりも/能(よき)はづミなり。されば/故人(こじん)も、あしたに 00051930M12/銭(せに)をとりてハ/夕(ゆふへ)に/死(し)すとも/可(か)なりといへり。されば高きに 00051940M13のほるは、ひいきよりするがごとし。今此竹/斎(さい)などハ、と 00051950M14りはやす人しなければ、よくも竹が/薬(くすり)にて、けふまでハい 00051960M15きたるなど嘲り、さうかとおもへば、/万死(ばんし)一生のあまりも 00051970M16のをあてかふて、もしの時にハ、それ申さぬかと取沙汰に 00051980M17あふ。/嗚呼(あゝ)なんの/因果(いんくわ)ぞやとて、 00051990M18△△/武蔵(むさし)あぶミさすがにかれた/薮(やぶ)いしやは 00052000M19△△△よばぬもつらしよぶもうるさし(三ウ) 00052010¥P162 00052020L1となん、ふつめきし/所(ところ)へ、/蜷(にな)川/氏(うち)の母/儀(き)、/彼(かの)ミいらにて、 00052030L2いよ+/心(こゝろ)よく日を/追(おつ)て/本復(ほんふく)なりければ、/先(まつ)/当分(たうぶん)の/祝儀(しうぎ)と 00052040L3て/白米(はくまい)一/石(こく)もたせこされたりしに、竹斎/仰天(けうてん)していふ/様(やう)、 00052050L4此/間(あいた)の/不仕合(ふしあハせ)なれば、/夢(ゆめ)にてやあらん、/若(もし)さなくハ/糟(ぬか)など 00052060L5にてハなきか、よく+/中(なか)をあけて見/定(さた)むべし、/白米(はくまい)と心 00052070L6/得(え)、あとにて/力(ちから)おとさんも/本意(ほい)なかるべし、それ+とい 00052080L7/べ((ママ))ば、/睨之介(にらミのすけ)/上気(しやうき)し、/使(つかひ)の/前(まへ)を/恥(はつ)かしくおもひ、/鬢(びん)のしら 00052090L8がをぬいて、見せたりけり。(四オ)(四ウ挿画)竹斎うち悦び、 00052100L9さてハいよ+しらげなるかとて、/礼状(れいしやう)を/書(かき)て/返(かへ)しにける。 00052110¥G 00052120M1さて此/米(こめ)に夕/煙(けふり)たてゝ、にらミのすけがよんだりける、 00052130M2△△/高(たか)き木をうちくべてミれバけふり/立(たつ) 00052140M3△△△やどのかまどハにぎはひにけり 00052150¥N2¥J 00052160¥X竹斎夢想 00052170M6竹斎/彼白米(かのしらげ)に力を/得(え)て、しバしあんどの思ひをなし、/悦(よろこひ)の 00052180M7/砌(ミきり)なれバ、ある/夜(よ)、/高官(かうくハん)になりて/家(いへ)/富栄(とミさかへ)一/生(しやう)の/所願(しよぐハん)/成= 00052190M8就(じやう=じゆ)したりと/夢想(むさう)を見て、ふと/目(め)をさまし、/嬉(うれ)しさのまゝ、 00052200M9丸はたかになりて、ね所を(五オ)/飛(とひ)出、睨之介を/事&敷(こと+しく)ゆ 00052210M10すりおこしけれバ、扨は/盗(ぬす)人の入たるにこそと、/枕(まくら)に有し 00052220M11大わきざしを、くハんぬきによこたへ、はゞきもとをくつ 00052230M12ろげ、大/音(をん)あげいふやう、/抑(そも+)是ハ/伊東(いとう)三代の/後胤(こういん)、/曾我(そが)の 00052240M13十/郎(らう)/祐成(すけなり)にも、おもてを/恥(はち)ぬやぶ/医者(いしや)の竹斎、/金銀/米銭(べいせん)秋 00052250M14風の/塵(ちり)、爰に有かと思へバ、/忽然(こつせん)として/家外(かぐわい)に/飛(とひ)ちり、一 00052260M15/重(ゑ)をまとふ/古紙子(ふるかミこ)ハ、とまふきの屋ねよりもふはつき、つ 00052270M16ぎめをつくろふ/芋(いも)のりハ、むかふすねの/火(ひ)にこがす、かま 00052280M17の/前(まへ)のはいねこ、風にあふてハすくミかへり、一そくひか 00052290M18ぬつるなし/弓(ゆミ)、はぬけ/鳥(とり)の/風情(ふぜい)(五ウ)して、立もたゝれず、 00052300M19いるもいられぬ/借(しやく)屋/賃(ちん)の/催促(さいそく)、/耳(ミゝ)せ&をつきぬき、/片時(へんし)も 00052310¥P163 00052320L1ね/入(いら)さる/我(われ)+をしらで、/忍(しの)ひ入てはちかくな、そこをさ 00052330L2るなと/飛(とん)で出る。竹斎/肝(きも)をつぶし、こハ気はし/違(ちが)ひたるか、 00052340L3ねほれてやありけるかなどゝいだきすくめ/居(い)たりければ、 00052350L4睨之介もいまはとくと心をしつめ、さてハ/盗(ぬす)人にてハなく 00052360L5候や、なとてかくまでおひやかし給ふぞといふ。竹斎/聞(きゝ)て、 00052370L6いや/目出度(めでたき)まさ/夢(ゆめ)見たれバ、はやく其方にも/語(かたり)きかせて、 00052380L7/悦(よろこハ)せんとて、かくおこしたりといふに、やう+むな/先(さき) 00052390L8をさすりおろし、しか+の物語(六オ)/過(すき)て、又いねたり 00052400L9ける時、/当帝皇(とうていわう)/御脳(このふ)に/依(より)て竹斎を内/裏(り)へめされんため、只 00052410L10今/勅使(ちよくし)の/渡(わた)らせ給ふぞとて、/門前(もんせん)よりさハきたつる。竹斎 00052420L11/登(とう)天の心ちして、いそきねまの/隅(すミ)へかけ/込(こみ)、十/徳(とく)/取(とつ)てなげ 00052430L12かけ、/表(おもて)に/出(いて)て/畏(かしこま)り、かうべをかたぶけ/待(まち)たりしに、/勅使(ちよくし) 00052440L13ハ/内(うち)へ入給ひ、/座敷(ざしき)のかミに/褥(しとね)を敷せ、そのうへにおハし 00052450L14まして、/今度(こんど)/御門(ミかど)御/脳(のふ)御うれへにより、竹斎を/法眼(ほうげん)になさ 00052460L15るゝ間、/急(いそひ)て/参(さん)内仕、御/薬(くすり)を/差(さし)上べし、是ハ時の/拵料(こしらへれう)と 00052470L16て、/白銀(ハくきん)百枚、/時服(じふく)十/重(かさね)/并(ならひに)法/眼(げん)の/薄墨(うすずミ)各一所に給りけ 00052480L17る。あり(六ウ)がたくも/忝(かたじけなく)、/謹(つゝしん)で/勅答(ちよくたう)申/上(あく)れバ、勅 00052490L18/使(し)は/内裏(たいり)へ/帰(かへ)らせける。/扨(さて)竹斎/尻(しり)もちつき、かしらをたゝ 00052500L19いて悦ひ、/家(いへ)の/面目(めんぼく)/世(よ)の/聞(きこ)え、是にまさらん事あらじと、 00052510M1やがて/紙子(かミこ)をとつてなげ、/頂戴(ちやうたい)の/装束(しやうそく)を/着(ちやく)し、一/夜(や)/検校(けんげう)の 00052520M2心/地(ち)して、その日にかゝゆる/人数(にんしゆ)には、/若党(わかたう)六人、六/尺(しやく) 00052530M3四人、/挾箱持(はさミはこもち)、薬箱持、大/草履(さうり)とり、/小草履(こさうり)取、/長刀(なぎなた)持に 00052540M4/至(いた)るまで、/十有(しうゆう)五人、きらびやかに出立せ、/御座包(こざつゝミ)の/乗(のり)物 00052550M5にのり、/道(ミち)をはやめて参内す。/禁裏(きんり)になれば、忝も/玉躰(きよくたい)を 00052560M6/拝(はい)し、御/脉(ミやく)を/診(しん)する時、何とやらん身の/毛(け)たちて、ぶる 00052570M7※とふ(七オ)るひながら、/尊前(そんぜん)を罷立、御薬を/調(とゝの)へ、口 00052580M8の内にてよんたりしハ、 00052590M9△△/王(わう)さまの/咳気(がいき)のかぜハかろけれど 00052600M10△△△行衛しらねばふるひてぞ/居(い)る 00052610M11といひたりしに、/花山院殿(くわさんのゐんどの)仰られしは、いまの/口(くち)すさみ、 00052620M12やさしくおハしますものかな、ねさし/賎(いや)しからぬ身にてな 00052630M13とて今までハ月日こゝろのまゝならずや、さぞわびしかる 00052640M14べきと有けれバ、竹斎、 00052650M15△△/釈迦(しやか)/孔子(こうし)すでに/才(さい)ある/顔回(がんくわい)も 00052660M16△△△時にあはぬを/憂世(うきよ)とやミん(七ウ) 00052670M17とつかうまつりたりけれバ、/月卿雲客(けつけいうんかく)一/同(とう)に/横手(よこで)をうち給 00052680M18ひて、さて+聞しにまさる竹斎かな、/天晴(あつはれ)心ざしハ/世(よ)の 00052690M19大医にもおとらずとほめ給ふげるに、/近衛(こんゑ)殿の仰らるゝは、 00052700¥P164 00052710L1竹斎/法眼(ほうげん)には/器量(きりやう)/骨(こつ)がら/挨拶(あいさつ)など、/地下(ぢけ)とハさらに見えざ 00052720L2りしが、/爪(つめ)のさハり/黒(くろ)く、ゆひの/先(さき)のふとく/侍(ハべ)るハ、さぞ 00052730L3/年月(ねんけつ)の/辛苦(しんく)にこそと/宣(のたま)ひける。竹斎うけ給り、いや是ハ/昨= 00052740L4夜(さく=や)/地黄丸(ぢわうくハん)を/練(ねり)申候にて、かく/染込(しミこミ)候なり、又ゆひぶとに御 00052750L5座候も/薬研篩(やけんふるひ)なと、/常(つね)+人手にかけ申さず、大事の薬に 00052760L6もしや(八オ)(八ウ挿画)あやまりぬる事侍らんかと、ミづか 00052770L7ら/調合(てうかう)のたびかさなり、まさかりも/針(はり)にて、いつとなくか 00052780L8やうに候と語りたりけれバ、又かたへより仰られしハ、そ 00052790L9の/薬箱(くすりはこ)、薬/袋(ふくろ)などの、むさく/長短(ちようたん)にて/虫(むし)ばミたるハ、/如何(いか) 00052800¥G 00052810M1なる事ぞや、/主上(しゆしやう)の/御(ミ)薬にハ/勿躰(もつたい)なしとありけれバ、竹斎 00052820M2ちつともおくせず、されば候、是ハ/我家(わかいへ)の/祖(そ)、/耆婆(ぎば)大/臣(しん)よ 00052830M3り/相伝(あひつたハ)りし箱/袋(ふくろ)、/幾(いく)千万人是にて/療治(れうぢ)/仕(つかまつり)、/必死(ひつし)/変生(へんしやう)の大 00052840M4/験(げん)あれバ、/其吉例(そのきちれい)を以て、今日/持参(ちさん)申候、又此/袋(ふくろ)の/長短(ちやうたん)は 00052850M5/近(ちか)く/用(もちひ)申候薬を大き成に/入(いれ)、/遠(とを)きをハ/小(こ)袋に(九オ)つかま 00052860M6つり候、/尤(もつとも)/愚宅(くたく)に候ひしには、/金(きん)かなものにきちやうめ 00052870M7ん、/耳梨地(みゝなしぢ)に六/重引(ちうひき)出し、きらひやかなるも/所持(しよち)/仕(つかまつり)候 00052880M8へとも、せんしやうらしく/覚(おほ)しめさるべきと、/善例(ぜんれい)に/任(まか)せ、 00052890M9/如此(かくのことく)にて候といへば、/下地(したぢ)しれたる/野夫医者(やぶいしや)にて、/外聞(くわいぶん) 00052900M10をつくろひけるよと/笑(わら)ひになつて見えければ、/関白殿(くハんハくどの)、/座(ざ) 00052910M11を/繕(つくろふ)て、かくの給ひける、 00052920M12△△/初春(はつはる)にまづあけそむる/哥袋(うたふくろ) 00052930M13△△△公家の身とてもそろはぬものを 00052940M14竹斎かたじけなき事におもひて、返し、(九ウ) 00052950M15△△そろはずや四/季(き)にかはれる/哥袋(うたふくろ) 00052960M16△△△あけて/妙(たへ)なるうくひすのこゑ 00052970M17と申上て、とのかふのいふ/間(ま)に、/御薬(ミくすり)めし上られ、/次第(しだい)に 00052980M18/御脳(こなふ)さめおハしましければ、御/感(かん)のあまりに、大/医院(いゐん)/法印(ほうゐん) 00052990M19竹斎と/勅命(ちよくめい)に/依(よつ)て/名(な)を天下に/広(ひろ)め、/医光(いくハう)を/家門(かもん)にかゝやか 00053000¥P165 00053010L1す事、/羨(うらや)まぬハなかりけり。しかのミならす、/是(これ)より此/輿(こし) 00053020L2にのりて/帰(かへ)れとて、御/白砂(しらす)より/網代(あしろ)の/長柄(なかゑ)をゆるされて、 00053030L3/西(にし)の/御門(ごもん)へかき出す。/運(うん)なるかなや、さきかきたりし/男(おとこ)、 00053040L4/石壇(いしたん)につまづき、づでんどうどふした(十オ)りけれバ、/法= 00053050L5印(ほう=ゐん)も中よりこぼれていてゝ、/四(よ)つばいになつて、/左(ひたり)の/輔車(ほうかまち)/打(うち) 00053060L6やぶりて/血(ち)をながし、/目(め)をまハしうめきけるに、/是(これ)+と 00053070L7いふを見れバ、/睨(にらミ)の介なり。/汝(なんぢ)いづくにや有けん、此うき 00053080L8さま見よやといふ。こハ何事を/宣(のたま)ふそや、おそハれさせ給 00053090L9ふかとて、いたきあぐるに、/正気付(しやうきつき)て、そばあたりをミれ 00053100L10バ、/内裏(だいり)にてハなかりけり。/石壇(いしだん)にてうちたりとおほえし 00053110L11ハ、/木枕(きまくら)のはづれたるにこそ、竹斎手をはたとうつて、/南= 00053120L12無(な=む)三/宝(ほう)/夢(ゆめ)なり、我一/生(しやう)ハ/是(これ)まてなり、/嗚呼(あゝ)/伝(つたへ)(十ウ)/聞(きく)、/荘= 00053130L13子(そう=じ)ハ一/睡(すい)のうちに/百年(もゝとせ)を見、/蜀(しよく)の/盧生(ろせい)ハ/邯鄲(かんたん)にして一/炊(すい)の 00053140L14あいだに五十年の/栄花(えいぐわ)を/究(きハ)む、我身の上/亦復(また+)/然(しか)り、いで 00053150L15+是を/菩提(ほだい)の/種(たね)となして、/仏果成道(ぶつくわじやうだう)の/誓願(せいぐハん)を/起(おこ)さではと 00053160L16て、一/類(るい)のものどもに/形(かた)見わけの/次第(しだい)、 00053170L17△一、むくろうしの/緒(を)じめ付たる/足袋皮(たひがは)の/巾着(きんちやく) 00053180L18△△△同しく/経木(きやうき)ねりの/印篭(いんろう)、つめた/貝(がい)のね/付(つけ) 00053190L19△一、/竹糊(たけのり)の/小脇指(こわきさし)并/家訓(かきん)の一/巻(くハん)/奥(おく)に見えたり 00053200M1△△△此とをりハ、江戸に有しちく/若(わか)に/遣(つかハ)す 00053210M2△一、すんほの/袷(あはせ)一/茶(ちや)の/木綿帯(もめんおび)一/筋(すぢ)并(十一オ) 00053220M3△△△/常州(じやうしう)つむぎのゑりまき、此分は/若(わか)か/母(はゝ)方へ/遣(つかハ)す 00053230M4△一、弐尺八寸/冬切丸(ふゆきりまる)の/刀(かたな)、/竹原(たけはら)の/節満(ふしミつ)一/腰(こし) 00053240M5△一、かけたれども、ごす/手(で)の/皿(さら)六/枚(まい) 00053250M6△一、しぶ/地(ぢ)の/四(よ)つごき、三人まへ、その/方(はう)に/譲(ゆづ)るものな 00053260M7△△△り 00053270M8/就中(なかんづく)、此一/腰(こし)ハ/年(とし)/久敷(ひさしく)身をはなたず。/武州(むしう)へ/下(くだ)りし時も、 00053280M9/汝(なんぢ)にかたげさせし/秘蔵(ひさう)の/刀(かたな)なれバ、一代我をみるとおもひ 00053290M10て、はなすべからず。又/武州(ぶしう)より両人、もしも/尋(たつね)上らば、 00053300M11此文そへてわたすべ(十一ウ)きなり。/主従(しう※)のきゑんも是ま 00053310M12てなり。/名残(なごり)おしくハおもへども、/風(かせ)の/前(まへ)の/燈(ともしび)、けふ/有(あり) 00053320M13てあすしれぬ世なれバ、かく/仏道(ぶつどう)に/趣(おもむく)なりとて、/目録(もくろく)の 00053330M14/奥(おく)に、 00053340M15△△よこたへし/節満(ふしミつ)/竹糊(たけのり)へらとみて 00053350M16△△△のりの身にこそやはらぎにけれ 00053360M17/睨(にらミ)之/介(すけ)此事ともを見/聞(きゝ)て、あるにもあられねば、ひたす 00053370M18らにかきくどき、とめぬれども、/迚(とて)も思ひ入たる/修行(しゆぎやう)の/道(ミち)、 00053380M19あなかちとむるも/罪(つミ)/深(ふか)ければ、えとゝめやらてなきかなし 00053390¥P166 00053400L1ミけるこそ、いと/哀(あハれ)に(十二オ)おほゆ。/扨(さて)竹斎とゝもに、 00053410L2もとゝりを/切(きり)、/未来(ミらい)までもとて、すでにかしらにをしあつ 00053420L3る、かミそりやう+にもぎはなし、竹斎めこ+となき 00053430L4ながらいふやう、其/方(はう)が今までの/忠節(ちうせつ)、いつの世にかはわ 00053440L5するべき、何とぞして/似合(にあひ)のやどこやへも/仕付(しつけ)、さかゆく 00053450L6すゑをミんと、あけくれおもひやむまもあらねど、おはを 00053460L7からせし身なれバ、いつをいつともおもはせさりしぞ、/心= 00053470L8外(しん=ぐわい)なり、(十二ウ)(十三オ挿画)されども、うとましき/躰(てい)にも 00053480L9見えず、くぼ+として/我家(わかいへ)を/守(まも)り/治(おさめ)たる/志(こゝろさ)し、一/子(し)とて 00053490¥G 00053500M1もかはらず、/迚(とても)の/儀(ぎ)ならば、/武州(ぶしう)に/残(のこ)し/置(をき)たる/手(て)かけ/腹(はら)の 00053510M2ちく/若(わか)か/成人(せいじん)の/末(すゑ)を見/届(とゞけ)、二/度(たび)竹斎か/家(いへ)の/性名(せいめい)を/曜(かゝや)かし、 00053520M3あかぬわかれせし/妻(つま)をも/安楽(あんらく)に/養(やしな)ひころさせ、/我草葉(わかくさば)の/陰(かけ) 00053530M4よりも、/胸(むね)のいたきをやハらくるやうの/手(て)たて、/偏(ひとへ)に+ 00053540M5たのミ候そや、ひらに/今度(こんど)のおもひ/立(たち)は、やめよかしなど、 00053550M6くり/返(かへ)せば、にらミも/今(いま)ハ、あたる/道理(だうり)につまり、なく 00053560M7+思ひとまりにける、心の/中(うち)こそあさましけれ。かくて 00053570M8(十三ウ)竹斎/西山(にしやま)のかたほとりに/小庵(せうあん)をむすび、/行(をこな)ひすま 00053580M9して/居(ゐ)たりしが、もはや/紫野(むらさきの)の/老和尚(らうおしやう)にも、/世(よ)をはやうし 00053590M10給ひぬれバ、一大/事(じ)の/道(ミち)を/尋(たづぬ)へき人もなくて、/只(たゞ)ひとりう 00053600M11つら+とうち/暮(くら)しけるが、/老少不定(らうせうふでう)の/習(なら)ひなれバ、/仮初(かりそめ) 00053610M12にいたハり/付(つき)て、/次第(しだい)に/枕(まくら)おもくみえけれバ、/睨(にらミ)之/助(すけ)/傍(そハ)を 00053620M13はなれず/看病(かんびやう)しけれど、/甲斐(かひ)なく、竹斎も/今(いま)ハかうよと/硯(すゞり) 00053630M14を/寄(よせ)、一/句(く)の/辞世(じせい)を/書(かき)たりける、 00053640M15△△やぶ/医者(いしや)の竹の一/字(じ)の/名(な)をすてゝ 00053650M16△△△ふし※の/世(よ)をのかれてそ/行(ゆく)(十四オ) 00053660M17となん、くちずさみたるも、あはれにこそ。/扨(さて)竹斎/何(なに)とや 00053670M18思ひけん、/持仏堂(ぢぶつだう)にありし一/尺(しやく)の/釈迦(しやか)の/像(ざう)を/枕(まくら)もとに/立置(たてをき)、 00053680M19/鉈(なた)ありや、なたをくれよといふ。にらミの/介(すけ)聞て、/勿躰(もつたい)な 00053690¥P167 00053700L1し、/何(なに)にせさせ給ふぞ、/熱気(ねつき)にをかされ給ふかといふ。い 00053710L2や、さにはあらず、ハやくもてこよともだゆる。ぜひなく 00053720L3かゝる物をあたへけれバ、/彼仏像(かのふつさう)を/御(ミ)くしよりまふたつに 00053730L4/打(うち)わりていふ、/善哉(よきかな)や/我善(わがせん)/不善(ふぜん)/是(こゝ)にしんぬ、/仏躰(ぶつたい)/全(まつた)くして 00053740L5/拝(はい)すれバ、/是善(これぜん)也、/正(しやう)也、つたなくも一/刀(たう)をあつれバ、/是(これ) 00053750L6また/悪(あく)也、/邪(じや)也、/善悪(ぜんあく)/迷悟(めいご)一仏の/木(き)、/春(はる)さ(十四ウ)きたつ 00053760L7て/秋(あき)又/近(ちか)し、/生死(しやうじ)/猶(なを)/当前(たうぜん)に/有(あり)、/己身(ごしん)の/外(ほか)/異(こと)なる事を/求(もとめ)ず、 00053770L8/身上(しんしやう)の/外(ほか)に/何(なに)ものかあらん、まつたく/皆(ミな)/是空(これくう)なり、/南無教= 00053780L9主釈迦仏(なむきやう=しゆしやかぶつ)、/南無弥陀尊(なむミだそん)と/高声(かうじやう)/念仏(ねんぶつ)して、/座禅(ざぜん)/止静(ししやう)の/両眼(りやうがん)を 00053790L10とぢ、/息(いき)たえてうせたり。/睨(にらミ)の/介(すけ)/末期(まつご)の水を/潅(そゝ)き、すぐに 00053800L11もとゝりを/切(きり)て、竹斎が/棺(くハん)になげ/込(こみ)、一/首(しゆ)つらねてなきふ 00053810L12しけり。 00053820L13△△いますでに/睨(にらミ)のすけが/目(め)のたまの 00053830L14△△△ひかりうしなふなミだなりけり 00053840L15かくつゞけて、かつら/川(がは)のほとりに/出(いて)、一へんの(十五オ) 00053850L16/煙(けふり)となし、/新帰寂竹斎闇出禅定門(しんきしやくちくさいあんしゆつせんちやうもん)と/名(な)のミ/残(のこ)りて一/物(もつ)もな 00053860L17し。 00053870L18△△不見朝垂露△△△日爍自消除 00053880L19△△人身亦如此△△△閻浮是寄居 00053890M1△△切莫因循過△△△且令三毒■ 00053900M2△△菩提即煩悩△△△尽+令无有余 00053910M3△△△△△△△△△(十五ウ)(十六オ挿画)(十六ウ・十七オ挿図) 00053920¥N3¥J 00053930¥X大極捨欲之図 00053940M4天下平にして/民(たミ)/安(やす)んずる也、安んずる所におひて天/変(べん)をわ 00053950M5すれ、/危(あやうき)に至る、万つ心のゆるかせより、物&の本理にた 00053960M6がひ、/奢(をごり)日&に/増進(ぞうしん)して、名を王公より/林野(りんや)に/及(をよ)ぼし、ほ 00053970M7まれ有のとなへをねがふより、万くわれいを/好(この)ミ、いさき 00053980M8よきといはれんために、無/益(やく)の金銀を/失(うしな)ふ、/無欲(むよく)に似て大 00053990M9欲の根元なり、利欲此/費(ついへ)をなかだちとして、/美麗(びれい)を/求(もと)め、 00054000¥G 00054010¥P168 00054020¥G 00054030M1ゑならぬ/珍器(ちんき)をたずさへ、我/分際(ぶんざい)を越て金銀/珠(たま)をちりばめ、 00054040M2座/席(せき)をかざり過たるに及んで、いちくらのことし、あまつ 00054050M3さへ/貴公(きこう)/尊膝(そんしつ)に近づかん事をはかつて、(十七ウ)にうはを 00054060M4つくり、/衣類(いるい)/腰(こし)のまハりに善つくし/美(び)つくし、なを/止(やむ)とこ 00054070M5ろなくして、人の/持(もてる)るをむさぼり、/自己(じこ)が/貯財(ちよざい)いちもつと 00054080M6して外にもらさず、大/欲(よく)不道の/譏名(きめう)、我/耳(ミゝ)いらざれハ、 00054090M7月&にいやまさりて、/既(すで)に家の/性名(せいめい)を/汚(けが)す、是/少一(せういつ)のあや 00054100M8まちより/枝葉(しえう)のわさわひをまねく、かくいへばとて、我正 00054110M9しきにはあらず、/君子(くんし)ハそのひとりをつゝしむといへり、 00054120M10/愚(く)ハせめて/暫時(さんじ)をあやまたじと、かなに/円画(ゑんぐハ)をつくりて/家= 00054130M11訓(か=きん)とし、/常(つね)に/居間(ゐま)にながむる事数年、是小人なれば(十八オ) 00054140M12なり、/賢(かしこき)よりかしこきにうつさバうつらざらんとなれバ、 00054150M13ゆるかせにすへきにあらず、然れども/凡(ぼん)愚小人いかで一生 00054160M14/堅固(けんこ)にして、/至(し)善の道を/極(きハめ)んや、/事(じ)&/物(もつ)&の/縁(えん)にふれて、 00054170M15治乱やすらかなる間なし、只明日の事をおもふべからす、 00054180M16其日のミをまもるへし、/朝(あした)に一日をはかるべからす、/一時(いちじ) 00054190M17先おさむべし、遠きに行ハ近きよりするの理なり、是我/愚(ぐ) 00054200M18意の/謂(いひ)なり、若/邪悪(じやあく)の風に/吹(ふき)たてられて、/散乱(さんらん)する事ある 00054210M19時ハ、/如図(づのことく)/条目(でうもく)の/器(うつハもの)に入て、口をとゝむべし、若我死て 00054220¥P169 00054230L1後/家業(かぎやう)の/医(い)門に馬を(十八ウ)つなぎ、武君の家に/禄(ろく)を得る 00054240L2とも、天さいはひをあたへ給ひ、主君我に/仁政(じんせい)を下し給ふ 00054250L3とおもひて、/常(つね)にこの車の両/輪(りん)をわすれず、くつがへるべ 00054260L4き天/変(べん)をおそれよ、天ハ/満(ミつ)るをかき、おごれるをにくめり、 00054270L5君ハ不/儀(き)をいましめて不忠をにくめり、何よりおこるとい 00054280L6へば、大臣ハ禄を重んして/諌(いさ)めず、小臣ハ/罪(つミ)を/畏(をそれ)て不言 00054290L7とかや、君臣ともに国家をかたむけ、/士民(しミん)とゝもに/邪欲(じやよく)を 00054300L8かまふ、是なんのたのしみにかせん、小人ハ/非(ひ)礼の/土地(とち)に 00054310L9遊び、心を不道の/峯(みね)にのぼすゆへに、(十九オ)ふミすへり 00054320L10て身を/害(かい)す、/汝(なんち)我家名を君の/恩下(おんか)にあらはすとも、必身の 00054330L11のりをこゆべからず、/才発(さいはつ)の用に人をもとくべからず、主 00054340L12君に/親(したし)ミたよらんとて、ついせうをいふへからず、座を/繕(つくろハ) 00054350L13んために、/偽語(きご)の不正事をいふへからす、我心に/順(じゆん)ぜさ 00054360L14るいしゆをとげて、人の/誤(あやまり)をあらはすべからす、有事と 00054370L15ハいへども是/讒言(さんげん)なり、たとへ時を得、/勢(いきほ)ひありとも、我 00054380L16才徳と思ふべからす、今日さかへ明日ほろふ、/禄(ろく)あつく家 00054390L17とむとも不道の遊びをなすべからす、ひとへに/薄氷(はくひよう)の上に 00054400L18/宮殿(きうでん)を立て、/栄花(ゑいぐわ)をきハむる(十九ウ)に/似(に)たり、/嗚呼(あゝ)/楽(たのしむ) 00054410L19に時なく、/住(ちう)するに日なし、なんぞをのれをかざり、/粧(よそほ)ひ 00054420M1を作りて/生得(しやうとく)/自然(しせん)の/形(かたち)まきらハしくすべけんや、又うしろ 00054430M2くらくこびへつらひて、/賢眼(けんがん)をくらますべからす、/常(つね)にか 00054440M3い+しきを好んて、人よりあとにをくれさるやうにたし 00054450M4なむべし、然れども/我慢(がまん)の気を先たつべからず、事急に及 00054460M5ふ時、無/益(やく)のもつたいに/痲痺(まひ)の者のあゆむかごとくにして、 00054470M6人の進気をたゆますべからず、されども/走(はし)りさハひで正気 00054480M7を/奪(うハ)ふへからず、/高声(かうしやう)/下知(げぢ)の/砌(ミきり)に至て、/息詰(いきつめ)/舌(した)をまき、/分= 00054490M8別(ふん=べつ)らしく(二十オ)/眉(まゆ)をよせて、延引に及び、人の/濶(くわつ)気をう 00054500M9つへからず、君子/重(をも)からざれハ/威(い)あらすなどいひて、我身 00054510M10を君子と思ふべからず、われと威をつくるものハ天是をい 00054520M11やしめ給ふ、われと身/退(しりそ)くものハ、天是を/挙(あけ)て/捨(すて)給はず、 00054530M12此/煩(わつら)ひを/消除(せうしよ)せざれバ/腰(こし)の/骨(ほね)こハく、人前にてもかゝまら 00054540M13ず、/頭(づ)にて人に礼をなし、/平懐(へいくわい)不礼の/非儀(ひぎ)に及ゆへに、 00054550M14人を目の下に見くだし、むたいに人をしたがへんとすれど 00054560M15も、人かならず/背(そむ)ひて/順(しゆん)ぜす、/猫(ねこ)かうべをおさへて食をあ 00054570M16たふれハ、/尻込(しりごみ)してくらハず、(二十ウ)/馬(むま)/向(むか)ふて/綱(つな)を/引(ひか)ば、 00054580M17さかふて/後(うしろ)に/退(しりぞ)く、人身をへりくたるときハ/我(わか)身をしると 00054590M18いへり、かろ+しき/者(もの)には、人/礼(れい)をなす事おろそかなり、 00054600M19されとも一人の/損(そん)なり、身を高くのぼりて/非礼(ひれい)をなさば、 00054610¥P170 00054620L1/他(た)のいきどをりふかく、わざわひに/近(ちか)し、これ則/主君(しゆくん)の/損(そん) 00054630L2となるべし、是/不忠(ふちう)にあらずしてなんぞや、されどもとり 00054640L3おこなふ所の/当職(たうしよく)/猶(なを)/軽重(きやうぢう)/高(かう)下の/位(くらゐ)によるべし、人にけつ 00054650L4かう/人(じん)といはれん事をたくミて、にうハをこしらゆるも、 00054660L5又まことなし、/是非(ぜひ)の/両(りやう)/自己(じこ)が/賢愚(けんぐ)にあるへければ、/余(よ)は 00054670L6(廿一オ)/略(りやく)してしるさす、/究竟(ひつきやう)/我気質(わかきしつ)の/生得(しやうとく)をもちゆべ 00054680L7し。さりとて/君臣(くんしん)の/敬(けい)を/乱(ミた)し、/老少(らうせう)/貴賎(きせん)のくらゐをわかた 00054690L8づ、/気随(きすい)せよとにハあらず、くらゐとハ/賎(いやしき)を/隔(へたつ)るの/義(き)にハ 00054700L9あらず、/万法(はんほう)/能(よく)/心(こゝろ)を/付(つけ)て/用捨(ようしや)すべき/者(もの)也。 00054710¥G 00054720M1△△年号月日△△△△△△△△△△/洛下(らくか)の/野夫医(やぶい)竹斎/書(しよす) 00054730M2△△△△△△△△/竹若丸(ちくわかまる)まいる 00054740M3△△有楽且須楽△△△時哉不可失 00054750M4△△雖云一百年△△△豈満三万日(廿一ウ) 00054760M5△△寄世是須叟△△△論銭莫啾喞 00054770M6△△孝経末後章△△△委曲陳情畢@(廿二オ)△△|(廿二ウ挿画)@ 00054780¥N4¥J 00054790¥X/枕屏風(まくらひやうふ)の/歌(うた) 00054800M9竹斎/常(つね)におどけたる/歌(うた)ともを/聞(きゝ)あつめて、そばなる/屏風(ひやうぶ)に 00054810M10/書置(かきをき)たりししな+、 00054820M11△△△△△かみつかた 00054830M12△△はることにはなのさく木をうへつかた 00054840M13△△△いつもゆたかにみそじひともじ 00054850M14△△△△△ゆミやとる人 00054860M15△△/君臣(くんしん)のまるきところを目あてにし 00054870M16△△△ゆミやをとつている身なりける 00054880M17△△△△△/忠(ちう)ある人(廿三オ) 00054890M18△△つかへぬるきみをはあふくあふぎには 00054900M19△△△まことのかなめくつろかぬかな 00054910¥P171 00054920L1△△△△△/孝(かう)ある人 00054930L2△△ちゝはゝの/給仕(きうじ)しまひてたつる/茶(ちや)の 00054940L3△△△あはれわづかな世につかへばや 00054950L4△△△△△/無欲(むよく)なる人 00054960L5△△よし人はなにともいへや/財宝(ざいほう)は 00054970L6△△△ほしがる人にやれうたてやな 00054980L7△△△△△/遁世者(とんせいじや) 00054990L8△△よのなかはこゑをはかりにかけねぶつ(廿三ウ) 00055000L9△△△かねゆへにこそせむる身のうへ 00055010L10△△△△△/奉公(ほうこう)する人 00055020L11△△たちよらば大/木(ぎ)のかげをたのむへし 00055030L12△△△すぐにはびこるきミはよひかな 00055040L13△△△△△けつかう人 00055050L14△△あふときハまづうなづきし/野辺(のへ)の/草(くさ) 00055060L15△△△ぐなり+とかぜにまかせて 00055070L16△△△△△/後生(ごしやう)ねがひ 00055080L17△△百八の/珠数(しゆず)につなぎしいのちにて 00055090L18△△△しらずやいまもきれん/王(たま)のを(廿四オ) 00055100L19△△△△△/酒(さけ)このむ人 00055110M1△△大/上戸(しやうご)なミ/居(ゐ)て/酒(さけ)をのむときも 00055120M2△△△/余(よ)はみなゑゝりわれハさめける 00055130M3△△△△△/茶(ちや)このむ人 00055140M4△△/茶湯(ちやのゆ)こそすくなる/道(ミち)をたてならひ 00055150M5△△△身のよくあかをふりすゝぐなり 00055160M6△△△△△いろこのむ人 00055170M7△△とてもいろにそまる身ならはうすからで 00055180M8△△△こひこそまされあけのきぬ+ 00055190M9△△△△△けいはく人(廿四ウ) 00055200M10△△ふしもなきやなきの/糸(いと)のめをほそめ 00055210M11△△△くる人ごとにわらひかゝらん 00055220M12△△△△△/女中(しよちう) 00055230M13△△/丸(まる)かれやたゝまるかれや人こゝろ 00055240M14△△△かとのあるにはものゝかゝるに 00055250M15△△△△△りくつもの 00055260M16△△/丸(まる)くともひとかどあれや人こゝろ 00055270M17△△△あまりまろきはころひやすきに 00055280M18△△△△△うそつき 00055290M19△△むつかしきうき/世(よ)をわたる/丸木(まるき)ばし(廿五オ) 00055300¥P172 00055310L1△△△ぐれり+にむずおれはせず 00055320L2△△△△△つゐせうもの 00055330L3△△とにかくにおかたしけなや/御(ご)もつとも 00055340L4△△△おまへさまにておがむ/仏気(ほとけぎ) 00055350L5△△△△△/欲(よく)ふかき人 00055360L6△△/世(よ)の/中(なか)ハかねにめのたつのこぎりの 00055370L7△△△あちらこちらでひつかくるなり 00055380L8△△△△△しはんほう 00055390L9△△かねハたゞいるがうへにもいりあひの 00055400L10△△△ならぬときにハ人もミやらず(廿五ウ) 00055410L11△△△△△/述懐人(しゆつくわいひと) 00055420L12△△すぐなるはまつきりたをすそまやまの 00055430L13△△△ゆがむはのこるうき/世(よ)なりけり 00055440L14△△△△△ぶしやうもの 00055450L15△△人はけにミづへなけたるひやうたんの 00055460L16△△△ぬらりくらりになかれゆくとし 00055470L17△△△△△ぬす人 00055480L18△△なかき日のくれもせぬかねめにかけて 00055490L19△△△つくはけうときうそのかず+(廿六オ) 00055500¥Y/跋(ばつ) 00055510M3大和はなしハ人の/心(こゝろ)を/種(たね)として、/万(よろづ)のことの/葉(は)とそなれり 00055520M4ける。/世中(よのなか)にある人/毎(こと)に、/狂言(きやうげん)このむ物なれバ、心に思ふ 00055530M5事を、みる物聞物に付ていひ/出(いた)せるなり。/花(はな)に/巣(す)をはる/女= 00055540M6郎蜘蛛(じよ=らうぐも)、/水(ミづ)にすむがは/太郎(たらう)まて、/化物(ばけもの)になるといへば、い 00055550M7きとしいけるもの、/何(いつれ)か/咄(はなし)にいはざりける。/力(ちから)をもいれず 00055560M8して/天地(あめつち)を/動(うこ)かし、目に見えぬ/鬼神(おにかミ)をも/出(いつ)るとおもはせ、 00055570M9/男女(おとこをんな)の/中(なか)をも/指合(さしあひ)だらけにいひやはらげ、たけき(廿六 00055580M10ウ)/武士(ものゝふ)の心をも/慰(なくさむ)るハはなしなり。此/咄(はなし)ハあめつちの 00055590M11/開初(ひらけハしま)りける時より出来にけり。@あまの/浮橋(うきハし)の下のね物語に、おうぢ|ハ山へ、うばハ川へせんだくになど、@ 00055600M12@いへる事な|るべし。△@/然(しか)れとも世に/伝(つたは)る事ハ、/膝(ひさ)を/痛(いた)むる御前/坊主(ほうず)の、 00055610M13したてる咄に/初(はしま)り@したてる/咄(ハなし)とハ、よろづとり/繕(つくろ)ひ、座をうるほし、人のいか|りをやはらげ、さし相のいひそこなひをも、まぎらかすなる@ 00055620M14@べし。これらハもしの事にてさたまらず。|うつゝなきやうにもあらぬ事ともなり。△@あらまほしき事ハ、/珍(めづら)しき事 00055630M15にぞ、/千早振(ちはやふる)かミつかたの御物語は、咄の/作意(さくい)も/定(さたま)らず、 00055640M16すなほにして事の心やハらかなりけらし。/伽人(ときびと)と成て、そ 00055650M17ろりといひしだうけものよりぞ、うそ咄しひと作/意(い)をいひ 00055660M18ける。@そろり|ハあん@(廿七オ)@だらの観世又次郎と同時のもの也。ともに咄さんとする処|に、八いろのくハしを/出(いた)せるをミてS八いろだすあられ其@ 00055670M19@外やき/米(め)で、はなしを|しだすそのやき/米(こめ)に△@かくて花にめで、/鳥(とり)をうらむる/暁(あかつき)の/別(わかれ)、/露(つゆ) 00055680¥P173 00055690L1をかなしむ心/詞(ことハ)おほく、さま※に成にける。/遠(とを)き所もい 00055700L2きたつ/足本(あしもと)より/初(はしま)りて、とし月のわたくしをいひ、/高山(たかきやま)も 00055710L3/麓(ふもと)の/塵穴(ちりあな)よりとて、はきちらすあだこと、いつくもかくの 00055720L4ごとくなるべし。/難波(なには)のよしあしも/口(くち)にまかせしはしめな 00055730L5り。かくいふ事、古今の/序(しよ)に事ふり/似(に)たれと、此草紙を手 00055740L6ならふ子どものもてあそびに書/加(くハ)へたり。/今(いま)の世の中、才 00055750L7すぐれ人の心さ(廿七ウ)かしくなりけれハ、よからぬは 00055760L8なしハ/耳(ミゝ)にたちぬ。/予(よ)此草紙を世上にひろめんといふに、 00055770L9ふかく/辞(じ)せられしなれど、/且(かつ)ハ人の/癆(らう)気をいさめ、むすぼ 00055780L10ゝれたる心をほどくにハしかじとて、/既(すて)に/板(いた)にゑりぬる事 00055790L11しかり。誠に其かるき口にて、かみやわらげたりし筆の/命= 00055800L12毛(いのち=け)もながく、春の日のうち曇れる/虚言(そらごと)ながら、さもありさ 00055810L13うに/読(よむ)人のミ、おほからんもの/哉(か)。/泉州(せんしう)/旅人(りよじん)/同気(とうき)相/求(もとめ)て、 00055820L14かく筆を/添(そへ)たるものなり。(廿八終オ) 00055830¥Q 00055840L16△△延宝八年孟春日 00055850L17△△△△江戸通新両替町三丁目 00055860L18△△△△△△△△△△△△△△林文蔵板行(廿八終ウ) 00055870¥P175 00055880¥U噺本大系△第四巻 00055890¥T新竹斎 00055900¥G 00055910¥Y 00055920L16貞享四年刊 00055930L17著者未詳 00055940L18半紙本五巻 00055950L19東洋文庫蔵 00055960¥Y1新竹斎巻之一△目録 00055970M3△△一△/囀(さへづり)ハかる口のとりべ/野(の) 00055980M4△△二△はなハちる/黒谷(くろだに)の/夢(ゆめ) 00055990M5△△三△/廻(まハら)ぬ/薬自慢(くすりじまん)/酒(さか)つぼのかめ山 00056000M6△△四△/妙薬(めうやく)ハ/磁石(じしやく)の/推量(をしずい) 00056010M7△△五△/果報(くわほう)ハ/唇(くちびる)につくさが/土器(かハらけ) 00056020¥Y1巻之二(一オ) 00056030M10△△一△此世に/三途川(さふづがハ)有/姥(うば)が/懐(ふところ) 00056040M11△△二△/蝌(かへるこ)ふまる四/条縄手(てうなハて) 00056050M12△△三△/嵐(あらし)にゆがむ/松(まつ)の/尾(を)の/相撲(すまふ) 00056060M13△△四△/朱雀(しゆしやか)の/色狂(いろぐるひ)/錠(ほだし)にかゝる/玉鬘(たまかづら) 00056070¥Y1巻之三 00056080M16△△一△/深草(ふかくさ)の/馬(むま)思へバ/宇治川(うぢがハ)の/先陳(せんぢん) 00056090M17△△二△/名所(めいしよ)/聞(かぎ)ありく/茶(ちや)の/芳薗(ほうゑん)(一ウ) 00056100M18△△三△/天狗嫌(てんくもどき)のつかミて有くらまのふく 00056110M19△△四△京かぶきの見/続(つゝけ)/旅(たび)の物いひ/伽(とぎ) 00056120¥P176 00056130¥Y1巻之四 00056140L3△△一△西の京の/闇(やミ)日の/出(で)の/東路(あづまぢ) 00056150L4△△二△/深川(ふかがハ)の/底(そこ)ぬけ/上戸(じやうご)/彩(いろどり)の/赤人形(あかにんぎやう) 00056160L5△△三△/道戯(だうけ)の/初看板(しよかんばん)大/笑(わらひ)の口あけ 00056170L6△△四△/虚咄(うそばなし)の/初(はじめ)口ひろし/狼(おほかめ)(二オ) 00056180¥Y1巻之五 00056190L9△△一△/謎禁好(なぞきんかう)ハ/斎(さい)が目に/春(はる)の/氷(こほり) 00056200L10△△二△口の/広(ひろき)が/勝(かつ)/秀句(しうく)/問答(もんどう) 00056210L11△△三△/薬種(やくしゆ)の/外(ほか)につかひこなすからもの 00056220L12△△四△やまと/窓(まど)ハ/無理(むり)の/逃(にげ)道 00056230L13△△五△/病(やまひ)の/判事(はんじ)物ハ/富貴(ふつき)の/下地(したぢ) 00056240L14△△△△△△△△△△△△△△△△目録終(二ウ) 00056250¥T1新竹斎巻之一 00056260¥N1¥J 00056270¥X一△/囀(さへづり)ハ/軽(かる)口の/鳥部野(とりべの) 00056280M5/花(はな)といふハ/都(ミやこ)の/東(ひんがし)、/西(にし)の京の/片陰(かたかげ)、/薮(やぶ)に/生(うま)るゝ/鴬(うぐひす)の、/竹斎(ちくさい) 00056290M6が/世継(よつぎ)に/筍斎(じゆんさい|たけのこ△)といふ/医師(くすし)あり。/療治(りやうぢ)の/名誉(めいよ)なる事、/日本(にほん)/第(だい) 00056300M7一、/跡(あと)からかぞへて/大母指(おやゆび)を/過(すぎ)ず。されバ、きハめて/貧(まづし)け 00056310M8れど、/酒(さけ)にたのしミて、うきを/忘(わす)る。/人間(にんげん)のたねならぬに 00056320M9ハあらで、/蝌(かへるこ)といふゐめうあり。/天性(てんしやう)/頭(かしら)大に/尻(しり)ほそく、 00056330M10/爾(しか)も/親(おや)の口をまねて、/哥(うた)の道のよことび、/怪我(けが)にも、こし 00056340M11おれならぬなし。/家人(けにん)ひとり有。/去(いん)じ/白眼(にらミ)の/介(すけ)が子なれバ、 00056350M12/矚眦(ねめ)介と/呼(よぶ)。/若党(わかとう)にも/小者(こもの)にも、/女房(にようぼう)にも/下女(げぢよ)にもたゞ一 00056360M13人なれバ、/世人(せじん)又こと/名(な)をとなへて、二/枚(まい)/屏風(びやうふ)といふ。/勝= 00056370M14手次第(かつ=てしだい)(一オ)/用(よう)に/立(たつ)るといふ事とぞ。此ものも/家風(かふう)を/仰(あふひ)で、 00056380M15/哥(うた)物がたり、かんな/書(かミ)に/眼(まなご)をさらし、其道に/枕(まくら)をくだくハ 00056390M16ゆふにやさしきわざなりかし。春のながめのつれ+を/過(すぐ) 00056400M17し、花ゑミ/柳(やなぎ)みどりして、/世(よ)にある人+、けふハきよ/水(ミづ) 00056410M18へ、/明白(あす)ハ/仁和寺(にんハし)へと、思ふどち打むれて、心+行に、 00056420M19うかされ、/筍斎(じゆんさい)もねめ介をぐして、いつちと/定(さだめ)たるかたな 00056430¥P177 00056440L1く、つまさきにあなひさすれバ、たれかいひし/春(はる)の色ある 00056450L2ひんがしにあゆミ、/祇園(きをん)の御/社(やしろ)にまうず。げにも/桜(さくら)の八/重(え) 00056460L3一/重(え)、ちりもせず/咲(さき)ものこらぬ、日ざかりの/朱(あけ)の/玉垣(たまがき)神さ 00056470L4びて、/参詣(さんけい)の/貴賎(きせん)きざはしを/諍(あらそふ)。/筍斎(じゆんさい)も人とおなじく、/神= 00056480L5前(しん=ぜん)に/拱(こまぬい)て/願(ねがひ)をつぶやく。南無三/社(じや)/牛頭(ごづ)/天王本地(てんわうほんぢ)(一ウ)/薬師= 00056490L6如来(やくし=によらい)、/親仁(おやぢ)/竹斎(ちくさい)こそ、一/代(だい)/薮医(やふゐ)に/朽果(くちはて)侍ふとも、我にハ親 00056500L7まさりの/妙(めう)を/示(しめ)し給へと、ことくどく/再拝(さいはい)し、/立(たち)のくさ 00056510L8まに、/絵馬(ゑむま)をみる。かな/文字(もじ)のたほやかに、/何氏(なにうぢ)の女十二 00056520L9才八才と有。/少女(しやうぢよ)の/業(わざ)ハいとめづらしく、其外ハかぞへつ 00056530L10へくも/非(あら)ず。/西(にし)の/柱(はしら)に/東(ひがし)むきて、ひとりの大の/法師(ほうし)、つらた 00056540L11ましひ/愧(をそろし)きが、ゆんでに/水瓶(ミづかめ)をさゝげ、/足(あし)もとに/土器(ど△き△|かハらけ)をふ 00056550L12ミくだきたるを、たくましき/武士(ものゝふ)のしとゝいだき付たる/筆= 00056560L13勢(ひつ=せい)、えもいはれず。/筍斎(じゆんさい)/打諾(うちうなづき)、これ見けるや、ねめ介、あ 00056570L14の/法師(ほうし)と/武士(ものゝふ)と、酒のえんをなしけるが、あまり/侍(さふらひ)が酒を 00056580L15/過(すご)すを、法師/笑止(せうし)がりて、/飲酒戒(おんじゆかい)の/罪(つミ)などいひ立、/銚子(てうし)を 00056590L16とらんといふを、侍こらへず引とむるとて、/盃(さかづき)をふミわり 00056600L17し所よと、/子細(しさい)らし(二オ)(二ウ・三オ挿画)くかたるを、ね 00056610L18め介さゝやきて、むさとしたる事な/仰(おほせ)そ、あの/武士(ものゝふ)ハ/平(たいら)の 00056620L19/忠盛(たゞもり)、こなたハ/当社(とうしや)の/承仕法師(じやうじほうし)、/昔(むかし)/白河(しらかハ)の/院(ゐん)の御しのひの 00056630¥G 00056640¥P178 00056650L1/御幸(ミゆき)ありし時、かう+の事ありて、/抱(だき)とめたる/図画(づぐわ)とこ 00056660L2そ申候へ、よそにも人の/聞(きく)物をといへバ、/筍斎(しゆんさい)ぬからぬが 00056670L3ほで、まことに、いかにもこなたハ/忠(たゞ)もり、されバ、/上(うへ)な 00056680L4き酒のミにてありしと、あるふミに、 00056690L5△△/今(ま)一/盃(はい)たゞもりたらぬさかへいじ 00056700L6△△△くだけて物を思ふかハらけ 00056710L7と口かしこくいひて立のけバ、ねめ介も/腹(はら)かゝへ/行(ゆく)。/南(ミなミ)に 00056720L8いてゝ石の/鳥居(とりゐ)、/左(ひだり)につゞきて/双林寺(さうりんじ)、/高台寺(かうだいし)、右に/歩(あゆミ)て/安= 00056730L9井(やす=ゐ)の御/堂(どう)に入、/藤(ふぢ)/杜若(かきつばた)ハまだ/色(いろ)なくて、さくらハ/雲(くも)とあら 00056740L10そふ。/筍(じゆん)さい、まづ/火桜(ひざくら)によりて、たばこたうべんといへ 00056750L11バ、ねめ介、しほ(三ウ)がまにむかひて、せんじ/茶(ちや)ひとつ 00056760L12といへど、/花(はな)ものいはず、/笑(わらひ)もせず。/爰(こゝ)を見/過(すぐ)して、/庚申= 00056770L13堂(かうしん=とう)に出、三/申(じん)のあかき/顔(かほ)に、酒のなつかしさ/添(そへ)、つミつく 00056780L14る折しも、/左右(ひたりミぎ)のすだれより、なまめける女の、我しりが 00056790L15ほにさしまねくに、おもほえず、風になびくふじやといふの 00056800L16れんの内に入ぬ。あるじの女/房(ぼう)/傍(そば)へゐよりて、お雪、お茶 00056810L17しんじましやといふも、にくからず。/富士(ふじ)に雪心ありげな 00056820L18る/名(な)にこそあれと思へバ、くゆるきせるのけふり/迄(まで)、よそ 00056830L19に/替(かハ)りておもしろう立行ハ、我心のうかるゝゆへにや、御 00056840M1/茶(ちや)あがりませとさし出す/茶(ちや)ハふるし。水たうべんといへバ、 00056850M2扨/気精(きじやう)のつよひ事かなといふ+もて/来(く)る。/波間(なミま)にかづく 00056860M3あまならで、/天目(てんもく)引うけ、いきもつぎあへすのミて、(四オ) 00056870M4△△/心中(しんぢう)も/流(なが)るゝ水にくミてしる 00056880M5△△△雪ハつめたき/茶(ちや)や女かな 00056890M6と、わる口いへバ、雪にかハりて、あるじの女、 00056900M7△△心中も水のしたひもふる雪も 00056910M8△△△打とけて/社(こそ)そこハしらるれ 00056920M9といひし。此わたりにかゝる人ハと/肝(きも)つぶれぬ。酒打のミ、 00056930M10雪が小/哥(うた)に/遊(あそ)びて、やゝ/半日(はんじつ)を過る。又/行客(かうかく)の/跡(あと)のため、 00056940M11ながゐも心なしと、/巾着(きんちやく)ひねくりて、一せきを引/包(つゝミ)、/茶代(ちやだい) 00056950M12すれバ、さいはてなる女、/二瀬(ふたせ)とやらんいへるが、かい取 00056960M13て、/勝手(かつて)に/入間(いるま)なく/立(たち)帰りて、もうし是お/銀(かねが)/悪(わる)う御さりま 00056970M14すといふ。扨も恋しらずめ、/替(かへ)てやらふも/今(ま)ひとつとあら 00056980M15バこそ、/情(なさけ)なや、いつくしき/雪(ゆき)が/皃(がほ)も心からにや/愧(おそろしく)、/夢(ゆめ) 00056990M16になれと/悔(くゆ)れどかいなし。ためいきの下に、何と、いかふ 00057000M17わるひかととふ。されバ、やけたとやらん(四ウ)にせとや 00057010M18ら申ますといふに、 00057020M19△△やくるとハ/我(わが)おもひをやいふならん 00057030¥P179 00057040L1△△△/包(つゝむ)心のふじにけふりて 00057050L2と/艶(ゑん)なるかたに/紛(まぎ)らハすれど、さすが/代(かハり)のなき事、はちが 00057060L3ハしく、さしうつふきゐたれバ、/主(あるじ)の女/雪(ゆき)にかはりて、又 00057070L4よめる、 00057080L5△△見し色のかはりなき/社(こそ)たのミなれ 00057090L6△△△にせをかけたるかねことの/末(すえ) 00057100L7といひけるに、うれしくおもはゆく、さらバやといふ/声(こゑ)も、 00057110L8ふるひ+まどい出ぬ。扨も此/主(あるじ)の/情(なさけ)ふかき/言(こと)の/葉(は)のゆか 00057120L9しく、心にくきほどに、又+ゆかまほしながら、はづか 00057130L10しき/悪(わる)がねのひゞきに、心ならず/夕(ゆふ)ぐれを/送(をく)る。のち+ 00057140L11きけバ、かの女ぼうハ、/往古(そのかミ)六/条(でう)の町にて、かほるといひ 00057150L12し/松(まつ)の/君(きミ)、/根(ね)引にひかれぬれど、其男世をはやうし、ひと 00057160L13り身となりて、/爰(こゝ)かしこさまよひありき、/関守(せきもり)(五オ)すへ 00057170L14ぬ月日の/影(かげ)かたふくよはひの/今(いま)、此所にかゝる/所作(しよさ)しける 00057180L15とぞ。げにや/紅(くれなゐ)ハ/薗生(そのふ)にうへても、よきいろのうつりかハ 00057190L16らぬに、/替(かハ)りはつるまゆの/霜(しも)こそにくけれ。こゝを出て、 00057200L17/八坂(やさか)の/塔(たう)を見あげ、まことや、/昔(むかし)此/塔婆(たうバ)、/帝都(ていと)のかたにゆ 00057210L18がミしを、/浄蔵(じやうざう)/貴所(きそ)といふ大とこの、/祈(いのり)てゆがミをなをせ 00057220L19しとぞ。さいつ比、/富尾(とミを)何がし此所にて/俳句(はいく)あり、 00057230M1△△/浄蔵(じやうざう)ありや/昼(ひる)にかたふく/八坂(やさか)の花 00057240M2筍斎ハまた、 00057250M3△△其人に/祈(いのり)なをしてもらひたし 00057260M4△△△我/身上(しんしやう)のたふれかゝるを 00057270M5此/隣(となり)、十/輪院(りんゐん)/本尊(ほんぞん)不/動明王(とうミやうわう)/弘法(こうぼう)大/師(し)/秘府(ひふ)/疱瘡除(はうさうよけ)の/札(ふだ)、当/院(ゐん 00057280M5) 00057290M6にあり。猶あゆめバ/左(ひだり)に/霊山(りやうぜん)の入口、ざしき(五ウ)/能(のう)あり 00057300M7と人+のゝめき行。ねとりの/笛(ふえ)の/東風(こち)にひゞくを、あち 00057310M8に/聞捨(きゝずて)/通(とを)れバ、/爰(こゝ)なん京/土産(ミやげ)に/書(かき)し、大/同(どう)二年の/翌年(よくねん△|あくるとし)に/筑(きつき) 00057320M9けん三年/坂(ざか)、おそるべし、此坂にてころびし人、三/年(とせ)めに 00057330M10/死(し)するといふ。/帯(おび)にとり/付(つき)、こかすなといひもあへぬに、 00057340M11/薬鑵頭(やくわんあたま)の/上(うハ)かぶき、とある小/石(いし)につまづき、/横(よこ)さまにた 00057350M12ふれながら、ねめ介をしかりて、/鈍(とん)なやつかな、/主人(しゆじん)をう 00057360M13つふけにしをつてといへば、/押(おせ)せと仰られてから、/是(これ)こそ 00057370M14坂ねだりといふ物なれと、/主従(しゆじう)/笑(わらひ)になつて行。ゆんでに/優= 00057380M15婆堂(う=ばだう)、めてに/経書堂(きやうかくだう)、/続(つゞい)て/経蔵(きやうざう)あり。/参詣(さんけい)のわかうど、/偏(ひとへ) 00057390M16に右の/肩(かた)をあらハにして、/念彼観音(ねびくわんおん)の/力(ちから)わざ、此/車(くるま)をまは 00057400M17すに、一/切経(さいきやう)をくりたる/功徳(くどく)ありとかや。筍斎も/肩(かた)(六オ) 00057410M18をしぬひでかゝりけるが、/都鄙(とひ)の/陽気(やうき)ものども、/諍(あらそひ)いきつ 00057420M19て/寄(よせ)つけねバ、 00057430¥P180 00057440L1△△大/勢(ぜい)のひきてあまたに成ぬれハ 00057450L2△△△おもへどえこそたよらざりげり 00057460L3と打かこち行。/子安(こやすの)/観音(くわんおん)右にあり。筍斎ハつまをもたね 00057470L4バ/泰産(たいさん)をいのるべきふしもなし。/西門(さいもん)より/朝倉堂(あさくらだう)/田村(たむら)堂/本= 00057480L5堂(ほん=だう)を/作礼(さらい)し、/奥(をく)の/院(ゐん)にまうづ。いつも/絶(たえ)せぬ/当寺(たうじ)の/参詣(さんけい)、 00057490L6わきて時ある/花(はな)のさかり、いひ出るもことふるしや。/舞台(ぶたい) 00057500L7より見おろせバ、/滝詣(たきまうで)の/男女(なんによ)ゆかたそぼぬれて、壱町計の 00057510L8/石壇(いしだん)をのぼるあり、おるゝあり。かゝる時や、此/滝(たき)を/布引(ぬのびき) 00057520L9とも見るべく、ねめ介のいふ、男の/詣(まうて)ハめにたつ計もなし、 00057530L10/若(わか)き女のゆかた/姿(すがた)、とり上がミ、何/祈(いのる)ならん、心にくし 00057540L11(六ウ)といへバ、/筍斎(じゆんさい)/聞(きゝ)て、しらずや、此/滝(たき)ハ/恋(こひ)の/水上(ミなかミ)、 00057550L12ぬれの/元祖(ぐわんそ)、/上(かミ)に/牛王(ごわう)の/姫(ひめ)ありて、/下(しも)にながれの女をすま 00057560L13す、あさましや、女の身なれバ一/夜(や)で/落(おち)てと/読(よミ)しも此/滝(たき)と、 00057570L14あはう口いひつゞくるを、ねめ介/笑止(せうし)がり、口に手あてゝ 00057580L15いひやミぬ。扨/片(かた)すミにあぐらかいて、/焼飯(やきいゐ)とり出、一/瓢(へう) 00057590L16をかたふけ、/楽(たのしミ)此うちにありと、あたまたゝくも/余念(よねん)なし 00057600L17や。やう+日/既(すで)に/傾(かたふけ)バ、そこを立て又/西門(さいもん)の/西(にし)/南(ミなミ)のほそ 00057610L18/辻子(づし)に入。/鳥部野(とりべの)にゆく道也。/景清(かげきよ)か/篭(ろう)の/谷(たた)とて、/閑渓(かんけい)物 00057620L19すごき所を/過(すき)て、大谷/鳥(とり)部野に出。/爰(こゝ)にも/野(の)がけ山あそび 00057630¥G 00057640¥P181 00057650L1の/酒宴(しゆゑん)のまくハ/数(かず)+ながら、花ぞちりけるといふ、かね 00057660L2の/音(をと)に/驚(おどろき)、/各(をの+)/氈絵席(せんゑむしろ)とりもたせ、しどろ/足(あし)もと打もつれ 00057670L3て、京にかへるこそうつゝなけれ。(七オ)(七ウ・八オ挿画)。 00057680L4ねめ介、/朝(あした)/家(いへ)を出て/夕(ゆふべ)此/野(の)にいたる心を/狂詠(きやうゑい)せよといへバ、 00057690L5筍斎、 00057700L6△△たつミむま/観音(くわんおん)堂のひつじさる 00057710L7△△△とりへ/野(の)にきく入あひのかね 00057720L8といひ/捨(すて)、/茅(かや)が/軒(のき)にかへりぬ。 00057730¥N2¥J 00057740¥X二△花ハ/散(ちる)/黒谷(くろだに)の/夢(ゆめ) 00057750L11けふハ/黒谷(くろたに)に/志(こゝろざし)、/加茂(かも)川を/越(こえ)、/南(ミなミ)ハ/聖護院(しやうごゐん)の/森(もり)、北に/岡= 00057760L12崎(をか=さき)のさとに入、/蓼倉(たでくら)の/薬師(やくし)を/礼(らい)し、/金戒光明寺(こんかいくわうミやうじ)にまうづ。 00057770L13/爰(こゝ)にハ/八重(やえ)ハすくなく、山/桜(ざくら)の/盛(さかり)/過(すぎ)しを、/嵐(あらし)の/誘(さそひ)て、こゝ 00057780L14かしこに/吹乱(ふきみだ)したる/景気(けいき)、えもいはれず、筍斎、 00057790L15△△黒谷にしら/毛(が)ましりの花の雪 00057800L16△△△ところ+ハはげて/金(きん)かい 00057810L17/本堂(ほんだう)のむかふに/吉田寺(きちでんじ)の観音まします。/洛陽(らくやう)三十三所のひ 00057820L18とつなり。つゞきに/石仏(せきぶつ)の/地蔵弥陀(ちざうみだ)のざうたち給ふ。筍斎 00057830L19手(八ウ)を打て、これ+ねめ介、/我(われ)かあたまの大きな 00057840M1とて、/日比(ひころ)人+に/笑(わら)われたるが、/仏(ほとけ)にも、是見よ、さて 00057850M2+いかひつふりかなといふを、ねめ介又さゝやきて、こ 00057860M3とも/愚(をろか)や、此/御仏(ミほとけ)ハ/成仏已前衆生(じやうぶつゐぜんしゆじやう)のために、かうやつれさ 00057870M4せ給ふ御/姿(すがた)、五/劫思惟(こうしゆい)の/如来(によらい)とこそきけといへば、いや/夫(それ)ハ 00057880M5/誤(あやまり)、五/劫腫気(こうしゆき)の如来といふなり。されバ、/弥陀(ミだ)の御/願(ぐわん)にも、 00057890M6/代(だい)十八匁のぐわんやくにて、/衆生(しゆじやう)の/病(やまい)をすくひ給ふ、其上 00057900M7といふ所を、ねめ介、あな/笑止(せうし)、こなたへとつれてのく。/東(ひがし) 00057910M8に/向(むい)て/開山(かいさん)の御/廟所(べうしよ)/勢至堂(せいしだう)、此/砌(ミぎり)ハ/皆(ミな)なき人のかたミ、所 00057920M9を/諍(あらそ)ひ五/輪(りん)そとばの/苔(こけ)/青(あを)く、/焼香(しやうかう)/霧(きり)と立のぼる中に、石の 00057930M10/牌(ひ)のそばに、かんなにて、あつもりくまがへとしるしたる 00057940M11有。/貴賎(きせん)/俗名(ぞくめう)を/呼(よん)で、ゑかうする事たえず。ぼだひハ/縁(ゑん)よ 00057950M12りおこる(九オ)/習(なら)ひ、あつもり/直実(なをざね)と/組(くま)ずハ、いかてかく 00057960M13/善道(ぜんどう)にいらんや。/天晴(あつはれ)/某(それがし)も、かゝる人と参りあひて、き 00057970M14らるゝ事ハいや、 00057980M15△△くまかへが/盃(さかづき)ならバ引くんで 00057990M16△△△おさへられてものふでミたしや 00058000M17北に/続(つゞき)て/神楽岡(かくらをか)/春日(かすが)の/宝前(ほうぜん)にまうで、/東(ひかし)に出て/鹿(しゝ)が/谷(たに)の/法= 00058010M18然寺(ほう=ねんじ)、/仏(ぶつ)づめの/念仏(ねぶつ)/他(た)にすぐれ、すしやうに/浄土寺(じやうどじ)のさと 00058020M19に入る。/爰(こゝ)に/昔(むかし)/慈照院(じせうゐん)の/別業(べつぎやう)/銀閣(ぎんかく)寺あり。さしもいミじ 00058030¥P182 00058040L1き/跡(あと)ながら、/星霜(ほししも)やゝうつりて、今ハ名のミに、松たかく 00058050L2/梟(ふくろう)すごく、物いへバ/嵐(あらし)/梢(こずへ)にこたへする。又/後(うしろ)の山にて、 00058060L3としごと七月十六/夜(や)をくり火の/大文字(だいもんじ)たく。/高野(かうや)大/師(し)の/筆= 00058070L4跡(ひつ=せき)とかや。此/北(きた)/近(ちか)く出て、白川のさと、/彼(かの)八才の宮の、 00058080L5△△みちのくの/関(せき)迄行ぬ白川も 00058090L6△△△日かすへぬれハ秋かせぞ吹(九ウ) 00058100L7といふ/古哥(ふるうた)をひかせ給ひし/名所(なところ)、さとの者のなりわひとて、 00058110L8屋/作(づく)りの/用石(ようせき)を/切(きり)出す。京/童(わらべ)のことくさに、小/米石(こめいし)といふ 00058120L9を、 00058130L10△△/鑿(のミ)あてゝ白かハけづるからうすに 00058140L11△△△ふまぬさきよりちる小米かな 00058150L12此山あひを/東(ひがし)へゆく道を山/中越(なかこえ)といふ。あなたハ志/賀(が)、こ 00058160L13なたハ三/井(ゐ)の/古寺(ふるてら)、/左(ひたり)ハ都のふじがたけ、花のふゞきのと 00058170L14よみしハ此/道筋(ミちすじ)となん。やごとなきかたハ/左(さ)もよミ給ふべ 00058180L15し。わがおろかなる口にてハ、山/中(なか)大こんをことの/葉種(はのたね)に 00058190L16せんとて、/筍(じゆん)さい、 00058200L17△△山中にいかひねを出す/鴬(うぐひす)ハ 00058210L18△△△きいてきミよしからミ大こん 00058220L19引かへして右に行バ/知恩寺(ちをんじ)あり。/鎮西流義(ちんぜいりうぎ)の四/ケ(か)のひとつ 00058230M1なり。こゝにて/哀(あはれ)なる事を見き。としのほと/六十計(むそじはかり)のちさ 00058240M2き男の/有徳(うとく)らしきが、ゑもんさハやかに、/四(よつ)めゆひの(十 00058250M3オ)/紋(もん)つけて、なまめける女まじり、/若党(わかとう)/小者(こもの)おほくて、 00058260M4此寺に参りけるを、/寺前(じぜん)の/茶薗(ちやぞの)より/三十余(ミそじあまり)の/健(すこやか)なる男、 00058270M5つと/走(はしり)出、/門外(もんぐわい)にて、/彼親仁(かのおやぢ)をとつてふせ、/刀(かたな)をぬひて心 00058280M6もとにおしあて、/天晴(あつはれ)/己(おのれ)ハにくきやつかな、我ハ是/汝(なんち)が/妻(△せう|てかけ) 00058290M7の/夫(おつと)、/定(さだめ)て/覚(おぼ)へあらめとのゝしる。召つれたる/者(もの)共も、す 00058300M8くハんとするに/利(とき)かたなを/胸(むね)にあてたれバ、せんかたなく、 00058310M9つゐにさしころしてけり。/寺内(じない)/門前(もんぜん)/騒立(さハきたち)、/棒(ばう)ちぎり/木(き)に取 00058320M10こめて、とりこにしけるとかや。此のちの事ハしらずなり 00058330M11き。此/老(をい)たる男、/妻(せう)がいろに深くまよひ、此事つのりて、 00058340M12かく/浅(あさ)ましき/命終(めうじう)をしけりとぞ。/実(けに)/老(をひ)たるも/若(わか)きも/知(ち)ある 00058350M13も/愚(をろか)なるもと、/恥(はぢ)しめけむ、此まどひのひとつこそはなれ 00058360M14ぬ物なれ。(十ウ)けふハ此あハれにひかれて、/念仏(ねふつ)ともに 00058370M15/西(にし)の京に帰りぬ。 00058380¥N3¥J 00058390¥X三△/廻(めぐら)ぬ/薬(くすり)/自慢(じまん)/酒(さか)つぼの/亀(かめ)山 00058400M18かへれハ/相借(あいじやく)やの/内義(ないぎ)が、もうし/筍斎(じゆんさい)さま、るすの内にり 00058410M19やうぢを申て参りました、五/辻(つじ)の/駕(かご)かきと、/下(しも)の町のやく 00058420¥P183 00058430L1わむやの/弟子(でし)とでこざるといふに、/草臥(くたびれ)たれど見まふてや 00058440L2らふ/迄(まで)と、つゐいて帰る。さて、はやい御/帰(かへ)りや、わづらひ 00058450L3ハ何にて候やといへバ、されバかごかきハあたまに/胼(あかゞり)がき 00058460L4れ、今壱人ハかいながつけて/尻(しり)がいたむほどに、/皆(ミな)かうや 00058470L5くをつけて帰りぬと。/扨(さて)+/珍(めづ(ママ))しひいた所ミかなといへバ、 00058480L6/胼(あかゝり)ハゆびのあたま、/尻(しり)のいたミハひぢ/尻(しり)といひけるに、/内= 00058490L7義(ない=ぎ)ハあきれて物もいはすなりぬ。かゝりし所へ、/絶(たえ)て久し 00058500L8き物まうをこふ。たそと(十一オ)とへバ、/丹波(たんは)の/亀(かめ)山より 00058510L9/参(まいり)ました、/酒家(しゆか)の何かしか/忰(せかれ)、きそくにつき、/承(うけたまハり)/及(およひ)て、 00058520L10人を/進(しん)ずる、明日御/見舞(ミまひ)給はれかしといふ。京にりやうぢ 00058530L11どもがつかへて、いとまなけれど、はる+/聞及(きゝおよび)てこされた 00058540L12れバ、参/□((らカ))ふと、/余情(よせい)をいひてもどしぬ。其あけの日、ほ 00058550L13のぐらきに/出立(いでたち)行。/肌(はだ)に/紬(つむぎ)のひる比なる、/上(うへ)にあべ川のわ 00058560L14た入/帋子(がミこ)、時しらぬ/高宮(たかミや)のひとへはをり、かたまへさがり 00058570L15に取かさね、むさしあぶミさすがに/少(すこ)大きなる/朱(しゆ)ざやのあ 00058580L16い口、やれ/扇(あふぎ)十文/字(じ)にさすまゝに、/木綿(もめん)/頭巾(づきん)をよこ/筋(すぢ)かひ 00058590L17に、いつもかはらぬねめ介、/橡(とち)の/薬筥(やくふ△△|くすりばこ)を打かたげ、/丹波地(たにはぢ) 00058600L18におもむき行。/朱雀(しゆしやか)をくだりに/南(ミなミ)に行バ、/恋(こひ)ざとの/朝(あさ)もど 00058610L19り、/二人(ふたり)みたりの/駕(かご)のあし、/飛(とぶ)かと見ゆ(十一ウ)るひやう 00058620M1きん玉、みがくいきぢの色/狂(くる)ひ、うら山/敷(しく)もかへるかごか 00058630M2なと、打/詠(ながめ)ゆけバ、/嶋原(しまバら)の/揚(あげ)やのそとなれや、くゆるけふ 00058640M3りの/伽羅(きやら)げしき、/権現堂(ごんげんだう)を水やくし、是又/医(いし)の/水上(ミなかミ)にて、 00058650M4/流(なが)れを/汲(くめ)る/我(われ)なれバと心に/念(ねん)じ、月なき/昼(ひる)の/空(そら)ながら、/桂(かつら) 00058660M5の川に/便船(びんせん)して、むかふのかたに/乗(のり)出す。/爰(こゝ)に/東(あづま)の/者(もの)とみ 00058670M6えて、/皃(かほ)ハ/髭(ひげ)なる/奴男(やつこおとこ)、/木刀(ぼくとう)に/文箱(ふはこ)取つけ、川/端(はた)に打/望(のぞミ)、 00058680M7/黒(くろ)き/尻(しり)に、もすそたかくかゝげ、さしもかつらの/早(はや)き/瀬(せ)を、 00058690M8船に/添(そふ)て/渡(わたり)けり。/船人(ふなびと)是を見るより、是や/奴(やつこ)殿、あぶなひ、 00058700M9御船にめせといへバ、何是なんど川といふべきや、石はし 00058710M10る/東(あつま)の大井/(の)川だに、是よといひて/行(ゆく)事、/鵜(う)よりもやすし。 00058720M11/筍斎(じゆんさい)船より見て、扨/気味(きミ)の/能(よき)男や、心ち/能(よく)くろき/尻(しり)やと 00058730M12ほめて、(十二オ) 00058740M13△△/亀(かめ)山へ五り行道に/尻(しり)見せて 00058750M14△△△たんばくりとや是をいふらん 00058760M15とどよめバ、/奴(やつこ)ふり/帰(かへり)、ほゝえミ、御/坊(ぼう)ハ/都(ミやこ)人と見え申、 00058770M16京ハめはづかしと聞しに、口さへ/恥(はづ)かし、お/江戸(ゑど)を出て百 00058780M17三十里の道すがら、/比丘尼(びくに)がうき/世(よ)ぶし、/馬子(まご)が小むろの 00058790M18ひなめきたるならで、/哥(うた)といふ物きゝ侍らず。おかしき事 00058800M19申されて、此間の心をはらしぬ、いで/返(かへ)し申さんとて、/東= 00058810¥P184 00058820L1奴(あつま=やつこ) 00058830L2△△/丹波栗(たんばぐり)ミのかハむひて/恥(はづ)かしな 00058840L3△△△あづまからけのしほれ/下帯(したおび) 00058850L4といひしに、船こぞりて/肝(きも)をけしぬ。とかくすれバ、/船(ふね)も 00058860L5つき、/主(ぬし)も/岸(きし)にあがる。是より道づれになりて/語(かた)り行こそ、 00058870L6こよなふ心/慰(なぐさ)むわざなれ。/樫原(かたぎハら)といふ所にて/打休(うちやすらひ)、/餅(もちゐ)くふ 00058880L7とて、筍斎、 00058890L8△△ものゝふの/奴(やつこ)の心/樫原(かたぎハら) 00058900L9△△△哥にやハらぐあづきもち哉(十二ウ) 00058910L10といへバ、奴又/笑(わら)ひて、/貴方(きほう)ハ薬師な、/実(げに)/気(き)の薬な人かな 00058920L11とて、 00058930L12△△/気(き)の薬もりの/木陰(こかげ)の一休ミ 00058940L13△△△身ハかたぎハら心まめのこ 00058950L14/愧(おそろしき)ひけ男の、かゝる事ともいふべしとハ、かけてもしら 00058960L15さりき。これや/市中(しちう)の賢人、いかなる人の、かゝる/下品(けひん)の 00058970L16/奴僕(ぬ△ほく|やつこ△)とハ成けんと、ゆかしくとへど、/紛(まぎら)ハしていはす成ぬ。 00058980L17此さとのすへより、其人ハ大/原野(はらの)に文もてゆくに、/公用(こうよう)と 00058990L18ゝむべくもあらねバ、/名残(なごり)をしけれど/別(わかれ)ぬ。ゆき+て、 00059000L19/塚原(つかはら)のさとといふを過れバ、こゝら皆山みち也。/傍(かたはら)の松が 00059010M1ねに、あたらしき/石塔(せきたう)壱つあり。此辺/墓所(むしよ)とも見えず。只 00059020M2ひとつしるしを/残(のこ)す。いぶかしく、/柴(しバ)こる男にゆへをとへ 00059030M3バ、男の云、されバ是につき/哀(あはれ)なる事の侍る、是より/奥(をく)三 00059040M4里計川/関(ぜき)といふ所(十三オ)の/者(もの)、/鮎(あゆ)といふ魚を/売(うり)に、夜通 00059050M5し京にのぼる、/去年(こぞ)の夏にや、例の/魚篭(あじか)をになひて、たゞ 00059060M6一人行けるを、山だち三人取こめて、たゝきころし、古き 00059070M7/単(ひとへ)をはぎて帰りぬ、きう/所(しよ)をいたううたれながら、/片息(かたいき)残 00059080M8て/道行(ミちゆく)人に/始終(しじう)をかたり終て死す、/誠(まこと)に物にハ/事毎(こと+)心をつ 00059090M9くべき事に侍り、此男道のたくハへに、やき/飯(いひ)二つ三尺帯 00059100M10につゝミ、こしにつけたるを、いかさま/金銀(きん※)の類なるが、 00059110M11/魚荷(うをに)にさまかへて、京に出るよと推して、/命(いのち)をとりし物と 00059120M12ぞ、その/者(ものの)のなきあとのしるし、ゑかうして御/通(とを)りあれと 00059130M13語る。げにあるべき/旅途(りよと)の心得かなとて、筍斎、 00059140M14△△/鮎(あゆ)うりのかたちハ/鮨(すし)に/埋(うづも)れて 00059150M15△△△/五輪(こりん)をつミしつか原のさと(十三ウ) 00059160M16猶くつかけのさとをこえて、やう+いそけバ、かめ山の 00059170M17/酒(さか)やに尋入ぬ。/亭主(ていしゆ)出むかひ/悦(よろこぶ)。/暫(しハし)/休(やすミ)て/病人(ひやうにん)を見る。/父= 00059180M18母(ちゝ=はゝ)先心もとなく/病性(ひやうしやう)をとふ。/疳(かん)でござると。かんハ/五疳(ごかん)と 00059190M19かや/承(うけたま)る。何ゝ申かんで御さるといへバ、いかにも/五(いつ)色有、 00059200¥P185 00059210L1皆むつかしひ/性(しやう)なれど、くるしからぬ、昔天子の/五色(こしき)の/疳(かん) 00059220L2を一/度(ど)にうけ給ひて、しかもつかへがありしかと、長生あ 00059230L3そハしたる/為(ため)しがある。是ハ/終(つゐ)にきゝ及ばぬ、いづれの御 00059240L4代の事におはす。御存あるまひ、是ハもろこし、ごかんの 00059250L5みかどにつかへ奉るといふが、其事に侍るといへバ、亭主 00059260L6あきれながら、五かんハ何+ととへバ、筍斎目をすがめ、 00059270L7五かんハ先やうかん、らくがん、ミつかんの/類(たぐい)、皆くひ物 00059280L8の過てより出る、是のハ酒かんといふて、酒のかんかあたつ 00059290L9て出たる也、といへバ、/亭主(ていしゆ)聞て、我(十四オ)(十四ウ・十五 00059300L10オ挿画)+/夫婦(ふうふ)ハ酒を好ミたうべぬれど、此者ハ/幼(いとけ)なくて 00059310L11/盃(さかつき)をさへ手にだにもふれず、とかたるを、筍斎打/笑(わらひ)、扨 00059320L12/愚(おろか)なる人+かな、酒のミの/腹(はら)にやどり、上戸のたねをお 00059330L13ろしたれバそ、此/病(や)ハありける、/虚(きよ)なる父母の/躰(たい)をうけて、 00059340L14/生(うま)れながら虚なるがことし、されバ此病、/薬(くすり)にて/験(しるし)あるべ 00059350L15からず、爰に我に/伝(つたふ)ふる/祓(はらへ)の秘事有、是をわ君につたへ申 00059360L16さむ/抑(そも+)此はらへハ大/中臣(なかとミ)の家につたへて、月ごと此御わ 00059370L17ざし給ふこと、/禁裏(きんり)におゐて絶す、いつに比よりか、みな 00059380L18づきてせちふんの夜、此/祓(はらへ)をなすになれり、皆としの内の 00059390L19/災(わざハひ)をはらふの/咒(ましなひ)なりけり、此故に、 00059400¥G 00059410¥P186 00059420L1△△みな月のなごしのはらへする人ハ 00059430L2△△△ちとせのいのちのふと社聞 00059440L3なとゝも/読(よめ)り、いで、さらハ祓申さん、此子が名ハととふ。 00059450L4鶴松と申(十五ウ)といへバ、印こと+しく/結(むすん)で、やあら 00059460L5めでたや、やあらたのしや、此子が寿命を申さバ、/鶴松(つるまつ)/千年(せんねん)、 00059470L6/亀(かめ)山の万年、/悪病(あくびやう)外邪打/払(はらふ)て、西の京へさらバといひて 00059480L7/帰(かへり)にけり。/亭主(ていしゆ)/興(けう)ざめながら、子を思ふ/親(おや)の心、いづくも 00059490L8おなし事ぞかし。筍斎が/千世万代(ちよよろつよ)とことぶきしを/慶(よろこひ)、是よ 00059500L9り心ちもよくなりけれバ、/黄金(わうこん)に/名酒(めいしゆ)など/添(そへ)て、礼につか 00059510L10はす。筍斎/使(つかひ)にあひて、是ハおびたゝしひ御礼物、/迷惑(めいわく)な 00059520L11がら、はる+の所、御/志(こゝろざし)/過(くわ)分なれバ、酒ハ申うけうす、 00059530L12/金子(きんす)ハ納置ませうとて、/持(もち)て入ぬ。 00059540¥N4¥J 00059550¥X四△/妙薬(めうやく)ハ/磁石(じしやく)の/推量(をしすい) 00059560L15一とせ八月/暴風(のわき)冷まじく、家をたふし、こけらをまくりし 00059570L16日、あるものゝ子、十五六なるが、やねのまくるゝを、ふ 00059580L17せがんと、屋の上に(十六オ)のぼる。此者/持病(ぢひやう)に/癲(てん)狂あり。 00059590L18やねにて/件(くたん)の病おこり、うんといふ声に、おや驚、人あは 00059600L19てゝ、水のきつけのとさハぐ。やう+/正気(しやうき)ハつきながら、 00059610M1おそれてのぼりはしを得おりず。こハ、いかゞすべきと/医= 00059620M2師(い=し)を/頼(たの)めども、大風に世上/騒動(さうとう)の/最中(もなか)なれバ、見まふくす 00059630M3しなし。此上ハ筍斎なりともと、人をはしらす。筍斎ハ今 00059640M4/内証(ないしやう)に、ひんのやまひのはやりいしや、りやうぢハたんば 00059650M5/巳来(いらい)/珍(めづら)しうハあり。大風が家をまくるとも、おれがやねで 00059660M6ハなしと、とつかハと見まふ。/病人(ひやうにん)ハ屋ねにおります。是 00059670M7ハ/妙(めう)な所にゐる、おろしやれといへバ、されバ、そのおる 00059680M8ゝ事のならぬをおろして下されよと、/次第(したい)をかたる。筍斎 00059690M9はうづえに/小首(こくび)ひねりて、是によい薬があれど持あはせぬ、 00059700M10残多しといへバ、/亭主(ていしゆ)、いづかたにある物でござ 00059710M11るととへバ、みちにくにある、いなぶねといふ物じや、の 00059720M12ぼつてから、くだらぬといふ事がない、されバ、哥に、 00059730M13△△/最(も)上川のぼれバくだるいな船の 00059740M14△△△いなにハあらて此月計 00059750M15などゝも/読(よめ)りといへど、是ハ時の手にもあはずなどいひあ 00059760M16へれバ、筍斎/懐(ふところ)より万年ごよミ取出し、此子がとしハい 00059770M17くつぞととふ。十六といへバ打/諾(うなづき)、夏に/奇(き)妙の/薬(くすり)こそあれ、 00059780M18是+とて薬箱より、/古(ふる)き/磁石(じしやく)をとり出し、はしごのもと 00059790M19にさし置て、/子細(しさい)らしくひぢをはり、今の/間(ま)に此薬、上な 00059800¥P187 00059810L1る子をすいおろす/功(こう)ありといひのゝしるを、傍なる人、い 00059820L2かなる薬にて候ぞととへバ、されハ此子十六金/性(しやう)也、/虎= 00059830L3伯(こ=はく)のちりをすい、磁石のかねをすふ事、是天/然(ねん)の/妙(めう)なりき、 00059840L4待給へと。時うつれどおるゝけしき(十七オ)ハなかりけり/に((ママ))、 00059850L5筍斎今ハ/為(せん)かたなく、又なき/秘書(ひじ(ママ))にてあれど、此上ハ/教(をしへ)申 00059860L6さん、たばこのかたをせんじて用ひ給へといひ/捨(すて)て/逃(にげ)かへ 00059870L7る。思ふにおろしこといふ事かと、皆人わらひになりぬ。 00059880L8此後ハしらず。 00059890¥N5¥J 00059900¥X五△/果報(くわほう)ハ/唇(くちびる)につくさが/土器(がハらけ) 00059910L11ある日、/暮(くれ)に/及(およひ)て、侍壱人/仕丁(じてう)に/駕(かご)つらせて、筍斎が家に 00059920L12あなひ/乞(こふ)。身ハ何がしの中納言につかふる者に侍り、主/人(じん) 00059930L13/黄門(くわうもん)いたハる事/侍(はべ)りて、さがなる下屋敷に/保養(ほやう)のため罷 00059940L14ある、筍斎老に/脉(ミやく)を頼申度よし申され、打つけなから/駕(かご)を 00059950L15つらせ侍りといふ。筍斎/例(れい)のうそ/勿躰(もつたい)、当所に/急病(きうびやう)/多(おをく)侍 00059960L16れバ、今にも人や参らんといふ所へ、あぶらの/代(しろ)を/乞(こひ)に来 00059970L17りて、此(十七ウ)中申まする/油(あぶら)のといひ出せバ、/明日(あす)+ 00059980L18といふてかへす。/跡(あと)にて、あぶらげを/好(このミ)てハ何ほど/薬(くすり)を/用(もち) 00059990L19ひても、きかぬはづしやといひなをせど、人ハしりぬ。又 00060000M1女ほう一人、/前(まへ)だれすがたにて、つといりて、/木(き)やのハ/拵(こしらへ) 00060010M2てこざると。筍斎/皃(かほ)に火を/焼(たき)て、すかさず/詞(ことバ)をかけ、あす 00060020M3やらふといへバ、あすあさつてとおしやつても、はてゝ 00060030M4こそとのゝしり帰る。/跡(あと)で/侍(さむらい)へ又あいさつに、/只今(たゞいま)の女、 00060040M5/娘(むすめ)ひとりもてり、此/者(もの)きやミいたすが、ながびく/性(しやう)で、あ 00060050M6すあさつてと申ても、とけしなく、子ゆへにはらをたて侍 00060060M7ると、いひまぎらすもにくしや。とかくする内、/時刻(じこく)うつ 00060070M8れバ、こなたへとかごさしよせたる。ねめ介こひよ、男ど 00060080M9もに/留守(るす)よふせよと、せんしやうつねのごとくいひちらし、 00060090M10かごに打のり行。(十八オ)/漸(やう+)/五更(ごかう)にさがにつけバ、いまだ 00060100M11御/寝所(しんしよ)におはしますよし、相まつほどに御/目覚(めさめ)て、筍斎を 00060110M12ちかく召れ、はる+よくそや来り給ふ。先/初見(しよけん)の/盃(さかづき)とて、 00060120M13御かハらけをたぶ。よもすがらに月と/友(とも)にまいりたるよし 00060130M14申上、/例(れい)の口くせ、おめずおくせず、 00060140M15△△都よりいたゞきづめの/朝朗(あさぼらけ) 00060150M16△△△さかかわらけのさか月のかげ 00060160M17と申けれバ、御きげんよろしく、筍斎ハきゝ/及(および)て、おや竹 00060170M18斎か/□((るカ))口のかるひ者かな、されバこそ、盃の上も今すこし 00060180M19かるし、とくと請よと仰ありて、 00060190¥P188 00060200L1△△さかづきの影をさしたる朝朗 00060210L2△△△さががハらけの西にかたふく 00060220L3事過て御/脉(ミやく)を/診(しん)し、御請申て薬をあげぬ仕合やよ、けん五 00060230L4七ふくの内に御ほんぶくなりぬ。御よろこびかぎり(十八ウ) 00060240L5なく、/殊(こと)に/迎(むかへ)に行し/侍(さふらひ)が、筍かいたうまづしき/躰(てい)を申上け 00060250L6れバ、/黄金(わうごん)おほく、/羽二重(はふたへ)なんどいふ、召おろしの御小袖、 00060260L7えならぬかほりしけるを、給はりけれバ、 00060270L8△△いにしへのならぬ/所帯(しよたい)のやれがミこ 00060280L9△△△けふはふたえににほひぬる哉 00060290L10と申上て、にしの京へ帰りぬ。 00060300¥Y1新竹斎巻之一(十九オ) 00060310¥T1新竹斎巻之二 00060320¥N1¥J 00060330¥X一△此/世(よ)に/三途川(さふつがハ)/有(あり)/嫗(うばか)か/懐(ふところ) 00060340M5/嵯峨(さか)/土器(かハらけ)の/酔(ゑひ)心ち、たつふりと/能(よい)物ハ/戴(いたゞく)、/余念(よねん)をわするゝ 00060350M6折ふし、又/暮(くれ)/過(すぎ)て、/駕(かご)壱丁に/侍(さふらひ)弐人そひて、/筍(しゆん)が/家(いゑ)にあ 00060360M7ない/乞(こふ)。そつじながら/我等(われら)ハ/遠城寺(をんじやうじ)/勧学院(くわんがくゐん)に/仕(つか)ふる/江(ごう)右衛 00060370M8門藤左衛門と申者に侍り、/院主(ゐんじゆ)ハ/藤氏(ふぢうぢ)の御子にて侍る、此比 00060380M9/急疾(きうしつ)を/請(うけ)て/近辺(きんへん)の/名医(めいい)を/集(あつめ)候へども、/更(さら)に/験(しるし)なし、/筍斎老(しゆんさいらう) 00060390M10事、さがの中/納言(なごん)殿へ御/口入(こうじゆ)にて、御/迎(むかひ)にかごを持せ参り 00060400M11侍ると有つべき/口上(こうじやう)/約(つゝまやか)にのぶる。筍斎/悦(よろこび)、是又よき/仕合(しあわせ)、 00060410M12此中の/勢(いきほゐ)に何ほどの/福(さいわい)にかあはんと/喜(よろこ)び、お/見舞(ミまひ)申さふ 00060420M13と内に入。是ねめ介又かゝつた、先/迎(むかひ)の/衆中(しゆぢう)に酒すゝめよ 00060430M14と、一せきのたしなミ/肴(ざかな)(一オ)取出、/寒天(さむそら)に御/太義(たいぎ)、ひと 00060440M15つ参れ。是ハ/忝(かたしけな)し、あなたへ御出なされなバ、/院主(ゐんじゆ)へ申、 00060450M16御ちさう仕らふなど、あいさつに時うつり、/夜半(やはん)に京を/出= 00060460M17立(いて=たつ)。筍斎、ねめ介にさゝやき、/毎(いつも)ながら/主従(しゆじう)ふたり出て行 00060470M18バ、/留守(るす)の/用心(やうじん)おぼつかなし、此ほどの/黄金(わうごん)も/薬箱(くすりばこ)に入よ、 00060480M19/小遣銭(こづかひせん)も内に/置(おく)なと、/可然(しかるへき)物ハ/不残(のこらす)とりこミ、/拝領(ハひりやう)の小 00060490¥P189 00060500L1袖取かさね、/火(ひ)用心きづかひなく、いざ参らふと、かこに 00060510L2のる。しすましたりと/飛(とん)でゆく。/雲(くも)のあハたつ山にかゝれ 00060520L3バ、けあげの水の/虚(うそ)/冷(すさま)じきおきつ白/波(なミ)どつといふて、ぬす 00060530L4人の/同類(どうるい)/数(す)十人、うばか/懐(ふところ)をおどり出、/主従(しゆじう)ながら/丸(まる)はだ 00060540L5かに、/薬箱(くすりばこ)とて/残(のこ)さねハ、筍斎手を合て、/去(さり)とてハ/着物(きもの)ハ 00060550L6とらせ給ふとも、/薬箱(くすりばこ)ハ/家業(なりわい)ぞ、ゆるし給へといへど、/己(おのれ) 00060560L7らそこを/働(はたらく)か、一/言(こん)も口をあかバ、/首(くび)と/胴(どう)との(一ウ)さい 00060570L8めを見せんと、/氷(こほり)の様なる/刀(かたな)を/抜(ぬけ)ハ、いとゞ/気(き)もきえわな 00060580L9ゝひて、物をだにいひえず。去ほどに/夜盗(よとう)どもハいづち行 00060590L10けん、不知。されとも、うこかバ又いかなるうきめやミ 00060600L11んと、/働(はたらく)物ハ目計に、/耳(ミゝ)に/嵐(あらし)の/松(まつ)の/声(こゑ)、一/身(しん)にひえわたり 00060610L12ぬ。此/悲(かな)しさの中にも、 00060620L13△△ひの/岡(をか)ハ名のミ成ける/寒(さむ)さ哉 00060630L14△△△だいてもゆぶれうばがふところ 00060640L15/漸(やう+)/東雲(しのゝめ)になれバ、/米車(こめぐるま)/魚荷(うおに)の京にる出なんど物/音(をと)す。今 00060650L16ハくるしかるまじ、京にいなんといふ。ねめ介が云、/只今(たゞいま) 00060660L17/爰(こゝ)を出て、何とハしるとも、京迄ゆかば/白昼(はくちう)になるべし、 00060670L18/某(それがし)の存の/者(もの)、/安祥寺(あんじやうじ)といふ山さとに侍り、/爰(こゝ)に行て/一重(ひとえ) 00060680L19づゝもかりて参らん、かうおはせよと、/猶(なを)大/津(つ)道を東に行。 00060690M1/道(ミち)+人見とがめて、是ハきやうがる/寒天(さむそら)に、/裸(はだか)にて/走(はし)る 00060700M2ハ、京へ/夜盗(よとう)に入て、かくはがれたる/者(もの)(二オ)(二ウ・三オ挿 00060710M3画)よと/笑(わらへ)ハ、筍斎ちやくと/拵(こしらへ)て、/辛崎(からさき)へ/裸(はだか)/代参(だいまいり)御きねん 00060720M4御きたうの/灯明銭(とうミやうせん)上られませいと/罵(のゝしり)行バ、/左(さ)もある事か 00060730M5とミな思ひゐぬ。十町計行ハ、/左(ひだり)につきて/安祥寺(あんじやうじ)の入口あ 00060740M6り。/並木(なミき)のさくら、ちもとをわけて山/路(ぢ)に入事、又五町計、 00060750M7筍斎/漸(やう+)其/家(いゑ)に入て、ねめ介ゆへを/語(かた)るにぞ、/亭主(ていしゆ)/笑止(せうし)が 00060760M8り、先/肌(はだへ)を/隠(かく)すほどの/着(き)物をあ□□ハ、/昼(ひる)ハ人めつよし、 00060770M9けふハ/爰(こゝ)に/居(をり)て、くれに京へいなんと心ならずゐれハ、/所(ところ) 00060780M10からとて、/菜飯(なはん)など/調(てう)じもてなす。筍さい、 00060790M11△△なも大/根(こん)もかれぬとおもへハ 00060800M12といひて、此/上(かミ)の句いかゝととふ。ねめ介、 00060810M13△△山さとハ/冬(ふゆ)ぞひもじさまさりけり 00060820M14とつけて笑ふ。/誠(まこと)に此/里(さと)にての事かとよ、/田村(たむら)の御かどの 00060830M15/女御(によご)、たか(三ウ)きこのみわざしける時、人+の/捧(さしだし)物山 00060840M16も/更(さら)に、/堂(だう)のまへに/動(うこき)出たるやうにとあるが、我らハたゞ 00060850M17めほしの花ならでハとつぶやく。やゝ/暮(くれ)におよへバ、/主(あるじ)に 00060860M18/暇乞(いとまこひ)て京に帰にけり。去ほどに/命(いのち)をかけし/薬箱(くすりばこ)ハとられ 00060870M19つ。/薬料(やくれう)ハ一/銭(せん)もなし、いかゞハせんといふ所に、/門(かど)をた 00060880¥P190 00060890¥G 00060900M1ゝく。又ぬす人よ、あくるなととがむれバ、/戸(と)たゝきたる 00060910M2/計(ばかり)にて人/音(をと)ハせず。/愧(おそろし)ながらそと/開(ひらけ)ハ、人ハなくて、/夜部(よべ) 00060920M3とられたる/薬箱(くすりばこ)あり。内に/入(いれ)てミるに、薬ハ其/侭(まゝ)に、よき 00060930M4/物(ものハ)/皆(ミな)取て、状有。 00060940M5△△/昨夜(さくや)ハ/初而(はしめて)/推参(すいさん)いたし、御ちさう大/酒(しゆ)/忝(かたしけなく)候、/殊(こと)に/色(いろ) 00060950M6△△&/引出物(ひきでもの)、/過分(くわぶん)に候、御/影(かけ)にて、とんよくの/病(やまい)を/治(ぢ)し、 00060960M7△△しんいの大ねつさめ申候、薬はこ/返進(へんしん)申候、以上、 00060970M8△△△△△△△△△月日△△△△△△/虚空(こくう)/強(がう)右衛門 00060980M9△△△△△△/薮(やぶ)の内竹斎老△△△△△/無天(ぶてん)/盗(とう)左衛門(四オ) 00060990M10と書たり。げにがうとうの二/字(じ)は是にて/在(あり)しよと、あたま 00061000M11かけどいかゝすべき。/主従(しゆじう)ともにか/笑(わらひ)しゐぬ。筍斎/勧学院(くわんがくゐん) 00061010M12の/盗(すり)めハ/妄語(まうご)を/囀(さへづる)といへバ、ねめ介、/医者(いしや)の/辺(ほとり)のわつハは 00061020M13あられぬ状を/読(よむ)と云て、わらひに成ぬ。 00061030¥N2¥J 00061040¥X二△/蝌(かへるこ)ふまるゝ四/条(でう)/縄手(なわて) 00061050M16何と思ふ、ねめ介、/男(おとこ)といふ/者(もの)ハ/兵法(ひやうはう)の一/通(とをり)を/覚(おぼえ)た/□((きカ))物か 00061060M17な、此/度(たび)/少(すこし)/知(しつ)たらバ、/盗(ぬす)人の内、/責(せめ)て一二人もしとめな 00061070M18んに、/口惜(くちおしき)次第、しなへとりてのおもてむき/学(まな)ばんと思 00061080M19ふといふ。/尤(もつとも)に侍れど、/医師(いし)なんどの/兵法(ひやうほう)/習(なら)ふといふハ、 00061090¥P191 00061100L1/巫(かんなぎ)の/談議(だんぎ)を/説(とき)、女の/弓(ゆミ)取て/的(まと)にむかふごとく、/似合(にあひ)侍ら 00061110L2ずと。いや+それハ/左(さ)にてなし、/医術(いじゆつ)も是/兵法(ひやうほう)の/意味(ゐミ)也、 00061120L3其/故(ゆへ)ハ一/病(びやう)/身内(しんない)におこつて、五/蔵(ざう)を/破(やぶ)り、六/腑(ふ)をいためく 00061130L4るしむる時、/君臣(くんしん)/左使(さし)のいくさ(四ウ)/評定(ひやうでう)にて、薬/盤(ばん)の/駒(こま) 00061140L5にむちうち、やげんの船に/竿(さほ)さして、銀の小/鍋(なべ)をようがい 00061150L6に、生/姜(が)一/片(へき)の/楯(たて)をつき、/補瀉(ほしや)/温冷(うんれう)の四の/湯(とう)のかしら/煎(せんじ)、 00061160L7一番にすゝむて/逆吐(ぎやくと)をしづむ、若/病(やまひ)つよく治せざるの時ハ、 00061170L8/丸薬(ぐわんやく)の二つ玉をしかけ、/艾(もぐさ)の火/矢(や)をもつて、やきおとす。 00061180L9あるハ五/木湯(もくゆ)/温泉(でゆ)の大河におつはめ、/瘧(ぎやく)、物の/気(け)のふたつ 00061190L10ハ、/祈祷坊(きたうほん)にばくせられ、/疝気(せんき)の虫ハ/按摩(あんま)が手に/捕(とりこ)となる、 00061200L11是皆/勇士(ゆうし)の道ならずやといひまぐるもおかし。さあらバ/稽= 00061210L12古(けい=こ)然べしとて、ある牢人の其道の/師(し)するあり。/弟子(でし)一ぶん 00061220L13に入しより、とりでやハらを始て、/颯(ざつ)と一とをり当てみる。 00061230L14やう+ざとうの夜明がた、/乳(ち)ぶさの母のおもかげの、お 00061240L15ぼろけなれど/自慢(じまん)して、ことバとがめを/声(こハ)高に、/朱(しゆ)ざやの 00061250L16(五オ)こじりびこつかす。当/時(じ)世になる男だて、此有さま 00061260L17にむねわるがり、ある日/芝居(しばゐ)の帰るさ、筍斎がやせ足を、 00061270L18ちぎるゝ計/踏(ふミ)て通る。あいたしと、しかむる/皃(かほ)をすぐさま 00061280L19に、十めん/作(つく)つてねめつけ、是さおとこ、/眼(まなこ)をあけと、ね 00061290M1ぢもどる。ふミ手の男聞て、扨ハ御坊の御すねであつたか、 00061300M2いたミ申か/咲止(せうし)やとあざ/笑(わら)へバ、筍斎たまらずこらへかね、 00061310M3するりとぬひて切つくる。わか/者(もの)すかさずもぎ取て、小が 00061320M4いなをねぢ上る。ねめ介/続(つゞい)て取つくを、七八間なげたれバ、 00061330M5/砂(すな)にまぶれて/起(おき)あがり、かさねて口をきかせまじ、まつひ 00061340M6ら御免と手をあはす。/往来(ゆきゝ)の人、立とゝまり、見物しゐた 00061350M7りけるが、/余(あまり)に見かね/笑止(せうし)がりて、とも+にわふるにそ、 00061360M8やう+にゆるしける。此時見物の内より、(五ウ) 00061370M9△△いだてんに口の過たるあまのじやく 00061380M10△△△おかむもおかしふまれての上 00061390M11とよミけれバ、筍斎/遥(はるか)に/逃除(にげのい)て、口の内に、 00061400M12△△あまのじやくふまるゝとても口計ハ 00061410M13△△△たゝきかへしてまけぬ也けり 00061420M14とつふやきて、西の京に帰る。 00061430¥N3¥J 00061440¥X三△/嵐(あらし)にゆがむ/松尾(まつのを)の/相撲(すまふ) 00061450M17/在(あり)し/恥(はぢ)にもこりず、くだらぬ理/屈(くつ)あはう口、引つり羽折長 00061460M18づきん、/暮(くる)れバそゝる/鼻(はな)哥の、しどろ足もと行あたり、ふ 00061470M19まれて帰る折もあり。水ハ方円のうつけものに/随(したが)ひ、人ハ 00061480¥P192 00061490L1/悪(あし)き友による、猶/燃火(もゆるひ)にたき付て、/灰(はい)となり土となる。身 00061500L2の/末(すゑ)何となら/柴(しば)の、露のうき世の/夢(ゆめ)の間に、/死(しゝ)て花実がな 00061510L3らバこそ、まくずが原と出てさハげと、夜日をわ/が((ママ))で、う 00061520L4かれゆく。(六オ)爰に八月/始(はじめ)の日、松の/尾(を)の神わざにて、 00061530L5鳥居のもとに/相撲(すまふ)をとる事ありけり。/昼(ひる)よりすまふの/場(ば)な 00061540L6らしに、十一十二四五六迄の小すまひを始れバ、次第+ 00061550L7に大きになる。すくれたるとりてにハ先、立石、藤つな、 00061560L8小船返、孫の大竹、花ぐるま、/岸(きしの)白菊、/女郎花(おミなへし)、松風、/雷= 00061570L9電(らい=でん)、竹の介、仁王をそねむ大兵ども、どんすひざやの三重 00061580L10まハり、大なで上に、半かう/剃(ぞり)、其外たんばつの国ぢ、伏 00061590L11ミ、大津の/陽気者(うハきもの)、所せき迄なミゐたり。社/務(む)の/浅(さん)敷数十 00061600L12間、段&に見物あり。筍斎も友だちがたらひ、いひ合、皆 00061610L13前はだかに/着(き)物をぬぎ、一/僕(ぼく)にかづかせ、坊/主(ず)つぶりに/鉢= 00061620L14巻(はち=まき)して、とりてと同しくならびゐぬ。小ずまふ/漸(やう+)/半(なかバ)にな 00061630L15りて、行事筍斎をさしづし、/角(すミ)まへがミに合せたり。すま 00061640L16ふハ/終(つゐ)にしらねども、/例(れい)の(六ウ)/血気(けつき)におかされ、/憶(をく)せず、 00061650L17むずと取むすぶ。たつより/早(はや)く打たふされ、お/□((とカ))かひさす 00061660L18つて/起(をき)なをる。又おしわけてとらすれバ、そりにいられて 00061670L19はねこかさる。是にもこりず出てハまけ、取てハつよくな 00061680M1げらるゝ事すきまもなし。行事/余(あまり)に/笑止(せうし)がり、/弱(よハき)相手を/拵(こしらへ)、 00061690M2かたするやうにしけるにぞ、やう+かたやに/押(をし)つけ、三 00061700M3/番(ばん)打を/仕(し)たりけり。いかめしくきそくし、/胸(むな)いたをおしな 00061710M4で、/声作(こハづくり)してひかゆるに、行事御/名乗(なのり)ハと/問(とひ)けれど、なのる 00061720M5用/意(ゐ)もあらバこそ、つれの男三人めん+心/得(え)置たりとみ 00061730M6えて、一どにくち+にぞいひける。ひとりの男ハかしら 00061740M7/巻(まき)と申といへバ、ひとりハ/島蟹(しまがに)といふ。今一人ハ/闇(やミ)の夜と 00061750M8申すと、事やかましく、行事聞えず、此内に筍斎/拵(こしらへ)て、よ 00061760M9しの/漆(うるし)と/名乗(なのり)ぬ。(七オ)(七ウ・八オ挿画)此後大/相撲(ずまふ)になり 00061770M10て、/終日(ひめもす)ねぢ合とり合けるが、とかくして入日、/桂(かつら)の瀬に 00061780M11あらへバ、御/退参(たいさん)の/声(こゑ)かしかましく、其日のすまふハはて 00061790M12ゝ、思ひ+に行わかるゝ。道+/筍斎(しゆんさい)/友(とも)どちに、さきに 00061800M13なのりの所にて、口+に申されし/名乗(なのり)ハ、何+ぞ。是 00061810M14+といふ。先そのほうの/頭巻(かしらまき)との給しハ、我があたまに 00061820M15/鉢(はち)まきしたるといふ心か。いかにもおもてハ/左(さ)のとをり、 00061830M16うらをかへしてきく時ハ、かな/釘(くぎ)のゐめうにて、出てハか 00061840M17ならす打つけらるゝ心よと、どつとわらふ。/次(つき)にしまがに 00061850M18といはれしハ、はさんていたむる心かととふ。/存(そんじ)もよらず、 00061860M19/横(よこ)ばいに/這(はハ)さるる心、目が上になるといふ事と、又わらふ。 00061870¥P193 00061880¥G 00061890M1三/番(ばん)にやミの夜となのられたハ、/推量(をしはかる)に、むかしあまてる 00061900M2神のいはとに入せ(八ウ)給ふて、とこ/闇(やミ)の夜と成し心にて、 00061910M3/某(それかし)にかミがないといふ事なるへし。いかな+其様に奥 00061920M4ふかさ心なし。ちかき比のことぐさに、ねつけひやうたん 00061930M5のふたつのふくら、おなしきを、あとさきがしれぬとて、 00061940M6やミの/夜(よ)といひ侍り、お身がつふりと胴の大さ、此物にひ 00061950M7としき故、かくハ申つ、其上、すまふに出るより、こしに 00061960M8つけらるゝといふ事と、又わらひぬ。さて又自身の吉野漆 00061970M9ハいかに。されバよしのハ花も/実(ミ)もある心、漆といふハ、 00061980M10さハるほどのものが皆まけるといふ事と、まだ利口をハい 00061990M11ひけるに、/扨(さて)も/付(つ)いたり/漆坊(うるしぼん)と、/腹(はら)をかゝへ、/背(せな)をより、 00062000M12/各(おの+)ゑつほに入あひの、かねなる比に別れて、おのがさま 00062010M13+に帰りにけり。 00062020¥N4¥J 00062030¥X四△/色狂(いろくる)ひ/錠(ほだし)にかゝる/玉蔓(たまかづら)(九オ) 00062040M16ある日大/臣(じん)にさそハれ、此所の/水(ミづ)心まだ/汲(くミ)てもしらぬ、い 00062050M17づゝやといふあげやへ行けり。/御池(おいけの)/天狗(てんぐ)とやらんかこがも 00062060M18とより、二人ともにのり出す。/例(れい)の/天狗(てんく)か/羽(は)ぶきにつゞく、 00062070M19木葉の六兵衛、みぢんの久介など、/嵐(あらし)に/雲(くも)のとぶがごとく、 00062080¥P194 00062090L1いつさんにかけるほどに、筍斎/駕(かご)の内より、やれ+目が 00062100L2まふ、五リンや壱分の事ハいふまい、/今(ま)そつと/静(しづ)にやれと 00062110L3いふ。/卸(をろせ)さゝやき、もし+/途中(とちう)でごさる、物ごとだまら 00062120L4しやりませい、/今(ま)ちつとで壱貫で御ざるといへハ、/夫(それ)ハ/足(あし) 00062130L5もとを見る、壱貫とハどうよくしやとわめく。/扨(さて)きのどく 00062140L6や、壱貫町の/茶(ちや)やへ、ちかひといふ+、たには口につけ 00062150L7バ、爰にて/茶(ちや)たはこなんどたうべ、ゑもんかいつくろふも 00062160L8おかし。やきゐんのあミ/笠(がさ)に、人め/包(つゝミ)て出る。筍斎/巾着(きんちやく)を 00062170L9ひねくるほどに、大/臣(しん)(九ウ)見付て、何ぞととへバ、銭な 00062180L10け/出(いだ)し、/茶(ちや)代といふもかなし。大臣何とかゝ、けふハかはつ 00062190L11た/撥(ばち)を/持(もつ)てきたが。かゝおかしひ/巴(ともへ)さまでごさんす。大臣さ 00062200L12らバ。かゝ御帰りにと。/夕暮(いふぐれ)のかねて用意の/尻(しり)からげ、/亭= 00062210L13主(てい=しゆ)/跡(あと)より供すなる、大臣みち+筍にかたる、此所にハ万 00062220L14かへことバの/多(おほき)き所ぞ、/下卑(けび)給ふなと/云(いへ)ハ、筍さい、今の 00062230L15ばちの/巴(ともへ)のとハ何事に侍る。されバよ、それさへしらで出 00062240L16過給ふな、大こといふ/合点(がてん)がゆかぬか、/尤(もつとも)じやととつけも 00062250L17ない人ごとのうわさ、町をひちまがれバ、上中下の女郎町、 00062260L18道中のはで小袖二つ/三(ミつ)四つひとつまへ、かいつまどりて八 00062270L19/文字(もんじ)、いつも/白足(すあしの)きよらかに、かぶろやりてのかつがうの 00062280M1ありさま、/揚(あげ)や男のともすなど、/当時(とうじ)さかんの君と見ゆ。 00062290M2かたへを見れバ、さびしさうなる/局(つほね)女郎、(十オ)人/待皃(まちがほ)の 00062300M3つれ引に、くゆるおもひのたはこかな。男ひとりを見かけ 00062310M4てハ、うき木にあへる一/眼(がん)の亀といへるやりてが出て、む 00062320M5りに/居(つほね)に/抱(だき)こむあり。おかしくもながめ捨、あけやがもと 00062330M6にうち入バ、/亭主(ていしゆ)を/始(はしめ)下+迄、/同音(どうをん)のついしやう声、耳 00062340M7をおどろかす計也。/箱(はこ)はしごさゝれてのぼるあま/小船(おふね)とつ 00062350M8らねし恋のふちせ、ぬれの/水上(ミなかミ)、爰ぞさながら/水亀(すぼん)のすミ 00062360M9か、/吸取(すいとら)るゝとしりながら、此心のうきさとふもいはれず。 00062370M10かゝ此ほどハ御久しうごさります。大臣されバ此間ハしゆび 00062380M11がなふて、此さとの事計思ひくらしたれバ、やせるわいの。 00062390M12かゝ/夫(それ)ハお/□((なカ))し御事、太夫さまも御事の御うわさに、うか 00062400M13+被成ます。大臣さふしたふるひあいさつ、太夫のいは 00062410M14るゝさへきのどく、なに、かゝちと御酒あかりませ(十ウ)な 00062420M15どいへバ、太夫様の御出といふとひとしく、足音しどけな 00062430M16く、けふハ何とおぼしてこざんしたなど、/口説(くぜ)らしきこと 00062440M17/葉(は)のいろ、あさからぬ中とぞ見えし。大臣かいとつて、先 00062450M18ちかつきにしませう、あの/法師(ほうし)ハ何がしと申す、これハ御 00062460M19/坊(ぼう)に/語(かた)りし太夫、/我(われ)等が敵衆、此/已後(いこ)ハなど/挨拶(あいさつ)し、玉蔓 00062470¥P195 00062480L1と云引女郎、合する/盃(さかづき)あなたにかよひ、こなたに、此さと 00062490L2のなけふしハいふもさらなり。かぶろの八/弥(や)道行まふもか 00062500L3はゆし。かくありしほどに、した男が/夜物(やぶつ)あぐる/音(をと)するに、 00062510L4げにあけなん、あすのにハ鳥をおもへバ、枕とるほどハ夢 00062520L5の間なりや。夜ハ何時そ亥の刻過て、寐時分と、ちよつと 00062530L6かる口した男にハ見あげたり。かくおそろしき/髭(ひげ)つらも、 00062540L7ふすゐの/床(とこ)とるハやさしと、(十一オ)(十一ウ・十二オ挿画)大 00062550L8臣座をたつて床に入ハ、筍斎もおなしく枕をならふ。筍斎 00062560L9いひよらんよすがもなく、何と女郎さまハ/何歳(いくつ)ぞと/問(とふ)。上 00062570L10の句の/文字(もし)あまりで御ざんす。十八でおはすよ。にくのこ 00062580L11たへやと、ほと+とたゝひて、/十八公(しうはつこう)/粧松(よそほひまつ)の/部(ぶ)にもた 00062590L12ぐひハ御ざなひといへは、是ハ身に/余(あま)りまするおことばの 00062600L13露、玉かづらの草のたねが、何とてか松におよびませうと 00062610L14/卑下(ひげ)するもいとをし。うちつけなから何れの国の/誰(た)が世に 00062620L15か/種(たね)を/蒔(まゐ)て、かゝるうつくしき/蔓(かづら)ハ/生(をひ)出けんといへば、い 00062630L16かゞいはねの松ならバ、/答(こたへ)□せめ、うきふししげき/呉竹(くれだけ)の 00062640L17/里(さと)より、よの住うきにすさめられて、此つとめの身と成侍 00062650L18ふと、しミ+と語るに、伏見の/生(うま)れとハおもほへながら、 00062660L19沢田の水の/浅(あさ)くハたどられぬ/言葉(ことば)づかひ心にくし。力もあ 00062670¥G 00062680¥P196 00062690L1らバねびきにと思ふ心の/萌(きざす)ハ、(十二ウ)げに/深(ふか)きえにしな 00062700L2りや。/枕(まくら)に立し/火影(ほかけ)の/屏風(ひやうぶ)に、小町が/侘(わび)ぬれバの哥有。筍 00062710L3斎あだ口に、ひとりごつ、 00062720L4△△わばぬれバ身をじゆんさいの/根(ね)をたえて 00062730L5といひけれハ、女郎とりあへず、 00062740L6△△△さそふ/水(すい)あらバいなんとぞおもふ 00062750L7とつけけり。筍斎/尚(なを)きもをけし、此道をさへ心得たるやさ 00062760L8しさ、よし水/草(くさ)の水くさくとも、我すく道のよき/友(とも)ぞと、 00062770L9此後ハ大臣にさへかくれて、ひたすらかよひけるほどに、 00062780L10つゐに/根引(ねびき)の玉かづら、/命(いのち)をかけてなづミしより、大/臣(じん)を 00062790L11頼て家のつまとさだめ、男だてをやめけるぞとりへなる。 00062800¥Y1▲竹斎巻之二(十三オ) 00062810¥T1新竹斎巻之三 00062820¥N1¥J 00062830¥X一△/深草(ふかくさ)の馬思へバ/宇川(うぢがハ)の/先陳(せんぢん) 00062840M5五月五日、/折(をり)しりがほの/雨(あめ)のつゞき、/宇治(うぢ)川の/魚(うを)つりに、 00062850M6/友(とも)どちひとりふたりしていきぬ。/□((ヌカ))西の京に女ありけり。 00062860M7/青(あを)まめ/売(うり)のをのがじゝ/誘(さそひ)行に、/目覚(めさめ)て、いとくらきより出、 00062870M8ほり川ハ/音(をと)にしりて、水ゆく方の/南(みんなミ)に/歩(あゆ)む。五/条(でう)/渡(わたし)りの夕 00062880M9がほも、/黄昏(たそかれ)ならでおぼつかなく、/惟光(これミつ)に/火縄(ひなハ)めして、た 00062890M10はこまいつた所よと、けふりをふけバ、よこ/雲(くも)のはるゝそ 00062900M11なたに、るしやな仏、/友(とも)の男、 00062910M12△△/耳塚(ミゝづか)ぞだまつてゆくなほとゝぎす 00062920M13やごゑをかくる大/篝(かゞり)、大ひの弓にちゑの/矢数(やかず)、いざ/通(とを)りか 00062930M14け、見てゆかん、 00062940M15△△いてきてハ/娑婆(さば)八千の大矢かす 00062950M16△△△/火宅(くわたく)の/篝(かゞり)つミのきえがた(一オ) 00062960M17筍斎/口号(くちずさミ)、/南門(なんもん)を出れバ、此/辺(ほとり)ほろ+の/住(すミ)所なりといふ 00062970M18につけて、ふるきけふの/発句(ほく)を思ひ出る、 00062980M19△△口によるや/尺八(しやくはち)ほどなこもちまき 00062990¥P197 00063000L1一の/橋(はし)より左右の/民家(ミんか)、/軒(のき)/近(ちか)く/竹行馬(たけやらい)ひしと/結(ゆい)て、人&色め 00063010L2く。げにけふ/深草(ふかくさ)の/神(かミ)わざ、/当所(とうしよ)も/加茂(かも)とひとしく、/競(きほひ)む 00063020L3まあり。さらバ/暫(しバらく)/待(まち)見んと、/其程(そのほど)/万寿寺(まんじゆじ)のかべのもとに 00063030L4よりゐる。此五七町ハ/古(いにしへ)/貞信公(ていしんこう)の山の大とこ、/尊意闍梨(そんゐざり) 00063040L5に/建(た)てまいらせ給ひし/法性寺(ほうしやうじ)の/結構(けつかう)さながら、/金玉(きんぎよく)の山な 00063050L6りけるとそ。/中古(ちうこ)より/民家(ミんか)のわらの/軒(のき)ひきく、/背戸(せど)も/外面(そとも) 00063060L7も松あふちの/木高(こたか)く/茂(しけ)り、/露雫(つゆしづく)のおやミせぬに/習(なら)ひて、/竹(たけ) 00063070L8のかハ/笠(がさ)を/能(よく)/作(つく)り出しけれバ、/自(おのづから)/身(ミ)の/業(なりわひ)となり、所の/名= 00063080L9物(めい=ぶつ)となりぬ。(一ウ)/東(ひかし)にふかく山に/添(そひ)て、/東福寺(とうふくじ)の/禅院(ぜんゐん)そ 00063090L10もさんか、聞しらぬ鳥のから/声(こゑ)、ちんふん/閑栖(かんせい)物すごし。 00063100L11/誠(まこと)や/紫野(むらさきの)&/老和尚(らうおしやう)、寺に/詣(まうで)給ひし時、/薮陰(やふかげ)にされかうべ 00063110L12の在しを、 00063120L13△△/涙(なミだ)ふる/法性寺笠(ほうしやうじがさ)きて見れバ 00063130L14△△△かハゝはなれてほね計なる 00063140L15と/読(よミ)給ひしとかや。/和尚(をしやう)も/昔語(むかしかたり)に成給ひ、まして其/骨(ほね)だに 00063150L16なくなりし。 00063160L17△△きてみれバ/法性寺笠(ほうしやうしがさ)もり/茂(しげ)ミ 00063170L18△△△ほねさへくちて/袖(そで)そぬれける 00063180L19とつぶやけバ、/大路(おほぢの)かた、人/声(こゑ)さハがしく、すハ/馬(むま)の/時分(じふん) 00063190M1よといふこそ/遅(をそ)けれ。/皆(ミな)/橋(はし)づめにわしり/出(いづ)。/都(ミやこ)/遠(とを)からねど、 00063200M2さすがひなびたるまつり、/紙(かミ)さうぞくわら/具足(ぐそく)、/青(あを)き男の 00063210M3/乗損(のりそん)じてをつるあり、ふまるゝあり。四五十/疋(ひき)かけちらし、 00063220M4/爰(こゝ)よりいなりに/乗(のり)行、/尻(しり)につきて/見物(けんぶつ)すれバ、/鳥(とり)ゐより又 00063230M5かけ出し、/神前(しんせん)(二オ)(二ウ・三オ挿画)にて/地(ぢ)をかへしや 00063240M6+と、/馬上(ばしやう)より口+いへば、ミやづこ/答(こたへ)て、おるす 00063250M7+といふ。/子細(しさい)をきけバ、/往昔(そのかミ)此山、/藤(ふぢ)の/森(もり)の/境内(きやうだい)なり 00063260M8しを、此/神(かミ)下そめ、/借(しやく)やだてをなされ、おも屋をとらせ給 00063270M9ふ。其/故(ゆへ)、/居体(ゐなり)大明神と申す。されハ/負(おほ)せかたなれバ、/深= 00063280M10草(ふか=くさ)の/氏子(うぢこ)、/年(とし)ごとのけふかやうに申すと、/茶(ちや)を/煮(に)るうはが、 00063290M11のふだやうにかたるハ、/誠(まこと)にや。筍斎つく※おもふ、/夫(それ) 00063300M12いなりハ/福神(ふくがミ)にて、人にさへ/願(ねが)ひをかなへ、/万(よろつ)のさいある 00063310M13に、かりたる所をせかまれ、るすをつかふて/帰(かへ)させ給はぬ、 00063320M14/我等(われら)ごときハ/科(とが)ならずなどつぶやき、/爰(こゝ)より/藤(ふぢ)の/森(もり)をのる 00063330M15ときけど、みもらさじとするハ、いたりすくなしと、こび 00063340M16て、/宇治路(うぢぢ)に行。たつミにかゝれバ大/亀谷(かめたに)、/昔(むかし)此山あひよ 00063350M17り大きなる/亀(かめ)の出たる故、此名ありとも、又/夜(よ)ごと(三ウ) 00063360M18/狼(おほかミ)おほく/出(いつ)る故、狼谷といふと、二/説(せつ)に/書(かき)し/筆(ふて)が坂、左に 00063370M19/古御香(ふるごかう)の宮、やじな/峠(とうげ)の坂をおりて、六/地蔵(ちざう)右にあり。か 00063380¥P198 00063390¥G 00063400M1の/西光(さいくわう)が/建立(こんりう)六/躰(たい)のひとつ也。/橋(はし)をこえて、こはたのさと、 00063410M2五ケの/庄(せう)、/弥陀(みだ)次郎のみた/堂(だう)あり。/昔(むかし)此さとに次郎太夫と 00063420M3いふ/狩人(かりうど)、/昼夜(ちうや)/殺生(せつしやう)を/業(げう)とし、/後世(ごせ)のおそれ/露(つゆ)なかりしに、 00063430M4ある時あんぎやの僧、是が/家(いゑ)に/宿(やど)り給ひぬ。其夜しも/鹿(しか)を 00063440M5おほく/射(ゐ)とりて、山より/帰(かへ)る。/和尚(をしやう)御なミだの下に、 00063450M6△△身におもき/罪(つミ)を荷なハゝ/五荷(こか)の/庄(せう) 00063460M7△△△しかのうらみや日+にますらを 00063470M8との給ひ、/殺生(せつしやう)の/報(むくひ)の/愧(をそろしき)さま+/念仏(ねんぶつ)の/功徳(くどくの)めでたき/品(しな) 00063480M9を/念比(ねんごろ)に/教化(きやうけ)し給ふより、/忽(たちまち)/発露(ほつろ)/啼泣(ていきう)して、一/心(しん)不/乱(らん)の念 00063490M10仏/者(しや)になり、大/往生(わうしやう)せし。其/持仏(ぢぶつ)なれバとて、今に/弥陀(ミだ)二郎 00063500M11と/唱(となふ)(四オ)る也。此/末(すゑ)三町計の/左(ひたり)に/黄檗(わうバく)山/隠玄(いんげん)の/禅院(せんゐん)あり。 00063510M12京にてしれる人の此山にのがれしあり。/尋(たつね)よれバ見しにも 00063520M13あらず、さう+と/痩(やせ)おとろへ、/無角(むかく)の/頭巾(づきん)、/髭(ひげ)/長(なが)く、世 00063530M14をみじかうみかぎりて、口に/仏語(ふつご)の/絶(たえ)ぬこそ、いとすせう 00063540M15に/覚(おぼ)ゆれ。/唐茶(とうちや)と云物をくるゝとて、南無/茶迦牟尼仏(ちやかむにぶつ)とさ 00063550M16し出せバ、/筍斎(じゆんさい)/本来(ほんらい)の/天目(てんめく(ママ))といひてわかれ行。とかく道/草(くさ) 00063560M17しげゝれバ、/申(さる)の/刻(こく)計、宇治に/着(つく)。/夕(ゆふ)べこそうを/釣(つる)によけ 00063570M18れ。/竿(さほ)に/餌(え)ふごと取出すほどに、/石垣(いしかき)の間に大きなる/鰻(うなぎ)の 00063580M19在しを、筍斎/早(はや)く見付て、すかさず手づかミにしたり。よ 00063590¥P199 00063600L1ふ/鰻(うなき)であらふ。/水蛇(ミづくちなは)の四尺計なるが、ひた+と手にまと 00063610L2ふ。/瓢軽(ひやうきん)第一の/憶病(をくびやう)者、なじかハ/暫(しバし)もこらふべき。あつと 00063620L3いふてふりほどく。/蛇(へび)ハ(四ウ)ふられて除たれど、主ハ余 00063630L4に/気(き)をとられ、水中にころび入り、あハ+として/流(なが)るゝ。 00063640L5友達/下部(しもべ)/驚(おどろき)、我さきにととびこミ、引あげんとす。其中 00063650L6に一人、/帯(おび)のはしを/抛(なげ)つけ、是にとりつけといへば、/愧(おそろし)や、 00063660L7また/蛇(へび)がとびつくハといひさま、水を/呑(のむ)事ふくるゝ計。/漸= 00063670L8&(やう=+)/助(たすけ)上られ、/芦火(あしび)をたきて、水を/吸(すハ)せ、薬をあたへなと、 00063680L9/命(いのち)から+是/程(ほど)のうき中にも、此所の/鰻(うなぎ)うぢ丸と云を、 00063690L10△△我うをハ都のたつミしかとつかむ 00063700L11△△△世をうぢ丸と人ハいふなり 00063710L12/辰巳(たつミ)の二字に/龍蛇(りうじや)の心ありと/自讃(じさん)するを、友どちハ、かた 00063720L13はらいたがる。此さハぎに/取粉(とりまぎ)れて、くらく成ぬ。/夢(ゆめ)の中 00063730L14/宿(やど)を/求(もとめ)て、一/夜(や)を明し、/螢(ほたる)をみる。当所の/盛(さかり)、今少はやし 00063740L15といへど、又ことかたにかゝる見物ハあらし。/鞠(まり)の大きさ 00063750L16にこりて、(五オ)水に落てくだけ流るゝ詠、えもたえず。 00063760L17其/朝(あした)又/釣(つり)せんといへど、筍斎大きなるつぶり、かろ+ 00063770L18とふつて、存しもよらぬ、いかひはまりにこりましたとい 00063780L19へば、心/当(あて)/空敷(むなしく)、/釣(つり)ハやミぬ。 00063790¥N2¥J 00063800¥X二△/名所(めいしよ)/聞(かぎ)ありく/茶(ちや)の/芳薗(はうゑん) 00063810M3/昨日(きのう)の/淵(ふち)ハけふの瀬に川かりのあだ波、引かへ名所尋てあ 00063820M4そぶ/折(をり)しも、せがきの法会あり。筍斎/光明遍照(くわうミやうへんぜう)十/方(はう)/施餓= 00063830M5鬼(せが=き)といひけれバ、友/願以此功徳(くわんいしくどく)/平等院(ひやうどうゐん)と口きく。/彼扇(かのあふぎ)の 00063840M6/芝(しば)を/詠(ながめ)、/頼政(よりまさ)といふ事をかくして、/扇(あふぎ)の芝を/読(よめ)といへば、 00063850M7筍斎、 00063860M8△△あはれさハなを聞しよりまさり/朶(けり) 00063870M9△△△扇の芝の草のあさ露 00063880M10/当寺(たうじ)/建立(こんりう)の時、大/納言(なごん)/公任卿(きんたうきやう)、御/車(くるま)にてわたらせ給ふ。/関= 00063890M11白(くはん=ぱく)問給はく、門をたつるに方角北むきならで/便(たより)なし。寺門 00063900M12の(五ウ)北にたちたる例やおはすと尋給ふ。さしもの/公任= 00063910M13卿(きんたう=きやう)も、さし当て御覚へなかりけれバ、/江(え)の/帥(そつ)の/末(また)/幼少(いとけ)なく 00063920M14て、車の/尻(しり)に/乗(のり)給へるに、/問(とひ)給ふ。まさふさ畏て、/天竺(てんぢく)の 00063930M15/那闌陀寺(ならんだじ)、/唐(もろこし)の西明寺、/我朝(わがてう)の六/波羅密寺(はらミつじ)北むきにさふと 00063940M16答給ひしより、此門きハまりしとそ、筍斎、 00063950M17△△北むきに立たる門ハ宇治川の 00063960M18△△△はしけいせいの名に/社(こそ)ありけれ 00063970M19/茶師(ちやし)のもとにたよりて、/葉撰(はゑり)の見物/望(のぞ)む。さすが京人とみ 00063980¥P200 00063990L1てゆるし入、あまつさへよき茶などたうひぬ。友、 00064000L2△△/橘(たちばな)のこしまが/崎(さき)の/香(か)をかけバ 00064010L3△△△むかしの御茶の/初(そ)手のかそする 00064020L4といひけるに、/猶(なを)よしある人とおもへるけしきに、/尻(しり)/擽(こそばゆ)く、 00064030L5いとま乞て出ぬ。/橋(はし)のミぎりに橋/姫(ひめ)の宮有。是ハ古へ此さ 00064040L6とに物/妬(ねたミ)/深(ふか)(六オ)き女の、男の外に行かよふと聞て、/嗔噫(しんゐ) 00064050L7のほのほをたきて、/鉄輪(かなわ)の足に/蝋火(らうくわ)をいたゞき、/貴布禰(きぶね)に 00064060L8牛の時参りし、/悪(にく)しと思ふ女を/詛(のり)ころしぬ。一条のほむら 00064070L9猶身をこがし、此川に/入水(じゆすい)し形ひとつの鬼と成て、/都鄙(とひ)に 00064080L10往来し、人をなやます。ある夕、都一条/戻橋(もどりはし)にて/渡辺(わたなべ)の/綱(つな) 00064090L11をミかけ、なまめきたる女に/化(け)して、打しほれたるおもひ 00064100L12ぶり、鴬まがふ/声音(こハね)にて、女の/独行(ひとりゆく)心ぼそさに、暮かゝる 00064110L13道の末/覚束(おぼつか)なく侍ふ、送りて給はらんやと頼む。さなきだ 00064120L14にこなたより/社(こそ)/夕月夜(いふづきよ)、さし出てさへとふべけれ。頼むと 00064130L15いふをうれしく、こなたへ渡らせ給へ、いとおしや、御足 00064140L16もうらふれてみえ給ふ。/負(をひ)まいらせんといへば、いなミも 00064150L17せで打おはれぬ。/始(はじめ)ハ/軽(かろ)き羽衣のあまつ空にもあがるへく、 00064160L18(六ウ)次第におもきふしぎさに、なづともつきぬいはほな 00064170L19らなんと、ふりかへりみるに、/忽(たちまち)/美女(びぢよ)の/形(かたち)をかへ、口耳 00064180M1の根へさけ、/牙(きバ)/生(おひ)て、/髪(かミ)さかしまに/角(つの)するどなり、/綱(つな)が 00064190M2/髻(もとゞり)つかむて/虚空(こくう)にのぼるを、/空中(くうちう)にて/鬚(ひげ)/切(きり)ぬいて、/片(かた)うで 00064200M3切、きられて/化生(けしやう)/逃(にげ)されバ、/綱(つな)ハ北野の/廻廊(くわいろう)に立かへりた 00064210M4る。年月の/古(ふる)き昔の事ながら、猶/悪霊(あくれう)のわざ/多(おほ)く、此/橋詰(はしづめ) 00064220M5になだめて、一/社(しや)の/祠(ほこら)になしぬ。されど今の世迄、ふしミ 00064230M6木幡の/隣在(りんざい)よりえにしをむすぶ人、/橋(はし)の上を通れバ、此/宮(ミや) 00064240M7の見いれ有て、/末(すゑ)とほらずと、/遥(はるか)の川/上(かミ)を船にてかよふ事 00064250M8となん。されバかほる大将の/妻(おもひ人)/浮舟(うきふね)の、此さとにおはせ 00064260M9しを、ちかきほどに京にむかへ給はんと宣ひし比、/兵部卿(ひやうふきやう) 00064270M10の宮のうしろめたき/密事(ミつじ)におもひ/佗(わび)て、浮舟此川/瀬(せ)に身を 00064280M11/沈(しづめ)(七オ)(七ウ・八オ挿画)給ひし。是もおそらくハ、此神の 00064290M12/嫉(ねたミ)ならん。東に高き朝日山、此川べりをのぼりて、/左(ひだり)に/興= 00064300M13性寺(こう=しやうじ)あり。/楼閣(ろうかく)のけつかう、つき山/鑓(やり)水/薗(その)花/畑(ばた)えもいはれ 00064310M14ず、/百合(ゆり)/葵(あふひ)/芥(け)子の花/更(さら)に色をあらそひ、/五月(さつき)つゝじの/千= 00064320M15重(ち=へ)ひとへ、白き/紫(むらさき)あからめもせぬながめ、とかくするほど 00064330M16/晩景(ばんげい)に及ハ、/名残(なごり)を思ひ残して、京に帰りぬ。 00064340¥N3¥J 00064350¥X三△/天狗嫌(てんぐもどき)のつかミて有り/鞍馬(くらま)の/福(ふく) 00064360M19/筍斎(しゆんさい)が/日比(ひころ)の/飛(とび)あがり、/上(うへ)もなきうき蔵主、しかも/好色(こうしよく) 00064370¥P201 00064380¥G 00064390M1のかたさへ、人なミよりまめ也けれバ、女ほう玉かづら物 00064400M2/疑(うたがひ)/深(ふか)く、かりそめりやうぢに出るをも、道の/程(ほど)より/遅(をそ)け 00064410M3れハ、さま+に/責(せめ)はたる。まして此ほとの/宇治(うぢ)の一/夜泊(やどまり)、 00064420M4ゆめ+うぢとおもはれず。たれとふしミの/色(いろ)ざとの、/百= 00064430M5鳥(も=ず)の草ぐきおぼつかなし。/後(うしろ)めたしと此のちハ(八ウ)ふつ 00064440M6うに外へ出さねバ、したしき/友(とも)も/疎(うとく)なり、稀のりやうぢも 00064450M7なく成ぬ。されバ筍斎此女にかづらくらべの/鼻毛(はなげ)の/長(なが)さ、 00064460M8いとゞにほそき/身上(しんしやう)の、/渡世道(よわたるミち)も/絶(たへ)はてゝ、万の物の/買(かい)が 00064470M9ゝり、かへす事なきかたほ波、おあし/淋(さひ)しく、あれたる/宿(やど) 00064480M10に一/首(しゆ)の/落書(らくしよ)を立られたり、 00064490M11△△/筍(たけのこ)を引たふしたる玉かづら 00064500M12△△△かゝつた物をおとささりけり 00064510M13かくわらハけれど、/為(せん)かたなし。いでや人/力(ちから)に及ばぬ事 00064520M14ハ、/神(かミ)仏にも/祈(いのり)てこそ、しるしハあれ。/当時(たうじ)/霊験(れいけん)、いちじ 00064530M15るき/福神(ふくがミ)にましませバ、くらまのひしや門へ/福(さいわい)を/祈覧(いのらん)と、 00064540M16女ほうねめ介相ともに、朝またきより立出る。つまぐる/珠= 00064550M17数(しゆ=ず)やしら糸を、玉にもぬける柳原、猶わけ行バ上かもの、 00064560M18川風すごく/鬼(をに)の目に、/泪(なミだ)をそゝく/柊野(ひらきの)を、弓手に見つゝ/車= 00064570M19坂(くるま=ざか)、/万寿(まんじゆ)峠になりて、くらま道ハかうかととへバ、(九オ) 00064580¥P202 00064590L1是ハ/岩屋(いはや)の/不動(ふとう)坂、狂気の人の/往環(わうくわん)也。其方たちも此道へ 00064600L2ハきちかひの/類(たぐひ)かと笑捨て、とをれバ、筍斎ねめ介/腹(はら)だち 00064610L3て、しらざるを知ずとして/問(とふ)を笑ふ/己(おのれ)ら社、ちゑのくらま 00064620L4に/迷(まよ)ふなれとつぶやき、 00064630L5△△つれがあれバ三里もまはるくるま/坂(ざか) 00064640L6と、はや此くるまを世/話(わ)にひけバ、ねめ介、 00064650L7△△△まんぢう/峠(とうげ)あんの/外(ほか)なり 00064660L8と立帰り、青なみを右に、みぞろか/池(いけ)の/水鳥(ミづとり)を、ほしのゝ 00064670L9さとと/詠(ながめ)行バ、市/原(ハら)のゝ/秋(あき)かぜにあなめ+をいとふなる、 00064680L10屏風坂こず/村雨(むらさめ)に、二の/瀬(せ)の川や水まして、爰にさすらん 00064690L11きぶね川、さんせうの皮/杉皮(すきかハ)に、うそのかハ/迄(まで)/越(こへ)+て、 00064700L12何がしの寺につきぬ。/仁王(にわう)門より七/曲(まかり)を/凌(しのぎ)て、宝前に/畏(かしこま)り、 00064710L13南無大悲多門天、(九ウ)我ハ/親(をや)より/隠(かくれ)なき、/名医(めいい)の/誉(ほまれ)/高(たか)け 00064720L14れど、/只(たゞ)/薮医師(やふいし)のかぜあれて、/内証(ないしやう)/寒(さむく)なるまゝに、しかも 00064730L15火をふく/力(ちから)なし。/願(ねかハく)ハ/然(しかる)へきふくをあたへ給はれと、/丹誠(たんせい) 00064740L16にぬかづく。かゝる所へ、ちさき/百足(むかで)ひとつ、筍斎か/傍(そば)に 00064750L17/這(はい)よる。忝なや、御ふく下されぬと、とらへんとすれハ、 00064760L18/指(ゆび)さきをしかとさす。さゝれて指をかゝへなから、/祝(いはゐ)なを 00064770L19す、 00064780M1△△しつかりとさし下さるゝ御ふく哉 00064790M2△△△百のおあしをつかはしめとて 00064800M3といひて、其/夜(よ)ハ/堂前(だうぜん)に/通夜(つや)しけり。/暫(しばし)まどろむ/枕(まくら)の上に、 00064810M4あらたなる/霊夢(れいむ)をかうふる。/汝(なんぢ)/身(ミ)の/貧(まづしき)を歌、我に/祈(いのる)事誠あ 00064820M5り、よつて此三つのはんじ物を示す、よく/考(かんがへ)て/仕合(しあはせ)せよ、 00064830M6行末なをも/守(まも)らんと、一/紙(し)を給ハるとみて、/夢(ゆめ)/覚(さめ)ぬ。/枕(まくら)を 00064840M7みれバ、げにもうつくしき/筆(ふで)の/跡(あと)にて、かんなに書たる物 00064850M8三つあり。(十オ) 00064860M9△△一、がいきを西にみすてよ 00064870M10△△一、ひの/字(じ)にゐのよミあり 00064880M11△△一、ての上のへの下の水の/底(そこ)にすむべし 00064890M12此三/字(じ)ありて/別(べつ)なし。ひとつも/合点(かてん)ハゆかねど、帰りてこ 00064900M13そ/判(はん)ずべけれ、有がたしと/再拝(さいはい)し、下向しぬ。此後/種&(しゆ+)に 00064910M14案して/信伏(しすふく)す。がいきを西にみすてよとあるハ、関のひが 00064920M15しにゆけと也と、是より/東(あつま)に/住所(すミところ)/求(もとめ)たりけり。/余(よ)のふた 00064930M16つの/判字(はんじ)の心ハ、/童蒙(とうもう)の/慰(なぐさミ)のため、/熊(わざと)/爰(こゝ)にあかさず、心を 00064940M17付て/解(とき)給へとなり。 00064950¥P203 00064960¥N4¥J 00064970¥X四△京/哥舞妓(かぶぎ)の/見続(ミつゝけ)/旅途(りよと)の/言伽(ものいひとぎ) 00064980L3花を見捨る/鴈(かり)がねの、/夫(それ)ハ/越路(こしぢ)我ハ又、お/江戸(ゑと)の春にゆく 00064990L4べくハ、都の名残今/暫(しばし)、いさ/暇乞(いとまこひ)に/芝居(しばゐ)見んと、/主従(しゆじう)日/毎(こと) 00065000L5四条に(十ウ)立さわく、/川瀬(かハせ)の/浪(なミ)のよせ大こ、/世(よ)になる鶴 00065010L6の一/声(こゑ)を、幕にみするハ/村(むら)山が、松に太夫のきこえある、 00065020L7/竹中(たけなか)といふ若女、/赫奕(かくや)姫の昔おもはれ、/冬(ふゆ)ごもりせしなに 00065030L8はづの、さくやと名のる/若衆(わかしゆ)方を、今ハ都の春に匂はせ、 00065040L9/肩(かた)で風きる/嵐三(あらしさぶ)、すゞきを/鰭(ひれ)のある男と/讃(ほむれ)ハ、/宇治(うぢ)右衛門 00065050L10ハ、茶つぼほどな/眼(まなこ)/自慢(じまん)、誰にか見せん/梅(むめ)の/丞(ぜう)が、かゝ方 00065060L11の立まハり、踊の/惣本寺(さうほんし)道念かねぶつ話/願以此(ぐわんいし)/功徳(くどく)、け 00065070L12ふの/切狂言(きりきやうげん)、次の日ハ又/万代(ばんだい)の、池の/亀(かめ)や蓬莱にあふ、/浦= 00065080L13嶋(うら=しま)が/命(いのち)もあらバ立帰り、小/哥(うた)きくべき佐よの介、敵がたの 00065090L14/元祖(ぐわんそ)/団(だん)七が、長かたなぬかりのない芸ぶり、おなしく見上 00065100L15る/天井(てんじやう)が/道戯(どうけ)、あはう口をたゝきつゞけのおひ出しの大こ、 00065110L16/苔(こけ)に/埋(うつミ)て/動(うこき)なき、世ハ岩もとの/上手(しやうず)のかたまり、今ぞさか 00065120L17(十一オ)ゑん藤田が/座(さ)もと、わきてはんじやうに見ゆれハ、 00065130L18△△/札薬(ふだがく)や南おもてに/木戸(きど)たてゝ 00065140L19△△△今そさかへん北かはの/藤(ふぢ) 00065150M1ともいふべく、/讃(ほめ)ことはの/化(あだ)口に、どのともいはぬ左馬の 00065160M2介が/上手(じやうす)、したにおかれぬ物から、/上村(うへむら)と/名(な)つくる。今吉 00065170M3弥がむかしの/白粉(おしろい)に/猶(なを)つやを増たる、/数馬(かずま)かうつくしき/手(て) 00065180M4を/折(をり)て、逢見しかずまといひたけれど、あはねハよまむこ 00065190M5との葉もなし。名に立役の/開山(かいさん)、/親(をや)ハととはん、小兵次が 00065200M6/働(はたらき)、孫三郎ハいふに及ばす、座中/不残(のこらず)、何ほどか大/悦(ゑつ)の 00065210M7仕合、是や京/役者(やくしや)四天王の随一、/渡部(わたなべ)のつな/公時(きんとき)といはゞ、 00065220M8/坂田(さかた)藤十郎、/武道(ぶどう)ハ得たる所、やつし又/双(ならぶ)者なし。服部二 00065230M9郎左が、きつひやうにて今少/和(やハらか)なるハ、ひねたばこのと 00065240M10しの/気(け)、猶/味(あぢ)有ておもしろし。さゝ波やしが(十一ウ)(十二 00065250M11オ挿画)か親がた、/昔(むかし)ながらのしハがれ声、とらぬ/音頭(おんとう)に踊 00065260M12はてゝ、そのまたの日ハあし引の、やまと大路に/歩(あゆめ)バ、永 00065270M13き/縄手(なハて)のしめかざり、小松が/芝居(しばゐ)春めきて、/翠(ミどり)の/畳(たゝミ)、花む 00065280M14しろ、八重一/重(え)げに/九重(こゝのへ)の、/雲霞(くもかすミ)がさなりかゝる/見物(けんぶつ)の、 00065290M15其許におり所ハ御ざないか、いや/枝(えだ)がさハりませう、御免 00065300M16なれなど、花に/縁(えん)ある/詞(ことバ)、時に取ておかし。/未(まだ)/狂言(きうやげん)の/始(はじま)ら 00065310M17ぬほどに、筍斎ねめ介に語る。一とせ此/芝居(しばゐ)に/藤田(ふちた)/皆(ミな)之丞 00065320M18といふ/若女(わかをんな)の在し。/東(あつま)人ときこゑし/学問(がくもん)/法師(ほうし)、ふかく/泥(なつミ)て、 00065330M19かりの/枕(まくら)をならべん事を望めとも、是にあひける人多く、 00065340¥P204 00065350¥G 00065360L12それと/哀(あけれ)ハかけながら、皆の丞もえあはて、日かすふりぬ。 00065370L13ある日/彼法師(かのほうし)、/同朋(どうほう)の僧三人づれにて、此桟敷にゐる。/脇= 00065380L14狂言(わき=きやうげん)一二番の程ハ、音なしの/滝(たき)の/白糸(しらいと)、/乱(ミだれ)たるけしき(十 00065390L15二ウ)もみえさりし。三/番続(ばんつゝき)の/口上(こうしやう)過て、皆の丞が出ると 00065400L16聞より、一/先(さき)にすゝミ出、あからめもせずまもりゐる。す 00065410L17ハ、はしがゝりを、によと出ると、口をたゝく事、外の物 00065420L18/音(をと)きこゑず。/衆人(しゆにん)皆ぶたひハ見ず、/彼法師(かのほうし)をみて、目を引 00065430L19袖を/覆(おほひ)て/笑(わらへ)ども、心/爰(こゝ)に/非(あら)ざれバ、みるをもわらふをもし 00065440M1らず、やれ/命(いのち)とり、物思ひさせずとも、/早(はや)くころせ、つく 00065450M2ばねの/岑(ミね)よりおつるみなの丞さま、/恋(こひ)がつもつて/泪(なミだ)のふち 00065460M3となりますなどいふほどに、皆の丞も日比の/僧(そう)としりて、 00065470M4立まハりに、めをみやりてハにつこと/笑(わら)ひ、/扇(あふぎ)のよすがに 00065480M5/招(まねき)なんどしけれバ、/猶(なを)うれしがり/堪(たへ)かね、/後(のち)ハ/直(たゞち)に立あが 00065490M6り、/日本(ひのもと)の/開山(かいさん)、/唐(もろこし)迄かくれ御さない、吉のゝ/桜(さくら)、のだの 00065500M7藤田、高/雄(を)の/紅葉(もミぢ)のちらぬまに、/情(なさけ)の色を見せ給へ/抔(など)、た 00065510M8ゞ口なしに/囀(さへづり)、手の(十三オ)/舞(まい)、/足(あし)のふむ所を/忘(わす)れ、/伸(のび)つ 00065520M9/屈(かゞミ)つもたゆるほどに、/桟敷(さんじき)よりさかさまに/落(おち)て、/忽(たちまち)/絶(たへ)入 00065530M10けれバ、つれの僧どもあハてゝとびおり、/見物(けんぶつ)の/群集(くんじゆ)を立さ 00065540M11ハひで、水をそゝき、/薬(くすり)をあたへけるにぞ、やう+/正気(しやうき) 00065550M12にハなりける。何者かしたりけん、此どしめく内に一/首(しゆ)を 00065560M13/紙(かミ)に書付、衣のうしろにはり付たり。/騷動(さうどう)/遍照(へんぜう) 00065570M14△△名にめてゝおるゝ計ぞ皆の丞 00065580M15△△△われおちにきと人にかたるな 00065590M16とはやひ事しけるに、/恥(はづ)かしがりて/逃(にげ)帰りぬ。是ほどおか 00065600M17しき事ハと/語(かた)るほどに、/三番叟(さんばさう)/始(はしまり)けれバ、/咄(はなし)を/止(やめ)ぬ。此 00065610M18座にハ市川かほる、から/松(まつ)かせんなど、筍斎ねめ介にさゝ 00065620M19やく、何と此ふたりの内、いづれかすぐれたる、我ハ市川 00065630¥P205 00065640L1にくびだけといへば、ねめ介こたへて、かせんこそすぐれ 00065650L2て/覚(おほ)え候へ、かほるハ(十三ウ)うつりやすきかた有て、か 00065660L3らまつのいろかへぬ心におとり侍り、されバ/詩人(しじん)も是にめ 00065670L4で、此国の/風俗(ふうそく)にも、よくかなふ所を、名字と名とに気を 00065680L5つけ御らんあれといへバ、/夫(それ)ハともあれ、我心にいはゞ、 00065690L6△△いちかハゆかしかほる梅がえ 00065700L7とおもふ。ねめ介もかしらをふつて、 00065710L8△△おもひかねけさから松をいかゝせん 00065720L9とやかましき中にても、すける道とてすてず。さて/立役(たちやく)ハ 00065730L10/藤川武左(ふぢかハぶざ)、/天龍(てんりう)、/馬入(ばにう)、大井川よりあらき所もすぐれて、 00065740L11又じつかた、/和(やハらき)ハ/小松(こまつ)にかゝる花の藤川ともいはん、/仙台(せんだい) 00065750L12がよひ年をして、/若(わか)ひ/道戯(どうけ)をある人/二十(はたち)とゐめうす。/八五= 00065760L13七(やご=しち)といふ心にや、/切(きり)ハ/座(さ)中の大おどり、めぐる日すでに、 00065770L14くれ(十四オ)ぢかく、やくら七つの大こうてバ、夕のかげ 00065780L15にさそはれ、にしの京にかへりぬ。(十四ウ) 00065790¥T1新竹斎巻之四 00065800¥N1¥J 00065810¥X一△西の京の/闇(やミ)日の/出(で)の/東路(あつまぢ) 00065820M5/筍斎(じゆんさい)有し/昆沙門(ひしやもん)の/告(つげ)に/任(まか)せて、/武蔵(むさし)にくだらんと思ふよ 00065830M6り、都の内ハすまぬまされりと、日/毎(ごと)/芝居(しばゐ)の/遊興(ゆうきやう)に出しを、 00065840M7/世人(せじん)/誹(そしり)て大/悪性(あくしやう)の名をたて、ならずの/森(もり)の/柿(かき)の木、ミを/持(もつ) 00065850M8すべを不知、古かね/買(かい)が目にも/潰(つぶし)にならで見たてず。其 00065860M9比又何/者(もの)かしけん、/門(かど)の/柱(はしら)に、 00065870M10△△跡さきのしまりなけれバ身をもたず 00065880M11△△△ひやうたんあたまかろき/身上(しんしやう) 00065890M12此さいそくに心せきて、/猶(なを)取あへずくだりぬ。けふ思ひ立 00065900M13/旅衣(たびごろも)、/九重(こゝのへ)の都を出て、いつ帰るべき行/衛(ゑ)とも、/白川(しらかハ)わた 00065910M14す/石橋(いしはし)の、くちぬ身ならバあハた山、日の/岡(をか)めぐる/牛車(うしぐるま)、 00065920M15我もよだれと水/鼻(はな)の、くだり坂とてなま/長(なが)き、げほうあた 00065930M16まのあぶな+、うき/御陵(ミさゝき)の/草(くさ)を/分(わけ)、(一オ)/薮(やぶ)の下ふく/下(した) 00065940M17かぜに、/名(な)とりのたはこ/薫(くん)じてハ、/鼻(はな)つきとをす/鑓(やり)持の、 00065950M18/奴茶(やつこ)やとハ/強(こハ)けれど、色ある/姿(すがた)なれ+/敷(しく)、よらんせのこ 00065960M19ゑにくからず、/哀(あはれ)ひよくの/諸羽(もろは)の宮、天にあらバとあふの 00065970¥P206 00065980L1けハ、/雲(くも)にそびゆる/毘沙門堂(ひさもんだう)、/鞍馬(くらま)の/告(つげ)にひとしくハ、我 00065990L2を/守(まも)りたび給へと、/祈(いのる)心の六/地蔵(ぢさう)、/実(げに)此ほさつハ/悪趣(あくしゆ)の/苦(くるしミ) 00066000L3を、かはつて請させ給ふとや、我にハ/後(ご)世よりちかみちの、 00066010L4/現当(げんとう)の世わたらひをまもりて給ハれと、/隣(となり)の十/善寺(ぜんじ)にあし 00066020L5/休(やす)めて、 00066030L6△△六ぢさう七八うけてくをぬきて 00066040L7△△△十せんし川/渡(わた)りやすかれ 00066050L8右に/高(たか)きハ/牛(うし)の/尾(を)山、/追(をい)わけ/越(こえ)て/直(すぐ)な道、/横木(よこぎ)にきなす/古= 00066060L9紙子(ふる=がミこ)、ほころぶすきま/寒(さむ)けれバ、/池(いけ)の川ばり/糸(いと)による、物 00066070L10とハなしに/別(わか)れ/路(ぢ)の、都/隔(へだ)てゝ心ぼそ、/静(しづか)にゆかぬ/走井(はしりゐ)を、 00066080L11/杉村(すぎむら)うつす/相坂(あふさか)(一ウ)の、/関(せき)の/清水(しミつ)を/酒(さか)やかと、さかゞミ 00066090L12の宮名もゆかし、/守随(しゆすい)が/秤(はかり)めにかけて、三井寺のかね/腰(こし)に 00066100L13つけ、だミたる恋を/柴(しば)や町、やかるゝたねと/知(しり)ながら、/猶(なを) 00066110L14もえくゐの/燃(もえ)やすき、けふりくらべの松もとや/番馬(はんバ)の風 00066120L15の/寒(さへ)かへる、/兼平(かねひら)が/塚(つか)/苔(こけ)/朽(くち)て、今/井(ゐ)ハ/残(のこ)る名のミなる、/碑(ひ) 00066130L16の/銘(めい)見する/石(いし)山の、月に/昔(むかし)のことゝはん、/光源氏(ひかるげんし)の物語、 00066140L17/実(まこと)に/似(に)てもうそすごき、水の青/淵(ぶち)せたの/橋(はし)、のぢのしのハ 00066150L18らたどりきて、/草津(くさつ)につくや/姥(うば)が/餅(もち)、/実(げに)や此餅ハめいどて 00066160L19/鬼(をに)が/問(とふ)と云、いざたうべんと/腰(こし)かくれハ、/宿(やど)の女、 00066170M1△△/姥(うは)/老(おい)てあへたる/餅(もち)のうれよきハ 00066180M2△△△かりにもおにのとへバ也けり 00066190M3と/古哥(ふるうた)をほんあんしたる。此/渡(わた)り草津のやくらと云と聞て、 00066200M4ねめ介、 00066210M5△△/休(やすら)ひのおあしを出してあたゝまる 00066220M6△△△餅ハこたつのやぐら也けり 00066230M7左の方ハ/雨(あめ)になるみのかいとうの、もり山や、右にてる日 00066240M8のかげまろき、ぬふ(二ウ)(二ウ・三オ挿画)てふ/笠(かさ)の梅の木 00066250M9の、/定斎(ぢやうさい)にほふ/東風(こち)吹て、あら/砥(と)そばだつ/石部(いしべ)山、ふもと 00066260M10にそひくミくも村、/横田(よこた)川に/望(のぞミ)て、/筍斎(じゆんさい)、 00066270M11△△みだれ/碁(ご)の石部につゝく/渡(わた)り手の 00066280M12△△△/浪(なミ)打かくるよこた川哉 00066290M13まけぬ/勝負(しやうぶ)のかち渡り、/足(あし)もまだひぬいづミ村、/猶(なを)ぬれ 00066300M14+て/水口(ミなくち)に、我やミゆらん/蝌(かへるこ)の、浪に/陰(かげ)ある/柳(やなぎ)ごり、/風(かせ) 00066310M15/新柳(しんりう)の/髪(かミ)をけづれバ、/鯲(とぢやう)の/髭(ひげ)や/作(つくり)坂、下らせ給ひける/程(ほと)に、 00066320M16/舞(まひ)の村行/扇(あふき)の手、お茶やの/千世(ちよ)をよばふなる、松の/尾(を)村の 00066330M17はを/磨(とい)で、/鑿(のミ)でおこすや/土(つち)山の、/生(いく)のゝあめやぢわうせん、 00066340M18ねふりもて行ほうべらに、よこ/筋違(すぢかい)の田村川、/水上(ミなかミ)/久(ひさ)に/劫(こう) 00066350M19をへて、いく世かすめる/蟹(かに)が坂、ゐのはたるゝ/藤巴(ふぢともへ)、沢= 00066360¥P207 00066370¥G 00066380M1江(さわ=ゑ)の水の/木(こ)の下や、/峠(たうげ)に高きかご/賃(ちん)を、はらはぬ袖のしよ 00066390M2ぼ+と、露なミだのおり/坂(さか)を、/西行法師(さいぎやうほうし)の詠しけん、(三 00066400M3ウ) 00066410M4△△すゞか山/浮世(うきよ)をよそにふり/捨(す)て 00066420M5△△△いかになり行我が身なるらん 00066430M6此ことの/葉(は)も身の上に、我ぞなり行すゞか川、/八十(やそ)せの/数(かす) 00066440M7に/老(をい)くれて、しハやよるらんひげ/野老(どころ)、にが竹けづる色/火= 00066450M8縄(ひ=なは)、/関(せき)とハ/宿(しゆく)の名のミにて、とまらぬ/旅(たび)ぢ/迷(まよ)ひ行、/街(ちまた)や六 00066460M9に/別(わか)るらん、ちざうほさつに道とへバ、南ハいせぢ/東(ひがし)にゆ 00066470M10け、/忝(かたしけなし)と/諾(うなづけ)ハ、こや/張貫(はりぬき)の/亀(かめ)山を、/中(ちう)に/操(あやつる)/緒(を)の町の、 00066480M11/賎(しづ)がをだ/巻(まき)引はへて、/野尻(のじり)につゞくさゝがにの、くもゐに 00066490M12ひゞく/音楽(おんがく)の、庄野/俵(たはら)を/皷(つゞミ)かと、打よりてみるかハゐ村、 00066500M13わきて/流(なが)るゝいづミ村、いつミた事もなひ人の、おじやれ 00066510M14+に/気(き)がうひて、ぬめりすがたのうなぎ町、されハ/恋(こひ)に 00066520M15ハ/虎(とら)とみて、思ひをとおす/石(いし)やくし、/忍(しのぶ)/細(ほそ)道/杖(つえ)つき/坂(ざか)、竹の 00066530M16一よやふた夜三夜、/四日市(よつかいち)たつ/商(あき)ひとや、/田夫(でんふ)/交(まじり)の/鄙(ひな)の村、 00066540M17かへす/畑(はたけ)のうねめ町、/鋤(すき)と/桑名(くわな)の町(四オ)つゞき、そちむ 00066550M18ひて行かき村や、へた村過て/上手(しやうず)げに、/弓(ゆミ)引やなる/矢田(やた)の 00066560M19町、八/幡(まん)の宮かう+/敷(しく)、/武運(ぶうん)めでたき/城(しろ)がゝり、/夕日(ゆふひ)や 00066570¥P208 00066580L1みがく玉くしけ、ふたミの/浦(うら)の/貝(かい)しげミ、松を/蒔絵(まきゑ)に/蛎(かき)/蚫(あはび)、 00066590L2/辛螺(にし)の色てる玉がきの、宮へ七里の/舟渡(ふなわた)し、/白浪(しらなミ)よする/小(こ) 00066600L3ぢりめん、さやへまハらぬ/順風(じゆんふう)に、/水手(かこ)が小哥のわつか松、 00066610L4松のひめ/嶋(じま)右に見て、のまの/内海(うつミ)の/汐東風(しほごち)に、我ハ/長田(をさだ)と 00066620L5ふるへども、あつたの名こそ/頼(たのミ)なれ、爰にも松の/年(とし)高き、 00066630L6/仙人塚(せんにんづか)の/跡(あと)ふりて、/昔(むかし)を思ひ出らるゝ。いとおしや/亡父(ばうふ)/竹= 00066640L7斎(ちく=さい)、此所にて、りやうぢの/分(ぶん)の/下手尽(へたづくし)、あらゆる/恥(はぢ)をかき 00066650L8/紙子(がミこ)、引やふられてしよぼ+と、/泪(なミた)て帰る時も有、又ハ 00066660L9つぶりを打わられ、/包(つゝ)むとすれど/破(やれ)づきん、もるゝ/黒血(くろぢ)に 00066670L10名を/流(なが)し、かゝへて/戻(もどる)折も有、/何(なん)ぶくもつた薬にも、きい 00066680L11た事なき/時鳥(ほとゝぎす)、/飛(とび)あるひたを/能(のふ)にして、(四ウ)/終(つゐ)にして/出(て) 00066690L12ぬ/薮(やぶ)いちこ、人が/喰(くハ)ねバ/是非(ぜひ)もなし、身ハ/朽果(くちはて)名計の、 00066700L13/残(のこり)/多(おほし)と/啼(なき)にける。ねめ介も袖をしぼり、/実(けに)我か父も/浅(あさ)ま 00066710L14しや、ならぬ/世帯(せたい)を/賄(まかなひ)て、/主人(しゆじん)の物ハさる事よ、その身の 00066720L15上のさよ衣、一/重(え)二/重(え)のきる物も、/皆(ミな)七つやにおきつ/波(なミ)、 00066730L16あれのミまさる/宮(ミや)の内、なかし/果(はて)てハ八の木の、/煙(けふり)/淋(さひ)しき 00066740L17すまあかし、身をつくしてもあはぬなる、/胸(むね)ざん用にいせ 00066750L18ぢかき、/神祇(じんき)/釈教(しやくきやう)/恋(こひ)/無常(むじやう)、おもて/住居(すまゐ)ハ/叶(かな)ハじと、うら 00066760L19/店(たな)/借(かり)て/隠(かくる)れと、波の/打越(うちこし)あら/磯(いそ)の、猶/水辺(すいへん)に/袖(そで)濡(ぬれ)て、日出 00066770M1る/方(かた)におともせし、/爰(こゝ)らや在し/宿(やと)ならんと、/恨(うら)めしげに/詠(なかめ) 00066780M2行、女/房(ぼう)の玉かつら、/傾国(けいこく)に/住(すミ)なれ、/屈(くす)んだ事のうるさく、 00066790M3よしなの/昔語(むかしがたり)やな、帰らぬ事な/宣(のたま)ひそ、いとゝに/旅(たひ)ハ物う 00066800M4きに、わつさりとし給へかし、人一/盛(さかり)花一/時(とき)、ちりうなる 00066810M5ミも程ちかし、いさとて/先(さき)へすゝむ(五オ)にそ、うくかた 00066820L6/早(はや)きひやうたんの、/穴生(あなふ)の村も/過(すぎ)行て、/妹川(いもかハ)のうとんそば、 00066830M7/風味(ふうミ)よしのとほめなせハ、あしやといへる/里(さと)も有、/左(ひだり)にさ 00066840M8なき大明神、/池(いけ)に/鯉(こひ)ふな/多(おほし)とて、/呼(よん)で/池鯉鮒(ちりう)といふとかや、 00066850M9/遥(はるか)の北に八/橋(はし)有、おやぢの/読(よミ)し/哥(うた)を思ひて、 00066860M10△△五つ六つ七つ八橋見度すハ 00066870M11△△△こゝのつゐでのとをりがけ哉 00066880M12/武士(ものゝふ)のやはきの橋の弍百/余門(よけん)、長く久しき世の/為(ため)し、/城(しろ)の 00066890M13/汀(ミきハ)のどう/亀(がめ)も、/万歳(はんせい)うたふ大神/楽(くら)、/岡崎(をかさき)女郎/衆(しゆ)ぬれ色に、 00066900M14しなだれかゝる/藤(ふぢ)川に、/哀(あはれ)やひなの/住(すま)ゐとて、手足ハあれ 00066910M15て松の木の、/■(ひゝ)/皸(あかゞり)に/赤(あか)坂や、/数(かず)ハ八万/法蔵(ほうさう)寺、読や二三四 00066920M16ごゆの/宿(しゆく)、/石田(いしだ)の雨の徒然に、/硯(すゝり)に/向(むかふ)/兼好(けんかう)が、こゝに/住(すミ)け 00066930M17ん/吉田(よした)町、三/河(かハ)/続(つゝき)のふた川や、この手にふるゝ/柏餅(かしわもち)、もひ 00066940M18とつあがれしほミ坂、/塩時(しほとき)人にしらすか(五ウ)の、音ハ/高= 00066950M19師(たか=し)のあだ浪の、/荒井(あらゐ)の渡し/飛(とん)て行、/鶴(つる)のまひざか/浜松(はままつ)の、/楽(がく) 00066960¥P209 00066970L1を/吟(きん)ずる大/天龍(てんりう)、/池田(いけた)の長か跡とへハ、/甘泉殿(かんせんてん)の春の夜の、 00066980L2/夢(ゆめ)になりたるゆやの前、ことし計とかこちける、桜が池の 00066990L3朧月、いづるそなたを見つけ山、/後(うしろ)におへるふくろゐと、 00067000L4ひちに/簣(あちか)をかけ川の、小町/橋(ばし)行/気違(きちかひ)に、/礫(つふて)なうつそわらへ 00067010L5/餅(もち)、につ坂わくる草の露、/命(いのち)をさよの中山に、たかかけ/初(そめ) 00067020L6しむけんのかね、今ハ/土(と)中に/埋(うつむ)れて、つかせすとてもつき 00067030L7時の、/果報(くわほう)があらバ/金谷(かなや)の/宿(しゆく)、くもに流るゝ大/井(ゐ)川、嶋田 00067040L8/吹(ふき)上かうがいわけ、げに木ながらにいはねとも、ゆふにぞ 00067050L9まさる/柳(やなき)かミ、紅粉/白粉(おしろい)もけいはくに、せとの/染飯(そめいゐ)/味(あぢ)有て、 00067060L10色ある/姿(すかた)/行(ゆく)人に、/這(はい)まつはるゝ/藤枝(ふぢえだ)や、/岡部(おかべ)と名のる六弥 00067070L11太が、/忠度(たゞのり)くんでうつの山、つたの/錦(にしき)の/直衣(ひたゝれ)を、春もきに 00067080L12(六オ)けり行/暮(くれ)て、/木(こ)の下/陰(かげ)の/沓(くつ)の/音(をと)、はづむまりこの/盛(さかり) 00067090L13にハ、/忠(ちう)がふちうの花の/雨(あめ)、/疎(をろか)になせそみかきもり、ゑじ 00067100L14りにもゆる/漁火(いさりひ)の、うつりも/青(あを)し/狐坂(きつねさか)、ほむらや残す/姥(うば)が 00067110L15池、月/清(きよ)ミがた三/保(ほ)の松、/天(あま)の/羽衣(はごろも)ひろひても、五たびか 00067120L16へすおきつ/波(なミ)、/塩(しほ)やに/荷(に)なふ田子の浦、一/石(こく)二石つもりて 00067130L17ハ、三/国(ごく)一のふじの山、/雲(くも)より上ハ白雲の、見ゆる計もい 00067140L18や/高(たか)く、旅路のうさも一/時(とき)に、はるゝ/蒼天(さうてん)又/類(たくひ)なし。 00067150L19△△白/妙(たへ)の/昔(むかし)のまゝに年ふりて 00067160M1△△△ふらうふしなる山の雪哉△△△筍斎 00067170M2△△ひえの山をはたち計のふしの山 00067180M3△△△つふりをミれハ若しらか哉△△ねめ介 00067190M4△△ふじの山せこそはたちに/高(たか)からめ 00067200M5△△△いつもかのこの雪のふり袖△△玉かづら 00067210M6此ふり袖を/誰(た)が子ぞと、/問(とい)もて/行(ゆけ)ど/親(をや)しらず、/昔(むかし)/通(とを)りし/古(ふる) 00067220M7道の、/種&(しゆ※)に/替(かハ)れるさつた山、/笹(さゝ)に露ちる白ゆふや、ゆゐ 00067230M8を参らす(六ウ)/神原(かんはら)の、みこか口とく舌はやに、よし原雀 00067240M9/囀(さへつり)て、空に飛行の/天(あま)のはし、/足高(あしたか)山を引まはす、屏風所 00067250M10のぬまづの宿、三/嶋暦(しまこよミ)のはつ/春(はる)を、口あけてみる箱根山、 00067260M11/宝(たから)の玉の水取て、/畔(くろ)にしかくる/小田原(おたハら)の、/野父(やふ)か/作(つく)りの/俵(たハら) 00067270M12物、つんて/悦(よろこぶ)/透頂香(ずいてうかう)、/味(あちハひ)わきていし/地蔵(ぢざう)、/化(はけ)て火/■(ともす)大い 00067280M13そや、ぬき/討(うちに)する平つかを、/拳(こふし)ににぎる/藤沢(ふちさわ)も、よるの水 00067290M14/音(をと)物すこく、ミつかもとして/逃(にげ)道を、いかほとかやと物と 00067300M15へど、そちや/聾(つんほ)のかな川の、/耳(ミゝ)ならなくに/穴(あな)ふたつ、是な 00067310M16ん/仁田(につた)/忠(たゞ)つねか、/地獄(ぢこく)/廻(まハり)をするかなる、ふしの人/穴(あな)あな/賢(かしこ)、 00067320M17/語(かた)らぬ/筈(はづ)の一大/事(じ)、もらせし水の川/崎(さき)に、大/師河原(しかハら)のゑん 00067330M18ぎ/帳(ちやう)、/流沙(りうさ)のすなのいくばくか、/昔(むかし)渡りし五/天竺(てんぢく)、四百/余= 00067340M19州(よ=しう)の/支那(しな)川に、名を/響(ひゞか)する/鈴(すゝ)の森、/梢(こずえ)下枝のなをしげく、 00067350¥P210 00067360¥G 00067370M1(七オ)(七ウ・八オ挿画)真/言(こん)/流布(るふ)の日本橋、祈/祷(たう)/成就(じやうしう)/円(ゑん)満に、 00067380M2さかふる花の江戸に着ぬ。 00067390¥N2¥J 00067400¥X二△深川の/底(そこ)ぬけ上戸/彩色(さいしき)の赤人形 00067410M5/橋(はし)がなふて、/渡(わたり)がならぬ深川といふ所に、/知(し)る人を/尋(たつね)、小 00067420M6家をかりて/住(すま)居けり。ねめ介いふハ、御/当地(とうち)の風/俗(そく)をかね 00067430M7て/承(うけたまハ)るに、京/生立(そだち)の/生(なま)ぬるき取なり、物いひハ下りもの 00067440M8とやらんとて、/髭如(ひけやつこ)の口にかけて、/笑(わら)ひ草にいたすと、さ 00067450M9れハ万きつとして、身の取まハししやん+と/分際(ふんざい)より/気(き) 00067460M10をふとく/持(もた)てハ、/所(ところ)の風にあい申事で御わりますまひと、 00067470M11不覚不知、はや/巻舌(まきした)にいひちらして笑へハ、筍斎も笑ひ 00067480M12て、其分ハ/気遣(きづかひ)せそ、何事が/何時(なんとき)用に立ふもしれぬ、/某(それがし) 00067490M13日比酒すく事、此/度(たひ)の用にこそたて、ひとつのふでハ、い 00067500M14とゞだに、ふとく成よきいきミ玉、光めでたき時にあひて、 00067510M15/公界(くかひ)をひろく(八ウ)むさしのと出るに、/便(たより)あり、 00067520M16△△/武蔵(むさし)のゝ/広(ひろ)ひ所を引うけて 00067530M17△△△人のこゝろを一のミにせん 00067540M18といひけれバ、ねめ介あきれ、是ハ/余(あまり)に口ひろしと/我(が)をお 00067550M19る。いてや、かく/隠住(かくれすむ)計にハ、/世人(せじん)/更(さら)にしる事/非(あらじ)。/看板(かんばん)を 00067560¥P211 00067570L1出さん、/但(たゞし)、/古(こ)竹斎が、へんじやくやぎばにもまさると/狂= 00067580L2哥(きやう=か)せしハ、/嘲(あざけり)の/種(たね)不/吉(きつ)の/例(れい)なれバとて、/哥(うた)ハやめぬ。扨人 00067590L3/形作(ぎやうつく)りを/呼(よん)で、/自(ミづから)のざうを/誂(あつらふ)。/工人(かうじん)筍斎が/皃(かほ)かたち/取(とり)な 00067600L4りを/図(づ)するに、/吹(ふき)出す計おかしけれど、/笑(わら)われもせずうけ取 00067610L5ぬ。手を/尽(つくし)/刻(きざむ)ほどに、日を/経(へ)てもて来りけり。其ざうとい 00067620L6つハ、/天性(むまれつき)なれバ口/狼(おほかミ)のごとく、/鼻(はな)のひくさハ/額(ひたい)より/遥(はるか)ふ 00067630L7もとにたれ、まじりさがり/黒疱跡(くろミつちや)の引つりに、/黶黒子(あざほくろ)さへ 00067640L8おほく、/頷(をとがひ)なかく/頬(ほう)たれて、/頚(くび)の大さ/胴(どう)にひとしく、/表(おもて)口 00067650L9より(九オ)/頭(つぶり)のうら行町/並(なミ)にはづれ、手足ふつゝかに/指(ゆひ)み 00067660L10じかく、右に/匕(さじ)をかまへ/左(ひだり)をほうづえし、/薬(くすり)/調合(てうがう)加/減(げん)/思案(しあん) 00067670L11の所を、一/毛(もう)も/違(たが)ハず/作(つくり)なせり。我ながら/我(わが)かたちの/希有(けう) 00067680L12に/鈍(どん)なるに、よこ手を打て、/扨(さて)もそなたハ人におかしがら 00067690L13するやうに、ない所/迄(まで)つくりそへられた事よと、まだ是ほ 00067700L14どに不/具(ぐ)なるとハいはず。/作者(さくしや)ハあいさつの/仕(し)やうにこま 00067710L15り、おかしさをねんして、口に手あてゝ帰る。女房ねめ介 00067720L16などふき出して/笑(わらふ)。扨一/枚(まい)/板(いた)に/自讃(じさん)をかく、 00067730L17一、/夫(それ)日本にお/医者方(いしやかた)おほしと申せど、筍斎か/家(いへ)のりやうぢと云 00067740L18ハ、/仙受神秘(せんじゆじんひ)の/妙方(めうほう)一/子(し)相伝(さうでん)の外/更(さら)につたへず。若此方よりおし 00067750L19へんと申ても、かぶりをふつて/習(ならふ)ものなけれバ、おのづから/我(わ)が 00067760¥G 00067770M1家の/重宝(てうほう)となつて、/他家(たけ)にしることなし。 00067780M2是おそらくハ/我流(わがりう)、きまゝの一方おほへ 00067790M3にくきがいたす所也。こゝにばうふ竹さ 00067800M4い、ひろくきめうを/仕(し)ありき、/養性(やうぜう)薬に 00067810M5て(九ウ)なき病を出し、かろきハおも 00067820M6くなして、外のくすしに手がらをさする。 00067830M7おもふに下ぢをなまぞこなひにしたると 00067840M8くかある。おもきハ一二ふくにてらちあ 00067850M9くる。いけて思ひをさせうより、きさん 00067860M10じなる事さすがらうこうのいたりと、我 00067870M11斗がをおる。予其/的伝(てきでん)をついで、そのふにあそぶとらのいきほひ 00067880M12千里一はね、何ほど大/医(い)にならふもしらず。今心/安(やす)き間に、たな 00067890M13がりうら住のかろきものども、のそミならバ見てとらせん。参り 00067900M14候へ来り候へ。/花洛全盛庵(くハらくぜんせいあん)△薮内筍斎 00067910M15△△△年号月日 00067920M16と/書(かき)て、/木偶(もくぐう)にそへて、かんばんを出しけり。 00067930¥N3¥J 00067940¥X三△/道戯(だうけ)の初/看板(かんばん)大/笑(わらひ)の口あけ 00067950M20筍斎がかはつたかんばんに、やれ+そのそこに/珍(めづら)なる/医(い) 00067960¥P212 00067970L1師のかんばんこそ出たれと、/貴賎(きせん)/見物(けんぶつ)にきて/腹(はら)をかゝゆる。 00067980L2中に/小賢者(こさかしきもの)が、是ハたゞ/木引(こびき)/堺(さかい)町の小見せ物の手にて、な 00067990L3き事/作(つく)るおどけ/者(ものゝ)の人よせなるべし、誠の筍斎といふもの、 00068000L4いかゞ是ほどにハと/作病(さくびやう)(十オ)なんと/拵(こしらへ)、りやうぢに事よ 00068010L5せて、知人になり、実の人品を見るに又こらへられず。/責(せめ) 00068020L6て/木隅(もくぐう)ハ/動(うこか)ず、/可笑計(おかしきはかり)なるに、/正躰(しやうたい)の立ふるまひ、/声(こゑ)ハ/堂(だう) 00068030L7の/鳩(はと)のやうに、物いひした/□((びカ))に、よだれ水はなの/時雨(しぐれ)、/偽(いつハり) 00068040L8のなきかんばんの外さへそひて、ひとつもとり所なけれバ、 00068050L9/皆(ミな)/堪(たへ)かねて/逃(にげ)かへる。後ハ此手にこりに、大かたにてハ人 00068060L10に/逢(あハ)ず成けれバ、ならぬをしたふ人の心、猶みたがり/逢(あひ)たが 00068070L11りて、/隣家(りんか)町内の/縁(えん)を求て/行合(ゆきあひ)、酒/肴(さかな)なんど/饋(をくり)けれバ、中 00068080L12+りやうぢハせねども、/腹(はら)/便(べん)&として/活計(くわつけい)身に/余(あまれ)り。此 00068090L13さた/広(ひろく)く/武陽(ぶやう)の/咄(はなし)に成て、/笑(わらひ)のゝしる。下+ハさる事に 00068100L14て、おく住の女/中(ちう)などハ、やすく行て見給はねバ、御/慰(なぐさみ)に 00068110L15めしよせらるも、りやうぢをいひ立に、わかとう小者に/駕(のりもの) 00068120L16をつかハし、取よせて御らん有てハ、/上中(かミなか)下の(十ウ)人 00068130L17+/動(どよミ)をつくる屋敷もあり。あるハ五人も七人も/頤((をとかひ))のかけ 00068140L18かねはつれて、大/工(く)づかひの所も有。かゝる/奇異(きゐ)の/見物(けんぶつ)ハ 00068150L19と、/黄金(わうごん)/白銀(はくぎん)小袖の/賜(たまもの)、いやが上にも/重(かさなり)、/蔵(くら)に/満(みち)たり。此故 00068160M1に、/不日(ふじつ)に/有得(うとく)の身となりぬ。是につきてふしぎ有。筍斎 00068170M2/元来(ぐわんらい)京に生れて、/中老(ちうらう)迄都に/居(ゐ)けり。/尤(もつとも)其形おかしから 00068180M3ぬハ/非(あら)ねど、是ほど/異相(ゐさう)に/鈍(どん)にハみえざりし。爰に来てより 00068190M4かくすぐれておかしがられ、/身上(しんしやう)のたつきに成迄の事、お 00068200M5もふにくらまの多門天の/方便(はうべん)なるべしと、玉/蔓(かづら)ねめ介ハい 00068210M6ひおれど、/己(おのれ)ハ只一分の/利口(りこう)に/出(で)かすと思ふそ又一/興(けう)なる。 00068220¥N4¥J 00068230¥X四△うそ/咄(はなし)の/始(はしめ)口/広(ひろ)し/狼(おほかめ) 00068240M9ある日/去(さる)やごとなき御かたに召れ、/終日(ひめもす)/嬲(なぶり)物にし、御/慰(なぐさミ) 00068250M10ある中に、とかく此/坊主(ぼうず)ハ/過差(ぐわさ)にして、物ごと利/口(こう)だてす 00068260M11るぞ、そだて(十一オ)て物をいはせよとて、何と筍斎にハ、 00068270M12都にてもそなたに/肩(かた)をならぶる/医師(いし)もなく、名人にてあり 00068280M13しと、/然(しから)ハ/官位(くわんゐ)にものぼり、/乗(のり)物/童僕(どうぼく)にて、/綺羅(きら)をみがゝ 00068290M14るへき/身(ミの)、いかに/録(ろく(ママ))にもあづからず、おちこちの道を/歩行(ほかう) 00068300M15につとめ、/供(とも)だにひとりふたりに/限(かぎ)る、いぶかしと尋給ふ。 00068310M16筍斎手を打て、扨ハ/某(それがし)の/名(めい)人さ、/夫(それ)ほど/微細(ミさい)に/早(はや)く聞へ 00068320M17侍る事よ、仰のごとく、とくにも/医官(いくわん)に/昇(のぼ)り、/美&敷(びゝしく)到べ 00068330M18き身に侍れど、/私(わたくし)めにひとつの/曲(くせ)あつて、/唯(たゞ)/慈愛(じあひ)の心ふか 00068340M19く、人の/為(ため)/能(よき)事のミと存侍る、/性(しやう)の/捨(すて)がたく、/態(わざと)心やすく 00068350¥P213 00068360L1/仕(つかまつ)り、/分際(ぶんざい)/軽(かろ)き/者(もの)どもに、/薬(くすり)を/施(ほどこ)さんために/逼塞分(ひつそくぶん)にみせ 00068370L2かけ/罷(まかり)立し、それさへ/誰(た)が/奏(そう)し申せし、/禁裏(きんり)/仙洞(せんとう)より/勅使(ちよくし) 00068380L3を下され、筍斎が/医学(いがく)/広(ひろ)く、りやうぢの/発明(はつめい)ゑいぶんに/達(たつ) 00068390L4し、(十一ウ)(十二オ挿画)近きに/参内(さんだい)仕べきよし、しらする 00068400L5者あり。さあれハ我ながら身/持(もち)むつかしく、其上下+の 00068410L6者どもが、/闇夜(あんや)に一/灯(とう)を/消(け)したるやうにおもはん事も/不便(ふびん) 00068420L7に存、ひろく/治(ぢ)を/施(ほどこ)さんため、まだ/宣下(せんげ)なき内に、此江戸 00068430L8に下り侍るといへば、/皆(ミな)しなぬ計に/笑(わらひ)入て、いしやハさや 00068440¥G 00068450M1うに在たき物なれ、さて都にて、すぐれて/珍敷(めつらしき)りやうぢハ 00068460M2いかなる事か召れし。めづらしき手がら、かず+にて/空(そら) 00068470M3にハ覚え申さず、乍去おもひ出るを申さバ、先一とせ山 00068480M4しろの西の/岡(をか)と申所に、/狼(おほかめ)あれて人をくらひ、/牛馬(ぎうば)を/追(をい)ま 00068490M5ハす事、/昼夜(ちうや)にかぎらず、/忽(たちまち)くいころすあり、/片輪(かたわ)づきて 00068500M6/逃(にげ)帰るあり、/洛西(らくせい)の/騒動(さうどう)なゝめならず、爰に/牛(うし)が瀬と申所 00068510M7の/農民(のうミん)、/綿(わた)の/畑(はた)にゐたるを、/件(くだん)の/狼(おほかめ)きそひ(十二ウ)来つて、 00068520M8彼者の両/足(そく)をつけ/根(ね)より只一口にくひ切て、帰りけれバ/尻(しり) 00068530M9より上計/死(しに)残る、/隣(となり)の田より見付、やれ+といへとも/甲= 00068540M10斐(か=い)なし、/妻子(さいし)なく+半の/死骸(しがい)を家に取いれなげく、是ハ 00068550M11/余(あまり)にあへなきわさ也、当時の/生薬師(いきやくし)筍斎にみせさせよと、 00068560M12/迎(むかひ)に参つた、/見舞(ミまひ)て見るに、在し仕合いかにしても/蘇生(よミがへ)る 00068570M13やうなかりけれど、そこが/流石(さすか)の/上手(じやうず)、何がな足一そくあ 00068580M14らバと/庭(にハを)ミれバ、/賎(しづ)が手わざの/綿(わた)くりといふ物あり。此/足(あし) 00068590M15にむめの木のふた/股(また)なるをミつけて、頓て是をぬきて、か 00068600M16の/喰切(くいきり)し口にさしこミ、うへより/薬(くすり)をのませて、/祝言(ことぶき)の発 00068610M17句をいたした、 00068620M18△△くはれてもまたなる梅の木の実哉 00068630M19として/舌(した)もひかぬに、彼者/忽(たちまち)/起(おき)あがつて、昔の足より/猶(なを) 00068640¥P214 00068650L1/達者(たつしや)(十三オ)に、今ハ右の百性をやめて、/西国(さいこく)への飛きや 00068660L2くをいたしおるといへバ、/各(おの+)/腹(はら)をかゝへ、/笑(わら)ひながら、 00068670L3何と梅の枝を足にしてハ、さやうにハありく事なるまひ事 00068680L4じやといへハ、筍斎を皃ふつて、扨ハ人+にハケ様の/古= 00068690L5事(こ=じ)をバしろしめさぬと見えたり、むかし/北野(きたの)&/天満神(あまミつかミ)、/未(いまた) 00068700L6/菅相丞(かんせう+)にてましませし時、/時平(しへい)のおとゞの/讒(さん)によつて、心 00068710L7づくしにさすらひ給ふ、されバ/相丞(しやうせう)都にて梅の木を御/寵愛(てうあひ) 00068720L8なされしが、都ゆかしき折から、此むめの事を思召て、 00068730L9△△/東風(こち)ふかハ/匂(にほひ)おこせよ梅の花 00068740L10△△△あるじなしとて春なわすれそ 00068750L11と/読(よま)せ給ひしかバ、此梅一夜が内に/数百(すひやく)里を越て、つくし 00068760L12/安楽寺(あんらくじ)迄参る、是より/号(なつけ)て、とびむめといふ、彼者がする 00068770L13ひきやくの/文字(もじ)を、/飛脚(とぶあし)とよむも此心に侍ると、ひげ口そ 00068780L14らしいひけるにぞ、(十三ウ)又大笑しぬ。扨又/珍(めつら)しいりやう 00068790L15ぢハととへバ、ある時/武家(ぶけ)の/若党(わかたう)、/途(と)中にて不/慮(りよ)に/喧嘩(けんくわ)を 00068800L16仕出し、/頚(くび)をころりとおとされぬ、つれの男/某(それがし)所へかけ 00068810L17こミ、此くびを/継(つい)でくれよ、/入(いら)ひで叶はぬくびしやと申た 00068820L18ほどに、頓而間の/釘(くき)に、かうやくぬつて/即時(そくじ)ついでとらし 00068830L19けれバ、皆人きもをけす、/某(それがし)ハさのミにも存ぜなんだ、是 00068840M1も只今/清水(しミつ)/観(くわん)右衛門と申て、息災に/奉公(ほうかう)/勤(つとめ)罷ある、此名 00068850M2をとへバくびをきられて、二/度(たび)ついだるによつて、清水の 00068860M3/観世音(くはんせをん)に/摸(も)してつきたるとぞ、然ハ/残(のこり)/多(おほ)い事のわざある、 00068870M4/後向(うしろむき)に継でやらふ物と今に存る、此/外(ほか)此様なはなれきつた 00068880M5りやうぢ、何が十や廿や三万と申事ハ御ざないと云て、い 00068890M6ふた皃もせず、人皆/動作(どよミつくつ)て/息(いき)のはつむ計。 00068900¥Y1新竹斎巻之四(十四オ) 00068910¥P215 00068920¥T1新竹斎巻之五 00068930¥N1¥J 00068940¥X一△/謎禁好(なぞきんこう)ハ斎が目に春の/氷(こほり) 00068950L5筍斎ハうそつきの名を/広(ひろく)取て、世の/笑(わらひ)物になれど、自然の 00068960L6/才覚(さいかく)も有て、人にいひこめらるゝ事なし。ある時/生小賢(なまこさかしき)男、 00068970L7斎が家に来て云、其方ハ/医(い)道/発明(はつめい)に、/爾(しか)も/和哥(わか)の道にさへ 00068980L8達し給へるよし、心にくし。/某(それがし)も年来哥を/好(このん)でよミ侍る、 00068990L9されども/短慮(たんりよ)/未練(ミれん)にて、よむも+こしおれにて、哥に/病(やまひ) 00069000L10があると/点者(てんしや)より/批言(ひごん)あり、/幸(さいわひ)/貴殿(きでん)/両/道(だう)/兼備(けんび)の/名(めい)医の/徳(とく)に 00069010L11なをし給ハらんやといふ。/夫(それ)ハなるほど/安(やす)き事、/薬(くすり)を/教(おしへ)申 00069020L12さん、人/丸(まろ)と/貫之(つらゆき)を/当分(たうぶん)に、/赤(あか)人を/少(すこし)/加(くわ)へ、ミつを以て煉 00069030L13て用られよ、其まゝなをるといふ。/扨(さて)/珍敷(めづらしき)/薬(くすり)哉、此/能毒(のうとく) 00069040L14承たしといふ。されバ、哥ごと/点(てん)(一オ)者の批言ありと。 00069050L15其/批(ひ)のとまるやうに、ひとまる、一/味(ミ)つらゆきハ/皃(かほ)に雪の 00069060L16かゝる心、/面(おもて)/白(しろ)ふなるやうにと、乍去雪ハ大/寒(かん)の物なれ 00069070L17バ、/温薬(うんやく)にて/大(おほき)に/和(やハら)けんため、あか火とを少加へよし、扨 00069080L18なにハづのことの葉の、ミつ丸にして/用(もち)ゆべしと也、/若(もし)/夫(それ) 00069090L19にて/治(ぢ)せずハ、廿一/代集(だいしう)を/煎(せんじ)のミ給へと云。男おかしなが 00069100M1ら、是又/子細(しさい)いかにととふ。されバ/巻(まき)ごと哥道のせんやく 00069110M2ならずといふ事なし、是み給へとて、/忠度(たゞのり)のうたひ本を/繰(くり) 00069120M3て、五条の三/位(ミ)/俊成(しゆんぜい)の/卿(きやう)/承(うけたまハつ)て、是をせんずとあれバ、忝 00069130M4も天子などにハ/公卿(くぎやう)に煎させて、きこしめす事じやと云に 00069140M5ぞ、あきれはてゝ帰る。又ある/理屈者(りくつもの)、筍斎に手をきらせ 00069150M6んと、一分/自慢(じまん)に/謎禁好物(なぞきんかうもつ)といふ物を/作(つく)り、かな/違(ちがひ)/重言(ちうごん)な 00069160M7ど取まぜ、子細に書つけ、/近比(ちかごろ)むつかしうおはし候はんな 00069170M8れと、(一ウ)随分/工夫(くふう)して、此/作(つくり)物を/解(とい)て御/越(こし)給はれとさ 00069180M9し出す。筍斎さらりと一/返(へん)みる程に、使者置て参らんとい 00069190M10へバ、否+是程の事に、何の/工夫(くふう)も/分別(ふんべつ)もいらずと、/片= 00069200M11端(かた=はし)より/一書(ひとつがき)の/下(した)に書付る。其作物ハ、 00069210M12△△△△/謎禁好物(なぞきんかうもつ) 00069220M13一△かたち△/鯛(たい)△一△春の風△/鯒(こち)△一△/亀井(かめい)か/兄(あに)△/鱸(すゞき)△一 00069230M14△ひとのミ△/鱧(はむ)△一△中ひくな女△/鮃(ひらめ)△一△ひたい/綿(わた)△/鰻(うなき) 00069240M15△一△みやこの/魚(うを)△/鯨(くじら)△一△やくし△/鮹(たこ)△一△/根引揖(ねびきのかち)△/生= 00069250M16貝(なま=かい)△一△/養(やしな)ひ/親(をや)△/敖海鼠(いりこ)△一△やミの/夜(よ)△/海月(くらげ)△一△/寢起= 00069260M17皃(ねおきの=かほ)/鯣(するめ)△一△/近江守(あふミのかミ)△/鮒(ふな)△一△一/刀(とう)△/鯵(あぢ)△一△/絃(つる)かけ△/鱒(ます) 00069270M18△一△ふたつ文字/牛(うし)の角もし△/鯉(こい)△一△/不動(ふとう)△めぐろ△一 00069280M19△/餓鬼(かきの)/食物(しよくもつ)△/鯖(さバ)△一△切たり/突(つい)たり△かまほこ△一△鳥さ 00069290¥P216 00069300¥G 00069310M1し△/餅(もち)△一△/頼光(よりミつ)の/父(ちゝ)△/饅頭(まんぢう)△一△/洪水(こうすい)△/飴(あめ)△一△/小田原(おだハらの)/商(あき) 00069320M2人△/外郎餅(ういらうもち)△一△つきん△/■(かます)△一△やハたの水なし△/鰯(いわし)△ 00069330M3一△/出羽(てわの)/庄司(しやうじ)△/砂糖(さとう)△一△ちかきあたり△そば△一△あは 00069340M4うの川がり△うどん(二オ)(二ウ・三オ挿画)一△大/臣(じん)△/黍(きび)△ 00069350M5一△いよが/隣(となり)△/粟(あハ)△一△手を以て奉る△/大角豆(さゝげ)△一△/亜相(あしやう) 00069360M6△/小豆(あづき)△一△/鮹(たこ)ずり△/大豆(まめ)△一△/押領使(をうりやうしの)侍△/羅葡(だいこん)△一△う 00069370M7なぎの/卵(たまご)△やまのいも△一△/出家(しゆつけ)△/牛房(こぼう)△一△物しり△/苣(ちしや) 00069380M8△一△不/動(どう)の/煙(けふり)△/胡麻(ごま)△一△/風前(ふうぜん)の/灯(ともしび)△/芥子(けし)△一△/売(うり)すて 00069390M9△/葛(くず)△一△毛ふ△一△いまやう△/豆腐(とうふ)△一△/破(やぶ)れ物△/酒(さけ)△ 00069400M10かくのごとく、さら+と書/付(つけ)、/使(つかひ)に/戻(もど)しけり。/作者(さくしや)ハ日 00069410M11を経て、/枕(まくら)を二三十もくだきたるに、/筍斎(じゆんさい)が/頓作(とんさく)、/今更(いまさら)に 00069420M12又/我(が)をおる。 00069430¥N2¥J 00069440¥X二△口の/広(ひろ)きが/勝(かつ)/秀句詰(しうくづめ) 00069450M15ある時又何/者(もの)のわざにや、筍斎か家に狂哥して/張(はり)付る、 00069460M16△△なり下るはてハ/茄子(なすび)の/尻(しり)しきよ 00069470M17△△△/茶(ちや)入のうハぎ身のせばきより 00069480M18/始末(しまつ)/落着(らくぢやく)したる方ハなけれど、/推量(すいりやう)するに、なすびの/尻(しり)し 00069490M19きとハ、へたといはんため計なるべし、/茶(ちや)入のうハぎ/身(ミ)の 00069500¥P217 00069510L1せはきハ、(三ウ)薬が/廻(まハ)らぬといふ事ぞ、いで返哥して閉 00069520L2口させんと、茄子茶入の二種をわけてよむ、 00069530L3△△病人を無事になすびの/□((こカ))もち上 00069540L4△△△わる口いふそへたの皮なる 00069550L5△△せばくても世間の人ハひさうして 00069560L6△△△なでさすらるゝ茶入也けり 00069570L7と/猶(なを)/自慢(じまん)す。又ある日さるおどけもの、筍斎を/当惑(とうわく)させん 00069580L8と/作病(さくびやう)を/拵(こしらへ)、/万(よろづ)/透句(しうく(ママ))にして、おこがましくあなひ乞、/卒爾(そつじ) 00069590L9ながら/某(それがし)ハうんすん町の者で御ざるといへバ、筍斎いはし 00069600L10もはてず、うむすんハ、目ひとつ、/神田(かんだ)の人かととふ。左様 00069610L11てごさる、りやうぢを御むしん申たい、/持病(ぢびやう)に/昔(むかし)の/錠(おきて)を持 00069620L12ました。斎せんきが有じや迄。男ちかき比より、ふとんに 00069630L13/枕(まくら)といふ物を/煩(わづらひ)ました。斎よこねが出たの。男それに/筏(いかだ)を 00069640L14よほど/呑(のミ)ました。斎いや、下し/計(ばかり)でハなをるまひ。男され 00069650L15バ(四オ)秋かせて御さある。斎ふき出る物じや、男此比から 00069660L16四十八枚がはなれて、みふしがなやミまする。斎かさけの 00069670L17しそんじたハ、ほね/痛(いたミ)になりよひ。男ぬまづと/吉原(よしハら)の間が 00069680L18/無用心(ふようしん)に御ざる。斎はら心がわるひの。男なにはのうら風 00069690L19にあてられました。斎あしの/痛(いたミ)もあらふ。男/筆(ふで)/不調法(ぶてうほう)でき 00069700M1のどくな。斎手もまハりにくひしや/迄(まて)。男やゝもすれバ/猿(さる) 00069710M2にこのミをみせたやうにござある。斎いかにも時+気あ 00069720M3がりする物じや。男/継(つき)木が付かねまする、/嵐(おろし(ママ))がはげしひ。 00069730M4斎めもみえにくふ、はもいたむはづじや。男此間ハ/系図(けいづ)を 00069740M5/考(かんがへ)て見まする。斎/筋(すぢ)を引/釣(つる)の。男/淵(ふち)の/底(そこ)がこハ物でこざあ 00069750M6る。斎いかにも/溜(たま)りにならずハよからふと、/言下(こんか)+に/答(こたへ) 00069760M7けれバ、さしもの男、いかさまにも是ほどの/工夫(くふう)物に、つ 00069770M8まらぬ事ハと手ぐすねしてきたれども、/作(つく)り病の/化(ばけ)(四ウ) 00069780M9ぞこなひ、/頭(あたま)/計(はかり)ハふとく/出(で)て、/尾(を)もない/躰(てい)にて帰りけり。 00069790¥N3¥J 00069800¥X三△/薬種(やくしゆ)の/外(ほか)につかひこなす/唐(から)もの 00069810M12よしあしにつけて、人にハ一つのとりへ有けり。もとより 00069820M13/筍斎(じゆんさい)三国/無双(ぶさう)、/医者(いしや)ハ/下手(へた)なれども、とりなりの/異相(ゐさう)と 00069830M14口の/滑稽(こつけい)なるより、/所(しよ)+の/高貴(かうき)の御/屋敷(やしき)へ、なぶり物に 00069840M15召よせられ、/片時(かたとき)の/暇(いとま)なく、あだ口たゝく大/黒(こく)の/槌(つち)、/金銀(きん※) 00069850M16/米銭(べいせん)家にみち、子共も/鼠(ねづミ)にあやかりて、月に十二/疋(ひき)ほどづ 00069860M17ゝうまれ、/富貴(ふうき)はんじやうの身と成て、/家人(けにん)あまたかゝゆ 00069870M18る。/侍(さふらひ)/小者(こもの)、/仕丁(じちやう)四人、小ごしやう、物/縫(ぬひ)、中/居(ゐ)、下/女(ぢよ)な 00069880M19んど、事たりて/置(をき)ならべたり。筍斎おもふに、/医師(いし)といふ 00069890¥P218 00069900L1者ハ、かり/初(そめ)一/言(ごん)いふことも/詞(ことバ)こびて、物しりらしうなく 00069910L2てハ、人の思ひ入、/奥(をく)ふかゝらず、されバ、召つかふ者ど 00069920L3もをも(五オ)何兵衛、何ゑもんハ有ふれておもしうなし、 00069930L4男女ともに/異(い)国人の名をつけてよばんと、先六/尺(しやく)四人を、 00069940L5/陳平(ちんへい)、/張良(ちやうりやう)、/樊噌(はんくわい)、/周勃(しうぼつ)と付たり。侍を/司馬生(しはせい)、ざうり取 00069950L6を/安録山(あんろくさん)、小しやうを/延要伯(ゑんようはく)、物ぬひを/茗都氏(めいとし)、中居を/楓= 00069960L7呂子(ふ=りよし)、女房玉かづらを/西王(せいわう)母、下女を/怒議指露(とぎしろ)と付たり。 00069970L8世人此/銘&(めい+)を聞て、扨かハつたる名どもかなと、愚なる/者(もの)ハ 00069980L9むしやうに/奥(をく)ふかう/信(しん)じて知ず。なま心ある者どもハ、筍 00069990L10斎が例のわるこび、かうした心であらふ、としたりくつて、 00070000L11つけつらふと/種&(しゆ※)に分別し、さたすれど/縁(ゑん)の下の舞、あは 00070010L12ねバしれぬ/皷(つゞミ)の/音(をと)、/直(ぢき)にふしんをうつてみよと、各ゆひて子 00070020L13細をとへど、あさはかに申きかする事にてなし、心をくだ 00070030L14き/解(とき)給へと、殊更の/自賛(じさん)中+(五ウ)いひ出る事なけれバ、 00070040L15扨ハよのつね、ふかき心もこそと/暫(しばし)/信仰(しんかう)らしく成ぬ。よし 00070050L16さらバ、此/侭(まゝ)にいはでも/止(やミ)なバ、少/学問(かくもん)もあるやうに思は 00070060L17れんを、ある時、/酔(ゑい)の上にて、人&/例(れい)のそだてを以て、扨 00070070L18+/当時(とうじ)天が下に、/貴方(きほう)ほど/博学(はくがく)/多才(たさい)の/名医(めいい)、又あらふと 00070080L19もおもはれず、召つかひの者迄、其心にて/呼(よば)るゝなど、き 00070090M1ひてきミよき/薬(くすり)のお家、唐のものどもならてハ、つかふて 00070100M2思ふやうにまハらぬはつじや、出来たのといふ。筍斎/頭(つふり)を 00070110M3ふつて、扨ハかた+ハ/薬種(やくしゆ)に/表(へう)して、/唐(から)の名を呼とおも 00070120M4はるゝや、其やうな/思案(しあん)でハ念もなひ、とけぬが道理、い 00070130M5かふ/違(ちが)ふたと/舌打(したうち)して、あちらむく。人+せきたる/皃に、 00070140M6御/坊(ぼう)の/子細(しさい)らしういはるゝとも、是より何のふかひ/義理(ぎり)が 00070150M7あらふ、さああらバいふてみ給へと/追(をい)(六オ)かくれバ、い 00070160M8ふても皆のやうな/愚昧(ぐまい)な衆ハ請取が有まじけれど、いはね 00070170M9バ心あさきに似たれバ、申てきかせう、先/仕丁(じてう)の名の/陳平(ちんへい) 00070180M10といふハ、今迄の名を/甚兵衛(ぢんへい)といふた/程(ほど)に、取もなをさず 00070190M11其かなを用ひて、かう付た、何ンと、きこゑたかと/扇(あふぎ)づか 00070200M12ひす。人+是にはや/余(よ)を/準(なぞら)へ、思ひすごしの/可笑(おかし)さ、え 00070210M13もいはれず。されど/面白(おもしろし)ともてはやす。抔/張良(ちやうりやう)ハいかにと 00070220M14とふ。是めハ、/茶(ちや)ハ+口をたゝくによつて、/茶売様(ちやうりやう)とい 00070230M15ふ心。/樊噌(はんくはい)といふハ、存の外の大/食(しよく)で一/朝(ちやう)一/夕(せき)ごとに、/飯(はん)九= 00070240M16盃(く=はい)づゝ/喰(くふ)/故(ゆへ)也。/周勃(しうぼつ)ハ、/主(しう)にぼつ+口/答(ごたへ)するよりつくる。 00070250M17/司馬生(しはせい)ハ/当所(たうしよ)/芝(しば)の生れのものなれバ也。/安(あん)六三ハ、/奉公(ほうかう)の 00070260M18/給銀(きうぎん)ことの外やすきによつて、かしらに/安(やすき)の字をおく、六 00070270M19三ハ九月よりかゝへたるゆへ也、/延要(ゑんよう)(六ウ)/伯(はく)ハ、きれい 00070280¥P219 00070290L1ずきにて、取わき/縁(ゑん)をよくはくといふ事、物/縫(ぬい)の/茗都氏(めいとし)ハ、 00070300L2めつきがいとしといふ事、中将/楓呂子(ふりよし)ハ、ふりよしといふ 00070310L3心、下女ハ/米(こめ)をしろくとぐ事、/上手(じやうず)なれバ、/怒議指露(とぎしろ)、さ 00070320L4て女/房(ぼう)どもを/西王母(せいわうぼ)といふハ、是が/生国(しやうこく)山/城(しろ)のふしミなり、 00070330L5/伏見(ふしミ)ハ/無双(ぶさう)の/桃(もゝ)の/名所(などころ)、されバ其/林(はやし)より出たれバ、かくハ 00070340L6よび侍る也、何ンといつれも/我(が)がおれたか。されバ+一 00070350L7/代(だい)の/我(が)を皆おつた。扨+/承(うけたまハり)事、/傍(そば)で/恥(はづ)かしひほどに、 00070360L8さらバといひてかへる。 00070370¥N4¥J 00070380¥X四△やまと/窓(まど)ハ/無理咄(むりはなし)の/逃道(にげミち) 00070390L11/往昔(そのかミ)/帝都(ていと)に在しほどは、すぐれて/貧(まづしく)/朝夕(あさゆふ)の/烟(けふり)だにたえま 00070400L12がちなる中にも、心計ハ男/独(ひとり)、月の/名所(なところ)花の山、いたら 00070410L13ぬくまもなき/遊好(あそびずき)なりかし。まして今/富貴(ふうき)/栄耀(ゑいよう)の/東都(とうと)の/住(すま) 00070420L14ゐ、/万(ばん)(七オ)/里(り)を下にみおろす。上のゝ花の/遊興(ゆうけう)、/雲井(くもゐ)を 00070430L15うつす。/角田川(すミだがハ)の月の/翫水(ぐわんすい)/酔(ゑい)の/隙(ひま)なきに心/紛(まぎれ)て、其かた此 00070440L16かたの行/見舞(ミまひ)/怠(をこたり)がち也。ある日、/去仏法(さるぶつほう)ずきの家に罷け 00070450L17るに、いかに此程ハ/音信(いんしん)もなかりけるやと/尋(たつね)らる。筍斎/件(くだん) 00070460L18のついさうに、ちかき此ハ/拙子(せつす)も殊外/後(こ)世心いできまして、 00070470L19諸/寺(じ)の/参詣(さんけい)に/暇(いとま)あらず、わきて此程/我師(わがし)の寺に千/部(ぶ)の御/経(きやう) 00070480M1有て、毎日まうづる、けふハ/中(ちう)日ゆへ、けさより参り、只 00070490M2今/下向(げかう)いたす、/余(あまり)無/音(ゐん)に侍る程に、/推参(すいさん)仕ぬと云。まざ 00070500M3+/虚(うそ)らしく思ひながら、ちか比/殊勝(すしやう)にこそ候へ、其千部 00070510M4と云ハ/幾日(いくか)のほどにみつるや。日ごと百部つゝ/誦(ず)して/満足(まんぞく) 00070520M5十日の物といふ。/夫(それ)ならバ不/審(しん)あり、三五七九の物にハ中 00070530M6日といふ有べし、何ンぞ十といふ内に、中日あらん、扨も 00070540M7/不都合(ふつがう)や、うそと(七ウ)(八オ挿画)いふ物も、/始終(ししう)のくゝ 00070550M8りあしければ、此やうにはやくしるゝ、/妄語(もうご)の/罪(つミ)おそろし 00070560M9やと笑わる。筍斎とりあへず、せはくも心得給ふ物かな、 00070570¥G 00070580¥P220 00070590L1四/教(きやうに)ハ中道を/説(とき)、十/哲(てつ)に/仲弓(ちうきう)あり、四書に中/庸(よう)有、四つ/御= 00070600L2器(ご=き)に中/椀(わん)あり、十ありとても/豈(あに)/中(ちう)日なからんやと当話の才 00070610L3覚、/理不尽(りふじん)にいひこなしけるにぞ、座中/我(が)をおりて、誠に/俗(ぞく) 00070620L4にいへる、人の口に/戸(と)がたてられぬと、おそらく其方の/門(かと)口 00070630L5ならんと入興ある。一座に侍ひける/発心者(ほつしんじや)の出、けいはく 00070640L6らしく/笑(わらひ)て、扨&/旦那(だんな)様の/戸(と)の/立(たて)られぬに、/門(かど)くちの取合、 00070650L7又珍しうごさります、何と筍斎老、/可笑(をかしう)ハ御ざなひかとい 00070660L8ふ。いかにも大/笑(わらひ)をいたすが、/腮(あぎと)のかけがねかはづれふか 00070670L9と存、きつかひなといふに、/座(ざ)中又興ずる。其/■(かけかね)の/序(ついで)に 00070680L10筍斎にとふ事あり。(八ウ)/仮令(たとへ)バ/居間(ゐま)、/広間(ひろま)なんどいふハ、 00070690L11さし/当(あたり)て/聞(きこ)へたる事也、/台(だい)所といふ名ハいかにしてつけ/来(きたれ) 00070700L12る物ぞ。斎/聞(きゝ)て、されバ/高(たかき)も/賎(いやしき)も、/夫(おつと)ハ/外(ほか)を/勤(つとめ)、女ハ内を 00070710L13/治(おさむ)る世の/式(しき)なり。/御台(ミだい)所と云心にや、然(しから)バ又/都鄙(とひ)の家ごと 00070720L14に/大和窓(やまとまと)といふ有。是も/伊与簾(いよすだれ)、/讃岐円座(さぬきゑんざ)などハ、其国よ 00070730L15り出る/名(めい)物なるによりて、其名をいふ、/窓(まど)をやまとゝ云も、 00070740L16是その国より/始(はじめ)てし出したる/工(たくミ)にや、/左(さ)にてハ侍らず、/文= 00070750L17字(も=じ)を大和と御心得ある故、此名の/義理(ぎり)きこえぬに侍り、此 00070760L18/窓(まど)ハ是/家内(かない)に/明(あか)りをとらん/為(ため)、又ハ/竃(かまど)の/煙(けふり)を出す道なる故、 00070770L19/日本窓(やまとまど)と書侍り、ひのもとゝ/唱(となふれ)ハ、/烟(けふり)の/縁語(ゑんご)もうすく、/篭(こも) 00070780M1り申といひ出せバ、/利口(りこう)をかんじて/承(うけたまハり)事かなと/讃(ほめ)たつ 00070790M2れバ、/例(れい)のしだり/皃(がほ)に/髪(ひげ)をなでゝ、まだ比やまと/窓(まど)に、あ 00070800M3またの/名(な)有、/定(さだめ)て御存あるまひ、/語(かた)り申さん、先(九オ)雨 00070810M4のふミかふり、/霰(あられ)のたねが嶋、/猫(ねこ)の/忍路(しのびぢ)、/竃(かまど)の/鴈首(がんくび)、/雷(かミなり)の 00070820M5/落穴(をとしあな)、風の/細炉路(ほそろじ)、やね屋が/井(ゐ)のもとなどいひちらすを、 00070830M6/子細(しさい)ハととはれて、/当惑(とうわく)し、大やねに口のあいた/侭(まゝ)に、い 00070840M7ひ事ハ/云(いふ)たが、/己(をれ)も/知(しら)ぬと/逃(にげ)て帰る。 00070850¥N5¥J 00070860¥X五△/病(やまひ)の/判事(はんじ)物ハ/富貴(ふうき)の下/地(ぢ) 00070870M10/武陽(ぶやう)に/双(ならび)なき大/有得(うとく)人のもとより、あるはんじ物を/作(つくり)て、 00070880M11筍斎へ持せ/遺(つかハ)し、此/病(やまひ)を/察(さつ)して/薬(くすり)を/給(た)べといふ。其/絵図(ゑづ)を 00070890M12みれバ、/牛車(うしくるま)に大なる/団(うちハ)をのせたる所、/雪中(せつちう)の/荻(おぎ)の/村立(むらだち)、 00070900M13/社檀(しやだん)に/皷(つゝミ)一/挺(てう)、/尾花(をはな)の/乱(ミだれ)たる/気色(けしき)、/弁慶(へんけい)が/勧進(くわんじん)帳よむ所を 00070910M14書たり。/頓而(やがて)、/片端(かたはし)より/判談(はんだん)し、薬を/添(そへ)て/使(つかひ)を帰す。/作者(さくしや) 00070920M15/披覧(ひらん)する/判(はん)じ/様(やう)の心、/我趣向(わがしゆかう)/露(つゆ)たがハす。 00070930M16△△△/判事(はんじ)物の/図絵(づゑ)(九ウ)(十オ挿画) 00070940M17/車(くるま)に大/団(うちわ)@つよく風を引|たるハ物うし@△/雪中(せつちう)の/荻(をぎ)@あらしさむく|てしハがれ声@ 00070950M18/社檀(しやだん)の/皷(つゞミ)@かミのうつハ|人めにみえず@△/尾花(をはな)の/乱(ミたれ)@風よりをこるつ|ふりのふらつき@ 00070960M19/弁慶(べんけい)が/勧進帳(くわんじんちやう)@とめにくき/俄(にわか)|のせき△△△@と書て/咳(がい)気の薬一/貼(ふく)をそへたり。 00070970¥P221 00070980¥G 00070990L12此人此/頓作(とんさく)に/肝(きも)をけし、聞及たるより/面白(おもしろ)き/坊主(ほうず)哉と、此 00071000L13のち/睦(むつましく)/語(かたり)て、無二の中と成ぬ。ある時筍に云。我/栄花(ゑいぐわ)に/遊(あそび) 00071010L14て、何わざにも不/足(そく)せず、されど/初老(しよらう)に今迄、子といふも 00071020L15のなし、何と是に能薬ハ有まじきかととふ。/斎(さい)/答(こたへ)て、能薬 00071030L16こそ候へ、拙者丸といふ有、おこがま敷候へど、/某(それがし)めに/呵(あやか) 00071040L17り給はゞ、子どもにふそくあらじ、/実(げに)、/俗(ぞく)に云、万/宝(ぼう)より 00071050L18子ひとりと、まして我等ハありそ/海(うミ)の/浜(はま)のまさご計/数(かす)/多(おほく) 00071060L19候へど、あかぬ物に侍り、是を聞召とさし出す。見れバ、 00071070M1△△つミ立る/宝(たから)の/蔵(くら)の/梯(のぼりはし) 00071080M2△△△ふたおやそひて子どもかす+(十ウ) 00071090M3と/読(よめ)り。何か薬をくるゝと思ひしに、是ハ只当座の/狂言(きやうげん)、 00071100M4/信仰(しんかう)らしくもおもはずなから、御あいさつ満足しぬといひ 00071110M5て立ぬ。/誠(まこと)に時を得てハ/狐(きつね)に虎(とら)の/勢(いきおひ)あり。/古(いにし)への/貧神(ひんじん)、今 00071120M6の斎が/福力(ふくりき)に、けをされて、いふ程の事、なす程のわさ、 00071130M7/幸(さいわひ)ならぬなし。/彼哥(かのうた)/読(よミ)し/砌(ミぎり)より、其人の/内室(ないしつ)/懐胎(くわいたい)して、 00071140M8/玉(たま)のおのこ子をまうけにけり。/悦(よろこひ)の/余(あま)りに、筍斎ハ是たゞ 00071150M9人に/非(あら)ず、つたへきく/泉式部(いづみしきふ)、/能因(のうゐん)が哥を/読(よミ)て、/雨(あめ)をふら 00071160M10せしためし、夫ハ上代是ハ未世、それハ/勅命(ちよくめい)是ハ/凡言(ほんげん)、ふ 00071170M11しぎにも/読(よミ)かなへけるよと、/俄(にわか)に/賞翫(しやうくわん)/信仰(しんかう)して、/偏(ひとへ)にわ 00071180M12たもちの神のごとくおもふより、此返礼に大きなる/屋敷(やしき)に、 00071190M13いゑゐひゞしく/造(つくり)て、/金筥(きんきよ)の山をつき、/酒樽(しゆそん)の/泉(いづミ)をたゝへ 00071200M14て、そこに/住(すま)せ、/則(すなハち)一/子(し)のえぼしおやとうやまふ。なにハ 00071210M15につけて、/闇(くら)ひこと(十一オ)なひ月日のくらし、出るやら 00071220M16入やらわすれて、/遠(とを)き/古(いにし)へを思ひ出たる時、よめる、 00071230M17△△いづるとも入とも物をおもはねバ 00071240M18△△△心にかゝる/借銭(しやくせん)もなし 00071250M19此/栄(さかへ)をおもふに、/唯(たゞ)くらまに/読(よミ)し百のお足の/働(はたらき)より万/倍(ばい)し 00071260¥P222 00071270L1て、大福人に成けり。世人/昔(むかし)の/蛙子(かへるこ)をいひ/止(やミ)て、/福録寿(ふくろくじゆ)と 00071280L2/異名(ゐめう)するハ、正直のかうべ長く久しかるべきためし、/諸= 00071290L3願(しよ=ぐわん)/成就(じやうじう)皆令(かいれう)/満足(まんぞく)、/敬(うやまつて)/白(まうす)。 00071300¥Q 00071310L5△△△△△△△△帝畿三条通油小路東江入 00071320L6△貞享第四歳△△△△△△△△西村市郎右衛門 00071330L7△卯△△△△△△△△△書林 00071340L8△△芳春吉辰日△△△△△△△坂上庄兵衛 00071350L9△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△彫刻(十一ウ) 00071360¥P223 00071370¥U噺本大系△第四巻 00071380¥T篭耳 00071390¥G 00071400¥Y 00071410L16貞享四年刊 00071420L17艸田斎著 00071430L18大本五巻 00071440L19稀書複製会本 00071450¥Y/篭耳(かごみゝ)/序(じよ) 00071460M3/耳(みゝ)に/地獄耳(ぢごくみゝ)あり、/篭耳(かごみゝ)あり、/聡(みゝとき)あれば/聾(つんぼ)あり、/果報耳(くわほうみゝ)あれ 00071470M4ば/貧苦耳(ひんくみゝ)あり、/大耳(たいに)あれバ/小耳(しやうに)/有(あり)、/曲耳(まがりみゝ)あれバ/剪耳(そぎみゝ)あり、 00071480M5/蛇耳(じやみゝ)/有(あれ)ば/兎耳(うさぎミゝ)あり、いづれに/甲乙(かうをつ)あれど、/別(わけ)て/左耳(さに)に/聞(きゝ)て 00071490M6/水(ミづ)もたまらず、/右耳(うに)に/泄(もる)る/篭耳(かごミゝ)こそ/疎(うたて)おぼゆれ。されバ/唐(もろこ) 00071500M7の/人(ひと)は/紳(しん)にしるし/笏(こつ)に/書(かき)て、/忘(わする)る事をおそるといへば、/余(よ) 00071510M8が/篭耳(かごみゝ)に/倦(うん)じて/書(かき)とめし/反古堆(ほうごたい)の(一オ)/中(なか)に、/世話(せわ)の/出所(しゆつしよ) 00071520M9ばなしのありしを見/出(いたし)ぬ。/誠(まこと)に/世(よ)の/人(ひと)の/哥(うた)ハ/皆目(かいもく)なれど、 00071530M10/恋(こひ)すれば/自然(おのづ)とよみつらぬるかことく、/理(り)ハ/盲矇(もんもう)なれど/談(はなし) 00071540M11にハ/猪踞(ちよつこ)と/世話(せわ)を/引(ひく)なれば、/儻(もし)われと/等(ひと)しき/篭耳(かごみゝ)の/人(ひと)あら 00071550M12んにハ、/出所(しゆつしよ)しらしめむと/梓(あづさ)に/入(いれ)ぬ。 00071560M13△△△△△△△△△△△△△△△△△艸田斎書(一ウ) 00071570¥P224 00071580¥Y1/篭耳(かごみゝ)/巻之(けんの)一 00071590L3△△一△/遠(とをいハ)/花香(はなのか)△とくりの/君(きミ)をしのぶ/眠蔵(めんぞう) 00071600L4△△△△△△△△付タリあんにちがふた御/室(むろ)の/僧庵(そうあん) 00071610L5△△二△芸依道賢△/才智(さいち)おそろし/山(やま)うばの/脇(わき) 00071620L6△△△△△△△△△△付タリ/大蔵(おほくら)うづらのやき鳥 00071630L7△△三△捨身有浮瀬△/名(な)ハ/世(よ)になる/田(た)/孫六(まごろく)が/沙汰(さた) 00071640L8△△△△△△△△△△△付タリちやうせん/陣(ぢん)/高名(かうミやう)の/楽書(らくしよ) 00071650L9△△四△豪古国裏鬼△/元興寺(かごし)にかましよすだくわらんべ 00071660L10△△△△△△△△△付タリきミが/畑(はた)うぶめ物がたり 00071670L11△△五△穴賢無恙△ことバのはなもさく/芋(いも)の/茎(くき) 00071680L12△△△△△△△△△付タリ/男女(なんによ)ふたなりの/弁(へん)(一オ) 00071690L13△△六△神宜禰風俗△/神(かミ)の御くじも/粟津(あわづ)の/八幡(はちまん) 00071700L14△△△△△△△△△△付タリ/漢(かん)の/武帝(ぶてい)はゝきぼしの/論(ろん) 00071710L15△△七△命在食△/武家(ぶけ)のごくらくしよく/人(にん)の/地獄(ぢごく) 00071720L16△△△△△△△△付タリ八でう/敷(しき)の/脾胃(ひゐ)からにあるた 00071730L17△△△△△△△△めし(一ウ) 00071740¥T1/篭耳(かごみゝ)/巻之(けんの)一 00071750¥N1¥J 00071760¥X一△/遠(とをいハ)/花香(はなのか) 00071770M5/遥(はるか)に/人家(じんか)を見て、/花(はな)あれバすなハち入と、/楽天(らくてん)が/詠(ゑい)ぜしハ、 00071780M6ふるし。さのミものを/目(め)にて見るものかは。にほひなどハ 00071790M7かりのものなれども、かならず心ときめきすると、/吉田(よしだ)の 00071800M8/法師(ハうし)ものべ/侍(はんべ)られし也。 00071810M9こゝに/玉(たま)しきのミやこがたに、あふさきるさにおもひミた 00071820M10るゝ/色(いろ)このミの/男(をとこ)あり。もみぢかつちりて、/霜(しも)いとしろふ 00071830M11をける/冬枯(ふゆがれ)の/黄昏(たそかれ)に、/西山(にしやま)/御室(をむろ)のあたりを/過行(すぎゆく)ことありし 00071840M12に、人はなれなる山のそハにわらやに/柴(しば)の/扉(とぼそ)をたて、さな 00071850M13がら/僧庵(そうあん)ともみえず、又/在家(ざいけ)ともなく、/心(こゝろ)(二オ)(二ウ・三オ 00071860M14挿画)あるさまにすみなしたる所あり。ふきくる/嵐(あらし)に、えも 00071870M15いわれぬにほひ、さとかほりたり。/年(とし)のうちよりさく/梅(むめ)の、 00071880M16にほひにもあらず。/春(はる)ならねバ/桜(さくら)ハ、ほどゝをし。いかな 00071890M17る/君(きミ)の/袖(そで)のうつりがにもや、かゝる所に、かく/色(いろ)めきたる 00071900M18にほひ、あるべきにあらず。さだめてわれにひとしき/色(いろ)こ 00071910M19のミの人、/妻(つま)などいざなひて、人めをしのび、かくみやこ 00071920¥P225 00071930¥G 00071940M1とをき所にわび給ふにや。/色(いろ)このまざらん人は、かくこそ 00071950M2あらまほしけれと、はやうつり心にをくゆかしくなりて、 00071960M3/軒(のき)ちかく/立(たち)より、/嵐(あらし)をふせぎて/夜(よ)のふくるまでたちぎゝし 00071970M4けれバ、あんのごとく/男(をとこ)のこゑして、さむけき/夜(よ)もすがら、 00071980M5ひやゝかなるふすまも、/君(きミ)がゐ給へばこそあたゝかにおぼ 00071990M6ゆれなどたわふれけれバ、かの/男(をとこ)/聞(きゝ)(三ウ)て、いよ+た 00072000M7へかね、/足(あし)をそらになし、/戸(と)のすきあひに/咀(かぶり)つくまでとり 00072010M8つき、のぞきぬれバ、あやしの/戸(と)はづれて、うちへたをれ 00072020M9けるにぞ。うちよりすさまじや、/六十(むそぢ)あまりの/色(いろ)くろき/法= 00072030M10師(ハう=し)いであひて、こハなに物ぞとおどろきわめく。かの/男(をとこ)も 00072040M11/興(けふ)をさまし、しか+のやうすをさんげしけれバ、/法師(ハうし)も 00072050M12おかしくおもひて、これ+われらが/君(きミ)ハこれなりとて、 00072060M13三/升(じやう)/入(いり)の/大(おほき)な/陶(とくり)をとりいだしてみせけり。/嗅(かい)で見たれバ、 00072070M14/荒木酒(あらきさけ)を/越(こす)+つめをきけり。かのえならぬにほひハ、こ 00072080M15の/香(か)にてこそと、おかしくもはづかしくも、わび/言(こと)まじり 00072090M16にかへりぬ。 00072100¥N2¥J 00072110¥X二△芸依道賢 00072120M19/杜盧(くもまい)/軽態(かるわざ)/品玉取(しなたまとり)も、/奇特(きどく)とおもへばきどく、/屏風(びやうぶ)(四オ)ご 00072130¥P226 00072140L1しの/賽投(さいなげ)/軽板(かるた)の/手目(てめ)も、/不思議(ふしぎ)とをもへバ/不思議(ふしぎ)なり。/諸= 00072150L2芸(しよ=げい)ともに、その/道(ミち)しらぬ人の/眼(まなこ)よりハ、/神仏(かミほとけ)のやうにをも 00072160L3ハるゝなれど、おのれがえたる/芸(げい)にハ、きハめて/妙(めう)をつく 00072170L4すもの也。 00072180L5そのかミ/大蔵(おほくら)といふ/狂言師(きやうげんし)、十/歳(さい)ばかりのとき、さるかた 00072190L6の/能(のう)にて、/山姥(やまうば)のあいをかたりしとき、/脇(わき)いでゝ/名乗(なのり)をな 00072200L7のりて、/道行(ミちゆき)のうたひ/出(いだ)しをわすれたり。/脇師(わきし)もさるもの 00072210L8にて、/柱(はしら)のもとより、/所(ところ)の人のわたり候か、これハ/都(ミやこ)がた 00072220L9のものにて候、/信濃(しなのゝ)の/国(くに)へのミち/行(ゆき)をおしへて給り候へと 00072230L10いひけれバ、/大蔵(おほくら)出あひて、/都(ミやこ)をいでゝさゝ/波(なミ)や、/志賀(しが)の 00072240L11うら/舟(ふね)こがれ/行(ゆく)、すへハあらちの山こへて、/袖(そで)に/露(つゆ)ちる/玉= 00072250L12江(たま=え)の/橋(はし)、と御たづね候て、御/通(とお)りあれとをしえけるハ、ま 00072260L13ことに/後(のち)(四ウ)に/狂言(きやうげん)の/名人(めいじん)とよバるゝほどのものなれハ、 00072270L14/幼少(ようしやう)の/時(とき)より、わが/芸(げい)に、/発明(はつめい)なる所あらわれたり。/後生(こうせい) 00072280L15おそるべしとかや。この/大蔵(おほくら)/成人(せいじん)のゝち、/鶉(うつら)をすきて/飼(かい)け 00072290L16る。ある時、/江戸(ゑど)へくだるとて、/道中(だうちう)はたご屋の/門(かど)に、/篭(かご) 00072300L17に入て/鶉(うづら)のかけてあるを、/通(とを)りがけに、ふと/聞(きゝ)けれバ、な 00072310L18くこゑふとく/七(なゝ)さがりの/名鳥(めいてう)なり。/大蔵(おほくら)きくといなや、は 00072320L19や此/鳥(とり)ほしくなりて、いまだ日も八つじふんなれども、此 00072330M1はたご屋に、ゝハかにとまりて、かさねての/江戸(ゑど)上下に/常= 00072340M2宿(じやう=やど)にせんなど、ねんごろにいへバ、ていしゆ/夫婦(ふうふ)もよろこ 00072350M3び、ちさうをする。さて/件(くだん)のうづらを/所望(しよもう)せんとおもへど、 00072360M4ていしゆも/秘蔵(ひそう)すべきを、そつじにいひかけんも/無下(むげ)なり 00072370M5と、ゑんりよして、ゑいひはなたず。ぜひに上りにハ/所望(しよもう) 00072380M6し(五オ)かけん物をと、心だくみして、なに事なく、下り 00072390M7にハまづ立ぬ。さて/江戸(ゑど)をしまいて、上りさまに、くだん 00072400M8の/宿(やど)にとまりて、ていしゆ/夫婦(ふうふ)をよび/出(いだ)し、/江戸(ゑど)みやげな 00072410M9にがなとおもへど心はかり也とて、/女房(にようバう)にハ/浅草嶋(あさくさしま)壱/端(たん)、 00072420M10ていしゆにハ/金子(きんす)壱/歩(ぶ)に/阿部川(あべかハ)の/紙子(かミこ)をそへてとらせける。 00072430M11/夫婦(ふうふ)よろこび、/槌(つち)にて/庭(にわ)をはく。さて/件(くだん)のうづらに/気(き)をつ 00072440M12くれバ、下りにきくにたがハず、いよ+よき/鳥(とり)なれバ、 00072450M13/夜(よ)あけなば/立(たち)さまに、/所望(しよもう)しかけんと、よもすがら、心だ 00072460M14くみして、やう+たちさまにおよびぬれバ、/大蔵(おほくら)ていし 00072470M15ゆをよびて、さて+/無心(むしん)がある、/聞(きゝ)て給るべしやといふ。 00072480M16ていしゆきゝて、何/事(ごと)なりとも御心をきなく/仰付(おほせつけ)らるべし 00072490M17といふ。しからバ、ていしゆもちか/比(ころ)ひそうにおもわるべ 00072500M18けれども、/飼(かい)おかれたる(五ウ)うづら、もしわが/手(て)に入り 00072510M19候ハゝ、なにより/過分(くわふん)にぞんずへしといふ。ていしゆきゝ 00072520¥P227 00072530L1て、よこ/手(て)をちやうどうつて、さて+いかなる/御無心(ごむしん)ぞ 00072540L2とこそ/存(そんじ)候へ、いとやすき御/用(よう)にて候/物(もの)を、そのうづらハ、 00072550L3いつぞや/子(こ)どもが、/野(の)にてとらゑきたり、かごに入/飼(かい)をき 00072560L4候が、なにもさかな御ざなく、なにがな御ちさうにとぞん 00072570L5じ、そのうづらを、けさの御/料理(りやうり)にしめてつかい申たり、 00072580L6けさあがりましたやき/鳥(とり)、ハその御/所望(しよもう)のうづらにて候と 00072590L7申けれハ、/大蔵(おほくら)/興(けう)をさまし、心だくみもいたづらになりて、 00072600L8にが+しくも/立(たち)いでぬ。/浅草嶋(あさくさしま)に/金(きん)壱/歩(ぶ)ハあつたら事の。 00072610¥N3¥J 00072620¥X三△捨身有浮瀬 00072630L11/福嶋家(ふくしまけ)に/吉村(よしむら)とかやいふ/侍(さふらい)のうちに、/鳴田(なるた)/孫六(まごろく)といふ(六 00072640L12オ)ものあり。そのかミ/秀吉公(ひてよしこう)/朝鮮(ちやうせん)をせめ給ふとき、孫六 00072650L13も/軍(いくさ)に/立(たち)しに、もろこし/釜山海(ふさんかい)のみなとにて、ある/舟(ふな)わた 00072660L14しを/大勢(おほぜい)/小舟(しやうせん)にのりてわたる。みな六/具(ぐ)しめし/武士(ぶし)ども、 00072670L15/鑓(やり)/長刀(なぎなた)/鉄鉋(てつハう)のおもき/道具(だうぐ)をもちたれバ、/舟(ふね)ハちいさし、/川= 00072680L16中(かわ=なか)にて/舟(ふね)しづむ。人ミなあわてふためきて、/水(ミづ)にとび入 00072690L17+するに、あるひハ/水(ミづ)におぼれてしするもあり。又/水心(ミつこゝろ) 00072700L18しりたるは、/岸(きし)におよぎつきたれども、/両腰(りやうこし)ともにすてゝ、 00072710L19/命(いのち)ばかりをたすかりたり。/孫六(まごろく)ひとり/長刀(なぎなた)を/杖(つえ)につき、/舟(ふな) 00072720M1ばたにふんばり、/身(ミ)をすてゝ/舟(ふね)とゝもにそ/沈(しづミ)ける。かくて 00072730M2よのものはみな、/水(ミつ)にとび入+およぎけるほどに、あと 00072740M3ハから/舟(ふね)になり、/孫六(まごろく)ばかりハ/水(ミづ)きわまで又う/い((ママ))ミいでぬ。 00072750M4そのまに(六ウ)(七オ挿画)たすけ/舟(ふね)どもよりて、孫六をた 00072760M5すけのせぬ。大小をもそのまゝさして、/命(いのち)たすかりしハ/孫= 00072770M6六(まご=ろく)壱人なりければ、/比類(ひるい)なき/高名(かうめう)をとりけるを、/楽書(らくしよ)して、 00072780M7△△もろこしもすてずにしづむ/日(ひ)の/本(もと)の 00072790M8△△△/武士(ぶし)の/手(て)がらに/鳴田(なるた)/孫六(まごろく) 00072800¥G 00072810¥P228 00072820¥N4¥J 00072830¥X四△蒙古国裏鬼 00072840L3/小児(しやうに)の/啼(なき)を/止(やむ)るとき、むくりこくりの/鬼(をに)が/来(く)るといふ事、 00072850L4/後宇多院(ごうだのゐん)の/弘安(こうあん)四年、/北条時宗(ほうでうのときむね)が/執権(しつけん)のとき、もろこし、 00072860L5/元(げん)の/世祖(せいそ)、たび+/日本(につほん)をせめける事あり。/元(げん)の/国(くに)を/蒙古= 00072870L6国(もうこ=こく)とも云也。/世祖(せいそ)よりこのかた、/大元(たいげん)と/号(がう)せり。さるによ 00072880L7つて、むくりこくりといふハ、/蒙古(もふこ)/国裏(こくり)といふ事のいひあ 00072890L8やまち也。/鬼(をに)がくるとハ、この/夷賊(いぞく)を云(七ウ)なり。又い 00072900L9とけなき/子(こ)を/威賺(おどしすかす)ときに、/顔(かほ)をしかめて/元興寺(がごじ)といふ事あ 00072910L10り。むかし/大和(やまと)の/国(くに)/元興寺(ぐハんごうじ)といふ/寺(てら)に、/鬼(をに)すみて人をな 00072920L11やますとて、/世間(せけん)さハがしき事有。/本朝(ほんてう)/文粋(ぶんずい)に見えたり。 00072930L12これよりして/元興寺(がごじ)とて、/顔(かほ)をしかめておどせバ、/小児(しやうに)な 00072940L13きやむといえり。又/小児(しやうに)を/賺(すか)しゆぶるとき、/虎狼来(こ△ろ△ろん△△△|とらおほかめきたる)+と 00072950L14いふ事もあり。もろこしにてハ/張遼来(ちやうれうらい)といへハ、/小児(しやうに)なき 00072960L15やむとあり。/張遼(ちやうれう)といふもの、たけき/兵(つハもの)にてありしと也。 00072970L16又/日本(につほん)にて/手(て)をくみ、/皃(かほ)にあて、/手&甲(ぜぜががう)といふて、/小児(しやうに)を 00072980L17おどす事もあり。/予(よ)がいとけなきとき、/乳母(めのと)どもが、/姑獲= 00072990L18鳥(うぶ=め)が/来(く)るといへば、/身(ミ)にしミておそろしき/夜(よ)おゝかりし。 00073000L19/姑獲鳥(うぶめ)といふ/鳥(とり)は、/産(さん)にて/死(し)したる人の/化(け)したる也。この 00073010¥G 00073020M12ゆへに、/胸(むね)のまへに(八オ)/両(ふたつ)の/乳(ち)ありて、かたち/梟(ふくろう)ににた 00073030M13り。/雄(をんと)なふして七八月のあいだ、よな+いでゝなく、/毒= 00073040M14鳥(どく=てう)也。このんで人の/子(こ)を/取(とり)やしなひて、わが/子(こ)とせり。/小= 00073050M15児(しやう=に)の/衣類(いるい)を/夜(よる)そとに/露(ほす)べからず。この/鳥血(とりち)をはきかけて、 00073060M16しるしとすれバ、その/子(こ)つゐに、わづらひて/死(し)す。この/病(やまひ) 00073070M17を/無辜疳(むこかん)といふ。/小児(しやうに)をもちたる人、きゝおくべし。 00073080M18/近江(あふミ)の/国(くに)/栗本(くりもと)の/郡(こほり)に/君(きミ)が/畑(はた)といふ/在所(ざいしよ)あり。この/在所(ざいしよ)に、 00073090M19すぐれておくびやうなる人あり。あるとき五六/里(り)ばかり、 00073100¥P229 00073110L1/隣郷(りんごう)に/用(よう)の事ありてゆきしに、かへるさに人の/子(こ)をあづか 00073120L2りて、つれてかへりけるが、/半途(はんミち)ばかりゆけバ、やう+ 00073130L3日もくれにおよびぬ。道はたに/墓所(むしよ)あり。このところにハ 00073140L4/姑獲(うぶめ)ありて、人を/追(おふ)と、かねて/聞(きゝ)およびけれバ、日くれぬ 00073150L5さきに(八ウ)と、あしはやにゆく。つれられし/童(わらんべ)つゞきか 00073160L6ねて、のふまち給へ+、われをバすて給ふかと、あとよ 00073170L7りよバゝるを/聞(きゝ)て、すハや/姑獲(うぶめ)よと、あともみず/息(いき)をきら 00073180L8して、はしる。かのわらんべ、なをつゞきかねて、まち給 00073190L9へ+と、しきりによバゝる。この/男(おとこ)あとふりかへり見れ 00073200L10バ、人の/物(もの)がたりにたがハずちいさき/子(こ)なるが、なきわめ 00073210L11きて、おひかくる。この/男(おとこ)ミて/腰(こし)をぬかし、/足(あし)をふるハし 00073220L12て、/今(いま)ハ一あしもすゝまず。そのまにわらんべおひつき、 00073230L13やがてしがみ/付(つき)て、のふうらめしの人や、なにとてわれを 00073240L14バすて給ふぞ、つれてゆき給へ、/負(おわ)れてゆかふとせなかに 00073250L15とりつく。此/男(おとこ)/気(き)をとりうしなひ、/命(いのち)をたすけよ、やれ 00073260L16/姑獲(うぶめ)よ+と/息(いき)のしたよりよバゝる。/墓所(むしよ)のあたりより、 00073270L17/手(て)に+/松煙(たいまつ)ともしてかけより(九オ)よびいけ、/気(き)をつけ 00073280L18などして、/在所(さいしよ)にをくりとゞけゝる。 00073290¥N5¥J 00073300¥X五△穴賢無恙 00073310M3/上古(しやうこ)ハ、もろこしにても/巣居穴処(そうきよけつしよ)すといえり。/日本(にほん)にて 00073320M4も、/人(ひと)の/代(よ)となりてのはじめハ、人いまだ/家(いへ)を/立(たて)てすむこ 00073330M5とをしらす。/地(ち)に/穴(あな)をほりてすまゐしける/時(とき)、/地(ち)のなかに 00073340M6/恙(つゝが)といふ/虫(むし)ありて、人を/螫(さし)けると也。/是(これ)よりして、/書状(しよじやう)の 00073350M7/文躰(ぶんてい)に、人の/無事(ぶじ)なる事をとふに、無恙候哉とかくこと 00073360M8也。/下学集(かがくしう)に見えたり。又/上代(じやうだい)の/文(ふミ)のおハりに、/穴賢(あなかしこ)と 00073370M9/書(かく)も、/地(ち)の/穴(あな)を、かしこくとぢふさぎて、/恙虫(つゝがむし)にさゝれぬ 00073380M10やうにとの心也。/今(いま)/女(をんな)の/文(ふミ)のをハりにかしこと書ハ、あなかし 00073390M11こといふを/略(りやく)してかしこと/書(かく)なり。又/女(をんな)の/文(ふミ)のうハ/書(かき)にまいると 00073400M12/書(かく)ハ、◇まいる◇とかくかなの/略(りやく)(九ウ)(十オ挿画)なり。/文(ふミ)のう 00073410M13らに£と/書(かく)ハ、◇より◇とかくかなの略也。ミな/女(をんな)にかぎりた 00073420M14る/義(ぎ)也。しかるを、/男(をとこ)の/文(ふミ)に、£、まいる、などかく事あり。 00073430M15/書(かく)べからず。/文(ふミ)のミにあらず。/気(き)をつけてみるに、/男女(なんによ)の 00073440M16わざにも、/混雑(こんざつ)したる事いくらもあり。/八瀬大原(やせおほハら)の/女(をんな)ハ、 00073450M17/馬(むま)を/追(おふ)て/都(ミやこ)にいで、/御池長者町(をいけちやうじやまち)にハ、/男(をとこ)のせんだく、/川(かわ)に 00073460M18しにハ/男(をとこ)の/綿(わた)つミあり。/筌(さゝら)、/茶杓杓(さやしやく)、/帚(ハゝき)、/紙屑篭(かミくずかご)、/棒(ばう)でに 00073470M19なふて、/女(をんな)が/売(うり)ありく。/越前(ゑちぜん)/敦賀(つるが)のはまにてハ、女が/舟(ふね)を 00073480¥P230 00073490L1こぎ/猟(れやう)にいつれハ、/男(をとこ)ハ/宿(やど)にゐて、/真苧(まを)を/煎(に)ごく。/近江(あふミ)の 00073500L2/在(ざい)+にてハ、女ハ/宿(やど)にて/搗杵(かちぎね)にて/米(こめ)をつけバ、/男(おとこ)ハ/田(た)に 00073510L3ゆきて、/草(くさ)をとる。/京(きやう)の/町(まち)にても、やがて/女(をんな)の/篭(かご)かき、/男(をとこ) 00073520L4のおちやないも/出(いづ)べきにや。又/詞(ことバ)にも、女ことバあり。わ 00073530L5きまへずして/侍(さふらい)/町人(まちにん)(十ウ)見さまよき人の、女/詞(ことは)いへる 00073540L6ハ、きゝにくきもの也。あるひハ/腹(はら)をおなか、/卑隨涙(ひだるい)をひ 00073550L7もじ、/髪(かミ)をかもし、/汁(しる)をおつけ、/強飯(こうはん)をおこわ、/赤飯(せきハん)をあ 00073560L8かのめし、/饗物(あへもの)をよごし、/豆粉(まめのこ)をきなこといふたぐひ、い 00073570L9かほども有べし。たしなむべき事也。 00073580L10ある/遠国(をんごく)の人のいえるハ、ひとゝせ/京(きやう)へのぼりて、/町(まち)をと 00073590L11をりしに、/東寺(とうじ)九/条(でう)あたりの/百姓(ひやくしやう)とあひミへて、/色(いろ)くろく、 00073600L12/田夫(でんぶ)らしき/皃(かほ)つきして、いもじに/小便(しやうべん)かよといふて、あり 00073610L13くをミれバ、まさしくも/擔桶(たご)のさきに、/芋(いも)の/茎(くき)を/付(つけ)たり。 00073620L14さて+さすが/上方(かミがた)ハ、/内裏(だいり)さまの/国(くに)なれバ、/下郎(げらう)/賎男(しづのお)ま 00073630L15でも、/花車(きやしや)なることバをつかふ事かな。/芋(いも)の/茎(くき)をバ、あの 00073640L16/大(おほき)な/男(おとこ)が、いもじといふほどに。(十一オ) 00073650¥N6¥J 00073660¥X六△神宜禰風俗 00073670L19/天(てん)のときハ/地(ち)の/理(り)にしかず、/地(ち)の/理(り)ハ人の/和(くハ)にしかず、/吉= 00073680M1凶(きつ=けう)は人によりて/日(ひ)によらずとかや。もろこし/漢(かん)の/武帝(ぶてい)いく 00073690M2さをし給ふとき、/両陳(りやうぢん)のあいだに、/彗星(ばゝきぼし)いでたり。/臣下(しんか)/武= 00073700M3帝(ぶ=てい)に申けるハ、その/彗星(はうきぼし)に/吉凶(きつけう)あり、/彗(ハゝき)の/柄(え)のむかふ/方(ハう)ハ 00073710M4いくさにかち、/彗(ハうき)の/穎(さき)のむかふ/方(はう)ハ/軍(いくさ)に/利(り)あらず、/今(いま)/味方(ミかた) 00073720M5に/彗(ハうき)の/穎(さき)あり、みかた/利(り)あるべからざる事しられたり、/明= 00073730M6日(めう=にち)のいくさやめ給ふべきよし申けれバ、/武帝(ぶてい)きき給ひて、 00073740M7/天(てん)のときハ人の/和(くわ)にしかず、/天(てん)もしわがための/彗星(ハゝきほし)ならバ、 00073750M8みかたにむかいし/彗(ハゝき)のさきを、にぎりて、/柄(え)の/方(ハう)にて/敵(てき)を 00073760M9たゝかん/物(もの)よと、の給ひて、/軍(いくさ)をやめず。つゐに/軍(いくさ)にかち 00073770M10給ふと也。/武帝(ぶてい)/往亡日(わうもうにち)にいくさをいだし(十一ウ)給ふ。/臣= 00073780M11下(しん=か)いさめていわく、/往亡日(わうもうにち)ハ/往(ゆき)て/亡(ほろふ)る日とよめり、いくさ 00073790M12の/首途(かどで)にいむ日也と申。/武帝(ぶてい)きゝ給ひて、/我(われ)/往(ゆき)て/敵(てき)/亡(ほろぶ)る/日(ひ) 00073800M13也とて、いくさし給ふに、つゐに/軍(いくさ)にかち給ふとかや。ま 00073810M14ことにいむといふハ、おのれが/心(こゝろ)にあり。/文字(もじ)にも/己(おのれが)/心(こゝろ) 00073820M15と/書(かく)にてしるべし。 00073830M16/江州(がうしう)/粟津(あわづ)が/原(ハら)に/八幡(はちまん)の/社(やしろ)あり。いにしへハ/方(ハう)八/町(てう)ありて/大= 00073840M17社(たい=しや)なり。ある人いくさにまけて、/主従(しうじう)六/騎(き)/此宮(このミや)におちきた 00073850M18る。この/神主(かんぬし)ハ、/敵(てき)ひいきのものなりと/聞(きゝ)て、/神主(かんぬし)をよび、 00073860M19/金(かね)をとらせ、/矢橋(やはせ)へ/海(うミ)をこへておつべきや、/岩間(いわま)ごしにや 00073870¥P231 00073880L1おつべき、/御鬮(ミくじ)をとりてくれよといふ。/神主(かんぬし)/御鬮(ミくじ)をとりて、 00073890L2/岩間(いわま)の/方(かた)へおち給ハゝ/運(うん)をひらき給ハんと/御鬮(ミくじ)にあがらせ 00073900L3給ふといふ。/落人(おちふと)きゝすまして、それより/矢橋(やはせ)(十二オ)の 00073910L4/方(かた)へおちゆく。/供人(ともひと)あやしミて、/神主(かんぬし)ハ/岩間(いわま)の/方(かた)へおち給 00073920L5へとこそ申つれといへバ、いやとよ、われハ/心中(しんぢう)にきねん 00073930L6して、/神主(かんぬし)が/矢橋(やばせ)へおちよと申さば/岩間(いわま)へおち申さん、/岩= 00073940L7間(いわ=ま)へおちよとの事ならバ/神主(かんぬし)に/矢橋(やせば)へおちよといわしめ給 00073950L8へとのぞミしに、/神主(かんぬし)/岩間(いわま)へおちよといふ、これ/矢橋(やばせ)へと 00073960¥G 00073970M1の御つげ也、/追手(をつて)やきたらん、はやいそげといひ+/矢橋(やばせ) 00073980M2へをちゆく。かくて/追手(をつて)のものども、/粟津(あわづ)に/来(きた)り/神主(かんぬし)に、 00073990M3かたきハいづかたへおちつらんとゝふ。/神主(かんぬし)しばらく/御鬮(ミくじ) 00074000M4をとりて、/岩間(いわま)へおち候らんといひけれバ、それより/追手(をつて) 00074010M5ハ/岩間(いわま)へをつかけゆく。/落人(をちふと)ハやう+/守山(もりやま)をすぎて、/武(む) 00074020M6佐へこそハいそぎたれ。 00074030¥N7¥J 00074040¥X七△命在食(十二ウ)(十三オ挿画) 00074050M9/昼食(ひるめし)くふ事、人によりてその/名目(めうもく)たがひあり。/侍(さふらい)ハ/中食(ちうじき)と 00074060M10いひ、/町人(まちにん)ハ/昼食(ひるめし)といひ、/寺(てら)がたにハ/点心(てんじん)と云。/道中(だうちう)はた 00074070M11ご屋にてハ/昼息(ひるやすミ)といひ、/農人(のうにん)ハ/勤随(きんずい)といひ、/御所方(ごしよがた)にて/女= 00074080M12中(ぢよ=ちう)のことバにハ/御供御(をくご)といふ。これをあやまりて、おこゞ 00074090M13といふハわるし。/夕飯(ゆふはん)くふさへ/仏(ほとけ)いましめて/非時(ひじ|あらすときに)となづ 00074100M14け給ふを、まして/昼食(ひるめし)くふ事/仏(ほとけ)の御心にたがひたる事也。 00074110M15されども/大工(だいく)、屋/根葺(ねふき)、/手伝(てつたい)、すべての/職人(しよくにん)、/冬(ふゆ)の/短日(たんじつ)と 00074120M16いへども、きハめて/昼食(ひるめし)をくふ。しからバ/職人(しよくにん)ハなべて、 00074130M17/仏(ほとけ)の/罪人(つミんど)にして、後の/世(よ)もおそろしき事なるべけれど、つ 00074140M18ゐに/職人(しよくにん)の地ごくといふ事をきかず。/中食(ちうじき)くハぬ/武(ぶ)家の/仏(ほとけ) 00074150M19になりたる証/拠(こ)もなし。/仏(ほとけ)のいましめ給ふこゝろハ、/口腹(こうふく) 00074160¥P232 00074170L1にひかれ(十三ウ)て、つとめをおこたる事をにくみて也。 00074180L2/飽(あく)まてくらひ、/温(あたゝか)に/衣(き)て/逸居(いつきよ)するものを、/禽獣(きんしう)にちかしと 00074190L3/孔子(こうし)もこれをそしり給ふ。/禽獣(とりけたもの)ハ/礼義(れいぎ)をしらずして、/食(しよく)を 00074200L4/求(もとめ)て/口腹(こうふく)にたる事をしらず。/職人(しよくにん)ハおのれが/職(しよく)をつとめて、 00074210L5/身力(しんりよく)をついやすがゆへに/昼食(ひるめし)をくふ。/釈迦(しやか)/孔子(かうし)もこれをそ 00074220L6しり給ふまじ。民人以食為天と/史記(しき)/淮陰侯(わいゐんかう)が/伝(でん)にも 00074230L7見へたり。又命在食ともあり。もろこしの/廉頗(れんは)といふ人 00074240L8ハ、七十/余歳(よさい)にて一/度(ど)に/米(ごめ)壱/斗(と)、/肉(にく)十/斤(きん)づゝくひけり。/符= 00074250L9堅払(ふ=けんほつ)、/蓋即(かいそく)、/夏黙(かもく)といふ三人ハ一/度(ど)に/米(こめ)壱/石(こく)、/肉(にく)三十/斤(きん)づ 00074260L10ゝくひけり。又/宋(そう)の/明帝(めいてい)ハ/白肉(はくにく)二百/斤(きん)、/蜜漬(ミつづけ)の/■■(ぶた)、/数鉢(すハち) 00074270L11つゝ一/度(ど)にくえり。/蕭頴胄(しやうゑいちう)ハ/白肉(はくにく)の/鱠(なます)二/斗(と)づゝくひ、/馬希= 00074280L12声(ばき=せい)ハ、まいにち/鷄(にわとり)五(十四終オ)十/羽(は)づゝくひけると、/宛委= 00074290L13餘論(ゑんい=よろん)といふ/書(しよ)にミへたり。これらハむまれつき/大食(たいしよく)にして、 00074300L14/勇猛(ゆうもう)/強力(がうりき)、又/人(ひと)にすぐれたれバ/飽(あくまで)/食(くうハ)の/罪人(つミんど)にあらす。/飽(あくまて) 00074310L15/食(くらふ)ハ/罪人(つミんど)なりとて、/虚人(よわきひと)の/食(しよく)すくなきハ/養生(ようしやう)にもなるべけ 00074320L16れど、/実人(つよきひと)の/饑(うへ)をしのぶハ、かへつて/病(やまい)を/生(しやう)ずべし。/人(ひと)の/虚= 00074330L17実(きよ=じつ)のわきまへ/道(ミち)をつとむると、つとめざるとの/差別(しやべつ)のなく、 00074340L18/飽(あく)まで/食(くらハ)ぬをよしとせバ、/乞食(こつしき)/非人(ひにん)ハみな/釈迦(しやか)/孔子(かうし)の/心(こゝろ)に 00074350L19かなふ人といふべし。たゝ/食(しよく)ハ、はかりなし。/饑(うへ)ぬほどに 00074360M1くふて、/口腹(こうふく)に/心(こゝろ)をひかれず、/道(ミち)を/守(まも)り、/人(ひと)&のつとめを 00074370M2おこたらざるを/要(よう)とす。これをわきまへずして、ひたすら 00074380M3/美食(びしよく)/大食(たいしよく)をこのむハ、/世(よ)に/所謂(いわゆる)、/穀■(ごくつぶし)といふ/者(もの)にや。 00074390¥Y1一之巻畢(十四終ウ) 00074400¥P233 00074410¥Y1/篭耳(かごみゝ)/巻之(けんの)二 00074420L3△△△目△△録 00074430L4△△一△芸扶身△/石(いし)うす/茶(ちや)うす/引(ひき)ことにする/芸(げい) 00074440L5△△△△△△△△△付タリ/国主(こくしゆ)の/名言(めいごん) 00074450L6△△二△/馬鹿(ばか)/慇勤(いんぎん)△かつて/甲(かふと)のおもい/物(もの)ずき 00074460L7△△△△△△△△△付タリ/森川(もりかハ)なにがしが事 00074470L8△△三△/大名(だいミやうハ)/大耳(おほミゝ)△さゝやき八/町(てう)/金蔵(かねぐら)をたつる 00074480L9△△△△△△△△△付タリ/袋屋(ふくろや)/宗古(そうこ)が事 00074490L10△△四△無声呼人△さてもそのゝち/奉加帳(ほうがちやう)の/序(じよ) 00074500L11△△△△△△△△△付タリ/慈鎮和尚(じちんくハしやう)ゑちご/太夫(たゆふ)が事 00074510L12△△五△不立矢声△たびハ道づれ/夜(よ)ハぬす人 00074520L13△△△△△△△△△付タリ/尾州(びしう)しバ/田(た)/宮内(くない)が事(一オ) 00074530L14△△六△/怪我(けがの)/高名(かうミやう)△/料理(りやうり)ばなしハくさつても/鯛(たい) 00074540L15△△△△△△△△△付タリ/雪舟(せつしう)すミながしの/龍虎(りやうこ)の事 00074550L16△△七△/急則廻(いそがバまわれ)△はや/牛(うし)おそ/牛(うし)つきにけり/淀(よと) 00074560L17△△△△△△△△付タリ/連哥師(れんがし)/宗長(そうちやう)が/哥(うた) 00074570L18△△△△△△△△△△△△△△△△△△目録終(一ウ) 00074580¥T1/篭耳(かごみゝ)/巻之(けんの)二 00074590¥N1¥J 00074600¥X一△芸扶身 00074610M5/世話(せわ)に/芸(げい)は/身(ミ)をたすくるといふ事あり。まことや、小/哥(うた)/三= 00074620M6味線(さ=ミせん)のはてハ、/芝居(しバゐ)の/役者(やくしや)、/悪所(あくしよ)の/末社(まつしや)となりて/身(ミ)をたす 00074630M7け、/浄留理(じやうるり)かたりハ、/日待(ひまち)の/赤豆(あづき)がゆとなり、/謡(うたひ)ハ/紙子(かミこ)の 00074640M8/袖(そで)ごひとなり、/鞁太鞁(つゝミたいこ)ハ/勧進能(くハんじんのう)となり、/盤上(ばんしやう)ハ/賭勝負(かけしやうぶ)と 00074650M9なり、/鞠(まり)/立花(りつくわ)/茶湯(ちやのゆ)は/貴人(きにん)/高位(かうゐ)にとりいるにちかく、/庖丁(ほうてう)/料= 00074660M10理(れう=り)がたハ/腰(こし)に/杓子(しやくし)つけて/竃(かまど)のまへをまハれバ、/飢(かつへ)ざるにち 00074670M11かし。この/外(ほか)の/諸芸(しよげい)みな、おちぶれてのゝちハ/身(ミ)をたすく 00074680M12るたねとなれど、一たんハこの/芸(げい)ゆへに/身(ミ)をうしなふて、 00074690M13のちの事(二オ)なれハ、はじめよりならハざらんにハしか 00074700M14じ。又はじめより/芸(げい)にて/知行(ちぎやう)/扶持(ふち)かたとるためしもあれバ、 00074710M15一がいにハいひがたけれど、/文芸(ぶんげい)/武芸(ぶげい)のほかは、まことの 00074720M16/侍(さふらい)の/眼(まなこ)よりハ/芸者(けいしや)とていやしめらるれバ、これ又/身(ミ)をた 00074730M17すくるとてもうれしからぬ事也。さりながらなにもすぎわ 00074740M18ひハ/同(をな)じことなれバ、すぎわひのためとて/芸(げい)をならハゞ、と 00074750M19もあれ/老後(らうご)までのたのしみとせんとおもハゞ、/文芸(ぶんげい)にしく 00074760¥P234 00074770L1ハあらじ。いづれの/芸(げい)とても/相手(あいて)なくてハならず。/文芸(ぶんげい)ハ 00074780L2/相手(あいて)を/仮(から)ず。ひとりともしびのもとにて、みぬ/世(よ)の人を/友(とも) 00074790L3としてたのしまんは、/老後(らうご)のにあひたる事也。/齢(よハひ)かたむけ 00074800L4ば/身(ミ)をしりぞき、/人中(ひとなか)をのがれて/寂莫(せきばく)としてくらすこそ/本= 00074810L5意(ほ=い)な(二ウ)らめ。人あつめして/囲碁(ゐご)/双六(すごろく)もかまびすしく、 00074820L6/珠数(じゆず)くるかた/手(て)に、/謡(うたひ)/鞁(つゝミ)もにげなき事なるべし。もろこし 00074830L7/董仲舒(とうちうじよ)といふ人ハつねに/帷帳(いちやう)をたれこめ、/学文(がくもん)して/外(ほか)へい 00074840L8づる事なし。人きたりて、さびしかるべしといひけれバ、 00074850L9さびしきとハなんぢが事よ、/我(われ)ハ/書物(しよもつ)をよみて、いにしへ 00074860L10の/聖人(せいじん)/賢人(けんしん)とましハり、/物(もの)がたりすれバさびしき事さらに 00074870L11なしといえり。此ことわりをよく+わきまへて、/学文(がくもん)/手= 00074880L12習(て=ならい)などのよき/芸(げい)一/色(いろ)を、/身(ミ)をおふるまで、ならひはげむと 00074890L13きハ/身(ミ)のたのしミともなり、人にも/称(しやう)せらるゝもの也。こ 00074900L14れを/茶磨芸(ちやうすけい)といふ。/茶磨(ちやうす)ハ/茶(ちや)を/引(ひく)ばかりにて、/外(ほか)のものを 00074910L15/引(ひく)ことあたわず。つねに/座敷(ざしき)のうへにをかれて、/人(ひと)に/重宝(てうハう) 00074920L16せらるゝ也。(三オ)かの/芸(げい)この/芸(げい)あまたの/芸(げい)をならひて、 00074930L17一/色(いろ)も/至極(しごく)せざれバ/芸(げい)の/名人(めいじん)ともならず。人に/称(しやう)せらるゝ 00074940L18事もなき也。これを/石磨芸(いしうすげい)といふ。/石磨(いしうす)は/米(こめ)/麦(むぎ)/大豆(まめ)/赤豆(あづぎ)な 00074950L19にゝても/引(ひか)るゝものなれど、/茶(ちや)うすのごとく人に/称(しやう)せらる 00074960¥G 00074970M12ゝ事もなく、/庭(にわ)のすみに、すておかるゝもの也。されバ/芸(げい) 00074980M13をならふとも/半途(はんと)にてすてまじき也。これを/薬罐芸(やくハんげい)と云。 00074990M14にへるもはやくさむるもはやけれバ也。しかれども/茶磨(ちやうす)/石= 00075000M15磨(いし=うす)/薬罐芸(やくハんげい)ともに人によるべき事あり。 00075010M16むかしある/国主(こくしゆ)の/御子息(ごしそく)、ふかく/兵法(ひやうハう)をこのミ、/昼夜(ちうや)をこ 00075020M17たらずはげみ給ふを、/国主(こくしゆ)いさめておほせけるハ、それ 00075030M18/兵法(ひやうはう)ハ/武士(ぶし)のもちゆる/所(ところ)といえども、あまりにすき給ふハ 00075040M19かへつておろかなるにたり、これをかならず一/芸(げい)(三ウ)(四 00075050¥P235 00075060L1オ挿画)とし、/印加(ゐんか)ゆるしとるハ/葉武者(はむしや)の事、一/騎打(きうち)のはた 00075070L2らき也、/太将(たいしやう)ハさいはいをとり、/下知(げぢ)をこそすべけれ、し 00075080L3かしかつてしらぬハまたおろか也、/太将(たいしやう)ハあさくまなびて、 00075090L4ひろくしるべし、/士卒(しそつ)ハせばくまなびて、ふかくしるべし、 00075100L5/大将(たいしやう)その一/色(いろ)をこのめバ、/下(しも)にまなぶにその一/色(いろ)をもつて 00075110L6す、/弓(ゆミ)このむ/太将(たいしやう)ハ/鑓(やり)つかふ/武士(ぶし)をもちひず、/鉄鉋(てつハう)すく/太= 00075120L7将(たい=しやう)ハ/兵法(ひやうハう)つかふ/武士(ぶし)を/目(め)にかけず、これそのおのれがこの 00075130L8む所にしたがふゆへなり、ひろくまなび、ひろくすきて/万= 00075140L9事(ばん=し)をすつべからず、/小身(しやうしん)の/武士(ぶし)は一/色(いろ)か二/色(いろ)をまなびて/上= 00075150L10手(しやう=ず)にならんとはげむへし、あれよこれよととりつき、むさ 00075160L11とまなぶべからず、さあるゆへ/太将(たいしやう)ハひろくまなびてあさ 00075170L12くしり、/士卒(しそつ)ハせばくまな(四ウ)ひて、ふかくしれとぞい 00075180L13えりと、おほせられしハ尤なる事也。 00075190¥N2¥J 00075200¥X二△/馬鹿(ばか)/慇勤(いんぎん) 00075210L16/馬鹿(ばか)といふこと、もろこし/秦(しん)のくにゝ/趙高(ちやうかう)といふもの、/主= 00075220L17君(しゆ=くん)/二世(じせい)/皇帝(くハうてい)につかへて、/権威(けんゐ)つよかりしゆへ、わが/権威(けんゐ) 00075230L18をこゝろミんために、/鹿(しか)を/馬(むま)なりといひて/主君(しゆくん)の/皇帝(くハうてい)へた 00075240L19てまつりけれバ、/皇帝(くハうてい)/左右(さゆう)の/人(ひと)にとひ給へハ、/左右(さゆう)ミな/趙= 00075250M1高(ちやう=かう)が/権威(けんゐ)におそれて、これハ/鹿(しか)なりといふもの一/人(にん)もなし。 00075260M2ミな/口(くち)をそろへて/馬(むま)なりといえり。これより/人(ひと)を/誑(たふらかす)こと 00075270M3を/馬鹿(ばか)といふ也。/史記(しき)/李斯(りし)が/伝(でん)に見えたり。されバおのれ 00075280M4/賢(かしこ)けれども/虚気(うつけ)にとりなし、人にあふてハ/腰(こし)をかゞめ、/言= 00075290M5葉(こと=ば)をかざり、/鹿(しか)を/馬(むま)なりとて見せても、/御尤(ごもつとも)とてこび/諂(へつらふ)も 00075300M6のを/馬鹿(ばか)/慇勤(ゐんぎん)といふ。又/春(はる)の/野山(のやま)の/花(はな)見のかへる(五オ)さ、 00075310M7/神事(じんし)/祭礼(さいれい)の/黄昏(たそかれ)どき、われながらこの/世(よ)の人ともおぼへぬ 00075320M8こゝ地して、/聞(きこ)えぬ事ともいひちらし、/大路(おほち)を/逶■(よろほひ)、/眼(まなこ)も 00075330¥G 00075340¥P236 00075350L1/遅乱(ちろ)+し、/心(こゝろ)も/頓魯(とろ)になりて、/鹿(しか)を/馬(むま)也とて見せたりと 00075360L2も、/誑(あさむか)るべきを、/酒酔(さけのゑい)の/馬鹿頬(ばかづら)といふ。そも+/面(つら)にハ/吼= 00075370L3面(ほへ=づら)、/生面(なまづら)、/不請面(ふしやうづら)、/阿頬面(あほうづら)、/戯気面(たわけづら)、/腑虚面(ふぬけづら)、/倭厄面(わやくづら)、/脂= 00075380L4茶面(やん=ちやづら)、/不忍面(いぶりづら)、/十度(とたひ)あふに/十度(とたび)ながら/十面(じうめん)つくるを/百面(ひやくづら)と 00075390L5いふ。又/仏(ほとけ)の/頂(いたゝき)の/髪(かミ)ふくれあがりたるが、/螺(ほらがい)のふくれた 00075400L6る/形(かたち)のごとくなれバ、/仏(ほとけ)の/頭髪(づはつ)を/螺髪(らほつ)といふ。人も/面(つら)をふ 00075410L7くらかす事、/螺髪(らほづ)のごとく也とたとへて、/仏頂面(ぶつてうづら)といふ也。 00075420L8/世話(せわ)にも/皃(かほ)にゝぬ/心(こゝろ)といへバ、/心(こゝろ)ハやさしくて、/面癖(つらくせ)ハむ 00075430L9まれつきたる事もあるべけれど、げにハ/焔魔王(えんまわう)の/抹香(まつかう)、十 00075440L10/王(わう)の/胡黄(とうやく)連ハ、みかけ(五ウ)あしく人のよりそひうとし。 00075450L11をもひうちにあれバ、/色(いろ)ほかにあらハるといへは、/面癖(つらくせ)あ 00075460L12しきハ/心(こゝろ)もよからぬやうにをもわるゝもの也。温色解 00075470L13顔など/聖人(せいじん)の/書(しよ)にもミへて、/面癖(つらくせ)をたしなむ事をいえり。 00075480L14これをたしなむとて、すぐれて/皃(かほ)つきを/柔和(にうわ)にこしらへた 00075490L15るハ、又/媚諂(こびへつらふ)にちかし。巧言令色するものハ/仁(じん)/鮮(すくな)し 00075500L16と、/論語(ろんご)に/孔子(こうし)もの給ひし也。よき/節(ほど)をしるべき事也。さ 00075510L17ハいへど、/世話(せわ)に/男(おとこ)も/会釈(ゑしやく)にあまるといへば、/焔魔皃(えんまかほ)より 00075520L18/地蔵皃(ぢざうがほ)たれもありたきもの也。 00075530L19/面(つら)のついでに、/森川(もりかハ)/何(なに)がしの/子息(しそく)、/具足(ぐそく)を/威(おと)して/父(ちゝ)に見せ 00075540M1けり。この/甲(かぶと)の/前立(まへだて)に/金(きん)の/太鞁(たいこ)のつくり/物(もの)をして、/中(なか)の/輪(わ) 00075550M2と/緒通(をとお)しの/花形(はなかた)とを/赤銅(しやくどう)にてこしらへ、ばゞしき/前立(まへたて)なり。 00075560M3/父(ち)これを見て、(六オ)/前立(まへたて)をとつて/石(いし)にあてゝうちくだき 00075570M4ける。さて申されけるハ、それ、/具足(ぐそく)ハ/武士(ぶし)のあがめとう 00075580M5とむものなるに、/今(いま)この/前立(まへたて)ハ/人(ひと)に/面(つら)をたたかるゝ/太鞁(たいこ)也、 00075590M6/人(ひと)に/面(つら)をたたかせんよりハとおもひ、わが/手(て)にてうちくた 00075600M7きぬ、かゝるものを/頭(かしら)にいたゞきて、/物(もの)ずきとおもふハを 00075610M8ろか也、/惣(そう)じて/武具(ぶぐ)にことなる/物(もの)ずきハせぬもの也とて、 00075620M9/金(きん)の/盃(さかつき)の/前立(まへたて)にしなをされけり。まことに/用(よう)にもたつべき 00075630M10/物(もの)ずきなりとぞおぼへしか。 00075640¥N3¥J 00075650¥X三△/大名(だいミやうハ)/大耳(おほミゝ) 00075660M13/世話(せわ)に/大名(たいミやう)ハ/大耳(おほミゝ)とて、/耳(ミゝ)の/大(おほき)なハ/果報(くわほう)があるといへば、 00075670M14さるものゝいひけるハ、/耳(みゝ)が大にて/果報(くハほう)があらバ/兎(うさぎ)は/耳(みゝ)/大(おほき) 00075680M15なれども、さのミすくれたるけだものにもあら(六ウ)(七オ挿 00075690M16画)ず、/龍(りう)ハ/耳(みゝ)ちいさけれども/麟鳳(りんほう)/亀龍(きりう)とえらハれて、す 00075700M17ぐれて/霊(れい)あるけだもの也、しかれバ/果報(くハほう)ハ/耳(ミゝ)の大小によら 00075710M18ずといへば、又かたへの人のいえるハ、いやとよ、/絵(ゑ)にも 00075720M19/布袋(ほてい)/福禄寿(ふくろくじゆ)ハ/耳(ミゝ)を/大(おほき)にかく、そのかみ、ミやこに/袋(ふくろ)屋の/宗= 00075730¥P237 00075740L1古(そう=こ)といふかくれもなき/有徳人(うとくにん)あり、/末期(まつこ)のとき/子孫(しそん)をよび 00075750L2あつめて、/金銀(きん※)ハ/北斗(ほくと)にとゞくほど、つミたくハへたりと 00075760L3も、/尽期(つくるご)あり、/自由(じゆう)になるものならバ、これがゆづりて/死(しに) 00075770L4たいとて、ミづから/耳(ミゝ)の/輪(びく)をひねりてみせられけると也。 00075780L5されバ/世話(せわ)にも/果報(くハほう)のあるを/輪(びく)がつよひと、むかしよりい 00075790L6えバ、/果報(くハほう)ハ/耳(みゝ)にあるにきハまりたり、 00075800L7なをしも、むかし/太閣((ママ)たいこう)/秀吉公(ひでよしこう)の御とき/曽呂里(そろり)といふ/御前(ごぜん)さ 00075810L8らずの御/伽(とぎ)のものあり(七ウ)、あるとき/太閣((ママ)たいこう)/御感(ぎよかん)のあまり 00075820L9に、/曽呂里(そろり)に/金子(きんす)をとらせよと/仰付(おほせつけ)られけれバ、/曽呂里(そろり)き 00075830L10ゝて、たゞ/今(いま)/金子(きんす)を/拝領(はいりやう)/仕(つかまつ)るよりハ、/日(ひ)に一/度(ど)づゝ/君(きミ)の 00075840L11/御耳(をミゝ)をかゞせて/下(くだ)され候ハゝ/有(あり)がたく/存(そんじ)たてまつるべしと、 00075850L12申あげけれバ、/太閣(たいこう(ママ))おかしくおぼし/召(めし)て、それこそいとや 00075860L13すき事、まい日/嗅(かぐ)べしと/仰下(おほせくだ)されけるに、/曽呂里(そろり)よろこび、 00075870L14/大名(だいミやう)しう/登城(とうじやう)/目見(めミへ)をみかけてハ、そのまゝ/太閣(たいこう(ママ))の御/耳(みゝ)を 00075880L15/嗅(かぎ)けれバ、/大名衆(だいミやうしう)わが/身(ミ)の事を/私言(さゝやき)申あぐるかと/心(こゝろ)もと 00075890L16なくをもひて、/曽呂里(そろり)にわれも+とへつらひて、/金銀(きん※)を 00075900L17おくりけること/山(やま)のごとくにて、ながく/有徳(うとく)の/身(ミ)となりけ 00075910L18るといふはなしもあれば、とかく/果報(くハほう)ハ/耳(みゝ)にあると、/偏意= 00075920L19智(かたい=ぢ)にいわれし。(八オ) 00075930¥N4¥J 00075940¥X四△無声呼人 00075950M3むかし/慈鎮和尚(じちんくハしやう)ハ、一/芸(げい)あるもの/片輪(かたわ)ものまでも/召(めし)をきて、 00075960M4/不便(ふびん)にせさせ給ひけるが、/下部(しもべ)に/唖(おし)のありけるを/扶持(ふち)しお 00075970M5きて、/玄関(げんくハん)をまもらせ、/出家侍(しゆつけさふらい)のきたるときハ/喚鐘(くハんしやう)をうつ 00075980M6べし、/地下百姓(ぢげひやくしやう)の/来(きた)るときは/拍子木(ひやうしぎ)をうつべしと、/役義(やくぎ) 00075990M7をいひ/付(つけ)てつかひ給ふ。むかしより/声(こゑ)なふて人よぶといふ 00076000M8ハ此事にやと、の給ひしと也。 00076010M9されバ/中(なか)ごろ/越後太夫(ゑちごたゆふ)とて、/浄留理(じやうるり)の/名人(めいじん)ありて、みやこ 00076020M10四/条(でう)/河原(かハら)にて/操(あやつり)して、/群集(くんじゆ)しけれバ、/外(ほか)の/芝居(しバゐ)よりこれを 00076030M11ねたミて、/越後太夫(ゑちごたゆふ)に/声(こゑ)のとまる/薬(くすり)を、ひそかにのませけ 00076040M12れバ、/声(こゑ)とまりて/浄留理(しやうるり)かたる事ならず。/太夫(たゆふ)もぜひなく 00076050M13て、/日比(ひごろ)めをかけられし/旦那(だんな)衆へ/廻文(くハいぶん)をまハし、(八ウ)申 00076060M14いれ、さま+の/料理(れうり)にて、もてなし、すでに/大酒(たいしゆ)におよ 00076070M15びしとき、/太夫(たゆふ)いでゝ申けるハ、/今日(こんにち)申いるゝ事/別義(べつぎ)に候 00076080M16ハず、御ぞんじのごとく、/声(こゑ)とまり候て/芝居(しばゐ)もつとめがた 00076090M17く候ニ付、をの+さまの/御合力(ごかうりよく)を申うけ、/今(いま)までの/役者(やくしや) 00076100M18のくげんをのがれ、いかやうなる/商売(しやうばい)にもとりつき申たく 00076110M19ぞんじ、さてこそ申いれ候といふ。一/座(ざ)の/衆(しう)、/酒(さけ)のゑい/本= 00076120¥P238 00076130L1性(ほん=しやう)わすれず、いづれも/眉(まゆ)をひそめ、目を見あわせゐられけ 00076140L2れバ、/太夫(たゆふ)かさねて申けるハ、かやうの事申あぐるも/今(いま)さ 00076150L3らの/義(ぎ)に候ハず、むかしもためしある事なればこそ、/世話(せわ) 00076160L4に/声(こゑ)なふて人よぶと/申(もうし)ますほどにといひけれバ、この/当話(たうわ) 00076170L5にめでゝ、人+/奉加(ほうが)につかれし。 00076180¥N5¥J 00076190¥X五△不立矢声(九オ) 00076200L8/越後(ゑちご)にさる/侍(さふらい)、なが+/湿気(しつけ)をわづらひ、/腰膝(こしひざ)もぬけ、/奉= 00076210L9公(はう=こう)もつとめがたくて、/主人(しゆじん)にいとまをこひ、/浪人(らうにん)して、上= 00076220L10方(かミ=がた)にのぼり、/北山(きたやま)/鳴滝(なるたき)といふ/所(ところ)に/田地(てんぢ)など/買(かい)て、すまひし 00076230L11けり。この/浪人(らうにん)/金銀(きん※)たくハへある事をしりて、ある/夜(よ)/盗人(ぬすひと) 00076240L12あまた/入来(いりきた)りけれバ、/浪人(らうにん)きゝつけて、ねまにをきたる/尻= 00076250L13篭(し=こ)の/矢(や)とつてつがい、/声(こゑ)をしるしにはなちけり。なにかハ 00076260L14しらず七八人に/手(て)をおほせけれども、/矢(や)たねつきて/射出(いいだ)す 00076270L15べき/矢(や)なし。/盗人(ぬすひと)これに/力(ちから)をえて、/矢(や)たねがなきと見へた 00076280L16り、をしいれやと、しきりに/門戸(もんこ)をおしやぶる。/女房(にようバう)をく 00076290L17にかけ/入(いり)、/絹(きぬ)をはる/簇(しいし)をとり/出(いだ)し、/矢(や)ハたくさんなるぞ、 00076300L18むだ/矢(や)/射(い)給ふな、/心(こゝろ)しづかにといひて、/夫(おつと)のひざになげか 00076310L19け、/火(ひ)うちけしてゐたりけれバ、此(九ウ)(十オ挿画)/簇(しいし)の 00076320¥G 00076330M12をとに、/盗人(ぬすひと)とも/肝(きも)をけし、やらおびたゝしの/数矢(かすや)のおと 00076340M13や、ぬすみも/命(いのち)がありてこそとて、みな+にげうせける 00076350M14と也。この/浪人(らうにん)/腰膝(こしひざ)ぬけて/立(たつ)ことハならねど、/簇(しいし)の/数矢(かずや)の 00076360M15/声(こゑ)にて/手(て)がらをせられけるゆへ、/立(たゝ)ねど/矢(や)ごゑとハいふ也 00076370M16とはなせバ、かたへの人いひけるハ、われらが/聞(きゝ)しハさに 00076380M17ハあらず、むかし/尾州(びしう)に/柴田(しばた)/宮内(くない)といふ/侍(さふらい)あり、/用事(ようじ)あり 00076390M18て/上州(じやうしう)へ/下(くだ)るとて、/用心(ようじん)のため、/半弓(はんきう)に/矢(や)をそへて/道中(だうちう)も 00076400M19たれけるが、/上州(しやうしう)/三上(ミかミ)といふ/所(ところ)に一/宿(しゆく)のとき、/宮内(くない)/行水(ぎやうずい)せ 00076410¥P239 00076420L1られけるまに、ていしゆ/座敷(ざしき)にいでゝ、かの/半弓(はんきう)の/矢(や)をか 00076430L2ぞへけるを、/宮内(くない)/湯殿(ゆどの)より見て、はや/心付(こゝろつき)ぬ、あんのごと 00076440L3く、その/夜(よ)/盗人(ぬすひと)いり/来(き)て、/宮内(くない)をころさんとす、/宮内(くない)/簣子(すのこ) 00076450L4の/竹(たけ)をみじかくおし(十ウ)をりて、十本ばかり射いだしぬ、 00076460L5/盗人(ぬすびと)十/本(ほん)の/矢(や)をいさせて、/矢(や)ハこれまてなりとて、おしい 00076470L6らんとす、そのとき/所持(しよぢ)したる/根矢(ねや)を/射出(いいだ)しけるほどに、 00076480L7二三人/射(い)ふせけれバ、のこる/盗人(ぬすひと)ども、をそれてにげうせ 00076490L8ぬ、/簣(すの)子/竹(たけ)ハ根/矢(や)にあらざれバ、はなちて/敵(てき)に/立(たゝ)ずといへ 00076500L9ども、/矢(や)の/声(こゑ)にまがいぬれバ、つゐに/手(て)がらとなりけり、 00076510L10これを/立(たゝ)ねど/矢(や)こゑといふ也と、いわれし。 00076520¥N6¥J 00076530¥X六△/怪我(けがの)/高名(かうミやう) 00076540L13そのかミ/雪舟(せつしう)/龍虎(れうこ)の/屏風(べうぶ)をかゝれしとき、かたハらにゐる 00076550L14/童子(どうし)、あやまつて/硯(すゝり)の/墨(すミ)を絵のうへにこぼしけれバ、この 00076560L15/墨(すミ)ばつとちりて、/自然(しぜん)と/雲霧(うんむ)のかたち/出(で)来て、わざと/筆(ふで)に 00076570L16て/書(かく)よりも見/事(こと)也。これを/墨流(すミなかし)の(十一オ)龍/虎(こ)とて、大/徳= 00076580L17寺(とく=じ)の/什物(しうもつ)となれり。又此ころ/速水(はやミ)何がしといふ人、/水腫(すいしゆ)/脹= 00076590L18満(ちやう=まん)をわづらひ、/腹(はら)ハ/蜘(くも)のごとく大になりて、/医療(いれやう)しるしな 00076600L19かりしを、あるときあやまつて/脇指(わきざし)さやはしり、/腹(はら)をよこ 00076610M1さまに/切(きら)れけれバ、/切(きり)こぐちより、血にまじりて水二三/斗(ど) 00076620M2ばかりもいでゝ、/疵(きず)の/愈(いゆる)とひとしく、/脹満(ちやうまん)もすきとなをり 00076630M3ぬ。又ある/大名(だいミやう)、御もち/弓(ゆミ)の/重藤(しげどう)に/根矢(ねや)とりそへて、/寝所(しんじよ) 00076640M4の床につねに立をかれしに、/御鷹野(をんたかの)の/留主(るす)に、/小姓(こしやう)くだん 00076650M5の弓を引て見にけれバ、/虫(むし)がくひとをして、大鳥/打(うち)より、 00076660M6ほきとおれにけり。こハいかにせんとあわてたれども、す 00076670M7べきやうなくて、/殿(との)の御かへりをまち、人をして/右(ミぎ)のよし 00076680M8を申あげゝれば、殿きこし/召(めし)て、おれまじき/弓(ゆミ)のおれたる 00076690M9ハ、/虫(むし)のとをせし(十一ウ)ゆへ也、もし/虫(むし)のとをせしをし 00076700M10らで、事にのぞんでをれなば、いかにくやしからん、よく 00076710M11ぞ/引(ひき)をりける、それとりかへよとばかりにて、/別義(べつぎ)なかり 00076720M12ける。まことに/太将(たいしやう)の/心(こゝろ)ハかくべつのもの也。/凡下(ほんげ)の/人(ひと)の 00076730M13およぶ所にあらず。 00076740M14これにつき、/京(きやう)にある/呉服所(こふくしよ)、/国許(くにもと)にくだり、/殿(との)に/目見(めミへ)せ 00076750M15しとき、/御料理(をんりやうり)を/仰付(おほせつけ)られ、そのうへにて、/上方(かミがた)にめづ 00076760M16らしき/料理(りやうり)ハなきかと、たづねられしかバ、かの/呉服所(こふくしよ)、 00076770M17/上方(かミがた)にハ/今(いま)ほど/鯛(たい)の/包焼(つゝミやき)といふ/料理(りやうり)御/座(さ)候と申あくる。そ 00076780M18れハいかやうの/料理(りやうり)ぞとたづね下されけれバ、まづなるほ 00076790M19ど/大(おほき)なる一/番(ばん)/鯛(だい)を/鱗(うろこ)をふき、/反古(ほうぐ)をぬらし、なんべんもつ 00076800¥P240 00076810L1ゝミ候て、/熱灰(あつはい)のなかへうづみ、/蒸焼(むしやき)にしてなど、いろ 00076820L2+/料理(りやうりの)したいを申あくる。/殿(との)/聞(ぎこ(ママ))/召(めし)て、/反古(ほうぐ)にてつゝむ 00076830L3とハ、いかなる事(十二オ)そと、とかめられて、/呉服所(ごふくしよ)は 00076840L4たとつまりて、めいわくせしとき、/殿(との)おほせられけるハ、 00076850L5/油煙(ゆゑん)ハ/油気(あぶらけ)をとるものと、ききおよびたり、/反古(ほうぐ)にてつゝ 00076860L6むハ、/鯛(たい)のあぶらけをとりて、/味(あちハひ)をかるくせんためなるべ 00076870L7し。/尤(もつとも)の事也とて、すなハち/料理人(りやうりにん)におほせ/付(つけ)られ、/反古(ほうぐ) 00076880L8にてなんべんもつゝみ、/焼(やか)させ給ふと也。/呉服所(こふくしよ)ハわが/内(うち) 00076890L9にていひつけたるいやしき/言葉(ことば)を、/大名(たいめう)の/御前(ごぜん)にて、ふと 00076900L10申/出(いだ)して、/進退(しんたい)なんぎせしを、/殿(との)の/御(をん)とりなしにて、かへ 00076910L11つて/高名(かうミやう)となりぬ。とかく/大名(だいミやう)の御/心(こゝろ)ハ/凡人(ぼんにん)とハ/各別(かくべつ)のも 00076920L12の也。これをおもへバ/貴人(きにん)/高位(かうゐ)のまへにてハ、一/言(ごん)にても 00076930L13/用捨(ようしや)あるべき事也とぞ。 00076940¥N7¥J 00076950¥X七△/急則廻(いそがバまハれ)(十二ウ) 00076960L16/世話(せは)に、おそ/牛(うし)も/淀(よど)はや/牛(うし)も/淀(よど)、いそがバまわれといふ事、 00076970L17もつともなるかな。/孔子(かうし)も/膽台滅明(たんたいべつめい)といふもの、行くとき 00076980L18に/径(こミち)によらざるを/称美(しやうび)し、又/速(すミやか)ならんとほつする事なか 00076990L19れと、いましめ給ふ。はやく/利(り)をえんために、あやうき 00077000M1をふミ、たゞしからざるをおこなふ事あり。せましきこと 00077010M2也。されバ/妙観(めうくハん)が/刀(かたな)ハいたくたゝずとかや。/人(ひと)ハたゞ/常途(じやうと) 00077020M3をふんで、/険路(けんろ)をわたる事なかれ。/連歌師(れんがし)/宗長(そうちやう)の/哥(うた)に、 00077030M4△△/武士(ものゝふ)の/矢(や)ばせのわたりちかくとも 00077040M5△△△いそがバまわれ/瀬田(せた)の/長(なが)はし 00077050M6/此心(このこゝろ)よく+あぢハふべし。/万事(ばんじ)にわたる/義(ぎ)也。(十三オ) 00077060¥P241 00077070¥Y1/篭耳(かごみゝ)巻之三 00077080L3△△△△/目△△録(もく△△ろく) 00077090L4△△一△/万事(ばんじハ)/気前(きのまへ)△△むかしのつるぎ/今(いま)の/奈良物(ならもの) 00077100L5△△△△△△△△△△付タリ/北条氏政(ほうてううぢまさ)きつねの/哥(うた) 00077110L6△△二△/貧乏鬮(びんぼうくじ)△△/神(かミ)ハあがらせ給ふ/幣鬮(へいくじ) 00077120L7△△△△△△△△△△付タリひたちの/国主(こくしゆ)/慈悲(しひ)のさばき 00077130L8△△三△借傍屋取表屋△△大よくハ無よくの/徳政(とくせい) 00077140L9△△△△△△△△△△△△△付タリゑちごのくにのとや 00077150L10△△△△△△△△△△△△△長兵衛が事 00077160L11△△四△/十分(じうぶんハ)/覆(こぼるゝ)△△はげしかれとハいのる/雨(あま)ごひ 00077170L12△△△△△△△△△△付タリ/李衛公(りゑいこう)こきやうのわたくし 00077180L13△△五△鴟生鷹△ほむるハそしる/世(よ)のことバ/草(くさ) 00077190L14△△△△△△△△△△付タリ/漢(かん)の/高祖(かうそ)のかほ(一オ) 00077200L15△△六△狗子知路△ためしすくなき四つ/足(あし)の/飛脚(ひきやく) 00077210L16△△△△△△△△△△付タリかた/野(の)三/楽寺(らくじ)が/智謀(ちばう) 00077220L17△△七△能交為牆△ちかいとなりに/遠(とを)いぬす/人(びと) 00077230L18△△△△△△△△△△付タリ/江州(ごうしう)へそ/村(むら)さいめ/論(ろん) 00077240L19△△八△/肩(かたの)/吉凶(よしあし)△△/田舎間(いなかま)/京間(きやうま)六尺三寸 00077250M1△△△△△△△△△△付タリ/南都(なんと)/本津(きづ)屋/藤次(とうし)郎が/説(せつ)(一ウ) 00077260¥P242 00077270¥T1/篭耳(かごみゝ)巻之三 00077280¥N1¥J 00077290¥X/万事(ばんしハ)/気前(きのまへ) 00077300L5/伊賀(いが)の/上野(うへの)にて、あるもの、/狐(きつね)の/子(こ)をとりてよりのち、/毎= 00077310L6夜(まい=や)おかされて、やすくねる事なし。さる人きたりて、わが 00077320L7/方(かた)に、/三池伝太(ミいけでんだ)といふ/刀(かたな)あり、これ/銘(めい)のもの也、この/刀(かたな)を 00077330L8/枕(まくら)もとにおきてね給へ、さらに/物(もの)におそわるゝ事なしと、 00077340L9いふ。しからバかし給へとて、かりにやりけれバ、/錦(にしき)の/袋(ふくろ) 00077350L10にいれてかしける。この/刀(かたな)を/枕(まくら)もとにおきてねるに、その 00077360L11/夜(よ)より、あえておそハるゝ事なし。そのゝち、くだんの/刀= 00077370L12主(かたな=ぬし)きたりて、いかゞあるぞととへバ、一/夜(や)もあそハれずと 00077380L13いふ。かたな/主(ぬし)のいわく、されバこそ、これにて、よく 00077390L14+/心得(こゝろへ)給ふべし、(二オ)ものにおそハるゝといふ事、み 00077400L15な/気(き)のまへなり、わが/心(こゝろ)よりおそハるゝ也、/心(こゝろ)たゞしくハ 00077410L16なんぞ/外社(ぐハいしや)の/入(いり)きたる事あらんやとて、/錦(にしき)の/袋(ふくろ)をひらゐて、 00077420L17かの/刀(かたな)をとり/出(いだ)してみせられけるに、/南良物(ならもの)のなま/身(ミ)にて、 00077430L18/三池(ミいけ)にてハなかりしと也。これにはぢて、かのものもその 00077440L19ゝちハ、いよ+/物(もの)におそハるゝ事なかりしと也。 00077450¥G 00077460M12むかし/北条氏政(ほうでううぢまさ)ハ/能書(のうじよ)/哥学(かがく)の/達者(たつしや)にてありしが、六/月(ぐハつ)/中= 00077470M13旬(ちう=じゆん)/夜半(やはん)のころ、/氏政(うぢまさ)/御寝所(ぎよしんじよ)の/上(うへ)にて、/狐(きつね)しきりに/鳴(ない)てう 00077480M14せけるを、/女中(ぢよちう)/当番(たうばん)の/衆(しう)おどろきさハぎて、/不吉(ふきつ)の事なり 00077490M15と申/合(あひ)けるに、/氏政(うぢまさ)/聞(きこ)し/召(めし)て、くるしからずとの給ひ、/調= 00077500M16伏(てう=ぶく)の/哥(うた)をよみ給ひぬ。 00077510M17△△/夏(なつ)ハきつねになく/蝉(せミ)のから/衣(ころも)(二ウ) 00077520M18△△△おのれ+か/身(ミ)のうへに/着(き)よ 00077530M19とよみ給ふ。この/哥(うた)のきどくにや、なにの/凶事(けうじ)もなかりし 00077540¥P243 00077550L1とぞ。 00077560¥N2¥J 00077570¥X/貧乏鬮(びんぼうくじ) 00077580L4/世(よ)に/大病(たいびやう)の/切(せつ)なるにのぞんで、/太神宮(だいじんぐう)へ/幣鬮(へいくじ)をあげて、/医= 00077590L5者(い=しや)をもとむる事あり。一えん/神慮(しんりよ)にかなハぬ事也。/人(ひと)の/死= 00077600L6病(し=びやう)/定命(ぢやうめう)ハ、/神(しん)とても/力(ちから)におよび給ハぬこと也。/幣鬮(へいくじ)にあ 00077610L7がりたる/医者(いしや)の/薬(くすり)をのミて、十/人(にん)が十/人(にん)ながら/本復(ほんぶく)するに 00077620L8/極(きハま)りたらバ、/尤(もつとも)なるべけれど、/幣鬮(へいくじ)のくすりにても、つゐ 00077630L9に/死(し)する/病人(びやうにん)おゝし。つゐに/死(し)するときハ、/神慮(しんりよ)をうらむ 00077640L10る人もあり。又/神慮(しんりよ)にまかするうへに/死(し)するからハ、/定命(ぢやうめう) 00077650L11よとあきらむる人もあれど、これ/神慮(しんりよ)にまかするにあらず。 00077660L12/人慮(じんりよ)にまかする也。/神慮(しんりよ)にまかするといふハ、たとへ(三オ) 00077670L13ば/両人(れうにん)の/医者(いしや)を/幣鬮(へいくじ)にいるゝにハ、/札(ふた)三/枚(まい)いれて、二/枚(まい)に 00077680L14ハ/医者(いしや)の/名(な)、壱/人(にん)づゝ/書(かき)て、のこる一/枚(まい)ハ/白札(しらふだ)にして、/此= 00077690L15病(この=やまい)/死病(しびやう)にきハまりたらバ/白札(しらふだ)にあがり給へと、/心中(しんぢう)に/祈= 00077700L16念(き=ねん)するとき、もし/白札(しらふだ)にあがり給ハゞ、/薬(くすり)をももちひず、/死(し) 00077710L17をまもりて/覚悟(かくご)すべし。これ/正直(しやうぢき)の/神慮(しんりよ)なり。/医者(いしや)二/人(にん)な 00077720L18れバ/札(ふだ)弐/枚(まい)、三/人(にん)なれバ三/枚(まい)いれて/幣鬮(へいくじ)をとらんに、いづれ 00077730L19一/枚(まい)にあがり給ふべし。それを/本腹(ほんぶく(ママ))の/医者(いしや)とさだめんハ 00077740M1おろかなる事にて、/人慮(じんりよ)也。/末期(まつご)におよびてハ/幣鬮(へいくじ)の/医者(いしや) 00077750M2をもかへて、/又(また)/外(ほか)の/医者(いしや)にも見せなどする事、いよ+/神= 00077760M3慮(しん=りよ)をあざむきたる事、これミな/人慮(じんりよ)のまよひよりおこりて、 00077770M4/正直(しやうじき)の/心(こゝろ)にあらず。 00077780M5/関東(くハんとう)のある/国(くに)にての事なりしに、/山(やま)をぬすみしもの(三ウ) 00077790M6(四オ挿画)あり。/太将(たいしやう)三人までとらえられて、三人ともに 00077800M7/罪(つミ)におこなわるべかりしを、/国主(こくしゆ)/聞(きこ)し/召(めし)て、三人に/貧乏鬮(びんぼうくじ) 00077810M8をとらせて、そのうち壱人を/罪(つミ)におこなふべしと、おゝせ 00077820M9/付(つけ)らるゝゆへ、三人に/鬮(くじ)をとらせ、/内(うち)壱人/死鬮(しにくじ)とりたるも 00077830M10の、すでに、ころさるゝにきハまりたるとき、/国主(こくしゆ)/聞(きこ)し/召(めし) 00077840M11て、その/鬮(くじ)ハ、いかゞとらせたるぞと御たづねあるとき、 00077850M12/鬮(くじ)三つにして/生鬮(いきくじ)弐つ、/死鬮(しにくじ)壱つと申あぐる。/国主(こくしゆ)きゝ給 00077860M13ひて、とる人三人に/鬮(くじ)三つ、/内(うち)ひとつハ/死鬮(しにくじ)ならバ、三人 00077870M14のうち壱人/死鬮(しにくじ)にとりあたらん事うたがひなし、/鬮(くじ)四つこ 00077880M15しらへて、/内(うち)ひとつを/死(しに)くじとし、のこる三つを/生(いき)くじと 00077890M16して三人にとらすべし、それにて/死(しに)くじにとりあたらんハ 00077900M17/力(ちから)なしとの給ふ。しからバとて、又/鬮(くじ)をとりなをさせ(四 00077910M18ウ)けるに、はじめ/生(いき)くじとりたる二人のものども、/中(なか)+ 00077920M19とるまじきよし申すといへども、かなハずしてとりなをし 00077930¥P244 00077940L1ければ、/国主(こくしゆ)の/仁心(じんしん)/天理(てんり)にやかなひけん、三人ともに/生鬮(いきくじ) 00077950L2をとりて、みなゆるされけると也。これ/国主(こくしゆ)の御/心(こゝろ)/正直(しやうぢき) 00077960L3にして、/天理(てんりに)かなひたる/仕置(しをき)なり。ひたちの/国(くに)の/事(こと)ともき 00077970L4く、/出羽(では)の/国(くに)の事とも/聞(きゝ)し。 00077980¥N3¥J 00077990¥X借傍屋取表家 00078000L7むかし/越後(ゑちご)の/新懸(にいがた)に/能(の)登屋の/長兵衛(ちやうびやうへ)といふもの/有(あり)。あると 00078010L8き、/三熊野(ミくまの)よりいでたる/行尊坊(ぎやうぞんばう)といふ/山伏(やまぶし)、/加州(かしう)へ/札(ふだ)くバ 00078020L9りにゆくとて、/越後(ゑちご)に/用事(ようじ)ありて/立(たち)より、わづかの/逗留(とうりう)に 00078030L10て、/長兵衛(ちやうびやうへ)が/家(いへ)をかりてゐけり。その/比(ころ)、/国主(こくしゆ)の/入部(にうぶ)にて、 00078040L11/町人(まちにん)/百姓(ひやくしやう)/国(くに)さかいまで御むかいに/出(いづ)(五オ)る事あり。 00078050L12/長兵(ちやうびやうへ)へもむかいにいづるとて、/行尊坊(ぎやうそうばう)が/脇指(わきさし)をかりてゆ 00078060L13く。いまだ/宿(やど)へかへらざるうちに、一/国(こく)/徳政(とくせい)の/札(ふだ)たちけり。 00078070L14/徳政(とくせい)といふハ、/負(おふ)たるものも/負(おゝせ)たるものも/出入(いていり)なく、な 00078080L15がるゝを云也。さるほどに/長兵衛(ちやうびやうへ)かへりても、/徳政(とくせい)の/札(ふだ) 00078090L16たちたるうへハ、この/刀(かたな)もながれたるなりとて、かへさず。 00078100L17/行尊坊(ぎやうぞんハう)もこらえかね、たがひに/出入(いでいり)になり、/双方(さうハう)/江戸(ゑど)に 00078110L18/下(くだ)り、/御前(ごぜん)のさたにおよべり。そのみぎり、/京(きやう)の所司代(しよしだい)/下= 00078120L19向(げ=かふ)しゐあわせ給ふを/御前(ごぜん)へめされ、この/戴許(さしきよ(ママ))いかにと/御諚(ごでう) 00078130M1ありけれバ、/謹而(つゝしんで)、これハ/造作(ざうさ)もなき/義(ぎ)とぞんじ/奉(たてまつ)る也、 00078140M2/徳政(とくせい)の/札(ふだ)のうへにて、/長兵衛(ちやうびやうへ)がしばらくかりたる/刀(かたな)をなが 00078150M3し候ハゝ、又/行尊坊(ぎやうぞんバう)が、しばらくかりたる/家(いへ)もながして、 00078160M4/山伏(やまぶし)が/家(いへ)に/仕(つかまつる)べきもの也、と申あげられけれバ、/御前(ごぜん)にも 00078170M5はなハだ、(五ウ)/御感(ぎよかん)ありて、/公事(くじ)ハわかりし也、/長兵衛(ちやうびやうへ)ハ 00078180M6/山伏(やまぶし)にかたやかして、おもやをとられける。 00078190¥N4¥J 00078200¥X/十分(じうぶんハ)/覆(こぼるゝ) 00078210M9/早魃(かんばつ)に/雨(あま)ごひをする事、むかしよりその/例(れい)なきにあらず。 00078220M10/蔵人(くらんど)/神泉苑(しんぜんえん)にゆきむかい、/人(ひと)をあつめ、/池(いけ)のほとりを/掃除(そうぢ) 00078230M11し、/石(いし)に/水(ミづ)そゝき、さて/高声(かうしやう)にみな/人(ひと)一/同(どう)に、/雨(あめ)たべ/海龍= 00078240M12王(かいりう=わう)といえり。七日がうちにしるしなきときハ、/蔵人(くらんど)をかへ 00078250M13らるゝとなん。又しるしありて/雨(あめ)ふりぬれバ、みかど/蔵人(くらんど) 00078260M14を/朝餉(あさがれい)へめし、/御衣(ぎよい)をたまハり、/蔵人(くらんど)/庭(にわ)へをりて/舞踏(ぶたう)する 00078270M15事あり。又/陰陽師(をんやうじ)/五龍(ごりう)の/祭(まつり)を/奉仕(ほうし)する/儀(ぎ)もあり。あるひハ 00078280M16/神祇官(じんぎくハん)、御(ミ)のことのりをうけ給ハりて、/諸神(しよじん)にいのる/義(ぎ)もあ 00078290M17り。又/七大寺(しちだいじ)にて/請(しやう)(六オ)/雨経(うぎやう)をよむ/義(ぎ)もあり。あるひハ 00078300M18/諸寺諸社(しよじしよしや)にて/金剛経(かんがうきやう)、/般若経(はんにやきやう)をよみし/例(れい)も/有(あり)し也。/禁秘抄(きんひせう) 00078310M19に/詳(つまひらか)に見へたり。 00078320¥P245 00078330L1もろこし/李衛公(りゑいこう)といふ/人(ひと)、/山中(さんちう)に/猟(かり)して、/山(やま)ふかく/入(いり)て/日(ひ) 00078340L2くれぬ。こゝに/丹(に)ぬりの/門(もん)をたてたる/家(いへ)あり。うちにいり 00078350L3てみれバあるじもなし。さいわいの事とおもひ、こゝに/一= 00078360L4夜(いち=や)をあかしぬ。その/夜(よ)やはんばかりに、なにものとハしら 00078370L5ず、/門(もん)をあわたゝしくたゝく。/李衛公(りゑいかう)/門(もん)をひらきて見れバ、 00078380L6一/人(にん)の/女(をんな)なり。この/女(をんな)/李衛公(りゑいこう)を見て、あやしミていわく、 00078390L7こゝハこれ/人間世(にんげんせい)にあらず、/龍宮(りうぐう)也、なんぢいづくよりき 00078400L8たれるや、あるじハいづかたへかゆきける、/下界(げかい)の/民(たミ)/旱魃(かんばつ) 00078410L9をうれひて、しきりに/雨(あま)ごひをするがゆへに、/天(てん)より、こよ 00078420L10ひ/雨(あめ)をふらすべきよしの、つかいにまいりたり、(六ウ)(七 00078430L11オ挿画)あるじのかへるまでハ、さいわひその/方(ハう)をたのむべ 00078440L12しとて、/青駮毛(あをぶちげ)の/馬(むま)に/黄(き)いろなる/鞍覆(くらおほひ)をかけ、かたハらに 00078450L13/雨(あめ)をいれたるちいさき/瓶(つぼ)ひとつを/李衛公(りゑいこう)にわたして、いひ 00078460L14けるハ、その/方(はう)この/馬(むま)にまかせてゆくとき、いづくにてな 00078470L15りとも、この/馬(むま)/嘶(いなゝく)ところにて、この/瓶(つぼ)なる/水(ミづ)/一滴(いつてき)を、/馬(むま)の 00078480L16/■(ふりかミ)のうへよりこぼし給へ、この一/滴(てき)の/水(ミづ)/下界(げかい)におちて、 00078490L17/地上(ちしやう)三/尺(じやく)となる也、かまへておゝくこぼし給ふ事なかれと 00078500L18おしえて、たちまち/雷(いかつち)いなびかりおびたゝしくして、かの 00078510L19/女(をんな)ハ/黒雲(こくうん)にうちのり、ゆきがたしらずうせにける。/李衛公(りゑいこう) 00078520¥G 00078530M12くだんの/瓶(つぼ)をたづさへ、かの/馬(むま)にうちのるとひとしく、と 00078540M13ぶがごとく、せつながあいだに/虚空(こくう)をかけりめぐるとき、 00078550M14わが/故卿(こきやう|△(ママ))のうへをとをる。/李衛公(りゑいこう)おもふやう、わが/故卿(こ△きやう|△(ママ)△)に 00078560M15もこのごろ/旱魃(かんばつ)し(七ウ)て、/雨(あめ)をこひけるほどにとおもひ、 00078570M16ひいきに三/十滴(じうてき)/余(あまり)こぼせしほどに、/故郷(こきやう)に/洪水(こうずい)いでゝ/平地(へいち) 00078580M17に/水(ミづ)三/丈(じやう)あまりとなり、/田畠(でんばく)/民家(ミんか)こと+くながれけると 00078590M18也。/公(おほやけ)のわたくしハせぬ事、/十分(じうぶん)ハ/覆(こぼるゝ)もの也とぞ。 00078600¥P246 00078610¥N5¥J 00078620¥X鴟生鷹 00078630L3/人(ひと)の/子(こ)の/親(をや)にまさりて/発明(はつめい)なるをほむるとて、/鴟(とび)が/鷹(たか)うん 00078640L4だと/人(ひと)ごとにいふ事あり。/鳥類(てうるい)にたとゆる事よからぬ事な 00078650L5れバ、/遠慮(ゑんりよ)すべき事也といへば、ある/人(ひと)のいへるハ、すこ 00078660L6しもくるしからぬこと也、もろこしにも/人(ひと)の/子(こ)をほめて、 00078670L7/龍(れう)の/卵(かいご)、/鳳凰(ほうわう)の/雛(ひな)といえり、そのほか/聖人(せいじん)を/麒麟(きりん)/鳳凰(ほうわう)にた 00078680L8とへ、/漢(かん)の/高祖(かうそ)ハむまれつきおそろしくして、/顔(かほ)/龍(れう)のごとく 00078690L9なるゆへ、/高祖(かうそ)を/龍顔(れうがん)といひしより、/天(てん)(八オ)子の/名(な)とせ 00078700L10り、/龍(れう)ハ/喉(のと)の/下(した)に、たけ壱/尺(しやく)ばかりの/逆鱗(さかうろこ)あり、/人(ひと)これに 00078710L11ふるゝときハ/命(いのち)をうしなふ、/臣(しん)も/君(きミ)の/御機嫌(ごきけん)をそむくとき 00078720L12ハ/命(いのち)をうしなふ事、/龍(れう)の/逆鱗(さかうろこ)にふるゝがごとしといふここ 00078730L13ろにて、/天子(てんし)の/怒(いかり)を/逆鱗(げきりん)といふ、これも/天子(てんし)を/龍顔(れうがん)といふ 00078740L14よりおこりたることバ也、/史記(しき)/韓非(かんひ)が/伝(でん)にミへたり、/日本(にほん) 00078750L15にても、/貴人(きにん)の一/言(ごん)を/鶴(つる)の一こゑといひ、/器量(きりやう)よきを/鰭(ひれ)の 00078760L16ある/男(おとこ)といひ、やせたる/人(ひと)を/鮎(あゆ)の/魚(いを)のやうなといひ、/侍(さふらひ)の 00078770L17なさけあるを/鬼(おに)の/目(め)にもなみだといふたぐひ、いかほども 00078780L18あれど、いひつけたる/俗語(ぞくご)なれば、さのミ/耳(ミゝ)にもたゝず、 00078790L19されども/所(ところ)によりて/用捨(ようしや)すべき事也。又ある人のいへるハ、 00078800M1人を/禽獣(きんじう)にたとゆるをいまば、すぐに/名(な)につくハいかゞせ 00078810M2ん、もろこし/孔子(かうし)の御/子(こ)を/鯉(り)(八ウ)/魚(ぎよ)といひ、/■都(しと)といふ 00078820M3人を/蒼鷹(ざうよう)といふ、/日本(にほん)にてちかくいハゞ、/人(ひと)の/名(な)に/猪左衛= 00078830M4門(ゐさへ=もん)、/熊右衛門(くまゑもん)、/牛之助(うしのすけ)、牛之/烝(ぜう)、/犬千代(いぬぢよ)、/虎松(とらまつ)、お/鶴(つる)、お 00078840M5/亀(かめ)などいふ、みないむべきにや、それよりなを/神仏(かミほとけ)の/名(な)に 00078850M6さへ、/牛頭天(ごづてん)皇、/馬頭観音(ばとうくハんをん)、/蛸薬師(たこやくし)、/虎薬師(とらやくし)とてあり、い 00078860M7ハんや/人(ひと)をやといえり。まことにいへばいわるゝもの也。 00078870M8/人(ひと)を/諷(ふう)じて/鳥類(てうるい)/畜類(ちくるい)にたとへたる事もあり。/唆人(そとしきひと)を/鷦鷯(みそさゝい)と 00078880M9いひ、/小男(こをとこ)を/鶺鴒(せきれい)といひ、/■人(そゝるひと)を/水鼬(ミづいたち)といひ、/閑(しづか)な人を/闇(くらがり) 00078890M10の/牛(うし)といひ、/躁人(さハぐひと)を/桑鳥(あつとり)の/火(ひ)といひ、/黙人(だまるひと)を/牛盗(うしぬすびと)といふ、 00078900M11又/人(ひと)の/異相(ゐさう)につゐてハ、/馬顔(むまがほ)、/馬髪(むまがミ)、/猪頚(いくび)、/兎缺(いぐち)、/猿眼(さるまなこ)、 00078910M12/鬼歯(をにば)、/蟻腰(ありごし)、/鳩胸(はとむね)、/猫背(ねこせなか)、/猿手(さるで)、/豹脚(かのすね)、/犬蹲(いぬつくバひ)、/鶏朦眼(とりめ)、/鶏= 00078920M13膚(とり=はだ)、/狸寝(たぬきねいり)、/牛起(うしをき)、/鶉立(うづらたち)、/螻蛄笑(けらわらい)、このたぐひかぎりもある 00078930M14べからず。(九オ) 00078940¥N6¥J 00078950¥X狗子知道 00078960M17/北条氏政(ほうでううぢまさ)、ひたちの/小田城(をだのしろ)を、せめ給ふ事あり。/城主(じやうしゆ)は/梶= 00078970M18原源太(かぢ=ハらげんだ)なり。/太田美濃守(おほたミのゝかミ)が/子(こ)也。/美濃守(ミのゝかミ)ハ/法躰(ほつたい)して/三楽寺(さんらくじ) 00078980M19と/号(がう)せり。/片野(かたの)といふ/所(ところ)に/引篭(ひきこも)りてゐけり。/小田(をだ)と/片野(かたの)の 00078990¥P247 00079000L1あいだ、/関東路(くハんとうぢ)卅/里(り)あり。さるほどに/氏政(うぢまさ)十月/中旬(ちうじゆん)に/絹川(きぬがわ) 00079010L2を/越(こへ)、/小田(をだ)にむかひ給ふ。そのまへに/梶原(かぢハら)、/三楽(さんらく)に申け 00079020L3るハ、/氏政(うぢまさ)の/陳(ぢん)よせきたらバ、/片野(かたの)へ/通路(つうろ)あるまじく候、 00079030L4なにといたし申べくやととひけれバ、その/方(ハう)しあん候へと 00079040L5申さるゝ。/梶原(かぢハら)二三日しあんしけれども、あたらざるよし 00079050L6を申せバ、/三楽(さんらく)、いとやすき事也、すでに/氏政(うぢまさ)/絹川(きぬがハ)に/橋(はし)をか 00079060L7けさせ、/今明(こんミやう)に/越川(ゑつせん)あるべきとき、/片野(かたの)の/城(しろ)の/鷹犬(たかいぬ)十/疋(びき)に 00079070L8/縄(なわ)をかけて/小田(をだ)へ/越(こし)、/小田(おだ)の/犬(いぬ)十/疋(ひき)に(九ウ)(十オ挿画)/縄(なわ) 00079080¥G 00079090M1をかけて/片野(かたの)へつかハすべし、/人(ひと)のかよひたへたらんとき 00079100M2ハ、/犬(いぬ)の/頭(かしら)に/文(ふミ)をゆひつけてたがひに/越(こゆ)べし、とやくそく 00079110M3す。あんのごとく/氏政(うぢまさ)の/陳(ぢん)、/馬上(ばしやう)五/千騎(せんぎ)、/雑兵(ぞうへう)五六/万(まん)にて、 00079120M4ちか+とよせけれバ、/野(の)も/里(さと)もみな/人数(にんじゆ)ばかり也。/梶原(かぢハら) 00079130M5/夜(よ)に/入(いり)て/状(じやう)をしたゝめ、/竹(たけ)の/子(こ)のかわにつゝみて、/片野(かたの)の 00079140M6/犬(いぬ)の/頭(かしら)にゆひつけてはなすに、せつなに/片野(かたの)に/参着(さんちやく)す。/三= 00079150M7楽(さん=らく)、さればこそとよろこび、/状(じやう)をひらき、/時付(ときづけ)をミれバ、 00079160M8/人(ひと)の/道(ミち)を四五/里(り)ゆくほどのあいだ也。/犬(いぬ)ハはやきものとぞ 00079170M9申されける。さて/返状(へんじやう)をしたゝめ、/小田(をだ)の/犬(いぬ)の/頚(くび)にゆひつ 00079180M10けてはなすに、/陳(ぢん)をとり/狼煙(かゞり)をたき、/日中(につちう)のやうなる/所(ところ)を 00079190M11/何(なに)ときたりけん、せつなに/小田(をだ)に/来着(らいちやく)して、たがひに/通路(つうろ) 00079200M12をなせしと也。かゝるためしも/上代(じやうだい)にある事にや、又ハ三 00079210M13(十ウ)/楽(らく)が/工夫(くふう)しいだしたるにやと、人ミな/不思儀(ふしぎ)のをも 00079220M14ひをなせしと也。 00079230¥N7¥J 00079240¥X能交為檣 00079250M17むかし/江州(ごうしう)/臍村(へそむら)といふ/在所(ざいしよ)に、/隣(となり)つから/中(なか)よく/住(すめ)る/百姓(ひやくしやう)あ 00079260M18り。つねに/背戸(せど)よりゆきゝしけるに、ある/夜(よ)、/西(にし)となりの 00079270M19/家(いへ)にぬす/人(びと)いりたるをしらず、/夜(よ)あけてミれば、/東(ひがし)となり 00079280¥P248 00079290L1の/背戸(せど)へむけて、ぬす/人(ひと)の/足(あし)あとあるによりて、/心(こゝろ)のうち 00079300L2に/東隣(ひがしとなり)をうたがふといへども、ひごろよきなかれバ、そ 00079310L3のむきにて/過(すぎ)ぬ。/東(ひがし)となりにもこれを/聞(きゝ)て/気味(きミ)わるくおも 00079320L4ひて、むかしより、よき/中(なか)にハ/檣(かき)をせよといふほどにとて、 00079330L5檣をゆひて、そのゝちハ/表口(おもてくち)よりゆきゝしけるが、/程(ほど)へて 00079340L6/子孫(しそん)の/代(よ)になりて、この/坪(へい)につきて/相(さう)(十一オ)/論(ろん)をし/出(いだ)し、 00079350L7この/坪(へい)ハそのかミ/東(ひがし)となりよりかけたりといふ、いや/西(にし)と 00079360L8なりよりかけしと、たがひにあらそふといへども、/年(とし)/久(ひさ)し 00079370L9き事なれバたれもしりたる/人(ひと)なし。さる/人(ひと)これを/聞(きゝ)て、こ 00079380L10の/詮議(せんぎ)をたゞす事いとやすき事也とて、くだんの/論(ろん)ずる/坪(へい) 00079390L11を一/間(けん)ほどこぼちて、これ+見給へ、およそ/坪(へい)ハ、かけ 00079400L12ぬしの/方(ほう)に/縄(なわ)のむすび、とめ/釘(くぎ)のかしらあるもの也、/今(いま)こ 00079410L13の/坪縄(へいなわ)のとめ/釘(くぎ)のかしら/東隣(ひがしとなり)にあり、しかれバ、むかし/東(ひがし) 00079420L14となりよりかけしにうたがひなし、といわれけれバ、/東(ひがし)と 00079430L15なりまけになりぬ。とかくよい/中(なか)にハ/論(ろん)ぜずとも、どちか 00079440L16らなりとも/檣(かき)をすれバ、/中(なか)もあしくならぬものなりとて、 00079450L17よい/中(なか)にハ/檣(かき)をせよともいふ也。 00079460¥N8¥J 00079470¥X/肩(かたの)/善悪(よしあし)(十一ウ) 00079480M1/運(うん)がよい/運(うん)がわるいといふべきを、/肩(かた)がよい/肩(かた)がわるいと 00079490M2いふこと、いかめしき人のいふべきことバにあらず、いや 00079500M3しきことバなり。/肩(かた)に/棒(ぼう)おく/商人(あきんど)、/駕(かご)かき、/乗物(のりもの)/舁(かき)よりお 00079510M4くりたることバ也。/乗物(のりもの)かくものを/禁中(きんちう)にてハ/駕輿丁(かよてう)とい 00079520M5ひ、/地下(ぢげ)にてハ/六尺(ろくしやく)といふ。/乗物(のりもの)の/棒(ぼう)ハ壱/丈(じやう)三/尺(しやく)あるもの 00079530M6也。これを二/人(にん)してかくゆへに六/尺(しやく)といふ。又ある/説(せつ)に、 00079540M7/田舎間(いなかま)といふハ壱/間(けん)を六/尺(しやく)とし、/京間(きやうま)といふハ壱/間(けん)を六/尺(しやく) 00079550M8三/寸(すん)とさだむ。さるによつて/京(きやう)にてハ壱/間(けん)を六/尺(しやく)としてハ 00079560M9/間(ま)にあわぬ也。/乗物(のりもの)かく/男(をとこ)ハ/随意(ずゐ)なるものにて、/主人(しゆじん)のま 00079570M10にあハぬといふこゝろにて、六/尺(しやく)といふといえり。又ある 00079580M11/人(ひと)のいえるハ、/漉酌(ろくしやく)と/書(かく)也、/義理(ぎり)ハ/酒(さか)屋の/酒(さけ)つくる/男(おとこ)を/漉= 00079590M12酌(ろく=しやく)といふ、/漉(ろく)ハこす、/酌(しやく)ハくむとよめり、五/石入(こくいり)、十/石入(こくいり) 00079600M13の/大桶(おほをけ)(十二オ)をふりまわし、きハめてせいたかき/男(をとこ)なれ 00079610M14バ、せい/高(たか)きを/漉酌(ろくしやく)といひつけしより、のり/物(もの)かくものを 00079620M15も/漉酌(ろくしやく)といふ也、といわれけれバ、さる/人(ひと)きゝて、それハ 00079630M16/酒(さか)/藤次(たうじ)とこそいへと/云(いふ)。されバ/藤次(とうじ)といふハ、むかし/南都(なんと) 00079640M17に/木津屋(きづや)といえる/酒屋(さかや)のうちに、/藤次郎(とうじらう)とて/酒(さけ)つくりの/名= 00079650M18人(めい=じん)あり。のちにハ/京(きやう)にのぼり、/上京(かミぎやう)/下京(しもきやう)の/酒屋(さかや)にやとハれ 00079660M19て/酒(さけ)つくりしより、すべて/酒屋(さかや)の/男(おとこ)を/藤次(とうじ)とハいふ也。 00079670¥P249 00079680L1のり/物(もの)かく事、/大(おほ)かたならぬわざにて、/手(で)づかいにハ/種蒔(たねまき) 00079690L2およぎ/鴟(とび)ぐち、/足(あし)づかいにハきざむ/足(あし)、/戻(もぢ)り/足(あし)、そり足、 00079700L3および足、/腰(こし)づかいにハひねり/腰(ごし)、すへ/腰(ごし)、/中腰(ちうごし)、および 00079710L4/腰(ごし)など、さま+のならひありて、六/尺(しやく)/中間(なかま)の/棟梁(とうりやう)、それ 00079720L5+の/器量(きりやう)を見たてゝ、/家(いへ)+にありつくる。むかしハ/京(きやう) 00079730L6の/医者(いしや)にてハ、/山科(やましな)、/板坂(いたさか)(十二ウ)/両家(れうけ)のあらそひに、六 00079740L7/尺(しやく)/火花(ひはな)をちらせし事もあれど、すべて六/尺(しやく)ハ/主人(しゆじん)を/蔑(ないがしろ)に 00079750L8し、/人(ひと)をあなどりて、/随意(ずゐ)なるものなれバ、その/冥加(めうが)につ 00079760L9きて、やう+/葛篭(つゞら)かたし/半櫃(はんびつ)壱ツの/宿(やど)ばいり、/御池西(をいけにし)、 00079770L10/姉(あね)が/小路(かうぢ)のせばきかたやをかりて、/仕(し)なれぬ/足駄屋(あしだや)をして 00079780L11ハ、/鉋屑(かんなくづ)のけふりたへ+に、/貧(まづ)しき/青物(あをもの)をしてハ、う 00079790L12り/物(もの)を/心(こゝろ)とともにくさらかす。あるひハおろせの/宿(やど)して/太= 00079800L13臣(だい=じん)をあつめ、/或(あるい)ハむかしをほのめかして/紋付(もんつき)のひとへ/物(もの)、 00079810L14/駕(かご)やりましよの/辻立(つぢたち)をするありさま、をのれが心からとハ 00079820L15いひながら、みるも/中(なか)+かハゆや。(十三オ) 00079830¥Y1/篭耳(かごみゝ)/巻之(けんの)四 00079840M3△△一△採御鬚塵△さたハない事/和(わ)のひげ/人参(にんしん) 00079850M4△△△△△△△△△△付タリ/板氏(いたうじ)殿/公事(くじ)のあいさつ 00079860M5△△二△/地獄(ぢごくの)/沙汰(さたも)/銭(ぜに)△くま/野(の)びくにのくまで/性(しやう)はなし 00079870M6△△△△△△△△△△付タリ/丹波(たんば)の与三兵衛めいど物か 00079880M7△△△△△△△△△△たり 00079890M8△△三△/阿弥堕(あミだハ)/銭(せにほと)/光(ひかり)△ひかりわたつた/唐(から)の/仏像(ぶつぞう) 00079900M9△△△△△△△△△△△付タリけいせいぐるいのいけん 00079910M10△△四△/傍若無人(ばうじやくぶじん)△△しらミをひねる/王猛(わうもう)が/口上(こうじやう) 00079920M11△△△△△△△△△付タリあふミのくにゝ/弁(べん)けいが/刀(かたな)有 00079930M12 00079940M13△△五△鋸屑謂被謂△けあげのどろもかわくまりの/場(ば) 00079950M14△△△△△△△△△△△付タリ/普(ふ)阿ミ/長斎(てうさい)/当座(とうざ)のかる/口(くち) 00079960M15△△△△△△△△△△△△(一オ) 00079970M16△△六△自姓育△/唐(から)のやどがへいわふて三/度(ど) 00079980M17△△△△△△△△付タリぎやうぶ左衛門一/乱(らん)の/洗足(せんそく) 00079990M18△△七△/答話(たうわ)/即妙(そくめう)△じゆずの/数弓(かずゆミ)極楽(ごくらく)によつ/引(ひい)てはなつ 00080000M19△△△△△△△△付タリひでいち/言下(ごんか)のりくつ 00080010¥P250 00080020L1△△八△/下手(へたの)/長談義(ながだんぎ)△/高座(かうザ)の/天秤(てんびん)十/貫匁(くハんめ)をたゝきだす 00080030L2△△△△△△△△△△付タリをしやうのかんるいいたづ 00080040L3△△△△△△△△△△ら/男(をとこ) 00080050L4△△九△/大欲(だいよくハ)/無欲(むよく)△かたいかね七百両/石(いし)のかねばこ 00080060L5△△△△△△△△△△付タリ/浪人(らうにん)まさむねの/刀(かたな)をおるわけ 00080070L6△△△△△△△△△△△△△△△△△△目録終(一ウ) 00080080¥T1篭/耳(みゝ)巻之(けんの)四 00080090¥N1¥J 00080100¥X一△採御鬚塵 00080110M5もろこし/冦莱公(かうらいこう)といふ人あり。/参知政事(さんちせいじ)といふ/官(くハん)にのぼり 00080120M6て、/世(よ)に/威(ゐ)をふるいけるが、あるとき/羮(あつもの)をくひて/鬚(ひげ)に/塵(ちり)の 00080130M7つきけるを、/丁謂(ていき)といへるものそばにゐて、/冦莱公(かうらいこう)にこび 00080140M8へつらい、/鬚(ひけ)なる/塵(ちり)をとりてすてまいらせける。/時(とき)の/人(ひと)、 00080150M9/丁謂(ていき)をへつらいものよとそしりける/故事(こじ)より、/媚諂(こびへつらふ)ことを 00080160M10/御鬚(おひけ)の/塵(ちり)をとると、/日本(にほん)にもいひつたへたり。/史記(しき)にミへ 00080170M11たり。/和(わ)にても、むかしかしこふもなき/大名(だいめう)、/大鬚(おほひげ)をつく 00080180M12りて、ことの/外(ほか)じまんにおもひて、/御前(ごぜん)なる人にみせ、な 00080190M13にと、わが/鬚(ひけ)を/世(よ)の人なにと/取(とり)さたするやととい給へば、 00080200M14/御前(ごぜん)なる人&へつらいて、/殿様(とのさま)の(二オ)/御鬚(をひげ)のみごとさ、 00080210M15わがてうにてハ見たことも、きいた事もなく候、たゞ/唐物(からもの) 00080220M16とこそ、たれも申候へといへば、/大名(だいミやう)/悦喜(ゑつき)かぎりなくて、 00080230M17/御前(ごぜん)なる人+を、そばちかくめしよせ、/小(こ)ごゑになりて、 00080240M18/大(おほ)ひげをなであげ、/沙汰(さた)ハない事、/日本(につほん)の/神(しん)、/和(わ)ものじや 00080250M19といわれし。されハ/貴人(きにん)/高位(かうい)の/御前(をまへ)にてハ、やむ事を/得(え) 00080260¥P251 00080270L1ずして、/諂(へつらい)のあいさつもいふ事有ものなれバ、/讒諂面諛(ざんてんめんゆ)の 00080280L2/罪(つミ)のがれざる事なり。もし又へつらいなく、/理(り)をたゞして、 00080290L3あいさつせば、ときの/機嫌(きげん)をそこないて、おのれが/職分(しよくぶん)を 00080300L4うしなふべし。すでに/孔子(かうし)/孟子(もうし)の/戦国(せんごく)にむまれて、/理(り)をと 00080310L5いて、/君(きミ)にへつらふ/心(こゝろ)なかりしゆへ、/時(とき)にあわずもちひら 00080320L6れずして、一代やミ給ふがことし。いわんや/孔孟(こうもう)におよは 00080330L7ぬ人をや。されども、へつらハずして、よきほどのあいさ 00080340L8つ有べき事也。そのかみ、/板氏(いたうじ)なにがし/殿(どの)、/久(ひさ)しく/京都(きやうと)の 00080350L9/所司(しよし)(二ウ)をつとめ、/公事沙汰(くじさた)をとりおこなひ給ひて、の 00080360L10ち/江府(こうふ)にくだり給ふに、/京(きやう)にて/御出入(おいていり)申町人、/江府(こうふ)にて/御= 00080370L11目(をん=め)にかゝりけるとき、/板氏某殿(いたうしなにかしどの)、われ/公事沙汰(くじさた)をとりさ 00080380L12バきし/時(とき)、/京都(きやうと)のもの共なにと取/沙汰(さた)いたしぬるや、まつ 00080390L13すぐに申せとおほせられけれハ、かの町人うけ給ハり、さ 00080400L14れば/理公事(りくじ)にて/勝(かち)たるものハ、/殿様(とのさま)を万年様とあふぎたつ 00080410L15とび申候、又/非公事(ひくじ)にて/負(まけ)たるものハ、殿様を/非道(ひだう)の/御奉= 00080420L16行様(おぶ=ぎやうさま)とそしり申候と、御あいさつ申上けれバ、これハ/尤(もつとも)な 00080430L17りとて、/板(いた)うじ/殿(どの)ことのほか/御機嫌(ごきげん)よろしかりしとかや。 00080440L18かやうのあいさつ、/即座(そくさ)にハ/出(で)ましきもの也と、人+か 00080450L19んじき。 00080460¥N2¥J 00080470¥X二△/地獄(ぢごくの)/沙汰(さたも)/銭(ぜに) 00080480M3くまの/比丘尼(びくに)、/地獄(ぢごく)の/躰相(ていさう)をゑにうつし、かけ/物(もの)にして、 00080490M4ゑときし、/女(をんな)わらへをたらす。かのうまずの/地(ぢ)ごく、/両婦(ふため) 00080500M5ぐるひの(三オ)ぢごくハ、たやすくゑときせぬを、女子ども 00080510M6なを/聞(きゝ)たがりて、しよもふすれバ、百廿文の/灯明銭(とうめうせん)をあげ 00080520M7られよ、ゑときせんといへば、われも+と/珠数袋(じゆずふくろ)のそこ 00080530M8をたゝき、/銭(せに)をだしあわせてきけバ、又/血(ち)のぢごく、/針(はり)の 00080540M9ぢごくなどした事をいひきかせ、/女(をんな)の/気(き)にかゝるやうにゑ 00080550M10ときして、ひたと/銭(ぜに)をとる。これより、ぢごくのさたも/銭(せに) 00080560M11とハいふ也、とかたれバ、かたハらに、/丹波(たんば)の/沓懸(くつかけ)といふ 00080570M12/在所(ざいしよ)の人ゐあわせて、いひけるハ、ぢごくの/沙汰(さた)も/銭(ぜに)とハ、 00080580M13さやうの事にあらず、/遠(とおふ)もないこと、われらの/在所(ざいしよ)に/与三= 00080590M14兵衛(よそ=びやうへ)とて、/後生(ごしやう)ねがいの、とし/久(ひさ)しき/百(ひやく)しやうあり、/子(こ)ど 00080600M15もあまたもたれけれ共、/身(ミ)まづしく、/借銭(しやくせん)をゝく、あま 00080610M16つさへ、ふりよに、やまひにもとづき、あいはてけるを、 00080620M17/子(こ)共なく+/野辺(のべ)におくり、あけの/日(ひ)、/墓(はか)にもふでぬれバ、 00080630M18/土(つち)の/下(した)より与三兵衛がこゑとして、/子(こ)共をよぶ事(三ウ) 00080640M19(四オ挿画)しきり也、/子(こ)どもおどろき、/土(つち)をほり、/棺(くハん)をひ 00080650¥P252 00080660¥G 00080670L12らきて見れは、/与三兵衛(よそびやうへ)が/死骸(しがい)、/目(め)をひらき、/子(こ)共をみて、 00080680L13さて+なんぢらハふかくのものどもかな、われ/冥途(めいど)にお 00080690L14もむき、すでに/六道(ろくたう)のちまたにゆきかゝりけれバ、/焔魔王(えんまわう) 00080700L15/出(いで)あひ給ひて、/六道銭(ろくだうせん)をわたすべきよし申されけるゆへ、 00080710L16/腰(こし)のまハりをさがせとも、一銭もなし、/子(こ)共しつねんいた 00080720L17しぬると見へたり、をつつけ/盆(ぼん)の/聖霊会(しやうれうゑ)まで、御のべ/下(くだ)さ 00080730L18るべし、きつとあひすまし申べきよし、いろ+ことハり 00080740L19を申せども、/焔魔王(えんまわう)なか+/了簡(れうけん)し給ハず、ふたゝび/娑婆(しやば) 00080750M1へたちかへり、いそぎ/持参(ぢさん)すべきよしにて、はる+の/冥= 00080760M2途(めい=ど)をたゞ今よみがへりたるぞ、いそぎ/銭(ぜに)六文くれよといわ 00080770M3れけれバ、子共よろこび、さいわいの事也、もはや/冥途(めいど)へ 00080780M4御かへりなく、すぐに/娑婆(しやば)にとゞまり給へといへは、/与三= 00080790M5兵(よそ=びやう)(四ウ)衛きゝて、いや+此たびわれも/冥途(めいど)へかへりた 00080800M6くハなけれ共、此六/文(もん)の/六道銭(ろくたうせん)、日に一ばいの/利(り)がくふと、 00080810M7たしかに/焔魔(えんま)のいひわたしなれバ、われつく+と/棺(くハん)の/内(うち) 00080820M8にて/算用(さんよう)すれバ、一年の日かずにハ、六文のぜにが四拾三 00080830M9/貫文(ぐハんもん)の/余(よ)となれば、ふたゝび/娑婆(しやば)にながいきして、/来世(らいせ) 00080840M10の/借銭(しやくせん)つもりなバ、すます/時節(じせつ)ハあるべからず、/今(いま)/六銭(ろくせん)ハ 00080850M11いとやすし、日かずのたゝぬその/内(うち)にはやくわたせと、い 00080860M12われければ、/子(こ)共なく+銭六文/棺(くハん)の内なる/頭陀袋(づだぶくろ)に/入(いれ)、 00080870M13さらバ+とたがひにいとまごひして、/棺(くハん)の/蓋(ふた)をしめけれ 00080880M14ば、まて+と内よりよバゝる。子共なに事かなと/蓋(ふた)をあ 00080890M15けゝれば、/古銭(こせん)がある、かへてくれよといわれける。され 00080900M16バ地ごくの/沙汰(さた)も/極楽(ごくらく)のうハさも銭の世の中、べつして/当= 00080910M17銀(とう=ぎん)のうり/買(かい)ハ、/冥途(めいど)も/娑婆(しやば)にかわる事なしとぞかたりける。 00080920M18(五オ) 00080930¥P253 00080940¥N3¥J 00080950¥X三△/阿弥陀(あミだハ)/銭(ぜにほど)/光(ひかる) 00080960L3/物(もの)のすこしばかりといふたとへを、/銭(ぜに)のまわりほどゝい 00080970L4ふは、いやしきたとへかといへば、いにしへ/聖徳太子(しやうとくたいし)/御在= 00080980L5世(ござい=せ)のとき、/百済国(はくさいこく)より/阿弥陀(あミだ)の/仏像(ぶつざう)を、わがてうにわたし 00080990L6/奉(たてまつ)りけるに、この/像(ざう)、/霊験(れいげん)あらたにまし+て、つねに 00081000L7/白号(びやくがう)より/銭(ぜに)のまわりほどのひかりをはなち給ふによつ 00081010L8て、ときの人、あミだハ/銭(せに)ほどひかるといひけるを、/今(いま)の 00081020L9/世(よ)までもことわざとなれり。このあミだ如来、/今(いま)に/南都(なんと)の 00081030L10/興福寺(かうぶくじ)にましますとかたれば、かたへの人きゝて、ほとけ 00081040L11も/白木(しらき)づくり、/黒(くろ)ぬりなどハさながら/信(しん)心もうときもの也、 00081050L12仏ハ/粧厳(しやうごん(ママ))より/尊(たつ)としとて、金銀/珠玉(しゆぎよく)にてかざりみがけるハ、 00081060L13さながら/極楽(ごくらく)のいきによらいのこゝちして、まのあたり/光= 00081070L14明(くハう=めう)もかゝやくばかりにおもわるゝものなれバ、あミだハぜ 00081080L15(五ウ)にのいりたるほど、ひかるといふ事也といへは、又 00081090L16かたへの人の/説(せつ)に、さびしきころ、わかきどち、よりあひ 00081100L17て、あミだのひかりとて、かけ/勝負(しやうぶ)にぜにを/出(だ)しあわせて、 00081110L18あるじもふけする事あり、ぜにをゝくいだしたる人の/饗= 00081120L19応(あるじ=もふけ)ハ、/一座(いちざ)の/威光(ゐくハう)もあるゆへに、あみだハ/銭(ぜに)ほどひかると 00081130M1いふにやと、おもひ+に/義理(ぎり)をつけぬる。つら+おも 00081140M2ふに、/今(いま)の/世(よ)の中、ゆんでにハ/珠数(じゆず)のつぶをつまぐり、め 00081150M3てにハ/十露盤(そろばん)のつぶをはぢき、口にハ念仏をとなへて、 00081160M4目にハ/竃(かま)の/下(した)の/薪(たきゝ)のくべやう、/灯心(とうしん)のふとぼそに/気(き)をつ 00081170M5くる。かゝる/世智(せち)なるじせつに、/大(だい)ぶんの/金銀(きん※)をなげうつ 00081180M6て、/堂塔(だうたう)をこんりうし、/司堂(しだう)をいれ、/僧(そう)をくやうする事、 00081190M7たゞ地ごく/極楽(ごくらく)ハ/銭(せに)しだいといふ事を、よくわきまへ、さ 00081200M8とりたるなるべし。/但(たゝ)し/買置(かいをき)のはやるじせつなれバ、/来世(らいせ) 00081210M9の/買(かい)をきとおもふにや。これをおもへばぜに(六オ)ある人 00081220M10ハ/罪(つミ)あるも/極楽(ごくらく)にむまれ、ぜになき人ハ/罪(つミ)なくとも、よき 00081230M11ほとけにハならざるべし。ぜひもなき事也。/来世(らいせ)までもな 00081240M12し、/現世(げんぜ)にてもぜにある人ハ、/愚者(ぐしや)も/賢(かしこく)ミへ、ぜになき人 00081250M13ハ、/智者(ちしや)といへども人もちひず。まことにぜにのゐくハう、 00081260M14あげてかぞへがたし。とめる人ハわかしといへ共、人の/上(かミ) 00081270M15に/居(ゐ)、/貧人(まつしきひと)ハ/老(をい)たりといへ共、人の/下(しも)につくばふ。おそろ 00081280M16しき/皃(かほ)もぜにゝてやハらげ、/鈍(にぶき)き/口(くち)をもぜにゝてわらハせ、 00081290M17/翼(つばさ)なふしてとび、/足(あし)なふしてハしるものハぜに也と、もろ 00081300M18こし/魯褒(ろほう)といふ人、/銭神論(せんしんろん)といふ/書(しよ)にかけり。あるもの/傾= 00081310M19城(けい=せい)ぐるひにうき/身(ミ)をやつせり。/友(とも)だちこれをいけんせんと 00081320¥P254 00081330¥G 00081340L12おもひ、まづ/傾城(けいせい)ぐるひのたのしミをとふ。かのもののい 00081350L13わく、けいせいぐるひのおもしろき事、いふはかりなし、 00081360L14あげ屋の/夫婦(ふうふ)、やり/手(て)、/下男(しもおとこ)までも、だんなの御/出(いて)とて、 00081370L15はいつくばふ、もとよりけいせい(六ウ)(七オ挿画)ハなじ 00081380L16むにまかせて、じゆふにまハる、大名とてもまねハならぬ 00081390L17などとかたる。いけんする人、これをきゝて、まことに大 00081400L18じんとよバれ、その方にしたがふものばかりにて、/勝(かつ)もの 00081410L19なくハ、一日の/殿(との)なるべけれバ、よきたのしミなるべし、 00081420M1われもわかきとき、その方の/傾城(けいせい)ぐるひをすかるゝごとく、 00081430M2/相撲(すもふ)をすきてとりしが、あい手に/銭(ぜに)をとらせて、まけてく 00081440M3れよとたのミ、とりしに、われにかつもの一人もなく、み 00081450M4なわが手したにしたがへしゆへ、おもしろき事いわんかた 00081460M5なかりしなり、おもしろき事ハやめがたき物也といふ。か 00081470M6のものきゝて、それハなにかおもしろからん、/銭(せに)をとらせ、 00081480M7わざとまけさせて/勝(かつ)てなにのゑきか有といふ。いけんする 00081490M8人、されバこそ、その方のけいせいぐるひして、人をはい 00081500M9つくばハするハ、みなぜにのなす所也、もし/銭(せに)をとらせず 00081510M10んバ、いかではいつくばハんや、たゞその方につくバふに 00081520M11あらず、銭につくバふ也、これわがお(七ウ)ろかなるすも 00081530M12ふに、かわる所なし、なにのたのしミかあるやと申けれバ、 00081540M13かのもの/尤(もつとも)と/得心(とくしん)して、そのゝちハけいせいぐるひをとま 00081550M14りけるとかや。 00081560¥N4¥J 00081570¥X四△/傍若無人(ばうじやくふじん) 00081580M17もろこし/晋(しん)のくにゝ/桓温(くハんうん)といふ/高位(かうゐ)の人あり。あるとき/王= 00081590M18猛(わう=もう)といふものと/当世(とうせい)の事を/物(もの)かたりするに、/王猛(わうもう)人(ひと)を/屑(ものかず)と 00081600M19もせぬものにて、/桓温(くハんうん)を/貴(たつとし)ともせず、/虱(しらミ)をひねりながら/物(もの) 00081610¥P255 00081620L1がたりせり。そのさま傍若無人といふ/故事(こじ)より、/傍若無= 00081630L2人(ばうしやくぶ=じん)の/字(じ)/出(いで)たり。/晋書(しんじよ)にミへたり。すべておのれがおろかな 00081640L3ることをかへりみず、人を/蔑(ないかしろ)にするを/傍若無人(ばうじやくぶじん)といふ也。 00081650L4ある人/元三大師(ぐハんざんだいし)の/手跡(しゆせき)を見たりとかたる。それハ/文(ふミ)か/哥(うた)か 00081660L5とといけれバ、いや/二条関白殿(にでうのくハんばくとの)へつかわされし文にてあり 00081670L6しが、/二条関白様(にでうのくハんばくさま)/参(まい)る/元(ぐハん)(八オ)/三大師判(ざんだいしはん)とありしとかた 00081680L7る。人+きゝて、/元三太師(ぐハんざんだいし)ハ/慈恵僧正(じゑそうしやう)とこそいひたれ、 00081690L8/大師(だいし)とハ/遷化(せんげ)のゝちの/諡(おくりな)なりといへば、かの人、いやとよ、 00081700L9/遷化(せんげ)のゝちにかゝれた/文(ふミ)也と、じやうごハにあらそひける。 00081710L10つれ+/草(くさ)にかける、/小野道風(をのゝとうふう)のかける、/和漢朗詠集(わかんらうゑいしう)のた 00081720L11ぐひ、/余(われ)一とせ、あふミの国にくだりしに、ある山/寺(てら)に/弁= 00081730L12慶(べん=けい)がさしたる/刀(かたな)とて、/寺(てら)の/什物(じうもつ)してこと+しく/秘蔵(ひそう)せり、 00081740L13/中心(なかご)を見れバ、/金剛兵衛盛高(こんかうびやうへもりたか)とあり。/時代(じだい)ちがひなれバ/心(こゝろ) 00081750L14におかしかりし。又ある人、/書物(しよもつ)をよみてゐる所へ、さる 00081760L15ものふと入きて、なにをよまるゝぞとといけるゆへ、三十 00081770L16六人の/哥仙(かせん)なりといへば、それハ/楠(くすのき)かうちじにの所かとと 00081780L17いけるもおかし。 00081790¥N5¥J 00081800¥X五△鋸屑謂被謂 00081810M1もろこし/晋(しん)の/陶侃(とうがん)といふ人、/船(ふね)をつくりて、その/鋸屑(をがくづ)を/俵(たハら) 00081820M2に(八ウ)いれ、ゆわへてたくハへをきけるが、あるとき正 00081830M3月/元日(くハんにち)に/大雪(おほゆき)ふりて、/禁中(きんちう)の/庭(にわ)しるかりけれバ、くだんの 00081840M4/鋸屑(をがくづ)をとり/出(いだ)して、/庭(にわ)にしかれけれバ、/出仕(しゆつし)のさまたげな 00081850M5かりしと也。/日本(にほん)にても、/中務親王(なかつかさしんわう)かまくらにて/御鞠(をんまり)のあ 00081860M6りけるとき、/雨(あめ)ふりて、のちいまだ/庭(にわ)かハかざりければ、 00081870M7/隠岐(をきの)/太郎左衛門(たろふざへもん)/入道(にうだう)/心願(しんぐハん)といふ人、/鋸屑(をがくづ)をひごろたくハ 00081880M8へをきて、/一庭(いつてい)にしかれけれバ、/泥土(でいど△|どろつち)のわづらいなかりけ 00081890M9ると也。/鋸屑(をがくづ)もゆへばゆわれて、たくわへらるるもの也と、 00081900M10/世(よ)の人いひしとかたれバ、いやさにハあらず、/鋸屑(をがくづ)とハい 00081910M11へばいわるゝといふ/枕(まくら)ことバの/秀句(じうく)也。/利口(りこう)/弁舌(べんぜつ)ある人ハ、 00081920M12/非(ひ)を/理(り)にもいへばいわるゝもの也。むかし/普光院(ふくハうゐん)どのゝ 00081930M13御とき、/普阿弥(ふあミ)といへる/同朋(どうぼう)、/御意(ぎよい)にいりけるが、あると 00081940M14き/義教(よしのり)/御普請(ごぶしん)をおほせ/付(つけ)られけるに、はや/出来(でき)つらんと 00081950M15おぼしめし、(九オ)御/出(いで)あつて御らんずるに、/普請(ふしん)のてい 00081960M16ミへざりければ、もつてのほか御きげんあしく、/赤松(あかまつ)、/山= 00081970M17名(やま=な)も/御座敷(をざしき)にたまらぬほど也。/普阿弥御前(ふあミごぜん)にまいり、なに 00081980M18として御きげんあしく候と申。その/時(とき)/義教(よしのり)、五六日いぜん 00081990M19よりいひつけたる/普請(ふしん)を、けふまでいたさざるハいかにと 00082000¥P256 00082010¥G 00082020L12おほせける。/普阿弥(ふあミ)申けるハ、五六日いぜんより/結(ゆい)つけて 00082030L13をかせ給へバ、/普請(ふしん)にまいらぬもことハりにて候と申せバ、 00082040L14/義教(よしのり)、さればこそ/疾(とく)+とハいひつれとて、わらひて、を 00082050L15くに/入(いり)給ひぬ。又/尾州(びしう)に/長斎(てうさい)とてかくれもなきおどけもの 00082060L16ありて、つねに/御前(ごぜん)にはんべりしが、あるとき御りやうり 00082070L17のしやうばんせしに、/殿(との)の/御膳(ごぜん)の/食(めし)のわろく/出来(でき)たるゆへ、 00082080L18/殿(との)御きげんあしかりけるを、御そば/衆(しう)きのどくにをもわれ 00082090L19しを、/長斎(ちやうさい)やがてとりなし申けるハ、この/飯(めし)ハ/米(こめ)と/水(ミづ)とば 00082100M1かりにてたきたるゆへ、あしくで(九ウ)(十オ挿画)き候も 00082110M2のかと申/上(あけ)けれバ、/殿様(とのさま)いよ+御きげんそこねて、/飯(めし)を 00082120M3たくに/米(こめ)と/水(ミづ)のほかになにをいれてたくものぞ、うつけを 00082130M4申やつめよなと、御しかり/有(あり)けれバ、/長斎(ちやうさい)、いや/米(こめ)と/水(ミづ)の 00082140M5ほかに/今(いま)一いろ/念(ねん)を/入(いれ)てたき候へば、/飯(めし)がよく/出来(でき)申もの 00082150M6也と、いひけれバ、/当座(たうざ)の/興(けう)になりて、御きげんもなをり 00082160M7しと也。 00082170¥N6¥J 00082180¥X六△自姓育 00082190M10もろこし、/孟子(もうじ)といふ/賢人(けんじん)、いとけなきとき、/市(いち)のほとり 00082200M11にすみ給ひしかバ、/孟子(もうじ)あさゆふ/商売(しやうばい)のまねをし給ふゆへ、 00082210M12/孟子(もうじ)の/母(はゝ)、わが/子(こ)をおく所にあらずとて、/人(ひと)を/葬(ほうふる)あたりへ 00082220M13/宿(やど)をかへ給ひしかバ、/孟子(もうじ)またあさゆふ/穴(あな)をほり、/葬礼(そうれい)の 00082230M14まねをし給ふによつて、こゝもわが/子(こ)をおく所にあらずと 00082240M15て、/学者(がくしや)のほとりへ/宿(やど)をかへ給ひしかば、/孟子(もうし)又あさゆふ 00082250M16/学文(がくもん)をまなびて、つゐにたぐひな(十ウ)き/賢人(けんしん)となれり。 00082260M17/列女伝(れつちよてん)に見へたり。これを/孟母(もうほ)の/三遷(さんせん)といふ也。たゞ人ハ 00082270M18/姓(うぢ)よりもいとけなきときの/育(そだち)を/第(だい)一と/心(こゝろ)かけべき事也。/江= 00082280M19戸(ゑ=ど)にて、ある/大名(だいミやう)、むすめを/関東(くハんたう)の/磐手(いわで)といふ/所(ところ)の/殿(との)へ/縁= 00082290¥P257 00082300L1組(えん=くミ)の事あり。/磐手(いわで)ハ/山中(さんちう)にて、所がらあしけれども、/聟(むこ)と 00082310L2のゝ/姓系図(うぢけいづ)、いかにしても/歴(れき)+なりとて、すでに/縁組(えんぐミ)き 00082320L3ハまり、おつぼね、/腰(こし)もと、/中(なか)ゐ、お/半(はした)など、つき+/供(とも) 00082330L4してしうげん事すめり。さて二日三日たてども、つゐに/行= 00082340L5水(ぎやう=ずい)とも/風呂(ふろ)ともさたせず。おつぼねあまりの事に、/聟(むこ)との 00082350L6ゝ/内(うち)に、ものまかなえる/刑部左衛門(ぎやうぶさへもん)といふを、よび/出(いだ)して、 00082360L7ちと/御洗足(をせんそく)を御/出(だ)しあれと申されけれバ、/刑部(ぎやうぶ)、かしこま 00082370L8り候、そのよし申きけんとて/座(ざ)をたち、/年寄衆(としよりしう)にみなよら 00082380L9れよ、御つぼねよりおほせられ/分(ふん)候とふれたり。いづれも 00082390L10なに事ぞ(十一オ)と、あつまりたる/座(ざ)にて、べつの事にて 00082400L11ハなし、おせんそくといふものをいだせとなり、このへん 00082410L12じ、いかゞせんとだんかうす。いづれもかうべをかたむ 00082420L13け、さま+しあんすれども、らちあかず。ときに一の/家= 00082430L14老(か=らう)申さるゝハ、/一乱(いちらん)にうせたと申されよ。/此儀(このぎ)天下一のし 00082440L15あんとて、つぼねへ、おせんそくを/出(いだ)せと候へども、/一乱(いちらん) 00082450L16にうせて/御座(ござ)なく候といふ。つぼねきゝもあへず、あゝけ 00082460L17うこつやと申されけれバ、いや、けふこつも/御洗足(おせんそく)と一/度(ど) 00082470L18にうせて、ござらぬといひし。 00082480¥N7¥J 00082490¥X七△/答話(とうわ)/即妙(そくめう) 00082500M3/武州(ぶしう)/霊厳寺(れんがんじ)の/和尚(わしやう)、ある/大名(だいミやう)のもとへまいられしに、/大名(だいミやう) 00082510M4/和尚(わしやう)にむかつて、/来世(らいせ)にハ/地獄(ぢごく)/極楽(ごくらく)と申/所(ところ)ありて、/念仏(ねんぶつ)を 00082520M5申せバ、かならずたりになり申候やと、とい給へハ、/和尚(わしやう) 00082530M6こたへて、さ(十一ウ)れば、さきの事ハわれもしり候ハ 00082540M7ず、あの御/広間(ひろま)の/数弓(かずゆミ)、/数鉄炮(かずてつハう)とおなじ/道理(だうり)にて候、/今(いま)天= 00082550M8下(てん=か)/太平(たいへい)の/世(よ)に、たれかむほんをおこし申べきなれ共、もし 00082560M9あらバとの/御用心(ごようじん)也、/念仏(ねんぶつ)も又しかなり、ぢごく/極楽(ごくらく)もし 00082570M10あらバとのため也と、いわれし。又/都(ミやこ)にて/秀都(ひでいち)といふ/座頭(ざたう) 00082580M11ある所の/日待(ひまち)にゆき、/夜(よ)ふけて、ちとねむたいといひけれ 00082590M12バ、そばに/女(をなご)どもゐて、そなたハつねに/目(め)をふさいでゐ給 00082600M13へば、ねむたい事ハあるまいがといひけれバ、/秀都(ひでいち)きゝて、 00082610M14/女衆(をなごしう)の/懐妊(くハいにん)して/腹(はら)の/大(おおき)なときハ、/食(しよく)のくいたい事ハあるま 00082620M15いがといひし。この/秀都(ひでいち)ある所へゆき、はなしゐて、もは 00082630M16や/日(ひ)もくれぬ、/道(みち)もとをし、まかりかへらんといへば、て 00082640M17いしゆきゝて、/目(め)の見へぬ/身(ミ)の、日くれをいそぐハいかに 00082650M18といへば、/秀都(ひでいち)きゝて、いや/日(ひ)がくるれば、/目(め)あきが/行(ゆき)あ 00082660M19た(十二オ)りますといひし。 00082670¥P258 00082680¥N8¥J 00082690¥X八△/下手(へたの)/長談義(ながだんぎ) 00082700L3/京都(きやうと)/寺(てら)/+の/談義(だんぎ)も、/上(じやう)るりしばゐにひとしきもの也。 00082710L4きのふまで、こゝの/寺(てら)へまいりしも、/隣(となり)の/寺(てら)が/上手(しやうず)じやと 00082720L5いへば、しるもしらぬもみなこぞりて、きのふまでまいり 00082730L6し/寺(てら)の/門(かど)ハよそ見してとをる。/子(こ)共のうハ/気(き)をいけんする 00082740L7/隠居(ゐんきよ)/禅門(ぜんもん)も、わが/身(ミ)のうハ/気(き)なる事ハおぼへず。こゝかし 00082750L8こと/寺(てら)さがしして、ざわ+ときゝありく。/一寺(いちじ)の/和尚(をしやう)も 00082760L9/学文(がくもん)よりも、まづ/弁舌(べんぜつ)を/修行(しゆぎやう)すれバ、/高座(かうざ)にて一/年(ねん)に拾/貫= 00082770L10目(くハん=め)や廿/貫匁(くハんめ)ハ、/扇(あふぎ)一/本(ほん)にてたゝき/出(だ)す事/目前(もくぜん)也。/因縁(ゐんゑん)を/引(ひき)、 00082780L11たとへをいひ、かる/口(くち)をまぜてとけバ、たとひ/経説(きやうせつ)の/下(した)ハ 00082790L12すまず共、やれ/上手(しやうず)よと、もてはやす。あわれなるかな、 00082800L13/無弁(むべん)/短舌(たんぜつ)の/談義(だんぎ)にハ、/二季(にき)の/被岸(ひがん)/十夜(ぢうや)にさへ、わづ(十二ウ) 00082810L14(十三オ挿画)か/聴衆(てうじゆ)五六人ばかりなり、まして、よのつね 00082820L15の/談義(たんき)にハ、/物(もの)うりがやすみながらに、えんにこしかけて 00082830L16きゝ、あたりの/子(こ)どもがあそびにきてゐるよりほかハなし。 00082840L17ある/寺(てら)にて/談議(だんぎ)すぎても/座(ざ)をたゝぬ/男(をとこ)あり。/顔(かほ)を見れバま 00082850L18ゆをしハめて、しうたんらしき、ていなり。/和尚(をしやう)/客殿(きやくでん)より 00082860L19これを見て、あながちにかんじ、さて+/信心(しん※)ふかき人か 00082870¥G 00082880M12な、一/句(く)の/聴聞(ちやうもん)をさへのぞむ人まれなるに、/説法(せつほう)のこりを 00082890M13ゝきていとミへたり、しゆしやうなる/心(こゝろ)ざしかな、よび/入(いれ) 00082900M14て、/茶(ちや)をもまいらせよと/同宿(どうじゆく)にいひつけゝる。/同宿(どうじゆく)こなた 00082910M15へ御/入(いり)候て、/茶(ちや)にてもまいらぬかとといけれバ、かの/男(をとこ)き 00082920M16ゝて、かたじけなふはござれ共、あまり/長談義(ながだんぎ)にて、しび 00082930M17りがきれて、たゝれませぬといひし。 00082940¥N9¥J 00082950¥X九△/大欲(だいよくハ)/無欲(むよくにゝたり)(十三ウ) 00082960¥P259 00082970L1/究竟(くきやう)ハ/理即(りそく)にひとし。/大欲(だいよく)ハ/無欲(むよく)ににたり。ある/侍(さふらい)/小判(こばん)を 00082980L2七/百両(ひやくりやう)/箱(はこ)に/入(いれ)て、むさしなる/屋敷(やしき)より/京(きやう)へのぼる/事(こと)あり 00082990L3しに、/川崎(かわさき)おもてにて、みしりたる/町人(まちにん)に/行(ゆき)あい、みちづれ 00083000L4に/成(なる)。かの/町人(まちにん)申けるハ、われらも/京(きやう)へのぼり申也、/金子(きんす) 00083010L5を五/拾両(じうりやう)はだにつけてまいり候、/用心(ようしん)あしく候あいだ、/御= 00083020L6荷物(をん=にもつ)に/入(いれ)て給ハれ、それがしも御/供(とも)申さんといふ。/侍(さふらい)こゝ 00083030L7ろへたりとうけあひ、五/拾両(じうりやう)の/金子(きんす)をぎんミしてあづかり、 00083040L8かの/町人(まちにん)をつれてのぼりける。あるとまりにて、かの/侍(さふらい)も 00083050L9/下(した)+のものもみなねしづまりてのち、かの/町人(まちにん)七百/両(りやう)の 00083060L10/金箱(かねはこ)をひつかたげ、ゆきがたしらずになりにける。/夜(よ)あけ 00083070L11て見れバ/町人(まちにん)もミへず/金箱(かねばこ)もなし。こハそもいかなる事ぞ 00083080L12と/下人(げにん)どもたちさわぐ。/主人(しゆじん)の/侍(さふらい)ハ/前(まへ)よりもこの事をしり 00083090L13て、あへてさハがず。そのいわれハ、七百/両(りやう)の/小判(こばん)ハ弐つ 00083100L14のつゝらと、ふところ(十四オ)に入て、くだんのはこにハ 00083110L15/石(いし)を/紙(かミ)につゝみて、おもくつめをきければ、ぬすまるゝに 00083120L16もかまハず、かへつてかのぬす人かあづけし五十/両(りやう)の/小判(こばん) 00083130L17ハ、/此方(このはう)の/利(り)になりけるとぞ。/大(おほい)なる/利(り)をえんとて五十両 00083140L18の/金(かね)をうしなひける。/町人(まちにん)のおろかさ、/侍(さふらい)のかしこさ、/賢= 00083150L19愚(けん=ぐ)/得失(とくしつ)/分明(ふんミやう)なるかな。 00083160M1又ある/浪人(らうにん)、/正宗(まさむね)の/刀(かたな)をもてり、/京(きやう)へのぼりて/刀目利(かたなめきゝ)の/家(いへ) 00083170M2へミせけれバ、/目利(めきゝ)の/家(いへ)この/刀(かたな)をやすく/買(かい)とらんとたくミ 00083180M3て、この/刀(かたな)ハ/正宗(まさむね)にあらず、/似(に)せ也といふ。この/浪人(らうにん)/腹立(ふくりう) 00083190M4におもへ共、/力(ちから)なくてかへりけるを、/目利(めきゝ)の/家(いへ)より人をつ 00083200M5けて、この/浪人(らうにん)の/跡(あと)をしたい、/宿(やど)を見とゞくる。/浪人(らうにん)この 00083210M6よしをさとりて、/宿(やど)へかへるといなや、かの/刀(かたな)をもちいで 00083220M7ゝ、おもてなる/石(いし)にうちあてゝ、にせ/正宗(まさむね)ハかふする/物(もの)よと、 00083230M8はゞきもとよりうちをつて、にわへなげこミ、/内(うち)へいりぬ。 00083240M9あとをしたいしもの、このよしを見ておどろき、/京(きやう)へのぼ 00083250M10(十四ウ)りて、しか+といふ。/目利(めきゝ)の/家(いへ)おどろき、さら 00083260M11バその/折(をれ)なり共/買(かい)とらんとて、/古(ふる)かねかいにこしらへ、か 00083270M12の/刀(かたな)ぬしが/家(いへ)に/入(いり)て、/古(ふる)かねハなきかととふ。/浪人(らうにん)/出(いで)あい 00083280M13て、こゝに/刀(かたな)のをれあり、/此刀(このかたな)/正宗(まさむね)なれ共、/京(きやう)の/目利(めきゝ)が、 00083290M14にせ也といひしはら/立(たち)に、うちをりたり、/小判(こばん)百両ならは 00083300M15うらんといふ。/古(ふる)かねかいの/男(をとこ)きゝて、あら/高値(かうじき)の/刀(かたな)のを 00083310M16れや、まことの/正宗(まさむね)なり共、をれたらバやすくうり給へと 00083320M17いふ。/浪人(らうにん)/中(なか)+同心せず。とかくねぎりて、/金子(きんす)五十/両(りやう) 00083330M18にかいとり、/古(ふる)かねかいの/男(おとこ)ハよろこびて/京(きやう)にのぼる。こ 00083340M19の/刀(かたな)のをれハ、くだんの/正宗(まさむね)にハあらず。/正宗(まさむね)ハそのまゝ 00083350¥P260 00083360L1をきて、かのをりたるハなら/物(もの)の/刀(かたな)にてありけると也。あ 00083370L2まりに/大欲(だいよく)なるハ、かへつて/無欲(むよく)ににたるためし也。(十五オ) 00083380¥Y1/篭耳(かごみゝ)/巻之(けんの)五△/目録(もくろく) 00083390M3△△一△悪子出世△あと/式(しき)うけ/取済(とりすむ)/勘当帳(かたうちやう) 00083400M4△△△△△△△△△△并ニむほんのくじさた 00083410M5△△二△錐脱嚢△加勢たらねば/千騎(せんぎ)に一/騎(き) 00083420M6△△△△△△△△△并ニ/毛遂(もふすい)が/才智(さいち) 00083430M7△△三△/臀食(しりくらい)/観音(くわんをん)△いきらいかうハあす/午(むま)の/刻(こく) 00083440M8△△△△△△△△△并ニ/馬頭蔵人(ばたうくらんど)が/出家(しゆつけ) 00083450M9△△四△作仏不入眼△/信心(しんじん)さめぬ/孫六(まごろく)が/夢(ゆめ) 00083460M10△△△△△△△△△△△并ニ/帝尺天(たいしやくてん)のぢぞう/会(ゑ) 00083470M11△△五△乞食無種△/刀(かたな)の/目(め)くぎぬけめのない/目利(めきゝ) 00083480M12△△△△△△△△△△并ニ/和漢(わかん)かたきうちものがたり 00083490M13△△△△△△△△△△(一オ) 00083500M14△△六△有鰾言△/魚(うを)もひれあるさふらひにたがふ 00083510M15△△△△△△△△△并ニびぜんのくに/浮田(うきだ)なを/家(いへ)の/料理(りやうり) 00083520M16△△七△身内財無腐△/類火(るいくわ)のけふりうつるやき/筆(ふで) 00083530M17△△△△△△△△△△△并ニよしひでがよぢり/不動(ふだう) 00083540M18△△八△/折檻(せつかん)/折角(せつかく)△△ほまれハつよい/朱雲(しゆうん)が/学力(がくりき) 00083550M19△△△△△△△△△并ニ/兎角(とかく)/兎口(とこう)いわれぬ/評判(ひやうばん) 00083560¥P261 00083570L1△△九△/下戸(けこと)/化物(ばけものハ)/無(ない)△/今(いま)の/世(よ)もある/宇治(うぢ)の/橋(はし)ひめ 00083580L2△△△△△△△△△△并ニにしくぼ/山(やま)大/入道(にうたう)がくび 00083590L3△△十△/一粒万倍(いちりうまんばい)△ひさこハくめどつきぬ/米(よね)が/淵(ふち) 00083600L4△△△△△△△△△并すゞめゐんぐわ/経(きやう)(一ウ) 00083610¥T1篭/耳(みミ)/巻之(くハんの)五 00083620¥N1¥J 00083630¥X一△悪子出世 00083640M5/武州(ぶしう)にての/事(こと)なりしに、ある/人(ひと)、/後妻(こうさい)をよびて、/女(をんな)の/子(こ)一 00083650M6人もふけたり。/先腹(せんばら)に/男(をとこ)の/子(こ)一/人(にん)ありけるを、/継母(けいぼ)、ふか 00083660M7く/先(せん)ばらの/男子(なんし)をにくみて、より+/父親(てゝをや)にざんげんし、 00083670M8あらぬ事などいひきかせなどしけれバ、/父(てゝ)をやも、のちに 00083680M9ハ/継母(けいぼ)とゝもに/惣領(さうりやう)男子をにくみて、つゐに/家(いへ)をおひい 00083690M10だしぬ。そのゝち、/父(てゝ)をや/病死(びやうし)しぬ。あと/式(しき)を/継母(けいぼ)のはら 00083700M11のむすめとらんといふ。/親類(しんるい)は/中(なか)+、せんばらの男子を 00083710M12よびかへして/跡(あと)をつがせんといふ。たがひに/公事(くじ)になりて、 00083720M13/奉行所(ぶぎやうところ)にうつたへけり。/継母(けいぼ)申/上(あげ)けるハ、これに候/男子(なんし) 00083730M14ハ、もつとも、われらがつれあひの/子(こ)にて候へ共、あく(二 00083740M15オ)しやうものにて、/父(てゝ)をやふかくにくみ、/存命(ぞんめい)のうちよ 00083750M16り/父子(ふし)のきうりをきり、/勘当(かんだう)いたしたる/子(こ)にて候、しかれ 00083760M17バ/親子(しんし)のえんなし、なにのゆへにか、たちかへり、をやの 00083770M18あとをつくべく候やと申ける。/奉行所(ぶぎやうところ)にも、もつともな 00083780M19り、すでに/親子(しんし)のけいやくを/切(きり)しうへハ、/跡(あと)とるべきわけ 00083790¥P262 00083800L1なしと、おほせいだされ、やうやく/継母(けいほ)の/利潤(りじゆん)になるべか 00083810L2りしを、/相奉行(あいぶぎやう)おほせらるゝハ、もつとも/男子(なんし)ハ/勘当(かんだう)の/子(こ) 00083820L3なりといへ共、まさしく/実子(じつし)なり、されバむかしより、か 00083830L4たきの一/類(るい)かむほんのものゝすへなれバ、/根(ね)をたち、/葉(は)を 00083840L5からし給ふ御しをき也、この/男子(なんし)、もし/公儀(こうぎ)にたいしむほ 00083850L6んのものゝすへなどならバ、よもや/勘当(かんだう)の/子(こ)なりとて、た 00083860L7すけをき給ふまじ、しかるときハ、/悪事(あくじ)にハ/親子(しんし)をたゞし、 00083870L8/善事(ぜんじ)にハ/親子(しんし)のせんぎなきときハ、/政(まつりごと)のすぐなるにあらず、 00083880L9とかくむほん(二ウ)のものゝれいになぞらへて、/父(ちゝ)が/実子(じつし) 00083890L10ならばあとをとらせらるべく候やとおほせられけれバ、/相= 00083900L11奉行(あひ=ぶぎやう)も/尤(もつとも)なりとて、かのにくまれ/子(ご)の/惣領(そうりやう)/世(よ)にいで、/跡(あと)を 00083910L12とりけるとそ。 00083920¥N2¥J 00083930¥X二△錐脱嚢 00083940L15もろこしに/平原君(へいげんくん)といふものあり。/趙(てう)といふ/国(くに)にいくさあ 00083950L16り。その/加勢(かせい)のために、わが/軍兵(ぐんびやう)の/内(うち)、ことにすぐれたる 00083960L17もの弐拾人をえらびいだせるに、/今(いま)一人たらざりければ、 00083970L18/毛遂(もうすい)といふ者、われそのかずにくわゝらんとのぞむ。平原 00083980L19君きゝて、/才智(さいち)すぐれたるものゝ/世(よ)にあるハ、たとへば/錐(きり) 00083990¥G 00084000¥P263 00084010L1を/嚢(ふくろ)に入たるがことし、そのさき、かならず見ゆるものな 00084020L2り、今なんぢわが/家中(かちう)にゐること/三年(ミとせ)なれ共、人なんぢを 00084030L3しるものなく、なにのあらわるる/才(さい)もなし、このたびの/人= 00084040L4数(にん=じゆ)にハもちひがたしといへば、/毛遂(もうすい)(三オ)(三ウ・四オ挿画) 00084050L5まづわれを/嚢(ふくろ)のうちへ入て見給へ、/錐(きり)のさきミゆるのミな 00084060L6らず、/頴(え)まで/脱(ぬけ)いでんと、わが/才(さい)をほめけると也。/史記(しき)/平= 00084070L7原君(へい=げんくん)が/伝(でん)にミへたり。錐脱嚢といふことば、これより出 00084080L8たり。才ある人はその才をかくすといへども、人にぬきん 00084090L9でたる/所(ところ)おのづからあらハるゝ事のたとへなるを、/今(いま)ハな 00084100L10ににても/隠密(をんミつ)のことの/露顕(ろけん)するを、/錐(きり)ハ/嚢(ふくろ)を/脱(とをす)と/世話(せわ)にい 00084110L11ふにぞ。 00084120¥N3¥J 00084130¥X三△/臀―食(しりくらい)/観音(くハんをん) 00084140L14/信濃(しなの)の/国(くに)に、つくまの/湯(ゆ)とて、/病人(びやうにん)の/入(いる)/温湯(をんたう)あり。そのあ 00084150L15たりの/人(ひと)共、ある/夜(よ)の/夢(ゆめ)に、なに人共しれず、つげてい 00084160L16わく、あすの/午(むま)の/刻(こく)に、/年(とし)卅ばかりのひげくろき/男(をとこ)、ふし 00084170L17ぐろのやなぐゐに、/皮(かわ)まきの/弓(ゆミ)をよこたへ、/芦毛(あしげ)の/馬(むま)にの 00084180L18り、/湯(ゆ)に/入来(いりきた)るべし、/是(これ)すなハち/観世音(くハんぜをん)ぼさつ也、なんぢ 00084190L19ら、ねんごろにおがむべしとて、夢(四ウ)さめぬ、あたり 00084200M1のもの共おどろき、/夜(よ)あけて人+につげゝれバ、われも 00084210M2そのゆめにつゆたがハずと、みな人かたる。ふしぎの事な 00084220M3りとて、/湯本(ゆもと)にハ/湯(ゆ)をかへ、めぐりを/掃除(さうぢ)し、/注連(しめ)を/引(ひき)、 00084230M4/香花(かうけ)をたてまつりて、/国中(こくちう)のものきゝつたへて、くわんお 00084240M5んおがまんとて、おびたゝしくあつまりて、/今(いま)や+とま 00084250M6ちゐたり。あんのごとく、あけの日/午(むま)の/刻(こく)もやう+すぐ 00084260M7るころ、/夢(ゆめ)のつげに/露(つゆ)もたがハぬ/男(をとこ)、ゆミやなぐゐをもち、 00084270M8/馬(むま)にのりて、きたる。やれ/観音(くハんをん)さまよと、をゝくの人たち 00084280M9さわぎて、おがみ/奉(たてまつ)る。このおとこ/大(をゝい)におどろきて、こゝ 00084290M10ろゑぬ事とおもひ、人+にやうすとへ共、たゞおがみに 00084300M11おがみて、かたる人なし。いよ+ふしぎにおもひ、/僧(そう)の 00084310M12/手(て)をすり、ひたいにあてゝおかみ/入(いり)たるがもとによりて、 00084320M13こハいかなる事ぞ、われを見て、かくおがミ給ふハととふ。 00084330M14この/僧(そう)、ゆめのつげをありのまゝに(五オ)かたりて、いひ 00084340M15もはてず、なむくハんぜをんとておがむ。このおとこ、人 00084350M16+にむかいて、われハこのごろ/狩(かり)にいでゝ、/狼(おほかめ)に/臀(しり)をく 00084360M17われ、その/疵(きず)やうじやうのため、この/湯(ゆ)にまふでたり、ま 00084370M18ことの/観音(くハんをん)にハあらずとて、あなたこなたへにげまどへば、 00084380M19人+きゝて、されバこそ/臀(しり)くらい/観音(くいんをん)とて/諺(ことハざ)にも申せ、 00084390¥P264 00084400L1/弥(いよ+)/観音(くハんをん)さまにうたがひあらじとて、この/男(をとこ)がしりにつ 00084410L2きつゝ、あるきおがミまハる。このおとこも/今(いま)ハぜひなく 00084420L3て、わが/身(ミ)ハ/観音(くハんをん)にてこそあるらめ、こゝハ/法師(ほうし)にならで 00084430L4ハとおもひとり、/刀(かたな)をぬきて/弓矢(ゆミや)をきりすて、/髻(もとゞり)きつて/法= 00084440L5師(ほう=し)となれるを見て、人+/随喜(ずいき)のなミだをながし、ありが 00084450L6たくとふとくおぼへける。それより、みやこ/叡山(ゑいさん)のふもと、 00084460L7/横川(よかわ)にのぼりて、かてう/僧都(そうづ)の/弟子(でし)となり、/横川(よかわ)に/年(とし)ひさ 00084470L8しくおこなひすましけるとなん。のちにきけば、この/男(をとこ)ハ 00084480L9/上野(かうづけ)の/国(くに)の/住人(ぢうにん)/馬頭(ばたう)/蔵(くらん)(五ウ)/人(ど)といふ人にて、たぐひなき 00084490L10/悪人(あくにん)にて、つねに/殺生(せつしやう)のミしてくらせるを、ほとけあわれ 00084500L11ミ給ひて、/夢(ゆめ)につげて、/出家(しゆつけ)せしめ給ふにぞ有ける。/老(をい)の 00084510L12ゝちハ、/土佐(とさ)のくにゝいて、かたのごとく/殊勝(しゆしやう)の/僧(そう)となれ 00084520L13るとかや。もとハ/馬頭(ばたう)/観音(くハんをん)の申/子(こ)にてありしと也。 00084530¥N4¥J 00084540¥X四△作仏不入眼 00084550L16/山(やま)しな/四(し)の/宮(ミや)/河原(かハら)といふ所に、/孫六(まごろく)とて、かくれもなき/後= 00084560L17生(ご=しやう)ねがひの/律義(りちぎ)ものありける。つねに/地蔵菩薩(ぢぞうぼさつ)をしんじて、 00084570L18あるとき/地蔵(ぢざう)を/一躰(いつたい)つくりたりけるを、/開眼(かいげん)もせで/櫃(ひつ)にう 00084580L19ち入て、おくのへやにおさめをき、/世(よ)のいとなミにまぎれ 00084590¥G 00084600M12て、ほどへにけれバ、わすれにけるほどに、三四/年(ねん)ばかり 00084610M13すぎて、ある/夜(よ)の/夢(ゆめ)に、/大路(おほち)をすぐるものゝ、こゑたかに 00084620M14人よぶこゑのしけれバ、なに事ぞときけば、わが/家(いへ)の/門(かど)に 00084630M15て、/地蔵(ぢざう)+とよバゝる。をくのかたより、たれ共しらず、 00084640M16(六オ)なに事ぞとこたふ。/明日(ミやうにち)/帝釈天(たいしやくでん)の/地蔵会(ぢぞうゑ)し給ふに、 00084650M17御/出(いて)候ハぬかといふ。おくのかたより、ゆかんとおもへ 00084660M18共まだ/目(め)のあかねば、ゑゆかぬなりとこたふるこゑに、/孫= 00084670M19六(まご=ろく)ゆめさめおどろき、いとふしぎの事におもひ、/夜(よ)あけて、 00084680¥P265 00084690L1をくのかたをよく+見れバ、この/地蔵(ぢそう)を/入(いれ)をきたる事、 00084700L2をもひいだし、やがて/櫃(ひつ)よりとりいだし、いそぎこの/地蔵(ぢぞう) 00084710L3を/開眼(かいげん)しけるに、たび+きどくありて、なに事にても、 00084720L4いのりてかなハずといふ事なし。/今(いま)ハ/十禅寺(じうぜんじ)におハしまし 00084730L5て、とふとくおがまれさせ給ふとかや。 00084740¥N5¥J 00084750¥X五△乞食無種 00084760L8/先祖(せんぞ)いやしからぬものも、/世(よ)におちぶるれば/乞食(こつしき)ともなり、 00084770L9/博学多才(はくがくたさい)の/人(ひと)も、ときにあわざれバ、いやしきありさま共 00084780L10なり、/高禄(かうろく)をとりしさふらひも、/父(ちゝ)のため、/主(しう)のかたきに 00084790L11ハ/乞食(こつじき)に/身(ミ)をやつ(六ウ)(七オ挿画)す事、ためしおゝきこ 00084800L12と也。もろこしにてハ/晋(しん)の/予譲(よじやう)といふもの、/高官(かうくハん)の/侍(さふらい)なり 00084810L13しが、/主(しう)のかたき/智伯(ちはく)といふものをねらふとて、/身(ミ)にうる 00084820L14しをぬり、けし/炭(すミ)をくらひ、/声(こゑ)をからして/乞食(こつじき)となり、/市(いち) 00084830L15にゆきて/食(しよく)をもとめ、/日本(にほん)にてハ/悪七兵衛景清(あくしちびやうへかげきよ)は、/乞食(こつじき)と 00084840L16なりて、かまくらにきたり、/主(しう)のかたき/頼朝(よりとも)をねらいした 00084850L17めしもあり。しかれば/乞食(こつじき)とても、かるしめいやしむべき 00084860L18にあらず。 00084870L19ある/国(くに)にぬす人はやりて、つよくせんぎありしとき、こゝに 00084880M1/刀(かたな)を/一腰(ひとこし)もてる/乞食(こつじき)あり。/人(ひと)ふしんして、これ/乞食(こつじき)のもつ 00084890M2まじきものなれば、この/比(ころ)のぬす/人(ひと)ハこの/乞食(こつじき)にやあらん 00084900M3とて、とらゑて、/公儀(こうぎ)へうつたへければ、/国主(こくしゆ)きこしめし 00084910M4て、たれかある、ぬす/人(ひと)の/人相(にんさう)見てまいれと、おほせけれ 00084920M5ば、/何(なに)がしとかやいふ十/才(さい)になる/小姓(こしやう)、それがしみてまい 00084930M6り申さむと申/上(あく)る。/国主(こくしゆ)もおかしくおぼしめ(七ウ)されし 00084940M7に、この/小姓(こしやう)、やがてたちてこの/乞食(こつじき)を見てかへり、申/上(あけ) 00084950M8けるハ、このもの/乞食(こつじき)にあらず、/侍(さふらい)なるべし、/面躰(めんてい)たゞも 00084960M9のにあらず、/左(ひだり)の/手(て)の/内(うち)に/弓(ゆミ)のにぎりだこあたれり、それ 00084970M10がしハぬす/人(ひと)にあらずとばかり申て、かつてものを申さず、 00084980M11われことバをいつくしくして、ゆへある/御人(をんひと)にてわたらせ 00084990M12給ふかと、といければ、そのあひさつハせずして、/貴公(きこう)ハ 00085000M13/御幼少(ごようしやう)なれ共、たゞ/人(ひと)にあらずと申ける、かへつて、かの 00085010M14/乞食(こつじき)こそたゞ者ならずとぞんじ候へと申/上(あげ)ければ、/国主(こくしゆ)も 00085020M15/若輩(じやくはい)の身として、/神妙(しんべう)に見てまいりたれとて、/御感(ぎよかん)あそ 00085030M16ばされし。これをよくたづねければ、まことの/乞食(こつじき)にハあ 00085040M17らず。れき+のさふらひなりしが、/敵(かたき)をねらふゆへ、/乞= 00085050M18食(こつ=じき)となりゐたりしと也。まことに/侍(さふらい)ハかくべつの/容貌(ようほう)ある 00085060M19にや。/旅篭(はたご)屋の/女(をんな)、/馬(むま)おふ/馬子(まご)までも、よくしるにこそ。 00085070¥P266 00085080L1(八オ) 00085090¥N6¥J 00085100¥X六△有鰾言 00085110L4/鰾(にべ)といふハ、/鯉(こい)にてつくる/膠(にかわ)にて、/弓(ゆミ)のにぎり/革(かわ)にもぬる 00085120L5/物(もの)なれば、きハめて、うるほひあるものにこそ。されば、 00085130L6/詞(ことば)にうるほひあるをバ、にべをあらしていふなどと、/諺(ことハざ)に 00085140L7も申なり。 00085150L8にべのつゐでに、/備前(びぜん)のくに/岡山(おかやま)にハ、そこにべといふ 00085160L9/魚(うを)あり。/余国(よこく)にまれなる/魚(うを)なり。/芸州(げいしう)/小早川(こはやかハ)/隆景(たかかげ)の、/備中(びつちう) 00085170L10/笠岡(かさをか)の/城(しろ)におハしけるとき、かの/魚(うを)を/備前(びぜん)の/大守(たいしゆ)/浮田(うきだ)/直家(なをいへ) 00085180L11よりをくらるゝ事ありしに、/隆景(たかかけ)、さふらひに/仰(おほせ)つけられ、 00085190L12/昨夜(さくや)/備前(びぜん)より、そこにべがきたほどに、/今朝(こんてう)ふるまふべし、 00085200L13/家老(からう)どもに、さう+まいるべきよし、ふれられければ、 00085210L14/侍(さふらい)、/家老中(からうぢう)へまハりて、/備前(びぜん)より/昨夜(さくや)そこにべとの/御越(をこし) 00085220L15にて候、/今朝(こんてう)御ふるまいあり、いそぎ/御出仕(こしゆつし)あるべしとぞ、 00085230L16ふれけるに、/老中(らうぢう)をの+/衣服(いふく)/上下(かミしも)きゝため、(八ウ)いん 00085240L17ぎんにいでたち、まいらるゝに、/客(きやく)とてハなし、そのまゝ 00085250L18/膳(せん)をすへければ、めづらしき/魚(うを)の/汁(しる)なり。人+ふしんが 00085260L19ほにて、とかふのあいさつもなかりしかば、/殿(との)、なにと、 00085270M1そこにべの/汁(しる)ハめづらしいかと、おほせらるゝにぞ/気(き)がつ 00085280M2きて、/興(けふ)をさましつ。 00085290¥N7¥J 00085300¥X七△身内財無腐 00085310M5むかし/仏絵師(ぶつゑし)/良秀(よしひで)といふものあり。あるとき、いゑのと 00085320M6なりより/火(ひ)いでゝ、しきりに/風(かぜ)はげしかりけれバ、/家財(かざい)を 00085330M7うちすて、むかいなる/家(いへ)の/軒(のき)にたち、わが/家(いへ)に/火(ひ)つきて、 00085340M8やけあがり、ほのほくゆるを見て、うちうなづき、とき 00085350¥G 00085360¥P267 00085370L1+わらひなどして、よろこびけるを、人どもとふらひき 00085380L2て、/此(この)よしを見て、こハいかに、/気(き)のちがいたるにやと 00085390L3いひけれバ、/良秀(よしひで)きゝて、なにとて/気(き)のちがふべきぞ、と 00085400L4し/比(ごろ)/不動(ふだう)の/火煙(くわゑん)をあしくかきける也、いま見れバ、かうこ 00085410L5そもへたれと、(九オ)こゝろへてながむる也といふ。人ミ 00085420L6なきゝて、それハ時にこそよれ、かくけわしき/火事(くハじ)に、ま 00085430L7づ/家(いへ)のたからをものけ給へ、おろかの事のたまふ人かな 00085440L8といへば、/良秀(よしひで)がいわく、このみちをたてゝ/世(よ)にあらんに 00085450L9ハ、仏絵だによくかきたてまつらば、/百千(ひやくせん)の/家(いへ)も/財宝(ざいほう)もい 00085460L10できぬべし、されば倉内財有腐、身内財無腐とこ 00085470L11そいえとて、あざわらひてこそ、たてりけり。そのゝちの 00085480L12事にや、/良秀(よしひで)がよぢり/不動(ふだう)とて、いまに人+めであへる 00085490L13となん。 00085500¥N8¥J 00085510¥X八△/折檻(せつかん)/折角(せつかく) 00085520L16もろこし/漢(かん)の/代(よ)に、/朱雲(しゆうん)といふものあり。/成帝(せいてい)につかへて、 00085530L17/学術(がくじゆつ)のほまれあり。ときに/張禹(ちやうう)といふもの、/成帝(せいてい)の/師匠(ししやう)と 00085540L18なりて、/威勢(ゐせい)ありしかば、/朱雲(しゆうん)これをにくみて、/張禹(ちやうう)をこ 00085550L19ろさむと/奏問(そうもん)しければ、/成帝(せいてい)いかり給ひて、/朱雲(しゆうん)を/引(ひき)いだ 00085560M1して、きらしめ給ふ(九ウ)(十オ挿画)に、/朱雲(しゆうん)/御殿(ごでん)の/檻(をはしま|らんかん)にと 00085570M2りつきて、をりず。にわかに/檻((ママ)ま)をれたる/時(とき)に、/辛慶忌(しんけいき)とい 00085580M3ふ人、ゆるし給ふべきよし/奏(そう)しければ、/朱雲(しゆうん)とがをゆるさ 00085590M4れけると也。これより、/人(ひと)をいましむることを/折檻(せつかん)すると 00085600M5ハいふ也、 00085610M6又、/漢(かん)の/元帝(げんてい)のとき、/五鹿(ごろく)/充宗(じうそう)といふ/人(ひと)、/弁舌(べんぜつ)すぐれて、 00085620M7よく/易(ゑき)のみちにつうず。/元帝(けんてい)、/諸家(しよか)の/易者(ゑきしや)をめして、/五鹿(ごろく) 00085630M8と/易(ゑき)を/論義(ろんぎ)せしめ給ふに、/五鹿(ごろく)/弁舌者(べんぜつしや)なれば、みな、/五鹿(ごろく) 00085640M9にいひふせらる。ときに/朱雲(しゆうん)といふものいでゝ、/五鹿(ごろく)と 00085650M10/論(ろん)じて、つゐに/五鹿(ごろく)をいひふせけるを、ときの人、/五鹿(ころく)/岳= 00085660M11&(がく=+)とけわし、/朱雲(しゆうん)その/角(つの)を/折(をる)といひしより、/折角(せつかく)といふこ 00085670M12とば、いでたり。共に/漢書(かんじよ)にミへたり。/今(いま)もほねをおり、 00085680M13/手(て)がらしたる事を/折角(せつかく)といふなり。 00085690M14又、/兎角(とかく)といふことはも、/亀(かめ)に/毛(け)なく、/兎(うさき)に/角(つの)なし。も 00085700M15のゝとゝのひがたき事を、しゐてとゝのゆるを、/亀毛(きもう)/兎角(とかく) 00085710M16といふ。/兎角(とかく)ハないなど(十ウ)いふことばハ、このこゝろ 00085720M17也。/亀(かめ)に/毛(け)をい、/兎(うさき)に/角(つの)はゆる共と、ちかいたることば也。 00085730M18又、うさぎハ/月(つき)をミてはらみ、/雄(を)の/毛(け)をねぶりてはらむ 00085740M19共いえり。/尻(しり)に/九穴(きうけつ)あれども、/子(こ)をうむときハ/口(くち)よりうむ 00085750¥P268 00085760L1となり。/爾雅(じが)といふ/書(しよ)にミへたり。/口(くち)より/子(こ)をうむ事、め 00085770L2づらしき事なれバ、/兎口(と△こう△△|うさきのくち)の/評判(ひやうばん)、/兎口(とこう)いわれぬなどいふこ 00085780L3とばもいでたり。又、/兎(うさき)ハ、むまれつき/口(くち)かけたるものな 00085790L4れば、/兎口(とこう)いわれぬといふと、/説(せつ)をつくる/人(ひと)もあり。 00085800¥N9¥J 00085810¥X九△/下戸(げこと)/化物(ばけものとハ)/無(ないもの) 00085820L7/諺(ことハざ)に、/下戸(げこ)とばけ物とハないものといへど、/一滴(いつてき)の/酒(さけ)/調= 00085830L8味(てう=ミ)のさかしほにも、えふ人あり。/又(ひと)、/狐(きつね)/狸(たぬき)/猫(ねこ)またのばけた 00085840L9るためしもある事なれば、一がいにハいひがたし。されば、 00085850L10ばけ/物(もの)を見たり共、つゝしミて人にかたるまじき事也。ま 00085860L11ことにして、いつわりの(十一オ)やうにおもわるゝもの也。 00085870L12又、をくびやうなるまなこよりハ、まことにあらざる事も 00085880L13/有(ある)べし。しからバ、そつじにかたるまじきこと尤なり。/孔= 00085890L14子(かう=し)も/怪力(くハいりよく)/乱神(らんしん)を語(かた)らずとの給へる事、/論語(ろんご)にミへたり。/或(ある) 00085900L15さふらい、すぎし/名月(めいげつ)の/夜(よ)、すさまじきものを見たりとか 00085910L16たる。/里(さと)はなれなる/野(の)みちの一つ/橋(はし)を、暮(くれ)六つすぎにかへ 00085920L17りしが、/川(かわ)のなかに女壱人すご+とたちて、/髪(かミ)をみだし、 00085930L18/腰(こし)よりしもハ/血(ち)にそまり、とをるものを、なつかしさうに 00085940L19見をくるほどに、なに/物(もの)なるぞととがめければ、たちまち 00085950M1きへうせぬとかたる。その/家(いへ)の/下女(げぢよ)、そばに/茶(ちや)をふりてゐ 00085960M2けるが、これをきゝて、そのとき川/中(なか)にゐたるハわれにて 00085970M3候、あかきまへだれして、いかきにものいれて、あらいを 00085980M4りしが、おまへの御/通(とを)りなされたるをみ申たり、さりなが 00085990M5ら、なにものそとも御申なされず、たゝはしりて御とをり 00086000M6なされしものを(十一ウ)といひけれバ、わらひになりて、 00086010M7めんぼくをうしなひけると也。 00086020M8又、ある/人(ひと)、/西(にし)くぼ/山(やま)のねにて、ばけものをみたりとか 00086030M9たる。それハいかやうのばけ/物(もの)にてありしぞと、とひけれ 00086040M10ば、/大(おほき)なる/入道(にうだう)なるが、/目(め)を見だし、/髪(かミ)を/四方(しほう)へさばきて、 00086050M11/首(くび)ばかりがとびあるきたり、さて+、すさまじき/物(もの)にて 00086060M12/有(あり)しといふ。きく人、大/入道(にうだう)の/首(くび)に/髪(かミ)がありしやとゝひけ 00086070M13れバ、いや、あたもハろくに見なんだといひし。 00086080¥N10¥J 00086090¥X十△/一粒万倍(いちりうまんばい) 00086100M16/丹坡(たんば(ママ))の/篠村(しのむら)といふ/在所(ざいしゆ)に、とし七十ばかりの/嫗(うば)ありける 00086110M17が、/春(はる)のころ、/雀(すゝめ)の子の/巣(ず(ママ))よりおちたるを、わらんべ共、 00086120M18/石(いし)をうちたれば、あたりて、こしうちをられて、/庭(にわ)をふた 00086130M19めきあるきけるを、からすのねらひてとらんとす。この/嫗(うば) 00086140¥P269 00086150L1ふびんにおもひて、このすゞめの子を(十二オ)とりあげ、 00086160L2いきしかけ、ものくわせなどして、/桶(をけ)に/入(いれ)、よるひるいた 00086170L3ハり、かいそだてけれバ、/子(こ)共/孫(まご)など見て、/年(とし)よりて、す 00086180L4ゞめかわるゝとて、そしりわらひぬ。月ころかふほどに、 00086190M5すゞめやう+/飛(とぶ)ほどになりければ、/今(いま)ハからすにもとら 00086200L6れじとて、/手(て)にすへ、こゝろミければ、ふら+ととびゆ 00086210L7きぬ。/嫗(うば)もなごりをゝしミて、なみだをながし、又/来(き)もや 00086220L8せんと、まいにちこゝろがけけるに、/廿日(はつか)ばかりありて、 00086230L9/軒(のき)にすゞめのけしからずなくをきゝて、いでて見れば、く 00086240L10だんのすゞめ也。/嫗(うば)がかほを見て、うれしげなるていにて、 00086250L11/口(くち)より/露(つゆ)ばかりのものをおとして、とびさりぬ。/嫗(うば)とりあ 00086260L12げてミれば、ひさこのたね一/粒(りう)をとしをけり。/嫗(うば)このたね 00086270L13をうへければ、/秋(あき)になるまゝに、大にはへひろごりて、よ 00086280L14のつねのひさごよりハ、きハめて大にできたり。/嫗(うば)うれし 00086290L15くて、/孫子(まごこ)にもくわせ、人+にもふるまい、/里(さと)村中にも 00086300L16くばりけれ共、つきせず。はてには(十二ウ)(十三オ挿画)す 00086310L17ぐれて/大(おほき)なる七つ八つ、ひさこにせんとて、つりつけてを 00086320L18きぬ。さて月ごろへて、/今(いま)ハよくなりぬらんとて、とりを 00086330L19ろして、/口(くち)などあけんとすれバ、すこしおもし。あやしミ 00086340M1て、きりて見れば、/物(もの)ひとはた/入(いり)たり。なにゝかあるらん 00086350M2とうつして見けるに、/白米(はくまい)の/入(いり)たる也。/嫗(うば)おどろきて、/大(おほき) 00086360M3なるうつハ/物(もの)にうつしたるに、七つ八つのひさこ、をなじ 00086370M4やうに入てあり、これをうつしつかふに、なにほどつかい 00086380M5ても、つくる事なく、ほどなくたのしき/身(ミ)となりけると也。 00086390M6これをとなり/里(さと)の/女(をんな)きゝ、うらやミて、やうすをつぶさ 00086400M7にたづねきゝて、そのたねひとつ給ハれといへど、/嫗(うば)あた 00086410M8へざりけれバ、はらたちて、われもいかにもして、こしを 00086420¥G 00086430¥P270 00086440L1れたるすゞめを見つけて、かわんとたづぬれ共、なかりけ 00086450L2れバ、/石(いし)をとりて、すゞめのあまた、えをひろふなかへ、 00086460L3うちけれハ、あたりて、ゑとばぬすゞめのありけるを、や 00086470L4がてとりて、/物(もの)くわせてかふ。なをよく(十三ウ)ふかくて、 00086480L5すゞめを三/羽(ば)まで、こしうちをりてかいをき、月ごろへて、 00086490L6みなよくなりにけれバ、よろこびてとりいだしければ、み 00086500L7なとびさりぬ。女ハうれしとおもひて、ひさこのたねもち 00086510L8きたるをまちかね、すゝめはこしうちおられて、とし月こ 00086520L9めをかれたるをねたしとおもひけり。さて十日ばかりあり 00086530L10て、このすゞめどもとびきたれば、女よろこびて、まづ/口(くち) 00086540L11に/物(もの)やくわへたると見るに、ひさこのたね一づゝをとして 00086550L12かへりぬ。さればよとうれしくて、とりて/三所(ミところ)にうへてお 00086560L13きけれバ、れいよりもする+と、おいたちて、/大(おほい)なるひ 00086570L14さこ、七つ八なりけり。/女(をんな)よろこびて、/子(こ)どもにミせて 00086580L15ほこりぬ。これハかずのすくなけれハ、米おほくとらんと 00086590L16て、/人(ひと)にもくわせず、われもくわでありけるを、/子(こ)共、と 00086600L17なりの/嫗(うば)のごとくせでハ、/米(こめ)も/出(で)まじといひけるを、げに 00086610L18もとおもひ、人にもくわせ、われも/子(こ)共もくひけれバ、 00086620L19あぢ(十四オ)わひ/苦(にが)き事、/黄柏(きわだ)などのごとくにて、たとへ 00086630M1んかたもなく、くひたるものミな、はらをいたみわづらふ。 00086640M2二三日もすぎて、やう+よくなりて、この/女(をんな)おもふやふ、 00086650M3ミな/米(こめ)にならんとしけるものを、いそぎてくいたるゆへな 00086660M4るべしとて、のこりをみな、つりつけてをきぬ。さて/月(つき)ご 00086670M5ろへて、いまハよくなりぬらんとて、/桶(をけ)どもいくつもこし 00086680M6らへ、うつしければ、/米(こめ)ハいでずして、/虻(あぶ)、/蜂(はち)、/蜈蚣(むかで)、/壁龍(とかけ)、 00086690M7/蛇(くちなわ)など/出(いで)て、/目(め)はなともいはず、とりつきてさせども、 00086700M8女いたさもおぼへず、たゞ/米(こめ)のこぼれかゝるぞとおもひて、 00086710M9七つ八つのひさこをうつすほどに、/無量(むりやう)の/毒虫(どくちう)どもとびい 00086720M10でゝ、/子(こ)どもをもさしくひ、女をバついにさしころしぬ。 00086730M11すゞめのこしうちをられて、ねたしとおもひて、よろづの 00086740M12むし共をかたらひて、入たりける也。されば、/人(ひと)をねたみ、 00086750M13うらやむ事ハすましきこと也。はじめの/嫗(うば)ハ、ひさ(十四ウ) 00086760M14このたね/一粒(いちりう)が、/万倍(まんばい)の/米(こめ)になりたるにぞ。ことわざにも、 00086770M15/一粒(いちりう)/万倍(まんばい)といふことあり。/鳥類(てうるい)とても、その/情(じやう)なきにあら 00086780M16ず。されば/儒家(じゆけ)にも、/弋(よく)すれ共/宿(ねとり)を/射(ゐ)ずと、/孔子(かうし)ものべ給 00086790M17ひ、/仏家(ぶつけ)にハもとより、/殺生戒(せつしやうかい)をたてゝ、/慈悲(じひ)を/第一(だいいち)とし、 00086800M18/物(ものゝ)の/命(めい)をたつことを/禁(きん)ぜり。つゝしむべき事にこそ。 00086810¥P271 00086820¥Q 00086830L2貞享四@丁△|△卯@年林鐘下澣 00086840L3△△△△△△△△田中庄兵衛 00086850L4△△△△書林△△△△△△△△同梓(十五終オ) 00086860L5△△△△△△△△万屋庄兵衛 00086870¥P273 00086880¥U噺本大系△第四巻 00086890¥T二休咄 00086900¥G 00086910¥Y 00086920L16貞享五年刊 00086930L17編者未詳 00086940L18半紙本五巻 00086950L19東北大学狩野文庫蔵 00086960¥Y二休咄序 00086970M3/夫(それ)/物語(ものかたり)ハ、人の/涎(よだれ)を/種子(たね)として/万(よろづ)の/■(ぞめき)とぞなれりける。/花(はな) 00086980M4による/野良(やらう)、/揚(あげ)やに/住(すむ)/禿(かぶろ)の/声(こゑ)をきけは、いきとしいける 00086990M5物、などか/鼻毛(はなげ)をよまざりける。/力(ちから)をも/入(いれ)ずして/金銀(きんぎん)を/吸(すい) 00087000M6とられ、/朋輩(ほうばい)の中をもわろくし、/親兄弟(おやきやうだい)にも/勘当(かんどう)うくるハ、 00087010M7たゞ/上気(うはき)也。しかあれど世に/塵撚(ちりひねり)がちなるもの/出(いで)くる事ハ、 00087020M8/久堅(ひさかた)の雨の/日(ひ)もぬれかけをしらず。あらかねの/土蔵(つちぐら)に/昼寝(ひるね) 00087030M9をし、/朝夕(あさゆふ)ハ/算盤(そろばん)のもとを/忘(わす)れぬよりぞ始りける。爰に/洛(らく) 00087040M10の/西(にし)に/龍耳軒(りやうしけむ)といへる/何(なに)かしあり。きハめて/耳(ミゝ)ちかからぬ 00087050M11身なれば、人/挙(こぞり)て/因幡堂(いなバとう)へなど(一オ)いさむれど、/医師(いし)さ 00087060M12へなをさぬ/耳(ミゝ)、/瑠璃如来(るりによらい)の/才覚(さいかく)にもなるまじとて、仏をも 00087070M13たのまぬ/本性(ほんしやう)成けらし。されど世にたづきあるえせ物に 00087080M14て、こゝかしこ/徘徊(はいくわい)し、/難波(なには)の/蘆(あし)といへば/芝居咄(しばゐばなし)と/聞(きゝ)なし、 00087090M15/吉野(よしの)ゝ/桜(さくら)といへば/茶(ちや)やの/噂(うハさ)と/心得(こゝろえ)、/有明(ありあけ)の月といへは/丹波= 00087100M16越(たんば=ごへ)のことく/頷(うなづ)き、/年比(としごろ)かたほにのミ/聞(きゝ)なせる/咄(はなし)の山、/法性(ほつしやう) 00087110M17/室(むろ)の/戸(と)にさしこめ、/持腐(もちぐさり)にせんもつたなしと、一とせの/土= 00087120M18用(ど=やう)に/分別袋(ふんべつぶくろ)より/少許(すこしバかり)/取出(とりいで)たるを、きく人/是(こ)ハ/興(きやう)ある事ど 00087130M19もと、/根太(ねだ)も/落(おつ)る計打/笑(わらい)つゝ/塵紙(ちりがミ)やうの物にひとつ+か 00087140¥P274 00087150L1きつけて、/昔語(むかしがたり)にも/似(に)ぬべく覚えけれハ、何か(一ウ)は 00087160L2しらず二休物語と名/付(づく)。今の世の中、/咄(はなし)につき人の/心(こゝろ)好色 00087170L3に成けるより、/西鶴(さいくわく)ももてはやさる。/色(いろ)ごのミの/為(ため)には/埋= 00087180L4木(むもれ=ぎ)の人しれぬ三九郎を取出し、/真(まめ)なる/処(ところ)には/太平記(たいへいき)事にも 00087190L5あらず/書(かき)なしたり。/正木(まさき)のかづらの/長生(ながいき)の中に/品(しな)かはれば 00087200L6物かはる。/杵蔵(きねぞう)もしやなら+に成行/旅宿(りよしゆく)ぞや。 00087210L7△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△蓮実軒序之 00087220¥Y凡例 00087230L10△△/蜷川(になかわ)新右衛門子孫 00087240L11△△△蜷川又右衛門二休と軽口問答 00087250L12△△/薮薬師(やぶくすし)竹斎子孫 00087260L13△△△薮薬師/荀斎(じゆんさい)二休と軽口問答 00087270L14△△中山三介子孫 00087280L15△△△中山三九郎二休と好色問答(二オ) 00087290¥Y1巻之一△目録 00087300M3△△/草(くさ)の/庵(いをり) 00087310M4△△さゝの/花(はな) 00087320M5△△/中山(なかやま)(二ウ) 00087330¥P275 00087340¥T1二休咄巻之一 00087350¥N1¥J 00087360¥X○草の庵 00087370L5やう+/東(ひんがし)白くなりたるに、/穂長(ほなが)ゆづりはけしきばミ、心 00087380L6/長閑(のどか)なりといへ共、毎年かはらぬ正月なれハ、廿年見てか 00087390L7らハミられす。めづらしげのすくなふなり行にこそ。され 00087400L8バはゞき木の言葉も、/夢(ゆめ)のうき/橋(はし)に/終(をハ)り、/徒然草(つれ+ぐさ)の/講尺(かうしやく)も、 00087410L9今ハする人ハ/多(おゝ)くてきく人ハすくなし。いかなるつよきも 00087420L10のも、/四書(ししよ)のそよみ計を毎日十/篇(べん)づゝ、三/月(つき)が/一月(ひとつき)もなる 00087430L11まし。/沢山(たくさん)になりける/医者(いしや)も、此ごろハへりそうなり。/法= 00087440L12然(ほう=ねん)の/念仏講(ねんぶつかう)も、今ハ/酒(さけ)の/講(かう)に(三オ)なりかハり、/千代(ちよ)もと 00087450L13いのるつるがの庄の道行も、かたハし/計(バかり)/腰張(こしばり)にのこり、/嵐(あらし) 00087460L14三右衛門も三/日(か)つゞけてハ見られず。吉弥が鳴まねも此中 00087470L15ハうるさし。/紫(むらさき)のつまがのこも此/国(くに)に今ハなし。すべて/事= 00087480L16&(じ=ゞ)/物&(ぶつ+)/我宿(わがやど)の/職(しよく)より外ハ、/吉野(よしの)がやうなる/女房(にようぼう)も、なれて 00087490L17からハ、/飛鳥川(あすかかハ)の/淵瀬(ふちせ)にかわりやすき人心、それにつきか 00087500L18わりたること/有(あり)けらし。/都(ミやこ)の西に/住(すむ)/法師(ほうし)なり。/先祖(せんぞ)ハかく 00087510L19れもなき/侍(さむらい)にはあらぬ町人にて、うき世を/瓢覃(ひやうたん)ハ物かハ、 00087520M1燈心より/軽(かろく)見なしつゝ、/四方(しほう)三間まなかに草の/庵(いほり)引むすび、 00087530M2/丸木柱(まるきばしら)うこぎの/垣(かき)、ぬのゝもかうにて/縁(へり)とりたる(三ウ)/畳(たゝミ) 00087540M3四五/畳(てう)、/茶釜(ちやかま)壱つ/鍋(なべ)壱つ、たらひ大小弐つ、/持仏(じふつ)堂に山ご 00087550M4しあミたの絵像、おなじく/達磨(だるま)、雲竹の/書(かけ)る/閑(かん)の/字(じ)の/額(がく)、 00087560M5/庄六流(しやうろくりう)の/色紙(しきし)おしたる二まひ屏風、青竹の花/生(いけ)、夏ハ紙帳 00087570M6に冬ハ/蒲団(ふとん)をかぶり、/常(つね)ハ/高宮(たかミや)の/半徳(へんてつ)にあじろ笠、その外 00087580M7にもとむることもなく、又何を語りても人にまけず、しか 00087590M8も/無欲(むよく)なれバ人ににくまれず。出家にもあらず俗にもあら 00087600M9ず。あれバくふ、なき時ハくハず。さのミ/深山(ミやま)ならねバち 00087610M10か※に水をもとめ、八木のあり次第、めしになりとも/粥(かゆ) 00087620M11になり共、なりたるものをくらひ、ゆきたき時ハ心まかせ 00087630M12にありき、菊紅葉(四オ)折ちらし、茶ヲせんじてのむなど、 00087640M13さりとてハ/不思義(ふしぎ)千万、又たぐひもなき嶋もの、名をとへ 00087650M14ども名もなし。一休に似たりとて、ミな人、二休と名付よび 00087660M15けれバ、おのづから其名をバ我名とせり。爰に/蜷川(にながハ)新右衛 00087670M16門/親当(ちかまさ)の末孫に、/蜷川(にながハ)又右衛門/親春(ちかはる)と云人いまそかりけり。 00087680M17仁和寺の花にくらして帰るさに、かの草の戸に/音信(をとづれ)し折ふ 00087690M18し、二休物/淋(さび)しげにきせるくわへ、/煙(けむり)を友として居られけ 00087700M19るが、又右衛門御/尋(たづね)申といへば、よくぞ+/来(き)ませるもの 00087710¥P276 00087720L1かなと、/四方(よも)山の物かたりの/次手(ついで)に、又右衛門/問(とふて)/曰(いわく)、御坊 00087730L2ハ/世間(せけん)の/道心者(どうしんじや)とハちがい、一/鉢(はち)のまうけにもいで(四ウ) 00087740L3給ハず、又きわまりぬる/知行(ちぎやう)もなし、尤折+は人もまい 00087750L4らすべきが、其まうけのなき所ハ、いかゞしていとなミ給 00087760L5ふや、さりとてハ合点まいらず候。二休、よしなき事をと 00087770L6ひ給ふ人かなと、/空嘯(そらうそ)むいてゐられけるを、又右曰、とか 00087780L7く天地の/間(あいだ)に/生(しやう)ずるものハ、草木迄も/雨露(うろ)のめぐミなくて 00087790L8ハ/生(しやうじ)がたし、こたな計ハ天地の外の人か、いかに+と、 00087800L9せりかけ+とひけれバ、二休曰、されバ其天地のうちに 00087810L10有ル/露(つゆ)をねぶり、草木のかれたるにて雨をあたゝめてのむ 00087820L11なり、又人の/合力(かうりよく)しくるゝ物を、いやともいはず又/嬉(うれ)しく 00087830L12もなし。いかにとなれハ/万物(ばんもつ)ミな理より/生(しやう)す、金銀/米銭(べいせん)い 00087840L13づくにありて(五オ)(五ウ・六ノ七オ挿画)もミな是/雨露(うろ)也、天 00087850L14地の/間(あいた)に生する/人間(にんげん)が、天地の間に生する物をくて居るか 00087860L15らハ別の事なし、又天地が、さのミ/忝(かたじけ)ない物でも/尊(とうとい)ものに 00087870L16てもなし。又右曰、/夫(それ)天地ハ万物の父母なるに、さげしめ 00087880L17たまふこと/勿体(もつたい)なし、/先(まづ)御坊ハ父母の/恩(をん)をわすれ給ふか、 00087890L18天地ハ父母なるに、さりとてハ/墨染(すミぞめ)の袖に/似合(にあい)申さずとい 00087900L19へは、二休こたえてよめる、 00087910¥G 00087920¥P277 00087930L1△△よも四郎か子孫にあらす弥三郎か 00087940L2△△△あとめにあらず墨染の袖 00087950L3又右曰、さてハ/万物(バんぶつ)/各(ミな)/虚(きよ)より生ずるの心にて候か。二休答、 00087960L4我ハ虚ぞといふものハ何やらしらず、又右衛門殿にハ御存 00087970L5(六ノ七ウ)か。又右曰、いや存ぜす。二休曰、しからバ何 00087980L6を/以(もつて)て虚の心かとハ仰候や、我等の心ハ、其方墨染の袖に 00087990L7ハ似合ぬと仰られたるによりて、すミ/売(うり)にてハなしといふ 00088000L8こと計也。又右曰、げに+/聞(きこへ)申候、しからバたづね申/度(たき) 00088010L9事有り、/同(おな)じ人間にて/僧俗(そうぞく)のわかちあるハいかに。二休こ 00088020L10たへて、/先(まづ)俗の心をよめる、 00088030L11△△/親春(ちかはる)ハさかやきすつて/髪(かミ)ゆふて 00088040L12△△△わきざしさして羽織着て居る 00088050L13又僧の心を、 00088060L14△△二休とは/月代(さかやき)なしの/丸(まる)坊主 00088070L15△△△はをりなけれバ脇指もなし(八オ) 00088080L16とよめる。又右曰、哥ハさる事なれど、/是非(ぜひ)心に/落着(らくぢやく)せず 00088090L17候。二休曰、しからバあら+申さん、/先(まづ)世界の人、/腹(ハら)の 00088100L18中から/髪(かミ)/結(ゆふ)て出る物、/唐土(とうと)ハしらず、ちはやふる/神代(かミよ)より 00088110L19みず、又僧ハ腹の中から坊主にて/生(むま)るゝからハ、出家ハた 00088120M1つとく俗ハいやしとしらるべし。又右曰、なを+合点参 00088130M2らす候、/先(まづ)/陰陽(いんやう)の/化育(くわいく)を/以(もつ)て草木迄も/生茂(せいも)する事常のこと 00088140M3也、されど二気の/処為(しよい)にもあらず、/元来(ぐわんらい)生茂すべき/理(り)/具足(ぐそく) 00088150M4すれバ也、/又(また)/人(ひと)とてもさのごとく、/頭(かしら)に髪のはゆる/所以(ゆへん)の 00088160M5理に依てはゆ、/父(ちゝ)にも/母(はゝ)にも/頼(たの)むに/非(あら)ず、然るに俗ハ是を 00088170M6そだて、僧ハ/生(しやうず)る所をそり/捨(すつ)る、(八ウ)是第一の殺生と、 00088180M7きせるおつ取、/畳(たゝミ)に/穴(あな)のあく計たゝきならして申されける。 00088190M8二休答曰、/先(まづ)貴殿ハきる物/着(き)ずしてゐらるゝか。又右曰、 00088200M9是程目に見えて/蔵(くら)おろしの加賀/裏(うら)ハくろ/茶(ちや)にて御ざ候と、 00088210M10立はたかりて見せらるゝ。二休曰、その/着物(きるもの)ハ/何(いづ)くより/来(きた)れ 00088220M11るぞ。又右曰、/西陣(にしぢん)のきぬや助右衛門が所にて、弐拾参匁 00088230M12にて/買(かい)しといふ。二休曰、/織(おら)ぬ/以前(いぜん)ハいかんととふ。又右 00088240M13曰、/蚕(かいこ)の口より出たる糸。二休曰、/何(なに)と蠶ハ/有情(うじやう)か/非情(ひじやう)か。 00088250M14又右曰、成程/生(いき)てはたらく有情也。二休曰、有情を殺(ころ)して 00088260M15身にきる事/殺生(せつしやう)か/不殺生(ふせつしやう)か、/答(こたへ)ハ成まじ、申て/聞(きか)せん、/即身= 00088270M16即仏(そくしん=そくぶつ)とある時ハ、此身すなハち是ほとけ、此/仏(ほとけ)に/風(かぜ)/引(ひか)せぬ 00088280M17やう(九オ)に、/着物(きるもの)にてあたゝむる、是/方便(ほうべん)の殺生也、/猶(なを)/此(この) 00088290M18仏/髪(かミ)がきらいにてすり給ふ事、/将(ハた)又方便なれば、/何(なん)ぞ殺生 00088300M19といはん、/能&(よく+)/工夫(くふう)あれといふ。又右/再拝(さいはい)/稽首(けいしゆ)して、誠に 00088310¥P278 00088320L1先祖一休にもまされる/悟道(ごとう)、あつはれ此世にいませしかは 00088330L2と、/感涙(かんるい)を紙につゝみ/土産(ミやげ)にせんとて帰られける。 00088340¥N2¥J 00088350¥X○さゝの花 00088360L5天下太平/今日(こんにち)の御太夫/渋谷(しぶや)三郎右衛門、/舞納(まひをさめ)てなをし大黒 00088370L6もゆたかなる/風流(ふうりう)のをどり、是/誠(まこと)に福徳の/神原(かんばら)佐太夫なり 00088380L7とこそ。それ/神明(しんめい)の/昔(むかし)より/天津(あまつ)ひつき/伝(つた)え給ひ、/御裳濯川(ミもすそがハ) 00088390L8のながれ/絶(たへ)せ(九ウ)ず。/御代(みよ)ハちよにや千代にさゞれ石井 00088400L9弥兵衛、/正面(しやうめん)に/坐(ざ)して/祝(いわゐ)奉り、高砂のうらに/着(つき)にけれバ、 00088410L10/四海(しかい)/浪(なミ)しづかにてと、/八(や)ちよの竹村甚左門が/請取(うけとり)たるあ 00088420L11りさま、/目出度(めでた)かりける/御代(おゝんよ)のしるし也。されバ世にもて 00088430L12はやらかす/謡講(うたひかう)の、なら茶/天目(てんもく)のひゞき、夜ごとに酒のか 00088440L13よひ戸ざゝぬ/関(せき)の/東(あづま)迄/上&(うへ+)方の御たのしみとなれりける。 00088450L14しかるに此比うたひハさら也。/能(のう)の/花時(はやる)こと木綿売ハわき 00088460L15を/習(なら)ひ、たばこ切ハ笛を吹、/兄(あに)ハ大つゞミ、/弟(おとゝ)ハ/小皷(こつゞミ)にう 00088470L16ちあかしくらすさま、まことにをさまりし御代とハいひな 00088480L17から、家職をわすれ、隙をついやし、金銀をなげうち、是に 00088490L18本(十オ)性をぞうしなふなる。爰に中山三介とて、都にも 00088500L19ゆびざしするほどの/財宝(さいほう)くらに/満(ミち)たり。代&/酒家(しゆか)なるによ 00088510M1り、今にたえず/酒頭子(さかとうじ)を六人京中にまハして、内にハ/夫婦(ふうふ) 00088520M2の中よきこと、毎日/千秋楽(せんしうらく)のうたひずきにて、/嫡男(ちやくなん)三九郎 00088530M3を/何(なに)がしとかやのもとへ/太鞁(たいこ)ならハしにやり、/次男(じなん)三十郎 00088540M4/今年(こんねん)十四才、太夫のもとへ/遺(つかハ)しけれバ、/海士(あま)の大臣、/呉服(くれは)の 00088550M5シテなんど大かたにこなしぬれバ、/親仁(をやじ)三介の御よろこび 00088560M6/何(なに)にたとへんかたもなし。/比(ころ)ハ春の/半(なかば)、ある/法華寺(ほつけでら)の/客殿(きやくでん) 00088570M7を/借(かり)て/舞台(ぶたひ)とし、/面蔵(めんぞう)を/楽屋(がくや)とさだめ、三十郎を太夫にし 00088580M8てハ/役者(やくしや)のいぢにて(十ウ)(十一ノ二オ挿画)/来(きた)らず、それゆへ 00088590¥G 00088600¥P279 00088610L1師の太夫をたのミ、ワキ六人、シテツレ二人、ワキツレ三人、 00088620L2/笛吹(ふへふき)四人、小つゞミ五人、/太鼓(たいこ)三人、/地謡(ぢうたひ)十五人、/狂言師(きやうげんし)八 00088630L3人、其外/楽屋(がくや)にての/衣裳(いしやう)きせはたらき/人(びと)、/供(とも)まハり迄以上 00088640L4二百三十七人、さて能は老松、/熊坂(くまさか)、野&宮、はし弁慶、あ 00088650L5ふひの上、柏崎、猩&以上七番、此内熊坂猩&二ばんを三十 00088660L6郎にさせて、それ見る計の/望(のぞミ)にて、/入銀(いりぎん)合弐貫七百目にてハ 00088670L7たらざりけり。されども三介ハ、おもふほどハいらぬもの 00088680L8なりと、其日ををそしと/数(かず)の役者へ、かならず御出たのミ上 00088690L9候のふれ状、申計ハなかりけり。三九郎ハ/堅当(こうとう)者にて、此度 00088700L10の能の事気の毒なりと、二休に/逢(あふ)(十一ノ二ウ)て談合、かや 00088710L11う+にて/親仁(おやじ)能をすき申こと、何とも/気毒(きのどく)なる次第、わた 00088720L12くしの/申(もうす)ぶんてハ中+親仁/合点(がつてん)いたさず、/貴坊(きぼう)よきやう 00088730L13にいひて、やめらるゝやうに頼申といへば、二休きゝて、そ 00088740L14なたハゑしれぬ事を気にかくる人かな、親仁も銀がへりて、 00088750L15其後/合点(がつてん)をのづからひとりせらるべし、かまハずともをか 00088760L16れよといへバ、いやさやうにてハなく候、/先(まづ)金銀のことハ 00088770L17ともかくも、/世間(せけん)から/悪敷(あしう)いふて、あの三介ハいくらほど 00088780L18もつて居ることぞや、子共が能にかゝりて、たをれるなりを 00088790L19見るやうななどゝ申て、中+きいて居らるゝ事にてなし、 00088800M1何とぞ頼申といへば、其義なら(十三オ)バ先此/度(たび)の能ハ、仕= 00088810M2組(し=くミ)たること/跡(あと)&のやむやうにしてまいらせんといへば、三 00088820M3九郎ハよろこび/我屋(わがや)に立帰る。さて其日になりぬれば、京 00088830M4中の/貴賎(きせん)/老若(らうにやく)/寺内(じない)せばしと見物す。すでに/式&(しき+)/終(をハ)りて、猩 00088840M5&のはじまりぬる時、かたすミより/笹(さゝ)の葉に、/金入(きんいり)の/切(きれ)四 00088850M6五尺もあるらんとおぼしきを壱つと、金壱歩と書状壱/通(つう)と、 00088860M7太夫三十郎殿参と/書付(かきつけ)、ひらり+と/橋(はし)がゝりへ/遺(つかハ)しけれ 00088870M8バ、/袴(はかま)きたる男立出うけとりて/入(いり)ぬ。さて能もはてるとい 00088880M9なや、/楽屋(がくや)に有ほどの人、さてもめづらしき花かな、われ 00088890M10も見ん人も見たしとこぞりよる。親仁三介先状を(十三ウ) 00088900M11ひらき見るに、其/文章(ぶんしやう)にいわく、今日の御能/何(なに)より/以(もつ)てや 00088910M12すう候、さりながら外の能太夫とハちがい、其身の/慰(なくさミ)一 00088920M13/扁(へん)として大分の金銀をついやし、隙をついやし給ふこと長= 00088930M14者(ちや=うじや)とハいひながら、/家行(かぎやう)を忘るに似たり、是/仁(じん)にあらず、 00088940M15其上ぬす人の/大将(たいしやう)くまさかの長半になり、酒をすごし、/足(あし) 00088950M16もとハよろ+とよハりふしたるハおごり也、たはむれと 00088960M17ハいひながら、是おもふより/出(いづ)、尤/智(ち)のなきが/故(ゆへ)也、又/弟(をとゝ) 00088970M18の/分(ぶん)として/兄(あに)三九郎に/太鼓(たいこ)をもたせて、其身ハ太夫ぐるひ 00088980M19をし/舞(まい)あそび給ふこと、是義にはづれたり、又/親(おや)三介に/腰= 00088990¥P280 00089000L1掛(こし=かけ)をもたせ、/供(とも)につれ給ふこと/不孝(ふかう)(十四オ)のいたり、/尤(もつとも) 00089010L2礼にはづれたり、すべて仁義礼智にもれ給ふこと、あまり 00089020L3/笑止(しやうし)に存るの間、/向後(きやうかう)能をし給ふ共、勧進能をし給ふへし、 00089030L4又親三介殿にハ、見物をなさるゝやうに孝をつくし給へ、 00089040L5それゆへに此金壱歩ハ、三介殿/見物(けんぶつ)の時の/目鐘(めがね)を/買(かふ)てしん 00089050L6ぜらるへし、又此金入の/切(きれ)ハ、三介殿御/見物(けんふつ)の時分/涎懸(よだれかけ)に 00089060L7し給ふべし、以上三十郎殿参、二休よりと/書(かき)付たり。/座中(ざちう)の 00089070L8人&も/興(けう)をさまし、三介も面目なさそうに、さてもにくき 00089080L9二休めがしわざ、打はたしてもあきたらぬ坊主/首(くび)とハ思ハ 00089090L10れしか、次第によく+分別して、それよりおごりを(十四ウ) 00089100L11やめ、田中八郎兵衛が勧進能見物にさへゆかれざりける。 00089110¥N3¥J 00089120¥X○中山 00089130L14中山三九郎、/二十年(ハたとせ)計にて内にのミ物せられけるが、しの 00089140L15ぶのみだれやと、うたがひきこゆる人もありしかど、わる 00089150L16じやれの/好事(すきこと)共ハなくて、いとうわづらひたまふげる。/初(はじめ) 00089160L17のほどハむねのつかへ、町内におほき/医者(いしや)、/二陳湯(にちんとう)にて/桔= 00089170L18梗(き=きやう)などくハゆれども、次第におもくなりて後ハ/駕(のりもの)を/ぞの((ママ))ま 00089180L19れける。さしておも+しくもあらざりけれど、色うす黒 00089190M1く、(十五オ)脉/洪(かう)大にして/手足(しゆそく)熱し、虚労なりとぞつぶや 00089200M2きける。一年あまりにも過ぬれバ、三介いよ+気のどく 00089210M3がり、元三大師へとひにゆき、又ハ/富士(ふし)ごりの/黄栢(わうばく)のませ 00089220M4てもしるしなく、三柳も脉に/頭(つぶり)をふり、三伯も/匕(さじ)をゆがめ、 00089230M5いろ+さま+金銀をのむ計にて、ある時ハ心やすきど 00089240M6ちあつめて、うき世はなし、又ハ/駕(かご)しづかに川原町へやり 00089250M7ても、/俯(うつ)むいて計居る。とにかく此世のものとハ思ハれず。 00089260M8されど/脇指(わきざし)つゝミてまちても居られず。二親の心いとし気 00089270M9の毒、ある夜二休見まハれしが、たゞ此病ハ気で気をなぐさ 00089280M10めずハ/埓(らち)/明(あく)まじ、さあれバとて(十五ウ)むりになぐさむると 00089290M11も、病人の心にうかぬ事ハ、かへつて病の/上(うは)ぬりにて侍る、 00089300M12先それがし一/療治(りやうぢ)いたして見んと、是三九郎、其方何にても 00089310M13のぞミなることハなきかといへば、されバ我いまだ太平記 00089320M14を見す、とりよせて御坊よミきかされよといへば、いかに 00089330M15も/安(やす)きのぞみ、とりよせる迄もなし、爰に御身の為になる 00089340M16太平記あり、/我(われ)/覚(おぼへ)しまゝかたりきかせ申さんと、/膝(ひざ)立なを 00089350M17し、/抑(ソモ+)/本草(ホンゾウ)/百代(ヒヤクタイ)ノ/御大将(ヲンタイシヤウ)/人参公(ニンジンカウ)、/素問元年(ソモンクワンネン)/廻春(クワイシユン)二十 00089360M18五日ノコトナルニ、天下ノ大/老陳皮(ラウチンヒ)ノ/入道胸春(ニウトウムネハル)、/其外(ソノホカ)/蒼朮(ソウジユツ) 00089370M19ノ/判官(ハングハン)、同/(ク)一/子(シ)/白朮(ビヤクシユツ)、/国&(クニ+)ノ大名ニハ、/武蔵(ムサシ)ノ国ノ/住人(ヂウニン) 00089380¥P281 00089390L1/川原(カハラ)ノ/藤太(トウダ)/柴胡(サイコ)、/大和(ヤマト)ノ国ノ/住(ヂウ)人(十六オ)/葛根(カツコン)ノ/別当(ベツトウ)/筑前(チクゼン) 00089400L2ノ/守(カミ)/桂枝(ケイシ)、/山城守(ヤマシロノカミ)/半夏(ハンゲ)、/朝倉(アサクラ)ノ/太夫(ダイウ)/叙目(シヤウモク)、/田面(タノモ)ノ/冠者(クワンジヤ)/沢潟( 00089410タクシヤ)、 00089420L3/深山(シンザン)ノ太夫/茯苓(ブクリヤウ)、/垣根(カキネ)ノ次郎/荊芥(ケイガイ)、/紫蘇(シソ)ノ/蔵人(クランド)/治風(ハルカゼ)、/同蘇子(クソシ) 00089430L4ノ太郎/治次(ハルツグ)、其/(ノ)外/諸薬(シヨヤク)ノコラズ御前ニメサレ、扨モ/先年(センネン)/悪= 00089440L5風(ヲ=フウ)/心(コゝロ)ガワリヲシテ/瘧疾(ギヤクシツ)ヲ/発(ヲコ)ストイヘドモ、/常山(ジヤウサンノ)/入道(ニウドウ)/三陰(サンイン)ノ 00089450L6/経(ケイ)ニハセ/向(ムカイ)、ノコラズキリフセ、コトユヘナカリシ/処(トコロ)ニ、 00089460L7/牝瘧(ヒンギヤク)/足(アシ)ノ/大陰(タイイン)ノ/経(ケイ)ニカクレツヽ、/則(スナハチ)一子/癆■(ラウサイ)ト云/大悪(ダイアク)ノ 00089470L8アフレ者アツテ、/来春(ライシユン)/本経(ホンケイ)ニセメノボルベキヨシ/風聞(フウブン)ス。 00089480¥G 00089490M1シカレバユルカセニテハカナフマジ、此/度(タビ)ハ/我(ワレ)/本経(ホンケイ)ニ/向(ムカツ)テ 00089500M2/気血(キケツ)ヲメグラシ、/癆■(ラウサイ)ヲホロボスベシト/思(ヲモフ)ハイカニト/仰(ヲヽセ)ケ 00089510M3ル。イヅレモ/一大事(イチタイジ)ノ/病症(ビヤウシヤウ)ナレバ、/御(ヲン)ウケヲ申ス/者(モノ)モナ 00089520M4(十六ウ)(十七ノ八オ挿画)シ。シバラク有ツテ、/入道(ニウドウ)/陳皮(チンヒ)スヽ 00089530M5ミ/出(イデ)テ/申(モウ)サルヽハ、/上意(ジヤウイ)/尤(モツトモ)/至極(シゴク)仕候、サリナガラ/元(モト)コレ 00089540M6三/陰(イン)ノ/経(ケイ)ニテ、/常山(ジヤウサン)ニキリモラサレタル/痰喘(タンゼン)ノ/庄司(シヤウジ)ガ、ス 00089550M7ヽメタルムホント存候、サレバ/先(マヅ)/某(ソレガシ)/心肺(シンハイ)ノ/二経(ニケイ)ニハセ/向(ムカイ) 00089560M8テ、/痰喘(タンゼン)ガ/立(タ)テコモツタル/城郭(ジヤウクワク)ヲ/追(ヲイ)ヲトシ/申(マウス)ヘシ、シカル 00089570M9/時(トキ)ハ/癆■(ラウサイ)/何(ナニ)ホドハヤルトモ、/薬種(ヤクシユ)ノ/勢(イキヲイ)ニヲソレ、/時節(ジセツ)ヲ/待(マツ) 00089580M10ノミニテ、ヲノレト/大腸(タイチヤウ)ニヲチクダリ、/自滅(ジメツ)ウタガヒアル 00089590M11ベカラズト、/手(テ)ニトルヤウニゾ申ケル。大将人参キコシメ 00089600M12シ、尤/痰喘(タンゼン)ガ/城(シヤウ)/一所(イツシヨ)セメヲトサンコトハ、/何(ナニ)ヨリモツテ 00089610M13ヤスケレトモ、カレハ/気(キ)ニヨツテ/出(イデ)タルモノナレハ、タヤ 00089620M14スクハウタレマジ、/先(マヅ)其方ハ/半夏(ハンゲ)/茯苓(ブクリヤウ)/甘草(カンザウ)ヲ(十七ノ八ウ) 00089630M15トモナヒ、/痰喘(タンゼン)が/城(ジヤウ)ニムカウベシ、/其跡(ソノアト)ヨリ/某(ソレガシ)/時(トキ)ヲハカツ 00089640M16テ/防風(ボウフウ)ヲアヒグシ、/三陰(サンイン)ノ/経(ケイ)ニムカウベシ、ミナ+/心得(コヽロヘ) 00089650M17候ヘト、/杉原山(スギハラヤマ)ヘゾ/入(イリ)タマフ。サルホドニ、/癆■(ラウサイ)此ヨシキ 00089660M18クヨリモ大キニサワギ、/邪気(ジヤキ)ドモヲ/虚(キヨ)ニゼウジテ/皮膚(ヒフ)ノ 00089670M19カタヘマハシツヽ、/一類(イチルイ)ノ/悪疾(アクシツ)ヲミナコト※クアツメケ 00089680¥P282 00089690L1ル、/先(マツ)/風(フウ)/寒暑(カンシヨ)/湿(シツ)ノ/兵(ツハモノ)ヲ/四(シ)天王ト名付タリ。扨/三陰(サンイン)ノ/経(ケイ)ニテ 00089700L2ハ、/咳逆(ガイギヤク)ノ太郎/胸近(ムネチカ)、/頭痛(ヅツウ)ノ左衛門/頼風(ヨリカゼ)、/眩暈(ケンウン)/法師(ホウシ)、/喘咳(ゼンガイ) 00089710L3法師、/四気感(シキカン)/坊(ボウ)、/傷寒坊(シヤウカンボウ)、/嘔吐(ヲウト)ノ/兵衛(ヒヤウヘ)/鳴重(ナルシゲ)、/泄瀉(セツシヤ)ノ太夫/水= 00089720L4正(ミヅ=マサ)、/宿食(シユクシヨク)ノ/冠者(クハンジヤ)/腹満(ハラミツ)、/積聚(シヤクジユ)ノ十郎/有忠(アリタゞ)、/脹満(チヤウマン)ノ入道、/同(ヲナジク) 00089730L5一子/水腫(スイシユ)ノ八郎/足肥(アシブト)、/消渇(セウカツ)ノ三郎/痲病(リンビヤウ)、四郎/目舞(メマイ)ノ/助(スケ)/霍乱(クワクラン)、 00089740L6/秘結(ヒケツ)ノ/庄司(セウシ)カ一男(十九オ)/風秘(フウヒ)ノ太郎、二男/寒秘(カンヒ)ノ次郎、 00089750L7三男/気秘(キヒ)ノ三郎、四男/熱秘(ネツヒ)ノ四郎、五男/湿秘(シツヒ)ノ五郎、其外 00089760L8/翻胃(ホンイ)、五/痺(ヒ)、五/疸(タン)、/脚気(カツケ)、/腰痛(ヤウツウ)、/脇痛(キヤウツウ)コヽヤカシコノ/悪湿(アクシツ) 00089770L9/悪熱(アクネツ)、ノコラズ/腸胃(チヤウイ)ノアイダニアツマリケル。ツガウ其/熱(ネツ) 00089780L10四百四/病(ヒヤウ)、一/身(シン)ヲサハガセシハスサマジカリケル次第也。 00089790L11人参此ヨシキコシメシ、邪気共モ大/熱((ママ))ニテ、コヽカシコヨ 00089800L12リセメノボルト見ヘタリ。/此方(コナタ)ヨリモ種ヲワケテツカハス 00089810L13ベシト、/金(コガネ)ノ/匕(サジ)ヲヲツトツテ、一&加減ヲナサレケル。/先(マヅ) 00089820L14/手(テ)ノ太陰ノ経ヘハ/檳榔子(ビンロウジ)ノ/武者所(ムシヤドコロ)/道友(ミチトモ)、大腸ノ経ヘハ三/浦(ウラ) 00089830L15ノ/芒硝(ボウセウ)、/胃(イ)ノ経ヘハ/坂田(サカタ)ノ/牽牛(ケンゴ)/朝光(アサミツ)、/脾(ヒ)ノ経ヘハ和田ノ/神= 00089840L16■(シン=キク)左衛門、心経ヘハ赤松入道(十九ウ)/細辛(サイシン)、/少腸(シヤウチヤウ)ヘハ/黄栢(ワウバク) 00089850L17ノ七郎、/膀胱(ホウクワウ)ヘハ/猪早太(イノハヤタ)/車前子(シヤセンシ)、/腎経(シンケイ)ヘハ/松浦(マツラ)五郎/肉桂心(ニツケイシン)、 00089860L18/包絡(ボウラク)ヘハ/近藤(コンドウ)/山梔子(サンシシ)、扨又山田八郎/川■(センキウ)、黄連法師、/青黛(セイタイ) 00089870L19左衛門、/任脉(ニンミヤク)/背脉(トクミヤク)ノ/手(テ)ワケヲナシ、ゲヂシタマフ。三七日 00089880M1ノタヽカヒニ、/自汗(ジカン)は/滝(タキ)ノゴトクニテ、/津液(シンエキ)ハナハダカワ 00089890M2キケル。カネテタクミヤヲキタリケン、/癆■(ラウサイ)ノ方ヨリモ/命= 00089900M3門(メイ=モン)ニ/火(ヒ)ヲカケテ、スデニタカブラセントセシトコロヲ、/当= 00089910M4帰(トウ=キ)ノ別/当(トウ)/酒洗(シユセン)、/天門冬(テンモンドウ)、/麦門冬(バクモンドウ)、/地黄(ヂワウ)ナンドノ/一剤(イチサイ)/同前(ドウセン)ノ 00089920M5/薬味(ヤクミ)ドモ、/竹瀝(チクレキ)ノ/勢(イキヲヒ)ニカヽリテセメケレハ、/何(ナニ)カハモツテ 00089930M6タマルベキ。邪気コト※クウタレケリ。サテコソ君火/位(クライ) 00089940M7シ、/相火(セウクハ)/精神(セイシン)ヲマモツテ/脾土(ヒト)皮肉ヲカ(廿終オ)タムレバ、 00089950M8/上少沢(カミセウタク)ヨリ/下竅陰(シモケウイン)ノ/穴(ケツ)ニ至マデ、ヲサマル御代コソメデタ 00089960M9ケレ。されハ三九郎も、ずいぶん/心(こゝろ)で心をとりなをして、 00089970M10大てきとなる邪気ともを、薬にてたいらぐるやうにし給ふ 00089980M11へし。是御身のための太平記に候と/一時(いちし)計かたられけれハ、 00089990M12/病者(ひやうしや)も物語の徳により、久しぶりのわらひがほ面白そうに 00090000M13見へけれバ、/親(おや)立大きによろこび、さてもよき療治かな、 00090010M14いよ+なくさめて給ハれとあれハ、いかにも心得申たり、 00090020M15しからバすこし心もちもよき時分、/我(わが)庵室にきられよ、よ 00090030M16きくすりまいらせん、かならず++とやくそくしてぞ 00090040M17帰りける。 00090050¥Y1二休咄巻之一終(廿終ウ) 00090060¥P283 00090070¥Y1巻之二△目録 00090080L3△△/恋(こひ)のため 00090090L4△△/初(はつ)しのび 00090100L5△△/品(しな)さだめ(1ウ) 00090110¥T1二休咄巻之二 00090120¥N1¥J 00090130¥X○恋の/種(たね) 00090140M5/夕間暮(ゆふまぐれ)、道たど+し急がんと、/月代(さかやき)長く色青ざめて/木綿= 00090150M6足袋(もめん=たび)、/秋雨(しうう)のやゝ晴わたる西の/家(や)かげを、つたひ+て二 00090160M7休の庵に行ハ、大義+よくこそと、/炉(いろり)のかたによりつど 00090170M8ひて、此比のりやうぢかハりて、/少(すこし)心もちもよかるべし、 00090180M9されバ+思ひの/外(ほか)、手あしかろく成侍る、いよ+たの 00090190M10ミ申と/有(あれ)バ、我もさまでよかるべきとハ思ハねども、/先(まづ)/御= 00090200M11手前(お=てまへ)の心もちを、つね※よく存たるによりて、/機嫌(きげん)とり 00090210M12たる計也、今少/遅(おそ)くハ、秋ながら/経帷子(きやうかたびら)に衣がへさせねハ 00090220M13(一オ)ならぬはづ也、よく+分別し給へ、さてそのほう 00090230M14を爰許へよび申事わけ有ての事、其方心もちつね※ま 00090240M15りわかきものゝ似合ぬ/堅(かたさ)なり、ちとなをさせ申さんとの分 00090250M16別ゆへなるぞや、先其方の病ハ、/心肺(しんはい)の間に/欝気(うつき)といふも 00090260M17のゝ有ゆへ也、尤/良医(りやうい)の薬にて/愈(いゆ)ることもあるべきなれど、 00090270M18今時の/医者(いしや)がいかほどあぢをいふとても、ミなすいやりに 00090280M19いひなし、くすりも目なしどりにしてあはするくらいなれ 00090290¥P284 00090300L1バ、中+/気遣(きづかひ)にてのまされず、爰によき薬あり、是より 00090310L2西にあたつて/嶋原寺(とうげんじ)といふ女郎/宗(しう)の寺あり、其面白さいわ 00090320L3れたことにあらず、ゆきて心見られよとあ(一ウ)れバ、三九 00090330L4郎色をちがへ、さても/其方(そなた)ハ出家に似/合(あは)ぬことを仰らるゝ 00090340L5物かな、常+の御/心底(しんてい)とハばつくん替り申たり、/分(わけ)もない 00090350L6ことゝ/声(こゑ)をふるはし申ける、いかにもさやうにいわるべし 00090360L7とハ、三年まへからさすが/神子(ミこ)也、其心なるによりて/煩(わづらふ) 00090370L8也、かくいへばとて、御身を/傾城買(けいせいかい)の/悪性(あくしやう)ものになすには 00090380L9あらず、此さとへ/通(かよ)ひ/初(そめ)てからハ、いかな/四方髪(しほうがミ)殿も、ひ 00090390L10たひたとやわらぐ事、いはねどしれた/小豆餅(あづきもち)、しかしそな 00090400L11たのかたいぢハ、此道からなをさねバなをる事なし、先/丹= 00090410L12波口(たん=ばぐち)の/野(の)はづれへ、によつきりと/践出(ふミいだ)すといなや、荒木与 00090420L13次兵衛よりかたき三九郎も、なまりの玉を/火(ひ)にあつるがこ 00090430L14とく心が(二オ)やわらぐ、其/跡(あと)ハ/横(よこ)になりとも/堅(たて)に成とも、 00090440L15心のまゝになる事也、/必(かならす)すごす時はよこに成やすしと、し 00090450L16バらく/案(あん)じて、されば詩にも、 00090460L17△朱雀西方畛道遐△△小歌三味線常譁 00090470L18△傾城只不傾城耳△△入此幾人売尽家 00090480L19とあるからハ、よき/時分(じぶん)にやむる時ハ、/本心(ほんしん)の/人間(にんげん)になる 00090490¥G 00090500M12事ぞや、今御身ハ人間といふもにてなし、いかんとなれ 00090510M13バ、日本ハ/和国(わこく)なり、和国とハ大きにやはらぐとの/訓(くん)あり、 00090520M14其やハらかなる/我国(わがくに)に生れし三九郎が、其かたさにてハ中 00090530M15+人間とハいはれぬ也、其方もしらるゝ/通(とをり)、/柳下恵(りうかけい)とい 00090540M16ふ人ハ、女の足をあたゝ(二ウ)(三ノ四オ挿画)めてさへや 00090550M17られしぞ、まだいひ/度(たき)事のありけれど、/長(なが)+しけれバさ 00090560M18しをく、先明日より長者町の利介が方へゆきて心見られよ、 00090570M19ひらに+とすゝむる時、三九郎もいなことをいはるゝ物 00090580¥P285 00090590L1かなと、さら+合点せざりしを、又せなかほつとりとた 00090600L2ゝいて、こりや/御手(おて)まへが分別/皃(かほ)ハ、こちにくて/居(いる)ぞ、/親= 00090610L3仁(おや=じ)手前ハ此坊主にまかせよ、もとこれ親仁からすゝめてく 00090620L4れよとの事、其せうこにハ/最前(さいぜん)金子五両請取て/来(き)た、是を 00090630L5見よ、親の/心(こゝろ)子しらずとハ此事かと、なげ/出(いだ)せバ、三九郎 00090640L6きもをつぶし、さてハ/我身(わがミ)のやうぜうのため、かうしたこ 00090650L7とか、しからバなるほどまいる(三ノ四ウ)べし、してあの 00090660L8里のあいさつ、諸わけとやらんハ、いかなることにてかと 00090670L9くとうけ/給(たまハリ)たし、いかにもよいふしん、ずいぶんいらぬこ 00090680L10といはぬがよし、先丹波口の茶屋ハ、/我(わが)下人のごとくあし 00090690L11らふべし、次に出口の茶やハ、どう/仕(し)やれかう/仕(し)やれ、い 00090700L12かなる/家(いへ)であらうとも、/何者(なにもの)がいようとも、あミ笠ぬがず、 00090710L13物いはずにそそらぬがよし、さて女郎ハよう御出なされた、 00090720L14なんとあそバしたなどゝのあいしらい、よし諸事此外のこ 00090730L15とハ、/大鼓(たいこ)と利介とにまかせておく時ハ、くるわの内をは 00090740L16りひぢて/通(とを)りても、あら手の/大&(たい+)大臣様とて、みな人のひ 00090750L17て/通(とを)すなり、此外いろ+品+(五オ)面白きことあるべ 00090760L18し、それが御身のとくなりけり、とかく明日ハ利介かたへ 00090770L19ゆきやれ、かならず/金(きん)ハさきへやつておくぞと、利介方へ 00090780M1金子にそへて状遣す。利介ひらきて見るに、明日/俄(にハか)に中山 00090790M2三九郎うなり、ずいぶんよき太鼓を一人/引付(ひきつけ)申さるべし、 00090800M3さて入用ハあげせん太夫引舟七十六匁、/揚屋(あげや)へ壱角、やり 00090810M4手ニ一角、/内(うち)の下男下女いくたり有共、中へ小判一両、出 00090820M5口の茶屋やニ壱角、丹波口へ一角、/駕篭(かご)代三/枚肩(まいがた)二丁八匁、 00090830M6其方きもいり代壱角〆弐百拾九匁、則小判三両と壱歩弐つ 00090840M7と、銀九匁と/遣(つかハ)す、/能(よき)やうにはからい、手のわるい事し給 00090850M8ふな、/当座銀(とうざぎん)にかふもの(五ウ)は、やぼとやいはんなれど 00090860M9も、此方に/分別(ふんべつ)/有(ある)ゆへなり、以上利介殿参、ふたつよりと 00090870M10あり。利介きもつぶして、やれかゝよ、見事なる大/臣(じん)様の 00090880M11御出なさるゝそとて、糸より車をかたわきにをしやりて、 00090890M12あくるをおそしとまちにけり。 00090900¥N2¥J 00090910¥X○初しのひ 00090920M15あやめもしらぬ恋をすゝめられて、三九郎ハ/長月(ながづき)十三日、 00090930M16/枝大豆(ゑだまめ)男になり/行(ゆく)や、/飛(とび)さやのはだき、/東京紬(とうきんつむぎ)のすゝ竹、 00090940M17/升(ます)の/内(うち)に/桐(きり)と云字の/古文字(こもんじ)五所/紋(もん)、ちよろけんの帯ふとか 00090950M18らずほそからず、むすぶちぎりの/末(すへ)の白雲、かゝるもうき 00090960M19世のならハしかと、利介(六オ)が/本(もと)に/付(つき)しかバ、よう御出 00090970¥P286 00090980L1と/一(ひと)まなる所へ/請(せう)じ、かねてやくそくの太鼓もち、/西覚(さいかく)と 00090990L2いふ坊主に/引合(ひきあはせ)、酒すこしのミかけ、いざやといふほどこ 00091000L3そあれ、すだれをろしこめてはしり/行(ゆけ)バ、ほり川の水も/北(きた) 00091010L4へながるゝかとうたがふまに、二十町計もあるらん、丹波口 00091020L5ますや庄介が/元(もと)へのりこめバ、おもひまふけぬかゝが、き 00091030L6げんとり※に、びんなでつけ帯しなをし、やき/印(いん)の/物(もの)ふ 00091040L7か※と、/誰(たれ)しのぶとハなけれど、ばつとしたる/野(の)はづれ 00091050L8に/出(いづ)れハ、折ふしの虫の声※にあはれなる秋も、忘れは 00091060L9てゝおもしろおかしき、あぜのほそ道つたひ行て、扨出口 00091070L10の/暖(のう)(六ウ)/簾(れん)どものゆうなる/気色(けしき)に、/気(き)をのばし又鼻の/穴(あな) 00091080L11の糸をのばし、平野や七兵衛が/元(もと)へ立よれバ、是もよろこ 00091090L12びのいろ/付(つけ)とて、さかづき出し、天気がようて今晩の月ハ、 00091100L13などゝけいはくのけらわらひ、西覚/申(もう)さく、是此/殿(との)ハ中さ 00091110L14まと申て、此里はじめての御出、/向後(きやうこう)御ちそうたのミ/申(もうす)、 00091120L15さて又これにおりまするハ、此家の/亭主(ていしゆ)平七と申ものにて 00091130L16御ざります、則/銀(かね)を見てハきげんのよい/親仁(おやじ)、御めをかけ 00091140L17られましてと、わるじやれのあいさついひすてゝ、どうすぢ 00091150L18をうなり/行(ゆけ)ハ、ふゑんの太夫、わたもちの天神、なまじほ 00091160L19の/鹿恋(かこひ)、すあしの道中(七オ)ながめ行ハ、/思入(おもひいる)さの山がた 00091170¥G 00091180M12や二郎右衛門親子、共にいつもかわらぬ御あいさつ、さて 00091190M13女郎さまハいづれか、金太夫ハ/今日(けふ)ハ/御隙入(おひまいり)、もろこしハ 00091200M14どなたやら、御さふらひ衆の御約束のよし、さてもきのど 00091210M15く、/夕霧(ゆふぎり)ハそれハなんと/御(ご)ざりませうぞ、いやでハあるま 00091220M16い/呼(よひ)ましてこいと、しばらく/有(あつ)て太夫様御出といへば、き 00091230M17ぬの/音(おと)なひ、箱はしごのひゞき、ゆら+くハん+ぎし 00091240M18+と、かいつかねたる髪のわげに、きる物の/肩(かた)のあたり、 00091250M19十二ばんめの/羅漢(らかん)のごとくぬぎかけ、どこやら/大(おゝ)へいに、 00091260¥P287 00091270L1又くらい/高(たか)くおも+しく、/引舟(ひきふね)ハ/御階(ミはし)/左(ひだり)のかたにつき奉 00091280L2り、かぶろやりていながれ、其外くハしや平七、庄介、西 00091290L3覚、(七ウ)(八ノ九オ挿画)利介七八人、おの+三九郎さま 00091300L4にしたがひなミ居しハ、つたへきく、/唐(もろこし)の/蘆(ろ)左衛門がうな 00091310L5りも、是ほどにハとさわぎ/出(いだ)して、たれやら恋のよせ/太鼓(だいこ) 00091320L6/引(ひき)いだせハ、西覚ハ、むざんやな/少将(しやう+)ハ五郎にふかくとか 00091330L7たるやら、かぶろが/末(すへ)のまつ山うたふやら、はしの/間(ま)にハ 00091340L8すご六のせり/合(あい)、おくの二/階(かい)にハしめやかにうたがるた、 00091350L9/台(だい)所ハまな/板(いた)の/音(おと)、平七ハ/一心不乱(いつしんふらん)にさかづきのつめひ 00091360L10らき、時うつりことさり、おさだまりの夕めし過て、/床(とこ) 00091370L11とり※に帰るさの道、のこりおほきおもハく、又おせ 00091380L12+。 00091390¥N3¥J 00091400¥X○品さだめ(八ノ九ウ) 00091410L15葉山しげ山しげき人めをつゝミ、わりなく/通(かよ)ハんこそと、あ 00091420L16る時ハ太鼓なしのぬけがけ、はじめのさわぎ上&のまこと 00091430L17になれバ、女郎もにくひ人にも、なるれハいとし末のまつ山、 00091440L18波ハこすとも/我(わが)心かハりなふ候まゝ、かたさま御こゝろか 00091450L19ハりなふたのミあげまいらせ候と、/実(じつ)からの筆のすさミに、 00091460M1ころりとなげ/首(くび)して、ひとりねかちをうらめしく、利介が 00091470M2方へ文の/音信(おとつれ)きゝにゆき、うハさたづねて/居(い)られし所へ、 00091480M3うかれ大臣二人、西覚をつれてしのびやかに/来(きた)られしかバ、 00091490M4ちやくと二/階(かい)へ/上(あが)りぬ。あとにて利介、西覚が/耳(ミヽ)のそばに 00091500M5より、/何(なに)やらさゝやくハ、さだめて(十オ)/我(わか)事なるべし。 00091510M6さて二人の人、物ごと気を付て、こゝにめなれぬ/雪踏(せつた)あり。 00091520M7利介、是ハいかに二階にたれぞあるかととハれて、/例(れい)の手 00091530M8くだ/口(くち)、いや是ハ/今朝(けさ)あさごミの旦那衆、御あづけなされ 00091540M9ましたと、よいかげんにもつてまいる。時に西覚、くるしか 00091550M10るまじ御ちかづきにせんと、/中さま(なかさま)+とよび立られて/下(を)り 00091560M11けれバ、こなたなるハ/下立(しもたち)うりのしげさま、是ハからす丸の 00091570M12三二さまと申御かた、又こなたなるハ中さまと申て、内&御咄申 00091580M13ました/方(かた)、/向後(きやうかう)御心やすく折&御同心のさわぎ、是こそう 00091590M14き世の/花盛(はなさかり)、/若(わか)かいが二度ハない物ととりはやされ、すこ 00091600M15し酒ごとして(十ウ)例の一はいきげん、いざ此きほいにを 00091610M16せといふ。利介きゝて、りよぐわいながら/無分別(むふんへつ)と申もの、 00091620M17嶋原がにげていぬる所でハ御ざりませず、たがいに/御(お)首尾 00091630M18のよい時御申合なされ、わたくしかた迄御やくそくの御/左= 00091640M19右(さ=う)あそばせと、/御(お)さたまりの/実(じつ)ごといふにぞ、尤とうなづき、 00091650¥P288 00091660L1こゝに居るもようない事、/今宵(こよひ)ハ西覚/振舞(ふるまい)ぶんにして、あ 00091670L2るじまふけせよと、/夕暮(ゆふくれ)の西覚/宅(たく)へのかたたかへあり、う 00091680L3そ/狭(せば)き六/畳(てう)敷の二/階(かい)に、しかも/道具(とうぐ)/多(おほ)くかたすミにつミか 00091690L4さねて、/日野(ひの)やのそば切/三桶(ミおけ)、/樋口(ひのくち)やの酒二升、/生貝(なまかい)する 00091700L5めなどのりやうりに、/手間(てま)のいらぬ物なから、すこしハ 00091710L6(十一オ)たべすごして、とかくよその咄しハせず、かの里 00091720L7のうわさ、松屋半兵衛がくハしやハ、なんとよい物でハな 00091730L8いか、さてもきれいなるもの、/揚(あけ)やふぜいの/女房(にうハう)にはをし 00091740L9きぞや、/大銀(おゝがね)もちの御かつさまにしても大事ない物よとい 00091750L10へは、西覚、そのやうなよい物も有に、すべて人のうるさが 00091760L11るハ、藤屋彦右衛門がかゝ、あれほどこづらにくいやつハ 00091770L12といへバ、それいかに、わらふ/皃(かほ)さへ/作(つくり)りぞこないのゑん 00091780L13ま大わう、又何とおほしめす、大坂やの天神高砂、さりとて 00091790L14ハたぐいあるまい、ひたいつきびんつき、/自然(じねん)のはへどま 00091800L15りにて、しかもあつくくろし、びんのあつき女郎ハ、くるハ 00091810L16の内にたぐひまれなるものならず(十一ウ)や、かくあれバ太 00091820L17夫にもなりそふなもの、どこそに/疵(きつ)か有にこそ、きづこそ 00091830L18あれ、/何(なに)やらよろしからぬとの/沙汰(さた)、又/同(おな)じ内の関寺、あ 00091840L19いつめが心/入(いれ)のにくさ、小野山宇治右衛門ハいそなりとい 00091850M1へは、どうりこそ、此中二人なから大坂へちくてんせられ 00091860M2た、よろこびたまへとわらふ。扨なんと井筒やの/御大(おたい)と、 00091870M3菱屋のさつとハ、ふじの山を花にやもらいけん、あの/腹(ハら)ハと、 00091880M4あほう口たゝきて、いでや此世に/生(むまれ)てハ、女郎のうわさハ 00091890M5しのぶずりにいふなるべし、なにとこよひ、男のしなさた 00091900M6めしてなぐさまん、尤と/先(まづ)、中さまを/光(ひかる)源氏にして、さて三 00091910M7二さまハ/藤式部(とうしきぶ)、しけさまハ/馬頭(むまのかミ)にならせられ、此西(十二オ) 00091920M8覚ハ/今宵(こよひ)計/位(くらい)をあげて/頭(とう)中将、さあ+/雨夜(あまよ)の/人数(にんしゆ)ハそろ 00091930M9うたり、○/銀(かね)も/多(おほ)からず、きわにも一はいにしてしまふ人 00091940M10のむす子、岡村か/飛鳥(あすか)川の/狂言(きやうげん)など見たる折ふし、/色里(いろさと)の 00091950M11物語をきゝて心をこり、三十匁の/露(つゆ)を袖にして、/壬生(ミぶ)のま 00091960M12へを南へ、あぜのほそ道ふミ/分(わけ)てかよひ/初(そむ)る/心(こゝろ)、/行(ゆく)さき思 00091970M13ハぬ物ながら、女のよれるはなげにハつなぎとめらるゝぞ 00091980M14かし、○すこし手前もよき人のむす子、すミまへ/髪(かミ)より茶 00091990M15屋づかをにぎりつくして、あつはれ色里のつめひらき、い 00092000M16づくにてもしかねハせまじ、嶋原の諸わけも/草子(さうし)に/書(かい)てあ 00092010M17るとをり、(十二ウ)(十三ノ十四オ挿画)合点なりと友にさそわ 00092020M18れ行て、物ごと大やうにのつたりとしたるてい、又こまか 00092030M19しき諸わけの、合点のゆかぬにころりとこまり、心はづか 00092040¥P289 00092050¥G 00092060L12しくおぼしめさるゝ事、たれも昔ハ男山、/塵(ちり)をひねりしこ 00092070L13ともありしに、○又はじめて/揚(あげ)屋をふミながら、あしもと 00092080L14にも気をつけず、あたまからすいだてをしてそゝる男、わ 00092090L15がめにハ見ゑねとも、/恥(はづ)かしき事/数(かず)+、よその袖さへよ 00092100L16だれにぬれて、いやはやおかしいとし、○過しせつくハ三 00092110L17日ながらつゞける/今日(けふ)、いてよこをきらいてハと、思ひこ 00092120L18めてゆきぬれども、/何(なた)やらかやらいひて/逢(あひ)にもこず、かぶ 00092130L19ろ計こしたるハ、(十三ノ十四ウ)/我(われ)から我とはらのかハがひ 00092140M1きさける、○扨よこ切に行て、其かひも/波間(なミま)にはめられて、 00092150M2又やくそくの日をきわめられたるハ、いよ+つらの/皮(かわ)が 00092160M3いたくなり侍る事よ、○ほれたる女郎に酒などすけてやり、 00092170M4又ハあなたよりやわらかなる手にて、あたまをさへさせ給 00092180M5ふ、其男の心すぐにしにくされ忝し、○又ほれたる女郎に 00092190M6手くだして身ぶりをかへ、しらぬあげやへゆかんとせしを、 00092200M7/堂筋(どうすじ)にてやり手に見つけられ、せんさくするこそあとへも 00092210M8さきへも、○またそれよりほれたる女郎に、しらぬあげや 00092220M9にてしめやかにあい、わたくしハ此里はしめての事なれハ、 00092230M10よろづかハゆがりたのミ(十五オ)まするなどいひて、さて 00092240M11しめやかにかたらんと思ひこミたる折ふし、もとの女郎き 00092250M12ゝつけはしりきて、いたいめにあひたるハ、是なんのいんぐ 00092260M13わぞや、○水あげしにゆく男なりとしれたるを見れハ、あ 00092270M14れか+、さても又なくあほうらしきなりよ、○あげせん 00092280M15つもりてすましかねながら、おろせとだんかうして、あぢ 00092290M16まやかにことハりいひておきたるハうれしきもの、しかし、 00092300M17ねざめのむしのどく、/胸(むね)のつかへ、めしのとりゆも、のど 00092310M18へとをりかねつべし、○/首尾(しゆび)/引(ひき)さけてやけになりたる男ハ、 00092320M19/言語(こんこ)どうもいへぬだんなり、○/孫(まこ)/迄(まて)もちたるぜんもんの、 00092330¥P290 00092340L1新ぞうをすきてかよハ(十五ウ)/ハ((ママ))せ給ふ笠の内ハ、ゆかし 00092350L2げもなし、○人の/手代(てたい)、/主(しう)の目をぬき、二六の十四とさん 00092360L3用のちがいて、請人にはかまきせ、さかやきそらして、や 00092370L4う+あつかいはすミながら、/牢(らう)人して又しのび+に、 00092380L5女郎に文やる心、/数勝(しゆせう(ママ))にも又ふとひやいつめなり、○はし 00092390L6ぐるひをする男、けちぎり計に身をやつし、友だちの/御(お)て 00092400L7きののんれん/上(あげ)て、今いにますが、文やらせられぬか、と 00092410L8ゞけてやりましよと、/水鼻(ミづはな)すゝりていふハどんなりけり、 00092420L9○かしこひ男ハ高あかりせす、○それよりかしこひ男ハ、 00092430L10くるハへ一度もゆかぬ人とかや、田中/常矩(つねのり)もいへり、もつ 00092440L11ともさることぞかし、○伏見のしもく(十六オ)町ハ、かこ 00092450L12ひがかぶろつれて、ねたんも/同(おな)じことでやすいものなりと、 00092460L13嶋原を/下戸(げこ)が、酒屋のかど/通(とお)るやうにして/行男(ゆくおとこ)も、なにハ 00092470L14の/蘆(あし)ハ伊勢のはま/荻(をぎ)、かはらぬはなげの/長(たけ)なんめり、○け 00092480L15ち/切(きり)計四五度して、心やすだてにても、はやせつ+あひ 00092490L16まし、/朋輩(ほうばい)衆もしつていさんす、ぐわいぶんでも御ざんす、 00092500L17此廿一日にハあげてくださんせと、はねちらかしていふ時、 00092510L18ぬけらぬわけになりて、やくそく拾五匁あいたしこ、○我 00092520L19ものいらずに太皷もちと名をとり、人をすゝむるものハ、 00092530M1/我(われ)からあぢをやると思ふめれど、よく+気を付て思ふに、 00092540M2天ぢく(十六ウ)/震旦(しんだん)/我朝(わがてう)三国にも、又たぐひなき大だわけ、 00092550M3○名ある太夫にあいおくられて帰る大臣の/威勢(いせい)と、さてハ 00092560M4一もんじやのかうしの内、大坂やのかうしの内をのぞきて、 00092570M5ゑゝあれをなあ、かねがほしやなあ、○揚屋のていしゆ、 00092580M6ちと花がおそひかすくないかなれバ、まつかうくさき/皃(かお)し 00092590M7て、おかしき事いふても、わらいもしくさらぬハきつてす 00092600M8てたし、○揚屋男の床とるハかハゆらし、○出口の茶やに、 00092610M9はじめての/客(きやく)つけてやる時、まハる事/一時(ひとゝき)がわりの/自身番(じしんばん) 00092620M10のごとく、一貫町も同じこと、○をろせといふものハよく 00092630M11うそをつくもの也、あるいハ/我(わが)しり(十七終オ)たるものを、 00092640M12そんぢよそれハ、ようゆくげなどいへば、いや+けもな 00092650M13い事、あいに太皷にハ御ざりますなどいひ、又そんぢよそ 00092660M14れハ、いかいすいじやとのといへば、いや+やぼすけで 00092670M15御ざりますとことふ。又いかいやぼすけじやのといへバ、 00092680M16いや+すいで御ざりますなどこたふ。/余(よ)ハミな是になら 00092690M17へと、夜のふくるをもしらずかたりぬれハ、とうふうる声 00092700M18のほの+と、きぬ+の羽織の袖に引わかれて帰りけり。 00092710¥P291 00092720¥Y1二休咄巻之二終(十七終ウ) 00092730¥Y1二休咄巻之三△目録 00092740L3△△/世(よ)の/中(なか) 00092750L4△△/伊予(いよ) 00092760L5△△/望月(もちづき) 00092770L6△△うら嶋(1ウ) 00092780¥P292 00092790¥T1二休咄巻之三 00092800¥N1¥J 00092810¥X○世の中 00092820L5世の中に/絶(たへ)て/親仁(おやじ)のなかりせは、うなる心は/長閑(のとけ)からまし 00092830L6とハ、三九郎が身の上に思ひしられたり。/折(おり)ふしハ/来(こ)ん/夜(よ) 00092840L7も、ふかき/契(ちぎり)たがふななどゝ/語(かた)り、あるハ/小桜(こざくら)/千之助(せんのすけ)など 00092850L8はり札のある宿に御見廻申、又ハ/糊(のり)やが/許(もと)のいぶせきもい 00092860L9とハず、/一ケ月(いつかつき)三角の/拵者(かこいもの)、とにもかくにも/白粉(おしろい)の色にそ 00092870L10ミ、/伽羅(きやら)の/油(あぶら)の香にめでゝ、/別(わかれ)をおしミて/銀(かね)をおしまず。 00092880L11三介も/今(いま)ハもてあまし、又二休を/頼(たのミ)て/止(やむ)るやうにとの事、 00092890L12/心得(こゝろえ)たりとことうけして、三九/西覚(さいかく)両(二オ)人を/呼(よび)にやり、 00092900L13/示(しめ)されけるこそおかしけれ。/凡(およそ)/嶋原寺(とうげんじ)といふ所へしげく/往(ゆく) 00092910L14物にあらす、先西覚ハ/帥(すい)かと思へは大きなる/野暮(やぼ)也、もは 00092920L15や/止時分(やめじふん)、/合点(かつてん)がゆかぬか、/向後(きやうかう)はすつきり/御無用(こむやう)、三九 00092930L16郎、あまり/夫(それ)は/難面(つれなし)といふ。いや二休/迄(まて)が/迷惑(めいわく)いたす。 00092940L17西曰、是ハ/帥(すい)に/似合(にあハ)ぬことを/仰(おほせ)らるゝ物かな、/面白(おもしろ)い/最(さい)中 00092950L18色/遊(あそひ)の/花盛(はなさかり)、わが/通路(かよひち)の/関守(せきもり)と成給ふ/御坊(ごほう)の/心底(しんてい)/慈悲(じひ)なし、 00092960L19/浮名(うきな)のたつにこそあれ、此/折(おり)に/止(やめ)よとハ何事ぞ、今やめて 00092970M1ハ御/遣(つかい)なされし銀か/皆(みな)/死(し)ぬると申物。二休曰、/沙門(しやもん)に/対(たい)し 00092980M2て慈悲なきとはいかゞ、色にふけるを/留(とむ)る是すぐさま/慈悲(じひ) 00092990M3の/眼(まなこ)也、/凡(およそ)/彼里(かのさと)に/通(かよ)ふ人を見るに、/面白(おもしろ)(二ウ)事也といふ 00093000M4計にて、百貫目/持(もち)たる人も、色ぐるいする時ハ、心の/中(うち)の 00093010M5うさつらさ、やるかたもなく/限(かぎ)りある/財(たから)をついやし、かき 00093020M6りなき/契(ちぎり)をねがふ故に、/次(し)第に銀ハへりて、/逢(おふ)ていひたき 00093030M7事ハ山とかさなるまゝ、/終(つい)に/裸(あかはだか)と成て/門(かど)にたゝぬ計也、 00093040M8又ハ我か内の/首尾(しゆび)よく/親(おや)に不孝にあたりしこともなく、か 00093050M9くあぢをやるハ、我ながら/賢(かしこ)き物かなと/自賛(じさん)し、ひた物/行(ゆく) 00093060M10とひとしく、/限(かぎ)りある/財(たから)是もどこぞの/程(ほと)にてハ、ことのかけ 00093070M11ぬといふ事なし、/必(かならず)あぢやると思ふて/往(ゆく)人ハ、/猶(なお)/止(やめ)がたき 00093080M12事、くだり坂に玉をわしらしむるがごとし、/唯(たゞ)色里の/和気(わけ) 00093090M13をのミ/能(よく)せんと思ふから、ゑ(三オ)しれぬ/分別(ふんべつ)/出来(でき)て、ひ 00093100M14とつも/直(すぐ)なることハなく、皆/盗人(ぬすびと)の/下地(したち)となる、/財宝(ざいほう)ハ/夢(ゆめ)の 00093110M15/世(よの)中、ありても/死(し)ぬる時ハ/匹如(するすミ)にてなどゝ、心にも思ひ/口(くち) 00093120M16にもいひ、/遣果(つかいはた)してさらバきれいに/死(しに)もすることか、/得死(えしに) 00093130M17もやらず/親(おや)の/名(な)をよごし、/親(おや)に思ひをかけ、/其身(そのミ)も/末(すへ)ハ/露(つゆ) 00093140M18の五郎兵衛が/手代(てだい)になること/遠(とを)からす、又ハ物/日(び)+の数 00093150M19+、/揚銭(あげせん)つミかさなりてハ、心よかりし人も次第にわる/賢(がしこ) 00093160¥P293 00093170L1くなり、内の/借銀(しやくきん)ハ/夫(それ)ともせす、/浮言(ねなしこと)いひまハりて/済(すま)さず、 00093180L2くるわの/分(わけ)を/能(よく)するによりて、あなたにもいよ+まはる 00093190L3に/付(つき)、面白く成ゆき、世間の銀のすまぬハことハりなり、 00093200L4此面白さはすて(三ウ)(四ノ五オ挿画)らるゝ物にてなしと、 00093210L5諸人めいわくするもかまハずたハけ/尽(つくす)す人、石川五右衛 00093220L6門とひとし、/去(され)バ/経(きやう)にも、/身雖(しんい)/丈夫(しやうふ)/行同(かうどう)/畜生(ちくしやう)といへり、此 00093230L7心ハ、身ハ/歴&(れき+)の/人躰(にんたい)にして、おこなひハ/鳥獣(ちやうじう)に/が((ママ))ハらぬ 00093240L8との事也、今時の人を、/釈迦(しやか)や/達磨(だるま)に見せたらバ、衣の 00093250¥G 00093260M1袖も/涙(なミだ)に/朽(くち)なんとぞ思ハるゝ。西曰、/夫(それ)ハ仰らるゝ迄もな 00093270M2し、/誰(たれ)も+よくしりたる事、くどし+。二休曰、しりて 00093280M3居ながらかゝる/色通(いろかよ)ひを/止(やめ)ざるハ、/自暴自棄(じほうじき)とて/聖(ひじり)の/戒(いましめ) 00093290M4にもたがへり、先其方には/行様(ゆきやう)さへしらざりしなり、/夫(それ)嶋 00093300M5原といふ処ハ、金銀を持あまし、隙にて/一日(いちにち)の日をくらし 00093310M6かぬる人の、気なぐさミに行所、(四ノ五ウ)又ハ直段のたか 00093320M7きやすきありて、人+の程につけつゝこしらへたり、又 00093330M8人の/妻(さい)をぬすまぬやうの/心得(こゝろえ)にて、/昔(むかし)よりなくてかなハぬ 00093340M9所也、/夫(それ)をしらで/糞虫(ふんちう)のたかあがり、たかき物を/買(かふ)てから 00093350M10銀もへりかゝれハ、心をくるしめ物/案(あん)じをする事也、/主親(しうおや) 00093360M11にそむき、我と我身をくるしむるより、/罪(つミ)もなき/揚(あけ)やくつ 00093370M12わを、/悪所(あくしよ)のかくれ里のやれ、人の物をすひとるのやれ、 00093380M13と/盗人(ぬすびと)/同前(とうせん)に/此方(こなた)より思ひなして、をのづから悪所にする 00093390M14事、さりとてハ/不仁(ふじん)の/至(いたり)也、/猶(なお)揚や茶や下※迄国御出な 00093400M15されませの、此中ハ御出御ざりませぬ御見かぎりか、いや/御= 00093410M16恨(お=うらミ)が御ざ(六オ)りますのなとゝいふハ、/恒(つねの)/産(さん)なれハ/恒(つねの)/心(こゝろ)な 00093420M17しにて、/品(しな)こそかはれ/巾着切(きんちやくきり)ハならす、/商口(あきないくち)といふものな 00093430M18り、/家売(いへうり)て成とも御出なされませといふにこそあるへけれ、 00093440M19うそハ/須弥山(しゆミせん)の山をつらぬき、/香物(かうのもの)さへくう/食(くわ)すに、内に 00093450¥P294 00093460L1てハ/始末(しまつ)をし、天神/買(かう)たり、太夫かふたり、はて+ハ/丹= 00093470L2波(たん=は)へと心さし、/律義(りちき)/千万(せんはん)なる女郎迄、うき名をたつるそか 00093480L3し、是/行(ゆき)やうをしらすして行といふ物ならすや、/既(すて)に今三 00093490L4九郎も/欝(うつ)気はらしにとて、蔵にたゝある/銀(かね)を少つかふて、 00093500L5欝気もはるゝによりやむる時ハ、内の/首尾(しゆひ)よし、銀もへら 00093510L6ず、/別(わけ)もよく心もゆるやかになる物を、中+(六ウ)/帥(すい)た 00093520L7てをして、/今度(こんと)の/節句(せつく)ハ/誰(たれ)もせぬげな、/爰(こゝ)ハひかれぬ所、 00093530L8内の/首尾(しゆひ)ハとうそせう迄といひて、/封(ふう)つきいくつといふか 00093540L9ぎりなく、/後(のち)ハ目あてゝみられぬ/躰(てい)たらく、あの人ハ/傾城(けいせい) 00093550L10ぐるひしてあのやうになられた、いとしやとて銭三文人が 00093560L11たゞくるゝものにあらす、/能(よく)合点してふつ+やめられよ。 00093570L12三九曰、いかにも/仰(おほ)せ面白く侍る、しかし/今(いま)/仰(おふせ)候ハ、女郎 00093580L13ハ/飛鳥川(あすかかわ)/淵瀬(ふちせ)さためぬ物と/承(うけたまハり)候か、/律義(りちぎ)なる物と仰候 00093590L14ハいかに。二休曰、/夫(それ)ハ/踵(くひす)の土かとくと/落(おち)ぬ/故(ゆへ)、合点か参ら 00093600L15ぬ也、尤昔ハうそつきたるもしらす、今時の傾城かうそつく 00093610L16物にてさら+なし、偽多則為乱(七オ)にて、うそをつ 00093620L17きてハうれぬ故也、/男(おとこ)の方より/替(かわ)り/行(ゆく)により、をのつとか 00093630L18ハらねハならぬ、/諸分(しよわけ)此趣たきつけ草にくわしく、今あら 00093640L19ためいはんもおこかまし。三九曰、たきつけ草にあるとの 00093650M1給ふからハ、さてハ此/里(さと)に行は/恋(こひ)にて候か。二休曰、いや 00093660M2+/恋(こひ)といふ物にあらす、/恋(こひ)といふ物ハ、露/霜(しも)にしほたれ、 00093670M3こゝかしこに立もとをり、/信夫(しのぶ)の/浦(うら)の/蜑(あま)の見るめを/忍(しの)ひ、 00093680M4月にかこち夕をまち、折ふしの/逢(おふ)せには/暁(あかつき)をうらミ、又ハ 00093690M5/情心(なさけこゝろ)のいてき、/無常(むしやう)の/理(ことハり)を/観(くわん)し、万やさしきを/恋(こひ)すると 00093700M6ハいふ物也、此嶋原/通(かよ)ひする事ハ、日をおなしうしてもか 00093710M7たられす、/先(まつ)(七ウ)/主親(しうおや)の/金銀(きんぎん)を/盗(ぬすミ)出して、/遣(つかふ)心は/情(なさけ)なき 00093720M8事ならすや、又/一回(ひたつら)/逢(あひ)ミんことをねかふかと思へは、其気 00093730M9ハなく、我身を/能(よく)思ハれ、/帥(すい)なりといはれんがために、せ 00093740M10んしやういひ/散(ちら)してゆく、是も恋に非す、月など打なかめ、 00093750M11/腰折(こしおれ)にてもつらぬる事か、十五夜/物日(ものひ)也と計いひて、/雲(くも)の 00093760M12かゝるも、月ハ/陰(ゐん)やら/陽(やう)やらしらす、酒/飲(のミ)すごして/腹(はら)つゝ 00093770M13ミうつのミにて、さらに/恋(こひ)といふ事しらず成行なんあさま 00093780M14し。西曰、女郎ハしられすしらぬ/物(もの)迄も、/馴(なれ)てからハ真実 00093790M15を語る物なれハ、/男(おとこ)のかはゆかるも/尤(もつとも)ならすや。二休曰、 00093800M16/尤(もつとも)にてなし、/東(あつま)の/奴郎左(やつころさ)、いかなあらえひすなり(八オ) 00093810M17とも、/馴(なれ)てからハにくふなき物也、女郎とてもさのことく、 00093820M18なれてからハ/愛(あいする)はつ也、しかれハ金銀のついゆる女郎をか 00093830M19はゆく思ふよりハ、同し心にて/損(そん)のゆかぬ、/東(あつま)の奴郎左を 00093840¥P295 00093850L1かはゆかりたるかまし也、今よりして傾城をかふならハ、 00093860L2内の首尾よくつとめ、隙あるかねにて行時ハ/親仁(おやし)もこハか 00093870L3らす、ゆるりとしてね/覚(ざめ)ハよく、/胸(むね)のつかゆる事もなし、 00093880L4是を上&の/帥(すい)といふそや、此事ひとつにても/闕(かくる)時ハゆかぬ 00093890L5かよし、其ゆかぬハ猶以上&吉の帥なりとかたれハ、三九 00093900L6西覚ともにうなつき合て帰りけり。(八ウ) 00093910¥N2¥J 00093920¥X○/伊予(いよ) 00093930L9をよひをかゝめて、/十(とを)ハた/三十(ミそ)/四十(よそ)なとかそへし人にハこ 00093940L10とかわり、いよや弥三左衛門といふひけ男の/碁(ご)すき有。あ 00093950L11けても/暮(くれ)ても、/雨(あめ)のふる夜もふらぬ日も、同し/穴(あな)のきつね 00093960L12の又兵衛、たぬきの十郎兵衛、/針立(はりたて)の三/玄(げん)、扇やの喜介な 00093970L13といふ、四天王の御へた共をかたらひて、内には/鍬(すき)の/柄(ゑ)が 00093980L14くつるやら、/蔵(くら)のしりを/鼠(ねずミ)か/切(きる)やら、よねんもなつの/昼中(ひるなか) 00093990L15に、扇やの喜介と朝めしまへより、八つ時分迄打つゞけて 00094000L16も、まだゐのふとハせず。かうしたらどうなされうと/一心= 00094010L17不乱(いつしん=ふらん)にて、内から御食まいりませとよ(九オ)びにくれ共、 00094020L18をうといへをうといへ+と、それをくちくせにいひやま 00094030L19す。夕方になりてあハたゝしく内より下女はしり来て、申 00094040M1+御かさまの目がまいますと、大いきついでよべとも、 00094050M2こちらむきもせす。目かまハふとまゝよ、此二もく取てか 00094060M3らといふてゐられけれは、下女もあきれて立かへる。むす 00094070M4/子(こ)ハ大きに/腹(はら)を立、つか+と来て碁石をはらりとつきく 00094080M5づすにぞ、にらみ付て、こゝなやつハ何をしくさる。何を 00094090M6するといふことがあるか、はゝじや人の目かまふて/死(しに)かゝ 00094100M7つてといへは、くそたわけめが、かゝかしぬれバこの碁を 00094110M8くづすはつかと、ぬからぬ/皃(かほ)て、(九ウ)(十ノ十一オ挿画)これ 00094120¥G 00094130¥P296 00094140L1三文の/借(かし)じやが合点かといふ。喜介ききて、こゝな人はい 00094150L2なことをいやる、今の碁が三文や五文でかハるゝ碁か、十 00094160L3二文のかしが有といへは、とんなことをいふ、くづれた物 00094170L4をと言葉あらそひ、つかミやハぬ計て/埓(らち)ハ/明(あか)ず。むす子も 00094180L5あきれて帰るさに、二休にはたとゆきあふた。是ハなんと。 00094190L6されハ+かやう+の次第、/何(なに)とぞいけんしてもどして 00094200L7たべと、/段(たん)&かたれバ、二休きゝていかにも尤也、さても 00094210L8/親仁(おやぢ)ハやくたいなしかなと、 00094220L9△△年もはや/八十(やそ)左衛門ハわらんべよ(十ノ十一ウ) 00094230L10△△△子は八歳のおきななりけり 00094240L11といそがしき内にもやられけれバ、はてわけもない事とて、 00094250L12むす子ハ内へかへりぬ。さて二休、喜介かもとへ行て見る 00094260L13に、又打なをさんととり付所を、これ/弥三左(やさうざ)、そなたハ/仙(せん) 00094270L14人になる合点か、御内義ハ死なれて五百年ハすぎたれど、 00094280L15まだひさしいまじやとハおもハれぬか、/先(まづ)/内(うち)へ帰られよと 00094290L16いへ共、/雨長天(うちやうでん)になりて気がつかず。是ハいかな事と、こ 00094300L17がいなとつて引ずりもどし、御内義の/枕(まくら)もとへよせて、目 00094310L18のまふ/皃(かほ)を見すれども、中+きかず。ま一ばんうたねバ 00094320L19ならぬとわめく時、二休/手桶(てをけ)ひ(十二オ)つさげ、あたまか 00094330M1らさつとあびせけれハ、はつといひて/夫婦(ふうふ)ながら、一/度(と)に 00094340M2気のつきけるこそいとおかしけれ。 00094350¥N3¥J 00094360¥X〇/望月(もちづき) 00094370M5今の京/堀(ほり)川の西/黒門(くろもん)といふ所に、/張物(はりもの)屋次郎介とて家/貧(まづし)く、 00094380M6しかもかたくなにして、/耳(ミゝ)ハ/龍(りやう)にあやかりて/聾(つんほ)なり。かれ 00094390M7がもとへ八月十五夜、二休の/友(とも)とする人/二人(ふたり)/三人(ミたり)さそひて、 00094400M8夜の/更(ふくる)る迄月見る事/侍(はんべ)りけり。其夜二休、次郎介にかはり 00094410M9て作れるものあり。よミてみれは文なり。(十二ウ) 00094420M10△△乙丑之秋八月望日、二休与客信足遊於龍耳之家。 00094430M11△△西風徐来初夜未鳴。挙盃指客、誦中町 00094440M12△△之詩、歌投節之章、少焉月出東側之屋根、徘徊 00094450M13△△廂之間、笑語横溝、大口接天、於是飲酒 00094460M14△△楽甚矣、扣扇而歌之、歌曰、杉箸兮、竹 00094470M15△△串、貫里芋兮、釿酒流、渺々兮、予懐、望 00094480M16△△女郎西一方、客有吹尺八者、倚小歌而和、其 00094490M17△△声鳴々然、如笛如虫如雨、筒音嫋々不絶 00094500M18△△如縷、舞座敷之酌人、笑勝手之下男、二休 00094510M19△△■然直衣、死罪問曰、何為其然也、客曰、 00094520¥P297 00094530L1△△椶(十三オ)櫚葉帚為売、親仁此非杵蔵之跳乎、 00094540L2△△西至揚屋、東至茶屋、相伝囂乎喧々、此非 00094550L3△△杵蔵之教於子供者乎、今何不面白乎言。二休 00094560L4△△聞之而眠、覚目曰、 00094570L5△△△杯盤狼藉酒無樽、賓客狂終主不言、明月在 00094580L6△△△天以尺八、夜深吹酔耳龍軒、 00094590L7さて+面白しとハいひたけれど、よき/赤下見(せきへた)の賦にて候 00094600L8とて、どよミに成て/夜(よ)ハ/明(あけ)ぬ。 00094610¥N4¥J 00094620¥X〇うら嶋 00094630L11むかし男、/紀(きの)/有常(ありつね)が/割分(わつふ)に成て後、何やら遣(十三ウ)とて 00094640L12哥よミてなんおくりけれハ、忝しとて/返歌(へんか)したる由/季吟(きぎん)の 00094650L13/拾穂抄(しうずいしよう)に見えたり。さなることにハあらず、/蜷川(にながわ)又右衛門 00094660L14二休のもとへ消息おくる。二休よミて見るに、杳久不能 00094670L15面談御物遠ニ罷過候、弥御無為ニ御遁居被成候哉承度候、 00094680L16仍而此素麺三把、御好物之由承候間令進上候、とよミも/終(をわら) 00094690L17ず硯/引寄(ひきよせ)、御状忝奉存候、殊更素麺三把送被下候へ共、/否(いや) 00094700L18にて御座候、此素麺と申ものハ/湯(ゆ)にて/焼(た)き、其上汁を/拵(こしらへ)、 00094710L19からみをこしらへいたさねバくハれ不申候、かやうの六ケ 00094720M1敷ものを、此/■(ひとり)/坊主(ぼうず)が何にいたし候ハんや、かへし申候、 00094730M2/若(もし)/是非(ぜひ)被下候ハんとおぼしめし候ハゝ、(十四オ)よく拵て 00094740M3被下へく候、なる程くい可申候以上、と書てかへされけ 00094750M4れハ、又右衛門/肝(きも)をつぶし、扨&あやまりたりとて、よく 00094760M5拵させ、/我身(わがミ)もせうばんせんとて/急(いそ)がれける。二休見て、 00094770M6是でこそくへたるものなれ、さりながら、二人してハミな 00094780M7/食(しよく)しがたかるべし、たれかれといはんより、弥三左衛門よ 00094790M8びにやれと、素麺もち/来(きた)りし男をよび、帰るさに弥三左衛 00094800M9門所へ、是をとゞけてたもれと手紙遣す。その文章にいわ 00094810M10く、手紙にて申入候、只今拙僧宿へ素麺大/勢(せい)/押寄(をしよせ)申候、ふ 00094820M11せがんといたし候へ共、/身方(ミかた)小勢にてふせぎかね申候まゝ、 00094830M12早&御出候て御加勢(十四ウ)(十五ノ十六オ挿画)たのミ申候以 00094840M13上、弥三左衛門この手紙を見るといなや、心得たりとせつ 00094850M14た引よせゆらりとのり、まいりそうといふまゝに、三人の 00094860M15あばれ/食(ぐい)、すさまじかりける次第也、時に/親春(ちかはる)、 00094870M16△△三人の口の音羽の滝なれや 00094880M17とせられけれハ、弥三左衛門下の句をせられけり、 00094890M18△△くろき筋なしそうめんの糸 00094900M19と付たり。二休わらいて、尤見立ハ面白けれども、是ハ/下(した) 00094910¥P298 00094920¥G 00094930L12から/上(うへ)へすゝり/上(あげ)る物なり、又音羽の滝ハ/上(うへ)よりながれ/落(をつ) 00094940L13る物ならずや、上下ちがいの御/作意(さくい)、同心にあらずといへ 00094950L14ば、尤なり、しからハ御坊一句あそばせ、(十五ノ十六ウ)な 00094960L15るほと二休が見立あり、素麺をくふ口もとハ、/浦嶋(うらしま)太郎か 00094970L16ひげに似たり、されバ弥三左の年も八千歳、又右のとしも 00094980L17八千歳、二休か年も八千歳、目出たし++と、 00094990L18△△合てハ三八二万四千筋 00095000L19△△△今のミこむやうら嶋がひげ 00095010M1又二休、 00095020M2△△とハいへどもふ/面白(おもしろ)いこともなく 00095030M3△△△玉手いかきハ明てくやしき 00095040M4とてどつとわらふて別れける。 00095050¥Y1二休咄巻之三終(十七オ) 00095060¥P299 00095070¥Y1二休咄巻之四目録 00095080L3△△/香久山(かくやま) 00095090L4△△/水(ミづ)の/音(おと) 00095100L5△△/法(のり)の/人(ひと) 00095110L6△△なる/神(かミ) 00095120L7△△/沖津(おきつ)(1ウ) 00095130¥T1二休咄巻之四 00095140¥N1¥J 00095150¥X〇/香久(かく)山 00095160M5中比、西京に住ける/薮内(やぶのうち)/筍斎(じゆんさい)、江戸/深川(ふかがわ)に/年(とし)/久敷(ひさしく)有て、/富= 00095170M6貴(ふつ=き)にさかへける。もとより二休とハ無二の中なれ共、/山国(さんこく) 00095180M7を/隔(へだて)/音信(をとづれ)さへ絶※なりしかバ、なつかしく思ひ上京せり。 00095190M8先二休のいほりにたづね/行(ゆく)に、昔に/引替(ひきかへ)/篭駕(かごのりもの)にぞうり取、 00095200M9さふらひなどめしつれ、其身ハ八十にちかく、/頭(かしらハ)はげ山に 00095210M10/消(きへ)のこりたる/雪(ゆき)をいたゞき、し/ば((ママ))がれ声にて御無事に御ざ 00095220M11るか、筍斎参りましたといへば、二休もめづらしく、よう 00095230M12こそ/遠路(ゑんろ)御太義、/昔(むかし)をわすれず御尋忝しとあれ(二オ)ば、 00095240M13筍斎も/丸頭巾(まるづきん)取て久しぶりの物がたり、二休つく※と見 00095250M14て、さてもいとしや年ハよるまいものじや、貴人頭上曾 00095260M15不饒となぶられ、筍斎とりあへず、 00095270M16△△筍斎は/夏(なつ)/来(き)にけらし丸しらが 00095280M17△△△づきんとりてハ/恥(はぢ)をかくやま 00095290M18とむかしを思ふてのあいさつ、二休かへし、 00095300M19△△恥かしと思ふ心ハいと+し 00095310¥P300 00095320L1△△△目もとも/尻(しり)もしハだらけにて、 00095330L2なと/例(れい)のわる口いひなくさミて、又筍斎/問(とふ) 00095340L3△二休/年(とし)/何幾(いくづ)。二答、/仏(ほとけと)/同年(どうねん)。斎問、仏/年(とし)/何幾(いくつ)。二答、 00095350L4△二休/(と)/同年(どうねん)。斎問、/二休(にきうハ)/何(いつ)/生(しやうじ)/亦(また)/何(いつ)/死乎(しするや)。二答、二休が 00095360L5△(二ウ)/生死(しやうじハ)筍斎(二)/同(をなじ)。斎問、二休四十計筍斎は近八十、 00095370L6△如何可同乎。二答、老若男女貴賎上下、死無三界生 00095380L7△有三界、合点歟。斎問、何三界云。其時答て歌によめ 00095390L8△り、 00095400L9△△三界ハをとがいほうがい小がいなよ 00095410L10△△△是/人間(にんげん)の一/身(しん)にあり 00095420L11とこたへられけれバ、いくつになりてもやまぬハ御坊のか 00095430L12る/口(くち)とて筍斎も/高笑(たかわらい)。 00095440¥N2¥J 00095450¥X〇水の音 00095460L15むかしあふはかの長が四天王を/殺(ころ)せし毒の酒、よこ山が/大= 00095470L16酒(たい=しゆ)、近くハ/明石(あかし)左衛門にのませんとたく(三オ)みしを、く 00095480L17すりや佐左衛門が/長(なが)口上に、はらりとしれしうそ物語、其 00095490L18外かぞふるにいとまなし。比ハ/文月(ふミづき)中旬、おどりの/手拍子(てびやうし)も 00095500L19しづまり、/洛中(らくちう)物すごきうしミつとかやに、明る/午(むま)の/刻(こく)迄 00095510M1井の水に毒ながれ/入(いる)の間、/今宵(こよい)早&/汲(くミ)をくべし、さなくハ 00095520M2/死(し)すること/入息(いるいき)をまたずとふれけるにこそ、我をとらじと 00095530M3/汲(くむ)やつるべの/車(くるま)の/音(をと)、天に/響(ひゞき)地をくつがへして/汲(くミ)上る。あ 00095540M4けの日/御定(おさだま)りの/髪結(かミゆい)の/床(とこ)にて/評伴(ひやうばん)、まことに/夜部(よべ)ハ有/難(がた)や、 00095550M5/内裏(だいり)様より仰出されて、毒水(どくすい)のなんをのがれたり、さても 00095560M6/不思議(ふしぎ)や、いかなる晴明が/生(むま)れきて、かゝる事をつげぬる 00095570M7ぞ、日月地に(三ウ)(四ノ五オ挿画)/落(おち)給ず、/天道(てんとう)/人(ひと)をころさ 00095580M8ずとハ此事なりといふ人も有。又かたへにハ、/何(なに)きつねた 00095590¥G 00095600¥P301 00095610L1ぬきのわざならんとてあざけるも有。又ハよしやきつねた 00095620L2ぬきにもせよ、とてもくむべき水を/今朝(けさ)のほねだすかりと 00095630L3いふもあり。とり※さま※心※にいひぬれど、/点(てん)の 00095640L4打てハなかりけり。二休人にをこされて水をくミけるよし、 00095650L5又右衛門きゝて、さて+御坊ハ/死(し)をいとハぬと申されし 00095660L6が、ちか比見ぐるし/人(ひと)と同じやうに水くミ給ふハいかにと 00095670L7あれバ、いやとよ死をかなしミて/汲(くむ)にあらず、/今宵(こよい)の/毒水(とくすい) 00095680L8にて死すると仏になりがたし、それゆへまづ死なぬ/合点(かてん)な 00095690L9りといへば、又右衛門(四ノ五ウ)きゝて、たとへ毒水にて 00095700L10/死(しに)たりた共、又/弓戦(きうせん)にかゝり/死(しに)たりとも、心だに/清浄(せうぜう)なら 00095710L11バ、などか成仏ならざらむ、いやとよいかほど心清浄なり 00095720L12とも、夜前のごとくこゝもかしこも水をくむならバ、さだ 00095730L13めて/極楽(ごくらく)の/功(く)徳/地(ち)の水も仏立のくミへらし給ふへし、しか 00095740L14る時は/弘誓(ぐぜい)の/渡(わた)し舟がすわりて出まし、しからバ極楽へハ 00095750L15ゆかれまじ、ぢごくへハいやなり、それゆへ水を/汲侍(くミはんべ)る 00095760¥N3¥J 00095770¥X〇なる/神(かミ) 00095780L18同しき文月晦日、こよひかきりのおとりとて、上下/各(をの+)/待= 00095790L19居(まち=ゐ)たりし。其日ハ又右衛門も二休も弥三左衛門/宅(たく)にありし 00095800M1が、夕暮より/稲妻(いなづま)/黒雲(くろくも)をもよふし、連/子(じ)(六オ)/格(かう)子/障子(しやうじ)な 00095810M2どのすき/間(ま)よりひかりわたりて、/宵(よい)のほどハ五条あたりに 00095820M3あらねども、からうすの/音(おと)のやうに/こほ(ゴウ)+ときこえ、さ 00095830M4して雨もいたくハふらじなんどさだめあいしが、やゝ/深(ふけ)ゆ 00095840M5くまゝにやまず。/音(おと)次第につのりて/須磨(すま)の/浦(うら)のことまで思 00095850M6ひあハさるゝ計也。/女子(をなご)ハ/天井(てんじやう)の有所へ身をよせ、/隠居(いんきよ)の 00095860M7かミさまハしのびやかにじゆずつまぐりて念仏、となりに 00095870M8ハ/亭主(ていしゆ)の/声(こへ)として、さて+おくびやうな、/神鳴(かミなり)が何がこ 00095880M9わい物じやとハいひながら、長者町のあしだやのことを思 00095890M10ひ/出(いだ)せハ、あまり/面白(おもしろ)うハなしとつぶやく。此/方(なた)ニハ/奥(おく)の 00095900M11間に三人まくら引よせ、よもすがら/神(かミ)鳴の/咄(はなし)、(六ウ)弥三 00095910M12左衛門いふ、先/神鳴(かミなり)ハ/水火(すいくわ)のあらそひと/説(とく)こと/可(か)也と/覚(おぼ)ゆ、 00095920M13/音(をと)にをそれて/獏(ばく)の/落(おつ)ることさもあらん、此義/見(み)ぬ事ながら 00095930M14尤なる/見(けん)なりとあれバ、又右曰、仰のごとく水火のたゝか 00095940M15ひ/誰(たれ)しも/同心(とうしん)に候、しかし又方&にて見侍るに、/神鳴(かミなり)とい 00095950M16へばおそろしき/形(かたち)を/書(かき)、/蜘蛛(くも)の/巣(す)のごとくなる物に/太鼓(たいこ)を 00095960M17ならべてかける、/絵(ゑ)そらごとゝハいひながら、/今少(いますこし)書やう 00095970M18も有べき事なり、しかしながら/昔(むかし)より/書来(かききた)りたることなれ 00095980M19バ、あのかたちも有ことにや/侍(はんべ)らん、一/概(がい)にハ申がたし、 00095990¥P302 00096000L1いづれかまことならん、二休ハ/何(なに)と思しめすとあれバ、二 00096010L2休日、/絵(ゑ)に/太皷(たいこ)を/書(かく)ハ/無理(むり)也、/水火(すいくわ)のあらそひ(七オ)とい 00096020L3ふハ無理にあらず、いかにとなれバたしか成/証拠(せうこ)有、/北野= 00096030L4天神(きたの=てんじん)の/絵馬(ゑんま)に、/神鳴(かミなり)が/水風呂(すいふろ)へ入ところを/和田(わだ)/源(げん)七がかけ 00096040L5り、是/神鳴(かミなり)ハ火しや/水風呂(すいふろ)ハミづなり、水火のあらそひな 00096050L6らずしてなんぞやと、十めんつくつて申されけり。 00096060¥N4¥J 00096070¥X○/法(のり)の人 00096080L9好色屋の/西鶴(さいくわく)が/日(いわく)、今の世に多きもの、供壱人つれし/医者(いしや) 00096090L10と道心者、さりとてハよくいへり。二休あるうとくなる人 00096100L11のもとへ、八月/彼岸(ひがん)/摺小木(すりこぎ)にてこねまハしたるものを/喰(くい)に 00096110L12/行(ゆか)れし。是京のはやり物ぞかし。先/見世(ミせ)に出て/鉢(はち)もらいを 00096120L13/数(かす)へて見るに、年比四十計なる(七ウ)が、此年迄かせぎて 00096130L14も/楽(らく)する程の銀も/出来(てき)ず。とかく/来世(らいせ)にてゆるりとやつて 00096140L15のけんと、/内(うち)ハ女/房(ほう)にまかせ、/我(われ)一人うら屋かりて一日/暮(ぐら) 00096150L16しすると見えて、/碁番嶋(ごばんじま)のうら/八(や)つ/緒(を)のせつたにて、/恥(はづ)か 00096160L17しげなる/皃(かお)つき、又年比三十計なる/呉服(ごふく)屋の手代らしきが、 00096170L18さらしの/衣(ころも)/唐木綿(たうもめん)の/香(かう)の/図(づ)の/紋(もん)つぶ/じ((ママ))たるが、かすかに見 00096180L19えすきておかし。是ハ茶屋のかねあふて/無常(むじやう)のをこりたる 00096190M1なるべし。其あとよりき/平(びら)のるりこんの衣にすげ笠、ふは 00096200M2いといふ/声(こへ)ほそやかなるハ、こしもとならんか、半年も/痢= 00096210M3病(り=ひやう)わづらい、それより/尼(あま)になりたるとおぼしくて色/青(あを)し。 00096220M4又あとより(八オ)六十計のばゝいそがしげにはしり来て、 00096230M5/名聞(めうもん)/声(ごへ)の南無阿弥陀仏、のりうりのかゝがなれのはてなん 00096240M6めり。又拾壱匁/位(ぐらい)の/木綿(もめん)/鼠色(ねずミいろ)にして/袖(そで)/長(なが)く、/釈杖(しやくじやう)つきなら 00096250M7し/大(おゝ)へいくさきハ、手習子共あつめし人の埓のあかぬなる 00096260M8べし、はるかに/跡(あと)より二人ならびてつれ念仏の/尼(あま)、是ハ/組= 00096270M9屋(くミ=や)の/女(をんな)なるべしと、其外/役(やく)にたゝぬことながら、/亭主(ていしゆ)と二 00096280M10人して/数(かす)へ見るに、此家にて米やりたる道心/尼(あま)、合て一時 00096290M11の/間(あいだ)に九百四十五人、是みな/衣(ころも)きたるもの也。此外にもれ 00096300M12たる者/幾(いく)千万かあらん。こと※く京中よりやしなふなれ 00096310M13バ、かけのよらぬハ尤ぞかしといへば、亭主の日、(八ウ) 00096320M14(九ノ十オ挿画)/御坊(こハう)も同じ/役(やく)なしの/内(うち)にて侍るものを、/猿(さる)の 00096330M15/尻(しり)わらひしたまふかとあれバ、二休きゝて、我もさには思 00096340M16ひつれども、又我一人坊主をやめたり共、世のゆるかせに 00096350M17なるにも侍らず。/商(あきない)せんもゑきなし。/無理(むり)に人の物もらハ 00096360M18んともせず。人の/喰(くい)あまりしたる物を/喰居(くてい)るからハ、さし 00096370M19て/鉢(はち)もらいも世のつひへともならぬわけもあるべし。さり 00096380¥P303 00096390¥G 00096400L12ながら/坊主(ほうず)ハぶせうものゝ/大(だい)たん物と心得給ふべし。いか 00096410L13にといふに、此もうけにくい何やらんを人にもふけさして、 00096420L14/朝(あさ)の/間(ま)に一日のたくハへこしらへ、其身ハらへ一/遍(へん)の分別 00096430L15よりをこりたる/坊主(ほうず)也。又/世(よ)をすてゝ/深山(ミやま)にすむとてもう 00096440L16き(九ノ十ウ)世に同じ。西行が/歌(うた)に、世をすつるすつる/我= 00096450L17身(わか=ミ)ハすつるかハすてぬ人をぞすつるとハいふとよめり。し 00096460L18かるを又/兼好(けんかう)ハしづかならでハ/道(みち)ハ/行(ぎやう)じがたしといへり。 00096470L19是すこし/兼好(けんかう)の物ずきなるいひぶん也。亭主日、/兼好(けんかう)のしづ 00096480M1かならでハといへるを、物ずき也との云ぶん何事ぞや、し 00096490M2からバ/御坊(ごほう)も/西(にし)の京ならぬ/東(ひがし)わきのにぎ+しきあたりに 00096500M3ハすミたまハで、/淋(さび)しき今の西の京を/好(この)ミ給ふハ何事ぞや。 00096510M4二休日、をろかなることを/仰(おほせ)候/物哉(ものかな)、西なれバとてさびしき 00096520M5にあらず、/東西(とうざい)かハりたることなし、/先(まづ)/東(ひかし)に/地主(ぢしゆ)の桜あれ 00096530M6ハ/西(にし)に仁和寺の桜/有(あり)、/東福寺(とうふくじ)の/紅葉(もミち)、/高尾(たかを)の紅葉、/安井(やすゐ)の 00096540M7(十一オ)/藤(ふし)千本の藤、/音羽(おとハ)の/滝(たき)、/音(をと)なしの滝、あミたが/峯(ミね)、 00096550M8/鷹(たか)が峯、/鳥辺(とりべ)のゝ/墓所(むしよ)、/舟岡(ふなをか)の墓所、/清水焼(きよミづやき)、/御室焼(おむろやき)、/祇= 00096560M9園(ぎ=おん)の二間茶屋にあわせのたうふあれば、/今宮(いまミや)にあぶり/餅(もち)、 00096570M10/鯉(こい)やのはたご、ふしミやのはたご、二拾間茶屋、七間茶や、 00096580M11/野良(やらう)かげまあれは太夫天神有、/金閣寺(きんかくじ)、/銀閣寺(ぎんかくじ)、/東門跡(ひかしもんせき)、 00096590M12/西(にし)門跡、誓願寺の/阿弥陀(あミた)、/嵯峨(さが)の/釈迦(しやか)、目やミの地蔵、/油(あふら) 00096600M13かけ地蔵、/黒谷(くろたに)のほうねん、正伝の/弘法(かうほう)、/大仏(たいぶつ)の/堂(どう)、/広沢(ひろさわ) 00096610M14の/池(いけ)、三十三間の/矢数(やかず)、/松尾(まつのお)/相撲(すまふ)、/深草(ふかくさ)のきゞす、/嵯峨野(さがの) 00096620M15の/虫(むし)、/稲荷(いなり)の/地黄煎(ちわうせん)、/桂(かつら)の/粘(あめ)、川原町の/車(くるま)、大宮の車、四 00096630M16条五条の/高瀬舟(たかせぶね)、大井川の/筏(いかた)、ひゑい山、(十一ウ)あたご 00096640M17さん、其外といふ所を口に手あてゝやめにけり。 00096650¥P304 00096660¥N5¥J 00096670¥X○/沖津(をきつ) 00096680L3時ならねども/蟻(あり)のごとくあつまり、/東西(とうざい)にわしるや大晦日、 00096690L4/銀(かね)とりに/行(ゆく)人有、とりてかへる/有(あり)。されども二休ハとりに 00096700L5くる人なく、まして人にかすべきたくはへもなけれバ、い 00096710L6つもかわらぬ/我心(わがこゝろ)、いそがハしきといふことをしらず。/餅(もち) 00096720L7もつかず。法師なれども年玉の/納豆(なつとう)/拵(こしらへ)ることもなく、/盆(ぼん) 00096730L8やら正月やらしらぬが仏なり。こゝに沖津一/舟(しう)とかやいへ 00096740L9る/誹諧師(はいかいし)、/点者(てんじや)ながらへたのかわにて、身ハ誹諧の/捨(すた)りた 00096750L10るをなげき給ふぞ/笑止(せうし)なり。/内(うち)に/居(ゐ)れバ米や柴や(十二オ) 00096760L11にせがまるゝをうるさしと/出(いづ)れ共、爰もかしこも/明日(あす)の/味= 00096770L12糟引(ミ=そひき)、/太箸(ふとばし)つゝミ、/大豆(まめ)/煎(にる)/音(をと)、/天秤(てんびん)の/音(をと)、そろばんのをと、 00096780L13此やかましさを其まゝに物いふ人もなけれバ、二休の/庵(あん)に 00096790L14行て内に居られ申さぬ/首尾(しゆび)、/今宵(こよい)一夜の御/宿(やど)かり申度とあ 00096800L15れバ、二休よめる、 00096810L16△△/何(なに)もかもかりてめいわくする人の 00096820L17△△△又我宿をかるぞうるさき 00096830L18さりながらそれほど内に居られぬ首尾ならば、やすき事也、 00096840L19こなたへとあれバ、/御(ご)出家の御/慈悲(じひ)さても忝しと、大晦日 00096850¥G 00096860M12をわすれて/物語(ものかたり)数+。一/舟(しう)申さく、是ハ/町(まち)にかハりて物 00096870M13しづかなる御すまい、一句まいらすべしとて、(十二ウ)(十三 00096880M14ノ十四オ挿画) 00096890M15△△なき里ハ冬ぞ/淋(さび)しきかけこいの 00096900M16とぢまん/鼻(はな)の/先(さき)にあらはれて発句しけり。二休おかしくて 00096910M17わきをせられける、 00096920M18△△/思案(しあん)の雪の下/折(をれ)たけの 00096930M19一舟日、是ハ発句にのととめ申たり、下折の/竹(たけ)となされと 00096940¥P305 00096950L1いへば、いろ+無理をいふが、今のはやり物これてなけ 00096960L2れバ面白からす、いざ是にて歌仙いたさん、尤とミなのゝ 00096970L3字を下にをきて、 00096980L4△△十二月卅日 00096990L5△△△△歌仙△△△△△△△△△△△△@一舟|二休@両吟 00097000L6△△なき里ハ冬そ淋しきかけこいの 00097010L7△△思案の雪の下/折(をれ)竹の(十三ノ十四ウ) 00097020L8△△朝風に/煙(けむり)も/絶(たへ)ぬ/鴈首(がんくび)の 00097030L9△△米つミ/車(くるま)月にゆく衛の 00097040L10△△布ふくろ/結(むす)び/添(そへ)たる白露の 00097050L11△△/小萩(こはぎ)一もとなげ/入筒(いれづゝ)の 00097060L12△△/奥(おく)方に文もてかよふ/佐男鹿(さおしか)の 00097070L13△△ちぎりうれたき/首尾(しゆび)の/端山(はやま)の 00097080L14△△/夕間暮(ゆふまぐれ)/恋(こい)の/枝折(しをり)をさす袖の 00097090L15△△上&/絹糸(きぬいと)かゝるすだれの 00097100L16△△/村時雨(むらしぐれ)いく/度(たび)ぬれし/平蜘(ひらぐも)の 00097110L17△△/■(ねぶと)がはれて/高間(たかま)のミねの 00097120L18△△雲ちぎれ月影もるゝつぎ切の(十五オ) 00097130L19△△/隠居(いんきよ)の/老母(おばゝ)まねく/薄(すゝき)の 00097140M1△△あし引のぬり/桶(をけ)かけて/立霧(たつきり)の 00097150M2△△あらハれわたる/世間(せけん)ばなしの 00097160M3△△/寺(てら)/遠(とおく)く/時相(じあひ)の/鐘(かね)にちる花の 00097170M4△△/乞食(こつじき)たよる/軒(のき)の/柳(やなぎ)の 00097180M5△△ゐてとけてけさ流るめり/白水(しらミづ)の 00097190M6△△こしらへぐすりいとふあらしの 00097200M7△△/常盤(ときわ)山/麓(ふもと)になびく/渋紙(しぶかミ)の 00097210M8△△いはねバこそあれあぶり/豆腐(たうふ)の 00097220M9△△/底(そこ)ふかミ紅葉ちりくる/摺鉢(すりはち)の 00097230M10△△/久三(きうざ)かこちてうらむや/猿(さる)の(十五ウ) 00097240M11△△鯛の/骨(ほね)匂ひをしのふ思ひねの 00097250M12△△夢もむすハぬ四十八夜の 00097260M13△△しら+し有明の月にまんぢうの 00097270M14△△/紙札(かミふだ)もらふ比しも秋の 00097280M15△△/木引町(こひきてう)むす子をひとりをく露の 00097290M16△△/紅(もミ)の袖うらをのがすかたの 00097300M17△△風はやミ/篭(かご)はしらして行雲の 00097310M18△△/百会人中(ひやくゑにんちう)/延冷丹(ゑんれいたん)の 00097320M19△△聞ならく/心覚(こゝろおほへ)を/書筆(かくふで)の 00097330¥P306 00097340L1△△惣地ハあぶら/要(かなめ)ハぎんの 00097350L2△△道具市言葉の花に/更(ふくる)る夜の(十六オ) 00097360L3△△/隙(ひま)にあかして/来(き)たりや春の 00097370L4とほの+松立わたして、/長閑(のどか)なるそらに帰りける。 00097380¥Y1二休咄四巻之終(十六ウ) 00097390¥Y1二休咄巻之五△目録 00097400L3△△/秋風(あきかせ)上 00097410L4△△秋風下 00097420L5△△/石山(いしやま) 00097430L6△△/尾花川(をはなかわ)(1ウ) 00097440¥P307 00097450¥T1二休咄巻之五 00097460¥N1¥J 00097470¥X○秋風上 00097480L5/下秋(げしう)九日、五節句の終りとまちかまへたる朝より、嵐はげ 00097490L6しく吹/来(く)れハ、諸人はかまのかたを折、髪ハ/乱(ミだれ)て行べき所 00097500L7へもゆかず立帰れハ、めり+とやねのこけらを吹をとに、 00097510L8/洗(せん)だく仕かけたるひとへ物をうらがへして、/縄帯(なわをび)しどけな 00097520L9くやねに上れ共、吹くる風に足ふるひ、やねより我身を気 00097530L10づかひに、よつばひに成てやう+むねに上り、こゝかし 00097540L11こくゝり/付(つけ)、どうもならぬと/下(おる)るも有。かくて四つの時分 00097550L12より雨をもよふし、風もいまだやまず。(二オ)又右衛門親 00097560L13春ハもゝだちからげ、から笠もほね計に成て二休庵に/来(き)て 00097570L14見れハ、/東面(ひかしおもて)のやねハまだき/木葉(このは)とちり※になりはて、 00097580L15西のやかげ持仏堂のまへにうつくまりて居られしを、是ハ 00097590L16/笑(せう)止や気のどくやといへば、何の気の/毒(どく)なる事もなし、面 00097600L17白きことありとて、 00097610L18△△けふといへばやねハまくれて秋風に 00097620L19△△△こけて落くる峯のさゝ/栗(ぐり) 00097630M1是をひろいて/喰申(くいもうす)、西山に住かい有て面白し、ここへ来ら 00097640M2れよとあれバ、いや+此まゝにてハ居られまじ、/先(まづ)此方 00097650M3へ来られよ、内のやねハあたらしく(二ウ)て気づかいなし、 00097660M4ひらに+とむりにつれて帰られける。 00097670¥N2¥J 00097680¥X○秋風下 00097690M7立帰れハ、内にハ又右衛門内義、/豆蔵(まめぞう)といふ/小者(こもの)とさん 00097700M8※云ごとして居られし。是ハ何事にやととへば、されハ 00097710M9+あの豆蔵めか供にハうせず、木をわりをれと申ますれ 00097720M10バ、とのかうのつぶやきますと語りもあへぬに、豆蔵こゝ 00097730M11なおかさまハいな事をいわしやる、是ほど木をわつて居る 00097740M12に、それ程気に/入(いら)ずハ/隙(ひま)を出したがよいと又つぶやく。又 00097750M13右衛門ハ/何(なに)わけもない事とてかまハず。二休豆蔵がそばへ 00097760M14より、(三オ)やれそのやうに腹をたてずともよく合点せい、 00097770M15此大風にて/米蔵(こめぜう)と豆蔵ハ/給分(きうぶん)も上るはつじや、それにとの 00097780M16かうのといふ/と((ママ))事が有物が、なじミほどよい物ハない、気 00097790M17げんなをしてよく奉公せいといへ共、何事を仰られても壱 00097800M18つも/耳(みゝ)へ入ませぬとはら立る。さらバ耳へ入事いふてきか 00097810M19せんと、豆蔵が耳を引よせ、こりや内&又右衛門の/咄(はなし)に、 00097820¥P308 00097830¥G 00097840L12豆蔵ハりかう者じやほどに、/宿(やど)へはいる時分、見ぐるしうな 00097850L13いやうに、/着物(きるもの)をたくさんこしらへてとらせふといはるゝ、 00097860L14又内義も女房などよぶ時分、/銀(かね)がいらバいくらもとらせふ 00097870L15といはれた、今少しんぼうしてまて、たわけめとさゝやけ 00097880L16ハ、又二休様(三ウ)(四ノ五オ挿画)の人をたらすやふな事仰 00097890L17られますとて合点せず、いや+うそでない、うそでない 00097900L18/証拠(せうこ)にハ、/書物(かきもの)さしてやらふといふ時、豆蔵/欲心(よくしん)きざして、 00097910L19いかにも書物さしてくたされましたら、今までの二そうば 00097920M1いもせい出しましよといふ。さてこそとふうふをかたすミ 00097930M2へよび、かやう+にたらし侍る。見事/文字(もし)はよみ申か、 00097940M3いかな+/牛(うし)の/角(つの)もじさへしらずといふ。しからバさいわ 00097950M4いの事、此坊主にまかされよと、たくみ/書(かけ)る一札之事、 00097960M5△一其方よく奉公いたし候ハゝ、宿へはいる時分、又右衛 00097970M6△△門方より何にてもたくさんにやるべからざる事、(四ノ 00097980M7△△五ウ)豆蔵/女房(にようほう)よふ時分、銀かいらハ内儀方よりおは 00097990M8△△くろのかねいくらにてもとらすべし。其ためかくのこ 00098000M9△△とし。 00098010M10△△△△△△△△△△△△△豆蔵参△△△又右衛門 00098020M11△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△内儀 00098030M12/口合(くちあい)二休とみな+/判(はん)をしてとらせけれハ、かたじけなし 00098040M13とをしいたゝき、奉公に/精(せい)を/出(いだ)す事かきりなし。又右衛門 00098050M14も物かゝぬ身のあさましやと、おのつから/慈悲心(しひしん)おこつて、 00098060M15れき+に豆蔵を/仕付(しつけ)たり。二休曰、是当分人をだますに 00098070M16にたれとも、/双方(そうほう)わぼくの/謀(はかりこと)、おそらくハ分別ものとてし 00098080M17まんせられけると也。 00098090¥N3¥J 00098100¥X○石山(六オ) 00098110¥P309 00098120L1/東西南北(とうさいなんぼく)の/正中(まんなか)と思しき三条の/辻(つし)に、九月十五日石山観音 00098130L2/閉帳(へいちやう)と札立けれは、南無/三宝(さんほう)けふよあすよとくらせしまに、 00098140L3/一日(ひとひ)/二日(ふつか)に成にけるかなと、二休ハ又右衛門へたつね行て、 00098150L4かう+の/札(ふた)如何思召といへは、我もさに思ひ御坊をさそ 00098160L5ひ申さんとこそ存つれ、こよひよりこゝにとまり給へ、明 00098170L6日早&御供せんとあれハ、尤と、さて/昼(ひる)めしハいかゝいた 00098180L7さん。二休曰、拾五文もりもついへ、とかくこりめしにし 00098190L8くハなし、豆蔵が/腰(こし)につけたのしミ、此内に/箱樽(はこたる)もつゝミ 00098200L9こめて、夜の/明(あけ)ぬ/先(さき)にをこせと、枕引よせ夢もむすハぬ先 00098210L10に、/長(なか)き夜も/早(はや)ばら+おひ出し/立出行(たちいてゆけ)ハ、/誰(たれ)に大ミやを 00098220L11(六ウ)過て、秋の下立うりを心なくふミ分、/有明(ありあけ)の油の小 00098230L12路の/光(ひかり)を西洞院に見なし、/金(こかね)の/釜(かま)の座を/親(おや)に/孝(かう)ある人ハ今 00098240L13もほりて見たかるへしと、あてこといひつゝけて/行(ゆけ)ハ、寺 00098250L14町通印判やのむす子かねまき/着(き)なから帯もせす、目を半分 00098260L15あきて/上(うわ)見世上るもおかし。夜かあけたハ、是から/尻(しり)から 00098270L16けていそけとわしる男女ハかぎりなし。とうとい寺を心が 00098280L17けて、もろ共に小橋大橋打わたれハ、をとろ+しき男共 00098290L18五七人、/篭(かご)しんせましよといふを、二休、 00098300L19△△我ならて銭ある人を松虫の 00098310M1△△△篭やりませよの声そうれ/た((ママ))き(七オ) 00098320M2とあわた/口(くち)をたゝきて又右衛門いふ、これなるハ/庚申(かうしん)のお 00098330M3わします所、是ハ/寺(てら)か/社(やしろ)か神か仏か、二休いかに。 00098340M4△△そんな事ハ見ざるきかさるいはさるよ 00098350M5△△△我もさるからさそと思へは 00098360M6右の方にきおん清水/通(とをり)すしの書付たる/石(いし)/有(あり)。/見世(みせ)/明(あけ)かたに 00098370M7家&のかねの/音(おと)、此あたりに両替やハ/沢山(たくさん)なき所、たゝ 00098380M8しこよひの間に、/龍宮(りうくう)からぬすミて/来(き)たかと思へハ、ミな 00098390M9きせるのかね也、又右衛門、 00098400M10△△あけがたのかねのひゝきに目をさまし 00098410M11△△△見れバ枕のきせるなりけり 00098420M12とハ思ハすや、色のくろい若衆/達(たち)とあしはやに(七ウ)/行(ゆけ)バ、 00098430M13左の方に/新敷(あたらしく)つくりたる/小宿(こやと)、つき山なと/手細工(てざいく)にならべ 00098440M14立たり。是ハ/伊勢(いせ)まいりの/下向(げかう)を/待(まち)て、/飲(のん)たり/喰(くふ)たりする 00098450M15所、むかしハ又してハ/太刀(たち)/刀(かたな)にて、けんくわ/間(ま)なくありし 00098460M16所なれど、をさまる御代にあい奉り、わや+といふてハ 00098470M17/喰(くふ)/合点(がてん)有難しや。天照大神ハさのミ/喰(くへ)とハ仰られまじきに 00098480M18といへば、二休、 00098490M19△△くふ/為(ため)にさんぐうとこそ名付たれ 00098500¥P310 00098510¥G 00098520L12△△まいる所もげくうないくう 00098530L13是できこえたかと/山道(やまミち)行ハ、過し比三井寺にて/沙汰(さた)のかぎ 00098540L14りの坊主男、江戸へにげての(八オ)こぎり引にあひぬる。 00098550L15/親類(しんるい)/請人(うけにん)の/首色(くびいろ)よりおこりて、親の/首(くび)に/縄(なわ)を/付(つけ)たるハ是な 00098560L16りと、いかな/若(わか)いものもたしなミ心出来て/通(とをる)ハ是/善(ぜん)にち 00098570L17かき道とて、思ひの外に淋しきハ、左の方の山の/細道(ほそミち)いや 00098580L18な所なりと、日の岡/峠(とうけ)にさしかゝれバ、くるま/牛(うし)のよだれ 00098590L19をつゝけて、いつ迄か時ならぬところてん、あたゝめてハ 00098600M1/喰(くわ)れぬ物をといへバ、その/親仁(おやし)はらたちて 00098610M2△△/春秋(はるあき)も/冬(ふゆ)でも夏の日の岡ハ 00098620M3△△△あつい所ぞてんかうぬかすな 00098630M4と見しらすを取あへず、二休、(八ウ)(九ノ十オ挿画) 00098640M5△△日の岡のところてんかと思ひしに 00098650M6△△△所ぞてんかゆるしたまへや 00098660M7と/機嫌(きげん)なをして行末ハ、/天(あめ)の/帝(ミかと)のこんごぬぎ給ひて/天(てん)へ上 00098670M8り給ひし/野(の)/有(あり)。つゞきて山科の里、二休かすきの/籔(やふ)の下と 00098680M9云所、しかさへたへず久しきたばこ/火鉢(ひばち)にわらの/灰(はい)、こと 00098690M10ハりなしに/吸(すい)付て、/駕(かご)の/休(やすミ)所ハ/奴茶(やつこぢや)や、/引茶(ひきちや)の/得(ゑ)ならぬ/芳(かうバし) 00098700M11きにつかれをはらす。是程うまい物、此/東海(とうかい)道に又たぐひ 00098710M12の有べきやハとこちらむけバ、京よりとをし/篭(かご)と/思(おぼ)しくて、 00098720M13/御池(おいけ)の玉すだれまきあけさせ、三十にちかき女郎、/羽二重(はぶたへ) 00098730M14のしぼりの(九ノ十ウ)上をむらさきに染つぶし、見事なる 00098740M15/紅(べに)うら、/綸子(りんず)の/篭(かご)ぶとん、しゆんけいぬりの箱にしたるた 00098750M16ばこ/盆(ぼん)まへにをきて、跡なるも同じ/風(ふう)の篭に、五十あまり 00098760M17のうばらしきか、ふりわけ髪の子をいだきて/黒(くろ)きぼうし、 00098770M18又右衛門気を付て、是ハ京の内にてもいたりたる銀もちの 00098780M19御内義なるべし、されと供の者一人もなし、さても不思儀 00098790¥P311 00098800L1と見立かねたり。二休/篭(かご)に/追付(おいつき)見れば、昔見しやうな者、 00098810L2たがひに/皃(かほ)/見合(みやわせ)て、/半分(はんぶん)ほどわらふやうに又わらひもせず。 00098820L3目づかひのけんな所ハ/町(まち)にてハなし、げに思ひ出したり、 00098830L4過し比まて都の西うき世町につとめし/鹿恋(かこい)(十一オ)の女郎、 00098840L5かくれもなきそれしやの/色名(いろな)ハいはず共、/焼印(やきいん)の/編笠(あミがさ)きる 00098850L6ほどの人ハ、九月十二日石山まいりめされしといふ事思ひ 00098860L7しるべし、又わけしらぬやぼすけハ、何いふても馬の耳に 00098870L8小判壱つも埒のあかぬ事、跡になり/先(さき)になり/追分(をいわけ)の露わけ 00098880L9/行(ゆけ)バ、袖ハありながら手のなき/御(を)山人形、/狼(おふかめ)に/衣(ころも)きせたる 00098890L10/絵姿(ゑすかた)のおかしくをそろしき/虎(とら)屋にも、やさしき針をするか 00098900L11なと、猶はしり井の水のいさきよき姿も、/百年(もゝとせ)の小町かな 00098910L12れのはて、いかほどなさけ/内(うち)にこもるとも、是見たらハ/百= 00098920L13年(ひやく=ねん)の恋もさめて、今こそこゆれ/逢坂(あふさか)の/関(せき)、右の方の山かげ 00098930L14に目のくさりた(十一ウ)る六十計のばゝ、/旅(たび)人の/鳥目(てうもく)をね 00098940L15がふ、 00098950L16△△これやこの行も帰るも見えぬ哉 00098960L17△△△蝉丸に/似(に)たあふ坂のばゝ 00098970L18せうど立やおわしますとたづねてきけバ、万日の/鐘(かね)の声か 00098980L19まびすし。/釜(かま)にハ/餅(もち)をあたゝめ、/鍋(なべ)にハせんべいの油あげ、 00098990M1/京内(きやうのうち)にくた物ハ有まじや。其となりにハ/摺鉢(すりばち)の山にそう 00099000M2めんのふりつもり、ふじといふ/出女(でおんな)、藤田小平次ハ物かハ 00099010M3と/白粉(おしろい)を/皃(かほ)にぬりくり、あたゝかなるひやめしまいれと/鼻= 00099020M4声(はな=ゑ)になりてさへづるをのぞけハ、京にて見しりたる人、/一= 00099030M5人(ひと=り)ハせつくまへに/前髪(まへかミ)をろしたる姿、今一人ハ/末摘花(すへつむはな)に似 00099040M6たる(十二オ)かたちして、二休+とまねき/入(いれ)、まびき/大= 00099050M7根(たい=こん)のくきをさかなに、所ハ/山路(やまじ)の水くさき/酒(さけ)、/何(なに)かハのま 00099060M8れ申さんと、ふり/切(きつ)て急げハ、ふミ馬御免の札の辻、/立(たち)よ 00099070¥G 00099080¥P312 00099090L1る親仁が何いふぞときけバ、石山へのらせられぬか、もは 00099100L2や/出舟(でふね)なりと/取付(とりつく)をもぎはなし、/今(いま)/行道(ゆくみち)/町(まち)つゞき、京にか 00099110L3はらぬやねのふきやう、見事なりとほめられて、うれしが 00099120L4る人ハなきか、/有(あり)しむかしの物語、こゝにきそどのゝ/涙(なミた)の 00099130L5雨、/笠(かさ)かす人もなかりける哉といへば、どうりこそ雨のと 00099140L6いや、八大龍王の/宮井(みやい)物ふりて見わたせハ、立あふひの/幕(まく) 00099150L7いと/数勝(すしやう)なり。こゝでこそ笠ぬいでと(十二ウ)(十三ノ十四オ 00099160L8挿画)をれ、もつたいなし、八幡宮のやしろ/末社(まつしや)ハ/千&(ちじ)の 00099170L9/松林(まつはやし)、/波(なミ)のつゞミや/風(かぜ)の/笛(ふへ)、太皷ハ則末社なりと、あだ口 00099180L10たゝきて跡を見れバ、十五六なる小むすめ、なれぬわらん 00099190L11ぢに/足(あし)が/草臥(くたひれ)ました、下向にハ/篭(かご)にのりましよといへば、 00099200L12はゝおや、/今(いま)からそのやうなこといふてなる物か、下向にも 00099210L13/札辻(ふたのつし)/迄(まて)ゆかずハ、二百の/銭(せに)がどこから出るといかるを、た 00099220L14とへ/楠(くすのき)にもせよ、あのむすめなら二百/出(いた)して、をれが/負(あふ)て 00099230L15やらふとわめくむす子たちいとにくし。/左右(さゆう)の/松林(まつはやし)もなが 00099240L16め/尽(つく)して/行(ゆけ)バ、十八日/講中(こうじう)の/挑燈(てうちん)かけまくも忝しや、石山 00099250L17の観世音山下半左衛門も、これほどは(十三ノ十四ウ)はやる 00099260L18まじとうしろむけバ、/近江(あふミ)の浦+大かた見ゆれ共、此ひ 00099270L19もじさにてハ面白からずと、観音にいとま申て、/門前(もんぜん)のし 00099280M1ぶ紙にてやねふきたる小/宿(やと)へ入、ぎし+といふ/床(ゆか)の上に 00099290M2/坐(ざ)して、/件(くだん)のこりめし取出し、/香物(かうのもの)の/塩(しほ)じミたる/味(あし)ハ/甘露(かんろ) 00099300M3もかくやらんと、/豆腐(たうふ)さかなに/飲(のミ)かゝれハ、親仁が来り、 00099310M4よき/鮨(すし)も御ざりますとしらせて立出る跡にて、又右衛門さ 00099320M5て+観音の御開帳に/鮨(すし)迄開帳するかとわらへバ、二休き 00099330M6ゝて、/文盲(もんもう)なことをの給ひそ、むかし此くわんをん、鮨の 00099340M7なれぬをかなしミ給ひ、あのことく鮨の/重石(をもし)にこしかけて 00099350M8今もおハします、あ(十五オ)りがたき御/慈悲(じひ)ならずやと、 00099360M9それより舟にのり大津の方へ/上(のほ)りける。 00099370¥N4¥J 00099380¥X○/尾花川(おばなかわ) 00099390M12/名所(めいしよ)たづねて舟よりをるれバ、二休がしるべの人、折しも 00099400M13尾花川といふ所に/有(あり)けれバ立より侍る。世にいばら川とい 00099410M14ふ所也。あるじ心よき男にて、ぜひこよひハこゝにとまり 00099420M15給へともてなしぬ。そも此/里(さと)と申ハ面ハにほの海まん+ 00099430M16たり、うしろハ/則(すなわち)/里(さと)の名の/尾花(をはな)なミよる/入海(いりうミ)、南ハ/丸太= 00099440M17舟(まるた=ぶね)のゆきかふ川/波(なミ)、/北(きた)ハしかの浦風はげしきよすがら、 00099450M18/音(おと)するハ竹のはしらにわらのやね、竹のすのこにわらむし 00099460M19(十五ウ)ろ、しく物もなき/宵(よい)の月、ながめもつきぬ/折節(おりふし)、 00099470¥P313 00099480L1浦の尾花の風ならで人をときこゆ。あやしやと見る所に、 00099490L2月にさわらぬ/松火(たいまつ)ともして、こゝやかしこに舟よするさま、 00099500L3こゝにうつかひの有べきかと/主(あるじ)にとへば、/■(さで)といふ米のと 00099510L4をしのさましたる物にて、あさミの/鮒(ふな)をとることに侍ると 00099520L5かたりぬ。ねられぬまゝによすがら浦の八景をよめり、 00099530L6△△△△△/三井(みいの)/晩鐘(ばんしやう)△△△△△△△△△△△二休 00099540L7△△春ならて秋の/夕(ゆふへ)ハ三井寺の 00099550L8△△△入相のかねに/露(つゆ)ぞこほるゝ 00099560L9△△△△△/唐崎(からさきの)/夜雨(よるのあめ)△△△△△△△△△△/親春(ちかはる)(十六オ) 00099570L10△△唐崎のまつにあらしのはら+と 00099580L11△△△つゆ吹こぼす雨の夜すがら 00099590L12△△△△△/堅田(かたゝの)/落鴈(らくがん)△△△△△△△△△△△二休 00099600L13△△/波(なミ)よする堅田の浦の/真砂地(まさごぢ)に 00099610L14△△△月をしたひて落る/鴈(かり)がね 00099620L15△△△△△/比良(ひらの)/暮雪(ぼせつ)△△△△△△△△△△△/親春(ちかはる) 00099630L16△△雪さむき比良のたかねの夕かせに 00099640L17△△△にほはぬ花の色ぞちり行 00099650L18△△△△△/勢田(せたの)/夕照(せきせう)△△△△△△△△△△△二休 00099660L19△△/夕日影(ゆふひかげ)/暮(くれ)あへぬ/間(ま)に旅人の 00099670M1△△△急ぐかひなき勢田の長橋(十六ウ) 00099680M2△△△△△/石山(いしやまの)/秋月(あきのつき)△△△△△△△△△△△親春 00099690M3△△/鳰(にほ)の海やむかしの人の跡とめて 00099700M4△△△月に/忘(わす)れぬ/大和(やまと)ことの葉 00099710M5△△△△△/矢橋(やばせの)/帰帆(きはん)△△△△△△△△△△△二休 00099720M6△△立帰る矢橋の舟の/真帆(まほ)かた帆 00099730M7△△△風のかけたる夕暮の空 00099740M8△△△△△/粟津(あわづの)/晴嵐(せいらん)△△△△△△△△△△△親春 00099750M9△△/遠近(おちこち)の雲もあらしに/末(すへ)/晴(はれ)て 00099760M10△△△木※もあはづの/森(もり)の/下道(したミち) 00099770M11と/打(うち)ずして、/硯筆(すゝりふで)もこゝかしこに取ミだし、しきたへの枕 00099780M12によらんとせしが、はや/暁(あかつき)をつぐる(十七オ)/烏(からす)村すゝめの、 00099790M13ちう+かあ+におどろきて、日たけぬ内に京へなどい 00099800M14ひて、とかくきのふもくれ/今日(けふ)とうつり、今日もくるれハ 00099810M15/明日(あす)となる、たゞ/妄想(もうそう)の/境界(きやうかい)うつゝなの事やとて、二休、 00099820M16△△/夢(ゆめ)といふ此いふ物も夢なれば 00099830M17△△△ゆめのうき世の夢かたりせむ 00099840¥P314 00099850¥Y1二休咄巻之五大尾 00099860¥Q 00099870L4時貞享五戊辰歳正月吉日△△△江戸神田新革屋町 00099880L5△△△△△△△△△△△△△△西村半兵衛 00099890L6△△△△△△△△△△△△△洛陽錦小路 00099900L7△△△△△△△△△△△△△△永田長兵衛 00099910L8△△△△△△△△△△△△△同出水大宮 00099920L9△△△△△△△△△△△△△△山本八左衛門(十七ウ) 00099930¥Y跋 00099940M3△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△龍△耳△軒 00099950M4酪のうへの判字ものにそら嘯き、呉の使にはひかくれ、つ 00099960M5ねに燕石を鬼の首なりと重宝し、道風の朗詠を秘蔵し、は 00099970M6らにさらすへき物もなく、(十八オ)心を穿夢も見ぬ、此方 00099980M7寸の器と、今端渓か塵をはらひ、蒙恬をひねくり、蔡倫か 00099990M8顔をよこして、二休と名付て左扇子つかふのミ。(十八ウ) 00100000¥P315 00100010¥U噺本大系△第四巻 00100020¥T諸国落首咄 00100030¥G 00100040¥Y 00100050L16元禄十一年刊 00100060L17編者未詳 00100070L18半紙本五巻 00100080L19東北大学狩野文庫蔵 00100090¥T1諸国落首咄第一之巻 00100100¥N1¥J 00100110¥X松竹いはふ四方の初春 00100120M5あけわたるよこぐものそらのどかに、しかいなミしつかに 00100130M6くにもおさまる時つかぜ、門の松竹えたをならさず。/士農= 00100140M7工商(しのう=かうしやう)のしな※にはずれたる、われらごときハ、/似(に)合たか 00100150M8まのふたりながら、筆をつゑにつきて、よを(一オ)わた 00100160M9るわざなれバよめり、 00100170M10△△/門(かど)かざり松もろともに立よりて 00100180M11△△△木かげのちりをかこふよふ/妻(かゝ) 00100190¥N2¥J 00100200¥X僧がまよハす/庭(にハ)の/乳柑子(くねんぼ) 00100210M14都吉田山の/辺(ほとり)に十/念坊(ねんぼう)と云道心者有ける。有時にハの九年 00100220M15ぼうをミてよめり、 00100230M16△△九年ぼう一/念(ねん)/足(た)らでほとけには 00100240M17△△△ならでこのミとなりさがりけり(一ウ) 00100250¥P316 00100260¥N3¥J 00100270¥X都の町を/通(とをる)/赤鬼(あかおに) 00100280L3元禄九年子ノとしの事なりしが、ミやこ五条橋の/辺(ほとり)に、/膏= 00100290L4薬(かう=やく)やの/卜玄(ぼくげん)とて、かんばんに/赤(あか)おにをもたせて、かうやく 00100300L5のいひたてを、こうたにうたひて、町+小路+をうり 00100310L6ゆけバ、こぞつてこれをもとむる事、その人のかずをしら 00100320L7ず。されば都におかしき人有て、よめり、(二オ) 00100330L8△△/赤鬼(あかおに)も/膏薬(かうやく)を売世の中に 00100340L9△△△しらでや人の/昼寐(ひるね)するらん 00100350¥N4¥J 00100360¥Xおかしきものを狂哥の/題(だい) 00100370L12去人の露程にいわく、都には花うり、木ぞう、ほうかの、 00100380L13/豆蔵(まめざう)、きねぞうとて、おかしきもの共あり。是等を狂哥の 00100390L14題としてよミたまへと/所望(しよもう)ありけれ(二ウ)バ、ろていそ 00100400L15のまゝよめり、 00100410L16△△仏には/立像(りうざう)/座象(ざざう)ねはんぞう 00100420L17△△△人にきねぞう木ぞう/豆(まめ)ぞう 00100430¥N5¥J 00100440¥X八/卦(けい)に/増(ます)/身(ミ)の/上(うへ)の/影気(けいき) 00100450M1さる人酒にゑひて、まどろミふしけるが、ほどなく/夢(ゆめ)さめ 00100460M2て、つく※おもふに、げにや/盧生(ろせい)もこれにはいかでまさ 00100470M3る(三オ)べきと、おもしろく思ふ折ふし、足のきうを見 00100480M4てかくよめり、 00100490M5△△足高くさしあげミれバふじさんり 00100500M6△△△八/卦(けい)にます十四けいらく 00100510¥N6¥J 00100520¥X酒が/楽(たのしミ)桂川の月見 00100530M9/桂(かつら)川の辺へ名月にふねを/浮(うかへ)て、/老(おい)が一ふしのたハむれハ/酒(さけ) 00100540¥G 00100550¥P317 00100560L1のとがなるへし。(三ウ)まだふかくゑひも/来(こ)ぬうち/か((ママ))、/盃(さかづき) 00100570L2にうつる月のかげおもふにつけてなどやらん、/今宵(こよひ)の月を 00100580L3いたづらに/拝(おがむ)も口おしと、でるまゝに一首、 00100590L4△△丸びたい二八にたらぬ月のかほ△露程 00100600L5△△△お名は/望(もち)月三五郎どの(四オ)(四ウ挿画) 00100610¥N7¥J 00100620¥X哥によまるゝ寺の/紅梅(かうはい) 00100630L8都/誓願寺(せいぐハんじ)に/見帰紅(みかいかう)といふかう/梅(ばい)ありしが、ころをたがへす 00100640L9うつくしく/咲(さき)みだれしを、/貝田(かいだ)/露程(ろてい)ながめゐてよめり、 00100650L10△△お梅女郎/色香(いろか)をじまん/召(めさ)るなよ 00100660L11△△△/嵐(あらし)が来たらはなはぢこぞや(五オ) 00100670¥N8¥J 00100680¥X/所望(しよもう)しられて/狂哥(きやうか)一首 00100690L14みやこ八まん町通に、かしハや治兵衛といへる人ありしが、 00100700L15貝田ろていをきゝおよびて、狂哥を/所望(しよもう)しにつかハされけ 00100710L16れバ、ろていとりあへずかくよミてをくらるゝ、 00100720L17△△狂哥とやはづかしハやの治ひやう様 00100730L18△△△いかひたハけと覚しめすらん(五ウ) 00100740¥N9¥J 00100750¥X/火事(くハじ)ハ/仕合(しあハせ)/色里(いろざと)の/繁昌(はんじやう) 00100760M3/伏見(ふしミ)にしゆもく町とて/色里(いろざと)のありけるが、元禄七年の頃、 00100770M4くるわ/三(さう)四/軒(けん)ほどやけしに、そのゝちとりわけはんじやう 00100780M5しけれバ、かくよめり、 00100790M6△△火に/入(いり)てかね色をます/鐘木町(しゆもくまち)△露程 00100800M7△△△またぐらたてゝ/豆(まめ)をあきなや(六オ) 00100810¥N10¥J 00100820¥X/町(ちやう)を/撰(ゑらハる)/左官(さくハん)がりくつ 00100830M10都/大宮(おほミや)通に弥兵衛といへるさくハん有しが、つね※心だ 00100840M11てりくつにして、町衆とも中あしく、度&云分をして、つ 00100850M12いにハ町をはぜだされ、そのゝちかほだしする事もならね 00100860M13バ、なをあたりの人にくミて、かくこそよめり、(六ウ) 00100870M14△△おかべやが/独(ひとり)ところりさんしよみそ 00100880M15△△△つらをぬられて町へでんがく 00100890¥N11¥J 00100900¥X/乞食(こじき)の/火事(くハじ)も/哥(うた)と/成(なる)/世中(よのなか) 00100910M18都五条のほとりに、/貧人(ひにん)/古(ご)屋ありしが、元禄八年のころ、 00100920M19火をいだしけれども、されどひにんごやばかりにて、やけ 00100930¥P318 00100940¥G 00100950L12すミ、/乞食(こじき)もほう+(七オ)のていにて、ミな+にげの 00100960L13きしに、そのころみやこにおかしき人有て、すなハちこつ 00100970L14ぢきのことバにて、かくよめり、 00100980L15△△火をだせど町へちらさぬ/貧人(ひにん)ごや△角山 00100990L16△△△かこハで/離(のき)しあとのあハれさ(七ウ)(七ノ十オ挿画) 00101000¥N12¥J 00101010¥X/歌(うた)にひかれてすゆる/我灸(わがきう) 00101020L19有所に/年頃(としころ)/成(なる)人、やひとをきらうて、すへかねていられし 00101030M1が、おりふし貝田ろてい/行(ゆき)あハせ、かくよめれバ、おかし 00101040M2くおもひて、其まゝすへしと有、 00101050M3△△/灸(やいひ)こそくすり+とくすぼれバ 00101060M4△△△くすりのうへのくすりとぞきく(七ノ十ウ) 00101070¥N13¥J 00101080¥X/篭農鳥(かごのとり)かや都の/伊呂波(いろは) 00101090M7頃は元禄三年の事なりしが、其ころみやこに、いろはぐミ 00101100M8とて、/人数(にんじゆ)を四十八人もやうし、男たてしける事、/他国(たこく)ま 00101110M9でもかくれなし。さま+人をいためしとがにより、つひ 00101120M10には/篭鳥(ろうちやう)のすまひをなしける。されバみやこのたれやらよ 00101130M11めり、(十一オ) 00101140M12△△あく/筆(ひつ)の/用(やう)にもたらぬいろはがな 00101150M13△△△てら入ハせでろういりぞする 00101160M14其後京をはらハれければ、又こそよめり、 00101170M15△△殿風にいろはちりぬる男だて 00101180M16△△△やまけふこへてゑゐもせす京(十一ウ) 00101190¥N14¥J 00101200¥X/其名(そのな)/流(なかれ)し/長(ちやう)郎の/能(のう) 00101210M19/田中(たなか)八郎兵衛といふ能し、ぎをんのまくずがはらにて/勧進(くハんじん) 00101220¥P319 00101230L1能をしけるに、おりふしあめふりつゞきけれバ、貝田露程 00101240L2よめり、 00101250L3△△/霖(ながあめ)に田中とぞなるなだいこん 00101260L4△△△日よしをいれてまびきなにせよ(十二オ) 00101270L5扨又長郎の能をしけるおりふし、なにとかして/釼(けん)ぬけかね、 00101280L6しゆびあしき事そのさたとり+なれバ、又こそよめり、 00101290L7△△長郎が/釼(けん)のぬけいで/間(ま)はぬけて 00101300L8△△△いかうせきかう名ハながれあし(十二ウ)(十三オ挿画) 00101310¥G 00101320¥N15¥J 00101330¥X都の/沙汰(さた)ハ/善光寺(ぜんかうじ)の/開帳(かいちやう) 00101340M3元禄七年/戍(いぬ)の五月の事なりしが、みやこ/真如堂(しんによだう)にて/信(しな)濃の 00101350M4国/善光(せんくハう)寺の如来を/開(かい)帳ありしが、御/守(まもり)/迚(とて)御/印(いん)もんを/鳥目(ちやうもく) 00101360M5百文にひとつづゝいだされしに、都の人+是をたつとひ、 00101370M6/貴賎(きせん)/群集(くんじう)して、立子いざる子まで、いたゞかぬものもなか 00101380M7りしに、其(十三ウ)ころ、とんさくなる人ありて、よめり、 00101390M8△△御印もん百にふたつハまかるべし 00101400M9△△△みだの本/願(ぐハん)四十八もん 00101410M10扨又/寐(ね)じやかとて有しが、是もぜんくわうじの如来と一所 00101420M11に開ちやうありけるに、とりわけはやらせて/参銭(さんせん)大ぶんあ 00101430M12つまりしと、都ハ(十四オ)是ざたなりしに、又よめり、 00101440M13△△おきてさへゑとらぬ銭を/寐(ねて)/取(とる)ハ 00101450M14△△△/信濃(しなの)のしやかと/野良(やらう)けいせい 00101460¥N16¥J 00101470¥X/初松竹(はつまつたけ)に/付(つけ)て/読(よむ)/歌(うた) 00101480M17貝田露程さる所にものがたりしていられしが、ていしゆよ 00101490M18りはつものとて松竹を/料理(りやうり)し、さま※のち(十四ウ)そう 00101500M19ありて、そのうへにて狂哥を/所望(しよもう)ありければ一首、 00101510¥P320 00101520L1△△はつ物をたぶハ命のおやなれや 00101530L2△△△七十五日いきのまつだけ 00101540¥N17¥J 00101550¥X是ハ/大事(だいじ)の/相撲(すまひ)一/番(ばん) 00101560L5頃は元禄十年うしの五月の事なりしに、山/城(しろ)の国藤のもり 00101570L6にて、ミや(十五オ)/建立(こんりう)のすまひありしに、われおとらじ 00101580L7と、くつきやうの/若者(わかもの)ども、いれみだれてすまひハなかバ 00101590L8なりしに、/寄方(よりかた)の大/関(ぜき)、日本にかくれなき岩ふね/梶(かぢ)右衛門、 00101600¥G 00101610M1又/勧進(くハんじん)もとにハ/巴(ともへ)九太夫と/云(いへ)るせき/脇(わき)有ける。其日の行事 00101620M2は/清(し)水/追(おい)風にて、右両人をあハせけれバ、/互(たかい)に手あいして 00101630M3とりむすび(十五ウ)けるに、寄の大ぜき梶右衛門、何とか 00101640M4してともへになげられ、けんぶつの人びとまで、力なくこ 00101650M5ハいかにとしづまれバ、はやかたハらよりよめり、 00101660M6△△岩ふねが/浪(なミ)のともへにくだかれて 00101670M7△△△かぢをとられて名をながしけり(十六オ)(十六ウ挿画) 00101680¥N18¥J 00101690¥Xはやり小哥に落首立けり 00101700M10元禄九年子のとしの事なりしが、みやこには、ないそなゝ 00101710M11いそさつきにやもどる、おそて六月中ころにといへる小う 00101720M12たのはやりて、三つや四つの子どもまでもうたひしに、折 00101730M13ふしそのとしハ殊外/米(こめ)たかくて、みやこも/余(よ)ほどいたミし 00101740M14に、(十八オ)露程かくよめり、 00101750M15△△米の/音(ね)も/五月(さつき)にやさがる京/童(わらべ) 00101760M16△△△ないそなゝいそおそて六月 00101770¥N19¥J 00101780¥X/敵(かたき)は/討(うた)で/落首(らくしゆ)うたるゝ 00101790M19/奥州(あふしう)/磐瀬(いハせ)といふ所に、/松浦(まつうら)/将監(しやうけん)といへる武士有しが、/春日= 00101800¥P321 00101810L1助(かすが=すけ)之/進(しん)と云おやのかたきをねらひしに、助之進その(十八ウ) 00101820L2国を立のきて、むさしの/横見(よこミ)といふ所にすまひしけるをき 00101830L3ゝて、/将(しやう)監もむさしへ行て、/片辺土(かたへんど)にやどをもとめ、/明暮(あけくれ) 00101840L4年の十年あまりもねらへども、かたきを得うたねバ、所に 00101850L5てもその風ぜつありて、かくよめり、 00101860L6△△/敵(かたき)をばうつら+とまつらどの 00101870L7△△△年がよりてハ何としやうげん(十九オ) 00101880¥N20¥J 00101890¥Xはやる物都の/笠付(かさづけ) 00101900L10元禄九年子のとしの事なりしが、みやこは笠付とてめづら 00101910L11しき/誹諧(はいかい)のはやりて、女わらんべまで、こまくらをひたい 00101920L12にあて、こぞつて是をまなびぬ。其頃、/是山(ぜざん)と云狂哥しよ 00101930L13めり、 00101940L14△△/誹諧(はいかい)も又/商(あきない)もおなし事 00101950L15△△△利ハうすけれどかさでしてやる(十九ウ) 00101960¥T1諸国落首咄第二之巻 00101970¥N1¥J 00101980¥X/珍鋪(めつらしき)/異名(いミやう)都の/巾着(きんちやく) 00101990M5/都(ミやこ)/片辺土(かたへんど)に/遊(あそ)び女のいミやうを/巾着(きんちやく)と/名(な)づけて、家+ 00102000M6にふたり三人づゝかくし/置(おき)、是を世わたる/業(わざ)とせしに、/寔(まこと) 00102010M7に/錐(きり)ハふくろをたうすとかや、元禄八年の頃あらはれ、/哀(あハれ) 00102020M8や/門(かど)さしこめられて、都は是ざたなり。(一オ)されバ其頃 00102030M9とんさく成人有てよめり、 00102040M10△△かくし置/切巾着(きれきんちやく)のそこぬけて△露程 00102050M11△△△へそくり/銀(がね)の/豆(まめ)いたもなし 00102060¥N2¥J 00102070¥X/今年(ことし)/農(の)/仕合(しあハせ)/俵(たハら)一/表(へう) 00102080M14/都(ミやこ)/相(あい)の/町(まち)の事なりしが、頃ハ/元禄(げんろく)五歳/酉(とり)の極月廿日の/昼(ひる) 00102090M15時分に、たハら(一ウ)をすて/置(おき)けれバ、町中ふしんにおも 00102100M16ひ、いか成ものかいれておきけんと、/談合(だんかふ)/様&(さま※)なりしに、 00102110M17中にもさばけたる人ありて、何のこハき事かありつらん、 00102120M18是こそふつきのずいさうと、其日の夕暮に、/彼(かの)表をうちへ 00102130M19/取込(とりこミ)、/頓而(やかて)一首よめり、 00102140¥P322 00102150L1△△/身躰(しんだい)ハ暮からざつとすミだわら△露程 00102160L2△△△はいぶきも有/福藁(ふくハら)もあり(二オ) 00102170L3とよミて表をとりこミけれバ、あけの春よりしだいに家さ 00102180L4かへ、/万宝(まんほう)/蔵(くら)にみち+て、今長者ともいひぬ。其後あた 00102190L5りの人これをミてうらやミ、かのたハらの中に金銀もあり 00102200L6つるやうにおもひ、みな+ゆかしくおもふも世のならひ 00102210L7にや。(二ウ) 00102220¥N3¥J 00102230¥X/常陸(ひたち)にも有/前鬼坊(ぜんきぼう) 00102240L10/常州(じやうしう)/筑波(つくば)と云所に、/菅野(すげの)/道(だう)三といへるぜんもん有しが、 00102250L11つね※其人の/異名(いミやう)をぜんきといへり。すなハちその/借(しやく)屋 00102260L12に/菊(きく)やの重左衛門とて、わんをあきなへる人ありしが、有 00102270L13時火事にあいて、/諸道(しよだう)具きるいこと※くやきて、/漸(やう)&我 00102280L14身計/立離(たちのき)しに、所の人よめり、(三オ) 00102290L15△△ごきひとつゑださぬ火事に大/岑(ミね)や 00102300L16△△△ぜんきが/借(しやく)やかけいでにけり 00102310¥N4¥J 00102320¥X/金糸(きんし)が/果(はて)は/獄(こく)屋の/住居(すまひ) 00102330L19都のにしよしや町のほとりに、きんしといへるばくちうち 00102340¥G 00102350M12有しが、まことに/悪事(あくじ)ハ千里をはしる。あハれやつゐに/獄= 00102360M13屋(ごく=や)のすまひとなりて、(三ウ)そのゝち/死罪(しざい)におこなハれ、 00102370M14金銀諸道具みな+あがりものになりけれバ、あたりの人 00102380M15よめり、 00102390M16△△つけめして/根(ね)こぎにほんとかき/取(とられ) 00102400M17△△△/金糸(きんし)が銭は三文もなし(四オ)(四ウ挿画) 00102410¥N5¥J 00102420¥X/御所(ごしよ)望/故(ゆへ)に一首其/侭(まゝ) 00102430¥P323 00102440L1貝田露程といへる狂哥しに、さる公家衆より、きやうかを 00102450L2御所望ありければ、とりあへずよめり、 00102460L3△△よめと/仰(おせ)あつとこたへてとりあへず 00102470L4△△△これも一座のきやうか成べし 00102480¥N6¥J 00102490¥X/何(なに)に/付(つけ)ても/銀(かね)の世中(四ノ九オ) 00102500L7都十らくのほとりに土/人形(にんぎやう)をして、やうやう一日に弐分三 00102510L8分程づゝもうけて、/妻子(さいし)をはごくミ、あさ夕のけぶりをた 00102520L9て、/嬉(うれ)しや/今日(けふ)ハ/暮(くら)せしが、あすハ何とかしていとなミを 00102530L10と、あんずるほどのひとなれども、日頃おかしき人にて、 00102540L11かくよめり、 00102550L12△△/極楽(ごくらく)にまさる都の十らくも 00102560L13△△△/銀(かね)がなけれバ一らくもなし((四ノ九ウ) 00102570¥N7¥J 00102580¥Xつらきハ/家主(いへぬし)/名残(なごり)ハ/明(あけ)の/鐘(かね) 00102590L16みやこ/相(あい)の町通に、貝田露程といへるものゝ師ありけるが、 00102600L17さる人の家をかりて月日ををくられけるが、有時家主より 00102610L18申けるは、にハかに家入用の事候まゝ、ちか※に家がへ 00102620L19するやうにとたび+つかひを立、何の聞わけもなくせが 00102630M1めバ、ぜひなく外の家へうつり行(十オ)おきみやげに一首 00102640M2よめり、 00102650M3△△/借屋(しやくや)をバおひだしがねもつき/果(はて)て 00102660M4△△△そろり+と家をあけぼの 00102670M5扨貝田露程こんじんの方へ家がへして行けるに、もとのい 00102680M6へぬしあまりつらくおもひ、わざ+よみてをくらるゝ一 00102690M7首、(十ウ) 00102700M8△△こんじんと/移(うつり)りかハれるわれなれバ△露程 00102710M9△△△たゝらバたゝれあとの家ぬし 00102720¥N8¥J 00102730¥X事によりてハ口もよひもの 00102740M12有所に/五十歳(いそじ)あまりの人ありしが、つぶりうす+とはげ 00102750M13て、ひかりけるを、/来(く)るほどの人これをみて、ミな+わ 00102760M14らひなぶりけれバ、日ごろ口がしこき(十一オ)人にて、そ 00102770M15のまゝ一首よめり、 00102780M16△△そろ+と我は仏にあたまから 00102790M17△△△なりかゝるやらひかりこそすれ 00102800¥P324 00102810¥N9¥J 00102820¥X/暫(しバし)は京も/紅(くれない)の/夜(よる) 00102830L3頃ハ延宝五年の事なりしが、都にしきの小路火事のゆきけ 00102840L4るによめり、(十一ウ) 00102850L5△△見わたせバ/柳(やなぎ)/馬場(ばんば)ともへあがり 00102860L6△△△京は火のこのにしきなりけり 00102870¥N10¥J 00102880¥Xいつの/間(ま)にやら/欠落(かけおち)の僧 00102890¥G 00102900M1貞享二年のころなりしが、山城の/郡(こほり)/相坂(あふさか)といふところに、 00102910M2万日の惣ゑかうありしが、その頃ハ雨ふりつゝきて、まい 00102920M3りすくなく、参せんなにほとも(十二オ)あつまらず、寺の 00102930M4/住僧(ぢうそう)もとやせん/角(かく)やとおもひわび、せんかたちからなく、 00102940M5六日のゆふぐれにいづくともなく立のかれければ、はやか 00102950M6くこそよめり、 00102960M7△△/借(しやく)せんを/相坂(あふさか)山のゑかうこそ△近元 00102970M8△△△かねもすまさでとちへはしり井(十二ウ)(十三オ挿画) 00102980¥N11¥J 00102990¥X(題欠) 00103000M11/八幡(やわた)にたきもとぼうと云狂哥し有けるが、さる人/行(ゆき)ていふ 00103010M12/様(やう)は、そなたにハことの外ふとりてごさるが、さぞ/毎(まい)日の 00103020M13ごまにも御くろうに候ハんと申バ、されば御すいりやうよ 00103030M14ほどなんぎいたすと申さるれバ、何とそれに付て一首あそ 00103040M15バされぬかと所望ありければ、とりあへずよめり、(十三ウ) 00103050M16△△/我(わか)うへハ/八幡(やわた)ごぼうのふとにゝて 00103060M17△△△毎日ごまであへられぞする 00103070¥N12¥J 00103080¥X/娘(むすめ)に/付(つけ)てまぎらハ/鋪(しき)一首 00103090¥P325 00103100L1去所に四五人寄合、なぐさミに/碁(ご)をうちてゐけるが、其所 00103110L2におはまといへるごずき成むすめありて、そばをはなれず 00103120L3なかめゐて、ひたすらじやう(十四オ)ごんをいひけれバ、 00103130L4みな+おもうやうは、女のさしですぎたる事のミこゝろ 00103140L5にくしとおもふおりから、中にもおかしき人有りて、かく 00103150L6よめり、 00103160L7△△おはま上ら/其方(そなた)ハ/碁(ご)/好(ずき)つよそふな△露程 00103170L8△△△さらバあひてにいたそ四五はん(十四ウ) 00103180¥N13¥J 00103190¥X/今宵(こよひ)の狂哥/内義(ないぎ)の/迷惑(めいわく) 00103200L11貝田ろてい、さる所へやばなしに行けれバ、おりふし/亭主(ていしゆ) 00103210L12/留主(るす)にて、内義あんずをくひてゐて、物をもいはずことの 00103220L13外ぶあしらひにしけるを、ろてい/腹(はら)をたて、帰りしなに一 00103230L14首よめり、 00103240L15△△物いはずあんず/顔(がほ)なるつらつきハ 00103250L16△△△/是(これ)を木なりなものといふなり(十五オ) 00103260¥N14¥J 00103270¥X/昔(むかし)/恋(こひ)しや/大(だい)やくの秋 00103280L19武蔵の/都築(つゞき)といふ所に、/呉服(ごふく)やの左七といへる年頃廿計の 00103290M1/美(び)男ありけるが、ことの外あく所にておやのゆづりの千貫 00103300M2目、其外/財宝(さいほう)きるいまでこと※くうりしろなし、なにゝ 00103310M3おろかもなふつかひすてゝ、やう+四十二の秋の夕暮に 00103320M4めもさめ、けうもさめて、とやせん角(十五ウ)やとおもへ 00103330M5ども、何をひとつおぼえたる事もなく、暮しかねたる世の 00103340M6中、うきよをうらミ、さりとハこんな時におやこもたりに 00103350M7ならぬとひとりぶつやき、むかしこひしそうなありさま、 00103360M8友だちもうとミはてゝ、いつのまにやら/門(かど)の戸にはり/紙(がミ)し 00103370M9て一首をつらね、左七殿まいる御ぞんじよりとあり。是を 00103380M10聞(十六オ)つたへてこゝにかきうつす、 00103390M11△△/家(か)しよくせず/合力(かふりよく)うけず/銀(かね)からで 00103400M12△△△すぐる事のミあらまほしさよ 00103410¥N15¥J 00103420¥Xきいた者/幕(まく)の/中(うち)のだい/神楽(かくら) 00103430M15東山花の春こそおもしろや、都女郎の色くらべ、当世はや 00103440M16る明ぼのぞめ、花のぬり笠びらりぼし、/浅(あさ)きぢりめ(十六ウ) 00103450M17ん/抱(かゝ)おび、見るも+かハつたふうぞく、てんといのちは 00103460M18はるの雪、きゆる+と一/盃(はい)気げん、となりのまくにもよ 00103470M19うたやら、はやだいかぐらの/音(をと)高く、三/筋(すぢ)のいとをひきち 00103480¥P326 00103490¥G 00103500L13らし、声高たか※とこうたふし、よるも+口のきいた 00103510L14よひこゑ、これはたゞならぬものとさる人にきけバ、みや 00103520L15こに(十七オ)はやる/太鞁(たいこ)もち、かねもちの子とも衆をたぶ 00103530L16らかすあほうらく/人(じん)といふに付て、一首つらね、まくには 00103540L17つてもとるもおかし、 00103550L18△△花に/来(き)てかぐら/太鞁(たいこ)のうつけもの 00103560L19△△△きけバ都のあほうらく/人(じん)(十七ウ)(十八オ挿画) 00103570¥N16¥J 00103580¥X子を/捨(すて)られて町の/迷惑(めいわく) 00103590M4/昔(むかし)都相之町通/押(おし)小路の/辻(つぢ)へたがしわざにや、有夜子をすて 00103600M5しに、/高田(たかだ)町とおし小路と/捨(すて)子のあらそひ、どちらの町へ 00103610M6すてしともせんぎすまねバ、此事ついに/公事(くじ)さたに成ける 00103620M7所ニ、押小路の/宿老(しゆくらう)は/柿(かき)をうる人成が、いかなる云あやま 00103630M8りにや、公事は押(十八ウ)小路のまけになりける。時にあ 00103640M9たりよりよめり、 00103650M10△△/捨子(すてご)/公事(くじ)かちて其名ハ/高田(たかた)町 00103660M11△△△口/押(おし)かうじはぢをかきやか 00103670¥N17¥J 00103680¥X娘の/疵(きず)ハおやの/生(うミ)なし 00103690M14/越後(ゑちご)の/盤舟(いはふね)と云所に、/研(とぎ)屋三郎兵衛といふ(十九終オ)者の 00103700M15子に、おまん云/娘(むすぬ)有しが、有時刀やの庄三郎といふ所へよ 00103710M16め入をしけれども、少のきずゆへ、ほどなくもどせバ、あ 00103720M17たりよりかくよめり、 00103730M18△△おまん女郎/顔(かほ)にぬりとハ/当(あて)けれど 00103740M19△△△はこぼれありてかへす刀や(十九終ウ) 00103750¥P327 00103760¥T1諸国落首咄第三之巻 00103770¥N1¥J 00103780¥X/聞程(きくほど)おかし/法師(ほうし)の/理屈(りくつ) 00103790L5/都(みやこ)/堺(さかい)町の/辺(ほとり)に野村/道可(どうか)といへる世にしはきほうし有ける 00103800L6が、有時小/便(へん)もらひを/呼(よび)、わら一ハのやくそくにて、しやう 00103810L7べんをうりける。おりふしわらきれ候とて、そのあたへに 00103820L8ぜに壱もんつかハしけれバ、道可殊外/腹(はら)をたて、色かほむ 00103830L9すび、せ(一オ)んぎみち+たりしに、又つれの/小便(しやうへん)/貰(もら)ひ 00103840L10きあハせ、両方あいわび、とかくやくそくのとをり、よき 00103850L11わらをと、つかはしければ、たかひにしづまりぬ。あたり 00103860L12の人、是をおかしくおもひて一首、 00103870L13△△/小便(しやうべん)が一もんしやうの百しやうと 00103880L14△△△いさかひ町でわらをだしける(一ウ) 00103890¥N2¥J 00103900¥X/奢(おごれ)バやれる/諷講(うたひかう) 00103910L17友立あつまりて/謳(うたひ)講とりむすびしに、はじめのきハめより 00103920L18次第におごり付て、なか+/勤(つとめ)がたく、さま+/談合(だんかふ)/半(なかハ)な 00103930L19りしに、中にもおかしき人有て 00103940M1△△/謡(うたひ)かうそろ+/法度(はつと)やぶれかう△露程 00103950M2△△△いかうけつかうけうかうおかう(二オ) 00103960¥N3¥J 00103970¥X/一度(ひとたび)ハ都のほまれ 00103980M5都のにし/神泉苑(しんぜんゑん)の/辺(ほとり)に/高左(かうさ)と云/俳諧師(はいかいし)有しが、/用(よう)の事有て 00103990M6江戸へ下ぬ。折ふしはいかいの咄し有て、高左に俳諧を所 00104000M7望しけれども、とかうの事もなく帰りしなに、 00104010M8△△/着巾(きんちやく((ママ))のかハひや江戸のはいかいし 00104020M9△△△皆ひつくゝつて/腰(こし)に付べい(二ウ) 00104030M10とよミておかれけれバ、江戸のはいかいし、ことのほかに 00104040M11くしとおもひ、高左方へ/態&(わさ+)よミてをくらるゝ一首、 00104050M12△△巾着を/提(さげ)たるほうし/油断(ゆたん)すな 00104060M13△△△江戸のはいかひきつてまハるぞ 00104070¥N4¥J 00104080¥X/雨(あめ)に/詮(せん)なき/足駄(あしだ)やが/命(いのち)(三オ) 00104090M16都/堀(ほり)川の上に、あしだや/幾吉(きよし)と云人有しが、頃ハ延宝八年 00104100M17五月廿一日の夕暮に、/神鳴(かミなり)しきりに天地にみちて、かのき 00104110M18よしをつかんで、いづくともなくうせしに、/隣(となり)の/針(はり)たて/追= 00104120M19善(つい=ぜん)の一首、 00104130¥P328 00104140¥G 00104150L12△△/神鳴(かミなり)てあしだのつゆときえにけり△三枝 00104160L13△△△これぞこの世のぼくりわう/生(じやう)(三ウ)(四オ挿画) 00104170¥N5¥J 00104180¥X/割(わり)なき恋も心/安(やすさ)のまゝ 00104190L16丹後の/片(かた)野といふ所に、米やの市助と云人ありしが、又其 00104200L17むかひに平助と云やもめずまひのつき米やありける。互に 00104210L18心やすさのまゝ、市すけ女ぼうと平助ミつつうしけるに、 00104220L19其さたくに※にかくれなけれバ、その国の人一首、(四ウ) 00104230M1△△よそのよねをからうす立てつき米や 00104240M2△△△此よのがうをはたきぬるかな 00104250¥N6¥J 00104260¥X/兎角(とかく)そだちハ/恥鋪(はつかしき)もの 00104270M5去公家衆のちごと侍の子と、又ひとりハ百/性(しやう)の子と三人、 00104280M6都よし田山にゆいて、ちごのいひけるは、哥よミてなぐさ 00104290M7まんとて、/則(すなハち)りんとはねる/題(だい)にてまづ(五オ)/児(ちご)のよめるハ、 00104300M8△△りんどうの花を一/枝(ゑた)おりもちて 00104310M9△△△まいるこゝろハ/嵯峨(さが)のほうりん 00104320M10侍の子よめり、 00104330M11△△りん+と小ぞりにそつた小/長刀(なきなた) 00104340M12△△△一ふりふれバてきハおぢりん 00104350M13又百性の子よめり、(五ウ) 00104360M14△△りん+と小ぞりにそつた/赤(あか)いはし 00104370M15△△△七疋くへバはらハぼちりん 00104380M16とそれ+の暮しに付てよめるもおかし。 00104390¥N7¥J 00104400¥X哥にひかれて名ハ末代の徳 00104410M19都御所八まんの町に/貝田(かいだ)/露程(ろていと)いへる狂哥し有しが、さる公 00104420¥P329 00104430L1家衆より狂哥を御所望有けるが、此人もとハゐ中の(六オ) 00104440L2人ゆへ、身をはぢてかくこそよミてつかハさる、 00104450L3△△はいてめが今都にてよむ哥を 00104460L4△△△きやうかとやいはんゐ中とやいはん 00104470L5とよみて上らるれバ、殊外御ほうびありて、又たばこの/題(たい) 00104480L6にて御所もう(六ウ)有けれバ、さつそくよめり、 00104490L7△△わか/煙草(たばこ)のむ/言(こと)の葉ハよもつきじ 00104500L8△△△きせるのさらの/日(ひの)もとの人 00104510¥N8¥J 00104520¥X/悪事(あくじ)/悲(かな)しき/武士(ふし)の身ノ/果(はて) 00104530L11頃は天和四年正月はじめつかたの事なりしが、大津の東/鰐(わに) 00104540L12と云所(六ノ八オ)にて、さる/牢(らう)人/衣(い)ふくをぬすひとつてに 00104550L13げしに、跡より大ぜいおつかけ、大津にてこゝをせんとた 00104560L14ゝかひしに、たせいにぶせいいまはかなハじと、/漸(やう)&しの 00104570L15宮へにけ込、/腹(はら)十もんしにかき切、/既(すでに)/最期(さいご)と見えし時、 00104580L16△△/鰐(わに)の口のかれかたくハすぎぬれど 00104590L17△△△大つまくつつこゝでしのみや(六ノ八ウ)(九オ挿画) 00104600¥G 00104610¥N9¥J 00104620¥X(題欠) 00104630M14むかし江戸大やけして、人じに有し事そのかずをしらず。 00104640M15家+屋鋪のこるところもなく、やう+やけすミて後、 00104650M16おもひ+にかりやだてしていけるが、中にもおかしき人 00104660M17ありて、となんよめり、 00104670M18△△/武蔵野(むさしの)ハけふさめがほに大やけの 00104680M19△△△つまもこもれり我もこもれり(九ウ) 00104690¥P330 00104700¥N10¥J 00104710¥X是ハ/頓作(とんさく)/内儀(ないぎ)の/手柄(てがら) 00104720L3都/錦(にしき)の小路山ぶし山の町の点じや、用事有りて大ミねのず 00104730L4しのてんじや方へゆかれけれバ、てい主立出、さま+の 00104740L5物がたりしけるおりふし、夕飯時分になり、ごきやぜんの 00104750L6音高くきこゆれバ、さだめし夕めしかなふるまハるゝよと 00104760L7心まちして(十オ)/居(い)けれども、中+あつき茶さへのまさ 00104770L8ず。あまりにくしとおもひて内義方へ一首をくらるゝ、 00104780L9△△/大岑(おほミね)のずしに/始(はしめ)て/来(き)てミれバ 00104790L10△△△ごきやぜんきの/音(をと)はかり也 00104800L11内義おかしくおもひてとりあへず(十ウ)返哥、 00104810L12△△ごきぜんき其品+を聞からハ 00104820L13△△△山ぶし山の町のひとかや 00104830¥N11¥J 00104840¥X/仏農(ほとけの)/沙汰(さた)もいへバ/云(いハ)るゝ 00104850L16/寛永(くハんゑい)八年の事なりしが、みやこ清水のくハんをんどう、 00104860L17午の刻に少ばかりゑんしやうしけるに、京の(十一オ)たれ 00104870L18やら落首、 00104880L19△△よるならバねび/観(くハん)音といふべきに△近元 00104890M1△△△ひるの大ひハ大/慈(ち)なりけり 00104900¥N12¥J 00104910¥X/帆(ほ)掛ぶねハ/点者(てんじや)のほまれ 00104920M4都ひかしのとうゐん通に/松笛(せうてき)と云/俳諧師(はいかいし)ありしが、有時/帆= 00104930M5掛(ほ=かけ)ぶねといへるはいかひの/集(しう)をゑらわれしに、(十一ウ)/露= 00104940M6程(ろ=てい)といへる狂哥しよめり、 00104950M7△△/宇治(うぢ)川を風にまかするほかけ舟 00104960M8△△△あらおもしろのまきの嶋かげ 00104970¥N13¥J 00104980¥X/哥(うた)ハ/命(いのち)の/親(おや) 00104990M11有屋鋪方にもんもう成人四五人寄合、四方の物かたりの上 00105000M12にて、其中ニ(十一ノ十四オ)一人が云様ハ、此やしきにも馬 00105010M13が/何(なん)ぎん/程(ほど)あらうと云。又一人がいふやうハ、馬ハ一き二 00105020M14/騎(き)とこそいふへしに、何ぎんとはねやるハおかしいとわら 00105030M15ひけれバ、いや、わらふ其方がおかしいと、たがひにあら 00105040M16そひ、すてにあやうくみえしとき、中にもとんさくなる人 00105050M17有りて、まづ両方しつまりたまへ、馬を一き二騎(十一ノ十 00105060M18四ウ)と申さるゝも/断(ことハり)也。又何/斤(ぎん)とはねるも、むりにてな 00105070M19し。われら哥にてわけ申べしと、かくこそよめり、 00105080¥P331 00105090L1△△馬をたゞ一/斤(きん)二きんといふ事ハ 00105100L2△△△あしをはかりにかけるゆへ也 00105110L3とよまれければ、皆&大/笑(わらひ)に/成(なりぬ)。(十五オ)(十五ウ挿画) 00105120¥N14¥J 00105130¥X/欲(よく)に/上(うへ)なき金銀の沙汰 00105140L6都五条のはしの/辺(ほとり)に、まずしき人よりあい、せんじ/茶(ちや)など 00105150L7のミて様&の/物語(ものかたり)して/居(い)けるが、中にも年頃なる人の云や 00105160L8うハ、よく+おもへば/銀(かね)もちもせ/話(わ)なものなり、とかく 00105170¥G 00105180M1ひんらくがましじやといふ。なかにもよくのふかき人有て、 00105190M2そのまゝよめり、(十六オ) 00105200M3△△/貧(ひん)らくといふは/浮(うき)世のへらず口 00105210M4△△△ふたつとりには/分(ぶ)げん者がまし 00105220¥N15¥J 00105230¥X/薬師如来(やくしによらい)/茂(も)/笑(おかし)かるべし 00105240M7みやこ/烏(からす)丸通の下に、いなバやくしとてありけるが、ころ 00105250M8ハ/寛(くハん)永八年の事なりしに、/薬師(やくし)だうのうしろに/新(しん)ミちのあ 00105260M9きける。そのみちをた(十六ウ)か/辻(つち)通とも、又/薮(やぶ)の下とも 00105270M10いへり。其ころ都にかくれなき/雷山(らいざん)といふ狂哥しありてよ 00105280M11めり、 00105290M12△△世の中にげくハやほんどハいらぬもの 00105300M13△△△/薬師(やくし)のせなにてうができたよ 00105310¥N16¥J 00105320¥X/亦(また)/取出(とりいだ)す/質(しち)の/古札(ふるふだ) 00105330M16/摂州(せつしう)/西成(にしなり)といふ所に、いにしへハ何に(十七オ)うとからぬ 00105340M17人ありけるが、しだひにおとろへて、有ほどの道具きる物 00105350M18をうりしろなし、あさ夕の/煙(けふり)を立しが、有時おやのねんき 00105360M19にあたりけれども、/吊(とぶらふ)べきたよりもなく、せんかたなミだ 00105370¥P332 00105380L1にくれ、やう+ひとつのこりし/紅裏(もミうら)のきるものをとりい 00105390L2だし、/質(しち)屋へつかハし、/冬切(ふゆぎり)にし(十七ウ)て銀子三両かり、 00105400L3時の/間(ま)を合けるに、きのふ立けふくれて、はややくそくの 00105410L4月日になりけれども、なを、しだいにわびしくなりて、中 00105420L5+請もどすべき/力(ちから)もなく、かのきるもの/終(ついに)にはるの頃な 00105430L6がれけれバ、あまりおしくおもひて、女のよめり、(十八オ) 00105440L7△△ほの※と/赤裏(あかうら)小袖/冬(ふゆ)きりに 00105450L8△△△春ながれ/行(ゆく)しちおしぞ思ふ(十八ウ) 00105460¥T1諸国落首咄第四之巻 00105470¥N1¥J 00105480¥Xおがくずも云バいはるゝ 00105490M5都/御所(ごしよ)八/幡(まん)の/辺(ほとり)に/貝田(かいだ)/露程(ろてい)と云人有しが、去所へ行けるニ、 00105500M6此仁狂哥しのよしを兼而聞及、/亭主(ていしゆ)所望ありける。おりふ 00105510M7しあたりにたばこぼんみえしに、則(すなハち)はいふきによそへて、 00105520M8かくこそよめり(一オ) 00105530M9△△はいふきの/朝間嶽(あさまがだけ)にたつけぶり 00105540M10△△△是も/地獄(ぢごく)かたばこぼんさま 00105550¥N2¥J 00105560¥X/滝(たき)のなかれハきよき水音 00105570M13貝田露程/八幡(やわた)の/滝(たき)もと/坊(ぼう)へ狂哥の/点(てん)をとりにつかハせし一 00105580M14首、 00105590M15△△/水上(ミなかミ)はいはし水よりたきもとへ 00105600M16△△△ながれの末を八まんくまん(一ウ) 00105610¥N3¥J 00105620¥X/唱(うたふ)/諷(うたひ)ハ我が/慰(なぐさミ) 00105630M19さる人みやこ大仏にて、うたひを/唱(うたふ)ていられしを、かたは 00105640¥P333 00105650L1らよりきゝて 00105660L2△△大仏の/堂(だう)からいづる/声(こゑ)きけバ 00105670L3△△△仏のはらのろんぎなりけり 00105680¥N4¥J 00105690¥X思ひの外の/類火(るいくハ)成けり 00105700L6都両替町通にじゆんしやうといへ(二オ)る/蒔絵師(まきゑし)有しが、 00105710L7元禄二年正月/下旬(げじゆん)の事なりしが、/類火(るいくハ)にあいて家/諸道具(しよだうぐ)こ 00105720L8と※くやきしに、 00105730L9△△けしふんで/軽(かろく)まきゑハ/書(かき)ハせで 00105740L10△△△/内外(うちそと)家をなしぢにぞする 00105750¥N5¥J 00105760¥X/吉例(きちれい)いはふ今日の書初 00105770L13都御所八まんの町に貝田露程/迚(とて)、(二ウ)てならひのしあり 00105780L14けるが、有正月に子どもにつけて/歳旦(さいたん)をよめり、 00105790L15△△しほらしやへの字成にも書ぞめを 00105800L16△△△するは/天筆(てんひつ)わやくものども 00105810¥N6¥J 00105820¥X都の/賑(にきわ)ひ弓ハ/武士(ぶし)の/手柄(てがら) 00105830L19/紀州(きしう)の住わざ大八といふ人、都の大仏にて大矢数有し時、 00105840¥G 00105850M12白/鳩(はと)壱羽(三オ)/飛来(とひきた)りしを、何とかしてどうのまん中いぬ 00105860M13かれしに、弓も引方、是てん/下(か)のずいさうと見ぶつの人ま 00105870M14でよろこびかぎりなし。そのおりから、かたハらより一首、 00105880M15△△/熊(わさ)といぬ大八/幡(まん)のつかハしめ 00105890M16△△△どうをいぬいて天下とりなり(三ウ)(四オ挿画) 00105900¥N7¥J 00105910¥X/紅(くれなひ)はうつろひ安/浮(うき)世 00105920M19山/城(しろ)の国きずといふ処に、中+ミやこもはつかしき/美女(びぢよ) 00105930¥P334 00105940L1有けるが、有所へゑんにかしづき、月日を/送(をくる)事はや三/年(とせ)に 00105950L2成ぬ。その男もんもうたいさいにして、しかも/器量(きりやう)あしく、 00105960L3明暮秋風のこゝちせしに、おりふし世にまれなる男、ふミ 00105970L4/玉(たま)(四ウ)/章(づさ)日ごとにをくれバ、女もつひに心みだれて、ふ 00105980L5かきちきりと成りぬ。もとより道ならぬ事ゆへ、ほどな/具(く) 00105990L6あらはれて、一夜があいだわがかどにさらされしとあり。 00106000L7△△まおゝひねりとゝの/目(まなこ)をよこぬきに 00106010L8△△△うきなを立に/恥(はぢ)ざらしおる(五オ) 00106020¥N8¥J 00106030¥X見事成けり物之/師(し)の/仕廻(しまひ) 00106040L11都御所八まんの町に、貝田露程と云る物の師ありしが、さ 00106050L12る人云様は、そなたハことの外はんじやうなれハ、きハの 00106060L13しまひさそらくにあらんと申されけれバ、そのおりふしの 00106070L14はやりうたによそへて、狂哥をよめり、(五ウ) 00106080L15△△貝田めが暮のしまひハこうたぶし 00106090L16△△△たらふくつるてん+ 00106100L17又しまひあしき時は、かくよめり、 00106110L18△△貝田めがくれしまひハ小うたぶし 00106120L19△△△たらんふくつるてん+ 00106130¥N9¥J 00106140¥X/似紫(にせむらさき)は色もそめよし 00106150M3/武州(ぶしう)の/児玉(こたま)といふ所に/桔梗(きゝやう)や/了可(りやうか)(六オ)といふ両替屋あ 00106160M4りしが、はじめハ殊外家さかへて、何にうとからず。金銀 00106170M5みち+て、その国のいま長じやといはれし事かくれなけ 00106180M6れど、一度ハさかへ又ハおとろへる世のならひにや、元禄 00106190M7四年しわすの暮にぶんさんして、諸道具やしき、のこらず 00106200M8ミな+/他人(たにん)のものと成(六ウ)ぬ。所の人+きもをけ 00106210¥G 00106220¥P335 00106230L1し、あまり/興(けふ)さめて、かくこそよめり、 00106240L2△△かり小袖にせ/紫(むらさき)のきゝやうやが 00106250L3△△△色もさめたりけうも/覚(さめ)たり(七オ)(七ウ挿画) 00106260¥N10¥J 00106270¥X/夫(つま)の秋風下女が恋哥 00106280L6伊勢の松坂といふ所に、こま物やの半助と云人有しが、又 00106290L7其あたりに、妙三といへるあまの、めしつかひのよしと云 00106300L8こしもとに、半助おもひかけ、/玉章(たまづさ)/千(ち)つかにおよび、つい 00106310L9に/夫(ふう)婦のかたらひをなせり。其後およし半介方へたび+ 00106320L10かよへども、はや秋風の心ち(八オ)にや、一度もあいぬる 00106330L11ことなく、あまりこひしさのまゝに、女かくよめり、 00106340L12△△/我夫(わがつま)ハおくびのいらぬ小袖やら 00106350L13△△△いつ/来(き)て見てもあハんとぞ思ふ 00106360¥N11¥J 00106370¥X/口(くち)/故(ゆへ)我が/難儀(なんぎ)はづかし 00106380L16/下嵯峨(しもさが)に/丹波(たんは)屋の/宗泉(そうせん)といふ手こ/引(びき)有しが、其となりのこ 00106390L17びきと、又(八ウ)むかひのざい木やと/口論(こうろん)せしに、宗せん 00106400L18となりの/小(こ)ひきをひいきに思ひて、こしをおしけるに、此 00106410L19事ことの外六ケ鋪なり、中+下にてすミかね、/終(ついに)公事沙 00106420M1汰なり、宗泉もともになんぎと見えしに、いまはたまられ 00106430M2じとおもひ、いづくともなくにげゆきしに、所の人よめり、 00106440M3(九オ) 00106450M4△△手こ/引(びき)をやめでうきめにあふさかや 00106460M5△△△そうせんゆへに丹/波(バ)ごへした 00106470¥N12¥J 00106480¥X御祝儀いはふ春の/歳(とし)玉 00106490M8都三条通に新や二郎兵衛といふ人ありしが、八わたにかく 00106500M9れなき狂哥しの方へ、正月の年だまに、つるし/柿(かき)をつかハ 00106510M10されけるに、一礼(九ウ)すミて、二郎兵衛/帰(かへ)らんとしける 00106520M11を、よひもどしてかくよめり、 00106530M12△△立春の新やなる年だまに 00106540M13△△△めじろびやうへが/柿(かき)をもて/来(く)る 00106550¥N13¥J 00106560¥X/終(ついに)/栄(さかゆる)/名(めい)人のとく 00106570M16/賀州(かしう)/石川(いしかハ)といふ所に、/渋谷(しぶや)権之/進(しん)と云能大夫ありけるが、 00106580M17はじめハ(十オ)家/貧(ひん)にして、朝夕のけぶりを立かねしに、 00106590M18さすが/名人(めいじん)のきどくに、しだいにはやりて、いつになきよ 00106600M19き/極(きハ)のしまひいたされけれバ、友だちにおかしき人有て、 00106610¥P336 00106620L1かくよミて/送(をくら)るゝ、 00106630L2△△/名人(めいじん)の大夫のとくや有つらん 00106640L3△△△扨も見事なくれはのしまひ(十ウ) 00106650¥N14¥J 00106660¥X/銀(かね)ゆへ人の命あぶなし 00106670L6みやこあねが小路のほとりに、おびやの弥吉と云とうふや 00106680L7有しが、/極月(しハすの)廿九日に大津の/豆問(まめどい)屋の手代、まめの代銀を 00106690L8うけとりに/来(きた)りしが、銀子すます事なりがたくて、色+ 00106700L9ことわり申せ共、かんにんするていなく、ぜひ※うけと 00106710L10り申へしと申せバ、とうふや日ごろ(十ノ十四オ)たんき者 00106720L11にて、はやふめのくハせのとさん※言をあらし、互にい 00106730L12ろかほむすび、とうふやわきさしをぬいて切つけけれバ、 00106740L13/問(とい)やもいまはたまられず、引ぬき、うけつなかしつするう 00106750L14ちに、とうふやうす/手(で)をおひ、すでにあやう/を((ママ))くみえし時、 00106760L15町中寄合両方あいわびけれバ、まづしづま(十ノ十四ウ)り 00106770L16ぬ。となりにとんさくなる人ありて、はや一首、 00106780L17△△とうふやが/豆(まめ)の/喧嘩(けんくハ)でかすでおひ 00106790L18△△△一町の衆をおびやかしぬる(十五オ)(十五ウ挿画) 00106800¥G 00106810¥N15¥J 00106820¥X/眠(ねふ)りをさます万日のかね 00106830M14元禄九年子の三月の事なりしが、山城の国の藤のもりにて 00106840M15万日のゑかうありしに、みやこ室町のほとりに/銀(かね)もちのむ 00106850M16す子有けるが、まん日をかこつけ、ふしミしゆもく町へあ 00106860M17そび/行(ゆき)、なじミの女郎とさま+酒もりして、ふしまとろ 00106870M18ミけるに、折ふし(十六オ)万日のかねしきりにひゞきて、 00106880M19ほどなく夢さめぬれバ、男よめり、 00106890¥P337 00106900L1△△万日のかねこそひゞけしゆもく町 00106910L2△△△ふしミに/覚(さむ)る/煩悩(ぼんなふ)のゆめ 00106920¥N16¥J 00106930¥X首ハ此世の/暇乞(いとまこい) 00106940L5都にて、ばくちうちの大ぜいきられし事有しに、かくこそ 00106950L6よめり、(十六ウ) 00106960L7△△/御法度(ごはつと)としりてばくちをうつけ共 00106970L8△△△はじめ銭掛後ハ首かけ 00106980¥N17¥J 00106990¥X/秋雨(あきさめ)つらき六/原(ハら)の万日 00107000L11元禄九年子ノ九月中旬の事なりしに、みやこ六原にて万日 00107010L12のゑかうありしが、おりふしながあめふりつゞきて、中 00107020L13+まいりすくなく、さん※の(十七オ)しあハせなりし 00107030L14に、あたりの人よめり、 00107040L15△△/秋雨(あきさめ)にふる/借(しやく)銭もすまん日 00107050L16△△△参はなふてそんがまいらふ 00107060¥N18¥J 00107070¥X/誰(たが)名を/付(つけ)て都大/尽(じん) 00107080L19都に大/尽(じん)八兵衛とて、又有まじき風りうなる人のありしが、 00107090M1年頃ハ/五十(いそじ)/余(あまり)なれども、すミまゆがミのかづらをき、(十七ウ) 00107100M2又ハ若衆のすかたにして、/或(あるい)はぎおんゑ、いなりまつり、 00107110M3其外まつり+に一度もかゝさず、さまをかへておともを 00107120M4し、又ぼんのころには四条川の芝居にいで、一ふしのおん 00107130M5どをたハむれ遊び、そのひま※にハ、まち町をふかあみ 00107140M6がさに長わきざし、きるものゝもんにハ大じんと、もんじ 00107150M7をかきて、夕ぐれごと(十八オ)/い((ママ))に六ほうをふりてとをれ 00107160M8バ、都の人おかしくおもひて、かくこそよめり、 00107170M9△△/分限(ぶけん)者は有大じんなり八兵衛ハ 00107180M10△△△ない大じんのくらひだをれか(十八ウ) 00107190¥P338 00107200¥T1諸国落首咄第五之巻 00107210¥N1¥J 00107220¥X/荻(おき)野かゝへて座本の/繁昌(はんじやう) 00107230L5/頃(ころ)は元禄四年/未(ひつじ)のとしの事なりしが、みやこ四条川原山下 00107240L6半左衛門が座本、その頃/荻(おぎ)野さま之丞と云女かたをかゝへ 00107250L7て、/嫁(よめ)かゞみといへる狂げんをしける。おりふし、ことの 00107260L8外はやりて、いかひ座本の仕合、まづハさまの丞/顔形(かほかたち)人に 00107270L9すぐれ、物ごしといひ、げ(一オ)いぶりの/上手(じやうず)ゆへと、/男= 00107280L10女(なん=によ)ともにおぎざたなり。しかるに/角(かく)山と云/俳諧(はいかい)しよめり、 00107290L11△△荻野風都の内ににほハせて 00107300L12△△△/形(なり)さまよしと見るハ山した 00107310L13又/露程(ろてい)かくよめり、 00107320L14△△狂げんの其あたりさまの/上手(しやうす)とて 00107330L15△△△都座のものいかひじまんだ(一ウ) 00107340¥N2¥J 00107350¥X気の/落付(おちつか)ぬ三/国(ごく)の/役者(やくしや) 00107360L18みやこ四条に/三国(みくに)/彦作(ひこさく)と云/道化(だうけ)方の/役者(やくしや)有けるが、元禄十 00107370L19年うしの正月のころ、/芝居(しバい)の座本をのぞミて、江戸大坂京 00107380M1三/国(ごく)の/牢(らう)人せしやくしや共をかゝへ、かほミせもけふやあ 00107390M2すやとやぐらをあげて、/幕(まく)引まハしいられども、いかなる 00107400M3さハりにや、ついにかほミせもせず。(二オ)せんかたなさ 00107410M4に、まくをとりおかれけれバ一首、 00107420M5△△三/国(こく)に/余(あま)りしやく者かゝへおき 00107430M6△△△かほをも見せず/幕(まく)を/彦(ひこ)さく 00107440¥N3¥J 00107450¥X/下手(へた)な役者ハ座本の/無仕合(ふしあハせ) 00107460M9元禄五年とりのとしの頃なりしが、村山芝居にうらミのす 00107470M10けといふ狂(二ウ)言をせしに、そのころじやうずのやくし 00107480M11やさしあい候か、ミな+よろしからぬ役者をあつめて、 00107490M12芝居をしられしゆへにや、中+見物すくなく、村山がさ 00107500M13たもなけれバ一首、 00107510M14△△村山がうらミの助のきやうげんハ 00107520M15△△△はやらぬ/筈(はづ)じやくずのは役者(三オ) 00107530¥N4¥J 00107540¥X後に/悔鋪(くやしき)/互(たがひ)の思ひ 00107550M18一とせみやこ/縄(なハ)手にて藤田小平治と/森田(もりた)孫十郎と両人して、 00107560M19芝ばいの座もとをしられしが、さん+の仕合にて、程な 00107570¥P339 00107580L1く芝居やめければ一首、 00107590L2△△小平治が孫十郎と一座して 00107600L3△△△もりたをされてつぶれこそすれ(三ウ) 00107610¥N5¥J 00107620¥X/是(これ)に/限(かきら)ぬにせハ品+ 00107630L6一とせ都には三貫や七助があめとて、めつらしき事をしだ 00107640L7して、そのうける事数をしらず。されバよの人けなりくお 00107650L8もひて、さま+にせの/出来(いでき)けれバ一首、 00107660¥G 00107670M1△△三貫やあまの川原ににせがでた 00107680M2△△△其手くハぬそあまひこと+(四オ)(四ウ挿画) 00107690¥N6¥J 00107700¥Xかんこくさきと思ふ折から 00107710M5貞享二歳のころ、都/宝(むろ)町通/菊水鉾(きくすいぼこ)の町より火をいだして、 00107720M6それより四条かんこくぼこ月ぼこ/鶏(にハとり)ぼこの町までやけ、よ 00107730M7るの子ノ刻より、とりのうたふころまでやけしに、あたり 00107740M8の人よめり 00107750M9△△菊やけてかんこくさゝにでゝミれバ 00107760M10△△△月のひるからとりのなくまで(五オ) 00107770¥N7¥J 00107780¥X/来(く)る+と云ど/未(まだ)来ぬ/鍋(なべ)かぶり 00107790M13元禄二年の頃、都六角/堂(だう)へ/鍋(なべ)かぶりの女/順礼(じゆんれい)/来(く)るよし、そ 00107800M14のさたとり+なり。されバ其女ハ西国のはたごや、さる 00107810M15ものゝ女ぼう成が、/諸国(しよこく)のじゆんれい、きちんにてとまる 00107820M16米を、すこしづゝぬすひて、/私(わたくし)のとくとしたるばちにより 00107830M17てや、ある時めしをたきたる/鍋(なべ)をあらひとり、な(五ウ)を 00107840M18さんとしけるが、おもひもよらぬつぶりにきさり、こハい 00107850M19か成とはなせどはなれぬかなしさ、せんかたなく+所の 00107860¥P340 00107870L1/観音(くハんをん)へ一七日/参篭(さんろう)しけれバ、/有夜(あるよ)のゆめに、なんじ人の目 00107880L2をぬきしとがにより、かくあさましきすがたなり、よく 00107890L3+おもひしれ、さりながらわれをたのむふびんさ、いそ 00107900L4きくハんをん廻りをするな(六オ)らバ、もとのすかたに成 00107910L5へしとあらたなるれいむ有。こハ有かたきおしへかなとよ 00107920L6ろこび、それより西こく/順(じゆん)礼とこゝろさしけると、都にて 00107930L7ハいろ+ふうぜつ計ありて、/終(ついに)に見し人もなければ、 00107940L8△△/音(をと)ハしてめにハまだミぬ/鍋(なへ)かぶり 00107950L9△△△このじゆんれいハおなら成べし(六ウ) 00107960¥N8¥J 00107970¥X/此紫(このむらさき)は外の色ならねバさもあらん 00107980L12みやこ紫野に大/徳(とく)寺といへる/禅(ぜん)寺のありけるが、ころハ元 00107990L13禄七年/亥(い)のとしの事なりしが、てらのあたりより火をいだ 00108000L14して、むらさきのゝ家どものこらずやけて、ふしぎに大と 00108010L15くじばかりのこりけれバ一首、(七オ) 00108020L16△△火にいれど色も替らぬ/紫野(むらさきの) 00108030L17△△△これも仏の大とくじかな 00108040¥N9¥J 00108050¥X/富士(ふし)は日本の名所 00108060M1有時貝田露程はこねを通りけるが、日はまだ午の/上刻(じやうこく)にて、 00108070M2おりふし/青(せい)天かゝやき、おちこちの/海(うミ)づら、ふじハ/遠(とを)くな 00108080M3がめて、そのけしき/捨(すて)がたく、(七ウ)たゞ何となく/行(ゆき)すぎ 00108090M4んも口おしと、しばしハとゞまりて、かくよめり 00108100M5△△けんこんのはこねの海はすゞりにて 00108110M6△△△ふじハ/冬毛(ふゆげ)の大筆のやま 00108120¥N10¥J 00108130¥X都女郎に江戸男 00108140M9都四条川原の夕すゞミ、あづまのはてよりきて見れバ、き 00108150M10ゝしにまさる(八オ)おもしろや。扨川床には酒にほのよひ 00108160M11あてやかなる声にて、小うたをうたふもあり。又ざんさめ 00108170M12いての酒もり、のめよおさへといふも有り。又かたハらに 00108180M13は油やの小平治がやく/者(しや)の物まね、さま※のくすり売、 00108190M14さりとはかわつたからくりまと、わけて多きハ水茶や、い 00108200M15づれをそれとまがふばかりのうつくし(八ウ)きむすめ、いや 00108210M16はやいふにいはれぬその中に、めにとまるは水木やとなが 00108220M17めしあまりに、いかさまかうもありそうなものかとよめり、 00108230M18△△水茶やを見れバ水木や水くさや 00108240M19△△△水のたるよなむすめ色うる(九オ)(九ウ挿画) 00108250¥P341 00108260¥G 00108270¥N11¥J 00108280¥X頼をかけて/團羽(うちハ)/興(けう)有 00108290L14去人貝田/露(ろ)ていへ、うちハをもちゆき、これによそへてき 00108300L15やうかをし/((た脱カ))まへと/所望(しよもう)あれバ、そのまゝうちハの/裏表(うらおもて)にか 00108310L16きて、つかわせし二首、 00108320L17△△風の神いせのまつしやのうちハなれバ 00108330L18△△△人のあふくもおろか成べし(十オ) 00108340L19△△夏のうちハ/骨(ほね)と皮とに成までハ 00108350M1△△△たゞつかわれてあをちびんぼう 00108360¥N12¥J 00108370¥Xしほらしきもの/庭前(ていせん)の花 00108380M4有座鋪に四五人より合、ミな+こゝろやすき中なれバ、 00108390M5ひぢをまげてねながら、さかづきをかたぶけ、当世のかろ 00108400M6口はなし、ゑぼし付もする事のなら(十ウ)ぬやうになりて、 00108410M7よほとの力おとし、とやかくいへバていしゆ申けるハ、つ 00108420M8ね※梅桜松すきて庭前にうへおき申候、何れも此にハに 00108430M9付て一首あそバされぬかと申さるゝれバ、はやめい+に 00108440M10こまくらをひたいにあて、とやせんかくやといふ。中にも 00108450M11とんさくなる人かくこそよめり、(十一オ) 00108460M12△△梅若衆桜/陽貴姫(やうきひ)いろごのみ△露程 00108470M13△△△松はぬれけをさつた木/男(おとこ) 00108480¥N13¥J 00108490¥X頃ハ天和の火事に一首 00108500L16都五条のほとりに、/御影(ミゑい)堂とてありけるが、頃は天和四年 00108510L17/十一月(しもつき)すへつかたノことなりしが、何とかしてゑんしやう 00108520L18せしに、あたりの人よめり、(十一ウ) 00108530L19△△/御影堂(ミゑいだう)/平等院(べうだういん)となるやらん 00108540¥P342 00108550L1△△△扇子の/芝(しバ)と見ゆるやけ/跡(あと) 00108560¥N14¥J 00108570¥X花の替りに落首くれけり 00108580L3みやこ村山が芝居に桜山林之助といふ若衆がたのめい人あ 00108590L4りしが、一とせ江戸の芝居へかゝへられ、久敷/勤(つとめ)て其後/元= 00108600L5服(げん=ぷく)してミやこへのぼり、万大夫しばいにて(十二ノ十五オ)じ 00108610L6つかたをしけれバ、ミやこの人かくよめり、 00108620L7△△江戸桜花の/姿(すがた)を木おとこに△角山 00108630L8△△△なりてみやこのじつを庄七 00108640¥N15¥J 00108650¥X/下手(へた)といハれてつらき一首 00108660L11/阿波(あハ)の三/好(よし)と云所に、絵師の勘兵衛といふ人有しが、絵も 00108670L12すぐれずして人(十二ノ十五ウ)のたのむ事まれなれバ、な 00108680L13か+/身(しん)上まずしく暮し兼て、しよざいも色+にかへ、 00108690L14あるいハ市町にいでゝ小まものをうり、又ハ表具屋などを 00108700L15しけれども、さりとハ替事もなく次第におとろへ、妻や子 00108710L16も思ひ+に奉公にいだし、やう+/片家(かたや)を借て、さる人 00108720L17に筆のゆひやうをならひ、市村/祐重(ゆふしげ)と名をかへ、筆やをし 00108730L18けれ共、(十六オ)これもへたにてはやらず。せんかたなく 00108740L19+けふやあすと世をわたれバ、あたりにわるくちなる人 00108750¥G 00108760M11ありて、かくこそよめり、 00108770M12△△/祐重(ゆふしげ)がゆふたる筆はかさあたま 00108780M13△△△かく度ごとにけこそぬけけれ(十六ウ)(十七オ挿画) 00108790¥N16¥J 00108800¥X/異名(いミやう)も/終(つい)に火事に名を得し 00108810M16伏見のかきのもとゝ云所に、山中/旦柳(たんりう)といふあんまとり有 00108820M17しが、つね※/哥(うた)をすきてよみけれバ、あたりより此人の 00108830M18いめうを、かきのもとの人丸といへり。されば一とせ/近所(きんじよ) 00108840M19より火をいだし、旦柳がとなりまでやけて、やう+火ハ 00108850¥P343 00108860L1とまりけれバ、所の人とりあへす一首、(十七ウ) 00108870L2△△やけ+てかきのもと迄きたれども 00108880L3△△△哥よミなれバ/爰(こゝ)でひとまる 00108890¥N17¥J 00108900¥X我が口には/勝(かつ)人もなし 00108910L6都東山の辺に、道具やの仁兵衛といへる/五十歳(いそじ)あまりの人 00108920L7ありしが、此人のつぶりうす+とはげてひかりけるを、 00108930L8来るほどの人これを見て、ミな+(十八終オ)なぶりわら 00108940L9ひけれバ、日ごろ口がしこき人にて、そのまゝきやうかを 00108950L10よめり、 00108960L11△△そろ+と/我(われ)は仏にあたまから 00108970L12△△△なりかゝるやらひかりこそすれ 00108980¥Q 00108990L14△元禄十一年戊寅年正月吉日 00109000L15△△△△△△△△京△書△林△△板行(十八終ウ)